───冒険の書134/怒りと鍛錬と黒とジェット───
【ケース383:弦月彰利/沼っ…………!攻略せよ…………深き沼…………っ!】 ゾルゾル……ゾル、ゾルゾル…… 彰利 「ギギギーーーッ!!《カッ!!》」 やあ僕彰利。 今日はここ、魔王殿前から状況をお伝えしますよ? えー……気づけば僕は地の獄……どこか解らぬ地の底の底……! 亡者巣食う地下労働施設に居た…………っ! 彰利 「ああっ……それにしてもっ……!!」 ルナ 「…………《イライライライラ……》」 彰利 (ルナっちが怖ぇえ……!!) はいみんなー、厳密に言うとオイラ、ルナっちと一緒に居たりします。 何故ってそりゃあ、前回中断する時にオイラと悠介とルナっちとで一緒に居たからさ。 で、スッピーの話がホントなら悠介は今頃初心者修練場なわけで、 こうしてオイラとルナっちだけが残されたっつーわけで。 悠介が居ないことに気づくと真っ先にナビいじくってtell発信したんだけど、 どうにも初心者修練場に居る相手にはtellは届かないらしく─── こうしてイライラしとるわけですよ、そこいくこの野郎。 だからオイラも刺激しない程度に斜に構えて、道行くザコ敵をゾルゾルと黒で覆っては、 パキポキと黒の中で食べてるわけです。 いやぁ、この“たべる”のアビリティはなかなかよいですよ? 闇の宝玉のエキストラスキルの暗黒的な部分ばかりを星5つで埋めたら、 新たに現れたスキルだったんだけどね? 彰利 「はぁ……しかしこうパキポキと食べてると、ビエネッタ食いたくなるね……」 懐かしきは幼少の頃。 何故か今は探しても見つからない、当時の僕らからしてみれば超高級アイス。 普通〜にスーパーとかに売ってるわりに、 小僧だった僕の金じゃあおよそ手が出せるものじゃあなかったのだ。 彰利 「……《じゅるり》……うわっ!思い出したら滅茶苦茶食いたくなってきた!!」 思い出してみよう、あの波立つカーテンのようなアイスを。 スプーンを落とすとパキペキとチョコレートが砕け、バニラをクユリと押し裂いて、 やがて口へと運ぶあの美しい食感……。 うわっ!食いてぇ!めっちゃ食いてぇ!! だ、大丈夫だよ!?今の俺なら買えるよ!?贅沢に一本丸々食っちゃえるよ!? 彰利 「うぐぐ……」 いかん……思い出しただけでも口ン中が涎だらけだ……。 やべぇもん思い出してしまった……。 あの頃からエスキモーブランドのアイスは氷菓子の一歩上行く高級アイスだったよな……。 CMとかもスイカバーとかに比べて何処か高貴な雰囲気さえ出してたし。 ハーゲンダッツとかもやっぱり高級だよね?あんなちっこいカップで結構な値段だもの。 だが俺は今ハーゲンダッツなぞよりもビエネッタ!ビエネッタが食べたいのだよチミィ!! 彰利 「そんな時あなたならどうする!?俺なら作る!無理?いいや無理じゃないね!     大丈夫!なにを隠そう!俺は洋菓子作りの達人だ!!」 材料さえあれば作れるさ! 和菓子はちと苦手だが、洋菓子なら自信あるぜ俺! 料理のほうも和洋中といけるが、悔しいことに和だけは悠介に勝てねぇ。 彰利 「あ……でもな。この世界にアイスに適した(ニュウ)
があるかどうか……」 うまティ−の味は全世界に誇っていいくらいに美味いんだが。 彰利 「…………さて、いい加減現実逃避はこれくらいにしときましょうか……」 なんだか夏だってのに気温が下がってきたし。 この場だけ。 あ、でもビエネッタ食いたいのは確かだよ? あれを全部、誰にも分けずに丸々食うのはちっこい頃にあれを見たガキにとっちゃ、 ある意味ひとつの夢なわけですよ僕的には。 彰利 「あ、あのー、ルナっち?」 しかしそんな食へ対する欲求を殺してでも鎮めなきゃいけない冷房があるわけです。 さっきからイヤな殺気を撒き散らかして冷や汗かかしてくれてる彼女がそうです。 ルナ 「………」 彰利 「ルナっちー?」 ルナ 「………」 彰利 「おい人妻《ゾブシャア!!》マオガァアーーーーーーーッ!!!!」 視界が紅蓮に染まった!! め、目潰し!?あ、いやっ、紅蓮じゃなくて真っ黒だ! 黒い!血が黒いよフレンド!! 彰利 「なにしやがってんじゃいオラァーーーーッ!!     振り向き様にサミングってなに考えて───あ、あれ?ルナっち何処……?     見えない……なにも見えないよぅ!!ちょっとルナっち!?敵対心消して!     じゃないといつまで経っても見えないって!!何処ォ!?何処なのグレート!!     くそぅ世界が黒い!黒を糧とするオイラが闇に《ボシャア!》ギャアーーーッ!!     ヒィイなんだか落っこちたーーーーっ!!なにが起こってるのか解らねぇ!!     え!?水!?いやちょっと泥っぽくてドプリとした感触が───ヒィ!!     ギャア底なし沼だぁあーーーーーっ!!!沈む!沈んでゆく!     ハッ!?いや待て本当に底なしなのか!?───よし!今それを調べる時だ!     COOOOOOOOO!!!」 エネルギー充填100%!! 酸素を吸えるだけ吸って、オイラの沼への挑戦は始まった───!! ───……。 ……。 神父 「おお《バゴシャア!!!》うぶるぼっ!?」 彰利 「あれ?」 ふと気づけば教会だった。 で、目の前に神父が居たからつい条件反射で殴ってしまい───あ、あれ? オイラ知らぬ間に死んでた? そしてこれから死ぬ? 神父 「なめたらかんでぇ!!」 彰利 「イヤァアアアアアアアおはようさんがりあぁああーーーーーーーっ!!!!」 ……その後、私は教会の神父様にボコボコにされた。 ───……。 ラーラガラララ〜ンララ〜♪ 彰利 「我思う故に我は……さよならだ(アリーヴェ・デルチ)!!」 ルナ 「………」 やあ僕彰利! 今日はここ、魔王殿前から状況をお伝えしますよ? 彰利 「つーか動け空き缶この野郎!     こげなところで待ってても悠介が来るわけねーべよ!     むしろ旅立つべきでしょう!ええーーーっ!?」 ルナ 「………」 彰利 「うわー……空き缶言ったのに無視ですよ珍しい。     おーいルナっちー?お月さーん?ライトくーん?空き缶?スチール缶?     プラスチック缶?空き缶空き缶空き缶〜?…………人妻〜?」 ルナ 「………」 彰利 「あ、ありゃ?」 身構えつつ言っても、全然反応を示さない。 ただ寂しそうに、主人の帰りをひたすらに待つ犬のようにその場から動こうとしない。 ううむ……ここまで一途なのって物凄く珍しいよね? 犬っていうより猫なルナっちなのに。 いや、あの好きっぷりは確かに犬に近いものがあるけどさ。 ……しゃ〜のない。 彰利 「えー……コホン。あぁーーーっ!     あげなところで悠介がおなごとイチャついてるーーーっ!!」 ルナ 『《ゾゴォッキィンッ!!》───!!』 彰利 「ひぇぁっ!?ぎゃああああああああああああっ!!!!」 その後、私は突如月夜の草原となった空間で封印解除したルナっちにボコボコにされた。 ……やっぱりね、言っていい冗談と悪い冗談があるってよ〜く解った瞬間でしたよ。 ───……。 彰利 「く〜りっく〜りまぁ〜なこぉ〜♪ぱぱぱどっきん♪     だ〜い〜じ〜なに〜んむ〜♪やるぞ兼任♪ウォーーーゥ!!     み〜みを〜〜〜ぅ、澄〜ま〜し〜諜報ォ〜ゥ♪     お〜皿〜♪か〜ぶ〜り〜潜行〜♪マ〜ジ〜寝〜するー♪えぇーーっ!?     ふ〜りっふ〜りし〜ィぽォ〜♪ぴぴぴずっきん♪     あ〜な〜が〜ちい〜まは〜♪恋の運気♪     も〜くし〜♪あ〜の〜娘〜ロックオン♪     しィ〜ッぽォ〜♪振〜ぅってぇ〜ラブアロ〜ン♪     ぜ〜つ〜り〜ん〜ファイアー♪はっ……発射ァーーーッ!!     せ〜か〜い〜は〜ま〜んまぁっ霧の中ぁ〜♪     キ〜ミ〜の〜か〜お〜りを〜っ追ぉっかけてぇくぅ〜♪     探して出してよマーキュリー♪GO!!大事だった宝物〜♪イエイ!!     見っつっけったぁ〜らぁ〜♪あ〜ま〜が〜み〜よぉ〜〜〜♪     その口から垂れるうんうんの前と後にサーをつけろぉっ!サー!イェッサー!」 やあ僕彰利。 今日はここ、魔王殿前から状況をお伝えしますよ? ていうかね、この人やっぱり動いてねぇよ……。 せっかく人が耳元で歌ってやってんのに。 いやでもねぇ……また余計なちょっかい出して死ぬのもねぇ……。 彰利 「……………お待ち?」 そういや何故オイラがルナっちのことかまってやらなきゃならねーのよ。 こやつがここで何をしようが俺にゃあ関係ねーべよ。ねぇ? そうと決まれば善は急げだ〜!マイケルジジーソンのところに戻って修行だべ! それしかねーだべ! ……あ、マイケルジジーソンってのはマクスウェルのことね?名前の由来は特に無し。 ───……。 ビジュンッ! 彰利 「愛……」 遠いとこでも転移で一発! やあ僕彰利! 今日はここ、グラウベフェイトー山の麓にある闘技場からお伝えするよ? マクスウェル『む……おお、来おったか。待っておったぞ』 彰利    「一日千秋の思いで?」 マクスウェル『馬鹿なことを言っとらんで準備をせんか。ほれ、おぬしもじゃ』 藍田    「御意」 彰利    「ありゃ?オリヘルミナさん?」 藍田    「ヘンな名前つけんな!」 彰利    「オイラ思ったんだけどさ、原中ってなんだかんだで変人ばっかだよね」 藍田    「今更だなそれ」 彰利    「……まさか真顔で、しかも即答でそう言われるとは思わなかった」 少しくらい戸惑いを見せるとか、そんなことはないらしい。 流石、原中の中でも一、ニを争う原ソウラー。……なんだろ、原ソウラーって。 藍田 「でもまあそうかもな。普通の人間じゃなかったり死神だったり、     神だったり精霊だったり竜だったり、エロマニアだったり忍者だったり」 彰利 「お、おいおい藍田よ……“オリバだったり”が抜けてるぜ……?     ダメじゃないか、俺達ゃ同じ同胞と書いて“はらから”と読むだろ……?     自分だけ仲間外れだなんて思うなよ……お前は立派なオリバだぜ……?」 藍田 「いや……そんな普通に心配するような顔で言われてもな……」 そんな会話をニ三個、ぽんぽんとキャッチボールしてからジジーソンを見る。 で、見た先のマイケルジジーソンは自慢の髭をサワサワと撫でていて、 俺達の話が終わるのを律儀に待ってくれておった。 マクスウェル『ふむ、終わったらしいのう。では、えー…………』 藍田    「……藍田な。藍田亮」 マクスウェル『ふむ。では藍田よ。おぬしが装備している稀黒装をこの小童に譲るのじゃ』 藍田    「ぃやだぁ」 マクスウェル『(健に似てる……!)そう言わずに渡せぃ。        おぬしにはワシから、別の装備をくれてやるから』 藍田    「モノ貰ってからやないと〜〜……いやや!」 マクスウェル『うぅむ……おぬしらはどうにもワガママでいかんのう……。        おじいちゃんをなんだと思っとるんじゃか……。        ま、ええじゃろ。具足さえあればいいんじゃろう?』 藍田    「おう!……ていうか足のスキルに比べると、        拳のスキルなんて物凄く少ないし」 マクスウェル『うむ。では具足に付加された能力全てをこの具足に移し変えてやろうかの』 言って、ひょいと具足を取り出すジジーソン。 藍田    「それは?」 マクスウェル『いわゆるジェットブーツじゃ。身体速度を速める加護が込められておる、        古の技術で作られた具足じゃよ。時とともにその技術も忘れられ、        今やこの一足となってしまっておるがなぁ……』 藍田    「《うずり……》で、でも……なぁ?」 彰利    「や、そこでオイラを見られても」 マクスウェル『本来ならば本当に長靴のような“ブーツ”だったのじゃがの。        ある一人の鍛冶屋、名匠ギースはカッコよさを追求し、        ついにはこうした鎧の具足状のものを作ってみせたんじゃよ。        どれ、一度履いてみるとええ』 藍田    「お……よ、よっしゃ」 なんだかわくわく状態の藍田クンが、稀黒装を外してジェットブーツの装着にかかる。 で……ジェットブーツを渡す時、ジジーソンがかすかに指を光らせていたりしたんだが。 …………あ、やっぱりオイラ見てニヤリと笑いおった。 しかも平然と稀黒装を俺に渡してくるし。 藍田 「《トンッ、トンッ》うおっ!軽ッ!!すげぇこれ!     こんなに重そうに見えるのにすげぇ軽い!しかも《タタンッ……》おーおーおー!     確かに確かに確かに!うわすげぇこれほんとに足速くなってるよ!」 藍田クンはかなり気に入ったらしい。 軽く小さなジャンプをしたり走ったりしてかなり楽しんでる。 それを余所にオイラは、 +もなにもついてない稀黒装レヴァルグリードを両手両足にグワキィと装着。 すると物凄く体に馴染み、力が押し上げられてくるのを感じた。 藍田 「あー……でもやっぱ九頭竜闘気は無いのか……。     まあいいや、ちゃんと帯熱とか、付加させたスキルは移ってるみたいだし。     ジジーソン、俺これで───オワッ!?」 彰利 「これで完成……パピ!ヨン!!」 稀黒装レヴァルグリードを装備したオイラは、 クルクルと回転したのちにビッシィとポージングをした。 それが丁度藍田がこちらに振り向いたのと重なり、彼はしこたま驚いた。 藍田 「うああーーっ!?て、てめぇなに勝手に人の装備奪っとんじゃオラァーーーッ!」 彰利 「そっちで行こうとしてたからEじゃない」 藍田 「ぜ、全部言う前に先に奪われてるとなんだか複雑なんだい!返せ!返せよぅ!」 彰利 「ホホホやだ」 藍田 「お、おのれぇえええっ!!!」 藍田が何故か悪行三昧を明かされた悪代官のような声を出して襲い掛かったきた! コマンドどうする!? 1:組み合ってビッグフォールグリフォン 2:組み合う前にルービックキューブ張り手 3:この俺様のメイプルリーフクラッチでぇ!あの世へ送ってやるのよォ!! 結論:1 マキィイーーン♪ガシィッ! 藍田 「オワッ!?」 彰利 「ビィーーーッグ!!!マゴッチュゥウウンッ!!! 藍田 「ぶぇっはぁっ!?」 彰利 「フォォオオーーーーーゥル!!!!モゴォッシャァアアアンッ!!! 藍田 「……グヘッ!」 藍田の頭をガシィと掴むと、そのまま天井へ向けて飛翔。 およそ天井にぶつけたとは思えない効果音とともに叩き付け、 しかしそれだけでは終わらせずに藍田の胴体をきつく掴み上げると、 逆さまになって高速横回転しながら床へと落下! やはり床に叩きつけたとは思えない効果音とともに、藍田を叩き付けた。 するとキン肉マンキャラクターのように口から血を吐いてドシャアと倒れる藍田くん。 彰利 「お前は強かったよ……でも、間違った強さだった……」 藍田 「がぼっ……がぼっ……」 彰利 「……あ、あら?藍田くん?藍田く〜ん?」 どうやら打ち所が悪かったらしい。 口と鼻と耳から血を流しながら、 まるでJOJOのスモーキーのようにうつろな目でがぼがぼ言ってる。 彰利 「……気にしナーーーイ!!」 こうなりゃもう忘れることにしましょう。 オイラ知らない。 彰利 「というわけでマイケルジジーソン。なんだってオイラにこの装備を?」 まるで状況から逃げるように質問をぶつけてみます。 でも気になってるのは確かでっせ? マクスウェル『向き不向き、というものがある。        それを身に着けるのはこやつよりもおぬしの方が相応しい。        そう思ったまでのことじゃよ。        確かにこやつはこの装備にかなり慣れてきておったが、        しかし具足部分しか使わんのでは、篭手の部分が持ち腐れじゃ』 彰利    「確かに……ほんに足しか使わんもんね、このオリバくんたら」 マクウスェル『うむ……上手く扱うんじゃな。        その武具の力を引き出せるか否かは使い手次第じゃ』 彰利    「お、押忍……」 使い手次第ねぇ……プレッシャーになることを言ってくれるもんですわい。 しかしこのディアヴォロはくじけない! 稀黒装……見事操りきってみせ───ピピンッ♪ 彰利 「おや?」 マイケルジジーソンがフォフォフォと笑いながら藍田を抱えて歩いていく中、 ふと我がナビにメール……ヒロミ通信が届いた。 しかもオイラ宛てということで、他のお方には届いていないものらしい。 彰利 「………?」 ハテ?と思いつつ開封。 すると───  ◆ヒロミ通信 番外編  稀黒装レヴァルグリードは汝の黒を安定へと導くための補助輪のようなものだ。  今だ真に至らぬ汝の力を、その武具で“底決めする”。  最初こそ少々扱いが難しいかもしれんが、それを扱えきれんようでは器が知れる。  精進しろ。というより汝が鉄クズだと勘違いして譲ったりしなければ、  もっと早い段階で安定化に精進できたものを……  汝はとことん人の期待を裏切るのが上手い。だから釘を刺しておく。  今回ばかりは期待を裏切ってくれるな。この戦、汝の力が必要不可欠だ。  プレッシャーになろうがどうなろうがそれは事実だ。  今まで物事の大半をマスターに任せていた分、次は汝が力の末へと至ってみせろ。  マスターは今も、己を1から鍛えている。  その頑張りに応えられるくらいに上を目指してみろ。  今より汝の異端のゲートを解放する。汝の本体自体と冥界を直結するんだ。  少々負担がかかるかもしれないが、泣き言は聞かん。  この言葉の意味を受け取れるのなら、前を目指してみろ。 …………。 彰利 「ウーヒャー」 思いっきりスッピーからのメールだった。 俺に強くなりんさい、と。 彰利 「泣き言は聞かん……かぁ」 その言葉の意味くらい解る。 スッピーは自分が期待してない存在に、この言葉は絶対に投げ掛けない。 つまり今の自分よりももっと成長してみせろってことだ。 彰利 「……むう!」 だったらやってみせるしかないだろ。 この世界を全力で楽しみながら、しっかりレヴァルグリードの力もモノにしてみせる。 彰利 「………」 篭手を通した手をギュッと握る。 これは補助輪……つまり、今の俺は八翼を持ってはいるものの、 まだ子供レベルにしか能力を扱いきれてないってことだ。 それだけでもかなり力があると思うのに……完全にモノに出来たら、 いったい自分はどうなってしまうのか。 考え出してみたら、胸が踊ると同時にプレッシャーも感じざるをえない。 彰利 「俺の成長度合いが世界の救済に繋がってるなんて……」 空界でゼットと戦う前の悠介も、きっとこんな気持ちだったんだろう。 ……俺は馬鹿だ。 あいつなら出来るって勝手に思い込んで、こんな重苦しい気持ちを知ろうともしなかった。 よしんば知ったとして、それを実行できたかなんてもちろん解らない。 でもこうして周りに期待されて、やってやろうって思えた意志はウソじゃない。 だから……うん。頑張ってみようと思う。 いや、頑張らなくちゃならないんだ。 そのためには……特訓あるのみ! 彰利 「ジジーソン!ちょっと待てジジーソン!修行させれ!俺にもっとハードなの!」 立ち止まった時が心が折れた瞬間だと思う。 だとするなら、俺は休む暇もなく走り続けなきゃやってられないと思った。 正直、俺は悠介ほど芯は強くない。 感情が戻ってからは特にだ。 大事なものが出来てしまってからは、 自分の命を差し出してまで遣り遂げることへの恐怖心っていうものが出来てしまっている。 かつてゼノと何度も死へと直面していた頃なんて、こんなカタチの恐怖なんて無かった。 自分の命で悠介の未来が守れるなら、なんて考えで自爆さえ出来たほどだ。 それが今は……死へのことを考えると、妻の顔や……みずきの顔が脳裏に浮かぶ。 多分これが、親になるってことなんだろうな……なんて、今更理解できてしまった。 悠介は……どうなんだろうな。 【ケース384:弦月彰利(再)/そして歴史は繰り返す】 カラーーーン……カラーーーン…… フェルダール暦4192年……私は、痩せっぽちの18歳で…… 世界は今よりも小さく、単純な法則で成り立っていた。 グラウベフェイトー山独立修行アカデミーは退屈極まりない牢獄のような場所だったが…… 私はそこに……いくつかのオリジナルな、決め事を持ち込むことで、 毎日をそれなりに楽しく彩ることに成功していた。 たとえば……一週間のうち半分は授業をサボるという決め事。 同じ女とは3回以上デートしないという決め事。 何事からも……半歩ズレた位置に立つという決め事。 ようするに私は……18歳らしい18歳で、決められたシナリオも持たず、 毎日毎日……自分の物語をでっちあげて、生きてきたというわけだ……。 彰利  「『メイドさん』の存在は……      過去多くの文献において認められているものであり───」 田辺  「意義あり!真である前提から妥当な推論によって演繹されるもの以外は      知識とは呼べないという定義に基づいて!弦月くんの論説は論説足りえない!」 彰利  「どの考察においても重要なのは、      考察そのものよりむしろ、その考察が占める位置です。……すなわち。      何を先に考え、何を後に考えるべきかを視野に納めない考察は非合理的!」 藍田  「それは学問に対する侮辱以外のなにものでもないぞ弦月くん!!」 彰利  「私はっ!あなたと言葉遊びをするためにここに来たのではない!!」 中村  「なにを言いだすんだこの男は……」 清水  「弦月くん。そもそも崇高なメイドさんなどというものが存在するとしたら、      何故我々と衝突しないのだね?      私にも解るように平明に説明してほしいものだね」 彰利  「何故ならば。崇高なるメイドさんは、      奴隷視されている現代のメイドさんとは異なる次元に生息するもの!」 蒲田  「異端だ!」 藤堂  「ああそうだ異端だ!」 彰利  「聞いてください!私は確かにこの目で崇高なるメイドさんを───!」 佐東  「キミに必要なのは研究資金ではなく……目医者と精神安定剤だよ」 猛者連中『……はっはっはっはっは!ふわっはっはっはっはっはっは!!』 彰利  「……みなさんにお配りしました資料をご覧ください。2ページ目に私の論旨の」 藍田  「もう結構だ弦月くん」 彰利  「まだ何も説明していない!!」 藍田  「キミには……巫女さんの友人が居るそうだね?      巫女さんやら巫女装束やらといった属性は、      知識と理性に立脚するキミのメイドさん考察では裏切りに位置するものだ。      我々の研鑽はそうした旧時代の呪縛から人間を解放することを目的としている。      キミの大好きな、秘伝メイドさん全書の第一条に明記されているのを……      知らない筈は、あるまい?」 彰利  「裏切りではない!伝承には……素となる真実が含まれている!」 藍田  「黙れ弦月彰利!キミを学会から……永久追放する!」 彰利  「なっ……」 田辺  「異議無しぃっ!」 岡田  「異議なしっ!」 清水  「そうだそうだ追放だ!出て行けぇっ!」 彰利  「なっ……何故目を開こうとしない……!話を聞いてくれ!!      っ……!聞いてもらえば解るーーーーーーっ!!!!!」 ゴコッ……バタン……。 ───……。 ……。 彰利 「ばかな……この俺が……追放……?」 なんてことだ……ただ休憩時間のミーティング中に、 ちょっとした息抜きにアカデミーごっこを始めてみただけなのに……。 みんながあんまりにもノリがいい所為で、いつの間にか追放されてしまっていた……。 そりゃさ?メイドさんについてこれでもかってくらいに説明したよ? みるみるうちに皆様の顔が疲れた表情になっていくのも解ってて続けたよ? その結果が……これですか。 彰利 「まあいいや、次の授業まで時間あるし、ちっと自己鍛錬でもしときますかい」 勉強してみて解ったけど、 俺は案外空界や魔法に関しての知識がまるでなかったことに気づいた。 だから……悠介のあとを追いかけるって意味じゃないけど、 こういった勉強もちゃんとしておこうって思った。 急いで上を目指すだけが近道じゃない。 地盤がきちんとしてない積み重ねなんて、いつか崩れてしまう。 だから地道に歩むことで高みに至れたあいつのように、 俺も俺で地道に進んでいこうって思った。 もちろん決めたからってなにもかもが上手くいくわけでもなく…… 俺は、今までろくに勉強もしてこなかった自分を呪った。 悠介の言う通りだ。 先に立つ後悔があればどれだけ楽だろう。 彰利 「でも、気づくことが出来れば」 そんな自分に気づくことが出来れば、まだ取り返しはつくんだと思う。 こうして息抜きに猛者どもと燥ぐのもいいし、真面目に取り組むのもいい。 自分って人間をよく知ってるなら、真面目に生き続けるのはきっと無理だから。 だから息抜きをしながらじっくりと前を見据えるって決めたんだ。 彰利 「……確か、この時間は鍛錬室は自由に使ってよかった……よな」 ここには、それぞれの属性が空気に練りこまれた部屋っていうのがある。 属に言う鍛錬室。 自分に合った属性の空気の中で修行することで、自分の可能性を早く伸ばせる部屋だ。 もちろん俺は闇の部屋にしょっちゅう行くわけだけど─── ブレイバーと違って、メイガスどもは結構いろんな属性の部屋を転々としてる。 特にホギーはかなりの頻度で。 実際、この時間も闇の部屋からなにやら物音が聞こえるし。 彰利 「おーい、ホギー?」 ゴコッ……と石造りの扉を開けると、 案の定暗い闇の世界でホギッちゃんことホギーが魔法の練習をしていた。 遥一郎「ん……ああ、弦月か」 彰利 「そう、俺よ」 胸を張って見下すように自分の胸を親指で指差してみせる。 こういう時に普通にこういう態度を取ってしまうのはもはや癖だろう。 一生直らん気がする。 てゆゥか…… 彰利 「うひゃー……物凄い数の魔法使っとるのぅ……」 遥一郎「今日の自己鍛錬メニューがクラス別の魔法の同時行使だからな……。     初級中級上級……それぞれの魔法を同時にコントロールしてる」 彰利 「うへぇ……」 今にして思うが、ホギーの勉学や魔法に対する意気込みは悠介に近いものがある。 覚えられるものは覚えようってくらいの勢いで、 持ち前の頭の回転の速さで次々と習得していってる。 でも段飛ばしってわけでもなく、覚えたら完全に馴染むまでは次のステップに進まない。 そこらへんの徹底っぷりもかなりすごい。 彰利 「ちなみにキミ……レベルは?」 遥一郎「…………、さっき1029になった」 彰利 「ウ、ウホォゥッ!すげぇ……さすが今や一番修行している男だ……」 ───基礎以上の修行は鍛錬の度合いによってレベルが上がるシステムになってる。 だから修行すれば修行するほど……じゃないな。 それが身に着けば身に着くほどレベルが上がるのだ。 ホギーは戦闘訓練こそ下から数えたほうが早い成績じゃけんど、 勉学、魔法方面は常にトップだ。 しかも2位との差がかなり高い。 だが俺も負けちゃいない。 心に誓った“強くなる”って意識の下、俺は戦闘訓練ではトップの実力を持っている。 ちなみに2位が夜華さんで3位が藍田。 彰利 「しかしキミ、マイケルジジーソンが怒っとったよ?     成長も伸びもいいのは嬉しいが、部屋を破壊せんでほしいって」 遥一郎「うあー……そればっかりはすまないとしか言いようがないんだが……」 トホホイと自虐の溜め息を吐くホギー。 でも中空を浮く魔法にはなんの影響もない。 いやほんと……強くなったもんです。 次々に魔法を弾かせて数を増やして、操れる数を増やしていってる。 それでも魔法の全部が別々に動いていたりして……いや本気ですごいなオイ。 よもや彼がここまでやれるとは……。 彰利 「無詠唱とか出来たりするん?」 遥一郎「初級なら。中級上級はやっぱり必要だ。今は短縮詠唱がせいぜいだな」 彰利 「ワァオ……」 ああそっか……ホギーってばきっと“要領と飲み込み”がケタ外れにいいんだ。 それはもちろん努力の結果で、過去の積み重ね……人間として学んだ時間や、 精霊として学んだ時間があったからこそのモノ。 ちゃらんぽらんに生きてた俺にはないスキルだ。 彰利 「ホギー、ちと訊きたいんだが。     小僧と一緒に居た時も、やっぱ勉強とかってしてた?」 遥一郎「小僧……凍弥か。ああ、それくらいしか得意なのが無かったからな。     授業サボったりするあいつに勉強を教えてた。それと同時に俺も勉強してた。     精霊ってのはさ、案外暇なんだよ。世界の法則に縛られてるわけでもない。     当時の俺はあの桜の樹さえあれば、空界で言うマナなんてものは必要なかった。     学校に行くわけでもなければ、仕事をするわけでもない。     暇だったんだ。だから、やっぱり勉強くらいしか出来ることがなかった。     もちろんそこには料理とかの勉強も含まれてたわけだけどさ」 彰利 「………」 遥一郎「でも、そんな俺でも残してやれるものがあったから前を向けた。     自分って存在が無駄じゃなかったって思えた。     だから俺は凍弥に力を分けてやれることが出来て───それで……それから……」 彰利 「……聞いてもいいか?貴様は奇跡の魔法を使って消えたんだろ?     なんだってこんな風に記憶を持ったままで───」 遥一郎「……お前らの記憶を散々見ておいて言える言葉じゃないけど……悪い。     そればっかりは簡単に言えることでも、誰かに話して聞かせられることでもない」 彰利 「あの時、理由は解らないけど予想なら立てられるって言ってたあれか」 遥一郎「ほんとはさ、予想どころじゃなくて確信だって持てることなんだ。     でも言えるようなことじゃないから濁した。……悪い」 彰利 「……んーにゃ。なんつーか貴様のそういうとこ、嫌いじゃない」 遥一郎「……そっか」 こんな性格を認められたのなんてどれくらいぶりかな、って言ってホギーは魔法を消した。 やがてきちんと俺に向き直ると、口を開く。 遥一郎「ていうかな、真面目そうな雰囲気で人のこと貴様って言うの、やめないか?」 彰利 「断る」 それは、硬くなっていた雰囲気を和らげるには程度のいいトスだった。 ……うん、やっぱこやつ、重くない。 彰利 「じゃ、この話はこれでお終いネ。それで訊きたいことがあるんじゃけど」 遥一郎「へ?なんだ?」 彰利 「おんし、今ランクAだよね?魔法ってどこまで使えるん?」 遥一郎「どこまで、か……とりあえず上級魔法までは安定して使えるようになってる。     ランクもA+で、あと二段階上がればSランクだ」 彰利 「なんとまあ……ほんに勉強だけは得意だったのね……」 遥一郎「さりげなく“だけ”を強調するなよ……で、何しに来たんだ?」 彰利 「もちろん修行!なぁホギー、ちとこの装備でいろいろ試してみたいから、     軽い魔法を撃ってもらって構わんか?」 遥一郎「打ち落としとかか?だったらファイアボールあたりでいいか」 彰利 「オウヨ!」 遥一郎「解った。で……どんな感じで撃とうか」 彰利 「オウ?そりゃおめぇ……バンバカ撃ってくれ!」 遥一郎「解った。“Gesang”(チャント)」 キュィイイイドパパパパパパパパァォオンッ!!! 彰利 「オォオオオオーーーーーッ!!!?」 ホギーがたった一言唱えて指をパチンと弾かせた途端、 何もない虚空から物凄い数のファイアボールが次々と!! す、すげぇ!無詠唱魔法ってこんなに───って多ッ!!多すぎ!! 30や50どころじゃねぇよこの数!! そうこう思ってる間もホギーの足元には次々と魔法陣が出現しては弾け、 火球の数も見る見るうちに……!! 彰利 「ちょ、ちょっと待───ブブブ“ブラックオーダー”!!《ゴキィンッ!!》』 迫り来る火球を前にオーダー解放! きつく握り締めた拳で火球を次々と殴り落としたり蹴り落としたり、 なんだか考えていた訓練のずっと先をゆく状況が出来てしまっていた。 彰利 『うおぉおおお!!来るな来るな来るなぁあああっ!!!』 ドパパパパパパパパパパパパパパンパパァンッ!!! 体をフルに動かして息つく暇もないくらいに動きまわる動きまわる! つーかこれ冗談じゃないよ!? インフィニティ・バレット・アームズを屠竜剣モードで連発されたゼットも、 きっとこんな気分だったに違いねィェーーーーッ! 彰利 『ス、ストップストップ!ちょっと待ってセニョール!!』 遥一郎「───」 オイラの言葉にパチンと指を鳴らすホギー。 するとその場にあった火球の全てが消滅する。 うおお……完全に操ってやがる……! 彰利 『はぁ〜……疲れるわけじゃねぇけど、あの量はちとシャレにならんぜ……』 遥一郎「言った通りにしただけだぞ?」 彰利 『いや、そげなしてやったり顔で言われてもね……キミ案外腹黒いだろ』 遥一郎「腹黒いは適当じゃない気がするけどな。悪戯心なら人並みに持ち合わせてるぞ?     大体、一度にどれだけ出せるかも確かめないでバンバカ撃てって言うほうが悪い」 彰利 『ウ、ウググムー』 それ言われるとオイラは辛い……とても辛い。 彰利 「ふぅむ」 まあとりあえずまずはオーダー解除。 そうしてから篭手と具足を見て、一人頷く。 彰利 「いやはや、かなり驚いたけどこれが物凄く扱いやすいのはよ〜く解った。     ちくしょう藍田め、イイモン装備してやがって」 そもそもあげたりなんぞしなけりゃ、オイラがつけてられたのかもしれんけど。 でもそれ以前に加工の仕方が解らんかったしなぁ。 彰利 「ん〜……んっ!《ゾゾゾゾゾゾゾゾフィィンッ!!》」 試しに力を込めて、武具の能力で九翼を出してみる。 次いでストック解除のオーダーを発動させて八翼を重ねてみると…… 彰利 『オッ……翼がかなり大きくなりましたな』 なんだかステキ。 でも一本……いや一翼だけはやっぱり普通のままだ。 そりゃそうよね、オイラまだ九翼の解放に成功してないし。 彰利 『いやしかしいいねぇこれ!TP半分消費で九翼引き出せるんだから!』 単純な威力だけなら、稀色系武具の中では一番強いんじゃないかね? いや、攻撃力だけって言うならゼットの斧も相当だろうけど。 彰利 『なぁホギー?いっちょオイラとバトってみねぇ?』 遥一郎「フン断る」 彰利 『うおすげぇ断られ方!!なにキミ考士クン!?犬塚クンなの!?』 遥一郎「修行も満足に纏まってないのに戦いなんて出来るかよ。     戦闘経験っていうのも大事だろうけど、     それ以前に地盤を固めないとやってけない」 彰利 『グ、ググーーー』 こ、こいつ……!見た目よりしっかりしてやがる……! よもや諭されるとは……! これが頭のいいヤツと悪いヤツの違いだとでも……いうのだろうか……。 彰利 『グムー、よし解った!じゃあオイラもここで瞑想していくわ!     潜在的な力を底上げするにはやっぱ基本強化だもんねぇ!     ……じゃ、俺は月操力の強化でもしてみっかね……』 俺の原点はそこじゃけぇ。 じゃあお邪魔して座禅でも組みますかい。 ……オーダーは解放状態のままで。 Next Menu back