───夕焼け時の少年達/博光の野望オンラインへ───
【ケース36:穂岸遥一郎/エアマスター】 あー……うん。 遥一郎「どうする?ずいぶんとギャラリーが増えたけど」 悠介 「こうまで凝視されてると転移も出来たもんじゃないな……」 遥一郎「……じゃ、走るか」 悠介 「そうだな。足に自信は?」 遥一郎「いろいろあってね。     昔は頭でっかちの体力無しだったけど、鍛えた。人並みには走れるぞ」 悠介 「そか。じゃあこれ飲んだら走ってくれ」 ひょいと、誰にも見えないように小さな玉を創造して俺に渡す晦。 これは?と視線で訊ねると、晦はすぐに答えを返してくれた。 悠介 「体力低下、息切れ、疲労無しの効果をもたらす丸薬だ。     飲んだ瞬間から30分間、呼吸無しでも全力で走ってられる」 遥一郎「───なるほど。OK、了解した」 返事を返すとともに玉を口に放り、飲み下す。 それとともに晦とともに地面を蹴り弾くと、報道人どもの間を縫うようにして疾駆した。 悠介 「───驚いたな。体裁きは結構上手いんだな」 遥一郎「これでも精霊の時にいろいろ学んだんだ。人はどういう状況でどう動くか、って」 だから予測しながら駆けられる。 勢いを殺さないままに、全力の疾駆で。 晦はどこか楽しそうにして隣を走り、何かを思い出したのか笑った。 なんだ?───って 遥一郎「走るってことでエアマスターでも思い出したか?」 悠介 「くふっ……よ、よく解ったな……」 図星らしかった。 となれば、思い出したのはエアマスターのEDだろう。 遥一郎「………」 いつも、弦月彰利の隣くらいでしか屈託無く笑うことない晦。 なにをそんなに背負い込んでるのか、って最初は疑問に思ったものだ。 たとえば───そう、あの未来の時代で……俺がまだ精霊だった頃のこと。 不器用で、ぶっきらぼうで、自分なんかより他人を優先して、 馬鹿なのに馬鹿じゃなくて、天才じゃなく努力家で、なによりも親友を優先させた男。 そんな親友馬鹿が、思い出し笑いとはいえ笑ったことがなんだか嬉しかった。 遥一郎(……ああ) それで、なんとなく解ってしまった。 人間には重いヤツと重くないヤツが居る。 いくら気遣い出来るヤツでも度が過ぎれば重いし、 仲が良すぎても逆に重く感じることがあるだろう。 けど……そうだ。 晦と弦月の関係は重くもなく軽くも無いんだ。 遥一郎「───なぁ。親友は大事か?」 悠介 「大事だっ───って、いきなりなに言わせるんだよ」 遥一郎「うん?ああいや、その即答が聞ければ十分だ。俺だって似たようなもんだし」 悠介 「蒼木か?」 遥一郎「ああ。自慢の親友だ。お前はどうだ?」 悠介 「自慢はしない。褒めもしない。称えも崇めも奉りもしない」 遥一郎「……それ、親友か?」 悠介 「ああ。けど───尊敬してる。心から」 遥一郎「………」 唖然……っていうのはこういうことを言うんだろうな。 まったく、俺の周りの男っていうのは、どうしてこう真っ直ぐなんだろう。 妙なところでヒネクレているくせに、大事なものは大事と言うその真っ直ぐさ─── 俺はそれに、正直呆気にとられていた。 『尊敬してる』だなんて親友に言うべき言葉じゃあきっとない。 けど、思考にいろいろなカタチがあるように、 晦にとっての友情というのは唯一尊敬する馬鹿者への感謝の気持ちなのかもしれない。 数十年前、ほとんど唯一の話相手だっただろう幼い日の晦と弦月。 互いに辛い思いをしながら、こうして幸せであるだろう日常に身を置いている。 ゲームや漫画だったらきっと、『それからずっと───』なんて言葉が見れるのだろう。 けど……現実はそうじゃない。 ここから先の未来で幸せはカタチを変えてしまうのかもしれないし、 その『尊敬』は別の感情になってしまうのかもしれない。 俺の傍に───フレアとヒナがもう居ないのと同じように。 遥一郎(物語はめでたしめでたしでは終わらない時もある、か───) 俺の物語は果たして、めでたしめでたしで終わることが出来るんだろうか。 そんなことを、ただ小さく思った。 遥一郎「なぁ。自分が誰かに似てるって───思ったことあるか?」 悠介 「これはまた突然だな。理由を訊くのは……まあ、質問を質問で返すことになるか。     あるよ。俺は多分、お前に似てる」 遥一郎「……俺、そんなにモミアゲ長いか?」 悠介 「ばっ───違う!!外見的なことじゃなくて内面的な話だ!     お前はそういう方向の話をしたかったんじゃないのか!」 遥一郎「ああ、もちろん冗談だ。     なんていうかお前、話にノセられやすい性格してるんだなぁ」 悠介 「……やっぱ似てないかもしれない」 遥一郎「そりゃ完璧に似るっていうのは無茶な話だろ。     で?晦は俺と自分の何処が似てるって思ったんだ?」 悠介 「錯覚だ、忘れろ。俺に似てるヤツなんて居ない」 遥一郎「いきなりイジケるなよ……子供かお前は」 悠介 「悪かったな……どうせ性格診断の遊びで     ピチピチのクソガキャアですって結果が出た男だよ」 ……それはそれで凄いとは思うが。 ああそっか、晦の感情はまだ発達途上で…… 遥一郎「晦。感情を発達させる手っ取り早い方法を教えてやろうか」 悠介 「?唐突だな」 遥一郎「いいからいいから。とにかく、一度と言わず何度でも、     『自分がやらないだろうこと』をやって恥ずかしい思いをするんだ」 悠介 「好んで生き恥を曝せ、って意味か?」 遥一郎「それだ。『生き恥』って思うからいけない。     大体、俺達はもう既に死んだことになってるんだろ?     周りのやつらから見れば俺達は名前も知らない子供だ。     だったらそんな考えこそ今さらなんだ。解るだろ?」 悠介 「……理屈は解るが」 遥一郎「だから、理屈がどうとかって考えは捨てていいんだよ。     思考することが能力みたいなお前に言うのは面倒なことだけどさ、     たまには何も考えずに馬鹿やってみろよ。     お前の記憶の中って、親友とずっと馬鹿をやりたいって気持ちでいっぱいだった。     戦う中でいろいろな枷を外してきたお前だけどさ、     戦いの無い今の状況でなら、     人前で馬鹿はやらないって枷を外しちまっていいんじゃないかな」 悠介 「………」 晦は驚いた顔で俺を見ると、小さく苦笑めいた笑顔を見せて頬を掻いた。 悠介 「驚いた。お前、案外優等生じゃなかったんだな」 遥一郎「観咲をからかうのが俺のライフワークだったからな。     そのために大学も同じところを選んで馬鹿やった。     いつまでもガキだっていいじゃないか。人生、馬鹿やってられるうちが華だよ。     大切な『一部』を失ってからじゃ、なにもかもが遅すぎるんだ」 悠介 「…………」 晦は俺の話を馬鹿にもせずに聞いていた。 走りながらでも、息を乱すことなく。 やがて事件現場から随分と離れた場所まで来ると歩を休め、歩きながら話す。 そんなことをやっているうちに───ふと、晦が笑った。 それはやっぱり苦笑めいたものだけど、不思議とその笑みは晦に似合っていた。 悠介 「……俺は、いつまで経っても誰かに説教されてばっかりだ」 空を見上げながらの言葉。 溜め息とともに吐かれた言葉が夏の夕焼けに飲まれてゆく。 悠介 「俺はさ、穂岸。いつだって周りに支えられて生きてきたんだ」 遥一郎「……ん」 悠介 「幼い頃、夕焼けの眩しさに眼を細めながら空を見上げた。     その光はとても眩しくて、隣で同じように夕日を眺めてた本当の父親と笑った。     ……いや、笑ったのは俺だけか。あの人は笑わない人だった。     けど、いつだって自分が体験するなんの変哲もない日常を話した。     幼い頃、黄昏の草原でアイツと出会った。     俺の人生を変えてくれた、とても面白い孤独のガキに。     あいつとただ駆け回っているだけで、嫌なことを全部忘れられた」 語られることの全ては過去。 過去があるから人は生きれる、だなんて誰かが言ってた。 記憶を失った人にだって、『失ってからの過去がある』とその人は言った。 なんてこじつけだ、屁理屈もいいところだって思ったけど─── 悠介 「成長してからいろんなものを見た。     日本だけでも知らない場所が多すぎることに驚いた。     この街でお前らに会って、忘れられた村で俊也に会って。     未来の先で世話のかかる義孫に会って、遥か過去で晃や秋守に会った。     その先で志京や───あ〜……武流豚くんに会った」 遥一郎「武流豚くんは思い出か?」 悠介 「……多分」 自信はまるで無さそうだった。 けど小さく溜め息をつくと、俺を見て苦笑した。 悠介 「……武流豚くんは度外するとしても。俺はいろんなヤツに説教されたよ。     空界でなんて特にだ。いろんな無茶をして、死に掛けて、怒られて。     それでも譲れないものがあったから頑張れて───ここまで来た。     俺はそれを後悔してないし……ずっと昔に憧れてた     『ただ普通に生きること』も、今となっては届かないことかもしれない。     俺が立っている現実はもう『俺自身』が普通じゃない。     それでも後悔なんて無いんだ。     あの日、彰利とあの場所で出会ったことで始まった俺の物語。     それは何度、何回繰り返したって俺の大事な出発点なんだ」 遥一郎「晦……」 悠介 「だからさ、説教されることでこの未来に辿り着けたこと。     既に人間じゃなくなってしまったことも、全部俺は抱いていく。     もちろん心変わりしていつか後悔する時も来るかもしれない。     この眼で見れる一歩先の未来ですら漠然としてるこの世界……     だけど、それでもあの馬鹿と出会えたことが俺にとっての幸せならそれでいい」 遥一郎「………」 ……呆気に取られた。 今時小学生でももっとマシな幸せを望むだろうに、 目の前のそいつは『ただひとりの男と出会えたこと』を幸せと唱えた。 苦笑だった笑みをちゃんとした笑顔に変えて。 そこに嘘偽りなんて言葉はなくて……俺は、ただ呆気にとられた。 悠介 「ん……どうした?」 遥一郎「あ、いや……」 とんでもないことを言ったそいつは、 まるでなんでもないかのように普通に話し掛けてきた。 呆けている俺はただ少しどもる程度で、まともな言葉など咄嗟に返せなかった。 ……なんなんだろう、こいつの素直さは。 今まで……いろんな人間を見てきた。 意地汚いヤツや馬鹿者、 世話のかかる弟みたいな存在に、そいつのことがずっと好きだったらしい女。 どいつもこいつも自分勝手に他人を振り回して、 コトが済んでみれば幸せそうな顔して笑ってた。 そんな馬鹿者のために存在を投げ出した自分も自分だが、 こいつはもっと馬鹿なのかもしれない。 遥一郎「ひとつ訊いていいか?」 悠介 「ん……答えられる範囲で頼む」 遥一郎「そんな難しいことを訊くつもりはないよ。普通の好奇心だ、好奇心」 俺はかつて精霊だった頃のようにぶっきらぼうに声を出す。 凍弥───未来に居た弟みたいな存在に話し掛ける時はいつもそうしていたように。 遥一郎「お前は今まで他人のためばっかりに生きてきた。     映像の中で、自分よりも他人のためばっかりに走ってた。     それで───お前にはなにが齎された?そこにお前の望む幸せはあったか?」 ……訊かずにはいられなかったこと。 自らを犠牲にして他人の未来を開くなんて、よほどの馬鹿じゃなければ出来ない。 そして……その犠牲の果てに消滅してしまっては、 その先を見届けることなんて出来やしないのだ。 ……かつて、精霊だった俺がそうだったように。 悠介 「んー……」 それなのにそいつは─── 悠介 「解らん」 遥一郎「へ……?」 悠介 「とりあえずみんなが笑っていられる世界がここにある。     それでいいんじゃないか?」 あろうことかそいつは、そんな風に……やっぱりなんでもないように言ったのだ。 夕焼けに染まる空を見上げながら、呟くように。 悠介 「俺の親友は『誰もが笑っていられる世界』を望んだ。     俺はそんなあいつに救われてここに居る。……俺の幸せはあいつの幸せだ。     たとえそれがどんな無茶なことでも、俺はそれが叶ってくれたら嬉しい。     全てが敵になった瞬間、俺と雪子さんだけを信じてくれたあいつのためなら……     俺は自分の人生がどれだけ無茶苦茶になろうと構わない」 遥一郎「っ……!」 それをどう喩えよう。 とても同年代とは思えない言葉を当然のように吐き出したその存在を……どう。 誰だって一番最初に自分を優先させてしまうという人体の反射の中、 そいつはそれを押しのけて親友こそが一番だと言っている。 そのためならどんなことをしてもいいと。 そのためなら、どれだけ傷ついても構わないと。 それだけを心の槍として空を見上げていた。 そして……その槍はきっと折れることなどないのだ。 唯一、その親友が死んでしまわない限り。 遥一郎「………」 そこまで考えたらふと身体が震えた。 もし……もしもだ。 こいつの親友である弦月彰利が死んでしまったとしたら─── 蘇生不能なほど……そう、消滅でもしてしまったら、晦はどうなるのだろう、と。 遥一郎「……もうひとつ訊いていいか?もし……もしもだ。     その幸せを願うべき相手、弦月が死……消滅したらどうする?」 悠介 「……それが自然的なことなら仕方ない。花でも手向けて祈るさ。     けど、もしそれが人為的なことだったら───」 遥一郎「……だったら?」 知らず、喉が鳴った。 悠介 「……殺したそいつを、誰だろうと絶対に許さない。妻だろうが娘だろうがだ。     必ず突き止めて、素粒子も残らないほどに消滅させてやる。     それに加担した野郎だってどうなろうが知ったことじゃない。     その行動をとったことを後悔する時間さえ与えずに滅してやる。     そうした先で俺がどう堕ちようが……俺はそれで本望だ」 遥一郎「………」 悠介 「あ……今さらだけどな、ここで話したことは彰利には絶対に言うなよ」 確定。 晦悠介は本当の親友馬鹿である。 遥一郎「別にいいんじゃないか?喜ぶぞ」 悠介 「恥ずかしいだろ、ばか」 遥一郎「真っ赤な顔でそんなこと言われても困るんだけどな」 悠介 「いいだろ、もう。さっさと帰って騒ごう。ここでの出来事が忘れられるくらい」 遥一郎「そうだな……って言いたいところだけどな。     晦さ、俺達に振り回されて参ってないか?まあ正直な話、     俺達って言うと俺も含まれてることになるから心外もいいところなんだが。     いっつもクロマティ高校の前田くんみたいに頭抱えてるだろ」 悠介 「ほっとけ!!それから前田くんって言うな!!」 遥一郎「ははははははっ!くふっ……な、なんか安心した」 悠介 「ったく……安心?なんでだよ」 遥一郎「だってお前、思ったより話しやすい」 悠介 「お前は……人をなんだと思ってたんだ」 遥一郎「能力の高いやつってのは大体そんなふうに構えられるもんだろ。     俺だって頭が良かったってだけで周りにあーだこーだ言われたことがあった。     でもそれは才能とかじゃない。俺達が自分で努力して手に入れたものだ。     ……これは受け売りだけどさ、晦。人には『才能』なんてものはないんだと思う。     ただやるべきことの『要点』ってものを掴むのが早いか遅いか。     それを、人が勝手に才能だとかどうとか言ってるだけなんだって」 悠介 「『神を神と呼ぶ理屈』か」 遥一郎「あ……なんだ、知ってるのか」 悠介 「一応。『神を神と呼ぶのは人間だ』って、そういうことだろ?     一度俺もありがたい説法を受けたことがあるんでね」 晦は可笑しそうに過去を振り返っていた。 その説法をしたヤツっていうのは確実に俺の親友だろうけど、 まさか晦にまで話してるのとは思わなかった。 遥一郎「『神は神って名前じゃないかもしれない』」 悠介 「『神をそう呼ぶのは人間であり、そういう意味では神を創った存在は人間だ』」 言ってみて、やっぱりなるほどって思える世迷言。 定義をぶっ壊す威力なんてそこにはないけど、数人を納得させりだけの説得力はあった。 いつか空を見上げてばかりだったひとりの男が言ったその言葉は、 いつだって俺の中に存在していた。 遥一郎「神様が本当に居るのか解らなかった時は実際にそうだって思ったよ」 悠介 「けど実際に神様に会ってみればなんのことはない。     ただ済む世界が違うだけで、俺達と変わらない日常の中を生きる存在だった」 遥一郎「なにを齎してくれるわけでもない。     悪に天罰を与えるかって言ったらそうでもない。     そりゃそうだな。俺達と同じように生きるための生活を続けてる存在が、     同じく生きている人間を罰することなんて出来るわけがない。     そういった意味では死神たちは立派だな。きちんと不浄の魂を狩ってる」 悠介 「中には魂を食らうたわけも居るわけだけどな。っと、そろそろ日も落ちるな。     いい加減話は切り上げて帰るか」 遥一郎「あー……ほんとだな。まあ夜になったからって物騒かどうかって訊かれたら……」 悠介 「……そこでどうして俺を見るかな」 遥一郎「いや、大賢者アルマデルキング様が居れば怖いものなんてないかな、と」 悠介 「お前なぁ……彰利みたいなことを言───」 男1 「居た!TVで見たとおりだ!」 悠介 「───へ?」 晦が俺に対して文句を言おうとした時だった。 物陰から男が数人走ってきて、俺達の前を塞ぐ。 男2 「ああ間違い無ぇ……事故現場から生還して逃げたヤツらだよ」 男3 「すげぇ〜。これで捕まえてテレビ会社とかに突き出したら金貰えたりすんのか?」 男2 「ああ、そういうこった。見た感じヒョロっちい男と、     体つきはいいけどあまり強そうには見えない痩せ男だ。     全員でかかれば礼金ウハウハよ」 ……疑問に思ったことは全て解決。 わざわざ説明してくれた。 そうして動機を知るに至り、俺と晦は…… 遥一郎&悠介『はぁ〜〜〜〜ぁあああ……』 溜め息を吐くのであった。 なるほど、こういうときに取る行動は確かに似ているのかもしれない。 男1 「あん?なんだぁこらぁ!なに溜め息なんぞついてやがる!!」 悠介 「穂岸、走るぞ」 遥一郎「了解」 男2 「あ〜ん?お前らこの人数から逃げられっと思ってんのか?     後ろにだって俺達の仲間が───」 トンッ─── 男ども『……え?』 真実、一瞬だった。 晦が俺の手を取ったかと思うと、それこそ眼にも留まらぬ速さで男どもの間を駆けた。 いや、駆けるというより横への跳躍だった。 たった一歩で通り抜け、アスファルトに軽く音を立てた。 男1 「な、ななななんだぁっ!?いつの間に後ろに───」 悠介 「いくぞ穂岸!からかいながら走るンだッッ!!!」 遥一郎「……お前、案外人をおちょくるのって好きな方か?」 悠介 「同じ不良には容赦ないだけだ」 そうして俺達は駆け出した。 不良どもがギリギリ追いつけるか追いつけないかくらいの速度で。 さらに言えば晦は妙な走り方をしながら歌い始めた。 悠介 「我は延髄突きッ割ァ〜る!!我は延髄突きッ割ァ〜る!!     ローリンローリン延髄突きッ割ァ〜る!!呼ッべ〜レスキュー!!     延髄突きッ割ァ〜る!!我は延髄突きッ割ァ〜る!!     ローリンローリン延髄突きッ割ァ〜る!!はッなァぢ即ッブレイク!!」 ……思いっきりエアマスターのEDテーマである。 それを聞いた若者どもは何故か激昂し、奇声を上げながら追ってくる。 遥一郎「で……続きは?」 悠介 「知らん!!」 妙なところで中途半端な王サマだった。 【ケース37:晦悠介/帰宅。そして始まり】 遥一郎「ん……なぁ。友の里に行かなくていいのか?」 悠介 「いい。少し休みたい」 恐らく他のやつらが集まっているだろう友の里への帰還を中止し、 俺と穂岸は蒼空院邸へと戻ってきていた。 そこでやるといったら……発言通り休憩である。 べつに疲れてるとかそういうことはないわけだが、 時々こうして休みたくなるときがあるわけだ。個人的な理由で。 遥一郎「まあ……なんとなく気持ちは解るかもしれない」 穂岸も特にツッコミを入れることもなく賛同。 やがて俺は自分の部屋へのドアを開けて…… 丘野    「おお!おかえりでござる晦殿!みんな!晦たちが帰ってきたでござる!!」 悠介&遥一郎『はぁああ…………』 ……やっぱり溜め息を吐いた。 彰利 「んお?おきゃーり。遅かったねぇ……って、なんスカ?その疲れた顔」 悠介 「いや……なんでもない」 額に指を当てて頭痛に耐える俺を、穂岸だけがポムと肩を叩いていった。 ───……。 ……。 で。 悠介 「ヒロティマオンライン?」 一通りの話を聞いた俺は小首を傾げながらそう言った。 いや、聞いてみたところでイマイチよく解らなかったんだが。 田辺 「いや!ファンタシーヒロミツオンラインだ!」 丘野 「そうではないでござる!ファイナルヒロミツー11でござるよ!!」 島田 「違うだろ!ダンジョン&博光ズだ!」 ……いや。そもそもこいつらの発言を全て理解しろというのは中々に無茶だと思う。 というかいっぺんに喋るのは勘弁してもらいたい。 悠介 「あぁもう名前はいいから!!……で、それを俺に創れと?」 総員 『アイドゥ!!』 悠介 「却下」 総員 『むごっ!?』 総員が驚愕の顔で俺を迎えた。 丘野 「な、何故でござるか!?こんな面白い企画はないでござろう!!」 悠介 「お前らを創造空間に飛ばすのはいいとして、     魔術のまの字も知らないヤツを飛ばせるか、たわけ」 清水 「経験者優遇ってやつ?」 悠介 「それ以前の問題だ。     大体、そうやって意識だけを創造空間に飛ばす技術を     どうやって説明する気だお前ら」 総員 『あ……』 どうやらとことんまでに無計画だったらしい。 そのくせ俺の能力を利用するという確定事項があるんだから頭が痛い。 悠介 「解ったらこの企画は無しだ。それに中井出はもう空界の住人だ。     今さら地界で名前を売るようなことをしてもどうにもならないだろ。     お前らと騒ぐのは楽しいけどこれは別問題だ」 中井出「そ、そうだぞ?俺の名前で妙なゲームを出すのは流石にどうかと思うし」 総員 『チッ……』 中井出「ちょ、ちょっと待て!!今のチッてどういう意味!?」 丘野 「じゃああれでござるな?     拙者たちが体験するという意味では一向に構わんのでござるな?」 悠介 「ああ。すぐにでも創ってみてもいいけど───」 中井出「じゃあ早速頼む!あ、俺ジョブはモンクがいい!」 蒲田 「俺も!」 清水 「わいも!」 中村 「ぼくちゃんも!!」 灯村 「それがしも!」 岡田 「おいどんも!」 田辺 「わしも!」 丘野 「拙者も!」 皆川 「わても!」 三島 「ミーも!」 島田 「やきいも!!」 悠介 「全員モンクでどうするんだよ……」 どこまでも呆れるやつらだった。 ていうかこいつらちゃんと考えてジョブを選んでいるんだろうか。 ……考えてないんだろうなぁ。 悠介 「まあとにかく、少し案を出し合おう。     固まったところから創造を開始するから」 柾樹 「あ、あの。それって俺達も混ざっていいんですか?」 俺の言葉に、早速円陣を組んで案を出し合おうとしていた猛者どもの視線が柾樹に向かう。 柾樹とみずき、刹那とその他の若人たちはその視線の多さに少し物怖じしたが、 それでも眼を逸らさずに話を続けた。 ……ん。少なくとも俺は、 柾樹のこの『目を逸らさないところ』が結構気に入っていたりする。 悠介 「ああ、いいぞ。せっかくだから案も出してくれるとありがたい」 柾樹 「は、はいっ」 豆村 「じゃあ早速提案!」 悠介 「ああ、なんだ?」 豆村 「村人の女性を襲うことが出来るシステムを───」 ドゴバヂャアンッ!!! 豆村 「ひぎゅうっ!!?」 たわけたことをぬかしたみずきを畳みに沈めた。 瞬時に銀髪になった俺は溜め息を吐き捨てると静かに笑みを浮かべ、 悠介 「……言うまでもないと思うが。     みずきみたいな欲望一直線で他人を傷つけるような提案をした場合は、     言い訳を聞くまでもなく『男女差別せずにブチノメす』から心して発言しろ……」 真紅の瞳のままその場に居た全員を見つめ射貫きつつそう言った。 総員 『ラッ……ラララララジャーーーッ!!!!』 すると総員敬礼とともにそう叫び、真面目な顔で様々な提案をしてくれた。 もちろん真面目な提案や面白くするための提案ならば素直に受け取った。 当たり前だ。 俺だって堅苦しいゲームなど創造したくないのだから。 彰利 「……でさ、村人が突然襲い掛かってくるわけよ。『なめたらかんでぇ!』って」 悠介 「初代熱血硬派くにおくんかよ」 豆村 「いや、やっぱここはあれだろ。周りからの評価ってのがあって、     それが極端に下がりすぎると村人が襲い掛かってくる時があるとか」 刹那 「だったらやっぱあのネタも使うべきだろ。     度が過ぎると警察が追ってくるという『音速を超越せしもの』のシステムを」 柾樹 「やっぱりどのジョブでも最初からなれるわけじゃないって風にするべきだって。     で、ジョブチェンジはいつでも何処でも出来るように。     元からあるジョブ全てにはクラスチェンジシステムがあるとか」 真穂 「あ、わたしも提案。えっとさ、レベルアップシステムはやっぱり欲しいよ。     晦くんが持ってるランクプレートみたいに首に下げるやつでいいからさ、     規定の数値の経験を積むとレベルアップして、ステータス振り分けが出来るとか」 凍弥 「それは賛成だ。で、その振り分けたボーナスステータスは     いつでも何処でも再び振り分けが可能というシステムで」 俊也 「それって防御力が欲しい時は全てのステータスを防御に回せるってことか?     ……ああ、それはそれで面白いかも」 清水 「そうすると魔道士ジョブでも、     MPが無くなったらストレングス上げて戦えるわけか」 中井出「おまけにジョブチェンジはいつでも何処でも出来る、か」 丘野 「そうしたらやっぱり慣れるために初心者修練場は外せないでござるな」 柾樹 「アイテム数とかはどうしましょうか」 悠介 「それはバックパックを予定してる。     入れられる最大数は……70くらいでいいか?」 彰利 「OK上等だ。じゃあとにもかくにも、テストプレイとしてやってみようか」 悠介 「よし。じゃあまずは5人くらいでテストしよう。     あー……俺はクリエイターだから居なきゃマズイからひとりは確定として。     彰利、中井出、丘野、桐生、頼んでいいか?」 真穂 「えっ!?わ、わたし!?」 悠介 「男ばっかりに頼むのもどうかと思うしな」 言うや否や、イメージ開始。 世界観などを想像し、頭の中でカタチとして構成してゆく。 それが大体整ったところで四人を見て、やがて創造を開始した。 悠介 「イメージ───超越、凌駕にて解放」 ちょっと普通の創造じゃあ間に合いそうもない。 そう思った俺は超越に加えて凌駕も上乗せし、一気にイメージを弾けさせた。 悠介 「……っと、訊き忘れてた。結局名前はどうするんだ?」 総員 『もう博光の野望オンラインで』 中井出「もう俺の名前関係ねぇだろ!?つーか俺そのゲームの中でなに企んでんだよ!!」 悠介 「博光の野望オンラインだな?」 中井出「って晦サン!?ちょ、待───!!     もうちょっと!もうちょっと検討する時間を───」 悠介 「骨子接続、人物パターン分析完了───……想像、構成完了!!     イメージ、超越、凌駕にて解放!!発現せよ“博光の野望オンライン”!!」 総員 『よっしゃああああーーーーーっ!!!!!』 中井出「待ってぇええーーーーーーっ!!!!」 ゲームタイトルが決定し、猛者どもがガッツポーズを取る中。 ただ提督だけが悲しそうに叫んでいた。 Next Menu back