───冒険の書138/水の愛物語【中編】───
【ケース390:晦悠介(超再)/ヒューマニックガリバー・電話篇】 ───結局、あれからの俺達はディルゼイルに頼ることになったわけだが…… 風の流れがとにかく無いから、ディルゼイル自体も結構戸惑っていたことを伝えておこう。 しかし嗅覚や気配察知などを頼りに示された場所へ、 促されるままに突っ込んだ俺達は、それはもう大変な目に遭った。 というのも行く先々がモンスターハウスであったりトラップルームであったりと、 ろくな結果にならなかったからである。 結局は原始的に虱潰しになってしまったわけで、 俺達は右手の法則を頼りにとことんまでに徹底に、しかし全速力で出口を探し回った。 その結果が……これである。 悠介 「どれだけ引きが悪けりゃこんな結果になるんだよ……」 辿り着いた最後の通路が正解だった、なんて……。 逆周りに行けば一番に通った道じゃないか……。 ああいや、今はいい……丁度いいレベル上げにはなったんだからな……。 現在31レベル。 初心者修練場から出てきてから既に11レベルが上がった俺だが、 それでも以前の感覚にはほど遠いという自覚アリ。 などということを長い長い通路を走りながら思ってるわけだが─── そんな思考の途中で思い返すのは30レベル記念に引きずり込まれた水晶の空間。
【Side───30レベル時に引きずり込まれた水晶空間にて】 悠介 「……」 小さく、またここか……という呟きが漏れた。 誰のものでもない、俺が発した溜め息めいた言葉である。 水晶 《よくぞ来た、創造───》 悠介 「すまん来る場所間違えたそれじゃあな」 水晶 《待て》 悠介 「《ゾリュンッ!》ぐおおおおお!!離せ!離せえぇえっ!!」 スチャッと軽く手を持ち上げてとっとと逃げようとしたが、 真っ白な床から伸び出たなにかが体に巻きつき、行動の一切を封じられた……。 水晶 《よくぞ来た、創造者よ》 悠介 「………」 捕まった状態で改めて言われるのって物凄く情けないんだが? 水晶 《ここは創造の聖堂なり。頂きを目指す者よ、我が名はアストラルケイジ。     古に絶えた創造の技法を記憶石に封じ込め、後世に残す者なり》 悠介 「それで……そのアストラルカイジなんの用だよ……」 カイジ《カイジではない、ケイジだ》 悠介 「どっちでもいいだろ……いや、カイジだよ。お前もうカイジでいいよ……」 カイジ《どちらでもいいなら本名を呼べ》 悠介 「すまん、アストラルカイジ」 カイジ《ケイジだというのに……!     まあいい、これより汝に力を授けよう。エンチャントとスピリットセーバーだ》 悠介 「やっぱりそれなのな……」 こちとらまだ創造らしい創造なんぞ使ってないっていうのに。 でも貰える技法は貰っておくべきだ。 ……いや待て。 悠介 「イメージリミットの解除はしてくれないのか?」 カイジ《それは月の欠片でおこなうものだ。     我がしてやれるのはあくまで消費HPの軽減だ》 悠介 「前はしたのにか?」 カイジ《そんなことは知らんな。初対面だ》 悠介 「………」 バージョンアップで記憶が飛んだらしい。 カイジ《では受け取るがいい。     創造によって消費するHPを半分に軽減する“スピリットセーバー”だ》 シャラァアアン…… ピピンッ♪《スキル“スピリットセーバー”、“エンチャント”を手に入れた!》 カイジ《次に会う時期は60レベルだ。それまで精々精進せよ》 悠介 「言われなくてもするけどな……     あまり人をほっぽって話をとっとと進めるのはどうかと思うぞ?」 カイジ《人をカイジ扱いする者の意見なぞ知らん》 悠介 「人じゃないだろお前」 カイジ《揚げ足を取るな!ええいもういい、行け!》 ピキンッ……ヴゥウウン……! 水晶……もとい、カイジが鈍い輝きを見せると、俺の足元に魔法陣が出現した。 転移魔法陣だろう……勝手に引き込んでおいて勝手に戻すなんて、さすがカイジだ。 カイジ《では、60レベルの時にまた会おう》 悠介 「会わなくていいから力だけ送ってくれ」 カイジ《駄目に決まっている!そういう決まりなんだから仕方ないだろう!》 水晶の世界にもいろいろあるようだ。 そんな事実に小さく苦笑しながら、俺はやがてもと居た鍾乳洞へと飛ばされた。 【Side───End】
はっきり言えば、あまり水晶の部屋での出来事にいい思い出というのはなかったりする。 というのも、やっぱり第一印象の問題であったりするわけで…… 当時盗賊王を目指していたにも関わらず、 あっさりと創造者に固定された時に思いが今も俺を縛っていた。 いや、今はもうどうでもいいわけだが。 当時は覚えてなかった水晶の部屋の記憶も、今ではちゃんと覚えてるわけだし。 悠介 「……ここか」 ややあって、突き当たりに辿り着く。 そこにはまた、入り口と同じような紋章がついた壁があり、 その中心には同じくに縦に割れる窪みのようなものがあった。 ホツマ「はぁ……んっ」 そこに、呼吸を整えていたホツマが宝石を翳すと……ゴコッ、ゴゴゴ……! 重苦しい音を立てて、壁が左右に開いてゆく。 が、そこから見えるのはまだまだ続く鍾乳洞だ。 悠介 「……まだ鍾乳洞が続いてるのか……大丈夫か?」 ホツマ「は、はい……!ミセナを救えるなら……これくらい……!」 言いながらも息が絶え絶えだ。 このまま行って大丈夫か……? ザコモンスターは普通に戦えるくらい……いや、こっちが優勢に戦えるくらいの相手だ。 けど、さっきの番人的なモルスやメルスのようなヤツが いっぱい居た時のことを想定すると、少し……いや、かなり危険かもしれない。 悠介 「………」 ホツマ「《ガバッ!》うわっ!?ちょ、なにを……!?」 悠介 「黙ってろ」 ホツマ「……は、はい……」 だったら抱えて走る。 幸いにも疲れることを知らないこの世界だ、俺が足になれば解決する。 その代わり、敵とあったら放り投げるかもしれないが。 ホツマ「すいません……なんだか足手まといになっただけのような……」 悠介 「そんなことをいちいち気にするな。誰かを守りたいって気持ちは、     誰かになにかを言われた程度じゃゆるいじゃくれない。     だから武器も持たずに走ったんだろ、お前は」 ホツマ「……不思議な人ですね、貴方は。     私があったどんな人よりも、なにか……孤高感のようなものを感じる。     人を信頼しているのに、信頼した人垣の中に自分を混ぜようとしない……     そういう“種類”の孤高感を感じます」 悠介 「……簡単なことだよ。守る者ってのはな、誰の味方もしちゃならない。     ただそれに気づいたってだけだ。     全てを守りたいなら、全ての敵にならなきゃいけない。     誰かを守りたいなら、誰か以外の敵にならなきゃいけない。     和解が簡単に出来るほど、人っていうのは簡単じゃない。     理想論だけじゃ誰かを救えないんだってことを知った。それだけだ」 ホツマ「………、寂しい生き方……ですね」 悠介 「うん?……おかしなことを言うんだな、お前は」 ホツマ「え……?」 悠介 「そういう生き方の先に、守りたい者を守れた……。     守ることが出来たやつが笑っていられる世界がある。     そんな情景に、寂しさなんて覚えるわけがないだろ」 ホツマ「───!」 酷く心が穏やかだった。 まるで、自分が言った言葉が自分を納得させる力を持っていたかのように、 自分の言葉が自分に染み込んでゆく。 そう……そういうことだ。 結局俺は月の家系で、どれだけ親しいヤツが現れようが、俺が行きつく先は孤独。 でも、それは完全な孤独じゃない。 嫌われようがどう思われようが、守りたい者を守っていられればそれでいい。 そんな情景を、俺の孤独の先に見られるっていうなら、どうして寂しさなんて覚えよう。 守りたい者を守るっていう信念は……なるほど、あいつの言う通り、俺は捨てられない。 それは俺が俺である証だ。 たとえ父さんの真似をしているだけだとしても、それは確かに“俺”なんだ。 そしてあいつも、自分が守りたいと思っているもののためにこの時代に降りた。 あいつが“俺”である限り、その信念だけは絶対に捨てられないのだから。 悠介 (……まったく、どこまで……) 自分のことながら呆れる。 どこまで不器用で馬鹿なんだろうな、月の家系ってやつは。 人一倍に人恋しいくせに、自分の幸福よりも他人の幸福ばっかり願っちまう。 そんなだから“孤独を味わう”なんて言葉まで生まれちまうんだ。 悠介 「───、……ん」 無意識だろう。 ずっと走ってた俺は、急に瞳を刺すくらいの日差しに当てられて我に返った。 思考に呑まれていた俺は開けた景色を見て、ニ三度瞬きをすると、 頭の中を支配していた思考を頭を振って追い払った。 ……今は俺のことなんてどうでもいい。 まずやらなきゃいけないことがあるだろうが。 ホツマ「ここは……何処かの地下でしょうか」 かなり高い天井の上にある格子付きの窓から光が降りてきている。 どうやらここは牢獄のようだ。 ということはここはもう神殿の中……? ははっ、牢獄がある神殿なんて聞いたことがない。 悠介 「………」 来た道を振り返ってみれば、道というよりは何かで破壊したような穴があった。 恐らくかつて、ここに閉じ込められたヤツが破壊したものだろう。 たまたま自然が少しずつ彫った空洞が、 この壁一枚の先にあった……それに気づいたヤツがなんとか空けた。 そんな感じの穴だ。 なにせ道にしては酷く小さい。 空洞と壁の大きさが全然不一致なのだ。 ホツマ「───!あ、あれは!」 悠介 「お、おいっ!?」 と、そんなことを思っていた矢先、ホツマが急に暴れ出して石床に下りると、 視線の先───壁際に落ちている布キレに向かって走り出した。 悠介 「…………それは?」 ホツマ「〜〜っ……間違い無い……!私がミセナにと送ったスカーフです……!」 ……じゃあここに居るのは間違い無いっていうことか。 それが“居る”じゃなく“居た”じゃないことを願うしかない。 悠介 「急ぐぞ!何処か別の場所に移されただけかもしれない!」 ホツマ「は、はい!」 そうして再び走りだす。 それにしたって……なんてクエストを一番にやらせやがるんだ。 正直いい気分じゃないぞ……? 【ケース391:晦悠介(怒号再)/ヒューマニックガリバー・戦話篇】 悠介 「おぉおおおらぁあああっ!!!」 ザガババッシャァアッ!!! ゾンビ『グルェエエオオ……!!』 ミイラ『ルェエエエ……!!』 バシャッ、ボソゴシャッ……! ホツマ「ひっ……!」 案の定といったところか───牢獄の格子をロングソードで破壊し、 先にちょいと進んだだけであっさりとアンデッドモンスターが現れだした。 ホツマ「そんな……ここは神殿じゃ……?それじゃあやっぱりあの迎えの者は……!」 悠介 「言ってる場合か!俺とディルから離れるなよ!?一気に───突っ切る!!」 緋色の輝きを帯びる剣を手に、動きの遅い死者たちを一薙に破壊する。 振るう度に首が飛び腕が飛び、そのつどホツマは小さく悲鳴を上げては怯えていた。 悠介 「くそっ……!RPGじゃないとはいえ、     こうまでヒントも無しに広い場所を駆け回るのは冗談じゃないぞ……!」 ディル『ならばひたすら上を目指せ、王!     こんな馬鹿なことをする下郎は大概、頂上か地下に座するものだ!』 悠介 「───オーライ!」 言われてみればそんなものかもしれない。 それならば、俺達は地下から来たのだからひたすらに上を目指せばいい。 恐らくそこに、目的は存在する。 スケルトン『ケァアアッ!!』 ディル  『遅いわ!』 スケルトン『《パガシャアッ!!》コアッ……!』 動きが遅いとはいえ、かなりの数のアンデッドどもだ。 俺とディルゼイルだけで相手をするのは骨が折れるが…… それでも俺とディルゼイルは剣を、拳を、炎を、尾を振るった。 俺達が道を開き、ホツマを導くように。 ただ上を、上のみを目指して突き進んでゆく───!! 悠介 「っと!」 しかし剣一本では限度がある。 だから俺は、ディルゼイルが頭部を尾撃で破壊したスケルトンが持っていた剣を手に取り、 二刀流として構えた。 悠介 「よし、これで───!」 呟くように、“疾”と唱える。 姿勢を低く、だが俊敏に。 疾駆し、剣を振るい、現れる隙をもう一本の剣で補うように。 それを連続して行い、まとわりつくように現れるアンデッドどもを、 出現速度より速く破壊してゆく───!! 悠介 「はぁああっ……!!はっ!だっ!せいっ!はぁっ!ふっ!せいやぁっ!!!」 ザンゾスゴシャバシャズバズシャバシャアッ!!! アンデッド『グエェエァアアアアッ!!!』 コンパクトに、だが一撃一撃に渾身を込めて。 防御を捨て、攻撃と速度のみにステータスを振り分けて突き進む。 悠介 「ホツマ!受け取れ!」 ホツマ「えっ?あ、うわっ」 そうして破壊する中で手に入れた剣を手に取ると、 自分が持っていたロングソードをホツマに投げる。 ……スケルトンが持っていた武器のほうが、 自分が持っていた武器より優れていたのは正直ショックだった。 けどこれで三つ。 片手ずつにブロードソード、 背中にウォーソードを背負うと、次から次へと破壊していった。 ホツマ「す、すごい……!よ、よし……私も!」 悠介 「やめろばかっ!     身を守るために渡したんであって攻撃のために渡したんじゃない!     お前は生き残ることだけ考えろ!     お前が死んだらここに来た意味が無くなるだろ!」 ホツマ「うぐっ……!は、はいぃ……!」 切り込んでゆく。 自分の身を囮に、ホツマへと向かうアンデッドの矛先を狂わせるために。 殺しきれない隙をディルゼイルが埋めてくれるお蔭で、なんの気負いも無く突っ込める。 ディル『ふぅ……まったく、無茶がすぎるぞ、王』 悠介 「へえ……お前が俺だったら別の方法を考えてたっていうのか?」 ディル『さてな。生憎だが私は小難しい戦略などは苦手でな』 悠介 「奇遇だな───俺もだよ!」 ザンザガガガガガガゾフィィンッ!!! 比較的に柔らかいゾンビどもを先に破壊する。 頭を切り裂けば一撃で終わらせられる敵だ、そう難しくはない。 問題はスケルトンだ。 骨を打ち崩せれば話は早いが、持っている武器はこちらと同等の強度だ。 それごと破壊することはまず無理って意味に繋がる。 悠介 「ホツマ!スケルトンは出来るだけ相手にするな!それよりも上に上がれ!」 ホツマ「は、はいっ!」 ホツマを促し、ディルゼイルと頷き合うと一気に駆ける。 敵の群れを出来るだけ一撃で破壊出来るように武器を振るい、 階段があれば迷わず上がり─── そうして破壊する中で少しずつレベルが上がってゆく度に、 防ぎきれずに負った傷が癒えてゆく。 ディル『まったく、変わらずの無茶はそれこそ変わらずか……!     他人のためにこんな数の敵を相手にするなど正気が知れんぞ、王よ……!』 悠介 「だったらっ……!俺が簡単にっ!つっ……!     人を見捨てるようなヤツだったらっ!───どけっ!!     お前はっ!今、俺の傍に居たのか!?っ……せいっ!!」 ディル『生憎と私も少々正気とはいえない性質でな……。     主の無茶に付き合うのが今の私の楽しみだ。なにか不都合があるか?』 悠介 「ははっ……一切無い!」 広間を駆け、階段を駆け上りながら敵を切り刻む。 斬っても斬ってもキリがないが、それでも前進はしている。 悠介 「ホツマ!大丈夫か!?」 ホツマ「はっ……は、は、い……!」 亡者どもの咆哮と剣戟の音とで声が通らない。 だから声を張り上げて確認を取るが、どうみたって大丈夫って顔じゃない。 ……それはそうだ。 いくら狩人だからって、こんなアンデッドモンスターを見るのは初めてだっただろう。 それも自分さえ殺そうとしてきているやつらの海に放り込まれたんじゃあ、 いくら気丈に振舞おうとしても心のほうが先に参ってしまう。 悠介 (とはいえ……) この数の真っ只中だ。 休ませることなんて不可能だ。 やっぱりここは、無理にでも突っ切るしかないのだ。 より速く、より迅速に───!! 悠介 「───」 無意識だ。 経験がそうさせたとしか思えない。 自分の手が勝手に創造を開始させようとする。 アンデッドならば光属性に弱いと。 けど俺は、まだそんなものは創造できない。 そんな無茶を押し通せば自滅するだけだ。 だからそれを止めるために力強く、手を、握り締めた。 悠介 「っ……黙ってろよ……!」 経験を無理矢理押し込める。 今、お前は必要じゃない。 体にも骨にも経験が染み付いていようが、実力が伴わなくてはそんなものは邪魔なだけだ。 今必要なのは破壊力のみだ。 経験なんてあとにしろ。 悠介 「ッ……かぁあああああっ!!!」 経験を押し込めて、がむしゃらに剣を振るう。 自分でも呆れる……経験してきたことを、 せっかく体に覚えさせたことを否定しなくちゃいけない日がくるなんて。 頭が割れそうだ。 そこはそう動くんじゃないと、体が、経験が叫んでる。 ああ、そうだな。 こんな風に動くんじゃあ確かに体への負担が大きい。 でも、それでも一度俺はゼロに戻らないといけないんだと思う。 がむしゃらだった頃に……ただ純粋に何かに憧れていた頃に。 悠介 「《ザゴォッ!》がはぁっ!?づっ……てめぇっ……!」 背中に熱さが迸る。 それを齎したスケルトンを振り向き様に破壊し、息を吐く。 悠介 (俺は……) 俺は、どうして戦うことが出来てたのか。 ただの憧れ?ああ、そうだろうな。 彰利の言う通りだ……ファンタジーに憧れない男なんてそうそう居ない。 でも、ここまで続ける理由があっただろうか。 ボロボロになって、血反吐を吐いて…… 敵わないかもしれない相手に立ち向かって、死ぬ思いを何度もして……。 感情の大半が浮上してからというもの、そんなことばかりが頭に浮かぶ。 これは……恐怖だろうか。 “なにも俺じゃなくても良かったんじゃないか”って、ふと冷静に思っちまうことがある。 それでも、守りたいって思うこの気持ちは決して…… 空想でも幻想でもない、俺から生まれた心だって信じてる。 それが理由でも、今はいい。 いつか本当の答えに至ったら、今度は笑ってそいつを受け入れてやろうと思ってる。 俺じゃなくても良かったなんて思いは必要じゃないんだ。 何故なら、俺が守りたいって思う気持ちは、俺からしか生まれてこないんだから。  ───ザザァッ!! ホツマ「はっ……はぁっ……か、かはぁぅ……っ!……?ちょ、頂……上……?」 ???『…………おやおや、参拝者かな?     残念ですがここは信者以外の立ち入りを禁止しているところでしてね……』 思考との決着をつけた矢先、辿り着いたそこは……恐らく頂上。 他に階段などない広間であり、しかしかなり薄暗い場所だった。 だがそこに、視線の先に……司祭服のフードを被ったバケモノが居た。 ???『私はここの司祭を務めている───』 悠介 「御託はいい───消えろ!」 ???『へ……?』 ゴヒュゥンッ!! ???『《ゴギィンッ!!》ふっ……!甘く見られたものですねぇ……!     こんな不意打ち紛いの剣の投擲がこの私に《ゾブシャアアッ!!》     アァアアアアギィイイィッ!!!!?』 悠介 「……“終空 是即チ歴戦ニテ敗北ヲ知ラズ(終技 我が生涯は刹那にして無限)
”」 投擲したウォーソードに意識を奪われた間隙を突く。 STRマックス状態で剣を放ち、即座にAGIをマックスにしての疾駆。 その擦れ違い様にSTRマックスの奥義を叩き込むと、 気色の悪い色の血が付着する剣を払うように振るった。 ???『ナ、ナニヲ……イッタイナニヲ……!?』 悠介 「御託なんて聞いている暇は無いし、     お前に奥義の全てをくれてやるほど暇でもないんだよ……失せろ」 ???『コンナ……コンナ筈デハァアア……!!』 ボシュゥウウッ……! 結局司祭殿は名前を名乗ることもなく塵と化した。 ああいや、そんなことを気にするよりも先だ。 ディル『王、少し落ち着け。心の荒れが動きに出ている』 悠介 「ディル……、……すまない」 ディルゼイルの言う通りだ。 いくらなんでも焦りすぎている。 悠介 「はぁ……すぅ……はぁ……」 深呼吸を幾度かするとウォーソードを拾って再び背中に。 悠介 「ふぅ……大丈夫か?ホツマ」 ホツマ「はぁ……はぁ……はぁ〜〜〜あぁああ…………!な、なんとか……!」 階段を登り切り、腰を折って肩で息をしているホツマ。 その後ろの階段では亡者どもがうぞうぞと蠢いているが、登ってはこない。 どうやらここには入るなっていう命令があるらしい。 まったく、亡者のくせに随分と忠誠心の高いことだ。 ホツマ「ふぅ……はぁ……」 悠介 「………」 疲労回復の水かなんかでも創造できればいいんだが、 生憎とまだそこまでの創造が出来ない。 かといって目を離すわけにもいかない。 ホツマの体力ももう限界だ。 休めば多少は回復するだろうが、体内に溜まる疲労物質はそう容易いもんじゃない。 どうする……? ホツマ「……、……行きましょう」 悠介 「……?大丈夫なのか?」 ホツマ「はい……ミセナのためなら……疲労がなんだっていうんですか……!     今、一歩を踏み出さなかった所為で彼女を一生抱き締められなくなるなら……     こんな疲労のひとつやふたつ、乗り越えてみせますよ……!」 悠介 「…………ん。解った」 説き伏せようとも思った。 でも、こういう決意の眼差しを持つやつを折らせたくはない。 だから……行こう。 どんなことが待ってるのかも解らないが、この先にあるクエストの終着へ。 【ケース392:晦悠介(阿修羅再)/ヒューマニックガリバー・神話篇】 ザッ……ザリ…… 声  『……誰だね?儀式の前に無粋を働く愚か者は……』 悠介 「───!」 暗がりの中を歩き───ようやく辿り着いた奇妙な祭壇。 そこに、一人の老司祭と……貼り付けにされた女性が居た。 司祭のほうは随分とシワがある……見た目通りの老司祭のようだ。 一方の女性は随分と衰弱が激しい。 なにがあったのかは解らないが、このまま放っておけば危険なのは確かだ。 悠介 「……人間、じゃ……ないよな」 司祭 『人間?ハハハハハ……あんな下等な生き物と同一視されてもらっては困るな。     皮を被ってはいるが、ワシは立派な魔物なのだからな』 ホツマ「ミセナ!?ミセナァアーーーッ!!……やいお前!なにが目的でミセナを……!」 司祭 『目的……?水の巫女を取り戻すためだと言っただろう。     水の巫女は悪魔を宿す贄に相応しいのでなぁ。     古の頃、そういった秘術が存在した。     それを巡り、魔物はこの神殿に生きる者を殺し、巫女を手に入れようとした。     だが気づけば巫女の姿など無く、地下の牢獄に穴と通れぬ壁があったのだ。     しかも神殿の出入り口は司祭どもの最後の小細工で封印され、     我々は何年もここに閉じ込められた……。     しかしその年月が封印を弱まらせ、我々をこうして解き放つに至った。     そうなれば我々が取る行動など一つだろう』 悠介 「……それで、悪魔を降ろす儀式をしてたってことか?」 司祭 『まずは外界で得た毒素を出さなければならない。     巫女は清らかでなければならない。     だからこうして磔にし、何も与えずに毒を抜いているのだ。     外の毒が完全に抜けるまであと一日……それを邪魔する者は誰であろうと許さん』 ボゴォッ! 悠介 「……!」 ホツマ「ひっ……!?」 司祭の体が跳ねる。 ぼごり、ぼごぼごと奇妙な音を立てて、まるで肉が皮を突き破るかのように膨らんでゆく。 ……確かに皮だ。 化けの皮を被るとはよく言ったもので、 老司祭の姿の下から現れたソレは……───人のカタチすらしていなかった。 ???『グババババ……!我が名はドネル=アブラシー……!     この神殿で大司祭をしていた者の皮を被った悪魔である……!』 悠介 「悪魔……モンスターの次は悪魔と来たか……。     で?そのアブラスマシがこんなところで同族の召喚でもしようって魂胆か」 ドネル『アブラスマッ……!?貴様ァアア!!』 さて……困ったな。 流石にこんなデカブツ、相手にするだけのレベルはまだない。 ディルゼイルと一緒でようやくってところだろうが…… まったく、悪魔だっていうなら大人しく時の回廊で油でも売ってろってんだ……! 悠介 (……ディル、全部の剣にファイアブレスを頼む) ディル(む……?どうする気だ) 悠介 (悪魔退治に用いられる武器ってのはな、光か炎って相場が決まってるんだよ) ディル(───やる気なのだな?そうでなくては面白くない!) ゴォッ───ヴォファァンッ!! ドネル『アァアアン……?無駄な抵抗はやめなさいぃ……!     ジッとしていたほうがやさしく殺してあげられるのですからねェエ……!!     ……ン?炎が剣に宿って……貴様、むぁああさかエンチャンターですか!!』 悠介 「だったらどうした!」 ディルゼイルのファイアブレスを、エンチャントを以って剣に封入。 水晶……じゃなかった、カイジにもらった能力が早速役に立つとは思わなかった。 ドネル『いけませんねいけませんねェエエエ!!     エンチャントは邪教が齎した能力ゥウウ!!     いぃいいますぐ根絶やしにしなくてはァアアア!!!』 悠介 「そっ……その姿でどの口が邪教とか言うんだたわけっ!」 巨大な蛇のような形の凶々しいそいつを見ればそう言いたくもなる。 ともあれ俺は、とにかくホツマに下がっていてもらい、炎が燃ゆる二振りの剣を構えた。 ドネル『至極簡単!我々が崇める教え以外の全てが邪教!!     我らが神はお怒りだ!故に邪教である貴様は八つ裂きにし、火炙りにし、     悪魔卸しの生贄となっていただきます!!ふぅんぬはぁあああっ!!!!』 ゴォドッガァアアアアアアンッ!!!! 悠介 「くあっ!?」 無造作に振り下ろされた握り拳が石床を破壊する。 分厚いソレがいとも簡単に破壊される様など見慣れているとはいえ、 今の状態でくらうとかなり危ない。 咄嗟にバックステップで避けたが、なにせ体がデカいくせに足は人並みに速いらしく─── ドネル『どうしたのですどうしたのです!!     その燃える剣は飾りなのですか邪教の者よ!!ふぅんぬははははは!!!ドガァン!ドガァン!ドガァン!ドガァンッ!! 悠介 「…………!」 振るわれる拳を避けてゆく。 しかしその度に石床はヒビ割れ、足場を悪くしてゆく。 避けるだけじゃ埒が明かないのは解ってるが─── ドネル『神の裁きィイイッ!!ゴッドストレート!!』 悠介 「───!」 振るわれる右拳。 それをガヂィインッ!!……二振りの剣を交差させて受け止める。 衝撃の度合いを調べるためとはいえ……少し無茶だったようだ。 悠介 (やばい……!予想していたより強い……!) ミシリと腕が軋むのが解った。 骨を通して、聴覚まで届く瞬間はやけに耳に障る。 ディル『チィッ!ルォオアァアッ!!』 ボゴォッファアァンッ!!! ディルゼイルもそれを感じ取ったのか、 バケモノ司祭様の顔面に向けてファイアブレスを吐いた。 ドネル『ヌァアアアアッ!!』 とんだ不意打ちだったのか、上手く怯んでくれたお蔭で拳は引っ込んだが───さて。 困った……どう仕留めたら…… ドネル『おんのれぇえええっ!!神の使途の顔面を焼くなどぉおおっ!!』 モファァアアン!!《ドネルの“怒り”が発動!攻撃力がUP!》 悠介 「………」 ディル『………』 その時俺は、あんまりに無鉄砲だったかな……と、小さく後悔したのであった。 Next Menu back