───冒険の書126/勇気をお出し……───
【ケース340:晦悠介(再)/嗚呼この素晴らしき非凡平凡猪口凡々】 ───さて、それからのことだが。 このだだっぴろい砂の海を歩き続け、既に数時間が経過していた。 日は既に暮れ、今や真っ暗な世界の下で、 涼しいどころか寒いくらいの温度の中で今もまだ宝玉探しをしている俺達。 手掛かりはそりゃあったんだが、 ゼットから齎されたソレはせいぜいで竜が生息する場所って程度である。 宝玉が何処にあるかまでは、さすがの竜王も知りはしなかったのだ。 悠介 「はぁ、こうなってくると探しものってのも面倒極まりないな」 ディル『そうか?何処か楽しそうだが』 悠介 「たはは、解るか」 まあそうだ。 これで案外楽しんでいたりする。 やっぱり感情ってのは大事だな。 大多数の人がつまらないだの退屈だの言うだろうことでも、 俺にとっては結構新鮮味があったりする。 ようするに今の俺は状況を楽しむというよりは、感情を楽しんでいるんだろう。 そこらへんが“だろう”だの“らしい”だのと曖昧なのは、感情が完全ではないからだ。 ルナ 「むー、でもこのままじゃ埒があかないわよ」 悠介 「そーだな。じゃ、ちゃっちゃと終わらすか?」 ルナ 「……出来るの?」 悠介 「ああ、出来るとも」 ルナ 「どうして最初からやらなかったの?」 悠介 「今思いついたからだ」 ルナ 「うー」 悠介 「拗ねるなよ、事実は事実として受け止めないとあとあと面倒だぞ?」 ディル『相変わらず曲った感性を持っているな、王よ』 悠介 「そか?よく解らん」 まあそれはそれとしてだ。 悠介 「じゃ、始めるぞ?強力な風を使うから気をつけてくれ」 ルナ 「気を付けるって……どうやって?」 悠介 「それは……ふむ」 どうやってだろうな。 まあいい、巻き込まれたならそれまでだ。うん。 ルナ 「悠介、妙なこと企んでる」 悠介 「企んでなどいないぞ、失敬だな。俺は堂々と思考している」 ルナ 「受け取り方が違うだけで、多分それって同じ意味だと思うけど」 悠介 「そうか?よく解らん」 と、考えることをのっけから拒否してる場合でもないのだ。 やれることはとっととやる。 それが晦───じゃないな、朧月の家訓だった。 そんなつまらないことばっかり覚えてるくせに、 どうして肝心なことを思い出せないんだかな、この想像に長けた脳味噌は。 悠介 「じゃ、いくぞ?」 ルナ 「え?何処に?」 悠介 「そのいくぞじゃないっ」 こいつの場合、素で見当ハズレなことを言う時があるから妙に調子が狂う。 彰利の場合とは大違いだ。 あいつは解ってて見当外れな行動起こしたり喋ったりするからな……。 と、いかんいかん、また思考がズレたな。 悠介 「じゃ、始めよう。我、今、風の万象に願い奉る……。     指輪の契約のもと、我に風の加護を与えたまえ……」 イメージするものはひとつ。 シルフの風の刃である。 見たことなど数回程度しかないが、それでも可能な限りをイメージし、象り、具現と成す。 すると風が俺の手の中に飲み込まれてゆくかのように吹き荒び、 それが収まる頃には俺の手には一振りの刀が存在していた。 悠介 「風で刀ね。やれやれ、どっかの武士を思い出すよ」 口より先に手が……じゃないな、刀が出る女性の姿が脳裏に浮かんだ。 そういや篠瀬のやつ、今頃なにをしてるのやら。 まあ、いい。 創造した刀を勢いよく振り上げ、さらに勢いよく砂漠に突き立てた。 ドン、という音。 それとともに巻き起こり始める風の嵐。 イメージしていたそのままの状況がこの場に訪れ、俺は満足げに頷いた。 ルナ 「ねー悠介ー!?気をつけようがないんだけどー!?」 悠介 「っと、そか。ほら、しっかり掴まってろ」 ルナ 「ふぎゃっ!?」 悠介 「あ」 踏み潰された猫のような声が響いた───が、すぐに嵐に掻き消された。 突然吹いた突風から守ろうと、とにかく掴んだ場所が悪かった。 まあ……項というか、つまり首である。 まあいいか、こいつ、何処か猫っぽいし。 悠介 「ね〜こはコタツで丸くなる〜」 ルナ 「うな〜」 悠介 「などと馬鹿やってる場合じゃなくてだな」 ルナ 「どうするの?これ。物凄い勢いで回転して竜巻みたいになってるけど」 悠介 「大丈夫だって。ディルも……ほれ、ちっこくしてあるし」 簡易的に創った黄竜球にディルゼイルを入れて、魔力調整でちっこくして出す。 はは、なんだか懐かしいもんだ。 空界のアカデミーに居た頃はしょっちゅうやっていたことだ。 悠介 「おまけにここは台風の目だ。     周りは荒れてるが、この刀の傍に居る限りは全然平気だ」 ルナ 「へー……でもその球ってそんなに簡単に創造できるものだったの?」 悠介 「簡単なんかじゃない。当時ノートに散々としごかれてた時に、     “身の回りのものは出来るだけ分析を済ませておけ”って言われてたんだよ。     そうでもなけりゃこんな風に創造なんか出来るもんか」 話しているうちに、竜巻は砂を飲み干すように上空へと飛ばしてゆく。 当然重力があるからには砂は落下するだろうが─── そのためのイメージも既に弾かせてある。 ルナ 「ねぇ悠介。空に土が出来ていってるんだけど、あれって悠介の仕業?」 悠介 「ああ。巻き込んだ砂を土にするイメージ……違うな。     竜巻自体に水気を混ぜてるんだ。     竜巻の規模が上空に上がれば上がるほど、水気も増していくってやつだ。     土や泥になったソレらは一箇所に集められて塊になる。     で、あとは“泥や土を落とさないイメージ”でも弾かせてやればそれでいい」 ルナ 「へー、便利なんだ」 悠介 「長年創造者やってるとな、こういう応用も利かせられるようになるのさ」 上空に出来上がっていっている巨大な土の球体。 それが大きくなればなるほど、地面である砂が消えてゆく。 それに連れられるように嵐に巻き込まれているモンスターども。 と───しまったな。 ディル『表情が曇ったな。大方、宝玉は度外するというイメージを加え忘れたのだろう?』 悠介 「うぐっ!」 ルナ 「図星なの?」 悠介 「〜〜〜っ……悪かったなっ……!」 ディル『肝心なところで詰めが甘いのも相変わらずか。     やれやれ、あれから時はそれなりに経っている筈だがな。     王、お前は今までどういった経験を積んで来たたんだ?成長がまるで見られん』 悠介 「ほっとけっ!この世界じゃいろいろあるんだよっ!」 指摘されてからすぐイメージを流し、砂や土から宝玉を乖離する方法へと移行。 すると───思いの他あっさり、それは空から降ってきた。 悠介 「………」 ルナ 「あ。悠介、これよね?」 このあっさり具合はどうだろう。 喜ぶべきなんだろうが、どうも釈然としない何かが俺の中に残った瞬間だった。 ───……。 ……。 そうして───空に溜まった土を地面に落とした俺は、 眠くなってきたと言うルナを連れ、最寄の町───サンドランドノットマットに来ていた。 もちろん町中を適当にうろついているとかそんなわけがなく、 宿をとって部屋でのんびりと、ってやつだ。 一箇所ドアノブが壊れている部屋があったが、あれはなんだったんだろうな。 悠介 「これが戒めの宝玉か……」 ルナ 「戒めってわりには綺麗なのね」 ディル『ふむ。この世界のことはまだよく知らんが、確かにそうだな』 でも、確かに感じる強い力。 この中に精霊の力が封印されているのは間違いないだろう。 さて、問題はどの精霊の力が…… って、砂の中にあったんだから普通に考えればノームだよな。 悠介 「よし、割ってみるか」 ルナ 「え?でも、持ってれば力が手に入るって言ってなかったっけ」 悠介 「持ちっぱなしで誰かに奪われたら目も当てられないだろ」 思い浮かんだのは不死王の顔。 あいつにこれ以上強くなられるのは遠慮願いたい。 というわけで───俺は宝玉を空中に軽く放り投げると、 手にフレアブランドとアイスブランドを創造してそれを破壊。 カシャン、という綺麗な音を立ててソレは割れ─── 刹那、その場に力の波動が溢れ出した。 ルナ 「わ、わ、これって……?」 悠介 「風の属性、だな」 驚いた。 てっきり土の属性かと思っていたのに。 けど一般的な属性構成で言えば、地は雷に強いっていうからな。 ともなれば、戒めをするのなら属性が弱まる場所に封印するのは確かにいいかもしれない。 ルナ 「あ……そっか。属性の構成が関係してるかもしれないのね。     わたし、あれややこしいから嫌い」 悠介 「そうか?……そうかもな。じゃ、いいか?簡単に纏めるが───     まずこの世界でも空界でも絶対的に存在するのが無属性。     で、それをてっぺんとして元と然と時と死があって、この四つに弱点は無い」 ルナ 「自然っていえば火に弱いんじゃないの?」 悠介 「もっと大きく見ろ。自然てのは大気の流れや世界の在り方、色々だ。     意味合いとしては最も元素に近く、元素も自然に近いってものだ。     元素も自然も、何かが生きるためには必要ってわけだな。     で、それらを構成する場として無がある。時と死は言うまでもないな?     でだ。光と闇はそれぞれが弱点だ。こればっかりはゲームとかでも変わらんだろ。     そして次。地、水、火、風、雷、氷だが、これらがループしてる属性だ。     地は雷に強く、雷は水に強く、水は火に強く、     火は氷に強く、氷は風に強く、風は地に強い。解るか?」 ルナ 「むー……」 ダメそうな顔だった。 悠介 「まあ、とにかくだ。     こういうのを上手く利用して闘えば、効率よく戦えるってことさ」 ルナ 「んー……でもさ。自然も死も、相手によっては弱点があるわよ?     例えば自然で、相手が木だったら火とか雷で、     例えば死で、相手がアンデッドだったら聖なる属性とか」 悠介 「そうだな。完全に弱点が無いのは無属性くらいなもんだ。     細かく言えば、元素は元素自体に弱いし、時も時自体に弱い。     聖属性とかは空界やこの世界じゃ“光属性”として数えられてるからな、     ちといろいろややこしいんだ」 ルナ 「ぶー、やっぱりややこしいんじゃない」 悠介 「腐るな。そしてそのカモノハシみたいな口やめろ。     ……っと、そろそろ寝るか。いい加減疲労が溜まってきた」 ルナ 「ん、そうだね」 ディル『では私もそうさせてもらおう』 ディルゼイルが、用意したクッションの上に寝転がる。 しかし自然の中で寝ることに慣れているディルゼイルにとっては、 柔らかいものの上というのは些か違和感があるらしい。 解る人にしか解らない、微妙な表情をして“やれやれ”とか呟いていた。 【ケース341:穂岸遥一郎/グラウベフェイトー山の麓の闘技場にて】 ガヤガヤガヤガヤガヤ…… 藍田 「ジョワジョワジョワ、夜もいい汗かいたぜ〜〜〜っ!!」 丘野 「ヌワッヌワッヌワッ、どおれ明日の朝もみっちり鍛えてやるか〜〜〜っ!!」 総員 『というわけで腹減ったからメシ!』 遥一郎「お前らなぁ……」 たまには自分で作ろうとか思わないのかこいつら。 とか思いつつも素直に厨房に回っている甲斐甲斐しい自分が居た。 そんな自分にこそ溜め息がこぼれる。 もはや条件反射みたいなものなんだろうか。 ノア 「マスター、僭越ながら」 遥一郎「よしよし、素直に席に座って待ってような〜?」 ノア 「……あの、マスター?わたしはまだなにも───」 遥一郎「言わなくていい。そしてただ待っててくれ」 サクラ「サクラも手伝うで───」 遥一郎「サクラ!あそこの極道女がお前と極道について語り合いたいと言っていたぞ!」 サクラ「本当です!?」 佐古田「言ってねーッス!!激言ってねーッス!!」 凍弥 「よっ!極道!」 佐古田「うるせーッスムナミー!!」 志摩 『同志よ。もちろん貴様も作るのだよな?』 凍弥 「……だからさ。たまには自分で───」 総員 『断る!!』 凍弥 「なんでみんなで言うんだよ!!」 藍田 「見縊らんでもらおう!この藍田、     かつては土木研に席を置きながらも土木関連一切ダメとの通達を受けた猛者!     こと破壊活動においては一級を貰えるが、組み立てるものとは縁遠し存在よ!     だから料理など以ての外!!」 丘野 「そもそも自分より上手く作れる者が居るなら自分でやってはいかんのでござる!     と、有名などこぞの博士はおっしゃっていたでござる」 遥一郎「……お前らさ、それってただ失敗して不味いメシ喰いたくないだけだろ」 総員 『当たり前だ!見縊るな!!』 遥一郎「あのなぁああ……!!」 晦は逞しいヤツだった。 よくもまあこんなカオス的状況の中で素直に楽しんでいられたもんだ。 ……ああ、いや、なにもそんなことを直接聞いたわけでもない気もするが。 丘野 「ヌワヌワヌワ、しかしここでの生活って結構いいもんだ〜〜〜っ!     メシはタダだし鍛錬も出来るし、至れり尽くせりだぜ〜〜〜っ!」 藍田 「少しは慎めサンダージョワジョワ」 丘野 「自分だって……」 サンダージョワジョワってなんだ? ……はぁ、まあいいさ。 確かに俺の特技といったら料理くらいだ。 別に料理するのが嫌いなわけでもない。 腕を振るうくらいどうということもないだろう。 由未絵「はぁ〜、やっぱり汗かくと水が美味しいね」 閏璃 「おお、まったくだ」 柿崎 「体に染み渡るっていうのか?とにかく───っと」 フォル『さ、稔さま?私が飲ませてさしあげます』 柿崎 「えっ……や、み、水くらい自分で───」 閏璃 「パーシモンよ。見てて恥ずかしいから毒盛っていいか?」 柿崎 「だから!本人の目の前で犯行予告するのはやめろって!」 来流美「でも不思議よねー。修行では汗をかくけど、全力疾走しても汗はかかないなんて。     その汗もさっさと気化しちゃって、匂いなんて残らないし」 閏璃 「ところで“匂い(におい)
”って字と“勾玉(まがたま)”って字って似てるよな」 来流美「神聖味が無くなるから過去の歴史に喧嘩売るのはやめなさい。     ……って、どうしたのよ橘くん。顔真っ赤にして落ち着きなく」 鷹志 「えっ!?や、べ、べつに……」 閏璃 「……?───ハハハァ〜〜〜ン?」 鷹志 「20世紀ミートみたいにムカつく態度で邪推するのはやめろ!!」 閏璃 「まだなにも言ってないんだが」 由未絵「あれだよね?橘くんも真由美ちゃんに飲ませてほしいんだよね?」 真由美「えっ!?」 鷹志 「んなぁっ!?」 閏璃 「なんだそうだったのか。     俺ゃてっきり丹田に力を込めて物欲から解放されるべく、     顔が真っ赤になるくらい全力で瞑想しているのかと」 鷹志 「何処の修行僧だよ俺!!     それ以前に顔が真っ赤になる瞑想なんて聞いたことがないわ!!」 ……相変わらず騒がしい連中である。 ただ黙々と料理をしている俺と凍弥のことも少しは…… いや、ちょっかい出されるのも困るし、このままが一番か。 なんてことを、毎回ここに立つ度に思っている俺である。 恐らく凍弥も。 浩介 「ところで同志よ」 浩之 「ものは相談なんだが同志よ」 凍弥 「同じのしか出さないから掻き揚げうどんもとんこつラーメンも無理だぞ」 志摩 『………』 言いたいことは終わったのか、志摩兄弟がとぼとぼと席に戻っていった。 まあ、毎食毎に大体がこんな感じである。 騒ぎのない食卓など意味が無いとでも言うかのように、みんながみんな騒いでいる。 ……お? 遥一郎「なぁっ、ちょっといいか〜っ」 藍田 「ジョワッ!?」 遥一郎「ジョワッ!?じゃない!……フと思い出したんだけどな。     お前らの中でドリアードとか魔王とか、見たやつ居るか?」 藍田 「ナギ助とシード?いや、そういや見てないな」 閏璃 「マクスウェルに“話がある”って言われて、     どっか連れて行かれて以降は知らないな、そういえば」 蒲田 「俺も!」 清水 「わいも!」 中村 「ぼくちゃんも!!」 灯村 「それがしも!」 岡田 「おいどんも!」 田辺 「わしも!」 丘野 「拙者も!」 皆川 「わても!」 三島 「ミーも!」 島田 「やきいも!!」 遥一郎「そ、そうか」 なにも叫んでまで知らない自分をアピールしなくてもいいと思うんだが。 マクスウェル『二人にはちょいと下界に下りてもらっておるのじゃよ』 閏璃    「おお盗み聞きか。中々態度が太いな爺さん《コッパァン!》はぶぅい!」 来流美   「今この場で誰がアンタより態度が太いってのよ……!!」 閏璃    「ちょっとした冗談だろ!?問答無用で叩くなって何度言えば解る!!」 来流美   「力とはこういうものよ!」 閏璃    「やかましい!!」 とりあえず今やかましいのは二人ともなんだが。 けどそれもいいとして、聞きながらでも料理は続ける。 藍田    「ジョワジョワジョワ、        それで、ナギ助とシードを下界に行かせたとはどういうことだ〜〜〜っ」 マクスウェル『大会の優勝者、中井出博光に元素の宝玉を渡したじゃろう?        あれの制御のために必要なものを持たせたまでじゃよ』 藍田    「制御?って、あーあーあー!        そういやよっぽど元素に近い力ってのは人の手には余るってナギ助が……」 丘野    「それを制御する力があると?」 マクスウェル『今あの者は精霊の力の解放をするべく頑張っておる。        現在はちと別のことをやっておるがのぅ。        じゃがそれが為された時、元素の宝玉には恐ろしい力が満ちるじゃろう。        それでは恐らくあの者の体が保つまいて。        じゃから、それを制御する法をドリアードと魔王の子に預け、        下界へと向かわせたというわけじゃよ』 藍田    「おおなるほど……だから二人を見ることが無くなったと……」 丘野    「持たせたのは制御法だけでござるか?」 マクスウェル『元素とは即ち、無、時、然、死を抜いた全属性じゃ。        どうやらあの者は地、水、火、風だけだと思っているようじゃがな』 藍田    「おお〜〜〜っ、い、言われてみれば、        使えるだろうと思われた属性を唱えたのは        マクスウェルではなく大会参加者の雑魚だった筈だ〜〜〜っ!」 丘野    「ア……ウォアア〜〜〜ッ!!」 そうだったか? 俺は知らんが。 藍田    「で、その提督は今なにやってるんで?        精霊の力の解放がどうとか言ってたけど」 マクスウェル『猫の里で暴れとる』 鷹志    「猫の里?」 閏璃    「暴れてるって……」 なんのこっちゃ。 【ケース342:中井出博光/腐ったハートへ鎮魂歌を捧げる】 デンデゲデゲデゲデゲデデッ!! 中井出「コォート〜の〜中には〜!魔物が住ゥむのぉ〜ぅ!」 猫達 『ニャアニャア!!』 中井出「た〜よ〜れ〜る〜仲間は〜!───みんな目が死んでるゥ〜〜〜ッ!!」 猫達 『ニャア!』 中井出「バレーに賭けたァ〜青春ン〜ッ───でも!みんな目が死んでるゥ〜〜〜ッ!!」 猫達 『ニャーーーーッ!!!』 とある夜の出来事。 早いうちから寝ちまったもんだから夜に目が覚めた俺は、 猫が開いていた宴会めいた鍛冶職場に乗り込んで一緒に騒いでいた。 なんでも猫達にとって“ノリ”というのは大変大事なもので、 騒いでいたほうが素晴らしい武器が仕上がるのだそうだ。 エィネ『ノリがいいのは認めますけど……内容があんまりではないですか?』 中井出「歌というのはノリが第一で歌詞がその次。     解るな?どれだけ歌詞がよくても、     大体の人は出だしの音楽のテンポで惹かれるものなのだ。     例えば友人にCDを借りたとしよう。     しかし自分にはやりたいことがいっぱいある。     そんな時、素早く“これがいい歌なのか”を判断するには何が一番重要か。     ───そう!リズム!テンポ!ノリの良さ!きっとみんな解ってるのさ!     どれだけ歌詞に感動できても、それを生かすのも殺すのも音調だと!     その点で言うとホラ、この歌ってテンポも素っ気無さも最高だと思うし」 エィネ『そ、そうなんですか?』 それに楽しければそれでよし。 バレーにかけた青春を歌うならそれでいいと思う。 意味はないんだが。 中井出「でも一緒に起きてこなくてよかったんだぞ?もっと寝れたんじゃないか?」 エィネ『ええまあ。ですが目が覚めたなら活動していたほうが楽しいと思うので』 なるほど、やっぱり物事を楽しむ心に種族など関係無いよな。 いいことです。 中井出「でもさ、この武器鍛つのっていつまで続くんカナ」 エィネ『さぁ……博光さんの所持金分鍛えるまでではないですか?』 中井出「………」 少なくとも連日連夜を覚悟しなきゃならないってことかな。 中井出「すまんなぁ、立ち上がったばっかりなのに、     早速精霊の解放とは違った方向に向かってる気がする」 エィネ『いいんですよ。人には人のペースがありますから』 中井出「そう言ってもらえると心が軽くなる気分だよ」 とは言ってみたものの、ここで時間を潰すにしても限度があるだろ。 退屈しのぎがそうそうあるわけでも───いいや、騒いでよう。 中井出「よっしエィネ!一緒に騒ごう!」 エィネ『えっ?あ、は、はいっ!?』 中井出「歌えぃ野郎どもぉーーーーっ!!!」 猫達 『ゴニャアーーーッ!!』 デンデゲデゲデゲデゲデデッ!! 中井出「コォート〜の〜中には〜!魔物が住ゥむのぉ〜ぅ!」 猫達 『ニャアニャア!!』 中井出「た〜よ〜れ〜る〜仲間は〜!───みんな目が死んでるゥ〜〜〜ッ!!」 猫達 『ニャア!』 中井出「バレーに賭けたァ〜青春ン〜ッ───でも!みんな目が死んでるゥ〜〜〜ッ!!」 猫達 『ニャーーーーッ!!!』 中井出「わ〜た〜し〜と〜あなたは〜!友達じゃないけどぉ〜ぅ!」 猫達 『ニャニャッニャニャッニャッ!』 中井出「わ〜た〜し〜の友達と〜!あなたは友達ィ〜ゥィ〜〜〜ッ!!」 猫達 『ニャニャンニャニャンニャ!!』 中井出「大体そんなぁ〜かぁ〜んじぃ〜っ!!ギャ───」 エィネ『あ、あのっ!?せめて別の歌にしませんかっ!?     もっと騒がしくなれそうなものを……』 中井出「何故!?いい歌じゃん!!」 エィネ『リズムがいいにはいいんですが、     友達じゃないとか目が死んでるだとかはちょっと心にやさしくないというか……』 中井出「ぬう」 言われてみれば、そうかもしれない。 うーん、いい歌なんだが。 中井出「じゃあ適当に騒げる歌を───」 声  『〜〜〜っ……!』 中井出「───お?」 エィネ『なにか……聞こえましたね』 どんちゃん騒ぎと言ったらそれまでなんだが、 剣を鍛つ音や猫の声に混じって、明らかにそれらとは違うなにかが聞こえた。 何処からなのかは解らんのだが───ハテ? 声  『ヒ……ツ〜〜〜ッ……!!』 中井出「ヒ、ツー……悲痛!?」 それは誰かの悲痛な叫びだった。 じゃなくて。 この声……ナギーか? どこからドグシャアッ!! 中井出「アモギェーーーーーーーッ!!!!《メキメキメキメキ!!》」 エィネ『きゃあっ!?博光さん!?』 ナギー『おおっ!ヒロミツなのじゃ!     さすがじいやなのじゃ!狂いもなくヒロミツのところへ落とすとは!』 シード『父上!お久しゅうございます!』 中井出「解ったから降りてぇええええ!!!」 空からだった。 なんの予告も無く俺の上に落ちてきたナギーとシードは容赦なく俺を潰し、 お蔭で俺は腰辺りに大打撃。 立っていたのに無理矢理上から押し潰されたんだ、足と腰にこそ大打撃があるのは当然。 ていうかこのタコみたいにグシャグシャに曲ってる足はどうしてくれようか。 今は驚きの方が先行してるお蔭で痛みは無いが───ああ治った。 こんな時だけは人体の神秘に感謝である。 あ、いや、もちろんすぐに治る方が人体の神秘って言ってるんじゃなくて、 己に降りかかった大惨事を見た時、恐怖が痛みを殺してくれる神秘に感謝をと。 中井出「グ、グーヴ……いったいどうしたというのだ、ナギー、シードよ……。     貴様らは天界(喩え)で修行をしていたのではなかったのか……?(独断)」 ナギー『ヒロミツを救いに来たのじゃ!』 中井出「救いに?俺べつに《ゴカァアアッ!!》キャーーーッ!!?」 べつに大変ではないが、と唱えようとしたその時だった!! なんと宝玉から眩い光が漏れ、さらには膨大な量の風が巻き起こり始めたのだ!! 中井出「う、うおおなんじゃこりゃぁああーーーーーっ!!」 ナギー『宝玉の暴走なのじゃ!恐らく誰かが既に精霊の力を解放したのであろ!     ヒロミツ!これを指に付けるのじゃ!宝玉の力を抑えるものじゃと聞いておる!』 中井出「断る!!」 ナギー『な、ななななんじゃとっ!?』 シード『父上!?なにを───』 中井出「暴走する力……それを恐々と扱う!その方が楽しいからだ!!」 ナギー『お……おおお……ヒロミツじゃ……間違いようもなくヒロミツなのじゃ……』 シード『ちっとも変わっておられないようで……』 中井出「いや……そんな懐かしむような目でみられてもな……」 ナギー『じゃがこればっかりは楽しむとかでなんとかなる力ではないのじゃ。     死にたくなければ付けるのじゃ、ヒロミツ』 中井出「ぬう」 宝玉より漏れる荒ぶる風の中───トンと渡された指輪を見る。 指……指輪……あらやだ……妙なトラウマスイッチが入りそう……。 中井出「こ、これを付けたら治るというのか〜〜〜っ!」 ナギー「そ、そうじゃ〜〜〜っ!そ、それをつければ治るのじゃ〜〜〜っ!」 中井出「グ、グーヴ……!!」 でも付けたらまた飲み込まれるんだろうな。 指輪吸収能力があるなんて聞いてねぇぞじーさん……。 だが付ける。 じーさんが言ったことなら、それは守るべきだろう。 というわけで……ライドオン!!(意味不明) 中井出「ど、どうだっ!?《ズズズ……》やっぱりぃいいいいっ!!」 指輪が再び指に沈んでゆく。 するとまるで“これが特効薬だぜ〜〜っ”とでも言うように風が治まった。 中井出「お、おおお……あっさりとまあ」 ナギー『気をつけるのじゃぞ?力が安定するまでは風は使えぬと思うのじゃ』 中井出「なにぃ!?」 じゃあこのバカ高い山を登れというのか!? 風が使えないということは空も飛べんということ! グムムムーーーッ!楽しみが減ってしまうではないか〜〜〜っ! 中井出「……ま、まあいいや。安定するまで耐えればいいだけならなんとか……」 空を飛ぶのは人の浪漫だろう。 何故って、飛べないからさ。 中井出「風以外は使えるんだよな?」 ナギー『大丈夫なのじゃ。渡した指輪には属性の安定はもちろんじゃが、     元素の宝玉自体を人の身に合わせる力もあるそうなのでの。     付けておればそのうち完全に馴染むと、じいやが言っておったのじゃ』 中井出「……なるほど」 男として暴走には興味があったんだが。 ちょっとばかり残念ではある。 中井出「ご苦労であったナギー新兵。     貴公の働きにより、この博光は安寧へと導かれるだろう」 ナギー『あ、ありがたき幸せなのじゃ!』 軍人が如き立ち振る舞いでナギーに感謝を送ると、ナギーはビッシィと敬礼をして返事。 ……これがこの世界の自然を司る精霊だというんだから、なにかが嘘だ。 と、そんな遣り取りをしたのちに普段通りに戻ると、 俺はナギーやシードを促して宴へと視界を戻した。 宴ではなく鍛冶祭りみたいなものなんだが、 それでもナギーは大勢の猫に目を輝かせていた。 しかし─── シード『………』 その中で、シードだけが何処か落ち着かない雰囲気で視線を泳がせていた。 ……ハテ?って、まさか……などと思ったまさにその時だった。 お祭り騒ぎを見るのは初めてなのか、 ナギーがエィネを連れて猫たちのもとへと走っていってしまったのだ! そして残される僕とシード。 シード『………』 中井出「………《だらだら……》」 汗が……止まらねぇさ……。 もしやもしやもしや、いや絶対そうだ確実にそうだ。 じーさんが喋ってしまったに違いない。 仮説ならいろいろ立てられるけどグムー! シード『父上……お話があります』 中井出「グ、グーヴ……」 頷かねばなるまい。 きっとこれが、彼が大人になる第一歩……っ……! 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