───冒険の書140/行方不明のアドミラル───
【ケース395:晦悠介(山本幻柳再)/重國】 中井出が復活してから、俺達は思い思いの方向へと歩き出した。 どうやらここは中井出が居た場所とは随分離れた場所だったらしく、 戻るのも一苦労だなぁとぼやきながら、中井出は旅立った。 別れる際、珍しいモノ以外はテイクユーとかよく解らんことを言って、 神殿にあったらしい武具やアイテム、敵が持っていたものなどをくれた。 防具とか武器だな。あとアップルグミが数個。 ずっと朽ちた神殿に安置されていたこともあって、グミはちょっと心配なわけだが…… さすがにそこまで凝ってはいないだろうと、バックパックに放り込んだ。 悠介 「なんだかんだで武器も結構手に入ったな……」 スケルトンが持っていた装備に感謝だ。 ブロードソードが82本とウォーソードが3本とシミターが2本。 防具はウォーターローブにサークレット、神官などが装備するような装備ばっかりだ。 中井出が持っていったのは一本きり。 ウィンドシアという曲刀で、風属性の攻撃に鎌鼬の斬撃効果が追加されるんだとか。 つまり中井出の武器にある付加能力は“鎌鼬”だが、 ウィンドシアにある付加能力は炎側で言う“ボマー”と似たようなもので、名は“風刃”。 風属性の攻撃を与えることで発動するもの……らしい。 鎌鼬はそのまま、剣から鎌鼬を放つようなものだったわけだし。 中井出のやつ、 ボマーのお蔭で火属性攻撃ばっか目立っちゃってて寂しかったんだと喜んでたし。 悠介 「それ一本の代償がこれだもんな……」 愕然とするほどの量のブロードソードに眩暈する。 いくら要らないからって全部よこすことはないだろ……。 売るといくらくらいになるんだこれ……。 そ、そうだ、まずこれを売らなきゃいかん。 バージョンアップでバックパックの積載量が増えたからって、 持ちすぎると整理が大変になる。 ちなみに今現在の積載量というか最大詰め込み個数は200らしい。 だれがそんなに入れるんだと思ったりもしたもんだが…… このブロードソードの数を考えると、あまり笑えたものじゃなかった。 悠介 「さて、と……」 とりあえず岬を離れた俺がこれから向かう場所……それは近くの村。ではなく。 少し離れた場所にある、マラカルニというヘンテコな名前の町だった。 マカロニって名前のほうが覚えやすいんだが、 さすがにそこまでの茶目っ気が精霊達にはなかったんだろう。 ……いや、ふと思ってみただけだぞ?さすがに俺もそんな名前をつける気はない。 ディル『ふむ。こうしてゆったりと移動するのも悪くないな』 悠介 「そうだろ?だから次からは」 ディル『断る』 即答だった。 空を飛ぶ時は速度を控えてくれと言おうとしたんだが、あっさり撃沈。 気の許せる相棒の反応はこんなもんである。 悠介 「ま、まあそれは……よくはないんだがいいとして。     飛竜ってなにか装備できるんだろうか」 ディル『さてな』 悠介 「んー……銃があるんだよな。     だったらバイオニックポチみたいに重火器を装備するとか……」 ディル『ブレスで十分だと思うが?』 悠介 「言ってて俺もそう思った」 なにせ弾数制限が無い。 悠介 「だったら……毒針を尻尾の先端に付けるのはどうだろう……邪魔だな」 ディル『普通の尾撃で十分だ』 悠介 「じゃあ頭に鋭い角をつけるのはどうだ?額に一本の角をつけるみたいに」 ディル『いやに無邪気だな、王よ』 悠介 「無邪気?そうか?よく解らん」 ともかく角だ。 確かに角自体はあるんだが、みんな鱗と同じで前には突き出ちゃいないのだ。 みんな後ろに伸びていて、敵を突くことに関してはてんで役に立たない。 ディル『まあいい、せっかくだがな、王よ。私に武器は要らん。     もちろん防具もだ。竜族は己が身の全てが武器であり防具だ。     大体、竜鱗以上の強度を誇るものなど人間の世界にそうそうあるものか』 悠介 「む……違いない」 竜の鱗は尋常じゃないくらいに硬いからな…… よっぽどの防具じゃないと強度を越すことなんてできない。 悠介 「じゃあこのまま───」 ドゴォオオオーーーーーーン……!! 悠介 「うおおっ!?」 ディル『ぬっ……!?何事だ!?』 遠くの方で物凄い火柱が天を衝いた。 上空の雲は焼け、景色さえもが熱で一瞬歪むほどだ。 いったいなにが……!? 悠介 「ディル!」 ディル『解っているぞ、王よ!』 ディルとともにその場へ急ぐ。 あれほどの火柱……よっぽどの力がない限りは立たない筈だ。 ていうか……あれ?あっち側は確か中井出が歩いていった方向じゃあ─── ───……。 ……。 プスプス…… 悠介 「………」 ディル『………』 で……辿り着いてみれば。 物凄くデカいクレーターの中、HP1の状態でコゲついて倒れている中井出が居た。 悠介 「お前……今度はいったいなにやらかしたんだ……?」 中井出「いや……ちょっと……パンドラポットを……」 悠介 「パンドラポット?」 瀕死の中井出が言うには、つまりこういうことだったらしい。
【Side───別れた提督さんの先】 中井出「いやいや思わぬところで思わぬ武器を手に入れた……これぞ旅の神のおぼしめし。     ザコどもも蹴散らして、随分とスッキリ出来たし」 やっぱり爽快感は必要だと思うんだ、僕。 オーディンの斬鉄剣で蹴散らしてもらうって手もあったんだけど、 やっぱり自分で蹴散らしたい時ってあるじゃない。オーディンには悪いけど。 そんなことを思いながらウィンドシアを見て頬を緩ませる。 ああ、武器って素晴らしい。 なんてことを思っていると敵を発見! アマラットンという、緑色のラットンだった。 かなり下級戦士な兎のようだ。 しかし一匹か……ならば。 中井出(潜在能力発動!斬鉄剣!) キィンッ!ゴシャァアアアアンンン…………!!! 中井出   (フオッ!?) アマラットン「ピキキッ?」 重苦しい音とともに辺りが暗雲に包まれる。 暗くなった世界に驚いたのは俺だけではなかったらしく、 アマラットンも耳と鼻をピクピクさせて空を見上げていた。 すると……そんな虚空から、巨大な馬に乗った険しい顔のお方が……!! しかも手に持ってるのは剣じゃなくて槍と来た! オーディン『…………』《む〜〜〜〜ん……》 中井出  「でっ……でけぇ!!」 身の丈何メートルあるのだろうか……! 巨人もあわやというデカさに見えるのは気の所為!? などと思っているとオーディンがまたがる馬、 後ろ足だけで立ち、雄々しい声で吼え猛る。 やがて宙に浮かせた前足が地面に着くときの反動とともにオーディンが槍を投擲!! 物凄い速度で風を切り、まるで赤いレーザーのような速度で虚空を一閃したソレは、 寸分の狂いもなく、逃げ出す暇さえ与えずアマラットンを貫き大爆発を起こした。 中井出「オッ……おぉおおおお!!すげぇええっ!!」 カッコイイ!カッコイイよ日向くん!(?) と、振り向いてその勇姿を見ようとしたら既に居ないオーディン。 槍もいつの間にか無くなっていて、気づけばそこには俺しか居なかった。 イ、イッツマジック!! 中井出「しかしそうか……やはり剣で戦う以外のことも侮れないのがファンタジー。     やってないこともやってみると、案外素敵な出来事が───はうあ!」 そういえば俺、まだパンドラポットを使ったことなかった! 何が起こるか解らないというこのスキル……まったく胸が高鳴ってきやがるぜ!! 中井出「よ、よし!使ってみよう!何事もチャレンジだ!」 でもどうせならと敵を探す。 と、案外それはあっさりと見つかった。 先ほどの轟音に驚いて、そそくさと逃げ出すアマラットンが一匹。 俺は早速AGIをマックスにしてアマラットンを背後からガッシィと捕まえると、 剣ではなくアマラットンを両手で天に掲げるようにして叫んだ。 中井出「パルプンティェイェイェ!!」 言葉はまったく違うが、意志さえ通れば発動するのがヒロラインクオリティ。 霊章に武器を仕舞ったままの俺の体が何故だか熱くなり、 ンゴゴゴゴゴゴと赤くなってゆく。 あ、やばい!なんだかやばい!物凄く嫌な予感がする! 待ってタンマ今の無キシャヴァボッガォオオオンッ!!! 中井出   「ギャアーーーーッ!!!」 アマラットン『ピギィイーーーッ!!!』 やがて俺とアマラットンは、俺の体から放たれた天を衝くほどの業炎に飲み込まれ、 大地を焼き空気を焼き雲さえ焼いたのち、 黒コゲになってクレーターの真ん中に倒れこんだ。 もちろんアマラットンは灰燼と化した。 正直塵も残ってない。 そして倒れた俺は思ったわけさ。 中井出「何が起こるか解らないにも……程ってもんが……」 あるだろ、と。 【Side───End】
…………。 悠介 「つくづく思うんだが……お前の武器って凄いのか面白いのか解らないな」 中井出「好きで自爆したんじゃないよ!!」 今ではすっかり自然回復で完全回復した中井出が叫んだ。 どうやらパンドラポット……だったか?あれには幾つかの発生物があるらしく、 中井出が覗くナビには“只今のルーレット結果は自爆となりました”という文字が。 しかもきっちりとパンドラポットスキルの項目の横にスキル欄のようなものがあり、 “?????”がたくさん並んでいる中に、 一つだけ“自爆”という文字が追加されていた。 ……お?そういえば他人のナビも覗けるもんなのか? 以前は確かプロテクトみたいなのがかかってて、他人は見れなかった気がするが。 中井出「これ全部埋めるために、さっきみたいな地獄を味わわなきゃいけないと……」 まあ……それはそれとして。その時の彼の目は、酷く遠くを見ていたという。 中井出「はぁ……なになに……?“博打スキルNo.23/自爆”。     自分のレベルやHPに見合ったダメージを広範囲に与える博打スキルの一つ……?     レベルに見合ってもこっちは死にそうだったよ!     くそう!ちょっと面白いかもとか思ってる自分がいっそ悲しい!     あれ?でも俺のHP、既に万単位だから……     周りにそれだけのダメージを与えるってこと?…………」 悠介 「おい、顔が邪悪に歪んでるぞ」 中井出「えっ!?考えてないよ!?いつかみんなが僕という魔王を倒しにきた時、     勇んでいる者どもを自爆で木っ端微塵にしてくれようなんてそんなこと!!」 悠介 「今まさに考えてるんだろうが!!」 中井出「ああ思ってるさ!面白そうだもの!     でも問題は使いたい時に自爆が出せないことなんだよな……。     なんとかして任意に出せるようにならないもんかな……お?」 と、真剣に爆殺を考えていたらしい中井出がナビを見て停止。 何事かと覗いてみると、 全てのルーレットを埋めると任意に発動させることも可能と書いてあった。 …………それで彼の覚悟は決まったらしい。 中井出「旅の途中、遠くで火柱が立ったなら……どうか俺のことを思い出してほしい」 悠介 「嫌な思い出させかただな……。     何かを見て思い出すなら星とか花火にしたいぞ……?」 中井出「贅沢言うなよ!     こっちだって爪に火を灯すどころか体に火ィ灯して爆発するんだぞ!?」 悠介 「そこでお前に怒られる理由が俺には解らんわ!!」 中井出「ま、まあでもさ、ほら、自爆が発動するのなんて何十分の一なわけだし、     そう簡単に発動はしない……よなぁ?     とか言ってるとあっさり発動しそうな自分のファンタジーライフが怖い……」 悠介 「すまん、正直俺も、お前がそう言った時点で自爆するだろうなって思ってた」 中井出「………」 妙に悟られているのが悲しかったのか、 中井出が遠い目をして近くの俺を悲しげに見つめていた。 中井出「HP回復したし、俺行くな?さっきからナギーがうるさくて」 悠介 「ナギーって、ドリアードだったよな。妙に仲がいいよなお前ら」 中井出「その点に関しては否定はしないけど。いろいろあったんだ。     というわけで、また何処かで会おう!次会った時は敵同士かもしれんが、     その時は容赦無用でぶつかろうぞ!     たとえ貴様が急激に力を付けて強さで上に至ろうが、俺は全力を以って戦う!     で、危なくなったら逃げる」 悠介 「お前って本当に格好つかないよな……     口だけででも逃げずに戦うとか言えないのか?」 中井出「人間、怖くなりゃ保身に走るのは当然だって。俺、死ぬのは怖いし」 その割には結構死んでるらしい噂を猛者連中から聞いたが。 そこのところはツッコまないのがやさしさだろう。 中井出「そんじゃーなー!ゼットに会ったらよろしく言っといてくれー!」 悠介 「おー」 中井出が元気に手を振って去っていった。 あいつはあいつで、ちゃんとゼットのことを気にしているらしい。 ……ほんと、奇妙な友情が生まれたもんだ。 悠介 「さてと……じゃ、俺達も行くか」 ディル『そうだな』 ふぅと溜め息をひとつ吐き、歩き出した。 一番最初にこの宝石を手に入れるイベントがあったってことは、 これに関するなにかをしたほうがいいだろうが……たまには好き勝手に進んでみよう。 時にはそうやってひねくれるのもいいだろう。 【ケース396:穂岸遥一郎/それから……一週間の月日が流れた。一週間って月日?】 キィイ……キュバァンッ!! マクスウェル『……うむ、見事じゃ。ではこれを以って、穂岸遥一郎よ。        おぬしの最上級魔法の納めを認定する。これよりおぬしはランクSじゃ』 遥一郎   「……はぁ」 発動させた魔法を静かに掻き消し、大きく息を吐いた。 正直、とても疲れるが……でも魔法の大半は習得できた。 あとは古代魔法や禁呪系統だけなんだが…… こればっかりは世界を冒険して手に入れるしか方法が無いらしい。 ここにもいろいろと魔法書はあったんだが、 古代魔法や禁呪に関することの大体が断片的なものだったり、 正確なものじゃなかったりとあやふやなものばかりだった。 それでもマクスウェルには内緒で、 一個だけ禁呪の秘奥義を解読、マスターしたりもしたわけだが。 ただ……相当に危険なためか、 使用してから再使用可能になるまで物凄く時間がかかるらしい。 今だってそれを使用するために必要な魔力を少しずつ蓄積させているところだ。 マクスウェル『しかし……おぬしの物覚えの速さと思考の回転には驚いたぞい。        よもや、これほどの短期間でランクSに至るとはのぅ……。        もはやここで教えられることなぞ極僅かじゃ……』 遥一郎   「頭以外に取り得がないからな……」 言って、コンコンと中指で頭を突付く。 俺だって、魔法にここまでの興味を持たなければ、ここまでの集中と記憶は出来なかった。 ここで出来ることの大体はしてきたつもりだし、受けた授業の大半が魔法学科だった。 その代わりとして戦闘……というか肉弾戦などの武器を使用した戦いはまるでダメ。 多少はいけるかもしれないが、他のやつに比べればかなり下に位置する成績だ。 いや、むしろ一番ダメかもしれない。 けどそれとは逆に魔法だけなら誰にも負けない自信がある。 それだけの力は得たつもりだ。 マクスウェル『では、おぬしはこれからどうするんじゃ?        ここに残り、他の学科を受けるか?        それとも世界を旅し、古代魔法や禁呪といったものを探すか?』 遥一郎   「後者だな。正直に言うと、魔法を覚えるのがたまらなく面白い。        今まで出来なかったことが出来るのはこんなにも心が踊るんだって、        そんな風に自分が嬉しがってるのが実感できるんだ。        もちろん体術とか体を使ったことでも、        上達の瞬間には感じることが出来たけど───魔法は群を抜いてる。        覚えられればその瞬間に上達を実感出来るし、        魔法が弾ける瞬間っていうのはたまらなくスカっとする。        それになにより───」 マクスウェル『なにより?』 遥一郎   「あの馬鹿どもから……やっと……!やっと解放されるんだ……!!」 マクウスェル『……あー、その、なんじゃ。今までよく頑張ったのう。        勉強の度に邪魔されているところはよく見ておったから、        そこのところは心底同情するぞい』 マクスウェルの慰めの言葉がいっそ悲しかった。 だがそんな悲しみとももうオサラバだ。 俺はこの修行場を出て、世界を見て回ろうと思う。 マクスウェル『では、これで卒業ということじゃな』 遥一郎   「……世話になりました、って言ったほうがいいか?」 マクスウェル『よいわよいわ。おぬしは一見真面目そうじゃが、        そういったかしこまったことは苦手という雰囲気をもっておる。        丁寧な言葉を使うのは苦手なほうじゃろう』 遥一郎   「……よく解ったな」 マクスウェル『これでも人を見る目はあるからのう。では餞別をくれてやるとしようかの。        ほれ、まずは約束の“元素の加護”じゃ』 シャランラァア……!!ピピンッ♪《属性・元素の加護を受け取った!!》 ピピンッ♪《加護の昇華!元素の加護が昇華し、元素系統の魔法が強化された!》 遥一郎   「……すごいな。ちゃんと自分の中で属性の力が脈打ってるのが解る……」 マクスウェル『それを感じ取ることが出来るなら上出来じゃ。        おぬしはやはり見込みがある。では次にこれじゃ』 コシャンッ♪《蛇龍杖(じゃりゅうじょう)ウロボロスを手に入れた!》 遥一郎   「え……これって?」 マクスウェル『蛇龍杖ウロボロス。        かつて人間の勇者の仲間が持っていた稀少石で作られた杖じゃよ。        まあもっとも、作ったのはわしなのじゃがな。        わしが作った武具の中でも結構なお気に入りの杖じゃ。        以前の持ち主が死んで以来、ずっとわしが持っておったんじゃ。        継がせる者がおればと思っておったが、おぬしに託そう』 遥一郎   「……いいのか?俺なんかで」 マクスウェル『あまり自分を過小評価するものではないわ。おぬしはスジがいい。        この杖はきっとおぬしの力を最大限に引き出してくれるじゃろう。        大事にせい。あの若者……        中井出博光のように霊章に収納することは出来んが、        今回ばかりはそれが吉と出たようじゃな。        霊章輪として刻んでおったら前の持ち主が死んだ時に一緒に消えておった。        じゃからこれは以前のまま……        かつての持ち主が育て上げたままの力を持っておる』 遥一郎   「………」 受け取った杖を手に取ってみる。 古き時代、別の誰かが使っていたもの……らしいのだが、妙に手に馴染んだ。  ◆蛇龍杖ウロボロス+597───じゃりゅうじょううろぼろす  死と再生の象徴の名を冠する杖。  杖自体が魔力を帯びており、持っているだけで持ち主の精神を回復させる力を持つ。  霧散した魔力を吸収する力もあり、魔法を使用してもTP消費量の3分の1を回復。  かつて人間の勇者の仲間を務めていた女性が持っていた杖であり、  大事に使用されていたためにかつての能力を全く損なうことなく残っていた。  ◆スキル  スピリットテイカー:★★★★★/霧散した魔力を吸収 持ち主のTPに変換する  スピリットアゲイン:★★★★★/杖が帯びている魔力がTPを自動回復  スピリットシールド:★★★★★/詠唱時に膜を張る 弱い攻撃くらいなら弾く  スピリットブラスト:★★★★★/TPを消費して強力な物理攻撃が可能  魔法猫の祝福   :★★★★★/魔法を使うアイルーの祝福 敵撃破時にTP微量回復  シンクリーディア :★★★★★/パーティーが得た経験の何%かを得られる  ◆潜在能力  フルブラスト:大魔法や古代魔法や禁呪の解放に耐えうる強度を誇る         秘奥義系統の魔法の連発にも耐えるが         よほど詠唱速度が速くなければ扱える能力ではない  ◆現在使用可能な秘奥義  インディグネイトジャッジメント:怒れる雷神の裁き。  ディバインパウア       :最上級魔法の連続にて対象を破壊。  エターナルインフィニティ   :虚空に出現させた無属性の巨大な剣で破壊する。  ファイナリティ・デッドエンド :ザコを蹴散らす時空の闇雷。即死効果。  ディメンショナルゲート    :時空の扉より生まれいずる絶対破壊の禁呪。 …………。 遥一郎「これはまた……」 随分と魔法使いには嬉しいスキルがあるじゃないか。 ……ていうか秘奥義が増えてら。 ディバインパウアか……やっぱりこういうのは魔法を覚えると追加されるのか? そりゃそうか、魔法使いだもんな。 とりあえず唯一覚えてるディメンショナルゲートは……正直全く使えない。 なにせ使用出来ないんだからしょうがない。 TPも詠唱も十分なんだが、なにかしらの条件が揃っていないと使えないようだ。 だからまだ一度も使ったことはない。 まあ、そのうち使えるようになるだろう。 今はまず旅だ。 遥一郎   「ん、ありがとうなじーさん」 マクスウェル『なぁに構わんよ。可能性のある者を育てるのがわしの楽しみじゃからのう。        して、まず何処へ向かうのかのう』 遥一郎   「加護を受け取りに各地に。まずはそこからが妥当だと思う」 マクスウェル『ほっほっほ、ほうかほうか。ならばわしから各精霊に伝達しておこう。        おぬしも辿り着いた途端に力を示せと言われるのは嫌じゃろう』 遥一郎   「まあ……それはもちろん。って、そうだった。        なぁじーさん、地、水、火、風、雷、光、闇、氷、時、無の精霊が        何処に居るのかはここの書物で調べたから知ってるんだが……        死の精霊、ケイオスは何処に居るんだ?」 マクスウェル『ふむ……ケイオスか。あやつは奔放じゃからのう。        今は…………うむ。氷河付近の町でうまティーを飲んでおるな』 遥一郎   「───……エ?」 マクスウェル『氷河付近の町、ノースノーランドでうまティーを飲んでおる』 遥一郎   「……死の精霊なのにか!?」 マクスウェル『彼奴は精霊の中でも一番の奔放者でなぁ。        およそ“死の精霊”という名とは掛け離れ過ぎている存在なんじゃよ。        趣味は旅、好きな場所は賑やかな場所、嫌いなものは死と、        ともかくなにもかもがあべこべな精霊じゃ』 遥一郎   「ようするに自分の存在に対して天邪鬼なヤツなんだな……」 どうしてまともなやつが居ないんだろう……。 そんなことを考えてみたが、 ここがプレイヤーの思考を基盤に精霊たちによって作られていっている世界なら、 原中の連中が関わっている時点で歪んでるのは当然なのかもなと妙に納得してしまった。 遥一郎   「まあいいや、じゃあ行くな」 マクスウェル『うむ、しっかりやるのじゃぞ』 遥一郎   「しっかりやるつもりはないよ。やれることをやるだけだ」 マクスウェル『ほっほ、本当に変わった男じゃのう』 歩き出す俺を、髭を撫でながら見送るじーさん。 そんなじーさんに軽く手を振って、俺は加護を得るための旅に出た。 ……まず、下の大地に降りなきゃいけないわけだけど。 そこのところは修行で試した風魔法を背中に生やす方法で、大地に降りることにした。 ───……。 ……。 で───加減を間違えて湖から誕生するハメになった俺なんだが……。 遥一郎「あ゙〜…………」 あんな高いところからの落下中に集中しろっていうのは中々に無茶だった。 その所為であっさりと制御下から外れた風魔法はごしゃーーーと飛んでいってしまい、 そんな事態に驚いてるうちに俺は湖に墜落した。 どんな状況でも集中出来るようにならないとダメだな、ほんと。 遥一郎「さてと。それで……───……何処なんだろうな、ここは」 見渡してみてもまるで謎な景色。 少なくとも見たことの無い景色の筈だ。 いや、それ自体は地図を見ればいいとしてだ。 問題はまずどの精霊の加護を貰うかなんだが─── 声  『む?なんじゃおぬし、以前加護をくれてやった優男ではないか』 遥一郎「へ?」 思考を巡らせようとした瞬間、ふと後ろから声をかけられて振り向いてみれば─── ドリアード『久しいの、その後変わりなく元気か?』 遥一郎  「ドリアード……と、」 ドリアードが居た。 なんだか黒いルルカに乗って。 ドリアード『こやつか?こやつはロドリゲスなのじゃ。       ヒロミツと離れたのち、適当に歩いていたらばったり出会ったのじゃ』 ルルカ  『ゴエ』 よろしく、といった感じに頷かれた。 ドリアード『ところでおぬし、ヒロミツを見かけんかったか?       一週間ほど前から通信が途絶えているのじゃー……』 遥一郎  「中井出?いや……」 俺は今降りて来たばっかりだし、あいつとは通信もしていない。 だから見てもいないし知ってもいない。 ドリアード『むむむ……知らぬか……。時間を取らせてすまなかったの。       それではわしはもう行くのじゃ。ロドリゲス、ごーなのじゃ』 ルルカ  『ゴエゥ』 ドリアードの言葉に反応するように、ルルカが歩き始める。 と───俺は咄嗟に彼女とルルカを呼び止めて、 いきなりだが加護のことを言ってみることにした。 ドリアード『うん?なんじゃ、加護が無くなったと申すのか?』 遥一郎  「正確には消えたっていうのかな。       マクスウェルのじーさんから加護を昇華させる力を受け取った時あたりに」 ドリアード『……なるほどのぅ、なかなか面白いことをするのじゃな、おぬしは』 遥一郎  「また、貰いなおしてもいいか?」 ドリアード『ふむ……その力が平和のために行使されるのなら、わしも望むところじゃが』 遥一郎  「じゃあ───」 ドリアード『じゃが断る。このドリアードの最も好むことの一つは。       ヒロミツに敵対する可能性のある者の頼みをNOと断ってやることじゃ』 ドグシャアッ!! ドリアード『む?どうしたのじゃ、急に倒れたりして』 遥一郎  「倒れもするわぁっ!何処まで原中色に染まってるんだ高位精霊さん!」 ドリアード『そんなものはわしの勝手なのじゃ。       そもそも今まで幽閉まがいに外に出してもらえなかったのじゃぞ?       世界のためにずっと身を費やしてきた。       時に一時、別の何かに身を費やすことをしてもよかろ?』 遥一郎  「気持ちは解らんでもないが……」 ドリアード『じゃから嫌なのじゃ。どうしても欲しくばヒロミツ探しを手伝うのじゃー』 遥一郎  「………」 人はそれを脅迫と言う。 べつに弱みを握られてるとかではないが、 取り引きが相手の一方的な行動から発生する場合はそれを脅迫と言うんだと思う。 乗り気なら別に問題はないんだけどな……。 遥一郎  「じゃあ俺は別の精霊に会って加護を貰ってくるから、       中井出が見つかったら連絡をくれ、加護を受け取りに行くから」 ドリアード『げ、外道なのじゃ!手伝いもせずに加護だけ奪う気かおぬし!!』 遥一郎  「人聞きの悪いこと言うなぁ!俺はただ効率問題をだな───!あ……」 とかなんとか言っていると、俺達の声を聞いてかモンスターどもが現れ始めた。 くそ、大事なのか大事じゃないのか微妙な話をしている時に……! ていうかこういう時って普通、 “大事な話をしている時に”とか舌打ちをするのが状況の一致だと思うんだけどなぁ俺! 遥一郎  「……解った、探すのくらい手伝うから……!       とりあえず今はこいつら片付けよう!」 ドリアード『ほっ?どういった風の吹き回しなのじゃ?』 遥一郎  「べつにっ!ああもう、俺ってやつは何処まで……!!」 ちっこいヤツを見ると、どうしてもサクラやノアをイメージしてしまう。 そうなったらもう、困っているドリアードを放ってなんておかなかった。 ……断じて言うが俺はロリコンじゃないぞ? ドーマウス『ギギギ……!』 ドーマウス『ギチ、チチィイウ……!』 敵は4体。 ドーマウスっていう巨大ネズミモンスター。 動きが速く、その速度で相手を翻弄、隙を見て喉元にかぶりつく、か。 だったら取る行動はひとつ……でもない。 幾つか行動はあるが、やっぱり動きを止めて狙い打ちするのが一番安全だ。 そのためにはまず─── 遥一郎  「ドリアード。とりあえず中井出が見つかるまで仲間ってことでいいか?」 ドリアード『ドリアードではない、わしの仲間になるのならナギーと呼ぶのじゃ』 遥一郎  「……、ナ、ナギー」 ナギー  『よしよし、少々ひねくれておるようじゃが素直なよいヤツなのじゃ。       ではおぬしの名を聞かせるのじゃ。それで契約は成立じゃ』 遥一郎  「穂岸遥一郎。穂岸とでも遥一郎とでも与一とでも好きに呼んでくれ」 ナギー  『ふむ、解ったのじゃー』 喋りながら、頭の中で詠唱を完成させてゆく。 高速に、だが一言も違えることなく。 やがて詠唱が完成する頃、ナビがドリ……ナギーを仲間にしたことを知らせる。 もちろんルルカもだ。 だったらもう遠慮は無用だ───! ドーマウス『ギグゥバァアアッ!!!』 遥一郎  「“エアプレッシャー”!!」 トンッ……ズガガガガガガォオオオンッ!!! ドーマウス『ギチュアァアアッ!!?』 完成させた詠唱が紡ぐ魔力の結晶を、杖の先から大地に流し込む。 すると俺を中心に地面に巨大な魔法陣が出現し、その魔法陣の円の中の地面が爆砕。 ちょこまか動いていたネズミたちの足を完全に封じ、スタン状態にさせる。 遥一郎「続けていくぞ!《ギキィンッ!》“シリングフォール”!!」 続けて追撃魔法を発動。 倒れ伏したネズミどもの上空に巨大な岩を出現させ、その重さによって潰しにかかる! ドーマウス『クァアギィイッ!!』 ドガンドガンと落下にする岩の重さに耐える者と耐えられぬ者。 生き残り、死に、を見せるやつらは完全に俺を敵と見なして、 死力を振り絞るように疾駆するが───もう遅い。 遥一郎「“シャドウエッジ”!」 ゾグシャアッ!! ドーマウス『ギ……!』 馬鹿正直に一直線に走ってきたドーマウスを、地面から出現させた闇の刃で串刺しにする。 俺へと爪を突き出した状態で驚愕に染まるその顔は、やがて死出への恐怖に染まってゆく。 遥一郎「消えろ!《ギキィンッ!》“イービルスフィア”!!」 そんなモンスターを、シャドウエッジの追撃魔法にて塵にする。 シャドウエッジから放たれた闇の鎌鼬がドーマウスを切り刻むことで、 それはあっさりと叶った。 遥一郎「はい、終わり終わりっと」 そうしてから手をパンパンとはたいて、ナギーに向き直る。 ナギー『おぬし……なかなかやるのぅ』 遥一郎「これでもマクスウェル直々に魔法訓練を教わる機会も多かったからな。     初級から最上級までのほとんどの魔法は覚えたつもりだぞ。     もっとも、あの闘技場にある魔法書で覚えられものだけだから、     まだ何処かに魔法書があるかもしれないわけだけど」 ナギー『食えんやつじゃの。表面上は兎などの小動物なのに、     中は獣でも飼っているかのように鋭いのじゃ』 遥一郎「守りたいものがあるヤツってのは、大体そんなものなんじゃないかな。     あの馬鹿に散々振り回された鬱憤っていうのもまあ……かなりあるかもだが。     それで……中井出を探す当てとかはあるのか?」 ナギー『そんなものないのじゃ。     そもそもこの旅はわしとヒロミツだけしか参加していないのじゃ。     連絡がつかないのであれば、探し回るしかないじゃろ?』 遥一郎「……なるほど」 しかし連絡がつかなくなったか。 人をからかったりからかわれたりで楽しいことが大好きな原中という魔窟の長だ。 からかいはするが、普通に悲しませるようなことはしない筈だ。 何故なら人を悲しませても楽しいなんて気持ちにはなれやしないからだ。 そんなことで楽しいって感じられるやつはきっとどうかしてるし、 晦や弦月がそんなやつらと関係を続けているわけがない。 となれば、意図としてじゃなく何かのトラブルで通信が途絶えたって考えるべきだが…… などと考えていると、ふと耳に届く“くきゅる〜”という可愛い音。 ナギー『う、うぐー……!《かぁあ……!》』 見れば、ルルカの上でナギーがお腹を押さえ、真っ赤になっていた。 そして、そんな彼女と目が合った時、その唇は動いたのだ。  ……おぬし、料理は得意か?……と。 ───……。 ……。 かふかふかふかふかふかふ……けふっ!こほっ!こほっ!……かふかふかふ、こくん。 勢いよく咀嚼する音と、咳き込む音が聞こえた。 宿の料理は口に合わないと言ったナギーを連れて、 材料だけを買って再びフィールドに出た俺は…… なんの因果か、大地に降りてまで食事当番を担っていた。 ナギー『んくんくんく……!お、おぬしなかなか……むぐっ、やるのぅ……!     このわしの舌を唸らせるなど、ヒロミツ以外では初めてなのじゃ……!     まったく……!旅の途中でヒロミツが     バックパックに食料を無理矢理詰めていなければ、     わしはきっと途中で行き倒れておったのじゃ……!     さすがヒロミツなのじゃ、先のことをちゃんと考えておったのじゃ』 遥一郎「口にものを入れて喋るなよ。ゆっくり食え、べつに取ったりしないから」 ナギー『む……ヒロミツはそんなこと言わなかったのじゃ。     食事とは楽しくするものであって、     作法なんてものは頭の硬い貴族連中が作り出したものに違いねー、と』 遥一郎「ああ……一瞬でイメージが浮かんだ。でも最低限のことはだな」 ナギー『硬いことを言うでない与一。     おぬしはべつにわしの目付け役というわけでもないじゃろう。     どうもおぬしは人を過保護に見る傾向があるようじゃな』 遥一郎「え……そ、そうか?そんな自覚は……無いって言えない自分がいっそ悲しい……」 思い出せば歩んできた日々。 サクラやノア相手には随分といろいろと世話焼いてたし、 蒼木が困ったことがあると言えば相談に乗り、レイチェルさんも同様。 あの馬鹿者に関しては論外だし、凍弥にしたって自分の命を差し出すくらいに……ぐおお。 言われなきゃ自覚出来なかった自分がいっそ異常者に思えてくるぞおい……。 遥一郎「ところでだな……     なぁんだって町のすぐ傍でキャンプ開いて料理作らにゃならんのだ」 ナギー『宿よりも作ったほうが美味しいからに決まっておろう』 遥一郎「………」 随分とわがままなお子様だな、中井出よ。 もう少しでいいから押さえておいてほしかった。 ナギー『ところでおぬしはさっきからなにを見ておるのじゃ?』 遥一郎「ワールドマップの詳細だ。バージョンアップ……ああいや、     いろいろあってマップが更新されてるみたいだからな」 ナギー『ふむ?』 マップを見ているのにはちゃんとした理由がある。 通信が途絶えるような状況って言えば、思い出されるのは空界のサウザーントレントだ。 あれに似たような場所がここにもあって、中井出はそこに居るのかもしれない。 まず最初に見てみた場所は死人の森だが、そこは破壊されてあるようで、 名前が既に“荒廃した森”に変わってる。 それじゃあ何処か別の場所に…………あった。 ナギー『んむぐ?なんじゃ?』 マップを確認して顔を上げた俺が、 自分を見ていることに気づいたナギーは、ハタと食事を中断……しないで食べ続けている。 遥一郎「ガイアフォレスティアって知ってるか?」 ナギー『ガイア……もちろん知っておるのじゃ。     死人の森よりも歪んだ一つの魔法空間じゃ。     外部や内部からの一切の……侵入も防……ぐ……?     で、ではヒロミツはそこにおるというのか!?』 遥一郎「多分だけど、ここ以外に他に無いと思う。妖精の里はどうなんだ?」 ナギー『う、うむ……あそこも似たようなものなのじゃ……。     入り口と出口からしか出入りは不可能じゃし、     そもそも念話や通信などといったことは不可能じゃ』 遥一郎「……そっか」 ナギー『さっきも言ったが、ガイアフォレスティアや妖精の里は一つの空間じゃ。     それ自体が一つの世界になっておって、     出入り口があればもちろん出入りは可能じゃが、     この世界になにかしらの異常が起こったとしても、そうそう影響はないのじゃ。     たとえば……この世界が仮に大爆発などで消滅することになっても、     そういった空間はしばらくは安全と言えるじゃろうな』 遥一郎「………」 それはつまり、俺達の世界で言う天地空間をあらわしているんだろうか。 地界が滅びても、他の世界にはそうそう影響が出ないという感じに。 でも地界で空間を捻じ曲げるほどの異常が起こったとしたら、 果たして空間世界の空界はどうなるのか……そんなことを、少しだけ考えた。 答えは……まあ、俺には解らなかったが。 遥一郎「それで、このガイアフォレスティアっていうのはどういう場所なんだ?」 ナギー『うむ……一度足を踏み入れると、方向感覚を狂わされる“生きた森”じゃ。     入った者を逃さず、朽ち果てるまで出そうとはしない。     元は普通の森だったのじゃがな……あることがきっかけで乖離されたと聞く』 遥一郎「あることって?」 ナギー『アハツィオンとレヴァルグリードの戦いじゃな。     力と力のぶつかり合いが原因で、     戦場となっていた森が異空間へ乖離されたのじゃ』 遥一郎(乖離……空界で言う、狭界と空界みたいなものか……?) ナギー『それ以来、そこはこの世界を懐かしみ、     この世界から訪れたものを抱いて離さぬ森と化したと聞く。迷惑な話じゃが、     郷愁というものはなにも人間だけの想いではないということじゃな』 遥一郎「……そういう事実を知ってるってことは、抜け出せたヤツが居たってことだろ?     その森を抜け出す方法は?」 ナギー『ふぅむ……まず落ち着くのじゃ与一。     まだそこにヒロミツが居ると決まったわけではないのじゃ』 遥一郎「……さっきお前が言ってた一週間前のお前たちの立ち位置だけどな。     中井出が居たらしき神殿近くとお前が居たらしき場所、     一本の線を引いてみるとアラ不思議、     思いっきりガイアフォレスティアにぶつかるんだよな」 ナギー『………つ、つまり……どういうことじゃ?』 遥一郎「あの中井出の性格から考えるに、     迂回するのが面倒でそのまま突っ込んだんじゃないかと思われる。     さらに通信が途絶えた証言からして、中井出はまず間違い無くここに居る」 ナギー『う、うぐぐ……なるほどのう……。     しかしな、そこは入ったというなら助けに行こうだなどと     簡単に言えるような場所ではないのじゃ……。     確かになんとか逃げ延びた者は居たと聞くが、     出れたのはほぼ奇跡だったと言っていたと聞く。軽い気持ちで中に入れば、     ヒロミツだけではない、わしらまで出られなくなるのじゃ』 遥一郎「………」 自然の精霊であるドリアードがこうまで言うその森……いったいどんな場所なんだ……? ただ謎だとか奇跡だとか言われるだけじゃまるで解らない。 それにどの道、そこには行かなければいけないだろう。 念話も通信も遮断する力があるってことは、 恐らく死亡した時も教会には飛ばしてくれない。 そうなれば自分の足で出口に向かうしかないだろう。 けど中井出とはまだtellでの通信は出来ない。 つまりあいつはまだ森の中に居るってことだ。 食料が尽きても餓死しても森の中で目覚めるか、それとも死んだままってことだ。 さすがにそんなのは見捨てておけない。 遥一郎「行きたくなくても行かなきゃいけないだろ。     中井出が中に居るんだとしたら、一生出られないかもしれない。     そんなの、知っているのに見て見ぬ振りなんてのは出来ないだろ」 ナギー『……どうなっても、知らんぞ?』 遥一郎「ん?そりゃそうだろ、お互い自分のことは自分でなんとかしたいもんな」 ナギー『うぐぐっ……意地が悪いのじゃおぬしは!     わしが戦いが嫌いなことは知っておろうに!』 遥一郎「初耳だ」 ナギー『ウソを言うでないわ!』 遥一郎「はは、解った解った。出来る限りのことはするよ。     ただし、それこそ出来る限りのことだ。限界越えは俺の分野じゃないし、     俺も戦いが好きってわけじゃない。魔法が好きなんだな、ようするに」 ナギー『むー……』 なんだか納得いかないといった風情でがじがじと木製スプーンをかじるナギー。 ところで“(かじ)る”って文字と“醤油”って文字って似てるよな。 いや、意味はないんだ。ただふと思っただけで。 遥一郎「じゃあ、もし生きてるんなら     ひもじい思いをしてるだろうから食料はいっぱい持っていくとして……」 ナギー『う、うむ。わしも持つのじゃ』 俺の言葉に必死の様子でこくこくと頷くナギー。 解ったからまずスプーンを置きなさい。 遥一郎「俺達が迷う可能性ももちろんあるわけだから、多いにこしたことはないな。     よし、ルルカにも食料を括りつけていこう」 ルルカ『ゴェ〜ウ』 ビッ!と長い黒翼で敬礼をするルルカが居た。 ……お前も地味に原中に染まってるのな……。 などと、これからの心労を考えつつ、 俺達はキャンプを片付けるともう一度食料を買い込むために町に入るのであった。 ……何故か全部俺の自腹で。 Next Menu back