───人材登用/未来風劣悪人間水切り仕上げ───
【ケース354:霧波川柾樹/未来への下克上】 ドグシア!!バゴシャザガッシャアアアアア!!! 豆村 「ギャーーーイ!!」 ビーンが奇声を発しつつ小石の海を滑った。 刹那 「おお、見事なダイヴだ」 柾樹 「フォームが素晴らしかったな。感動しちゃったよ俺」 豆村 「うるさいよ!」 さて、ここは晦神社───ではなく、晦の家。 あれから郵便物の確認を終了させた俺達は、 ビーンの望み通りにここまでの道のりを走ってきた。 ……というのも、ヒロライン(だったよな)で授かった力はとてつもないもので、 電車で行くよりも走った方が早かったからなのだ。 けど他のみんなは大丈夫でも、 ずっとルドラに憑依された状態だった俺はレベルが低いんじゃ…… と心配した俺達だったけど、そこはそれ。 彼が様々なものを破壊する中で、自分もレベルアップはしていたらしく…… 1200レベルという結果になっていた。 もちろんビーンや刹那には、 “楽して強くなるとは何事だ!ちくしょう俺もそうなりてぇ!”と叫ばれてしまったけど。 ゼノ 「確かに力は上がったようだが……やれやれ、力任せなところは相変わらずか」 豆村 「これでも届かないゼノさんの強さがどうかしてるんだよ!!」 ゼノ 「無駄な動きが多すぎる。それだけだ。もっと経験を積め。     見たところ、貴様のそれは対人ではなく対魔物用の戦い方だ。     確かに我は人とは掛け離れた存在だが、     相手が人型である限りは対人の鍛錬を積むべきだと思うがな」 豆村 「ヴッ……!!う、うぐぐ……!」 刹那 「は〜〜……ゼノさん強ぇ〜……ヒロラインパワーがあっさりとまあ……」 柾樹 「いや、それよりさ、ビーンのヤツ馬鹿正直に真正面からしか向かっていかないし、     攻撃に変化をつけないからあんなのなんじゃないかな」 刹那 「おお、戦いの評論家みたいなことを。     なにお前、ジュノーンの中で何か見切った?」 柾樹 「ジュノーンの中でっていうか」 詳しく言えば暗黒英雄の中でだ。 彼……未来の悠介さんの知識はとんでもない量だった。 どう動けば相手がどう動くのかから始まり、 それぞれに対応するための技術を完璧に使いこなす力も持っていた。 そして、そのイメージは“記憶”として俺の中に……まだ残っている。 なんて言ったって好んで戦おうだなんて思わないし、 出来ることならこの知識を使っては戦いたくない。 このイメージは嫌でも世界の最果てを思い出させるから。 柾樹 「と、とにかくさ。ビーンの応援でもしてよう」 刹那 「いや、あいつならとっくにやられてるが」 柾樹 「え?」 言われてから前を見てみれば、巨大な爪を両腕から生やしているようなゼノさんの前で、 ビーンがぐったりと動かなくなっていた。 ゼノ 『まったく……強くなったかと思えばすぐに慢心をするのは遺伝か?     鍛え直してこい。多少はマシになったが、貴様は精神が足らん』 豆村 「う、うう……っ……」 刹那 「よし!二番手裕希刹那!いっきまぁーーーす!!」 ゼノ 『……?』 柾樹 「お、おいおい刹那っ?ちょっと!」 どういう気の向きようだったんだろうか。 突然元気よく叫ぶと、なんと刹那がゼノさんに向かって走ってゆくじゃないか。 刹那 「“戦闘開始”(セット)
!そぉおりゃ《バゴォン!》うじゅり!」 どしゃあ…… 柾樹 「………」 悠季美「………」 深冬 「………」 セットを唱えて3秒も保たなかった。 ……やっぱり、強くなるための鍛錬を続けている人にとって、 素人は隙だらけなんだろうな。 動きに一切無駄が無かったように見えた。 ……嫌だな、本当に。 こんな知識、欲しくないっていうのに。 ゼノ 『……フム。貴様はどうする』 柾樹 「えっ!?あ、いや……」 豆村 「バ……バーダック……」 刹那 「フ、フリーザの野郎に……サイヤ人の……強さを……───     思い知らせてや……れ……───」 柾樹 「……フリーザって、誰がさ」 悠季美「柾樹さんじゃないですか?わたしはもう知りません」 柾樹 「……なんで怒ってるのさ、お前」 悠季美「知りません。……まったく、ここに来るまで深冬ちゃんは背負ってあげたくせに、     どうしてわたしは……」 柾樹 「え?よく聞こえなかったんだけど」 悠季美「なんでもありません。お友達の仇を討ってさしあげたらどうですか?」 柾樹 「む……」 この馬鹿丁寧な口調と物腰……なんだい、やっぱり怒ってるんじゃないか。 原因は思い当たらないけど。 ……もういいか、どうにでもなれだ。 柾樹 「“戦闘開始”(セット)」 ───だったつもりが。 戦闘開始を唱えた途端、神経が研ぎ澄まされるのを感じた。 さらに頭ではなく、体が否応無しに暗黒英雄の知識を引きずり出すような感覚に襲われ、 武器……古びた王国剣を手にすると、 まるで誘われるかのように俺の体は駆け出して───! 柾樹 「う、わっ!?うわわわっ!!《バゴシャア!》あべしっ!!」 あっさりと、ゼノさんに殴られて撃沈。 どうやら体が知識に追いつけなかったようだ。 はは……痛いけど、よかった。 豆村 「おお柾樹!死んでしまうとは情けない!」 刹那 「やっぱレベルはあっても柾樹自体が戦ったことがないんじゃどうにもならないか」 ゼノ 『三人の中で一番動きが悪いな。それも劣悪に属する悪さだ。精進しろ』 柾樹 「れ、劣悪……」 よかったけど、酷い言われ様だった。 泣いていいかなぁ、男として……。 ───……。 ……。 ゼノ 「……なるほど?精霊たちが挙って人間を強化するゲームを……。     だが精霊たちがそんなことを考え出すとは思えんな。     さしずめ、差し金たのは弦月彰利か、それに属する者だろう」 刹那 「聞いたか、お前の親父はそういうことを考え出す人間だという常識が成立してる」 豆村 「うわー、うれしくねー」 一方的に痛めつけられた俺達は、水穂さんに誘われて客間に集められていた。 畳みに座布団を敷いた上に座って、 テーブルを挟んだ正面に座っているゼノさんと向き合ってる状態。 そこに水穂さんがお茶とお茶請けを運んできて、 手馴れた手つきで置くと、ゼノさんの少し後ろの横にちょこんと座った。 豆村 「と、とにかく。今まで来れなかったのはそれが原因なわけでしてー、そのぅ」 ゼノ 「ああ、いい、いい。別に強くなる方法があり、     それを良しとするならわざわざ我の機嫌など伺うな下衆が。     弟子にとったからといって、全てを強制、威圧する気などない」 豆村 「その割には自然と下衆とか言ってるみたいなんスけど……」 ゼノ 「普段の口調だ。相手がどうであれ、人間相手だとどうもな。     それで、今日は挑みに来ただけか?だったら茶を飲みさっさと失せろ」 豆村 「うわー、すげぇ言い方」 柾樹 「や、ビーンはそうだったかもしれないけど、俺はちょっと相談が」 ゼノ 「相談?……なんだ、言ってみろ」 柾樹 「……えっと。悪いみんな、席外しててもらえるか?」 刹那 「え……真面目な話か?」 豆村 「ハッ!まさか水穂さんに惚れたから俺に譲ってくださいとか」 バゴシャアッ!! 柾樹&豆村&刹那『ヒィイッ!!?』 豆村が馬鹿なことを言った途端、ゼノさんが持っていた湯飲みが炸裂した!! 思わず熱くないんですか、とか馬鹿なことを訊きそうになったけど、 そんなことをしたら導火線に火をつけるのは明らかだ! いくら俺でもそんなにまで馬鹿じゃないっ! 豆村 「お、俺っ!用事思い出したから早急にこの場を立ち去ります!ホレ深冬!」 刹那 「お、俺も!これから郭鷺とデートがあるんで!これでっ!」 深冬 「きゃっ……み、みずきさんっ……?」 悠季美「デートなんかしませんが」 刹那 「口裏合わせの時くらい“うん”って言ってお願いだから!!」 柾樹 「あ───」 ゼノさんから放たれる殺気にあてられてか、みんなが足早に逃げ出した。 ……これでいいんだけど、 何故か見捨てて逃げられたような気がしてならないのはどうしてなんだろう。 あ、い、いや、気を取り直して……。 柾樹 「あ、あのー、誤解のないように言っておきますけど、     さっきのビーンの言葉は全部でたらめですから……」 ゼノ 「……当然だ。それで、なんだ」 柾樹 「あぁあ……」 当然だって思ってくれてるなら、 その剥き出しの殺気と紅蓮の瞳をなんとかしてくれると嬉しいんですが……。 柾樹 「……率直に言います。さっき話したゲーム、     ゼノさんと……それから水穂さんにも参加してもらいたいんです」 ゼノ 「なに……?」 水穂 「わたしも……?柾樹くん、それってどういう……」 柾樹 「言って信じてくれるかどうかは解りません。     でもこれから話すことは全部真実です。どうか、最後まで聞いてください」 ゼノ 「……言ってみろ」 柾樹 「………………はい」 険しい顔つきになったゼノさんの前で、 俺はその眼光から放たれる殺気に飲み込まれないように力を込めながら話を始めた。 自分に宿っていた英雄のことや、これから起こる“世界崩壊”のこと。 そして───俺がしっている限りの、少し先の未来のことを。 ゼノ 「……世界崩壊だと?」 柾樹 「はい。詳しく言えば“日常”の崩壊です。     暗黒英雄……ルドラ=ロヴァンシュフォルスは時が来たのち、     ここ……晦神社へと降り立ちます。そして、ここで終局の時を発動させるんです」 水穂 「終局の……時?」 柾樹 「はい。自分の、つまり“晦悠介”っていう一人の存在が生きた歴史を、     その存在ごと消すために───“月詠街自体”を破壊するつもりです」 水穂 「そんな……」 柾樹 「それも、ただ力を放って簡単に崩壊させるんじゃない……ゆっくりと、     人々の記憶をも蝕むように破壊していくんです」 ゼノ 「それが完了するとどうなる」 柾樹 「人々の記憶から、悠介さんに関する全ての記憶と、月詠街の記憶が消え去ります。     もちろんルドラは他人のことなんて既にゴミのようにしか考えていないから……     崩壊開始の最中、ここに残っていた人も同様に消え去るんだと思います」 水穂 「───!そんなことを、違う時間軸のとはいえ、お兄さんが……!?」 柾樹 「そうなれば、逃げるか……それとも戦うしかありません。     でももし逃げ出したとしても、ルドラが心変わりすればどこに逃げても同じです。     たとえば悠介さんっていう存在を消したあと、     気が変わって“悠介さんに関わったことのある全ての者”を     破壊する行動に出るかもしれません。     そうなれば……力のない人はむざむざ無抵抗のままに殺されてしまうだけです」 ゼノ 「なるほど?つまり貴様は水穂に力をつけてくれと言うわけか」 柾樹 「……はい。相手は一人だけど一人じゃないんです。     体の中に呆れるくらいの魔物を潜ませていて、     一体一体の力も普通じゃないから……」 ゼノ 「………」 普通じゃないから。 だからもしゼノさんが別の魔物に気を取られている時に、 なんの力もない水穂さんが襲われでもしたら─── そう続けようとしたけれど、ゼノさんの目がそれをさせなかった。 ゼノ 「……いいだろう。だが聞かせろ。そのゲームとやらは、     その勢力に対抗できる力を確実に得られるものなのか?」 柾樹 「解りません……。でも、だからって何もしないよりはきっといいから。     俺、未来の悠介さんの記憶の中を見ました……。     何処を見渡しても人の死体しかない場所……赤色の大地の中、     あの人は感情もなく次から次へと人を殺していた……!     あんな景色っ……もう見たくない……!繰り返させちゃいけないんだ……!!」 水穂 「柾樹くん……」 柾樹 「だから、お願いします!     たとえ未来の悠介さんを殺さなきゃいけないことになるとしても、     俺はこの日常が壊れるのなんて嫌だから!力を貸してください!」 ゼノ 「………」 水穂 「………」 土下座なんてものを初めてした。 心の底から願い、誰かに請うことさえ初めてだった。 でも……それでもあんな未来は見たくない。 無感情に、人を殺さなくちゃいけなかった英雄の姿なんて見たくない。 だから…… ゼノ 「……やれやれだ。貴様のお蔭で茶請けが不味くなった」 柾樹 「ゼノ、さん……?」 ゼノ 「これからあの我が儘な双子と吸血鬼に、     我が声をかけなければならなくなったのだからな」 柾樹 「え……?それって……」 ゼノ 「いいだろう、と先に返事はした筈だぞ。貴様の誘い、受けてやる」 柾樹 「───!あっ……ありがとうございます!」 ゼノ 「貴様に礼を言われる筋合いはない。ただ、我もいい加減この日常に慣れた。     それを他人の勝手な都合で破壊されるなど、我慢がならぬだけだ。     ……まったく、冥界のハンターがなんという堕落ぶりだ」 水穂 「いいえ、素敵なお考えですよ、ゼノさん」 ゼノ 「むっ……水穂、貴様も手伝え。あの馬鹿者どもの説得は骨が折れるだろう」 水穂 「そうですか?ゼノさんが睨めば二つ返事だと思いますけど」 ゼノ 「ぬ、ぐ……いいから来いと言っているっ」 水穂 「ふふふ、はいはい。それじゃあ柾樹くん、急がないならゆっくりしていってね。     なにもないところだけど、平穏さだけは充実してると思うから」 柾樹 「あ……は、はあ……」 にこにこ笑顔でゼノさんの肩を押すようにして、水穂さんが客間を出て行った。 そうしてみてようやく息が吐ける。 柾樹 「は……はぁあ……心臓に悪いよ……」 話をするだけなんだから、なにもあんなに殺気を出さなくてもよかったのに……。 でも……ははっ、ゼノさんもなんだかんだで若葉さんや木葉さん、 セレスさんのことを気にかけてたんだな。 ちょっと意外だったけど、了解してもらえてよかった。 それに……ゼノさんがああ言った時の水穂さんは、とても嬉しそうだった。 ……やっぱりダメなんだよ、悠介さん。 こんな日常を、壊したりなんかしたらいけない。 だからドンガラガッシャンドカバキゴワシャアアンッ!!! 柾樹 「ぇあっ……?」 奇妙な炸裂音とともに、小さくだけど誰かの悲鳴を聞いた気がした。 あれは……なんだったんだろう。 なんて思ってると、トストスと廊下を歩く音がして……やがて誰かが客間へと戻ってきた。 ゼノ 「ふむ……説得は終了したぞ、小僧」 ゼノさんだった。 そしてその後ろにはぐったりマイハートな水穂さんが。 柾樹 「あの……」 水穂 「………」 柾樹 「は、あはは……は……」 説得っていったい、と訊こうとしたんだけれど、水穂さんはとても疲れた顔を横に振った。 つまり説得があの炸裂音と直接関係があったってことなんだろう。 ……なんだか暗い雰囲気が一気に吹き飛んだ気分だった。 【ケース355:霧波川柾樹(再)/嘔吐クチュールワッフル風味とジュースのごった煮】 挨拶もそこそこに、晦家をあとにした。 あれ以上あそこに居ると大変なことになりそうな気がしたから、早々と逃げてきたわけだ。 一応ゲームは蒼空院邸でやっているってことを伝えてあるし、大丈夫だとは思う。 いつやるかが解らないからハッキリしたことは言えなかったけど。 いざとなったら電話して、それで来てもらえばいいだろう。 彰利さんの転移で連れてきてもらうのもいい。 ま、まあ……行ってくれるかが問題なんだけどさ。 声  「〜〜っ!……!!」 声  『…………、……』 振り向いた先の晦家では喧噪が絶えない。 今頃若葉さんと木葉さんとセレスさんがゼノさんに襲い掛かってたりするんだろう。 俺はそんな賑やかな晦家に笑みを送ると、やがて踵をかえして歩き出した。 ……やっぱり未来の悠介さんの中にも、ここが楽しい場所だったって記憶があったんだ。 この場所が賑やかなだけでこんなにも嬉しい。 でも悠介さんにはそれを感じるための感情が無かったんだ。 それを知っていれば、きっとこんな悲しみに囚われることなんてなかっただろうに。 柾樹 「………」 また暗い方に偏った頭を自分で叩いた。 そうして長い長い石段に辿り着くと─── 豆村 「お、出てきた」 刹那 「案外早かったな。どうだった?」 柾樹 「あれ……ビーンに刹那……?」 豆村 「いや、普通に人のことビーンって呼ぶのってどうよ」 柾樹 「あ、いや……はは、てっきり帰ってたかと思ってた」 豆村 「女どもは先に帰ったぞ。買いたいものがあるだとか。     ま、俺たちはそれに付き合って荷物持ちにされるのも嫌だし、     ここでこうして待ってたってわけだ」 刹那 「言わばお前はその口実だ」 柾樹 「口実って……まあいいけど」 このまま一人で帰ってたら、暗い気分に飲み込まれるところだった。 それを考えれば口実扱いされようが笑って受け止められる。 刹那 「じゃ、行くか」 柾樹 「ん、りょーかい」 豆村 「帰りに山葉堂のワッフルでも買っていかんか?」 刹那 「何処の世界の里村さんだお前は」 時間はもうじき昼。 朝食が早朝すぎた所為もあってか、確かに小腹が空いてきた感はあった。 でも、ワッフルか。 柾樹 「山葉堂はともかくとして、ワッフルはいいかも」 豆村 「だろ?つーわけで買ってきてくれ」 柾樹 「恥ずかしいから嫌だ」 豆村 「うわ、即答ですよこの人。以前なら“ん、べつにいいけど”って言って、     必ずホカホカのワッフル買ってきてくれたのに」 柾樹 「あの女の子の群れの中に入ってワッフル買うのは、     感情が戻った今となってはちょっと抵抗が……はは」 刹那 「なるほど、そういう心も戻ってきたか。父さんは嬉しいぞマイサン」 柾樹 「誰が誰の父さんだよ」 刹那 「よし、ここは父さんが行ってこよう。オーダーは?」 豆村 「あ、俺は───」 刹那 「ふむふむ、ビーンが練乳蜂蜜ワッフルで、柾樹はチョコレートか」 豆村 「お前はなにかっ!俺にドラマCDのC子さんになれというのかっ!」 柾樹 「いや……いったいなんのことさ」 刹那 「気にするな」 豆村 「まずは軽いブーメランフックってところだ」 刹那 「一撃必殺力ありすぎだろうがそれ!!」 柾樹 「まあまあ……言ってる意味はよく解らないけど、とりあえずワッフルだろ?」 豆村 「じゃあアレだ。フツーのワッフル2つと練乳蜂蜜ワッフル、     通称バスターワッフルを組み合わせてロシアンルーレットを」 刹那 「何処のロシア人がそんな虫歯になりそうなルーレットやるんだよ!!     普通のを3つ頼みゃいいだろが!」 豆村 「えー?だって今さらそんな普通なことやってたらつまんないだろ」 刹那 「頼むから無駄に原中に対抗するのはやめてくれ」 あ、やっぱりこの無茶で無謀な精神はそっちへの対抗心が紡いだ事態だったのか。 刹那 「まあ、降りたらワッフルを買うのは決定としても。     相変わらずクソ長いな、この石段」 豆村 「親父の話じゃ、元々神の祭壇として作られた場所が     易々と汚されないために高く作り直されたらしいけど。     ほら、親父の記憶の映像の中で、一度ここら一帯が破壊されてただろ。     そんなことを繰り返させないために、新たに訪れた村人たちが作ったんだそうだ」 刹那 「へえ……」 豆村 「まあ、そういう家系の発端みたいなところは     ディクターズカットだったらしいけど。     そういうのをヘタに歴間移動出来るヤツが知ってると危険なんだってさ。     言われなくても歴史改変なんて怖くてしないっての」 刹那 「お前も出来んの?時間軸の移動」 豆村 「怖くてやったことない」 ヘタを打つと次元の波に飲まれて一生出てこれなくなるんだ、それはそうだろう。 そんなことを平然とやってのける彰利さんが異常なんだ。 刹那 「転移は平気で出来るのにな。大差あるのか?それ」 豆村 「大有りだ」 大有りらしい。 月の家系でもなく、転移も出来ない俺達にしてみれば謎だらけの問題だ。 刹那 「………………なぁ。こうして話しながら降りてて思ったんだが。     普通よ、話しながら移動してると目的地にはあっさり着くもんだよな?」 豆村 「おお」 柾樹 「そうだな」 刹那 「どうなってんだよここの石段……毎度のことながら、眩暈がするくらい長いぞ」 豆村 「馬鹿お前、その方が登ってきた刺客とかが疲れてて満足に動けないだろ?     そこを成敗するのがこの石段の真価なんだよ」 刹那 「降りるたびに筋肉痛になりそうなのにか……?」 豆村 「そうだ」 否定の言葉は一切なかった。 ───……。 ……。 それからどれほどの時間が経った頃だろう。 ようやく大地に降臨した俺達は、豆村の案内のもと、山葉堂へと足を運んでいた。 正式には“散葉堂”と書くのだが、ビーンは山葉堂といってやまない。 豆村 「さ……ここからは貴様の仕事だぜ、刹那」 柾樹 「俺達にお前の男を見せてくれ……」 刹那 「お……、お、おおっ」 年齢を選ばない女性陣が所狭しと群がる場所で、(さすがにお婆さんは居ないが) 刹那がぎゅっと拳を握った。 ついでに財布も。 刹那 「って、俺のおごりなのか!?いつの間にそういう状況に!?」 柾樹 「いや、さすがにそこまでは。ほい、金」 豆村 「ほい、俺も」 俺が500円を出すのに続き、ビーンが1円を置いた。 刹那 「金って……」 豆村 「金だろ?」 柾樹 「金だな」 ……その後、ビーンは俺と刹那によってボコボコにされた。 ……。 豆村 「おめぇら鬼だよ……」 ややあって、刹那は赤面しながら戻ってきた。 周りの女性からクスクス笑われながらワッフルを買うのはよほど恥ずかしかったんだろう。 じゃあどうして刹那ではなくビーンがぼやいているかといえば…… ビーンの手には練乳蜂蜜ワッフル(バスター)が乗せられているからである。 あれからビーンをボコボコにした俺達はビーンの懐から金を強奪。 その金でビーンの分を練乳蜂蜜と断定、購入してきた次第だ。 刹那 「さあ!食べるがいいさ!僕の恥から作られたものを!!」 豆村 「妙に引っかかる嫌な言い方すんなよ!ただでさえ驚異的だってのに!」 とは言うが、さすがに自分の金で買ったものを残す気にもなれないらしい。 が、ひとまず“はむっ”と口にするとすぐに眉間にシワを寄せて、 “うぃんにょぉおおお〜〜〜……!!”と苦しげな唸り声をあげていた。 想像を絶する甘さだったらしい。 豆村 「ま、柾樹……ボクの不幸とキミの幸せ、交換しない……?」 柾樹 「なんでさ」 豆村 「な、なんでさ、って……」 刹那 「不味いからだろ」 豆村 「い、いや、不味いっていうよりは食えないっていうか……」 柾樹 「ビーン……すまない。キミが苦しんでいるのに俺は助けてやることが出来ない」 豆村 「だ、だからね?そのワッフルと交換してく」 柾樹 「断る」 豆村 「即答!?あ、いや……俺まだ喋ってたんだけど……」 刹那 「つまり助ける気なんかそもそも無いってわけだろ」 豆村 「ひでぇ……」 柾樹 「む……人聞きの悪いこと言わないでくれよ、ビーン。     ビーンのそれは全部自業自得じゃないか」 豆村 「買ってくれなんて頼んでないのに金抜き取ってまで買いやがったんだろうが!」 刹那 「お前が一円しか寄越さんからだろ。ホレ、飲み物でも飲んでスッキリしろ」 言いつついつの間に買ってきたのか、妙にカラフルなジュースをひょいと投げて渡す刹那。 ……なんだあれ。見たことない……いや、あるような気が。 そういえば一時期学校で話題を呼んだジュースがあって、 それが妙にカラフルだったってことを聞いたことがある。 となると、情報屋である刹那がそれを知らないわけがなくて─── 豆村 「わ、悪い」 けど、そんな心配を余所に、 カシュッとプルタブを開けて一気にジュースを飲むビブボハァッ!! 豆村 「ゴェッヘェエエエッ!!!!!」 ……吐いた。 しかも吐き出され、宙を舞った液体が妙に虹色だったのを俺は見逃さなかった。 豆村 「オエッ!な、なんだこ……オエッ!げぇええっ……!!」 びちゃびちゃびちゃびちゃ…… 刹那 「ぬおっ!?ビーン!天下の往来でなんと大胆な!!」 柾樹 「恥を知れビーン!今の貴様はまるで現実逃避のために酒を浴びるように飲み、     酔いつぶれてしまった疲れた中年男性のようだぞ!」 豆村 「げぼっ……ぞ、そこまで……言う……おえぇえっ……!!     そこまでっ……い、いうっ……うぇ……なら……!飲んでみ……げええ……!!」 柾樹 「………」 刹那 「………」 ……吐きまくってる。 可哀相なくらい吐きまくってる。 しかしその右手はしっかりと俺達へジュースを差し出していた。 柾樹 「…………せ、刹那から」 刹那 「いきなりかよ!こ、今回ばっかりはシャレにならん!お前飲め!」 柾樹 「うっ……で、でもこれ、あれだろ?味覚異常者のみに好まれてるっていう、     大衆には“ジェノサイドウォーター”とか呼ばれてる……!」 刹那 「チッ……知ってたか。そうだ、これが噂のジェノサイドだ」 豆村 「知ってて飲ませヴゲェエエ……!!!」 また吐いた。 これは……なんていったらいいんだろう。 この一瞬だけで脱水症状にもなれそうな勢いで吐いてる。 柾樹 「それで……なんだってこんなの買ってきたのさ」 刹那 「練乳蜂蜜ワッフルっていったら不味いジュースだろ。     これ無くして里村さん家の茜さんは語れん」 柾樹 「………」 誰なのさ、それ。 刹那 「時に柾樹よ。お前って味覚は正常か?」 柾樹 「ヘンに思ったことは無いし、それを指摘されたこともないつもりだけど。     ん、ちょっといいか?飲んでみる」 刹那 「しょ、正気か小僧!!返品は効かねーぞ!!」 柾樹 「なんでさ。買ってきたのが刹那なら、誰がどうであろうが所有権はお前のだろ」 刹那 「いや。それはビーンにあげたんだから所有権はビーンのものだ」 柾樹 「そ、そっか」 自分のものであるのは嫌らしい。 だったら買ってこなけりゃいいのに。 なんて思いつつも俺も通称ジェノサイドを口に含んで、 味わうよりもまず飲み下してみブゴルファアッ!!! 柾樹 「るげぅはぁっ!!」 吐いた。 問答無用で吐いた。 な、なんだこれっ……! 口の中と、液体が通った食堂が溶かされてるみたいな感覚が襲い掛かって……!! 柾樹 「げっ……うげぇっ!げばはっ……ぐ、うぶっ、うぇえ……!!」 ダメだ、濃度を薄めた塩酸でも飲んでるみたいだ……! 塩酸なんて飲めるわけないけど、飲んだらきっとこんな─── 柾樹 「げぇっ!うげぇえ……!!」 豆村 「おえぇえええええ……!!」 俺とビーンは吐いた。 それこそ“盛大に”という言葉が合うくらいに、 ひっきりなしに襲い掛かる嘔吐の衝動に内臓を痛めながら。 涙さえ流し、体を震わせながら、それでも収まらない嘔吐感に苦しみ、 本当に脱水症状になってしまうのではと思うくらいに吐いた。 そして─── 刹那 「………………神よ……」 そんなゲロまみれの世界で一人、刹那が人々の視線を欲しいままにして立ち竦んでいた。 ここで逃げれば薄情者、 しかし逃げなければ嘔吐するくらいのものを友人に飲ませた最低人物。 どちらにしろ逃げ道がない彼は、それはもう今回の行動を本気で後悔するのだった。 Next Menu back