───VSアンノウン/剣舞───
【ケース27:晦悠介/ひとりの戦う者として】 ───黄昏に火花が散る。 疾駆と同時に袈裟に振るう斬撃は鋭い歪に弾かれ、 だが一撃で仕留められるなどとは思わぬが故に連ねる連撃。 その全てが全力であり、当たりさえすれば確実にその部位は破壊出来るだろうというもの。 悠介&ゼット『オォオオオオオオオオオッ!!!!』 それは確かに仕切り直しだった。 あの日、俺が暴走して竜になったことで、互いが弱りきった状態から始めた最終決戦。 それをもう一度、仕切り治せる限界の場所から駆け続ける───!!  ガガガギガゴガガゴガギィンゴギィンパギィンッ!!! 連撃が真空を呼び、身体の至るところがその大気にこそ斬り刻まれようとも止まらない。 刹那の間隙(かんげき)
さえ逃さぬとする剣の軌跡はしかし、 それこそ間隙を打たせぬとする連ねにより弾かれる。 高所より打ち付ける滝が如く轟音を高鳴らし弾けるは竜人と竜人。 一進一退は繰り返され、斬撃から発生する剣閃が黄昏の草原を薙いでゆく。 悠介 『疾───ッ!!』 ゼット『フゥッ───!!』  ───ガギィインッ!!! 既に激突と弾く斬撃は百を越える。 互いを牽制し合うように斬撃のみを繰り返し、隙を見つけては弾かれ、弾かれては弾く。 ───咆哮は絹を裂くが如し。 目の前の戦士は一撃ごとに強くなり、振るわれる一撃一撃に次第に剣を持っていかれる。  ───パギィンッ!! 悠介 『ぐ───、づ……!!』 ゼット『シィッ!!』  ヒュフォォンッ!! 悠介 『───ッ!!』 奔る打突を紙一重で避ける。 その瞬間に雨のように降り注ぐ連撃の嵐。 既に己の卍解の能力を知っているのか、その連撃は速度のみを重視したものになってゆく。 悠介 『っ……』 “荒天破壊す漆黒の竜王(こうてんはかいすしっこくのりゅうおう)”───ゼット=ミルハザードの卍解。 みさおと融合して力を吸収することで手に入れたみさおの鎌、冥月刀を昇華させたもの。 その卍解は明らかにみさおのそれとは違う。 つまり、通常の状態こそみさおの鎌、冥月刀のままだろうが─── 卍解したソレはゼットの生きた軌跡を吸収し、姿を大きく変えた。  ヒュフォフォフォフォンッ!!!ガギィンギヂィンギャリィインッ!!! 悠介 『づっ───!!』 遥か昔、大事な存在を守ったために狭界に落ちた少年。 その先で“生きるための成長”をし、甘さを捨てた伝説の黒竜王。 三千年を生き、かつて命を賭す覚悟で守った少女の来世と融合し、 己自身とまで融合し、破壊者となった。 その人生の意味する“鎌の在り方”。それはきっと───  ヒュオザフィインッ!!! 悠介 『くあっ───!!?』 ゼット『オォオオオオオオオオオッ!!!!!』 きっと───己の身体能力の爆発的向上。 人生の全てが大事なものを守るための自身の強化、 そして生きるための強化だというのなら。 鎌はその生き様の全てを受け取り、その姿を象るだろう─── 悠介 『このっ……デタラメな強さだな、くそっ……!!』 強化は続く。 連ねられる“速度重視”の連撃が、初撃の頃と全く威力が変わらない。 いや、変わらないばかりか一撃ごとに威力が増してゆく。 それは、その一撃一撃こそが彼の生きた軌跡となるから、だろうか。 悠介 『───』 だったら。 そう───だったら全てを受け止めよう。 古より古く遠い世界に降り立ったひとりの少年の物語を。 軌跡を連ねる連撃が彼の生きた意味であり、鎌が受け取った彼の生き様ならば。 俺はそれを受け止める───!! 悠介 『ッ───ァアアアアアアアアッ!!!!』  ヒュフォバギィイイイインッ!!!! ゼット『ッ───!?』 振るった渾身がゼットの無骨な剣を破壊する。 次弾として振るわれたもう一方の剣も返す刃で破壊し、 弾かれ圧し戻されることを想像していたのか必要以上に勢い付き、 踏みとどまることの出来なかったゼットにさらに、 悠介 『“閃光拳(ベオウルフ)”!!』  ───バッガァアッ!!!! 篭手に変えたラグを以って殴り飛ばす───!! ゼット『……っ!?』 殴り飛ばされたゼットは、 剣で攻撃してこなかった俺を『何故』、と疑問の表情で睨みながら体勢を立て直す。 だがそれが終わろうとする頃には、俺は既に篭手を剣に変換させたラグを構えていた。 ゼット『はっ───』 草原が爆裂するほどの真横への跳躍。 力、速度、全てを剣に込め、流星が如く対象へ激突する。 “何故”もなにも無い。 全ての過程には意味があり、この一撃こそが間隙を穿つ斬撃───!! 悠介 『“黄竜剣”!!』  ギシャゴバァアアアアォオンッ!!!! ゼット『……ッ、ガ───!!』 渾身を込めた金色に輝く皇竜剣が黄金の闘気を散らす。 轟音はその音だけで草原の全ての草を揺らし、 まるで円を広げる波のような衝撃を竜人ふたりを中心に広げた。 ───本来上空から理力か飛翼の加速を以っての急速落下から一撃を叩き込む黄竜剣。 それを跳躍と理力の加速による跳躍から放った。 再生し、構えたゼットの無骨な剣は微塵と砕け、 彼の身体は彰利がつけたであろう斬痕をなぞるように裂けた。 ゼット『ガァアアアアアアアッ!!!!!』 噴き出す赤。 常人ならばこれで行動不能になるだろう。 だが───相手がゼットだからこそ、斬撃とともに通り過ぎたゼットの背後の草原を踏み、 体勢を立て直すとともに振り向いた。 悠介 (───っ!そらみろ───!!) そこには既に飛び掛ってきているゼットが居た。 身体からは血が吹き出ていて、しかしそれを止めることもせずに得物を振るう───!! 悠介 『“鏡面にて弾く石眼の盾(イージス)”!!』 それに合わせるようにして創造した盾───バガシャゾフィィンッ!!! 悠介 『ガッ───!?』 それが、事も無げに破壊された。 盾ごと斬りつけられた左肩から右脇腹にかけての直線から鮮血が吹き出る。 悠介 『づっ……』 彼の得物は既に無骨な剣ではなかった。 右手に構えたソレは巨大な斧のような刃。 見るからに重そうな、しかし今のゼットにこそ相応しいと思わせる戦斧。 その時に確信した。 これこそが、卍解に至ったゼットの“鎌”。 悠介 『っ……手数が減るのは嬉しいがっ───!!』 その、あまりのデカさに唖然とする。 その大きさと言ったらまるで竜王の爪だ。 それを片手で、無骨な剣を振るうのと同じ速度で振るってくるのだから、正直眩暈がする。 威力は見た通りであり、ある意味で無骨な剣を二本構えられるより辛い。 ゼット『ルゥォオオオオオオオオオオッ!!!!!』  ───ヴォファンッ!!ギャギヂィインッ!!! 悠介 『───!!!』 その威力は最早悪夢。 速度、威力ともに大きさからは考えられないもので繰り出される。 振るわれる音は既に刃を振るう音を超越し、 それこそ巨大な鈍器を振るうかのような音を出す。 悠介 『くっそ───!!』  ギャギドォッガァアアンッ!!! 悠介 『ッ───!!』 斜め上部から振るわれた戦斧をラグで受け止める。 だがその瞬間に地面がクレーターを作り、足が圧力に沈む。 なんて馬鹿げた力───受け止めたっていうのに眩暈がする。 半端な力じゃ打ち合いも碌に出来ない。 悠介 『……だったら───!!“支力付加(エンチャント)”!“黄竜斬光剣(エクスカリバー)”!!』 ラグに極光剣を付加させる。 かつてはこの付加のために砕けてしまったラグも、 強化練成した賢者の石と融合した状態だ、砕けることはない。 が─── ゼット『フッ───!!』  ヴフォンッゴガァンバガァンゴギィンギャガァンッ!!!! 悠介 『ぐぅうあぁっ!!!』 圧し掛かる重さ、身体に響く振動が変わるわけではない。 極光剣をエンチャントしたラグを、刃こぼれひとつせず弾く凶悪の破壊斧。 応戦するつどに極光が瞬き、だがそれでも───押されているのは明らかに俺だった。  バガァンッ!! 悠介 『がはっ───!!』 脇腹目掛けて振るわれた最強の凶器を剣の柄で受け止めた───が。 勢いを殺しきれずに吹き飛ばされる。 身を捻り体勢を立て直そうとするも、 勢いがつきすぎて体を捻ることも飛翼をはためかすことも出来ない。 やがて───ドガァンッ!! 悠介 『げはぁっ!!』 強い衝撃とともに身体が跳ね、骨が軋む音が耳に障る。 内臓がイカレたのか口から血が出て、視界が点滅した。 悠介 『は───、あ……づ……!!』 ヘタな斬撃よりよっぽど響く。 身体が跳ねた瞬間を体勢の立て直しに利用したが、視界が上手く定まらない。 草原に立ったが身体は軋み、足がフラついた。 その明らかな隙を逃す馬鹿が居るものか。 吹き飛ばした時点で追っていたのだろう、ゼットの気配がすぐ横に感じられた。 そこから繰り出されるは胴体を両断せんとする破壊の斬撃。  ギガシャゴバァンッ!!!! 悠介 『が───、』 剣を構えられたのはほとんど奇跡だ。 だが剣ごと吹き飛ばされ、再び弾丸のように虚空に舞わされた。 力の差はとっくに大きく付けられ、為す術もなく意識は混濁する───
【Side───豆村みずき】 豆村 「っ……!!」 どうかしてる───そう思った。 親父はここに居る誰よりも強くて、 悠介さんはみさおさんの言う通りそんな親父よりも強かった。 それなのに……あのゼットとかいうヤツは、 その悠介さんをまるで子供扱いするかのように痛めつけている。 豆村 「なぁ親父っ!なんとかならないのか!?     あのままじゃ悠介さんが殺されちまうよ!」 彰利 「ん……」 豆村 「親父っ!!」 みさお「やめないか、みずき。なんとか出来るんだったら     親友である彰衛門さんが父さまを見捨てる筈がないだろう」 豆村 「っ……けど!!」 あんなの見てられない。 血が出て、肉が削がれ、叩きつけられて───遠くからでも解る。 悠介さんの右腕、斧の一撃の衝撃で折れてる……!! 彰利 「───方法が……無いわけでもない」 みさお「え───」 豆村 「───!だったら!!」 彰利 「………」 豆村 「親父!!なんで黙るんだよ!!」 彰利 「親友だからだよ。余計なことはしたくないって思うんだ」 豆村 「余計なこと……!?殺されそうになってるのを助けることのどこが余計なんだよ!     それとも悠介さんには死にそうにならなきゃ出来ない何かがあるってのか!?」 みさお「───!あ……彰衛門さん、まさか……」 彰利 「……そのまさかだよ。悠介にはまだ一か八かの能力がある。     それに賭けてみるか、それとも手伝って怒られるか。どっちかだ」 豆村 「……!?」 訳が解らない。 こんな時に内緒話なんてされるととても不愉快だ。 ……相談しても無駄なら、俺だけでも勝算を探して─── 豆村 「───そうだ!なぁ親父!親父とかみさおさんとかは鎌を強く出来るんだよな!?     卍解、っつったっけ!?もちろん悠介さんも出来るんだろ!?」 彰利 「───……」 みさお「………」 豆村 「……?な、なんだよその顔。あ───もしかして今使ってるのが卍解……?」 彰利 「……いいや」 俺の質問に親父は首を横に振った。 だったら─── 彰利 「悠介の鎌はまだ卍解じゃない……いや、     詳しく言えばまだ一度も卍解に至ってないんだよ」 豆村 「え───?」 ……それであの強さなのか? 他のみんなが卍解を解放した時に強さが飛躍的に向上してたのは知ってる。 だからもしかしたら悠介さんのアレは既に卍解なのかと思ってたのに。 彰利 「死神の王として悠介の鎌を見たのが数年前。     その時から解ってた悠介の鎌の卍解条件───それは、自分の力を信じること」 みさお「力を……信じる……?」 彰利 「そうだ。心から信じる───悠介にしてみれば過信するくらいが丁度いいと思う。     とにかくそれくらい信じることだ。たったそれだけなんだよ」 豆村 「な、なんだそれ……卍解出来ないほうがどうかしてるんじゃ───」 彰利 「……お前、晦悠介って男をまるで解ってない」 豆村 「なっ……ど、どういう意味だよそれ」 みさお「あの人……父さまは、何よりも自分を信じない。     いつだって力不足を意識して、暇さえあれば修行の日々。     だからこそ自分が強者だなんて威張りもしないし、     自分で修行して得た力じゃなければ信じられない。     けれどその信頼が満ちることはない。     信じてしまえば───もう強くなれないと思い込んでしまっているのだ」 豆村 「……なんだよそれ。おかしいだろ……。なんだって悠介さんは、そんな───」 彰利 「あいつの“強さ”は全て“他人のため”なんだよ。     自分のためには上手く振るえないんだ。     だからこそ、どんな相手が現れても守り通せるように     現状の強さに満足するわけにはいかない。     だから力を過信して強くなることを諦めるわけにはいかないんだよ」 豆村 「…………」 皮肉な話だ、と親父は続けた。 そう……確かに皮肉な話だ。 つまりあの人は……自分を傷つけてでも周りを助け続けるために、 自分を絶対に信じきらないのだ。 それはいったいどんな生き方だろう。 人の深層の中には必ず、“自分を第一に”という概念があるのだという。 けど悠介さんのそれは明らかにそれを無視した生き方だ。 己よりも他人。他人よりも知り合い。知り合いよりも家族。家族よりも……親友。 その生き様は、いったいどれほど辛いものなのだろう─── 彰利 「……なぁ、みずき」 豆村 「親父……俺……」 彰利 「───辛そうに見えたか?」 豆村 「え……?」 彰利 「悠介だよ。お前から見て、悠介は辛そうに見えたか?」 豆村 「……いや。凄く、楽しそうだった」 彰利 「だったらそれが答えだ。     どんな風に生きてきても、俺達はこの未来が開けたことに感謝してる。     あいつがどんな思いで“守りたいものを守ろう”と思ったのかなんて知らない。     けど───俺は、俺には……あいつの生き方が眩しい。     ずっと一緒に馬鹿やっていきたいって心から思えるんだ。     あいつの親友で居られることを誇りに思う。     そして……こんな俺と親友で居ることを誇りに思ってくれる     晦悠介っていう存在がなにより嬉しい」 豆村 「親父……」 彰利 「───死なせちまうわけにはいかないんだ。     ああ、そんなことは解ってる。だから───」 親父はキッと爆裂する景色を見ると、残った力を振り絞るようにして構えた。 みさお「駄目です彰衛門さん!いけません!そんな状態で卍解は───」 彰利 『ぶっきらぼうな解らず屋に……親友からの激励の言葉を贈るだけだよ。     俺がするのはそれだけ───ただ、それだけだ』 ───走り出す。 弱った状態だっていうのにその速さは目で追いきれるものではなく、 俺は改めて自分の無力さに項垂れた。 【Side───End】
───幾度目になるだろう。 意識は途切れかけていて、 けれど身体は次の瞬間に来るであろう地面との激突に恐怖するかのように硬くなる。 折れた腕はじくじくと痛み、脳を歪ななにかで貫かれるような激痛が間を置いては現れる。 やがてぼやけた視界に草原が近づき───ドンッ! 悠介 『───、……?』 背中に衝撃───けど違和感を感じた。 地面ではない。 俺は何かに受け止められ、そして───ドガガガガガァッ!!!! 声  『っ……、が───』 俺が受ける筈だった衝撃は、全て俺を受け止めたなにかに襲い掛かった。 そして俺は……聞こえた声に薄れ掛けていた意識を覚醒させる。 悠介 『彰利!?───、づっ……!!』 彰利 『は、あ……ぐ……!!っ……っそ、なんて馬鹿力……!!』 俺を受け止め、地面との激突の衝撃から救ってくれたのは彰利だった。 だがその身体はたった今俺の代わりに受けた衝撃にボロボロだ。 強引に止めにかかったんだろう───足はぐしゃぐしゃに折れていて、見る影も無い。 悠介 『ば───馬鹿野郎!なにやって───!!』 彰利 『……なぁ、悠介』 悠介 『───、彰利……?』 彰利 『もう……いいからさ。許してやってくれ』 悠介 『───?』 言ってる意味が解らない。 突然の言葉に思考は混乱を開始した。 ───いや。それこそが解らない。 どうして俺の思考は、こんなことくらいで混乱するんだ?  知るな。知ればもう諦めてしまう。 解らない。 けど───その意味を知ってしまったら頑張れない気がした。 ただの思い過ごしかもしれない。 でも意識はどうしてかそう語りかけてきた。 きっと大したことじゃない。 聞いてみれば案外簡単に受け入れられる筈なのに。 俺は……そう。放たれるであろう言葉を知っていて、それに恐怖していた。 彰利 『なぁ悠介───俺達は強くなれたよ。     頑張って、ひとりで立てるくらいに強くなれた。     夢を抱いて、明日を夢見て、過去を振り返って、     辛い思い出も笑い飛ばせるようになった。     それは俺達がこうして未来を開くことが出来たからで───     俺達ひとりひとりが頑張って人生って波に抗ってるからだ』 悠介 『………』 彰利 『なぁ悠介……他人のために頑張るな、なんて言わない。     周りの幸せのために自分の時間を削るなともに言わない。     けど、今……この時だけは。     どうか───自分を許して、自分の力を信じてやってほしい』 悠介 『彰───、あ……』 どうしてか、涙がこぼれた。 とても熱くて、とても儚い雫が頬を伝う。 胸を突く息苦しさは嗚咽だろうか。 けど───どうしてか…… 悠介 (……ああ……) どうしてか……その涙が、嗚咽が暖かかった。 今までずっと自分の中に仕舞い込んでいたものが、 ゆっくりと解かれたような感覚を覚えると─── 俺の中で、何かが変わってくれた気がした。 彰利 『お前の力はお前のものなんだ。     だから、他人のためだとか言って自分を戒める必要なんて───、……悠介?』 俺はゆっくりと立ち上がると、彰利の言葉を遮るように手で制した。 彰利 『……、ああ、行って来い。全部見届けるから。     負けやがったら承知しねぇからな、親友』 悠介 『───大丈夫だよ、彰利。答えはちゃんと受け取った───』 彰利 『───、あ…………』 自然と出た笑みが嬉しかった。 そんな笑みにポカンと口を開けたまま俺を見る親友の存在が嬉しかった。 そしてやっと理解した。 俺は誰かに『お疲れ』って肩を叩いて欲しくて─── そして、それはきっと親友にこそ言って欲しい言葉だったんだ。 辛かった、なんて言わない。 それは間違いなく俺の生き方だったし、 そんな人生の中で親友の未来を守れることこそが何より嬉しかった。 けれど─── 悠介 『………』 けれど。 もう“守る者”なんて必要ないのかもしれない。 守れなかった苦しみも、救うことが出来なかった悲しみも、全部─── いつかこうして微笑みに変わってくれる時が来るのなら─── 悠介 『───思考を紡げ。意識を繋げ。異端の思考よ例外を創造れ(連ねるは言。連言より軌道と成す。意は創造と化し、その在り方は正に人)
』 ……立ち上がろう。 守ることでしか自分を信じられなかった自分から。 悠介 『矛盾を抱きつつ既存を創り、既存を抱きつつ矛盾を目指せ(無二で在りつつ無二に在らず、唯一でありながら既に虚無)』 ……前を見よう。 感情を受け入れても、それを表に出すことを拒んでいた自分から。 悠介 『枷は己の心にあり。臆せぬ思考が既存を潰す(束ねる思考は例外に堕ち、虚無なる無象は有象へ換わる)』 ……歩いてゆこう。 夢見ることを忘れ、いつしか固定された絵空事に縛られていた自分から。 悠介 『想像は留まりを知らず、想像は無限に換わり、創造すらも無限に換える(その在り方は神が如く。越せぬ壁など我が身にあらず、我が意思こそが無限の自由)』 ……走りだそう。 いつか開けるだろう、この長い夢の最果てへ。 悠介 『生きた軌跡は至福に遠く、その思い出は黄昏へと集約せん(ならばその在り方をここに示し、無限の自由を世界と謳え)』 ……夢を追おう。 長く続く未来を、ずっとずっと笑顔で走れるように。 そして─── 悠介 『応えてくれ、ラグ。抱いた夢と、描いた夢の中を歩くために。───卍解!』 ───越えてゆこう。 全ての戒めを壊して、親友と描いてゆく高くはばたける架空の蒼空を目指して。 自分たちは絵の具であり、一生を掛けて夢の蒼空を描いてゆこう。 いつだって、いつまでだっていい。 その夢が色褪せても、何度でも描き直せる夢の中を親友と生きてゆこう───。 ゼット『………』 ……大気が渦巻く。 精霊の法衣だった着衣は黒衣に変わり、金色だった髪は黒く、元の姿へと戻る。 渦巻く大気の中心で形を変えたラグを構え、ただ静かに、ゆっくりと息を吐いた。 黒衣と目の色、そして剣の形以外は全てが元通りに戻った自分。 それはまるで─── 鎌が自分に“自分の好きなように生きろ”と言ってくれているようで─── 悠介 『……ははっ』 戦いの最中だっていうのに、酷く嬉しく感じる自分が居た。 ……ああ、よかった。 俺はまだ頑張れそうだ。 そう、小さく考えた。 再び在り方を変えた、どこまでも懐かしい黄昏の草原の中で。 悠介 『悪いな……待っててくれたのか』 ゼット『歯ごたえが無いのはつまらないだろう』 悠介 『───ああ、まったくだ。     それじゃあ再開しよう。もう一度、仕切り直しだ───!』 力が溢れる。 自分のものじゃない力に支えられるようにして、弾けるように疾駆した。 ───万象担う創世の法鍵(ばんしょうになうそうせいのほうけん)。 万象の源たるラインゲートの力を黄昏に繋いだラグナロクの最終形態。 いつか死神王状態の彰利に言われ、今までずっと解放出来なかった俺の鎌の卍解。 守ろうとするばかりで、守られる存在からの助けを拒絶していた自分─── そんなしがらみを捨て、貸してくれる力を受け入れた状態がこの鎌の真。 13全てのラインゲートを一纏めにして黄昏として創造した“精霊の領域”であり、 精霊としての俺が紡ぐ、“14個目のラインゲート”とも呼べる創造領域。 己が裡に存在する召喚獣の力さえ受け取れるこの世界の理。 それを以って─── 悠介&ゼット『オォオオオオオオオオオオッ!!!!!』 ───やがて激突する魂。 振るう剣は速度を増し、耐える力はより強靭に。 支えられるということがどれほど力強いかを、俺はようやく理解することが出来た。 意思は我が裡にあり。 それさえあれば、どんなことがあっても真っ直ぐに前を向ける気がした。
【Side───弦月彰利】 ───そうして、親友の卍解は完了した。 景色は黄昏の草原のままなのに、 精霊の気配が嫌になるくらいに満ちた“世界”の創造とともに。 豆村 「すげ……あれが卍解……?     さっきまでやられるだけだったってのに、打ち合ってる……」 彰利 「悠介はな、人には好かれない体質だけど人外には好かれやすいんだよ。     それは無機物だろうが自然だろうが変わらない。     本当は様々な万象に支えられてたんだ。     ただそれを───“守る側”に回ることで、無意識にずっと避けてたんだよ。     自分は守る者だから、自分が守られてちゃいけない、ってな」 豆村 「……じゃあ」 彰利 「ああ。あいつはもう、とっくに卍解に至れる技能は身につけてた。     けど心構えがそれを許さなかったんだ」 でももう大丈夫だ。 あいつは自分で前を見た。 自分の中にあった全てを、 自分の外にあった全てを受け止めて、その上できちんと前を見た。 そこにはもう、なんの使命感も無い。 ただ我が儘に、自分の意思を貫こうっていう感情を爆発させて戦うだけだ。 けど─── ゼノ 「ぬ……?本気を出してはいるが、どこか妙だな」 その通り。 あの馬鹿、卍解してまでその卍解を 一から少しずつ吸収して自分としての力に変換していってる。 まあその、つまり……全力で修行してる。 彰利 「アホォーーーーッ!!全力で修行するより全力で戦え!!     ゼットだってまだ強くなっていってんだぞ!!」 豆村 「えっ……全力じゃないのか!?」 彰利 「全力だったら暴発はするだろうけど決着ついとるわ!!     っていたやぁあああーーーーーーーっ!!!」 みさお「ああもう彰衛門さん!     足がぐしゃぐしゃに折れてるんですから騒がないでください!!」 彰利 「それどころじゃねえ!!あのままじゃいずれ───」 聖  「パパ!黙って!!」 彰利 「ぎょ、御意」 豆村 「……親父ってさ、姉さんにはほんと弱いよな」 彰利 「うーさい!!」 【Side───End】
 ガギィンッ!!ゴギィンッ!!ガッヂィイイッ!!! 悠介 『ぐ───ぅう……!!オォオラァッ!!!』  ギャリィンッ!! 受け止めた剛撃は幾度か。 痺れる腕を水のラインゲードに治してもらいながらも連撃を繰り返す。 いつだって無理をして、誰かを守ろうと躍起になっていた自分。 そんな自分を暖かく支えてくれる世界があった。 思えばずっと孤独に戦ってきた。 けど───今は違う。 こんなにも心が暖かいままに敵と向かい合えることなんて、今まできっと無かった。 悠介 『はぁああああああっ!!!!』  ヒュフォンガギィンッ!!! ゼット『ッ───!?チィッ……!!』 なんて心強いんだろう。 いつだって不安ばかりだったのに、今は少しの不安も無い。 むしろ暖かく、いつまでだって戦っていられる気がした。 それは同時に、感情を受け入れはしたけれど、 ずっと表に出そうとしなかった自分に世界が手を伸ばしてくれているようで───  ───ガギィンッ!ゴギィンッ!!ギヂィィイインッ!!! ゼット『───……速い……っ!?』 その手を取って立ち上がれた自分がとても嬉しかった。 前を向いて歩ける自分が嬉しかった。 そして───孤独じゃないとようやく確信出来た自分が嬉しかった。 世界はこんなにも自分を支えてくれていて、 それが今までの人生の積み重ねの先にあったことが嬉しかった。 悠介 『はっ───、はぁ───はっ……!!』 振るう連撃は乱れる息よりも軽やかに鋭く。 連撃を繰り出す度に、自分の中に自然が吸収されてゆくことが嬉しかった。 だからこそ思えた。 自然に、親友にあの言葉を贈られた時のように。 悠介 (ああ……───俺は、ひとりじゃない───) 何を意地になっていたのか。 何を求めていたのか。 そんなことさえ今では解らない。 ただ、確実な意思を以って、俺はこの一歩を歩き出す。 いつまでも、楽しい日常という名の絵画を親友と描くために───!!  ドォッガァアアアアアアアッ!!!! ゼット『───!な……』 豆村 「うわぁあああああっ!!?」 ゼノ 「大気が震えている……?」 夜華 「いや、違う……。これは───」 聖  「……自然が……叫んでる───」 彰利 「……なんにせよ、これで確信した。やっぱ悠介の成長速度って化け物級だわ」 ───大気が揺れる。 ようやく自分と向き合ってくれた俺に喜ぶように。 そう……能力だって万象のひとつ。 利用するだけじゃなくて、向き合うことだって出来た筈なんだ。 自然の声が聞こえるようになった俺なら、出来た筈だったのに。 悠介 『……いっぱい待たせてごめんな。     今からでも遅くなかったら……俺と一緒に歩いてくれ』  ───ギキィイイイイインッ!!! 再び震える大気。 俺の中にある全てと、この世界にある全てが俺の心に共鳴し、 ただともに戦えることを喜んでくれた。 だから、ありがとう、と───そう呟いてラグを大きく振るった。 この世界全ての力を、ラグに託すために。 悠介 『覚醒しろ!“万象担う創世の法鍵(スピリッツオブラインゲート)
”!!』  オォオオオオオオオオオオオンッ!!!! 吼える大気に、収縮する十三の属性。 世界は俺とラグを支えるように包み込み、駆け出す勇気を託してくれた。 悠介 『いくぞゼット……全力であんたを越えてゆく───!!』 ゼット『───』 ゼットは何処までも楽しげな顔で俺を見た。 そして無言のままに戦斧を構え、大地を踏み砕いて疾駆。 悠介 『疾───!!』 それを迎え撃とうと俺も疾駆し、真正面から全力を以って激突する───!!  バァッガァアァアアアォオオオオオンッ!!!! 悠介 『ッ───!!』 ゼット『グッ……ォオオオオオオオオオッ!!!!!』 互いが弾丸となって激突し合う。 黄昏の草原に爆裂音が響き渡り、しかしそれは一撃ニ撃では留まりの片鱗さえ見せない。 悠介 『ゼットォオオオオオッ!!!』 ゼット『晦ぃいいいいいいいっ!!!』 もはや視認を許さぬと断ずるかのように連ねられる連撃を、さらに速く弾いてゆく。 破壊力も速度も明らかに跳ね上がったゼットの攻撃は実に悪夢めいていて、 しかしそれでも一歩も引かずに連撃を連ねる。 ゼット『ルォオオオオオオオオッ!!!!』  ガガァッチュゥウウウウウンッ!!! 悠介 『ッ!───斬!!』 ザフィィンッ!!───溜めも無しに口から放たれた極光を両断する。 だがその刹那の間隙さえ逃さずに振るわれるは巨大斧の一撃───!! 悠介 『“風塵息吹(ゴッドブレス)”!!』  ゴォドッガァアアアアアアアアンッ!!!! ゼット『───!?チィッ!!』 ラインゲートから引き出したゴッドブレスで斧を地面に叩き落とす。 だがその破壊力は黄昏の大地に巨大なクレーターを作る。 しかし勢いに武具を持っていかれた隙を逃すほど馬鹿じゃない───!! 悠介 『その隙、貰った───!!』 ゼット『ぬるい!!』  ヒュフォンッ!! 悠介 『───!チィッ───』 振るったラグはしかし、戦斧を手放したゼットに軽く躱される。 が───相手が徒手空拳なのはそれ自体が隙だ。 俺は一気に間合いを詰め、速度重視の打突を放つ───!!  フオガギィンッ!! 悠介 『なっ───』 だがその打突は戦斧に弾かれる。 そう、この斧はゼットの鎌だ。 手を離したところですぐに出現させることなど造作もない。 ゼット『飛べ───!!』  フオ───ドボォッ!! 悠介 『ガッ───ぐ……!?』 思考に気を取られた隙に繰り出された回し蹴りに、馬鹿みたいな距離を飛ばされる。 だが今度こそ身を捻り、 その反動を利用して上手く着地すると、同時に地盤を踏み砕いて疾駆した。 そして─── ゼット『───フゥウウォオオオオオオッ!!!』 悠介 『だぁああああっ!!!!』  コオバァッガァアアアアアアアンッ!!!!! 吹き飛ぶ俺を追うようにして飛翔してきていたゼットと武器と武器を激突させた。 交差する武具は真空と衝撃を発生させ、景色の衝突した景色の一端を完全に破壊する。 地盤はとうにクレーターと化して沈み、だが飛翔を以って連撃を連ね続ける。 悠介 『“三十矢の地槍(ゲイボルグ)”!!』 だがいつまでも間隙を探る戦いなど続けられない。 斧を斬り弾いた時に生じた距離を糧に瞬時に光の武具を創造し、これを放つ。 ゼット『ッ───オォオオオオオオッ!!!!』 悠介 『───!?』 だが。 その三十の鏃を本命の一撃と断ぜぬが故の飛翔に驚愕する。 身を穿たれようと飛翔し、 ゼットは俺の眼前まで肉薄すると一気に戦斧を一閃させる───!!  ゴプシャアッ!!ゾシュウッ!! 悠介 『がはぁあああっ!!!』 ゼット『グ───!?』 振り切られる巨大斧と、砕かれ飛び散る肉片と赤。 だがその部位を回復させる間すら惜しいと奔らせたラグがゼットの脇腹を刺し穿つ!! しかしそれだけでは終わらない───! 悠介 『“雷が拠代たる皇の雷(イレヴナルラインゲート)ォオオッ”!!!!』  ギィンッ!!ゴロロガバッシャァアアアアアアアンッ!!!! ゼット『ガッ───アァアアアアアアアアッ!!!!!』 脇腹を貫いたラグへ雷のラインゲートを落とし、さらに振り払う。 ゼットは体勢を崩し、地面に向けて落下し─── 悠介 『詰める───!!』 ───否。落下だけでは済まさない。 俺は落下するゼットを追うように急速飛翔し、 ラグを手の中で一回転させると強く握り、全力を以って─── 悠介 『“黄竜剣(カリバーン)”!!』 ゼット『───!!』 黄金の斬撃を振り下ろす!!  フィンッ!!ギシャゴゴォッキィイイイインッ!!! 悠介 『───!なっ……に───!?』 ゼット『っ……!!』 ───だが。 最高の速度、全力とともに振り下ろした黄竜の闘気はしかし、 巨大な戦斧との衝突に霧散する。 っ……止めるか……?あれを……!! ゼット『くぅううぁあああああああっ!!!!』 さらに沈んだクレーターの中心で、ゼットはラグごと俺を上空へと振り飛ばした。 戦斧にはヒビひとつ入らず、未だ黒い光を放ちながら存在している。 だがそんなことを確認するのも束の間。 ゼットは飛翼をはためかせるとクレーターを砕き、俺目掛けて飛翔する───!! 悠介 『───!』  ヴフォンヴァガッキィインッ!!! 悠介 『づっ───、───!!』 重い一撃に腕が軋む。 それでも心は砕けず、引くこともせず真正面から攻撃を受け止めていった。 空中での攻防は続き、火花を虚空に舞わせ続ける。 ありとあらゆる手段を用いて互いを攻撃し、手加減無しの攻防は大気さえ破壊する。  ヒュフォンフォンフォン!!ギィンギィンギィンガギィンッ!!! 紫電を込めた剣は弾かれ、 だが間隙間隙にゼットの身体を削ぎ、しかし同様にこちらも削がれてゆく。 放った斬撃など既に未知に至り、 それでも互いに引かないのはきっと、つまらない意地のため。 それでもその意地が己を形成している確かな意思なのだとしたら───そう。 かつてがそうだったように、絶対に負けるわけにはいかないのだ───!! 悠介&ゼット『オォオオオオオオッ!!!!』  ブフォンガカァッギヂィイイイインッ!!!! 悠介 『っ……』 ゼット『───っ……』 ───そうして。 互いに吹き飛んだ際に出来た間合いに、ようやく息を吐いた。 全力でぶつかり合い、限界を超えてなお限界へ。 そんな剣戟の連続を打ち鳴らしていた俺達はとうに疲労の限界を向かえ、 互いが互いを睨みながら次の一撃を構えた。 そう───これが最後の一撃となる。 悠介 『……、……はぁ……』 ゼット『……お前に感謝を。こんなに楽しい時間など、     後にも先にもセシルと一緒に生きた頃だけだった』 悠介 『だったら───これから何度だって夢を見ればいい。     お前は此処に立っていて、この世界にはお前を咎める理なんて存在しない』 ゼット『───ああ。そう出来たら楽しいだろうな』 渾身を込める。 剣は極光と紫電を放ち、 さらにこの世界に満ちている全ラインゲートの力と俺の中にある力を受け止め、 さらに金色に輝く。 それはゼットの戦斧も同じだ。 より鋭くより鈍く輝き、 触れるもの在らばそれを破壊せんという“意味”さえ視認させる存在感を伝わらせる。 悠介 『───いくぞ、ゼット』 ゼット『……今度は引かない。たとえその果てで朽ちようと、本望だ』 かつての闘いを思い返しているのだろうか。 ゼットの瞳に赤が燃え、神魔の波動がこの世界に満ちてゆく。 ───勝負は一瞬。 全てはその先にこそ付し、荼毘となるか生となるかなど未知に沈む。 だがそれでも引くことは許されない。 己の意思を、我が儘を貫き通すためにも───たとえどんなもので負けてもいい。 ただ、己が持つたったひとつの真実だけは、誰にも折られるわけにはいかない───!! 悠介&ゼット『“戦闘開始(セット)”!!』  ───バガァンッ!! 大地を踏み抜く跳躍と飛翔。 それぞれが己が武器に込めた極光は凄まじく、直視すれば目が潰れるであろう光を放つ。 やがて黒の極光と金色の極光が激突する刹那に、 それぞれが自分が持てる最大の力を以って─── ゼット『“全て破壊す黒竜の一撃(ロードオブブレイクエッジ)”!!!!』 悠介 『“吼竜剣(エクスカリバ)ァーーーーッ”!!!!』 互いの全力が、光となって激突する───!!  ギガシャゾガァッフィィイインッ!!!! ───……、……。 ───……消える音。 一切の音が巨大な音にこそ消された世界。 その先で、互いが互いの一撃の果てに草原に降り立った。 対象に背を向け、立っているだけで精一杯の状態で小さく息を吐き───ブシャアアッ!! 悠介 『───、あ───』 それをきっかけに、斬り裂かれた身体から血が噴き出す。 意識は完全に飛び、手にしていたラグが首飾りに戻ると───俺はゆっくりと倒れた。  ───トサッ。 ……いや。倒れる前に誰かに抱きとめられた。 声  「……おつかれさん」 悠介 「……、……」 それが誰の腕の中なのかはすぐに解った。 だから俺は……聞こえた『おつかれさん』という言葉に酷く安堵して、意識を断った。 【ケース28:ゼット=ミルハザード/そして全ては───】 ゼット「グ、ブ……!!」 持っていた戦斧が自然と消滅すると、身を包んでいた黒衣は消滅した。 それでも倒れず、強化された身体をここまで破壊してくれた男を最後に見た。 ゼット「───……」 晦悠介、か。 最初は同属───世界にたったふたりきりの竜人として関心を持った。 次には敵対し、いつしか憎み───そして。 ゼット「……そして、───」 今では親しみすら覚える。 憎しみや苦しみ、悲しみなどを全て真正面から受け止めてみせた存在。 同情などではなく、竜と化した自分に全力でぶつかってきてくれた唯一無二の存在。 そんな存在に、ただ感謝をした。 だがもうそれも終わりだ。 ゼット「………」 崩れゆく身体を見下ろす。 全てを賭して振るった最高の一撃は再生能力さえ使いきり、 強く傷ついたこの身体は崩壊を辿るのみ。 惜しむことがあるとしたら───もう夢を見ることは出来なくなることだろうか。 そう思い、弦月彰利によって削がれ、晦悠介によって斬り裂かれた傷を見た。 無二の友情───いつか、自分もそんなものに憧れたことがあったな、と懐かしみながら。 最後に小さく、かつての自分がそうしたように無邪気に微笑んで、身体を崩した。  ───トン。 ゼット「……?」 ───いや、倒れる筈だった。 冷たい地面に倒れるだけだったのに、それを支えてくれるぬくもりがこんなにも暖かい。 俺を支えてくれた人は俺の微笑みを真正面から見て涙して、 みさお「……お帰りなさい、ゼットくん」 そう言って───俺の身体に癒しの力を流してくれた。 あれだけ酷いことをしたというのに、今の俺の顔を見て全てを許して泣いてくれた。 途中から、何もかもお見通しだったのだろうか。 ……いや。そんなこと、今はもうどうだっていい。 そんなことよりも、今はただ─── ゼット「……、……」 ただ……心が暖かかった。 こんなにも幸福で、こんなにも嬉しくて。 だから俺は蚊の鳴くような小さな声で『ただいま』と言って─── 小さく、ただ静かに涙した。 Next Menu back