───弱りきったモミアゲさん/空の蒼さは夏色風味───
【ケース353:晦悠介/ある意味一番地道な人】 フフォンッ……フォンフォンッ……フォフォフォフォンッ!! 悠介 「づっ……はぁっ……!はっ……はぁああっ!!」 フォンフォンフフォフォンッ!! シュファファファファファファファフォンッ!!フィィインッ!! ───どざぁっ!! 悠介 「は、あ……!が、かはっ……はぁっ!はぁっ……!!」 ノート『……やれやれ、休んでいろといった筈だがな』 悠介 「か、はっ……づ……ノ、ノート……か……」 手に持っていた二刀が消える。 イメージの持続が続かなかったんだろう。 随分と弱ってしまった体を持ち直すためにやっていた訓練は、 今までやってきたもののほんの数分の一程度の体捌きだっていうのに。 これは本格的に……弱くなったな。 悠介 「はぁ……はぁ。まいったな……回路分解されただけでこうも弱くなるなんて」 ノート『ふむ。仕方あるまい?汝の力は精霊の力として固定されていたのだ。     それを強引に分解されたのであれば、     溜め込んだ力はあるだろうが回路が開ききっていない状態に至る』 悠介 「つまり……」 ノート『今まで積んだ経験や魔力、死力、神力、諸力、     竜人力が流れる回路の大きさが圧倒的に足りていないのだ。     広げるならば……ああそうだな、修行しかないだろう』 悠介 「……今までやってきたことをまた一からやり直しだ。気が滅入るよ」 ノート『泣き言は聞かん』 悠介 「……言うと思った」 出来るのが当然になっていると、 そこに辿り着くまでの過程が案外蔑ろにされていたのだということに気づく。 例えば諸力を練り出す際にも、 慣れてしまってからはまるでイメージを弾けさせるような感覚で発動させてた。 が、そうなってしまうと、やはり自分は創造者なのだ。 過程を素っ飛ばした行動が主になってしまい、 基礎の部分を構築過程から削り取ってしまうのだ。 つまりこういう基礎こそが難しくなってしまっていた。 問題点と反省点だな。 悠介 「前みたいな動きが出来ないのも違和感が目立つし……はぁ。     努力の結果を破壊されるのはなんだか物凄くムカつくな」 ノート『ふむ。そうだろうな。     だが汝はそういった物事を乗り越えた故にここに至ったのだろう?     ならば再び越えてゆけ。汝にはそれが出来る』 悠介 「相変わらず無茶言うよな、ノートは」 体が案外早くに回復したのはむしろ嬉しい誤算だった。 マナと癒しの大樹、懸命に癒してくれたニンフたちや、俺の中に入り、 魂結糸を使って精神安定を促してくれているルナには感謝してもしきれない。 しかし回路が開ききっていないのは大きな辛い誤算。 こうなるとまた一からやり直しなわけだが─── ノート『面倒だと言うのならイセリアかリヴァイアにでも頼むのだな。     ふむ、別に私がやっても構わんが』 悠介 「結構だよ。力ってものに甘えてた自分にはいい薬だ。     心に妙な自信や油断があったからあっさり隙を突かれたんだ。     やっぱり俺には過信なんて必要ないってのがよく解った。     だから助けはいらない。自分で乗り越えなきゃ意味が無いんだ」 ノート『……やれやれ。     意地っ張りなのか努力家なのか解らん男をマスターに持ったものだ』 悠介 「ぐっ……わ、悪かったなっ」 イメージを展開、黄昏を創造する。 といってもラインゲートなんて大層なものではなく、 純粋な創造───“遙かに遠き望郷の詩(ワールドオブノスタルジア)
”だ。 広がる黄昏の草原の中で自分にあった場を作り、いつかのように重力の訓練をする。 体に負荷をかけ、疲れたら二日休みのイメージを体に流す。 よっぽどのことがない限り毎日続けている習慣だ。 ヒロラインでは意味がなかったからやらなかったが、 弱った体を奮い立たせるにはやっぱりこれが一番だと踏んだのだ。 それを五セット済ませると次は工房の扉を展開、中に入って魔力実験や式を編む練習。 しばらくやっていなかった錬金錬成の勘を取り戻すためにエリクサーなどを精製したりと、 俺は俺で案外楽しくやっていた。 いや、まいった。 案外弱ってみなけりゃ見えないものってあるもんだ。 で─── 彰利 「ヨゥメェーーーーーン!!メェーーーン!!     ヨゥヨゥヨゥメェーーーン!!メェーーーーン!?えーと、元気?」 悠介 「………」 俺が楽しんでると大抵現れるのはこいつなわけだ。 いったいどういうセンサーを搭載してるんだか一度知ってみたい気もする。 彰利 「つーかキミ!大丈夫なのかね!?     なんの気無しに外見てみれば大樹の下に居る筈のキミがおらんし!     で、来てみれば錬金やっとるし!ちくしょう楽しそうだ俺も混ぜろ!!」 悠介 「混ざりたいなら最初からそう言えって」 彰利 「混ざってええの!?」 悠介 「だめだ」 彰利 「どっちじゃい!!」 悠介 「断ったってどうせやるつもりなら訊くなって言ってるんだよ。     っと、悪い彰利、そっちのフラスコの温度、見といてくれ」 彰利 「むお?っと、……ふむ。ズバリ錬成中なのはマテリアでしょう!!」 悠介 「お……よく解ったな」 彰利 「ふふふ、まぁよ。いやー、しっかし工房とは懐かしい。     なに、ドアを開く余力くらいは残ってたのかえ?」 悠介 「いや、そんなもん残ってない。     だから即席のドアだけを創造して、工房の鍵を差し込んで開いた」 ホレ、と鍵を見せる。 随分前にクグリューゲルス独立魔術アカデミーの院長にもらったものだ。 今となっては自分の人生における記念品になっている。 思えば物心ついた頃から不良だった俺が、誰かに認めてもらったっていう証なのだ。 こればっかりは粗末には扱えない。 彰利 「おっほぉおおっ!なっつかCィイイーーーーーッ!!!     うう……これ見てると自分がやっちまった過ちってもんを思い出すなぁ……」 悠介 「マテリアの横流しなんてするからだ、馬鹿者」 彰利 「だってよぉ〜、金が欲しかったんだもんよぉ〜〜っ」 悠介 「いきなり売られそうになりゃ誰でも解るわンなもん」 彰利 「グ、グウ……」 悠介 「それよりほら、そこの精霊石取ってくれ」 彰利 「おっとあいよ。……そういや妖精さんは今頃なにやってるかね」 悠介 「時々来て掃除していってくれてたみたいだ。     たまに材料が無くなってる時もあるが、そりゃベリーかイセリアだろ」 彰利 「キミの工房って荒らされ放題やのぅ」 悠介 「開放的って言ってくれ、頼むから。     サーフティール側の扉は知り合い以外が辿り着ける場所じゃないから、     今はプロテクトなんてつけてないんだよ。……よし、次は光の粉を……」 彰利 「…………《うずうず……》……な、なぁ!アタイも錬金やってE!?」 悠介 「ったく……あんなことしなけりゃ今だって俺に訊かなくても     自分の工房で錬金出来ただろうに」 彰利 「ギャアやめて!気にしてるんだから言わないでマジで!     でもそんなツンケンしたところにフォーリンラァアアブ!!!」 悠介 「軟鉱石取ってくれ」 彰利 「ほい」 工房に平和が戻った。 さすがの彰利も、錬成を邪魔するほど無粋でもない。 彰利 「さて、ほいじゃあアタイもなにか作ってみるかね。……と言っても闇関連だけど」 悠介 「得意分野から入った方がいいのは確かだぞ。じゃないと失敗する」 彰利 「あら、つーことはキミ久しぶりに失敗したん?」 悠介 「いや、そういうわけじゃないんだが。これだってさっき始めたばっかりだ」 彰利 「ほへー」 返事なのかただの呟きなのかよく解らない言葉を発して、 彰利は適当な黒素材の物色を開始した。 あの材料から見ると……闇の結晶か。 彰利 「なぁなぁ悠介。“栄光の手”(ハンドオヴグローリー)でも作ってみんかね?」 悠介 「どこの邪術に手を染める気だお前は」 彰利 「あれ?栄光の手って錬金じゃなかったっけ」 悠介 「……詳しいことは俺も知らんが、罪人の手を使って作るようなものは勘弁だぞ」 彰利 「あー、そういや原材料がソレなんだっけ。じゃあオイラのブラックハンドでも」 ブチリと自分の手をもぎ取り、再び生やしてハイと渡してくる彰利。 ……何処まで異常者なんだろうか、こいつは。 悠介 「お前さ……たまには自分が人間だった頃の常識でも思い出してみたほうがいいぞ」 彰利 「俺としてはキミが素直に冗談とか言ってた時代が懐かしいけど。     人の鼻の穴から謝罪の言葉を創造したりとかさ」 春菜 「俺はいつでも常温41℃加工とか言ったり」 悠介 「……いつの間に入ってきたんだ、先輩」 春菜 「今。ていうかさ、悠介くん。もうその先輩っていうのやめようよ」 彰利 「いやむしろ悠介ってばそげなこと言ってたの?」 春菜 「うん。学生の時、屋上で。空を見上げてたら生きる喜びをふと感じたらしい時に」 悠介 「また随分懐かしいこと言い出すな……。     あのな、そんなのは空界の中で死闘繰り広げてれば変わっていくもんだよ。     元々感情が不安定な状態だったんだ、     周りの期待に応えるばっかりの俺が生真面目になっていくのは当然だろ」 彰利 「ではアタイはキミに期待する!だから応えよ!かつてのキミに戻れ!俺も戻る!」 悠介 「無茶言うなっ!」 春菜 「昔の悠介くんかぁ……人のことボケ者とか言ったりたわけとか言ったり、     周りに振り回されてはギャーギャー叫んでた頃の?」 彰利 「そうそれ」 悠介 「“そうそれ”じゃねぇ」 既にそれ扱いか、俺の軌跡。 でも……そうだな。 あの頃の俺は今より随分砕けた感はあったかもしれない。 “友達は一人でいい”っていう言葉で自分を縛って、 気に入らないヤツはとことん領域には入れようとしなかった頃の話だ。 ていうか……おい。 それってまんま、いつかの椛じゃないか。 ああ……やっぱ血なのかなぁ。 彰利 「最初の頃なんざルナっちとセレっち相手だけでもいっぱいいっぱいだったのに、     今じゃ空界の王だもんなぁ。     どこまで進化すりゃ気が済むんだろうねぇこのモミアゲ男爵と秘密の島は」 悠介 「誰がモミアゲ男爵だ誰がっ!!」 不満なら伯爵でもいいんだがと続けようとする彰利の口をガボシと塞ぐ。 人の工房に来て言うことがそれなのかお前はっ。 ベロンチョ。 悠介 「うぉあぁあーーーーーっ!!!」 しかし口を塞いだ手が舐められた。 その気色の悪い感触に思わず飛びのき、キッと彰利を睨む。 彰利 「ふぅむ……汗っぽい感じも無し。塩っぽさも無し。     キミさ、いったいどういう生活送ればそんなパーフェクト人間になれるん?     今時、汗から臭いがしないなんて人間少ねぇよ?」 悠介 「どうって……単に素材の全てを分析して、     自分に合った分の栄養を日本食でとってるだけだ」 春菜 「うわー……徹底してるんだね……」 悠介 「ん……ああ。ノートのヤツがさ、     いくら体を鍛えても資本となる体内が弱っていては意味がない、って。     それがきっかけで始めたといえばそうなんだが」 彰利 「なんつーかスッピーってキミのパパりんみたいな精霊だぁね。     いや、父ってよりは兄っぽいか?」 俺もそう思う。 が、それを言うとノートのやつは物凄く呆れた顔をするわけだ。 マスターがそんなことでどうする、と。 悠介 「ノートに言わせれば、使役する精霊を兄だ親だと言うのは言語道断らしいぞ。     呆れられるだけじゃなくて怒られた」 彰利 「いや、むしろ言ってみるキミに乾杯」 ワイングラスでも掲げるような仕草を取るトゲ頭のこの野郎がいっそ憎かった。 春菜 「ところで悠介くん。そっちシュワシュワいってるけど大丈夫?」 悠介 「へ?とわっ!?」 いかん忘れてた! ヤバどごぉおおおおんっ!! 悠介 「………」 彰利 「キャア!イッツマジックショー!美肌が一瞬にして真っ黒に!」 錬成に失敗した素材から黒煙が爆発するように発生した。 おかげで直撃を受けた俺は真っ黒だった。 彰利 「クォックォックォッ、集中力が足りんのぅぉおお。     でも俺、そういうドジなところもある悠介のほうが好きかも。     キミってば極めようとするととことんだからね。いつか壊れちまいそうで怖い」 悠介 「……実際壊れた例が目の前に現れたわけだしな」 彰利 「ありゃ行きすぎだ。キミがもっと適度に手抜きするヤツだったら、     こんなことにもならんかったと思うのに」 悠介 「手抜きしてたらゼットに殺されてただろ、ばか」 彰利 「あ、そういやそうだ」 そういう意味ではこれは決められた道だったんだろうさ。 今のところ後悔はしてないし、これからもするつもりはない。 でも、遙か未来においての話の中にゼットの話が出なかったってことは…… あっちの未来ではゼットは生きてはいなかったんだろうか。 ……ま、いいさ。 悠介 「よし、錬金も失敗したことだし、次は式と魔導魔術と魔導錬金だな」 彰利 「うへっ、聞いただけでうんざりする修行メニューだな……」 悠介 「慣れれば楽しいぞ。上達が自分で実感できるなら、     これ以上に嬉しいことなんてそうそうない」 彰利 「上達って……感じられるん?」 悠介 「以前の自分のことなんてここに記憶されてる。そこに近づけば上達ってだけだ」 ココン、と自分の頭を突付いてみせる。 なんにせよ、努力はしといて損はないのだ。 なにより自分が楽しめてるなら、それこそこれ以上のことなんてないさ。 彰利 「ふむん……お、そうだそうだ。ちと式ってのの簡単なやつ教えてたもーれ。     ───いや待て!こんな面白いこと、俺達だけでやるのはあまりに無粋!     授業を開くぜ親友!今こそ俺達の力をやつらに見せ付けてやる時だ!」 悠介 「親友って……あのな、だから俺達は───」 彰利 「ギャアもううるせーーーっ!!キミもう感情の大半を取り戻しとるでしょうが!     だったらもう免除!僕ら友達にして親友!俺はそう思ってる!!」 悠介 「…………はぁ。まったく、お前は……」 あまりに一方的で身勝手な言葉に頭を乱暴に掻く。 しかし一方では顔は緩んでしまい、 口ではどうこう言おうが喜んでいるのだと嫌でも実感させられた。 人のこと言えないな、俺も。 悠介 「よし、せっかくだし強さ以外にも空界のことを学んでもらうかっ!いくぞ親友!」 彰利 「オーライ親友!」 パァン、と叩き合わせた手と手が高い音を立てた。 そんな中で先輩もわくわくした風情で両手を少し掲げてたが、 俺達は敢えてそれを無視し、足早に蒼空院邸へと駆けた。 春菜 「うわ、ひどい!極悪人だよ!」 もちろんそんな文句も大却下の方向で、 俺と彰利は久しぶりに肩を並べて走り、子供のように笑ったのだった。 ───……。 ……。 で……先輩から逃げるように部屋に戻ってみると。 中井出「ショラショラショラショラショラショラショラァアアーーーーッ!!!     STRとAGIとDEXとCHRにステータスを振り分けてなお、     全く貴様らには引けをとらん我が猛攻を受けてみよ!!     この二分間、俺は鬼人と化す!!レッツマグニファイ!!」 清水 「うおお汚ぇ!!誰か!誰か提督を止めろォーーーーッ!!!」 漲るカリスマを体から迸らせている中井出が、 猛者ども相手に原中名物“魔繰羅那解(まくらなげ)”をしていた。 ナギー『おお!すごいのじゃヒロミツー!その調子でやってしまうのじゃー!』 シード『父上!背中は僕とドリアードがお守りします!』 中井出「フフフ───我らに死角無し!さあ!存分にかかってこい猛者ども!」 丘野 「しばらく見ないうちにバケモノになったでござるな提督殿!!     ならば拙者の速度で翻弄してみせるでござる!」 ババババババッ!! 言葉と同時に丘野が物凄い速さで移動を開始する! だがしかし! 中井出「ふはははは!見える!見えるぞぉおお!!」 丘野 「な、なんでござるってぇえーーーーーーっ!!!」 中井出はその速度にぴったりと追いついており、 心底驚いたらしい丘野はドッパァン!! 丘野 「ハギューーーリ!!」 枕ラリアットを食らい、それを軸に一回転してドシャーンと倒れた。 総員 『ざわ……!』 猛者や他のみんなに戦慄が走ったようだった。 蒲田 「お、おおお……!丘野が斯様にあっさりと……!」 下田 「考えなしに突っ込むからだ!」 総員 『クズが!!』 そしてあまりに容赦のない原中生。 しかし……本当に驚くべき成長だな、中井出は。 レベルが1721って言ったか? それで鬼人化でステータス二倍ってことは…… 少なくともレベル分で言えば2000は越えてるわけだ。 彰利 「グーム……こりゃあレベル700そこそこの我らでは太刀打ちが難しいゼ……」 ゼ、じゃないだろ。 悠介 「ここは現実世界だろ?お前なら楽だろ」 彰利 「いや、ヒロラインパワーを舐めるとイタイ目見るぜ?     そら実力出せば僕の勝利は磐石さ。だがね、あの武器が問題だぜ?」 悠介 「武器がどうのじゃなくて、今やってるのは枕投げだろ」 彰利 「へ?……ギャア」 根本的な間違いをしていたようだった。 悠介 「よし、見てるだけなのもつまらないな。いくぜ彰利ぃっ!!」 彰利 「ラーサー!!」 中井出「なにぃ!?」 猛者どもに気を取られていた中井出に奇襲をかけた。 すぐさま俺達に狙いをつける中井出だが、疎かになった横からは猛者どもの集中攻撃。 中井出「ギャアーーーッ!!卑怯だぞ貴様らァーーーッ!!」 悠介 「原中大原則ひとぉーーーつ!!     原中生たる者、勝たねばならぬと踏んだ時は     どんな方法を用いてでも勝たねばならない!!」 彰利 「そんなわけで死んでくれ兄さん!!」 中井出「だからって全員が全員敵なのは反則だろ!ちょ、ギャアーーーーッ!!!」 それぞれがドリアード(子供)と魔王と中井出へと枕を投げつける。 容赦なく投げつける。 これでもかってくらいに投げつける。 ああ、やっぱりいいもんだ、こうして素直な気持ちで何かに向かっていく気分は。 かなり卑劣だが、今ではなんだかそれも楽しくて仕方が無い。 まあ、相手は中井出だしな。 同じ原中生が相手ならば、いったい誰が加減をするだろうか。 ……しないだろうな。反語。 ───……。 ……と、途中までは上手くいってたようではあったんだが。 ドボボスドスドゴバスベスドスバス!!! 総員 『強ぇええーーーーーーっ!!!!』 中井出は滅茶苦茶強かった。 次々と襲い掛かっては、その数だけ犠牲者と脱落者が増加してゆく。 枕を投げても受け止められ、逆に投げられるわ打たれるわ。 いや、ほんっっとに驚いた。 これが真面目にゲームの世界を楽しんでいた男の強さか、 と思わず納得させられるほどの強さだ。 彰利 「じょじょじょ冗談じゃねぇーーーっ!!     ただの人間の中井出がここまで成長してるなんて有り得ねぇだろオイ!!     マジでヤバイ!お、俺もうこれからほんと真面目に修行する!     あの世界の影響力って半端じゃねぇよ!だから来な《メゴシャア!》うわらば!」 悠介 「おぅわ彰利っ!?」 スッ飛んで来た大仏枕が彰利の顔面にメガヒット。 彰利はそのまま空を飛び、壁に激突してぐしゃあと倒れた。 さすがだ大仏枕……当たった音が既に枕の音じゃねぇ。 彰利 「いがががが……!!ま、万太郎……ど、どうやらお前は……     してはいけないことを……し、しちまったようだぜ……!」 悠介 「おお、彰利!?平気───じゃないな……」 真っ黒な鼻血がだぼだぼと流れてる。 とんでもなく痛そうだ。 ナギー『す、すごいのじゃヒロミツ……あれだけの数を……』 シード『相手があの数では流石に長続きはしないと踏んでおりましたが……     流石です、父上』 中井出「いや……いや……はっ……はぁっ……!はひぃー!はひぃー!!」 しかしながら中井出も相当疲れている。 ここはヒロラインと違い、動けば疲れる現実世界だ。 あんな無茶苦茶な体捌きをすれば、そりゃ疲れるだろう。 彰利 「フッ……見切ったぜアロマタクト。恐らく貴様はレベルだけは相当に高いが、     体の捌き方などの基本がなっちゃいねぇ。     今までどうせ力任せの戦い方で勝ってきたんだろぉ〜〜〜っ。えぇ〜〜〜っ?」 中井出「当たり前だ!見縊るな!!」 彰利 「すげぇ!言い切ったよこの人!!」 中井出「だがこの博光!長い戦いの中で何も学ばなかったわけではないわ!」 彰利 「なにぃ!?貴様いったい何を学んだ!!」 中井出「魔物の軍勢の中に独り置いていかれるのはとても切ないということ」 彰利 「ぐっ……!!」 思わず目を逸らしてしまう一言だった。 と、その時だ! 中井出「柳……お茶」 彰利 「へ?とわっ!?」 中井出が軽く、ひょいと彰利の腹あたりに枕を一つパスしたのだ。 で、それをつい反射的に受け取ってしまう彰利。 中井出「彼女は言ったさよならそしてデッドボール!!ドボゴォォンッ!! 彰利 「ほぎゃああああああーーーーー《ドゴォン!!》ゲフォーーーリ!!」 奇妙に巧かった。 パスして受け取った枕目掛けて瞬時の全力パンチだ。 お蔭で彰利は再び空の旅に招かれ、壁に激突して奇声をあげた。 というか……今のは技の名前なのか? 彰利 「ぬおおお!なんのぉおおっ!!俺はまだ負けちゃいねぇぜ!?」 悠介 「おお!壁画が復活した!」 中井出「一休さんだ一休さん!!かぁ〜べかぁ〜ら産〜まれ〜た」 悠介 「あ〜きえも〜〜ん!!」 彰利 「うるさいよキミたち!大体一休さんが相手をしたのは屏風絵(びょうぶえ)でしょうが!」 中井出「あれってそういう名前だったのか」 悠介 「よく知ってたな、お前」 彰利 「あの……俺の頭脳レベルってキミの中でどれくらいなん?」 悠介 「ケンミジンコ」 彰利 「よりにもよって微生物!?ええいくそ僕は悲しい!     よってこの悲しみを貴様にぶつける!     理由などない!ただの八つ当たりだ!」 中井出「物凄い天上天下唯我無双っぷりだなおい!!」 彰利 「失礼な!俺はいつだって親友第一だ!     つまりこうして貴様に怒りをぶつけるのは悠介の意志!     ひいてはこの世界意志なのだ!というわけで死ね提督!!」 言葉とともにゴシャーン!と彰利がオーダーを発動させる! いかん!彰利はやる気だ! 悠介 「ちょっと待て彰利!本気になりすぎるなって!」 中井出「そ、そうだそうだ!ジャイアンの言う通りだ!」 悠介 「ここは中途半端な力でジワジワ痛めつけるのが面白いんだろうが!!」 中井出「うーーーーっひゃあーーーーっ!!物凄ェ最低思考だこのモミアゲ!!」 悠介 「大丈夫だ!俺も混ざる!だから安心して死ね!!」 中井出「安心出来ねぇーーーーっ!!!」 こうして俺達の戦いが始まったのだった。 さあ!今出せる力を出来る限り発揮して、この悪の帝王(独断)を討伐する!! 彰利   『ククク……3、2、1!ジャスト二分!!』 中井出  「《ぷしゅんっ》───あ、マグニファイ切れた……」 悠介&彰利『死ねぇえええーーーーーーっ!!!!』 中井出  「うわわちょっと待ストック解放マグニファイ!!」 悠介&彰利『ゲェエエーーーーーーッ!!!』 中井出  「ウヒャヒャヒャヒャひっかかったな馬鹿どもめ!       ここでやすらかに眠るのは貴様らだーーーーっ!!!」 中井出が、飛び掛かったために咄嗟の行動が出来ない俺達を見て不気味に輝く! さらに次の瞬間、ヤツはバックステップするとそれを勢いとして一気に───!! 中井出「神威クラァーーーーッシュ!!!!ウゴバシャドアシャァォオンッ!!!! 悠介&彰利『ウギョアァアーーーーーーーッ!!!!』 ゴォドガァッシャァアアアアアアッ!!!! 眩い光を纏っての火の玉タックルを食らった俺達は、 窓ガラスを破壊して大空へと旅立ったのだった。───じゃないっ! 彰利 『おのれまだまだじゃあーーーいっ!!』 悠介 「っ───っとぉっ!!」 彰利が勢いを殺すように空中静止し、俺は咄嗟に風を創造して勢いを止め、 ブチ壊れた窓から再び部屋へと舞い戻る! 彰利 『うぉのれ提督!よくもっ!よくもこんなっ!     この汚らしい阿呆がァーーーーッ!!』 ……だけでは済まず、彰利はそのままの勢いを使い中井出へと向かってゆく! 対する中井出は───巨大な双剣を構え、かなり危険な雰囲気を醸し出していた。 悠介 「彰利!ちょっとストップ───」 中井出「殺劇───舞荒剣!!」 ゆらり、と双剣が残像を残したかと思うと───中井出が物凄い速度での移動を開始した! 彰利 『ぬおっ!?速ッ───いいやなんの!サウザンドアームズ!!』 対して彰利は、速度で動くのなら手数でと黒から物凄い数の武具を発射! ここが人の部屋だってことを完全に無視した 馬鹿者どもの攻防が否応無しに幕を開けた瞬間だった。 ジガガギガギャギャリバギャゴギャガギガガガギジャギギガパギギイィイヒヒィインッ!! 彰利 『ゲゲゲゲェエエーーーーッ!!!全部叩き落してきてるーーーーっ!!!』 悠介 「うおわマジだぁあーーーーっ!!!」 中井出が振るう双剣が物凄い数の軌跡を描き、飛翔する武器を破壊するわ叩き落すわ。 数は───片手で24閃!?ってことは両手で48閃か!? こりゃハンパじゃない……しかも攻撃力もかなりのものだ。 でもどんどん生命力が減っていってるような気が…… 彰利 『グ、ググーーーー……や、やるじゃねぇか〜〜〜っ!!     だがキミは一つ忘れてることがある』 中井出「な、なに〜〜〜っ!?《ぞぶり》うおっ!?」 彰利 「引っかかったぁ!!」 弾かれまくり、畳みの上に落ちた剣や槍などが黒に戻ると中井出の足に絡まってゆく。 そうなのだ、彰利の怖いところはこれだ。 黒で生成された剣は彰利の意志で武器から黒に戻り、 さらに別の物体に形を変えることも出来る。 さあどうする中井出! やばいぞ中井ドゴォン!バァンガガガガォオオンッ!!! 悠介&彰利『ウォアアーーーーーッ!!?』 いや……心配なんて無用だったらしい。 中井出が畳みに双剣を突き立てると、中井出の周囲に円状の炎が燃え盛ったのだ。 さらにその炎は物凄い回転を始めると、 中井出の足を固めていた黒を燃やすと同時に爆破して破壊した。 彰利 『うわー……相性悪い相手』 悠介 「しみじみと思えるほど厄介な相手だな……今のうちに枕投げに戻すか?」 彰利 『それはダメだ!何故なら俺はもうヤツをただの人間と見るのをやめている!!     確かにあいつは凡人だぜ……だが素直に物事を楽しむことの出来る凡人だ。     そのお蔭であそこまで強くなったし、俺はそれを全力で受け止めてやりたいのだ!     強くなりたいと願い、努力して力を得た者の気持ちをどうして無視出来よう!     だから潰す!全力で潰す!そして戦いの世界の厳しさを思い知らせてくれる』 ああ……黒いなぁ、本当に。 こいつは普段は明るい変態なのに、 どうしてこういう時になると滅法黒い変態になるのだろうなぁ。 彰利 『ククク……覚悟しろ提督よ。今度の俺はちょっと強ぇえぞ』 彰利がパキン、とリミットを外す。 と、その場で冥界の扉が開かれ、場が死神の波動に溢れてゆく。 ああ……ほんとのほんとに本気だこいつ。 一方の中井出は放たれ続ける黒い武器を弾き続けた末に、24閃は1閃へと戻っていた。 マグニファイは続いているが、これじゃあもう終わってるも同然だろう。 ……普通ならな。 彰利 『終わりにしようぜ提督……これであの世へ送ってやる!』 言とともに、彰利が前方に突き出した両の手の平に黒き極光が蓄積されてゆく! これは───ビッグバンかめはめ波だ。 一度は使えなくなったものだが、 鎌の力を自由自在に扱えるようになった今の彰利なら平気で使えるということか───! ……中井出相手にあんまりな気もするが。 しかし流石に本気で撃ちはしないと思うんだが…… 中井出「ちょっと待てぇえーーーーっ!!俺相手にそれ使うかよオイ!!」 彰利 『提督……おめえはすげえよ。よく頑張った、たった1人で……。     何度も姿を変えながら……いい加減にイヤんなるっつーぐれえにな』 中井出「姿を!?え!?俺ずっとこの姿だよ!?なにそれ!え!?」 彰利 『今度はいい奴に生まれ変われよ……。1対1で勝負してえ……待ってっかんな!!     オラも……もっともっと腕をあげて!』 中井出「ちょっ……俺いつから悪者になったの!?     色で言うなら黒のお前の方が悪だろうが!ま、待て!待てぇええ!!     無言で八翼出現させるなよぅ!!     ヒィ!物凄い速度で闇エネルギーがデカくなってる!     死ぬ死ぬマジで死ぬほんと死ぬってちょっと待てやめていやぁああああっ!!!」 ナギー『大丈夫なのじゃヒロミツ!』 シード『父上、ここは僕らが!』 中井出「い、いかーーーん!!貴様らは彰利一等兵の力を知らんのだ!!     立ち向かおうとするんじゃあねぇぜ!勇気とは!決して揺らがぬ本当の勇気とは!     逃げる瞬間というのを理解していることを言うんだぜッ!」 ナギー『な、なにを言うのじゃヒロミツ!ここで逃げよと言うのか!?』 シード『父上!せっかくですがそれを聞き入れることは出来ません!』 中井出「ええっ!?なんでさ!!」 彰利 『ビッグバンッ───かめはめ波ァーーーーッ!!!』 キィンッ───ギガガチュゥウウウウンッ!!!! 中井出&悠介『本当に撃ったァーーーーーッ!!!』 人はこれをなんと喩えよう。 突然の素敵な現実に俺と中井出は絶叫。 哀れ、俺の部屋は黒き極光に撃ち滅ぼされてゆくのだった。 悠介 「ってすんなり納得出来るかぁああーーーーーっ!!“魂源反転(オルタネイト)”!!」 弾速はかなりのものだ。 その軌道に立ってイージスを展開するには遠すぎるし、 そもそも光の武具を創造出来るのかさえ怪しい。 だったら俺よりもこの体を存分に扱えるヤツに、今はこの場を託す!! ラグ 『───了解した、我が主』 鋭い音が耳の奥で鳴り響いたと思うと、俺は既に自分の深淵へと落ちていた。 代わりに俺の体にラグが宿り、それを確認する今この時には既に疾駆を始めていた。 そうだ、今止めれば間に合うんだ。 いくらなんでもこのまま放ったら、直線上にあるもの全てが吹き飛んじまう。 彰利 『ぬっ!?キイイまたアンタかい!     あの時アタイのカワイイ八翼を切り落としてくれたこと!     あたしゃ忘れたことなどなかったよ!!そいやぁあっ!!』 ラグ 『───』 ぐりんっ!と、彰利が強引にビッグバンかめはめ波…… というか一点集中フルブレイクを俺の方へと捻じ曲げる! ……しまった、考えてみればあれは黒の塊だ。 彰利が願えば上にも下にも逸れるわけで───ま、まあなんにせよ! 中井出殺人事件は勃発しなくて済んだわけだし結果オーライだ! 彰利 『死めぇええーーーーーーーっ!!!』 ……しかしあの馬鹿はラグに恨みでもあるのか、 フルブレイクを消すつもりはまるで無さそうだった。 ああ……あのたわけ。 ラグ 『虚空に刻むは輝きの十点。魔導万象十式』 と、呆れ返るより先にラグが虚空に十点の式を描き、光の簡易万象を開く。 さらにそれを物質変換させてイージスを創り出すと飛翔するフルブレイクへぶつける! 彰利 『甘いわ!そんなちっぽけな光でこの闇を受けきれるとでも思うたか!』 ラグ 『……いつまでも学ばない男だな』 彰利 『なっ……ななななんですとぉおおおおおっ!!?』 ラグ 『我はともかく、この身がどういった存在であるか忘れたか』 彰利 『……どういった、って。     悠介でがしょ?《ゾボガガガガガガガフィィンッ!!!》げはぁあああっ!!?』 ラグ 『───答えは創造者。戦いの場に立っている限り、無駄に動く必要などない。     理は既にここにある。死神ルドラの戦い方を見た貴様ならば解りそうなものを』 虚空に創造された無数の刃が彰利の体を刺し貫いた。 ……盾は囮だ。 意識をそちらに集中させることで、一時でも自分の周りのことを忘れさせたんだ。 ……まいったな、本当に強い。 俺なんかよりよっぽどこの体の扱い方を知っている。 ラグ 『……いい加減シャキっとしてもらいたいのだがな、主。     我を起こすのは大概にしろ』 緊急事態だったんだから仕方ないだろ……。 それに事実は事実だ、曲げたって仕方が無い。 ラグ 『スピリットオブノートも苦労をするな。マスターがこれでは……』 ……お前、何気に酷いな。 ラグ 『うん?事実を事実として受け入れ、曲げても仕方が無いと言ったのは主だろう。     さて、我がなにぞ間違ったことを言ったなら謝罪のひとつでもするのだがな』 …………。 俺の周りに集まる存在っていうのはどうしてこう、 妙な部分でヒネクレているヤツが多いんだろうか。 彰利 『グ、グーヴ……!よもやそう来るとは……!この彰利、一生の不覚……!』 ラグ 『貴様の不覚は変態として過ごした青春のみだろう』 彰利 『う、うっさいやい!!』 己が身に突き刺さった武器を黒で溶かして取り込んでいっていた彰利は、 それはもう悲しいのか恥ずかしいのか解らない微妙な顔で叫んだ。 フルブレイクも、武器があいつの体を貫いた拍子に霧散した。 あとは─── 中井出「ストック解除!隙ありだこの馬鹿め死ねぇえーーーーーっ!!!」 彰利 『なにぃ!?ギャアアアアアアーーーーーーッ!!!!』 ギガガチュゥウウウウウンッ!!!! ボガガガガガォオオオオンッ!!!! 彰利 『ほぎゃぁあああーーーーーーーっ!!!!』 …………。 フフフと余裕を見せていた彰利が、 横から放たれた巨大な極光に飲み込まれてお空の星と化した。 ラグ 『………』 ……あー……。 果たして俺は、力を使い果たしてドグシャアとストレートに倒れた中井出と、 お空の星になった彰利と─── そして結局崩壊した俺の部屋、どれを心配したらいいんだろうな……。 ラグ 『……なるほど。頭が痛いな……』 だろ……? などと小さな会話をしながら、大体の事後処理がこちら側に託される世界の不条理さに、 俺とラグは長い長い溜め息を吐きちらかすのだった。 ていうかそもそも、授業するんじゃなかったか……? 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