───冒険の書106/凡人の夢───
【ケース308:中井出博光(再)/魂のソフラン(C)】 何度死んだのか、何度気絶したのか解らんくらいに空を飛ぶは地面に埋まるわを繰り返し、 俺達がようやくトリスタン勢力が待機している滅びた町から離れた村についたのは、 空が赤く染まり始めた頃だった。 中井出「まったく、今日だけで何回死んだかな俺」 呟いてみても周りにゃ誰も居ない。 何故ってそりゃ、準備のためにみんなとは別行動をとっているからである。 村自体も避難した人や隠れた人やで随分と静かなものである。 隠れたところで襲われれば皆殺しだろうに。 だったら何故逃げないのかといえば……逃げても辿り着ける場所などないのだろう。 今はただでさえ世界が揺れている状況だ。 セントールは事実上没落したようなもんだし、 そのセントールの民たちはエトノワールに移っちまったし、 他の町や村には他の場所から来た存在を受け入れるだけの器量がねぇのさ。 これが弱肉強食ってもんだろう。 現実ってなぁ嫌だな。こんな現実ばっかだからいろんなヤツらが目を背けたがるんだ。 中井出「……ん?」 ぼやきながらも歩いてた俺の耳に、届いた声があった。 言い争い、というよりは一方的に叫んでるような声だ。 つい、と民家に背を当てるように曲がり角を覗いてみれば、 そこには確かに一方的に叫び倒しては相手を小馬鹿にしている男どもが。 男1 「おぉらよこせよジジイ!!」 男2 「こんなデケェ風呂敷持って何処行くんだぁ?あぁ?」 老人 「やめるんじゃ……!それは大切なっ……!」 男1 「アァ!?るせぇンだよジジイ!!     ……へっ、ここらにゃトリスタンが攻め込んだって聞いたから、     火事場泥棒に来てみりゃ……村ひとつ残ってんじゃねぇか、ハンパしやがって」 男2 「けどまぁ、略奪する楽しみってのもいいもんだよなぁ。     この調子でここらの民家全部襲っちまうか!     どうせトリスタンがやったって思うだろうぜ!?ハハハハハハ!!」 男1 「お?そりゃいいや……人殺すなんて久しぶりだ。     それじゃあいってみましょうかぁ!     この村一番の犠牲者はぁっ!───……てめぇだ、クソジジイ」 男2 「ひっははははは《バゴシャォオンッ!!》ヒゲェアアッ!!」 男1 「……ア?ん〜だよシラヌス、シラケるような声出しやがっ……て……」 中井出「───醜し」 マイトグローブが炸裂した。 男は顔面から爆煙を放ちながら虚空を裂くように飛翔し、砂利道を滑り動かなくなる。 男1 「なっ……なんだぁてめぇはぁっ!!」 中井出「本来ならこの中井出博光、誰がどうしてようが大抵のことは見逃すか笑うだろう。     火事場泥棒大いに結構。遺品を有効利用しようって考えはいいもんだろうさ。     だが男ォ、てめぇは相手を間違えたようだぜ。     俺は老人を労わらねぇ若者ってのが世界中でなによりもでぇっ嫌ぇなんだよ!!」 男1 「チッ!なにかと思えば正義者ぶった偽善者かよ!     正義なんてのが腹の足しになるかってんだ!くたばれ!!」 中井出「この俺が正義?」 ヒュオン!パガシャァアンッ!!! 男1 「なぁっ……!?お、俺の剣がこんなあっさり……!?」 中井出「───違う。俺は魔王だ」 ゴバァッシャォオオオンッ!!!! 男1 「ぎあっ───」 男の剣を拳で砕き、呆然とする顔面にさらに拳をフルスイングしてやった。 男は吹き飛ぶこともなく地面に激突すると、泡を吹いたまま動かなくなった。 ざまぁない。まあ、死んでないだろうけど。 中井出「大丈夫かいじーさん。ほら、荷物」 老人 「お……おお……すまんねぇ……」 動かない男の横から拾い上げた荷物を、目を細めてゆったりと受け取る老人。 髭の長い、いかにも人の良さそうなじーさんだった。 老人 「……悲しい世の中になったものじゃな……。     家の中から様子を見る者はおっても、助けてくれたのはおぬしだけじゃった……」 中井出「ああ。悲しいけどさ、それって仕方ないことだろ。     力の無いヤツは誰も救えやしない。知識の無いヤツだって、     あの時あれをああしておけばって後になって後悔するんだ。     最初から全知全能だったらって思うヤツがいるかもしれない。     でも、結局はいつかその能力を疎ましく思う時が来るんだ。     ……世界は万能になんて出来てない。     だからそんな世界で生きる俺達は努力しなきゃならないんだ。     俺だって……あの時───」 崩れゆく天井が人を殺すものだと知っていたら。 もっと周りのことに気づける人間であったなら。 じーさんとばーさんは曾孫の姿を見れたのかもしれないのに。 老人 「おぬし……名をなんという?」 中井出「へ?あ、ああ……中井出。中井出博光っていう」 老人 「ほほ……ほう、変わった名じゃのう」 中井出「じーさんは?」 老人 「わしか?わしは……そうじゃの、レウクサムじいさんとでもいっておこうかの」 中井出「レウクサムか。そっちのほうが変わった名前だと思うけどな」 レウ 「ほっほっほ、それもそうじゃのう」 中井出「……じーさん、ここらはこれから戦場になる。逃げるなら───」 レウ 「ほっほ、大丈夫じゃよ。わしはこの村の者ではないからの。     ちょいと用があって訪れたら急にあやつらに襲われたのじゃよ。     おっとと、そうじゃそうじゃ、なにかお礼をせねばならんのう」 中井出「へ?あ、いい、それはいい。俺は老人を助けることを当然のことだと思ってる。     むしろああいう輩が大嫌いだから殴ったんだ。     結果的にじーさんを助けることになったってだけで、     俺だって自分のためなら火事場泥棒だってする。そんなヤツにお礼なんて……」 レウ 「ほ?わしがおぬしになにかをあげたいと言っておるのじゃろう。     じゃったらそれは結果的におぬしへの礼となるだけで、     わしは如何にもただ変哲も無しにおぬしにものをあげたいじじいじゃぞ?」 中井出「あ、あのなぁじーさん」 屁理屈盗むなよ。 レウ 「そうじゃのう……今回はちと多めに採れすぎてしまったからのぅ。     まあたまにはこんなこともあっていいじゃろ。     純粋に老人を労わる心を持っとるおぬしをわしは気に入った。     おぬし、見たところ剣士のようじゃな。     どれ、ちとその剣……わしに預けてみんか?」 中井出「そりゃいいけど。どうするんだ?」 レウ 「ほっほっほ、若いの、そういうのは普通、渡す前に訊くもんじゃろ。     ああいやいや、もちろんわしはおぬしのそういうところも素直に気に入っとる。     わしはこう見えて、一部では有名な鍛ち師でのぅ。     純粋な気持ちで助けてくれたお礼じゃ、ちと鍛えてやろう」 中井出「そりゃありがたいけど……いいのか?見返りに渡せるものなんて何も───」 レウ 「馬鹿言っちゃいかん。わしは見返り欲しさになど槌を握らんよ。     鍛ち師として、より良いモノがより良い者に扱われることほど嬉しいことは無い」 中井出「いや……より良いって。俺魔王なんだけど?」 レウ 「わしには解る。おぬしは悪い方向に世界征服するような男ではない。     いーから、わしにどーんと任せてみぃ」 中井出「あ、ああ……じゃあ」 といっても既に渡してあるんだが。 でも返してくれと言うつもりはなかった。 だってな、このじーさんの目って俺達の同じなのだ。 新しい武器、珍しい武器に目を輝かせる子供みたいな俺達の目に。 だから、仕方ないだろ?なぁ。 中井出「……?」 けど……俺、じーさんに世界征服する、だなんて教えたっけ? ───……。 ……。 しばらくして、じーさんの鍛冶は終わったらしい。 鍛ち師ってのがどんな仕事をする人なのかは知らないけど、多分鍛冶だ、と思う。 レウ 「待たせたのぅ。ほれ」 しかし、ホレ、と渡されたそれは剣でも武器でもなく─── 中井出「………」 二つの指輪だった。 中井出「これは?」 レウ 「まあまあ説明はあとじゃ。きっとたまげるぞい」 いやおじいちゃん、あたしゃもうたまげてるんですけど。 ボケが始まったおじいちゃんが解き放った ビッグのデビューの処理に困惑する嫁さんの気分なんですけど。 なんて思っているとじーさんはテキパキと俺のマイトグローブを外し、 俺の手から取った指輪を俺の手の平に押し付けたのだ。 失くさないようにちゃんと持ってなさいと、 初めてのおつかいに行くボクちゃんに金を持たせる主婦のようだった。 いやこんな愉快なのか珍妙なのか解らない喩えは今は捨てておこう。 何故って、押し付けられた指輪が俺の手の平に沈んでいったのだ。 そんなこと言ってる場合じゃないだろ? 中井出「おっ!?わぁあっ!?な、なにこれ!?おたくマリックさん!?」 レウ 「誰じゃそれは」 いや確かにこの世界にマリックさん居たらヘンだよ! でも名前的にはギリギリセーフな気がしないかなぁじーさん!? とか思っているうちにもう一方の指輪も反対の手に埋め込まれてしまった。 すると───俺の両手から両腕にかけて、奇妙な紋章が浮き出てきたのだ。 中井出「ななななんじゃこりゃあーーーーっ!!」 レウ 「紋章じゃよ」 中井出「や……じぃさんよぉ……。そりゃ見れば解るんだが……。     俺が訊きたいのはこの紋章がなんなのかってことで……」 レウ 「それは霊章じゃよ。こんな話を知っておるか?     精霊はひとつしか武器を持っておらんそうじゃ。     精霊は武器を失くそうが体の何処かにある霊章を通して、     武器を出現させることができるのじゃ」 中井出「じゃあこれは……」 レウ 「そうじゃ。武器を遠くに投げられたところで、     願えば手の平に出現させることが出来る。     わしは現代において、霊章鍛ち師の名を持つ最後のじじいじゃ」 中井出「最後のじじいって聞くと、霊章鍛ち師ってのが全員老人のように聞こえるんだが」 レウ 「その通りじゃ」 中井出「そうなのか!?」 恐ろしい事実を知った気がする。 そりゃ最後にもなるだろう。 中井出「んー……んっ!《シャキィンッ!!》おおっ!     剣が出た!あ……でも最初っから双剣だぞ?」 レウ 「安心せぇ、念じればきちんと一本になるわい」 中井出「そうなのか?むー……はぁっ!《ジャキィンッ!!》おおマジだ!!     で、これで放り投げても念じればすぐに手元に戻ってくるんだよな?そぉい!!」 ブンッ!───ヒュフォフォフォフォフォフォォオンッ─── ジークフリードが飛んでゆく。 俺はそれを見送ったのち、再び手に武器が存在しているように念じた。 すると、ジークムントとジークリンデの状態で武器が手元に出現した。 これは……面白い! レウ 「よいか?その武器はおぬしの生命が尽きるまでおぬしのものじゃ。     他の誰にも扱えん。なにせ、わしがおぬし用に霊章を刻んだからのぅ。     他の者が手にしようものなら、手痛いしっぺ返しが起こることじゃろう」 中井出「へえっ……!サンキューじーさん!!」 専用武器!おおなんと素晴らしき言葉かな! 握る手にも自然と力が入るというもの! レウ 「しかし巨大な武器じゃのう。霊章を鍛ちつけるのも大変だったぞい」 中井出「あ……そりゃ失礼」 巨大な上に今はとんでもなく重いんだよな……。 双剣状態だから重さも半々なんだけど、 ギガノタウロスの斧の重さはもうちょっと加減してほしかった。 レウ 「さて、ではわしはそろそろいくわい。若いの、長い間引き止めて悪かったのぅ」 中井出「いや、こっちこそ無償でこんな面白強化、感謝する」 レウ 「ほっほ、なぁにおやすい御用じゃよ。ではの」 じーさんは長い髭を軽く撫でながら、やがて俺に背を向けて歩き出した。 で、俺はといえば……気になったというか、いや、まごうことなく気になったのだろう。 我らが原中の原動力の源たる好奇心様にあっさりと降伏宣言を申請し、 武器を紋章に収納したところで詳細情報をナビで開いてみた。  ◆霊章輪ニーベルンゲン───れいしょうりんにーべるんげん  稀少石で作られた、紋章の刻まれた綺麗な指輪。  嵌めると持ち主の生命を読み取り、それに相応しい紋章を体に描く。  一度付けると体に溶け込み、二度と外せなくなる究極の専用武装。  ただし普通に武器を出現させることは出来るので、  合成や鍛冶が不可能になるということはない。  霊章に戦の神の加護がともに刻まれており、  手にした者は戦覇王の祝福を得られると云われ、  戦い方が巧みであればあるほど加護は高まるとも云われている。  *潜在能力:溶け込ませた武器の召喚 毒、麻痺などの低状態異常変化無効化        防具の硬度強化 物質軽量化  ◆稀昂双剣+220───きこうそうけん  稀紅蒼剣ジークフリードの双剣時の姿、ジークムントとジークリンデ。  それぞれ強力な風と炎の力を纏っており、  その破壊力、使い勝手の良さは世界広しといえどトップクラス。  しかしギガノタウロスの斧のためにかなり重く、  霊章以前に腕力が伴わなければ持つことさえ叶わない巨大双剣。  双剣としての破壊力は相当なものだが、  片手で一本を持てるようになるには持ち主の相当なる鍛錬が必要。  しかし稀少石(浮遊石)の力もあってか、持ち主本人には重さがかからなくなっている。  大陸ひとつを浮かせてしまう石の力は、その気になれば空も飛べるほど。  六閃化によりHPを削り、しかしそのためにジェノサイドハートが発動、  だが減ったHPも攻撃を当てれば回復することもあるという、  向かう相手にとってはこれ以上ないともいえる傍迷惑な武器。  ニーベルンゲンの精製に用いられた稀少石の力により、一本一本に属性を封混できる。  ジークフリードモードにはきちんとマグニファイスキルや斬鉄剣が残っている。  *潜在能力:アトリビュートキャリバー 技術スキル効果UP  ◆技術スキル  毒     :★★★★★☆──攻撃HIT時 敵を毒状態にすることが出来る。  麻痺    :★★★☆────攻撃HIT時 敵を麻痺状態にすることが出来る  回復    :★★☆─────攻撃HIT時 自分のHPを小回復することが出来る  銭     :★☆──────敵をコロがした際 $を多く手に入れることが可能  金     :★★★★★☆──サビつかなくなる べつに本当に金メッキは付かない  背水    :★★☆─────HPが一定以上下がると その戦闘中攻撃力が上昇  会心    :★★★★★☆──クリティカルヒットが発生しやすくなる  超ためる  :★★★★★☆──ためる 常にためるの速度を強化  フルスイング:★★★★★☆──両手持ちで全力で振り切ると攻撃力UP  ボマー   :★★★★★☆──火属性などの攻撃の際 爆発してダメージが追加される  火     :★★★★★☆──火属性ダメージが上昇 ボマースキルと合わせると強力  火円    :★★★★★☆──ヒノカグツチスキル 火の円が持ち手を守る  鎌鼬    :★★★★★☆──武器から風、風の刃を発生させることが出来る  蟹キラー  :★★★★★☆──甲殻類の敵に対して優位に戦える  麦茶    :★★★★★☆──麦茶の真の味と美味しい作り方が解る  リネーム  :★★★★★☆──様々なものの名前を変えられる  グラビティ :★★★★★☆──武器がとても重くなる フロートと併用で調節可能  フロート  :★★★★★☆──浮遊石の力 強い風を起こせば空を飛ぶことも  戦覇王の祝福:★★★★★☆──取得経験値倍化 戦い方によって倍率変化  神威/殺戮 :★★★★★☆──ジェノサイドハート HPが低いほど攻撃力UP  精霊斬   :★★★★★☆──ソードマスター秘奥義・キャリバーの真価  *☆は稀昂双剣の“技術スキル効果UP”のものである ───……。 中井出「……ハテ?」 キャリバー? そんなもん、俺にゃあエクスプロードブレードくらいしか……アレ? ちょ、ちょっと待て!“精霊斬”(しょうれいざん)
!?これってもしかして!? 中井出「ちょっと待ったじーさん!訊きたいことが───!」 ナビから視線を外して、そう歩行速度が速くなかった筈のじーさんに向けて声をかけた。 だがその場にも、見える視界にもじーさんの姿は無く…… ただ、空へと昇ってゆく一筋の光を俺は見た。 中井出「あ……そういや……」 地図を見てみりゃ解ることがある。 なんのことはない、この村は丁度、大会闘技場がある浮遊島の真下にあったのだ。 つまり毎度100年ごとに稀少石を錬成して武器を作る無の精霊ってのは…… 中井出「……やられた」 試しに地面に書いてみた文字を見下ろして呟いた。 なんのことはない、ただの名前のもじりってやつだ。 レウクサム……lewksamやrewcsam、またはlewxam。 逆にして読んでみればmaxwel……つまりマクスウェル。 元素の精霊としては俺らの中じゃあ慣れ親しんだ名前なのだ。 マクスウェルの綴りはMaxwellと書くらしいが、 まさか精霊がそんな単純な偽名を使ったり、老人の真似をしているなんて誰が思うだろう。 言った通り老人じゃなければ無視するか、つまらない正義感を出して救ってたくらいだ。 思うほど親身にはならなかったに違いない。 けどまさか、本当にまさか、相手が精霊だったなんて誰も思いもつかないだろう。 考えてみれば精霊がその身に宿しているような紋章、人間に彫れるわけが無いのだ。 予想外だったけど、考えてみれば解りそうなものだったのが少し悔しかった。 中井出「えーと……つまり事実上、俺の武器にはもうテオブランドが合成された、と……」 まいった。 何気ない人助け……いや、精霊助けか?それがこんな結果を……。 そりゃ嬉しいさ。 嬉しいけど、人間に荷物取られてふがふが言うじーさんの真似する精霊ってどうよ。 中井出「宝玉の属性秘奥義を埋め込めるんだったよな、確か」 けどさ、宝玉って一人一個だろ? これじゃあ属性を合わせたキャリバーなんて使えないんじゃあ……お? 中井出「ななななんだ?右手の紋章が赤く光って……!?あ、あれ?もしかして……」 これって火の属性が右手のジークムントに宿ったってことか? じゃあ左は……おお!やっぱり蒼い光が灯ってる! 中井出「あ……そっか、そうだよな。元々属性の宝玉なんてものは、     エキストラスキルと属性を得るためだけにあるようなもので───     もう自分で属性攻撃が出来るようなら、     わざわざ宝玉なんて無くても属性を込めるなんてことは出来るわけか」 でも右の火の輝きより、左の風の輝きのほうが光が寂しいのは確かだ。 ……しょうがないよな、俺って火の要素ばっか嫌ってくらい持ってるんだし。 中井出「よっし!“解放”(レリーズ)“精霊斬”(しょうれいざん)!!」 使用すると意識した途端に頭の中に流れ込んできた使用方法に身を委ねるように叫ぶ。 必要な言を口にすれば、この時を待っていたと言わんばかりに輝く双剣。 ジークムントとジークリンデは巨大な双剣から巨大な霊双剣へと姿を変え、 そのカタチは実体の無い光の大剣へと至る。 属性によって灯る光の色が違うのか、 ジークムントは紅、ジークリンデは蒼という光の剣へと変貌を遂げる。 しかしやはり稀紅剣ジークムントに比べると、 稀蒼剣ジークンリンデのほうが光の面積が少ない。 やっぱ宝玉の属性じゃないのはこんなもんなのか? 中井出「えーと?精霊斬は発動から12発まで通常攻撃orキャリバー攻撃が可能。     12発までが終わるとそのまま剣に封入した属性を飛び散らすか、     霊双剣を一本の霊剣へと変異させて、複合属性キャリバーを放つかのどっちかか。     そりゃ敵が居るなら放つべきだろ。で……効果時間は無限で?     ただし12回攻撃を当てたなら必ず使っていた属性は解除される、か」      ほうほうなるほど。 12回攻撃し終わるまでこの光は消えないのか。 中井出「ふりゃっ!《スフィンッ!》おおっ!ほんとにキャリバーが出た!     すげぇ!これすげぇ!そういや重みも全然感じねぇ!むしろ軽すぎるわこれ!!」 ギガノタウロスの斧の重さがウソのような軽さだった。 今までが散々重かった所為で、この軽さはむしろ異常とも言えるだろう。 いや、ほんと、割り箸なんて目じゃないかもしれん。 マイナス何キロとかの世界じゃないだろうか。 中井出「よっ───ほっ!」 軽く風を地面に吹き落とす。 すると体がフワリと浮く。 うおおマジか!?フワリと来たぞフワリと! 今までウゴゴゴゴって感じで強引に飛んでたっていうのに! 中井出「おお!浮いていく!すげぇ!舞空術を初めて使う人の気分ってこんな感じか!?     浮いていく浮いていく!浮いて───あ、あれ?     そういやこれってどうやって下に……あ、イ、イヤァ!降りれない降りれない!     助けて!助けてぇええ!!このままじゃ舞空術を初めて使った人どころか、     デュズニィーランドゥーの空を飛ぶ風船の気持ちを知ってしまう!!     やめてやめてぇ!海の藻屑じゃなくて空の藻屑になるなんて聞いたことがない!     俺このまま究極生命体カーズになるの!?考えることやめなきゃなんねーの!?     あ、いや───フロートもグラビティも技能スキルなら……よし!グラビティ!」 キィンッガクンッ!! 中井出「うおぉうわっ!?」 グラビティ発動を口にした途端、双剣が急激に重くなり、 浮いてた体が地面に真ッ逆さま───ぁあああああああっ!? ドゴォンッ!! 中井出「うわらばっ!!」 双剣が地面を貫き、腕まで埋まった俺は受身も取れずに顔面から大地に激突した。 中井出「ウゴゴゴゴ……!!切れ味がいいのも考えものだよな……!!」 しかしこれは面白い。 扱いに慣れるまで苦労しそうだが、浮遊と重さを好きなように扱えるようになったのだ。 つーかそもそもグラビティが無ければ究極生命体カーズになっていた。 中井出「常に重りでも持ってなけりゃ、おちおち眠れもしないんじゃなかろうか……お?」 ゴボリと起き上がり、土や砂を払った俺の目についたもの。 それはなんの変哲もない紙だった。 もちろんその紙がただ道端に落ちてるだけっていうなら気にもしなかったんだが、 なんの冗談かジークムントにくっついているのだ。 まるで値札のように。 それを取って見てみると、 中井出「なになに……?“いじくり甲斐のある武器だったから稀少石全部使っちゃった。     オチャメなおじいちゃんを許しておくれ マクスウェルより”……?」 ……オイちょっと待て。 ナビによる詳細によれば稀少石ってのは浮遊石なんだよな? で、それを錬成、霊章を鍛ちつけることで出来るのが恐らくテオブランド。 で……俺の武器に、その材料たる稀少石(例年より多く取れたらしい)を全部……? 中井出「…………」 じゃあ、なんだ? 普通のテオブランドは持ち主が浮いたりもしないしここまで軽くもないが、 このニーベルンゲンは高密度に圧縮された稀少石が使われたために軽くなりすぎて…… 中井出「浮くところにまで至った……と?」 ちょっと待てシャレにならんぞオイ……。 そりゃかなり役に立つのは確かだがさ。 だってこれあまりに軽い所為で、 ニーベルンゲンの指輪が溶け込んでる俺の体まで軽いんだもんよ。 これは本気で上手く重力と浮力を操れるようにならないと究極生命体カーズに……! だが構わん。何故なら面白いからだ。 中井出「さぁてお仲間達と合流するかぁ」 ……と、そこまで考えて疑問符が頭につく。 そういや……マクスウェルのじーさんよ。 大会の賞品俺の武器に全部使っちまって、大会はどうするんだ? 中井出「………」 しばらくして、この博光は考えるのをやめた。 気にしないことにしよう。 【ケース309:中井出博光(再々)/幼い頃に夢見た強さ】 ややあって、店仕舞いをする道具屋に滑り込み、 下ろしてきた金で買い物を済ませた俺は、道具屋の前で待っていてくれたみんなと合流。 これからのことを決めるべく、軽く果物をかじりながら歩いて語った。 中井出「さて。アンデッド軍団は目と鼻の先なわけだけど。どうする?これから」 ゼット「突撃だろうな。他になにがある」 悠介 「いや、まず遠くから弓矢だのの遠距離攻撃で数を減らしていって、     敵が目の前に来たら殲滅開始だ。その方が効率がいい」 彰利 「おお、それなら俺の出番だな。鎌の解放で月操力が究極形にまで至ったからな。     しかも月醒力は破魔の力もある。アンデッドにはかなり有効だ」 みさお「ええ、月操力ならわたしもゼットくんも行使可能ですし、     母さまにも鎌がありますから」 ルナ 「まあ、悔しいけどダークイーターみたいに鎌閃放てば遠くの敵も殺せるわね。     でもフレイアの力に頼るって癪なのよね……わたしアイツキライ」 悠介 「好き嫌い言ってる場合じゃないだろ?」 ルナ 「むー」 中井出「で、一番知りたいのは今決行するかどうかなんだけどさ。     もちろん俺は今すぐでも一向に構わんし突撃でも全然OKだ」 ゼット「もちろん俺もだ。貴様、人間にしてはなかなか意気込みがいいな。     やはり戦士ならば突撃あるのみだろう」 中井出「おおもちろんだとも!戦士が前に出ないでなにが戦士だ!」 悠介 (……おい。なにやらゼットと意気投合してるんだが) 彰利 (すげぇ……こんな光景初めて見た) みさお(同感です……ゼットくんはわたしにもあんな表情見せないのに……) 中井出「……あのさ。だから全部聞こえてるってばよ」 彰利 「これから戦になるって時に幻聴聞いてんじゃねぇよクソがぁ」 中井出「思うんだけどさ、銀魂の神楽の真似って正直シャレにならないと思うんだよね」 言うことキッツイしストレートだし。 あ、いや、それ言ったら俺達もそうか?ならいいや。 みさお「まあその、なんでしょう。     ゼットくん、この世界の旅でいろいろ思うことがあったみたいで。     無闇な殺しは一切しないし、無愛想もこれで結構無くなってきてますし」 ゼット「セシル……そういうことは言わなくていい」 親に息子自慢されて恥ずかしいこと暴露される子供みたいな反応だった。 悠介     「じゃあ、遠距離攻撃でいいか?」 中井出&ゼット『断る』 彰利&みさお 『断ったぁーーーーっ!!!』 中井出    「フッ……聞いたか黒竜王よ、遠距離攻撃だとよ」 ゼット    「フン……見損なったぞ晦悠介。所詮貴様も己の力を信じきれない弱者か」 悠介     「ちょっと待て!         提案しただけでどうしてそこまで嫌な対応されなきゃならん!」 中井出    「バカモーーーン!!男なら特攻だろ!!」 ゼット    「遠距離攻撃をして敵が近づいてきたら近接攻撃?ハッ、姑息千万」 中井出    「晦一等兵……貴様にはボスを張っていたプライドってものがないのか?         近接戦闘こそ男のロマンだろ。遠距離から敵をちくちくせめるなんて、         そんなもんは熱き男の戦いじゃねぇし盛り上がらん」 ゼット    「その通りだ。おい人間、名前はなんだ」 中井出    「また説明!?え、えーと、中井出博光だけど」 ゼット    「中井出か。よし覚えたぞ。晦悠介、貴様もこの男を見習え。         戦いを楽しめない限り、戦士としては三流だ。         それでは戦い打ち勝つ意味も無い。貴様はなんのために戦場に立つ」 悠介     「なんのためってそりゃ、そうするべきだと思ったからだろ」 中井出    「かっ……これだよ。聞いたかいゼットよぅ」 ゼット    「ああ、とんだ見下げた根性だ。正直がっかりしたぞ晦悠介」 彰利     (……呼び捨てにされても平然としてるな) みさお    (案外気が合ってるのかもしれませんね……驚きです。         ゼットくん、なんだか楽しそうです) いや、一番驚いてるのはきっと僕だよみさおちゃん。 そして全部聞こえてますから。 むしろ俺の傍でボソボソ喋っちゃ意味無いだろ、おい。 悠介 「じゃあ……本当に特攻でいいのか?」 中井出「もちろんだ!……大体さ、晦。     このパーティーで作戦決めて、律儀に守るヤツが居ると思うか?」 悠介 「居ないな」 物凄い即答だった。 中井出「だったら考えるだけ無駄!それぞれが思うさまに、好き勝手に戦うべきなのだ!」 彰利 「おっ!だったら誰が何人コロがせるか競争すっべー!     一番少なかったヤツは全員にチョコレートパフェ奢るの。誰ともワリカン無しで。     そして俺は中井出!貴様にだけは負けん!!」 中井出「貴様が?この魔王博光にか。小賢しいわ小童が!」 彰利 「な、なにぃ!?小童とな!?」 中井出「貴様は凄まじき死神の力を手に入れて調子に乗っているようだがな、     貴様の考えは根本から間違っているのだ」 彰利 「あ〜〜〜ん!?どういうこったい!!貴様はレベルでは俺より高みに居るが、     そんなものはいくらステータス倍化したってレベル倍化能力の俺には───」 中井出「馬鹿め!それが間違いなのだ!」 彰利 「な、なんだってぇーーーーーっ!!?」 中井出「忘れたか!俺には力のガーディアン、魔人カルキの加護に加え、     自然の加護や氷の加護もある!そしてなにより!     貴様がそうやって慢心しているうちに鍛えに鍛えた武器があるのだ!!     レベルを倍化させれば同等?俺より上?そんなものは生身上の話だ!」 彰利 「ア、アアーーーーーーッ!!!」 中井出「で?ン?貴様のナックルのレベルはどのくらいなんだ?」 彰利 「ウ、ウググ……!ググーーーーッ!!」 中井出「愚かなり彰利一等……いつしか己の力に溺れ、     ゲームそのものから逸れてしまった貴様には、     この世界で誇れるものなど何ひとつとして無し!!     結局貴様は努力して強くなる楽しさを知ったと言いつつ、     大きな力を一気に得る快感を忘れ切れなかったのだ!!     その結果が鎌の成長鎌の成長と謳っていた貴様だ!!     そんな同条件から外れた貴様がこの魔王と勝負!?笑わせるなクズが!!」 彰利 「お……っ……おおお……!!な……なんたること……!     この彰利が……この彰利が何も言い返せん……!!馬鹿な……俺は確かに、     ゼノへと向かっていたハングリー精神を思い出した筈なのに……!」 中井出「ハングリーなどでは所詮足りないのだ……知れ、彰利一等兵。     貴様に足りないもの、それは過去で知った未来を開くための心意気ではない」 彰利 「な、なにぃ!?だったらなにかね!!」 中井出「それはな……敗北の味だ」 彰利 「───!」 ギシリ、と彰利の顔が目に見えて変わった。 彰利 「敗、北……だと?」 中井出「そう。貴様には圧倒的な力を得ていながら、     慢心のために親友の意思さえ無駄にした敗北の記憶が必要だ」 彰利 「あ、あれは……俺じゃねぇ、南無だ」 中井出「ずっとそう言い続けて慢心に囚われているつもりか?」 彰利 「……ちょっと、ちょっと待ってくれ。南無の話は関係ねぇだろ。     な、悠介からもなんか言ってやってくれよ」 悠介 「クズが」 彰利 「クズとな!?お願いしたのになにその言い草!!」 悠介 「言えって言われたってな、なにを言えばいいんだよ」 彰利 「なにってそりゃ……これから突撃すんだからそんな話関係ないっしょ、とか」 悠介 「慢心が無くなるならむしろ応援するが」 彰利 「ぬお……」 中井出「南無っていったって元はお前なんだろ?どうして受け入れられないんだよ」 彰利 「……ソリが合わないんだよ、しゃあないだろ?俺の慢心ならなんとかするから。     だからあんな嫌なこと思い出させるなよ」 ……。 中井出「思い出せるからこそ慢心が潰せるんじゃないのか?」 彰利 「〜〜……ああもう!俺にどうしろってんだよ!     あの時のこと思い出して苦しめってのか!?     親友が残してくれた好機を俺の慢心の所為でブチ壊しにしちまった瞬間を!     しょうがねぇだろ!?親友が目の前で、俺の所為で死んじまったんだぞ!?     そうした相手を苦しめて殺したくなるのは当然じゃねぇか!」 中井出「そういうこと言ってるんじゃないんだよ。俺はただ───」 彰利 「うーるせぇ!ただ慢心を無くさせたいってか!ンなもんお節介だよ!     慢心したってもう同じ過ちなんか起こすもんか!     躊躇なんてしねぇ……!もうあんなこと繰り返しやしねぇよ!!」 中井出「けどな、今までもそうやって───」 彰利 「お前なんかには解んねぇんだよ!!     目の前で大事な人を亡くしたことのねぇ平和な世界に産まれたお前には!!」 悠介 「───!おい彰利!言いすぎ《グイッ……》っと……な、中井出?」 彰利を宥めようとする晦の肩を引き、彰利の前からどかす。 ……頭が妙にクリアだ。 やるべきことがたったひとつだからか?ああ、確かに他にとる行動がまるで思いつかない。 そんなことが脳裏によぎった時には、俺はもう拳を振るっていた。 バッガァアアッ!!!! 彰利 「ぐぅっ!?……っつう……!!なにしやがるてめぇ!!」 中井出「……大事な人を……亡くしたことが無いだ……?平和な世界だ……?     あぁそうだろうさ……確かにお前や晦、     ゼットの歩んだ世界に比べれば俺の世界なんて遙かに生易しいんだろうさ……。     けどな……そんなお前にだからこそ解らねぇんだよ!!     解らねぇことだってあるんだよ!!」 彰利 「……ンだとてめぇ!」 中井出「俺はお前の生き方や晦の生き方に素直に尊敬してたよ!ああ、今までずっとだ!     けど確信したね!晦には共感持ててもお前には共感持てやしねぇ!!     お前が南無のことを別人だって言うなら、     お前がいつ大事な人を目の前で失った!?楓巫女の時か!?隆正の時か!?     違うよなぁ!結局歴史繰り返して幸せなそいつらの姿を見届けたんだもんな!     そりゃ悲しみも薄れるってもんだ!」 彰利 「おい……っ!言っていいことと悪いことも解らねぇのかよ!     死者を冒涜するつもりか!?」 中井出「ハッ!どの口がそんなこと喋りやがる!俺が受けた辛さもなにも知らないで、     自分の辛かった過去を自慢代わりにして見下してたのは誰だよ!     ああそうだな!お前になんか解るかよ!     なんだかんだで家族全員を憎んでたお前なんかに俺の気持ちなんか解んねぇ!!」 悠介 「おいっ!ちょ……やめろ!落ち着けお前ら!」 止めようとする晦を無視するように取っ組み合う。 ……解ってる。 彰利がどれくらい辛い人生歩んできたかくらい、俺にだって解るさ。 彰利が歩んできた道の辛さに比べれば、そりゃあ俺の苦労なんか生易しい。 けどそんなもの、比べたりするべきことじゃねえだろ? 自分の人生が辛すぎたからって、相手の辛さを見下していいわけねぇだろ? 俺は───それが許せねぇ!! 中井出「お前は家族が死んだ時どう思った……?     ああいや、訊くまでもねぇや……全部レオの所為にして逃げたんだよな」 彰利 「ぐっ……!中井出……!それ以上言ったら……」 中井出「殴るってか?殺すってか。ざけんな馬鹿野郎!     お前自分がどうして殴られたのかもどうせ解ってねぇんだろ!     辛い過去から目を背けといて相手のことだけ見下すのかよ!     “俺なんか”には解らなくて悪かったな!」 彰利 「見下した……?なんのことだよ!」 中井出「なんだよ……無意識か?そりゃそうだよな……ハハッ、     自分がやっとの思いで手に入れた力が     凡人ごときに追い抜かされたのが嫌だったんだろ。     な、彰利よぅ……お前はさ、俺と対峙するとなんて言ってた?」 彰利 「知るかよそんなこと!」 中井出「考えることも放棄すんのかよ……それがその扱いの適当さの表れだろ?」 彰利 「───!」 中井出「中井出なんか、中井出ごとき、お前はそう言ってたんだよ。     なぁ……俺はお前にとってそんなに小さな人生を歩んできたのかな……。     ガキの頃に両親殺されてさ、親の血のついたカードをペリペリってめくってさ。     俺がその時どんな思いだったかお前に解るのか……?     お前は親のこと嫌いだったろうけどさ、俺にとっては大事な家族だったよ……。     それが、他人の手であっさり壊されたんだよ……。     これって見下されるような人生か……?」 彰利 「だ……だから……俺がいつ見下したって……」 中井出「子供の頃からずっと暴力振るわれてりゃそりゃ不幸さ。     でもな、大事な家族を失っちまった辛さは、     そんな人生を生きたお前だからこそ解らない。     けど、今まで当然としてそこにあったものが急に無くなる……     その辛さならお前にだって解る筈だ。     お前は絶望の中から雪子さんに助けられて立ち上がれた。     俺だって両親が殺されたあと、     じいさんが俺を受け入れてくれなかったら立ち上がれなかった。     でもそのじいさんだってもう居ない。財産欲しさに親戚に殺されたんだ。     そうさっ……お前に、お前に解るもんかっ……!     辛さだけだ……殴られ続けた日々だけが、     さげすまされる日々だけが不幸だって思ってるお前になんか解んねぇっ……!」 彰利 「……俺は……」 中井出「お前の深層意識が母親の死から目を背けて心の中にこもったのはいつだった……?     そりゃあな、無限地獄の辛さにはどんな辛さも勝てないだろうさ……。     けどな、だからって……!     今を元気に笑ってるヤツに辛い過去が無いなんてことは絶対に無いんだよ!!     お前は俺に目の前で大事な人を失ったことがないなんて言ったな?     あったよ。あって悪いか!?     小学の頃、俺はようやく好きになりかけてたばあさんを、     俺自身の所為で死なせちまってるんだよ!」 彰利 「………」 中井出「天井が落ちてきて……!ぐしゃって音が鳴って……!     熱い液体が俺の頭を伝ったよ……!なにがなんだか解らなかった……!     解ったところでもうその人は動かなくて……!     ただ涙が枯れるまで謝り続けることしか出来なかったんだよ……!     その時俺がどんなことを考えてたか解るか……!?     俺になにか力があったら……!俺がもっと強かったら……!     自分の不甲斐なさを歯が軋むほど噛み締めて頭の中で泣き叫んでたんだよ!!     けどなぁ!けどっ……それでも……なぁっ……!俺はっ……俺はぁっ……!     っ……どれだけ願っても……頑張っても……!凡人だったんだよぉっ……!」 彰利 「───!……あ……」 中井出「“ごとき”ってなんだよ……!“なんか”ってなんだよぉっ……!     俺だって……俺だって強く生まれたかった……!     なんでも守れるヤツに生まれたかったよぉっ……!     でも……!でもよぅ……仕方ねぇじゃねぇか……!     凡人だったんだ……!なんの力もない……ただのガキだったんだよぅ……!     くそっ……くそぅ……!〜〜〜っ…………!」 ……いつしか、声は嗚咽にしかならなくなってしまった。 あの日から俺は、自分の不甲斐なさを改めたことなんて一度もない。 強くなりたいと。 誰かを守れるなにかになりたいと思ったことなんて何度だってあった。 それでもやっぱり俺は凡人で……助けたかった過去も、助けたかった人も、 今ではどうしたって助け出すことなんて出来やしないのだ。 それでも前を向いて歩いていこうって思えたのは、 じいさんが“お前の所為じゃないよ”って抱き締めてくれたからだ。 ……俺はそんなに強くない。 誰かに支えて貰えなかったら、きっともう歩いてなんていられなかった。 でも、誰かを思って泣けることは自分にとっての勲章だと信じてる。 誰かのために泣けなくなるのは、きっと寂しいことだから。 彰利 「……………悪かった……ごめん。……謝る」 力無く地面に膝を着き、嗚咽を漏らしてる俺に……彰利は静かに謝った。 その言葉からは後悔と喉の詰まるような悲しみだけが込められていて…… 彰利がどれだけ自分の行動や言動に後悔したか、痛いくらいに感じられた。 解ってる。 見下したかったわけじゃない。 彰利にだって彰利にしか解らない辛さを幾つも抱えてる。 それは俺達が勝手な推測をして喩えを挙げられるようなものじゃない。 けど、結局はそれは彰利も同じなのだ。 どれだけ思い悩んだって、誰かの辛さなんて受け止め切れない。 それが解っていても、こうして衝突してしまうのは─── みさお「……男の子ですね。いつまで経っても」 そういうことなのだろう。 いつだって馬鹿なやつらは馬鹿なりに喧嘩して、相手のことを知っていくんだ。 見下されようがされまいが、喧嘩が始まったその時だけは対等になれるのだから。 彰利 「……南無」 南無 『なにほね?』 彰利 「俺と完全に融合しろ。     精神世界だからって出てくるなんてこと、普通は出来ない筈だろ」 南無 『む。いつから気づいてたほね?』 彰利 「さあね、知らん。それより……どうなんだ?」 南無 『べつにいいほねがね。どういう風の吹き回しほね?』 彰利 「お前の過去もなにもかもを、ぜ〜んぶ俺のものにしたい。     ……俺はお前、お前は俺だ。もう拒まねぇ」 南無 『俺は拒むほね。俺がてめぇだなんて冗談じゃ《ズリュン!》ギャアほね!?』 彰利 『ぐだぐだ言うなこの野郎……!他人の過去を侮辱した罪ってのは重いんだよ!     俺はそれに報いなきゃならねぇ……だから拒否は許さん!』 南無 『ギャ、ギャアほねぇえーーーーーーーっ!!!!』 ズリュ……ゴプンッ…… 涙を拭った視界の中、南無が彰利の黒に飲み込まれていった。 そしてしばらくすると……彰利が小さく息を吐き、 どこか落ち着いた表情でもう一度俺に謝った。 俺はといえば……もちろんその謝罪を受け入れて、苦笑ながらも笑い合って仲直りをした。 ……しかしほんと、まだまだ青いねぇ俺達も。 でも、こんな青さが悪くないって思える俺達なんだ、仕方ないよな。 悠介 「やれやれ……どうでもいいけどな、お前ら。道具屋を青春劇場に巻き込むなよ。     涙もろい性格らしくて、もらい泣きしてるぞ?」 道具屋「ううっ……ぐしゅっ……いいねぇ……青春だねぇ……」 中井出「あー……」 彰利 「まあその、なんだ」 とりあえず一言で言うなら…… 中井出&彰利『そんないかつい顔で涙もろいなんて、どっかの漫画の登場人物かてめぇ』 だった。 見事に声が重なった俺と彰利はお互いを見たのちに爆笑。 ……こんなもんだ、俺達の日常なんて。 泣いたカラスがもう笑う、ってのはこういうことかね、なんて思いつつ…… やっぱりこんな調子で、俺達は笑って生きていくのである。 そのハラん中にどんだけの辛さとか持ってるのかなんて誰にも解りはしない。 けどま、いいんじゃないかね、こうして笑ってられるんならさ。 悠介 「じゃ、いい加減乗り込むか。敵さんもお待ちかねだろうし」 ルナ 「そうね」 みさお「はい」 彰利 「……じゃ、今度は真剣に競争だ。中井出……勝負だ」 中井出「OK、負けねぇぞ?」 ゼット「……なるほどな、これが友情というものか。……悪くない、かもしれんな」 みさお「……?ゼットくん、なにか言った?」 ゼット「さてな、言ったかもしれんし言ってないかもしれん」 みさお「むぅ……」 悠介 「そんじゃ、トリスタン殲滅計画───開始!!」 全員 『おぉおーーーーーっ!!!』 さあ、やってやろうか。 泣いたら気分もすっきりした。 あとは思いっきり暴れて体もスッキリさせれば文句無しだ! そんな意気込みを胸に、俺たちは村の外の北、 トリスタン軍が待機している町へと駆け出したのだった。 Next Menu back