───冒険の書161/平和な日々はデッドだよ───
【ケース432:中井出博光(再々)/遅く起きた朝は】 チチッ……チュンチュン……チチチ…… 中井出「………」 ナギー『………』 ルルカ『………』 ああ……朝日が昇るよベン……。 ぐっすり眠った果てに朝日が昇ってしまうよベン……こんにちわ、中井出博光です。 朝なのにこんにちわって言うのは仕様だと思ってくれ。 さて、朝なんだが……俺達はまだ寝転がっていた。 というより薄目状態で寝たフリをしていた。 なんでかと言うと…… ドラゴン『ゴルルルルル…………《ハスッ!ハスッ!!》』 どういうわけか、目が覚めるとすぐ目の前にドラゴンが居たのだ。 しかもなんだかメシの残りが全部食われてた。 さらに言えば立ち去ろうともせず、俺の体の臭いを嗅いでいるのだ。 お、俺なにかした!?におい袋かなんか持ってたっけ!?……持ってないよそんなの! じゃあなに!?なんなのこの状況!! 中井出「《ゴソゴソ……》〜〜〜〜ッ……!!」 ドラゴンが我が体を鼻で押す。 その度に脇腹が擽られ、いっそ笑ってしまいたくなるのを必死に押さえる。 いやもうこの際“我の眠りを妨げるのは誰じゃー!”とか言って襲い掛かってもいいが、 こんなジュラシックパーク風の危機なんてそうそうあるもんじゃあ……ねぇぜ!? だから俺達はすぐさまに死線……もとい、 視線を交差させ、寝たフリを決め込むことに決めたのだ。 さしものドラゴンも、 原中で磨かれた我が寝たフリを見切ることも出来ずに騙されておるわグオッフォフォ。 ……などと、心の中でニヤリとしていた時だったッ!!  ヒラヒラヒラヒラ……ピタッ。 ナギー『!?』 中井出「!!」 なんと!ナギーの鼻先に蝶々が留まったのだ!! しかも羽根が大きく、鱗粉もサワサワと散らしながら飛ぶような蝶が!! ナギー『───!───!!』 ああっ!ナギーの体がビクンビクンと痙攣してる! 恐らくどころか間違いなくくしゃみを我慢しているのだ!! ドラゴン『グオッ!?』 しかもその痙攣にドラゴンが気づいた! ───しかしそこは流石ナギー! その振り向いた一瞬のみ、ビッシィと動作を止めて見せたのだ!! す、すげぇぜナギー……!くしゃみの衝動を止めてみせるとは……!! しかしやはり訝しげな風情を見せるドラゴンはズシンズシンと歩き、 少し離れたナギーへと近づいてメメキャア!! 中井出(ギャアーーーーーーーーーッ!!!!!) 踏まれた。 だが耐えたね!この博光は!! ナギーがくしゃみを耐えてみせたのだ……! ならばこの博光も原中が提督として負けてられ───ちょ、いつまで乗ってるの!! 早く降りて!え!?なんでこの状態で止まるの!? あと一歩くらい簡単でしょ!? そんな片足を僕の体に預けるような格好で止まることないよ! 歩こうよ!あと一歩でいいから!進んでいこうよ! キミはこんなところで立ち止まるべきドラゴンじゃないんだ! 中井出(バ……バイタリティマックス!!鋼鉄の肉体!!) マキィーーーン♪ とりあえず防御力をマックスに! 中井出(《バキベキベキゴキ!!》ごぉおおおおぉぉぉぉ……!!) しかし防御力=体重に打ち勝てるというわけでもないため、なんだか無駄だった。 だがこの博光を甘くお見でないよ! これしきの苦汁!耐えられぬとでも《メキャア!》ゴメンわしもう幻海。 ならばせめて今の俺が持てる全力を以って、このドラゴンに攻撃を……! 無剣にて放つ斬鉄剣とグングニル、 そして気づかれないように発動させたマグニファイで黄竜剣、 さらにはレイジングロアも合わせて放つ…… ああちなみに踏まれてダメージは負ってるけど、 敵対心持たれてるわけじゃないからHPマックスはキープしてます。 さあそんなわけでまいりましょう! 中井出 「波夷羅一伝無双流(はいらいちでんむそうりゅう)───奥義!!」 ドラゴン『グオッ!?』 我が体を踏んだままのドラゴンに向けて、 突き出した右腕に左手を添えて構える。 そして、溜めるに溜めた力全てを今こそ解放! 中井出「“真・昇竜裂天衝ォオーーーーーーーッ”!!!!キュイィイズガァアアッファァアアンッ!!!! ドラゴン『グォオオオオォォォ───…………!!!』 …………ギシャーン♪ あまりにも巨大な竜の波動砲に飲まれたドラゴンが遙か天空の彼方に消えた。 その大空からはゴコォオホォオオン……!!と波動砲の余韻のような音が舞い降り、 さらには俺に1レベルアップをぺぺらぺっぺぺ〜と齎した。 中井出「お前は強かったよ……でも、間違った強さだった」 しかし感動したのも事実。 我が武器もとうとうドラゴンを一撃で倒せるくらいにまで成長出来たか……。 やっぱり武器いいなぁ、自分が強くなるより武器が強くなることがこんなにも嬉しい。 逆を言えば、全ての武具が霊章ごと無くなれば俺ほど弱いやつはそう居ないと思う。 訓練を受けたわけでもないし、魔法が使えるわけでもない。 ただひたすらに子供のような殴り合いくらいしか出来なさそうだ。 だが俺はそれでもいいのさ。 だってオラは……人間なんだから。 いや、ここでジェロニモの真似をする意味はまるでないけどさ。 中井出「はふぅ……よし!行くかナギー!ロドリゲス!」 ギシャーンとHPTPが回復したところで立ち上がる。 キャンプの始末は既に出来てるし、あとは普通に移動を開始するのみ! ナギー『うう……びっくりしたのじゃー……』 ルルカ『ゴェエ……』 意識して聞こうとしないと、やっぱりゴェエと聞こえるロドリゲスの声。 さらには“ヒロミツが見張りをつけなかったからこんなことになったのじゃ”とか、 そんなことを言っているナギーにウハハハハと微笑み返しつつ、僕らは出発した。 中井出(………ていうか……) あのドラゴン、結局なにがしたかったんだろうなぁ。 ───……。 ピキュリリィイイイン!! ナギー『はうあーーーーっ!!』 中井出「オワッ!?どうしたナギー!!」 ルルカ『ゴエエッ!?』 そんなこんなで遙かな道を歩いていたわけだが……突然、ナギーが叫びだした。 何事!?と訴えかけるも、ナギーはなんだか申し訳なさそうな顔で俺を見上げる。 中井出「どうしたというのだナギー新兵……」 ナギー『……お、怒るかの?』 中井出「怒る!!」《どーーーん!!》 ナギー『だったら言わないのじゃー!!』 中井出「ぬう!落ち着けナギー!今のはノリで言ってみただけである!!     怒らん!怒らんから言ってみるのだナギー!!」 ナギー『ウソなのじゃ!絶対に怒るのじゃー!!』 中井出「ええい怒らんと言っているのに!!誰がどう思おうがこの博光!!     怒る時には素直に怒るが耐える時にはきっちり耐える男!!」 ナギー『それは生物として当然なのじゃ!!』 中井出「うむ!その通り!だから怒るか怒らないかなんて言うだけ無駄!さあ言え!!」 ナギー『う、うぐー……わ、解ったのじゃ……』 ゴクリ、と喉を鳴らすナギー。 思わず俺もゴクリと喉を鳴らし、ナギーの言葉を待った。 やがて─── ナギー『じ、実はの。力を解放された精霊は、     契約者に強く適合する武器を一つだけ精製することが出来るのじゃ……』 中井出「う、うむ……それで?」 ナギー『………』 中井出「む?どうしたナギーよ」 ナギー『お、怒らぬのかの?』 中井出「……………………何故?」 ナギー『もっと早く精製していれば、猫のもとで合成が出来たのじゃ』 中井出「私は一向に構わんッ!!何故なら手に入る武器に罪は無いからだ!!」 ナギー『お、おお!ならば許してくれるのか!?』 中井出「許すも許さないもないさ!故に怒る」 ナギー『やっぱり怒ったのじゃーーーーーっ!!!!     手に入る武器に罪はなかったじゃなかったのかヒロミツ!!』 中井出「武器に罪無し!つまり全ての罪は貴様にある!」 ガッシィとナギーの手を掴み、フワリと持ち上げると───肩車をした。 そして手を横に伸ばすと 中井出&ナギー『トー!テム!ポール!!』 ビッシィィイイ!とポーズを決めた。 やりやがるぜナギーのやつめ…… まさか一瞬にして、この博光がやろうとしていたことを見切るとは。 ナギー『ほんにおかしな男よの、ヒロミツは。     普通、精霊の力を得た人間というのは力に溺れるものじゃというのに』 中井出「俺は溺れるなら武器の力にこそ溺れたいが」 ナギー『武器になら既に溺れておるじゃろ』 中井出「まったくだ」 溺れるっていっても、成長させていくって意味だ。 武器成長ってやっぱりロマンだろ。 ナギー『……ヒロミツには審判をするだけ無駄じゃの。では受け取るのじゃヒロミツ。     これが、然が精霊ドリアードより授けることの出来る武具、ミストルテインじゃ』 言うや、肩車からヒラリと降りたナギーが両手を光らせる。 そしてそこから、一本の綺麗な木の枝を出現させてみせたのだ。 中井出「ミストルテインって……あれか?     オーディンの息子の一人であるバルドルを貫き殺したっていう宿り木の……」 ナギー『そういう話はよく知らんがの。     わしから贈ることの出来る武器はこれだけなのじゃ。     世界にたった一つの武器じゃ、大事に扱うのじゃぞ?』 ナギーの手から完全に解放された枝は、ナギーの手によって俺に手渡された。 もちろん俺はそれを受け取ると、シゲシゲと見つめたのちに……調べるを実行。  ◆ミストルテイン───みすとるていん  神樹ミストルテインの枝。  然の属性がこれでもかというくらい封入されており、  これを持つだけでも傷が癒えるとさえ言われている。  形は曲りくねったただの枝のようだが、ひとたび戦いに至ると持ち主の意志を受け取り、  剣、槍、矢の三種に変形すると云われており、  槍の名をミストルテイン、剣の名をフロームンド、矢の名をホズという。  が、結局は枝なため、あまり強度方面では信頼出来ない。  形としては珍しいものだが、別の武器と合成させるのが一番安定しているだろう。  言うまでもないが、ミストルテインという名前自体が“宿り木”という意味。  だからミストルテインの宿り木と書くと“宿り木の宿り木”という意味になる。  *潜在能力:矢剣槍変異、TP自動回復 …………。 中井出「ほほう……」 ナギー『ど、どうかの、気に入ってくれたかの?』 中井出「うむ!素晴らしい!これは素晴らしい一品だぞナギーよ!」 ナギー『そ、そうか!よかったのじゃー!!』 ルルカ『ゴエーーーッ!!』 不安な顔から一転、その不安の分だけ安堵したナギーを抱き上げ、 その場でくるくると大回転するように踊った。 それに習うようにロドリゲスも踊り始めて、僕らの旅は少しだけ平和になった。 ───……。 中井出「そんなわけでまた合成を頼みたい」 長老猫『旦那さんパワフルニャ……』 せっかく進んだ距離を再び戻ると、猫にミストルテインとジークフリードを渡す。 どんな方法で戻ったかと言えば、ナギーが乗ったロドリゲスを俺がフロートで浮かせ、 それを俺が引っ張る感じでAGIマックスで走り抜けたわけである。 ええ、あっという間だったさ。 中井出「…………精霊と契約しにいったやつらは戻ってきてないのか」 長老猫『契約したとしても、ここに戻ってくるとは限らないニャ』 中井出「おお、それはもっともだ」 ナギー『他の猫たちも戻ってきてないのじゃな』 長老猫『商売猫は一日にして成らずニャ。ところで旦那さん、代金はあるのかニャ?』 中井出「要らんものを売ろう。巨大両性生物の厚皮とかあるが、どうだ?」 長老猫『ムムム……まあいいニャ、武器合成くらいならそう難しくないニャ。     魚をいっぱい取ってきてもらった恩もあるし、それでいいニャ』 中井出「そ、そうか?いっつもすまないなぁ猫よ」 長老猫『……いい加減その“猫よ”っていう呼び方、やめないニャ?』 中井出「俺の中でアイルーはジョニーだけなんだが」 長老猫『そ、そうニャ……?まあいいニャ……』 ジークフリードとミストルテインを抱えた猫が奥の部屋へと歩いてゆく。 まあ……なんだ。 そのジョニーだって、アイルーだなんて呼んでないわけだけど。 中井出「じゃ……寝るか」 ナギー『ま、また寝るのかヒロミツ!もう眠くないのじゃ!!』 中井出「なにぃ……じゃあ潜るか!!」 ナギー『潜る?……わしは水着なぞ持ってないのじゃ』 中井出「ウヌウ……じゃあ……釣りだな」 ナギー『解ったのじゃ!それならやるのじゃー!』 ルルカ『ゴエゴエー!!』 そうと決まればレッツビギン! 我らは洞窟の中を駆けずり回り、部屋という部屋を巡っては釣り道具を探し、 それを見つけると早速時間潰しを実行に移した! ……………………。 で、待つことどれくらいだろうか。 結構経ったと思うが、 全然釣れない状況の中で遠くの景色からこちらへ向かってくる小船を発見した。 あれは…… 彰利      「た〜び〜を〜す〜るなぁらぁ!!」 藍田      「え〜んやこ〜ら〜どっこいしょお!!」 悠介      「かぁ〜いぃをォ漕ぉ〜ぎ漕ぉぎぃ!!」 彰利      「えぇんやこぉらぁどっこいしょお!!」 彰利&悠介&藍田『なぁ〜みぃにぃ揺ぅ〜られぇてぇ〜、          今日ォオ〜〜ォもぉ〜行ゥくゥ〜〜〜〜〜ッ!!」 総員      『ハァ〜〜どっこいしょお!どっこいしょお!!』 ……この場で別れた皆様方だな。 どうしてか原中名物“腐那埜浬廼菟蛇(ふなのりのうた)”を歌ってる。 わざわざ説明したんだろうか、彰利あたりが。 しかしこの歌、我らが無駄に生み出してきた歌の中でも唯一、 晦が気に入っている歌でもある。 原中時代はよくともに歌ったものさ。 まだ覚えていてくれているなんて、嬉しいじゃないか。 そんなわけで。 中井出「“Zeigedich”(ツァイゲディッヒ)!フリードォ!!」 霊章から双剣を出現させ……ることは、武器を預けているため不可能。 故にグローブに風の属性を込めると強く握った。 義聖剣みたいな込め方は出来ないものの、 宝玉から普通に上乗せするくらいは可能だ。 じゃなきゃ剣士が属性別の剣閃放てるわけないものね。 ……ちなみにフリードっていうのは、 ブリーチのバウント編で出てきたダンディバウントのドールの名前。 ここではまあジークフリードのことである。 ブリーチのドール召喚の言葉って凄くよかったと思うんだ、俺。 そんなわけでただでさえ炎の属性が篭ったファフニールを握り締めると、 ゴファアアムと拳から炎を盛らせ、その状態で適当な石を拾って─── 中井出「オラァッ!!」 風を上乗せさせて投擲した!! STRマックスで投げつけるソレは風をゾヒュウンと斬って飛翔! 狙い通り見事に小船の後方にゴボシャアと着水すると、 激しい爆発と爆風を巻き起こし、津波を巻き起こした!! するとあら不思議!巨大な波に乗せられた船が一気に流れてくるじゃないか!! 彰利 「おわわなんじゃこりゃぁああああーーーーーーっ!!」 中井出「アイム魔王!!」 彰利 「ゲェ中井出!貴様まだここらへんうろちょろしとったの!?」 中井出「お、俺が何処に居ようと俺の勝手だぁーーっ!!     武器強化しに来たんだからいいじゃねぇかよぅ!!」 彰利 「誰も悪いとは言ってねぇやい!ていうかこの波キミの仕業!?」 中井出「その通りだ!!その……おわぁあああーーーーーっ!!!」 威力が強すぎた!! 渾身の力を以って爆破させられた海は巨大な津波へと変貌を遂げたのだ!! そんな中で船に乗った皆様がたは相当におろおろし出し、 しかし彰利だけがサーフィンの真似をしてバランスを取るかのように ウネウネと腰を振ってドグシャア!! 彰利 「ウベルリ!!」 一人だけ投げ出され、岩場に激突ドッパァアアアアアアンッ!!! 総員 『ほぎゃあああああーーーーーーっ!!!』 そして僕らは津波によって強制的に洞窟の中へと流されていったのだった。 【ケース433:中井出博光(超再)/本と魔法と剣の咎人】 ザザァアア………… 総員 『グビグビ……』 そうして洞窟の中を思いっきり流された俺達は、結構奥にある広間で痙攣していた。 ある意味でタイダルウェイブとなった津波事件だったが、僕らはこうして生きてます。 藍田 「ブゲェエッヘゴッヘ!!ご、ごぉおお……!!     て、提督てめぇ……!なんてステキな招待状を……!!ってうおっ!?     大変だ提督!未来凍弥がオクトパスホールドされてる!」 中井出「なにぃ!?うおおマジだ!!」 ガバッと起きてみれば、確かに未来凍弥がオクトパスホールドを! ……え?誰にって?そんなの、タコに決まってるじゃないか。 タコに顔面ホールドされてるのだ。 当然呼吸困難状態。 懸命に引き剥がそうとしているが、吸盤がべったりくっついてて剥がれないらしい。 豪快にびったんばったんともがいてたが、 やがてそのもがきが鈍くなり……ぐったりと動かなくなった。 中井出「真・オクトパスホールド……なんと恐ろしい技よ……!」 藍田 「締め技と見せかけてケツをつねくる誰かさんの技とは大違いだぜ……!」 中井出「ああ、餓狼伝な」 藍田 「そう、餓狼伝な」 言いつつ、未だ燃え盛るファフニールでタコをバンガァとコロがし、 彼の救出を完了する。 しかしなんだ、タコの吸盤ってのはどうしてこうも強力なんだろうな。 中井出「STRマックスとかで引き剥がせなかったのか?」 凍弥 「ゼヒッ……ゼヒッ……!や、やろうとしたけど……!!     か、顔の皮が……ゼヒッ……吸盤と一緒に剥がれるかと……思った……!」 藍田 「うおう……」 中井出「タコの吸盤のなんと恐ろしいことよ……」 しかし無事でなにより。 いっそ魔王としてここでトドメを刺すのもステキじゃなかろうかと思ったりもしたが、 わざわざここに全員が戻ってくるのにはそれなりの理由がありそうだ。 だからやりませぬ。……今は。 中井出「して、晦一等兵よ。貴様らがここに戻ってきた理由はなんぞや?」 悠介 「契約が済んだら一度ここに戻ろうって、話を通しておいたんだよ。     そうじゃなきゃルナがうるさそうだしな」 ルナ 「べつにうるさくないわよぅ……」 悠介 「そういうぼやきがしつこいっていうんだよ、お前は」 中井出「尻に敷かれてるなぁ」 悠介 「我が儘を受け入れてるって言ってくれ」 俺は誰かの尻に敷かれるつもりはないぞ、と続ける晦が頭をカリカリ掻いていた。 溜め息も同根の様子を見ると、少なからずショックは受けたらしい。 でもまあ……なんだ、なぁ? 藍田 「尻に敷かれてるどころか……抱き枕状態?」 中井出「まあなんだ、キミ、そろそろ立ち上がりたまえ」 悠介 「……ルナ、離してくれ」 ルナ 「ヤ」 即答だった。 仕方なしに、倒れながらも頭を掻いてた彼は強引にゴシャアと立ち上がり、 盛大な溜め息をモシャファアアと吐き散らかしたのだった。 ていうかさっさと起きればよかったんじゃなかろうか。 抱きついてたルナさんが邪魔で上手く立ち上がれなかったのはよく解るんだが。 悠介 「じゃ、いいか?───って彰利はどうした?」 声  『ココニイマス』 悠介 「だぁぅわっ!?」 中井出「ぬおぉっ!?」 突如声が聞こえた場所をババッと見れば、 ランプが届かない暗がりで体育座りをしている彰利一等兵を確認!! ていうか…… 悠介 「……な〜にをやっとるんだお前は……」 彰利 「いえあの……驚くかなぁって」 悠介 「あー驚いた。驚いたからこっち来い」 彰利 「まあ……驚いた決定的瞬間を確かにオイラ目撃ドキュンだけどさ……。     この反応を見ると釈然としない気分になるのはどうしてなんだろうね」 中井出「俺に訊かれてもなぁ……」 彰利 「ていうかさ、さっきは訊きそびれたけどルナっち、     月の精霊の力は受け取って来たん?」 ルナ 「ん……まあ。なんだか酷くあっさりだったから逆に戸惑ったけど」 悠介 「気持ちは解る」 悠黄奈「こちらも随分とあっさりでしたからね……」 セレス「あっさりにもほどがありますね。張り合いがないというか」 彰利 「参戦したばっかで精霊バトルはキツイっしょ。そんで悠介?アレやるん?」 悠介 「ああ、頼む」 中井出「アレ?アレってなんだ?」 彰利 「クォックォックォッ……!貴様の知らないことさ……!」 中井出「なに!?貴様まさか……!」 彰利 「そう!そのまさかよッッ!!これは貴様が氷付けになっている時に決めたこと!!     貴様が知らないのは当然にして必然にして最強の理!!     キョホホホホ!仲間外れ!この仲間外れめ!!」 中井出「ギ、ギィイイーーーーーーーッ!!!」 からかえる状況ならば全力でからかい全力で立ち向かう……それが僕らの原ソウル! しかしやはり悔しいものは悔しいので、僕は氷付けにされてしまった瞬間を呪うのです。 ていうか……元をただせば全部こいつらの所為なんだけどね? そんなわけで僕は自分の心に素直に突き動かされました。 というのも、ツカツカと歩いて無造作に彰利をドンと押したのです。 そう、いわゆる子供のいじめっ子がやる突き押しです。 すると彰利はあっさりとノリ、僕を突き押すのです。 彰利 「なんだよォ〜!!」 中井出「やめろよォ〜!!」 あとは子供独特の声を真似て突き押しまくる…… こうして途中から何をやりたかったのかを忘れ、 ただただ子供のように突き押しまくる状況が完成するのが我ら原中。 憎しみや悔しさよりも、それさえ利用して楽しむほうが最高だと思いません? みさお「あ、あの……見てて恥ずかしいからやめま《ドンッ!》はわっ!?」 彰利 「な〜ん〜だ〜よォ〜!!」 みさお「な、なんだよってなにするんですか《ドンッ!》はうっ!」 中井出「やぁめぇろぉよぉ〜〜っ!!」 そして止めに入ったみさおちゃんを巻き込み、突き押し大会勃発。 さらにはみさおちゃんが突き飛ばされた場面を目の当たりにしたゼットが参戦。 当然猛者としての魂を誘発された藍田も加わり、その場はカオスフィールドと化した。 夜華 「あの、悠介殿……?これはいったい……」 悠介 「中井出と彰利が一緒になると大体こんな場面が生成されるから、     いちいち気にしてると身が保たないぞ 夜華 「は、はあ……」 中井出「な、なんだ《ボゴシャア!!》うわらば!!や、やめろよ〜〜っ!!     この戦いは突き押ししか使っちゃいけないんだぞ〜〜っ!?」 ゼット「何を言う……これは戦いだろう!     本能のぶつかり合いでわざわざ禁則を守る馬鹿は生存《ドンッ!》ぐわっ!?」 彰利 「なぁ〜んん〜だぁ〜よぉ〜〜〜っ!!」 ゼット「貴様!不意打ちとは《ドンッ!》ぐわっ!?き、貴様!!」 藍田 「やぁ〜〜めぇ〜〜ろぉ〜〜〜よぉ〜〜〜っ!!」 我らは一人だけ拳を使ったゼットを囲んでドンドンと押しまくり始めた。 なんだかもう訳の解らない集団である。 夜華 「あの、悠介殿?何故彰衛門たちは奇妙に語尾を延ばしているのでしょうか……」 悠介 「悪ガキってな?どうしてかああやって微妙に語尾を延ばすんだよ」 夜華 「は、はあ……」 悠介 「じゃ、あいつらは後回しで先に済まさせてもらっていいか?」 夜華 「あ、ええそれは。もちろんです」 我らを除いた皆様が晦一等兵のもとに集まり出した。 だがこちらはもうそれどころではなかった。 ゼット『貴様ら……俺に戦いを挑んだことを悉く後悔するがいい……!!』 総員 『キャーーーーッ!!?』 ゼットがマジになったのだ。 もはや突き押しで勝てる状況どころじゃない……っていうかシャレにならない。 中井出「だが諦めない!!それが俺達人間に出来る唯一の戦い方なんだよ!」 藍田 「一人人間じゃないのが混ざってるけど」 彰利 「ゲッ……」 中井出「キョホホホホ!!仲間外れ!この仲間外れめが!!」 彰利 「ム、ムキキィイーーーッ!!真似すんなぁあーーーっ!!」 ここに形成は逆転した。 ギリギリと歯を食い縛って悔しがる彰利を見て、僕の心は少しだけ軽くなったのです。 しかし状況的には最悪かもしれないのは事実なわけで。 彰利 『いいもん!僕ゼットにつくもん!!こうなったら人間vs人外だ!!』 突如としてオーダーを解放した彰利がゼット側に着いたのだ!! そして僕のもとには藍田二等が。 藍田 「望むところだ珍妙不可思議で胡散臭いやつらめ!!」 中井出「かかってこいオラァ!!」 こうして僕らの戦いは始まり─── のちに武器を長老猫に預けてあることを思い出した僕は、 ゼットの魔手によってこれでもかってくらいにボコボコにされた。 もちろんこちらも原中の名にかけて、あくまで突き押しで抵抗したが─── マウントポジションを取られたのち、散々殴られまくるという地獄を見た。 やがて─── 長老猫『旦那さん、お待たせギャニャアーーーーッ!!?』 ただ無言のままにマウントナックルされる俺を見た猫が絶叫。 その様は、因達羅陀影幻魔流(いんだらじゃえいげんまりゅう)の某従者に似ていたと、藍田くんがのちに語ってくれた。 ───……。 ズキズキズキズキ…… 中井出「おぉ痛い顔痛い……」 で。 なんとか一命を取り留めた俺だったが…… やっぱりアレだろうかVITをマックスにしていたお蔭? でも散々殴られた所為で本当に顔面が痛くて……。 でもゴワゴワと回復してゆく様子はいつ見ても不気味だと思う。 嬉しいんだけどさ、やっぱね。 中井出「それでさ、結局晦がやってたことってなんだったんだ?」 悠介 「ん?ああ、精霊の加護の取得だよ。     俺一人で各地に回るより全員が契約して、その上で加護を貰ったほうが早いだろ」 中井出「うわっ!汚ぇっ!」 悠介 「……なんだろうな、お前に汚いとか言われると何気にショックなんだが」 彰利 「外道を地で行く原中が猛者どもの提督だからなぁ」 藍田 「よっ!外道提督!」 中井出「うるさいよ!!いいじゃないか本能的でも!     ていうか今は狡賢い方法を取った晦一等兵こそを猛者として認めるべきでは!?」 彰利 「ほんにねぇ、思い切った方法に出ましたなぁ貴様も」 悠介 「まあ、たまにはな。真っ直ぐに鍛錬だけで強くなるには時間が足りないんだ。     だから、力を先に得てそれを身に宿していく。     力ももう大分戻ったし、この分なら戦いもそう辛くないと思う」 彰利 「……む。では訊こうか。お前はその力をなんのために役立てる?」 ゼット「純粋に戦いを求めるが故か?」 中井出「それとも守りたいものを守るためか?」 藍田 「はたまたそれ以外の何かを求めるがためか?」 彰利 「さあ!」 中井出「今夜の!」 藍田 「ご注文は!」 総員 『どっち!?』 悠介 「………」 最後にふざけてみせたにも関わらず、晦は目を閉じて思考を開始した。 ……いや、思考っていうよりは自分自身に問いかけているみたいだ。 自分はどうしたいのかを。 自分はなにを思うが故に力を求めるのかを。 やがて─── 悠介 「俺は───」 彰利 「俺は?」 悠介 「…………俺は何も守りたいとは思ってない」 ゼット「ほう?では───」 悠介 「いや。純粋に戦いを求めたいわけでもない」 ゼット「なに?だったらなんだという」 悠介 「………」 ゼットの問いに、最後の確認をするように……晦は自分の胸に手を当てた。 そうしてから満足そうに頷くと─── 悠介 「ただ……お前らと、一緒に居たい」 それだけ言って、これまでにないくらいの純粋な笑みを見せた。 総員 『───…………』 そんなのは不意打ちだ。 正直ずりぃって思った。 そんな答えを、こんな笑顔で言われたら─── 彰利 「はっ……ははっ!あははははははっ!!」 悠介 「《がばしぃっ!》とわっ!?」 最初に動いたのは彰利だった。 次いで俺、藍田と───一番近くに居たやつから順になって晦に抱きついた。 いや、抱きついたっていうよりは肩を組むような感じだ。 他のみんなもそうやって晦に駆け寄っては、 それぞれが思い思いのやり方で晦を振り回してゆく。 ゼットやゼノさんやシュバルドラインはさすがに駆け寄ったりはしなかったが─── それでも苛立ち混じりに答えを待っていたゼットは、 なんだかんだで口元に笑みを浮かべていた。 その口が僅かに動いたが───まあ、多分“つくづく甘いな”とかそんなところだろう。 それでもこの場に居るみんなは満足できたんだと思う。 今まで……いや、もう過去のことだけど、 ずっと孤独を味わってきた少年が、今ようやく出せた答えに。 人を散々と遠ざけてきた彼が出した、誰かと一緒に居たいって気持ちに。 一緒に居たいから力が欲しいと。 同じ位置に居たいから弱いままは嫌だと言った彼を、俺達はノリだけで胴上げした。 彼もされるがままになっていたがドグシャア!! 悠介 「ぶげっ!!」 彰利 「ゲェエーーーーーッ!!」 中井出「しまった落としちまった!!」 藍田 「こりゃやべぇ……!とんずらぁあああーーーーーーーっ!!!」 結局胴上げといえばこれなのだ。 それぞれが散り散りに逃げる中、すぐさま起き上がった彼は喜びの分だけ激昂。 散り散りに逃げ惑う皆様方をたった今手に入れた力を以って襲いだしたのだ。 彰利 「ゲゲェ!なんだ……!この尋常ならざる力の波動はぁあーーーーーっ!!」 藍田 「い、いや!こっちには僕らの提督がついてるんだゼ!?     まだまだ負けるわけにゃあ───」 中井出「よし行くぞ晦一等兵!憐れな悪魔たちに魂の救済を!!」 総員 『一分とかからず裏切りやがったぁあーーーーーっ!!』 彰利 「なんてクズだこのクズが!!」 藍田 「貴様それでも僕らの提督かこのクズが!!     何故こうもあっさり僕らを裏切ったのだこの卑劣者め!!」 中井出「卑劣と謳わばこう返そう!!こっちの方が面白そうだからだ!!」 藍田 「提督てめぇ!!」 彰利 「このクズが!!」 中井出「う、うるせぇえーーーっ!!そんなクズクズ言うなよぅ!!     男だったら武器で語れ!!さぁ来い猛者ども!     俺は逃げも隠れも───ヤバくなったら平気でする!!」 遥一郎「どこまで自分の心に正直なんだよこいつ……」 凍弥 「けどまあ来いって言ってるし、行くか?」 悠介 「よし───いくぞ提督!」 中井出「うむ来るがいい!ってちょっと待ってなんでキミそっち側居るの晦一等兵!!」 悠介 「?……さぁ来い“猛者ども”って言ったろ?」 中井出「え?あ、いや、あれはそういう意味じゃなくて……ほ、ほら、ね?     ノリとかってあるじゃない、ね?いやちょ……待ってよ!!     そんな全員で武器をズチャアと出さないでよ!!     ゼットもゼノさんもシュバルドラインも!     今まで見てみぬフリだったのになんだって僕が敵になった途端に武器構えるの!?     や、やめてよ!こんな時ばっかり団結力を見せないでよ!!     こんな悲しい団結力欲しくないよ!……え?卑怯とは言うまいね?卑怯だよ!!     どう見たって卑怯でしょこの状況!!     逆にこの状況でそんなこと訊ける神経を疑うよ!     え?そんな図太い精神に鍛え上げたのは提督である僕?     ちょ、やめてよ!そんななんでもかんでも僕の所為にしないでよ!!     覚悟なんて出来ないよ!!そんな覚悟いらないよ!!     ていうかどうしてみんな僕相手の時だけ躊躇ってものを忘れるの!?     や、やめっ───ほんとやめヴァーーーーーーッ!!!!」 人生ってやつは何処までも無情らしい。 こうして僕はナギーやロドリゲスが見守る中、 僕が魔王とするならば彼らは勇者一行とも呼べる彼らの魔手によってボコボコにされた。 ……もちろん、せめてもの仕返しにと、 足掻く中で裏返しいらずの炭火焼きファイヤーを見舞ってやったけどね。 そしたらさ、みんなが己の持てる全ての力を振り絞って襲い掛かってきてさ。 もうなんて言っていいのか……とりあえず猫洞窟を壊す訳にはいかないと思って外に出た。 で、次の瞬間みんなも律儀に追ってきたわけなんだけどさ、 彰利一等兵の馬鹿者が空浮いちゃっててね? 丁度真上に居たデスゲイズに見つかってね? まあその……開幕メテオを放たれて、皆様見事に全滅。 辺境の小さな教会で神父の有り難い説教を耳に蘇った僕らは、 その怒りを神父にぶつけ、仲良く再び全滅したのでした。アーメン。 Next Menu back