───冒険の書160/ざっくばらんにいぶし銀───
【ケース431:中井出博光(再)/飾らず己がままに曝け出すことの意】 ドカカッドカカッドカカッドカカッ…… ナギー『のうヒロミツ?ところでその鈴は猫にもらったのかの?』 中井出「むん?」 ナギーと一緒にロドリゲスに乗り、のんびりと進んでいる時だった。 ふと気になったのか、俺が持ってる鈴に疑問を投げかけてくるナギー。 中井出「いや、これは猫からもらったわけじゃないんだが……」 ナギー『ならどうしたのじゃ?』 中井出「……言うなれば自然発生?」 ナギー『……よく解らんのじゃ。どうすれば鈴が発生するのじゃ?』 中井出「それはだな……」 さて困った。 なにやらやたらと気になってしまった様子。 ここはひとつ……まあいいか、道中長いわけだし、のんびり話そう。 中井出「いいかナギーよ。我らの世界には北欧神話ってものがある。     そもそも我が剣ジークフリードとは人の名前だ。     ジークムントとジークリンデはその両親の名前。     霊章輪ニーヴェルンゲンはニーベルンゲンの指環ってやつだし、     バルムンクはオーディンがジークムントに授けたっていう剣の名前だ。     もちろん神話ってのにはいろいろな説がありすぎて、     どれが真実なのかなんて解らない。     だから大体のヤツは自分が気に入った解釈をするわけなんだが……」 どうやらこの世界じゃ全部ごちゃ混ぜになってるみたいだ、と続ける。 するとナギーはやっぱり疑問符を浮かべていた。 中井出「バルムンクは老人に化けていたオーディンが木の幹に刺していった剣なんだ。     これを抜けたら、その剣をくれてやろうってな感じで。     で、いろんなヤツが抜こう抜こうと挑戦するわけだ。なにくそ、って」 ナギー『ふむふむ……』 中井出「でもまあ……抜けないわけだ。     ところがジークムントが手を添えると、まるで待ってたかのように剣は抜けた。     約束通りジークムントはバルムンクを手に入れたわけだ。     その剣の力はとんでもないもので、     その剣のお蔭でジークムントは当時の戦乱を切り抜け、大活躍だったんだが……     途中でオーディンがその剣をグングニルで破壊しちまうわけだ」 ナギー『何故なのじゃ?』 中井出「その理由もいろいろあるんだ。     “神器で人の未来を切り開くのはどうか”とか思ったんじゃないかとか、     その戦でジークムントを死なせて、ヴァルハラに迎えるためだったとか。     ともかくバルムンクは破壊されて、戦に敗れたジークムントは死んじまう。     結局その壊れた剣は死ぬ間際にジークムントが妻であるジークリンデに託すんだ。     息子であるジークフリードに必要な時がきたら鍛え直してやってくれ、     みたいな感じで。実際そんな時は訪れて、     レギンってヤツが兄殺しをジークフリードに依頼してきたわけだ。     その兄ってのがファフニール。     いろいろあって竜に変身出来るようになった魔人だ。     レギンはそいつを殺してくれって頼んできて、     壊れたバルムンクをグラムとして作り直した」 ナギー『ふむ……』 中井出「それを以って、ジークフリードはファフニールを殺した。     けどその時に浴びた返り血に魔力が宿ってたらしくてさ。     それを浴びたジークフリードはほぼ不死身になったって聞く。     でも唯一、背中に葉っぱが張り付いてた所為で     血を浴びれずに不死身じゃない部分が出来てしまったそうなのだ。     でもそれと同時に血の魔力で動物の言葉を理解出来るようになった彼は、     動物からレギンが自分の命を狙っていることを知って、レギンを斬殺。     けどそののち、味方に裏切られて背中を刺され、死んだそうな」 ナギー『裏切ったのか?ヒドイことをするヤツもおるものよの……』 中井出「ちなみにそんなジークフリードが、     オーディンの眠りの棘によって眠らされていたところを助け、     恋に落ちた相手ってのが戦乙女のブリュンヒルデ。     この話にもほんといろいろ別の話があるんだけどね。     ブリュンヒルデじゃなくてクリームヒルトだったりとか。     ジークフリードの弱点が肩だったりとか。統一性が無いんだ」 ナギー『妙な話じゃのう』 中井出「ま、みんな一番最初に見たものを印象として受け取るんだろうけどさ。     結構それ関連の書物って多いんだ。     ニーベルングの指環とかニーベルンゲンの歌とか、それこそいろいろある。     ジークフリードの名前もジークフリートでジーフリトでザイフリートだ。     ジークムントの名前もシグムントだったりしたそうだし、     ジークリンデの名前はそもそも頭のジークすらついてない話もある。     昔話や伝承なんてそんなもんなのかもしれないけど、     それでも俺はこうして、それに関する武器を手に出来て蝶サイコーな気分だ」 ナギー『蝶なのかの』 中井出「蝶だ」 神話の話は難しいことが盛りだくさんである。 というか全て一つの真実だったら理解も早いんだろうけどなぁ。 それでも俺は武器が大好きだ! 神話に由来する武器がこの手にあるなんて素晴らしいじゃないか! ……由来するっていっても、俺のは人名の武器だけどさ。 だが名前負けなどしていない自信があるのだ。だったらそれでオールオッケーだ。 中井出「とまあそんなわけで、このタマの鈴ってのはそういった神話の……     主にニーベルンゲンに関わるものを集めれば発生するものだったらしい」 ナギー『ふむ……やはり関所の中で話に聞くだけでは、この世界は計り知れぬものよの。     ところでニーベルンゲンとはなんじゃ?』 中井出「部族……かな。ニーベルンゲン族っていうのが居たらしい。     別の話ではこいつらがバルムンクを持っていて、     それをジークフリードが奪ったって話もあるんだが……     真実が一つじゃないものを話し始めるとキリが無いからな、これはここまでだ」 ナギー『む、解ったのじゃ。しかし存外ヒロミツは博識なんじゃの。     ただのエロマニアではなかったんじゃな。驚いたのじゃ』 中井出「どっ……どういう意味!?驚くとこそこなの!?もっと別なところで驚こうよ!     “ただの”エロマニアじゃなかったことに驚かれたって嬉しくないよ!!」 なんだか誇らしい気分は何処かへ巣立ってしまった。 結局いつものように、そうして旅路を行くのだろう。 ロドリゲスの足の運びに揺られながら、 俺とナギーはなんだかんだで笑いながら先へと進んでいった。 もし我が娘・紀裡と一緒に旅してたらこんな感じだったんだろうか。 そんなことを考えてみて、 紀裡はこんな口調じゃないし、俺をエロマニアだなんて言わないよなぁとしみじみ思った。 ナギー『ム……ヒロミツ!前方に敵影確認なのじゃ!』 中井出「うむ!しかしナギーよ!軍人的に喋る時はサーと呼べと言っているだろう!」 ナギー『サーイェッサー!!』 中井出「うむよし!いい声調だ!」 言って、くしゃりとナギーの頭を撫でると、ロドリゲスから飛び降りる! その際に確認した敵影は結構なもの!どうやら群れで行動していたらしい! しかし通り道を塞ぐのであれば……切り崩してゆくしかあるまいよ! ドグシャドガガガガァッ!!! 中井出「ゲファーーーリ!!」 ナギー『ヒロミツ!?』 ルルカ『ゴエッ!?』 しかしコケた。 美しく着地しようと高く飛び降りた俺は、 ロドリゲスが生み出していた速度に勝てずに勢いと大地に足を取られ、見事に脇腹を強打。 敵の真ん前で無様な醜態をさらす破目に陥った。 中井出「おごっ……ごごご……!肋骨強打した……!」 ナギー『サー!なにやっておるのじゃでありますかなのじゃー!!     司令官がそんなことでは纏まるものも纏まらんのじゃー!!』 中井出「て、提督だって人の子なんだよ!!」 敵から攻撃受けるより地味に痛む脇腹を押さえつつ立ち上がる。 中井出「俺は盾男でダテ男だ……イブシ銀だろ」 などと言ってる場合ではなく。 中井出「惜しいなぁ……結構イブシ銀メタルグリーヴの名前好きだったのに……」 いっそのことリネームで変えちまうか? ……よし実行!! 早速霊章からジークムントとジークリンデを取り出した俺はそれをジークフリードに変換。 雷神装ドンナーに当てると、リネームを発動!! 中井出「雷の霊装よ!我が意志と換名(かんめい)の力を以って新たなる名を受け入れよ!!     汝の名───イブシ銀脚甲(きゃっこう)ドンナー!!」 そして叫ぶ! と、ギピンッ♪《雷神装ドンナーの名前が変換されました!》という文字がログに出現! 中井出「よっしゃあイブシ銀!!ならば唱えよ!!     華やかさなど要らん!俺には実力という名の武器があればいい!!     俺が強ぇえんじゃねぇ……武器が強ぇえのよ。     戦術(華やかさ)に欠けるが武器(実力)はある……ゆえに武器のみがベテラン!     俺は武器男で不羈(ふき)男だ……イブシ銀だろ」 ちなみに不羈ってのは常軌や常識では押さえつけられないって意味。 この場合、不軌(ふき)でもOK。軌道無しの奔放野郎でもこの博光は満足よ!! 中井出     「シャンドラの火を灯せェエエーーーーイ!!!!」 モンスター×29『グオッ!?』 武器を仕舞い、突如として単独で走ってきた俺に、モンスターどもが一瞬のみ驚愕する。 だが皆様でボコボコにする気満々になったのか、 武器を手の上で弾ませながらニヤニヤと進撃を開始する。 中井出「ブリュンヒルデ!」 そんな中で俺は村人の服に語りかける!───と、服がゴワゴワと変換を開始! 俺の思考を完璧にトレースし、その通りの形に変換した!! そして俺は叫ぶのだ。全速力で走ったままで。 中井出「修羅念土闘衣(しゅらねんどとうい)!!そして必殺のォオオオオッ!!!!     ボンバァーーータックルゥーーーーーッ!!!ドグルシャァアアアアッ!!!! モンスター×7『ほべるげぇええええっ!!!!』 トゲトゲしく尖った、ほぼ全身を包む鎧でモンスターどもにぶちかましを炸裂させる。 ただそれをやってみたかっただけなので、すぐに元の村人の服をイメージ! するとすぐにゾリュンと元に戻る鎧……おお! すげぇこの鎧!すぐに形状変換してくれる! モンスター『ルガァォ!!』 棍棒を持ったオークのようなモンスターがそれを振るってくる。 しかしそれを、リングシールドがゴインと弾く。 中井出「おお……!」 どうやらブリュンヒルデがシールドにまで浸透してくれたようだ。 防御力が格段に上がってる。 中井出「ようし……だったら次!」 ギュリィッ!とファフニールを握り締める。 そうしてから無造作に、速さで殴るのではなく力で殴るように大きく振るって殴る!!  ボガシャゴッパァアアアンッ!!!! 中井出「あ」 振るった拳から炎が迸り、基本から爆破スキルが混ざっているグローブが敵を粉砕した。 殴り倒したとかじゃなく、一気に焼き、爆破して塵にするって感じだった。 しかもその爆発の大きいこと大きいこと。 中井出「……よし次!《バゴシャアッ!!》ぐっはぁああーーーーっ!!!!」 拳を握り締めてウムと頷いていたら、突然背中を強打された! しかもその痛みといったら……! 中井出  「ちょ、ちょっと待て……!」 モンスター『グロ?……グロロロロ……!!』 あまりの痛みに苦しむ俺を見て、モンスターがニヤリと笑む。 防御はかなり上がった……っていうのに、背中に攻撃食らっただけでこの有様……! そりゃ説明の中に“背中への攻撃が弱点に”とか書いてあったけどさぁ! これちょっとシャレにならないくらいキッツいんですけど!? ジークムントが裏切られて刺された時もこんな気持ちだったんだろうか……! やばいぞこれ!多分、背中に食らう攻撃全てがクリティカル扱いだ! 中井出「これは……試練だ。過去(神話)に打ち勝てという試練と……俺は受け取った!!」 俺が叫ぶと同時に振るわれた棍棒を、足を振るってイブシ銀で弾く! 次いで雷を全力解放し、踵落としでブッ殺───硬ッ!俺の体硬ッ!! あまりに柔軟性が足りない所為で振り上げられねぇ!! モンスター『……グッヘッヘッヘ』 しかも笑われた!おのれこの博光、もう辛抱たまらん!! 足を振り上げられんのならこうするまでよ! 中井出「雷撃喉笛シュート!!」 ドグチャア!!ヂババババァアンッ!!! モンスター『ギョェエエーーーーーッ!!!』 前蹴りでモンスターの喉を蹴り抜きコロがした。 おお、弾ける雷がなんとも眩しい。 中井出「見せてくれる……人体の神秘!ホアッ!!《ビッシィッ!!》」 体を強張らせたのち、一気に奇妙なポーズを取る。 それを数度おこなったのち、オガァアと襲い掛かってきたモンスター目掛けて─── 中井出「ネリチャギ!!」 ドグシャヂガァッパァアアアンッ!!! モンスター『ギャアーーーーーーーッ!!!』 今度こそ踵落としを決め、一撃で粉砕した! ナギー『おお!?それはいったいどういう手品なのじゃ!?     持ち上がらなかった足が高くまで上がったのじゃ!』 中井出「人の体とは瞬間的に筋肉を強張らせ、緩めるとその時のみ筋が伸びるのさ!     だから曲らなかった体も!振り上げられなかった足も!     回数を重ねれば曲っていくのだ!!学ぶのだナギー新兵!     人の可能性は未知数だ!多分!だからこそ俺は人間のまま世界を楽しむ!     人をやめちゃあこの世界を楽しむ意味が無いのだ!!」 人の身が何処まで通用するのか……俺はそれを確かめたい! そしてその上でこの世界も、空界も、いろんな世界をも楽しみたいのだ! 中井出  「というわけでお前もうおしまい。バイバイ」 モンスター『ギ、ギギ……ま、待て……!話せば解る……!』 中井出  「───お?」 ……ギヌロと対面してみて今更気づいた。 モンスターの言葉、解るわ。 そういやスキルにそんなのがあったような……。 中井出  「貴様、この博光の言葉が理解出来るか」 モンスター『て、低能な人間と違って、俺達モンスターは人の言葉も解るさ……!       な、なぁ!?見逃してくれ!ここは通っていいから……!!』 中井出  「……先に死んでいったのは貴様の仲間だろ?」 モンスター『そ、そうだが……い、今はそんなことどうだっていいだろ!?       俺を助けてくれたら持ってるモノ全部やるから……な!?』 中井出  「……この世で最も美しいもの……それは友情。       中でも仲間内の友情はさらに美しい……」 モンスター『へ……へぇっ!?』 中井出  「仲間の中の誰かが死んだのならば、その弔いをするのが仲間の友情……。       友情のために───死ねぇえーーーーーーっ!!!」 ジャゴォッキドゴォッガァアアアアアンッ!!! モンスター『ウガァアアォオォォォ───ァ……、…………』 瞬時に取り出し長剣化させたジークフリードの先。 超至近距離から放ったグングニルが、モンスターを無に還した。 叫びすら掻き消したそれは、夕焼け空に浮かぶ雲を貫き、やがて消滅する。 中井出「仲間のために何一つ、     なにもしようともしたいとも思わないヤツが俺は何より大嫌いだ」 特に仲間の死を前に、己の命ばかりを乞おうなどなんたる情けなさ。 死に関わらない程度のものなら笑ってられるが、 実際の死に直面して己ばかりが助かろうなど───その身を()れクズが!! ていうか痛い……!このグングニル反動強すぎ……!腕と肩がとても痛い……!! ナギー『おお……凄い威力なのじゃ……』 中井出「あだだだだだだだだ……!!」 ナギー『どうしたのじゃヒロミツ!通風か!?』 中井出「何処のレックスだよ俺!違うよ!!反動で骨と筋が軋んでるだけだよ!!」 ギシギシと痛む体がとても辛い。 しかしHPの回復とともに、それもすぐに消える。 はぁ……弱点突かれただけなのに物凄いダメージだった……気をつけないといかん。 中井出「ようしそれではこのまま前進!     アースドラゴンが住まう砂漠の地下空洞へ行くぞ!」 ナギー『サーイェッサー!!』 ルルカ『ゴエッ!ゴエゴエー!!』 中井出「………」 ルルカ『ゴエ?』 ハタ、と叫んでみて停止。 ルルカを見て、そういえばこいつの声は解らんのだろうかと見つめてみる。 中井出「ロドリゲス、なにか喋ってみてくれ」 ルルカ『ゴエ?…………本日は晴天なり』 中井出「喋ったァアーーーーーーーッ!!!!」 ルルカ『ゴェエエーーーーーーーーーッ!!!?』 大キョーーフ!! なんだか普通に喋るルルカに、俺はとんでもない恐怖を覚えてしまった!! 犬や猫が喋ればそりゃ驚く…… キャッツ&ドッグスのアレは子供だから受け入れられたに違いない! 普通ならあのママンのようにほぎゃああーーーーって叫びまくるわ!! そう、普通なら。 中井出「喜べロドリゲスよ!解る!この博光には貴様の言葉が解るぞぉおおおっ!!」 ルルカ『なにっ!?ほんとか!?』 中井出「うむ!しかし悲しいかな、     俺としては貴様はゴエゴエ言ってた方がサマになってる気がしてならない」 ルルカ『だったら必要な時だけ話を聞いてくれりゃあいいさ!     だから早速話を聞いてくれ!大事なことなんだ!』 中井出「お?う、うむ!今こそその胸に秘めていた思いを解放するがいい!なんぞや!!」 ルルカ『メシ……食わせてくれ……』 中井出「………」 ナギー『………』 そういえばロドリゲスにメシやるの忘れてた。 ───……。 ……。 ホーホー……ホー…… 何処かでフクロウが鳴いていた。 夜の闇は深く、燃やす焚き木がパキペキと音を鳴らす中で、 その音はやけに大きく聞こえる。 中井出「今日も一日お疲れさんっと」 ナギー『お疲れなのじゃー』 ルルカ『本当に疲れたぜ……まったく』 それぞれが食事を前にペコリとお辞儀。 そうしてからモクモクと食し始める。 ……なんとなく解ってたことだが、ロドリゲスは口が悪い。 まあ元々が野良ルルカでしかもミル・ルルカなのだ。 野良で長だったら気性が荒いのも当然のことで。 しかし、だからって今更俺達から逃げ出したいかといえば……それはそうでもないらしい。 元素大会ののち、 完全に放置されていた頃は本気で野生に帰ってくれようかと思ってたそうだが、 偶然ナギーに遭遇し、俺と合流してからはそれなりに状況を楽しんでくれているようだ。 ルルカ『かっ!美味いねまったく!提督さんよ、アンタホント料理上手いよな!』 中井出「ニヒルな笑顔で言われてもな……」 ていうか今までそんなことを言っていたのか、その笑顔で。 だからキモイとか言われるんだぞお前。……言ったの俺だけどさ。 ちなみに俺自身、そこまで料理が上手い覚えはない。 確かにじーさんのために料理を作ったり、それ以降は自分のために作ったりもしたが…… 人を唸らせるほどのものが作れるかといったら否だ。 そう、人が相手なら。 ナギー『美味いのじゃー!ヒロミツ、おかわりなのじゃ!』 ルルカ『俺にもよこせ!』 どうやら人外にご好評らしい。 喜ぶところか?ここ。 しかしなんにせよ、言葉が解るっていうのは便利である。 伝承が確かなら邪竜ファフニールの血のお蔭なんだろうけど、 軽く仙人にでもなった気分だ。 中井出「しかしナギーよ。貴様、普通にロドリゲスの言葉が解るんだよな?     何故に空腹状態のことを察してやらなんだ」 ナギー『言われてなかったからなのじゃ』 ルルカ『いやぁ、アンタらと一緒の時にメシにすりゃいいかなって我慢してたんだけどよ。     全然メシにしないだろ?だからこっちも意地になってたんだが、限界だったんだ』 中井出「なるほど」 ナギー『次からはちゃんと言うのじゃ。     ロドリゲスはわしとヒロミツの仲間なんじゃからの』 ルルカ『仲間ねぇ……最初は強引に捕まえられた身だってのに、     なんだってこっちの方に魅力を感じるんだか。     やっぱアレか?提督さんがあまりに村人っぽくて頼りないからか?』 ナギー『スリル満点なのじゃ』 中井出「そこで同意しないでよ!頑張ってるよ!僕これでも物凄く頑張ってるよ!」 ナギー『でもそれ以上に楽しんでおるのじゃろ?』 中井出「当たり前だ!見縊るな!!」 おお素晴らしきかなファンタジー。 ルルカ『まあ、そんなわけだからよ。     これからもよろしく頼むぜ。出来れば三食昼寝付きで。     お前ら体力ありすぎなんだよ……     それにずっと付き合うこっちの身にもなりやがれってんだ』 ナギー『むう、そうじゃの。ロドリゲスは行動すれば疲れるのじゃな。     このナビネックレスがあれば疲れんらしいのじゃがの、残念じゃの』 ルルカ『……アンタ、さりげなく自慢してねぇか?』 ナギー『自慢もしたくなるというものなのじゃー!     なにせこれはヒロミツがわしにくれたものなのじゃ!     しかも滅多に精製出来ない貴重品なのじゃ!     それだけでもウキウキ気分なのじゃー!』 ルルカ『………』 中井出「………」 急に立ち上がったナギーが、ネックレスを手にくるくると回転し始めた。 踊ってるんだろうか。 ルルカ『なぁ提督さんよ……実際どうすんだ?     ドリアードっていったら落ち着きがあって礼儀正しくて、     比類なき清楚な乙女って印象があるんだが……ありゃ違うだろ』 中井出「なにを言う。普通じゃないからいいんじゃないか」 ルルカ『いや……なんつーか……アンタさすがだなぁ』 中井出「………」 ルルカにまで原中が提督としての人格を認められてる俺ってなんなんだろうか。 ルルカ『ま、けどいいんじゃねぇの?ありゃ完全に自由の目だ。     あんなカタッ苦しい場所に居たんじゃ絶対にあんな目は出来なかっただろうよ。     やり方は滅茶苦茶だが、アンタがやったことは間違っちゃいねぇぜ。     話に聞いた程度だが、それくらいは解るってもんだ』 中井出「そかそか。そう思ってもらえるなら良かったさ」 焚き木をくべながら言う。 いやぁ……何度もやってることだが、 こうして広い平原でキャンプ開くのってどうしてワクワクするんだろうか。 特にこうして焚火を囲んでメシ食いながら話をする…………いいねぇ。 中井出「……こう言うのもなんだが。     この博光、散々と楽しむ生き方を人生の糧としてはいるがな。     こうして落ち着いた時間を堪能するのもかなり嫌いではないのだ」 ルルカ『そりゃ、あれだけ騒ぎ続ければ休む時間も欲しくなるだろ』 中井出「欲しくなる、とはまたちょっと違うんだけどな」 なんて言ったらいいのやら。 俺はそれが普通であればいい。 欲するのとは違い、当然であればいい。 それって贅沢か?“普通”はあくまで“普通”だろ? 中井出「俺はさ、こうして冒険するのも楽しむのも、当然じゃなきゃ嫌だな。     欲して手に入れるのとはちょっと違う気がする。     そりゃ、俺がこの世界でやろうとしてることは     欲して手に入れることかもしれんが……     楽しめる舞台があるのに欲するのってなんか違う気がしないか?」 ルルカ『よく解らねぇや』 中井出「んー……つまりだ。ゲームを楽しむって言葉があるだろ?     ゲームってのは楽しむために作られてるものだ。     それを楽しむもなにもないんじゃなかろうかと。     感性の違いによっては楽しめないものもあるわけだが……     やっぱりそんなゲームでも楽しめるヤツは居る。     だから“楽しめること”は当然であるべきだ。     感性が違うからとかそんな理由で、     味わい尽くしてもいないのに拒絶するのはなんか違う気がするんだよ」 ルルカ『それが辛いことでもか?』 中井出「辛い中で楽しみを探せるかは本人次第だからなぁ。     俺はこうして立ち直れたわけだけど、     他のヤツにまでそれを押し付けるつもりはない。     ただ、楽しめる場所があるのに落ち込んだままで居るのはどうかなって思う。     誰かの死を悲しんでやれないのは悲しいことだ。     辛い時に辛いって言えないのは辛いことだ。     だから、楽しめる時に楽しめないのはもっと楽しくない。     なんて言えばいいのか解らんが……ともかく楽しむのは大事だと思うわけだよ。     辛い時に楽しい方へ走ることを現実逃避なんて言うヤツも居るけどさ。     それは本人が必要だからそうしてることだろ?     その時に辛くないヤツが好き勝手に逃避ばっかすんなって言ったって、     そんなもんに説得力なんかねぇのさ。言われたヤツがどう受け取るかだけだ」 ルルカ『そんなもんか』 中井出「あぁそんなもんだ。逃避結構!     その時そいつが心から楽しんでいるなら何故ツッコめよう!     むしろ一緒になって逃避するのも面白いと思わないか?断言しよう、俺は思う」 ルルカ『それでそいつが立ち直れなくなったらどうするんだ?』 中井出「逃避した世界から抜け出せなくなったらって意味か?     そりゃお前、そこがそいつのエルドラドになるだけだろ」 ルルカ『大丈夫なのか?それって』 中井出「一緒に楽しんではやるが応援はしない。そこでどう出るかはそいつ次第だろ」 ルルカ『それこそ無責任じゃないか?散々一緒にやっといて───』 中井出「甘し!その時どうするかなどその者の決断力がモノを言うもの!!     嫌なら断る!ぃやだぁとでも言ってみせよ!俺は拒まん!!     むしろそんな時こそ応援する!!常識という名の暗闇をブッ飛ばせ!!」 ルルカ『それでいいのか?人ってやつは』 中井出「他は知らんが、この博光は日々思ったままに行動する。     明日は明日に見合った風が吹くって。     だがこの博光の中の風は一分一秒の間にコロコロ風向きを変えるのでな。     状況によっては前言撤回も十分在り得る」 ルルカ『いい加減なんだな』 中井出「自分に正直だと言ってくれ。そりゃ、これだけは曲げないって信念はあるが、     そればっかりに囚われて盲目的になる自分はかなり嫌いなんだ。     だから俺は常に楽しいと思う方向へと風向きを変える。     そしてこの世界ではそれが許される。だったら……やるしかないだろ?」 ルルカ『うわっ!メッチャいい顔ッ!!』 よく異常事態に巻き込まれて、 自分が慣れ親しんだ状況が壊れた主人公とかがあの日常を返してくれと言うが…… よほどのことが無い限り、俺はこうして楽しむと思うのだ。 だってなぁ、ゼプシオンと戦ったこともカイザードラゴンと戦ったことも オーディンと戦ったことも、思い返せばステキな思い出だ。 というか武器を鍛えて敵と戦う瞬間でさえ、俺の中では素晴らしい瞬間の一つだ。 そんな世界を何故否定出来ようかいいや出来まい!……反語。 中井出「まあそんなわけよ。ともかくこの博光は楽しんだモン勝ちを唱えたいのだ。     もちろん最低限のマナーは守って。     相手が本気の本気で嫌がることは決してしてはならない。     ちなみにこの鉄則は戦いの中には用いられません」 戦いの中では全てが許されるべきさ。 卑怯であろうが勝ちゃあいいのよ勝ちゃあ。 などと思っていた時だっドガァッ!! 中井出「おふぅっ!!」 思考も中途半端に、突如、我が背にとんでもない衝撃が! 何事!?と振り向いてみれば、俺の肩に顎を乗せるようにして俺に抱きついているナギー。 ナギー『のうヒロミツ!おぬしは動物の言葉が理解出来るのであろ!?』 中井出「うむ!その通りである!     その通りであるから背中に衝撃与えるのはやめてお願い……!     抱きつかれただけでクリティカルだから……!」 おお、この腹まで貫かんとする衝撃はどうだ……! 今食べていたものが腹の中で踊るようだ……! などと料理マンガで通な人がメシ食ったような表現している場合ではなく。 ナギー『わしもなのじゃー!』 俺はナギーが言った言葉に、クワッと目を見開いたのだ! 中井出「なにぃ!?とすると貴様も背中が弱点!?」 ナギー『違うのじゃ!そっちではなく、わしも動物の言葉が解ると言っておるのじゃ!!』 中井出「あ、ああ……そう」 違ったらしい……思わぬところで同志が誕生したと思ったのに。 しかしナギーは変わらずのにこにこ笑顔。 どうやらお揃いなのが嬉しいらしい。 ……そういやそうだよな。 今までのナギーは関所の中で、自分の能力を比べる相手も居なかったんだ。 同じ力を持つことで出る親近感っていうのも当然あるだろうけど、 それを話せる相手も居なかったのだ。 なるほど、こんなにウキウキ笑顔になるのも頷ける。 そう納得した俺は肩越しに手を伸ばすと、ナギーの頭をわしゃわしゃと撫でた。 それをぼや〜っとした気持ちの良さそうな顔で受け入れるナギーは、 なんというか痒いところに手が届いた猫を見ているような気分にさせてくれた。 中井出「ほらナギー、メシが冷めるから食べてしまえい」 ナギー『解ったのじゃ』 撫でるのをやめると、少しその余韻を味わったのちに背中から離れ、 てほてほと元の位置に座って食事を再開。 手間のかかる子供を見ているようだ〜、とは言わないが、微笑ましくはある。 紀裡のやつは今頃なにやってるかなぁ。 チャイルドエデンのクソガキャアどもにいじめられてなきゃいいが。 もしそんなことになってたら俺は喜んで子供を泣かせましょう。 大人気ない?そんな言葉でこの博光を律することは出来ぬわ。 中井出「じゃ、食べ終わったらさっさと寝るか」 ルルカ『見張りはいいのか?』 中井出「モンスターに襲われたら襲われた時に考えるべきだろ」 ナギー『行き当たりばったりなのが面白いのじゃ』 ルルカ『自然の精霊とは思えねぇ返事だなオイ……』 中井出「もう慣れたよ」 ナギー『慣れたのじゃ』 言っておいてなんだが、フェルダールの自然の未来が不安である。 そんなこんなでメシを食し終えた我らは火の始末をし─── 最近よく寝てるなぁと思いつつも、再び寝入るのであった。 Next Menu back