───冒険の書125/猫の里へ行こう!───
【ケース338:中井出博光/猫の里へようこそ】 シュゴォーーーーーッ……プスンッ! 中井出「ゲゲェ!!」 ガス欠だ!こ、これはヤバイ! エィネ『博光さん!落ちてますよ!?』 中井出「うん!今僕も物凄く体感してる!」 言われるまでもなかった。 ───さて、今の状況がどんなものなのかといえば─── コトは少々前に遡り、山に囲まれた猫の里を目指すために移動を開始した俺達だが、 その山があまりにも高いことを実感。 そしてあまりにも広いため、遭難しかねないことを懸念して…… まあその、なんというか……ジークリンデで風を起こして空を飛んでいたわけだ。 しかしタクティカルな行動はやはりタクティカルポイントを消費させるようで、 消費TP8倍の効果もあってかあっさりとTPは底を突いた。 お蔭で高い空を飛んでいた俺とエィネは見事に落下運動を開始。 ……ちなみに名前の呼び方はそれぞれで決めて、今ではもう『さん』付けはしてない。 と、そんなことよりもだ。 中井出「原中大原則ひとぉーーーつ!     どんな状況に置いても楽しいことを探し、それを実行しなければならない!     尚!それが有名どころや細かすぎて解らない何かに似た状況であるならば、     それを真似するのは当然!否!必然!でも偶然を愛してる!」 こんな時だからこそ思うことがある。 ああ、俺……焦ってるなぁ、と。 さてここで問題だ。 大空から落下。しかも高い。するべきことはなんだ!? 念仏!?否! 絶叫!?否! パイロットウィングス!?───確実に死ぬから断じて否ァ!! (注:大空でパイロットウィングス=彰利お得意の、    パラシュートをつけずに満点地点に頭から落下するの意) 笑顔ウルトラZ!?───いかん!ありきたりすぎる! ならばONEPIECEのOP、ココロの地図バージョン!?……ひとりじゃやりきれん! だったら───そうか! 中井出「グラップルァ〜〜───刃牙!!」 バキ(幼年期)のように、落下と同時に回転などで勢いを殺す!! 大丈夫!今の僕になら出来る筈さ! さあ!とりあえず飛び越えた山の先、猫の森の形が物凄い速さで近づいてきた!! ───ここだドグシャォオンッ!!! 中井出「ほぎゃああああーーーーーーーっ!!!!」 見事に失敗。 俺はまるでザ・グリードに出ていた男のように脚を砕き、 まったりとした情けない導きのヴォイスでオワァ〜〜ゥハハハハァ〜〜ンと泣いた。 さてここで何がいけなかったのかを考えよう。  1:刃牙はパラシュートを使っていた もうそれだけで十分だった。 しかしパラシュートはゆっくりと落ちるものだと思っている者よ、それは大きな間違いだ。 多少の勢いは殺してくれるが、所詮落下の法則を殺しきることなど無理なのだ。 ……そんなことはさておき。 生きているならとっとと回復してくれるところがこの世界の素晴らしき青春。 意味不明だけどしっかりと足は回復した。 エィネ『博光さん、博光さん……』 中井出「お、おお〜〜〜っ、ど、どうした〜〜〜っ」 エィネの言葉に疑問系で返しつつ周りを見渡すと、なんと猫、猫、猫…… アイルーやらメラルーやら、黒ぶちやら金色猫やらが恐ろしいほどごっさり居た。 見ればここは森の中。 どうやらここが猫の里で間違いないらしい。 猫1 『な、なににょ!?』 中井出「にょ!?」 猫っていったら“にゃ”なんじゃないのか? クロマティ高校の前田くんだってそこんところは解ってたようだぞ!? 猫1 『ボクらの集落に何の用だにょ!?     災いを齎しに来たのならただではおかないにょ!』 中井出「………」 思い出したのは大神一郎少尉。ではなく。 声優が同じなだけの、猫マスクを被った妙な男だった。 エィネ『ど、どうするんですか?猫という猫がゾロゾロと集まってきたんですが……』 しかも穏やかな雰囲気では断じてない。 これは……もしかしてヤバイ? だが俺の頭には既にエクスカリバーを言葉に模すが如き武器が作成されていたのだ。 これを唱えりゃ一発簡単! 中井出「客だ!故あって、武器を鍛えてもらいに来た!!」 猫達 『お客様は神様ニャ!!』 そして物凄い速度で予想通りの反応をしてくれた猫達。 で、その中にはしっかりと─── アイルー『ニャニャッ?これはこれはお得意様ニャ。どうしてここに居るニャ?』 中井出 「武器を鍛えてもらうために追ってきたのだ!」 アイルー『そ、そうなのかニャ?それは鍛冶職人冥利に尽きるニャ』 メラルー『任せるニャ!ボクらが責任持って旦那さんの武器を鍛えてあげるニャ!』 猫2  『旅の途中で手に入れた珍しいものも混ぜてみるニャ!』 猫3  『ボクもいい素材を手に入れたニャ!』 アイルー『時にお得意様、お金のほどはいかほどニャ……?』 中井出 「百五十六万$はあるから思いっきり鍛えてやってほしいんだが、どうだ?」 猫達  『ざわっ……!!』 中井出 「お……お?」 猫達がざわざわとどよめき始めた。 な、なんだ?もしや全然足りんとでも言い出す気か? 猫達 『か、神様ニャ……!猫の里に舞い降りた神様ニャ……!』 いや、そうでもないらしい。 どうやらあまりの金額に感動していたようだった。 まああれだ、アンデッドどもをコロがしまくり、 技術スキルUP能力で効果が上がった銭スキルのお蔭で金ならたーんとある。 さらにランクキング報酬で百万貰ったから、余計にだ。 メラルー『早速取り掛かるニャ!ところで旦那さん、      マタタビがあるとボクたちやる気が出るのですがニャ……』 中井出 「マタタビ?あ、そういや……」 いつか、といっても結構前だが、 アイルーがやってくれた鍛冶とかの代金を値引くために た〜んと買ったマタタビが残ってた筈……お、あったあった。 中井出 「じゃ、これな。持ってるの全部を進呈しよう」 メラルー『ゴニャニャッ!ご機嫌ニャ!みんな、頑張るニャ!』 猫達  『ゴニャ〜ゥニャッ!!』 猫達がエイオーとするように、腕を二回振り上げる。 やる気が出たみたいでなによりだ。 ……と、そっか。武器渡さなきゃ鍛えられるものも鍛えられないよな。 俺は霊章から双剣を取り出すと猫達に渡し、まず一息。 猫達がそれらを持って森の奥へとトカカカカと走っていく様を眺めつつ、 ふと思い出したことでアイルーを引き止め、覇王の勲章と女王の勲章を取り出して渡す。 アイルー『……これは特種なものですニャ』 で、早速鑑定眼を輝かせるアイルー。 さすが商売人……じゃないな、商売猫。行動に無駄がない。 アイルー『見たところ、一つ一つじゃなんの意味も無いものニャ。でも……』 中井出 「でも?」 アイルー『丁度いいニャ。ペリカンも一緒に連れてきてるニャ。      ペリカンで融合させてみるニャ』 中井出 「……ダイジョブか?」 アイルー『ボクの鑑定眼を信じるニャ!』 言うや否や、器用に口笛を鳴らし、森の奥から怪盗ペリカンを呼ぶアイルー。 ううむ、ちと不安なんだが本当に大丈夫なんだろうか……などという心配を余所に、 とっととペリカンの口に勲章二つをポポイと放り投げてしまうアイルー。 そのあまりの適当さにオワッ───と声を上げそうになってしまったが、 やがて合成されて出来てきたものに、思わずオオウ……という声が漏れた。  コシャンッ♪《“天地の覇紋”が完成した!》 アイルー『こ、これは凄いニャ……まさかとは思っていたけど、これは天地の覇紋ニャ』 中井出 「し、知っているのか雷電」 アイルー『う、うむニャ……』  ◆天地の覇紋───てんちのはもん  天と地、双方に認められるほどの戦いをし、これに打ち勝つことで手に入る勲章。  文字通り覇王にのみ持つことが許される勲章であり、  かつて巨人族が誕生した時代、始祖が発見したとされる太古の金属で出来たもの。  故に現在の技術での加工は困難を極め、  同じく太古の技術でなければ溶かすことさえ出来ないという超稀少金属。  巨人族のシンボルとして飾られていた勲章なのだが、  伝説の九頭竜との戦いにおいての天地崩壊の際、二つに乖離されたという。  それ以来は一つを覇王の勲章、一つを女王の勲章として唱え、  大事に保管していたのだという。  大変貴重な品だが、割れてしまった頃から価値が無いものと判断されるようになり、  いつしか闘技場の賞品になるにまで至ってしまった。  太古の魔術が封印されているらしく、時折鈍く輝く。  金属、素となる鉱石の正式名はロマンシングストーン。  夫婦武器、姉妹武器などに合成させるとなにかが起こる。  が、この勲章自体が一つしか無いため、一対の武器に埋め込むのは不可能である。  *潜在効果:合成させてみなければ解らない アイルー『……と、いう大変貴重なシロモノなのニャ……』 中井出 「な、なんというものを……!」 これは驚きだ。 そんな貴重なものだったとは……! ……うむ?貴重なもの? 中井出 「っと、そうだった!猫よ、これも我が武器に合成してはくれまいか」 アイルー『なんでもこいニャ!もはやお得意様は本当に神様ニャ!銅像でも立てるニャ!』 中井出 「いえ結構です」 アイルー『残念だニャ……。それで、この箱はなにニャ?』 中井出 「秘密箱だ」 アイルー『なにがどう秘密なのニャ?』 中井出 「秘密らしい」 アイルー『…………混ぜちゃってほんとに大丈夫ニャ?』 中井出 「ファンタジーにはいつだって博打紛いの行動が必要なのだ!      というわけでGO!既に泣く覚悟は出来ている!!」 アイルー『ようするに旦那さんも不安全開なわけだニャ……?      ───解ったニャ!確かに任されたニャ!』 中井出 「うむ!頼んだ!」 箱を渡し、願いを託すと猫はゴニャァア〜〜ォオウと鳴きつつ森の奥へと走っていった。 さて、こうなると…… 中井出「……どうしようか、これから」 エィネ『はい……』 手元に武器が無い俺は、特に出来ることも見つからなかった。 俺って武器が無いとほんとダメな……。 かといって、今ここで霊章使って双剣引き寄せても意味無いし。 アイルー『訊き忘れてたニャ!』 中井出 「うわっと!?ど、どうした猫!」 アイルー『アイルーだニャ!……この勲章、ひとつの武器にしか合成できないニャ。      どっちか一方に埋め込むことになるけど、どっちがいいニャ?』 中井出 「へ?……あ、そっか」 考えてみればジークフリードの作成は時の回廊でやったんだっけ。 それじゃあこの猫が双剣以外の形を知るわけないよな。 長剣の状態で渡したこともあった気がするが、 それがよもやかつての双剣だなんて思いもよらんだろ。 中井出 「今鍛えてる双剣を完全に鍛え終えたら俺のところに持ってきてくれ。      そうすればその双剣、一本の長剣に変換するから」 アイルー『……変換武器ニャ?』 中井出 「その通りさ!」 我が武器は変換武器! 武器変換なんて最高じゃないか! これぞロマン!嗚呼浪漫!浪漫倶楽部! すぐ傍にあるよ!僕達のステキ! ポエミー萩原・メッセージ集が懐かしい! ……関係無いけどね。 アイルー『解ったニャ。それじゃあ今はとにかくぶきを鍛えることに集中するニャ』 中井出 「よっしゃ頼んだ!」 アイルー『お任せニャ!』 で、再びトカカカカと走りつつゴニャ〜と鳴くアイルー。 走る際は鳴かなければ気が済まないのは仕様なんだろうか。 中井出「……と、見送ったわけだけど」 エィネ『はい……』 この暇な時間、どうしたもんか……。 ───……。 ……。 何はなくとも歩く足があるとはよく……言わないよな、うん。 けれど俺は歩き、猫の森の中を探検していた。 すると……あるわあるわ、タルやガラクタ、雑貨やアイテムの数々。 しかし手は出さない。 相手はアイルー族だ、 ヘタに“モノ”に手をだしたらどんな反応をするか解ったもんじゃない。 しかし僕の中のソウルはしきりに“やれ!やるのだ!”と叫んでいたりする。 だが落ち着け僕の原ソウル。 武器を預けているというのにそんなことをしてみろ、 対価として双剣を没収される可能性だってあるのだ。 …………そう考えると、なんとか鎮まってくれる僕のソウル。 ふう、危機一髪だ。 エィネ『思っていたより広いんですね』 中井出「そうだなー」 それにしてもいったいこの森に猫は何匹居るのか。 あまりに広いもんだから、少々考えてしまう。 ……と、そんなことを実際に考えつつ歩いていると、 鍛冶工房に行かずに待機している猫を発見。 中井出「ごめんよぅ」 そこで俺は、どうやら宿屋らしい猫の前で暖簾(のれん)
をくぐる仕草をしつつ、 ニヒルに言葉をかけてみた。 猫  『ゴニャウ、いらっしゃいニャ〜』 中井出「早速だがこんなところに宿開いて、誰か客来たか?」 猫  『……創業以来初めてのお客様ニャ……』 中井出「ぐっ…………!」 思わず涙が出た。 猫  『盲点だったニャ……こんな山に囲まれた場所にお客様がくるわけがないニャ……』 中井出「気づいてたんならやめるべきなんじゃないのか……?」 猫  『それをすると何かに負けるような気がして嫌なんだニャ!』 ……妙なところでに出会った気分であった。 猫  『それで、キミはお客様ニャ?』 中井出「おお、お客様だ。一泊させてくれるとありがたい」 猫  『お安い御用ニャ!料金は前払い、食事付きで3500$になるニャ』 中井出「高ッッ!!ちと高すぎやしないか!?」 猫  『なにを言ってるんだニャ!?おたく、宿をナメてるニャ!     高級リゾートとはいかないまでも、     宿代が100や200で済むわけがないニャ!』 中井出「……なんでこんな辺境にまで来て妙な現実説かれにゃならんのだ?」 でも言われてみればそうだった。 現実の宿代ってメチャクチャ高いよな。どうかしてる。 中井出「解った、解ったよぅ……。     一応百五十万$以外にも数万数千$は持ってるから、その中から出す……」 猫  『毎度ありニャ!』 中井出「毎度なんか来ちゃいねーや……」 ともあれ寝る場所は手に入れた。 あとは武器の完成を待つだけだ。 果報は寝てます、じゃなくて寝て待てって言うしな、早速寝るか。 全てが終わったら、その時こそ宝玉破壊の旅の再会の時である。 【ケース339:晦悠介/灼熱砂漠の砂竜】 バサァッ……バサッ…… ディル『王、着いたぞ』 悠介 「あ、ああ……」 ルナ 「ねぇ悠介。ここに辿り着くためだけで世界何回回ったっけ」 悠介 「言うな……思い出したくもない」 ただでさえここに来る前に氷河地帯を通ったもんだから、 激しい温度変化に頭がボーっとしているところだ。 ルナ 「この中から砂竜を探すの?」 悠介 「そうなるわけだが……」 ぐるぅりと見渡してみる。 解ってる。 そんなことをするまでもなくこの砂漠が広すぎることなんて解りきったことなのだ。 しかし人間……いや人間じゃないけどさ、 やっぱり否定しておきたいことってのはあるだろ? 悠介 「ふむ……」 音爆弾を投げたところで飛び出てくるわけでもなし。 ここはやっぱり─── 悠介 「式にて二点を描き、力とする。魔導万象二式!“大地の咆哮”(スプレッドアース)!!」  ドッゴォオオオオンッ!!! 式を描いて万象から力を得ての魔術発動。 その力は砂の海に強い震動を加えた───が。 悠介 「……出ないか」 ゾーンイーターの時みたいに上手くはいかないか。 もっとも、あの時やったのはグランドダッシャーだったわけだけど。 仕方ない。 悠介 「ディル、もっと高く飛んでくれ」 ディル『承知』 バサッ……バサァッ!ゴゥウンッ!! ディルが飛翼をはためかせる。 すると景色は高く高く広がり、見える砂漠の範囲もどんどんと広がってゆく。 そうする中で雲を突き抜けてはさらに上昇し、 恐らくここならば砂漠全てが見渡せるだろうというところで停止してもらった。 ルナ 「悠介?」 悠介 「しっかり掴まってろ。ディルも、衝撃に備えてくれ」 ディル『お前がやりそうなことくらい予想がついている。遠慮なくやれ』 悠介 「オーライ!イメージ、凌駕にて解放!雷神槍(ヴィジャヤ)!!」 イメージを弾けさせ、手に雷神の槍を創造する。 さらに槍の穂先に震動のイメージを追加し、渾身を以って───投擲する!!  ギガァァアガガガチュゥウウンッ!!!! 一直線に、恐らく砂漠の中心部があるであろう場所へと落下してゆく雷神槍。 空気さえ捻り穿つ轟音はまるで、竜族のレーザーが如し。 やがて雲さえ貫き掻き消す光が砂の大地に突き刺さると、 槍に込められた力が地面の底の底へと放たれ、 その中心から衝撃が放たれるとドッガァアアンッ!!!! 悠介 「───!出た!」 広い広い砂漠から弾き出されるように巨大な生物が宙に舞う。 それを確認すると俺はイメージを弾けさせ、クン、と手綱を引いた。 ディル『……やれやれ。人使いの荒い……』 悠介 「人じゃないだろ、お前」 ディル『受け取る側にしてみれば妥当な言葉だと思うがな。では───行くぞ!!』 ディルが急速落下を開始する。 それとともに俺はルナを左腕で抱きかかえ、己の右手には─── 悠介 「理など越えてゆく!壁など意思の外の残骸と唱えろ!     他人の意思など存在せぬが如く!我が意思こそが無限の自由!     我が手に舞い降りろ!“皇竜剣”(ラグナロク)!!」 今こそ壁を越えてゆく。 集中した意識が世界の理を破壊し、我が手に己が武器を降り立たせる。 黄昏の加護も無しに出現させたそれはイメージが真に至らなかったためか、 ひどく中途半端だった。 だが今はそれだけで十分だ。 悠介 「いくぞディル!!」 ディル『応!!』 ヴィジャヤが穿った雲の間、その虚空を落下してゆく。 風を切る中で剣を槍に変え、敵の気配に気づき、俺達を見上げる砂の中に生息する竜。 だが見上げる行為が命取りだ。 思ったよりも巨大であったそいつは、 砂の中に生息している竜であるにも関わらず俺達目掛けて飛翔。 大口を開けて俺達を飲み込もうとしたんだろうが、 ディル『ルゥウウオォオオオオオオッ!!!!』 先ほどイメージし、弾けさせた黄金の輝きを身に纏うディルは、 そんな大口さえ気にも留めぬかのように落下を続け、ゾゴブチャァアッ!!! 砂竜 『ギッ……ギャ……!?』 怯むことなく口へと突撃し、喉から尾にかけて、容赦なく貫き破壊した。 やがてその無茶苦茶な現実が砂竜の意識へと届く刹那の間隙、 そいつがギョロリ、と見た視界の先には───槍を構えて落下する俺の姿が。 悠介 「悪いな!全力でいくぞ!加減してやる理由がない!“竜槍は対を成す流星(ツインスパイク)”!!」 ザゴォンッ!! 砂竜 『ギ───!?』 重力に囚われ、体が落下を開始した直後のことだ。 巨体は赤い槍に眉間を穿たれ、何かを思う隙さえ与えず脳組織を破壊。 数秒後には大地に落下する筈だった巨体を、空中で塵に変えて消し去ったのだった。 で─── 悠介 「うん、よし」 以前は足の骨が砕けた俺だったが、今回は大丈夫だった。 やっぱり、鍛えておいて損は無いってことだろう。 ……一般常識内の鍛え方とは明らかに違うものだが。 ルナ 「わー……」 で、ターンして戻ってきたディルゼイルが俺達を上手く受け止めると、 ルナは風に流されてゆく砂竜の塵を眺めつつ、 感心してるのかどうなのか形容しがたい声を出していた。 ディル『今のが守護竜か?随分と呆気なかったが』 悠介 「相手が竜なら付加させるイメージなんて簡単ってことだよ。     正直お前が無事かどうか解らない賭けみたいなもんだったけど」 ディル『つまらん嘘はやめるのだな、王よ。     お前が誰かを犠牲にしてまで勝利に固執するわけがない』 そりゃそうだ。 時と場合にもよるけど、それは原中の猛者どもや、主に彰利に限ったことだ。 ……今回ディルゼイルを包んだ膜はヴィーダルじゃあなかった。 屠竜剣……即ちグラムのイメージを膜状にしてディルに被せたものだ。 お蔭で砂竜の体さえ簡単に貫くことができた。 砂の竜とはいえ、竜であることには変わりはない。 よし、この調子でどんどんといこう。 ルナ 「でもさ、悠介。随分と容赦なく殺しちゃったのね」 悠介 「うん?……ああ、さっきの竜か?」 ルナ 「うん。空界を飛び回ってた悠介だったら、多分───」 悠介 「取る行動は同じだっただろうな」 ルナ 「え……?そうなの?」 悠介 「当たり前だ。今の竜、“生気”が篭った目なんてしちゃいなかった。     あれはただの竜じゃない。     精霊の力を封印したヤツが作った陰陽道で言う式紙ってやつか、     竜の皮を被せたただのバケモンだろう。     もしくは───精霊の宝玉の力にあてられて、     竜としての在り方を見失っちまったかだな。     まあ、どちらにしろ“生き物”だなんて呼べるモノじゃなかったよ」 ルナ 「そうなんだ。よくあの一瞬で見分けられたね」 悠介 「これでも立ち向かう時だろうが話し合う時だろうが、     よっぽどのことがない限りは相手の目を見るのは癖みたいにしてるからな」 おまけに戦闘体勢を取った時は、目がイーグルアイに変異するんで。 だからどれだけ離れていようが、よっぽど遠くじゃない限り余裕で見える。 悠介 「で、だ。竜は倒したが───」 ルナ 「うん。宝玉は何処にあるんだろうね」 そう、それだ。 パッと見た限り、そんなものは見当たらない。 さて……困ったな。 悠介 「……っと、そうだ。我、晦悠介の名において命ずる。いでよ、ジャミル」 召喚獣として慣らすために、 自分の中に入ってもらっていたジャミルを召喚する。 ジャミル『……はっ。このジャミル、王の命により惨状いたしました』 悠介  「てい」 デゴシッ! ジャミル『はうっ!?な、ななななにを!?』 悠介  「チョップ。あー、もう散々といろんなヤツに言ってきた言葉だけどな。      俺に対してそう畏まった態度をとるのはやめてくれないか?」 ジャミル『な、なにを言うのですか王!あなたは王!モンスターキングなのですよ!?』 悠介  「百歩じゃ譲りきれないが今は譲るとしても、      敬語を津波のように畳み掛けられるのはもう疲れるというか……」 ルナ  「……あ。ねぇ悠介?潤い肌と輝ける変態からメールが来てるけど」 悠介  「………」 すまんウンディーネ、ウィルオウィスプ…… 潤い肌と輝ける変態ってだけで、一発でお前らだって解ってしまった俺を許してくれ。 悠介  「と、ともかく。むしろ砕けるように接してくれたらありがたいんだが」 ジャミル『砕ける、ですか?』 悠介  「堅苦しいのはとにかく苦手なんだ。だから」 ジャミル『く、砕けろ、ですか……解りました、それが王の願いであるならば……。      どうかこれからの私の態度をお許しください───おい、そこのモミアゲ』 悠介  「言うと思ったわぁーーーーーっ!!!!ヂガァアンッ! ズガガガガガガォオオオンッ!!!! ジャミル『ふあぎゃぁああああああああっ!!!!?』 裁きが炸裂した。 悠介  「ええいどいつもこいつも砕けるときたら人のことをモミアゲモミアゲと!      お前はあれか!?俺に喧嘩売ってるのか!?      それとも俺はモミアゲじゃなけりゃ存在感が薄れるとでもいうのかぁあっ!!」 ジャミル『うあわわわ!し、失礼しましたぁっ!!      し、しかしながらその、あまりに見事なモミアゲだったもので───』 ルナ  「ジャミちぃ、それ、業火に炸裂弾投げ込んだだけ」 ジャミル『ジャミちぃ!?《ばぢぃっ!ばりばりばりーーっ!!》うわわわわぁあっ!!』 悠介  「見事さで言うならお前のねじれた角のほうがまだ見事だろうが!      それを人のモミアゲと比較して楽しいかこのたわけぇええっ!!」 ジャミル『比較だなんてそんなつもりは!      王のモミアゲに比べれば私の角など《ヂガガガァアン!!》ぐわわーーーっ!』 悠介  「ええいこれでもかこれでもか悪魔超人めギギギィイーーーーーーッ!!!!」 ルナ  「ねーねー悠介?あんまりやるとそのコ、死んじゃうよ?」 悠介  「大丈夫だ!裁きと一緒に回復のイメージも流してる!」 ルナ  「そういう問題なの?んー……まあいっか」 ジャミル『そ、そんな!全然よくないのですけど!?』 ディル 『王よ、そのくらいにしておけ。      一つのことに夢中になると目的を忘れるのはお前の悪い癖だ』 悠介  「む」 そりゃそうなんだが。 ……いかんな、モミアゲのことに触れられるとどうにも……。 悠介 「解った。じゃ、宝玉探しを始めるか」 ルナ 「わ、怒った悠介がすぐに落ち着いた。ディルっちって悠介の鎮静剤?」 ディル『いきなり薬物扱いしないでもらいたいのだがな……まあいい。     王の暴走を止めるのは下に就く者の務めというものだ。     それが出来ずになにが家臣か』 ルナ 「……悠介?ディルっちなにか言ってる?」 悠介 「薬物扱いするなだとさ。けど、そっか。     ルナにはディルがなに言ってるのか解らないんだな」 ルナ 「うん」 悠介 「ふむ」 頭の中でイメージを編んで、指で輪を作ってポムと創造。 出てきたのは鈴。 それをルナ……まあその、左のモミアゲ部分につけてやる。 すると耳に手を当てて、コクコクと頷くルナ。 ルナ 「ディルっち、喋ってみて」 ディル『前々から思っていたのだが、貴様のそれは空き缶か?』 ルナ 「───」 あ、にこにこ笑顔が一瞬にして凍りついた。 どうしてみんな、一言が多いだろうなぁ。 傍から見れば、モミアゲに触れられた俺もこんな感じなんだろうな……。 このまま見過ごすのは危険だよな、うん。 とりあえず円月の極致を発動させようとしたルナの頭をポムと撫で、 落ち着いてもらうことにした。 悠介  「ディル、降りてもらっていいか」 ジャミル『む……今さらですが、とても暑いですね……』 悠介  「戻るか?」 ジャミル『はい、失礼します』 言葉と同時に、とっととゾリュンと俺の中に戻るジャミル。 ……どうやら暑いのは苦手らしい。 降りるごとにどんどん暑くなってきてるしな……こりゃ暑い。 ルナ 「うー……わたしも入っていい?」 悠介 「入れるもんならな」 ルナ 「うう……わたしって悠介の召喚獣になれないの……?」 悠介 「───」 ズキリ、と頭が痛んだ。 思い返されるのは嫌な映像。 思い出したくもないものなのに、心に留めておかなければならない矛盾した映像だ。 だからだろうか。 それを払拭するために、 悠介 「てい」 ルナ 「《ずびしぃっ!》あいたっ!……もう!なにするの悠介!」 ルナの額にデコピンを進呈した。 悠介 「あのな、そういうことは───、……ああ、そうだな……。     きっと、あいつはこんな気分だったんだろうさ。目の当たりにしたなら尚更だ。     ……もしお前が死んだりしたら、その亡骸を吸収してやる」 ルナ 「えぇ……?って、あ───」 悠介 「繋がってるなら、もう解ってるんだろ?     頼むから、もうそんなことは言わないでくれ」 ルナ 「……ホモっち、かぁ」 精霊となった時、嫌な世界を俺は見た。 それは自分の未来だけじゃない。 いや……確かに“俺”の未来ではあったのだろう。 ただし───それは別の時間軸の俺の未来。 俺があそこに辿り着くことは絶対に無いが、それでも嫌な未来は嫌な未来なのだ。 いや、果たして───あれは精霊になったから見た未来なのか、それとも─── ま、そうだろうな。 精霊になったからって未来が見えるわけがない。 ようするにあれは、未来の馬鹿者が俺に送ったメッセージだ。  ───俺の未来には絶望しか待っていてはくれなかった。 幸せになりたかった筈なのに。 幸せだったのは───そう、きっと今、この時までだったのだと。 だからあいつは…… 悠介 「……そうさ」 解ってる。 俺が見た全ては俺が至る場所の夢。 “俺”は彰利に殺され、 けど───あの時と同じ黄昏の中、あの場所であいつと喧嘩をする。 先に見える景色は一切無かった。 その意味が、この時間軸にはあるのだろう。 そしてそれこそが───“晦悠介”っていう馬鹿野郎が辿り着く“最果て”。 人の在り方に絶望した。人の黒さに涙した。 でも……幸せじゃなかったなんて、そんなことなかった。 そう、かつて思えた馬鹿が行き着いてしまった場所。 けど、気づいてみれば幸せなんてものは無く、 守ってきたものにこそ守りたかったものを破壊された馬鹿な英雄の末路。 ……ああ、そうだな。 俺は幸せになんてなれやしない。 ずっと馬鹿みたいに守るだけで、自分の本当の感情に気づくことなく一生を生きるんだ。 英雄になり、自分じゃ自分を殺しきれない存在になって、 泣きたいのに涙の流し方さえ長い時の中で忘れちまった馬鹿野郎は、ずっと生きてゆく。 それで……守ってきたもの全てを破壊して、全てに絶望したそいつは…… 世界を綺麗なままで止めるために、この時代に降り立った。 醜いままで終わってしまった世界を、せめて綺麗な思い出のままでと。 血で真っ赤に染まってしまった視界でも、 かつて自分が笑っていられた世界なら綺麗に映ると信じて─── 悠介 「………」 ……もう終わりにしないといけない。 心の奥底ではきっと解りきっていたことなんだ。 感情が完全に復活しない自分では、 たとえ幸せの中に居ようが───永遠に幸せを感じることなど出来ないのだと。 それを知っているからこそあいつは来た。 俺の未来に幸せなど待っていてはくれない。 だからこそ、幸せだった世界を懐かしみ、願わくば───親友に殺してもらうために。 ヤツが願う“世界の崩壊”とは即ち、俺達の日常の崩壊。 俺達が今を生き、笑っていられる“日常という名の世界”を、あいつは壊す気なんだ。 ……我ながら、なんて不器用なんだろうな。 全てに絶望して、親友しか信じなくなったあいつなのに─── 結局は“俺達にあんな地獄を見せないために”と、全員を殺す気でいる。 いいや、違うか。 あいつの狙いは俺なんだろうな。 守りたいものを守るなんていうくだらないことを考えている者への粛清とでもいうのか。 ……そうだな。 守ってなんかいなければ死なずに済んだ親友が居た。 その時の気持ちを俺は、どう受け止めたらいい。 ……受け止められる筈が無い。 俺が生きた歴史など、あいつに比べれば小さすぎるのだから。 ルナ 「……悠介」 悠介 「ああ」 ここで考えてたって仕方ないよな。 というか───うだるくらいの暑さの中で、汗水流しながら考えることでもない。 アホゥか、あーだこーだ考えても仕方ないことだってある。 悠介 「さてと。宝玉探しをするか」 ディル『……王、移動をするならば私を───ああそうか、この世界に竜球などないか』 悠介 「黄竜球もシュバルドラインに返しちまったからな。     無断で引き寄せるのも気が引ける」 ディル『……おい女。王は私を引きずり込む時もこのようなことを懸念していたか?』 ルナ 「え?全然」 ディル『王……貴様な』 悠介 「あ、ははははっ……さ、さぁ〜、探すかぁ〜!」 無断で引きずり込んだのはディルゼイルも一緒だった。 いや、まいったな、そんなつもりは全然無かったんだが。 そんなことを考えながら歩き、誤魔化すように頭を掻いた時。 悠介 (……未来、か……) 脳裏に浮かんだのは未来の映像。 俺の未来と絶望の未来。 いつか辿り着く場所が解ってしまってるのに、 こんなに落ち着いていられるのはどうしてだろう。 未来は変えられるって解っているからか? それとも……変えられない未来もあるって知ってしまっているからか? 悠介 (どの道俺が切り開こうとしてる未来は、     見えた未来の中じゃ一番まともだと信じたいよ) 守りたいものを守る。 結局俺には、それしかないのだから。 Next Menu back