───冒険の書111/元素大会本選編───
【ケース319:中井出博光(再)/勇気をお出し】 元素大陸の闘技場はとんでもなく巨大なものだった。 案内されるままに足を踏み入れたはいいが、実に壮観なり。 巨人の里の闘技場よりはやっぱり狭いけど、それでも十分に広いと感じる。 そもそも巨人の里の闘技場が広すぎたんだ。 そりゃ、あのガタイを考えたら当然なんだけどさ。 さて……一人の戦士として足を踏み入れた俺だけど、今はただの観客である。 何故って今まさに敗者復活戦が繰り広げられているからである。 しかし“己自身”が戦うことが唯一のルールであるこの闘技場では、 やはりというか木村夏子は圧倒的不利であった。 マクスウェル『勝者、清水国明』 清水    「許されよ」 夏子    「うぅう……最初からアルテマメガンテ使ってれば……」 レベルの高さを生かして、 呪い武器を融合させた武器で戦っていた木村夏子だったが、一瞬の隙を突かれて場外。 悔しそうに地面を叩いていた。 マクスウェル『次の者、出られよ』 田辺    「よっしゃ次は俺だ!」 岡田    「なんの!アチキの番どすこい!」 下田    「いやいや順番は守ってもらわんと!」 マクスウェル『……面倒じゃな。敗者は全員武舞台に立ち、        最後の二人になるまで戦うのじゃ』 総員    『おっしゃあ話が早いぜぇえ〜〜〜〜っ!!!』 その言葉を聞くや、落ち込んでいた木村夏子二等も復活。 武舞台に登り、いきなりアルテマメガンテを放ち、しかしその衝撃で結局場外へ落下。 かなりの数の猛者やプレイヤー、人々を巻き込みリタイアした。 その中には息巻いていた田辺や岡田の姿もあり、 本選に出場できなかったことを心から悲しんでいた。 何故そんなことが解るかって? だってあいつら、クロマティ高校の前田くんみたいに頭抱えてるし。 さて、こうなると一番厄介なのがルナさんか。 早速発動したカルミネルゼファー、だったっけ?が、彼女を強化して、 とんでもない強者となって立ち塞がる者全てを吹き飛ばしている!! ルナ 『はっ!はっ!はっ!はぁっ!!』 ゾフィンゾフィンと放たれる鎌閃が一発ごとに人垣を消していく。 その威力は相当だ。 だが───彼女は大切なことを忘れている。  ガシガシガシィッ!! ルナ 『あっ!こらっ!わたしに触っていいのは悠介だけ───』 佐東 「フフフ……どうせ敵わぬなら……!」 藤堂 「貴様を道連れにしてくれる……!」 七尾 「我ら生まれた日は違えど……!」 綴理 「死ぬ時は同じ日同じ場所で……!」 ジリ……ジリジリ……!! 残った猛者どもがルナさんを捕らえ、ジリジリと場外へといざなってゆく! ルナ 『やっ!?ちょ、ちょっと離しなさいよぅー!!』 しかしそこはルナさん! 月の加護を受け、物凄い力で猛者どもの進路方向とは逆へ逆へと必死に抗う! 佐東 「ぐおお物凄ぇ力だ……!」 藤堂 「馬鹿な……!俺達のSTRマックスが通用しないだと……!?」 七尾 「このままじゃ……!」 ガシィッ!がしがしがしぃ!! ルナ 『うわわっ!?』 閏璃 「フフフ……この無茶、俺も噛ませてもらうぜ……!」 柿崎 「フフ……俺もだ……」 鷹志 「フ……もちろん俺もだ……」 来流美「どうせわたしたちではモミアゲさんたちには勝てはしない……」 遥一郎「だからどうせなら、その中の一人だけでも道連れに……!」 ノア 「マスター……このノア、何処までもお供します……」 ルナ 『わわわっ!ちょっと!卑怯じゃないのよぅー!!』 佐東 「卑怯!?一向に構わん!!」 藤堂 「我ら原中をただのザコと見た時点で強者の命運は尽きるのだ!!」 七尾 「何故なら我らは強者を道連れに出来るなら、己のライフポイントさえ厭わない!」 綴理 「それが原沢南中学校迷惑部!!」 瀬戸 「フフフ……粉雪!更待先輩!あとは───任せたぁあーーーーーーーっ!!」 ドォッ───!! ルナ 『あっ───あぁあーーーーーーっ!!!!』 ドゴシャアッ!!ズドゴゴゴ!ムギゥウウウ……!! ルナ 『いたたいたいた潰れる潰れるーーーーっ!!!』 ルナさん……あえなくリングアウト。 そう、原中にはこれがある。 自分が不利と感じたなら、相手を道連れにしてでも地獄に落とす。 それが僕らの原ソウル。 しかもここ、場外と武舞台との高さが結構あるから落下しただけでも痛い。 さらに潰されればそりゃ痛みも倍増するってもんだ。 と、そんなわけで─── 男  「へっへっへ、なんでぃ、残ったのは女くらいか」 男  「あんちゃん、ここは己自身が戦うことが唯一のルールなんだ。     だったら試合中にどんなことが起きようが免除されるってことだよな?     それなら俺、ドゥェッシャッシャッシャ……!《ドパァン!》うげぇ!!」 男  「おおっ!?《バゴシャアン!!》ぶげぇえっ!!」 残っていた男ふたりと日余と更待先輩戦……あっという間に終了。 よからぬことを考えてた男は更待先輩の弓に射抜かれ、 もう一方は日余の拳で観客席まで吹っ飛ばされて気絶。 おお哀れ。 傍から見る邪な野郎ってすげぇ醜くて情けねぇなぁ。 マクスウェル『……うむ。では本選出場はこの十名とする』 と、試合が終わった、と思った途端に俺は今の今まで見ていた武舞台に立っていた。 すげぇ、転移魔法─── 彰利 「キャーーーーッ!!?」 総員 『おわぁあーーーーっ!!!!』 ……転移させられた。 しかも強制だ。 故に便所にでも行っていたらしい彰利が、ケツ丸出しの状態で現れた。 彰利 「きゃああああーーーーーーっ!!!キャアアアーーーーーーッ!!!!!」 総員 『キャーーーーッ!?キャーーーーーッ!!!』 彰利 「きゃあああーーーーーっ!!!キャーーーーッ!!!」 総員 『キャーーッ!!きゃあああーーーーっ!!!!』 彰利 「きゃああああああーーーーーーっ!!!!」 こいつはどうしてこうもタイミングが悪いんだろうなぁ。 慌ててズボン履いて、顔を真っ赤にしながら逃げ出した彰利は、 しかし話が終わっていないという理由で再びマクスウェルに転移させられ、 それを数回繰り返したのちに緑色の顔で汗をだらだら流しながら腹を押さえていた。 時折“出る……出ちゃう……僕のベイビーが括約筋からデビューしちゃう……”と、 かなり危険なことを囁いていたが……見ているこっちも気が気じゃなかった。 だってここでデビューされてみろ、とんでもないことに───ピリッ。 総員 『───《ハッ……!》』 彰利 「……!…………!!《カタタタタタタタブルブルブルブル……!!》」 妙な、小さな炸裂音を聞き、俺達はハッとした。 そして一斉に彼を見ると……涙と汗を流しながら、緑色の顔でブルブルと顔を振っていた。 あれはデビューしてない、という意思表示じゃない。 もう、我慢できませんという意思表示だ。 そう……彼は黒だが、それは黒を解放すればのこと。 今現在は解放しているわけではなく、 しかも普通のプレイヤーとしてこの世界に降り立った彼は、 そりゃあ食事も沢山とるし排泄もするわけで───ブリピィ!ニリチチチ!モリブリ!! 彰利 「キャアアアーーーーーーッ!!!!」 男衆 『おわぁあーーーーーーーっ!!!』 彰利 「キャーーー!!キャアアアーーーーーーッ!!!!」 女衆 『きゃああーーーーーっ!!!』 彰利 「きゃあああああ!!キャアーーーーーッ!!!」 総員 『キャアアーーーーーーーッ!!!!』 ……その日。 彼は100年に一度開かれる伝説の大会の中でもらした男として、 戦士の間で“百年ビッグマスター”としてその存在を囁かれたのであった。 ───……。 ……。 彰利 「うぐっ……ひっく……うぇええ……」 で、ここに晦に創造してもらった装備に身を包んで体育座りでマジ泣きする男がひとり。 みさお「彰衛門さん……あなたも大概懲りませんね……」 彰利 「うぇうっ……うぐぅう……ぼ、ぼくね?     ちゃんとおトイレ行きたいって言ったの……。     でもおじいちゃんがぼくを走らせるだけ走らせたら転移させてね……?     何度も走ってたら腸が妙に刺激されちゃってね……?それでね……それで……     う、うぐっ……うぇえええええ…………」 正直辛すぎるよなぁ……あの大観衆の中でビッグだもんなぁ……。 むしろ予選落ちしたやつらが“あんなヤツに負けたのか……”ってショック受けてるよ。 悠介 「よっ、ミスタービッグ」 彰利 「まったくグレイトだぜぇってブッ殺すぞてめぇ!!」 悠介 「まあま、腐るな腐るな。     オーダー解放してでも黒にくるまって遣り過ごせばよかっただろ?」 彰利 「けどよぅ……この世界って便意なんて無いもんじゃなかったの?」 悠介 「さっき報せが来て、バグが見つかったそうだ。その影響だろ」 彰利 「システム管理の一端担ってるイセリッ子あたりを血祭りに上げたい気分デスネ」 悠介 「そうか?俺はむしろ管理してる最中に遊びに来たっていうベリーが怪しいが」 彰利 「ヤムヤム!?そぉおおお〜〜かアイツが犯人か!!     大衆の面前で恥かかせやがって畜生がぁああ……!!」 彰利の顔が血管ムキムキになってゆく。 しかしだ。 中井出「でも彰利だもんなぁ」 彰利 「ええっ!?なにその納得の仕方!!」 悠介 「お前に今さら恥がどうのって言ってもしゃあないだろ。     結婚式でも全裸披露して盛大に恥かいてたし、     過去ではみさおの前でビッグデビューするわなにわで……な?」 彰利 「“な”じゃねぇだろコノヤロウ……!!     それでも恥が恥なのは変わりねぇだろうが……!!」 夜華 「彰衛門貴様……!妻であるわたしに恥をかかせて……どういうつもりだ!!」 彰利 「あの夜華さん!?俺が悪いのと違うよ!?     今まで散々自業自得があったりしたけど今回違うよ!?     ……って夜華さん?なんで顔赤いの?」 中井出「ははあ、こりゃあれだな。     自分で“妻であるわたし”って言ってみたくて絡んできたとみた」 夜華 「なっ……なななにを言う!!わたしはそんなっ……!!」 オリバ「なにげに弦月の妻になったことを一番喜んでるのって篠瀬さんっぽいよな」 総員 『怖ッッ!!!』 オリバ「え?なにが?」 彰利 「バカヤロー!!オリバ状態で普通に話すなよ!」 悠介 「何事かって本気で身構えたぞ!?」 オリバ「だ……だってよぅ。この姿で本選出場果たしたら、     マクスウェルが姿を変えることは許さんって……」 総員 『………』 原中は決まって運が無いと思うのは俺の気の所為なのだろうか……。 まあ、視界の隅では話題が逸れてくれたことを安堵して息を吐いている 篠瀬さんとかも居るわけだが、それにも増してヒドイ目に合いやすいというか。 ……そりゃ、自ら台風に飛び込むような性格な我らだから仕方ないのだが。 マクスウェル『さて。そろそろ本選を開始するが……よいかの?』 ゼット   「いつでもいい」 中井出   「俺もOK」 悠介    「ああ、こっちもOKだ」 彰利    「コココ……!恥の分貴様には地獄を見せてくれるわ……!」 マクスウェル『わしは参加せんぞ?』 彰利    「なんで!?」 マクスウェル『対戦カードはランダムで決めさせてもらったからのぅ。        どうなるかは運任せじゃ。ではまず、第一回戦を始める。        簾翁みさお、日余粉雪、前へ』 粉雪    「え゙っ……」 みさお   「はい」 彰利    「で、やっぱ無視なわけね……」 ずしゃりと前に出たのは我らが誇る原中が猛者、日余と─── 月の家系の元名を担いし刀の巫女、みさおちゃん。 あーあ、日余のやついきなりキッツイのに当たったな……。 果たしてどうなることやら。 そう思ってる俺はふたりが武舞台に上がっていくのを見送った。 彰利 「えー、一口200$だよー。はーい張った張った〜」 悠介 「いきなりトトカルチョに走るなたわけ!!!」 彰利 「たわっ……!」 岡田 「俺はみさおちゃんに賭けるぜ!」 飯田 「じゃあ俺はみさおちゃんだ!」 下田 「なにぃ!?だったら俺はみさおちゃんだ!」 田辺 「ちぃ!みさおちゃんばっかじゃねぇか!じゃあ俺はみさおちゃんだ!!」 粉雪 「少しはわたしにも賭けてよぅ!!」 全員 『断る!!負けて我らの糧となれ!!』 粉雪 「あ……あのねぇええ……!!」 所詮原中だった。 マクスウェル『ではこれより本選第一試合を開始する。始め!!』 ドッコォオオンッ!! 再び鳴らされる、大気の震動。 体の芯まで響き渡る震動は、 ゴングなんかよりよっぽど“今から戦う”って気持ちを奮い立たせた。 みさお「最初から全力でいきます!“神魔月昂刃”!!」 みさおちゃんの新たな鎌の力が解放される。 刀の形をした鎌は、以前の月光刃よりもさらに眩く輝き、 しかしどこか安らぎを覚える昂き存在としてそこに存在していた。 だがすぐに解放することを詠んでいたのか、日余は一気に間合いを詰めて拳を振るう! 粉雪 「はぁあああっ!!」 みさお『詠んでいます!』 しかし月視力、だっけか?それで先を読んでいたらしいみさおちゃんは刀を構え、 日余の拳へと刃を合わせるように───ドシュンッ!! みさお『───!消え───!?』 粉雪 「残念だけど───詠み合いだったら負けないよ!!」 界王拳とAGIマックスでの移動だ。 虚を突かれたみさおちゃんは明らかな隙を晒してしまい、その背を思い切り───! 粉雪 「ストック解放!“錬破気孔拳”!!」 ドゴォッ!!……ホォオオオ……ン……!! みさお『あっ……が……!』 錬気とためるを解放した拳で殴った!! それも、きっちりインパクトの瞬間にSTRをマックスにしたのか、 みさおちゃんは物凄い勢いで場外へと吹き飛んでゆく! これはもしかして───!? みさお『〜〜〜っ……月然力!!』 コォッ───ボォッファァアン!!! 中井出「あ……」 否だった。 みさおちゃんは風を巻き起こし、吹き飛ぶ体をなんとか停止させバガァッ!! みさお『えはっ!?』 粉雪 「汝、敵を一撃では仕留められると思うことなかれ……ってね!!」 いや、それも日余は詠んでいた! 再び解除したストックから放たれる錬気とためるがみさおちゃんの体を風ごと吹き飛ばし、 今度こそ場外へ───ビジュンッ!! 中井出「っ───!」 そうか、転移!月の家系の上層部どもにはこのトンデモ能力が備わってやがるんだった! 日余に背後に転移したみさおちゃんは、 殺さなかった吹き飛びの勢いをそのままに日余に切りかかる! さすがに殴りの動作からも戻れてない日余はこれを躱すなんてことは出来ない! みさおちゃんもそれを確信してるのか、刀に全力を込めるようにして振り被った! 一方の日余は───え?口元が笑ってる!? 粉雪 「言ったよねみさおちゃん!詠み合い合戦では負けはしないって!」 みさお『───!!』 粉雪 「“時眼視・冥(じがんし・めい)
”!!」 ドクン、と日余の目が躍動する。 それとともに、まるでみさおちゃんの太刀筋を完全に詠んだかのように攻撃を避け、 回転させる体をそのままに無防備なみさおちゃんの背に拳を落とす!  ドッ───ゴォンッ!! みさお『いっ───〜〜〜っ……!!』 殴られ、地面に叩きつけられたみさおちゃんは肺を強打したらしい。 咽るようにもがきだがそこへダメ押しの日余の一撃が───ドゴォン!! 粉雪 「───!?」 ……武舞台を砕き……え……? みさお『わたしからも忠告です。     戦っている相手が、見えている相手が、必ずしも本物だとは限りませんよ』 粉雪 「───!月奏力!?《ズバァンッ!!》あっ……つっ……!!」 みさお『……終わりです』 みさおちゃんが刀を納める。 一方の日余は体を大きく斬られ、血を流しながらよろめき─── 粉雪 「───詠み通り」 みさお「───え?」 勝利を確信し、鎌の解放を解いたみさおちゃんの体を掴み、なんと場外へ飛び降りた!! みさお「なっ───ななななぁああーーーーーーっ!!?」 粉雪 「ふはははは!!我ら原中にタダの敗北など有りえない!!     最後まで諦めずに居た者こそ勝利する!     そして戦いが終了しても気を抜かないのが真の武士!!     それを怠り、忘れてしまっていたみさおちゃん!あなたの敗北は既に詠んでいた!     トルネードフィッシャーマンズスープレェックスゥッ!!!ドゴォオオオオンッ!!! みさお「みぎゃあっ!!」 回転するみさおちゃんと日余が場外の地面に突き刺さる。 判定は─── マクスウェル『……この戦いは武舞台で立っていた者が勝利者じゃ。        よってこの試合、両者敗北とす』 総員    『おぉおおおーーーーーーーーっ!!!』 みさお   「あ……あああ……こんな筈では……」 粉雪    「ククク……これが悪魔の底力よ……!」 なにやらバッファローマンみたいなことを言ってる。 なんにせよナイス原中魂だったぞ、日余よ。 悠介 「みさおぉ……お前なぁ」 みさお「も、申し訳ございません父さま!父さまの教えに背くような行為を───!!     戦いとはいつ如何なる時も始まっているものだと教えられたのに……!     わたしはあまりの手応えに、勝利を確信して……!」 ゼット「いいや、よく戦った。文句はないだろう、晦悠介」 悠介 「文句はないけどな。でもひとつだけ。     最初から全力で行くって言ったからには、最後まで全力であるべきだろ」 みさお「はい……」 ゼット「晦悠介」 悠介 「親としての悔しさだよ。     あれをもっと叩き込んでおけばよかったとか、そういうの。老婆心ってのか?     男でも老婆心って言っていいかは知らないけどさ。悔いが残る」 ゼット「む……」 気持ちが解るのか、ゼットも口をつぐんだ。 みさおちゃんは……やっぱり悔しそうだ。 でもそんな敗者をとっとと無視し、先に進むマクスウェルがここに。 マクスウェル『では次。丘野眞人、ビスケット=オリバ、武舞台へ』 丘野    「ゲゲェエエーーーーーーーーッ!!!」 それはそれは悲痛な叫びだったという。 やがてズチャ……ズチャ……と物凄い筋肉を揺らしながら歩くオリバと、 カタカタと震える丘野くんが武舞台へと上がった。 マクスウェル『第二試合───開始!』 ドッコォオオオオンッ!! 大気が響く。 と同時、丘野くんが100体分身をして一気に攻める!! 無月散水を発動させてオリバの切り刻む姿は華麗にして壮絶! 流石のオリバもベゴシャア!! 丘野98「ギャアーーーーーッ!!」 ……いや、考えすぎだったようだ。 オリバを囲み、切り刻みまくってた中の丘野くんのひとりが殴られ、 場外まで吹っ飛んで壁画となった。 次いで足を掴まれた丘野くんが振り回され、周りの丘野くんを薙ぎ払う! 丘野 「ヒィイ!秘奥義の最中にそれを崩すなんてなんてパワフルな!     こうなったら杓死で───」 オリバ「ゴチャゴチャクッチャベッテルオマエサンガホンタイカ」 丘野 「あ《ベゴチャォオオウン!!!》ベッ───」 ゴドガグシャァッ!!!バガッ……ゴコッ……パラパラ…… ああ……丘野くん(本体)が壁画に……。 しかも姿が見えないくらい埋まっちまってる。 悠介 「か……怪力無双……!」 彰利 「これほどのものかっ……!」 中井出「胸が……まるでケツだ……」 春菜 「腕が……頭よりデカい……」 夜華 「大体技が通用するのか……?」 珍しく篠瀬さんが参加してくれた。 こりゃあ雨でも降りそうだ。 彰利 「いやー、でもやっぱパンツ一丁だと安心するね」 悠介 「まったくだ。オリバはアロハシャツかタンクトップかパンツだろ」 夜華 「それは……褒めているのですか?」 彰利 「かの有名なセルジオ・オリバーも、     自分のHPのトップにパンツ一丁で     これ見よがしの逆三角形やってる画像置いてあるんだよ?褒め言葉さ」 夜華 「……ほむぺ?せるじお?解らんが……」 中井出「相変わらず篠瀬さんって英語とかからっきしなんだ」 夜華 「ふん、なにを言う。人は自国の言葉をさえ知っていればそれでいいのだ。     米だのえげれすだのの言葉などわたしが覚える必要が何処にある」 中井出「うおおっ!初めて生で“えげれす”って言葉聞いた!!ほんとに言うんだ!!」 夜華 「貴様……わたしを馬鹿にしているのか?」 中井出「え?いや……素直に喜んでるんだけど……」 彰利 「えげれすって発音がEよね」 悠介 「まったくだ」 などと言ってるうちに勝者宣言されたオリバがズチャリズチャリと降りてきて、 こちらを見ると首を傾げて笑った。 実にバキキャラチックだ。どうしてバキキャラって首傾げながら話すことが多いのだろう。 未だに謎である。 マクスウェル『では次じゃ。ゼット=ミルハザード、篠瀬夜華、前へ』 夜華    「ぬ……」 ゼット   「刀士か。準備運動くらいはさせてくれるとありがたいが」 マクスウェル『第三試合を開始する。───始めぇい!!』 ドッコォオオンッ!!! 震動する大気、そして同時に疾駆するゼットと篠瀬さん。 篠瀬さんは既に鎌の解放をしてあり、風に乗って物凄い速度でゼットへと襲い掛かる! 夜華 『紅葉刀閃流!───!?』 ゼット『遅い!!』 いや、ゼットも既に鎌も神魔竜人も解放していた。 見る人全ての予想を凌駕する速度で間合いを詰めると、 しかしその速度にも無理矢理攻撃を合わせた篠瀬さんの刃を脇腹に受け─── ゼット『ハッハァ!!』  ドゴォンッ!! 夜華 『ぐっ───!?』 それでも無視して前進し、腕で篠瀬さんの体を捉えると、 飛翔の勢いを篠瀬さんに託すようにラリアットの要領で吹き飛ばす!! 夜華 『くあっ───!!くそっ!』 ヂッ……バジュンッ!! ───しかしさすが篠瀬さん。 吹き飛びながらも武舞台に刀を刺すと、その反動を利用して高速移動を実行。 ゼットの後方へと現れると、稀蒼刀マグナスから竜巻を発生させ─── ゼット『“破壊の刃”(ブレイクエッジ)!!』 ギガァッフィゾバシャアッ!!! 夜華 『かっ……!?』 ……その竜巻も、ゼットが振るった虚空断裂……月空力を上乗せした斧の一撃で破壊。 断裂した虚空が篠瀬さんの体を斬りつけ、膝をつかせる。 ゼット『……俺は無闇な殺生をしないと決めてある。     故に女、降伏するかしないか、選ばせてやる』 夜華 『〜〜〜っ……武士道……とは……!死ぬことと───』 ゼット『そうか。存外物解りの悪い女だ』 ガドゴォンッ!! 夜華 『ぐはっ……!?』 ゼット『貴様が見ていた俺はとうに幻覚だ。     集中を乱していなければ風で感知できたろうにな』 突然篠瀬さんの後ろに姿を現したゼットが、 彼女の後頭部を掴んで思い切り武舞台に叩きつけた。 その威力は、割れる岩盤と跳ねる体を見れば一目瞭然だろう。 マクスウェル『……気絶を確認。ゼット=ミルハザードの勝利とする』 ゼット   「………」 神魔竜人を解いたゼットが降りてくる。 そして晦を一瞥すると退屈そうに場外に設置されている選手用の椅子に座り込んだ。 さて、次は───? マクスウェル『……うむ。では中井出博光、更待春菜、前へ』 中井出   「お」 春菜    「はっ……はぁあああ……中井出くんかぁ、よかったぁ……」 中井出   「ぬ!?」 あれ?なんだか物凄く安心されてるんだけど。 もしかしてザコ扱い?雑魚扱いですか? 中井出「フ……フフフ……!」 ならば更待先輩……俺が今までどんな旅をし、 どれだけ武器を強化してきたかを見せてやる! と思いつつ武舞台へ。 向かい合って立つ形になるとマクスウェルがコクリと頷き、やがて─── マクスウェル『第四試合───始めぇい!!』 ドッコォオオオンッ!!! 戦いの震動が大気を震わせる。 俺は即座に徒手空拳のまま構え、マイトグローブを強く握った。 が───更待先輩は鎌の解放もせず、弓を引き絞るのみだ。 中井出「あ、ありゃ?鎌の解放は?」 春菜 「え?だって普通の人相手に鎌を解放するのも───」 中井出「む……そりゃ本気ですかい更待先輩。その状態で戦うと言うのですな?」 春菜 「うん、確かに中井出くんは、     わたしたちよりレベルが100くらい上だったと思ったけど───     それでもそう簡単にはいかないからね」 中井出「ヌ……ヌヌヌ……!!」 これはまいった。 篠瀬さんがよく感じる思いってのはこういうのか? 貴様、わたしを侮辱する気か、とか。 確かに俺ゃ凡人だ。 現実世界に戻っても、映像系の式が使える程度の男だ。 だが、現実世界で戦闘用といった能力が無いからってナメられるのは我慢ならない。 俺はそんな生半可な気持ちで剣士になったわけじゃあ───ない!! 中井出「原中大原則ひとぉーーーつ!     猛者たる者、たとえ相手が女でも殴るべき時は遠慮なく殴るべし!     つーわけで更待先輩!俺はこれから貴様を殴る!絶対殴る!グーで殴る!!     貴様は俺の剣士としての覚悟と誇りを踏みにじったのだ!!」 春菜 「む?ねぇ悠介くん、なんでわたしここまで言われてるのかな……」 悠介 「先輩、悪いことは言わない。全力でいったほうがいい」 春菜 「え?《バゴシャドッゴォオオンッ!!!!》きゃぁああっ!!!?」 戦いの最中だというのに晦の方を向いたあなたへ隙ありの一撃! 容赦なく頬を殴ってやった。 春菜 「〜〜っ……いっ……いたっ……いたいっ……!!     このっ……!中井出くん!?女の子になんてこと───」 中井出「そんな言葉は我らが原中の辞書に必要アラズ!!死ね!!」 春菜 「《ブフォンッ!》ふわっ!?ちょっ……待っ……!!いつっ……!     うくっ……うぅう……!女の子の顔、本気で殴るなんて……!!」 更待先輩が俺の攻撃を避けながら馬鹿げたことを言う。 ゼット「〜〜……おい、女……!」 みさお「だめだよ、ゼットくん」 ゼット「ぬっ……しかしな……!」 選手用観客席のゼットも苛立ちを隠しきれないようだった。 そりゃそうだ、俺だってそうなんだから。 中井出「フンッ!!」 春菜 「《ボゴドッパァアンッ!!》うぐっ───!!あ、……げほっ!ごほっ!!」 避けきれず、腹に爆裂拳をくらった更待先輩が武舞台に蹲る。 しかも、俺を憎々しげに見上げながら。 春菜 「こ、の……!女の子のお腹を……!」 中井出「───……ええいもう我慢ならん!!更待先輩!!」 春菜 「《ビクッ!》う……な、なによ!」 中井出「あんたいったいなんのためにこの舞台に上がったんだ!     なんのために戦いの中に身を置いたんだ!楽しむためか!?     ああそりゃそうだろう!俺だってそうだし、事実楽しんでる!     けどそれ以前に決めなきゃいけない覚悟ってのがあるだろうが!!     相手が男で、殴られたからってやれ女の子の顔、女の子のお腹と……!!     あんたなにか!?戦いの中で男女差別を公表したいのか!?     それとも戦いたくないのか!?だったら覚悟決めて戦ってるヤツの邪魔なだけだ!     今すぐこの神聖な戦いの場から降りろ!!」 春菜 「なっ……!でも、だって……!ゆ、悠介くん……!」 悠介 「……言ったろ、全力でいったほうがいいって。     全力も出さないで、やられたら女であることを盾にするなんて、     中井出の言った通り剣士として武器を取った覚悟を馬鹿にしてるだけだ」 春菜 「う……アッくん……」 彰利 「俺も賛成。今のは春菜が悪いね。女だからって無傷で勝てるとでも思ったかね?」 春菜 「そんなっ……そんなことは……」 彰利 「だったら前をお向き。そこに立ってるのがキミの敵だ。     敵を前に全力出さないでどうするね。     やられてから文句言ったってどうにもならないんだよ?」 春菜 「………」 スッ、と更待先輩が立ち上がる。 そして───ブワァッ、と黒衣を身に纏うと、その手にはもう閃光弓が。 春菜 『覚悟、決めたから。すぐ負けても知らないよ』 中井出「こっちだっていつでも死ぬ気で戦ってきたんだ。覚悟なんて元から出来てる」 悠介 「先輩〜、相手のこと気遣ってる暇ないぞ〜」 春菜 『そ、そんなことないもん!     100やそこらのレベルで追い越されるほど、わたしたちの鎌は───!』 中井出「甘い!この博光がいつまでも500いくつのレベルで留まるとお思いか!     人生いつでも冒険でサバイバル!     貴様の超人強度が400万パワーなら───俺は1329万パワーだ!!」 ざわっ……!! 彰利 「え……え!?マジ!?」 悠介 「マジだぞ?ジュノーン追い払ったのって俺やゼットじゃなくて中井出だし」 彰利 「ホゲェエーーーーーーッ!!?     い、いや、見間違えってこともギャアマジだぁーーーっ!!」 春菜 『……!?』 中井出「そして僕は宣言通りキミを殴る!グーで殴る!!     ジョナサンがDIOが泣くまで殴るのをやめなかったくらいに、     汚らしい阿呆がと言われても殴るのをやめない!!」 春菜 『うっ……だったら近寄らせなければいいだけのこと!     わたしの閃光弓は一撃が七撃になる!そう簡単に掻い潜れは───』 中井出「……安全装置は外して」 春菜 『えっ!?あっ───』 更待先輩が条件反射みたいにうっかりと弓を見下ろしてしまう。 だがもちろん、光の弓にそんなものはありはしないのだ。 気づいた時にはもう遅い。 中井出「おぉーーれぇーーーのパンチィーはぁー!ダイナマイトォーーーーッ!!」 フオッ!バンガァッ!! 春菜 『ふぎゃうっ!?』 顔面を殴った我が拳を軸に、更待先輩の体が一回転して武舞台に倒れ伏す。 だがリタイアの文字は出ない……まだ意識はある!! では俺の体術系最高の技でトドメを刺してやる! 中井出「まずフロートで重力を殺して跳躍!!」 意識を朦朧とさせている更待先輩の肩を掴んで、大地を蹴って浮遊!! いい高さまで辿り着くと、次はグラビティを解放して落下!! そこからなる我が最大の体術系の技といえばただひとつ!! 中井出「“不死鳥落とし”(フェニックスドライバー)!!」 彰利 「なっ、なにぃーーーっ!?この上まだフェニックスドライバーを!?     やめてぇーーーっ!二世が壊れちゃうーーーーっ!!」 中井出「黙れぇい!ここは戦場!手を抜いて己が敗北することなどあってはならぬ!!     一撃で相手を仕留められるなどと思っちゃいけないのだ!     だから徹底した戦いが《ガゴコォンッ!!》ルヴォアァアーーーーッ!!!!」 彰利 「あ」 悠介 「うぅわっ……今思いっきり頭から落ちたぞ……?」 中井出「……、……っ……!!〜〜っ……!!!」 言葉にならない激痛が俺の頭を襲う。 グラビティの効果は予想以上に凄まじく、 俺は首でも折れたんじゃなかろうかってくらいの衝撃を頭と首に受け、のた打ち回った。 あ……やべ……意識が遠退く……。 い、いやしかし……涙で滲む景色の中では、 同じく頭から落下した更待先輩にはリタイアの文字が浮かんでいる……! あとは俺が立ち上がれば……俺はまだ挑戦していられるのだ!! 中井出「カァアーーーーーッ!!!《ザグシャア!》ギョェエエーーーーーッ!!!!!」 右手から少しだけ覗かせたジークムントで足を刺す! が、やはり痛い上にしっかりと爆発まで起こす始末! 意識はハッキリ戻ったけど物凄い大激痛!! だが立ったね!この博光は!! 中井出   「い、いぎぎがぎ……!!」 マクスウェル『……うむ。この勝負、中井出博光の勝利とする』 中井出   「よっ……よっしゃああーーーーっ!!!」 と叫んでみたものの、物凄い脳震盪が俺を襲う。 うおお、世界が回る。星が見えるスター。 悠介 「お、おいおい……大丈夫か?」 彰利 「キミさ、フェニックスドライバーってコーナーポストが無いと     絶対に自爆技になるんだから控えたほうがいいんでないかい?」 中井出「フ、フフフ……!     一気に食ったアイスによって齎される頭痛を堪能するのが男のたしなみならば……     自分で仕掛けた技によって齎される頭痛を堪能するのも男のたしなみ……!」 彰利 「バ……馬鹿だ……!拡散メガ粒子級馬鹿がここに居る……!」 中井出「アゥア〜……お、俺のことはいいから、ホレ」 武舞台へとふたりを促す。 どうせ一回戦で残ってるのはこのふたりだけだ。 つまるところ、どう転んでも一回戦最終試合は晦VS彰利ってことになる。 マクルウェル『……うむ。では弦月彰利、晦悠介、前へ』 彰利    「ナンバーワーーーーン!!」 田辺    「散れこのクズ!」 清水    「イノブタヒネブタ!!」 彰利    「《ドゴゴスバキベキ》オアーーーーーーッ!!!」 シュタっと武舞台へ上がり、天高く人差し指を突き出し叫んだ彰利が、 観客席からいろんなゴミなどを投げられまくって叫んでいた。 意味があるわけではないが、 恐らく彰利の雄叫びにより猛者どもが映像を思い出したんだろう。 そういや空界闘技場でもナンバーワーンとか言ってたらゴミぶつけられまくってたっけ。 それを思い出されたんだろう。 彰利 「あの……なんで俺、ナンバーワンって言っただけでここまでボコボコに……」 悠介 「いや、俺に言われてもな」 まったくだった。 マクスウェル『では一回戦最終試合を開始する。始めぇい!!』 ドォッコォオオオンッ!!!! 大気が震動する───それとともに、 最初から全力を解放したふたりが互いに向かって疾駆を開始する───!! 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