───冒険の書139/水の愛物語【後編】───
【ケース393:晦悠介(バッカス再)/ヒューマニックガリバー・凡話篇】 ドネル『ディィイェエエィイッ!!!』 ゴギンガギンドガシュゴゴシャッ!! 悠介 「っ……」 振るわれ続ける攻撃をただただ受け流す。 その間隙をディルゼイルに突いてもらうという戦法だ。 ドネル『ええい小賢しいィイイッ!!大人しく贄となるのですよぉおっ!!』 ビガァドンガガガガガァォオオンッ!!! 悠介 「うおわぁああああっ!!?」 こいつ滅茶苦茶だ! 目からビーム撃ってきやがった! 咄嗟に避けたけど、どういう悪魔なんだよ! ドネル『光りあれぇえっ!!!ゴッドビーム!!』 ピシュンドッガァアアンッ!! 悠介 「っ!」 再度のビーム。 足を狙ったそれを跳躍で避け───た途端! ドネル『ゴッド鉄槌!!』 ヴオヴァゴォッシャアアアッ!!! 悠介 「げはぁあっ!!!」 身動きの取れない俺目掛けて、鋭い握り拳が落とされた。 悠介 「が、あ……!」 まるで物凄く硬い岩を高速でぶつけられたような鈍い痛み。 みしりみしりと体が軋み、 殴られた衝撃と石床に叩きつけられた衝撃に挟まれるように訪れた痛みが、 体内でじゅくじゅくと痛みを滲ませている。 ドネル『これでトドメですよぉおおっ!!ゴッド拳!!』 ディル『させん!』 倒れている俺目掛けての拳。 振り上げる動作に存在する隙を穿つように、ディルがソニックブレスを放つ! ドネル『そうなんどもくらうとお思いですか!ゴッドビーム!!』 シュゴジュバドッゴォンッ!! ディル『ぬがぁあああっ!!!』 しかしそれもビームによって破壊。 構えた拳をそのまま振り下ろし、ディルゼイルさえ石床に叩きつけた。 悠介 「ぐっ……ディル……!」 ディル『ぐ……ぬ……!問題ない……!』 ホツマ「だっ……大丈夫ですか!?」 悠介 「……!」 倒れた俺達に、ホツマが駆け寄ろうとする。 けど俺達は来るなという意志を込めて睨み、体に喝を入れると起き上がる。 ホツマ「…………っ」 ここで負けたら意味が無い。 とはいえ……なんでこんな敵がこんな序盤クエストで出てくるんだよくそ……! ドネル『ドゥハハハハハ!!そのザマでまだ戦うというのですか!!     いいでしょう!貴方がたは悪魔への最高の贄扱いにしてさしあげます!』 悠介 「勝手に言ってろ……!」 ディル『貴様の思い通りにはいかんぞ……!』 はぁっ、と息を吐く。 苦しいところだが回復アイテムなんて無い。 本来なら初心者修練場でポーションをいくつか貰えるんだろうが、 その代わりに月の欠片などを貰ったようなもののようで、俺にはそれが与えられなかった。 悠介 「……ポーションが出ます」 試しに創造を実行してみるが、なにも起きはしない。 グミも同じく、まだ石などの軽いものしか創造できないのだ。 かといって変換を実行しても、石は飲み物にはならない。 悠介 「……ははっ……限界までやるしかないってことか……」 正直辛いが───やるって決めたからにはいつだって最後まで足掻いてやる! 悠介 「いくぞディル!!」 ディル『承知!!』 勝つためならなんでもやってやるって覚悟で突っ込む! 幸いここには、あいつが破壊した石床の欠片が腐るほど落ちている─── これで隙を作って一気にやってやるしかない! 悠介 (“石をナイフに変える力”───!!) キュバァン!! 拾った石を石のナイフに変換! バケモノ司祭に見えないように懐に隠すと、 殴られた拍子に落とした剣を手に取って疾駆する! ドネル『懲りることを知らないとはまさにこのこと……。     ですがいいでしょう、それを諭して差し上げるのが大司祭の務め!     この悪魔大司祭ドネルの前に平伏すがよいでしょう!楽園への扉は目の前なり!』 ゴォッ───! 悠介 「───!」 拳が振り落とされる。 それをギリギリまで引きつけ、紙一重で躱す! ゾリィッ!と、頬と肩を掠めるがそれさえ構わず、目を閉じずに疾駆する! ドネル『ヌ───!?よくぞ躱したといったとこですかねぇ!     ですが悪魔神のありがたい教えをその身に受けぬとは不届きなこと!     さあくらいなさい!そして潰れなさい!その姿が贄に相応しき姿です!』 そんなことは知らない。 囀りたいなら好きなだけ囀っていればいい。 だがその間に───! ドネル『お忘れですかね!?いくら近づいたところで私にはゴッドビームがあることを!』 ギピィイインッ!! バケモノ司祭の目が輝く。 その間隙、恐らく自分の視界さえ光に遮られる馬鹿みたいな瞬間を縫い、 俺はナイフを取り出して投擲する!!  ヒュオッ!ゾブシャア!! ドネル『ガァアアアアアアアッ!!!?』 バケモノ司祭の右目に突き刺さるナイフ……そして、響く絶叫。 仰け反るようにして叫んだ瞬間、左目からはビームが放たれ天井を破壊する。 そう……囀りたいなら囀っていろ。 その間に、俺達は何処までだって足掻いてやる───!!
【Side───ホッツマさん(誤字にアラズ)】 ……私は今、ものすごい光景を目の当たりにしているんだと思う。 轟音が響く中、唯一震えているだけの私は…… バケモノ相手に怯むことなく立ち向かってゆく、 名前も知らない人と、その飛竜との戦いを前に、ただなにもせずやはり震えていた。 ホツマ「私は……」 私はなにをやっているんだろう。 そう思ってしまった。 ここに来たのはミセナを救うためであり、 本来ならばそれは私一人でやらなければならないことだった筈。 それなのについさっき会ったばかりの人に全てを任せ、私は…… ドネル『おのれ許しませんよぉおっ!!     今すぐ平伏すが《ゾガアアンッ!!》グォオオアァアアアアアッ!!!』 バケモノが、よく喋る口で再び言葉を放つ中、 聞き飽きたとばかりに飛竜が風のブレスを吐く。 それは寸分の狂いもなくバケモノの左目を破壊し、バケモノの視界を完全に閉ざした。 ホツマ「………」 二人……いや、彼と飛竜の戦いはただただ巧かった。 およそまったく敵わない力量差があるだろうに、それを補う巧さがあった。 ホツマ「………私は……」 本当に、なにをしているんだろう。 このまま全てを彼らに任せて、私は彼女に顔向けできるのだろうか。 いや、そんな後ろめたさからくる気持ちなんていらない。 私は……私は彼女を、ただ彼女を守りたいだけなのだから。 ホツマ「ッ……!」 だから駆け出した。 視界が闇に閉ざされ、暴れまわるだけになったバケモノから、 その後ろに居るミセナを守るために。 ホツマ「ミセ───はっ!?《バゴシャォンッ!!》がっ───あぁあぁああっ!!!」 遠回りに駆け、ミセナの近くに辿り着いた途端だった。 バケモノの体からウジュウジュと伸び生えている触手の一つが振るわれ、 私の体を壁まで吹き飛ばした。 ホツマ「あ……がっ……あ、ぁああ……!!」 ……痛い。 意識がどうにかなってしまいそうなくらいに痛い。 助けて、助けてとだらしなく泣いてしまいたくなるくらいに……痛い。 ホツマ「っ……く、あ……!」 それでも……これはきっと自分に必要な痛みだ。 あの時、背中を押すんじゃなくて引き止めてあげられなかった私が…… 彼女が感じた悲しみを受け取るくらいに必要な痛みなんだ……! ホツマ「いっ……い、がぁああああっ……!!」 立て……!私はミセナに謝らなくちゃならないんだ……! 彼女を救って、何度だって謝って……! そしてまた、あの頃のように……ささやかでもいいから、 穏やかな日常の中で……彼女と笑うために……! ホツマ「ミセナ……っ……はぁ……!ミセナぁ……!!」 心の中がすまない、すまないと泣いている。 磔にされた彼女は何日も飲まず食わずの状態で放置されていたのだろう。 ぐったりとして、これだけの騒ぎの中でも反応を示さない。 そして……彼女をこんなにしてしまったのは私なのだ。 ホツマ「っ……は、は……!ぐっ……あぁあっ……!!」 体に力を込める度に、殴られた脇腹が鋭く痛む。 骨でも折れているのかもしれない……そんなことを思ってみた自分は随分と客観的で…… ただ自分の体よりも、彼女のことを心配している自分が酷く嬉しかった。 ホツマ「はぁっ……う、ぐ……!はぁ……!」 磔台によじ登る。 その頃から脇腹は赤く赤く染まり始めていたけど、 私の意志は確かに、保身よりも彼女を選んでいた。  ヅ……バヅッ! 彼にもらった剣で、磔台の縄を全て斬り…… やがて力無く倒れこむ彼女を、ただ力いっぱいに抱き締めた。 ホツマ「ミセナ……ああっ……ミセナ……!!」 会いたかった。 たった数日の間がこれほど苦しい時間になるだなんてことを、私は初めてしった。 でもこれで……ここから帰ることが出来たのなら、これでやっと…… ホツマ「ミセナ……、……」 やっと帰れるんだ……やっと…… 帰ったらなにをしようか……。 また一緒に兎を追いかけるのもいい……ただ話をするのもいい……。 ただ……いつまでも……ドッガァアアアアンッ!! ホツマ「っ……!」 ミセナを助け出した途端、触手が磔台を破壊した。 もう少し遅かったらと思うとゾッとする。 ……そうだ、ここは安全なんかじゃない……! せめて……せめて離れなきゃいけない……! ホツマ「はっ……あ、ああぁああ……!!」 意識が遠退くのが解る。 それでも進んだ。 意識ある限り進んだ。 このまま目を閉じたらどうなるのか……それをきっと、私は知っていたのだ。 守れなくなる……守れなくなってしまう……! そんなのは嫌だから、いくら血が流れようと進んだ。 ずるずると、無様に…………進んだ。 やがて広間の支柱に辿りつくとそこに背中を預け、血を吐いた。 ホツマ「……、……」 言葉も出ない。 そんなのは嫌だと思っても、出てはくれない。 もしこれが最後になるのなら、最後に彼女に謝りたい。 謝ることも出来ずに別れるのなんて嫌だから……だから…… ホツマ「ア、……」 それなのに。 私の口から出た言葉は、謝罪の言葉でもなんでもなく─── ありがとう、なんていう……心からのお礼の言葉だった。 【Side───End】
ドガガガガガァアアアンッ!!! ドネル『うぉおおのれちょこざいなぁあああっ!!     何処です!?何処に行ったのです罰当たりがぁあっ!!』 悠介 「っ……!」 バケモノ司祭が暴れ回る。 その拍子にホツマが吹き飛ばされるのを見てしまった俺は、 女性を助け出したあいつの傍に駆けつけてやりたかったが─── 進路方向をこのデカブツに完全に塞がれ、助けにいくことが出来ない。 回復させることは出来ないにしても、傷を塞ぐことくらいは出来るだろうに……! 悠介 「くそっ……だったら!───おいバケモノ司祭!」 ドネル『ドネル様と呼び崇拝したまえ!!』 悠介 「そんなことはどうでもいい!もう水の巫女は救出した!お前の負けだ!!」 ドネル『なっ……なんですとぉおおおおおおっ!!?     おぉおおのれなんと罰当たりなぁああああっ!!!     おのれおのれなんということを……!許しません!許しませんよ!!?』 悠介 「許さなかったらどうするっていうんだ……!?     どの道目の見えないお前じゃあ、逃げる俺達を捕まえることさえ出来ないだろ!」 ドネル『《ブチリ》……調子こいてんじゃねぇぞですよぉおおおおっ!!?     かくなる上は今すぐ儀式を執り行い、     我が身を献上して悪魔を呼び寄せてくれましょう!!』 悠介 「なっ……!?」 ドネル『一日足らずですがそれでも上級の悪魔召喚は可能!!     一日待てば最上級悪魔の召喚さえ容易かったのですが仕方なし!     さあ悪魔神よ!この身を献上することを条件とし、我が裡に舞い降りたまえ!!     デェエエエビィイイイイィイイイイイイイルッ!!!!』 ジュルジュルと蠢くバケモノ司祭が天井を仰いで絶叫する! すると突然広い石床に凶々しい魔法陣が浮き上がり、虚空に巨大な黒い光が出現する! 悠介 「……あれがまさか……」 悪魔……!? ディル『チィッ……どうやらハッタリではなかったらしい……!物凄い邪気を感じるぞ!』 悠介 「ああ……!感知能力がなくてもわかる……!」 やがて光はバケモノ司祭の体の中に溶け込むように消え去り、 次の瞬間ギガガバッシャァアォオオオオンッ!!! 悠介 「ッ───!!!」 ディル『ぬうう……!?』 まるで雷でも落ちたかのような轟音とともに、眩い光を発した。 そして…… ドネル『グ……グブブブブ……!!ガバハハハハハハ!!!!     素晴らしい……素晴らしい力だ……!!よもやこの世界にこんな力が……!!』 今までもかなり気持ちの悪い姿をしていたバケモノ司祭の体が、 一回り以上巨大に、さらに凶々しくなっていた。 さらに目も復活していて、深い赤色が俺とディルゼイルをギョロリと睨んでいる。 ドネル『どうです……素晴らしいでしょう!!     今の私ならばなんだって出来ますよ!体に力が漲るのです!!例えば───』 キィ……ビジュンッ!! 悠介 「───!?なっ……」 ドネル『こうして、相手を手元に転移させることも───』 ヴオバッガァアアアンッ!!! 悠介 「がっ……ぐ、あっ……あぁああああああっ!!!!」 気づいたらバケモノの手の中に居た。 そのまま地面に叩きつけられた俺は、あまりの鋭い痛みに無様に叫び、意識を失いかける。 ドネル『手も触れずに八つ裂きにすることもねぇえ……!!!』 キィンッ───ゾガガガガガガッ!!! 悠介 「ぐあぁあああああっ!!!」 さらに放り投げられた虚空で風の刃に八つ裂きにされ、 トドメとでもいうかのような重力によって地面に叩きつけられた。 悠介 「っ……が……」 ……強い。 およそ序盤に戦う相手じゃない……無茶苦茶にも程がある……! ドネル『どぉおおうです素晴らしいでしょう!!恐ろしいでしょう!     フハハハハハ!!この偉大なる悪魔の力の前にもはや敵はなし!!     ン?なんだったらキミに慈悲を与えてあげましょうか?』 悠介 「慈悲……だと……?」 ドネル『そう……慈悲です!悪魔大司祭の慈悲というものですよぉ!!     一人で逝くのは寂しいでしょう?だから道連れを呼び出してあげましょう。     貴方が道連れにしたいと思う者の名を挙げなさい。     ここに転移させ、悪魔神の名の下に八つ裂きにしてさしあげます!!』 悠介 「……、……」 ……なに……言ってやがるんだこいつ……。 道連れ……?そんなこと、俺が……───いや、待て……? だったら……はは、あはははは……!! 悠介 「ああ……じゃあ、頼む……」 ドネル『ハハハハハ!やはり人間!どれだけ堅実だろうと、死の前では平等!     やはり一人で逝くのは寂しいでしょう!正直に申し出たご褒美です!     さあ!その者の名は!?どんな距離があろうと呼び出してみせましょう!!』 そして俺は言った。 我らが原中における生ける伝説……提督の名を。 ドネル『オォオウケエエエイ!!!さあ我が力をとくと見なさい!!     異翔転移!中井出博光という名の者をこの場へぇええええっ!!!』 ゴッ……ゴコッ……ギシャァアアアアアアアッ!!! その場に光が溢れ出る。 転移は成功したらしく、巻き起こる風が誇りを巻き上げる中…… ようやく治まった現象の後には…… 中井出「…………アレ?」 何かを剥ぎ取っていたような姿のまま固まっている中井出が残された。 ドネル『デビィイイイル!!やはり素晴らしい!     どれだけ離れていようが転移さえ出来る!顔も知らない者までもです!!     どうです!?素晴らしいでしょう!素晴ら───……おや?』 悠介 「………」 やばい。 なんだか知らんがやばい。 中井出のやつ、剥ぎ取りポーズのままガタガタ震え出した。 中井出「転移……転移……?ウフフフ……!!転移デスカ……!?     ドゥ、ドゥフフフフ……!!ひ、人が……!     人がノートリアスモンスターから剥ぎ取り実行してる時に……!     て、ててて転移……!?ウ、ウフフフ……!     レアドロップもまだだったのに転移……!?ウフフフフ……!!」 悠介 「……うあー……」 ボロボロの状態で、ただそれだけ呟いた。 だってな、物凄い殺気と悲しみが渦巻いてるんだもんな……中井出を中心に。 ドネル『悲しむことはないのです。何故なら貴方はここで死ぬのですから!!』 中井出「どの口が言いやがるこのドカスがぁああーーーーっ!!!」 振るわれるデビルナックル! しかし中井出はその拳に自分のマイトグローブを合わせバゴシャォンッ!! ドネル『……あれ?』 物凄い爆発とともに、バケモノの拳をあっさりと粉砕してみせた。 中井出「クッ……クックックック……!!     物凄くむかつくことってあるよなぁ……。     たとえばレアアイテム欲しさに敵を狩ってたのに、     レアドロップするモンスターをひょいと出てきた冒険者に奪われたりとか……。     割り込みとかってすっげぇむかつくよなぁ……。     何様のつもりだよってさぁ……     まさかこの自由がウリのヒロラインでこのようなことがなぁ……!!」 ドネル『な、なにかの間違い!今のはまぐれ!!デビルラァーーーッシュ!!!』 ゾリュンと再生させた腕と合わせ、バケモノが中井出を殴る殴る殴る殴る殴る!! しかし中井出は微動だにせず、ただゆっくりと両手に双剣を出現させて、それを輝かせた! ドネル『どうですどうです手も足も出ないでしょう!!このまま』 中井出「───目障りなんだよザブシャアッ!! ドネル『……え?』 振るった両拳が、双剣の交差によってあっさりと斬り飛ばされた。 さらに何が起きたのか解らないって顔のバケモノを前に双剣をギャリンと交差させると、 闇の鎌鼬をその場に巻き起こしバケモノを切り刻んでゆく。 中井出「僕の目の前から……!!」 ドネル『ゴゥアァアアッ!!?』 中井出「───消えてしまえ!!」 地面から吹き出る闇の鎌鼬によって無理矢理に浮かされていたバケモノへの疾駆。 力強い跳躍ととも駆け上がるようにして双剣を鋭く振り抜き、 ザンザンザンザンザザンザンッ!とバケモノをズタズタに斬り裂いてゆく。 ドネル『ギャアアアア痛い痛いぃいいいっ!!     ばばば馬鹿なぁあああ!!このような巨大な剣をこんなに素早く……!!』 やがて貫くようにして素早く下段突きを決めると、自分とともに相手を落下させ─── どういう原理か先に下りた中井出は振り向き様に巨剣にした剣を豪快に振るう!! 中井出「“魔神!」 ザブシャアッ!! ドネル『ゲアッ!?』 中井出「煉獄殺”!!」 ゾガァアガガガゾボシャアッ!! ドネル『───……!!!』 トドメに物凄い闇の風を纏った鋭い突きでフィニッシュ。 爆発的に速い疾駆とともに繰り出し、擦れ違うどころか本当に体ごとで貫いた中井出は、 剣をジュフォォンッ!と振るうと、 中井出「貴様らに何が解る……!」 と、かなりの苛立ちを込めて剣を仕舞った。 悠介 「………」 ディル『………』 バケモノはあっさり消滅した。 なんだか俺達の苦労はいったいなんだったんだ……と思わざるを得ない状況。 というよりあいつが馬鹿なだけだったんだろうけど。 いや……それにしても身の丈以上もある巨大剣をああも軽々と振るう姿はさすがに壮観だ。 でも戦いが終わるや否や、地面に手足をついて男泣きを始めた。 その姿を見て、ああ……中井出だなぁ……なんてことを考えながらも、 さすがに気の毒になった。 悠介 「あー……いや、すまん……。     まさか剥ぎ取り中だったなんて思わなかったから……」 ていうかな、闇属性のモンスターを闇属性で破壊してみせるなんて何者だお前は。 ───……。 ……。 こうして一つのクエストが……───終わってなかったりする。 悠介 「うおお!?司令塔を無くした途端にアンデッドどもが雪崩れ込んできやがった!」 中井出「うむよし!こちらの男女はしっかり回復完了!」 悠介 「お前のキャリバーって回復まで出来るのか!?」 中井出「うむ!水と地のキャリバーである!     チャージヒーリングといって、パーティーのHPとTPを回復させる!」 そういえばさっき、 ホツマのところに駆け寄るや否や、無理矢理パーティーにしてたな……。 気絶中のNPCを無理矢理仲間に設定するなんて、普通やらないぞ? 中井出「ところでここ何処!?俺早く戻らないと後でナギーが怖そうなんですけど!!」 悠介 「すまん!正直俺もよく解ってない!ただ神殿であることだけは確かだ!」 ズルルルルと這いずってきたり走ってきたりのアンデッドモンスターを前に叫ぶ。 中井出が悪魔を倒してくれたことで何気にレベルアップしてたりしたんだが、 それでもこの数と戦うのは面倒……いっそ壁破壊して逃げるか? なんて思ってた矢先に中井出が疾駆。 巨大な稀紅蒼剣を両手で持ち、まるで狂戦士が如く振り回して敵を破壊してゆく。 悠介 (…………いや、ほんと……壮観だな) 巨大な剣が一振りで多数の敵を斬り屠る様は、見ている者に凄まじさを覚えさせる。 しかも剣に振り回されることなく振り回すもんだから、 あの巨大な剣がまるでオモチャの剣のように思えてくる。 中井出「おぉおおおあぁああああっ!!!!」 ゾガァンゾガァンゾガァンゾボシャゴバシャゾガアッフィィインッ!!!! 六閃化もなにも無使用。 ただの剣として振るうだけでも相当な強さの紅と蒼の巨大剣。 それでも意志無き躯は中井出目掛けて走り───中井出はそれを跳躍で躱し、 彼の落下を手を伸ばして蠢きながら待つ躯へと 中井出「稲妻ァッ!!《ジュガバシャシャァンッ!!》反転蹴りィイーーーーッ!!!!」 なんと雷を纏って落下!! 手を伸ばしていた躯どもはそれをまともに食らって灰燼と化し、 離れていたやつらまでもが地面を伝う電撃を食らって消滅。 それでも効果範囲外に居たやつらがゾルゾルと向かってくるが、 やっぱり両手持ちの巨大剣で面白いように斬り殺されていった。 ……で。 中井出「成敗!!」《どーーーん!!》 大した時間もかからず、 結局稲妻反転蹴り以外に技らしい技を使わずに勝利を納めた僕らの提督がそこに居た。 ほんっっっと〜〜に……強くなったなぁ……。 と感心をしていれば、スケルトンが落として そこらじゅうに散らばっている剣をせこせこと回収している僕らの提督。 どれだけ強くなってもそういうところは変わらないらしい。 悠介 「中井出……今のレベルは?」 中井出「2008!」 悠介 「もう2000台か!?どういう戦い方してるんだよお前は!」 中井出「それがさ……あの時貴様らにアンデッドどもの始末を任された時からさ……     どうしてか集団モンスターと縁があるみたいでさぁ……。     じっくりゆっくり戦うことも出来ずにいっつも危ない橋渡りばっかでさぁ……」 悠介 「すまん……訊いておいてなんだが忘れてくれ……」 悲しみが心を突いた瞬間だった。 中井出「それで……結局俺ってどうしてこんなところに呼び出されたんだ?」 悠介 「それは話すと長くなるから」 中井出「そ、そうか?確かにあんまり遅くなるとナギーが怖いしな……じゃあ俺帰るな?」 悠介 「ああ、悪かった」 中井出「?何故貴様が謝るのかは知らんが……気にしない気にしない。     ハプニングっていう刺激あってのファンタジーだろ。     そういうものも含めて、俺はファンタジーを愛してる」 愛ときたか……果たして真相を知っても、彼は同じことを俺に言えるのだろうか。 ……言えるんだろうなぁ、血の涙を噛み締めるように。 なにせ中井出だし。 とまあそんなこんなで。 俺達はホツマと……ミセナ、だったか?に肩を化し、歩き出したのだった。 とはいっても二人とも十分動けるくらいにまで回復してたんだが。 ホツマは傷さえ治ればよかったわけで、ミセナは空腹とちょっとした衰弱。 中井出が持っていたアイテムやフードを食べたら案外回復した。 それを確認するや、中井出は外に出るよりもまず神殿内の探索だーと叫び、 ふらっと一人居なくなってしまった。 まあどうせあとでひょっこり現れるだろう。 そう結論づけることにして、俺達はゆっくりのんびりと歩いていった。 【ケース394:晦悠介(光・浄・再)/ヒューマニックガリバー・民話篇】 それから俺達は、来た道をのんびりと歩いていた。 階段を下りて、神殿を歩いて、時々走り回る中井出を見つけて、 ふなつぎ場に行ってみるも船が壊れていることに気づいて、やっぱり来た道を歩いて、 牢獄を通って洞窟を歩く……そんな風にして、のんびりと。 その間に二人は中睦まじく二人にしか解らない会話をして微笑み合っていた。 そんな風にして鍾乳洞を歩いていた時のこと。 そう、一つ重大なことを思い出し、 今まさに宝石の力で開いた扉が閉まるところを振り返った時だった。 中井出「ノ、ノォーーーーッ!!!」 少し膨らんだバックパックを背に、こちらに走ってくる中井出を確認。 二人は二人の世界を創っているために、気づかずに歩いていってしまい…… やがて、彼の目の前で扉は閉ざされた。 悠介 「………」 ゴスガスゴス、と扉というか壁を殴る音がする。 紋章が刻まれたソレは宝石が無いとやはり開かないらしく、 今の中井出の腕力を以ってしても開かないようだっドゴゴシャバゴォン!! 悠介 「おぉわっ!?」 中井出「…………《シュゥウウ……!!》」 そう……紋章の壁は破壊できなかった。 だが普通の壁を破壊して突き進んできた中井出は、爆煙を身に纏いながら、 熱を発するマイトグローブを鈍く輝かせながら息をゴファアアと吐いていた。 悠介 「お、お前なぁ……。キーアイテムの概念とかあっさり無視するなよ……」 中井出「断る!ああ断固として断るね!     何故なら我らは常に常識を破壊せんために切磋琢磨する原中という名の修羅!     キーアイテムが無ければ開かない場所など破壊すれば良し!     “扉”が封印されてて開かないのなら壁を破壊して回り込めば良し!!     ゲームという名に惑わされるな晦一等兵!     リアルなゲームにはこういう楽しみ方があるのだと知れ!」 もっともなんだが、ルールを作った精霊達があまりに不憫と感じた原ソウルだった。 中井出「大体な、大魔王を倒せる力を持ってるのに壁の一つも破壊出来んでなにが勇者か。     大魔王より強い封印された扉ってのもヘンテコだし。     それならばやっぱり一度は破壊したいと思ってしまうのが男というもの!     ……というより目の前で扉が閉ざされた時、とっても寂しかったのでつい……」 悠介 「ヘンなところで正直だよな、中井出って……」 それでも戦利品をゴソゴソと漁る彼の顔は無邪気色に満たされていた。 自分のことより武器やアイテムが大事らしい。 悠介 「んあ?なぁ中井出、お前の力なら普通に外から逃げ出せたんじゃないか?」 中井出「どうして逃げるって喩えなのか知らんが……いや、     やっぱり洞窟とかがあるならアイテムを探したくなるのが冒険者の心というか。     で、どうなんだ?ここもまだ未探索か?」 悠介 「いや、ここはした。大したものは無かったけど」 中井出「そっか」 それっきり、中井出は鍾乳洞の中を物珍しそうに眺めていた。 そうしながらtellでドリアードと連絡を取り合ったりもしていたが、 様子から察するに怒られているようである。 レアアイテムはドリアードが回収してくれていたらしく、 ヒャッフォーーーゥィとジャンプしてまで喜んでいたのは印象に強い。 さすがに剥ぎ取りは出来なかったらしいが、平和を愛するナギーじゃしょうがないよなと、 妙にお父さんっぽい顔で微笑んでいた。 ───……。 ……。 そして、再び岬に戻ってきた。 すっかり回復したホツマとミセナは俺に散々と礼を言いながら、 中睦まじく……まあその、抱き合ったりしていた。 頭を下げたり抱き合ったり、忙しい限りである。 そんな中で中井出は岬の先の教会まで走り、 そこにバックパックから取り出したキスを置くと、 急に現れた蟹型モンスターと戦い始めた。 どういうイベントなんだとツッコミを入れてみたら、 マジで出てくるとは思わなかっただのなんだのと叫びつつ、蟹キラーを発揮して粉砕。 蒸気時計というレアアイテムを手に入れると、嬉しそうに頬を緩ませていた。 ホツマ「ありがとうございました」 ミセナ「あなたのお蔭で、またこうして彼と一緒に居られます」 悠介 「いや、礼ならあそこで仲間を大量に呼ばれて     絶叫しながら蟹の大群と戦ってる中井出に言ってくれ。     正直、俺だけじゃあのバケモノ司祭には勝てなかった」 ホツマ「いいえ。貴方が神殿の存在の在り方に気づいていなければ、     きっとミセナは今頃ここには居なかったと思うんです」 悠介 「……いや……だからな?」 ホツマ「これを受け取ってください。私達にはもう必要のないものですから」 悠介 「これって……」 コシャンッ♪《水の巫女の宝石を手に入れた!》 悠介 「ちょ、ちょっと待て、さすがにこれは───」 ホツマ「ミセナと話し合った結果です。     そもそもミセナが水の巫女として狙われたのは、     これがあったかららしいのです。     もちろん巫女として生贄に献上されそうになった事実もあります。     ですがこれを持っている限り、またこんなことが起こらないとも……。     迷惑なことかもしれませんが、受け取ってもらえませんか?」 悠介 「………」 というか無理矢理渡されてるしな。 ちょっと見てみるか? あー……調べる発動、っと……。  ◆アクアマリンの紋章石───あくあまりんのもんしょうせき  水の力が宿る鉱石の一種。水の巫女の間で伝えられてきた稀少石のひとつ。  宝石として細工されているが、飾りにしておくには惜しいもの。  過去、精霊とのコンタクトを容易にするために、  古の技術によりとある細工をして使用されていたらしいが───? …………まいったな、精霊関連のアイテムか。 これじゃあ貰わないわけにはいかないかもしれない。 ああくそ……このクエストが奇妙に難しかった理由が解った気分だ。 ミセナ「その宝石には水の加護があると言われ、伝えられてきたそうです。     でもその加護は、とある細工を成して初めて発揮されるとか……。     誰がどのように細工出来るのかなんて知りませんし、     そもそも古の時代のことだと聞いてます」 ホツマ「そう、確か村の物知りじいさんが言ってた言葉です。     その宝石には精霊が関係したなにかの力がある、って。     鉱石などの細工って言えば……技師のドワーフですかね」 ミセナ「でもドワーフなんて本当に居るかどうか……」 ホツマ「……すいません、知ってる情報はこれくらいです。     渡しておいてなんですけど、もし要らなかったら───」 悠介 「……いいや、ありがたく貰っておく。ありがとな」 ホツマ「い、いいえ!お礼を言うのはこちらのほうです!     見ず知らずの私に力を貸してくれただけでも感謝の気持ちでいっぱいです!」 ミセナ「ありがとうございます、本当にありがとうございます」 悠介 「いや……あのなぁ……」 礼を言われるのは苦手なんだけどな……。 結局勝手にやったことだし。 中井出「うおおおおお!!!灯台裏じゃないのにどうして蟹がぁあああっ!!     ええい寄るな来るなっていうか多すぎだろ!ちょ、もうやめて!仲間呼ばないで!     貴様ら何処の軍隊ガニだよもう!一斉に泡吐くな!メタルボディ使うな!     ヒィ!斬っても斬っても仲間呼ばれてキリが《コキュリ》ふンぐぉおオぉおッ!?     だ、誰ちょっ……危ないよ!黄金を挟むのはやゴるぼふぁぁああァあああっ!!!     だ、だめぇええ!!!それ以上力入れたらだめぇえ!!     まだ見ぬ世界が開けちゃうぅううっ!!たっ……助けて!助けてぇええっ!!」 俺もいっそ、礼を言われるよりああやって戦ってる方が気楽……ああいや、 “ああやって戦う”のは勘弁だとしても、普通に戦ってるほうが気楽だ。 すまん中井出、助けてやりたいのはやまやまだが、今の俺では多分力になれん。 中井出「ぐ、ぐぐぐ紅蓮に炎!蒼碧に光!     重ねて一つの力と成す!“シャイニングフレア”!!」 フィキィンッ───ヴォガガガガガォオオオンッ!!!! ホツマ「うわっ!?」 ミセナ「きゃあっ!?」 中井出「マぐォがァアアーーーーーーーッ!!!!」 切羽詰まったらしい中井出はキャリバーを発動。 光と炎を合わせたものを行使して放ったらしく、 剣から放たれる激しい光を浴びた途端、蟹どもは炎上とともに爆発を起こした。 発火能力のある光を発するのが、さっきのキャリバーの能力らしい。 ……すごいな、ほぼ防御不可能じゃないか。 悠介 「あー……いいから、あっちのことは気にするな」 ホツマ「は、はあ……」 ミセナ「それでは、機会があればわたしたちの村にも立ち寄ってください。     出来る限りのお持て成しをしますから」 悠介 「本当にいいんだけどな……」 持て成す気満々のようだった。 よし。用事が無い限り、その村には極力行かないようにしよう。 そんなヒネクレた決心をしている中、二人はお辞儀をしたのちに立ち去り─── 岬には俺と、黄金を挟んでいた蟹のハサミが炎上、爆発を起こしたことで、 男にしか理解出来ない地獄の苦しみの果てに気絶した中井出だけが残された。 もちろん黄金爆裂伝説なぞ、 どれだけ生きても味わえるようなものじゃないわけだが。 そんな思考の中で俺は、 さっきの絶叫の理由はそれだったんだろうなと妙に納得しつつ…… 嫌な残され具合だなぁ……と、微妙な心持ちのままに溜め息を吐くのであった。 Next Menu back