───早朝風景/没落貴族が恋をした。●0点───
【ケース376:晦悠介/ソノーニョ村に訪れた死神は次元大介によく似ていた。●1点】 とたとた…… 悠介 「はいはい、誰だ?───ぐあ」 二階に居た俺は、家に響いた声に階下へ降り……玄関ホールまで来たんだが、早くも後悔。 憩  「まあっ!ビューティフルモミアゲ様ッ!!」 殴っても許されるだろうか。 悠介 「な、なんの用だ……騒がしいのなら間に合ってるんだが……?」 憩  「そうじゃありませんわ。あの家がどれほど狭いかは解りました。     けれど家を出たわたくしたちには丁度いいくらいのみすぼらしさですわ。     そこで今度は別のことを訊ねに来たのですわー」 悠介 「べつのこと?それって?」 憩  「お料理の作り方に決まってますわ。     わたくし、おそばも天婦羅も食べたことがございませんの。     もちろん、作るなど論外ですわ」 悠介 「………」 お嬢様だなこのやろう。 まあでも─── 悠介 「ん。自分から進んで手伝おうってところは気に入った。     簡単な料理くらいなら教えてやれるぞ、なにを作りたいんだ?」 憩  「もちろん!イタリア料理やフランス料───ちょ、なんですの!?     何故追い出そうとするんですの!?」 悠介 「失せろ!!そこで日本料理と言わないヤツに教えることなど無いわ!!」 憩  「日本料理など味が濃いばかりで舌に馴染みませんわー!!     わたくしはもっと柔らかい味わいで、まったりとしたものが食したいんでの!!」 悠介 「な、なんだと貴様!!そりゃなにか!?日本料理への挑戦か!?     よし解ったちょっとこっち来いてめぇ!!     貴様に日本料理ってのを味わわせてやる!」 憩  「ちょっ、なんですの!?追い出そうとしたり引っ張ったり!!     大体わたくしは専属のシェフが作る料理しか食べたことがっ……!!」 悠介 「大丈夫!何を隠そう!俺は日本料理の達人だ!!」 祖国を貶すたわけめが……思い知らせてくれるわ!! 【ケース377;中井出博光/外国人の通販番組はヤケに名前を呼ぶ。○10点】 マイケル『ォアァーーゥチ!!ナァンテェコッタァ!!』 デゲッテッテェーーン♪デゲデデッテッテテェーーーン♪ マイケル『不規則ナ漫画家生活ガ祟ッテェ!オ腹ガマルデダボーバーガーダァ!      コレジャアジェニファーニ嫌ワレチマァゥヨォゥ!!シィイット!!』 マリリン『ドホォゥシタァノムァイケォゥ!?      上腕二頭筋ニ(ズィー)
ペンガ刺サッテ爆発シタァノホォゥ!?』 マイケル『違ァウヨォゥ!見テクレマリリィン!僕ノオ腹ァゥヲォウ!!』 マリリン『気ヲツケナイトダァメヨォゥ、      ズィイーペンハ人ヲ殺傷出来ルホド鋭ォ〜インダカラゥ』 マイケル『ダカラズィイーーペンジャネェッツッテンダヨクソアマ!!腹ダヨ!!』 マリリン『ンオッケェーーーイ!!ソンナ時ハコレ!ダイエットマスィーーーン!!      回ル〜ゥ回ルゥ〜ヨ脂肪ハ燃エルチャーーン!!      コレヲ1日十二回ヤルダケデ、      ミルミルオ腹ノ肉ガ取レチャウンダカラァハハァン!!』 マイケル『ンマジデカァ!マリリィイイン!!』 マリリン『イェァアス!!      今ナラコレニ赤青色違イノ2ツモ付ケテナント驚キノコノ価格!12回払イ!!      月々タッタコレダケデ夢ノバディガ手ニ入ッチャウンダカラァァハハァン!!』 マイケル『コレデダボーバーガートモオ別レダァ!キャッホォーーーゥ!!』 ナギー 『おぉおお……!ヒ、ヒロミツ!なんなのじゃこれは!      箱の中でパンツだけの男と鼻が大きい女が喋っているのじゃー!!』 とある一室のとある穏やかな時間。 料理を作ると言って厨房に入っていった晦を見送りつつ、 テレビがある部屋を借りてのんびり食後のまったり感を味わっていた俺なのだが─── 突如として“相手をするのじゃー”と乱入してきたナギーによって、その平穏は砕かれた。 まあいいんだが。 しかしナギーの感心が、丁度つけていた通販番組に釘付けになってからは大変だ。 テレビを見るなど初めてなのか、興奮して俺とテレビとを何度も見比べている。 ていうかな、ナギーよ。 そんな近くで見てると目ェ悪くするぞ。 ナギー『おおっ!見るのじゃヒロミツ!この鼻デカ女、バケモノじゃ!!     こんなにも体がぐにゃぐにゃなのじゃ!』 中井出「それは普通に不可能な───あ、いや……彰利なら出来るかもだが」 まるで何体生物のようにウネウネ動いて、 胸、腹部、腰辺りの三つのフラフープを見事に回している鼻デカモンスター。 そんな彼女にナギーはもう釘付けだ。 ナギー『わ、わしにも出来るかの!』 中井出「無理だ ところでさナギー」 ナギー『少しは考えてから返事するのじゃ!     しかも次の話に移るのも早すぎるのじゃー!!』 中井出「そう言われてもな……よしナギー、ちょっと来い」 ナギー『おおっ!?あるのかの!?あの輪っかが!』 確か遊戯室にフラフープっぽいのがあった気がする。 あれでいいなら使わせてみよう。 そんなわけで遊戯室へゴーだ。 ───……。 ……。 ドゴォーーーーーン!! 声  「おっ……美味しいですわぁああーーーーーーーっ!!!!」 中井出「…………?」 階下の遊戯室へ向かうため、玄関ホールに続く階段を下りてきたんだが─── なんだ?大食堂の方からお嬢の絶叫が聞こえてきた。 お嬢……で間違いないよな?今の声は。 ナギー『……?なんじゃ?』 中井出「真の日本料理に触れたんだろ。ほらナギー、こっちだ」 ナギー『解ったのじゃー』 てこてこと小さな体で追ってくるナギーを見下ろす。 おお、まるで親の後を追うカルガモのようだ。 中井出「えーと確か……」 長い通路を歩く。 赤い絨毯がびっしりと敷かれた廊下はやっぱり再確認するまでもなく長い。 一度こんな場所を歩いてみたいとか思ってたものの、 これはちょっと……なんというか、ヘンな気分である。 ちなみに闘牛が赤いものに釣られるってのは迷信らしいぞ? マタドールとかは、ヒラヒラと布を揺らすことでそこに突っ込ませてるだけなんだそうだ。 だから不必要にマタドール自身が動いてたりすると、 そっちの方に牛が走り出してマタドールが怪我したりするんだとか。 ……関係ないけどね。 中井出「よし、ここだ」 ナギー『なんなのじゃ?ここになにかあるのかの』 中井出「まあちょっと待て?」 大きなドアを、まるでグラップラー刃牙(幼年期)のOPのようにゴコォオンと開ける。 思わず愚地克己のように、 “ひっかっりっとっ影っと〜♪かっさっなっる場所へっいっま〜”と歌いたくなる。 そんなわけでドアを開けた先には遊戯室。 娯楽要素たっぷりだが、どっちかっつーと大人向けのものがぎっしりさ。 ナギー『……?なんなのじゃ?ここは』 中井出「遊戯室という場所だ。大人の娯楽が満載さ」 ナギー『大人の娯楽……そうかヒロミツ解ったのじゃ!     おぬしはここで“えろまにあんでびる”というものと化すんじゃな!?』 中井出「大人の娯楽をそっち方面に喩えるのやめようよ!!     誰!?キミにそんなこと教えたの誰ぇえ!!」 ナギー『む?確かサコータとかいったのじゃ』 中井出「野郎……」 なんて面白いことをしてくれたんだ。 この借りはいつか何処かで貴様で楽しむことで返してやる…………覚えてたら。 中井出「まあそれはそれとして、と。お、あった」 正式にはフラフープじゃないんだろうけど、ナギーの体には丁度いい輪を発見する。 多分なにかの部品なんだろうな。 中井出「ホレナギー」 ナギー『おおっ、これなのかっ』 ナギーは珍しいものを見たといった感じで、渡された輪を両手で掲げて燥いでいる。 いやぁ、元気なお子を見るのはどうしてこう微笑ましくなるのか。 生意気な子供とかは苦手だけどね。 ナギー『む?むー……のうヒロミツ、これをどうすれば回せるのじゃ?』 中井出「うむ!いい質問だ!では貴様に腐螺怖羽婦(ふらふうぷ)を伝授する!」 ナギー『お、おおっ!イエッサーなのじゃ!』 中井出「いいかっ!腐螺怖羽婦とは体の動きだけで回すもの!     まず最初は輪に遠心力を与えて回す!     そしてあとは落ちないように体をクネクネと動かす!     これが長時間できるようになれば貴様は立派な腐螺怖羽婦ウーメンだ!!」 ナギー『おお!それは何かの称号なのじゃな!?望むところなのじゃー!!』 身振り手振りで教えると、パアアと輝く顔で見られてしまった。 目を輝かせるって表現があるけど、まさにそれ……なのか? 顔じゃなかったっけ?まあいいや。 ナギー『まずは……うむー』 チャラチャラと、ナギーが輪をくぐるようにして脇にセット。 しかし装飾服の装飾が思いの他邪魔をしているようで、なんだか回せそうにない。 中井出「むう……ナギーよ、服を脱げ」 ナギー『なぁっ!?ななななにを考えているのじゃヒロミツー!!』 俺の善意は盛大に誤解された。 その間僅か1秒たらず。 あのな、ナギー…… いくら僕でもそんなにまでエロマニアとして認識されると悲しいんだが……。 中井出「違うそうではない!ええい狼狽えるなバカモーーーン!!」 ナギー『!イェッサァッ!!』 中井出「この博光が言ったことの真意!それはその装飾服だけでも脱げということ!     そんなにカシャカシャチャラチャラなものをつけていては腐螺怖羽婦など無理!」 ナギー『そ、そうじゃったのか……わしはてっきり……』 中井出「てっきり!?てっきりなに!?」 ナギー『な、なんでもないのじゃ。     確かにの、これではあの鼻デカモンスターのようには回せないのじゃ』 マリリンが既に鼻デカモンスターとして認識されてる……いや、気持ちはよく解るけど。 ナギー『………、むう……』 ナギーが装飾服を脱いでゆく。 その下には黒を主体に彩られた服が。 ほほう……もっと緑とか白っぽいのを想像してたんだが。 ナギー『こ、これヒロミツっ……装飾服を脱ぐだけとはいえ、     女の着替えをまじまじと見るものではないのじゃ……っ!!』 中井出「おお?これは失礼を」 顔を赤くして、装飾服で胸元あたりを隠すナギーだが…… そんなことをしたって服は服だし、べつに下着姿ってわけでもない。 何をしたいんだろうか……って、 ただ単に着替え……いや脱ぐだけだけど、を見られるのが恥ずかしいってことか。 ともあれ装飾服を脱いだナギーは再び輪をセットイン。 シャランと回し、体をくねらせて手をワタワタと動かし始めた。 ───が、二秒も保たずに輪は床に。 ナギー『…………』 中井出「………」 カシャーン、という音がヤケに響いた。 いや、割れたわけでもないんだが、ただその……やる気と結果が空回り状態というか。 ナギー『な、何故なのじゃー!?     ちゃんとあの鼻デカモンスターのように動いたつもりだったのじゃー!!』 だから……あのモンスターの動きを真似るのは彰利くらいじゃなきゃまず無理だ。 ナギー『むむむむむ……!たぁっ!』 シャランッ───ゴコッ、コシャーン……カラカラ…… ナギー『………』 再挑戦……失敗。 華麗に回す自分でもイメージしていたのか、 ナギーの落ち込みっぷりはそれはもう凄まじかった。 中井出「いいかナギーよ。それはがむしゃらに体を振ればいいわけではないのだ。     遠心力と体をよく使い、要領よくやるのがポイントだ。いいか?」 輪を拾い、ナギーの体を通して頭上へ。 で、それを自分の腕に通してクルクル回転させて見せる。 中井出「ようはこれの応用だな。自分の体をこの腕に喩えて回す。     回転と傾きが加われば、輪は落ちずに上に昇るだろ?それを利用する。     けど輪と体の速度が合わないと───《ドトスッ》……とまあ、     こんな風に落ちてしまうわけだ」 ナギー『むむ……なるほどのう……だとしたらあの鼻デカモンスターは真実バケモノよの』 中井出「いい加減鼻デカモンスターから離れなさい」 言いながら肩に落ちた輪を取り、ナギーに渡してやる。 それからポムポムと頭を撫でてやると、少し離れてナギーのフラフープを見る。 中井出「………」 なぁんか……平和だった。 無邪気な孫とかを持った老人の気持ちってのは多分こんなんだろう。 じーさんもばーさんも、俺と会った時はこんな気持ちだったのかな……。 ナギー『む、むっ、むむっ……!《かしゃーん》……おおっ!見たかヒロミツ!!     今回ったのじゃ!三回は回ったのじゃーーーっ!!』 中井出「ああっ、すごいぞナギー」 ナギー『見ておるのじゃ!わしが本気になればもっと回せるのじゃー!!』 ルーレットの傍らにある椅子に腰掛け、台に頬杖付きながらナギーを眺める。 そうすると……なんだか自然と笑んでいる自分に気づく。 軽い幸福感とでも言うんだろうか───そんなものを感じた。 ああ、ほんと……騒ぐのもいいけど、こうした時間も悪くない。 ナギー『む?なんなのじゃヒロミツ、ニヤニヤして《かしゃんっ》あうっ!     ヒ、ヒロミツの所為で落としてしまったのじゃーーーっ!!』 中井出「ええっ!?俺の所為なの!?ていうかニヤニヤなんてしてないよ!     ニコニコだよ今の!喩えるならそっちだよ!!」 ナギー『はっ!?もしやわしの腰の動きを見て欲情』 中井出「しないよ!!なに殊戸瀬みたいなこと言ってんの!!     ああもうほんとなんなのこの状況!平和を噛み締めてた空気が霧散しちゃったよ!     残ってるのは公園のブランコで黄昏るリストラされたけど家族には言えずに居る疲     れた中年男性が背負ってるみたいな空気ばっかりだよ!!」 ナギー『む?じゃがヒロミツが笑っていたらこのようなことを言えと殊戸瀬が』 中井出「殊戸瀬ぇえええっ!!てめぇええええっ!!!」 ええいもうどうしてくれようかあの女狐チクショウめ!! いい加減ほんと人をエロマニアとして見るのは勘弁していただきたい!! そりゃ僕男だよ!?アハ〜ンなことに興味が無いと言えばウソになるよ!? かつてエロマニアを誇ってたこともあったさ! でも!ああでも!!JOJO!悲しすぎる!!なんて悲しい!! 俺はもはやエロマニアから抜け出したい───じゃない!抜け出した存在! エロがどうとかよりも楽しみを貪る気高き修羅よ!! 中井出「い、いいかナギーよ……!これは大事なことだ、よ〜く覚えておきなさい……!」 ナギー『ヒロミツがそう切り出したらウソだから信じるなと言われたがの』 中井出「何処まで人の行動読んでんのあの二等兵!!こ、殊戸瀬!?殊戸瀬ぇ!!?     見てないよね!?今まさに覗きとかしてないよねぇ!?だ、だめだよ!?     犯罪だよそれ!!見てるんだったら出てきなさい!───ハッ!?     まさかインビジブル!?で、出て来いセバスチャァアーーーーーーーン!!!」 ナギー『ここにはわしとヒロミツ以外の気配はないのじゃ』 中井出「えっ……そ、そう?」 いかんいかん落ち着け中井出博光……これはヤツの心理作戦だちくしょう。 ああくそほんとにもう……さっきまでの幸福感が完全に逃げてしまった……。 喩えるなら愛が実るシリアスシーンで点描が逃げてしまうような状況だ。 中井出「とにかくだナギーよ……ってもういいや……」 ナギー『いいのかの?』 中井出「いいよもう……ここで俺がなに言ったって、     きっとっていうか絶対何も変わらんし……」 エロとして生きた時間が長すぎたのだ……もう戻れない。 俺がどれだけ戻っても周りが戻ってくれないって意味でね? だって原中だし。 中井出「よしナギーよ!準備が整うまで貴様にこの場で遊びというものを伝授する!     心して聞け!そして覚えよ!その先に娯楽がある!まずはルールを覚えるのだ!」 ナギー『サーイェッサー!!』 こうして僕らは遊戯室にあるカジノ系ゲームを貪った。 ナギーにはどれもが目新しいものだったようで、 これはなんなのじゃーとひっきりなしに訊いてくる。 俺はその度に娯楽で埋め尽くされた知識を掘り返して徹底的に教えていき、今を楽しんだ。 やがてその騒がしさに引かれてだろう。 ぽつぽつと猛者どもや名誉ブリタニア人の皆様が集まってくるようになり、 終いには遊戯室は満員というカタチに至った。 ───……。 ……。 マイケル『ォアァーーゥチ!!ナァンテェコッタァ!!』 デゲッテッテェーーン♪デゲデデッテッテテェーーーン♪ マイケル『コォンナトコロデサムライニカツアゲサレルトハァ!      今日ハジェニファートデートダッテノニツイテナァイヨォ、シィイイット!』 マリリン『ジェニファーナンテ来ォナイワヨ、アンタハココデ死ヌノ、ムァイケォゥ』 マイケル『オォイ!オマエナニシテンノォ!コンナトコロデェ!      聞イテナァイヨォ!コレェ!』 マリリン『オメェ!コノアイダ酒の席デアタイノコト改造人間トカ言ッタラシイナコラァ!      アタイガ整形シタノハ鼻ダケダッテ言ッテンダロウガコノヤロー!!      テメェナンカコノ妖刀星砕デェ!筋肉ブッ壊シテ再起不能ニシテヤルヨォ!!』 ジャジャーーーン!! マリリン『コイツハナァ……!辺境の星ニ生エル      金剛樹ト呼バレル樹齢一万年ノ樹カラ作ラレタシロモノデヨォ……!      モノニヨッチャア岩ダロウガ隕石ダロウガ!      オメェノ筋肉ダロウガブッ壊セルスンゲェ木刀ナンダヨォオオッ!!!』 夜華  「………」 そういえば点けっぱなしだったな、と───テレビのある部屋に戻った俺を待ってたのは、 通販番組の木刀に目を奪われている篠瀬さんだった。 中井出「あのー、篠瀬さん?」 夜華 「黙れ」 中井出「………」 気に入ったんかな……妖刀星砕。 まあいいや、見てる人が居るなら消す必要もないだろうし。 さて───これからどうしようか。 ……お嬢の様子でも見てみるか。 ───……。 ……カタン。 憩  「ご馳走様でしたわ……」 庭を一望出来る大窓───そこから差し込む穏やかな朝日を浴びた大食堂に。 両手を合わせ、感動の涙を流すお嬢が居た。 憩  「わたくし……間違っていましたわ……。     真実に出会ってもいないのに頭から否定するなんて……。     人とは何かを知って成長するもの……。     それを否定して前に進もうとしないなんて……わたくしはなんと愚かだったのか」 ていうか……キミ、誰? 中井出「お、おいおいお嬢……?なんかお前キャラ変わってない?」 悠介 「……お?中井出か。どうしたんだ?」 中井出「へ?ど、どうしたって……」 なんだか妙に似合ってるクルッポエプロン(ハト)で手を拭きつつ厨房から現れた晦。 朝日に当てられたそいつの顔は信じられんくらいに“遣り遂げた男の顔”になっていて、 あーいや、なにがなんだかもう。 憩  「……博光、わたくしをここへ攫ってきてくれてありがとう。     お蔭でわたくしは、世界を違った目で見ることが出来そうですわ……」 中井出「いやもう訳解んないよ!なに人のこと置いてけぼりにして     なんだかいい話があったような空間作ってんの!     しかも置いてけぼりくらってんのに感謝されたら余計に訳解んないでしょ!」 憩  「いいえ……これは語らないからこそ心に染みるのですわ……。     語って聞かせるなんて無粋……あまりに無粋ですわ……」 中井出「いや……だったら話切り出すなよコノヤロウ……」 憩  「あなた……名前はなんと言ったかしら……」 悠介 「俺か?晦悠介だ」 憩  「そう……では悠介。わたくしに料理を教授することを許可しますわ。     そしてわたくしは日本文化をもっと知り、     先にある未来よりも時代に埋もれてゆく過去を愛することを誓いますわ。     あなたの───その素晴らしいモミアゲに賭けて」 悠介 「ちょっと待て!賭けるモノ間違えてるだろ明らかに!     賭けるなら自分の何かを賭けろ!」 憩  「いいえ。わたくしは躓き、壁にぶつかり、行き詰った時───     あなたのその立派なモミアゲを思い出すことで、なんでも乗り越えてみせますわ。     そのためにはわたくしの何かごときを賭けるよりも、     あなたのそのモミアゲの価値に賭けたほうがよほどにいいと判断しますわ」 悠介 「ええと……メリケンサックどこだったかな……ああ、バグナウでもいいや……」 中井出「あれなら橘が全部実家に送ったぞ。今頃美希子ちゃんがびっくりだ」 血管ムキムキで口の端をヒクつかせて凶器を探す晦。 かなり目が危険領域に入っているが、それでも我慢してる方だろう。 相手が彰利だったらとっくに空飛ぶか裁き受けてるだろうし。 って、そうじゃなくて……あー、ほんと様子見に来ておいてよかった。 今の晦なら、相手が女だろうが遠慮無く攻撃するだろうし。 悠介 「ええいもういい!で!?どんな料理に挑戦したいんだ言ってみろ!!」 憩  「もちろんっ!フランス料理ですわー!!」 悠介 「……メリケンサックが出ま───」 中井出「待て待て待てぇっ!!大切な体力をいったい何に使う気だ晦っ!!     お前今学生の時分の力しか持ってないんだろ!?無茶すんなって!!」 悠介 「フフフ……ダメだよサド隊員……なにもかも……。     もういいじゃないか……こいつを殺そう……」 中井出「お前って静かにキレるといっつもソレな!いいから落ち着けって!!     ていうか普段はマンガゲームとかのネタに疎いくせに、     なんだってレベルEは詳しいの!?おじさんむしろそこがびっくりだよ!!     そもそもお嬢!貴様日本料理に感動してたんじゃなかったのか!?」 憩  「それとこれとは話が別ですわー。食べたいのは日本料理ですが、     作りたいのはフランス料理なのですわ」 中井出「……それって、誰かに作ってあげたいとか、そういうこと?」 憩  「───」 あ、停止した。 憩  「……そ、の……じ、実は……そのことでお話があって来たのですわ……」 中井出「……話?」 はて……なんだってんだいったい。 ともあれ俺は、暴走気味でデスノートで言う“L”みたいな死んだ魚の目をしてる晦を 羽交い絞め状態から解放して、話を聞くことにした。 極力、お嬢にはモミアゲに関して触れないように釘を刺して。 ───……。 ……。 さて、話によると─── 中井出「なに?道で出会った……というか擦れ違っただけの相手に一目惚れした?」 悠介 「よし失せろ。ここは恋愛相談所じゃない」 憩  「聞くだけ聞いといて一蹴ですの!?」 中井出「いやお前な……一方的に一目惚れしといて、     名前も知らん奴にフランス料理ご馳走してどうする気だアホかお前はコノヤロー」 憩  「じゃあどうすればいいんですの!?わたくしたちが居た世界では、     人をもてなすには高級料理と決まっていたのですわ!」 中井出「えー、では解説の晦さん。あなたならどう持て成されたいですか?」 悠介 「誰かが心を込めて握ってくれた握り飯に、味噌汁か冷酒だけで十分だな」 中井出「俺はうどんかな。鍋焼きうどんで持て成されたら最高だ」 憩  「そっ……そんなものでいいんですの!?     高級料理ですわよ!?食べたくないんですの!?」 悠介 「どんなに高級だろうが持て成される方が好きじゃなきゃ意味がないだろ」 中井出「金かけて見栄張るよりも一杯の立ち食いそば、とかなぁ」 例えば見栄張って、散々苦労して働いて手に入れた金があるとする。 で、それを使って彼女でもなんでもいいから誰かと高級料理食べに行ったとする。 けどその高級料理は自分が想像していたよりも美味しくなく、 むしろ自分の好物だった遙かに安いものの方が美味いと感じたら─── そいつはどれほどのショックを受けるんだろうな。 その金さえあれば50回以上は食えたであろう安い好物と、 自分の舌にはてんで合わなかったくせにたった一回で給料が消滅する食べ物。 ……そんなの、俺なら考えるまでもないな。 金持ちってのは金銭感覚が麻痺しすぎなんだ。 俺から言わせてもらえば、住む家も着るものも普通でいい。 服に百万だとか時計に六百万だとか、そんなのは馬鹿な金の使い道でしかない。 そんだけ金があるなら貧しい人々に寄付でもしてみろってんだ。 中井出「で……訊くまでもないけど、そいつの名前とか解るか?」 憩  「ええ、訊かれるまでもなく解るわけがありませんわ。けど写真は撮りましたわ」 言って、ズチャアと物凄い装飾の成されたケータイとかいうものを見せるお嬢。 カタカタと高速で動かされる指と、やがて見せられるディスプレイには─── 中井出「───ぐあ」 悠介 「中井出?」 見覚えのある人物が。 こいつって確か─── 悠介 「知ってるヤツなのか?」 中井出「…………蒲田と神楽の息子」 悠介 「ぶっ!?」 あー……よりにもよってこいつか。 ていうか猛者連中の子供じゃあなぁ……。 中井出「無理だ、やめとけ」 憩  「何故ですの!?」 中井出「何故ってお前……こいつは蒲田と神楽の息子だ。     親がカンパニーに勤めてりゃあ、     当然子供も会社の社長やその娘の顔くらい知ってる。で、お前今どんな状況よ」 憩  「う……し、死んだことになっていますわ……」 中井出「そんなヤツが会いに行ってみろ………………面白そうじゃないか」 悠介 「堪えろ中井出、ここは原ソウルを発動させるべきところじゃないだろ」 中井出「そ、そうだな」 落ち着こう。 ………………よし、落ち着いた。 中井出「とにかく。既に貴様は生ける屍リビングデッド。     ここに来るくらいならまだしも、顔を知られてるヤツに会うのはマズイだろ」 憩  「他人の空似ということにしたらどうですの?」 中井出「俺が言うもなんだが収入ゼロの小娘が甘い夢見てんな馬鹿」 憩  「なっ!なんですってぇーーーーっ!!?」 中井出「金が無いヤツが付き合いだしたりするから産まれた子供が苦労するんじゃボケ!!     大体世の中の若者どもはなんでもかんでも結婚結婚と!!     結婚すりゃ満足ですか!産まれた子供は邪魔ですか!     貴様らのそういった“なんとかなるだろう”思考が子供の未来をダメにする!     いいかよく聞けお嬢……!結婚とは人生の墓場だ……!     真剣に愛し合うならまだしも、適当な壁にぶつかった程度で     ここまでだって簡単に諦める馬鹿どもは結婚なんざするな……!     俺ゃそういう馬鹿どもが大ッ嫌いなんだよ……!     あーーーホント腹立つ!心の底から腹立つ!!     貴様らいったいなんのために結婚してんだ!     もっと互いの気持ちを確かめ合ってから結婚しろタコ!     結婚急ぐな!恋人関係散々続けてから結婚しろタコ!!     祝ったヤツ馬鹿みてぇじゃねぇかコノヤロー!金返せタコ!!」 悠介 「落ち着け……また暴走してるぞ」 中井出「はうあ!?……失礼、取り乱してしまった」 憩  「だぁいじょうぶですわ博光。何故ならわたくし、彼を愛していますもの」 中井出「キミ、俺の話聞いてた?」 いっそ窓破壊するほど強く放り投げて、ズイホーと言わせたくなるような心境だった。 中井出「一方的な感情なんて実らないもんだって。     諦めろ。お前の性格じゃ絶対に誰も言い寄らないし頷かない」 憩  「し、失礼な!」 中井出「……神楽秋彦。蒲田と神楽の息子で、顔良し器量良し性格良し。     俺達が会った猛者集団の子供らの中でかなりまともな部類の男だ。     血液型はO型。周りへの気遣いはもちろん、ノリも良ければ知識も深い。     盛り上げ上手でお節介焼きで周りからの信頼も厚い。言うこと無しのいい男。     家族構成は今は妹と二人きり。妹は重度のブラコンである。     で、嫌いなものは“金持ちで高飛車で人を見下しているヤツ”。ハイお前アウト」 憩  「そんな!ウソですわ!!」 中井出「いやぁ〜、あいつは面白いヤツだったぞー?     猫だった俺達の言うことを意外とあっさり受け入れて、     きちんと最後の別れだって言葉も受け入れて、     泣きながらも蒲田たちと思い出話をした。     我ら原中のノリについて来れた数少ない男だった。     でも金持ちで高飛車で人を見下しているヤツは大嫌いだった。     丘野と殊戸瀬のことは平然と受け入れてたけどな。     見下しもせず高飛車でもなく普通に馬鹿やって燥いだからだろうな」 憩  「………」 ぐぅの音も出ず、俯くお嬢。 自分には出来そうにないと、自分で理解してしまったんだろう。 中井出「大体お嬢、貴様は本当に秋彦のことが好きなのか?」 憩  「ええっ!好きですわよっ!?」 中井出「どのへんが?」 憩  「───……それはっ……これから知っていきますわ!」 中井出「精進が足りん!出直せい!!」 憩  「何故ですの!?」 悠介 「つーかなんでサムスピの柳生十兵衛?」 中井出「相手のことを知りたい貴様がなぜここに居る!     本当に知りたいのであれば!ここではなく秋彦のもとに居た筈ではないのか!?」 憩  「あっ……ああっ!!」 ズガーン、とショックを受けた様子のお嬢。 いや……適当に言ってみただけだったんだが、案外こたえたらしい。 中井出「これ以上話すことはなにもない……。さ、晦よ。ヒロラインに出かけよう」 悠介 「いいのか?」 中井出「いやまあ正直後ろ髪が引かれる思いというか、気になりはするんだが」 そうだとしても人の恋路など俺達が解決できるもんじゃない。 むしろ我らが関わったら破局が待っているだけのような気が……ねぇ? だって考えてもみろ、原中だぞ? 恋愛とは遙かに遠く、対極に位置する存在とも喩えられる。 憩  「っ……」 中井出「縁が無かったと思って諦めるのだ、お嬢。貴様は───オワッ!?」 憩  「うくっ……!うっ……ひっく……!」 中井出「ななな泣いてらっしゃるーーーーーっ!!」 悠介 「なっ……なななっ!な、泣き止め!今すぐ泣き止んでくれっ!     凍弥じゃないが、俺も泣いてる女は苦手なんだよっ!」 憩  「わっ……たくしっ……!こんな気持ち初めてですのにっ……!     どうして……!?何故もっと真剣に聞いてくださらないんですの……!?」 中井出「そりゃお前原中だからだ」 悠介 「お前は知らんのかもしれないが、     今お前がやってることはかなり無謀な試みなんだぞ……?     中井出や猛者どもに恋愛相談なんて、考えただけでも破滅の未来が浮かぶようだ」 憩  「そ……っ……っく……そうなん……ですの……?」 悠介 「まあ。けど───」 中井出「ええい仕方の無い!!人を泣かせたとあっては原中の名折れ!     人を罵倒しようが笑わそうが、悲しみの涙だけは流させたくないのが我ら原中!     流すなら笑い死にしそうなくらい笑って流せ!悲しみの涙なんて見たくもない!」 悠介 「───義理や人情には無駄に厚い集団だから。     なんだかんだでそういうのほっとけないんだよ」 こうなりゃ強硬手段だ! 破局しようがどうしようが全ては本人達に任せてやるよコノヤロー!! まず電話だ!電話を───! ───……。 ……。 ピンポーン。 中井出「よっしゃ来たァーーーッ!!」 悠介 「?」 とある場所に電話をかけてからしばらく。 今か今かと待ち続けたインターホンが鳴る。 ……つーかさ、こんな豪邸なのにこんな平凡な音って……どう考えても変だよね。 まあそんなことはどうあれ俺は大食堂から出て玄関ホールに向かうと、 客人の手を引っ掴んで理由も告げないままに一気に大食堂へと戻ってきた。 中井出「えー、というわけで。ご紹介しましょう、神楽秋彦くんだ」 秋彦 「あ……ども、神楽です。ていうか……え?     ここ、一発芸でもするとこですか?ていうかむしろしましょう、それがいい。     ああでもネタが無いな……ヘイジョニー、実は今日面白いことあってサ」 中井出「オウなんだいトニー、それはどんな面白いことだったんだい?」 秋彦 「それが聞いてくれよジョニー、電信柱で爪研いでた猫が居たんだけどヨゥオ?     そいつってばヨ、あんまり熱心に爪研ぎしてたもんで夢中になってたんだろうな。     勢い余って爪バキャアって折っちまってヨォ。     オギャアアとか叫んでてそりゃあもう爆笑だったんだぜイエア」 中井出「オウそりゃまた豪気な猫が居るもんだなトニー」 秋彦 「そんな時僕は思ったんだよジョニー。なんでもほどほどがいいってさ」 中井出「………」 秋彦 「………」 中井出「つまんなかったな……」 秋彦 「ごめんです……最近ネタ詰まりで……ていうかあなた方誰ですか?」 悠介 「ああ……原中だな……」 一部始終を見ていた晦は、なんだか妙に納得した風だった。 そうなのだ、見よ、ていうか見ただろう。 状況確認よりもまず面白さに走るこの素晴らしさ。 蒲田と神楽はとてもよい息子に恵まれた。 中井出「まずは自己紹介だ。我が名は中井出。原中が提督、中井出博光という」 秋彦 「あれ?あああの時の提督さんですか。あの時は猫でしたね、その説はどうも。     さすがになかなか面白い状況に身を置いてるようで」 悠介 「っておい!いいのか!?そんなあっさり受け入れていいのか!?」 秋彦 「《……チラリ》───ああ、あなたは原中が一等兵、晦悠介さんですね。     お噂はかねがね」 悠介 「マテ。貴様今何処で人を判断した」 秋彦 「───」 タラリ、と汗を流して停止。 それが禁句だということを彼は知っている。 だが! 秋彦 「《ゴクリ……!》そ、その立派なモミア《ボゴシャア!!》ゲファーーリ!!」 己を意志を貫き、マッハで殴られた。 来て早々殴られるってのもどうかと思ったが、その意気やよし。 悠介 「頭痛いぞオイ……。なにか?猛者連中の子供って全員こんな感じなのか……?」 中井出「いや。秋彦くらいのレベルのやつはまず居ないな。     大体が反面教師を受け入れたような真面目なヤツかヒネクレたヤツばっかだ。     だからもう我らとしては秋彦がカワイくてなぁ」 悠介 「性格が原中に近いからって理由だけで愛情沸かすのはどうなんだ……?」 秋彦 「で、提督さん。今日僕を呼んだのはどういった理由なんですか?     あ、もしかして僕もあの世行き?知らぬ間に死んでました?」 中井出「うむ。実は貴様は道を歩いている途中でスタン=パンセンに遭遇してな。     丁度気が立っていたパンセンにウエスタンラリアットされて昇天した」 秋彦 「おお!それは面白い死に方ですね!我が死に様に一片の悔い無し!!」 悠介 「……なぁ。俺はその言葉にツッコミを入れてやるべきなのか?」 秋彦 「なに言ってるんですか。事故死も転落死も面白くないじゃないですか。     むしろ通りすがりで気が立っていたパンセンにラリアットされて死ぬ。     そのくらいのインパクトがあった方が絶対に面白いですよ。     ようは俺がどれだけその死に様に満足できるかです!」 悠介 「無駄なところで逞しいなオイ……」 突然ラリアットされて死ぬのも事故死だと思うんだが……と続ける晦。 まあでも、ようするに面白さ優先なわけで。 普通に生きてるヤツなのにこうまで捻じ曲がった感性を持っているのも珍しい。 中井出「ところで秋彦。     そこのお嬢が貴様に一目会った時からフォーリンラブらしいんだが」 秋彦 「あれ?この人確か殊戸瀬エレクトロニクスカンパニーの社長令嬢じゃ……。     確か新聞には爆発テロに巻き込まれて死んだって……」 中井出「ゾンビだ。ジャスタウェイから発せられたガンマ線を浴びて蘇った野人だ」 秋彦 「なるほど!!」 悠介 「納得するのかよそれで!!」 秋彦 「いやでもジャスタウェイですし。えーと、名前はハルクさんでいいですかね。     殊戸瀬憩、略してハルク」 悠介 「全力で名前無視してるだろお前!!何処をどう略せばハルクになるんだ!?」 秋彦 「名前は問題じゃないんです。     問題なのはジャスタウェイが発したガンマ線で」 悠介 「コケシ爆弾がガンマ線なんて放射するかぁっ!!ガンマ線から離れろ!!」 秋彦 「じゃあジャスタウェイに秘められたなんらかのコスモが彼女を悲しいバケモノに」 悠介 「ジャスタウェイからも離れろ!!     それからこいつはバケモノじゃない!!ただの女だ!」 憩  「ただの女とは失礼ですわ!わたくしは───!」 悠介 「だぁーーっ!!いいからちょっと一旦黙れぇえっ!!」 キレた。 途端に静まる大食堂だが───さて、どうしたもんか。 悠介 「お嬢、話したいことあるならとっとと話せ」 憩  「う……」 中井出「実はな秋彦。このお嬢が貴様にフォーリンラブらしいのだ。     だがこのお嬢は家を捨て、自由な修羅と化した存在。     稼ぎも金も無い女なんだがこんなアタイでも大丈夫ですかと訊いてきている」 秋彦 「へえ〜〜〜っ!家捨ててきたのかぁ!そりゃ凄いですねぇ!     そんな決心まで出来る人が僕のこと好きだなんて光栄です!」 憩  「───!それじゃあ!」 秋彦 「だが断る。この秋彦がもっとも好むものの一つは!     今まさに期待に胸を膨らませた存在にNOと断ってやることだ!」 憩  「なっ……!」 悠介 「……何処までも原中だな……いっそお嬢が哀れだ……」 中井出「で、断った理由は?」 秋彦 「妹が一人でも安心出来るくらいになるまではこの秋彦、誰とも付き合う気は無い。     どちらにしても僕、まずは友達から入るタイプなので。     だって告白されたからってすぐ付き合うのってなんか違うじゃないですか。     俺は相手のことをたくさん知った上で付き合って、     もっともっと、じっくり知った上で結婚したい派ですから。     じっくり付き合いすぎた所為で歳がいっちゃってても構いませんよ。     それだけ付き合っても、     嫌なところを見つけても一緒に居たいって思った時こそ結婚したいです」 悠介 「───……偉い!!なるほど、中井出が言うだけのことはある!」 中井出「昨今のカスどもは少しでも気が合うと結婚結婚と!     だがそんな中でもこういうじっくり派が居た!俺はそれが嬉しい!!」 秋彦 「そういうわけなんで。キミが人を見下さないなら僕はキミの友となり信頼する。     けれどその信頼を裏切る行為を幾度も重ねた時、     僕はキミを叱り、時に殴るだろう。容赦無く。それはもう遠慮無しに。     むしろ歯ぐらい折れろコノヤローとか言って殴るかもしれない。     いや、むしろそうしようと今決めた。うんそうする。     ともかくそうしてもキミが見下すというのなら、僕らの友情はそこまでだ。     ……キミに、僕を友と呼ぶ覚悟があるのなら僕の手を取ってほしい。     逆に、殴られたとして、相手を恨むことしか出来ないのなら触るな汚らしい」 悠介 「平然ととんでもないこと言ってるが」 中井出「友達になろうってヤツに遠慮してどうするか」 既に審判は始まっているのだ。 それくらいも許容出来ないヤツに、猛者級の者の友はまず無理だ。 ましてや思い続けることなど不可能。 憩  「それはわたくしを女として見ないということですの?」 秋彦 「そもそも“友達”って関係に男も女もあっちゃならない。     友達は友達だ。気を許し合って殴る時は殴る。差別なんてそこには関係無い。     僕は友達の間での男女差別が大嫌いだ。     そんなものを展開するくらいなら知り合いってだけで十分だよ。     もちろんだからといって裸見せろとか言ってるわけじゃないけど」 憩  「はだっ……!?」 秋彦 「決めるのはキミだ。僕は僕を信頼してくれる人を裏切るつもりはない。     ただし対等であることが絶対条件だ。見下した信頼なんて冗談じゃない。     僕が欲しいのはどんな時でも笑い合える友情だ。     互いが互いを信じ合える喜びはとても暖かいものだ。     僕は子供の頃にそれを知って以来、ずっと真実の友情を求めてきた。     そして両親の昔話を聞いた時、“これだ!”と思った!     だから僕は憧れたんだ!あの原中に!     もっとも僕が通った原中にはもう迷惑部なんてものはなかったけどね。     自分で作ってみようと思ったけど、     それに乗ってくれる面白い人なんて居なかった。     ───今の世の中は腐っている!だからこそ!今こそ人々は真の友情を求め、     いつだって友達と笑っていられる関係を築くべきなんだ!!     その志を受け取る勇気が!キミにはあるか!?あるなら僕と握手!!」 憩  「………」 悠介 「戸惑ってるな」 そりゃそうだ。 これが普通の反応だろう。 悠介 「ところで中井出。お前の提督としての在り方は見下した信頼じゃないのか?」 中井出「いや……見下すどころか総員に馬鹿にされてるが」 悠介 「すまんそうだった……忘れてくれ……馬鹿な質問した……」 我らはそれこそそんなところでバランスが取れてるのだ。 俺の号令はノリを提供しているだけで、 あいつらは自分の意にそぐわなけりゃ簡単にノォサーと叫ぶし。 俺達ゃ互いの友情を誇りに思ってるが、友情の奴隷じゃない。 互いを馬鹿にすることもあれば、間違いを正すことだってある。 人間だもんな、そりゃ誰だって間違いは起こす。 だから俺はそんな猛者どものノリを想定して提案を出しているだけであって、 俺は彼らの行動を縛ったりはしていないのだ。 我らはノリで動く面白さの探求者。 常識破りを常とし歩む猛者集団さ。 悠介 「お前らってほんと、奇妙なバランス持ってるよな……。     お前が司令塔みたいに見えるのに、猛者どもの動きは大体バラバラ。     楽しいことを追求するためには全力で手を組むのに、     その楽しさが別の意味で現れるとあっさりと裏切るし」 中井出「たとえば魔王と戦う勇者も面白いって考えれば、平気で敵に回るしなぁ」 でもそこらへんが面白いのだ。 そんな俺達だからこそ飽きがこない。 そして、そんな関係を俺達は非常に心地よい状況として受け入れているのだ。 なんでも言い合える仲間が居るって、それだけで楽しいもんだ。 テメーとかコノヤローとかが既に罵倒じゃなくて笑い話になってるような関係。 それが、俺達が今も続けている原中って集団だ。 とまあ───そんなことを懐かしんでいると、キッと顔を上げたお嬢が秋彦の手を取った! 秋彦 「───これでキミと僕は対等の関係。契約を完了する」 憩  「望むところですわ」 秋彦 「それじゃあまず僕の妹にキミを紹介するよ」 憩  「え───何故ですの?」 秋彦 「あっはっはっは、自分で言うのもなんだけど僕の妹はブラコンでね。     僕に近づく女性全員をチェックしては、いろいろと行動を起こすんだ」 憩  「なっ……あ、い、いえ!の、望むところですわー!     あ、あの……ところで妹さんはどんな人格が好みな方で……?」 秋彦 「自分を作るの厳禁!己自身で立ち向かって打ち砕いてこそ漢!!」 憩  「わたくしは女ですわよ!!」 秋彦 「あっはっは、やあ、いいツッコミファクターが仲間に加わってくれたよ。     ありがとう提督さん、それじゃあ僕はこれで」 憩  「もう行くんですの!?あ、の……こ、心の準備というものを───!!」 秋彦 「───!解った大丈夫僕に任せろ!何を隠そう!僕は心の準備の達人だ!」 憩  「え?えぇっ!?」 ギラリ、と一瞬俺に見せたあの笑み───ああ間違い無いな。 ヤツは恐らく蒲田や神楽に聞かされたであろう原中名物の一つ、 “子殺埜殉毘(こころのじゅんび)”をするつもりに違いない……! さらばだお嬢……いつの日か、生きていたらまた会おう……。 秋彦 「さあ行こう!心の準備をするために!!」 憩  「あ、あのっ!?何処に行くんですのっ!?     ちょっ、そんなに引っ張ったら転びますわ!」 秋彦 「大丈夫!転んだとしても引きずってでも連れてゆくから!それが私の天命!!」 憩  「なっ!ちょっ《ドグシャア!》あきゅうっ!?     ま、待───転んでしまいましたわ!     今立ちますから待《ゾリゾリゾリゾリ!!》ちぇるしぃーーーーーーっ!!!」 悠介 「おー、見事に有言実行してるな」 中井出「お嬢もなかなかだ。まさか“ちぇるしー”と言ってくれるとは」 春巻先生ありがとう。 というわけで───無意味に騒がしかった瞬間は秋彦とお嬢の退場で幕を閉じ─── 残された俺達は、ただただ静寂を噛み締めて欠伸をするのだった。  ……ちなみに。 夜華 「あ、あー……そのだな、彰衛門。実は……」 彰利 「お?なにかね夜華さん」 夜華 「そ、その……かかか買ってほしいものがあるんだっ!」 彰利 「ウ、ウホォウッ!ややや夜華さんがおねだりとは珍しい!     こりゃまたなんとも……ウッ、ウホォウ!!なに!?なにが欲しいのかね!?     なんだか嬉しいから言ってみ!?買っちゃうよ!?     あ、なんだったら結婚記念日のプレゼント、それにしようか!?」 夜華 「あ……い、いや……記念日のものはそれはそれとして欲しい……」 彰利 「おお、欲張り夜華さん。でも珍しいからそれも許す。で、なにかね?」 夜華 「よ、妖刀、星砕という木刀があるんだが……!     丁度素振り用の木刀が古くなっていてな……!だからその……!」 彰利 「…………あの、夜華さん?そんな知識何処で手に入れたの?」 夜華 「“てれぴん”というやつでやっていた!     下着ひとつの男が侍に囲まれているよく解らない状況だったのだが───」 彰利 「……あのね、夜華さん。それってアニメの中の通販番組だからね?     星砕はどうやっても手に入らないのよ……?」 夜華 「なっ───そ、そうなのか!?」 あの通販番組を間に受けてしまった篠瀬さんは、 それを信じ込み彰利にねだってしまったらしい。 彰利は“めんこい夜華さんが見れただけで満足です”と極上の笑みをたたえていたが、 篠瀬さんはあまりの恥ずかしさにしばらく部屋に篭って出てこなかった。 ……そうだよな。アニメキャラか彰利じゃなけりゃ、 あんなウネウネした動き、出来るわけないんだよな……。 と、まあ───そんなこんなで一騒ぎと休憩時間を得た俺達は、 昼を迎える頃になると全員で食事を取り、 再び晦の部屋に集まってヒロラインへのダイヴを始めた。 もちろんナギーやシード、フォルネリアなどにはそれがなんなのかを告げずにだ。 ちなみにフォルネリアの毒は穂岸に解毒してもらったらしい。 忘れててすまんかった。 なにせ毒攻撃は出来ても、解毒は出来ない俺だから……。 Next Menu back