───訪れた朝/プールか海か灼熱地獄か───
【ケース352:霧波川柾樹/一風変わった心境の中で】 朝食が済んで、食器も洗い終えたみんなはそれぞれがそれぞれ、 思い思いの行動を取り始めていた。 って言ってもみんながみんな奇妙な行動を取り出す始末で、 彰利さんが天井に入りついてから胃液で床を溶かした時は本当に驚いたものだ。 さすがの豆村も驚きを隠せず、あんな生命体の遺伝子が俺の中に……と頭を抱えていた。 彰利 「ゲロゲロゲロゲロ」 中井出「タマタマタマタマ」 蒲田 「ギロギロギロギロ」 藍田 「ジョワジョワジョワジョワ」 丘野 「ヌワヌワヌワヌワ 藍田 「少しは慎めサンダージョワジョワ」 丘野 「自分だって……」 総員 『というわけで、サンダーとライトニングでも共鳴が出来ることが解明できた』 遥一郎「解き明かさんでいいだろそんなの!」 それよりサンダージョワジョワの方が気になった。 そんなこんなで今は早朝より時間が経った朝、8時23分という時間帯だった。 彰利 「さて……そんじゃどうしよっか」 中井出「メシは食ったし、かといってこの家にゲームがあるわけでもなし」 柾樹 「退屈しのぎときたらゲームですか……」 中井出「我らの世代といったらそんなもんかもしれん。     もっとも、なんであろうが楽しもうという心があれば楽しめるもんだけど」 彰利 「ふーむ……実はさ、悠介と俺とで、     遊園地かどっかに遊びに行こうかって話をしてたことがあってだね」 閏璃 「遊園地?うへぇ、この暑いのにか」 総員 『俺はいやだぜ!!』 彰利 「おうとも俺も嫌だ。つーわけでさ、みんなでプールにでも行かんかね?」 凍弥 「八月も終わりって時に、プールが開いてるか……?」 彰利 「こんだけ暑けりゃどっか開いてるって。で?行くの行かないの?」 豆村 「いきなりそんなこと言われてもなぁ」 刹那 「水着とか、どうすりゃいいんだ?」 彰利 「俺の黒が貴様らを無事にガード!」 総員 『全力で御免です』 彰利 「あ……敬語なんだ……」 とても悲しそうな顔をする彰利さんが居た。 彰利 「んじゃあ適当に買うってのは?どうせ大半が人妻なんだし、     今さら色気だしてカワイー水着とか選ばんでしょ?」 春菜 「アッくん、それは偏見ってものだよ」 粉雪 「そうだね、問題発言」 真穂 「女の子はいつまでも好きな人に綺麗に見てもらいたいものなんだよ?」 彰利 「そうなん?」 女性陣『当たり前!!』 彰利 「ほへー……そりゃ初耳」 来流美「それに……ねぇ?」 真由美「うん。どうせ若くなれたなら、若いなりに着てみたいものもあるし」 鷹志 「……悠季美ー、自分の母がオシャレな自分を取り戻す瞬間ってどんな感じだ?」 悠季美「あの、そうですね……複雑な気分です」 鷹志 「そうか。父さんは物凄く嬉しいぞ」 悠季美「実の娘に熱い男の魂を告白しないでください」 閏璃 「いや。男は時に正直にならねば」 鷹志 「おお!友よ!」 閏璃 「いい夢見ようぜ!友よ!」 ガッシィイイ!! 叔父さんと鷹志さんが固く腕を叩き合わせた。 なんていうか……ああ、どれだけ大人になっても、親になろうとも、 男は男なんだなぁと納得できた瞬間だった。 叔父さん……頼むからその微笑をキリっとした表情に変えてください……。 豆村 「ま、いいか。水着は適当に見繕うとして……。親父、金無いからくれ」 彰利 「貴様なんぞにはウポポ族のチンコケースで十分だ」 豆村 「実の息子にどれだけアグレッシヴな生き様晒させる気だよ!!」 刹那 「いやー、しかし水着か。やっぱ……なぁ?心躍るっつーか」 彰利 「水着を見て興奮できるなんてどういった趣向なのかねキミは」 刹那 「へ?あ、いや、なにも水着だけと言ってるわけじゃなくてですね」 藍田 「はっはっはっは、若いなぁ少年」 丘野 「そうやって女性の水着に興奮していられる内が花だ。存分に欲情せよ少年」 刹那 「あの……なんスかその悟ったような言葉」 藍田 「いやぁ……若いっていいねぇ」 丘野 「若いっていいねぇ」 中井出「我ら原中、互いが互いを愛し、こうして結ばれた。     そうした今、他の女性などに見向きもせぬままに今日この日まで生きてきた。     そしてこれからもその気持ちは変わらん。我ら、ともに白髪の生えるまで」 麻衣香「将来、一緒の墓に入る気満々ってことね?」 刹那 「へぇえ……今時居ないッスよ、そんなこと言える人」 中井出「互い互いに全力でぶつかって、特に秘密らしい秘密なんてせずに生きてきたんだ。     そんな修羅的な日常の中で互い同士を好きになって、     なにを今さら嫌う要素があろうか」 麻衣香「困りものだったエッチなビデオも、もう随分前にやめてくれたしね」 中井出「ああ…………若かったなぁ…………ほんと若かった…………」 柾樹 「あの……そこまで遠い目をされるともうなんて言っていいのか……」 なにか過去に大変なことでもあったんだろうか。 その横顔が、酷く悲しげに見えた。 柾樹 「叔父さんは?叔父さんは他の女性に目移りしたりとかは」 閏璃 「俺か?俺は由未絵以外眼中にない」 柾樹 「うわっ……そこまで言いますか。鷹志さんは───」 鷹志 「真由美一筋一生涯。     ガキの頃に約束して以来、一度たりとも他の女にうつつを抜かしたこともなし」 柾樹 「あはは、なんだかそんな感じしますよ。……彰利さんは?」 彰利 「メイドさん一筋1000と幾数年!!」 ───この言葉ののち、彰利さんは妻である女性陣にボコボコにされた。 ───……。 ……。 彰利 「あのね……?僕、キミたちに訊きたいことがあるんだけど……。     キミたちは僕の嗜好を受け入れた上で結ばれてくれたんじゃないの……?」 春菜 「真っ先にメイドさんって言ったのが許せなかった」 彰利 「だとしても誰の名前を一番に言うかでどうせ暴れるんでしょうが!     贅沢だよキミたち!!これはあまりに失礼だ!     大体メイドさんが今でも好きでなにが悪い!!」 真穂 「や……そう叫ばれても……」 彰利 「そもそも!メイドさんという存在はまさに僕の心のオアシス、心の歯車の潤滑油、     さらに言えば燃料にもなれるくらいの至高にして最強にして究極の存在!それをキ     ミら、自分の名が呼ばれなかったからっていきなり攻撃するとは何事!よいかね!     アタイにとってのメイドさんとは神々しいまでに素晴らしき存在!主に仕え、心よ     り付くし、だが人形には成り下がらないのがまさにメイドさん!エロゲーとかのメ     イドさんなんざみんな嘘っぱちのニセモノだ!高い見返りを求めるでもなくただ己     の内側から湧き出した“尽くす心”のままに動き、主人の心をとことんまでに癒し     潤わせ輝かせる!OHこれぞまさにメイドさん!素晴らしきかなメイドさん!解る     か!?メイドさん以上の存在なぞこの世界にあってはならん!しかし勘違いするこ     となかれ!俺が唱える真のメイドさんとはたとえ主人に尽くしても、夜伽の相手ま     でするなんていうバカヤロコノヤロォなことはしないメイドさんだ!あんなのはメ     イドさんじゃない!断言しよう!だってぇのに近頃の馬鹿者どもはやれエロスとな     るとメイドさんのコスプレなどさせおって!けしからんにもほどがある!まさに邪     道!メイド服ってのはなぁ!趣味とかで着ていいほど軽いもんじゃあねぇのだよ!     あれはまさに聖なる服!神聖味がかかってんのよ!それを何処のチャラリーナとも     知らん者が適当に着て!あんなのが許されていいのかね!?私は憤慨するよ!もち     喫茶店などで着ているものをメイド服というのも気に入らん!なんですかあの丈の     短さは!あれで胸張ってメイドさんとか言ってるんだから許せねぇ!ありゃウェイ     トレスだろうがどう見たって!困るんだよホントに!あんなものとメイドさんを一     緒にされちゃあ!元気ハツラツでやかましい人なんてメイドさんじゃねぇ!慎まし     さ!解るかね!?慎ましさ!ここが大事なの!でしゃばらず静かに!しかし決して     無口ではない!仕事に関して完璧に!しかし神経質なわけでもない!その絶妙な位     置に君臨する至高の職業!OHそれこそがメイドさん!!喫茶店のウェイトレスの     ように“いらっしゃいませ〜!”なんて言われて!それをウェイトレスではなくメ     イドさんだと言うヤツが居たら俺は殴る!グーで殴る!!キミが泣くまで殴るのを     やめない!そりゃ俺も高校時代にメイド喫茶を開いたことがあったさ!ねこミミメ     イドさんの姿を見て感無量になったこともあった!だがそれは全てまやかしだった     のだ!何故だか解るか!?何故ってそれは!手伝ってもらっといてなんだけど若葉     ちゃんも木葉ちゃんも水穂ちゃんも誰も彼も本物のメイドさんじゃあなかったから     さ!!それに気づいた時僕は泣いた!自分のあまりの軽率さに泣いたのだ!!僕は     心の底から誇りを持ってメイドさんの仕事をしているを侮辱したようなものだ!あ     まりに軽率!あまりに愚か!!若かったとはいえあんな行為をして喜ぶなど!メイ     ドさんとは誇り高き仕事!人に尽くし、人のためになるなどどれほどの努力の末に     成功するものでしょう!皆々様考えてみてください!メイドさんほど誰かのために     なろうとする仕事がありますか!?そしてその仕事に誇りを持っている人に対し、     メイドさんの真似事やなんちゃってメイドなどあまりに失礼!あまりの侮辱!これ     は許される行為ではない!!解るかね!メイドさんとは高き存在!雇われの身だろ     うがなかろうが“尽くすこと”こそ第一!!しかし主人のオモチャになるために尽     くすわけではないのだ!これぞ誇り!これぞ真のメイドさんというもの!!よいか     小僧ども!ここで貴様らにメイドさんについてのイロハを教えてやる!もちろんこ     の俺も未だ修行の身よ!だから全ての真実を語る身ではない!つーかそんなことを     した者はそれこそ失礼というもの!確かにメイドさんへの心は様々な人々が様々な     意見を持っていることだろう!しかしこれだけは譲れぬというものがこの彰利には     存在する!!それを今から貴様らの伝授する!既に聞いた者も居ると思うが遠き者     は耳に聞け!近き者は目にも見よ!まずメイドさんとはメイドとは呼ばずメイドさ     んと呼ぶべきである!何故ならばこの素晴らしき職業に身を置く女性たちにメイド     などと呼び捨ててはあまりに無礼!!メイドさんの歴史は深い!ただ一口にメイド     さんと言ってもその職種は様々であり、ハウスキーパー、いわゆるメイド婦長から     始まるレディースメイドやパーラーメイドやハウスメイド、ナーサリーメイド、ラ     ンドリーメイドやキッチンメイド、スカラリーメイドなどといった、主人の身の回     りの世話をするメイドさんや客人の取次ぎや接待などをするメイドさんや屋敷の掃     除や管理をしたりするメイドさんや育児全般を担うメイドさん!さらには洗濯!料     理!食器洗いなどの作業をするメイドさん!そしてこれこそ最も一般的なメイドさ     んとして知られるメイドさん・オブ・メイドさん!今まで語った全ての仕事を担う     これぞメイドさん!メイド・オブ・オールワークス!だが勘違いすることなかれ!     全てを担うといったがやはり夜の相手や破廉恥な仕事は一切せん!そんなものとは     掛け離れたものこそが真のメイドさん!汚れた目で見るのはやめろ!清い心で心に     刻め!ではこれからは俺の独断と偏見の言葉たちを並べる!聞きたくないヤツァ耳     塞げ!いいか!まずメイド服とは中途半端な気持ちで着てはいけない!メイド服と     は聖なる衣!メイド服とは!メイド業を心からの拠り所とせん人こそが着るべきも     の!!神聖にして清楚!それは決してエロ人どもの欲望の捌け口ではござらん!!     解りますか!?俺はメイドさんが男どもにエロい目で見られるのが我慢できないの     ですよ!そりゃ俺も最初はそうだったのかもしれません!しかしですね!俺はメイ     ドさんは汚れた目で見るべき存在ではないと悟ったのです!この世にあれほど美し     い存在がありますか!?メイドさんは最強だと思うでしょ!?むしろメイドさんは     崇めるべき存在!称えるべき存在!拝むべき存在!!昔っから思ってたけどメイド     さんより偉い主人など存在しませんよ!?メイドさんとは即ち家事のエキスパート     なり!主婦よりも優れ掃除屋にも勝る機能性!全ての仕事をこなし、その屋敷の事     情を脳に叩き込んである真の意味での主人!何かおかしいとは思わんかね!どうし     て雇っただけの分際で!主人という役柄というだけの分際で!雇い主ってだけで!     何故そいつが踏ん反り返っているのか!メイドさんこそ館の主!メイドさんこそ心     のオアシス!家事や掃除を言われるまでもなく完璧にこなすパーフェクトヒューマ     ン!それがメイドさん!美しきかなメイドさん!素晴らしきかなメイドさん!メロ     ドラマの姑の嫌味なんぞ足元にも及ばない完璧なまでの仕上がり!そう!メイドさ     んこそ人間の完成形であり!人類が作り出した最高の職業!つまりは人に奉仕する     ことで人の心を癒し!主人に忠実に仕えるのだからこそ出来るその行動!主人を否     定しておいてなんですがね!出来の悪い主人が居てこそメイドは輝くのですよ!!     否!違う!如何に輝いた主人が居ようともメイドの輝きには劣る!そもそも主人な     どという役柄にメイドさんと同じようなことが出来るわけがないのです!出来るの     ならば雇いはしないし頼ったりもしないのですからね!この頼る、という部分が重     要なのですよ!そもそも主人という役柄は上位のものとしての印象が高い!だがし     かしだ!ことメイドさんに関してはその威厳も薄れる!何故なら主人という者とて     所詮は人間なり!メイドさんに頼らなければ掃除も出来ず、豪邸をむざむざ廃墟に     するような存在なのだからその上クソ坊ちゃんごときに料理が出来るわけがなく!     そんな調子では餓死することは目に見えておるのですよ!その事柄を合わせ、総合     するに至り!主人という役柄は態度がデカイだけのデクノボウに過ぎないのだァ!     メイドさんの前では輝きを失い、自分ひとりでは何も出来ないクソミソ人生を送る     可哀相な役柄なのだァ!!解るかね!お手伝いとして誰かを雇うのとメイドさんを     雇うのとでは明らかに違います!ベビーシッターはメイドとは違う!掃除夫なども     その考えからは除外する!メイドさんとは家の番人にも勝る究極と言って差し支え     ない職業だ!生半可な覚悟で挑める職業じゃないのは元より!半端な技術レベル     で取り組める仕事でもない!鉄壁の一面と蒼空のような一面!その両面を持ち合わ     せた者だけが真のメイドさんになれるのですよ!鉄壁とは即ち!仕事に対する意欲     と努力と完璧さ!蒼空とは即ち主人に対する笑顔に献身にひたむきさ!よいかね!     従順さなどというのはこの際、二の次!なんでも言うことを聞くのがメイドさんだ     というんじゃないのですよ!献身ッ!誰かを思うことほど人を強くするものはない     のです!それはある種の欲なわけですからねッ!人を突き動かすのは欲望なわけで     すよ!それで動かないのは道理に至らぬのです!ようするにこういうことですよ!     メイドさんを雇うなら主人もそれなりに見合った性能がなければならない!そのメ     イドさんがその主人に就くに価値する者か否か!すべてはそこに終着する!言って     おくが俺はメイドさんは好きだが『ご主人様』ってのは大嫌いだ!やはり名前のあ     とに『〜さま』か『〜さん』でしょう!これは譲れん!大体だね!ご主人様なんて     のは何処にでもあるような言い方じゃないですか!複数に通用する言葉なんてのは     駄目だ駄目駄目無駄無駄無駄ァ!そこで必要となるのが個人に向ける『〜さま』や     『〜さん』なのだ!これならそのメイドさんが『その人のみに仕える!』という気     持ちが十二分に溢れ出てもう最強!俺ゃあ個人的に『〜さま』をオススメする!こ     の方が仕えてる感覚があるでしょう!?でもご主人様は頂けぬ!あれはダメなり!     旦那さまも嫌でゴワス!やはり名前のあとに『さま』でしょう!!嗚呼この絶える     ことのない鍋から溢れ出す煮汁のような気持ち……!無駄にアクが多くてしつこい     がその中には確かな旨味が隠れてる至高の極み……!俺ゃあメイドさんを好きにな     るべく生まれたと言っても過言じゃねぇ!ていうかメイド服作った人ってば最強!     尊敬するね!!嗚呼素晴らしきかなメイド服!!素晴らしきかなメイドさん!!だ     が間違うな!俺はメイド服が好きなのではなくメイドさんが大好きなのだ!メイド     さんってのは服か?否ァ!断じて否ァ!メイド服を着てメイドさんの仕事をする人     こそメイドさん!しかし時には戦場着であるメイド服を脱ぐこともあるだろう!し     かしそんな時でも献身の心も優しさも愛しさも忘れないのがメイドさん!そう!ど     んな時だろうとメイドさんはメイドさんなのだ!そして知るのだ少年少女たちよ!     メイドさんこそ母なる都!メイドさんこそ人類におけるパーフェクトヒューマン!     ウェイトレスやコスプレなんぞに興味は無いわ!諸君!私はメイドさんが好きだ!     諸君!私はメイドさんが好きだ!諸君!私はメイドさんが大好きだ!!ハウスキー     パーが好きだ!レディースメイドが好きだ!パーラーメイドが好きだ!ハウスメイ     ドが好きだ!ナーサリーメイドが好きだ!ランドリーメイドが好きだ!キッチンメ     イドが好きだ!スカラリーメイドが好きだ!メイド・オブ・オールワークスが大好     きだ!民家で!城で!街角で!教会で!草原で!丘の上で!市場で!この地上でお     目にかかれるありとあらゆるメイドさんが大好きだ!頃合の紅茶をカップに注いで     くれるメイドさんが好きだ!気紛れで作ってくれたクッキーが紅茶の横に差し出さ     れた時など心が躍る!屋敷を歩いていると掃除中なのに振り向いて挨拶をしてくれ     るメイドさんが好きだ!仕事で疲れたメイドさんが風に揺られながら窓際の椅子で     穏やかに、しかも無防備に眠っている場面を想像した時など胸がすくような気持ち     だった!懸命に尽くしてくれようとも嫌なことは嫌と言ってくれるメイドさんが好     きだ!いくら尽くそうとも操り人形にはならないメイドさんを見た時など感動すら     覚える!気高くしかしとことんまでに尽くしてくれる姿などはもうたまらない!自     分のために料理を作ってくれた瞬間もまた最高だ!自分たちは欲望の捌け口などで     は断じてありませんと断言してくれた時など絶頂すら覚える!暗い気分を穏やかに     してくれるのも好きだ!ウェイトレスと同一視されたりする様はとてもとても悲し     いものだ!テキパキと仕事をこなすが、家事だけでなく主人のことも考えてくれて     いたりするんだなと解った瞬間が好きだ!だってのにそこで調子に乗ったりして襲     いかかったりする馬鹿者が居るのは屈辱の極みだ!諸君!私はメイドさんを!地獄     に落ちてもメイドさんを望んでいる!諸君!私とともに歩むメイドさん好きの大隊     戦友諸君!!君達は一体なにを望んでいる!?さらなるメイドさんを望むか!?情     け容赦なく尽くしてくれる素晴らしきメイドさんを望むか!?鉄風雷火の限りを尽     くし、三千世界の鴉をも慈しみで包むようなメイドさんを望むか!?メイドさん!     メイドさん!メイドさん!よろしい!ならばメイドさんだ!我々は渾身の力を込め     て今まさに振り降ろさんとする巨大な慈しみの心に焦がれる修羅だ!!だがこの暗     い闇の底で半世紀もの間堪え続けてきた我々にはただのコスプレやウェイトレスで     はもはや足りない!!真のメイドさんを!一心不乱の献身世界を!!我らは僅かに     一個大隊!千人に満たぬ愛あるメイドさん愛好会に過ぎない!だが諸君は一騎当千     の古強者だと私は信仰している!ならば我らは諸君と私とで総力100万と1人の     愛あるメイドさん愛好会軍集団となる!!我々を否定し忘却の彼方へと追い遣り眠     りこけている連中を叩き起こそう!髪の毛を掴んで引きずり降ろし眼を開けさせ思     い出させよう!連中に真のメイドさんの愛を思い出させてやる!連中に我々のメイ     ドさんへの愛の鼓動の音を思い出させてやる!愛と欲望の狭間には奴等の哲学では     思いもよらないことがあることを思い出させてやる!一千人のメイドさん愛好会の     戦闘団で世界を癒し尽くしてやる!最後にメイドさん愛好会会長・会長指揮官より     全メイドさん愛好会地上艦隊へ!目標ニセメイド愛好会首都上空!第二次メイドさ     ん愛好会問答超作戦!状況を開始せよ!!我らは!一心不乱にメイドさんを尊い崇     め奉っている!!この愛よ!世界中の真の美しいメイドさんへと届きたまえ!!」 ………………。 総員 『………』 彰利 「………」 その場に居た全員が固まっていた。 それはそうだよな、こんなにも長いうえに彼の真意が詰まった言葉を聞かされれば……。 春菜 「えっと……じゃあ例えば今からわたしがメイドさんになるって言ったら……?」 彰利 「おお、それはよい心構え。努力すればきっと素敵なメイドさんになれますよ?」 春菜 「え……そ、そうかな」 彰利 「ただし中途半端に投げ出しやがったら     その時点で刺し違えてでも貴様を殺す」 総員 『怖ッッ!!』 彰利 「なにを言うか無礼者どもが!メイド業とはそれほど凄まじい仕事なのだ!     まさに一生の仕事と言っても構わんほど!!     それくらいの意気込みが無ければやっていけるものか!!     そのような覚悟も無いのならなりたいなどと思わぬことだ!!」 中井出「相変わらずメイドさんのこととなると途端に熱くなる男よ……」 麻衣香「ジョブにメイドさんを入れるか否かの時も五月蝿かったしね……」 豆村 「俺はメイドより巫女さんの方が」 彰利 「死ね!!」 豆村 「最後まで言わせろよこのエロ親父!!」 彰利 「ほっ!この父をエロと申すか!この純粋なメイドさんへの愛が解らんとは……!     そもそもメイドさんへの愛=エロと唱える方がよっぽどエロだわこのクズが!!」 豆村 「ぐっ……!そ、それは……」 彰利 「んで!?人のことをそげに失礼に言うのなら貴様!     巫女への愛を語れるのだろうね!」 豆村 「お、おお!やったろうじゃねぇか!     えーと……───…………《バゴシャアアアアッ!!》うぶろぎゃあああっ!!」 中井出「オワァーーーーーッ!!」 丘野 「豆ボーイが空を飛んだでござるーーーっ!!」 言葉通り、彰利さんが思いきり殴ったビーンが空を飛び、 やがて重力に習うようにドグシャアと落下した。 彰利 「ええい情けなや!今日という今日はホンマに失望したわこの馬鹿め!     貴様の巫女に対する愛はその程度か!口上を並べろなどと言わん!     ただ“俺は巫女さんが大好きだ”の一言が何故言えなかった!     口ごもることほど情けないことがあるか!?えぇ!?この馬鹿め!」 豆村 「だ、だってこんな大勢の前で!」 彰利 「俺は言った!どーーーーん!!》」 豆村 「ア、アワワ〜〜〜ッ」 ……これも勇気って言えるんだろうか。 彰利さんは照れもせずキッパリと言い切った。 ここまで一心不乱に好きだと言えるのはある意味凄い。 でもそれとは逆に、妻の皆様が怒りを蓄積させてるような気がする。 彰利 「真の愛があればどんな人々の前でだって言える筈なのだ!     言えないのは貴様の愛が偽物だからに他ならぬ!!     何よりも貴様の巫女好きはこの父のメイドさん好きへの反発精神からだろう!     兼ねてよりメイドさんと巫女さんは相容れぬ属性!!     メイドさん好きの中に巫女さん好きが居れば不穏分子として退会を命じられ、     そんな半端な気持ちで入会するなど笑止千万と、     二度と立ち入りを禁ずるとまで言われるほどのもの!     愛とはそれほど深くなくてはならんのだ!     そして貴様のそれは俺へのかつての反発精神のみから来た薄っぺらな愛!     そんなものが真摯な言葉として口から測れるわけがないのだ!     愚かだ愚かだと思っていたがこうも愚かだったとはな!!」 豆村 「く、くくくっ……くっそぉおおおっ!!俺が半端だとぉっ!?」 刹那 「……あのさ、なんだか物凄くくだらないことで喧嘩開始し始めたんだけど……」 彰利 「くだらなくなんかねぇぜ!?俺は大真面目だ!!」 刹那 「そ、そスか……では奥様方、お願いします……」 妻五人『任された』 彰利 「ア、アレアレェ!?     なんで熱き男の魂の問題に僕のハニー達が首を突っ込んでくるの!?     引っ込んでろい!!これらは我らの愛の問題ぞ!?」 妻五人『問答無用!!』 彰利 「お、おわぁ〜〜〜〜っ!!!」 ドゴゴシャバキベキガンガンガン!!! 彰利 「ジェーーーーン!!!」 その朝。 彰利さんは予想を上回るほどに無惨に、自分の妻である人達にボッコボコにされた。 その際、吹き飛んだ拍子に地面を跳ね転がった時に、 どうして彰利さんがジェーンと叫んだのかは俺の中でいつまでも謎として残った。 ───……。 ……。 彰利 「いや……あの……ハイ、すんません……調子に乗ってました……」 そしてあっという間に復活した彰利さんは、 何故か物凄く引け腰になって床に正座したりしていた。 ううぅ〜ん……これがこの世界で最強に近い人の姿か……。 男って女には弱いものなのかなぁ。 親のこんな姿を見たビーンの様子は、それはもう絶望に包まれていた。 豆村 「親の嗜好の超暴露話のあとにこれじゃあなぁ……流石にイタすぎだぜ……」 春菜 「いーいアッくん。メイドさんのことを嫌いになれとは言わないけどね、」 彰利 「当たり前だ。言ったら二度と口聞けなくすンぞコラ」 春菜 「えっ…………と……ひとまず落ち着こうね?」 彰利 「俺は何も喋らねぇぜ……フハハハハハ……!!     見た目はこんなにプリティだが、中は……筋金入りさぁっ!!」 粉雪 「真面目なのかふざけてるのか解らないね……」 春菜 「と、とにかく。メイドさんが一番なんてダメだよ。     わたしたちの立場が無くなっちゃうよ」 粉雪 「人としてじゃなくて不特定な“メイド”に負けるなんてね……」 彰利 「メイドじゃねぇ……メイドさんだ」 粉雪 「ひやぁっ!?う、うううん、メ、メイドさんね……メイドさん……」 豆村 「おお……正座させられてるのに親父が優位とは是如何に」 真穂 「うーーーん……ねぇ弦月くん。わたしたちのこと、好き?」 彰利 「大好きだ!」 真穂 「メイドさんは?」 彰利 「愛してる!!」 真穂 「みずきくんは?」 彰利 「死ね!!」 豆村 「うわひっでぇ!!なんだよそのストレートな物言い!     もうちょっと言い方ってもんがあるだろ!?」 中井出「いや、それはただのパターンだから。     大好きだ、愛してると来たら次は死ねなんだ」 豆村 「なっ……なんて嫌なパターンだ!!」 原中って解んねぇ……と言って頭を抱える豆村がいっそ哀れだった。 柾樹 「あのー、ひとまずその問答は捨てちゃったほうがいいのでは……」 春菜 「ダ、ダメだよ柾樹くん!これはちゃんと決着つけなきゃいけないことなの!     一人の妻としてメイドという職業に───」 彰利 「…………《ギロリ》」 春菜 「メッ……メイドさんという職業にっ……まま負けるわけにはっ……!」 柾樹 「メイドさんに負ける以前に正座中の彰利さんに負けてるじゃないですか……」 春菜 「だってアッくんが物凄い殺気出してくるんだもん!!」 中井出「ううむ……ここまで愛せてこその職業愛か……」 藍田 「属性愛とは違うのかね」 中井出「いや、話を聞く限りじゃ属性もだが、     属性だけじゃなく職業ごと愛しているっぽいぞ。     知識に相当の偏りがある気がするが」 彰利 「アホか提督この野郎!!自分が信じた肖像を信じ通さないで何が愛だ!!     俺は俺の信じるメイドさんを信じ続けるのみだ!!     人の愛ってのはそういうもんだろ!?」 春菜 (……うわー……メイドって職業に嫉妬してる自分が居る……) 粉雪 (わたしもこれくらい言われてみたいよ……ほんと……) 中井出「いやしかしな、彰利一等兵よ……それでは……」 彰利 「では問おう!貴様は性格が悪い上に無作法で     ショートスカートのメイドさんを好きになれるか!?」 中井出「え!?あ、いや……俺別にメイドさんに拘り持ってねぇし……」 彰利 「好きになれるわきゃねぇだろコノヤロォーーーッ!!     そんなヤツがメイドさんやってること自体が経緯不明で訳解んねぇよ!!     そんなヤツを雇う主人の性格がまず掴めねぇよ!     むしろショートスカートのメイド服なんて認めねぇ!滅びてしまえ!」 中井出「うーん……なんつーか海原雄山とは違った意味で鬱陶しいことになったな……。     しかも俺に訊く意味がまるでなかった気がするし」 藍田 「それよかさ、プールの話進めねぇか?海でもいいし」 丘野 「賛成でござる。こうなった弦月殿はちと危険でござるからな」 そんなわけで、と。 メイドさんとはなんたるかをさらに叫びまくる彰利さんを放置し、 プール、または海の件に賛成の方々が集まって詳しい話し合いを開始した。 俺はといえば…… 豆村 「柾樹〜、お前も参加するか?」 柾樹 「ん。何処かに出かけるなら参加するつもりだけど。     話し合いより今はちょっと家に戻るよ」 刹那 「家に?なんでまた」 柾樹 「郵便物とか」 刹那 「……なるほど」 考えてみれば父さんは外国、母さんは俺と一緒にゲーム世界。 つまり家を管理する人が居ないのだ。 それ考えるとお届けものだのなんだのが こんもりになってるんじゃないかなーとか考えるわけだ。 柾樹 「お前らはどうする?」 豆村 「おー……ま、ヒマだしな。付き合うわ」 刹那 「悔しいがあの大人たちのテンションにしっかりと付いていける自信がない」 豆村 「ああいう暴走の仕方も大人気ないって言えるンかな」 柾樹 「さあ」 豆村 「おお、柾樹が冷たいんだ母さん」 刹那 「誰が母さんじゃい」 柾樹 「ところで刹那よ。今の世の中の情報を知りたいんだが、教えてはくれまいか」 刹那 「知るかっ!!一緒にゲームやって一緒に起き出した俺が     お前ら以上の情報を持ってるわけないだろが!」 柾樹 「なにぃ!貴様それでも情報屋か!」 刹那 「そこまで情報収集が上手すぎる情報屋が居たら逆に怖いわ!!     ……って、ああいい、もうほんといい……。どういう経緯があったのか知らんが、     確かにお前は俺の幼馴染の柾樹だよ……」 柾樹 「おおビーン。なにやら刹那が納得してくれた」 豆村 「呆れてるんだと思うが。     で、記憶がどうとか親父と話してたみたいだけど、なんじゃらホイ?」 ぐあ……聞こえてたのか。 どうしようか……これは話していいことなのかどうか。 いや、知らないほうがいいよな。 むしろゲームとして今まで通り楽しめてたほうが心にもやさしい。 柾樹 「実はゲームの中で落盤事故に遭って、     頭を強打した瞬間に過去の情熱が俺の中で不死鳥の如く蘇り、     転生の炎で俺の中の葛藤を沸騰させたらまるで卵をゆでたかのように     純朴なままの俺が新たに生誕したというか蘇ったというかともかくそんな年頃」 二人 『訳解らん』 即答だった。 うん、俺も途中で訳が解らなくなってた。 やっぱり叔父さん的意味不明言語を並べると訳が解らなくなるのは相変わらずなのか。 柾樹 「とにかく、うん。今までの平坦な気持ちは無くなったね。     どっちかって言うと今まで静かに暮らしてたからこう、     エネルギーが余ってるっていうか」 刹那 「なるほど」 豆村 「じゃあアレだな。やっぱプールか海かで発散させた方がいいだろ。     まあ俺的には今の貴様が恋心に目覚めているかどうかが気になるんだが」 柾樹 「恋心って……いや、むしろ恋ってどんな感じかなー、って」 豆村 「……なんで都合よくそこだけは発達してないんだよこの野郎……」 そんなこと俺に言われてもな……。 柾樹 「は、発達がどうとか以前の問題だって!     恋心なんてそうそう理解できるようなものじゃないだろっ?」 豆村 「俺は一目会った時から深冬に恋したが」 刹那 「俺も郭鷺に恋したが」 柾樹 「………」 ある意味羨ましい人達だった。 そんな中で俺だけが恋を知らないっていうわけだ。 ……なんだかちょっと劣等感。 豆村 「お前さ、初恋もまだなのか?」 刹那 「な〜んかあるだろ。ほら、小学の時の先生に恋をした〜とか」 柾樹 「小学って……ゴリ田先生?」 豆村 「むしろ何故真っ先に思い出すのが男の先生なのかとツッコミたい」 柾樹 「いや……うん」 なんでだろ。 解らん。 柾樹 「でも初恋か。そういえばそんなの知らないかも」 豆村 「初恋もまだなのか?お子様よのぅ」 柾樹 「仕方ないだろ、感情停止したのが子供の頃なんだから」 刹那 「あれ?やっぱそこんところは解るのか?」 柾樹 「いろいろあったからね」 自分の中に降りて来た未来の英雄。 感情を無くしていた彼の影響は自分の中にまで広がり、 そこからゆっくりと成長してゆく筈だった感情を押し殺してしまった。 解ってるのはそんな説明的なことだけで、彼の過去とか未来の有様は酷く断片的だ。 でもあんな未来もあるってことだけは理解できるから。 自分はこの世界を、自分が生きていられるうちにだけでも精一杯に生きたいと思ってる。 刹那 「いろいろ?なんじゃ?」 柾樹 「あ、うん。なんでもないって、なんでも。それより行こうか。     プールとか海とかの計画は大人に任せてさ」 豆村 「クソガキャアみたいな反応なのか大人っぽい反応なのか。     お前、多分ろくな大人にならんぞ」 柾樹 「そうかな。これでも幸せな家庭を築く自信はあるつもりだけど」 刹那 「なに!?じゃあ誰ぞ好きなおなごでも!?」 豆村 「教えろ!僕達親友だろ!?」 柾樹 「え?や、はははは、それは先の話だって。今は居ない。だ〜れも居ない」 刹那 「だ……誰も?」 柾樹 「うん」 豆村 「全然……?」 柾樹 「うん」 ボーゼン、と刹那と豆村が沈黙した。 しかし頭をぐしぐしと掻き毟るとドゴォンッ!! 柾樹 「おふぅっ!?」 突然ラリアットを見舞ってきた。 柾樹 「い、いきなりなにすんだ!     零距離ラリアットなんて紳士のすることじゃないだろ!」 豆村 「うるせー!ええい不甲斐ない!初恋のハの字も知らん男がいっぱしの口を!     俺だって幸せな家庭への願望くらいもっとるわ!!」 刹那 「俺だってたとえ叶わぬ恋でも思っていれば必ずって人生ぞ!     ほんっとお前贅沢だな!あれだけの女に思われといて!!」 柾樹 「……え?思われてるって、誰が?」 刹那 「お前が!」 柾樹 「……誰にさ」 刹那 「かし《ゴキィッ!!》おほうっ!!」 柾樹 「うわっ!?」 豆村 「ウォアーーーッ!?」 元気に喋っていた刹那の首がゴリンと勢いよく回転した! やがてストレートにドゴォンと倒れる刹那と、その後ろに居る……悠季美。 悠季美「はっ……はぁっ……!と、突然なにを言うつもりだったんですか……!!」 柾樹 「え?なにって……それがさ。誰かが俺のことを思ってくれてるとかなんとか」 悠季美「───《キッ!》」 刹那 「はごごごご……!い、いや……これはその……!」 悠季美がどうしてか、首を押さえながら倒れてる刹那を睨む。 えっと、なんなんだろうかこれは。 もしかして悠季美は知ってるのか? 柾樹   「なぁ悠季美」 悠季美  「ひえっ!?な、なんですか急に!」 柾樹   「急にって、つい今話してただろ。と、こんなことじゃなくて。       悠季美は知ってるのか?誰が俺のこと思ってくれてるのか」 悠季美  「…………」 刹那&豆村『あっちゃぁ……』 柾樹   「え?な、なんだよその疲れたようなセリフと溜め息……」 豆村   (カーシー、こいつぁダメだぜ。他人のことには目が届くけど、       自分のこととなるとまるで頭も回らないのはどうやらそのまんまらしい) 悠季美  (カーシー言わないでください) 刹那   (悪いことは言わん。そ、その、俺と) 悠季美  (嫌です) 刹那   (即答!?) なんだか楽しげだった。 刹那、もう首はいいのか? 柾樹 「でも、俺が思われてるなんてそんなことないだろ。     だってさ、考えてもみろって。俺が感情無くしたのは子供の頃だろ?     その時の付き合いっていったら悠季美と紗弥香さんくらいだしさ。     悠季美はどっちかっていうと俺につっかかってくる感じがあるし、     紗弥香さんは世話の焼きたがりって感じがあるし。     そうなるとほら、その後の感情を失った俺なんかを好きになる人なんて、     そうそう居ないんじゃないかな」 豆村 「ホホホ……」 刹那 「待てビーン、五寸釘と藁人形なんて持って何処行く気だ」 豆村 「ちょっとそこまで」 刹那 「や、やめろって!そこまでって、大樹ってところか!?そうなのか!?     あんなところに釘立てたらそれこそ食われるぞ!?」 豆村 「だってようこの野郎がこんなにも羨ましいことを!     ちくしょう俺も言ってみてぇ!」 柾樹 「?、なにがさ」 悠季美「事情の大体は聞いてますけど……下手に感情が無かった分、     妙に純粋に育っているのが逆に腹が立ちますね」 そんなこと言われたって解らないものは解らないんだが。 大体あと女の子っていったら深冬ちゃんくらいじゃないか。 深冬ちゃんみたいないい子が俺のことなんか好きになるか?それこそ無いだろ。 あくまで兄という位置で見られてるんだと、俺はそう思ってる。 豆村 「言わせていただきますが、貴様は愚鈍かと思われます」 柾樹 「急になんだよ、藪から棒だな」 豆村 「いや、もうなんつーか……なぁカーシー」 悠季美「勝手に言ったら怒りますよ」 豆村 「チッ……チキンが」 悠季美「なっ!い、言うにことかいてチキンとはなんですかチキンとは!!」 豆村 「言われるのが嫌ならばホレ!言ってしまえ!この愚鈍マンに言ってやるんだ!     それくらい意識させねばこいつは永久に変わらん!これは絶対に絶対です!!」 どうして最後だけ敬語だったんだろう。 刹那 「だ、だだだ大丈夫だ!俺なら覚悟は出来てる!さぁ!」 豆村 「覚悟出来てるなら言わせる前から泣いてるんじゃねぇよ!!」 刹那 「ち、違う!目の中にカメムシが激臭成分を残していっただけさ!」 豆村 「なんでそこだけ妙にリアル要素が混ざってんだよ!シャキっとしろシャキっと!」 刹那 「もうだめだぁ〜……《シャキッ!!》」 豆村 「効果音しか合ってねぇーーーーっ!!」 なんだか楽しげだ。 どういう祭りなんだろうかこれは。 刹那 「じゃ、じゃあ貴様は深冬ちゃんがアレなことを柾樹に堂々と言えるってのか!?」 豆村 「言えん!!《どーーーーん!!》」 刹那 「言葉は後ろ向きなのに態度が酷く男らしィイーーーーッ!!!     ちくしょう格好つけやがって!深冬ちゃん!?深冬ちゃぁーーーん!!」 豆村 「うわ馬鹿呼ぶな呼ぶんじゃ───ヒィ!     導きのヴォイスが深冬イヤーにクリーンヒット!     く、来るなぁ!来ちゃだめだ深冬!!悪の魔王は俺がやっつけるから!!」 刹那 「訳解んねぇ上に魔王って俺かよ!ちょ、やめろこら!     無理な体勢でネックロックなんて」 豆村 「ブルドッキングヘッドロォーーークゥッ!!!」 ドグシャア! 刹那 「グヘッ!!」 刹那の首を横からロックしたビーンがその状態のままに小さく跳躍。 ブルドッキングヘッドロックをキメ、刹那を黙らせた。 ……どうして黙らせたのかは俺の中では理解に至らなかったわけだけど。 刹那 「ところで一世時代の初期テリーマンは何故、     ブルドッキングヘッドロックのような技をカーフブランディングと言ってたのか」 豆村 「や、平然と起き上がるなよ」 刹那 「こんなこともあろうかと咄嗟にヒロラインパワーを発揮した。     残念だがまるで効いちゃいねー」 豆村 「くっ……栄華を極めた家系の力も精霊の力には勝てなかったというのか……!     ってそうだ!俺まだゼノさんとの訓練大してやってねぇ!!     つーわけで晦神社に行こう!な!?この話はここまで!な!?」 刹那 「だめだ」 豆村 「貴様には情ってものがねぇのか!!」 柾樹 「まあまあ、落ち着けってビーン」 豆村 「俺はむしろそこまで落ち着き払ってる貴様がある意味憎らしいが」 柾樹 「え?なんでさ」 悠季美「なにも知らないって幸せですよね……」 なんのことだかさっぱりだった。 そうこうしてるうちに深冬ちゃんも混ざり、 ここにいつものメンバーが揃ったわけなんだけど。 うん?ああ、紗弥香さんは別だ。 紗弥香さんはどちらかというと俺達より叔父さんたちと一緒に居ることの方が多い。 お姉さんぶる人だけど、一緒になって遊ぶというのはあまりしない人なのだ。 豆村に言わせれば家庭でお姉さんぶりたいだけなんだということだけど。 深冬 「あの、なんでしょうか……」 おずおずといった感じで刹那を見上げる深冬ちゃん。 下級生ながらもその身長は結構下の方であるらしい深冬ちゃんは、 身長が高めの刹那を見上げるような格好になる。 もちろん大人と子供くらいの差があるわけでもないが、 とりわけ背が高い刹那と背の低い深冬ちゃんだとそういうのが目立つわけだ。 ……って言っても、俺も豆村もそう背の高さは変わらないのだけれど。 刹那 「彰利さんから事情は聞いてるよね?だったら今こそ!     そう!今こそ想いを伝える瞬間だと思わないか!?」 深冬 「想いを……、───!《ぼしゅんっ!!》───《ぽてっ》」 刹那 「───……あれ?」 豆村 「うわぁ深冬ーーーーっ!!?」 刹那の言葉に急に真っ赤になった深冬ちゃんがポテリと倒れてしまった。 慌てて駆け寄って抱き起こす豆村と、それを“?顔”で見守る俺と刹那と悠季美。 豆村 「おのれ貴様何をしたぁーーーーっ!!」 刹那 「え?俺?」 豆村 「眼力か!?某番長にも負けないほどの超眼力で深冬を昏倒させたのか!?     まさか貴様にそんな能力があったとは!くそう俺も欲しい!!」 刹那 「お、落ち着けビーン。な?お前の明日はそっちじゃないから戻ってこい、な?」 豆村 「───ハッ!?お、俺はいったいなにを……」 刹那 「大丈夫、大丈夫だ……よく帰ってきたな。お前は悪い夢を見ていたのさ……。     そう、便所の神様が居るような異常空間の闇の夢を……」 柾樹 「だからさ、喩えの意味がまるで解らないんだってば」 便所の神様ってなにさ……。 ───……。 ……。 それからしばらくして、ようやく落ち着いた問答の後。 俺達は木陰で静かな寝息を立てていた悠介さんの様子を一目見ると、 自分の家への道をのんびりと歩いていた。 豆村 「けど、聞かされた時はたまげたたまげた。柾樹があのジュノーンだったなんて」 喧噪の最中にみんなに伝えられた事実は、 その場に居た事情を知らない人達にはとても衝撃的なことだったのだろう。 でも驚いた顔はしても、それが恐怖に変わるなんてことはなかった。 むしろ自己犠牲が行き過ぎた所為だろ、と逆に叱られたくらいだ。 柾樹 「む……やめてくれよビーン。あまり思い出したくない」 刹那 「そか?気にしなきゃいいんだって。別にそのことで友達やめたりなんかしねぇし」 悠季美「そうですよ。大体あれは不死王、でしたか?その方がしていたことであって、     柾樹さんがそうしたわけではないんです」 刹那 「そうそう。気にせずどーんと構えてりゃいいんだよ。     ま、俺としてはいくら探してもお前が見つからなかった理由が解って良かったし。     ……大体、お前があんなところで自己犠牲を働かせるからいけないんだろうが」 豆村 「そーだそーだ!ジャイアンの言う通りだ!」 刹那 「それじゃあお前は頭部骨格が異常なスネちゃまか」 豆村 「俺が悪かった」 柾樹 「……ん。もう大丈夫だから。自己犠牲なんてあれっきりだと思う。     それに、もう屋敷の中で言われ続けて疲れたよ」 刹那 「そか?だったらいいけど」 柾樹 「………」 違う。 それはただの願望だ。 そうであったらいい、と思っただけ。 でも自分が盾になったお蔭で幾数人の人の命が助かるのだとしたら、 それはどんなに美しいだろう。 もちろん自分のために泣いてくれる人も居るかもしれない。 でも…… 柾樹 (……考えても仕方ないよな) 今は楽しむしかないんだ、この夏を。 状況が悪化してしまえばきっと最後の夏となってしまう、この蒼い季節を。 柾樹 「………」 豆村 「んあ?どした?って、まさかこの背中のぬくもりを味わいたいと!?     許さん!確かにこのみずき!諦めはしたがまだ早い!」 柾樹 「いや……なにがさ」 刹那 「うん?ああ、ビーンのやつ、深冬ちゃんのこと諦めたんだよ。     ……深冬ちゃんが気を失ってるから言うんだけど」 柾樹 「え……」 豆村 「おっと妙なこと言うなよ!?そりゃあとても悲しい大冒険だったさ!     そう簡単に吹っ切れることでもねぇ!     だがそれでも、それらを背負ってでも前を向いて生きようって思ったのさ!     ……ま、もちろん深冬の恋が儚く散った時は……慰めてやろうとは思ってる」 柾樹 「ビーン……今のお前、凄く格好いいよ」 豆村 「よせよ、そんなんじゃない」 柾樹 「深冬ちゃんの恋か……ははっ、実るといいな」 豆村 「………」 刹那 「待て!落ち着け!笑顔のまま血管ムキムキになって死神化していくな!!     柾樹も!不用意な言葉は言わない!」 柾樹 「え、えぇ?お、俺なにか妙なこと言ったか?」 悠季美「……鈍さここに極まれり、ですね……。     凍弥さんも過去は相当鈍かったと聞きますが、     性格は似せてもそんな内面まで似せることなんてなかったと思いますが……」 刹那 「そのくせ実の親と似てるところがとことん少ないし……なんなんだお前は」 柾樹 「え、いや……なんなんだって言われても……」 そんなことを言われても困る。 深冬ちゃんの恋っていうのがどうのと言われて、実るといいなって言った途端だったけど。 ……その相手、俺……?はは、まさかね。 自分で言うのもなんだけど、自分は人に好かれるような性格はしてないと思う。 現に豆村や刹那にはなんでも一人で背負い込みすぎだ、とか。 無茶をしすぎだ、とか。自分のことをもっと考えやがれ、とか。 とにかく怒られっぱなしなのだ。 それって相手から見て、自分がまだまだ子供ってことなんじゃないだろうか。 そんな自分が他人から好かれているだなんて、どうしても思えやしない。 もっとしっかりしないととは思うけど……そうする時間すらもう無くなるのかもしれない。 それが、今の自分にはとても歯痒く感じられた。 豆村 「よっしゃ、とうちゃ〜く」 柾樹 「え?あ……」 考え事をしていたからだろうか。 予想以上に早く家についた俺は、一瞬そこが何処なのか理解できなかった。 けれど悠季美にどうしたんですか、と声をかけられて、 ようやくそこが自分の家だったことを思い出す。 ……それは、そうかもしれない。 だって、今までここで過ごしてきたっていっても……感情からしてみれば、 ここは子供の頃、相模のヤツと対峙した河川敷に行った時以来の場所なのだ。 郷愁、っていうのかな。 なんだかひどく懐かしい感じさえした。 おかしいよな、今までずっと暮らしてきた筈なのに。 柾樹 「……ただいま」 悠季美「……?なにか言いましたか?」 柾樹 「───……い〜や、なんでもない」 悠季美「……?あ、ちょっとなにするんですかっ」 自然と口から出た素直な言葉に反応した悠季美の頭をくしゃっと撫でた。 ……そうだよな、べつに最後になったって構わない。 そう思えるくらいの夏の終わりを駆け抜けよう。 こいつらと一緒ならきっと楽しい筈だから。 刹那 「どれどれ郵便受けはうおっ!?新聞がぎっしりだ!」 柾樹 「………」 感傷的な気分があっという間に吹き飛んだ。 でもまあ、暗い気分でいるよりはいいよな、うん。 柾樹 「じゃあ取り込んで、と……うわっ、道端にまで飛ばされてるじゃないか」 豆村 「最近の新聞配達者はなにをやってるんだ」 刹那 「きちんと詰め込まないとは」 悠季美「そういうことはきちんと毎日新聞を受け取ってから言ってください」 豆村 「おい、こっちの新聞、特売のチラシが抜き取られてるぞ」 柾樹 「あれま、ほんとだ。毎週挟んである筈なのに無いや」 腐爺屋のチラシが思いっきりなかった。 多分どっかの誰かが抜き取っていったんだろう。 柾樹 「まあいいさ。ほら、とにかく上がってくれ。鍵は〜〜……っと、ほい」 ポケットに入れっぱなしだった鍵を渡す。 と、こんな時に思い出したが……俺達ここ数日、風呂に入ってないんじゃなかろうか。 にしては髪はさらさらしてるし、体臭もない。 ……よく解らないけど、これも精霊の力の為せる業なのだろうか。 だったら体のナマりもなんとかしてほしかった、というのは贅沢だろうか。 豆村 「鍵開ける時ってついつい回す方向間違えたりしねー?」 刹那 「ああ、あるある」 そうこうしているうちに鍵は開き、ドアが開かれる───と、 物凄い熱気がモシャアアアアと中から溢れ出してきた! 豆村 「ミギャアアアアアア!焼ける!茹る!煮える!!」 ドアを開けたビーンは当然直撃を喰らった。 豆村 「魔窟よ!ここは魔窟だわ!     この様子じゃ冷蔵庫から結露でも出てそうな雰囲気さえプンプン臭う魔窟だわ!」 刹那 「仁王の魔窟?頭大丈夫かお前」 豆村 「臭いだよ臭い!臭う!!臭いとかの臭う!     どうして真っ先に人の頭を疑うかなお前は!!」 柾樹 「まあまあ……ほら、中に入って窓開けないと換気できないだろ」 悠季美「だったらまず柾樹さんが行ってくださいよ」 柾樹 「暑いからやだ」 悠季美「……以前の柾樹さんなら真っ先に行ったところですけどね」 刹那 「おーおーまったくその通り!よっしゃ!親友の門出を祝ってここは俺が行こう!」 柾樹 「大丈夫か?」 刹那 「まーかせとけって!ウォーーリャーーーッ!!」 刹那が玄関から中へと入っていった。 俺達はそんな彼を見送ることしか出来ず、 ただずっとその場で……彼が戻ってくると信じて待っていた。 だが………………3分経っても、彼が戻ってくることはなかった。 柾樹 「刹那……いいやつだったな……」 豆村 「ああ……女房思いのいいやつだった……」 悠季美「訳が解りませんが」 柾樹 「じゃあ次ビーン」 豆村 「お前ほんっっとに容赦無くなったな」 柾樹 「保身的になったと言ってくれ。確かに以前の俺は自己犠牲が強すぎたよ。     そんな自分を決別するための行動だ……行ってくれるな?」 豆村 「柾樹……貴様という男は……!よし行ってやる!     貴様はそこで保身の極意をとくと知れ!     もう誰かのためなどと言って自分を削るようなことはするんじゃあねぇぞ!」 そう言うとビーンは俺に深冬ちゃんをそっと預け、 玄関前まで駆けると一度だけ振り向き…… 豆村 「………」 親指を一度だけ立てて、 それから一度も振り返ることなく───魔窟へと姿を消したのだった。 ───……。 ……。 柾樹 「ビーン……いいやつだったな……」 そして彼も帰ってはこなかった。 いったい中はどれほどの灼熱地獄なのか。 悠季美「それで……あの。まさかとは思いますけど」 柾樹 「悠季美……なにも心配することはないぞ」 悠季美「そ、そうですよね。男の人が二人掛かりでもダメだったものを女の子になんて」 柾樹 「俺は男女差別が嫌いなんだ」 悠季美「行かせる気満々なんですか!?」 柾樹 「ま、それは捨てておいてさ。ほい、深冬ちゃんを頼む」 悠季美「え?あ、はあ……」 トサ、と深冬ちゃんを悠季美に預ける。 ……さて、ここからが問題だ。 中がどれほどの温度なのかは知らないけど、 中に入って窓を開けないことにはどうにもならない。 叔父さんの家から侵入するって方法もあるけど、あっちも鍵は閉めてあるだろうし。 それにそもそもベランダの窓も開いてないだろう。 だったらどうするかだが……やっぱり中に入るしかないんだよな。 よし。 柾樹 「悠季美」 悠季美「は、はい?」 柾樹 「もし俺が志半ばで倒れたら、     遺体はお前が雨降りの日にこっそり秩父山中に埋めてくれ」 悠季美「……見つかったら通報されそうなシチュエーションですね」 柾樹 「それが狙いだ」 悠季美「幼馴染になんてことを頼むんですか!」 柾樹 「なにぃ、ただでは死にたくないというこの心が解らないのか薄情者め」 悠季美「だからって道連れ紛いのことを遺言にしないでください」 うん、それはもっともだ。 そんな調子で頭をコリリと掻いたのちに、俺は改めて玄関に向き合うと─── やがて歩を進ませ、灼熱地獄へと旅立ったのだった。 ───……。 ……が。 ファァアアゴォオオオオオ……………… 刹那 「うへ〜……気持ちいい……」 豆村 「うは〜……最高……」 柾樹 「………」 刹那もビーンも健在だった。 クーラーがガンガンに効いた部屋で、 まるでナマケモノのようにぐったりと寝そべっていたのだ。 柾樹 「……お前らさ」 刹那 「んお……お〜〜……パラダイスへようこそ……」 豆村 「歓迎するぜ親友……お前も涼め、な?」 柾樹 「………」 なんとなく状況が読めた。 恐らく最初に駆け出した刹那は、まず内側から冷やそうと目についた冷房を発動。 次に窓へと駆け寄ろうとしたが─── 放たれた涼しさに心を溶かされ、動く気力を無くしたんだろう。 この暑さだ、それも頷ける。 続くビーンだが…… やっぱり廊下の暑さとこの部屋に入った時の涼しさのギャップにやられたんだろう。 とろけそうな顔でソファに沈んでる。 柾樹 「……はぁ」 仕方なく俺は窓を開け、そこから悠季美に中に入るように知らせ、 他の場所の窓の開放をおこなったのだった。 ……なんていうか、疲れる朝だった。 Next Menu back