───冒険の書137/水の愛物語【前編】───
【ケース388:晦悠介(再)/ヒューマニックガリバー・対話篇】 キュキィイイインッ……ビジュンッ! 気づけば俺は地の獄…………どこか解らぬ地の底の底…… 亡者巣食う地下労働施設に居た…………っ! などと彰利チックなボケをかましてる場合ではなく。 悠介 「………」 降り立った場所は静かな教会だった。 寂れていて、礼拝者もなにも居ない、無人の教会。 俺とディルゼイル以外に人は居ないようで、ただ酷く静かだ。 悠介 「ん……」 時々耳を掠めるのは波の音と鳥の声。 教会の中からじゃあ外の様子は解らないが…… 鼻にも届く海特有の潮の香りを嗅ぎ取るに、どうやら近くに海があるのは確実らしい。 悠介 「若葉たちは……」 さっき確認した通りだ。 ここには俺とディルゼイルしか居ない。 どうやら別の場所に飛ばされたようだ。 ディル『……外に人の気配がする。一人のようだ』 悠介 「外か」 言って、やっぱりボロが入った教会の天井を見上げる。 上も下も誇りだらけだ。 もう長いこと誰も手入れしてないんだろう。 外に居るやつっていうのも多分旅人か、 近くに村があるとしたらそこから来た誰かだろう。 そう思いながら教会の外に出てみる……と、そこには見晴らしのいい景色が広がっていた。 悠介 「へぇえ……」 どうやらここは岬の上に建つ教会だったらしい。 位置的には灯台があった方が似合っているような場所にある。 けど、周りを見渡しても村の一つも……あった。 おまけに、疑ってたわけじゃないが確かに男性が一人で岬の下側から水平線を眺めていた。 ……やっぱり俺、完全に気配察知能力も無くなってるな。 とことんまでに最初からだ。 そんな状況の中で、 変化の指輪と雄牛王の戦斧石を手に入れられたのは運が良かったとしか言えない。 そりゃ、欲を言えばギガノタウロスの戦斧石が欲しかったが─── なんだろうな、そんなにどころか全然悔しくないんだよな。 悠介 (ほんと、なんでだろうなぁ……) ほとんど苦笑気味に歩きながら、 恐らくイベントスイッチであろう男性に話し掛けてみることにした。 男性 「……もう朝だ……今日もまた、私はキミを想ってここに居る……」 で、話し掛けた途端に他人には理解出来ない言葉を発する男。 なんのことだろうか。 悠介 「………」 話を続けるべきだろうか、無視するべきだろうか。 というかな、ノートよ。 俺に守りたいものを守ることをやめさせたいなら、こういうイベントは逆効果じゃないか? ファンタジーのイベントっていったら、誰かを助けるとかが主だろうに……。 悠介 「……違うか」 男性 「……?なにか?」 悠介 「ああいや、こっちの話だ」 そう、違う。 逆効果がどうとかなんて関係ない。 人を救っていく上で、それでも自分が自分としてあれるかどうかは自分自身の問題だ。 それを誰かに向けて逆効果だのと言うのは間違ってる。 俺は、俺がしたいように、けれど信念だけは曲げずに進んでいけばいい。 俺を信じて契約してくれた精霊たちに応えるために。 今度こそ守りたいものを守るために。 俺が守りたいのは世界中の人じゃないんだ。 少なくとも当時の俺は、自分の周りにある日常って世界を守りたかった。 そして、その日常となっていたのが親友である彰利だ。 心に焼き付けろ、晦悠介。 俺が守るべきは日常であり、それを守るために……俺は力を欲する。 悠介 「………」 大きく息を吸い、吐いた。 後先のことなんてもう考えない。 今はこの曲らない一本の芯が意志と体を繋いでいてくれれば十分だ。 悠介 「っ」 やがてキッと男性を見る。 決意を秘めた心は高ぶりを見せ、それを見ていた男性は─── 男性 「なっ、なんですかいきなり、睨んできたりして……」 ……地味に怯えていた。 ───……。 ……。 話を聞くに、男性はここから見える村出身らしく、ずっとそこで暮らしてきたらしい。 で、何故こんなところで水平線を眺めているのかと訊けば─── ホツマ「私には……将来を誓い合った女性が居ました……。     その女性……ミセナは私の幼い頃からの友達で、何をするのも一緒、     何処へ行くのも一緒な……お互いの一番の理解者であり友達でした」 悠介 「色恋か……訊いておいてなんだけど苦手なんだが……ああ悪い、それで?」 ホツマ「ある日私が告白すると、やっと言ってくれたと彼女は泣いて喜んでくれました。     私も嬉しかったし、なにより今まで一緒に居た彼女が、     これからも一緒に居てくれるという事実が胸に暖かかったのを覚えています。     しかし……幸せになれる筈の私たちの未来は、     あまりに残酷な形で幕を下ろしたのです……」 悠介 「……まさか……死んだ……?」 ホツマ「な、なにを言い出すんです!彼女は死んでなんかいません!!」 悠介 「あ……悪い」 言い回しがあまりにもそっち方面に向いてる気がしたし、 なにより俺の経験が残酷とか言われた途端にそういう結末を思い浮かべてしまった。 ホツマ「彼女は確かに私の幼馴染でした。でも産まれた頃から一緒だったわけじゃない。     ……彼女はここから海を渡った先にある水の神殿の巫女だったんですよ……。     当時、その神殿に魔物が現れたため、産まれたばかりの赤子を僕の村に預けた。     その赤子が成長した姿が彼女であり、私なんかとは身分が違いすぎる相手だった」 悠介 「で……その巫女とやらは神殿に戻ったのか?」 ホツマ「最後まで嫌と言って、私の傍に居ると言っていた彼女ですが……     その神殿はね、あの村だけじゃない……     この世界の水の安定を司るとされるウンディーネの神殿なんです。     巫女は精霊ウンディーネの言葉に従い水を清め、     人々を救う力を生まれつき持つと言われていて……     そんなことを聞かされたら、私は彼女の背中を押してやることしか出来なかった」 悠介 「ウンディーネの……神殿?」 待て。 ウンディーネの神殿っていったら、地下水脈のさらに地下の神殿にあった筈だ。 それが……海を跨いだ先にあるって? 悠介 「………」 ナビを起動させてマップを見てみる。 が───現在地から海を渡ったところにウンディーネの神殿はない。 あるのは“朽ちた神殿”という名の場所だけだ───! そんな結論に、頭の中がザワついた。 悠介 「───その女性が海を渡っていったのはいつだ!?」 ホツマ「えっ……四日前で……」 悠介 「海を渡る手段は!?」 ホツマ「む、無理ですよ……神殿には許可された者───     神殿から来る船に迎えられた者しか行けない決まりになっていて……!」 悠介 「そんなの知ったことじゃない!     あのな、海を渡った先にウンディーネの神殿なんて無いぞ……!?     ウンディーネの神殿があるのはもっと南だ!     この先にあるのは朽ちた神殿だけで、そこにはもう……誰も存在しちゃいない!」 ホツマ「───!じゃ、じゃあ彼女を迎えにきたあのフードを目一杯被った使者たちは」 悠介 「その時点でなにかおかしいとか考えろたわけっ!     ていうか使者の顔くらい見ておけ!」 といっても、見たところで白骨かゾンビあたりを見るハメになるんだろうが─── 悠介 「村に船くらいないのか!?」 ホツマ「こ、この海は神聖なものとされていて、     漁をすることはおろか、船を出すことも禁じられていて……!」 悠介 「かっ……!頭を抱えるくらい愛しかったなら戒律破ってでも守り通せ!     その女性はお前に背中を押されたくて     “行きたくない”って言ってたわけじゃないだろうが!」 ホツマ「だ、だって……だって仕方ないじゃないか!     使者に逆らえば水の呪いが降りかかるって、     私達の村ではずっと昔から伝えられてきたんだ!     僕はただ村を守りたかったんだ!彼女が愛してくれた村を……!」 悠介 「っ……聞いてるだけでも……こんな俺でも理解出来るっていうのに……!     あのなぁっ!そいつは村を愛してたんじゃない!     “お前が居る村”を愛してたんだよ!お前が頷いていたなら、     村を捨ててでもお前と一緒に逃げることだって望んだ筈だった!違うか!?」 ホツマ「───!……っ……う、うぅう……!」 悠介 「先に立つ後悔なんてありはしないんだ……!     だから最悪の状況にだけはならないようにって頑張って生きてる……!     お前の彼女が望んだ状況ってのは、     お前とその彼女がこうして離れ離れになるような未来じゃなかった筈だろ……?」 ホツマ「わ、私は……私はなんていうことを……!」 ……いや、こんなところで問答している場合じゃない。 最悪、魔物に連れ去られて殺されているかもしれないが、 だからってそう思っただけで見捨てるなんてことが出来るわけがない。 悠介 「……村に大工でもなんでも居ないのか?」 ホツマ「居る……居るけど、急に病に……。最近、村の様子がおかしいのです。     急に病に侵されたり、倒れたり……」 悠介 「……水の加護が聞いて呆れる。解った、村の方になにかを望むのは無理らしい。     何処か神殿に通じる道とかを知らないか?」 ホツマ「いえ……───……あ、いえ……」 悠介 「……?なにか知ってるのか?」 ホツマ「あの……随分昔のことで、よく覚えていなくて……。     彼女と遊んでいた時のことなんですが、     ある洞窟のような場所に行って……そこはもうずっと前から行き止まりで、     けれど壁に妙な紋章が描かれた場所だったんです。     子供の中では一番にそれを見つけた私は、     他の子には内緒で彼女だけに教えてあげたんです。そうしたら……」 悠介 「そうしたら……?」 ホツマ「彼女がいつも首にぶらさげていた……宝石、でしょうか。     それが光って、同じく光りだした壁の紋章が割れて、道が開いたんです」 悠介 「道が……?」 ホツマ「はい……なんだか怖くなって、それから一度も足を踏み入れてなかったんですが」 悠介 「………」 考えたって仕方ない。 他に行く道が無いんじゃあ、そこに行ってみるしかない。 悠介 「筏を作って海を渡る方法は無理か?」 ホツマ「はい。神殿の前には魔法で作られた渦があるらしく、     それは神殿に住む司祭にしか解けないと言われています」 悠介 「……そっか」 多分なにかしらの言葉によるスイッチがあるんだろう。 けど俺達にそれは解らない。 っていうことは、ますます洞窟方面から行くしかないらしい。 悠介 「それでも、その宝石っていうのは───」 ホツマ「はい……彼女が神殿へと向かう前、私に渡してくれた……これがそうです」 チャラ、と宝石を見せてくれる。 軽い首飾りのようなものであり、深い蒼が輝いていた。 悠介 「……ん。じゃあ確認したい」 ホツマ「確認……?」 悠介 「俺はこれからその洞窟に行って、     もし通じてるなら神殿に乗り込んでその女性を助ける。     正直、魔物に攫われた人間が無事かどうかと聞かれたら不吉なほうを連想する。     でも、たとえそうだとしても無視することは出来ない。だから行く。     ……だからお前にも訊く。お前は一緒に来るか?それとも待ってるか?」 ホツマ「───……決まってます、行きますよ、私は」 悠介 「悲しい現実をその目で見る事になるかもしれない」 ホツマ「それでもです。約束したんですよ、二人で。     いつか自らに死が訪れた時、必ず生きた自分が相手を看取ろうって。     だから……辛いとしても、約束だけは守りたい。     もちろん私は彼女が死んだなんて思ってませんが」 悠介 「……そっか」 じゃあ迷うことなく進むだけだ。 とはいえ…… 悠介 「あー……お前、戦える?」 ホツマ「え?あ、はぁ……一応狩人を生業としてますので……」 狩人か……それなら安心だ。 不安だった要素が少しでも解消されるなら、言うことなんてない。 悠介 「じゃあ後方支援は任せた。俺は……一応剣士ってことで」 といっても持ってるのはロングソードなんだが。 変化の指輪でいろいろ無茶は出来そうだが、流石に無茶をして壊したくはない。 悠介 「ふむ……」 一応確認のために、変化の指輪に調べるを実行。 バージョンアップで“壊れる要素”が無くなってくれてたりすると嬉しいんだが……  ◆変化の指輪───へんかのゆびわ  へんげではなくへんか。手で包めるものを別の何かに変化させる指輪。  しかし材質までは変えられない。(バージョンアップ以降追加項目)  例えば石をランスに変えた場合、石の槍になるなど。  しかしあまり壁らしい壁はなく、草を剣に変えたり、石の根を作ったりと応用が利く。  草の剣の攻撃力は、うっかりすると指に小さな切り傷が出来る程度。あまり使えない。  手で包み込めれば大体のものは変化できるものの、  変化後の物体の希少価値や効果の度合いによって指輪が破損することもある。  許容範囲を見極めて使っていこう。  *補足:実はアクセサリー系統も合成できるらしいが、      普通の合成屋やペリカンでは合成出来ないらしい。(バージョンアップ仕様) あー……やっぱり壊れるのか。 知る前より知ってしまったあとのほうが怖いもんだな……気をつけないといけない。 と、思いながらももう走っていた。 さすがに何処に行けばいいかまでは解らなかったから、男性……ホツマを先導に。 【ケース389:晦悠介(再々)/ヒューマニックガリバー・念話篇】 ホツマ「はっ……はぁっ……こ、ここ、です……」 やがて辿り着いた場所は、鬱葱とした茂みの奥に隠されたじっとりとした洞窟だった。 奇妙なもので、 海からは相当に離れた場所にあるっていうのに、ここには潮の香りが満ちている。 つまりここは海が近い場所、もしくは洞窟の先に潮が流れる場所があるということだ。 ホツマ「えっ……と…………!」 俺はプレイヤーだから走っても疲れないが、やっぱりNPCは疲れるらしい。 汗をだらだら流すホツマは息も絶え絶えに、 首から提げた宝石を紋章が刻まれている壁へと翳す。 と……ゴコッ!という音を皮切りに、ゆっくりと壁が左右に割れてゆく。 悠介 「……、」 途端に、物凄い潮の香りが溢れ出る。 充満するにしてもほどがあるだろっていうくらいだ。 ずっと塞がれていたのか、それとも対面する方向に出口がないのか─── いや、空気が無いってわけでもないらしい。 つまり空気穴はあるって考えられる。 その空気が、今ここを開けたことで流れた空気だっていうなら辛いところだが。 悠介 「よし、行くか」 ホツマ「はい」 チャラ、と宝石を服の中に仕舞うホツマが変わらずの敬語で返事をする。 こういうヤツは多分言っても直してくれないんだろうから、そのままいくことにした。 潮の香りが高い、湿った洞窟の中へ。 ───……。 ……。 走る音が洞窟の中に響き、洞窟を巡っては自分の耳に戻ってくる。 悠介 「どっちに向かえばいいかは───すまん、流石に解らないよな」 ホツマ「すいまんせんっ……はっ……     お話した通り、ここを開けたのは子供の頃以来なので……!」 そうだ。 加えて、当時は怖くて逃げ出してしまったそうだし。 悠介 「くそ……いくらなんでも道が分かれすぎだろ……」 自然に出来た鍾乳洞ではあるものの、自然故にあまりに自由に穴ができていた。 当然、どちらに行けば何処に繋がっているなんていう親切な立て札なんてものはない。 悠介 「………」 風が吹いていないかと立ち止まってみても、風の一切も無い。 これは本格的に困った。 うっかりしていると出られなくなりそうだ。 声  『…………、……』 声  『……、……』 ───? 声だ。 声が……何処から? 声  『ラケケケケ……どれくらいぶりだろうね、モルス』 声  『ルケケケケ……どれくらいぶりだろうね、メルス』 悠介 「───!上か!」 バッ、と、あまりに高い天井を見上げる。 と───同じ長さの対を成す鍾乳石に、逆さに捕まっている魔物が居るのに気づく。 モルス『気づいたよ気づいたよモルス』 メルス『気づいたね気づいたねメルス』 形状で言えばグレムリンのようなもの。 その二体はラケケケケ、ルケケケケと笑って、赤い目で俺達を見下ろしてきている。 モルス『どうしようかね、モルス』 メルス『どうしようかな、メルス』 モルス『どうせ一度入ったら出られないからね、モルス』 メルス『どうせ一度入ったら出られないからさ、メルス』 モルス『散々疲れさせて、それからゆっくり食べようか、モルス』 メルス『散々疲れさせて、それからゆっくり食べようね、メルス』 赤い目のバケモノは再び笑うと、スルスルと鍾乳石を伝って天井に見えなくなっていった。 これは…… ホツマ「い、いまのは……?はぁっ……はぁっ……」 悠介 「モンスターだな……多分、ここに住む番人みたいなものだ」 ここから天井までは結構距離がある。 それなのに小さいと感じなかった外見から察するに……容姿に反して結構デカい。 けどこのままじゃ埒が明かないのも事実だ。 だったらどうするか?簡単だ。 あいつらをなんとか下に下ろして、出口を吐かせる。 悠介 「とは言ったが……」 あいつらが今何処を這っているのかなんて解らない。 イーグルアイが使えれば見つけるのに難儀なんてしないんだが…… 何か衝撃のようなものを徹して落とす……いや、ダメだ。 そこまでの力が今の俺にはないし、 もし出来たとしても天井が崩れて生き埋め、なんてことになりかねない。 やっぱり虱潰しに洞窟の先に向かうしかないのか……。 悠介 「大丈夫か?」 ホツマ「はぁっ……は、はい……!なんとか……!は……はぁ……はぁああ……。     それにしても……あなたはどういう体力をしているんですか……?     これだけ走ったのに息切れもしないなんて……」 悠介 「それはちょっと言えない。それで、お前にちょっと訊きたいことがあるんだけど」 ホツマ「はい……?なんでしょう」 悠介 「狩人の勘かなにかで、なんとか次に向かえばいい場所とか解らないか?」 ホツマ「それはちょっと……。狩人が追うのは獲物であって、道ではないので……」 悠介 「そか……って」 追うのは獲物……? あ、そうか。 悠介 「じゃあその狩人の勘で、     さっき天井に上っていったモンスターが何処に居るのかとかは───」 ホツマ「さっきのモンスターですか……───ん……」 ホツマが天井を見上げる。 元々光が少ない鍾乳洞だ、 見上げて遠い天井は、途中から闇に覆われるように見えなくなっている。 けどホツマはそんな中でしっかりと─── ホツマ「真上……ですね。蠢くなにかが辛うじて見えた気がします」 モンスターを見つけてくれた。 そうだよな、一緒に来てくれるNPCがそうそう役立たずだったら困りすぎる。 悠介 「ディル」 ディル『承知』 さっきからずっと肩に掴まっていたディルゼイルが飛翼をはためかせ、宙に舞う。 そうしてから天井を見据え、口に風のブレスを集中させる。 覚えたてのソニックブレスだ。 悠介 「ショット!」 ディル『ルォオオウッ!!』 ゾキュウウウゥンッ!!!! 鋭く風を裂く音がした。 目に見えるほどの空気の塊が天井へと鋭く放たれ、やがて見えなくなると爆発を起こした。 それとともに───ドチャチャアッ!! モルス『ギャギャッ!』 モルス、と呼ばれていたほうの赤い毛の猿の化け物みたいなヤツが落ちてきた。 モルス『ラケケケケ……!食料が牙剥いた、食料が牙剥いた……』 メルス『ルケケケケ……!食料が楯突いた、食料が楯突いた……』 モルス『食べちゃおうか食べちゃおうか、モルス』 メルス『食べちゃおうね食べちゃおうね、メルス』 次いで、壁を這うようにメルスと呼ばれた茶色の体毛の化け物猿が降りてくる。 心底どうでもいいが、喋り方がいちいち鬱陶しい。 ホツマ「ど、どうするんですか……?」 悠介 「ある程度ダメージを与えて動けなくさせてから道を訊く!援護頼む!」 ホツマ「そ、そんなっ!狩猟銃は家に置いてきたままですよ!?無理です!」 悠介 「馬鹿ぁああああーーーーーーっ!!!!」 こいつは本当に助けに行く気があったんだろうか……。 そんなことを、呆れる中で考えていた。 けど……銃? 悠介 「この世界に銃なんてあるのか?」 ホツマ「こ、こんな時になに言ってるんですか!あ、いえ、必要なら話しますけど!     古代の遺産として妙な形のものが出土されて、     それを素に開発されたのが銃───ってこんなこと誰でも知ってますよ!?」 悠介 「俺は知らなかった!」 ということはバージョンアップで、 レンジウェポンに銃が追加されたって考えていいってことか。 モルス『ラケケケケ!!』 メルス『ルケケケケ!!』 モルス『メルス、こいつらワレラとやる気!』 メルス『モルス、こいつらワレラとやる気!』 モルス『おかしいねおかしいね!ラケケケケ!!』 メルス『おかしいなおかしいな!ルケケケケ!!』 悠介 「やかましい」 ジュゴォンッ!!! モルス&メルス『モルスァアアーーーーーーーッ!!!』 うざったらしくなる喋り方に怒りを燃やした俺の心が空飛ぶ飛竜に届いた。 フサフサしていかにも燃えやすそうな猿はディルゼイルのファイアブレスを受けて炎上。 いや……というか、普通こんなジメジメしたところじゃシットリしてるもんじゃないのか? なんて思っているうちに猿どもは火を消すと、俺達を睨んだ。 モルス『我慢できない我慢しない……食べちゃおう食べちゃおう』 メルス『ルケケケケ……!!』 悠介 「離れてろっ!来るっ!」 ホツマ「で、ですが!」 悠介 「戦闘に参加出来ないなら自分だけでも守っててくれ!     そっちを守ってる余裕なんて無さそうだ!」 ロングソードを構える。 とはいえ、初期装備のままで突っ込んだのはあまりにも無謀だったと後悔する。 けど、それをしていた所為で助けられなかったなんて結果は冗談じゃない。 モルス『ラケェエーーーーッ!!』 悠介 「───!」 モルスの攻撃───鋭い爪で襲い掛かってきたそれを、剣で滑らせるようにしていなす! モルス『ラケッ!?』 メルス『変わった技術持ってる持ってるルケケ!でも隙だらけ隙だらけ!』 悠介 「《ザスゥッ!》づっ……!」 いなしたまではよかった───が、相手は二体。 同時にといかないまでも、連続して攻撃されては間に合わない。 くそ……本当にとんだパワーダウンをしたもんだ。 メルス『ルケケケケ!お前馬鹿お前馬鹿!』 モルス『一人で二体に勝てる気か!?馬鹿!馬鹿!ラケケケケ!!』 二体の巨大猿が笑う声が洞窟に響く。 確かにこっちは一人……だが、一人だけってわけじゃない。 悠介 「……ディル、援護を頼む」 ディル『解っているぞ王。行動パターンの予測は済んでいる、任せてもらおう』 そうだ、こっちにはディルが居る。 誰が食料になんてなってやるもんか。 モルス『そんなちっこいのがなにするのなにするの!?』 メルス『そんなちっこいのがどうするのどうするの!?』 ロングソードの柄を握り締めるのとほぼ同時に猿どもが飛び跳ね始める。 俺はそんな動きの中で、猿が跳躍の頂点に差し掛かった時点で疾駆を開始。 落下時にあわせるようにして懐に潜り込むと、剣を振るう!  ヂギィンッ!! モルス『だめだねだめだね、斬れない斬られない!』 しかしその攻撃も、落下時に構えられた足の爪によって受け止められてしまう。 爪っていったって、硬さに限度ってものがあるだろうにまったく……! 俺は苛立ちとともにギャリンとモルスを宙に弾き飛ばすと、さらに構えて疾駆する。 モルス『無駄だね無駄だね!何度やっても無駄だね!』 メルス『一度目は様子を見てあげたけどもうダメだね!無駄だね!』 モルス『一口で食べてあげるよ一口で!』 メルス『千切ってゆっくり食べてあげるよバラバラに!』 モルスとメルスが並び、走る俺へと跳躍しながら襲い掛かる───が。 ヂュバァンッ!! メルス『メルモッ!?』 メルスの体が、ディルから吐き出されたソニックブレスに弾かれる。 それに意識を摂られたモルスは無防備なままに俺のもとへと落ちてきて─── 悠介 「散々、無駄だ無駄だって言ってくれたな!」 モルス『ラケッ!?』 剣を握る手に渾身を。 今俺の中にある全てのステータスをSTRに託し、 経験の中から一番力が出せる構えから剣を振るってゆく! モルス『何度でも言ってやるさ!何度でもラケケケケ!無駄だよ無駄だよ!』 それに合わせて、今度は両手の爪で防ぎにくるモルス。 確かに通常の状態でも傷のひとつも付けられなかった俺の攻撃だ。 STRに全てを注ぎ込んだからってなにが変わるわけでもないかもしれない。 けど、だからってなにもしないで諦めるのは───俺の性分じゃない!! 悠介 「だったらそんなお前に俺が言ってやる!!」  ゴカァアアアアアッ!!! モルス『ラケッ!?』 振るう剣に紅蓮の光りが灯る。 これは───見間違う筈もないこの光りは───! 悠介 「寝言はァッ……寝て言えぇえーーーーっ!!」  ゾガァバシャァアッ!!! モルス『クギャアアアアアアーーーーーーーッ!!!』 受け止めようとした爪が剣と衝突した瞬間───少しの抵抗もなく爪は斬り裂け、 その先にあった手から腕、肩、胴体までを、紅く灯った剣が斬り裂いた。 モルスはそれにより、地面に落下するより先に塵と化し─── それに驚愕したメルスが状態解除をし、 最小化をキャンセルしたディルゼイルに喉を噛み切られ…… その傷口からファイアブレスを注入され、炎上して塵となった。 悠介 「ふぅ……《ギピピピピピピピンッ♪》……お?」 レベルが上がった。 ……そりゃそうか。 普通、初心者修練場を出てからいきなり戦うような相手じゃあなかった。 戦斧石が反応を示してくれなきゃ絶対死んでたよな、あれ……。 ディル『不思議なものだな、王よ。その石、どうやら私の力をも向上させるらしい』 悠介 「やっぱりか」 どの道、これが無かったら負けてた戦いってことだ。 それを思うと少しゾッとした。 ホツマ「た、倒したんですか……?」 悠介 「ああ、もう出てきても大丈夫だ」 ステータスを今必要なものにだけ分け直して、ホツマを呼ぶ。 ディルゼイルは再び最小化を行使すると俺の脇を飛び、周りに神経を集中させ始めた。 ……そうだよな、最初からディルゼイルに索敵を頼んでおけばよかったんだ。 でもそうなるとホツマの存在意義が……なぁ? ホツマ   「それで……出口はどっちに……?」 悠介&ディル『しまったぁあーーーーーーーーっ!!!』 で……途中から目的を忘れ、つい勢いでコロがしてしまった自分に気づくとともに絶叫。 神様……俺は本当に馬鹿なんでしょうか……。 Next Menu back