───冒険の書150/外道クズモミアゲ───
【ケース413:晦悠介/彷徨える……たくましい(笑)(ショウ)】 ガカンココココガシャゴシャゴニャアア〜〜〜〜ォオ!! アイルー『出来たニャ!!』 コシャンッ♪《契約の指輪“アクアマリン”を手に入れた!》 コシャンッ♪《変化の指輪“ロウ・ガルプランツ”を手に入れた!》 悠介  「……よし。金はここに置いておく」 アイルー『毎度ありニャ!……ていうかお客さん、愛想が悪いニャ』 悠介  「お前を探すのに随分と手間がかかった。      これから水の聖堂に行かなきゃならないんだ、      時間の無駄をしているわけにはいかない」 アイルー『店の者と旅人との語らいもまた一興だと思うニャ』 悠介  「うるさいぞ、必要ないって言っている」 アイルー『……お客さん、随分雰囲気変わったのニャ。なにかあったニャ?』 悠介  「───!?以前の俺を知ってるのか!?」 アイルー『《グリィッ!》ギニャッ!?し、知ってるニャ……!      以前、町で回復アイテムを見繕ったニャ……!      く、首離すニャ、苦しいニャ……!』 悠介  「それだけか!?」 アイルー『そ、それだけニャ……!』 悠介  「〜〜っ……ちぃっ!」 掴んでいた猫を離す。 くそっ……以前の俺がどんなヤツなのかが解れば、 この無駄な焦燥感も消しようがあったものを……! ディル『苛立ちすぎだ、落ち着け』 悠介 「解っている……!」 解っているが、この時間が経つにつれ“なにかをしなければ”と 自分の奥底に囃し立てられる気分は吐き気がするほど嫌なものだ。 思うに、以前の自分はよほどのお人よしだったようだ。 それはディルの言葉からも容易に想像出来る。 困っている人が居れば無条件で助けようと勝手に動くほどだ。 ほとほと呆れる。 甘すぎて反吐が出るほどだ。 自分のために生きると決めた俺にとって、以前の俺は邪魔者以外の何者でもない。 ディル(……やれやれ。生き物など己を忘れれば変わるものだな) 悠介 「ディル、ここにもう用は無い。水の聖堂に行くぞ」 ディル『解っている、王』 これから水辺の村ウォーテールを経由して水の地下神殿を目指す。 そこで待っているのは精霊ウンディーネだ。 契約の指輪というものを作ってもらったが、果たして契約するのか、それとも─── ───……。 ……。 旅の行商猫に指輪を作ってもらったのちに、ただひたすらにウォーテールを目指す。 水の地下神殿の傍にあるその町は、そこに入る目前で準備するには最適な場所だ。 そこでアイテムなどを揃えてから向かうというのが今の目的だ。 今現在は大地を蹴り、全速力で草原を駆け抜けているところだ。 目的地が決まっているのにのんびりとしていられるほど、 この心のうずきは穏やかではない。 なにかをしなくてはいけないなんて、そんなことは俺には関係ないというのにだ。 俺はただ俺のために強くなる必要がある。 その衝動が何処から来ているものなのかなんて考える必要もなければ、 考えようとも思わない。 強くなれればいい。 目的なんてどうでもいい。 ただ強くあれと俺の中が叫んでいる。 ボーグル『ホガァアアアッ!!』 悠介  「邪魔だ!」 ゾバンッ!!───道を歩み、俺に気づいたボーグルを大剣で破壊する。 やはり斬るよりも叩き潰すといったほうが適当であるそれは、 いとも容易くボーグルを破壊。 経験のみを残してさっさと消えるそいつに振り向きもせずに駆けた。 ……一直線だ。 無駄な時間なんて要らない。 ただ真っ直ぐに突き進む───! ───……。 ……。 ザザァッ! 悠介 「───ふぅっ……!」 やがて、昼を迎える前にウォーテールに辿り着くと、 そこで必要なものを買い、不必要なものを売って準備を整える。 水属性の相手は雷属性に弱い筈だが、 こんな街中で属性武器がそうそう売っているわけもない。 ……いいや、構うか。 敵の弱点を突くのは常套手段だが、それが出来ないなら力ずくで捻じ伏せるしかない。 だったら突き進めばいい。 アイテムは買った。 他に望むことなどなにもないはずだ。 ───……。 ……バシャッ……。 悠介 「………」 ディル『ふむ……』 そうして、休む間も無くここに居る。 地下神殿とはよく言ったもので、水が流れる床と、巨大な神殿とがそこに存在している。 随分とコケがあるが、そんなものはグジリと踏みにじって歩いた。 悠介 「……何もないくせに随分と広い神殿だ」 ディル『まったくだな。だが、だからこその神殿だろう』 ディルの言葉の意味は正直よく解らない。 だが立ち止まる理由もない俺は、 水が流れる床をそのまま進み、神殿の先へ先へと歩いていった。 そして─── 声  『止まりなさい』 聞こえた声に、ザワリと感情が躍動する。 ウンディーネ『ここは水の聖堂。人間が立ち入っていいところではありません。        用があるのならこの場でいいなさい』 現れたのは精霊だ。 どうやらあいつがウンディーネらしい。 悠介    「用件か。……力が欲しい」 ウンディーネ『力……?なにゆえに力を欲するのです』 悠介    「……ただ、己のため……!」 ギシリと握る拳が熱くなる。 ウンディーネ『己のため……?なんという愚かな。        己のために生きる者の力など高が知れましょう。        あなたは修羅の道を歩まんとしているようですが、そんなことでは───』 悠介    「だったらその身で試せ、精霊よ。        俺は愚かと言われようが突き進むと決めた。        貴様の物差しで俺という人物を計らないでもらおうか。        俺の意思は俺のもの。貴様にどうこう言われる筋合いなどない」 ウンディーネ『───……いいでしょう。ならばその力、示しな───っ!?』 悠介    「御託が長いな精霊というのは!!」 フフォンゾバシィッ!! ウンディーネ『うくぁぁあっ!!?』 悠介    「こっちはとっくに戦闘体勢に入ってるんだ……        いつまで御託を並べれば気が済む」 ウンディーネ『っ……おのれっ……!』 ウンディーネが瞬きする瞬間、水に濡れる床を蹴り、一気に間合いを詰めて斬り付けた。 その行動に驚愕し、間合いを取るために後ろへ下がるウンディーネ。 その姿へと双剣を投擲し、大剣を構えつつ疾駆する。 ウンディーネ『───!?武器を投げるなんて、どういうつもり───!?』 もちろん、といったところか。 投擲した剣は弾かれ、水に落ちる。 だがその弾く動作を狙い、大剣を一気に振り下ろす!!  ヴオザバシャアッ!! 悠介 「───!」 だがそれも、水の膜のようなものに受け止められた。 ウンディーネ『無駄です。そのような斬撃ではわたしは《ガツゥッ!》うあっ!?』 大剣を受け止めた程度でいい気になっていたそいつの顔を、 膜を突き破った手で掴んで乱暴に地面に叩きつける!!  ゴドォンッ!! ウンディーネ『あうっ!』 悠介    「どれだけ水に勢いが殺されようが、伸ばして掴めば結果は同じだ!」 そうして倒れたウンディーネ目掛けて拳を握り、 うつ伏せ状態で恐々と俺を見上げたその顔面こそを容赦なく殴り倒した。 ウンディーネ『うっ……う、ぐ……!』 悠介    「まだやるか?水の者」 ウンディーネ『っ……タイ、ダル……!』 悠介    「───チッ」 ばしゃあっ───ズダンッ!!ドッガァアッ!!! ウンディーネ『うあぁああああっ!!!』 悠介    「あまり面倒をかけさせるなよ女……!        俺はいつまでも貴様に時間をかけていられるほど暇じゃないんだ……!」 倒れたウンディーネを持ち上げ、 円を描くように後ろ側に叩き付け、さらにその体を殴りつけた。 体の方はどうやらそんなことをするなと拒んでいるようだが、今は俺が俺だ。 以前の俺の意思など知ったことじゃない。 悠介    「……うん?ああ、そうだったな。こんなものを作ってもらっていた」 ウンディーネ『……!そ、それは……!』 自分の指に輝くのはアクアマリンの指輪。 どうやら精霊と契約するためにあるようだが、丁度いい。 この契約して力になるなら、使ってやるべきだろう。 ウンディーネ『や、やめなさい!わたしは貴方になど───!!』 悠介    「黙れ、選ぶのは俺で選ばれるのが貴様だ。        貴様の意思など元より度外済みだ」 ウンディーネ『───!う、ぁあああああっ!!!』 契約するための言葉など必要としない。 片手で持ち上げたソイツに指輪を押し付け、強引に指輪の中へと吸い込ませた。 すると俺の左手の甲に小さな水色の紋章が出現する。 ……契約完了だ。  ピピンッ♪《精霊との契約により力が引き出された!》 悠介 「………」 そして理解する。 どうやら全てを自分のものにするには、全ての精霊と契約する必要があるようだと。 しかし以前の俺はやはり甘い。 一瞬戦う手段が頭に浮かんだが、 どれもこれも相手を傷つけすぎないためのギリギリの手段だ。 そんなものではトドメは刺せないし、倒すまでに時間がかかる。 ディル『随分と速かったな』 悠介 「こんな場所で時間を取られるわけにはいかないからな」 そうだ。 俺はより強くなり、無様に苦汁を飲ませてくれたあの魔王を必ず仕留める。 そのためには精霊だろうがなんだろうが、仕留められる者は確実に仕留めていく。 ……そう思ったときだ。  ゴコォッ……コォオオン……!! ディル『ぬ?』 悠介 「……?」 なんの音だ、と辺りを見渡す。 すると聖堂の先の壁が開き、宝物庫のような部屋が姿を見せた。 ……なるほど、倒すか契約するかすると開く仕組みか。 何があるのかは解らないが、ありがたくいただくことにしよう。 ───……。 そうして手に入ったのは水属性の武器や防具、そして……宝石だった。 全部で12個あるそれは、恐らく全てが契約の指輪に必要な素材だ。 全てが色違いであり、 アクアマリンと同じ形をしているところを見ると、恐らく間違いはない。 お誂え向きというやつだ。 この全てを使い精霊を従わせ、俺が俺であるために全てを手に入れてやる。 甘さも躊躇も油断も要らない。 必要なのは野心だけ……それで十分だ。 悠介 「行くぞディル。もうここに用は無い」 ディル『やれやれ……積極的になってくれたのはありがたいがな……。     もう少し穏やかには出来ないのか』 悠介 「無理だな。以前の俺が染み付いたこの体がどう動こうが、     俺がそれに従ってやる理由はない」 ディル『……ふぅ、解った、好きにしろ王よ』 言われるまでもない。 俺は俺で好き勝手にやっていくさ。 それが、俺が選んだ道なのだから。 ───……。 ……。 そうして、再び猫が居た場所に戻ってくると、その後ろ姿に手を伸ばし、首を引っ掴んだ。 アイルー『さて、そろそろここも潮時《グイイィッ!!》ゴニャーーーッ!!      な、なにするニャ!?誰ニャ!?』 持ち上げた際に猫の荷物が散らばったが、そんなことはどうでもいい。 悠介  「よう、クソ猫」 アイルー『ギニャッ!?またアンタニャ!?こ、今度はなんの用ニャ!?』 悠介  「宝石を手に入れた。これを全部指輪にしろ」 アイルー『ゴニャニャ……ま、まず離すニャ、荷物が散らばっちゃったニャ……』 悠介  「……さっさとしろ」 ブンッ───ドシャッ! アイルー『ギニャッ!……ニャニャッ……なにするニャ!』 悠介  「黙れ、御託なんざ聞いてる暇は無い。さっさとしろと言っている」 アイルー『うぅ……解ったニャ……』 俺に投げ捨てられた猫は、カシャカシャと散らばった素材や商売道具を片付けてゆく。 そうした中で俺の中の苛立ちは増す一方だ。 無抵抗の相手になにしやがるとか、そんなくだらない思考ばかりがぶつけられる気分。 まったくもって苛々する。 アイルー『お客様は神様ニャー。宝石を指輪として精製すればいいんだニャ?』 悠介  「そう言っただろう、さっさとしろ」 アイルー『わ……解ったニャ……』 陽気に振る舞う猫を一蹴する。 愛想なぞ要らない、さっさとしろと。 アイルー『ところでお客さん、お金は大丈夫ニャ?けっこうかかるニャ』 悠介  「ツケておけ」 アイルー『それは出来ないニャ!商魂辞書にツケの二文字は無いニャ!      条件付きならOKだけどただツケろというのはダメニャ!』 悠介  「なら無料でやれ。さっさとしろ」 アイルー『こ、困るニャ!そんなの横暴ニャ!《ジャキンッ!》ゴニャッ……!』 悠介  「やれ、と言っている」 うだうだと喋り続ける猫の目の前に剣を突きつけた。 まったく面倒臭い……やれと言われればやっていればいいのに。 アイルー『…………ダ、ダメニャ……どう脅されようが出来ないニャ!!      これはボクの行商人としてのプライドニャ!!』 悠介  「ああそうか。だったら他のヤツに頼むとしよう。───消えろ」 アイルー『ニャ───!』 ブフォンッ───ガギィインッ! 悠介 「───!?」 猫目掛け、振り上げたのちに振り下ろした剣が弾かれた。 何者だ……?  ゴォッ───チュドォオオンッ!! 悠介 「ぐっ───!?」 俺の剣を弾いた剣はいつの間にか消え失せ、 代わりに風を裂くような音とともに何かが空から降ってきた。 そいつは─── 魔王 「クズ……!まっこと……正真正銘……人間のクズ……!!」 ───!いつかの魔王───!! 魔王 「猫のやさしさにつけこみ、商魂に対する侮辱ばかりを働くクズめが……!     貴様に今日を生きる資格はねぇ!この魔王博光が猫に代わって成敗してくれる!」 ゴゥ───ボファァンッ!! 悠介  「……!?何処から武器を!?」 魔王が手の平を広げると、何処から現れたのか巨大な双剣が出現する。 アイルー『ギ、ギニャニャ……だ、旦那さんニャ……?』 魔王  「すまなかったなぁ猫よ……怖い思いをさせてしまった。      だがもう大丈夫!この記憶を失ったと同時に      人としての在り方まで無くしたクズには俺が引導を渡してくれる!」 子供  『うむ!やってしまうのじゃヒロミツ!そんな者ひとひねりじゃー!』 動物  『ゴエゴエー!!』 敵は3体……いや、子供やあの動物は数には入れない。 何故なら俺の敵は目の前の魔王のみだからだ。 魔王 「やいディルゼイル!貴様に一言物申す!」 ディル『予想はついているが、なんだ』 魔王 「…………ぐおおダメだ!やっぱ竜の言葉なんて解らん!     だ、だから一方的に言うものとする!     貴ッ様!目付け役のくせに何故こうも晦に勝手をやらせる!     貴様はこんな王に就いてて面白いか!?     俺にはもうこいつがクズにしか見えんわ!」 ディル『否定はしないがな。やりたいようにやらせるのもまた教訓になる。     そういった先に自分が何を得て、何を失ったのかをいつか知る時が来る。     私はそれまでこの茶番劇に付き合ってやっているだけだ』 悠介 「なに───?ディル、貴様……!」 ディル『ともに居るだけでも礼を言われたいくらいだ。今の王は目が死んでいる』 魔王 「えーとあのぅ、やっぱりなに言ってるか解らんけど……とにかく!!     俺は貴様を友と思うが故に正す!間違ったことをしている者を正すのは友の役目!     よってこれより修正をする!歯ァ食い縛れェ!!」 悠介 「フン、来るか。てめぇ勝手に随分と御託を並べてくれたな。     だがなにをどうしようが俺の勝手で貴様には関係のないことだろう。     俺は以前の俺とは違う。俺は《ドブルシャアッ!!》ぶはぁああっ!!!」 魔王 「ワー、隙アリダー」 喋り途中に物凄い速度で飛んで来た魔王が俺の顔面を蹴り付けてきやがった。 ッチィ……!自分で言っててこのザマか、情けない……! 魔王 「力に魅入られたクズめが……そんな貴様にはこの博光が外道の限りを尽くし、     それがどんなに醜いことなのかを体に叩き込んでくれる!」 悠介 「ぬかせ!貴様に教わるものなどなにもない!」 叫び、疾駆する。 双剣を手に一気に間合いを詰め、魔王へとバガァッ!! 悠介 「ぐはっ……!!」 ───振るうより早く。 俺よりも遙かに速い速度で俺の目の前に疾駆した魔王は、 俺の顔面を剣ではなく素手でブッ叩き、俺を地面に叩き伏せた。 魔王 「若すぎる……遅すぎる……そしてなんと弱い……」 悠介 「ッ……!!貴様ァアアアアアッ!!」 そして以前と同じことを言うそいつに、俺は起き上がりざまに剣を振るった。 だがバガァッ!! 悠介 「ぐあっ!」 同じように叩きのめされ、 魔王 「若すぎる……遅すぎる……そしてなんと弱い……」 悠介 「〜〜〜〜ッ!!」 同じことを同じ動作で言うそいつに、俺はとうとうキレた。 悠介 「殺す……!!貴様という存在をこの世から消してやる!!」 魔王 「出来るかな?弱い者イジメしか出来ないモミアゲ風情に」 悠介 「黙れぇええっ!!」 武器を振るう!振るう振るう振るう振るう! しかしその全てが魔王の前方に出現する薄いシールドによって弾かれる。 魔王 「リングシールドの壁さえ破壊できないままでよくも口だけは育ったものよ……。     貴様にはそもそも、この世界で夢を見る資格すらもが無い……」 悠介 「なにぃ……!?」 魔王 「あ、やっぱり今の無し。資格がどうのとかいうの俺嫌いだし」 子供 『ハッキリするのじゃヒロミツー!』 魔王 「そんなこと言ったって場のノリで言っちゃうこととかってあるじゃない!!     僕真剣だよ!?これでも物凄く真剣だよ!?」 子供 『それでも楽しさは常に探求しておるのじゃろ?』 魔王 「もちろんだ!何故ってそれが原ソウル!常識だけでは語れない!」 悠介 「なにをごちゃごちゃと!」 剣がダメならと拳を振るう。 しかし─── 魔王 「甘い」 悠介 「なにっ!?」 ガキィッ!と正面から肩を組まれるように押さえつけられ、 どれだけの力を込めてもそれは外れはしない。 っ……どういう力してやがる! 魔王 「これから貴様にはたっぷりとお仕置きをしてやる……。     だが知れ、愚か者よ。この博光のお仕置きはただのお仕置きじゃないんだ」 悠介 「お仕置きだと!?ふざけろ!誰が貴様の思うように───」 魔王 「トルネードフィッシャーマンズスープレックスゥッ!!」 ダンッ───ギュララララララドッゴォオオンッ!!!! 悠介 「ぐぁうはぁああっ!!」 どんな行動を起こされようと耐えてみせると強張らせていた体が、 いとも容易く宙を浮き、回転とともに地面に叩きつけられる。 さらに倒れた俺を片手で軽々と宙に放ると自分も跳躍。 鋭く俺の喉と太股に自分の足を衝突させ、物凄い勢いでえびぞり状態にさせた。 魔王 「未完成!マッスルスパァーーーーク!!」 悠介 「《ミシィッ……!》ぐはっ……!」 喉や背中に襲い掛かる衝撃は物凄いものだ。 しかもその痛みに苦しんでいる隙に既に魔王は次の行動に入っていて、 俺の足に自分の足を、俺の腕を自分の腕で掴むと、 まるでブリッヂをするような格好で地面へ向けて落下を開始する。 魔王 「これが残る50%の!アタル版!マッスルスパークだぁーーーーっ!!」 ゴォドグシャォオオオオオンッ!!!!! 悠介 「かっ……ぐはっ……」 受身も取れずに、落下とともに肩と首を強く強打した。 鞭打ち状態だ……倒れた体がまるで自分のものではないかのように動けない。 魔王 「若すぎる……遅すぎる……そしてなんと弱い……」 悠介 「キッ……キサマァアアアアアアア!!!!!」 今すぐその顔に剣を突き立ててやる───!そう動こうとしたのに、体は動かない。 くそっ!どうなってやがる!俺は……!俺はこの程度で……! 魔王 「動けないか!そうか動けないか!     ならばなにをされても仕方ないよなぁああ……!!」 言って、魔王は懐から妙なものをズオオと取り出し、俺に近づけてきた……! 魔王 「た〜らこ〜♪た〜らこ〜♪た〜〜っぷ〜り〜♪た〜らこ〜♪」 キュッキュッ、キュキュキュキュ…… 悠介  「なにを……貴様何をする!」 魔王  「マユリ様。た〜らこ〜♪た〜らこ〜♪……ぐあ、失敗した」 子供  『なにをやっておるのじゃヒロミツ。どれ、わしに貸すのじゃ。      むむ、た〜らこ〜♪た〜らこ〜♪……ウヌ、失敗したのじゃ』 動物  『ゴゴエゴエゴエ』 子供  『おお、ロドリゲスもやるのか。しっかり描くのじゃぞ?』 動物  『ゴ〜エエ〜♪ゴ〜エエ〜♪……ゴエ』 魔王  「うおっ、失敗しやがった豪快に!」 アイルー『ボクに任せるニャ!』 魔王  「おー、やれやれー、やっちまえー」 悠介  「やめろ貴様ら……!やめ───やめろぉおおおおっ!!!」 ───……。 ……。 【ケース414:中井出博光/パルテノンノ】 コ〜〜〜ン…… 中井出&ナギー&アイルー『やっちまった(のじゃ)(ニャ)……』 ルルカ         『ゴエエ……』 気づけば真っ黒クロスケが完成していた。 顔の全てが黒い人の出来上がりだ。 悠介 「貴様ら……!」 中井出「いや……もう晦っていうかハゲだな」 名探偵コナンに出てくる、あの全身黒タイツでいっつも物陰から目を輝かせてるヤツ。 ナギー『ハゲとはなんじゃ?』 中井出「名探偵コナンという本に出てくる、全ての悪を司る伝説のハゲだ。     ヤツは闇に潜み、いつでも主人公のコナンくん現るところに乱を起こす。     それはもう北斗現るところに乱ありという言葉が薄れるほどに。     ヤツは巧みな洗脳術を持っててな、自分が殺したにもかかわらず、     誰かを犯人に仕立て上げるのが上手いんだ。     しかも犯人にされたヤツは自分が犯人だということをまるで疑ってない」 ナギー『な、なんと……!     ではそのハゲとやらは散々人を殺めておきながら他人の所為にし、     逃げおおせておるのか!?』 中井出「その通りだ!名探偵コナンで起こる殺人事件の全ての犯人がハゲの仕業!     疑うことなかれ!全ての悪はハゲ!ハゲの仕業なのだ!」 ナギー『老人が転んで死んでしまったら───』 中井出「ハゲだ!ハゲが裏でなにかをしたんだ!」 ナギー『風で揺られた植木鉢が、下を通りかかった者に直撃して死んでしまったら───』 中井出「ハゲだ!ハゲが植木鉢を絶妙な位置に置いたんだ!     あとは風の強い日などに殺したいヤツを下に誘き寄せ、     突風とともに脳髄グシャーリ!これぞハゲテクニック!」 ナギー『お、恐ろしいヤツなのじゃなハゲというのは……!     無差別にも程があるのじゃ……!』 中井出「そう、ハゲとは名探偵コナンにおける伝説の洗脳殺人鬼!     たとえハゲのシルエットと犯人がまるで違う姿でも、     それはやはり洗脳で騙したからに他ならないんだ!     さらにヤツは超瞬速入れ替わりの奥義まで持っていて、     コナンくんに見つかったと思うや適当な怪しいヤツを犯人にしたてあげるため、     自分は超瞬速入れ替わりで逃げるんだ!     思うに、ヤツは順逆自在の術が使えるに違いねぇ!」 暗いところで懐中電灯などを当てられる瞬間にはもう入れ替わっている…… あんなのはハゲにしか出来ない芸当だ。 すげぇよハゲ、ほんとすげぇ。 と、こんなところでハゲについて熱く語ってる場合じゃなかった。 中井出「すまんノーちゃん!あ、いや、ノーちゃん言われるの嫌だったんだっけか。     スッピー?ノート?なんて呼ばれたいだろうか。フルネーム?     まあいいや、とにかくこいつなんとかしてほしいんだけどさー!     このままじゃ腐るところまで腐るしかない男になりそうでとんでもなく嫌だー!     ていうかウィルオウィスプ!?ウィルオウィスプでしょ!     今の晦の性格設定してんの!性格がまんま貴様になってるぞ!直してぇええ!!」 俺は叫んだ! …………しかし効果が無かった!! まいったなぁ、こんな性格の晦、いくら先に進んだところで性格改善なんてされないぞ? 自ら望んでやったことなんだろうけど、こんなんじゃあ成長なんて出来る筈もない。 どんな考えのもとにこうなってしまったのかは解らんが、こりゃ絶対にやり方間違ってる。 誰がなんと言おうが晦は晦のままでよかった。 たとえそれで未来が歪もうが、 そりゃ結果論であって人間がそうしちまうことには変わりない。 だから───ピピンッ♪ 中井出「……?ヒロミ通信?」 思考の途中でナビにメールが届いた。 答えが届いたのかと思い、慌てて開くと───  ◆ヒロミ通信3564号  確かにこれじゃあ意味がないかも。  悠ちゃんは悠ちゃんとして成長しなきゃ意味ないしね。  それに水の地下神殿での出来事を見てたウンディーネちゃんが泣いちゃってさ。  他のみんなもこんな悠ちゃんは受け入れられないって一斉に言っちゃったわけで。  自分のために生きて欲しいって願うのは勝手かもしれないけど、  やっぱり方向性だけは忘れちゃいけないってことだね。  あんなの悠ちゃんじゃないもの。だから記憶を戻すから、あとのフォローよろしく 中井出「なにぃいいーーーーーっ!!?」 ナギー『ど、どうしたのじゃヒロミツ!』 ルルカ『ゴエエッ!?』 中井出「い、いや……」 俺任せ!?なんで!? なんて思っているうちに、殺気に満ちていた晦から殺気や気迫が消えてゆく……。 中井出「……晦?」 悠介 「……よ」 溜め息をだはぁ、と吐いて返事した。 間違いない、晦だ。 悠介 「はは、随分とボロボロだ。派手にやってくれたな」 中井出「おう。友人が真剣にクズになるところを見過ごすほど、我らはクズではないわ。     というわけで晦、記憶消去なんて馬鹿な真似はやめてくれ、ほんと。     あんなのお前じゃないし、見てて吐き気がした」 悠介 「……そうかもしれないな。     自分のためにだけ生きる自分っていうのをずっと内側で見ていた。     でも、やっぱりあんなのは俺じゃない。     ゼットに言われた言葉も確かに言い返せなかった俺だけど───     これだけは言える。あんな俺は、俺自身が許せなかった」 中井出「うむ、もちろん俺もだ」 悠介 「……だから一つだけ訊きたい。“俺”ってどんなヤツだ?」 中井出「ヌ?晦か?……そうだなぁ、ぶっきらぼうなクセに周りのことばっか考えてて、     素直にそれを出さずに影で縁の下の力持ちやってるようなヤツ、かな」 悠介 「喩えが長くてよく解らんが」 中井出「実際そうなんだから仕方ないだろ。     ま、あれだ。今貴様に言ってやれることがあるとしたら一つだな」 悠介 「なんだ?」 中井出「とりあえず、冒険してみろ。この世界をさ。何か見つかるぞ、きっと。     お前がゼットにどんなことを言われたのか、そりゃ気になるけど……     でも訊かないでおくし、俺にしてみりゃ晦は晦だ。     曲っちまえば殴ってでも止めるし、面白いことをするなら一緒に楽しむ。     さっきまでの貴様は随分とクズだったけど、     見捨てようだなんて微塵にも思わなかった。     お前はさ、自分が晦悠介であることをもっと誇りに思うべきなんだよ」 悠介 「誇りにか……?なんだってそんな……」 中井出「お前がお前じゃなけりゃ、俺達はこうして向き合ってなかっただろ。     いろんな経緯があって、お前が晦悠介になったからこそ今がある。     運命なんて信じちゃいないけどさ、時間軸に一定の法則があるんだとしたら、     俺は……いや、少なくとも我ら原中は貴様に出会えたことを良しとしてる。     もちろん若葉ちゃんだって木葉ちゃんだって、     お前に関わったヤツの大半がそう思ってる筈だ。     もちろん精霊だって、多分ゼットだって」 悠介 「精霊とゼットか……悶着したばっかりなんだが、本当にそう思うか?     今の俺の目指す理想と、     初めて精霊と契約したばっかりの時の俺の理想は随分違うらしいんだ。     それが原因で悶着があったんだが───」 中井出「そりゃお前、感情手に入れた人間が変わらないわけないだろ。     ハッキリ言うけどそれは精霊やゼットが悪い。     いつまでもずっと同じ存在を望むなんて、そりゃ無理ってもんだ。     まして、それまでをずっと感情が無いに等しい状態で歩んできたお前だろ?     変わるのは当然じゃないか」 悠介 「………」 晦がなんだかポカンとした顔で俺を見る。 ……アレ?話進めていいんだろうか。 中井出「言ってやればいいんだよ、精霊たちに。俺は俺だ〜、って。     精霊たちは晦だからこそ契約してくれて、     晦だからこそまだ契約を続けてくれてるんだろ?     晦一等兵よ、この博光が思うに、お前は未来っていうのを難しく考えすぎなのだ。     何もしなくても未来は来るし、何かしてたって未来は来る。     それは絶対に絶対だし、世界がそうある限り、未来には滅びってもんが待ってる。     人は死ぬだろうし、大事な人だっていつか死ぬ。     未来のお前は感情が無いから暴走しちまったわけで、     今のお前は多少なりとも感情がある。     整理してみるとさ、お前が未来に固執する理由なんて何処にも無いんだよ」 悠介 「へ───?ちょっと待て、それってどういう───」 中井出「守りたいものを守る……それは晦の勝手だ。     俺は守るなって言いたいけど、多分お前は守る。     で、いろんなものを守り続けた先には人が死なない世界が出来るわけだ。     でもその世界がどんなに醜かろうが、それはお前が望んだ未来そのもの。     そんな未来に嫌気を覚えるなら救うことなんてやめればいいし、     そもそも既婚者は家族を第一に守るべきだ。     それなのにお前ってやつはルナさんほっぽりっぱなしで好き勝手……。     いいからさ、一度難しく考えずに簡単に考えてみろ。     人間なんてのはほっといても増えもするし減りもする。     そりゃお前が生まれるずっと前から存在する理ってやつだろ。     死んでほしくないやつはそりゃ居るさ。     でもそれを世界全部にあてがうのは間違いだ。     そりゃ守りたいものを守ってるんじゃない、力を見せびらかしてるだけだ」 悠介 「み、見せびらかし……か?」 中井出「はい柔軟に柔軟に。凄い力があるとします。     で、その力を見た人は自分にもプリーズと当然言います。     その力はテレビを中継、噂を中継して世界中にバラ撒かれます。     さて、お前はそんな世界中の人が助けを求めてきたらどうする?」 悠介 「いや……さすがに世界中は……」 中井出「だったら考えるのは“せめて周りの人だけでも”だよな。     力は無限じゃないからそうすることしか出来ないって言い聞かせる。     何故って、お前は救世主でも医者でもなんでもない。ただの男なんだから」 悠介 「ただの男?」 中井出「違うか?地界に産まれ、たまたま月の家系を持って、     子供の頃に感情が壊れて、だけど彰利と会ったことで救われて、     今までを懸命に生きてきた。死神と戦ったりモンスターと戦ったりもしたな。     でもさ、ほら。じゃあ俺はどうだ?     順序は逆だけど、身体能力も上がったし死神ともモンスターとも戦った」 悠介 「───あ……」 中井出「……俺達は人間だ。救世主じゃない。     万能じゃないし、望むままの力を望むヤツに与えることなんか出来やしない。     この小さな腕で守れるものなんてタカが知れてるし、     もしかしたら守ってるつもりになっているだけで何も守れてないのかもしれない。     だから世界を救うなんて夢も、全てを守るなんて願いも、持つ必要なんてない。     お前がゼットと無茶な戦いをしたのだって、     空界って世界を守りたいなんて大袈裟な理由じゃなかった筈だよ。     だからさ、いいんじゃないか?人間で」 悠介 「人間……か」 中井出「力がある自分だからやらなきゃいけないなんて、そんなの誰が決めたんだ。     ほら、思い出してみろよ。俺達はそんな賢い生き方なんて出来ない馬鹿だったろ?     だからもう気負うなって。俺達には世界の未来なんて関係無いんだ。     必要なのは俺達の未来だ。自分のことで手一杯な俺達は、     そりゃあちょっとは周りに手を貸してやることは出来るのかもしれないけど……     基本的には自分のことさえ完全に理解出来ない馬鹿なんだから。     だからさ、楽しまないと損だろ?     だって俺達は、一度過ぎた青春の中をまた走ってられてるんだから」 悠介 「………」 晦は目を閉じながら自分の髪をくしゃっ……と撫でて、長い長い息を吐いた。 まるで……そう、自分の重荷をさっきまでの晦に全部押し付けてしまうかのように。 悠介 「俺は、俺だ。晦悠介……あいつの親友で、原中の一人で……     ルナの連れ添いで、みさおと深冬の父親で───……そうだ。     今までの自分が希薄だったなんて、そんなことなかった。     朧月和哉は確かに死んでしまったかもしれない。     晦悠介なんて名前のヤツは、本当は存在しないのかもしれない。     それでも───俺はいろんなヤツに出会えて、一緒に歩いて……     確かにそんなみんなの中に、晦悠介として存在してたんだ……。     ははっ……ははははっ……!なんだ……ほんと、なんて簡単な答えだよ……」 中井出「少しは肩の荷、降りたか?」 悠介 「ん……ああ。ほんとつくづく情けない……。     何度も何度も理由探して、その度に自分の中の答えと合わなくて───     それがこんな簡単にって……」 中井出「ええい構わん、自分のことなど解らんもんだろ。     何度でも悩んで何度でも納得すればいいだろ?誰がそれを悪って言った。     そんなのは子供でもすることだ。真実はいつも一つじゃねーのよ。     全ての真実が一つだったら、俺たちゃ答えを探す理由も無くなるんだから」 悠介 「それはコナンに対する挑戦状か?」 中井出「いや、とりあえず黒いままで真面目な顔されてもなんだか微妙だって話」 悠介 「これはお前らがやったんだろうが!!」 ……ん、心地よいツッコミだ。 彼はもうきっと大丈夫、これから前を向いていけるでしょう。 中井出「じゃ、人間・晦悠介はこれからどうする?」 悠介 「ウンディーネを解放して謝るよ。許されるなら一緒にこの世界を知っていきたい」 中井出「そかそか。俺はこれからカイザードラゴンと戦いに行きます」 悠介 「そ、そうか……頑張れ」 中井出「コココ……!ようは全力を以って角を破壊してそれを持ち帰ればいいんだ……。     他のことなど後っ…………!後回し…………っ!     破壊した角をバックパックに入れれば、あとは死のうが逃げようが…………!」 悠介 「……なあ、それは楽しんでるって言えるのか?」 中井出「たっ……楽しんでるよ!?楽しんでるもん!!」 悠介 「あっ……はははは……」 中井出「おのれ貴様なにがおかしい!今すぐ裏返し要らずの炭火焼きファイヤーで     トドメをさしてやってもいいんだぞ!?」 なにせ俺は魔王じゃけんのう! と、オガーと威嚇しながら言うと、 悠介 「いや。やっぱりお前、なんだかんだで提督だなって」 中井出「?」 ハテ。 俺ゃ確かに猛者という名の提督だが……。 悠介 「お前みたいな“人間”が居てくれて、本当によかった。     今、心からそう思えてる。……ヘンだよな、感情なんて完全じゃないってのに」 中井出「ぬう。いいんじゃないか?どれだけ不安定だろうがお前の感情だろ?     喜びもするし感動だって出来る。正解もするし間違いもする。それが感情。     いくら感情を持ってるからって、それを完全に制御出来るヤツなんざ居ないさ。     ていうか貴様は感情ってやつに流されすぎ」 悠介 「あー、そりゃ自分でもそう思ってる」 中井出「自覚あるなら直せバカモンこのクズが!!」 悠介 「いやクズって……ここでそういうこと言うか、お前は」 中井出「我らの間に遠慮は無用」 悠介 「……そうだったな、このクズが」 中井出「なんだとクズが!」 悠介 「うるせぇクズが!」 中井出「───うむよし、少しは調子が戻ってきたようでなによりだクズが!」 悠介 「シメに入ったと見せかけてクズとか言うなこのクズが!」 中井出「キミだって似たようなもんでしょ!?僕だけ悪いみたいに言わないでよ!」 悠介 「よし解った、このクズ合戦は中止だ。ていうかな、     いい加減敵意を解いてくれないと、いつまで経っても回復しないんだが」 中井出「なんだ貴様今更気づいたのか。俺は気づいててずっと敵意をだなあ」 悠介 「さっさと治めろ馬鹿!!」 中井出「バカとはなんだこの野郎!!」 どんな時でもバカと言わらば言い返すのがボロソウル。 ちなみにボロっていうのはCOSMOSのマルボロの愛称のようなものだ。 ……一度しか言われてないけど。 なんてことを思いつつも敵意を解除して回復させる。 中井出「そんじゃあ俺はこれで去るけど。晦はやっぱり己を高めるんだろ?」 悠介 「ああ」 中井出「だったら高めた先でゼットのやつブチノメーションしてしまえ。     そしてこれが俺の力だァーーーッ!って言ってやればヤツも納得するさ。     なにせあいつ、小難しいことよりも力で解らせるのが一番聞きそうだ」 悠介 「俺もそう思う」 即答だった。 俺はそんな答えに満足しつつ、手を振って歩き出す。 ナギーはロドリゲスに乗りながら戻るのかの?と訊ねてきていて、 俺はそれに頷きを返しながら進む。 ほんとはこっちまで来るつもりはなかったんだけどね。 トカホウテっていったら、サンドランドノットマットと巨人の里の間にある山だし。 しかし虫の知らせというのだろうか。 嫌な予感がしたから来てみたらこれだ。 猫が無事で本当によかった。 中井出「………」 そこまで考えてみて思う。 もしかしたらあの虫の知らせは、 精霊たちが己のマスターに外道なことをさせないために送ったんじゃないだろうかと。 悠介 「虚像に溺れる俺なんかに救える未来なんてタカが知れる、か……。     ああ、その通りだよ、ゼット。でも俺は……もう世界なんて救えなくていい。     未来の重荷なんて知らない。     難しいことなんて考えず、自分の人生を一歩ずつ味わっていく」 中井出「むお?お、おお!その調子だ晦一等兵!貴様は刺激的な人生は散々味わったが、     平凡の中にある面白さはそうそう味わっていないのだ!故に楽しめ!     この世界にはきっとそういった面白さも詰まってる!     もちろん旅していく中で散々悩むこともあるやもだが、     悩まない人間なんて居やしないんだし、     いっそ我が身は悩みで出来ているって心意気で突き進むが吉!!」 ナギー『ヒロミツー?行かぬのかー?』 中井出「今いいこと言ってるんだから少しくらい待ってよ!あ、じゃ、じゃあな晦一等兵!     貴様の未来に幸多からんことを!     今度こそ目付けをちゃんとね!ほんと頼むよディルゼイル!」 そう言って、俺は走り出した。 もちろんナギーとロドリゲスとともに。 その際猫もロドリゲスの上に乗っていたことに気づくのは、相当後になってからだった。 ……ちなみに少しあと。 走り抜けてきたずっと後方で、物凄い水柱と絶叫が高鳴った。 虹が綺麗だなー、とか思いつつ─── 無責任だと解っていても、俺は頑張ろうと決めた友人に頑張れ、と心の中で呟いていた。 Next Menu back