───冒険の書113/元素大会決勝編───
【ケース321:中井出博光/男の戦い】 第一回戦が終わった今、俺達は選手控え室も無いこの闘技場で、 ただただ己が出番が訪れるのを待っていた。 そのうちにそれぞれが宝玉にストックを込めたり、 軽いウォーミングアップなどをしたりしていた。 ロビン「じ、自慢の上腕二等筋を見てもらわないと」 悠介 「とっとと観客席のほうに行け馬鹿者!!」 ロビン「バカとはなんだコノヤロウ!!」 その中には何故かロビンに変身した彰利が何食わぬ顔で……いや、 顔っていってもマスクで見えないんだから確認のしようもないんだけどさ。 ともかく、何食わぬ顔で鎮座ましましてた。 鎮座じゃねぇな、思い切り体動かしてるし。 マクスウェル『では、対戦カードを発表する』 と、ロビンと晦の遣り取りを見てる中、 ようやく対戦カードが決まったのかマクスウェルが姿を現した。 その顔には何故か殴痕やらビンタの跡やらがあったが……ハテ。 マクスウェル 『準決勝は……二人組のペアを作り、タッグマッチを行うこととなった』 中井出&オリバ『なにぃいいーーーーーーーっ!!?』 田辺     「なんだそりゃ聞いてねぇぞ!」 清水     「卑怯だぞてめぇ!降りてこいこらモービー!!」 マクスウェル 『誰がモービーじゃ!』 そもそも清水たちのほうが観客席に居るなら、 そっちのほうが高い位置に居るっていうのに降りてこいもないもんだ。 マクスウェル『おじいちゃん、納得がいかないって豪語する娘に奇襲を受けてねぇ……。        もう殴るわはたくわ……入れ歯が取れちゃいそうじゃわい』 総員    『………』 皆様がチラリと一斉にナギーを見る。 対してナギーは“な、なんなのじゃ!?わしは知らんのじゃー!”と大ボラを吹いていた。 マクスウェル『そんな意見もあって、どうせ四人残っているのならとタッグにしてみた』 中井出   「ちょっと待った!じゃあ賞品はどうなるんだ!?」 マクスウェル『勝ち残ったタッグに血で血を洗うバトルをしてもらう』 総員    『うわぁ……』 なんだかとってもバイオレンス。 大丈夫なのか、俺達の安全性。 マクスウェル『さて、肝心のタッグカードじゃが───』 総員    『じゃが……?』 マクスウェル『晦悠介と藍田亮。        ゼット=ミルハザードと中井出博光のタッグとなったわい』 悠介    「なっ……オ、オリバと一緒か……。助かったのか助かってないのか……」 藍田    「俺はハーン!よろしく頼むぜ!」 悠介    「いや……彰利みたいなこと言われてもな。        ていうかオリバじゃなくていいのか?」 藍田    「マクスウェルのじいさんを拝み倒してなんとかしてもらった……        というよりは、ナギ助が拳やビンタとともに解らせたっつーか」 悠介    「……なるほど。あの痛々しい殴痕、それも原因のひとつだったのか」 ゼット   「タッグか……セシルと冒険をしていた時はそんなもの意識もしなかった。        ということはこれが初めてのタッグということになるのか?        ……まあいい、全力で潰すぞ、中井出博光」 中井出   「お、お───おおっ!」 ゼットが邪悪な笑みを浮かべて晦を睨む。 どうやらなによりもまず晦と戦いたいらしい。 となると俺は藍田との戦い……困ったな。 どっちに転んでもイヤな相手だ。 マクスウェル『それでは準決勝戦───始めぇいっ!!』 ドォッコォオオオンッ!!!! 大気が震動する。 とともに敵味方ともに戦闘体勢を取り、互いの出方を見る。 中井出「ゼット……作戦とか、あるか?」 ゼット「必要ない……!全力で捻り潰すだけだぁあ……!!」 中井出「おおっ!?」 ゼットの顔が、ここにきて怨敵と遭遇した風に変貌する。 明らかな殺気と力が体から暴風のように放たれているような、 触れただけで切り刻まれそうな殺気が溢れ出していた。 目は晦しか見ていない。 こりゃ───割って入ったりでもしたら大変なことに─── 藍田 「疾風の如く!“悪魔風脚・画竜点睛シ(ディアブルジャンブフランバージュ)
ョット”!!」 と思った矢先、藍田が地面を蹴り弾いての特攻!! 身を翻し、背を地面に向けた状態で飛んでくると、 ゼットに九頭竜闘気を込めたオーバーヘッドキックを仕掛ける!! 対するゼットは───げっ!晦の方向見たままてんで動こうとしてねぇ!! 中井出「ゼェエーーーーーット!!!」 呼びかける───だが無反応! ちょっと待て!こんなドガガギガァッパァアアンッ!!! ゼット「ぬっ───!?」 藍田の蹴りがゼットの肩へと落とされる! さらにそれは灼熱の竜撃砲を放ち、武舞台に巨大な穴を空けるほどの破壊力を見せた! ゼットの半身は軽く吹き飛び、そこからは大量の血が───……!! 藍田 「へへっ───どう……うおわっ!?」 たまげた。 半身が消え去ったと思うや、その傷は物凄い速さで回復してゆくのだ。 気づけば神魔竜人と化していたゼットは赤い目をギラつかせ、 地面に着地した藍田を障害物と認識したかのように確認し、 生えたばかりの右腕で藍田の顔面を掴むと武舞台の石床に叩きつける!!  バガァンッ!!ゴシャッ……!! 藍田 「げぁあっ……!!?」 ゼット『邪魔をォオ……するなぁっ!!!!』 ルオッ───ブフォオンッ!!! 藍田 「おっ───あ───うぉあああああっ!!?」 ゼットが藍田を力任せに投げる! その勢いは凄まじく、 片手だっていうのに人ひとりを地面と平行に飛ぶように投げてみせた。 藍田は場外───観客席に至る前になんとか体を振って着地を試みようとしたが、 中井出「そうはさせっかぁああっ!!」 藍田 「っ───提督!?」 それは俺が阻止する! 一気に地面を蹴ることで駆けた俺は、マイトグローブを強く握って振るった。 藍田 「喰らうかっ!」 だが藍田は蹴りを放つ反動で体をさらに振るうと、 俺が突き出した腕を掴んで腕ひしぎへと移行する! それは俺の腕を完全に極めるものであり、虚を疲れた俺の腕はピンと伸びてしまい─── 藍田 「さあギブアップをしろ!じゃなきゃ容赦無く折るぜ!?」 中井出「断る!!」 藍田 「即答かよ!俺はそれを貴様の覚悟と受け取った!いっけぇえええええっ!!!!」 藍田が自らに力を込め、俺の腕を破壊しにくる! だが俺は、そんな藍田に極められている腕……詳しくいえば手を強引に捻り、 手の平が藍田に向くようにした。 藍田 「……?」 そして、困惑する藍田目掛けて───ジークフリードを解放する!!  ゾフィンッ!スボボガォオンッ!!! 藍田 「ぎっ───!?」 手の平から飛び出したジークムントが、 力にステータスを振り分けていたであろう藍田の胸に突き刺さり、爆発を起こす。 その間隙、力が緩むのを感じると極められていた腕を抜き取りジークムントを強く握る。 そして左手にはジークリンデを出現させ、武舞台に倒れた藍田を前に構える。 藍田 「〜〜っ……くそっ……いつからそんな能力を……!」 中井出「地上でいろいろあった頃からだ!」 詰めは確実に!相手は藍田だ、油断などあってはならん! 中井出「では死ね!」 藍田 「ストレートすぎだろおい!」 ジークムントを振り下ろす! だが藍田はすかさず立ち上がるとそれを跳躍で躱し、 灼熱の具足を顔面目掛けて放ってくる! 中井出「甘い!雪月花ってなぁっ!“氷月翔閃”!!」 氷の加護のもと、氷の花を瞬時に虚空に斬り描き、それごと藍田の具足を斬り弾く!! 藍田 「おわっ!?」 中井出「男と男の勝負にも男と女の勝負にも手加減などあってはならん!     そしてお前がどれだけ勝利を渇望しようが───俺はお前以上に勝利が欲しい!」 バランスを崩した藍田を前に、双剣にキャリバーの光を灯らせる。 込める属性は火。 掠るだけでも爆発する極上の火炎を双剣に込め、 止まることなく振るう覚悟で地面を蹴った。 藍田 「そう何度も《バッガァアッ!!》くあっ……!?剣閃……!?     けど連発は二発までの筈───!     二発目を避けた時に一気に《フフォンッ!》───責める!!」 一撃目を篭手で弾き、 二発目をくぐった藍田が一気に間合いを超近接戦闘の間合いまで詰める! だが俺はそれとは逆に後方にステップし、ついでとでもいうように三発目の剣閃を放つ! 藍田 「《ゾガフィンバッガァッ!!》げはっ……!?三……発目……!?     いったい……なにがどうなって……!?」 中井出「手加減はせん!!いくぞ藍田!うぉおおららららららぁあああああっ!!!!」 三発目をもろに喰らった藍田が足を止めた隙を逃さず、 残り九発のキャリバーを何度も何度も放ち重ねる!! 藍田 「あっ、う、うあぁああああっ!!!?」 ゾガガガガガガガフィザシャシャシャァッ!!!ボッガォオオオオンッ!!!! 放ち続ける剣閃が爆発し、その場に煙幕めいた爆煙をつくる。 だがそれでも詰めを誤るのは自分の首を絞めるだけだと解ってる。 俺は12まで放ったキャリバーが爆発する様を確認すると双剣を長剣に変え、 ヴォルカニックレイザーを解放。 爆煙の先の藍田を斬り飛ばし、場外に叩きつけることで息を吐いた。 藍田 「〜〜〜……く……そ……ぉ……」 観客席の椅子を破壊して頭を垂れた藍田はも動かない。 その頭の上にはリタイアの文字が浮かび、とりあえず一勝を齎した。 あとは─── 悠介 『ゼットォオオオオオッ!!!!』 ゼット『ツゴモリィイイイイッ!!!!』 ドガバギガギャザギャゴギガギゴパァンッ!!! あの超獣対戦をどうするかだ。 ゼットは相当この時を待っていたみたいだし、邪魔をすると本気で殺されかねない。 しかしそれ以上に脅威なのはあの剣速だ。 一撃が振るわれたと思えばもう別方向に弧が描かれ、 だというのにそれを弾かれると既に次が放たれてる。 隙というものがまるでないように見えるっていうのに、 二人にとっては相手が剣を振るう瞬間でさえ 隙に見えるのだと思えるくらいに撃を連ねている。 ……レベル云々じゃない、あれはただただ巧いのだ。 振るう得物は斧だというのに剣を振るう速度に勝るとも劣らぬゼットと、 振るう得物は剣だというのに斧の痛恨の一撃に耐え、弾き返す晦。 どちらも見て解るほどの化け物だ。  だがその同じに見えた強さは、やがて傾きを見せる。 いや、本当はもっと早くから傾いていたのかもしれない。 俺が、藍田と戦っているうちにもきっと何百と合を重ねた二人なら。 悠介 『つっ……ぐっ……!!』 晦が押されているのに今さら気づいたのだ。 ゼットの一撃はまるで悪魔的だ。 触れたものを皆破壊するという、まさに破壊者の名に相応しい一撃。 それが連撃で、しかも一撃必殺の意思のもとに繰り出されているのだ。 けどいくら竜人化したからって、 ラインゲートモードの晦をこうも押せるものか?と思案した。 だがきっと、過去の映像の晦を見てきた俺や他のやつらなら、それに気づける筈だった。  そう、“竜人状態のままでの竜の力の解放”。 神魔竜人状態だった頃の晦が全力を出す際に行使していた力だ。 竜にならずとも竜の力を肉体に宿し、全力以上の全力で戦う闘法。 けど消耗が激しく、長い戦いには向かない方法……。 だがそれは現実世界での話だ。 晦と違ってゲームの壁を超越出来ない俺達にとって、 ゲームであるこの世界は補助輪みたいなものだ。 でもそれがあるからこそ出来ることがある。 竜の力を引き出して全力以上の全力で戦おうが、 それは時間が来たら能力が解かれるだけであって、使用する者の体力を削るものじゃない。 本来なら使ったあとは物凄い消耗に立っているのもやっとってくらいになるのだろう。 だがこの世界でなら違う。 精神疲労以外に疲れる要素が無いと言えるほど少ないこの世界では、 どれだけ暴れようが能力を使おうが消耗することなんてないのだ。 だが、言った通り能力には効果時間ってのがある。 ゼットが引き出してる力が魔竜のものなのか黒竜のものなのかは解らないが、 強ければ強いほど効果時間は短い。 つまり、晦の狙いは─── ゼット『《ガクンッ───》ぬぐっ……!?』 ───!効果が切れた! 目で見て解るくらいにゼットの力が激減し、それを受けていた晦の目にも確信の光が灯る! 悠介 『───その隙、もらった!』 剣が翻る。 正確に、寸分の狂いも無くゼットの喉を凝視する晦の紅蓮の眼光が、 これから狙うであろう箇所を指し示す。 ゼット『───!』 ゼットもそれを感じ取ったのだろう。 喉を守るように斧を構え、だがバッシャアッ!! ゼット『ぐがはぁあっ!!』 振るわれた剣は首などではなく、ゼットの脇腹を鱗ごと斬り砕いた。 目と殺気だけでフェイントを作るかよ……どういう戦い方だ!? 彰利 「オラどうした中井出ぇーーーっ!     ボサっとしてねぇでてめぇも闘うんだよォーーーッ!!」 中井出「うるさい静かに見てろ!!」 彰利 「グ……グウムッ」 ヤジを入れてきた彰利はもうすっかり回復してる。 けどそれ故に彰利らしい態度で何故か選手が座る場外席で踏ん反り返ってる。 ていうかいつの間にロビン状態をやめたんだろうか。 ああいやそんなことより戦いに集中だ。 俺が意識を逸らしていたうちにもやはり攻防があったらしく、 晦が武舞台に倒れ伏し、ゼットが立ちながら痛みに息を荒げていた。 脇腹を裂かれたんだ、当然だ。 けどあの状態からどうやって逆転したっていうんだ……? 中井出(───あ……) ゼットの体が光ってる。 となれば、予想できるのはエナジードレイン。 つまりさっきまで行使していた竜の力は黒竜のもので、 今使っている力が魔竜……ということになる。 なるほど……30秒程度だけどレベル4倍の超反則アビリティだ。 しかもTPが無限になるっていう極悪さまで兼ね揃えている。 おそらく、ここで一気に勝負を決めにいくつもりなんだろう。 悠介 『ぐっ……!“バレット───』 ゼット『遅い!!』 うつ伏せ状態で顔だけを起こしてラグナロクを変換させようとした晦だが、 爆発的に疾駆したゼットに顔面を蹴り飛ばされ、 その反動で浮いた体をさらに地面に叩きつけられる。 次いで振り下ろされる巨大な斧が晦の肩目掛けてゾフィィンッ!!! 総員 『───!!』 ざわ、と観客席に居るみんながどよめく。 振るわれた刃が腕を飛ばし、鮮血を虚空に撒いたからだ。 ゼット『ぐっ───ぐぉおおあぁああああっ!!!!』 宙を舞ったのはゼットの腕だった。 未だ強く斧を掴んだままで弧を描いた腕は、 武舞台に生卵の群が落下し潰れたような音とともに血漿を広げる。 ───晦の手には、いつの間に変換されたのか、煌くグラムが握られていた。 屠竜の力を持つその剣は、相手が真に竜に近ければ近いほど威力を増すものだろう。 それゆえにゼットの腕は斬り飛ばされたのだ。 悠介 『げほっ……!くそっ……!     無茶苦茶な攻撃しやがっ《ガゴガァンッ!!》ぐはぁっ!!?』 だが止まらない。 右腕が飛んだのがなんだというのだと言うかのように、 生きている左手を強く握り、武舞台に倒れたままの晦の顔面を殴りつけたのだ。 ……物凄い音が鳴った。 殴られた衝撃と後頭部が石床に叩きつけられた衝撃の所為だろう。 晦の動きは数瞬、画面が点滅するかのようにビクンビクンと痙攣し、 意識が戻った時にはまた叩きつけられるように殴られた。 そうしている間にもゼットの腕は再生し、 自分の鎌と融合状態にある斧がその手に舞い戻る。 ゼット『終わりだ!!!』 手元に戻った斧を、これでもかというくらいに捻り、戻す勢いを助走にして振り下ろす!! 風を斬り、なにか空気のようなものまで斬り裂くような幻さえ見せる気迫と殺気が、 斧とともに晦へと───トンッ。 ゼット『ヌ───!?』 だがその間隙。 脳を揺らされ脳震盪さえ起こしているであろう晦はしかし、 ゼットの腹に人差し指と中指をトンと触れさせると、ただ一言。 悠介 『“蓄積思考総解放─(バレットストレイジフルオープン)──屠竜剣(グラム)”!!』  ゾガガガガガガブシャアッ!!! ゼット『ッ……ル、グ───ガァアアアアアアアッ!!!!!』 朦朧とした意識の中、ストックしておいたのであろう創造のイメージを解放。 虚空に出現させて放って突き刺すのではなく、直接内部に屠竜剣を弾けさせた。 結果はあまりに痛々しい。 ゼットの体の至る所からは屠竜剣の刃が突き出し、 さらにそれが砕け散ると傷口から馬鹿みたいに血が噴出してバゴガォンッ!! 悠介 『げはっ……!?』 ゼット『グゥウォオオオオオオオッ!!!!』 だがそれでも止まらない。 突き出した屠竜剣によって腕の神経を切断されてようが斧が落ちようが、 身の振りだけで拳を振るって晦の顔面を打ち抜き、 トドメとばかりに顔面を振り落とす足で踏み潰すかのように地盤に叩きつけた───!! 悠介 『───、……」 沈む頭部に跳ねる体───やがて、晦の精霊化が消滅する。 勝負は決したか───と思いきや、 ゼットはマクスウェルのジャッジを待つべくもなく追撃を落とし、 血を撒き散らせながら執拗に攻撃を連ねる。 しかも確かに晦には意識があり、ゼットの拳を受け止めて反撃しようとするが─── ここに来て脳震盪のツケが来たのか、立ち上がろうとした体は立たず、 渾身を込めた破壊の斬撃(ブレイクエッジ)にて体を斬り裂かれ、……とうとうリタイアした。 ゼット『がっ……か、はぁっ……はぁあああ……っ……!!!』 中井出「ゼット……」 ゼット『〜〜〜っ……さあ……来い……中井出博光……!!』 中井出「え───?」 ゼット『解らないか……!!今、ここが決勝の場だ……!!     誰がどう思おうが、あのジジイの目はそう言っている……!!     そして残ったのは俺と貴様……!この意味……解らぬわけがないだろう……!』 中井出「───けど」 ゼット『うつけが……!男と男の勝負に泥を塗る気か!?     晦との戦い……五体満足で居られるなどと、ハナから思ってなどいない……!!』 中井出「───……」 ゼットは本気だ。 なにか理由をつけて、決勝を次の舞台にすればいいのに……今ここでの決着を望んでいる。 どうして?なんて訊かない。 解ってるんだ、俺だって。 勝負、勝負だと叫び、プライドだとか自分の在り方を誇示し、 意地と意地のぶつかり合いだけをしたいわけじゃない。 武器を手に取った時点で、 いろいろなものを乗り越えてゆく勇気だって持たなくちゃいけない。 だけど……捨てちゃいけない誇りとプライド、 捨てなきゃいけない誇りやプライドがあることだって知ってる。 でもゼットはなにも捨てちゃいないし、ヤケクソになったわけでもない。 ただどんな状態だろうが、自分が立っている限りは…… 相手が居る限りは引くことをしたくない男なんだ。 ……ああそうだな、男なんてみんなバカヤロウさ。 でも、馬鹿だからこそ、いつか誇れる一時ってのを見つけられる瞬間が訪れるんだと思う。 中井出「───!」 疾駆する。 出血多量で、竜人状態も解けているゼットに向かって。 もはや立っているのがやっとだろうその姿に思い切り剣を振るい─── マクスウェル『……うむ。この勝負、中井出博光の勝利!        そしてこの時点で優勝者を中井出博光とする!!』 やがて俺は、満足そうな顔で倒れたゼットを見下ろしながら……勝者の称号を得ていた。 勝者の実感なんてない。 勝ちを譲ってもらったって考えばかりが頭に渦巻くけど…… きっとそれを言ったらみんな怒るだろう。 どんな経緯があろうが、受け取らなきゃいけないものってのがある。 ゼットは最後まで闘うことをやめなかったし、俺はそんなゼットのプライドを受け止めた。 ……それだけだ。 譲ってもらっただとかまぐれだなんて話は、千切って捨ててしまおう。 俺達は、馬鹿だけど何処までも真っ直ぐな、オトコノコなんだから。 ───……。 ……。 ア〜〜〜ア〜〜〜……アア〜〜〜ア〜〜〜、 アアアアア〜ア〜ア〜〜〜〜〜…… 中井出「……あのさ。卒業証書授与式に流れるような音楽を、     地獄の底から餓鬼が招くような声で歌うの……やめない?」 彰利 「黙れクズが!!」 悠介 「死ね!!」 中井出「なんでいきなりクズ扱いされるかなぁ俺!!」 彰利 「黙れクズが黙れクズが黙れクズが!」 中井出「あの……俺、優勝したんだよね……?」 なんだかとっても泣きたくなった。 皆様から見ればあの戦いは、 俺が弱ったゼットを一方的に斬ってトドメを刺したようにしか見えなかったそうな。 で、この反応。 まあ顔が笑ってるってことは冗談だってことなんだろうが、 それにしても彰利が調子に乗ってクズクズ言いまくってくるのは勘弁してもらいたい。 マクスウェル『うむ。では優勝者中井出博光には、わしの元素の宝玉を授けようかの。        どれ、おぬしの宝玉を出してみい』 中井出   「っと……ほい」 ポムスと言われた通りに差し出す───と、マクスウェルは可笑しそうに笑い、 マクスウェル『本当に老人を疑うことを知らぬ坊じゃのぅ……くっくっく。        さすがわしが見込んだことだけはある。どぅれ……』 と言って俺の宝玉に触れた。 すると───真っ赤だった宝玉が灰色に変わり、かつてない力強い輝きを身に宿した。 これが……元素の宝玉か……。 マクスウェル『世界にたったひとつじゃ。大切にするんじゃぞ』 中井出   「了解!」 マクスウェル『さて……これにて100年に一度の武闘大会を終了するぞい』 彰利    「エエッ!?準優勝賞品とかはないの!?」 マクスウェル『ないぞ』 彰利    「ゲェッ……!元素の精霊はなんてケチでしみったれなんだ!!」 本人を前になんてストレートで失礼なんだろうな、こいつは。 マクスウェル『ふむ……では軽い情報くらいを教えてやるかのぅ。        ぬしら、中々の戦好きのようじゃからの。        さて、セントールが民や兵から見放され、孤立しているのは知っておるか』 彰利    「知らないや《バヂィッ!!》ウベルリ!!」 マクスウェル『それに伴い、巨人族がセントールの王を墓荒らしの怨敵として見て、        潰そうと行動を開始しようとしておる』 彰利    「いばががが……!        そ、それとオイラに電流みたいなの流すのとなんの意味が……!」 マクスウェル『顔つきが気に入らなかっただけじゃ』 彰利    「な、なんてストレートな!!」 悠介    「お前が言うな」 まったくだった。 中井出   「巨人族の墓って……斉王の?」 マクスウェル『そうじゃな。巨人族は怒っておる。        恐らくセントール王国はこれで滅びるじゃろうな』 彰利    「なんとまあ……」 悠介    「斉王をなんとかまた眠りにつかせる方法は無いのか?」 マクスウェル『あるぞい?じゃがそれはセントール王が知っておるくらいじゃろう。        ん?わしか?それがのぅ、どうも思い出せんのじゃよ。        なにか呪文のようなものだった筈なんじゃがなぁ』 彰利    (チッ……このボケジジイが《ズパァンッ!!》オギャアウオ!!」 マクスウェル『なにぞ言うたか?』 彰利    「アータそこまで耳いいんなら物忘れもねぇだろオイ!!        ボケたフリも大概にしろコノヤロー!!おぉイタイ!        なんてビンタ放つんだろうねこのジジイめ!!        この子は悪魔に取り憑かれた!!」 晦とゼット以外のヤツが首を捻っていた。 近くに居る俺にも彰利がなにを言ったのかなんて聞こえなかったくらいだ。 しかし呪文……呪文ね。なんだろうか。 悠介    「じゃあつまり、セントールの王……レックナートだったか?        そいつからその呪文とやらを聞き出せばいいわけか」 マクスウェル『そうじゃな。もしくは巨人族の王であるゼプシオンに聞くか、じゃ。        巨人族伝説の英雄を封印していた古墳なんじゃ、        巨人の長が呪文も知らんようでは話にもならん』 悠介    「なるほど。じゃあ斉王をなんとかするならセントールか」 彰利    「でもさ、斉王をおっぱらっても住む人が居ないんじゃあ……ねぇ?」 ……そうだ。 エーテルアロワノンに住んでいた人々はランダークとともに滅んだんだった。 不死王ジュノーン……柾樹によって皆殺しにされて。 晦に正体聞いた時はたまげたもんだけどな、でも確かに、 それなら死人の森以降にあいつの姿を全然、誰も見なかったってことが納得できた。 悠介 「移り住むやつらなら居るだろ。元セントールの民とか兵が」 彰利 「あ───おおそうか!そういやそうだった!」 中井出「じゃ、決まったな。次の目的地はセントール王国だ」 ゼット「ゼプシオンと直接話し合った方が早いと思うが?」 彰利 「いやぁ……キミが竜人だって気取られたら話どころじゃなくなるって」 ゼット「チッ……融通の利かないヤツだ。いつまでしがらみに囚われているつもりだ」 悠介 「目が狂気に染まるほど人との戦いを心待ちにしてたお前が言うなよ」 ゼット「黙れ、負け惜しみか?」 悠介 「そういうわけじゃないけどな」 行き先は決定した。 が───この人数で突っ込むのか? 中井出「俺は行ってみようと思うけど、貴様らはどうする?」 清水 「巨人族が向かってるんだろ?セントールに」 田辺 「さすがにそこに紛れるのはヤバイんじゃないかねぇ。     人間がセントールに居るってだけで仲間扱いされて斬首なんてことに……!」 原中生『そんなわけで我らは遠巻きにして見てるから、提督だけで行ってきてくれ』 中井出「一人くらい“一緒に行く”とか思うヤツ居ないの!?」 原中生『誰だって自分が一番カワイイのさ……あんただってそうだろ?』 中井出「ギ、ギィイイイーーーーーーッ!!!!」 大勢に言われるとやたら物悲しい言葉だよなぁこれって。 結局───付いていくと言ったナギーとシードもマクスウェルに “話がある”と言われて引き止められ、俺は大会前までの─── トリスタン軍討伐パーティー、俺、ゼット、彰利、晦、ルナさん、みさおちゃんの六人で、 セントールまで行くこととなった。 Next Menu back