───冒険の書124/悠介(とおたす)くんの胎動───
【ケース337:晦悠介/ガガンボの足はどうしてあんなに長いのだろう】 ザッ……。 アルギー「いやぁ〜、助かった助かった。      おぅあんがとよあんちゃん。お蔭で町まで辿り着けたぜ」 悠介  「あーいい、いいからとっとと行ってしまえ」 アルギー「なんでぃ、愛想の無い野郎だな。      男と男の別れってのはもっとサッパリしてるもんだろ」 悠介  「いーから。余計なイベントに首突っ込んでいたくないんだよ」 アルギー「実はいい情報があるんだが」 悠介  「イベントはいいっつーとるんじゃあ!!」 アルギー「イベントだかなんだかよく解らねぇこと言われてもな。      まあいいや、いいんならいいで。お前さんはこれからどうするんでい」 悠介  「モンスターユニオン跡地に行く。やらなきゃならないことがあるんで」 アルギー「へっ、そうかい。そっちのお嬢さんは?」 ルナ  「言う必要が無いわね」 アルギー「うお、なんでぇ。こっちも愛想がないったらねぇ……。      情報世界じゃ愛想は大事だぜ?」 ルナ  「べつにあなたから聞きたい情報なんて無いし」 アルギー「あ……そ、そう?」 アルギーはとても悲しい顔をした。 アルギー「ちぇっ、解ったよ。      せっかく助けてくれた礼にいい情報を教えてやろうとしたのによ」 悠介  「金取るんだろ?」 アルギー「ウェッヘッヘッヘ、こっちも商売だからなぁ」 悠介  「じゃあいらん」 アルギー「聞いてくださいお願いします」 悠介  「………」 土下座までされてしまった。 なんなんだこいつは。 アルギー「精霊のこと、詳しく知りたくないか?」 悠介  「貴様よりは詳しいと思うが」 アルギー「いやいやいや、こりゃきっと誰も知らねぇことだぜ?      戒めの宝玉ってヤツの話なんだが、聞いてみたくねぇか?」 悠介  「いらん」 アルギー「そ、そこをなんとか!」 悠介  「だから……なんなんだよお前は」 もったいぶってるくせに聞かせたくてしょうがないなんて、おかしいだろオイ。 アルギー「実はな、精霊の力はその戒めの宝玉ってのに封印されてんのさ。      で、その宝玉ってのが封印されている場所には、      宝玉から漏れる力の波動に引かれた竜どもが巣を作っちまっている。      で、ここからが本題だ。宝玉を手にした者は、      普通に精霊から宝玉を受け取るよりも凄まじい力を得ることが出来るらしいぜ?      そりゃそうだよな、精霊の力自体が封入されてる宝玉だ。      精霊が生成した宝玉なんかよりよっぽど強力!      手にした者はそれこそ世界を支配できるくらいの力を得るだろーう!      ……という過去の文献を読んだことがある」 悠介  「セント−ルでか」 アルギー「セントールでだ」 大方、写本を作るために潜入した時にでも読んだんだろう。 アルギー「情報によればもちろんセントール王も大いなる力に惹かれ、      竜族に育てられたレオンを使って取りに行かせたらしいんだけどな。      だが宝玉がある場所に巣を作った竜は、どれもが獰猛なやつらだったらしい。      恐らく力の波動に当てられすぎたんだろうな。      まともな対応は望めなかったらしい」 悠介  「そうか。じゃあな」 アルギー「おおい!反応それだけ!?もっとなにかないのか!?      うおー!とかすげぇ!とか!」 悠介  「サッパリした別れがしたかったんだよな?」 アルギー「ああそうだよこんちくしょう……!」 願いが叶ってなによりだ。 アルギー「と、とにかく。お前さん、力に自信があるなら取りに行ってみたらどうだ?      宝玉を手に入れて力にするか、それとも破壊して精霊の力を解放するか、      もうこの際どうでもいいからよ。どちらにしろ上手くいけばいいことづくめだ」 悠介  「精霊の力の解放か……」 それをすればラインゲートの強化にも繋がりそうではあるが…… でもまずはモンスターユニオン……聖地ボ・タの跡地だな。 やらなきゃいけないことがある。 精霊のことや竜退治はそのあとでもいいさ。 悠介  「それじゃあな。ルナ、行こう」 ルナ  「うん」 アルギー「ありゃ、特に反応無しか。まあいいや、ありがとよー!お蔭で助かったー!」 アルギーが手を振って俺達を見送る。 俺も軽く振り返って小さく手を上げ、それを返した。 さて……それじゃあ行くか。 ルナ 「モンスターユニオンに行くのよね?」 悠介 「ああ。気絶中か、はたまたどうにかなってるのかは解らないが、     あそこからずっと動いてない反応がある。これは多分ジャミルのものだ。     俺を信じてあそこに残ってるなら、行かないわけにはいかないだろ?」 ルナ 「むー」 悠介 「腐るな腐るな。今さら誰が気になるとか、     お前の心配してるようなことは起きやしないし、そもそも前例にも無い」 ルナ 「それはそうだけど。悠介って昔っから女の子に見向きもしなかったし」 悠介 「そういう感情が無かったからな。     第一、一緒に居てなにがどう違うのかが解らなかった。     他の男達はなにかって言うと女だ女だ言ってたもんだけど、     その女のなにがどういいのかがまるでサッパリだ。     あの時は彰利も随分と女女って砕けてたもんだ」 その全てが感情無しの演技だったっていうんだからなにかがウソだ。 まあ、俺が言えたことじゃないのは確かだが。 ルナ 「悠介は女の子苦手だったの?」 悠介 「苦手というか、若葉と木葉の相手だけで十分だったよ。     正直好きじゃなかった。泣くわ喚くわ怒るわ細かいわ。     一緒に居て何がいいんだか」 ルナ 「うう……ちょっと耳が痛いかも」 悠介 「無駄に金は使うわ人のやることにはいちいち首を突っ込むわ、     そのくせ任せっきりで失敗すればギャースカ。     当時、何よりも静かな時間を願ってた俺としては鬱陶しいことこの上無かったな」 ルナ 「うー……ホモっちは?うるさかったでしょ」 悠介 「あのな……騒いでた彰利に俺がしてたのはなんだ?」 ルナ 「あ……殴ってたね、容赦なく」 悠介 「それが決定的な差だな。女は殴っちゃだめだとか、     そんな差別が芯にあるもんだからなにより苦手だった。     それから考えると、本当に原中はカオスな中学だった」 容赦なく殴ったりしてたからな……。 女も男を殴れば、男も女を殴る。 けど、今なら解るがそのつど彰利が回復させてたんだろうな。 じゃなきゃいつしか血を見てただろう。 もちろん本気で殴ってた場面なんて無かった、と思う。 遊び程度の殴りやビンタだ、どちらにしても破壊力はそこまででもない。 悠介 「思ったんだが───お前にとって、俺と一緒に居る時間ってのは───」 ルナ 「しあわせー」 悠介 「………」 言い終える前に、にこー、と笑顔で言われた。 ……ようするに遠慮がどうとかの世界じゃないわけだ。 欲しいものは無いし、望むものもそうそう無し。 一緒に居られるだけでいい、か。 なるほど、重くないってのはいいことだ。 ルナ 「じゃあさ、悠介にとってわたしと一緒に居る時間ってどんなの?」 悠介 「うん?……そうだな、日常、かな」 ルナ 「日常?」 悠介 「……ああ。もうこれが当然になってるって、そんなんだ。     おかしなもんだよなぁ。いきなり現れて人の日常ぶち壊したヤツが、     いつの間にか自分の日常の一部分になっちまってるんだから」 ルナ 「それ、褒めてる?」 悠介 「俺は冗談やバカにした態度で、誰かを日常だなんて呼びやしないよ」 ルナ 「……えへへー、そっかー」 満足したのか、俺の言葉ににこーと笑うルナ。 ……そう、俺は冗談なんかじゃ誰かを日常として認めたりはしない。 俺にとって日常ってのは大事なものだ。 俺にとっては自分の世界の全て。 だから……俺はこいつも彰利も、大事だと思う全てを失いたいなんて思わない。 悠介 「………」 どうなるんだろうな、これから。 未来を切り開く───それは必ず遣り遂げる。 彰利と、ずっと先の未来で喧嘩をする───それは精霊になった瞬間の映像で未来視した。 けど未来は変わる。 運命は変えることが出来るものだということを、あいつは証明してくれた。 その事実が今度は俺に重く圧し掛かる。 この未来だけは変えたくない。 俺は必ず、あいつとあの場所で───約束を果たさなくちゃならないんだ。 悠介 「……はぁ」 まだ総てが凶ったわけじゃない。 だったらやれることをやり、全力で未来を目指さなければならない。 けどそれは俺の力だけじゃ到底不可能で─── 精霊全員が力を貸してくれたところで切り開けるものじゃない。 きっとノートは俺なんかよりもっと早くに気づいてる。 それでも手出しが出来ないのは、つまり…… 悠介 (何もかもが後手だ。まったく、我らながら呆れる他無い) でも、無駄なんか無いって信じてる。 それを知ってるからこそ、ノートもこの世界の展開を続けたままにしている。 みんなを勝手に巻き込んじまったことになるけど───でも、可能な限りは自分の手で。 ルナ 「悠介?」 悠介 「……んや、なんでもない」 間の抜けた声で言葉を返し、歩を速め、やがて走り出す。 向かう場所は砕けた聖地。 そこで、せいぜいこの束の間を精一杯楽しもう。 やがて全てが凶ってしまった時、あの時ああしておけばと後悔しないように。 ───……。 ……。 ややあって───辿り着いた聖地ボ・タ跡地。 ルナ 「うわー、見事にグシャグシャ……」 悠介 「あまりに無惨だな……」 古代の島エルメテウスはこれでもかというくらいにグシャグシャに壊れていた。 唯一形を保っている場所もせいぜい建物くらいであり、 中を覗いてみれば───内側は散々たる倒壊具合だった。 しかしそんな中にジャミルは居て、妙な魔法陣の中心に浮き、なにかを呟いていた。 悠介  「ジャミル?おーい、ジャミール」 ジャミル『……何者王!?』 悠介  「……反応が早いのか遅いのか」 少々呆れた。 ジャミル『ご無事でしたか……!今まで何処に……!?』 悠介  「斉王のところに、ちとな。お前は?」 ジャミル『はい……なんとか再生出来ないものかと魔力を注入していたのですが……』 悠介  「そっか」 どの道今まで魔力を注入して復活しないのなら、見込みはもう無いだろう。 だったら─── 悠介  「ジャミル、俺と一緒に何処までも突き進む覚悟はあるか?」 ジャミル『もちろんです』 悠介  「即答かよ……まあいい、それなら───」 二度は訊かない。 覚悟があるならそれでいいと断じよう。 かなりの反則技になるが、 他のやつらや彰利の成長に繋がるなら、反則も望むところだ。 悠介  「我、今創造の精霊として命ずる。我が魔力、我に連なる精霊の力によりて、      彼の者を我が力とする───」 ジャミル『……王?その言はいったい……、───!?』 キュオッ───バジュウゥンッ!! 悠介 「……ふう」 ルナ 「悠介?なにしたの?」 ルナの言葉に返事を返す前に、まず中空に浮く球を手に取る。 悠介 「ジャミルを変換した。召喚獣として」 ルナ 「え?それって───」 悠介 「こういうことだよ。我が名は晦悠介。輝石の加護の下、この儀式を司りし者。     契約は完了せり!出でよ───ジャミル!」 オーブに自らの血を落とし、名を唱え召喚に至らせる。 その瞬間、オーブが高い音を立てて炸裂し、そこからジャミルが召喚された。 ジャミル『こ……これは……?凄い、力が漲るようだ……』 悠介  「召喚獣にすることで、俺と力をリンクさせた。あとは───」 集中を開始する。 そして“外”に居る、自らと契約した召喚獣を我が身に引きずり込む───! ピピピピピピンッ!! ルナ 「わっ!なにっ!?ナビに物凄い速さでメールが……!     って、悠介!自分の精神にそんなにいっぺんに     召喚獣を受け入れるのは危険だってイセリッ子が!」 悠介 「───」 構わない。 これくらい出来なくて、なにが超越者か───!! 悠介 「っ……づ……!!」 頭が軋む。 物凄い数の召喚獣が自分の中に流れ込み、 様々な生き物の思念が自分の精神の中で動き始める。 だがその全てを自分の意思で押さえつけ、黙らせ、言うことを聞かせる……───否! 俺は支配のために契約したんじゃない……! ともに歩むことを誓い合ったからこそ契約した! 間違えるな晦悠介! 我が身は己のために在らず、守りたいものを守るためにこそ存在する! そのために得た力であり、それ故に信じてもらえた力だ! 力に自惚れ、力に溺れるな! 上下など存在しない!俺は───お前らとともに歩む存在だ! 故に……俺に力を貸してくれ!  パキィンッ!! 悠介 「───、え……?」 “共に歩む”という磐石たる意思を固めた時だろうか。 頭を襲う頭痛と、身をえぐるような思念の渦は掻き消え、 ただ穏やかな……そう、“信頼”のみが俺の中で渦巻いた。 つまり…… 悠介 「………」 信じて、くれるのか。 歩んでくれるのか、俺と一緒に。 悠介 「ああ……」 忘れていた。 焦るあまり、大事なことを。 俺がなんのために強くなって、どんな道を駆け抜けた故にここに立っているのかを。 どんな世界を駆け抜けて、誰と空を飛翔し、どんなやつらと喜びを分かち合ったのかを。 そうだ。 一人なんかじゃなかった。 俺は守りたいものを守るためにこそ力を欲し、精霊と契約した。 守りたいと思ったからこそ努力をして力を得て、こいつらと戦って、 認められたからこそこうして契約を結んだ。 経験っていうのはつまり、そういうものだ。 強くなる努力だけをしていても限界なんて越せないし、 独りぼっちで目指せるものなんてきっとタカが知れているんだ。 悠介 「………」 暖かかった。 こんな暖かさはどれくらいぶりだろう。 かつて、自分を王と呼んでくれた飛竜と空を飛んだあの日、 俺はこんな暖かさをずっと感じていたのだろうか。 見るもの全てにわくわくして、駆ける道の全てが自分を成長させた。 けど、なんでもない日常が続いてこの十数年─── 俺はきっと、その頃の気持ちを忘れていた。 だってこんなに懐かしく感じるんだ。 自分が覚えていたつもりでも、それはまるで違った感性だったのだ。 ……いや、感情の大部分が戻ったからこそそう感じるのかもしれない。 悠介  「ははっ……は、は───あっはっはっはっはっは!!」 ルナ  「ゆ、悠介?」 ジャミル『王……?』 悠介  「くふっ……!あはははははは!!だぁっはっはっはっはっはっはっは!!!」 それがどうしてかおかしかった。 笑いが止まらず、涙さえ流すほどに声を大にして笑った。 きっかけ、なんてものは何処に転がってるのか解らない。 けど俺は、俺の周りにはきっと、手を伸ばせば届く場所にソレがあった筈だった。 ……なんだ、結局俺は焦るばかりで、周りが見えてなんていなかったんだ。 悠介 (………) よかった。 思い出すことが出来て。 足りないものなんてきっと無いって信じることが出来た。 そして……未来を切り開くことが出来るだろうか、なんて言葉はもう要らない。 “絶対に切り開く”。 運命は変えられるものだとしても、変わった先が絶望だなんて信じない。 極端的な想像なんて、イメージを武器にする自分にとってはあまりに端的だった。 反省点だ。 そう、反省するべきなんだが───嬉しくて仕方が無かった。 じっとなんてしていられない。 何故?何故って───決まってる。 ここが、この世界がファンタジーだからだ。 自分で思ったばっかりだ。 後悔しないために、精一杯楽しもうって。 悠介  「よしルナ!ジャミル!行くぞ!」 ルナ  「え?え?行くって、何処に?」 悠介  「何処でもかまわーーーん!!行動を起こしたその瞬間がもう冒険だ!!」 ジャミル『せ、聖地復活は───』 悠介  「捨て置け!」 ジャミル『ええっ!?そんな!』 モンスターや幻獣なら、既に俺の中に腐るほど居る! さあ行こう───って、ああ、まったく……。 ルナに腐るななんて言えたもんじゃなかった。 腐ってたのは俺のほうだ。 ジャミル『お、王!?いったい何処に───』 悠介  「精霊の力の解放だ!」 ジャミル『なっ───そんなことをすれば我々魔物の力が抑制されるのでは───!?』 悠介  「そんなことは断じて無い!むしろそれぞれの属性が解放されることになれば、      魔法の威力も上がるってもんだ!」 ジャミル『あ……な、なるほど……!』 ルナ  「でも何処に封印されてるかなんて知らないわよ?」 悠介  「だったら強引にでも探してみせる!      ───すまーんイセリア!ちと無茶するぞー!」 ルナ  「え?え?今度はなに!?」 悠介  「イメージ解放───………………接続完了!!ブラックホールが出ます!!」 ゴバァンッ!!───虚空にブラックホールを出現させる! もっとも飲み込むというよりは弾き出すものだから、 ホワイトホールのほうが喩えとして適当かもしれないが。 ギギィイイピピピピピピィンッ!!!! ルナ 「うわわ、またメールが……今度はなに……?     …………うあ。悠介、ちょっと待ってほしいんだけど」 悠介 「断る!!」 ルナ 「えぇっ!?」 かつて、ベリーを精神世界に引きずり込んだのと同じ要領だ。 そのイメージは自分の中に消えずに残っている。 残っているなら───世界の壁ひとつを越すくらい───造作も無い!! 悠介 「弾けろ!俺のイメージ!!」 かつてルドラ───俺の中に居たノートは言った。 枷を破壊すれば黄昏無しでも光の武具を出せるようになれると。 それほどの力も、枷を破壊できれば行使可能になるのだと。 だったら───枷を外すべきは今だ! 上を目指したいなら……!守りたいものをもっと守れるようになりたいなら! 速い段階で、その壁を越えてゆく!! 悠介 「ッ───ガァアアアアアッ!!!」 ギヂッ───ヂガガガォオオオオンッ!!!! ドッガァアアアアアアアンッ!!! ルナ  「うひゃっ!?」 ジャミル『うっ……こ、これは───!?』 悠介  「かっ……は、はぁっ……!!」 汗が噴き出す。 遣り遂げたことに満足する間も無く俺は汗を拭うと、 ブラックホールから強引に───いや、ブラックホールからくらいじゃ済まないな。 空界の壁を超越し、さらには精神の壁さえ超越した先に無理矢理引きずりこまれ、 少々どころかかなり呆れ返っている飛竜に目をやった。 悠介 「よっ」 ディル『…………王、お前な』 “無茶な行動は相変わらずか……”と言いたげな目で俺を見る紫色の飛竜。 名をディルゼイル。 空界語で“創造の剣”の名を宿すそいつはしかし、 やがて可笑しそうに笑むと体を起こした。 ディル『空界の壁、精神の壁、肉体の壁……散々を越えて私を呼んだ理由はなんだ?』 悠介 「訊かなくても解るだろ?」 ディル『さあな、さっぱりだ』 悠介 「………」 いい性格をしている。 けど、こんなだから重くもなく全力でぶつかれもするし信頼が出来た。 ……本当に懐かしい。 だからこそ───俺はあの頃のままの気持ち、 あの頃のままの風情でディルの目を見て言った。 悠介 「この空を、お前と飛びたい」 ディル『………』 それだけで十分だったんだろう。 紫色の飛竜は、見慣れた者にしか解らない程度に口を歪ませ、笑みを浮かべた。 そしてあの頃のままの風情で─── ディル『───承知』 一言、そう言ったのだった。 ───……。 ……。 で───それからどうなったのかといえば。  シュゴォオオオオオゥウウウンッ!!!! ルナ 「速ぁああーーーーっ!!はやっ!速すぎるよ悠介っ!!ちょっ……あうー!」 悠介 「ディ、ディルーーーッ!!     その無遠慮にかっ飛ばしすぎる癖、いい加減に直せぇえええっ!!」 ディル『せっかくだが断る』 悠介 「あ、あのなぁああっ!!」 早速ディルの背に乗り、大空を飛翔していた。 自分も随分と速く移動出来るようになったのだから、 もういい加減慣れてもいいだろうと思っていたんだが───ところがどっこいすぎた。 自分で飛ぶのと飛竜の背に乗って飛ぶのとでは、明らかに風圧の差が違ったのである。 ようするに……ディルが風の壁を顔で斬り裂くように飛んでいるのに対し、 俺達は立ったまま、というか座っているような状態で、 風が当たる面積が体の前面全てなわけで。 ディルが頭部で裂いた風が俺達の体を容赦なく打ちつけるわけだ。 ディル『しかし王よ。再びこうしてお前と空を飛翔することが出来ることを嬉しく思うが、     私の体───本体は大丈夫なのだろうな』 悠介 「あー!そこんところは大丈夫だー!     ちゃんとお前の本体は地界の俺の部屋に転移させてから、     精神だけをここに送ったからー!」 ディル『……やれやれ。やはり無茶をするところは直っていないようだな』 悠介 「おっ……大きなお世話だっ!」 まるで自分の過去を明かされてるみたいで恥ずかしかった。 あー……こりゃ、感情を持つってのも案外いいことばかりじゃない。 新鮮味はあるけど、どうにもこう、なぁ?
【Side───その頃の地界】 イセリア「わー!わー!永田っちが飛竜の下敷きにぃいいいっ!!」 ノート 『マスターの仕業か。やれやれ、      転移させるにもポイントというものをきちんと計算に入れておくべきだろう』 イセリア「そんなこと言ってる場合じゃないってば!      わわわ……!ゴキベキと骨が軋む音が……!」 ノート 『それは軋む音ではなく折れる音だろう』 イセリア「だからぁっ!冷静に言ってる場合じゃないんだってばぁーーーっ!!」 【Side───End】
ぺぺらぺっぺぺ〜♪ 悠介 「お?」 なにやら知らんが突然レベルアップ。 そういえばもう少しでレベルアップってところまで経験値は溜まっていたが……ハテ? 俺、誰か倒したか?
【Side───その頃の原中】 ゴキベキバキゴキ!! 永田 「ギョアァーーーーーーーッ!!!!」 藍田 「うおっ!?永田!?永田ァーーーーッ!!」 丘野 「ヒィ!永田殿の体が突然ベキバキと砕けていって……!?」 岡田 「どうしたっていうんだ永田ァーーーッ!!」 麻衣香「そんな……!さっきまで元気にスープをおかわりしてたのに……!」 藍田 「ああっ!永田が塵になってゆく!」 丘野 「忍術!?もしやこれは忍術でござるか永田殿!!」 蒲田 「───ハッ!み、見ろ!永田のヤツ、ピーマン残してやがる!」 田辺 「そ、そうか!これはもったいないお化けの仕業だったんだ!」 三島 「なんという……!なななんという……!───北斗神拳」 灯村 「いや、それ関係ないから」 丘野 「()
に恐ろしきはもったいないお化けでござるな……!」 総員 『気をつけよう……』 無駄に事件は解決した。 まるでそれが当然の如く、もはや永田が突然死したことに疑問を抱く者は居なかった。 【Side───End】
悠介 「………」 ルナ 「悠介?」 悠介 「あ、いや……なんでもない」 自分の知らないところでなにかとんでもないことが起きている気がした。 でも気にしないでおこう。 今は集中、集中だ。 ディル『それで王よ。何処へ向かえばいいのだ?』 悠介 「知らずに飛んでたのかよ!」 ディル『知るわけがなかろう。王のことだ、それが無茶なことだろうが実行するのは解る。     故に精神がどうとかも大体の予想はついた。     伊達に王の下でともに戦ったわけではない。だがそれとこの現状は別だ。     経緯もなにも知らない上に説明もされていないのでな、解りようもない』 悠介 「む。そりゃそうだが」 さて、どう説明したもんか。 精霊の力の解放する旅をしてるんだー、と言ったところで目的地が解るわけでもない。 情報が少なすぎるな。 かといってアルギーのところに行くのもなんだ。 竜……竜か。 よし、ゼット……じゃなくてみさおにtellを飛ばすか。 tell:簾翁みさお、と───ナルルルル……ブツッ。 声  『はい?どなたですか?』 悠介 「校務仮面だ」 声  『そうですか。切りますね?』 悠介 「ああ待て待て!     いつからお前はそんな寂しいやつになったんだっ!父は悲しいぞ!」 声  『父さま……あのですね、砕けるなとは言いませんが、もう少し押さえてください。     気でもフレましたか?』 うわー、すげぇ言い方。 悠介 「言っておくが気がフレたわけでもおかしくなったわけでもないぞ。     ゼットに訊いてほしいことがあってtellを送ったんだ。ちょっといいか?」 声  『ゼットくんにですか?それなら直接───』 悠介 「すまん、俺があいつに直接tell送っても、     勝負ごとの話にしかならない気がする」 声  『ええ……まあ、そうでしょうとも』 あっさり納得された。 ……言われてるぞ、ゼットよ。 声  『それで……訊きたいことというのは?』 悠介 「ああ。戒めの宝玉っていうのを守っている竜が居る場所を教えてほしい」 声  『戒めの宝玉、ですか。解りました。ゼットくん、ちょっといい?』 声  『ぬ……?なんだ』 ───……。 ……。 ややあって─── 声  『お待たせしました父さま』 悠介 「解ったのか?」 声  『はい。いいですか?まずガジェロマウンテンの上空にミストドラゴンの住処、     エトノワール近くのナーヴァルヘイム山にブルードラゴンの住処、     西の大陸の海底に水竜の住処、トカホウテ山の頂上にカイザードラゴンの住処、     サンドランドノットマット砂漠にサンドドラゴンの住処、     氷河にアイスドラゴンの住処、そして───この大空の何処かに、     デスゲイズという伝説のバケモノが居るらしいです。     その存在が宝玉ごとドラゴンを飲み込んだらしくて』 悠介 「デスゲイズって……くはっ……!FF6ネタかよ……!」 となると、飲み込まれた竜ってのはバハムートの可能性大だな。 つまり相手はそれほど強いってことだ。 まいったな……これが野菜星人とかだったら喜んだりするんだろうが、 生憎と俺は戦いを楽しめるほど自分に自信を持っちゃいない。 自分に必要なのは過信って呼べるくらいの自信だってことは以前知り、 それはちゃんと力になった。 けどそれじゃあまだ足りない。 だったら次にするべきことは───現時点で満足なんてせず、さらに上を目指すことだ。 悠介 「……はぁ。それで全部か?」 声  『はい』 となると、一箇所一箇所に宝玉ってのがあるわけじゃないってことか? それとも一箇所に数個ある場所もある……? どちらにしろドラゴンボールを探すより面倒なことになったかもしれない。 なにせレーダーが無い。 悠介 「解った、サンキュな」 声  『いえ。それよりも、なにか面倒ごとなのですか?でしたらわたしも───』 悠介 「いや、今回は俺とルナだけでいい。なんとかなるだろ」 声  『……父さまの場合、頼りない言葉なのに実行してしまうから恐ろしいんです』 悠介 「………」 恐ろしいか?俺。 まあいい、どちらにしろ戦わなきゃならないのは事実だ。 いや、戦わずに無視して済むならそれが一番なんだろうが、生憎と俺も男だ。 ファンタジーに夢を持っているし、まあその。 前言を撤回するようだが強いヤツには興味がある。 悠介 「ま、いいや。じゃあな、そっちも頑張れ」 声  『ええ、それは。ですが……あの、父さま?なにかありましたか?』 悠介 「うん?なんでだ?」 声  『いえ……声から険が抜けたというか……どう喩えたらいいんでしょうか。     なんだか柔らかい声になっているような気がします』 悠介 「ん───……ああ、そりゃ俺が“今”を楽しんでる証拠だ、気にするな」 声  『……?』 tellの向うから困惑の雰囲気が漏れる。 はは、解らないのはしょうがない。 俺だってこんなのは、とんだ不意打ちもいいところだ。 魔物が居ないなら召喚獣を連れ込もう、って適当な考えで呼び込んだ召喚獣がきっかけで、 かつての自分を思い出せたんだから。 案外妙なところで忘れやすいのは俺の悪いところなのかもしれない。 イメージを武器とする自分がこうなんて、ちょっと情けない。 ともあれ困惑のままに会話は終わり、 未だ好き勝手に飛び回ったままのディルの上で、俺は目的地を決めることにした。 悠介 「ルナ、まず何処に行きたい?」 ルナ 「えーと……」 悠介 「よし!砂漠か!」 ルナ 「え?わたしまだなにも言ってないんだけど……」 悠介 「それでも良し!ディル!行くぞ!」 ディル『承知!!』 ゴォッ───バォオンッ!! ディルが飛翼をはためかせ、さらなる速度で風を切る。 それが数分続いたのち───ふと気になって訊いてみた。 悠介 「……なぁ、ディルよ」 ディル『なんだ、王よ』 悠介 「…………砂漠が何処にあるのか、知ってるのか?」 ディル『………』 悠介 「……知らないのか……」 のっけから不安全開の旅の始まりであった。 Next Menu back