───冒険の書110/元素大会予選編───
【ケース317:弦月彰利/人民の夜明け】 でてんててんててんててんてんてん♪ 彰利 「ウォ〜〜〜ウオ〜〜〜♪ド〜ロ〜ロド〜ロ〜ロ兵〜長〜♪」 ジュノーンとのバトルが気づけばいつの間にか終わり、 目覚めれば滅びの町の教会で気絶してたらしいオイラは目覚め…… 皆様と合流した俺は蒼空の下で歌っていた。 正直どういう経緯で勝てたのかは解っておらんのですがね。 誰も話そうとせんのよ。 まあどうせ毎度のように悠介がなんとかしたんだろうけど。 悠介は悠介で“柾樹のヤツ大丈夫だろうか……”とか呟いてる。 ヌーム、解らん。いったいなにがあったのやら。 中井出「えーと……」 ゼット「…………《む〜〜〜ん》」 中井出「何か喋ってよォオ!!」 あ、それから不思議なことに、早速ゼットに呼び出し喰らった中井出は─── ゼットとなにかあったらしく、妙に異常空間を展開していた。 まるで恋人初心者にでもなったかのような二人だった。 えーとなんでしょうねこれ。 彰利 「あの。キミたちホモにでも目覚めた?」 中井出「キミハコノアオイチキュウガダイスキデシタ」 彰利 「殺す気ですか!?落ち着け落ち着け!ホモ発言は撤回するからお待ち!!」 中井出「そんな怪しい関係じゃねぇよぅ……。     ただな、貴様を認めてやるって言われただけだ」 彰利 「へ?それって?」 中井出「対等に見てくれるってこと。     つまり、友人みたいな存在として認めてくれたんだよ」 彰利 「へー……それでその反応なん?」 ゼット「…………《む〜〜〜ん》」 彰利 「……認められる前の方が反応よかったんでないのかい?」 中井出「俺もそう思う……」 でもあのゼットが友ね。 そんなことを考えること自体が奇跡だ。 彰利 「なにか気に入られるきっかけでもあったんかね」 悠介 「凡人が頑張って強くなるところが気に入ったんだとさ。     ……なんとなく解るだろ?」 彰利 「む?───……ああ」 そっか。 そういやゼットも最初は何の力もない辺境の村の少年だったんだっけ。 セシルの魔法に対して、自分の力の無さに嘆いたことだってあった筈だ。 中井出「さて……ところで彰利一等兵?貴様約束は覚えているだろうな」 彰利 「ホホ?もちろんじゃよ?敵を倒した数を競うんじゃよね?     俺は421体だ!」 中井出「フッ……」 彰利 「なにっ!?なにかねその笑みは!よもやこれ以上だとでも───!?」 中井出「12834体……それが俺がコロがした敵の数だ!!」 全員 『ホゲェーーーーーッ!!?』 トンデモナイ数が唱えられました。 すげぇ、彼はこの時こそ輝いていた。 悠介 「すごいな……どうすればそこまでの数を……」 中井出「そうだなー、たとえばどこぞの一等兵にアンデッドが好む臭いを創造されて、     しかも敵の軍の真っ只中に置き去りにされればね……ウフフフフ」 悠介 「ぎっ……い、いやっ……あれはだな」 中井出「寂しかったなぁ切なかったなぁ……敵の軍の中にひとり残されて死人退治……。     無限と現れる死者を文字通り千切っては投げ千切っては投げ、     ゾンビに触るのは嫌だからスケルトンをジャイアントスウィングして     敵を吹き飛ばしたり、だけど手放した途端に死人どもが俺の体にニチャニチャと     纏わりついてヒギャアアアアア思い出しただけでも鳥肌がぁあああああっ!!!」 目も当てられないというか、置いていった負い目というかもう辛いね。 カタカタと震えだす中井出を直視できません。 みさお「ほらゼットくん、こういう時にフォローしてあげるのが友達だよ?」 ゼット「ぬっ……む……───おい貴様。既にここには死人なぞ居ない。正気を保て」 ルナ 「え?エロっちっていっつもこんなじゃないの?」 中井出「俺の正気ってこんななの!?」 みさお「あ、戻ってきました」 中井出「正気って……戻ってきたって…………なんかすっごく可哀相な僕……」 ゼット「気にするな。貴様は物事を気にせず生きていけばいい」 中井出「これ気にしなかったら俺なに気にすりゃいいの!?     何を信じて生きて行きゃいいの!?」 ルナ 「エロマニア」 中井出「信じられるわけねぇだろそんなの!!」 中井出がキレた。 悠介 「いやいやまあまあ落ち着けって。     それよりとっとと浮遊島行かなきゃならんだろ?な?     大会参加申し込みとかがあったら困るし」 中井出「ハッ!そ、そうか!あ……けどさ、大会ってほんとにやるのかな」 悠介 「ん?なんでだ?」 中井出「いやぁ……だって賞品が……」 彰利 「賞品がどうかしたん?」 中井出「……ナンデモナイヨ?」 思い切りなんでもありそうな顔だった。 そういや中井出の野郎、いつの間に腕にこんな紋章つけてたんだっけ? 少なくとも滅びの町に入る前に見せてもらった以前は無かったような……。 突撃前に合流した時にはもうあったし、 だけどアイテムの購入とかで一度解散する前にはまだ無くて……解らん。 中井出「と、ところでぇっ……ふ、浮遊島っ……までは、どうやって昇る……?」 彰利 「ウヌ?空飛ぶ、転移する、妖精のゲートを通る、いろいろあるけど」 中井出「妖精か。そういやエィネと若蔵は大丈夫だろうか」 悠介 「……?エィネ?」 彰利 「ああ、悠介はあの時ボスやってたから知らんのか。     エィネってのは中井出の知り合いの妖精で、若蔵ってのが……なんだっけ?」 中井出「ラウル=ハーネマン。サンドランドノットマットで知り合った魔物だ。     俺とナギー……ドリアードには手目小野若蔵って呼ばれちゃいるが、     あれであのヘン一帯のモンスターのリーダー的存在だ」 彰利 「知り合ったきっかけは?」 中井出「……シラナイヨ?」 思い切り知ってそうな返事だった。 なにか思い出したくない過去でもあるんだろうか……あるんだろうなぁ。 こいつがこういう顔する時ってのは大体がエロマニアが絡んだ嫌なことだろうし、 ヘタにツッコむとまた暴走しそうだからそっとしておこう。 ゼット「さて。しかしな。話を戻すが───大会とやらに出るのは望むところだ。     晦悠介と戦えるのは、ああ、確かに望ましい。     だが他のやつらはどうする。相手になるとは思えんが?」 彰利 「藍田あたりならオリバ化だけでも十分強い気もするけどね。     ありゃレベル2倍どころじゃねぇ気がするし」 悠介 「それって苦労して世界創ったりオーダー解放したりして、     やっとこさレベルを倍化させる俺達にしてみれば物凄く微妙な事実だよな」 彰利 「あ……でも俺、オリバと一応マジバトルして結構保ったしな。     んじゃあ倍化ぐらいなんかね?それとも……うむむ解らん」 ルナ 「考えてても仕方ないんじゃない?難しいことはいいよ。行くなら行コ?」 彰利 「む、賛成。ん〜じゃあどういうルートで行こうか」 悠介 「まず中井出をロケットに括りつけて、打ち上げて爆発」 中井出「しないよ!!殊戸瀬みたいなこと言わないでよ!     意味ないよね!?それ滅茶苦茶意味ないよね!?爆発したら俺死ぬよ!?」 悠介 「ああ。そしたら盛大に笑ってやろうと思う《パァア……》」 中井出「サワヤカに微笑んでんじゃねぇーーーーーっ!!!」 みさお「父さま……本当に随分とお変わりになられて……」 変わるにも程ってもんがあるだろ、オイ。 物凄い微笑みだったし。 大体、ロケットなんてどっから調達するつもりで───ああ、創造すりゃ出せるよな。 くそう、常識破りの能力者はこれだから……。 いや、俺も人のこと言えんけどさ。 中井出「と、とにかく行こう。大会の賞品がどうとかは……はは、この際忘れる方向で」 彰利 「む?よう解らんけど先に進むのは賛成かね」 ルナ 「どうやって行くの?」 悠介 「ああ。転移で行くのもなんだし、一度妖精ってのを見てみたい」 中井出「よしゼット、僕らは空を飛んでいこう」 ゼット「む?ああ、別に構わんが」 彰利 「ゼットが行くってことは、     じゃあみさおもそっち組か。んじゃあ俺とルナっちと悠介で行くか」 悠介 「了解」 ルナ 「じゃねー、みさっち」 みさお「あの……一応わたし、娘なんですけど。娘をみさっちっていうのは……」 中井出「………」 中井出がみさおのことを“俺なんてエロっちだぞ”って目で見てた。 それはそれは、悲しそうな顔だったそうな。いや、そうなもなにも俺が見たんだけどさ。 ───……。 ……。 そんなこんなで中井出たちと別れた俺はサンドランドノットマットまで走った。 飛んでもよかったんじゃないかという思考はあったにはあったんだが、 空飛ぶならべつに妖精のゲートを通る必要もなく、 浮遊島を目指してもいいだろうがという妙な感覚が俺達の行動を邪魔した。 だって悔しいだろ、 悔しさを説明しろなんて言われても微妙すぎて喩えられたもんじゃないが。 いわば子供が一度ついたウソを無理矢理押し通すのと同じ感覚か? ああいやそんなことはいい。 今は目の前の問題をなんとかするべきだろ。 ラウル『なんの用だ貴様らぁ!!』 彰利 「妖精のゲートを通りたいんだけど」 ラウル『なにぃ!?だめだ失せろ』 悠介 「即答だなオイ……」 彰利 「あー、ホラ、オイラたち中井出の……エロマニアの仲間だよ?」 悠介 「……頼むから“エロマニアの仲間”をつけた状態で“達”をつけないでくれ……」 ルナ 「エロマニアの仲間って響きだけでイヤ……」 彰利 「贅沢言ってらんねぇでしょうが!で、どうなんだい!」 ラウル『だめだ』 なんとまあ見事な即答だった。 ラウル『俺が通したのはあいつであってお前らじゃねぇ。妖精だって同じ考えだろうぜ』 彰利 「………」 行動は見事に頓挫した。 ここで強引に通るのも手だったんだけど、 妖精が居ないとゲート開けそうになかったのでやはり頓挫。 我らはなにやらお祭りが雨で中止になってしまった時のような寂しさを胸に、 とぼとぼと……まあその、空を飛んだ。 とぼとぼと空を飛ぶってどんな状況なんだろね。 自分で考えてみて、まったく解んねぇや。 【ケース318:中井出博光/ヒロミティックサイン】 バタバタバタバタバタバタ……!! 中井出「おぉ〜〜〜っほぉ〜〜〜っ!!高ぇ高ぇ!」 高い位置に吹く風が俺達を撫でる。 どうして高い位置には大体風が吹いてるって印象があるのか解らんが、 多分テレビ中継とかでヘリに乗ったリポーター(?)とかがさ、ほら、 大抵ヘリの扉開けて下とか見たり飛んだりしてるだろ? あれの所為だと思うんだ俺。 だから漫画家さんとかアニメスタッフとかも高い位置を描く時は必ず風を、と。 でもヘリとか開けると風がビュゴーと吹いてるのは自然の気象でもなんでもなく、 ヘリのプロペラによるものだってきっと誰もが気づいてる。 いやでも今吹いてるのは間違い無く自然の風だ。 ゼット「平気なのか?」 中井出「おー!平気平気ー!まだまだ余裕だぜ〜〜〜っ!!」 みさお「すごいんですね、その剣」 ジークムントとジークリンデに宿るフロートを使い、 重力をマイナス状態にしたのちに風を巻き起こして飛翔する。 いやぁいいもんだねぇ空飛ぶのって。 しかもさ、自分はあくまで地界人で、なんの特殊能力もない人間だってのがまたいい。 俺はあくまで剣の力を引き出す鍵で、全ては剣の力だ。 けど、ゼットとみさおちゃんを背負ってまで楽々空飛べるのがかなり面白い。 ああっ、やはり武器はいい!武器はいいなぁ!!ウェポンマイラァーーーブ!! 中井出「で、ゼット〜?武闘浮遊島のある方向はこっちでいいのか〜?」 ゼット「ああ。貴様の地図に記してあった場所はマーキング済みだ。     このまま南に登り続ければ辿り着くぞ」 中井出「よっしゃあ!」 みさお「……ゼットくん、楽しそうだね」 ゼット「うん?そうか?」 みさお「初めて自分から友達作ってみた気分はどう?嬉しい?」 ゼット「正直よく解らない。だが、悪くはないとは感じている」 みさお「……中井出さん、これからもゼットくんのことをよろしくお願いします」 中井出「や……そんな子供の友人に子供を託すような言い方されても。     大体、男の友情ってのは誰かにお願いされてなるようなもんじゃねぇって。     好き勝手やってりゃいいのさ。ぶつかり合わなきゃ解らないのが男だし。     あ、いや、女もそうか?まあとにかく、     どちらにしろ考える者同士が解り合うのなんて凄まじく難しいってこったろ」 みさお「それはまあ、解ります」 中井出「……もっと早く解り合えてたら、長い時間を笑顔で一緒に居られてたのかな……」 みさお「え?」 中井出「え?あ、あぁ……はは、なんでもない」 些細なことでばーさんのことやじーさんのこと思い出しちまうのは癖かな。 まあ、思い出せるのはいいことだよな。忘れたくなんかねぇし。 中井出「っと、見えてきたな。じゃ、盛大に楽しむかぁ」 ゼット「ああ、そうだな」 仏頂面で、だけど少しだけ楽しそうに口を歪めるゼットと、 悪ガキふたりを見守る大人のような顔をするみさおちゃん。 そんなふたりと一緒に、やがて俺は高い高い場所にある浮遊島へと降り立った。 ───……。 ……。 降り立った浮遊島を歩き、辿り着いた闘技場には─── まるで縁日に訪れるラブラブ若人や子供の付き添いとして訪れた人達、 もしくはタイムサービスやバーゲンに群がる婦女子の様に賑わっていた。 そこら中に散らばる烏合の衆が如きざわめきや暑苦しさは、 やはり参加者の大半が男だからなのだろうか。 そもそもお前ら、どうやってここまで昇ってきたんだ? そこのところをお兄さんに聞かせてくれないかねぇ。 そんなことを思いつつも人の波を切るように歩いていると、 声  「お嬢ちゃん、パパとはぐれたのかい?よかったらおじちゃんが───」 声  『子供扱いするでないのじゃーーーっ!!』 声  「《どごぉおん!!》ひぎゃあああーーーーーっ!!!」 時折視界の上部を人が飛んでいったりするのである。 今の声どっかで聞いたことあるなー、などと思いながらも、 それを確認しにいかないのはどうしてだろうなぁ。 今はただ、吹き飛ばされたおっさんが無事であることを祈ろう。 それから謎の少女よ、争いは嫌いなんじゃなかったのか? ……しかし本当に随分と人が居るものである。 他の人々は独自のルートを使ってきたのだろうが、それにしても猛者どもが見当たらない。 別に合流しなければいけない理由なんてないのだが、 こう広いと人恋しくなるのが人間ってもんだろ? そりゃ周りにはいくらだって人は居るんだがさ。 今傍に居る知り合いといったら、物凄い殺気を放ちながら後ろを歩くゼットと? その横を申し訳無さそうに歩くみさおちゃんくらいなものなのである。 さすがにこの二人が一緒だと、周りの人もどよめきつつも道を譲るわけだ。 そのくせ俺が通ろうとする時はてんで道を開けないというのはどういうことだ。 中井出「しかしこうしてても埒が開かんしなぁ……失礼。     この大会には参加申し込みとかはあるのか?」 男  「あぁん!?ンッだテメーワ!!」 中井出「すまん、是非とも日本語を話してほしいのだが……」 いや、話す相手を間違えた俺も悪いのか? だとしたら話し掛けただけでこんな反応をされたほうこそ理不尽な気もするが。 男  「ンッだよ俺になんか用があンのかよアァン!?」 中井出「ない《キッパリ》」 男  「あぁん!?ンだッテメーワ!じゃあなんのために声かけてきたんだよアァン!?」 中井出「じゃあある」 男  「あぁん!?ンッだよテメー!用がねぇンじゃなかったのかよアァン!?」 それはむしろこっちがツッコみたいのだが…… なんのために話し掛けてきたんだよとか言うヤツが、 なんか用があんのかとか言ってほしくないものだ。 用が無ければ見ず知らずの人に話し掛けることなどしないだろう普通。 中井出「この大会には参加申し込みとかは必要なのか?」 男  「ああ必要だぜ?申し込みはあっちの方向にずっと進んで行きゃあある。     途中に崖があるから気をつけろよ?」 中井出「………」 意外と親切だった。 こうして俺は早速言われた通りの方向へと突き進んでいったわけだが、 やはり俺が通る時はちぃとも道を譲ろうともしない屈強な戦士たちよ、 ゼットが通る時はモーゼの十戒の如く道を譲るのはどういうことだ。 もしやゼットはいわゆる殺気というものを放ち、 この屈強なる戦士たちを押し退けているのだろうか。 中井出 (よ、よし。だったら俺も……《ク……クワッ!!》) マッチョ「なにガンくれてんだてめぇ!!」 中井出 「ヒィイ違いますごめんなさい!!」 殺気の込め方が解らないからとりあえず眉間にシワを寄せてみた。 もちろん逆にメンチきられたわけだけど。 そういえばずっと気になってたんだが、 どうして睨むことをメンチきると言うようになったんだろう。 解ればトリビアになるだろうか。 そういえば今の地界でもトリビアはやってるんだろうか。 むしろ“アモリさん”が生きているかも怪しい。 ちなみにアモリさんとは、笑い者にしていいともの司会者である。 子供嫌いなのはヤモリさんのほうだ。って言っても誰も知らないだろうが。 そもそもどうして俺はこんなことを考えているんだろうなぁ。 解る人が居たら是非教えてほしい。 ともあれ眉間にシワを寄せることを放棄した俺は、 仕方なしに再び人の波を無理矢理掻い潜るようにして突き進むこととなったわけだ。 闘技場っていうのが立派な建物で、 しかも巨大であることからして確かに全員入れそうだが、 それにしたっていくらなんでも人が居すぎだと思うのだ。 などとこの光景を見れば誰だろうが一度は思うであろうことを 頭の中で大絶賛放映中の俺だったんだが、 ようやく人垣を抜けたと思うや目の前には崖しかなかった。 むしろ人垣から抜けた反動もあって、そのまま崖まで一直線!? その時の俺の脳裏によぎったのが歌で、 しかもデザイアだったら誰か納得してくれるのだろうか。 ところでデザイアってのは“願望”って意味じゃなかっただろうか。 真ッ逆さまに落ちて願望ってのは意味が解らないのだが。 ともかくフロートで落下を防いだ俺だったが、 真っ直ぐ行った先には崖と果てない空が広がるだけ。 申し込み所など何処にもなかったのである。 あんにゃろ、騙しやがった。 ゼット「やはり人は人だな。平気で虚言を吐くか」 中井出「まあまあ、全部真実じゃあ面白味がないのも確かだって。     それよかどうしたもんかな。     申し込みがあるってことは、制限時間もあるかもしれない」 みさお「他の方にtellを送ってみてはどうでしょうか」 中井出「あ……」 みさお「あの。まさか完全にtellシステムのことを忘れていた、とか……」 中井出「はっ……、は、ははは……はっはっはっはっは!!」 ゼット「む?……はっはっはっはっはっは!!」 中井出「……ごめん正直忘れてた……」 ゼット「俺は考えもつかなかった」 みさお「さすが原中の提督さんですね……ゼットくんはまあ、アレですから」 ゼット「待てセシル。アレとはなんだ」 原中の提督=馬鹿の提督って考えでも展開されてるのだろうか、あの可愛らしい頭の中で。 もちろんそれはそれでそう思ってくれても構わないのだが、 なんとも悲しい風が俺達を撫でていったのは確かだった。 とりあえずゼットよ、 きっとキミは“友達が居ないから”と遠回しに言われてるんだと思うぞ。 中井出「そんなわけで……あ、麻衣香か?今闘技場前に来てるんだが……ああ、そう。     でさ、申し込みってのは何処に───え?そんなものいらない?     まずこの人数でバトルロイヤルして、残り十名の中から決める?     あ……あ、はは……そ、そう……そうなんだ……」 つまり最初っから騙されていたわけである。 あのツッパリ野郎め……覚えてろくそ。 大会始まったら真っ先に潰してやる。……見つけたらだけど。 中井出「……ふう。この大陸に上がってることが参加条件なんだそうだ」 みさお「そうなんですか?」 tellを切りつつ報告。 さて……開始時刻など解らんが、晦たちはもう来てるんだろうか。 と、視線をぐるぅりと回してみるが───あ、居た。 木の上という特等席で、この場を見下ろしていた。 などと思っていた時だ。 突如として、よく通る声───いや、多分頭の中に直接響いているのだろう。 ともかくどっかで聞いた声に、やっぱりと思う俺が居た。  ヴミンッ……! マクスウェル『ようこそ戦士たち。        わしが空の闘技場を仕切る元素の精霊、マクスウェルじゃ』 虚空に現れる老人の姿。 しかし地上で見たソレとは違い、いかにも精霊らしい姿をしていた。 ここに集まった人々は突然現れたマクスウェルという存在にどよめくばかりだ。 マクスウェル『気軽にマクちゃんと呼んでくれてええぞい?』 実に楽しそうに笑うじーさんだった。 オチャメは標準装備だったのか、おい。 マクスウェル『さて早速じゃがのぅ、本来この大会の賞品は、        稀少石で作る武具を渡すものじゃが───        残念ながら今回の賞品は稀少石ではない』 ざわっ……どよどよ…… 男  「稀少石じゃない……?」 男  「おいおい話が違うぜ……」 男  「それを手に入れれば最強に至れるって伝承を信じてここまで来たってのに……」 戦士たちのどよめきも当然だ。 しかしマクスウェルは俺をチラリと見ると何気に可愛いウィンクをし、 髭を撫でて笑った。 マクスウェル『静まれ。そこで今回は別の賞品を用意した。テオウェポンには劣るが、        世界でたったひとつ。わしが精製した“元素の宝玉”を授けよう』 ざわわっ……! 男  「宝玉って……あれだよな?」 男  「あ、ああ、精霊の加護を強く得られるっていうあの……」 男  「しかも元素の精霊っていったら、地水火風の四大元素を束ねる精霊だ……。     あ、あの宝玉ひとつにきっと、地水火風と元素の力が詰まってる……!」 男  「お、俺やるぜ!」 男  「俺もだ!」 男  「俺も!」 マクスウェルじーさん、ここにきて活気付く戦士たちを横目にまたウィンクしてみせた。 ……だから。どうしてじーさんなのにそんなにウィンクが様になってるんだあんたは。 マクスウェル『ホッホッホ……ではまず予選から始めるとするかのぅ。        ルールはなんでもあり。ただ生き残って立っておればよい。        もちろん命の保証はされるから、好きなだけ暴れるとよいぞ。        最後まで立っていた10名を勝者とし、        残りには観客になるか帰るかのどちらかにしてもらうぞい』 男     「予選って……ここで?」 マクスウェル『そうじゃな。        立っていた10名だけが正面入り口から闘技場に入ることを許可する。        では崖に落としてでも生き残るのじゃぞ。        崖にはリングアウトの光が設けられておる。        潜ってしまうと全ての能力が殺され、浮遊出来ようが落ちるのみじゃ。        気を付けて戦うように。では───始めぇい!!』 ドッコォオオオンッ!!! 始まりの合図が、ドラなどではなく大気震動によって知らされた。 それと同時に急に暴れ出す者、勢い余って自ら崖を落ちてゆく者などが相次ぐ。 俺はといえば───その暴れ出す皆様の勢いに呆気にとられた子供のような、 気の抜けた喧噪の中に居た。 泣けばパパンが来てくれるでしょうか、縁日とか迷子の時みたいに。 それ以前に他の誰かが来てくれるのが迷子の宿命というやつで、 こういう場合は大体、親が来るのは報せを受けてからと相場が決まっているのだ。 そして親の居ない俺の場合、来てくれたのが筋肉ゴリモリ、 頭の中までパワーでいっぱいそうないかつい顔のおっさんだったわけだが。 マッチョ「ふぅうんぬはぁあーーーーっ!!さっきガンくれたガキじゃねぇか!!      俺の厚くて熱い筋肉でハグハグしちゃるーーーーっ!!」 腕を大きく振るってカッポンカッポン鳴らしながら駆けてくるふんどし一丁のダンディ。 俺は当然ダニエルを思い出し、おぎゃあああと白面の者の泣き声を絶叫しつつ、 向かってきたマッチョにドラゴンフィッシュブローを見舞って吹き飛ばしたのだった。 みさお「綺麗に決まりましたね……」 ゼット「殴った箇所が爆発したな。あれはなんだ?」 中井出「ハフゥハフゥ……!あ、ああ、あれね……このマイトグローブのお蔭……」 爆発の力が込められたこのグローブは相手を殴ることで、 さらにボマースキルが発動するステキグローブだ。 なんとなく貰ったものだというのに、今の俺は結構お気に入りだったりする。 みさお「中井出さんっていろいろと特種スキルに気を使ってるんですね」 中井出「いやぁ、やっぱりただ斬ったり殴ったりするだけじゃなくて、     こういう属性付加があると嬉しいじゃないか」 ゲーム好きな猛者ならばきっと同じことを思うだろう。 ただ剣で斬るより、斬った箇所が燃えたり爆発する……ステキだろ? それはそうとお前ら、俺には真っ先に襲い掛かってきたくせに、 やはりゼットには全然向かっていこうとしないのはどういうことだ。 くそぅ、俺も殺気が出せるお目々が欲しい。 声  「“反行儀(アンチマナー)
キックコォーーース”!!」  ドゴシャォオオオンッ!!!! 男ども『ぎゃぁああああーーーーーーっ!!!!』 遠くの方で男どもが吹き飛ぶ。 ああ、ありゃ藍田だな。 位置からして、猛者どもは正門の近くに居るんだな。 とか思ってたら、さらに吹き飛ぶかなりの大勢の男ども。 あれは丘野の“杓死”だな……可哀相に。 大半のやつらが何が起こったかも解らないままオチちまった。 さて、ところで木の上で寝息を立てている晦と彰利とルナさんはどうしてくれようか。 やつら、戦いが終わるまで降りてこないつもりだろう。 うむ、とりあえず僕の胸の奥で燻る巴里という名のハートにシャンドラの火を灯して、 知らず知らずのうちに間引きでもしてあげよう。 まずSTR20程度で剣閃を放ってルナさんがもたれかかる巨大な枝を切断。 そしてその枝からルナさんが落ちないように風を発生させ、 あとはゆっくりと崖から下に落としていき、 リングアウトエリアまで到達したところで───風解除!  バサァッ! ルナ 「あわっ!?あ、あぁーーーーーっ!!!」 ルナさんリタイア。 飛ぼうとしたらしいが、 リングアウトするとマクスウェルの力によって浮遊能力が殺されるらしく、 頭の上にリタイアの赤文字を浮かばせつつ誰にも気づかれないままに落下していった。 そうか、リタイア扱いされるとあんなものが浮かぶのか。なるほど解りやすい。 みさお「母さま……あんなところで寝ているから……」 中井出「戦いってとっても残酷……!」 心内は強敵を間引けて一安心ってところだけどさ。 あとは晦と彰利をどうするか、だけど。 彰利はともかく、晦を落としたりするとゼットが怒りそうだしな。 俺としては原ソウル全開で落としてやりたいんだが。 と、そんな俺の電波を快く受信してくれたのか、駆け出す男がひとり。 豆村 「死ねぇ!!」 ゾフィンと大木を軽く斬り裂くそいつは、聖剣ナマクラーの持ち主、豆村みずきだった。 やがてゾリゾリと傾いてゆく大木と、 豆村 「ハッ……!?し、しまっ───」 斬りつける角度を間違えて、倒れてきた大木にプチリと潰された豆目豆科のナマモノ。 あっさりと頭の上にリタイアの赤文字が浮かび上がり、失格とされた。 気絶も失格対象条件となるらしい。 あっさりと豆の姿は消え、何処かへ転移されてしまった。 で、晦と彰利だが……木から放り出されてもまだ寝てやがった。 あれなら落ちても大丈夫だったんじゃなかろうか。 ……な〜んて思っていた時である。 中井出「お?お───おぉおおおおっ!!?」 突如空が輝いたと思ったら、巨大な隕石が次々と!! ってこれ麻衣香のメテオスウォームか!? 男ども『な、ななななんだこりゃぁあああああっ!!!ぎゃあああああああっ!!!!』 地獄絵図がここに完成。 空から舞い降りる無数の隕石と、それを必死で躱す男や躱し切れずに潰れる男や、 自ら崖に落下して逃げる男や……フリーザさまの真似をして受け止め、 だけど一瞬も持ちこたえられずに潰れる男……いろいろだ。 次いで放たれるシューティングスターに崖まで吹き飛ばされてそのまま落ちる者や、 誰かを盾にして耐えていたが、 盾が気絶してリタイア転移された途端にボコボコになってリタイアする者…… ほんといろいろだ。 だがこの博光は耐えた! ステータスの全てを魔法防御に回し、耐えたのだ! いかに妻といえど原中の前では誰もが平等! 男女差別など一切無し!! そして─── 麻衣香「ビッグバン!!」 この一瞬こそが貴様の弱点!! 中井出「AGIマックス!!ダンターク流究極奥義ぶちかまし!!ドッグォオオオオオンッ!!!! 麻衣香「ふぎゃうぇっ!?」 1300ものレベルから繰り出されるAGIマックス速度からのぶちかまし! その速さは弾丸よりも速いスーパーマンを凌駕する! ……結果的には麻衣香はまるで、 ファイティングバイパーズで吹き飛ばされて 壁を破壊して飛んでいくキャラのように宙を飛び、 やがて正門に激突すると頭の上にリタイアの文字を出し転移させられた。 おお、ドゴォンと物凄い音が鳴った。 だがさっきから俺の耳の後ろでも妙な音が 中井出「おぉおおおぉぉぉォォォぉおおオォおおっ!!!?」 サブタイ:振り向けばそこにレヴォリューションズ 振り向いた俺はそれはもう絶叫した。 何故って、術者がリタイアしても発動しちまったもんは最後まで発動するってもんで、 丁度麻衣香が立っていたこの場には超破壊魔法のビッグバンが───!! 中井出「キ、キン肉族流代々秘奥義───肉のカーテン!!」 魔法防御に全てを託し、今日もゆくゆく男道!! 大丈夫!僕なら出来チュボゴバァアアンッ!!! 中井出「ほぎゃああああああーーーーーーーーっ!!!!」 総員 『ぎょえぇえええーーーーーーーっ!!!!』 ……ごめんなさいだめでした。 麻衣香が放ったビッグバンはその場に残っていた全員のHPを悉く1にし、 例外など残さず吹き飛ばして、立ち位置が悪かったものを悉くリングアウトとした。 俺は振り向いて確認出来る側に居たお蔭で、 吹き飛ぶにしても正門側だったから落ちることはなかったが─── ゼットとみさおちゃんは───……っと、大丈夫だ。 ゼットが竜人化して空飛んで耐えてた。 ……そっか、効果範囲は全体じゃないんだから、 うんと空高くに逃げれば喰らわなくて済むって寸法か。 くそう、それだけのことを瞬時に思いつくってのが歴戦の差ってやつか……。 晦と彰利は……木に引っかかってたお蔭で助かったらしい。 真面目にやる気はゼロなんだろうな。実に原中らしい。 ふざける時は全力なのになぁ。 けど今ので選手(?)が随分減ったのは確かだ。 あとは───俺、ゼット、みさおちゃん、彰利、晦、オリバ───オリバ!? うわぁオリバだよ……両腕から顔覗かせたあとに、 “銃が小さすぎるぜ……なぁジェフ”とか言ってる……。 ビッグバンを銃扱いにするなよな……しっかりHP1なんだからさ。 しかもオリバ究極ポージングでこれ見よがしの逆三角形を披露してるし。 あれって実際、モデルになったセルジオ・オリバーがやってたらしい。 見事なマッスルだ……じゃなくて。 残ったのは俺、ゼット、みさおちゃん、彰利、晦、 オリバ、丘野、ナギー、シード、篠瀬さんの……丁度10人だった。 ひでぇ……はるばるここまで昇ってきた戦士たちが誰ひとりとして残ってねぇ。 マクスウェル『そこまで』 その言葉に、残った全員がハッとする。 いや、晦と彰利は明らかに何が起こったのか解らないって顔だったが。 いくらなんでも寝すぎだ。 マクスウェル『ふむ……ドリアード、魔王の子よ』 ナギー   『む。なんじゃ?じいや』 シード   『なんの用だ』 マクスウェル『おぬしら退場。これは人の戦いじゃからの』 ナギー   『な、なんじゃとーーーっ!?ならばじいや!何故最初に言わなんだか!』 マクスウェル『ほほっ、おじいちゃんちょいとド忘れしてもうたよ。歳かのぅ』 ナギー   『うぎぎぎぎ……!!いくら育ての親でも横暴なのじゃーーーっ!!        ならばあと二人はどうするというか!』 マクスウェル『リタイア組で試合を組み、敗者復活戦などどうじゃな?』 ナギー   『……おぬし、最初からそれが目的だったんじゃろ……』 マクスウェル『ほっほっほ、さてのぅ。では魔王の子よ、おぬしもそれでいいな?』 シード   『………』 シードがチラリと疑問の目で俺を見る。 自分がダメなら何故父上は、って顔だ。 むう……そろそろ潮時か?さすがにいつまでも騙せるもんじゃ─── シード『……そうか!父上は僕などと違い、きっと特別な魔王なのですね!?     そうか……すごい!さすが父上だ!!』 中井出「アイヤー……」 なんと言いましょうか……彼の中で勝手な解釈が生まれてしまったらしい。 どうしよう……どんどん言いづらくなってくる。 だってキラキラとした尊敬の眼差しで俺の方見てくるんだもん。 こりゃ言えないよ。 こうして人はどつぼに嵌まっていくのですね、神様。 俺の明日はどっちかなぁ……はは、なんでか視界が滲んでて解んないや。 Next Menu back