───冒険の書105/鉄のフォルゴレ───
【ケース306:弦月彰利/力以外のバランスはかなり悪いパーティー】 ゴゥウウンッ───ゴゥウウンッ─── 体が揺れる。 素早い動作からなる素早さは流れるような軌跡を生み、 強く握る拳は相手を叩き潰さんと滾る心に呼応するようにさらに力む。 彰利 (頭を振って───!) 敵の攻撃を避ける。 紙一重、敵の攻撃は髪を掠めてゆき、 しかし矢継ぎ早に放たれる攻撃はまるでよく出来た迎撃装置のように俺を狙う。 彰利 (高速のシフトウェイト───!!) そうなれば当然、避けた方向にも予測されたかのような一撃───否。 連撃が繰り出される。 しかしそれでも強引に避け、頬が切れても冷や汗をかいても一歩も引かずに前を向く。 彰利 (体を振った反動で───!) 敵がさらに攻撃を連ねる。 けどそんなもの知ったことじゃない。 このまま、一気に! 彰利 (左右を───叩きつける!!) グオォッ───バゴシャォオンッ!!! 彰利 『ブゲェーーーイ!!』 体が回転しました。 ええ、横中空に。 やがてドシャーンと倒れ伏せる我が体。 OHシット、意識はあるけど倒れたこと自体がショックだった。 悠介 「だぁ〜から……どうしてお前はボクシングとなるとすぐそうやって、     デンプシーロールばっかやろうとするんだよ」 彰利 『中井出ごときに負けてたまるかぁっ!!     だから力で捻じ伏せようとしたのです!解りやすいですか!?』 悠介 「あー、解りやすい解りやすい。     つまりお前はカウンター喰らって負けたかったわけだな?」 彰利 『違いますよ失礼な!!』 どうもみなさんこんにちは。 皆様に愛されてサウザンドエイジ、弦月彰利です。 あれから村を出た俺達はジュノーンの足取りを追って旅をしているところです。 今は丁度その過程にある草原でキャンプを取って食事をしているところである。 で、なんだってボクシングなんぞをしていたのかといえば─── やっぱせめて中井出くらいには勝ちたいじゃないですか。 だからバトル挑んでオーダー解放して、デンプシーやったらカウンター一閃でダウン。 なんかもう僕泣きたい。 彰利 「ムフゥ……ちくしょうオーダーが切れやがったわい……タマァ拾ったなぁボウズ」 悠介 「ははははは」 中井出「そィでさー」 彰利 「聞けてめぇ!!なんでみんなそう無視すんの!!     今のは油断!油断だ!当たる筈が無い!当たる筈が!《パァン!》痛い!     な、なにすんねん!いきなりビンタなんて紳士のすることじゃなくてよ!?」 中井出「女々しいぞっ…………過ぎたことをネチネチと……!     ここはお前らが後人生を賭け死力を尽くしている……言うなら戦場だ…………     戦場で後ろから撃たれた後ろから……と騒ぎたてる兵士が何処に居る…………?     居たら物笑いの種にされるだけだろう…………     戦場では騙し打ち不意打ちが日常…………     皆……なんとか相手の寝首を掻こうと……     後ろに回ろうと……策を巡らしている……それが真剣勝負というものだ……     おまえは今……ただ自らの慢心を打たれた……     それだけだ…………!散れっ…………!」 彰利 「うっ……」 な、中井出が大きく見えた。 よもや中井出に、中井出に説教されるとは……! 中井出「中井出ごとき中井出ごときと唱えるから反撃を食う…………!     この世界ではレベルが全て…………そう唱えたのは誰だっ…………!     自分が言ったことさえ満足に覚えておらず……     負ければウソだの勝てねばごときだのと騒ぎたてる兵士が何処に居る…………?     結局お前は己の慢心を殺しきれていない半端者…………!     心構えからして既に犬っ……負け犬……だ…………!散れっ………………!」 彰利 「う、うぐぐ……!」 お、俺が間違っていたと? い、いや、確かにそうだ。 俺は力を手に入れたからといって、やはり周りを低く見ようとしていたのかもしれん。 そこに隙が生まれて、能力倍化もしていない中井出にストレートに負けた……。 敗北……理由もつけようのないほどの負けっ…………! ここで理由なぞつけてみろ……それこそ負け犬以下の駄犬……犬畜生以下……! 噛み締めろというのか……この苦しみ……この敗北感を…………! 噛み締めて歩いてゆけというのか……この悲しみをっ…………! 彰利 「ぐっ……!《ぐにゃぁあ〜〜〜〜》」 景色が歪む。 おお、これが涙が歪ませるカイジ世界か。 だが俺は解っていたのだ。 あの頃の……ただひたすらに未来を望んでいた俺は、こんな風じゃなかったと。 慢心など覚えず、辿り着けない遠い国へと駆け続けるかのようにがむしゃらだった。 それが……それが今はどうだ…………慢心慢心……力ばかり高め……挙句慢心…………! 扱いきれずに敗北……連敗っ…………! でもそれも俺の中の一部なので気にしないことにした。 彰利 「へっちゃらさーーーっ!!」 ようはこれからさ!これから慣れていけばいい! 今は暴れ馬みたいなこの力も、いずれは自分の力になるでしょう! だったらその時こそ中井出の野郎をブチノメして、 俺が最下層じゃないことを知らしめてやるのよ! 彰利 「ハハハハハ!!調子に乗ってられんのも今の内だぞ中井出この野郎!!」 中井出「なぁ……なんだって俺、目の仇にされてんだ?」 悠介 「お前が二番目にレベルが低いからじゃないか?」 中井出「傍迷惑な話だなぁオイ……」 コココ……!惑え惑え……!その惑いが俺の力になる……! 実力で追い越し、実力で打ち勝ってくれる……! 彰利    「そんなわけでゼットよ」 ゼット   「……?なんの用だ」 彰利    「死んでくれや」 悠介&中井出『な、なにぃいいーーーーーーーっ!!?』 体を捻って殴りかかる! そう!彼のレベルは600レベル!ブチコロがせば沢山レベルが上がるに違いねぇ!! コココ、だからこそ今こそ反逆の時!! そういえば反逆のカリスマの誰かさんは誰に反逆してバゴシャア!! 【ケース307:中井出博光/あなたをファーザーと呼ぶ時、僕らはボコボコにされる】 夏の太陽に当てられてか、トチ狂った彰利は─── 突如として黒竜王に襲い掛かり、再びデンプシーロールごと潰されていた。 遮蔽物無しの長旅はこたえるからそれも仕方ないのかもしれないが、 明らかにレベルに目がくらんだ奇行にしか見えなかったのも事実である。 むしろ夏の日差しに当てられていなくても彰利ならば決行に移っただろうと確信が持てた。 はてさて、そんなこんなで地べたにぐったりと倒れ伏したまま、 肋骨を腹から突き出し潰れているもんがーのように動かなくなった彰利を放置しつつ、 俺達は俺達でこれからのことを話し合っていた。 中井出「問題は何処からどう攻めるかだよな。やっぱ正面切って皆コロがしか?」 ゼット「ぬ……気が合うな。俺も面倒な作戦など御免だ。正面突破、これしかない」 悠介 「突破じゃなくて殲滅が目的だろうが。     相手はアンデッドだ、大将を倒したからって軍勢が逃げ帰るわけじゃないんだよ」 みさお「ではどうすると?」 悠介 「雑魚どもを蹴散らしてからジュノーンを叩く。今の俺達のレベルなら、     相手のアンデッドどもも言葉通りの雑魚になっていると思う」 ルナ 「でも悠介、これってゲームなのよ?     こっちの強さに応じてレベルが上がってるかもしれないわよ」 彰利 「おお、ルナっちの真面目な言動久々に聞いた気が。     悠介が死神について無知だった時はかなりの博識だった感じだったのにね」 中井出「そういや映像の中の過去のルナさんは結構物知りだった感はあったな」 悠介 「お前はもうちょっといろんなことに興味を持つべきだと思うぞ?     頭は悪くないんだから」 ルナ 「……助言したのに物凄い言われ草……」 ルナさんが少々しょんぼり気味な顔をして、空き缶に通った髪をハタハタと揺らした。 うーん、何度見ても不思議で犬の尻尾チックな髪だ。 みさお「どうするべきでしょうか……」 中井出「突き進むが吉!武力制覇!」 ゼット「その通りだ。所詮最後は力こそが正義。何を迷う必要がある」 みさお「ゼットくん……その武力突破に毎回付き合わされて、     毒とか呪いとか沈黙とか受けてるわたしの身にもなってほしいな……」 ゼット「む?だから毎回薬を探してきているだろう」 悠介 「お前なぁ……人の娘を無茶な行動に付き合わせるのも大概にしろ」 ゼット「黙れ晦悠介。これが俺の生き方だ。こすずるい作戦など要らん。     力には力を以って黙らせる。それが俺のやり方だ」 悠介 「だったらせめてみさおを巻き込むのはだな」 ゼット「断る。俺はもうセシルを誰かに託すことなどするつもりはない。     セシルを守るのは俺だ。これは他の誰の役目でもない」 みさお「ゼットくん……」 中井出「《カァアア……!》」 彰利 「《カァアア……!》」 今の言葉、まるで告白よ……! もうなんていうか聞いてた僕らの方が恥ずかしい! 悠介 「そうかそうか。つまり一生守っていく覚悟なんだな?」 ゼット「ああそうだ。セシルは俺が守る」 悠介 「ならば俺を父と呼べ!!」《どーーん!!》 どーん……どーん……どー…… 中井出&彰利&ゼット『なっ……なにぃいいーーーっ!!?』 大驚愕! まさかまさかの晦の反応!! その場に居た誰しもが当然のように驚いた!! みさお「と、ととと父さま!?いきなりなにをっ……!」 ゼット「そ、そうだ!今さらなにを言い出す!その話は流れた筈だろう!」 悠介 「言われてないから却下。     そして娘をかっさらってゆく馬の骨をただで見過ごすわけにはいかん。     許可が欲しくば我が存在を父と唱えろ!!」 中井出「晦……もしかしてボスになったのがきっかけで性格が捻じ曲がった?」 ルナ 「可能性はあるかも……」 彰利 「いやいや、恐らくあれは長い年月の間、彼の中でくすぶっていた真実のハート。     何故なら原中の魔窟と呼ばれた我らのクラスに3年居ながら、     ぶっきらぼうな性格のまま居られる筈がなかったのだ。     つまりあれはその3年間+猛者どもに再会してからの衝撃が詰まった感情。     即ち今の悠介は、紛れも無い原中の猛者が一人……!!」 中井出「そ、そうか……!あの晦の中にこんなモンスターハートが潜んでいたとは……!」 彰利 「……ところでさ、俺さっきから復活して何食わぬ顔で混ざってたのに、     もう起きたのかー、とかいつの間にー、とかいうツッコミは一切無しなの?」 中井出「え?いつものことだろ?」 彰利 「………」 俺は多分、その時の彼の悲しそうな顔を忘れないと思う。 だがそこはそれ。 我ら原中、こんな面白い状況を指をくわえて見守ることなど不可能! 彰利 「オラどしたー!とっとと父って言っちまえー!」 中井出「それでキミは勇者になれる!さあ!」 ルナ 「ホモっちたちって本当、こういうの好きよね」 彰利 「空界伝説の黒竜王を嫁騒ぎでからかうという図式がたまらんじゃないかネ」 中井出「以下同文」 つくづくクズな我らである。 だが後悔はしていない。 彰利 「さあ父と!」 中井出「父!父!」 ゼット「ぐっ……ぐぐぐっ……!!」 彰利 「その一言で貴様はみさおを守る権利を得るのだぞ!!     しかも親公認!種族の壁など無視して愛せるのだぞ!」 ゼット「ぐ、ぬう……!」 黒竜王は迷っている! ここは男として背中を荒々しく押してやらねば!! 中井出   「さあ父!言え父!ちーち!ちーち!!」 彰利    「ちーち!ちーち!!」 ゼット   「ぐ、ぬぅううう……!!」 彰利    「チッ、チチッチッ、ゥオッパァーーーイ!!ボインボイーーン!!」 中井出   「ボインボイーーン♪」 彰利    「チッ、チチッチッ、ゥオッパァーーーイ!!ボインボイーーン!!」 中井出   「ボインボイーーン♪」 彰利    「もげっ!もげっ!もげっ!チチをもげぇーーーーィ!!」 ゼット   『ガァアアーーーーーーッ!!!!』  彰利&中井出『キャーーーーーーーッ!!!?バゴシャォオオンッ!!! ドゴシャメゴシャバゴォンボゴォンドガァッ!!! ごしゃっ……めきゃっ…… ……その日、俺と彰利は黒竜王の逆鱗に触れ、竜人と化した彼にボコボコにされた。 ───……。 ……。 中井出&彰利『ちくしょ〜……』 なんとか一命だけは取り留めた俺と彰利だったが、 実際思い出すのも怖いくらいの形相でボコボコにされた。 あれが約1200レベルの世界か。 600の倍っていうんだから想像するだけで恐ろしい。 黒竜化で1800、魔竜化においては2400だ……おお恐ろしい。 まあ多分倍化されるのはレベルじゃないんだろうけど、それでも地獄を見たのは確かだ。 中井出   「お前がいきなりフォルゴレなんぞに走るから……」 彰利    「キミだってノリノリで合いの手くれてたじゃない……」 悠介    「お前らさ、黙ってた方が命の危険にはさらされないと思うぞ?」 中井出&彰利『発言そのものが致死要素なの!?』 何気にショックだった。 悠介    「というわけで。さあ、俺を父と呼べ」 ゼット   「ッチィ……流れなかったか」 ルナ    「キミって案外ずっこいんだね」 ゼット   「黙れ死神。俺は晦悠介を好敵手として認めている。        それを……!それを父と呼べというのだぞ!?呼べるわけがないだろう!」 ルナ    「え?なんで?」 彰利    「ノーノー違うよルナっち」 中井出   「そういう時はこう返すんだ。なぜゆえにぃい〜〜〜?と」 ゼット   「黙っていろ貴様ら!!」 中井出&彰利『ヒィッ!ごめんなさい!』 物凄い形相で怒られてしまった。 しかしなんというのか、 煮え切らない態度を見ているとやはりいろいろやりたくなるってものだろう? だから俺達がこうしてちょっかいだしてしまうのも、 ある意味で仕方の無いことだと思うんだが。そこんとこどうなんだ、おい。 ゼット「……貴様を義理の親と認める……それでセシルを任せる……なんだそれは。     まるでセシルを取り引き道具のように……!」 悠介 「ええい屁理屈をこねるなこのクズが!!     貴様は己の恥ずかしさをそんな言い訳で誤魔化しているだけだ!     みさおとともに居ることが恥ではないのなら言える筈だろうが!!」 彰利 「そうだこのタコ!!」 中井出「そうだそうだ!ジャイアンの言うとおりだ!!」 悠介 「だから言え!俺を父と!さあ!」 ゼット「ぐ、ぅうう……!!」 彰利 「今のお前はまるでゴミっ……」 中井出「無頼伝・涯で言う人権を唱える裸の人間犬畜生…………!」 彰利 「勢いのある時は好き勝手に振舞い、     相手の権利を命ごと略奪するが如き猛威を振舞い…………     そのくせ自分の立場が危うくなれば人権人権とっ…………!     いいかっ……お前らに人権などない…………!     犯罪を犯した者に権利など与えられるべくもない…………!     お前らはゴミっ……道端に転がるゴミ同然っ…………!     ゴミに権利などない……ただ転がることのみ許される…………っ!     地に還れっ……このゴミっ……このカスっ……!このクズがっ…………!」 中井出「無頼伝・涯の課長は本当に凄まじいお方だった……。     ところで彰利よ。気取って後ろを向いたお前の後ろで、     メキメキと黒竜に変貌してゆくお方がいらっしゃるんだが……     俺、逃げていい?逃げていいよね?今回俺関係ないもんね?」 彰利 「逃がさん!《ゾリュンッ!》」 中井出「……えっ?……えぇっ?」 足が動かない……? 足が……否……!影が固定されている…………! 中井出   「あ……あ、ああ……あああああ……《ぐにゃああ〜〜〜》」 彰利    「コココ……死ぬ時ゃ一緒…………!        俺達は……なんたって俺達は一蓮托生……!        己の死期には道連れを求める原中が猛者…………!        死ぬ時ゃ一緒……死ぬ時ゃ……!どうせ助からない……!        一縷の希望だって残されちゃいない……!        既に泥沼……喉下までどっぷりと…………はまっている……!        死期を迎えたというのに……        死にたくない死にたくない……と叫ぶ馬鹿がどこにいる…………!        ここは既に終着……俺達の……終着…………!        決めるんだ……覚悟を…………!散る覚悟……………………っ!」 黒竜王   『グバァシャァアアアアアアアッ!!!!』 中井出&彰利『助けてぇええええっ!!!!』 はてさて俺達は何回死ねばジュノーンの袂へ辿り着けるのか。 そんなことを小さく考えて、俺はふと泣きたくなったのだった。 それより彰利よ、散る覚悟はどうなった。 ───……。 ……。 中井出&彰利『ちくしょ〜〜……』 そんなこんなで。 黒竜王の極光レーザー一撃で見事塵と化した俺達は最寄の町にスッ飛ばされたのちに、 オーガストリートを全力で駆けるスピードワゴンさんのように全速力で戻ってきたわけで。 しかもその頃になるとキャンプは終わっており、 俺達はちっとも休んだ気分を味わえないままに旅の続きが言い渡された。 今のちくしょ〜はそのことに関する悲しみを意味しているわけだ。 誰でもいいからこの悲しさを受け取ってくれ。 じゃなきゃ俺の心の巴里に住まうラビットどもが死んでしまう。 ああいや、ウサギ毒殺要素は寂しさだったか?どうでもいいか。 悠介 「目的地までもう半分。じゃ、頑張るか」 彰利 「アノー、僕のメシは?」 悠介 「知らん」 彰利 「あら即答!?」 中井出「俺のメシは……」 悠介 「知らん」 中井出「こっちも即答!?」 キャンプをしといてメシも食わずに歩くハメになるなんて、 あんまり悲しすぎるじゃねぇか。 こりゃバッファローマン先生じゃなくても悲しい顔するって。白目で。 彰利 「チィ仕方ない……だったら食うかっ……生でっ……!」 中井出「贅沢言ってられる状況じゃないしな……」 語り合いながらバックパックに手を突っ込んで出したもの。 それは…… 中井出&彰利『ぐあ……!』 モンスターの体の一部だった。 ……考えてもみよう。 俺達は今こそこうして旅をしているが、 その前までは浮遊島で連戦撃闘を繰り広げていたのだ。 当然回復アイテムも食材も使い切ったし、本来だったらアイテムなんぞすっからかんの筈。 しかし敵を倒したことで手に入ったアイテムや素材、 さらには剥ぎ取ったものなどを考えると…… 中井出&彰利『ゴ……ゴクッ!!』 バックパックの中身はとても食べられるようなものはないわけだ。 これはまいった。 剥ぎ取るにしたってもう少し肉関係のものも剥ぎ取っておくべきだった。 ゴーレムだのギガースだの巨大生物のものばっかだ。 しかも食えそうなもの一切無し。 もっと早く気が付いてりゃあ、アイテム買ってきたのに……。 中井出「次の町まで我慢か……」 彰利 「だな……」 とことんいいとこ無しの俺達だった。 ───……。 ……。 ぐー…… 中井出「うぐっ……」 ぐきゅるるる…… 彰利 「精神が……精神が悲鳴をあげている……!」 キャンプ地点からニ時間ほど進んだ頃だろうか。 そろそろ眩暈が襲い掛かってきた。 腹が減って倒れちまいそうだ。 中井出「あ……あ?空に綿菓子が……」 彰利 「ああ……こっちには缶ジュースが……」 ガシィッ!バゴシャズバァンッ!! 彰利 「ペギャーーーリ!!」 ルナ 「人の封冠に勝手に触らない!」 彰利 「いでで……なんだよ……空き缶かよ《バゴシャア!!》イギャーーーリ!!」 ルナ 「ホモっち……いい加減昇天してみる……?」 彰利 「馬鹿野郎俺ゃ死神だ。天になど昇るもんか」 中井出「腹減った……嗚呼腹減った……」 おお目が霞む。 ここは何処?俺は……オッスオラ博光!! ああダメだ!思考回路がまともに働かない!! 中井出「食料食料食料食料食料不足!!」 彰利 「今日も〜いつ〜もの食料不足〜頭がホテェテキチャッターヨー」 中井出「たくさーんやるーことはー、あるのにー、頭がちぃとも働きゃしねー」 彰利 「みんなが……あのー子を悩ませる」 中井出「あの子が……じぶ〜んを追い詰める」 彰利 「あの子が……みん〜なを馬鹿にする」 中井出「そりゃみんなあの〜子を恨むだろ〜……」 彰利 「ギャアそ〜らはこんなに蒼いのに、風は〜こんなに生温いのに」 中井出「ギャアそ〜らはこんなに蒼いのに、どうして……こん〜なにひもじい……」 彰利 「食料食料食料食料食料不足!!しょしょくしょくしょくギギギギィイイイイ!!」 神様!もはや精神が保ちません! 腹が!腹が減っている!即ち精神がかなりヤバイ状況! このまま俺は精神崩壊の果てに死亡するのですか!? 嫌だ!そんなの嫌だ!! 悠介 「っと、敵か」 ゼット『そこで黙っているがいい晦悠介。こんな雑魚ども、俺だけで十分だ』 悠介 「竜人か。ほどほどになー」 中井出「!」 彰利 「!」 頭が茹で上がってすっかり精神が磨り減っている我らの前に、 どしゃりと尻尾……トカゲの尻尾のようなものが……!! トカゲ……トカゲの尻尾……肉!! 中井出&彰利『いただきまんもすーーーーっ!!!』 がごごりょりぃっ!!!───ゴキィッ!! ゼット『ぐおおっ!!?き、貴様ら!?』 中井出「ぐああああ硬ぇええええええっ!!!!ゴキって鳴ったゴキってぇえええ!!」 彰利 「歯がァーーーーーッ!!歯がァーーーーーッ!!!!市長助けてぇえええ!!」 中井出「いでででで……!あ、あれ?俺なにを……」 彰利 「うぐぐ……あれ?なにやら歯がとても痛い……」 ゼット『……丁度いい……。貴様ら、雑魚ともども視界から消し去ってくれる……!』 中井出「え?」 彰利 「ア、アレェ!?」 歯に痛みが走ったと思ったら、目の前には何故か怒り心頭な竜人な彼が!! ホ、ホワァイ!?どういう状況ですかこれは!! 中井出&彰利『え、えぇっ!?なに!?なんなのこの状況!!俺なにかした!?        なにかしたなら謝るから待って!待ってぇえええ!!        いくら俺でも一日にそう何度も死にたくない!!        つーかこのパーティーになった途端危機の連続でもはや泣きてぇーーーっ!        あっ!いやっやめっ───あぶろヴァアーーーーーッ!!!』 その日。 俺と彰利は空腹に暴走し、 訳も解らないままに同じ言葉を並べた次の瞬間にはケシズミと化していた。 もうやだ……ほんとこんな目にあってばっかりだ。 ───……。 ……。 さて……もういい加減にしとけよと心がストップをかけているが、 それでも突き進むのが僕らの巴里、原ソウル。 中井出「ところで───黒竜王はもう晦を父と呼んだのか?」 彰利 「あ、それ今俺も訊こうとしてた。どうなん?」 悠介 「呼んでないぞ」 最寄の町で復活を果たした俺と彰利は腹を満たすと、再び合流を果たしていた。 もう死ぬことがないようにと気をつけちゃいるが、 どうせ死んでも金は無くならない。 なにせ金はナギーに預けてあるからだ。 そんな俺が何故メシを食えたのかというと、 バックパックの素材を売って金を作ったからである。 で、余りの金はハンターバンクに預けてきた。 これで安心さ。 中井出「しかしよほどの恥ずかしがり屋なのかね。パパッと言っちまえばいいのに」 彰利 「おおまったくだこのヘタレが」 ルナ 「うーわー、ホモっちってばここぞとばかりに罵ってる」 悠介 「器が小さいな」 彰利 「う、うるせーーーっ!!それ言うならゼットだって器ちっこいでしょ!!」 ゼット「なんだと貴様!」 彰利 「おー!?なんだコラやンのかコラ!!やるってんなら中井出が相手だ!」 中井出「ちょっと待ててめぇ!なに普通に人巻き込んでやがる!!」 彰利 「なに言ってんだこの野郎!今はそんなことよりゼットだろ!」 中井出「いやなに言ってんだって……逆ギレかよ」 彰利 「ホレゼット!父って言ってみ!?     それで悠介はみさおを貴様に託すって言ってんだから!」 ゼット「ぐっ……!」 彰利 「それともなにかーーーっ!?てめぇのセシルに対する思いは     言葉に出来ないほどちっぽけなものだったんかオラァ!!」 ゼット「その名を口にしていいのは俺だけだぁっ!!」 彰利 「お?だったらホレ、     その名を宿す彼女のために言う言葉ってのが、ン?あるんでないの?ン?」 ゼット「くっ……」 ギシリ、と歯が軋む音がした。 怒ってるのか何かに耐えてるのか知らんが、 威圧感は正直逃げ出したいほどに出ている。 ゼット「ち……」 彰利 「ち?」 ゼット「〜〜っ……セシル!」 みさお「あ、は、はい?」 ゼット「いいか……一度だけ、一度だけだ!     俺はお前のために、お前を守るためにこの言葉を言ってやる!!     聞き漏らさず───しっかり聞いていろ!!晦悠介!貴様もだ!」 悠介 「もちろん」 みさお「ゼットくん……」 彰利 「よぉーーーし!では聞かせてもらおうか!」 中井出「さぁ!今こそ唱えろ!ちなみにその後は、」 ルナ 「わたしのこと母って呼ぶこと」 ゼット「な、なにぃいいいーーーーーーっ!!?」 おーお、黒竜王が驚愕してる。 こんな顔、滅多に見られるもんじゃないと断言出来るぞ。 彰利 「お?なんだ?テメェやっぱヘタレ?ダメ竜人?」 ゼット「───その発言!挑戦と受け取った!い、いいだろう!     俺にはそんな、言葉のひとつやふたつ言えないとでも思ったか!!」 中井出「よっしゃこぉーーーーい!!」 彰利 「聴力集中!!」 しん、と周りが静まった。 その頃合を見て、黒竜王が……! ゼット   「ち……、ち、ちちちち……!!」 悠介    「……ん?どうした。父上、父さん、父さま、なんでもござれだぞ」 ゼット   「解っている黙っていろ!!」 悠介    「そか。じゃあ続きだ」 ゼット   「ぐっ……!───ちっ、ちち、ち……!」 彰利    「ゥオッパァーーーイ!!ボインボイーーーン!!」 中井出   「ボインボイーーーン!!」 ゼット   『ツガァアアアーーーーーーッ!!!!!』 中井出&彰利『キャーーーーーーッ!!!?』 やはりその日。 瞬時に竜人状態となった黒竜王の激昂を一身に受けた俺と彰利は、 散々っぱらボコボコにされ地獄を見せられたのちに極光レーザーにてケシズミと化した。 さらに言うなら俺と彰利が教会で目覚め、戻ってくる頃には既に言い終えていたらしく。 俺と彰利は、黙っていればきっと聞けたであろう、 黒竜王のパパママ発言を聞くことが出来ず、 悔しさのあまりに私の負けだと叫んだあとのドリアン海王のように涙した。 Next Menu back