───祝おう友よ!/お嬢とその名とレイヴナス───
【ケース366:中井出博光(超再)/レイヴンとエレクトロ】 それから───例のブツを別店の殊戸瀬エレクトロニクスで手に入れた我らは、 揃って蒼空院邸に戻ってきていた。 その頃にはもう他の連中も戻ってきており、屋敷の中は案外賑やかだった。 もうさっきまでの静けさは微塵もないな……なんてことを思いながら中へ。 するとあらかたの準備は整っていて、 開始されたわけでもないのに屋敷の中は飲めや歌えの大騒ぎ大会のようだった。 さすがにまだ飲んだり歌ったりなんかしてないわけだけど。 麻衣香「あ、遅かったねヒロちゃん」 中井出「プレゼント探すのに手間取ってさ。そっちは?」 麻衣香「プレゼント?それならバッチリ。     準備も大分進んでるし、むしろすぐにでも始められるかな」 中井出「そかそか、それじゃあ───お?」 ふと聴覚を掠める音がした。 それは俺なんかよりも彰利や晦の耳によく届いたようで、 二人はドスドスと玄関ホールへと歩いていった。 いや、厳密に言えばドスドスという雄山歩法をしていたのは彰利だけだったんだが。 麻衣香「お客さん?」 中井出「みたいだけど」 誰だろうかとは思ったものの、まずは準備を完璧なものにしようと俺も手伝いに加わった。 ギャーギャー騒ぎながらの準備は案外楽しいもので、 これが祭りとするなら、祭りってのは準備期間こそ最も燥げる時間なんじゃないだろうか。 なんて思ってると向うの方でギャーという悲鳴。 こんな悲鳴をあげるのは彰利くらいだな、と冷静に受け止めていると、 晦と一緒に彰利が戻ってきて、さらにその後ろには─── セレス「お邪魔します」 彰利 「オウ邪魔だ《ボゴシャア!!》ギャーーーッ!!!」 若葉 「懲りることを知らないんですかあなたは」 木葉 「姉さん、言ったところで無駄」 水穂 「あ、あの、お邪魔しますね」 彰利 「オ〜ウ水穂ちゃん、ホラホラズズイと上がって上がって」 セレス「わたしの時とは随分態度が違うようですが?」 彰利 「失せろUVケア《ゴバシャア!!》ギャーーーーッ!!!」 若葉ちゃんや木葉ちゃんを始めとした、晦家の面々が居た。 ていうかセレスさんが容赦なく彰利の顔面殴ってる。正面から。 なもんだから彰利の鼻っ柱はもう折れてたりする。 本当に丈夫なのかモロイのか解らんヤツだ。 多分、玄関に行った時もあんな調子でからかって殴られたんだろう。 セレス「あなたは本当に変わってませんねまったく……」 彰利 「失礼な!オカマホモコンから卒業しましたわい!」 悠介 「変態であることは否定しないんだな……」 彰利 「え?あ、ギャア!!」 中井出「よっ!変態!」 彰利 「な、なんてストレートな!違いますよ!?オイラ変態じゃないやい!」 岡田 「ど、どうした変態!」 閏璃 「なにかあったのか変態!!」 彰利 「どうもしねぇよコノヤロー!!だから準備に戻りなさいキミたち!!」 田辺 「ヒィイ!変態が怒った!!」 飯田 「逃げろ!変態にされるぞ!」 彰利 「ギィイイーーーーッ!!!このクソジャリどもがぁあーーーーっ!!!」 藍田 「うわははははは!!変態だーーーっ!怒った変態が来たぞぉーーーっ!!」 丘野 「逃ーーーげーーーろーーーっ!!」 彰利 「こうなりゃ一人たりとも逃がしませんよ!?シャドウバインド!!」 灯村 「ギャアーーーッ!!変態が影を伸ばしてきたぁーーーっ!!」 島田 「変態シャドウだ!逃げろ!影に接続されたら動けなくなるぞーーーっ!!!」 彰利 「へ、変態シャドウ!!おのれ貴様!この彰利、もう辛抱たまらん!!」 藤堂 「ヘイ弦月!キャベツだ!受け取れ!《ブンッ!》」 彰利 「《ゴシャア!》キャアアアアアアァァァァ───……ア?な、なにこれ、白菜?」 藤堂 「ガハハハハハ!!騙された騙された!!」 三島 「白菜♪」 中村 「椎茸♪」 佐野 「にぃ〜〜んじん♪」 清水 「季節のお野菜いかがです♪」 彰利 「ギ、ギイイイイイイイイイイイイイイッ!!!!」 佐東 「ヒィイ!変態がキレたぞぉおおっ!!」 皆川 「ウハハハハハ!!逃げろーーーっ!!」 彰利 「おのれこの野郎どもめ!表ェ出ろコナラァ!!」 総員 『断る!!』 彰利 「断っちゃったーーーっ!!」 中井出「じゃあ猛者どもと燥いでる彰利は無視する方向で」 彰利 「キッサマあとで覚えときんさいよ!?     猛者どもを始末したら次は貴様をグーで殴る!」 中井出「フフフ……たとえ俺を倒したとしても、俺はこの中じゃまだまだ三下……。     俺を倒したところで第二第三の刺客が」 彰利 「何処の中ボスかねキミは!!」 藍田 「隙ありそぃやぁあーーーーーっ!!!」 彰利 「《ゴボルシャア!!》ベッシマァーーーンッ!!」 ドガシャアァアアアンッ!! 俺に気を取られた彰利が、横っ腹を藍田に蹴られて庭に吹き飛んだ。 思いっきり窓がブチ壊れてたが……全く誰も気にしていないのはある意味凄い。 ただ一人、お嬢は心底驚いていたわけだけど。 憩  「博光!ちょっと博光!!」 中井出「お?俺?なんの用だお嬢……ていうか俺、お嬢に名前教えたっけ」 憩  「櫻子おばさまがそう呼んでいたから呼んでいるまでですわ!     これはいったいどういうことなのですか!?     落ち着きもせず騒ぎ、あまつさえ櫻子おばさまの家の窓を破壊!!     このようなことは許される行為ではないですわ!!」 中井出「なにぃ〜〜〜っ、ま、窓が割れただと〜〜〜っ!?ど、何処がだ〜〜〜っ!」 憩  「博光!あなたはそれを本気で仰っているんですの!?     でしたらあなたの目は節穴ですわ!!ごらんなさい!あの無惨に割れ……え?」 バッ!と勢いよく窓へと視線を促すお嬢。 しかしそこには割れた窓など無く、新品同様に元通りになっている窓があった。 憩  「え……えぇっ……!?ど、どうなっているんですの……!?     確かに……割れてっ……!?博光!これはいったいどういう───」 中井出「ははははは」 藍田 「そいでさー」 憩  「聞きなさいと言っているでしょう!!」 怒られてしまった。 しかし……案外一つのことに集中すると周りが見えないタイプとみた。 ここに丘野くんと殊戸瀬が居るっていうのに全然気づいてない。 ナギー『のうヒロミツ?なんなのじゃこの女は』 シード『聞いていれば父上に対してこのような偉ぶり様……』 中井出「なんなのじゃと言われてもな……」 馬鹿正直に答えるわけにもいかないし。 憩  「あら。わたくしとしたことが。     これだけの人が居るというのに自己紹介もしていないなんて。     ではお聞きなさい。わたしは殊戸瀬憩。     栄えある殊戸瀬エレクトロニクスカンパニーの現総帥といったところです」 ナギー『コトトセ?コトトセとはあの《ゴキィッ!!》うきゅうっ!?』 中井出「狼髏館……回頭閃骨殺!!」 うっかり喋りそうになったナギーの首をゴキャアと捻って黙らせた。 おお危ない、もう少しでバレてしまうところだった。 誰かが教えては面白くない。 自分で気づいたその瞬間の顔を見るのが面白いんじゃないか。 ナギー『ななななにをするのじゃヒロミツーーッ!!』 中井出「バ、バカッ!なに言ってるのッ!もう馬鹿だなナギー!早く静かにしなよ!     今回だけはね───黙ってるからいいんじゃあないか……!」 ナギー『そ、そうなのかの?じゃがもう少しやり方というものがじゃな……』 彰利 「その言葉がジョジョ4部の康一くんの言葉だって解る人、どれくらい居るのかね」 悠介 「いや、今回ばっかりは俺でも解ったぞ。     ポイントは“いいんじゃないか”じゃなく、     “いいんじゃあないか”って言ったところだな」 彰利 「おお、解っとるじゃん」 さて……これだけの人数の中、自己紹介をしたお嬢は少し胸を張った状態にある。 恐らく自分は偉いのよと言いたいのだろう。 思いっきりお嬢オーラを放ってるからなぁ。 しかしみんなの視線は“だからどうした”というようなもの。 というよりは、むしろ“俺は、わたしは、誰々だ、です”と普通に返しそうな雰囲気だ。 相手が金持ちだろうが偉かろうが今更我らにゃ関係ないのだ。 だって俺達既に死んでることになってるし。 閏璃 「で、その総帥が何故にここに居るんだ?」 憩  「そこの博光に攫われたんですわ。     べつにわたくしが来たくて来たわけじゃありませんわ」 岡田 「なんと提督殿が!?」 田辺 「提督てめぇ!     これからパーティーだってのに部外者連れてきやがって!このクズが!」 中井出「面白そうだったから連れて来た!文句あるか!!」 総員 『滅相もございません!サー!!』 我らの意志の全てはそこへ。 それに丘野くんの娘にして櫻子さんの知り合いなのだ、全くの部外者というわけでもない。 憩  「提督?なんのことですの?あなた、軍隊にでも入っていらして?」 清水 「断じて違うわこのクズが!     我ら原中の猛者をあんな娯楽の“ご”の字も知らんやつらと一緒にするな!!」 瀬戸 「わたしたち原中は日々楽しみを探求し!全力で楽しむ猛者集団!!」 七尾 「それをあんな堅苦しいだけのものと同類視するなど!恥を!恥をお知りなさい!」 憩  「ふぅん……?軍隊でもないのに提督だのなんだのと、     そちらのほうがよほど恥だと思いましてよ?」 吾妻 「チッ……これだから頭の硬いお嬢様は……」 野中 「あなたみたいな常識に囚われた人が居るからこちらまで不愉快になるのよ……」 内海 「わたしたち原中はこの状況を大いに楽しんでいるわ。     大体軍隊じゃなければ提督と呼んではいけないなんて誰が決めたの?」 憩  「さあ、わたくしが知るわけがないですわ」 総員 『だったら余計な邪推文句はやめてもらおうッッ!!     不愉快ッ!実に不愉快だッ!!』 憩  「不愉快なのはこちらですわ。     集団でギャーギャー喚かれて、耳が痛いったらありませんわ」 宇佐見「祭りとは、パーティーとは騒ぐもの。     そんなことさえ知らない金持ちお嬢にわたしたちの高みは理解出来ないわ」 憩  「ふふ?騒ぐことしか出来ないのはあなたがたの育ちが野蛮だったからでなくて?」 ドゴゴスドスボゴゴスドガバキドカ!! 丘野 (ギャアアーーーーッ!!ななななにするでござるーーーっ!!) 清水 (なんという不躾な娘…………っ!なってない…………躾が…………っ!) 藍田 (責任…………っ!これは責任…………親の……そうっ……貴様の…………っ!) 女部隊がお嬢の相手をしている中、 男全員で丘野くんを囲んで素晴らしき攻撃の嵐をしていた。 だってな、いくらなんでも失礼すぎるだろお嬢。 育ちがいいのに育ちが悪いなんてヘンな性格だぞ絶対。 金は人の性格捻じ曲げるな、ほんと。 憩  「それよりも。確かに割れた筈の窓が直っている事態の説明をなさい?     誰でもいいですわ。そうですわね……そこのあなた、説明なさい」 佐野 「ワイがか?なんでや」 憩  「このわたくしが説明しろと言っているのですわ。いいから説明なさい」 佐野 「嫌やな、お断りィや」 憩  「なッ……!何故ですの!?」 佐野 「お前なんの面白味もないやっちゃな。     話してるだけでワクワク気分がどっか行っちまいよったで。     ここに居るお前がなんぼ偉いっちゅうんや」 憩  「わ、わたくしは殊戸瀬エレクトロニクスの───!」 佐野 「そんなんさっき聞いたわ。     で?ワイは“お前さんが”なんぼ偉いのか聞いてるんや」 憩  「っ……なにが言いたいんですの……!?」 佐野 「理解出来ないんやったらそこまでやな。     もうええわ。よっしゃみんなぁ、そろそろ仕上げにかかるでぇっ!」 総員 『おうさぁーーーっ!!』 佐野が“うえきの法則”の佐野ヴォイスで叫ぶと、 猛者どもは声高らかに叫び返してハッスルマッスル。 訳解らんがとりあえず叫んだ。 憩  「ま、待ちなさい!まだ話は終わって───」 佐野 「終わっとるわ。会話にもならん、一方が相手を見下してるもののどこが話や」 憩  「───!」 佐野 「わぁったらちょっとそっち移動しといてくれや。準備の邪魔やさかい」 憩  「……何故わたくしがあなたの言うことを」 佐野 「聞かなくてはならないのです、か?     ほれみぃ、拒絶ばっかで話にならんやないかぃ。     上に立つモンがそんなんで誰が付いてくるっちゅうんや」 憩  「〜〜っ……!」 佐野の容赦無い言葉がお嬢に突き刺さる。 だが自分は正しいと自負してるのか、何も言おうともしない。 移動もしなければ手伝おうともしない。 ……うーむ、あの丘野くんの娘ながら、ここまで協調性が無いとは。 こりゃ母親に似たのか? いや、でも殊戸瀬はなんだかんだでノリはいい方だからな……。 しかしあのままほっぽっとくのはちと可哀相ってもんだろう。 そう考えてからの行動は、案外早かった。 中井出「どうしたいお嬢。今にも泣きそうな顔して」 憩  「泣いてなどいませんわっ!!なんですの博光!     あなたもわたくしを馬鹿にしに来たんですの!?ええそうでしょうね!     あなたがた貧相な方々は無条件でわたくしたちのようなお金持ちが嫌いでしょう!     でもだからってあの言い方はなんですの!?わたくしは───っ!!」 中井出「俺ゃ櫻子さんと久義さん、好きだが?佐野───さっきのヤツだってそうだ。     金持ちがどうとかで相手を判断するのは馬鹿のやることだ。     付き合ってみて、金なんか無くても一緒に楽しめるヤツだったらそれでいいだろ。     なんでも金で解決しようとする金持ちや、偉ぶってるヤツは論外だな。     踏ん反り返って相手を見下すところからしか始められないから、     ああやって嫌われるんだ」 憩  「偉ぶる……!?わたくしがですの!?そんなこと───」 中井出「わたくしが説明しろと言っている、って言葉のどこに、     偉ぶってない要素があるって?」 憩  「それは当然のことでしょう?     上に立つものがしっかりせず、誰が人を導けるんですの!?     仕事は仲良しごっことは違いますわ!     上に立つ者は大勢の家族の未来を担わなければなりません!     それを仲良しの延長で破壊してしまっては、申し訳が立たないのですわ!!」 中井出「ふぅむ……」 確かにそりゃそうかもだな。 けど─── 中井出「最初からやろうともしないんじゃ成功する筈ないだろ」 憩  「無理なものは無理ですわ!威厳が無ければ女だからと馬鹿にされる!     そんなものはもう懲り懲りなのです!     両親に先立たれてからわたくしがどれほど苦労したか知っていますの!?」 中井出「知らん!!」《どーーーん!!》 憩  「なっ……!」 中井出「お嬢、貴様さ、そんなに辛いなら辞めちまえば?」 憩  「〜〜〜っ───勝手なこと言わないで!!ざわ……!! 憩  「え───あ……〜〜っ……───解りませんわ……!     あなたなんかには、説明したところで理解できるものですか……!!     やめてしまえば仕事を無くす方がどれほど居ると思っていますの……!?     事業に失敗しても、そこから降りても路頭に迷う人が居る……!     このプレッシャーがあなたなんかに理解できますの……!?」 中井出「出来ん!!」《どーーーん!!》 憩  「なっ……!少しは考えてから───!」 中井出「考えたって解るわけねぇだろうがー!コノヤロー!!     俺は貴様じゃないし貴様の仕事っぷりを見たわけでもない!     だったら出る答えなど解りきっていることだろうがー!コノヤロー!!     それともなにか!?そんな同情言葉をかけてもらいたくて話し始めたのか!?     同情されて気が済むならいくらでも同情してやるわ!     うーーーっひゃーーーーっ!!可哀相ォオオーーーーーッ!!!!」 憩  「ば、馬鹿にして!!人の未来を背負うことがどれだけ辛いかも知らないで!!     産まれた時からそんなものを背負うことが決まっていたわたくしの気持ちが、     それこそあなたなんかに理解できると言いますの!?」 中井出「したくもないわーーーっ!!誰がそうしろって言った!?親か!?     お前は敷かれたレールを走るだけか!?     夢も目的も無いままに浮き草のように流されるのか!?     言ってみろコノヤロー!あとを継いで会社盛り上げろって言われたのか!?」 ザシャア……! 丘野 (な、なんでござるか!?何故囲むでござるか!?) 殊戸瀬(……暴力反対) 岡田 (コココ……!言われた、と言ったが最後、僕らは貴様らをグーで殴る) 田辺 (ソノ後俺ハ───キミノ顔ヲ何度モ踏ミツケル。力イッパイ) 蒲田 (許シヲ乞ウキミヲ俺ハ絶対ニ許サナイ) 丘野 (アライ!?) なにやら準備を始めていた筈の猛者どもの方に異様な殺気が広がっていってるが…… だが気にせず話を進めよう。 実際誰がどうしたかなんてことは些細なことだ。 ようはお嬢が自分で立ち向かう勇気を持っているかどうか。 それを今、俺は喧嘩腰に調べているところである。 こういう理由があっての相手の出方を見るってのがまた案外面白いのだ。 そこに殴られる蹴られる罵倒される、などといったエッセンスが加わるのも厭わない。 さてお嬢はどう出るか。 丘野くんと殊戸瀬の性格を考えると、子の意志を最優先するだろう。 だからもし“継げと強要された”と言おうものならそこまでの人格だ。 ここで人の所為にして逃げるなら、お嬢の器はその程度のものだったのだと諦めよう。 憩  「……───これはわたくしが独断でやっていることですわ。     子が親の夢を受け継ぐのは当然のことですわ」 中井出(オ───) ───クリア、と言いたいところだが…… 中井出「だったら文句なんて必要ないだろ」 憩  「当然のことだから逃げられないものもあるということですわ!     そう、これはお父様とお母様の夢の結晶!     それを今更、何故わたくしの一存で破壊できますの!?」 中井出「やりたくないからだろ」 憩  「ですから!それが叶わないから嘆いていると言っているのですわー!!」 総員 (物凄ェ石頭だ……) 丘野 (面目ないでござる……) 殊戸瀬(その分、鼎は物凄く柔軟な頭なんだけど……) 中井出「いやもうだからさ、会社誰かに譲って、普通に暮らしていきゃいいだろうが。     譲る際に自分らの生活費だけ貰っておきゃ万事解決だろ?」 憩  「お父様とお母様が遺してくださったものを     何処の馬の骨とも解らない輩に譲れといいますの!?」 中井出「いや……あのなぁ」 結局どうしたいんだろうかこいつは。 いろいろツッコミどころが満載で困ってしまう。 中井出「では訊こうッ!!両親のことを抜きにして、貴様は会社を続けたいかッッ!!」 憩  「生きていくには必要なことですわ!」 中井出「じゃあ続けろコノヤロー!!結論出てるなら文句言うなコノヤロー!!     今までの問答なんだったんじゃー!コノヤロー!!」 憩  「仕方のないことでも他人に馬鹿にされてまでやりたいとは思わないですわ!!     たとえば会社を誰かに譲ったとして、     社会はわたくしたちをなんと呼ぶと思いますの!?     没落貴族だの負け犬だの、好き勝手に呼ぶに決まっていますわ!!     新聞社もテレビ局も鬱陶しいくらいに殺到して、     掲載しなくてもいいものや捏造したことまで新聞に載せたりテレビで流したり!!     もうたくさんですわ!他人の不幸がそんなに楽しいんですの!?     傷心の人から無理矢理根掘り葉掘り訊いて!     話さなければ勝手なことを記事にして出す!     これが侮辱じゃなくてなんですの!?」 中井出「知らん!!」《どーーーん!!》 憩  「───あなた!いい加減にしなさい!わたくしは真面目に───!!」 中井出「し、失礼な!俺だって真面目だ!!     俺が言いたいのはそれは侮辱以外のなにものでもないって言いたいんだよ!     他に喩える言葉が見つからん!」 新聞社もニュース局も、有名人の恥や負いを金にする場所だ。 そこにプライバシーもなにもあったもんじゃない。 行く先々で強引にマイクを押し付けてはギャースカ喚き、 相手のことより情報さえ入手できればそれでいいのだ。 その時の相手の心理状態なんて二の次だ。それが仕事だからね。 晒し者もいいところだろう。 中井出「じゃあ質問の仕方を変えよう。もしマスコミどもを完全に黙らせることが出来て、     生活費は安泰でいられるとしたら貴様はどうする?」 憩  「……───そ、それは…………」 中井出「親のことは完全に抜きにして考えてみろ。ホレ」 憩  「…………わたくしは……」 中井出「わたくしは?」 丘野 (ま、待つでござる!ジリジリ近寄って来ながら拳を握らんで欲しいでござるよ!) 総員 (だめだ) 丘野 (じ、慈悲が欲しいでござるーーーっ!!) 丘野くんと殊戸瀬にジリジリと近寄りつつも、 お嬢の様子だけはしっかり見ている猛者どもを横目に、 俺はただお嬢の言葉を待っていた。 さあ……どうでるお嬢!! と、“ゴ、ゴクッ!”と何故か全員が漂流教室風に喉を鳴らした時だった。 憩  「わたくしは……ふ、ふ……普通の……女の子に……なりたいですわ……」 ついにお嬢が決断の言葉をドゴゴシャバキゴキガンゴンガン!! 丘野 (ギャオアァアーーーーーーーッ!!!ななな何故殴るでござるーーーーっ!!) 殊戸瀬(いたたたたたっ!!ま、待って……!) 総員 (ついでだ!殴らねば握った拳がもったいない!) 丘野 (あんまりでござるーーーーーっ!!!) さて……ボッコボコにされている丘野くんと殊戸瀬はほっとくとして。 中井出「ならば決まりだ!お嬢!     貴様は今よりただの“憩”として生きよ!カンパニーの名など捨ててしまえ!」 憩  「なっ……今のは喩えの話ですわ!     そんなことが実際に出来るわけがありませんわ!」 中井出「出来る!新聞やテレビのことなら我らに任せよ!我らは裏社会には顔が広いのよ!     必要なのは信じる心と楽しむ心!最後にちょっとの非常識!!     さあ!貴様は我らを信じることが出来るか!?     出来るのならば、貴様の普通の暮らしを約束しよう!」 憩  「論外ですわ。信じられるわけがないでしょう。     今日会ったばかりのあなたを、どう信じろと言うんですの?」 中井出「努力と根性と腹筋で!」 憩  「そ、そんな暑苦しい信頼はこちらからお断りですわー!!」 そうかも。 憩  「け、けれど。どうしてもというのなら信じてあげてもよろしいですわー?     わわわたくし、丁度今物凄く暇で暇で仕方がありませんからー」 中井出「………」 自分に不利な状況だと語尾が延びるんだろうかこいつは。 中井出「じゃあ後で」 憩  「今すぐですわっ!!」 しかも物凄く自分本位なヤツだった。 ええい、だから普段温厚な佐野くんにあんな風に言われるんだっての。 中井出「だめだ!今から橘一家のパーティーがあるのだ!     いくら貴様が偉かろうがこれは譲れん!!」 憩  「橘……?聞いたことがありませんわ。     何処の名家ですの?櫻子おばさまの家でパーティーなど」 中井出「あそこで男二人と燥ぎまくってるアイツがそうだ。ちなみに平民」 ビッシィイイイッ!!! 三馬鹿『トー!テム!ポール!!』 促した方向では橘と閏璃と柿崎が三人で肩車をし、両手を横に伸ばしていた。 いわゆる組み体操のトーテムポールだ。 彰利 「おお〜〜〜っ!や、やるじゃねぇか〜〜〜っ!」 藍田 「ジョワジョワジョワ、こうまで見せられちゃあ負けるわけにはいかねぇ〜〜っ!」 丘野 「ヌワヌワヌワ、俺達もやってやるか〜〜〜っ!」 藍田 「少しは慎めサンダージョワジョワ」 丘野 「なっ……そ、そりゃあねぇぜライトニングヌワヌワ。     ここのところ慎んでばっかりだろうが〜〜〜っ!」 総員 『語呂悪ッ!!』 丘野 「解ってるでござるよ!!」 憩  「…………あんな方が?ただの平民がここでパーティーなんて……!」 中井出「相手が平民だろうが櫻子さんは喜んでるぞ。腐ってるのか貴様の目は」 憩  「なっ……!」 彰利 「ともかぁく!表へ出るぜ野郎ども!誰が一番トーテムポーれるか勝負だ!」 閏璃 「望むところだ!いわばこれは───原中対……こっちの名前なににしようか」 来流美「ほんと勢い殺すのが上手いわねあんたは……」 鷹志 「でも確かに原中は原中って一纏めに出来るから楽でいいよな。     じゃあこっちは……原中以外の全員をとってなんと呼ぶべきか」 閏璃 「名誉ブリタニア人」 来流美「却下」 即答だった。 閏璃 「“命を無視された兵隊(ゲシュペンストイェーガー)
”」 来流美「何処の部隊よ。却下」 閏璃 「“死沼に誘う鬼火(ウィル・オー・ウィスプ)”」 来流美「却下」 閏璃 「どうしろっていうんだお前はっ!!」 来流美「パクリから離れろって言いたいのよわたしはっ!!」 閏璃 「だったらレイヴンだ!」 来流美「思いっきりパクリでしょうが……!」 クルーミング大佐の額にムキーンと怒りの血管が浮いていた。 いや、実に雄々しき女性だ。 などと感心していると、ふとお嬢の目が険しいものになっているのに気づいた。 中井出「お嬢?」 憩  「わたくしの前でレイヴンの話はしないでくださいますこと……?     まったく、いつまで経っても忌々しい名前……!」 浩介 「ヌ……それは我らへの敵意と受け取った!」 浩之 「おうともブラザー!」 憩  「……?あなたがたは?」 浩介 「名乗らせてもらおう───我が名は志摩……否!     リクス=レイヴナスと言っておこうか!」 浩之 「同じくニクス=レイヴナス!     我らがレイヴナスカンパニーを侮辱する憐れな悪魔に魂の救済を!」 凍弥 「いや、言ってること滅茶苦茶だから、お前ら」 憩  「レイヴナス……!?あなたがた、あの忌々しいレイヴナスの!!」 浩介 「なにを以って忌々しいと言うのかは知らんが聞き捨てならん!!     我らの会社に不満があるならどどんと言ってもらおうか!全ては同志が聞く!」 凍弥 「ちょっと待てコラ!!」 浩之 「硬いことを言うな同志!さあ聞け!どどんと!さあ!」 凍弥 「あのなぁああ……!!」 ……どの時代にも苦労人ってのは居るもんだな、と妙に納得した瞬間だった。 っと、それよりもだ。 中井出「お嬢、レイヴナスカンパニーを敵視してるのか?その理由はなんだ?」 憩  「レイヴナスにはいつまで経っても私怨を消さない嫌な人が居るんですわ。     わたくしが産まれる前のことですの。     それをいつまでもいつまでもネチネチと……!」 中井出「……?それって……」 丘野 (…………《コクリ》) 軽くずらした視線の先で、丘野くんが頷いていた。 やっぱりそうらしい。 その先で殊戸瀬も頷いていたが、その視線の先に居るのは晦だ。 浩介 「むん?……おお、知っているぞ。     なんでも貴様の下会社の者が我がカンパニーのデータを盗み、     それを基にしたレプリキュートヒューマンを創ろうとしたらしいではないか」 浩之 「それらが関わる事件の中、貴様の下会社の者が一般人を巻き込んで射殺。     だが明るみに出るのが嫌で事件をもみ消した……と聞くが?」 憩  「それが忌々しいと言っているのですわ!     確かに下会社がしでかしたことは上の方に罪が届くものです!     しかしそれをいつまでも、     わたくしも知らないようなことを恨まれてはたまったものではありませんわ!」 悠介 (まだ解決してなかったのか……?) 殊戸瀬(人が死ぬほどの事件をそう簡単に忘れろというのは無理があるわ……。     それに、もみ消そうとされたとあれば余計に) 悠介 (……はぁ、なるほど。     けどあの花見の時にこれを聞いてからどれくらい経ったと思ってるんだ?     その女社員ってのも相当だな……) 殊戸瀬(そうね) 中井出(ゴソゴソと話し合ってる場合じゃないぞ……。かなり雲行きが怪しくなってきた) 悠介 (……だな) ギャーギャーと言い合いを始めてしまった対立会社同士。 もちろん会社とは関係のない我らは眺めているしかないんだが……どうしたものか。 悠介 「凍弥、なんとかならないか?」 凍弥 「っと、悠介さん……なんとかって言われても、あれじゃあな……」 中井出「いっそ一緒になって乱闘でも始めてみるとか。とんねるずみたいに」 藍田 「ジョワジョワジョワ!乗ったぜ〜〜〜っ!!」 丘野 「我らはもちろんエレクトロニクス側に着くでござる!!」 閏璃 「なにぃ、ならば俺達はレイヴナス側だ!     フフフ……事実上、原中対名誉ブリタニア人ということになるな……!」 来流美「その名前は却下だって言ったでしょうが!大体そんなこと言っちゃったら……!」 総員 『面白そうだ!是非やろう!!!』 来流美「あぁああーーーっ!!やっぱり火が灯っちゃったじゃないの!     どーすんのよこの馬鹿っ!!」 閏璃 「どうする!?決まってる!応戦だ!!いくぞぉ野郎どもぉっ!!」 全員 『おぉおーーーーーーっ!!!』 猛者の叫びと名誉ブリタニア人の叫びが入り混じる。 そうして見事にレイヴナス側とエレクトロニクス側に分かれた我らは、 やがて遠慮無しの乱闘を始めるための準備を開始するのだった……!! 彰利 「テユウカアノー、ゼノサン?ナンデソッチニ居ラッシャルノデショウカ……」 ゼノ 「貴様と戦ういい機会だ……!利用せぬ理由はないだろう……!     さあ!!我と戦え!存分に!!」 ライン「当然私もこちらだ。王、加減はせんぞ」 ゼット「ククク……ツゴモリ……さあ剣を抜け。存分に戦おうぞ───!!」 悠介 「お前らなぁっ!!機会があればいつでも敵に回るその癖なんとかしろ!!」 みさお「夜華さん……いえ、師匠。胸を貸していただきます」 夜華 「ああ、いいだろう。存分にかかってこい!」 セレス「……あの。これはいったいどんな祭りですか?」 総員 『俺達のバトルシティ!!』 全員 『終わらない僕たちのステキ!!』 セレス「……水穂さん、下がっていましょうか」 水穂 「そ、そうですね」 ガオオと咆哮する我らの気迫に、セレスウィルさんは水穂さんを守るために一退。 若葉ちゃんも木葉ちゃんもそれに習ったが、 ヒロラインを潜り抜けてきた者は誰一人逃げようとはしなかった。 憩  「いわばこれはあなたがた、     レイヴナスカンパニーと我が殊戸瀬エレクトロニクスとの戦い……。     負けることは許されないですわ」 佐野 「なんでお前が偉そうなんや!」 総員 『そうだこのタコ!!』 憩  「お、お黙りなさい!!さあっ!やぁっておしまい!」 総員 『断る。我ら原中、面白味の無い者からの命になど反応せん。     我らを突き動かすもの。それは───男義である!!     決して曲らぬ決意と勇気と楽しみへの欲求こそが我らを動かすのである!!』 悠介 「いや、そこでどうして男塾塾長の真似が出るんだ」 彰利 「いやむしろ褒めるべきは総員が総員、同じことを言ったことデショ」 悠介 「他人同士なのにこうまで思考が似通った連中も物凄いよな……」 中井出「俺も時々酷く冷静になるとそう思ったりする……というわけでお嬢!     貴様がまずしなければならんことは相手が望むことを見極めることだ!」 憩  「望むこと!?そんなもの解りませんわ!」 中井出「そうやっていきなり諦めるからいかんのだブワァッカモンがぁーーーっ!!     こんなものはこう唱えればいいのだ!総員聞けェーーーイ!!」 ザザァッ!! 総員 『イェッサァッ!!』 憩  「えっ……全員が敬礼した……?」 中井出「これより我らは別に憎くはないがノリとして言う!     にっくきレイヴナス勢力を叩き潰すものとする!!」 総員 『サーイェッサー!!』 中井出「だが間違うな!敵はカンパニーにあらず!     目の前に立ち塞がる障害のみを叩き潰せ!」 総員 『サーイェッサー!!』 中井出「我らに男女差別などない!何故なら我らは猛者という名のソルジャーだからだ!     楽しみを探求する者が差別などしてはいかんのだ!今一度心に刻め!     総員復唱!!さんっはいっ!我々はっ!!」 総員 『オッパイだっ!!』 中井出「そうじゃねぇだろうがバッキャロー!!ちがっ……違うよ!?     誰もパンプキンシザーズの真似をしろなんて言ってないよ!     別に狙って言ったわけじゃ───そうじゃないって言ってるでしょ!     エロじゃないよ!狙ってない!!なに勝手なこと言ってんの殊戸瀬!!     鼻の下なんか伸びてないよ!!───縮んでもいないよ!!     え、え?お嬢?殊戸瀬がなんだって?え───あ!ち、違う!違うって!     べつにバラしたかったわけじゃ!待って落ち着いて!     だって今の殊戸瀬がヘンなこと言わなきゃ俺も言い返すことなんて!     ちょ、待って!やめ───ヴァアーーーーーーーッ!!!!」 うっかり口がすべり、殊戸瀬と丘野くんの存在にお嬢が気づいたその日。 俺は星になった。(主にナギーの怒りによって) Next Menu back