───冒険の書121/そして新たな旅路へと……?───
【ケース332:中井出博光/ながされて青龍刀】 キィイイ……───ィイ……イン…… 体を包んでいた緑色の光の粒子が消えてゆく。 それとともに、どうせ転移するならばと奇妙なポーズを取っていた俺は…… 妖精 『…………』 目の前に居た妖精に、かなり驚いた目で見られていた。 中井出「え…………っと……」 驚愕。 だがそれは相手も同じ様子。 ならば今のうちに状況を把握するのが賢い生き方ってもんじゃないか?なぁ。 というわけで状況整理開始!…………(カラカラカラ)…………見事なカラ回りだった。 って違う、落ち着け、花丸森写歩郎くんの状況整理を真似てる場合じゃないだろう、俺。 中井出(とりあえずここは妖精の世界で間違い無いよな?) 草花広がる草原や綺麗な空気。 恐らく間違いないだろう。 けど、こうして呼ばれた理由はなんだ?ちょっと解らん。 中井出「えーと……」 情報が足りない。 まさか目の前の妖精がオーデイーン様なわけがないし。 それにしても神話とかの人々や神々の名前ってのはどうして三者三様みたいに色々なのか。 オーディンなのかオーディーンなのか、 グングニルなのかグーングニルなのかグングニールなのか。 ……よし、混乱してる場合じゃないよね、うん。 とりあえずJOJOっぽいポーズをやめて、と。 中井出「ここ、妖精の里だよな?なんで俺、こんなところに?」 妖精 『ああ、ゴホン。私が呼んだのだ。名乗ろうか。私はレアズ。     レアズ=クロムルージュ。この世界の王を勤めている』 中井出「じゃあ……妖精王?デッカードじゃないの?」 レアズ『それは西の大陸の妖精の長の名だ』 ああ……そういえばそうだった。 西の大陸のデッカードさんは、 ただ名前がデッカードってだけで俺達が勝手に妖精王と認識したんだっけ。 つまりこの妖精界を束ねる男がこのレアズ将軍なわけだ。 何故将軍なのかはあまり気にしない方向で。 中井出「それであのー、何故俺が呼ばれることになったのかよく解ってないんだけど」 レアズ『ああ。言ったとおり私が呼んだ。草花を慈しむ心を持ち、     自然の精霊ドリアードからの信頼も受けている貴殿だ。     ならばこそ、この世界の危機を救ってくれるやもしれぬと思った故。     勝手なことなのだが、この妖精界を救ってはくれまいか』 中井出「な、なんですってぇーーーーーっ!!?」 世界を救う!?馬鹿を言うな! こ、この俺に世界を救えと!?世界を救う勇者になれと!? 中井出「面白そうだ、是非やろう」 所詮原中だった。 ダメな時はダメな時さ。 やらずに諦めるのは出来るだけ避けたい。 でも……ハテ? 妖精の世界って妖精じゃなけりゃ入ってこれなかったんじゃなかったっけ? と思ったのだが、どういう理由なのか背中に妖精の羽根が生えていた。 そういや目の前に居る妖精も自分と同じ大きさだ。 ていうことは俺……妖精状態? 何故?妖精のペンダントは木村夏子二等が持っている筈では……? エィネ『ペンダントのことでしたら、あなたのお知り合いから預かってますから』 中井出「あれ───エィネさん?」 あっさりとコトは解決。 というかそんなに疑問が解りやすい顔でもしてたか?俺。 中井出「ヌー……で、まずひとつ訊きたいんだけど」 レアズ『なんだ?』 中井出「……よく貸してくれたな」 エィネ『いえ、快く貸してくださいましたよ?忙しいからハイどうぞ、という感じに。     どうやら自己鍛錬で忙しかったようです』 中井出「自己鍛錬ね……」 ぬう、まるで神様のところで修行しただけで、 ラディッツ数人をコロがせるくらいにトンデモ成長したクリリンを思うが如く。 どうして同じく修行した悟空はそこまでの力を得ることが出来なかったのだろうか。 ちなみにラディッツが比喩なのは、 サイバイマンの戦闘力がラディッツと同じくらいらしいからだ。 なんてトンデモミステリー。 猛者どももきっとそれくらい強くなってるに違いない。 だってマクスウェルのところでだろ? 多分経験値倍化状態で鍛錬とかしてるんじゃなかろうか。 中井出(まあ……俺としては鍛錬よりもこの世界を楽しむ方を優先させたいわけだけど) 何故ってそれが原ソウル。常識だけでは語れない。 あ、でも空界のいろいろなことに関する勉強はしたいな。 結局のところ俺は映像系の式のことしか頭に入ってないわけだし。 もっと広い部分で空界って世界を知っていきたい。 ま、今はそれよりも目の前のこの世界のことを知りたいわけだ。 だからたとえどんな無理難題を目の前の妖精王が出そうが引き受けるつもりだ。 ……多分。 中井出「それで、ペンダントを借りてまで     俺をこの世界に引っ張ってきた理由ってなんなんだ?     妖精界の危機がどうとか言ってた気がしたけど」 レアズ『妖精界に関わらず、恐らく世界全土の危機だ。不死王の存在は知っているか?』 中井出「そりゃもう」 レアズ『不死王ジュノーンの力が増しているのも知っているか?』 中井出「あー、それももちろんだ」 あんな場面を見せられちゃ、理解するなってほうが無茶苦茶すぎる。 まったく、どうかしてるにも程があるだろう。 中井出「あれはなにが原因なんだ?     あそこまでの急激なパワーアップなんて普通じゃ無理だろ。     いくら普通破壊の我らでも、超規格外の出来事には付いていけんわ」 レアズ『ヤツは瘴気を喰らって成長する。     人々を殺し、魔物さえ殺し、アンデッドを増やすことで瘴気をも増やす。     そうすることで己を強化し、さらなる生き物を殺戮し、瘴気とする。     それがジュノーンという存在の力の在り方だ』 中井出「え……じゃあ、アンデッドモンスターを屠れば力は減っていくってことか?」 レアズ『それはその通りだ。が、ジュノーンは斉王までもを取り込んでしまった。     それにより、世界のバランスが崩れてしまったのだ』 中井出「バランス?……訳の解らないことだらけだな。     順を追って説明してくれるとありがたいんだけど」 レアズ『ああ、そうだな。つまりだ』 レアズ将軍が言うには───つまるところの危機っていうのは瘴気の問題だった。 斉王を破壊し、力自体を取り込むことで強力な力を得たジュノーンは、 既にそれだけでも瘴気の塊みたいな存在となった。 同時にその瘴気が、この妖精界を含む精神世界全土に滲み渡ろうとしているのだそうだ。 ……ああ、精神世界全土ってのは俺が思考する喩えであって、 レアズ将軍がそう言ったわけじゃない。 ともかく、瘴気が世界に広がる先に待っているのは魔物の凶暴化や強化、 人や妖精などの存在ならば誰もが持つ闇の部分の増幅など─── つまりとんでもない事態であることには変わりない。 このままほうっておけば、 この世界は憎しみの心しか知らない異常空間となってしまうのだという。 ───考えてみればそうなのだ。 ファンタジー世界ってのは冒険の要素はそれこそ溢れかえっている。 けれど、その条件とは真逆に物語の要素たる“厄介事”が溢れすぎているのだ。 モンスター然り人の揉め事然り魔王然り。 冒険があればあるほど、闇も深まれば憎しみも増える。 そんな条件が重なったために、ジュノーンは急激に強者になったのだろう。 ヤツの強者となる条件がつまりは闇や瘴気なら、 この世界にはあまりにもそれが溢れすぎている。 はぁ……ファーンタズィーの条件もちぃい〜〜〜っとかぁ〜んがえ物ってわぁ〜けかぁ〜。 なんてルパン三世の口調を真似てる場合じゃないよな、うん。 中井出「で、俺なんぞにどうしろと?」 レアズ『精霊の力を解放してほしい』 中井出「精霊の……力?」 ハテ、これはいったいどんなビックリイベントなんだ? 俺に精霊の力をどうこうする力があるとでも? 中井出「それって“ガッツ3倍になれ”とか言って簡単に引き出せるものなのか?」 レアズ『そんなわけがないだろう』 中井出「あ……いや……そうスョね……」 そらもう“簡単だなぁ……”だけじゃ済まないよなぁ。 じゃあどうしろっていうんだろうな。 んーむ……こういう時にこそ晦が居るといろいろスムーズなんだけど。 こういう物事に関する知識が豊富なためか、 物分りや推測の速度が他人のソレとは比較にするのも失敬なくらいな素晴らしさだ。 ……時々滅法たわけでアホゥなところがあるけど、 欠点が無いヤツなんてつまんないもんな。 それでこそ原中生徒。 レアズ『聞けばお前はギリエルスパイダーを倒してみせたと聞く。     その強さに頼る結果となるが、     精霊の力を封印している戒めの宝玉を破壊してはくれまいか』 中井出「戒めの宝玉……あーなるほど」 つまりこうだな? 精霊が随分低いレベルのうちでも倒せた理由は、 その戒めの宝玉とやらに力を封印されてたから。 で、その宝玉とやらを破壊すれば精霊に力が戻って、……どうなるんだ? レアズ『精霊の力を解放してやれば世界のバランスは元に戻るだろう。     瘴気に満ちた世界を精霊の力で押さえるのだ。     この世にあって、生れ落ちてより不死身の存在などありえない。     ジュノーンは精霊の拘束から逃れることによって不死身と化している存在だ。     かつてのジュノーンは不死身などではなかった。傷つけば傷ついたままだったし、     重症を負えば動けなくなるのも当然のこと。だが───』 中井出「……そうだ。そもそもその精霊の力ってのを封印したのは誰なんだ?」 レアズ『ナーヴェルブラングという魔王だ』 中井出「あ……あっちゃー……あいつかぁ……。     でもさ、あいつならコロがしたわけだし、能力が消えててもいいんじゃ───」 レアズ『だからこその戒めなのだ。術者が消えた程度で解けるものならば、     精霊の力を封じることなど出来るものか』 あー……納得。 そりゃそうだよな。 イセリアさんがシュバルドラインにやった戒めってのも、 イセリアさん自身が消えることとなっても存在してたわけだし。 ……でもアレは自分ごと戒めの呪いにしてたようなもんだったしな。 中井出「つまりさ、ジュノーンは精霊から放たれるだろう     聖なる気が無くなったことを良しとして、瘴気を満たすことで不死身の体を?」 レアズ『それもあるが、かつて存在した人の勇者によって封じられた     ナーヴェルブラングの力を吸収することによって、かなりの力を得ているのだ』 中井出「あっ……あーあーあー!     それでナーヴェルの野郎は魔王って割りにあんな雑魚だったのか!」 ようやく理解できた。 恐ろしい魔王だとか言われてたのに雑魚だったのも、 力を行使しようとしてなにも出来なかったのも全て納得いった。 おかしいと思ってたんだ。 いくら不死王だからって、 アンデッドモンスターを無尽蔵に出現させることが出来るわけがないと。 そんでもってナーヴェルの野郎は俺や猛者どもと対峙した時、 確かにアンデッドウォリアーを召喚しようとしてたんだ。 それが出なかった理由がそれだ。 レアズ『だがそれでも、力が高まっても不死身に至ることなどないだろう。     そこで利用したものが死人の森の瘴気だ。     それを拠代にすることで体を無限構築し、     さらにはガタのきた体を適当な人間の体と交換することで生きながらえてきた。     愚かなことだ。もはや、人であった頃の記憶など持たぬ鎧と化してしまっている』 中井出「な、なんだってぇーーーーーっ!!?」 レアズ『ど、どうした?』 中井出「ジュ、ジュノーンって元は人間!?マジ!?」 レアズ『あ、ああ……なんだ、それは知らないのか……?     ヤツは太古の遺産として残されていた鎧を着た、ただの人間だった。     巨人の里に安置されていた鎧らしいのだが、     それはその男が願うと巨人のサイズから人間のサイズに変わり、     その男を包んだらしい。それからだ。     そいつが魔物や人を殺すたび、     返り血を浴びるたびに正気を失い、バケモノとなっていったのは』 中井出「巨人の里の鎧って───うあ……!リビングアーマーかよ……!」 思い出したことは、かつてゼプシオンが装着したとされる伝説の鎧。 彼はそれを身に着けることで狂人と化し、ジハードに殺された。 でも魂は鎧のバケモノとなって、晦に破壊されるまでいつまでも……─── 中井出「な、なんだよ……。これじゃあ空界の蒸し返しみたいな出来事じゃねぇか……」 レアズ『ともかく。そうして鎧のバケモノと化したソイツは、     瘴気さえあれば蘇る存在に至った。     ほぼ不死身だ。現時点でのヤツを屠る手段は無い。     だが精霊の力を解放させてやり、瘴気を殺してやれば───』 中井出「鎧の力も弱まるってことか……」 なるほど。 つまりあいつは長い間を死ぬことなく生きたために“不死王”なんて呼ばれてるけど、 実際は不死身なんかじゃなかったんだ。 歪んだ鎧の魂を浄化してやれば、倒せない相手じゃない、と……。 中井出「で……俺はどうしたらいい?精霊のところに行って“ガッツ3倍になれ”って」 レアズ『言わなくていい』 中井出「あ……そりゃそうスョね……」 当たり前だった。 レアズ『では説明に移ろう。戒めの宝玉はそれぞれが別の場所に安置されている。     さらに言えばそのどれもが竜の住処にあることが多い。     破壊するのは困難かもしれないが、是非を願う』 中井出「りゅ、竜の住処って……」 あの。俺、確かに自分はちょっとばかし強くなれたって自信はあるけどさ……。 竜退治は流石に不安というか……ねぇ? ミストドラゴンの時でさえかなりのビックリ団だったってのに……。 ……ビックリ団ってなんだ?  ◆ビックリ団───びっくりだん  ビックリ団とは恐らく、『生まれてビックリ団』というものから来た言葉。  某ゲームで使われていた言葉だが、その意味はまるで不明だった。  驚いたときなどに『かなりビックリ団だった』などと言われていたがやはり意味不明。  しかしこの『生まれてビックリ団』という歌は、  歌詞の中に約96個近くの『ビックリ』という言葉があるらしく、  つまるところの『ビックリ団』という言葉は96回分は驚いたということだろう。多分。  ちなみに問題の『ビックリ団』を使用しているゲームだが、  主人公がクソの役にも立たなかったり、主人公がストーカーと戦ったり、  主人公が死国(ベアハッグ)
で殺されかけたり、主人公が学校の屋上から突き落とされたり、  ミスターコンテストに出たりと、なんというかもう主人公だけとるとヒドイゲーム。  ゲームがひどいとかではなく、主人公が可哀相というかグムー。  でさ、主人公に目が無いゲームとかあるじゃない?  あれって遺伝らしいよ?このゲーム、母親も目が無かったから。父親はあるのに。  ちなみにこのゲームのラスボス敵存在の呆気無さといったら、  “こ、これが……虚無の力……か……!”って感じです。  *神冥書房刊:『究極のザコ、ナラカの生態』より レアズ『……?顔色がすぐれないようだが』 中井出「い、いや……なんでもない」 などとモンゴルマンやってる場合じゃない。 竜の住処だぞ竜の住処。 大丈夫なのか俺。 ……否!どんなものでも請け負うと決めたのだ! やってやれないことは───いっぱいあるよ!ありすぎて困るくらいだよ! 誰!?やってやれないことはないなんて言った人!今すぐみんなに謝りなさい! でも引き受けよう。 何故なら俺は……冒険者じゃけぇのう……! 中井出「よ、よし。じゃあひとまず引き受けるとして。ポイントは解るのか?」 レアズ『知らん』 中井出「うわっ!めっちゃ適当!     キッサマ大事な情報も知らんと長々とくっちゃべってたのか!?     おんどりゃ今すぐヘヴン見てみますか!?     この殊戸瀬謹製眠り薬で今すぐ貴方もゴートゥーヘヴン!!」 レアズ『まあ、落ち着け。私はこの世界で情報を得ることしか出来ん。     宝玉が封印されているところなど外に出れば感知できるだろうが、     普段外に出ない私では瘴気に当てられてしまう確率が高いのだ』 中井出「外に出ないって……全然?」 レアズ『全然だ』 中井出「……ニートって呼んでいい?」 レアズ『ニート?なんだそれは』 中井出「えーと、まず……」 コキュッ、キュッ…… 中井出「(よし)!!」 引き篭もりのレアズ将軍の額に『にく』と書いた! これで貴方もミート……じゃない、ニートくん!! 中井出「いや……どうせ誰も知らないネタだろうけど」 そんなわけでレアズ将軍の額の『にく』の文字を消した。 大体はここで油性ペンでしたー、なんてオチだが。 フフフ、この博光に抜かりは無い。 これはぬぐえば簡単に落ちるステキマジックでゲゲエ消えねぇ!! レアズ『?、どうした』 中井出「ア、アワワ……」 慌ててマジックを見てみる。 と、『彰利印の闇黒マジックペン』と書かれた物体がそこに! まあ!彰利ったらいけないひとっ(・・・・・・・)!! 中井出「………」 エィネ『……、……!』 ふと視線を移せば、 困惑する俺を余所にレアズ将軍の隣に居たエィネさんが涙目で笑いをこらえていた。 すこぶる申し訳ない……こんな筈ではなかったんだが……。 中井出「そ、それで……ポイントを知らないで俺はどうしろと?」 レアズ『うん?ああ。……エィネ』 エィネ『ぶふしゅっ!?ぷっ……くぶっ……!』 レアズ『……?なにがおかしい?』 中井出「あんゲフッ!ゴフゥ!!」 レアズ『?』 思わず“あんたの額がおかしい”と言いそうになるのをこらえた。 さすがに今は真面目にならなければならないところだ。 ……そのつもりがこんなことになってしまったんだが。 レアズ『話を戻そう。エィネを連れていくといい。妖精の中でも感知能力の高い娘だ。     彼女が一緒ならば、宝玉の場所も解るだろう』 エィネ『は、はばふっ!は、ぶふっ……!は、はは……はぃい……!』 中井出「………」 エィネさんは既にいっぱいいっぱいだった。 こりゃ、いろいろ感づかれる前に外に出たほうが良さそうだ。 中井出「よっしゃ、じゃあよろしくエィネさん」 エィネ『〜〜〜……《こくこくこく……》』 中井出「………」 口を押さえ、涙を流しながら顔を真っ赤にして頷くエィネさん。 笑いこらえるのも大変だろうけど……先行きが不安になったのは確かだった。 【ケース333:晦悠介/ビクトリア・スリーソン】 ガコッ……ゴコココォオン…… 悠介 「……どうだ?」 彰利 「おらんね。どうやら去った後らしいぜ」 さて……消えた中井出を思いつつも、俺達は再びエーテルアロワノンに訪れていた。 何故って、解決したってことをアルギーに知らせておかないと、 干からびてしまいそうだからである。 いくら水と食料を渡したっていってもな、またいつここらに訪れるか解ったもんじゃない。 というわけで、周りに注意しながら裏路地の重りをどかしたわけだ。 悠介 「アルギー、居るかー?」 彰利 「ゲッホゴホ……!相変わらず埃っぽいねぇここ……!」 ルナ 「掃除くらいするべきよね……ほんと」 短い階段を下りてゆく。 と、やっぱりその奥の奥に居るアルギー。 アルギー「………」 パク……モグ……モグ…… 悠介&彰利『うあ……』 が、そのアルギーだが、頭脳パンを喰いながらとても辛そうな顔をしていた。 言うなれば……なぁ? 彰利 「おおお……まるで頭脳パンを強制的に食わされてる鬼塚先生のようだ……」 みさお「あんまり美味しそうじゃないですね……」 彰利 「頭脳パンだからね……」 今にもビッケビッケと謳い出しそうな顔だった。 相当に空腹だった筈なのに、なんて辛そうな顔してやがる。 空腹は最高のスパイスっていうが……ありゃ嘘か? それとも頭脳パンが不味すぎるのか? アルギー「《ズズ……グビリ……》ああ……水が美味ぇ……」 どうやら味の程度は水以下らしい。 難儀なことである。 悠介 「お前な……作るならもっとマシな味付けしろよな……」 彰利 「おかしいのぅ、ちゃんと作ったつもりだったんだが。どれ?」 パク……モグ……モグ…… 平然と一口目を噛んだ彰利だったが、噛むにつれどんどんと辛そうな顔になってゆく。 みさお「やっぱりあんまり美味しそうじゃないですね……」 彰利 「今……物凄く鬼塚先生の気持ちが解る……」 悠介 「……って言ってもな」 試しに頭脳パンの情報を調べてみる。 と───  ◆頭脳パン───ずのうぱん  弦月彰利作成のパン。素っ気無い味わいのくせに妙に腹ばっかり膨れる。  空腹を満たすのには最適だが、とにかく素っ気無い味わいのためか口直しがしたくなる。  というのに、腹が満腹状態になるため、口直しも出来ない非常に腹立たしいパン。  水分吸収率が類を見ないほどに高いため、飲み物無しで食べるのは自殺行為である。  なのにTPの上限が一時的に上がったりするという、  重ねて言えるくらいに非常に腹立たしいパン。  とにもかくにも鬼塚先生の気持ちを知りたいのなら一度食べてみよう。  *食事効果:空腹度を満腹にする    飲み物がないと一撃必殺の水分吸収を発揮し、食べた者を死に至らしめる   GTOの鬼塚先生の気持ちが少しだけ解る   TPの上限が30分の間、最大の30%UP 悠介 「………」 呆れるほかない。 だって実際、飲み物無しで食べた彰利が喉を押さえて床で暴れまわってるし。 彰利 「フベェオバッ!!《ゴプシャア!》」 あ、吐いた。 彰利 「げっほ!ゴヘェッホ!!み、水……!水プリーズ……!」 悠介 「はぁ……コップと水が出ます。弾けろ」 彰利の手の中に並々と水を満たしたコップを創造してやる。 と、それをガフゴフと一気飲みして、 彰利 「ウッ!」 ドタッ! みさお「───死んだ!」 漂流教室のアッパーお嬢のようにドタリと倒れ、塵となってゆく彰利。 ……アルギーに注意しておいて、自分が水で死んでりゃ世話が無い。 ───それからしばらくすると彰利は戻ってきたのだが、 自分が作った頭脳パンを片手に『これは凶器です』と断言したのだった。 それでいいのかお前は。 ───……。 ……。 ややあって─── アルギー「ん───おぉおおっ……!かっはぁーーーっ!やっぱシャバの空気はいいねぇ!      空気が美味く感じたのなんて初めてだぜ!」 彰利  「ンまさにッ……フルゥティ〜、アァ〜ンド……サァゥワァ〜♪」 俺達はアルギーを連れて、外……エーテルアロワノンから出たフィールドを歩いていた。 既に瘴気自体がエーテルアロワノンから消滅していたが、 それでもあそこに住まわせるわけにはいかないだろう。 とはいえ───何処に連れて行ったものか。 悠介 「それで、これから何処に行く?」 彰利 「中井出でも探す?流石にほっぽりっぱなしってのも夢見が悪いっていうか」 悠介 「言い残しが“ボクハコノチキュウガダイスキデシタ”だもんな」 聞いただけでも夢身が悪い。 確かに探したほうがいいかもしれないが─── アルギー「おいおい、外に出してくれたことには感謝してるが、      俺ゃお前らの旅に付いて行く気はねぇぞ?」 彰利  「じゃあ失せろ」 アルギー「おいおいちょっと待て!      普通こういう時は最寄の町とかに連れて行ってくれるもんだろ!?」 彰利  「ここが最寄の町、エーテルアロワノンになります」 アルギー「鬼かてめぇ!!」 彰利  「クォックォックォッ……出口など無い。ここが貴様の終着だ」 疑問に思う是もありゃしない。 まったくもっての鬼である。 悠介 「元々の目的がジュノーン討伐だったわけだが、それも頓挫だ。     ……さて、これからどうしたもんかな」 彰利 「天に戻るかい?それとも……」 悠介 「ん───」 考えてみる。 結局のところ、自分の勢力は伏せているわけだが─── 今も俺はモンスターキングであることに変わりは無い。 何故って、獣人勢力に戻ってなんかいないからだ。 モンスターユニオンは確かに崩壊した。 聖地ボ・タも滅びたし、魔物が蘇ることの出来る場所はなくなったのだ。 けど、俺の称号はモンスターキングのままだ。 戻るべき場所があるとしたら、俺はモンスターのもとなんだろうな。 それに多分─── 悠介 「あ、悪い。俺、ちと行く場所がある」 彰利 「俺もいくぜーーーっ」 悠介 「すまんそりゃ無理だ」 彰利 「何故!?」 悠介 (……お前が戻る場所は獣人勢力だろが) 彰利 (え?つーことは?) 悠介 (モンスターユニオンだ。ちと引っかかることがあってな) 彰利 (フッ……貴様もやはり男よのぅ。そんじゃ、俺は獣人勢力で、) 悠介 (俺がモンスター勢力。で、恐らく───) ゼット「さて。ここで解散ならば俺とセシルは戻らせてもらうぞ」 彰利 「戻るって?」 ゼット「これでも竜族の王なんでな。     経験を溜めるつもりが、いつしか王として認められていた」 彰利 「ムオウ!?」 悠介 「……竜族の王か。大変だな」 ゼット「面倒極まりない」 彰利 「オウ?何故?だってキミ、空界じゃかつては黒竜王として支配してたじゃん」 ゼット「力による“畏怖”という支配だ。束ねるのは俺には不向きだと解るだろう」 彰利 「……ナルホロ」 彰利がちらりとみさおを見る。 ようするにみさおが居るために力による支配はご法度ってことなんだろう。 ゼット「こんな面倒ごとは貴様がやるべきだと思うがな」 悠介 「もう十分に堪能してる。冗談じゃない」 人の王や五竜の王やアルマデルっていうひとつの世界の王、 さらには魔物の王になった俺の気持ちが貴様に解るかこの野郎。 悠介 「じゃーな。次会う時は多分敵同士だろ。     中井出のことは……多分あいつ自身がなんとかするという方向で捨て置くとして」 彰利 「せやね。なんのかんので中井出のヤロウは     この世界でたくましく生きてるみたいだし。     むしろゲームイベントなら喜んで参加するんじゃねーだろうかね」 ルナ 「面白いことならなんでも首を突っ込むのが原中なのよね?」 彰利 「イグザクトリィ〜〜〜〜(その通りでございます)」 悠介 「この世界でいろいろやってりゃまた会うこともあるだろ。     その時がどんな状況なのかは別にしても、なるようにはなるって信じよう」 ゼット「ではな。いいか晦悠介。     貴様がどれだけ力をつけてこようが、次も勝つのはこの俺だ」 悠介 「おー頑張れ。お前とはもう戦わん」 ゼット「なんだと貴様!それでも力を持つ者か!」 悠介 「あーのーなー、俺ゃ好き好んで戦ってるわけじゃないし、     そもそもベジータみたいな脳細胞持ったライバルを持った覚えもありゃしないよ。     暴れたいなら勝手に暴れてろ。俺は元々静かな時間が大好きな一市民だ」 彰利 「世界の平和を守れる一市民ってどんなデスカ?」 悠介 「こんなだ」 彰利 「おお、すごいモミアゲだ《バゴシャア!》うわらば!」 とりあえず殴っといた。 はぁ……ほんと、モミアゲ切っちまおうか。 みさお「それでは……これで解散ということで」 悠介 「ああ。まあ、こんなこと言っても無駄だけど───がんばれ」 みさお「なにをですか」 悠介 「いろいろだ」 彰利 「夜の営みとか?───親公認だぜみさおさん!ファイト一発!」 悠介 「黙ってろ脳内桜花爛漫男」 彰利 「なにそれどこの怪人!?」 今目の前でウネウネ動いてる貴様がそうだが。 悠介 「それじゃあな。この世界、楽しめるうちに楽しんどけ」 彰利 「オウそりゃもちろん!楽しめるうちは───って、ま〜た内緒話関連?」 悠介 「おう、そんなところだ。俺も出来るだけのことはしておくさ。     だからお前も頑張れよ」 彰利 「オウヨ!今の俺の野望は誰よりも強くなることじゃけぇのう!!     ま、とりあえずは今の鎌の解放を自分のモノにするさね。     そうすりゃいつ如何なる時でも強化版の鎌が使えるようになるってモンよ。     大会では貴様に負けたが、     今度はそうはいかねぇぜ?この世界を統一するのは我が勢力ぞ!」 悠介 「ああ。俺だってどこまで足掻いてやる。     お前が障害になるんだったら、それさえも越えていくだけだ」 彰利 「ゼットン!貴様にも負けはしねぇぜ!?」 ゼット「貴様なぞ眼中にない。消えろ」 彰利 「うわひでぇ!悠介ひとすじにも程がある!」 ルナ 「ふかーーーっ!!」 悠介 「こらこら……威嚇してどうする……」 彰利 「“悠介ひとすじ”に反応したんデショ」 悠介 「………」 意味が違うから落ち着いてくれ、ルナよ。 なんて思ってるうちにゼットとみさおがパーティーから離れ、 次に彰利がヨロレイヒーとか言いつつ消え去った。 で……その場には俺とルナと…… アルギー「……お前らよ、俺のこと完璧に忘れてたろ」 アルギーが残されたのだった。 ……おい、俺が町まで届けるのか?こいつ。 Next Menu back