───晴れ時々レーザー/快感、シャンプー体験───
【ケース374:弦月彰利/お江戸セプテンバーライク】 テンテンテテンテテコッテテン♪テン♪ 彰利 「アァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜イ♪     キャンギィ〜〜〜ビュ〜〜〜ギャァ〜〜ッツビィ〜〜〜ッ♪     ギャァ〜〜〜ッツビィ〜〜〜〜〜ッ♪     ギャァ〜〜〜ッツビィ〜〜〜〜〜ッ♪」 ザパシャザパシャゴリグニメキゴキ!! 永田 「いででいでででいででだだぁああーーーーーーーっ!!!」 朝である。 僕はマユリ様な永田くんの洗顔を手伝うために洗面所に待ち伏せ、 ギャッツビーのテーマとともに顔をゴニグニと洗ってやっていた。 もちろん待ち伏せしてたのは永田くんだけじゃないんですけどね? 永田 「自分で洗うから勘弁してくれって!」 彰利 「あ、ありゃそう?じゃあ───」 中井出「あの……これ、使ってもらっても……?」 彰利 「……?いいですよ」 チューーーッ…… 永田 「おわ冷てっ!?な、なんだ!?なに頭にかけ───はうあ!?     あ、あああ……───あぁあん!髪の芯まで潤っちゃう!!」 彰利 「ああっ……!なんだこの滑らかな指通りはっ……!!」 永田 「イエ〜ス……イエ〜ス……イエェェェ〜〜〜ス!!!」 永田くんがサワヤカに艶かしく叫んだ。 いやまあ……ハーバルエッセンスで油性の悪戯書きが取れるわけないんだが。 もし取れたら驚きですよ? グラップラー刃牙のジャック・ハンマーと銀魂のハタ王子の声優が同じってくらい驚きだ。 ハタ王子が現れた時のヤ〜ロ〜ル〜♪って声はなんなんだろうね? ともあれ永田くんの髪と顔面を洗ったところで退場してもらい、次の者を待った。 柿崎 「まいったな、油性なんて───」 中井出「へいらっしゃい!!」 柿崎 「!!《ダッ!!》」 中井出「……あれ?」 彰利 「うおおいきなり逃げやがった!!逃がすかァーーーーッ!!」 突如現れ、突如逃げ出したパーシモン! そしてそんな彼を追い、駆ける俺と中井出!! どうしたというのだ!?何故彼は逃げ出したりなど! 中井出「待て貴様!俺達は貴様の醜く汚ぇツラを綺麗にしてやろうと!!」 柿崎 「言葉としては間違ってねぇのに言葉に棘っつーか剣山があるぞそれ!!     大体顔洗うとか言いながら、その手に持ったハーバルエッセンスはなんだよ!!」 彰利 「え?ギャアしまった持ってきちまった!!」 中井出「馬鹿野郎一等兵てめぇ!!貴様の所為で全て台無しじゃないか!!」 彰利 「お、おのれぇえええっ!!絶対に許さんぞ虫ケラめ!!     じわじわと嬲り殺してくれるわぁーーーーっ!!」 柿崎 「うおお逆切れしやがったぁーーーーっ!!た、助けてぇええっ!!」 キィッ───バジュウンッ!! フォル『稔さま、ここはわたしが───!』 柿崎 「フォルネリア!?」 彰利 「ムッ!?」 突如!目の前を走るパーシモンの背を守るかのように現れるフォルっち!! コマンドどうする───!?とか思ってたら中井出が逸早く疾駆し、 フォルっちの顔を片手で掴みあげ───!! コキュゥウウウイイイッ!!! 彰利 「オワッ!?」 景色の色が反転! その中でゆっくりと中井出だけが動き、 左手でフォルっちの口を押さえるような感じで宙吊りにし、 右手から怪しげで毒々しいオーラを放ち、 中井出「気持ち良くなれ……!」 その右手でフォルっちの体をゾブシャアと傷つける! フォル『うぐっ!?《ドゴォンッ!!》くあはっ!!』 しかもその後はフォルっちを無造作に後方に叩きつけるように投げ捨て、 立ち止まっていたパーシモンをギロリと睨みつける。 彰利 「エート……今のって……」 中井出「え?毒手功。技術スキルの“毒”だけを引き出して、     手でちょいとでも傷つけてやれば、あら毒に」 見れば、確かにフォルっちが毒状態。 毒手功って……KOF2000の(りん)
の……? 彰利 「キミのソレって剣じゃなくても毒とか込められるん?」 中井出「ああ、だってほら、剣自体が俺の体に溶け込んでるわけだし」 彰利 「……ああ、ナルホロ……」 ようするに彼は既に全身これ凶器なわけね。 今なら肩がぶつかっただけでも毒に侵されそうじゃわい。 中井出「ただ“ダメージを与えること”が前提条件でさ。たとえば───」 彰利 「《ドズゥ!》ゲブゥ!?」 中井出が僕の腹に貫手をする! ───と同時に、なにやら中井出の血色がよくなっていってるような……!? 中井出「技能スキル“回復”で敵にダメージを与え続ける!     すると我がHPは回復し続けてゆく!これぞ!“ストームブリンガー”!!」 彰利 「ゲェエーーーーーッ!!!」 貫手をグリグリと捻られる度に腹部に痛み! それとともに中井出の周りに緑色の光が煌き、中井出が回復する!! でも必ず回復するわけじゃないらしく、時々光が途切れることも。 中井出「まあそんなわけだ」 彰利 「グウ……面白い能力持っとるのう」 中井出「まあ基本的にはグローブ付けてるからマイトが発動するんだけどさ。     ところで突然だが、気になることがあるんだが訊いていいか?」 彰利 「なんだいトニー」 中井出「“人妻”って言葉、あるだろ?あれってさ、妻なんだから人の妻なの当然だろ?     なんだって人妻って言うんだろうな。人以外の妻になるヤツなんて居るのか?」 彰利 「アタイの妻たちとか」 中井出「非常識はポリバケツに収納してくれ」 彰利 「知らんねぇ」 そういやなんで人妻って言うんだろ。 つーかほんと突然で謎ばっかりの質問だった。 中井出「というわけで謎を解明するためにも!そこのパー・シモンとやら!     大人しくハーバルエッセンスを受けろ!!」 柿崎 「パー・シモン!?いやお前俺の名前を普通にパーシモンだと思ってないか!?」 中井出「え?……パー・シモンだよな?あいつ」 彰利 「そうだよ?なに確認してんの、そんなん当然じゃん」 中井出「ほら見ろ!お前の所為で恥かいただろうが!!」 柿崎 「騙されてるぞお前!!思い切り騙されてる!!     騙され続けるのと真実知るのとどっちが真実の恥かよく考えてみろ!!」 中井出「お前がどこの国の人間かなんてどうでもいい……。     流暢な日本語を喋ることも、この際見逃そう。     今はただ!貴様をハーバルエッセンするのみ!!」 柿崎 「うおおこいつ滅茶苦茶だ!     なのに妙にあっさり“流石あいつらのリーダーだ”って納得出来るのがすげぇ!」 中井出「彰利一等兵!」 彰利 「サー!イェッサー!!」 中井出の合図を一心に受け、影を伸ばしてパーシモンに接続!! “うおっ!?”と驚いた時にはもう遅い! ヤツは既に我が手に落ちたも同然よ!つーか落ちてる! 現にヤツは“う、動けねぇ”とか唸っておるわ!!マニマニマニマニマニ!!! 彰利 「……つーかさ、“彰利一等兵”だけでどう動けって言われたのかが解るってのも、     俺達の付き合いも相当ってこっちゃよね」 中井出「だよなぁ……」 言いつつハーバルエッセンスをシャコシャコと振っている俺達も流石です。 え?ええ、もちろんパーシモンくんは恐怖に怯えた目で我らを見ていました。 しかし体は動かないので、耐え忍ぶしかないのですよグオッフォフォ。 柿崎 「や、やめ───!!《チューーーッ》ぐおあぁーーーーーーーっ!!!」 早速パーシモンくんの頭にレッツハーバル! 水で濡らさないままに、ワシャワシャと乱暴に引っ掻き回す!! 柿崎 「いででいでででいででででで!!ちょ、マジで痛───ハッ!?     あ、あああ……!あぁああん!!髪の芯まで潤っちゃう!!」 中井出「ああっ……!なんだ、この滑らかな指通りはっ……!!」 柿崎 「イエ〜ス……イエ〜ス……イエェェェ〜〜〜ス!!!」 ……堕ちたな。 すげぇぜハーバル、嫌がる者を無理矢理にでも快感シャンプー体験。 彰利 「クォックォックォッ……さて、これからどうするよ提督」 中井出「キョホホ……そりゃお前……普段絶対にこんなことを言わないヤツに、     この快感シャンプー体験を教えてやるしかないだろう」 彰利 「言いそうにないやつっつったら……」 中井出「そうだな……」 彰利 「ゼット、ゼノ、シュバちゃん、夜華さん、ルナっち、セレっち……結構居るな」 中井出「精霊たちはどうだ?」 彰利 「おお、スッピーとかいいね」 スッピーがイエ〜スと言う瞬間……ブフゥ!最強!! 彰利 「ムヒョヒョヒョヒョ!!ほいじゃあまず何処から責めてくれようかねぇ!!」 中井出「そうだなぁ……やっぱりゼット?」 彰利 「いきなりG級クエストだなオイ……だがその意気や良し!!     行こうぜ中井出!僕らの提督!」 中井出「おぉおーーーーっ!!」 こうして僕らは走った。 屋敷の中をドカドカと駆け回り、やがて庭でみさおと茶を嗜んでいるゼットを発見し─── すぐさまにアイコンタクトとハーバルエッセンスでみさおに納得をさせると味方側に。 あくまで冷静に茶を楽しんでもらう一方で、 俺と中井出は世界をも破壊せん気迫を持ってゼットに襲い掛かったのだった───!! ゼット「ぬ……?ぬおっ!?」 中井出「ズオォオオリャァアアーーーーッ!!!!」 彰利 「ディイイェエエーーーーーッ!!!」 飛び出すタイミング! 飛び掛るタイミング! どれを取ってもパーフェクト!! その理を生かし、虚を突かれたゼットの髪へとハーバルを───!! ゼット「───!ぬあぁあああっ!!」 シュゴォッ!!───フィィインッ!! 彰利 「ホヒャーーーーーッ!!?」 中井出「うおゎーーーーーーっ!!!」 いけると思ったのに! なのに何っ!! 瞬時に斧出して斬りかかりにきたよこの人!! 彰利 「ク、クォックォックォッ……ど、どうした……?     黒竜王ともあろう者がそんなに焦って……!」 ゼット「っ……、……解らん……!     解らんが……それだけは近づけてはならんと体が警告を出している……!」 中井出「………」 彰利 「……、……」 ザァア……と、風が庭の草花を揺らしていた。 早朝に吹く風はどこか心地よく、見上げてみれば満天の快晴空。 すぅ、と息を吸い込んでみれば、まだまだ蒼い夏の匂いがした。 俺達は……夏の季節の中に居る。  ……などと、現実逃避してる場合ではなく。 中井出「……すげぇんだな……ハーバルエッセンスって……」 彰利 「俺……ちょっと……いや……かなり感動したよ……」 泣く子も恐怖死する黒竜王をこうも警戒させるとは……。 彰利 「ゼットよ……言っておくが俺は是が非だろうが是にして、     貴様にイエ〜スと言わせたい!だから手加減はせんンン!!」 ゼット「フッ……かつてない気迫だ……。何が貴様をそうまで変えたのかは知らんが……。     この俺に勝つ気でいられるとは随分と豪気なことだ」 彰利 「生憎と勝たなきゃいけねぇ理由が出来たんでね……いくぜゼット!!」 中井出「役に立てるかどうか解らねぇが俺もいくぜ!!」 ゼット「いいだろう!来い!中井出博光よ!     友となった身、貴様が俺と戦うことで力をつけるのは俺にとっての喜びでもある!     覚悟はいいかぁっ!!」 中井出「荊棘をォッ!!」 彰利 「踏んだぞぉーーーーーっ!!!」 最初から全力バトル!! 俺と中井出はフルパワーで大地を蹴り、一気にゼットへとぶつかっていった───!! 【ケース375:晦悠介/マンマメッサーノを知る人】 チャッ……チャ…… 悠介 「ん……よし、っと。朝食の盛り付け完了、と」 さすがにあの大人数となると、料理をする方も手間だ。 力の低下の所為で創造も上手く出来ず、材料も買いにいかなきゃならなかったし。 気の所為じゃなければ、俺って日に日に弱ってないか? 悠介 「こんなんじゃダメなんだけどな……はぁ」 試しに食材を創造してみる───と、その分だけ体に疲れが出たような……。 悠介 「これって───」 その感覚を、俺は知っている。 創造と、この疲労感……これは、俺が体力消費による創造の理から抜け出す前の感覚。 なにを創造するにも体力を消費し、 唯一消費無しで創造出来たもの───それがハトだった頃のもの。 ……今更になって、どうして……。 悠介 「……いや、いいさ」 それならそれでいい。 俺は消費無しの状態に慣れすぎてて、なんでも出来る気になっていた。 だったらこれは、その慢心への処罰みたいなものだと受け取れ。 悠介 「……ハトが出ます」 指で円を作り、ハトを創造する。 そうしてみると、やはりハトの創造には消費が無いことが解る。 ポムッ、と飛び上がるように創造されたハトはそのまま俺の指に止まると、 クルッポーと鳴いて、首を傾げて俺の顔を覗いていた。 悠介 「変換は───…………ダメか」 構造がてんで見えない。 試しにラグに触れてみる───が。 賢者の石状態のソレは、意識しようが剣にはならなかった。 ラグ自身の反応も微弱だ。 試しにオルタネイトを唱えてみたが、なんの反応も無い。 どうなってんだ……? ああいや……考えるのはよそう、どうせノートだ。 汝には初心に戻ってもらうとかで、力の在り方を以前の俺に戻したとかだ。 もういいよ、もう慣れっこだよちくしょう。 それに、この頃の自分はあまりにも黄昏や光の武具、そしてラグに頼りすぎてた。 初心だ、初心。 初心を忘れたヤツはどう足掻いたってここぞって時にポカをやらかす。 そうならないためにも───バゴォオオンッ!ボッゴォオオオンッ!! 悠介 「………」 さっきから気になってたんだが、なんの音だ? 外の方……からだよな。 さっきから炸裂音が随分と聞こえる。 悠介 「………」 は、はは……初心に戻ろうな、晦悠介よ。 かつてのお前はこんな面倒ごとには首を突っ込むようなヤツじゃなかったろ? だってさ、頼まなくったってあの変態オカマホモコンの親友が持ってきやがったんだから。 そうだ、そうなんだよ。 俺は誰よりも静かで平凡な毎日を望んでいて、当時の俺は家族─── 妹達を守ってやれていればそれだけでよかったただの善良な一般市民で……。 悠介 「……呆れたなぁ……そんな頃から守ることばっかりしか考えてなかったのかよ」 トントントントンと、指から肩に登ってきたハトを見て小さく苦笑。 それだけかつての自分が父親の背中を無意識に追ってきていたってことなのだ。 ───守りたいものを守る。 家族を守ることが彼の生き様だったのだとしたら、 俺が進む生き様っていうのは親友のための道。 ルナと彰利、この二人を守っていられれば俺はそれでいいんだ。 いつか深冬には別の“守ってくれる男”が現れるって信じてる。 それは今じゃないんだろうけど、それでもだ。 悠介 「俺は俺らしく、夢は夢らしく───」 そうやって進んでいけばいい。 いつしか“全てを守る”になっていた幻想を破壊して、今はただの晦悠介に戻ろう。 大層な力なんてなく、それでもただ一心に未来を願っていた馬鹿野郎に。 ……こぎゅるるる…… 悠介 「む……」 なんて大層なこと考えようが、どうやら腹は減るらしい。 はぁ、ほんと……あの頃に戻ったって実感が沸く。 神になったり死神になったり竜人になったり精霊になったり─── そんなことを続けていくうちに、どうも“空腹感”っていうのが薄れていた。 まるで霞を食う仙人みたいな状態だ。 そこにきてこの空腹感。 ああ……なんて喩えればいいのか。 悠介 「俺って人間だったんだよなぁ……」 そう思い出させるような、腹の雷鳴だった。 悠介 「外のことは気にしないでおいたほうがよさそうだし……     他のやつら起こしてさっさと朝食にするか」 こんな気分も懐かしい。 学生の自分なんて、いっつもこうして料理作って義妹起こしてって日常送ってたのに。 人生、なにがきっかけでなにが変わるかなんて解らないもんだな……。 ───……。 ……。 ───というわけで。 悠介 「あー……誓ってもいい、不可抗力だ」 俺はある意味追い詰められていた。 何故って?今まで気配で大体のことは察知していた俺だが─── その気配察知能力までなくなってたもんだから、最大のポカをやらかしてしまったのだ。 そう、一言で言えば……着替え中の女性の部屋をガチャアと開けてしまった。 で、その先に居るのは、 自分の家からきちんと着替えなども持ってきていたらしい若葉と木葉。 ああ、顔真っ赤にして震えてるな。 なんて状況説明している場合じゃなく。 悠介 「えーと……ハトが出ます」 ポム、とハトを創造。 いや、もちろん深い意味も浅い意味も中間も無いんだが─── 若葉 「……おにいさま」 悠介 「む。違うぞ若葉。俺はもう晦とは関係ないから、俺を兄と呼ぶのは───」 若葉 「……そうですか。     それならば身内ではなく他人として対応してよろしいのですね?」 悠介 「へ?」 モシャアアアア……!!と若葉の周りの景色が歪んでゆく。 うわー……こんな気分も懐かしい。 ていうかヤバイ。 悠介 「ま、待て待て待てっ!不可抗力だって言ってるだろっ!」 若葉 「それでもっ!前までのおにいさまならノックくらいしましたっ!」 悠介 「だから現状に緩みまくってたんだっ!落ち着け!まず落ち着け!     木葉を見ろ!あんなにも落ち着いてるじゃないか!!」 木葉 「…………サービスショット《チラリ》」 悠介 「見せんでいいっ!!ってばかやめろ若葉!     今の俺に目覚まし時計投げるなんて───!」 若葉 「問答ッ───無用ですっ!!」 ゴバシャアッ!! 悠介 「だわぁーーーーっ!!!」 目覚まし時計が見事に俺の頭部に炸裂した。 ああ、星が見えるスター。 声  「……?あ、あれ……?おにいさま?おにいさまっ!?」 声  「……姉さん、ナイスデッドボール」 声  「そんなことを言っている場合じゃありませんっ!!」 ああ……目覚ましくらいで気を失える俺だったのか、かつての俺は。 こんなにも簡単に転倒して、 景色がブラックアウトとは……つくづく軟弱だったんだなぁと再確認した瞬間だった。 ───……。 ……。 悠介 「……そんなわけで。俺、学生時代あたりまでの実力に戻されたみたいなんだ」 総員 『なんとまあ……マジすか』 大食堂に集合したみんなにその旨を伝える。 じゃないと加減抜きの攻撃とかされて昇天するかもしれないからだ。 藍田 「ヒロラインパワーとかは?」 悠介 「ダメだ。セット唱えてもなんの反応もない」 藍田 「うわちゃー……」 丘野 「無の精霊殿はその件に関してなんと?」 悠介 「やっぱり犯人はノートらしい。きっぱり言われたよ、一度初心に戻れって。     なまじっか能力とかがあるからそれに頼りきりになるのだ、とか言われた」 閏璃 「へ〜……晦の場合、能力に頼らなくても体捌きだけで十分だと思うけどな」 悠介 「ここぞって時に光の武具に頼りすぎなんだとさ。     考えてみれば、今じゃ誰と向き合うにも黄昏解放してた気がする」 岡田 「ふむふむなるほど」 悠介 「……ていうかお前ら、もう顔はいいのか?」 その場に集まった全員……いや、彰利、中井出、ゼット、みさおは居ないようだが、 ともかく全員に訊いてみる。 見たところ、もう悪戯描きは消えているようだが…… どうして髪の毛がサラサラなのかは謎だ。 閏璃 「洗面所に行ったらハーバルエッセンサーに捕まった」 けど、その一言で全て理解できてしまった。 大方彰利と中井出が、ゼットにイエ〜スって言わせたくて馬鹿やってるんだろう。 丘野 「悪戯描きは櫻子殿に頂いた石鹸で落ちたでござるがな……」 藍田 「まさかイエ〜スと言わされるハメになるとは……」 悠介 「もしかして全員か?」 総員 『……思い切り』 ルナ、セレス、篠瀬、ゼノ、シュバルドラインなどの一部のやつらを除く全員が頷いた。 ……なにやってるんだか、あいつらは。 悠介 「メシ、食うか」 藍田 「ジョワジョワ〜〜〜ッ、望むところだぜ〜〜〜っ!」 丘野 「ヌワヌワヌワ、俺の腹が猛ってやがる〜〜〜〜っ!」 藍田 「少しは慎めサンダージョワジョワ」 丘野 「自分だって……」 そうして、死闘を繰り広げる彰利、中井出、ゼットの姿が 大食堂の窓から見える位置に差し掛かった頃。 俺達はそれを肴にでもするかのように、食事を開始したのだった。 ていうかもう庭の景色が冥界になってら。 彰利よ……魔人冥黒結界を使ってまでゼットにハーバルエッセンスしたかったのか。 遥一郎「ああいうのを力の無駄遣いって言うんだろうな……」 悠介 「ああ……俺もそう思う……」 しみじみ呟く穂岸に同意しつつ、俺は空かせた腹を満たすために食事に集中するのだった。 ───……。 ……。 … イエ〜〜〜〜〜ス!! ───……。 彰利 『ぶはははははは!!ぶははははははは!ぶっは!ぶははははははは!!!』 中井出「うははははははは!!バーーハハハハハハハハ!!!!」 ややあって───食事を終えて、片付けが始まった頃。 耳に届いたステキボイスに振り向くと、 冥界色の景色の中で彰利と中井出が転げまわって爆笑していた。 そしてその先には髪に微量の泡をつけたゼット。 既に人もまばらな大食堂、今の声を聞いた人物はもちろん、現場を見ていた者も少ない。 というか居ない。 だからこそ、予想は出来ても確信には至れなかったが……へ? い、今のイエ〜スって、ゼットが言ったのか? 彰利 『黒竜王が黒竜王がイエぶはははははは!!げっほごほほはははははは!!!!』 中井出「すげぇすげぇよハーバルエッセぶははははは!!!     あのゼットにあんなぶははははははは!!     だぶははははは!!だめっ!ぶははははははは!!!     イエッ……イエ〜〜〜〜〜〜スってぶははははは!!」 常軌を逸したくらいに笑い転げる二人。 あまりの苦しさに彰利の死神王化も解け、普通の死神状態に至り─── そうなると魔人冥黒結界も解け、庭が冥界ではなくなる。 ああ……涙が滲むどころじゃなく、流れるくらいに苦しみながら笑ってるな。 で、その二人を前に大気を震わせ、怒りに顔を真っ赤にしている修羅が一人。 ていうか庭に設置されたテーブルで息を殺して笑ってるみさおも発見。 ああ、素直に笑えない分あっちの方が辛そうではあるが─── これから始まる殺戮ショーを考えるに、 どっちが辛いのかといえば───メコッ……メコモコ!! 黒竜王   『グバァシャァアアアアアアッ!!!!』 彰利&中井出『ほぎゃああああああーーーーーーっ!!!』 ……確実にあっちだと思うわけだ。 中井出「ままま待てぇええええっ!!なにも竜化するこた───!!」 彰利 「そ、そうだー!これはあまりに───…………、……ハ、ハーバルドラゴン!!」 中井出「ぶふしゅっ!?」 で、よせばいいのに妙なところで原ソウルが発動してしまったもんだから墓穴。 自ら墓の穴を掘るような行為を彰利が口にした時点で、 二人は逃げようとしていた足を止めて笑い転げ始めてしまった。 彰利    「ぶはははははは!!ぶっははははははは!!ハーバッ……ハバッ!        ハーバルドラゴッ……!!エッセンスドラゴンだぁーーーーーっ!!!」 中井出   「ぶははははは!!        きっと咆哮とかはイエ〜スってぶははははは!!」 彰利    「カコイイーーー!!カコイイアルそれーー!!」 中井出   「イエ〜〜ス……!!」 彰利    「イエ〜〜〜ス……!!」 彰利&中井出『イエェ〜〜〜〜〜ス!!!ギガァッチュドガガガガォオオオンッ!!!! 彰利&中井出『うぎゃああああああああっ!!!!』 笑い転げていた二人は、まあ当然というべきか。 ゼットの極光レーザーをくらい、これでもかってくらいに吹き飛んでいた。 むしろ殺せる威力で放ったレーザーを咄嗟に逸らしたゼットが素晴らしい。 まあもっとも、余波をくらった二人は満身創痍。 ぐったりした状態でのちに発見されたわけだが。 からかうにしても、こうまで命懸けでするやつらなんてこいつらくらいだろうな……。 まさかゼットをからかうなんて、予想外もいいところだった。 【ケース376:弦月彰利/ビットバイパーがどんな進化を遂げているか楽しみだ】 彰利 「いや〜まいったまいった」 中井出「死ぬかと思ったチェン」 彰利 「ほんにまったく予想外デェス」 中井出「や、そこでどうして予想GUYとして有名なダンテさんの真似を……」 彰利 「あれ?野口五郎じゃなかったっけ」 中井出「予想GUYデェス」 九死に一生を手に入れた僕と中井出は、朝食を摂りながら笑っておりました。 その向かいにはムスッとしたゼットと、それを宥めつつも食事を摂るみさお。 中井出「悪かったって。だが我らは原中として、     楽しみを追求するには人種差別をするわけにはいかなかったのだ」 ゼット「だからといってだな……!あれは最大の恥だというのだ……!!」 彰利 「馬鹿野郎!貴様あれしきのことが恥だと!?     ヘタにプライドが高いからそんなことになっとんのですよ!     恥というのはだね!恥……といふのは……!!」 みさお「彰衛門さん、無意識に涙出てるの気づいてます?」 彰利 「わしゃ驚かんよ?」 中井出「そうそう、こいつの恥さらしは今に始まったことじゃないし。     言うなれば恥の最高実力者?」 彰利 「うわー、すげぇ嬉しくねぇ褒められ方」 でも恥をさらしまくってるのは悲しいけど事実なのよね。 うう、ちくしょう……。 彰利 「話変えるけどさ」 みさお「普通はそこ、話は変わるけどって言いません?」 彰利 「普通じゃないから俺達なのさ!というわけで変える。つーか変えさせて」 みさお「つっかかり始めたのは彰衛門さんなんですけどね……なんですか?」 彰利 「ヒロラインってもう復旧しとると思う?」 みさお「ヒロラインの話ですか。そうですね……」 中井出「まだじゃないか?いくら大樹があるからって、そう簡単に回復するとは───」 ノート『否だ。既に回復している』 彰利 「オワッ!?スッピー!?」 中井出「い、いつの間に……!」 毎度思うんだけどね、キミってば普通に出てこれないん? と言おうと思ったけど、まあそれはまた今度。 彰利 「もう回復してるん?」 ノート『ああ。マスターの力を糧にさせてもらった。弱っていても流石はマスターだな。     我々を回復させるには十分だった』 彰利 「力って……じゃあ悠介は?」 ノート『うん?ああ、学生の頃のマスターと同じ力度合いとなっている筈だが』 彰利 「無断で?」 ノート『無論だ』 みさお「つくづく不幸ですね……父さま」 中井出「やー……でも周りに振り回される晦って、かえって見慣れてる感があるし」 彰利 「妙〜に落ち着くのよねぇ〜〜〜ィェ」 みさお「いったいどこの友達さんですかあなたがたは……」 彰利 「親友」 中井出「級友」 彰利 「ふたりは!」 中井出「仲良し!!」 みさお「はぁ……もういいです」 溜め息を吐かれてしまった。 ぬう、なにが不服なのだみさおよ。 彰利 「して?悠介を弱体化させたんじゃあアレには勝てんのでは?」 ノート『だからこそだ。今のマスターではどの道勝てん。     それ故に完全に初心に戻ってもらう。ゲーム自体も最初からだ』 彰利 「ウホッ、精霊って……面白!」 中井出「なんの話だ?」 彰利 「ふむん?───むー……まあええか。     ホレ、ジュノーン居るだろ?」 中井出「ああ、柾樹坊主が正体だったアレな?アレがどうかしたのか?」 彰利 「ヤツの正体がね、未来から来た悠介だったのよ」 中井出「……ホエ?」 彰利 「なんだねそのバカヅラは……真面目に聞く気があるのかね?」 中井出「いや……あるから素直に驚いてるんだが」 あ、あらそう? これは早合点。 ノート『未来から来たマスター……最果てを知り、そこに至るまで己を磨き続け、     さらに弦月彰利の黒を身に宿した存在だ。     どう足掻こうが太刀打ち出来る相手ではない』 みさお「………」 ゼット「………」 ノート『だが、だからこその穴もある。     ある意味で言えば、ヤツが黒を吸収したのはありがたいことだ』 彰利 「え?なんで?」 ノート『黒というのはその身から……     例えば精霊や召喚獣を放つだけでも、その者の“密度”が下がる。     物体の集合体なのだ、当然だろう』 彰利 「ふむ、そこんところはアタイも解るぜ?     アタイも中に居る幻獣とかモンスターを仰山放つと、俺自身の力が落ちるし」 ノート『そうだ。つまりこちらに勢力としての数があればあるほど、     ヤツは力を分散させて戦わなければならない。     個体としてかかられればこちらに勝ち目は無いが、     それは私が居る限り叶わないことだ』 彰利 「あ……ナルホロ。どんなに頑張ろうがスッピーは既存超越の精霊だしね。     ルドラの力を超越しちまえば勝てるってわけか。だったらなして今やらんの?」 ノート『相手側にも精霊が居るからだ。もちろん私を含めた13の精霊全てがだ』 あ……そか。 そういやヒロラインから出る前にもルドラがそんなこと言ってたっけ。 相手側にもスッピーが居るんじゃあ、逆に超越されて延々と勝負がつかないまま。 さらにスッピー&ルドラ対スッピーってカタチになっちまえば、 こっちのスッピーは明らかに分が悪い。 何故かって?考えてもみよう。 “精霊スピリットオブノート”自体の力は他の精霊とそう変わらないとスッピーは言った。 それはつまり、黒に内包する“容量”的なものも、他の精霊と変わらないってことだ。 だが問題はその特種能力。 既存超越から創造、無が故に全てを糧にする凄まじさがスッピーの能力。 ルドラの中からスッピーが解放されたところでさほどルドラの力は落ちず、 だけどスッピー自体はその気になればルドラより強者となる。 ……滅茶苦茶だ。 だからこそスッピーではなくルドラの力を分散させるしか勝つ手立てはないっつーこと。 そのためのヒロライン、そのためのみんな、ってわけだ。 彰利 「でもスッピー。中井出はこうして強くなっちょおけど、他のやつらはまだ……」 ノート『レベルが低いのは当然だ。なにせ、基本しか教えていないのだから。     レベルがより一層上がっていくのは基礎から脱してからだ』 彰利 「───……あ、はは……。やっぱキミって性質悪いねぇ……」 そういうことならもっと早くに教えてくれりゃあいいものを……。 ノート『否だ。性質が悪いのは汝の方だろう。     先に言っておくがな、弦月彰利。     この戦いで一番に努力してもらわなければならないのは汝だ』 彰利 「───へ?俺?」 ノート『そうだ。幸か不幸かと言えば確実に幸に転んだ現在がここにある。     偶然とはいえ、汝は冥界を通じてレヴァルグリードの力を受け取った。     本来死神ごときが許容出来る力ではないが、     黒に至った汝だからこそ受け入れられた力だ』 彰利 「オウ……?レヴァちゃんの力がトンデモナイのは俺も解るけどさ。     あのルドラに敵うもんなの?」 ノート『今のルドラ相手では無理だな。だが、力を分散させたヤツになら勝てるだろう。     だがそれもこれも、     全ては汝がレヴァルグリードの力をモノにしなくては意味が無い』 彰利 「ウヒャア……」 責任重大ってこと……? 中井出「あ、えと……俺ってどうすりゃいいのかな。やっぱ俺も基礎を覚えるべきか?」 ノート『いや。汝はそのままあの世界を楽しめ。     一人ぐらい楽しむ者がいなければ、他の精霊どもがヘソを曲げる』 中井出「あ……そ、そう?」 ノート『汝は中々、精霊達に好かれている。この調子で励め』 中井出「お、おお……なにがなんだかよく解らんがありがとうをキミに」 そうなんよね。 何故か中井出って人外に好かれてるっつーか。 まあ人の良さがそれだけ周りに認められてるってこってしょ。 なんだかんだでお節介だしこいつ。 中井出「あ……そだ。なぁ、その未来の晦がこの現代に降り立った理由と、     しかもお前らがそれを打倒しようとしてる理由、訊いていいか?」 ノート『ふむ……汝には何も知らぬまま、ゲームを楽しんでいてほしかったのだがな。     まあ汝だ、たとえなにを知ろうがゲームはゲームとして楽しむのだろうな』 中井出「大変だ彰利、俺が悟られてる」 彰利 「そらあれだけゲームん中で騒げば悟られもするって」 あっちいっては騒いでこっちいっては騒いでをやってたみたいだしねィェ〜。 実際ワンチャイ様の時はとてもとても振り回されましたし。 ともあれ、こうして─── 僕らは中井出とみさおとゼットに、詳しい情報を伝える次第となったのです。 ───……。 ……。 中井出「なるほどなぁ……それで“最果て”なわけか」 話が終わると、まず頷いたのが中井出だった。 時代の最果て、時間軸の末に至った英雄の話…… それを、こいつらは茶化すことなく受け止めてくれた。 中井出「……馬鹿だな。守ることなんて、いつでもやめちまえばよかったのに……」 そう呟く中井出は、ひどく悲しそうだった。 その軸の中井出がルドラに“守るな”と言ったかどうかなんて解らない。 けれどもこうした現実が存在してしまっている以上、 言った言わないに関わらず彼は守り続けてしまったのだ。 そして絶望。 いつだって物事に気づくのが遅すぎる馬鹿は、そうして暗黒を背負う英雄と化した。 そして……腐った未来を築いてしまう“自分自身”を破壊するため、この時代に。 中井出「止めるには……」 ノート『ああ、殺すしかないな』 中井出「……そっか」 ノート『あの“晦悠介”は既に全てを破壊対象としてしか見ていない。     たとえヤツがマスターを殺したにせよ、その次はべつのものを破壊しようとする。     “感情の無さ”こそがヤツをここまで狂わせた。     なにを破壊するにも、既に悲しいだの辛いだのといったものが働かんのだ』 中井出「それじゃあ……」 彰利 「そういうこった。どの道ルドラを止めないと、この世界……滅ぶぜ?」 ルドラの真意───90%が悠介の破壊。 残りの10%が……自分自身の破壊。 どちらにしてもあいつはもう、自分じゃ止まれないところまで行ってしまったんだ。 だったら───それを止めてやるのは…… ノート『そういうことだ、弦月彰利。全てのバックアップは我らに任せろ。     恐らくルドラが動きだすのは夏の終わり。     それまでに、他の者の限界は突破させよう。あとは……汝次第だ』 彰利 「……解った」 今のままじゃいけないなんてこと、もうずっと前から解ってた。 だから、今こそ俺は自分の限界を越えるべきだ。 限界は一つじゃない。越えて越えて、何度も苦労した末に見えるものだ。 そして俺は───悠介が味わってきた限界超越の少しの苦労も味わってなどいない。 だから今度は俺があいつの代わりに頑張る番なんだ。 ゼット「弦月彰利があいつに敵うとでもいうのか?」 ノート『レヴァルグリードを完全にモノに出来れば、の話だ。     なに、隠し種はまだ用意してある。弦月彰利ばかりを強化したところで、     ヤツが力を分散させなければ意味が無いからな。これはとっておきだぞ』 ゼット「……?」 ノート『案ずるな。下準備は出来ていっている。汝たちには早速ゲームの中に───』 声  「誰かぁーーーっ!?誰かっ!居ないんですのぉーーーーーっ!!?     ていうか誰ですのあなた!そんな毒々しい血色して!     え?毒手功?知りませんわよそんなもの!」 総員 『………』 スッピーがいざ、とヒロライン再開を口にしようとした時でした。 庭先の方から、どっかで聞いたような声が。 彰利 「……メシ、さっさと食うか」 中井出「そだな……」 そういや食い途中だったのを思い出し、僕らは掻っ込むように食った。 だってね……また面倒なことになりそうだったし。 つーか毒手功したフォルっちのこと、完全に忘れてた。 Next Menu back