───冒険の書133/賢い人ほどポカをする。○8点───
【ケース380:穂岸遥一郎/ヤコペッティがカコペッティに見えた。●0点】 ガヤガーヤ……ガ……ガヤ?ガ、ガヤリガヤリータ……ヒソヒソ……ヒッソォ……。 マクルスェル『では今期より、おぬしらに初級中級上級訓練を受けてもらう』 清水    「なに!?」 田辺    「マジかてめぇ!!」 グラウベフェイトー山の麓の闘技場……気づけば俺達はその場に立っていて、 目の前にはフォフォフォと笑うマクスウェル老が居た。 で、なにが始まるのかと思えば……急に訓練がどうのと。 そりゃあ、マジかてめぇとも言いたくなるってものだ。 マクスウェル『うむうむ。既に基礎は叩き込んだからのぉ……。        それでじゃ。おぬしらにはそれにあたり、        “どうせだったらこの宝玉がよかった”というものを授けようと思う。        地、水、火、風、雷、光、闇に、氷属性の中から好きなものを選べぃ』 藍田    「なにぃ!?おいマイケルジジーソン!        氷は上級系統の宝玉じゃあなかったのか!?」 マクスウェル『わしゃ知らんよ?』 藍田    「な、なんだってぇーーーっ!!?」 丘野    「どうなっているでござる!?以前セルシウスのところに行った時は、        確かに加護しかもらえなかったでござるよ!?」 遥一郎   「それは……」 藍田    「ウヌ!?」 丘野    「し、知っているのか雷電……」 遥一郎   「誰が雷電だ。……これは単純に考えて、        バージョンアップで変更されたものなんじゃないか?        ほら、考えてみれば以前の話の中でも既に言ってただろ。        元素の力で扱えるのは無、時、然、死を抜いた全属性、って。        その時には既に変更されてたってことだと思う」 丘野    「グ、ググーーー」 藍田    「言われてみれば、提督はVS名誉ブリタニア人の時、        様々な属性をこれでもかってくらいに行使していたが……」 できればその名誉ブリタニア人っていう呼び方は勘弁してほしいんだが。 真由美「あ……見て。ナビの中にいつの間にかヒロミ通信が届いてる」 鷹志 「へ?あ……ほんとだ」 柿崎 「……いつ見てもヘンな名前だよなぁ」 閏璃 「名前を確定させた原因は俺達なわけだが」 遥一郎「博光の野望オンラインか……」 確かに今考えるとヘンテコな名前に定着したもんだ。 しかもそれに完全に慣れてしまったわけだし。 などと思いつつヒロミ通信を開封、中を確認した。  ◆ヒロミ通信No.13789962号 P1  今回のバージョンアップにおいて、属性の宝玉の変更が可能になりました。  マクスウェルに交渉するかそれぞれの精霊に変更を求めれば変更が可能です。  しかし元、無、時、然、死の属性の宝玉を受け取ることは相変わらず出来ません。  今回より追加された創の属性は晦悠介専用、  あるいは特殊アイテムの効果のみに限られたものであり、  創の宝玉も加護も存在はしていません。持てる宝玉の数もやはり一個までです。  今の自分の戦闘スタイルに合った宝玉を手にして、さらに上を目指しましょう。  なお宝玉は精霊に話し掛ければいつでも変更可能なので、  レベルアップの度に自分の成長度合いをよく見て、見合った宝玉を手にしましょう。  ◆P2  その自由度に伴い、中井出博光の宝玉の力が解放されます。  もちろん彼の宝玉は変更不可能なので、その分こちらは自由に変更してください。  彼の宝玉の解放内容は、“安定するまで行使不安定”だったそれぞれの力の解放です。  どの属性攻撃も平気で行ってくるので、敵対する者は注意しましょう。  ただしそれぞれの属性の守護竜を倒すたびに力が解放されるため、  例えば風の守護竜を倒すと風の力が溢れ、  それが安定するまで彼は風属性を扱うのが難しくなります。  属性を一つしか持っていない人は力が溢れてもそのまま行使出来ますが、  彼にはそういったペナルティが付加されます。  ただし“行使不可能”というわけではないので、  暴走した属性攻撃を仕掛けてくることもあります。  末路は自爆でしょうが、彼ならやりかねないので十分に注意しましょう  ◆P3  彼の宝玉に宿っている全属性の守護竜を倒すと、  もちろん彼は属性が安定するまで属性攻撃らしい属性攻撃は出来ないと考えるべきです。  しかし安定すると1ランク昇華した属性攻撃が行使可能になります。  それ以前に開発スタッフがよからぬことを考えているので十分に注意を。  特にイドが面白がっていろいろいじくっているので、  中井出博光の属性全てが解放された時は十分に注意してください。本当に。  ちなみに守護竜の詳細は以下の通りとなり、以前より大幅な変更があります。  地:アースドラゴン─────砂漠の地下空洞  水:ブルードラゴン─────西の大陸付近の海域(水竜)  火:レッドドラゴン─────フレイマウンテン  風:ストームドラゴン────モトノフフ大渓谷  雷:サンダードラゴン────グニンディールの叢雲  氷:フリーズドラゴン────プラチナル平原  光:ホーリードラゴン────光の塔頂上よりさらに上空にある神殿  闇:ダークドラゴン─────常闇の領域  元:グレイドラゴン─────グラウベフェイトー山山頂  然:カイザードラゴン────トカホウテ山山頂  時:サウザンドドラゴン───然までの守護竜を倒すと封印が解けるイベントクエスト  死:スカルドラゴン─────竜族の墓  無:デスゲイズ───────空  創:ジハード────────?????  ……なお、このヒロミ通信は、  守護竜の詳細と属性解放情報以外は中井出博光には届けてません。  理由はもちろんその方が面白いからです。 …………。 藍田 「…………」 清水 「提督……面白がられてんなぁ……」 1ゲームプレイヤーとして、情報メールが届かないのはどうなんだろうか。 さすがにちょっと気の毒に思った。 丘野 「ところでこの……グニンディールの……むらくも?とはいったい?」 遥一郎「常に曇ってるか雨が降ってるかしているところが追加されたんだと思う。     そこに行けば会えるってことじゃないか?」 丘野 「おおなるほど。さすが名誉ブリタニア人一の頭脳でござる」 遥一郎「その言い方やめてくれ……」 丘野 「嫌でござる」 遥一郎「即答なのか……」 どうしてこう、自分の周りに居るやつは妙なところで意思の固いヤツばかりなのだろうか。 時々、いやしょっちゅうだろうか……考えることがある。 こっちはただでさえ馬鹿者の相手をするので日々精神を削っているというのに。 雪音 「ホギッちゃんなんか言った?」 遥一郎「もし聞こえてたんだとしたらお前は今日からエスパーだな」 言って、何か言い返してくる前にぶぎゅると口を押さえて、 マクスウェルの言葉を待つことにした。 マクスウェル『実戦の基礎を学んだからには、        次はそれを生かすための1ランク上を目指すべきじゃろうて。        ほれ、どんな宝玉が欲しいのか言ってみるがええ』 藍田    「むう……宝玉を変えるとして、        今まで成長させてきた能力は受け継がれるのか?」 マクスウェル『当然じゃ。属性をいじって変換させるだけじゃからのう』 遥一郎   「そっか。じゃあ俺からいいか?」 マクスウェル『おうおうおぬしか。どんな属性がええ』 遥一郎   「元素……は、無理だよな。じゃあ地───いや。        悪い、宝玉無しでいいから、全属性の加護を受け取ることって出来るか?」 マクスウェル『ほっ?こりゃまた珍しいことを言うもんじゃ。        おうおう、ええぞ。宝玉が無い分、        おぬしへの加護をより巨大なものにしてしんぜよう。        ……ただし、本当に宝玉は受け取れなくなるぞ?ええんじゃな?』 遥一郎   「ああ。エキストラスキルにはいいものもいっぱいあったし、        ストックもかなりありがたかったけど───なんとかなるって信じてる」 マクスウェル『小憎らしいことを言う小僧じゃのぉ〜〜〜っ!!        うむ気に入った!ストック能力だけは2個だけじゃが埋め込んでやろう!        なぁに、その左手の霊章に埋め込むだけじゃ、人体に影響は………………』 遥一郎   「ちょ、ちょっと待った……なんなんだその沈黙は」 マクスウェル『若者が細かいことを気にするもんじゃないわい。        よし、ええじゃろ。んんん〜〜〜……はぁーーーーーっ!!!』 キシャアンッ!!ンゴゴゴゴゴゴマキィンッ!! ピピンッ♪《属性加護が変換されました!》 ピピンッ♪《地の精霊の加護の昇華能力が霊章に埋め込まれた!》 ピピンッ♪《水の精霊の加護の昇華能力が霊章に埋め込まれた!》 ピピンッ♪《火の精霊の加護の昇華能力が霊章に埋め込まれた!》 ピピンッ♪《風の精霊の加護の昇華能力が霊章に埋め込まれた!》 ピピンッ♪《雷の精霊の加護の昇華能力が霊章に埋め込まれた!》 ピピンッ♪《光の精霊の加護の昇華能力が霊章に埋め込まれた!》 ピピンッ♪《闇の精霊の加護の昇華能力が霊章に埋め込まれた!》 ピピンッ♪《氷の精霊の加護の昇華能力が霊章に埋め込まれた!》 ピピンッ♪《元の精霊の加護の昇華能力が霊章に埋め込まれた!》 ピピンッ♪《然の精霊の加護の昇華能力が霊章に埋め込まれた!》 ピピンッ♪《時の精霊の加護の昇華能力が霊章に埋め込まれた!》 ピピンッ♪《死の精霊の加護の昇華能力が霊章に埋め込まれた!》 ピピンッ♪《無の精霊の加護の昇華能力が霊章に埋め込まれた!》 遥一郎「……おおっ、なんだか物凄い勢いでログに文字が……」 雪音 「わわっ!ホギッちゃんホギッちゃん!そんなことより手!手!」 遥一郎「へ?どうしうわぁっ!?」 言われてみてから左手を見ると、米粒みたい大きさだった霊章が……! なんだか奇妙な形に大きくなり、形を変えていっているのだ……! やがてそれは左手の甲の幅に沿うようなくらいの大きさになり、治まる。 遥一郎   「これって……」 マクスウェル『霊章は力の大きさによって紋章の大きさを変えるのじゃよ。        おぬしも見たじゃろ、あの若蔵の霊章の大きさを。        さすがにあれほどの武器を内臓するとなると、        生半可な霊章では収まりきらんと思ってのう。        故に、最初から肘まで届くくらいの霊章にしておいたのじゃよ』 遥一郎   「へえ……」 腕を振り回してみる……が、なんの違和感もない。 突っ張った感触もなく、ただ本当に、手に紋章が浮かび上がったというだけの感覚。 でも引っかかることがひとつ。 遥一郎   「精霊の加護の昇華能力が埋め込まれた……ね」 マクスウェル『ほっほっほ、おぬしは中々鋭いのぅ。        まあもっとも、そうでなくてはそれを見込んで        霊章を授けた喜びも薄れるというものじゃて。        ……よいかな?おぬしに授けたのは加護を昇華させる能力じゃ。        わしは地の精霊でも然の精霊でもないからのう。        加護を渡すことなど無理無理、無理じゃよ』 遥一郎   「……ツッコまないでやったほうがいいか?」 マクスウェル『うっほっほっほっほぉっ!おぬしはほんに頭が回るのう!        じゃがうむ、黙っててくれると助かるわい』 他の属性の精霊でもないやつが、他の属性の宝玉を渡せるわけがない。 つまり、マクスウェルは宝玉も加護も渡し放題な精霊なんだろう。 けど、それを実行しようとはしない。 理由は……修行の一環みたいなものなんだろう。 それともそういう誓約の上で動いているのか。 マクスウェル『まあ、そんなわけじゃ。        加護自体は各地に散らばる精霊から受け取ってくれい。        加護情報を上乗せしたから以前まで受け取っていた加護も消滅したのでな、        また最初からじゃ。精進せいよ、若いの』 遥一郎   「じゃあさっそく元の加護が欲しいんだけど」 マクスウェル『ほっ?ほっほっほっほ!慌てるでない慌てるでない。        それはおぬしがここを巣立つ時にくれてやるわい。        それまでは勉学に勤しむのじゃ』 遥一郎   「……うん、了解」 俄然やる気が出てきた。 なんだかんだで周りに振り回されつつ冒険してきてた俺だが─── ファンタジーに対する憧れが全くなかったといえばウソになる。 なによりここでの修行を逸早く終わらせれば、 晴れて観咲を筆頭とする暴走者から解放されることに───!! 遥一郎(ああっ……!神───はチェーンソーで斬殺するとして。     どこぞの誰かよ……!俺は今この好機に多大な感謝をしている……!     ありがとう……!ありがとう……!) 閏璃 「……なぁバカよ。     お前ンところのホギッちゃんが空に手を合わせながら泣いてるんだが」 雪音 「バカっていうなぁ……」 閏璃 「まあいいや。じゃあマクスウェル!俺にも加護をくれ!」 遥一郎「───ハッ!」 閏璃の叫びで我に返った。 いかんいかん……危うく意識をあなたの知らない世界に飛ばしてしまうところだった。 マクスウェル『だめじゃ。生憎と霊章の無い者には渡せない上に先着一名さまのみじゃ』 閏璃    「なにぃ!?じゃ、じゃあせめて霊章を!」 マクスウェル『すまんのぅ、たまたま残っていた稀少石を霊章石に研磨しただけでのう。        その稀少石も完全に底を突かせておるでの、無理じゃ』 閏璃    「ぬおお……!だ、だったら我が宝玉を雷属性に変えてくれ!」 マクスウェル『それならばお安い御用じゃ。バァアーーーーーッ!!!』 ギシャーーーン!! ピピンッ♪《宝玉の属性が変換されました!》 閏璃 「オッ……おお!!本当に変わってる!!」 藍田 「お、おお!じゃあ次は俺だ!」 田辺 「いいや俺だ!これは譲れないな!」 岡田 「いや、俺の番だ」 清水 「いやいや順番は守ってもらわんと」 丘野 「いいや拙者でござる!……あ、でも拙者風のままでいいでござるわ」 閏璃 「おわっ!?ちょ……!」 遥一郎「ちょっと待てお前ら!一斉に……!」 変換が完了した途端、安全だと解ったやつらが次々と押し寄せる。 宝玉を持ってなかったやつも、レプリカとしてマクスウェルに貰ったものがある。 それをきちんと変換してもらうと、 そういうやつらはウホホーイとよく解らない雄叫びを上げて喜んでいた。 そんな状況の中、俺はもみくちゃにされながらさっさと人垣の中から弾き出され─── 澄音 「やあ、大変だったね」 遥一郎「……まったくだ」 にこにこと笑っている、微笑がよく似合う友人の前へとたたらを踏んで到着。 こういう時に慌てたりしないのが……なんとなく蒼木らしいと思う。 でも一応訊くわけだ、答えが解ってる物事を。 遥一郎「それで、蒼木は突っ込まなくていいのか?」 澄音 「急いで特典があるわけでもないし、僕は最後でいいよ」 ……一言一句間違いなし。 それはそれで予想外だったりした。 なんでもかんでも誰かを優先させてしまうのは蒼木の癖というか人格だな。 時々こいつの先のことが心配になるものの、 それはレイチェルの姐さんがなんとかしてくれるだろう。 それに一度自然と一体化してみれば、案外いろんなことを悟れるもんだ。 俺は桜の樹で蒼木が風。 そんな過去……ああいや、未来って喩えも出来るから厄介だけど、 俺が生きた歴史からしてみれば過去だ……過去ってことで落ち着こう。 そんな過去を持っているってだけで、随分と長い道を歩いてきたと思うことが出来る。 その分、学生だった頃は“同い年なのに随分落ち着いてるな”とか級友に言われたもんだ。 そりゃあ桜の樹になって長い間、見える景色を見守ったり─── 精霊になってガキどもを見守ったりして随分と長い時間を生きた。 そのことに後悔なんて無いし、むしろ誇りに思ってる。 ……もちろん、あの頃のことを覚えているのが俺だけじゃないってことも嬉しい限りだ。 澄音 「うん?」 遥一郎「いや、なんでも」 チラリと見た視線が蒼木の目とぶつかった。 訝しげに見るどころか笑みで応えるこいつはタダモノじゃないと思う。 そんなことを思っていると、やっぱり小さく笑んだ蒼木が窓から見える空を見て言う。 澄音 「キミはこれからきっと、猛勉強するんだろうね」 遥一郎「……ん。それはもちろんだ」 澄音 「そして、誰よりも早くここを出て冒険をする」 遥一郎「……まいったな、お見通しか」 澄音 「狙ったわけでもないのに付き合いだけは長いからね、僕とキミは。     でも僕はそれを嬉しく思うし、キミもそう思ってくれていると信じてる」 遥一郎「当たり前だろ」 澄音 「うん。だからね、僕や雪音、     サクラちゃんやノアちゃんのことは気にしないで先に進んでほしい。     キミがいつも僕らを気にかけてくれてるのは知ってる。     周りに振り回されながらも、それを嫌と感じながらも手を振り払わないのが、     キミがみんなに好かれてる理由なんだから」 遥一郎「………」 こいつの目は俺の内側を簡単に見つめる。 どれだけ中身を嘘っぱちで固めてようと、 にっこりした風情のままで簡単に見透かしてしまうんだ。 でも……それを強く追求したりすることはしない。 軽くもなく重くもない、中途半端でも型に嵌まってるわけでもない、 まるで空気みたいな存在。 それでも居ても居なくても同じだなんてそんなことはなく─── 空気だからこそ無くちゃ困る─── そんなことを感じさせてくれる暖かさがこいつにはあった。 言い返させてもらうとな、蒼木。 お前のそんなところを、レイチェルさんは好きになったと思うぞ。 澄音 「僕も頑張って上を目指すよ。     さすがに、いつまでも教えられっぱなしなのは格好悪いかもしれない」 遥一郎「……ん。お前なら簡単だ。基本的に物覚えはいいんだから。     というか、その落ち着きようと風情で頭がよくないっていうのが嘘すぎた」 澄音 「ははっ、ひどいな」 身振り手振りで話をすると、小さく笑う蒼木。 そんなものは、もう俺の中で日常と一体になるくらいに当たり前のことだった。 あの日屋上で出会って、同じ病気を負って、同じ奇跡の中を駆け抜けて─── ここに至るまで、結局ずっと一緒だった赤の他人の俺達。 それが、いつの間にかなんでも知り合ってる赤の他人になっていた。 ……人間、どんなことがきっかけで一生ものの友達と出会えるかなんて解らない。 でも、もしも俺が天界人……そもそもフレアと出会うことがなかったら。 サクラに出会うことがなかったら。 蒼木は果たして、俺に自分と似たなにかを感じ取ることが出来たんだろうか。 俺達は、これほどまでに心を許せる関係になっていたのだろうか。 ───そんなことを、同じく眺めた蒼い空を見て思っていた。 ……ちなみにそれから十数分後。 最後に蒼木が宝玉を変換してもらって、変換祭りは終了した。 【ケース381:中井出博光/シュークリームをマシューと呼んでみる。○9点】 デンデゲデンデゲデテテテーーン!! 中井出&ナギー『OH霊!!』 ステキな構えをしつつ、上空へと伸ばした手の平にナギーを乗せ、ズビシィと美しく停止。 ああちなみに今のはオウレイと精霊をかけただけです。気にしないでください。 しかしナギーも随分砕けてきたもんだなぁとところどころで思う、 二度目の青春フォーエバー、中井出博光です。 中井出「ところでここ何処?」 ナギー『知らんのじゃ〜……』 そう……俺達は途方に暮れていた。 それはもう暮れていたさ。 夕暮れ時くらいに暮れていたさ。 それでも楽しむ心だけは無くさず踊る。 こんにちは、中井出博光です。 時々自分に余裕が無いと理解出来るときってありません? 今の僕はまさにそんな感じなのかもしれません。 中井出「何度目かのナビメールで属性云々が解放されたのは解った。     竜が増えたりしたのも解った。でもここ何処?」 見渡す限りの見知らぬ場所。 確か俺はナギーと一緒に戒めの宝玉の回収に向かってた筈だが…… こんなところに来た覚えは無いぞ? そんなわけで、位置確認の意味も込めてマップを見てみると…… 中井出「ウホッ、地図がデカくなってる……!」 ででーーんと、マップが随分と広くなっていた。 え……じゃあなに? 俺ってばバージョンアップの際に広くなった世界に巻き込まれてこんな、 どことも知らぬ辺境の地に? ああ……まるで雪原の上で鎌倉作って寝ていたら、 実はそこが流氷の上で知らぬ間に辺境まで流されていたような気分だよ。 ……喩え長いな。 まあいい。 中井出「どちらにしても冒険の幅が変わったことには変わり無し!」 ナギー『そ、そうなのかの?     わしには何故突然この世界がこんなになってしまったのか解らんのじゃが……。     あの屋敷は何処に行ったのじゃ?あれは夢だったのかの?     わしらは寝ている間に何かによって移動させられていたのか?』 中井出「それはな?マシューの意志さ」 ナギー『ましゅー?な、なんなのじゃそれは……』 中井出「う、うむ……それはな……」 俺はゴクリと喉を鳴らすナギーに、マシューの意思とはなんぞやを説明しにかかった。 しかしそうなると美里家の事情を一から説明しなければならないことに気づき、 簡潔に済ませることにした。 ナギー『つまりマシューとは、     全世界の意志と呼べそうで呼べないというか呼びたくない存在なのじゃな?』 中井出「そうだ」 ナギー『よく解らんがどうでもいいことなのじゃろ?』 中井出「もちろんだ」 ナギー『……ほんにヒロミツと居るといろんな意味で飽きないのじゃ……』 褒められた気がしなかった。 むしろ褒めてなんぞいないんだろうけど。 中井出「まあそれはそれとしてだ。いろんな属性が解放されたのは嬉しいことだよな。     今や加護に頼らんでも氷属性が使えるんだ。こんなに素晴らしいことがあるか?」 もちろん他の属性もだ。 さすがに然、時、死、無は使えないけど。 それでも─── ヴォルフベア『ホガァーーーーッ!!』 ナギー   『むっ!ヒロミツ!敵なのじゃ!』 中井出   「了解!」 突如現れた狼っぽい顔の熊を前に、霊章からジークムントとジークリンデを弾き出す! 狼熊はこちらの武器の巨大さに一瞬怯むが、それがまさに命取り! すかさず双剣を長大剣へと合わせた俺は、光の属性を引き出して剣に込める! 中井出   「エネルギー!全ッ開ッ!!」 ヴォルフベア『ヴオッ!?ヴォーーーッ!!』 中井出   「“ジュースティングッ───スラッシャァアアーーーーッ”!!!!」 構えるジークフリードに眩い山吹色の光が満ちる! その光を以って力とし、 フロートをオマケにつけた超加速とともに一度の跳躍で間合いを殺して一気に穿つ!!  ゾグルシャオォオオンッ!!!! ヴォルフベア『ヴヴォーーーッ!!?』 巨体の腹を突き破って反対側へと優雅に降り立つ。 いや、本当は優雅どころか勢いを殺しきれずに コケそうになりつつたたらを踏んだわけだけど。 いやぁ〜……ほんと俺ってカッコつかねぇなぁ。 中井出「しかし!嗚呼しかし!───気ン持ちいい〜〜〜〜〜〜っ!!!」 属性が自由に行使できるのってこんなに楽しかったのか! バージョンアップ前なんて、地、水、火、風の属性しか上手く使えなかったっていうのに! あ、でも守護竜を倒して戒めの宝玉を破壊すると、 その属性が使えなくなるのは以前と変わってないらしい。 完全に使えなくなるわけじゃないらしいけど、やっぱりそこのところは マクスウェルのじーさんに貰った指輪が属性の安定を齎すまでは危険なんだとさ。 無理矢理使おうとするとオーバーヒート気味というか、 完全にコントロールを離れた力を扱うことになるんだとか。 そういうのはそういうので結構好きだったりする……こんにちわ、中井出博光です。 いやもう挨拶はいいから落ち着け俺。 属性行使が嬉しいからってウカレまくってる自覚はあるけど、ひとまず落ち着こう。 中井出「アトリビュートキャリバーも、     精霊斬やらなくても属性合成出来るようになったし」 合わせた属性奥義は一つに絞られるわけでもなく─── 持ち主の行動一つ一つでいろいろと変わってくる。 合わせなくても、光属性奥義がジュースティングスラッシャーだけじゃないように。 べつに突進突き攻撃じゃなくても、光を輝かせて目眩ましに使う方法もあるのだ。 使い道は色々!便利で素敵!一家に一台安心お得!こんにちわ、中井出博光です。 って、それはもういいって……。 中井出「“解放”(レリーズ)
!!」 自分の思考にちょっとばかりの呆れのスパイスを含ませてから、 じょきぃんっ!とジークフリードを紅蓮と蒼碧の剣に戻し、 アトリビュートキャリバーを発動。 双剣一方ずつに属性を封入して、軽く振るってみる。 中井出「紅蓮に炎、蒼碧に闇───塵も残さん!」 ボファァンッ!! 振るう双剣を交差させるように弾き合わせて振るい、闇の炎を巻き起こらせる。 次いで振り被り、双剣を長剣に変えて闇の炎を吐き出す剣とする! 中井出「いくぞ!“浄破滅焼闇”!!」 ゴバァッファァンッ!! 誰も居ない虚空に振り下ろした剣から、黒と紫が混ざったような炎が巻き起こる。 その範囲は結構なもので、振るった自分でも結構驚くほどだった。 ナギー『お、おお……今のはなんなのじゃヒロミツー!』 中井出「うむ!今のは浄破滅焼闇という技だ!」 ナギー『じょーはめっしょーえん?』 中井出「うむ!とあるゲームであった技なのだがな。     それは二作あり、ひとつは続編、ひとつはそれの前にあった。     続編を先に喩えとして出すのは、     リメイクされた前作の方じゃなきゃその技が無いからだな。     ちなみに名前はテイルズオブデスティニー。1と2で微妙に言葉が違ったりする。     さらにちなみに俺は2の時の掛け声の方が好きだったりする。     1が“奥義!浄破滅焼闇!”で2が“いくぞ!浄破滅焼闇!”なわけだ。     塵も残さんって言うのは基本のようで、     キメゼリフは“闇の炎に抱かれて消えろ”だ」 ナギー『……解らんのじゃ』 中井出「うん……そうだよね……」 それはそれとして……やっぱりチャージは必要らしい。 すぐに属性のキャリバーを込めようとしても反応が無い。 まあしょうがないよな、いつでも出来たら奥義をいつでも出せるような状況になるし。 ただ普通に付加させるだけならいいらしいけど、キャリバーとして出すのは無理のようだ。 けどそのヘンはアンデッドどもと乱戦してた頃からのことだし、むしろオッケン。 剣閃12発撃ってから発動させるのも面白いけど、 義聖剣として二つの属性を合わせて撃つほうが面白いんだよね。 どうしてもそっちの方をメインとして望んでしまうというか。 ナギー『ヒロミツの武器はほんに変わっておるのじゃ。     これほど滅茶苦茶な持ち主に扱われておるのに、刃毀れひとつしないのじゃ』 何故ってそれはゲームだから。 そりゃ魔界塔士サガといった、 サガシリーズでは武器の使用回数とか限られてたりするけど、 さすがに今のゲームじゃそんなことはない。 けどゲームの中とはいえ、さすがにこれほどの強度を誇った武器だと、 材質がなんなのかとか気になったりはするわけで。 稀色系武器の材料ってなんなんだろうなー。 俺のこれは素が稀黄剣シュバルドラインだったわけだろ? 材質は……なんだったんだろうなぁ。 多分古代の遺産とかなんだろうけど、俺には解らん。 “調べる”で見てみたって、材質まで解るわけじゃないし。 そもそもこれ、稀紅蒼剣ジークフリードとして確立しちゃってるしなぁ……。 と思いつつ、 とりあえずは付加させた属性がキュバァン!と剣の中に満ちるまで待ってから、 ジークフリードを双剣化させて霊章の中に仕舞う。 中井出「いやぁ……自分の腕が収納口ってヘンな感覚……」 ナギー『それだけの霊章を貰えること自体が珍しいことなのじゃ。     そう邪険にするものではないぞ、ヒロミツ』 中井出「邪険にしてるつもりはないんだが。     ちなみに歴史上で一番大きい霊章を受け取ったヤツが誰だか解るか?」 ナギー『アハツィオン=イルザーグじゃな。     巨人族の英雄にして、もっとも巨大な霊章を持つ者だったのじゃ』 中井出「アー……妙に納得」 ナギー『全身に霊章があるといってもいいほどの者で、     その一撃は竜さえ一太刀で斬滅したとされておるのじゃ。     いかに強い竜族といえど、     レヴァルグリードくらいしか太刀打ち出来る者はおらんかったらしいの』 中井出「へぇ……」 そこらへんは空界と似たようなものなのか……。 ナギー『巨人族にアハツィオン、竜族にレヴァルグリード。     かつての最強が居た時代よりこれまで、その者らを凌駕した者などいないのじゃ。     故に今も力の象徴として、恐れられもし、憧れられたりもしているのじゃ』 中井出「おお、それは解るぞナギーよ。やっぱり男として産まれたからには強くなりたい」 むしろ強さには憧れる。 イメージの中の自分は強いけど、イメージ通りにはいかないのが人間ってもんだし。 そこんとこ考えると、イメージの具現を力とする晦は本当に強くなっていた。 今はどうか知らんけど。 むしろそれこそ“イメージするのは常に最強の自分”とか、そういう理が似合いそうだ。 中井出「よぅし、じゃあ………………エィネ探すか」 ナギー『あ……』 気づいてみればその場に居ないエィネ。 一緒に居た筈が、その痕跡すら見えない状況だ。 いやぁ……今頃何処に飛ばされているのやら。 そんなことを思いつつ、俺はナギーとともにエィネ探しの旅に─── ヴォルフベア1『ゴルルルルル……!』 ヴォルフベア2『ゴコォオオオ……!!』 中井出&ナギー『………』 行く前に、ヴォルフベアの大群に囲まれていた。 中井出「ナ……ナ、ナナナナギ〜ィイ……?ヴォッ……ヴォルフベアの成体って……」 ナギー『た、たたた確か、仲間を殺されるとその臭いを嗅ぎつけて敵討ちにくる、とか……     そそそんなことを聞いたことがあるのじゃー……』 中井出「何処のスズメバチなのこいつら!!」 確かスズメバチって一匹死ぬとそれに反応して襲い掛かってくるとか聞いた覚えが! あ、あれ?別のハチだったっけ!?いやもうどうでもいいよそんなこと! 中井出「何故ぇ!?何故教えてくれなかったのナギー!」 ナギー『その方が面白いと思ったからじゃー!!』 中井出「ぎええええ!!な、なんてナイス原ソウル!!」 でも降りて来た途端に囲まれるような状況なんて僕の心にとってもヘビー!! しかもなんだかさっきのちっこいベアよりもかなり巨大でゴツイベアさんばっかりが! これってどう見てもさっきのベアが子供だったってことだよね!? え!?でも結構デカかったよ!?なにこの巨人なみにデカい熊! 知らない!僕知らないよ!? ある日の森の中でもないのにこんな熊と出会いたくなかったよ僕!! 中井出「やっ……やあ僕博光!まずは話し合いを《ズバァン!!》オギャーーーリ!!」 自己紹介&フレンドリーアクセスは、俺の顔面への炸裂ビンタによって幕を閉じた。 おおお熊の攻撃力ってハンパじゃねぇ!! 勢いよくビンタくらっただけなのに物凄い衝撃が!! 痛いよこれ!涙でるほどシビレる!! ナギー『だ、大丈夫かヒロミツ!』 中井出「よっ……よくも!この僕にむかって……!     この汚らしい阿呆《ズバァン!》ゲファーーーリ!!」 自分で自分の肩を抱き締めるようにして泣き、振り向いた僕は思い切り殴られました。 中井出「ギムーーーッ!!     お、おのれこの博光!もう辛抱たまら《ズバァン!》ヘギョーーーリ!!     ちょ、今喋ってるでしょ!?喋ってる人に対していきなりビンタはひどいよ!     紳士のやることじゃないよ!熊にも紳士的なヤツが居るべきだと思うよ僕!     え?僕?変態じゃないよ!!エロマニアでもないよ!なに言い出すのナギー!     やめてよもう!ていうかもうやめようよこの話!もうしない!やめよ!?ね!?     ぼっ……僕は変態じゃないよ……仮に変態だとしても、変態という名の紳士だよ!     ───だからって変態って呼ばれて嬉しがる人なんて居るわけないでしょ!     ちょ、ほんと黙りなさいナギー!え?面白いからいやだ?     ヒロミツが慌てる顔がわしは一番大好きなのじゃ?知らないよそんなこと!!     大体《ズバァン!》ゴフォーーーリ!!まぶっ……待ってなさいキミたち!     今僕とナギーが話してるで《ゴパァン!》ガフォーーーリ!!     いややめっ……ほんとやめ───ヴァーーーーッ!!!」 その日僕は、大地に降り立った途端に新モンスターらしきモンスターに囲まれたまま、 これでもかというくらいにボコボコにされた。 ───……。 ……。 中井出「我が右手に風よ宿れ!“ジェントュル昇龍拳”!!どががごばっしゃぁああああんっ!!! ヴォルフベアども『ゴガアーーーーーッ!!!』 ボッコボコにされてからのことだけど、 僕はナギーの回復の奇跡によって、それこそ奇跡の生還を果たしました。 いやこれがまた困ったことに、ここの敵の強いこと強いこと。 子供ベアは弱いんだけど、それよりデカい大人ヴォルフベアが、 HPの多さもさることながら、攻撃力の高いこと高いこと。 しかもどんどんと間合いを詰めて攻撃してくるもんだから、 大剣での攻撃は上手く徹らない。 それが理由でジークムントとジークリンデを霊章に収納、 腕自身に力を宿して戦ってるわけだ。 中井出「アァーーンドッ!“デアボリカルナグルファァーーーッ”!!!ガンガガガガガガガギシャァアアアアアッ!!! ヴォルフベア『グギャアアーーーーーーッ!!!!』 立ち塞がる敵を殴る殴る殴る!! マイトグローブから弾き出される小さいが確かな竜巻が、 殴り飛ばした敵を高速回転させて他の敵に衝突させる! そうして間合いが空いた瞬間に両手から紅蓮と蒼碧の巨剣を召喚させて強く握り締めると、 それらをジークフリードに変換させて全力で属性を輝かせる! 中井出「真の姿を現せ───業炎の剣(ごうえんのつるぎ)!!」 込めた属性は火と元素。 その二つを以って、火の力を極限まで高めて攻撃する! 持ち主さえ焼き尽くさんほどの熱と炎をその身に宿す剣を振り回し、 竜巻を作るようにして回転したのちに跳躍。 熱と気流、フロートの力で高く飛んだ俺は剣を両手で逆手に持つと、 俺を見上げているベアや炎の竜巻に巻き込まれているベア目掛けて自らごと落下する! 中井出「その身に焼き付けろ!!」 やがて極限まで高められた炎と、それに付加されるボマーが、 大地に刺さった剣から巨大な爆発として発せられる。 ヴォルフベア『グギャアアア!!?』 巨大な爆発に飛び散る火の粉。 それに触れただけでもさらに爆発するソレを掻い潜るように、 休む暇無くすぐに詰めに入る。 中井出「奥義!“業魔(ごうま)ァッ───」 爆風に弾かれるように疾駆し、鋭い突きで目の前に居たベアどもを貫通させて破壊。 返す薙ぎ払いで襲い掛かろうとしていた数体を一気に斬り裂き─── 中井出「───灰燼剣(かいじんけん)”!!」 跳躍とともに縦回転し、その遠心力をとともに大地を這う業火の剣閃を放つ!! ヴォッゴヴォガガガガォオオオオンッ!!!! ヴォルフベアども『───……!!』 遠心力とともに大地に叩き下ろしたジークフリードから、 巨大な炎の柱が剣閃となって大地を這う。 這うといっても物凄い速度である。 確認してから逃げ出すくらいじゃ間違いなく滅焼される速度だ。 結果、ヴォルフベアどもは巨大な炎の柱に燃やされる中で幾度となく爆発を繰り返し、 その五体を微塵のみ残すだけのスミクズと化した。 ナギー『す……すごい、のじゃ……ヒロミツ……』 中井出「………」 いや、実は俺もかなり驚いていたりする……。 すげぇ……すげぇよおい……。 元素の力で火属性の力を引き出すとこんなにも強いのか……。 あれだけ居たヴォルちゃんが一匹も残ってないじゃない……。 そりゃな……上空で俺の戦いを見守ってたナギーが言葉に詰まるように言うのも解る。 辺り一帯、火の海だし……。 中井出「……じゃ、じゃあ……消火活動が終わったら、今度こそエィネを」 声  『ヴォオオオーーーーーーッ!!!』 中井出「探し……に……」 耳に届く咆哮、遠吠え……振り向いてみれば、 少し離れたところにちょっぴりコゲて今が食べごろな手負いのヴォルフベア……。 炎の影になってて解らなかったのか……? ……ていうか。 中井出「な、なぁナギーよ……。なんだかあの遠吠えを聞いてからというもの、     地響きのようなものが俺を小さく揺らしている気がするんだが……」 ナギー『う、うむ……わしも地平線の向こうから、     巨大ななにかがたくさんくるのが見えるのじゃが……』 中井出「まさか……なぁ?」 ナギー『まさか……のぅ?』 しかし悪い予感ってのは当たるものだとつくづく実感。 ズドドドドと土煙を上げて突進してきたそれらはやはりヴォルフベアであり、 なんだか色違いのヤツや、 さらに大きなベアが至りで……なんだか生きた心地がしなかった。 中井出「う、うおぉおおおっ!!こうなりゃどーんとやったるでぇい!いくぞぉナギー!」 ナギー『わ、わかったのじゃー!!』 そうしてまた狼熊狩り祭りが始まるわけだ。 もちろん俺はマグニファイを発動させて全力で破壊活動に出る。 ナギーも俺のHPを回復してくれたり補助魔法を使ってくれたりで、かなり助かってる。 ほんといい具合に捻じ曲がりつつも素直な原中色に染まってくれてるぜ〜〜〜っ! この戦いが終わったら、何処かでスイーツでも奢ってさしあげよう。 ……いやほんとすまんエィネ……キミを探すのはまだ先になりそうだ……。 【ケース382:穂岸遥一郎/飛び散る雷が綺麗に見えた。○10点】 あれからのことは案外慌ただしいものがあって─── 勉強したり実戦したり、唱えたり殴ったり、 それはもう基礎とは別次元のものをやりまくっていた。 しかし基礎がしっかりしていると、案外体を動かすのも楽しいもので。 遥一郎(ここを流して───打つ!) 下田 「《ドボォッ!》ゲフォーーーリ!!」 運動嫌いだった俺も、何試合かに一度は組み手でも勝てるようになってきた。 もちろん相手の癖とかを頭に叩き込んで、 博打覚悟の行動が的中した時に勝てるようなものだけど。 それ以外はボッコボコである。 けど、それがまた楽しかった。 勉強のほうは魔法や魔術、法術や式、魔導魔術に魔導錬金などといったものの勉強が主。 勉強のことなら負ける気はしないと、 それはもう分厚い魔導書読み漁っては頭に叩き込んだり実戦したりの日々だ。 みんなが休憩している間も古代図書館に入り浸っては勉強の毎日。 お蔭でべつに知らなくてもいいことも頭に叩き込んだりしたもんだから、 やはりと言うべきか…… 実戦のランクより勉学のランクの方が異常なくらいに伸びていった。 EからD、C、B、A、Sになるほどランクがいいんだが、 俺は勉学ランクだけなら既にAだった。 あくまで勉学だけなら。 既に初級中級上級をスッ飛ばして最上級ランクを勉強しているところだし。 藍田 「あいつぁいつも周りに振り回されてたホギッちゃんじゃあ……ねぇぜ!」 丘野 「あれはもはやバケモノの域でござる!」 清水 「物凄い勉強っぷりだぜ……!勉強を教えてくれとか話し掛けたら即答で、     “フン断る”と言われてしまいそうだぜ……!」 田辺 「犬塚孝士殿って呼んでいい?」 遥一郎「全力でやめてくれ」 周りの反応は相変わらずだけど。 しかし空界の勉強をここでやらされるとは思わなかった。 しかしかなり勉強になることも確かで、興味深いこともかなりだ。 ……ただ、歴史の部分が現世に近づいてくるにつれ、 ところどころに“モミアゲ”の四文字が目立ってきてるのは気の所為、じゃ、ないよなぁ。 ───……。 ……。 遥一郎「Der Pfad des Lichtes, dab ich es saume……“シュバルツレイン”!!」 暗い部屋で意識を集中させて詠唱する。 詠唱を終えると同時に手を突き出して魔力を解放! するとその手から光属性の魔法が幾つもの弧線となって飛翔する! それは模擬人形に一撃ニ撃と衝突し、その度に浮かせてゆく。 遥一郎「ッ……ぐ……!」 集中する。 魔力放出を途切れさせないように集中し、 しかし模擬人形を破壊しない程度に威力さえコントロールして。 額に汗が浮き出て、コントロールの度に篭る力が集中力を殺してゆく。 だが耐える。 これはそういう修行だ。 疲れようが魔術行使を途絶えさせないっていうもの。 人体に体力っていうものがあるように、魔力行使でも疲れはもちろん出てくるのだ。 それを鍛えるためにこんな無茶をやっている。 20………………25………… ゆっくりと頭の中の秒針が動く。 記録の更新は完了しているが、だからといってやめるのは惜しい……そう思った時だった。 遥一郎「ッ!?」 目に入った汗の刺激に驚いた途端、魔術は俺のコントロールから外れ、 鋭い刃となって模擬人形を襲う!  ズガガガッゴバドガバガァンッ!!!  ゴトッ……ゴシャシャ…… 遥一郎「あっ……あ〜〜あぁ……ったは〜……」 やってしまった。 集中力を欠いた途端にこれだ。 模擬人形がボロボロである。 遥一郎「…………バンダナでも巻いてみるか?」 で、その惨状に対する感想がコレ。 俺も大人になったもんだ。 遥一郎「いや、そうじゃないだろう……」 やり直しだ。 えぇと、修復魔法は……っと…… 遥一郎「Das Nashorn Sie wer dreht. Mein Wort wird Essen gemacht,     mit Ihrem eigenen Schlag,───……えと、タイムヒーリング」 ココッ……キヒィイン……! 頭の中に叩き込んだ詠唱を唱え、魔法として放つと、 砕けた模擬人形がまるで時間を戻すかのように直ってゆく。 タイムヒーリング……時属性の初級魔法だ。 属性列からして元素以降のものは扱いが難しいので 上級以上にならないと教えてもらえないんだが、一応……俺は教えてもらえていたりする。 まだ扱いの方は完全じゃないために上手くいかないことが大抵だが───ゴパァン!! 遥一郎「…………」 また砕けた。 直そうとして砕いてるんじゃあ意味が無い。 というかTPの無駄だ。 遥一郎「詠唱は間違ってない筈だが……レベルが足りないのか?」 それとも時属性の力自体が俺の中に無いってことなのか……。 いやいや、それ言ったら俺には光属性なんて無いんだから光魔法なんて使えるわけがない。 加護も昇華能力を付加してもらっただけで、加護自体はまだ無いわけだから。 じゃあ…………まあ。 レベルが上がったからって好き勝手に打てるってわけじゃないわけだな、魔法は。 遥一郎「いや、集中集中」 それならつまり、上手くやれば低いレベルでも上位魔法は打てるってことだ。 もちろんTPがあればの話だ。 遥一郎「無駄に詠唱速度にだけは自信があるんだが」 体を動かすのが苦手というか嫌いだった分、無駄にそういう特技ばかりがあった。 早口だとか相手の行動の先読みだとか。 周りに……特に観咲に振り回されっぱなしな中、自分でも忘れかけてた特技だが。 環境って人変えるよな……ほんと。 遥一郎「とりあえず初級は無詠唱で撃てるくらいにまで成長したし。     中級も短縮詠唱で撃てるようにもなった。     上級、最上級、古代魔法、禁呪とかはさすがにまだまだだけど……」 実際に時属性……高位系統の魔法は成功しない時さえあるほどだ。 高位系統魔法は、たとえそれが初級…… 一番簡単なやつでさえ、通常の魔法の中級上級よりよっぽどランクが高い。 失敗すると爆発したりするし、TPが無駄に減ったりするのだ。 遥一郎「……ん。TPも回復したな」 それじゃあ、と。 今度はメニューを変更して初級魔法連発を実行。 しかしそれを何処にも衝突させずに、自分の意思で動かすのが自分なりの練習。 もちろんこんなことマクスウェルは押しててはくれなかったけど、 これは自分なりのアレンジのようなものだ。 初級中級上級、まあ魔法にはまだランク分けされたものがあるわけだけど、 簡単な魔法ほど自分の思い通りに動かせるってことを俺は最近知った。 たとえばファイアボールだが、INTがあればあるほど火球の数が増えたりして、 それを敵に向けて飛ばしてダメージを与えたり、なにかを燃したりするわけだが─── この火球、意識すると案外曲ってくれたりする。 遥一郎「“ファイアボール”!」 早速INTをMAXにしてフィアボールを実行。 頭の中で詠唱に必要な言葉の羅列を響かせて、それだけで詠唱として弾き出す。 無詠唱っていうのはつまり、 如何に自分がその魔法に関して詳しいかが重要になる技術らしい。 頭の中で発動に必要な“言”が揃っていれば、 それを頭の中で響かせるだけでも発動が出来る。 言葉にするよりも頭の中で響かせたほうがよっぽど早いっていう理屈を突いたものだ。 しかしこれが中々難しく─── 人ってのは変化する状況に弱く、最初はそれを発動させるはずだったが状況が変わった、 なんてことになれば頭が敏感に反応してしまうわけだ。 すると別の魔法の“言”が頭の中に現れてしまって相殺。 発動させてみると、ヘンテコな魔法が完成したりしてしまうことがあるってわけで。 可能な限り詠唱は口で唱えたほうがいいというものもあるものの、 だけど人間の口っていうのもこれで案外万能じゃないわけですよワトソンくん。 頭で考えたことがつい口から漏れるように、 今まで詠唱していた言葉が状況に左右されて別の言を咄嗟に口に出してしまう─── そんなことはしょっちゅうだ。 遥一郎「───」 話を戻そうか。 とりあえず放った火球───32個あたりに意識を繋げるような感覚で集中。 すると先頭の火球を筆頭に、 ファイアボールたちがぐるぐると渦を巻くように回転し始める。 とりあえず32個を同時に操るのも平気、と……けどこれ、まとまってるからなんだよな。 いざ分散させて操ろうとしてみると───どごごごごごごごぉおおおんっ!! 遥一郎「あー……」 一個を残して全部あらぬ方向へと飛んで爆発してしまった。 ……上手くいかないことって、本当に人に溢れすぎてるよな……。 とはいえ一個残った火球はふよふよと浮遊していて、 俺の意思通りにひょいひょいと飛び回る。 とりあえずそれを、指をパチンと鳴らすことで炸裂させる。 のちに風の初級魔法を圧縮させて放つと、それを操作して虚空に止める。 遥一郎「よし、そのまま、そのまま……」 次にその板状のような円形のウィンドカッターのようなものの上に足を乗せ、 全体重をかけて上ってみる。 遥一郎「集中、集中……」 次に意識を集中させて、自らが乗ったウィンドカッターを操作……。 すると自由自在に空を滑走する俺の体。 さすがに早く飛びすぎると空気抵抗に耐え切れずに落ちるわけだが…… 遥一郎「魔法もやっぱり使いようだよな」 熱心に勉強してモノに出来ればいろんなことに応用できる。 例えばウィンドアローを幾つも束ねて背中につけて─── さらに集中すると、ウィンドアローの進行方向に自分の体が飛翔する。 まるで背中にミニロケットでもつけた人のような気分になれる。 しかし集中力を切らすと真ッ逆さまだ。 何故知ってるかって、一度試して壁に激突した経験があるのだ。 あの時は魔法じゃなく頭蓋こそが炸裂したのではなかろうかというほどの激痛に、 涙を流しながら冷たい床を転がりまわったので脳裏に鮮明に焼きついている。 もう二度と同じ失敗は起こすまい……。 いやまあそれ以前に飛んでるのが大空だったらまず間違いなく落下して死ぬだろうなコレ。 遥一郎「んー……よし」 再びTPが落ち着くのを待って、杖を振るう。 少しランクが上のものは、 ステータスサポート能力のある武器とか防具をつけていると助かることもしばしばだ。 ちなみに俺の装備は白ババストル装備一式である。 白ババストルっていうのは魔法を得意とする獣の名前で、 こいつを倒しまくって剥ぎ取りまくって製作してもらったのがコレだ。 魔法系統を支えてくれるINTやMNDに+修正が付くので、結構愛用していたりする。 ……見た目はそのまんま、白ローブの魔術師って感じだが。 防御力はもちろん少ないが、まあこれでも結構苦難は乗り越えてきた装備だ。 杖もそう悪いものじゃないものを使ってるし。 杖というかまあ、錫杖だが。 いや、流石に無惨弾とかは出来ないぞ? 遥一郎「Ich wunsche es jetzt zum Energiegeist der Dunkelheit, und respektieren Sie es.     Treffen Sie meine Stimme unter dem handfast einer Vorsehung.     Das, um das ich bitte, ist das Licht der Zersterung.     Die Helligkeit zerstert jene, die bei Hand stehen───」 詠唱と同時に俺を中心に現れた魔法陣が回転する。 それをリズムにするようにつらつらと長い詠唱を唱え、完成へと至らせる! 遥一郎「Ich bin im vollen Stellenhimmelslicht,     und Sie sind in der Stelle, wo sich das Tor des gelben Fruhlings offnet.     In der Vergroberung, Gottes Donner!!」 長く続く詠唱が終わりを告げる。 とともに、景色が暗転してゴコォッキィン!!という音が耳に届く。 遥一郎「───いけっ!《ギィンッ!!》」 杖を向けた先には砕けた模擬人形。  ヂガガォン!ゴガガガガォオンッ!! そこへ鋭い雷が幾重も舞い降り轟音を高鳴らせ、 地面に伝導する雷がその輝きを以って魔法陣を描いてゆく! そしてその雷の魔法陣が完全に出来上がる頃、 上空には巨大な雷の剣が具現されていて、その剣が魔法陣の中心へと突き刺さる! 遥一郎「力の違いを見せてやる!“憤慨せし雷神の審判”(インディグネイト・ジャッジメント)!!」 ついにはそれが巨大な爆発を起こし、 模擬人形はおろかこの訓練場までもを吹き飛ばおぉおおおおおっ!!? チガァアガガギバァッシャアアアアッ!!! 遥一郎「あぁあああああぎゃぁあああーーーーーーっ!!!!」 考え無しに放った古代魔法が、狭い部屋で炸裂すりゃあ吹き飛びもするというもので。 俺は余波だけで粉々に吹き飛んだ魔術訓練室を思いつつ、心から反省するのだった。 もちろんマクスウェル老にたっぷりと叱られつつ。 Next Menu back