───冒険の書131/真実と最果ての願い───
【ケース350:晦悠介(再々々)/訪れた死王城、明かされる未来】 …………───歩く音のみが響いている。 ひっそりと静まり返った城は、 まるで住む者を失った廃墟のように不気味に沈黙を守っている。 ……いいや、“人”が居ないという意味では、既にここは廃墟なのだ。 この世界の歴史の中で、いつからこうなのかなんて知らない。 それでもかつては栄えていた賑やかな時代があったことくらい幻想したい。 そんなあまりにも寂しい城の中を歩き……やがて。 ジュノーン『………』 俺達は、玉座に座している不死の王の前へと辿り着いた。 ジュノーン『……そろそろだとは思っていた』 悠介   「その口ぶりからすると、俺が気づいたことも全部知ってるのか」 ジュノーン『当然だ。全ては筋書き通り。何も違えることもない』 悠介   「………」 彰利   「お、おいおい悠介……?なにフレンドリーに話して……。       あ、もしかして貴様柾樹?正気を取り戻したとか───」 ルナ   「ううん、違うのよホモっち。そんなんじゃない」 彰利   「……あのさ。真面目にいきたいならホモっちってのやめようよもう」 彰利は困惑したままに俺やルナ、そしてジュノーンの姿を視界に捉える。 だがそんなことをしたって正体が解るわけもない。 彰利   「……お前。柾樹……だよな?」 ジュノーン『それはこの入れ物のことか?       ああそうだな、そういった意味では私は霧波川柾樹だ』 彰利   「入れ物……じゃあやっぱその鎧が───」 ジュノーン『こんなものは飾りだ。体面した瞬間に喰らってやった』 彰利   「へ───……?」 ジュノーン『解らないか“彰利”。       黒という意味では、お前は一番私に気づきやすい存在だと思っていたがな』 彰利   「……ちょっと待て。お前、柾樹じゃ……」 悠介   「彰利。あいつは柾樹なんかじゃない。       どんな経緯でああなったのかは大体解ってるし、お前も知ってる筈だ。       お前はそれを霧波川来流美から聞いて、       俺はお前の視界を通してその事実を知っていた。       思い出せ、初めて斉王の前で聞いた話を」 彰利   「斉王の……?───!じゃ、じゃあ、なんだ?       こいつって……柾樹が子供ン頃に相模ってヤロウにボコられた時、       柾樹の体に入り込んだっていう……光?」 ……そうだ。 そしてこいつはそれからずっと柾樹の中に住み続け、俺達のことを見ていた。 もし全てが救われるという可能性がこの時代の未来にあるのなら、 自分は消えて、全てを俺達に任せようと。 だが、もう決定的だ。 こいつがこんな行動を取ったってことは─── ジュノーン『この時代もまた病んでいる。       幸福になど辿り着くことは永劫に無いだろう。故に降り立った。       この世界を綺麗なままで破壊し尽すために』 彰利   「───!」 玉座から立ち上がった男の言葉を前に、彰利が真っ青になった。 世界を破壊するために。 その言葉にどんな意味が込められているのかを、こいつはとうとう気づいたんだ。 彰利   「世界の破壊……崩壊……じゃ、じゃあこいつは───!       柾樹の中に入ったっていう光の正体ってのは───!!」 ジュノーン『種明かしはいつだって熱が冷めるな。そうは思わないか?過去の“俺”よ』 答えはただひとつ。 俺が精霊になった時に見た未来───その中に存在した未来の俺。 そう、こいつが“世界を崩壊させる俺”だ。 遙か未来で人に絶望し、自分が一番楽しかった頃にまで時間を遡ってきた─── 世界の終わりを知る、かつて守りたかったものをその手で破壊した暗黒英雄。 彰利 「へっ……そっか。ムナミーママに聞いた話は全部真実か……。     柾樹がガキの頃、相模啓介っつークズにボコボコにやられた時、     虚空に妙な歪みが出来て、そっからひとつの光が降りた。     それは柾樹の体に入って、その途端に柾樹は豹変……     相模ってやつを殺すつもりで散々ボコボコにした……。     感情もその頃から死んでるっつーなら……なるほど。     柾樹の感情がどうにも乏しい理由も解る気がする」 そうだ。 未だ完全に浮上してない感情……それは、 未来の最果てに辿り着いたこいつでさえ手に入れることが出来なかったのだろう。 彰利   「お前は最初から意識があったのか?       だったらなんだって次から次へと村や国を……?       お前が本当に“晦悠介”だってんなら、そんなことするわけが───」 ジュノーン『晦悠介などという名前はもう捨てた。呼びたければルドラと呼べ、死神王。       晦悠介などという存在はクズだ。そんな名など私にはもう不要なものだ。       晦悠介とは他人のため他人のためと行動し、       挙句に絶望を知ったただの愚者の名だ。       英雄に至り、道具に至り、終には破壊者となった。       だがどうだ?最後にはなにも残らなかった。       守りたいものを守るなどという絵空事は理想にすぎない。       そんな果てを私は見た。馬鹿馬鹿しいにも程がある』 彰利   「……!《ギリリッ……!》」 彰利が歯を軋むくらいに喰いしばる。 突然の事態に思考がついていけず、 だが、何処かで疑っていたであろう“俺の言葉”への確信。 様々な葛藤が思考を支配しているんだろう。 彰利 「悠介……こいつが世界を崩壊させるのか?」 ルドラ『世界崩壊?ああそうだな、ただし崩壊させるのは“お前らの世界”だけだ。     増え続け蝕み続ける者たちの未来など、ほうっておいてもいずれ終わる。     私と彰利が守らなければ真実、億も満たずに滅んだのだろうよ』 彰利 「………」 ルドラ『助け、守り続け、その挙句が裏切りと自滅だ。まったく救いがない。     私は心底呆れた。どれだけの思いをかけて守ってきたと思っている。     あんな結末を見るためじゃない。守りたかった、それだけだ。     守りたかったから守り、救いたかったから救った。     だがやつらがしたことは親友殺しだ。それも自分の保身のためだ。     英雄だ英雄だと言っていた相手を散々利用して殺した。     しかもその研究も結局挫折だ。ならば何故親友は死ななければならなかった』 ルナ 「………」 ルドラ『彰利……全てが知りたくてここに来たのだろう?ならば全てを教えてやる。     遙か先の未来、人々を守り、親友とともに生き続け英雄となったお前は───     その守り続けてきた人々にこそ殺された』 彰利 「───!」 ルドラ『お前の亡骸は研究所の廃棄場にゴミクズのように捨てられていたよ。     その時の私の気持ちが解るか?     死に、死神としてあとは消滅するのみだったお前の体を、     私がどんな思いで掬い上げたか』 仮面ごしにでも伝わるくらい、深い憎しみがその場を支配する。 ……想像できるようなものじゃない。 その憎しみは、味わった者じゃなければとうてい理解することなど出来やしないのだ。 ルドラ『だが私は守ることを続けた。だってそうだろう?     そこで私が全ての人類を滅ぼせば、親友が守った世界が無駄になってしまう。     だから私は守り、だが自然が齎す災厄からは決して守ろうとはしなかった。     結果は世界の崩壊だ。未来の私の時代には、既に地界も空界もありはしない。     全て勝手に自滅した。跡形も残さず、     そこに存在したことすら解らなくなるくらいにだ』 彰利 「その時代のルナっちや俺の妻たちは……」 ルドラ『───とうに死んだ』 彰利 「……!」 ルドラ『解らないか彰利。数在る死神、数在る異種の中で、俺とお前だけが特別だった。     精霊の王に至り、死神の王に至った私とお前は他の者よりも長く生きた。     そして億以上の歴史をともに歩み、その中で人の醜さを知った。     だがそれでも私達は“英雄”だったのだ。人々の期待に応え、     病や災厄から人々を救い、やがてはただの都合のいい道具に成り下がった』 そんな未来を俺は見せられた。 荒廃した台地に緑を植え、 植えた矢先から工事だなんだと木々を破壊し、ただ増え続ける人類。 俺達が居ればなんでも普通に進むなどと慢心し、破壊を続けた結果、地界は滅んだ。 確かにこんな馬鹿な話は無い。 長く生きる中で自分の在り方さえいつしかおぼろげになってしまった二人は、 ただ英雄として助けることしか出来なくなっていた。 だがそれも親友の死で変わる。 英雄から破壊者に至った彼は、地界が滅んだのちに空界に移動し─── そこで静かに時を過ごすつもりが、そこでも救いを求められたのだ。 ルドラ『道具に選択肢など無かったのだろうよ。人はただ私に救え救えと言ってきた。     だがどうだ?その結末が親友の死であり、そんなことをしてもまだ図々しく、     悪びれもせず救えと唱える者をお前だったら救えたか?』 彰利 「……俺は……」 ルドラ『ああそうだ。最初こそ私も怒りを噛み締め、耐えていた。     空界に降り立ち、ただ静かに流れる時の中に埋没したかった。     だが人は尚も救えと言った。救わなかった私に攻撃を仕掛けた。     ……それで終わりだ。都合のいい戯言のみを吐く物体を、私は破壊した。     破壊し尽くした。子供も大人も、男も女も、向かってくる者は全て殺した。     愚かだとは思わないか?私に向かってくる暇があったら、     お得意の研究とやらで世界を救ってみせればよかったというのに』 彰利 「………」 ルドラ『結局、間も無く空界は消滅した。     どう言おうが危機になれば助けてくれると思い込み、また自滅だ。     救いが無いにも程がある。解るか。守る価値など無かったと、     救う価値など無かったと、そんなにまでならなければ理解できなかったんだ。     その時ほど感情が無いことを恨んだことなど無い』 彰利 「お前……お前は……だからって俺達の日常を破壊するってのか……!?」 ルドラ『勝手なことだと思わば思え。だがあんな未来に辿り着かせるくらいならば、     私はお前らが日常だと思っている世界を破壊する』 ギシリ、と不死王……いや、ルドラが持つ剣が軋む。 彰利はそれを見てビクリとするように構えるが─── ルドラ『……まだ戦うつもりは無い。そこの出来損ないに聞いていると思うが、     終わりはこんなゲームの中で迎えるべきじゃない。     せいぜい楽しんでおけ。時が来たら全てを破壊するため、私は動く』 彰利 「そんなことはさせねぇぜ!……悠介が」 悠介 「オイ」 ルドラ『不可能だ。私が誰かをもう忘れたか?     そいつの弱点など嫌気が差すほど知っている。億という時は長い。     今そいつが不可能だと言っていることも、     今スピリットオブノートが不可能だと言っていることも、     そんな壁など全て乗り越えた。その先に私は立っている』 彰利 「それってどういう───」  ゾフィインッ!! 悠介 「げはぁっ!!」 彰利 「お、あっ……!?」 ルドラ『……こういうことだ』 一瞬だった。 移動ではなく転移をしてきたとさえ思える速度で俺の目の前に現れたそいつは、 手に持っていた古びた剣をラグに変えるとおもむろに俺の心臓に突き刺したのだ。 ルドラ『今お前から感じる波動は精霊のものだけだ……なるほど?     一点に集中すればより強くなれると踏んだわけか』 悠介 「が、かはっ……!げはっ……!」 ルドラ『思い違いもここまで来るとお笑い種だな。今はそれが弱点でしかなくなっている』 悠介 「な……に……!?」 ルドラ『───“Beschlub”』 言が紡がれた。 どういった言なのかを理解するには数秒を要し、それが解った時にはもう遅かった。 悠介 「《ビギィッ!!》ガッ───ぐあぁああああああああっ!!!!」 彰利 「悠介!?」 体に激痛が走る。 ぞぶり、と剣が抜かれた途端に俺は城の床に崩れ落ち、 血を吐き出すよりも激痛に耐えられずにのた打ち回った。 彰利 「てめっ……いったい何しやがった!!」 ルドラ『“回路”を元に戻してやっただけだ』 彰利 「回路を……!?ンな馬鹿な!悠介の回路は全部精霊の回路に変換されちまって、     もう二度と戻ることは出来ないってスッピーが───!……あ」 ルドラ『そうだ。そんな壁などとうに越したと言った。今不可能だと言える技術など、     億を越えるうちに見い出せた。……フン、そもそもおかしいとは思わなかったか?     世界を構造として見ることの出来るスピリットオブノートが、     回路ごときを分解することが出来ないなどと。     そんなものは主の覚悟を試すためと、主の身を案じてのことにすぎん』 彰利 「な、なんだよそりゃ……じゃあスッピーは最初から……!?」 ルドラ『知っていただろうさ。だがそれは、どうやら“種”を一つに固定し、     そいつの心の置き所を一箇所に定めるためだったようだな。     感情が死んだままではいずれ、私と同じ場所に辿り着く。     それを知ってか知らずか、だろう。     私の時代では私が精霊になる、などという瞬間など存在しなかった』 悠介 「〜〜〜っ……が、あ───づ、あぁあああああっ!!!!」 ルドラ『くっ……はっはっはっはっは!!苦しいか、過去の俺よ。     そうだろうな。一つになり安定に向かっていた回路が再び分離させられたんだ。     今頃精神体のお前の中では回路が暴れ回り、     安定するべき場所を奪い合っているところだろうよ』 血が、血管が躍動する。 全身が痛覚にでもなったかと錯覚するくらいに痛い……! 目の前が真っ赤に染まって……! 体の中に死神の血と神の血が流れ込んで、 吐きたくなるくらいの気持ち悪さが襲ってくる……! 彰利 「〜〜っ……てめぇ!今は戦わないんじゃなかったのかよ!」 ルドラ『ああ、戦わないな。だが逆に感謝してもらいたいくらいだ。     その気になれば今の一撃でそいつは死んでいた。それを殺さないでやるどころか、     逆に力を与えてやったようなものなんだからな』 彰利 「わけわかんねぇよ!解るように言いやがれ!」 ルドラ『精霊の状態ではどれだけ努力しようが私には勝てない。     だからきっかけを与えてやっただけだ。せいぜいもがいてみろ、過去の俺。     私が辿った軌跡では“俺”は“私”に会いはしたが戦うことはなかった。     だからこそその先の可能性を見せてみろ。解るな?これは最後の機会だ。     お前らが私を殺せたならまだ見ぬ未来は開けるだろうよ。     だがそれが叶わなかった時、お前らの世界と未来は崩壊する』 彰利 「な……んだと……!?」 ルドラ『なに、ただのゲームの延長だ。お前らは力をつけ、俺を殺せればクリアー。     だが負ければそのままゲームオーバーだ』 彰利 「てめっ───いい加減に!」 ルナ 「待って」 彰利 「っと……ルナっち……?」 ルドラ『……───ルナか』 ふと。 今まで黙ってルドラの話を聞いていたルナが、一歩を歩んでルドラを見つめた。 ルナ 「いい加減にしてっていうのはわたしの言葉でもあるけど───ねぇ。     どうしてそんな審判めいたこと、あなたがやらくちゃいけなかったの?」 ルドラ『決まっている。私しか出来る者が居なかった』 ルナ 「そうじゃない。どうして“この時代”のことを、     他の時代の悠介が決めなきゃいけないの、って。そう訊いてるの」 彰利 「あ───そうだよ。なんだって───」 ルドラ『ふふっ……なるほどな、当然の質問だ。では訊こうか?お前らはかつて、     自分が好まないからといって過去の歴史でどんなことをした?』 彰利 「───!」 ルナ 「………」 ルドラ『後悔の旅、と言い、     過去の者の意見も聞かずに勝手に歴史の改変をしたんじゃないのか?     未来についてもそうだろう?彰利』 彰利 「っ……それは……」 ルドラ『“あの頃に戻れたら”。“あの時ああしていれば”、“こんな未来があれば”。     そんなことは誰もが考える後悔と未来への願望だ。     それが私の場合、ただこの歴史での行動に繋がっただけだ』 彰利 「要らんお世話だ、って言って引き下がってはくれねぇのかよ……」 ルドラ『無理だな。そこに転がる男はどうしようもないほどの馬鹿だ。     死にでもしなければ“守りたいものを守る”だなんて幻想を捨てはしない。     その先にはどうやっても私が辿り着いた最果てしか存在しないのだ。     理解しろ。守りたいものを守るなどという言葉に縛られ、     行き着く先で絶望することになんの意味がある』 彰利 「そりゃつまり悠介が、     守りたいものを守るって意識を捨てればいいってことなんだろが!     そんなもん、今は無理でもいつかは出来るだろ!?」 ルドラ『違うな。その未来の先に“私”があった。     私のもとに訪れた“私”は、     何度も守りたいものを守るなどという幻想は捨てろと言ってきた。     そいつは私に全てを話し、絶望しか待っていない未来を私に教えた。     ああ。もちろんそいつの言葉が真実で、真摯な言葉だったから私は信じた。     だがどうだ。いざ目の前で困る人が居れば助けずにはいられなかった』 彰利 「それは……」 ルドラ『言っただろう。私がそうだった。     晦悠介という存在の馬鹿さ加減は死ななければ修正されはしない。     なにをどう言ったところで無駄なのだ。“自分のことより他人のため”。     そんな意思ばかりを自分の身に刻み込んでしまった馬鹿者は、     今さらどんな生き様を願おうが、願うための感情が無いのだ。     そんな信念が、守りたいものを前にしてまで潰しておけるわけがない』 彰利 「ぐっ……!」 いちいちもっともだ。 いや……それはそうか。 あいつは未来の俺なのだ。 本当の絶望というものを知り、 人という存在を“増えて滅ぼす者”としてしか見れなくなってしまった最果ての英雄。 でもそれはつまり、感情さえなんとか出来れば─── 彰利 「じゃあ感情さえなんとか出来ればなんとかなるとでも言うのかよ……」 ルドラ『いいや違うな。感情が手に入ったところで、     その感情こそが“守りたいもの”を見捨てることなど許さないだろうよ。     噛み砕いて言ってやろうか。     そこの男はどうあっても守りたいものを守るなどという幻想を捨てはしない。     守りたいものが滅ばぬ限り、永劫愚かな行為を繰り返すだろう』 彰利 「ん〜なこと!やってみなけりゃ」 ルドラ『解るさ。殺してやりたいほど愚かしい過去の自分だからこそ解る。     そいつはな、彰利。自分の生き方など最初から持っちゃいない。     逝屠の言っていたことは奇しくも真実……人形なんだよ、そいつは』 彰利 「人形だ……?」 ルドラ『そいつは“守りたいものを守る”なんていう、     立派な意志のもとに動いているわけじゃない。     そいつはただ親の真似事をしているだけだ。     かつて憧れていた、朧月の親の生き方をなぞりたいだけなのさ』 彰利 「……んなこと知ってる。こいつがまだ感情が未熟なのも、     手に入れられるだろう感情に怯えているのも知ってるさ。     けどな、だからって悠介を人形だなんて呼ぶのは俺が許さねぇ!」 ルドラ『人形を人形と呼んでなにが悪い。そいつに意志なんてものがあるのか?     ただ周りの期待に応えて身を削る、     それこそ産まれついての道具という名の英雄だろう』 彰利 「そんなことねぇ!!」 彰利が声を張り上げてルドラの言葉を否定する。 その眼はどこまでも本気であり…… その眼から、俺を人形ではないと心から否定してくれているのだという意志を感じた。 彰利 「今すぐ失せろこの野郎!お前なんかに俺達の時代を動かされる筋合いなんかねぇ!     なにが幸せのままで終わらせるだ!俺達の未来をお前が勝手に潰すんじゃねぇ!」 ルドラ『勝手か。そうだろうな。     少なくともお前らが過去でやった歴史の改変は人々のためになっていただろう。     だが私のソレは破壊だ。文句がないわけはないな』 彰利 「おおよ!だから今すぐ帰れ!」 ルドラ『お断りだ。もう二度とあんな歴史は繰り返させはしない。     どうしても止めたければ“私を殺せ”。それ以外に方法など無い』 彰利 「〜〜っ……かぁっ……!」 自分がこんなにも苛立っているのに対し、 相手が平然としすぎているのがカンに触ったのだろう。 彰利は吐き捨てるように甲高い声を放ち、ダンと一度床を踏み蹴った。 ルドラ『……いや、他に方法があるか。     そこに転がっているそいつを殺せば素直に引き下がろう。     私の目的のほぼ90%はそいつの破壊だ。     そいつさえ居なければ守りたいものを守るなどという意志は消えるのだからな』 彰利 「んなことするか馬鹿野郎!あーほんと腹立つなこいつ!!     なんでこんなに腹立つんだよちくしょう!!」 ルナ 「……それだけホモっちが、悠介の人格っていうのを認めてたってことでしょ。     最果てに辿り着いた悠介が見たものは、     悠介をここまで変えちゃうような世界だったってことよ」 彰利 「う……ぬ……!」 ルナ 「ねぇ。本当にまだ戦いはしないの?」 ルドラ『言ったことくらいを守る誇りは持っているつもりだ。     だが気が変わればいつでも破壊に導こう。     それまではこの世界の在り方に流されるだけだ。     今まで通り、お前らのレベルに合わせて“不死王”として遊ぶさ』 彰利 「遊び……?じゃあレオンを殺した時も遊び気分で───」 ルドラ『作り物を殺したくらいで何を嘆く必要がある。ハ、案外やさしいんだな、死神王』 彰利 「───!てめぇっ!!」 彰利が地面を蹴る───! 止めようとしたが声すら出ない状況で、ならばと伸ばした手も空を切るだけだ。 だめだ───!今のお前じゃ勝てやしない!! 彰利 『躍動しろ!“影鎌繰り殺ぐ闇黒の秩序”(アンリミテッドブラックオーダー)
!!』 ゴカァッキィインッ!! ルドラ『ほう、死神王化か。この時代にしては随分と高めたものだ。     私の歴史のこの時代ではお前の半分の力も持ってはいなかったが。     ───なるほど、レヴァルグリードか。     どうやらお前は他の時間軸の彰利よりも未来を願う強さが高いらしい』 彰利 『御託はあの世で言いやがれ!おぉらぁあああっ!!』 彰利の手に現れた漆黒つの剣がルドラへと落とされる! ルドラは依然として構えすらとらない───これは当たる! そう思った時だ。  ガッシャァアアンッ!!!! 彰利 「アッ……ガ───!?」 鋭い炸裂音とともに、彰利の闇黒の秩序が───破壊された。 これは───!? シェイド『………』 彰利  「っ……シェ、イド……!?」 彰利の目の前に居るのは……そう、そうだ。 闇の精霊、シェイド。 もしかしたらと思っていたが……やっぱり連れてきてやがった。 ルドラ『惜しかったな。あとほんの数センチだったのに』 彰利 「なんで……精霊が……!?この世界の管理をしてるんじゃ……!」 ルドラ『それはそこに転がっている晦悠介が契約した精霊だろう。     私が内包している精霊は私の時間軸の精霊だ』 悠介 「内……包……?ってことは……」 ルドラ『ああそうだ。彰利の亡骸を受け入れることで身に宿った黒───     その力で精霊全てを我が身に取り込んだ。幻獣も魔物も、全てをだ』 悠介 「〜〜〜っ……」 嫌な予感は的中したってわけだ。 こんなヤツがこの世界から外に出れば、それだけで災害めいたことになる。 守りたいものを守ると言った俺から守りたいものを滅ぼすために、 黒から魔物の全てを解き放ったらどうなる? 一つの町くらいあっという間に滅ぶだろう。 そう、だからこそ。 だからこそだ、俺とノートがこの世界に未来を託したのは。 生身の人間じゃあすぐに殺されてしまう。 だからこそ、みんなにはこの世界で強くなってもらおうと願った。 鍛錬としてでなく、ゲームとしてならきっと進んで強くなると思ったから。 あとは───その強さが何処まで伸びてくれるか。 これだけだ。 そうなれば、黒の中のものをバラ撒いてくれるのは逆にありがたいことだ。 何故なら“黒”ってのはそれ自体が力と肉体の集合体のようなものだ。 魔物が体から解き放たれれば解き放たれるほど本体は力を失くす。 俺達がこいつを打ち破れる可能性があるとしたら、そこを狙うしか無いのだ。 彰利 「……はは……なるほどね。お前みたいな危険なヤツが居るってのに、     スッピーがずっとほっといた理由がそれか……」 ルドラ『その通りだ。“スピリットオブノート”に弱点など存在しない。     あるとすれば、それは自分自身だ。     よしんば手を出して相撃ちに至ることが出来たとしても私が居る。     確かに精霊たちは私がすることを手伝ってくれているだけだ。     それはつまり私を殺すだけで全ては丸く収まるのだろうよ。     だが精霊たちは私が死ぬことを良しとしない。     私を殺そうとすれば黒のスピリットオブノートがスピリットオブノートを殺し、     黒のスピリットオブノートと相撃ちになったところで私は世界を崩壊させるのみ。     どの道スピリットオブノート一人では私をどうこうすることなど出来ないのだ。     我は既に創造者にして超越者。     スピリットオブノートと同等の力を持っていると考えれば想像に容易いか?』 彰利 「なっ……じゃあ、こっちがどれだけ強くなろうが───」 ルドラ『ああ、越えてみせようじゃないか。お前の黒も、鎌も、なにもかも』 彰利 「っ……」 彰利が息を飲むのを感じた。 当たり前だ、あいつが言ってることは全て真実で、彰利はそれを間近で感じたのだ。 どうしようもないくらいの力量の差に、息を飲むことしか出来なかったんだ。 ルドラ『だが、言ったようにまだその時ではない。     その時が来るまでは世界の平凡さを味わっておけ。     柾樹の体は返してやる。タネ明かしをしてしまったからには、     この体はもう必要のないものだ』 ズズ……グボォッ!! 言うや、ルドラは柾樹の体───つまり精神から自らを乖離し、 暗黒英雄ロヴァンシュフォルスとして初めてその場に立った。 年の瀬は今の俺達よりやや上といった感じ。 少年というよりは青年という名が合っている風貌のソイツは、 倒れゆく柾樹の襟首を掴むと、ゴミでも投げ捨てるかのようにこちらに放り投げた。 彰利 「おわっ───っと!!」 やがて床に激突しそうなところを彰利が受け止め、ルドラを睨む。 ルドラ『話は終わりだ。せいぜい腕を磨いてこい。     確かに私は超越者であり、相手の強さの超越も可能だが。     それ以前にお前らが私以上に強くならなければ、それこそ勝機なぞ皆無となる。     故に足掻け。そして、願わくば───』 ギィンッ!! 彰利 「うぐっ!?」 ルナ 「な、なにっ!?」 悠介 「ぐ……!」 言葉の最中、突如辺りが光に包まれた。 そして再び目を開けると───そこはトリスタン王城の外だった。 彰利 「こりゃ……」 悠介 「ぐ、づっ……!強制転移……!“月空力”の異翔転移みたいなもんだ……!」 彰利 「っとそうだった!大丈夫か悠介!しっかりしろ!傷は浅いぞ!」 悠介 「ア、アホッ……!心臓に風穴空いてて浅いもなにも……ゲ、ブ……!!」 彰利 「うおわ血ィ吐きおった!     しっかりしろジョー!オラー!立てー!立つんだジョー!」 悠介 「〜〜っ……ったく……!     こういう時は……お前の切り替えの速さが……羨ましい……!い、づ……!」 彰利 「伊豆!?伊豆に行きたいのかね!?」 ルナ 「ホモっち、手当てする気が無いなら下がってて」 彰利 「グ、グウム……」 そう言って俺の傍に屈むと、ルナが俺の胸の風穴に月癒力を流し込む。 蘇生ではなく再生のほうの力だ。 すると風穴がみるみるうちに塞がり、呼吸が大分楽になった。 が───それでも体を蝕む激痛は消えやしない。 彰利 「いや……茶化したりしてスマン。本気で大丈夫か……?」 悠介 「立って……歩くくらいは……な……」 本当は今すぐ倒れてしまいたいくらいの激痛だ。 気絶できたらどれだけ楽だろうかと考えてしまうくらいだ。 まったくザマァない。 真実を知ってもらうために来たってのに、手痛い土産をもらってしまった。 自分の迂闊さにとことん苦笑がもれるほどだ。 ……いや、今はそんなことをするよりもとにかくここから離れたほうがいい。 そう思い、ディルに運んでもらおうとしたその時だった。  《これより緊急メンテに入ります。   なにかしらの行動をとっている人はすぐに止めてください》 その言葉が、メールではなく頭に直接届けられたのだ。 ……ノートか。 〜〜っ……だめだ、もう……意識が保って───……ドサァッ! 声  「なっ……悠介!?お、おい悠介!!」 声  「悠介!?悠介!!───ホモっち!月生力!」 声  「解っとらぁな!ルナっち貴様も月癒力を!」 体が倒れたのは理解できた。 ただ───さっきからずっと頭がぐわんぐわんと混濁していて、 聞こえる声も痛みも、 なにもかもが聞こえてるのに覚えられず、感じているのに記憶されない。 そんなドロドロの思考の中、俺はやがて意識を失った。 最後に聞いた、  “願わくば───私を殺してくれ” というあいつの言葉だけを思考に残して。 Next Menu back