───冒険の書142/刹那の夜に───
【ケース398:晦悠介/トラットリア右門】 それはとある夜のこと。 旅先の宿で暖を取る……なんてことはせず、節約のために野宿をしていた俺は、 綺麗な夜空を見ながらふと大変なことを思い出したわけで。 悠介 「……まずい」 なにがまずいって、ルナのことほっぽりっぱなしって事実がまずい。 考えてみればこっちに来てからここ数日、全然tellも送ってなかった。 今何処に居るかなんて解らないが、このまま放置しておくと絶対に拗ねる。 いや、既に拗ねてるだろう。なにせルナだ。 悠介 「なぁんか……ヘンな気分だよな」 まるで彼女のご機嫌取りのために電話をする男のような…… いや、思い切りそれに近いわけだが。 随分とヘンなところに落ち着いたもんだな、俺の道……。 それでもあいつが大切なのは本音だから、こうしてtellを送るわけで。 声  『悠介!?』 で、開口一番に聞こえた声がそれだった。 おいおい……まだワンコールも鳴ってないんだが……? 悠介 「あ、ルナか?今何処だ?」 声  『悠介のほうこそ何処!?』 悠介 「あー……」 怒ってる。 確実に怒ってる。 声にドスが利いてるというか……ともかくあまり落ち着きのない声調だ。 悠介 「俺はアクアリムス地方の大木の下だ。焚火燃やして野宿してる。お前は?」 声  『…………トリスタン』 悠介 「うぐっ……」 聞いてみて驚いた。 つまりヒロラインに降りてからずっと、そこから動かなかったってことか……? うおお……物凄い罪悪感が……。 悠介 「って、大丈夫なのか!?ジュノーン……あ、いや、ルドラは───」 声  『……ん。ちょっと話したけどね、やっぱり今は戦う気は無いって。     “時が来るまで動く気は無い”って言ってた。     その“時が来るまで”は意識を完全にジュノーンに譲ってるから、     戦いたければ好きに戦えって言って、それ以来ルドラは浮上してきてないみたい』 悠介 「……?」 その“時”っていうのが解らない。 ノートが推測した通り夏の終わりなのか、それとも…… 声  『伝言で、“今のままで満足することだけはするな”って言っておけって。     なんのことなのかな』 悠介 「いや……」 解らない。 けど、今の状態で満足なんてしていたら未来なんて築けない。 俺は、もっと強くならなくちゃいけないんだ。 そのために俺は、かつては確かに持っていた克己心を今こそ再び─── 声  『とにかく今度会う時は私はルドラではなくジュノーンだって言ってた。     ルドラとして現れるのは、悠介が滅びるに値する存在のままだったらだって』 悠介 「………」 つまり、守りたい者を守るなんていう幻想を抱き続けるのなら、 俺を殺すために再び浮上すると……そういうことか。 時期がいつかなんて解らない。 けど、“今のままの俺”ならば確実に殺すと、そう言っているんだ。 夏を過ぎても秋を過ぎても、どれだけ時が過ぎても、 俺が変わることが出来たのなら浮上はしない……そう言っているんだ。 でもそれは……恐らく無理だ。 俺は多分、最果てに辿り着いてしまった彼のように…… 生き方を変えることなんて出来やしない。 たとえいろんな人を巻き込む結果になってしまったとしても、 心に立てた一本の槍だけは破壊しないようにと今までを生きてきたんだ。 今更それを変えることなんて出来ない。 出来ないから───強くなる。 未来を目指せるくらいに強くなって、こんな我が儘をずっと続けてゆく。 “みんなを守る”んじゃない。 目に見える、手が届く仲間たちとの瞬間を守りたい。 だから……俺は未来も諦めないし、この意思も諦めたりしない。 悠介 (……強くなろう。自分の我が儘を貫き通せるくらい、強く───) 弱体化してから、いろいろ気づけることがあった。 多分それが、ノートが俺に気づかせたかったいろいろなこと。 でもまだ完全じゃないから俺はこうして迷っていて、 だけど意志だけは変えるわけにはいかないと、覚悟を決めることも出来る。 不安定なままで覚悟を決めるのは怖い。 でもそれは誰だって同じことなんだっていうことにも気づけた。 俺だけが不安なんじゃない。 みんな同じだけ不安を抱えてる。 そう思ったら、殻に閉じこもっていたかつての自分が酷く馬鹿らしく思えた。 感情は完全じゃないし、力だって、言った通り弱体してる。 でも考える時間はたっぷりあった筈だし、学べることもまだまだあった。 悠介 「……うん」 拳を握ってみた。 強く強く握った手……それは、自分の意思の暖かさを、俺の中に流してくれるようだった。 声  『悠介?ゆーすけー?』 悠介 「……ああ、聞いてる。どうする?落ち合うか?」 声  『うん?ていうかね、もう向かってる』 悠介 「……なに?お、おいちょっと待て!     お前アクアリムス地方がどれだけ広いと思ってるんだ!」 声  『そんなの知らない。わたしは悠介に会いたいだけだもん』 悠介 「…………〜〜」 相変わらず、聞いてる方が赤面するようなことをハッキリと言うヤツだ。 本当に、どうしてこうまで好いてくれてるのかね、こんなぶっきらぼうなヤツを。 声  『今までなにしてたの?』 で、そんな俺の心中を知ってか知らずか、飄々と話し掛けてくるルナ。 ……こいつもこいつで、好き勝手に生きてるんだよなぁと妙に納得した瞬間だった。 悠介 「初心者修練場から出た途端に大変なクエストに巻き込まれた。     いや、巻き込まれたというか自分から突っ込んだんだが」 声  『ふんふん……』 悠介 「で、そこでボスと戦って死にかけてるところを中井出に助けてもらって……     中井出と別れたあとはいろんな町を回って、地味にクエストをこなしてた。     どうやら月の欠片っていうのを集めないといけないらしくてな、     誰が持ってるのかも解らないから手当たり次第に」 声  『へー……』 悠介 「いや……あのな、ルナ。声にてんで感情が篭ってないんだが……?」 声  『わたしずっと待ってたのに……』 悠介 「うぐっ……い、いや、それはだな……すまん、それは素直に謝る」 声  『…………えへー』 謝って貰えれば良かったらしい……我が妻ながら、なんて単純なんだ……。 いや、ここは“なんて素直なんだ”って思っておいたほうがいいんだろうか……。 どちらにしても、こっちからも向かってやった方がいいと見た。 方向音痴ってわけでもないが、なんとなくな……。 ディル『落ち合ってやった方がご機嫌取りになるか?尻に敷かれているな、王よ』 悠介 「いや……純粋にそういうのじゃないからあまり邪推するな」 クァアと欠伸をしつつ起き出したディルゼイルが、飛翼をはためかせて俺の肩に乗る。 そんな飛竜に俺は飛んで行く気はないのかと言おうと思ったが、 今日まで俺の無茶に散々付き合わせた負い目もあって、そんなことは言えなかった。 負い目よりは、感謝のほうが多いわけだが。 悠介 「じゃ、行くか」 ディル『………』 悠介 「…………肩に乗りながら寝るなよな……」 どれだけ器用なんだお前は……。
【Side───その頃のみさおさんたち】 ホーホー……ホー…… みさお「ゼットくん、晩ご飯できたよー」 ゼット「ああ」 STRを低くして、巨大斧を振るうなんていう修行をしていたゼットくんが振り向く。 修行の仕方がまるで父さまみたいだ、なんて思う。 でもそれを言うと妙に怒るのがゼットくんなので言いませんが。 みさお「疲れない?毎日そんなことしてて」 ゼット「どうということはない。戦いではなく鍛錬の場合は疲労が現れるらしいが、     疲労を感じないこの世界では逆に清々しいくらいだ」 みさお「そんなものかな……」 ゼットくんはそう斧を自分の横に置きながら座って、わたしが作った料理に手を付ける。 美味しそうな顔はしないものの、不味そうな顔もしない。 喜びの表情を表に出さないのはどうしてかな……とか考えてみたけど、 そもそも今のゼットくんに眩しい笑顔は似合わない気がした。 なんてことを思っていた時だった。 ごしゅぅううううんっ!!と、向かい合ったわたしとゼットくんの間を突風が突き抜ける。 その拍子に鍋が引っくり返ってゼットくんの顔に思いっきりかかって…… ゼット「…………〜〜〜……」 わなわなと震えるゼットくんが居ました。 ゼット『いい度胸だ……!何処の誰か知らんが今のは挑戦と受け取った……!!』 メキメキと体を変化させてゆく姿に、さすがに溜め息を吐かざるをえませんでした……。 はぁ……今の、母さまですよね……。 あんなに急いで何処に行くつもりだったんでしょうかね……。 【Side───End】
そうしてしばらく走った頃。 遠くの方から何かが飛んできているのを発見するに、 それがルナだと気づくのにそう時間はかからなかった。 悠介 「ルナ、速かった《どがばしぃ!!!》なごぅぼぉっ!!?」 ルナ 「悠介ぇえーーーーーっ!!悠介悠介悠介ぇえーーーーーっ!!!」 それをなんと喩えようか。 まるで人身事故をこの身で体感したような衝撃が俺を襲い、 その勢いで俺は空を飛んでいた。 ルナは俺に抱き付くとすぐに浮力を消したらしく、ルナ自身は飛んでない。 つまり俺の体が、吹き飛ばされたために飛んでいるのだ。弾丸の如く。 などと状況確認なんてしてる場合じゃドシャシャシャシャア!!! 悠介 「ぐっはぁああーーーーっ!!!」 ……自然の法則は恐ろしいもんだ。 きちんと重力によって大地に落とされた俺は草原をザリザリと滑り、 物凄いダメージとともに顔を真っ青にしていた。 悠介 「お゜っ……おまっ……お前……な……!     抱きつく時はっ……勢いを考えろって……あれほど……!!」 ルナ 「………」 人の話なんか聞きもせず俺の胸にぐりぐりと顔を埋めて、 俺の臭いを心いっぱいに吸い込んで、 ほにゃ〜んとしたとろけ顔になってしまったこいつをどうしてくれようか……。 ええいくそ……お前は縁側のおばあさんの膝の上で眠る猫かっ……! でもちっとも怒る気にならないのは猫マジックってところなんだろうか……。 はぁ……。 仕方なしに俺は、人の胸の上で満足気な空き缶猫の頭を撫でてやった。 今回はさすがに悪かったと思ってるから。 だから─── 悠介 「…………うん?ルナ、なにか聞こえないか?」 ルナ 「………」 悠介 「うおっ!?寝てるよこいつ!」 どういう寝つきの良さだよ! ああいや、いい。 今はこの地響きのような何かの音の正体を……─── ゼット『貴ィイイイイイ様かツゴモリィイイイイイイッ!!!!     今すぐその命を我が前に差し出せぇえええええいいいいいっ!!!!』 悠介 「う、おっ……うおぉおおおおおおっ!!?」 理解した途端、俺はルナを抱きかかえて逃走を開始していた! いやもちろん逃げられるわけがないなんてことは解っちゃいるだが───!! ゼット『貴様がそうまでして俺との決着を急いていたとはなァアア……!!     その逃走はなにかの作戦か……!?小賢しい真似はせず力でぶつかれ!!     所詮俺や貴様に小賢しい戦略など無用のもの!!     ただ純粋に力でぶつかり力で薙ぎ倒す───!     それが竜の力を手に入れた者の深淵!!さあ武器を取れツゴモリィイイッ!!!』 悠介 「まっ……待て!待て待て待て待て待てぇえええええっ!!!     話が見えんっ!まず状況の説明くらいしたってバチは当たらないだろおいっ!」 ゼット『バチなど知ったことかァ!!当てるものごとそんなものは塵と砕いてくれる!!』 悠介 「だぁっ!お前滅茶苦茶だ!!いいから落ち着け!落ち着けぇえええっ!!!」 ゼット『何故落ち着く必要がある!力を持つ者が向かい合い、何故力を納める必要がある!     俺達は剥き身の刃だ!常に剥き身でいるそれを突きつけられ、     何故一方が逃げ出す必要がある!力があるならば戦え!     刃を向けられて敵意を見せぬ者になんの意味がある!!』 悠介 「極論だろそれ!ええいもう!」 バッと荷物とルナを放り投げ、荷物がクッションになるようにしてルナを寝かせる。 そうしてからシミター二本を腰から引くと、片手ずつに構えてゼットと対面する───! ゼット『そうだそれでいい!今の貴様に力があるか否かなどどうでもいい!     だが俺達は常に前に進むことしか出来ない力の化生だ!!     どんな力にも抗わずに、どうして強者が目指せる!!』 悠介 「力の理に関してはどうして舌が回るんだろうな、お前は───!」 吐き捨てるように言って、ギャリンとシミターを構え、ゼットの攻撃を迎え撃つ───!!  ドグシャアアア……!! 結果:無理でした。 あっさり吹き飛ばされた俺は、立っていた位置から数メートルは飛ばされ、 やっぱり草原を滑りまくり、ようやく落ち着いた。 ゼット「……フン。どうやら弱体化したというのは事実らしいな」 悠介 「ゼット……」 竜人状態を解いたゼットが俺に歩み寄る。 そして俺の胸倉を掴んで片手で起き上がらせると、俺の目を真っ直ぐに見て口を開く。 ゼット「このままではつまらん……怠けているつもりはないんだろう」 悠介 「当たり前だ。俺は強くならなきゃいけない」 ゼット「当然だ。こんなザマでは暇潰しにもならん。     人間の状態でも勝てる相手では楽しみ甲斐もない。     ……だが、その目だけは変わってないようだ。少しは安心した」 悠介 「……解ったから離せ。さすがに宙吊りのままで話続ける趣味はない」 足をプラプラとさせてみる。 ……あまり面白くはなかった。 ゼット「せいぜい腕を磨け。今の貴様はつまらない」 悠介 「ゼット、うしろ、うしろ」 ゼット「うん?───ハッ!!」 みさお「ゼェエ〜〜ットくぅう〜〜〜ん……!?     また父さまに妙なことやってたんじゃないでしょうねぇえ〜〜〜っ……!!!」 ゼット「い、いやっ……なんのことだ!?俺は知らんぞ!」 悠介 「お前ってほんと、みさおには弱いのな」 ゼット「黙れ!」 攻撃もされてないのに切羽詰った顔をするゼットなんてそうそう見れるもんじゃないよな。 よし堪能しよう。 ……じゃなくて。 悠介 「お前らもここらへんに居たのか」 みさお「ええはい。相変わらず当ても無計画に旅をしてますよ。     ちゃんと楽しんでますから、そこらへんはご心配には及びません。     ですがね……どうしてか父さまが関わると、     ゼットくんは周りが見えなくなるというか……」 悠介 「絡むんだったら今は俺より彰利か中井出にしてくれ。正直相手になれない」 ゼット「チィ腑抜けがっ……!!」 悠介 「腑抜けとか言うなっ!     こちとらちゃんと強くなろうって心に誓ったばっかりなんだぞ!?」 ゼット「言い訳は聞かん!」 悠介 「言い訳じゃなくて正当な言い分だろうが!     そんな、何もやってないのに急に強くなんかなれるかばかっ!」 ゼット「ならばするべきことをしてさっさと強者に至れ!」 悠介 「そんなもんお前がいきなり攻撃してこなけりゃ実行してたわぁあっ!!!」 ゼット「ぬうう!!俺に責任を擦り付ける気か貴様!!     今すぐこの場で破壊してやってもいいんだぞ!!」 悠介 「おお上等だこの野郎!!低レベルだからって甞めてかかると怪我するぞ!!」 みさお「だめですそこまでです!!───ゼットくん!おあずけ!!」 ゼット「なっ……犬か俺は!」 みさお「周りのことも考えないで喧嘩ばっかり始めるなんて犬以下だよ!」 ゼット「《ぐさぁっ!!》ふぐっ……!い、犬以下……!!この俺が……!?」 みさお「それから父さまも!     子供みたいにゼットくんと叫びあわないでください、わたし恥ずかしいです……」 悠介 「愛と勇気など要らん。童心があればそれでいい」 みさお「妙にズレた方向で悟らないでくださいよ!」 そうは言われてもな。 みさお「とにかく。ゼットくん、今後急に誰かに襲いかからないで」 ゼット「フン断る」 みさお「じゃあゼットくんのこれからの食事、全部ドリアン」 ゼット「すまん俺が悪かった……」 悠介 「ぐっ……不憫な……!」 少し見ないうちに、すっかり尻に敷かれてしまったらしい彼がいっそ哀れだった。 ゼット「だが敵対した者は別だ。     敵意を見せる者やモンスター相手にいちいち躊躇していたら時間の無駄だ」 みさお「う……それはそうだけど」 ゼット「敵ならば文句はないんだろう」 みさお「えと……うん、まあ……」 ゼット「さてツゴモリよ……!貴様と俺の関係はなんだ……!?     もちろん敵同士だな?そうだな?そうだと言え今すぐ……!」 悠介 「お前結局それ言いたかっただけだろ!!」 みさお「ゼットくん、明日の朝食ドリアンね」 ゼット「ぐっ!ま、待てセシル!今のはきちんと確認を取ってからのことだろう!     俺は何も間違ったことなど言っていなかった筈だ!!」 みさお「騙されたみたいで嫌です」 悠介 「……なぁ。俺もう行っていいか……?」 みさお「話がまだ終わってません!ダメです!」 悠介 「どんな話があるっていうんだよ……」 みさお「母さまが晩ご飯のお鍋をひっくり返してしまったのです!     だから父さま!どうか責任をとってくださいませ!」 悠介 「こんな時ばっかり畏まるなよお前はぁっ!!     〜〜……ああもう解ったよ……作ればいいんだろ作れば……」 ゼット「フン、貴様が作ったものなど食えるか」 悠介 「じゃあドリアンな、お前」 ゼット「卑怯だぞ貴様!!」 何故ドリアンなのかは知らんが、案外嫌いなのかもしれん。 はぁ……これからって時に、なんだってこんなことに……。 話し合ってる暇があったら鍛錬をしたいんだが……っと、そうだ。 悠介 「なぁみさお」 みさお「はい?なんですか?」 悠介 「モノは相談なんだが……ルナを連れていってくれないか?」 みさお「と、父さまはわたしに死ねと言うんですか!?」 悠介 「どうしてそうなるんだ馬鹿者っ!」 みさお「《ぼかっ!》はうっ!で、ですが父さまから離れた母さまがどれだけ獰猛か、     父さまだって知っているでしょう!!というかゲンコツはやめてください!」 悠介 「母を獰猛とか言うんじゃないっ!…………言った通り、俺は修行中だ。     自分より遙かにレベルが高いやつと旅をしても、身にはならない。     それに誰かが一緒に居ると、そっちに気が逸れる気がしてならないんだよ。     俺は……空界を駆け抜けた頃みたいに、ディルと一緒に自分を磨いていたい」 みさお「で、ですがですね……!流石に母さまがなんて言うか……!」 悠介 「頼む!俺には今、自分の我が儘を貫き通せるだけの力が必要なんだ!     そしてそれは自分で手に入れないと意味がない!     誰かと一緒に戦って、それでレベルアップしてもしょうがないんだよ!」 みさお「うぅ…………わ、解りました……一応了承します……」 悠介 「本当かっ?助かる!」 みさお「で、ですが了承しただけですよ……?     正直本気になった母さまを止められるかどうかなんてわたしには解りませんし……     その気になれば父さまを探しに自分だけで旅に出るかもしれませんから……」 悠介 「その時は好きにさせてやってくれ。俺は逃げ続ける」 みさお「妻から逃げ続けるなんてどこの不倫男ですか《ごすっ!》はうっ!!」 悠介 「だから……!そういうことを言うんじゃない……!!」 みさお「だからってゲンコツはやめてくださいってば……!!」 痛そうに殴られた箇所を押さえるみさおだが、そんなことは知らん。 とりあえず俺はルナの下敷きになっている荷物を取って………… 悠介 「………」 取って…… 悠介 「ぬっ、こっ、このっ……!」 …………取れん。 下敷きになってるどころかこの野郎、人の荷物にきつく抱きついてやがる。 しかも相当に力が入ってるらしく、低レベルの俺では引き剥がすことも出来ない……。 みさお「それではわたしたちはこれで《がしぃっ!》」 悠介 「待たれよ」 みさお「はぅう……」 そそくさと逃走を謀ろうとする親不孝者の肩を掴んで引き寄せた。 荷物から引き剥がせないと見たらすぐこれだ。 俺は貴様をそんな娘に育てた覚えはないぞ。 みさお「む、無理ですよぅ!     多分母さまは荷物に染み付いた父さまの臭いに抱きついてるんです!     母さまは父さまのことになると力の入り具合が段違いなんですから、     どうやったって剥がせませんよぅ!」 悠介 「神魔月昂刃だ。やれ、弱体化」 みさお「寝てる妻相手に鬼ですかあなたは!!」 悠介 「あのなぁああ……!!     俺が誰か強敵と戦ってる時、ルナが黙って待機しててくれると思うか……!?     少しでも俺がダメージ受けようものなら怒って、     そのモンスターを八つ裂きにする姿なんて簡単にイメージできるだろうが……!」 みさお「あー……その、はい……物凄く簡単でした……。     母さま、もはや異常とも取れるくらいに父さまのことが好きみたいですし……。     しかもこのヒロラインに入ってしばらくしてからさらにですね……。     あの、父さま?なにかありましたか?」 悠介 「なにかって……」 …………どう考えてもあれだよな。 悠介 「その……なんだ。告白した」 みさお「は、はい?告白?……どんな事件起こしたんですか?     もしや村人にモミアゲを褒められた拍子に殺人《がごんっ!》いきゅうっ!!     ふっ……ふぇ……!いたっ……いたっ……!!」 悠介 「おぉおおのぉおおれぇええわぁああ……!!!     いくら俺でもモミアゲに触れられたからって殺人まで起こさんわぁっ!!」 みさお「だからって……またゲンコツっ……う、うぐっ……ふぇっ……!」 悠介 「〜〜……ああもう……!お前も刀士ならゲンコツくらいで泣くなよまったく……」 みさおの体を抱き寄せて、殴った箇所をやさしくやさしく撫でる。 するとぐずっていた様子も段々と治まり、やがて落ち着いた呼吸が聞こえてくる。 みさお「うぅ……なんだか恥ずかしいです……」 悠介 「お前を撫でたのなんてどれくらいぶりだったかな……。     つい最近にもあったような気がするが……まあいい。     その、悪かったな。いくらなんでもいきなりゲンコツするのはひどすぎた」 最後にもう一度ぽんぽんと撫でて、みさおを離した。 すると少し……どころではなくかなり名残惜しそうに寂しそうな顔をしつつ離れるみさお。 ……あー……もう。 悠介 「わぁ〜ったよ……。こっち来い……ほらゼットも。怒りの炎燃やしてないで」 ゼット「貴様いつか殺す……」 悠介 「抱き締めることくらいお前だってやってるんだろ?     親に嫉妬してどうすんだ、ばか」 ゼット「ぬ、ぐ……!!」 ルナを寝かせている木の根元に寄りかかるように座り込みむと、 その股の間にみさおを座らせる。 思えばあんまり甘えさせたこともなかった。 ほんと、あんな子供時代を過ごしてきたっていうのに、ひどい親だ。 みさおが寂しがるのも頷ける。 みさお「あ、あのあの、父さま……?」 当のみさおはそんな俺の行為が信じられないのか、しきりにおどおどしていた。 けど俺は黙って自分の胸にみさおの頭を預けさせるように傾けさせ、小さく息を吐いた。 みさお「あ……」 甘えさせるっていっても、俺にはなにをどうすれば甘やかしに繋がるのかなんて解らない。 だから、寄りかかる胸くらいは貸してやろうって……ただそれだけの行為。 それでもみさおは嬉しそうに穏やかに笑うと、 さっきのルナのように俺の胸の中ですぅ……と息を吸っていた。 ……俺、へんな臭いするか? ゼット「……フン」 で、残ったゼットは不機嫌そうに俺から少し離れた横に座り、木に背を預けた。 ゼット「……さっさと強くなれ。そうなった時、思い切り今の怒りをぶつけてやる」 悠介 「そりゃなるが……お前って案外独占欲高いか?」 ゼット「独占ではない。自分以外の誰かにセシルを預けることが不安なだけだ」 悠介 「不安……か。なるほど」 思えば過去、 セシルが人身御供になんかならなければゼットは荒竜王になんかならなかった。 代わりに狭界からも出てこれなかったんだろうけど、 少なくとも大事な人を失う悲しみを自分が原因で背負うこともなかった筈だった。 ……不安にもなるだろう。 悠介 「………」 ゼット「………」 結局それで会話は途切れた。 俺とゼットとみさおは何も話さないままにしばらくそうして、 静かな時間に身を委ねていた。 Next Menu back