───VSアンノウン/鎌解(れんかい)───
【ケース26:Interlude/───】 漆黒に染まった黒衣が翻る。 連ねる剣戟は幾重に。 恐らく残像のみが残るであろう速力を以って敵の殲滅にかかる───!! 彰利 『ッ───』 ミルハザードはかつて悠介と戦ってた頃のように、両腕を無骨な剣へと変えていた。 背には飛翼、頭部には角を生やした伝説の竜人は咆哮し、 やはり幾重にも連撃を連ねてくる。  ヒュフォン───ガギィンッ!ギヂィンッ!パギィイインッ!!!! その硬度、その速度、その迫力ともに今まで戦ったこともないくらいの圧力をかけてくる。 当時の悠介がこんな存在と戦っていたことが未だに信じられないくらいだ。 彰利はそう思考し、小さく舌打ちをした。 彰利 『ったく……!人生自体で苦労してるやつがっ……!     戦いでまで苦労してんなっつの───!!』 その連撃をやはり弾く。 威力速力ともに常軌を逸するためか、いちいち散る火花が鬱陶しい。 ゼット「ハァアアッ!!!」 彰利 『ほっ───!』  ───ガギィンッ!! 双方から来る無骨な剣を、彰利は黒で象ったもう一本のルナカオスで受け止める。 二刀流相手に一本は流石に辛いと判断したためか。 彰利 (でもなぁ……正直俺、二刀流って得意ってわけじゃないんだよね。     義憐精霊斬はただの趣味的技であって、     俺自身二刀流に長けてるってわけじゃない。     けど───まあ、盾としてなら役立つだろう。     今まで両手剣というか一本の剣を両手で握ってた分、攻撃力は落ちるけど。     ───まあいい。うだうだ言うより攻撃だ───!!) 緊張の最中に思考するにしてはあまりに妙なことを思考した。 彰利は息を吸って心を落ち着かせると、興奮に飲まれぬよう務めて攻撃を繰り出した。 彰利 『セイヤァッ!!』  ヒュオガギィンッ!! ゼット「ッ……、ヅ……!?」 彰利 『腕から直接生えてるなら一撃一撃が骨身に染みるだろ。     今の俺を、以前までの俺と思ったら大間違いだ!!     そらそらそらそらぁあああああっ!!!!』 ヒュフォンフォンフォンフォガギィンゾブシャギヂィンガギィンッ!! ゼット「グゥウウ───!!?」 連撃が弾かれる中で一撃だけが肉を削いだ。 彰利 (いける───畳みかけるなら     まだ復活したばかりで満足に動けないだろう今が好機!!) 満足に動けない。恐らくこの場でそう唱えられるのは弦月彰利のみだろう。 様々な鎌のコピーに加え、様々な鎌の始解卍解に伴う力の倍増。 さらにはその力を己のものとして行使するために散々と修行をした。 そんな彼だからこそ、今の現状でこれだけのことが言えるのだ。 そう、彼は実力だけならば確実に“死神王”と呼ぶに相応しい───!! 彰利 『だぁりゃぁあああっ!!!!』  ドボォッ───!! ゼット「ッ───!!」 踏み込んでからのボディブローで対象を浮かせ、 回転とともに顔面肘打ちから回し蹴りへと移行。ミルハザードを吹き飛ばす。 大技を放とうという意気、対象と距離を取るためだ。 そして─── 彰利 『終わりにしようぜ黒竜王───これであの世へ送ってやる!!』 瞬時に双剣を黒で飲み込み、代わりに飛び出させたのは黒の宝玉。 それに両手を添え、散々高めてきた黒の胎動を一気に───!! みさお「なっ───彰衛門さん!加減を───」 渦巻く黒の胎動。轟音さえ聞こえる最中、みさおが彰利に向けて叫んだ。 が───彰利はこれを完全に無視し、黒の宝玉に力を込め、やがて放った。 加減して勝てる程度ならば、そもそもこの技を発動させる必要など無いのだから。 彰利 『ビッグバンッ───かめはめ波ァーーーーーッ!!!!』  バガァッ!ッチュゥウウウウウウンッ!!!! ゼット「───……!!」 黒の宝玉から放たれる闇黒の極光。 みずきが放つ光やみさおのアルファレイドとは比べ物にならない破壊の黒が、 轟音を高鳴らせて黒竜王を飲み込んだ。 あまりの巨大さ、 あまりの速力故に避けられなかったミルハザードは黒の中で身体を破壊され、 彼方の果てまで消え去る。 だがこちらも満足とはいえない。 衝撃で神社は崩壊し、その場に居た者たちは吹き飛ばされ、 助けるどころか逆にダメージを負ってしまった。 豆村 「っ……す、す───すげぇえ……───これが親父の実力……?」 みさお「っ……ああもう!彰衛門さん!?加減してくださいって言ったじゃないですか!」 彰利 『そんなことはいいからさっさと回復しろ!!それと口調が戻ってるぞ!』 みさお「うぐっ……!でも───」 彰利 『あいつがあれくらいで倒せるなら苦労はしないだろうが!     吹き飛ばされてるうちにさっさとしろ!』 みさお「は、はいっ!!」 彰利 『……っ……』 何もない虚空に向けて、再び黒から取り出したルナカオスを構える。 漆黒の剣が蒼空より落ちる光を受けて輝く中、 今───確かに遠くの空でなにかが躍動した。 彰利 『───来るぞ』 豆村 「え……なにが?」 “黒竜王”。 彼はそれだけ返事を残すと、さらに黒を引き出して構えた。 ───遠くの景色で躍動する、黒いなにかを眺めながら。 彰利 『みさお!ミルハザードを人気の無い場所まで異翔転移出来るか!?』 みさお「え───はい!飛ばすだけなら可能です!」 彰利 『やってくれ!ここじゃあ死者がどれだけ出ても足りやしない!』 躍動が増す。 遠くに見える筈のソレは次第に大きくなってゆき、空という景色を埋め尽くさんとする。 それはやはり悪夢。 皮膚はより硬質と化し、飛翼は竜人であった頃の数倍の大きさとなり。 それに習うが如く身体までもが黒い鱗に覆われ、巨大化する。 やがて─── 黒竜王『ギシャァアアアォオオオンッ!!!!』 天を衝く咆哮とともに、かつての空界の絶対の覇王はその姿を見せ付けた───!! 豆村 「───っ!!ひっ……ド、ドラゴン───!?」 その姿にみずきが悲鳴をあげた。 無理もないだろう。 かつての悠介でさえその存在に身体が恐怖したほどだ。 そして現在のミルハザードは以前悠介が恐怖したミルハザードとは強さの桁が違う。 みさおの力を融合吸収したことで得た力に加え、 己自身を食らい、融合することでさらに強者となった伝説の黒竜。 その強さは、それこそかつての比ではない。 彰利 『ああくそっ、頭が下がるぞ……!     よくもこんなヤツとたったひとりで戦えたもんだ、俺の親友は……!!』 もちろん彰利の強さとて以前の比ではない。 悠介のように己を内側から成長させてゆくのではなく、 外から様々な鎌の力を吸収、屈服させることで手に入れた力。 その力はかつての悠介を確かに超えていた。 死神たちが徒党を組もうが決してこの黒竜王には敵わぬだろう。 だがその力がたったひとりに、 それも能力を超越した状態で凝縮されれば、それは千以上の万にも等しいのだ。 みさお『彰衛門さん、いきます!』 彰利 『ああ!』 卍解したみさおが刀を振るい、そこに月空力を集中させる。 標的は───今現在、咆哮しながら飛翔してくる強大な破壊の象徴───!! みさお『増幅月操力の法───月空力、異翔転移!!』 やがて月空力は放たれ─── 黒竜王『ルォオオオオオオオッ!!!!!』  バジュゥン───ッ!!! ───鋭い咆哮の前に、霧散する。 みさお『っ!?───月蝕力!?そんな!吸収したからって、こんなに容易く───!?』 彰利 『っ───くっそがぁあああああっ!!!!』 ここに来て彼らは思い知らされる。 ミルハザードの持つ能力、食らったものと融合するその力の真を。 彼のその能力は、人が見てそれを真似るのとは明らかに異なったもの。 体内に飲み込み、そして吸収するのだ。同じ筈が無い。 ───例えば一から始め、十に到達するために必要な修行があるとする。 修行は“理”を少しずつ固め、やがて十に到達することで“完全な理”となる。 十まで到達することがその修行の意味ならば、そこには確かに“理”があるのだ。 だがこの吸収融合はその理に至るまでの二から九を無いものとする。 つまり、至っている“理”と融合するのだ。 故にかつては、当時のみさおがそうであったように、 月操力は行使出来たが神化と死神化は出来なかった。 それが吸収した“簾翁みさお”の“理”だったが故に。 だがミルハザードはここに来て“理”の進化を遂げる。 バケモノだった際に覚醒させた、神化と死神化を身につけて現在に至った。 当然月操力を放たれればみさおがそうするように、彼もまた月蝕力でそれを蝕む。 “理”と融合するとはつまり、そういうことなのだ。 黒竜王『グゥゥウォオオオオオッ!!!!』 ともするならば、当時のみさおが行使出来たであろうことは全てが可能。 その意味が、ひとつの巨大な極光となって放たれた───!!  ヴァガァッガガガガォオオオオンッッ!!!! 大気さえ捻り穿つ光の大砲。 それをよく知る彰利は、心底驚愕した。 彰利 『アルファレイド───ッ!?くそっ!なんでもありかアイツ───!!』 そう。 黒竜の口から極光とともに放たれ、 空気さえ穿ち真空を齎すそれは、複合された月操力の塊。 かつて自身で編み出した強大な光が今、圧倒的な破壊力の差を以って襲い掛かる。 彰利 『ッ───』 だが。 それが月操力だというならば取る行動は決まっている。 彰利は月蝕力を展開し、さらにディファーシックルを始解にて解放。 蝕みつつエナジードレインで一時的に吸収したのちに卍解。 コア・イレイザーにて高速射出を実行する───!! 彰利 『リィイイベンジッ───ブラストォオオオオッ!!!!』  ギャガァッ!チュゥウウウウウウンッ!!!! 凄まじい衝撃、凄まじい速力にて速射される極光大砲。 獅子の顔を象った右腕は衝撃で破壊され霧散し、だがすぐにその塵を取り込んで再生する。 己の黒さえ上乗せした極光は黒く染まり、 さらなる威力を以ってミルハザードへ飛翔する───! 黒竜王『───!』 轟音高鳴る黒い極光───光を零し、星の集中した夜空を見るかのよう。 だが速度はレールガンのそれよりも速いだろう。 現に音が聴覚を劈くのとほぼ同時に、ソレは黒竜王の左飛翼を貫いていた。 黒竜王『───ッ……ルガァアアアォオオオッ!!!!』 咆哮はまるで、忌々しいと舌打ちするかの如く。 バランスと崩しはしたが、すぐに再生させた飛翼を以って再び飛翔してくる。 遠く離れていても巨大な姿がより一層巨大になる恐怖。 それを前に、だが彰利は酷く冷静に構えていた。 取り乱せば隙が出来る。 ミルハザードを相手に、ただの一瞬だろうと隙など見せるべきではないのだ。 彰利 『みさお!力の強化を頼む!聖はミルハザードの弱体化を!』 みさお『解ってます───“神魔月光刃”!』 聖  『“災狩を有する浄化の聖域(セイクリッドパニッシャー)”───!』 だからこそ全力をと。 彰利はみさおと聖の力を借り、己を強化し相手を弱体化させた。 彰利 『っし───!おぉらぁっ!!!!』  ───ドッガァアアッ!!! 刹那、黒竜が眼前に迫り、ついには激突する。 だが突き出した両腕でそれを受け止めると空中でブレーキを掛け、飛翔を受け止めた。 黒竜王『───!?ォオオオオオオオッ!!!!』 受け止められた黒竜の驚愕を誰が知ろう。 その身が飛翔するのならそれは流星と化し、 立ち塞がる障害物など微塵と潰れるのが雑魚の定義。 だが、だというのならばそれを受け止めるこの黒は───? いや。そのような思考など無駄。 黒竜は表情を歪ませると口を大きく開き、極光を─── 彰利 『───!このっ───させるか!!!』 ───放とうとして、しかしその巨大な口はとんでもない腕力を以って塞がれる。 黒竜王の顎の力を押さえつけるなど馬鹿げた行為だが、事実黒はそれをしてみせ、 さらに力を込めて巨大な身体を振り回し始めた───!! 豆村 「うわぁ無茶苦茶だぁああっ!!」 ライン「あの巨体を───!?馬鹿な!有り得ん!!」 彰利 『おぉおおおおおらぁああああっ!!!』 十と数回振り回したのち、遠くの景色へと放る。 さらにそれを追い───ガボォンッ!! 黒竜王『ギッ───!!!』 巨体の腹へと拳を見舞う。 さらには腹を打たれたことでさらに宙へ舞う黒竜の背に回り、 そこにもう一撃を構え、渾身を以って吹き飛ばしたところで再び宝玉を構えた。 黒竜王『───!!』 それで何をされるか悟ったのだろう。 黒竜は月空力を行使し転移すると、彰利の背後に回り込み─── 聖  『───!パパッ!!』 みさお『彰衛門さん!危ない!!』  バグシャアッ!! モノを噛む音とは思えないほどの轟音とともに、その鋭い顎で黒を噛み砕いた。 豆村 「あ───お、おや───親父ぃいいいいっ!!!!……い?」 ───否。 とくと見よ黒竜。 こと月操力においての経験で、彼の者に敵うものなど居ない。 そうして噛み砕いたと見えた黒は掻き消え、 その全てが幻だったとその場に居た全員が気づいた時─── 彰利 『幻だよ、馬鹿』 黒い極光を宝玉が埋め込まれたルナカオスに宿した彰利が構える。 黒い光を帯びたルナカオスは“魔人極光剣”(ダークネスキャリバー)と化し、眩いばかりの光を放つ。 そして、この武器を使ってこそ放てる超至近距離からの己の最大の技を、今こそ─── 彰利 『“魔神(オメガレイド)ッ……天衝剣(カタストロフ)ァーーーーッ”!!!!』 ───全力を以って解き放つ!!  スフィンッゾガシャゾバァッッフィィインッ!!!! 黒竜王『ギァアガァアアアアアアアアアッ!!!!』 見上げればすぐそこに居る黒竜に向けて放たれる黒の極光剣が黒竜の身体を斬り裂く。 右足から左肩への斜めの直線を一気に破壊し、余波は黒竜の他の部位を焦がしてゆく。 これぞ黒の至高。 最大まで高めた黒を、黒の宝玉を埋め込んだルナカオスに込め、 斬撃として放つカタストロファーの(つい)である。 放つ斬撃に斬れぬものなど無く、 より硬質と化した黒竜の身体でさえ貫通し、蒼空に浮かぶ雲さえ両断し、消滅させた。 月操力を複合させて放つアルファレイドやフルブレイクとは違い、 “卍解させた鎌の力”を複合させることで放つ究極の闇黒剣。 その威力は現が通り。 黒竜王の鱗さえ両断し、身を焦がすほどである。 彰利 『ッ……、はっ……くそっ……』 が。 そこまでの破壊を以ってしても黒竜は止まらない。 両断され、焼かれてもなお身体を繋げ、疲労を露にした彰利に向けて尾撃を振るう───! 彰利 『はっ……、───なんの───!!』 だが疲労を露にしてもなお、彼は諦めない。 振るわれた尾撃を身体全体で受け止めると、 先ほどのように振り回して今度は地面へと叩きつける。  ゴォッドォッッガァアアアアアアンッ!!!!! 豆村 「うわぁああああっ!!!!」 当然地盤は砕け、神社の境内はまるで豆腐でも叩くように容易く崩壊する。 地割れを起こし、舞う石飛礫は幾つか。 寸でで飛びのいた夜華たちは一様に彰利を見上げ、罵倒を飛ばす。 ゼノ 「うつけが!場所を考えて落とせ!!」 彰利 『知るか!上手く避けろ!そんなこと考えてる余裕なんて無いんだよ!!     くぅうっ───ぅううううらぁあぁああああああっ!!!!』 地面と衝突させ、さらに持ち上げた黒竜を上空へ投げ飛ばす。 そうしてやはり彼自身も飛び、空中で攻防を繰り広げる。 黒竜王『ッ───忌々しい……!!!』 ───ふと。 ここにきて黒竜王が初めて理性を持った言葉を放つ。 狂気は先ほどよりは薄れ───だがそれ以上に殺気は膨れ上がっていた。  ───やがて何を思ったのか竜人状態に戻るミルハザード。 彰利は真意が読めぬと眉を歪ませ、様子を見た。 ゼット「……───」 ゼットはつまらなそうに彰利を見ると、ゆっくりと力を解放した。 まず死神。 辺りに強大な力が溢れるとともに、 彰利にとっては恐らく一番身近な気配がその場を支配する。 そして神。 死神の力と共存するかのように放たれた力は威圧を生じさせ、 破壊の象徴にはあまりにも似つかわしくない気配を振り撒く。 だがそれだけでは力が反発を呼び、ゼットの腕に亀裂が走る。 神魔のバランス───それは力が強ければ強いほど反発し合い、 器である肉体を滅ぼすものだ。 だが─── 彰利 『……ま、乗り越えるわなぁ』 ゼットは“みさお”を飲み込み融合したのだ。 当然みさおの中にあった全て───神の要素も死神の要素も、 それを繋ぐ“奇跡の魔法”も持っている。 故にここに神魔は完成し、 先ほどとは比べ物にならないほどの威圧を放つ竜人が口を歪ませる。 そして言うのだ。 確かな意思を以って、狂王としてでなくひとりの竜人として。 ゼット『お前を殺すぞ、弦月彰利』 彰利を睨む双眼は紅蓮。 歪む口こそ狂気に満ちているが、 その眼はまるで初めて彰利を獲物と判断し、狩ろうとする鷹の眼ようだった。 彰利 『───……OK、上等だ。我が身は一にして千を越える黒。     我が身を滅ぼすという意味は強大なる万を滅ぼす力を用いることと知れ』 それが再戦の合図。 ふたりはクッと笑みを浮かべると地面を踏み砕き、裂帛の怒号とともに激突し合った。 彰利&ゼット『オォオオオオオオオオッ!!!!!』  ギガシャゴオッパァアアアアアンッ!!!! 激突に震える大気、衝撃に吹き飛ぶ瓦礫。 もはや石畳などは一枚たりとも無事ではない。 視認さえさせぬほどの連撃は真空を呼び、 刃がぶつかる中心はまるでブラックホールのように、弾ける火花を消し去ってゆく。 ───激突する黒と黒。 刃は互いに黒であり、担う“二つ名”もまた、互いに黒。 道は違えど決して幸福とは言えない道を歩んだふたりは互いを睨み、 決して眼を逸らさずにぶつかり合う。 そこに同情の心など微塵も無い。 ただ───道が違えば、出会った立場が違えば友にはなれただろうかという─── そんな小さな憧れだけが胸を小さく打った。  ───ゾフィィンッ!! 彰利 『ぐっ───、ンのっ───!!』  ザプシャア───ッ!! ゼット『チッ───!!』 一進一退。 それぞれが必殺の一撃を繰り出し続け、 やはりそれぞれがその一撃を必殺から傷へといなす。 鳴り響く金属音は決して止むこともなく。 それはよく出来た音楽の音色のようにも聞こえた。 ───……。 豆村 「───……」 少年は“強さ”を知る。 理屈ではない。 彼の父の姿が、まさに己にはそう見えたのだ。 ただ闇雲に強くなりたい、なんて思いじゃ強くなんてなれない。 そう、彼の父親は、ここに居る全ての人を守るために必死になっているのだ。 それは少年が出した中途半端な思いつきの意思とはまるで違った。 だからこそ絶句した。 チャランポランだと思っていた父親はその実、 周りの雰囲気を察するからこそああいう態度だったのだと。 そしてそれは彼自身の元々の態度であり、 心を許せる相手にだからこそ本気でぶつかっているのだと。 豆村 「……なんだよそれ……」 結局解っていなかったのは自分だけだった。 少年は自分を殴ってやりたい衝動に駆られ、ただただ血が滲むほどに拳を握った。 ゼノ 「……みずきよ。あれでまだ、父親を情けなく思うか」 豆村 「───っ……!!」 首を幾度も横に振った。 見た時に感じた思いや、その姿に重ねた己の未熟さを痛いほど感じた故に。 だがそれでも全てを理解するには時間が要ると、少年は言った。 ゼノ 「少しずつ理解していくといい。     弦月彰利と晦悠介は、その存在が簡単に理解出来るほど単純な存在ではない」 激突し合う大空の黒ふたつを見てゼノが呟く。 ───眩しいくらいの黒の極光のぶつかりあいがそこにあった。 かつて、己と同等の力すら持っていなかった月の家系の少年。 幼い日にはその力ゆえに己の人生を恨み、 だが───様々な物語の末に手に入れた力は、今は彼の心をしっかりと支えていた。 そこで思う。 かつて我と対峙したあの男は、ああも楽しそうだっただろうか、と。 ゼノ 「……存分に暴れろ、弦月彰利。貴様にはその権利がある」 激突する黒と黒。 吹き飛び、吹き飛ばされ、なお砕き、砕かれる。 空中での攻防だというのに一撃一撃ごとに根付く樹の葉が揺れ、 それは勢いが増すごとに大気を振動させた。 ───  ヒュフォンッ!ガギィンッ!! 彰利 『づぁっ───!!』 振るわれた無骨な剣が黒の剣を破壊する。 だが元々形の無い黒だ、破壊されたところですぐに次の剣を取り出し、それを振るう。 振るわれる剣と剣、弾け飛ぶ火花と火花。 舞台は平等に、互いが同等の力を以って戦っている。 ゼット『はぁああああっ……!!!』 ───否、それは間違いだ。  ヒュオガシャァアンッ!!! 彰利 『───っ……!!』 押されているのは明らかに彰利だった。 黒の剣は出す度に破壊され、構えた先から体勢を崩される。 もし一進一退の攻防をすることが出来ていたとするなら、それはせいぜい少し前まで。 元々“強さ”への進化に長けていたゼットは、剣を合するたびに成長していった。 神魔の力は剣の速度を上げ、身をより強靭にし、 徐々に彰利の力を撥ね退ける力をその身に宿していったのだ。 彰利 (くそっ……!やっぱ神魔竜人ってのはバケモンだ……!!) 対面する彼は呆れる他無い。 先ほどまでは押していた自分が、今度は逆に押される立場にある。  ───だが。今ならばまだ、彼には勝算があった。 黒の貯蔵は正に無限に近い。 再び力を解放し、魔神天衝剣を両手に構えた状態で戦えば圧倒的に押せる。 そう思ったのだ。 ただしそんな無茶な力の解放をすれば、 ブラックオーダーの状態でも今の十分の一の力も出せないだろう。 魔神天衝剣(まじんてんしょうけん)───全ての鎌の力を複合させた闇黒の影を剣に変える彰利の“必殺技”は、 放つからには必殺である必要があった。 何故ならそれは消費が酷く高く、 複数の鎌の力を以って己を強化する“影鎌繰り殺ぐ闇黒の秩序(アンリミテッドブラックオーダー)”自体の力を 呆れるくらいに大きく削ってしまうからだ。 故にそれを二振りも出して戦える時間などものの数分。 だがその数分のうちに片付ければすべては終わる。 彰利 『保ってくれよ……俺の身体』 いつまでもこの破壊の象徴をのさばらすわけにはいかぬと断じ、彰利は決断に踏み切った。 彰利 『“魔神天衝剣”(オメガレイドカタストロファー)!!』 伝説の黒竜を前に余力を残すは愚と知れ死神。 そして黒竜よ、あらゆる覚悟をその身に刻め。 これより始まるはまさに殺劇の宴───!! 彰利 『オォオオオオオオオッ!!!!』  ズフィシャズガガガガァアアアッ!!!! ゼット『ッ───カ、ガァアアアアアッ!!!!』 それは、振るうだけで対象を斬り裂く悪夢のような一撃だった。 空間断裂どころではない、文字通り天を衝く斬撃。 剣から放たれる剣閃はゼットの身体だけではなく空を斬り裂く。 だが一撃一撃の度に激しく消費するのを彰利は感じていた。 ───早期決着。 これを発動させたからには、そうするしか勝つ方法など無いのだ。 ゼット『チッ───小賢しい!!』 無論、対象とてこのままやられるを待つ訳も無い。 極光をガトリングブラストにて放ち、彰利から構える隙を奪う───!! 彰利 『シィッ!!』  ゾフィィインッ!! ゼット『っ───!?』 ───いや。 今の彼に極光など通用しない。 何故なら手に持つ黒の極光剣は、 いかに神魔黒竜人のゼットの極光といえど切り裂き滅する威力を持っているからだ。 彰利 『とった───!!』 やがて全力での飛翔ののち、驚愕に染まるゼットへと、交差した魔神天衝剣を─── ゼット『いいのか?死ぬぞ』 彰利 『───!?』 ───否。 言われた言葉に身体が一時停止し、深層は意識を己の後ろ───地面へと向けていた。  誤算があるとするならば、それこそが誤算。 本来ある筈の無い気配がそこにあり、さらに聞こえてはならない声が聞こえた。  『───見ただろ?でっけぇドラゴンみてぇなのが神社の方に───』 なんという愚かさ。 聞こえた声に振り向いてみれば、石段を登ってくる不良男性ふたりが。 さらには魔神天衝剣で斬り滅ぼしたとはいえ、 完全に霧散したわけではない極光の塵の雨が─── 彰利 『ッ───馬鹿野郎ォオオオオオッ!!!!』 ───異翔転移でもなんでも行使すれば良かった筈だった。 だが彼は思うより先に身を跳ねさせると不良たちの前に飛翔し、 その極光の塵を魔神天衝剣で完全に斬り滅ぼしていた。 彰利 『───……っ……』 それで、限界。 振るった魔神天衝剣は存在するための“糧”を失い霧散する。 あとたった一撃。 極光剣の交差さえゼットに届いていれば勝てただろう現実は荼毘に付す。 彰利 「っ……く、っそ……───情けねぇ……!甘い自分に腹が立つ───!」 そうして彼の卍解は意思とは関係なく解除される。 その身は石段の上に倒れ伏し、そこには困惑する場違いな不良どもが残されるのみだ。 みさお「彰衛門さん!」 聖  「パパ───!!」 実に愚か。 あまりに強大な黒と黒の戦いに夢中だったその場に居た者たちは、 場違いな乱入者の来訪に気づけなかった。 彰利ではなく他の誰かが気づけていたなら、 この場に倒れていたのは逆だったかもしれないというのに。 ゼット『フッ───ハ、ハハハハハハハハハ!!!!』 広い蒼空に黒竜王の笑い声のみが響く。 彰利 「っ……、づ……!!」 その声に彰利は身を起こし、戦おうと構えるが───もはや立つことさえ出来ない。 不良1「オ、オイ……なんなんだ?コイツ」 不良2「知らねぇよ……     いきなり出てきたと思ったらいきなり倒れて……訳解ンねぇ、馬鹿じゃねぇの?」 みさお「っ───!!」 不良1「あぁ?あンだよねーちゃん。なんか文句でもあンのか?」 不良2「ンじゃあたっぷり聞いてやッから俺達と一緒に───」  ガシィッ!! 不良 『うぎっ!?』 ゼノ 「……このクズどもの処理は我に任せろ。場違いな下衆は相応しい場所へと帰す。     ッ……このまま頭蓋を砕いてやりたいところだがな……ッ!!     それでは弦月彰利が余力を呈してまで救った意味が無くなる……!!」 不良 『ヒィイイイイイッ!!!!』 ギリギリと力の篭る手の感触を顔に感じ、不良どもは同時に叫ぶ。 ゼノは苛立ちの中、舌打ちをしたのちに『すぐ戻る』と言って消えた。 みさお「───……」 聖  「………」 笑い声が木霊し続ける。 もはやゼットを止める手段は無い。 みさおの卍解で力を強化していたにも関わらず、 ここまで衰弱したということは彰利が再戦することは不可能と考えていい。 さらに言えばこの場に居るそれぞれの力を足したところで、 宙に笑う黒竜王に敵うわけもない。 ゼット『───……』 ───突如として笑いを止めた黒竜王は神社に群がる存在を見下ろした。 暴走した理性は既に落ち着き、あとは邪魔をする者さえ始末すればそれでいいのだと。 それはつまり─── ゼット『───』 小さく息を吸う。 途端、崩壊した境内から七つの矢が飛翔する。 ゼット『───』 自然と、クッと笑みをこぼすと彼は再び戦闘態勢を取った。 なんという愚か。 攻撃さえ───邪魔さえしなければ向かい合うこともなかったろうに。 ゼットは境内で戦闘態勢を取っているそれぞれを見渡すと、 竜状態もかくやというほどの咆哮を放ち、威嚇として極光を放った。  それは実際、威嚇と呼ぶべく威力を落として放ったもの。 だが神魔竜人と化した彼の放つソレは、他にしてみれば己以外が唱える以上に破壊の光。 境内の地面へと減り込んだソレは大爆発を起こし、 晦神社が聳える山ひとつを完全に吹き飛ばした。 ライン「ッ……チィ……!真実化け物か、あいつは……!!」 吹き飛んだ景色を、飛翼をはためかせて見下ろすはシュバルドライン。 小脇に春菜と夜華を抱え、忌々しげに黒竜王を睨んだ。 聖  「はぁ……はぁ……」 みさお「みんな無事ですか!?」 春菜 「なんとか……」 夜華 「信じられん……悠介殿はあんな化け物に打ち勝ったというのか……」 豆村 「っ……、っ……はっ……、あ───な、なあ!     水穂さんは!?確か母屋に居たままじゃ───」 みさお「───!あ───」 景色を見下ろす。 だが崩壊した景色はもちろん母屋があった部分さえ塵も残していない。 ゼノ 「心配には及ばん。もう少し遅かったらと思うと寒気がするがな」 豆村 「あ───ゼノさん!それに水穂さんも!」 水穂 「───……」 豆村 「っと……だ、大丈夫なのか?」 ゼノ 「気を失っているだけだ。それよりなんとかするべきはあいつだろう」 ゼノが虚空を睨む。 そこには、同じく宙に浮いているゼットが居た。 下方には騒ぎを聞きつけて現れた人垣が溜まり、崩壊した山を見て騒いでいる。 その上空に居る彼らに気づくのも時間の問題であり、恐らく気づいている者も居るだろう。 みさお「───どうしますか、ゼノさん」 ゼノ 「……場所を変えたいところだが、     目の前のあいつはそれをさせてはくれないだろう。弦月彰利の様子はどうだ?」 みさお「駄目です……意識はありますが、戦える状態ではありません」 彰利 「っ……なんの……!まだまだ───!!」 ゼノ 「うつけが、暫く黙って回復に専念しろ。───出来る限り時間は稼ごう」 豆村 「え───ゼノさん?」 ゼノはみずきに水穂を抱えさせると、ゆっくりと鎌を出現させて目を見開いた。 ゼノ 「何故だろうな……死神として生まれ、死神として生きた時の中───     崩壊から水穂を救えた時、心底安心した。     これが貴様らの言うところの“幸せ”というものならば、悪くない」 だから、と。 ゼノは鎌を卍解させると構え、ゼットへと─── ゼット『ハッハァッ───!!』  キィイヴァッガァアアアアアッ!!!! ゼノ 『───!!』 ───向かう前に、ゼットからの先制攻撃が極光として発射された。 “邪魔をすれば殺す”。 その万感の意を込めて、己に向かってくる者全てを破壊するために。 ゼノ 『くっ───』 愚直に飛翔しようとしたのがまずかった。 ゼノがこの極光を避ければ背後に居る存在は消し飛ぶだろう。 否、考えている時間などはそもそも存在しない。 放たれた極光はあまりに速く、あまりに強大すぎた───!!  ズフィシャゴォッパァアアアアアアアアアンッ!!!!! ゼノ 『───!?』 ───が。 その強大すぎた塊は呆気無く霧散した。 確かに全力から考えれば加減のされた極光だっただろう。 だが、己が全力で抗おうと消せたかどうかも解らない破壊が、ここに霧散する。 その意を以って───ゼノはゼットを見た。 その瞬間、ゼットはどういうわけか身を震わせ、まるで歓喜に震えるように咆哮する。 ゼット『ツゴモリィイイイイイイイッ!!!!!』 狂気の咆哮。 戻った理性は本能と混ぜ合わさり、狂気として大空に浮かぶひとりの男へと向けられた。 みさお「と───父さま!」 彰利 「ったく……遅ぇぞ、親友……」 悠介 「だったら呼びにでも来い、たわけ」 ボロボロになった親友を見て、 すまなそうな顔をしながらまるで正反対のことを言う創造者。 どこまでぶっきらぼうだ、と笑って、彰利はフラつきながらも親友の胸をノックした。 悠介 「……ゼット。生きてたんだな」 彰利 「ああ、見ての通りこっぴどくやられたよ……。気をつけろよ、悠介。     あいつ、神魔状態だ……」 悠介 「ああ、解ってる」 心配するな、と言うように穏やかに放つ悠介。 彰利は親友のその雰囲気を見て、ただ苦笑するだけだった。 だが─── 豆村 「や、やめといた方がいい!悠介さん!アレは戦って勝てるような相手じゃ───!     そ、そうだ!親父が回復するまで逃げて、     それからふたりで戦えばいいじゃないか!」 目にしたものしか信じられぬという意識が深層にある者だけは、 親の親友が放つ雰囲気を虚勢だと罵る。 当然だ。 あの強さを目の当たりにすれば、知り合いがみすみす殺されるのを見ることはない。 が。 言われた張本人はぶっきらぼうな表情のままにみずきの額を指で軽く弾き─── 悠介 「寝言は寝て言え」 そう言って、視線をゼットに向けて構えた。 豆村 「あ───」 ───そう。 結局このふたりは明らかに違うふたりなのに、どこかで異様に似ているのだ。 その全てが他人のため、なんてことをあっさり実現してしまう馬鹿者中の馬鹿者。 それなのにみずきにとって、それが格好良く映った。 ───当然だ。 己に無いものをハッキリと断言し、実現してみせることには誰だって憧れる。 まして自分が不可能だと思うことを遣り遂げる存在は、それだけで羨む存在となろう。 悠介 「“戦闘開始(セット)”───さあ、出番だぞ“皇竜剣(ラグ)”。     存分に型成し、存分に暴れよう。……紅蓮に染まれ」 豆村 「待っ───」 止めようとする手。 こんな人を死なせてしまうのは辛いと思ったゆえに伸ばした手。 だがそれは途中で止まった。 何故なら─── 悠介 『───“黄昏を抱く創造の世界(ラグナロク)”』 神魔霊竜人───最初から全力を解放したその存在に息を呑んだ故である。 異形なる姿や広がる黄昏は彼にとって初めて目にするもの。 散々騒々しいと感じた大地からの喧噪は完全に消え、 ただ自分たちが浮いていた筈の虚空に黄昏の草原が現れ、浮いていた筈が立っていた。 豆村 「っ……な、なん、だ……これ……?転移じゃない……え───!?」 ───蛙よ、大海を知るがいい。 これぞ創造の理力。 思考を具現化し、裡に眠る世界さえ具現し、 現実世界と完全乖離した“場”を創る創世能力。 そこがどのような場所であろうとも、己が最も得意とする戦いの場へと引きずり込む至高。 彰利 「……やっぱヘコむな……。お前、また無茶な修行し続けただろ……」 悠介 『………』 返事は無い。 ただ本当に小さくトンとノックを返し、彼の親友は笑った。 ゼット『ツゴモリィイイイイイイイイイッ!!!!』 悠介 『始めようかゼット……いつかの仕切り直しだ!』 大地を蹴り、やがてぶつかり合う竜人と竜人。 精霊の法衣に身を纏った竜人は首飾りを剣に変えると軌跡を奔らせ、 黒の竜人は渾身を以ってこれを弾く。 だがその剣には瞬時にヒビが通り、黒の竜人は驚愕する。 悠介 『“蓄積思考総解放─(バレットストレイジフルオープン)──無限を紡ぐ剣槍の瞬き(インフィニティ・バレット・アームズ)”!!』 その驚愕を逃しもしない追撃は刹那に。 瞬時に己が周囲を囲む幾多もの屠竜剣にこそ驚愕したゼットは神経を凍らせ、 剣を硬質化させるとそれを音速さえ超える勢いで振るった。  ゴォッ───ジャガガガガギギギギガギゴギギギィインッ!!!! 飛翔する剣を幾度幾度と叩き落す。 だがその数は一向に潰えず、ゼットは忌々しげに苛立つのみ。 戦いはその状態のまま、ゼットが疲れた時にこそ隙が出来る───筈だった。 ゼット『───!!』 屠竜剣を弾いた先、ほんの一瞬だけ見えた宿敵の存在に驚愕する。 悠介 『“伎装弓術(レンジ/アロー)”!!“擬似雷神槍(ヴィジャヤ)”!!』 隙など待つべくも無し。 ただ無遠慮に攻撃は連ねられ、仕掛けた存在は渾身を以って弓を引き、これを放った。  キュヒィン───ッ!! 音の壁を破るとはこのことか。 聞いたこともない音とともに槍は風を裂き、  ゾバァンッ!!───……ヒィ───イイイン…… 寸分の狂いも無くゼットの心臓を破壊した。 ゼット『───、ガ───アァアアアアアアッ!!!!』 ───擬似雷神槍。 真ヴィジャヤを擬似たる光の武具として精製し、用を成せば消える対象破壊の飛び道具。 威力はそのままヴィジャヤであり、如何に神魔解放の竜族の皮膚といえど容易く貫く。 無論、今のゼットにしてみれば心臓を破壊されたからといって即死などということはない。 だがその行動はやはり一瞬だろうが数瞬だろうが停止する。 そうなれば当然───  ───ズガガガガガガガガァォオンッ!!!! ゼット『───……!!』 襲い掛かる屠竜剣を落とそうとした腕も止まり、彼は串刺しにされる。 だがそれも真実数瞬。 すぐに力を解放させると剣の全てを破壊し、身体を再生させた。 ゼット『ツゴ───、ッ!?』 だが、知るがいい黒竜王よ。 彼には既に、戦闘における油断などは無い。 一撃が外れれば次弾を用意し、次弾を外せば次を視る。 悠介は既に草原を蹴り、ゼットの背後に回っていた。 振るわれる手は徒手空拳。 親友が斬り裂いた傷跡をなぞるように拳が繰り出され、いつかのようにそれを貫いた。 ゼット『ガッ───!!ぐ、ツ……ゴォオ……!!』 悠介 『“極光暴壊烈破”(カリバーン・エクスプロージョン)!!!』  ───バァッガァアアアアアアアンッ!!!!! ゼット『ガァアアアアアアアアアアッ!!!!!』 そして腕に極光を込め、爆裂させる。 如何に高い防御力を持とうとも、内側から破壊されては耐えられる筈も無し。 爆煙を腹から放ちながら吹き飛ぶゼット───それを瞬時に追う悠介。 極光とともに吹き飛んだ腕は既に理力によって再生し、 その手には槍となったラグが握られていた。 悠介 『“緋竜槍(ゲイボルグ)───”!!』 放たれる緋の槍。 ラグは真実紅蓮と光り、 黄昏の天を貫かんとした頃に幾重もの鏃となって降り注いだ───!! ゼット『───ッ……図にッ……乗るなというのだ───!!』 ゼットはそれに対し極光アルファレイドを放ち、相殺させる。 だが安堵すべくはそこには無い。 相殺されたラグはすぐに悠介の手の中に戻り、ヴィジャヤと化していたのだから。 そしてその悠介は既にゼットの懐に潜り込み、 上空の槍に気を取られていたゼットを屈んだ状態で見上げ、槍を奔らせた。 ゼット『───!!くあぁああああああっ!!!!!』  ザブシャアッ!! 腕に風穴が穿たれる。 被害を最小限に悠介との距離を取ったゼットは、憤怒とともに悠介を凝視した。 どうもこうもない、速いだけでなく巧すぎるのだ。 かつてのような詰めの甘さなど無く、圧倒的な力を以って眼前に立ち塞がる存在。 だがその実、実力で言えば未だゼットはその上に居る。 化石となって眠っていたゼットにとって、悠介に敗れたのはほんの少し前と変わらない。 だからこその戸惑い。 驚きを隠せぬほど巧い攻撃を繰り出すその存在が信じられず、 実力が出し切れていないのだ。 ゼット『否ッ……!!』 忌々しげに唇を噛み、そして構える。 集中しろ、と己に訴えかけるように。 アレは既に晦ではないと。 だからこそ─── ゼット『───……?』 だからこそ、なんだというのだ、と。 ふと、思考が止まった。 そして悟るのだ。 ふと気づけば、大事だった筈のものが本能から薄れている事実を。 それがいつからかだったのか、と言えば─── ゼット『………』 そう、それは───竜化を止め、竜人として真正面から。 “ひとりの存在として”彰利と向かい合った時にこそ薄れたのだろう。 殺す、殺さぬなどもはやどうでもいい。 今はただ─── ゼット『フ───フ、ハハハハハハハハッ!!!!』 悠介 『───?』 可笑しくて仕方が無かったから笑った。 その姿はまさにそれを絵に描いたような笑みだった。 ここにきて彼は、くだらない過去(しがらみ)から己の魂を己自身の心で解放した。 ───過去などどうでもいいと。 今を生きているのなら、今ここにこうして己の意思があるのなら。 それなら今一度夢を見るのも悪く無いと。 ───その感情こそが、みさおの“理”と完全に融合した故のものだった。 かつて己自身を食らい、融合することで暴走。 その暴走によって完全に押し込まれていた理はしかし、 暴走の沈静とともに少しずつゼットを解き放っていった。 ……誰の理でも良かったわけではない。 遥か昔に愛した存在の理だったからこそ、彼の理はみさおの理を受け入れていた。 ゼット(……生きた軌跡は至福に遠し、か───) まるで悪夢から醒めたような少年の目で、ゼットは黄昏の草原に立つ少年を見た。 そして───殺す殺さぬの思考を完全に破壊し、 ただ全力でぶつかるための力を解放する───!! ゼット『目が覚めた……。感謝をしよう、晦悠介。     そして全力でお前を潰す。───“卍解”!!』 悠介 『───!?』 渦巻く気流。 散々放ち、散々と散った気迫や力がゼットを中心に流れる。 そう。 彼が成長する覇王なのだとするならば、神や死神、神魔だけで留まる筈も無い。 己の力に絶対の信頼を預け、無骨な剣をより強靭に、鋭くする黒竜王。 見守っていたそれぞれの驚愕も当然だ。 が───ここに、確かに黒竜王の卍解は完了する───。 ゼット『“荒天破壊す漆黒の竜王(ロードオブブラックブレイカー)───”!!!』 黒の破壊者は吼える。 その身は歪な黒衣に包まれ、 まるで竜の鎧を纏ったかのような姿でゼットは真っ直ぐに悠介を見た。 そこには憎しみなどといった感情は無い。 それを悠介も感じ取ったのか、呆れた顔をしたのちに構えた。 しがらみなどを全て捨てて、ひとりの男として最高の戦いをするために───!! 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