───冒険の書169/これからのことをちまちまと───
【ケース445:晦悠介/キクラゲに泣く頃に】 さて……ウサギ獣人にコロがされ、神父送りにされた俺達一向や、 彰利や原中、名誉ブリタニア人たちが揃いも揃ってウサギ獣人を恐れ、 失った金に思いを馳せつつ解散したのが先ほど。 俺はそのまま、といったら変だが旅を続けることにし、 彰利 「ハラショウ」 何故か彰利がそれに同行を決意する。 夜華 「申し訳ありません悠介殿……突然こんなことに」 凍弥 「彰衛門はいっつも思いつきで行動するから振り回されると面倒で面倒で……」 で、それが当然とばかりに彰利の隣に居るのは篠瀬であり、凍弥でもある。 悠介 「いや、別に俺は構わないんだけどな」 結論から言えば、加わったのは彰利と篠瀬と凍弥。 元々のこちら側のパーティーと合わせると、 俺、ルナ、セレス、悠黄奈、彰利、篠瀬、凍弥の7名となる。 ああ、ディルゼイルを忘れちゃいけないな……8名だ。 しかしだ。 人数が増えることと、それも彰利が存在していること自体が どうにも気に食わないらしいルナがいつもの猫目みたいな目でじと〜と彰利を睨んでる。 そもそもこいつは“俺の親友”って立場にあるこいつが気に入らないらしく、 自分より俺に近い位置にある存在へはやたらと攻撃的なわけなんだが…… 彰利 「おっほっほ、まあ、これからよろしゅう《スッ……》」 ルナ 「ふかーーーーっ!!!」 彰利 「キャーーーッ!!?な、なによアータ!!なに!?     握手しようとしただけでなんで威嚇されてんの俺!!」 ルナ 「なんでついてくるのよぅ!     ホモっちはホモっちでどっか適当な場所に行ってればいいじゃないのよぅー!!」 彰利 「いやあ考えてもみなさいよルナっち。今や中井出という共通の魔王が出来た今、     一人でも強いお方は必要なのよ?だからね?     悠介が探してる……えーとなんつったっけ?月の欠片?を探して、     とっとと悠介強くして一気にボスバトルをしたいなぁと」 ルナ 「それはわたしと悠介がやるからホモっちには関係無いの!」 彰利 「関係ならあるぜ〜〜〜っ!     親友が困ってんだ……助けないわけにはいかないだろ?」 悠介 「お前……今まで散々適当にうろついてたくせによくそんなこと言えるな」 彰利 「そりゃお前、俺とお前だからだろ」 悠介 「………」 あったりまえじゃい、と言いつつ俺の胸あたりをトンッとノックする彰利。 悠介 「お前は……。人に誰かのために動くなとか言っといて自分はそれかよ」 彰利 「俺ゃあ確かな感情の下に動いてるからOKなのさ。     以前のキミみたいに世界守りたいとか全て守りたいとか思ってないし。     いーじゃねぇの、難しく考えるこたぁねぇさね。     俺はお前の親友だし、お前は俺の親友。昔っから続いてるその関係は今も同じで、     そもそも俺達は互いに適当にぶつかりあって笑ってる間柄だったろ」 悠介 「お前がふざけて俺が殴ってか?」 彰利 「そうそうそれそれ。     まあその頃は俺も自分のことアタイとかなんとか言ってたけど。     そう考えりゃあ俺も変わったんかなぁ」 悠介 「あれは普通に作ってただけだろ、お前が」 彰利 「そりゃあねぇ、あの時は俺も感情が乏しかったし。     ……しかしキミね、なんとかならんのかね?ルナっち抱き締めながら話すの」 悠介 「こうでもしないと延々とつっかかるから無理だな」 彰利 「アタイとしてはルナっちとも全力でぶつかりたいんだけどね。結構おもろいし。     ……ヒィ!!なにやら急に場の空気が寒く!?だ、誰!?殺気出してるの誰!?」 言うまでもなくお前の後ろに居る篠瀬だ、馬鹿者。 ……これも嫉妬なんだろうか。 篠瀬も随分とルナチックになったもんだな、ほんと。 セレス「同行するのは別に構いませんけどね。目的はあるんですか?」 彰利 「ウィ。さ、語っておやり小僧」 凍弥 「そこでどうして俺に振るかな……。あー……っと。     とりあえず今の力じゃどうあってもあの魔王には勝てないことが解ったんで、     守護竜を倒して魔王の属性を全部封印してしまおうってことになったんだ」 彰利 「めっちゃくちゃ強かったからねぇ。中井出……じゃない、ウサギ獣人」 凍弥 「このまま無鉄砲に戦いを重ねても、無駄に相手のレベル上げるだけだから」 悠介 「なるほど、そういうことか」 彰利 「オイラも結構レベルは上がってるけどさ、やっぱ竜退治っつーたら悠介っしょ?     だからキミと旅をして竜バトルのコツを掴んで少しずつ滅ぼしていこうかと」 悠介 「コツって……あのなぁ」 ディル『竜退治にコツがあれば苦労などしないだろう』 ああ、まったくそのとーりだ。 こいつはどうも妙なところで楽しようとするからダメだ。 やるからには全力で、今の実力で出来る限りのことをして向かうべきだ。 悠黄奈「守護竜討伐をするにしても、まずどの竜を叩くつもりなんですか?」 彰利 「そりゃおめぇ……アレだぁ。     それぞれの属性が関わる竜からに決まってんでしょう。     闇とか光とか風とか水とか氷とか月とか創とか」 悠介 「氷ならもう解放されてるぞ。悠黄奈の能力が向上済みだ」 彰利 「なんと!?ど、どどどんな感じ?オイラにそっと教えて?」 悠黄奈「まず武器が貰えましたね。属性にちなんだ武器のようで、     アブソリュートっていう剣にも槍にもなる氷の結晶でした」 彰利 「ほほう……そりゃ興味深い。他に解放された属性とかって無いんかね」 悠介 「今のところは氷と然だけだろ。     俺達のパーティの中で、解放があったのは悠黄奈だけだし。     お前の方はどうなんだ?」 彰利 「こっちも解放された属性はないねぇ。まあそんなわけさね、     いっちょ俺達の力であのにっくき大魔王ウサギ獣人を仕留めてやろうぜ?」 悠介 「………………憎いのか?」 彰利 「………………………………じ、実はヤツの魔の手がアキタコ(マチ)にご在宅のボルネン     リッツ=マシュー=ザ=ギャンザさんを殺めたという情報が」 悠介 「あーそこ、奇妙な設定作らんように。     大体それ、お前の憎悪になんの関係もないだろうが」 彰利 「ヤツは俺の!えーと、……なんだろ」 悠介 「知るかっ!!」 彰利 「まあそう言うなよ僕のキミよ。アタイったらもう最強に今を楽しんでるんだから。     だってホレ考えてもみんさい?今まで散々ぶっきらヴォーノで、     なにをやるにも仏頂面、時折笑顔を見せるのは日本の伝統や修行の時のみ。     何処のサワヤカボーイだよテメェエとツッコミたくなるくらいの親友がさ、     今はこげにいい顔で先を語ってんのよ?     そりゃあ俺としちゃあ浮かれたくなりもするって」 悠介 「あ───……そか」 苦笑交じりに言う彰利は、 なんだかんだでいろいろ大変だったって雰囲気を俺に見せていた。 それは俺にしか解らないくらいの微妙なものだったけど、 だからこそ俺にはそれで十分すぎるくらいだった。 考えてみればもうどれくらいになるのか。 こいつが“俺”という存在と出会ってから数十、数百という年月の先で、 きっとこいつが俺に願っていた親友像っていうものへ、今俺は至れることが出来たのか。 それとも既にそこには至ることが出来ていたのか。 そればっかりは訊いてみなければ解らないことだったけど、 彰利 「フブレカカカカカッカッカッカッカッカ……!!」 まあ、な。 奇妙とはいえ、こんな笑顔を苦笑のあとに見せられたんじゃあ、 それが答えなんだって受け取る以外に他は無いだろう。 ……だが一応ツッコませてくれ。それは笑いなのか? 彰利 「夜華さん、アタイ思うの。テレビアニメデスノートのリュークの笑い声って、     あれでも“クックック”とか“ククク”って笑ってんのかな」 夜華 「あ、い、いや……確かに一緒にあにめを見たことはあったが、     わたしには何がなんだか……」 彰利 「いやぁ……どう聞いてもフブレカカカカカッカッカッカとしか聞こえないのよね。     まあいいや、ほいじゃあまずは何処行くん?」 彰利の質問に真剣に悩む篠瀬をキュムと抱きしめると、 ひょいと話を移して訊いてきたのは彰利。 いつでも平気でとっとと話題を変えるのは原中時代以前から変わってない。 こういう性格だ、桐生親子は相当苦労したことだろう。 その分、こいつの能天気さに救われた場面も相当あるんだろうけどさ、俺みたいに。 悠介 「それよりだ。お前本当にいいのか?魔王退治はどうする」 彰利 「今の俺じゃあ相手にならんとまで言われちゃあねぇ、どうにもこうにも。     やっぱ腕磨くっきゃねぇっしょ?」 悠介 「だから、俺と一緒に来る意味はあるのか?」 彰利 「意味なんぞ必要じゃあねぇさ!俺がキミと行きたいから行く!ただそれだけ!」 悠介 「……はぁ。まあ……いいけどな。凍弥、ちょっといいか?」 凍弥 「っと、はい?なんですか?」 なんだか篠瀬と刀術談議をしていたらしい凍弥が俺に向き直る。 今の話を聞いていたかは解らないが、まあ別にそこまで重要じゃないことだ、 説明しようと思えばものの数分もかからず終わることならさっさと済まそう。 悠介 「一応お前にも確認を取っておこうと思ってな。     凍弥、お前は椛のことほったらかしでいいのか?」 凍弥 「あ、ああ、そのことですか。そのことならちゃんと話してきたから大丈夫ですよ。     ……ていうか流石にそこまで物分りが悪いと俺も不自由すぎて辛いです」 悠介 「まあ……気持ちは解る」 どうしてか俺達の周りの女どもは物分りが悪いやつらばっかりだからなぁ。 一緒に居たいって思ってくれるのが嫌だと言うわけじゃない。 ないんだが、それでも少しはほうっておいてほしい時もあるのだ。 男ってのは時々独りで何かをしたくなるものなんだ。 そこのところを解ってくれるととても嬉しいんだが…… 悠介 「………」 ルナ 「?」 こいつに理解しろっていうのが、そもそも無茶な話なのかもしれん。 ついてくるなって言えば泣きそうな顔するだろうし、 一人にしてくれって言えば泣きそうな顔するだろうし、 逃げ出せば噛み付くだろうし、……つまり一緒に居ることが大大大大前提らしいのだ。 けどな、ほんと一人になりたいなと思う時はあるのだ。 どうして、と訊かれれば男だからだとしか言いようがない。 考えてもみろ、ファンタジーだぞ? こんな世界に降り立って、自由に動けないことのなんと不便なことか。 空界には空界の良さがあるように、ここにもここだけの良さがある筈なのだ。 だってのにこうべったりと付き纏われては身動きも出来ん。 それでも蔑ろにはしたくないと思ってしまうあたり、 俺も案外ルナには甘いんだろうと自覚する。 ……ああ解ってるよ、とんだ甘ちゃんだよ俺は。笑ってくれ、盛大に。 悠介 「話戻すか。何処に行くかだったよな。     とりあえず男組と女組に分かれて2パーティーになろう。     向かう場所は……俺が決めていいのか?」 彰利 「オウヨ、アタイはそれでオッケーぞ」 凍弥 「俺もそれで」 ディル『訊かれるまでもないな』 夜華 「な、お、お待ちください悠介殿!お、男と女で分かれるとは、本気で……!?」 悠介 「……異議あるか?」 男衆 『ない』 夜華 「なっ……!《ガーーーン……!!》」 ……ああ、篠瀬が相当にショックを受けている。 なにより、彰利が少しも躊躇せずに頷いたからだろう。 しかしそこは彰利だ、すかさず篠瀬にのみ影を飛ばし、 繋げた影からなにかを送ると、急に篠瀬は少しだけ元気を取り戻し、小さく頷いていた。 ……なにを言ったのかは知らないが、便利なもんだ。 俺なんか見ろ、ルナがまた猫みたいな目でじ〜〜〜っとこっち見てるぞ? しょうがないだろ、男同士、積もる話もやりたいこともいろいろあるかもしれないんだ。 たまには息抜きくらいさせてほしい。 ……加えて言うが、べつにルナと一緒なのが嫌なわけじゃないぞ? って、誰に弁解してるんだろうなぁ俺は。 悠介 「じゃあ行き先は……読めないな」 彰利 「ウィ?……なにそれ」 つ、と。 彰利が目ざとく俺が持っている古文書に目をつける。 もちろんディルゼイルが中井出からかっぱらってきたものだが…… 悠介 「月の欠片が何処にあるのかが記されてる古文書らしいんだけどな。     学者でもなんでもない俺にはこれがなんだか解らん」 凍弥 「読めないってことですか?」 悠介 「空界文字とも違うんだ。これはちょっと困ったな……」 悠黄奈「どれですか?…………あ、これならわたしが読めますよ」 彰利 「なに!?マジかテメー!!」 悠黄奈「相変わらずの反応ありがとうです」 ディル『ふむ……そうか』 悠介 「ああ。悠黄奈はセルシウスだったな。この世界の精霊がベースになってるなら、     古文書の文字が読めても不思議じゃないな」 悠黄奈「あの、それではどうしましょうか。上から順に当たってみますか?」 彰利 「やっぱここは一番難しそうなところから攻めるべきっしょ。     それが原中クオリティ」 悠介 「ダァホ」 彰利 「駄阿呆!?」 悠介 「お前はなにに対して原中の品質を求めとるんだ馬鹿者。順でいいだろ?」 彰利 「駄阿呆……駄阿呆って言われた……」 悠介 「あ〜あはいはい、腐ってないでとっとと立ち直れ。     それで悠黄奈、ここから近い順でいいんだけど、何処だ?」 がっくりと奇妙に落ち込んでいる彰利の背中をポムポムと叩きつつ向き直る。 と、悠黄奈はディルゼイルとともに古文書を見ながら話し合い、 やがて顔をあげると位置を口にした。 悠黄奈「砂漠の地下空洞にドワーフの遺跡があるそうです。     そこで欠片らしきものが発掘されたとか」 凍弥 「……うん?砂漠の地下空洞っていうと───」 夜華 「ああ。地の守護竜が居ると言われている場所と同じ名だ」 セレス「守護竜ですか。それはつまり、     守護竜が居る場所に欠片があると考えていいというわけですね」 悠介 「そうなる……のか。ドワーフの遺跡自体を守護竜が住処にしてるんだとしたら、     相当に大変なことになるな……まいったな」 彰利 「そーゆーことならアタイにおまかっせぇええーーーい!!」 悠介 「帰れ」 彰利 「何処に!?」 なんだか咄嗟に出た言葉に、素直にズガーンとショックを受ける彰利。 こういうところは実に相変わらずである。 彰利 「ま、まあよまあよ、まずはアタイのありがたい話を聞いてからでも遅くないよ?     アタイの話を聞けばそれはもうステキで無敵な気分になってハッピーさ。     オッケーですネそこなジャパンスキー。     オーウ!スシー!テンプーラー!フジヤマ!ツンデレ!」 凍弥 「ツンデレは日本名物に入るのか?」 彰利 「え?入らないの?」 凍弥 「真剣な目でそんなこと訊かないでくれよ彰衛門……」 彰利 「そ、そう?ほいじゃあ話を戻そうね?邪魔したらシメる」 悠介 「そういうことをわざわざ言うから先に進まないんだろうが」 彰利 「ギャアもう解ったから聞きなさい!」 悠介 「よし解った聞くからいえ」 彰利 「え?え、えーと…………美味しいオムレツを作るなら卵は三つじゃなく二つだ。     よくミルクを入れるヤツが居るが、あれは大きなマチガ《ゾス》ゴホォ!」 悠介 「聞いたら聞いたでオムレツの作り方か!?何処のシャーマンダドリーだお前は!」 彰利 「オゲッホゴボガボ……!!ソ、ソーリー真面目にやります……ほんとごめん……」 貫手をされた脇腹を押さえつつ、やがて彰利は語り始めた。 彰利 「いやほら、守護竜っていやぁ中井出じゃん?     今中井出ったら守護竜退治で各地を飛び回ってるらしいし、     ウサギ獣人が砂漠近くの町に至ってこたぁ……ねぇ?     今度の狙いはきっと地の守護竜!だからヤツの行く道をゾルゾルと尾行して、     ヤツがせっせと守護竜と戦ってるうちに、     俺達は欠片探しをするって寸法よ!クォックォックォッ……!!」 悠介 「黒いなお前……」 彰利 「ブラックオーダーですから!《ズビシィ!!》」 叫ぶとともに奇妙なポーズ。 こいつの脳内はどれほど賑やかなんだろうか。 時々羨ましくなる。 彰利 「旅の中ではなんでもありさ。敵対する誰かに遠慮してたらおめぇ……アレだ。     誰にも勝てなくなるぜ?そして俺はヤツに勝ちてぇ。対抗心はもちろんのこと、     きっちりこの世界を駆け抜けて強くなった中井出と、ガチで戦って勝ちてぇのよ」 悠介 「へぇ……珍しいな、お前が積極的に戦いたいって思うなんて」 彰利 「ウィ。実は俺もかなり驚いてたりする」 どういう心境の変化かねぇとぼやく彰利だが、 その顔は自分の思考の中の新鮮さに影響されてか綻んでいた。 まあ……その矛先が中井出だってところがさすが彰利ってところだろうか。 いや、この場合原中という団体にこそさすがと言うべきなんだろうか。 どちらにしろ中井出にとってはいい迷惑だろう。 原中の猛者連中はどうしてか中井出に対しては 究極といっても差支えがないくらいに遠慮がないからなぁ。 彰利 「そんなわけだから中井出のあとをこっそりと尾行(つけ)まわす方向でOK?」 凍弥 「見つかったら大変なことにならないか?」 悠介 「俺はもう自爆に巻き込まれるのは勘弁だぞ」 彰利 「あああれね……イッタイよねィェ〜……」 悠黄奈「見つからないように動くのも一種の冒険じゃないですか?」 セレス「旅というよりはスリルという方向での冒険ですがね」 夜華 「わたしは人をつけまわすようなことはしたくはないが……」 彰利 「じゃあ夜華さんここで待ってる?」 夜華 「うっ!?あ、いや……そうじゃない、わたしは卑劣なことをするまでもなく、     あの男にともに行くか護衛役を頼むかしてだな……!」 彰利 「ノー!そんなの僕が許さん!     頑張ってるヤツを人知れず有効利用するから面白いんじゃないか……」 悠介 「クズだなお前……」 彰利 「うおわ直球!ね、ねぇ悠介くん?     キミの心の辞書にはオブラートは存在しないの?」 悠介 「とりあえずお前に対してだけは存在しないな」 彰利 「マアステキ!それってアタイが特別ってことよね!?最高ダーリン愛してる!!」 ジャコォンッ!! ルナ&夜華『もう一度言ってみろ貴様……』 彰利   「キャーーーッ!?ちょっとなに完全武装してんのアンタらぁーーーっ!!       いい加減にしてもらいたいものだね!カリカリカリカリと!       おちおち冗談も言ってられないではギャアーーーッ!!」 冗談なんだか本気なんだか微妙な線の中でボッコボコにされている彰利を余所に、 俺はこれからのことをちくちくと考えていた。 そもそもこいつと一緒に行っていいのかどうかと。 一緒に行ったとして、まあ楽しい旅にはなるだろうが…… この調子だと一歩進むのにどれほど時間がかかるか。 悠介 「………」 コリ、と頭を掻いてみた。 解りきったことで悩むなんて、もういい加減うんざりだ。 ……よし。 悠介 「彰利」 彰利 「《ドカバキ!》ギャーーーーッ!!」 悠介 「…………ルナ、篠瀬、ひとまず落ち着け」 夜華 「いいえ悠介殿!この男には一度きつく解らせてやらねば駄目です!」 ルナ 「最近じゃ落ち着いてきたと思ったのにこのホモっちぃいーーーーっ!!!」 悠介 「………」 聞いちゃいねぇ。 聞いているようで聞いてないって言うべきか? とりあえず俺はここで自分の拳を光って唸らせるべきなんだろうか。 力が欲しいって思ったのはいつが最後だったか。 今はただ、こいつらを黙らせるためだけに力を欲するぞ俺は。 悠介 「はぁ……じゃ、とりあえずAGIMAXにして……と。おりゃ」 夜華 『───!閃ッ!』 シュバシュファッキィンッ!! 夜華 『なっ……!?《ずびしぃっ!》いたっ!』 ズイ、と篠瀬の制空圏に侵入し、咄嗟に攻撃を仕掛けてきたところを剣で払い、 その額にデコピンをキメて黙らせる。 黙らせるっていっても気絶させるほどの実力が今はないから、 ポカンとさせる程度での黙らせ方だ。 しかし効果は抜群だったらしく、事実篠瀬はポカンとして攻撃を止めた。 で、あとはルナだが─── 悠介 「ルナ〜?やめるなら今のうちだぞ〜」 ルナ 「え?殺るなら今じゃないの?」 悠介 「───……ニンニクが出ま───」 ルナ 「わあやめて!!解ったからやめて!ニンニクはヤぁーーーっ!!」 ああ、力が無いってのはこれで不便だってことがよく解ったよ。 脅すことくらいでしか誰も止められない。 ……力があっても、力で脅すってことしか変わらないわけだが。 ようするに周りがもっと物分りがよければ俺も苦労はしないってことだよ。 それこそ言っても仕方が無いことなんだろうけどさ、いいだろ?願うくらい。 説得に応じてくれるほどやさしいやつらじゃないんだよこいつらは。 悠介 「じゃ、砂漠の地下空洞目指して移動するか。     中井出のことは……見つけたら実行に移そう」 彰利 「ごぇええ〜〜〜っ?ぬぁあんどぅぇええ〜〜〜っ?」 悠介 「ええいやかましい!わざわざねちっこく言うな!」 彰利 「場のノリとツッコミは人類の至宝さ!     で、地下空洞に行くとしても、どっから行くのか知っとる?」 悠介 「…………知らない、な。俺は」 ディル『知らんな』 彰利 「当然アタイも知らねー!」 威張るなそんなもん。 凍弥 「砂漠掘っていけるほど浅くはない……ですよね」 悠介 「掘る程度で辿り着けたら苦労しないんだけどな」 彰利 「情報は物理力ーーーっ!!解らなけりゃ訊けばよし!!     なぜならここはヒロライン!きっと全ては村の人が知っている!     ……そう考えるとすげぇよね、村人たちって。どっから様々な情報を……」 悠介 「それは永遠に解けない謎だろう。ほら、行こう」 ここであーだこーだ言っても始まらない。 まずは聞き込みからだな。 ……っていっても、無駄に広いんだよな、あの村。 悠介 (どう調べたもんかな……) と、ざっと周りを見渡してみるも…… 聞き込みが得意そうなヤツが誰一人として居やしねぇ。 ちょっと待て……何処で人選間違えたんだ俺……。 彰利 「お?なに頭抱えてんのキミ。     ひょっとしてクロマティ高校の前田くんの気分に浸ってる?」 悠介 「自分の愚かさを呪ってただけだよ……ほっといてくれ……」 俺と悠黄奈と凍弥とで調べるしかなさそうだな……あ〜あ……まいったよほんと。 彰利、セレス、篠瀬、ルナはどう考えたって対人に向かない気がする。 話すより先に手が出そうなやつらばっかじゃねぇか……。 彰利は平気で話を捻じ曲げるし、 セレスは……なんとなく期待が持てそうは持てそうだが、 果たして普通に話を通してくれるかどうか……。 篠瀬は少しでも無作法に出られるとすぐにカッとなるし、 ルナは……言うまでもないだろ? とりあえず彰利とルナは絶対にダメだ。 まだ期待が持てるのはセレスと篠瀬。 安心ラインは凍弥と悠黄奈だな……。 俺は……まあ、ある一点のことにさえ触れられなければ大丈夫な自信はある。 その一点が何処であるかは訊くな。いい加減自分でも呆れてる。 ───……。 ……。 そうして村に戻り、ウサギ獣人が居ないことを確認すると、 それぞれが散らばって聞き込みを開始する。 いっそのことナビマップにデカデカと“地下空洞入り口”とか書いてあれば簡単だった。 しかし言っても無駄なことで思考を潰しても仕方ないことだって諦めたのがついさっきだ。 悠介 「───、なんだが。知ってるか?」 村人 「知らんねぇ……」 悠介 「だはぁ……」 さて……これで何人目になるのか。 いい加減“聞き込み”という行為に疲れてきた俺は重く息を吐くと、 他の連中はどうしてるかな、なんてことを考えた。 情報が得られたらメールなりtellなりして連絡を取り合う話なんだが─── 今のところその片鱗すら起こっていない状況だ。 しかしながらそういうものはふと思い出した時に来るものらしい。 ネックレスに通信が通ったのだ。 悠介 「っと、もしもし?」 声  『やあ僕彰利。今日はキミにハッピーなことをお知らせするよ?』 悠介 「彰利か。何処にあるか解ったのか?」 声  『ああ……幸せの蒼い鳥はいつだって傍に居るものなのさ』 悠介 「そうか、よし落ち合おう。殴り殺してやるから現在地教えろ」 声  『ギャア冗談!冗談YO!!いやさ、ほら、ね?     なんだかドタバタしちまったから悪かったね、と一言言っておきたかったのよ』 悠介 「……、たわけ。今更そんな遠慮する仲かよ。     お前やルナや、周りのやつらに振り回されるのはもう毎度のことだろ?     そんなこと言われるほうが逆に気味悪い」 声  『ぬう、さすが悠介だぜ……ちょっとやそっとの苦労じゃグゥの音も上げねぇ』 …………お前の目には俺はどんなガンバルマンとして映ってるんだ? 声  『ま、そんなわけじゃけぇ。地下空洞の入り口の情報はまだてんで聞けてねー!     ていうかさ、このジェラート屋、すげぇ美味ぇよ!?おっちゃんおかわりー!!』 悠介 「とっとと訊き回れたわけぇえええーーーーーっ!!!!」 声  『ヒィイごめんなさい!!お、おっちゃんやっぱおかわりなし!!     くそうなんだよもう!名物モノくらい食ってもいいじゃんかよぉ〜〜っ!!』 悠介 「そういうのは目的果たしてからにしろ!なにしに来たんだお前は!!」 声  『え?ゲームを楽しむため。あ、あと強くなるため』 ついで扱いか……まったくこの馬鹿者は……! 声  『あっはっはー!って言ったら怒る?ン?怒るかね?ン?     安心おしよ、今度の俺はちょっと強ぇえから     目的を履き違えることなんてありゃしねぇ。今の俺は強くなるために旅をする。     今更だけどさ、力貸してくれないか?悠介。     正直言うとさ、俺……上の方でいろいろ学んでも、なんかしっくりこないんだ。     なにが足りないのかなんて解らないけど、なにか違うんだよ。     楽しんでる筈なんだけど、     それが自分にとっての力になったかっていったら……なんか違う気がする。     でも思ったんだよ。空界でさ、お前となんだかんだで修行してた時は充実してた。     それって多分、俺が…………ああ、いいや。答えなんて欲してない。     俺が今欲しいのはお前からの返事だけだ。……どうかな、力、貸してくれるか?』 悠介 「………」 珍しく、少しおちゃらけた雰囲気はあるけど……それは真面目な声だった。 悩みに悩んで、 どう切り出していいかも解らないからとりあえず冗談から始めた、そんな声だ。 悠介 「……言うまでもないだろ」 声  『ええっ!?貸してくれないの!?』 悠介 「どこまでヒネクレてるんだお前は!!力貸すって言ってるんだよ!!」 声  『そうなんですか!?私は大変驚きました!!じゃあ今すぐ僕のもとへ来てくれ!!     金が無くてピンチなんだ!今すぐ僕に力を貸して!!』 悠介 「かぁああーーーーっ!!このたわけぇええーーーーーーっ!!!!」 ちくしょう少しでもしんみりした俺が馬鹿だった! ああ馬鹿だよ!どうしようもないくらいの大馬鹿野郎だよ俺は! 悠介 「ああもう……!今何処に居るんだよ!」 声  『コォ〜モリだけぇ〜ンが知っているっ!』 悠介 「だったらセレスにでも永遠に助け求めてろ馬鹿者……」 声  『ギャアもう冗談だ〜〜っつってんでしょうが!     なにキミまたいつかのコチコチのクソ石頭化したの!?     もっと柔軟に行こうぜ僕の友!』 悠介 「ん……なぁ彰利、そのことだけどな。     俺はもう自分がどうとか小難しいことを考えるのはやめにしたんだ。     柔軟だろうが頭が固かろうが俺は俺だ。     だから俺に対して理想をぶつけるのはもうやめにしてくれ」 声  『む?そりゃキミはキミとしてありたいから、     周りからどーのこーの言われる筋合いはねーぞコノヤローってことかね?』 悠介 「イメージしてみろ。自分は自分としてありたいのに、     そうじゃないとかそれはやめろとかお前らしくないとか言われまくる状況を。     ……正直辛いぞ。自分自身を否定され続けてるみたいで気が狂う」 声  『ヌ……確かに。しかしだね、』 悠介 「よし、じゃあお前今日から超ド変態になってくれ。     俺はそれを心から願ってる。何故って、今のお前の人格が酷く鬱陶しく思うから。     その方が柔軟にいけると思うんだよ。頭の柔らかさなんて気にしないで済むし」 声  『《グサァッ!!》ッ…………!!キッツ!それキッツ!!     あ、ああ!解った解った!もう何も言わんよほんと!!     喩えを口にするにももうちょっとやさしく言ってくれ!心臓に悪いわ!!』 悠介 「極論出さなきゃ実感沸かないだろ?     確かに俺は感情が乏しい状態でいろいろ経験してきたけどな、     それでも“自分”を否定されるのを頷けるほど希薄に生きた覚えはないんだ。     どれだけ希薄だったとしても、それは確かに俺だったんだ。     だからさ、“俺”って存在を固定して見ないでほしいんだ。     俺だって変わる。感情が少なくても、生きてる限りは変わっていけるんだ。     それだけ、お前には知っておいてほしかった」 声  『え?……そんなこととっくの昔に知っておったけど?』 ……オイちょっと待て。 悠介 「じゃあなにか?お前は知ってて人の人格を否定するようなことを言ってたのか?」 声  『そりゃそうさ、だって感情が無かった頃の俺達なんてそげなもんデショ?     俺は周りのみんなが望む都合のいい“日常”を演じた。     悠介は周りのみんなが望む都合のいい“理想”を演じた。     けどそれは“俺達”が望んだ自分じゃないデショ。     でも“自分”ってのは誰かに認識してもらわなけりゃ確立出来ない。     自分が自分だってどれだけ言ったって、     それを認識してくれる誰かが居なけりゃ意味ねーもの。     だからね?よ〜するに俺達ゃまだ“自分”として確立できてなかったのよ。     そんな自分らを人格として認めるなんてなんだか癪な気がしないか?     だったら“自分”とはなにか!……………………俺も知りてぇや』 悠介 「あのなぁ……。あーいい、確かに“他人の中の自分”ってやつは、     他人が認識しなけりゃ生まれないな。     俺はお前の口から理論だの哲学だのの話が出るのは     とことん似合わんって思ってる。     けど他のやつらはそうは思ってないかもしれない。つまりそういうこったろ?     だからよ〜く頭に叩き込んどけって言おうとしたんだよ。     俺は、親友であるお前に、いろいろ迷惑かけるかもしれないけど     これからもよろしくなって言いたかっただけなんだよ」 声  『……………』 ……沈黙。 そして開口。 声  『……告白?』 悠介 「いっぺん空飛んでみるかコラ」 声  『いやいや冗談冗談。なにぞあんまりにも当たり前ェのこと言うもんだから、     オジサン唖然としちゃったよ。俺ゃどれだけの出来事があろうが、     生きてる限りはお前から離れるつもりはねーぞ?     原中の猛者どもと一緒に居るのは面白いし、     ハニーに引っ張りだこにされるのもなんだか今ではくすぐったいくらいじゃよ?     でもな、悠介。俺ゃやっぱり、     お前と一緒に馬鹿やってる時が一番“自分”を感じられるんだよ』 悠介 「それこそ告白めいてる気がするが」 声  『はは、まあ。珍しく普通に喋ってんだから茶々入れんなよ。     これからもよろしくなんて、俺のほうこそってやつだ。     なんかもうアホらしくなっちまった。     な〜んで今まで感情がどうとか言ってたんだか。     そうだよな、俺達は俺達だ……感情なんか無くたって、     俺と悠介とで馬鹿やってる時は確かに“自分”を感じられてた』 悠介 「じゃ、そんなお前に質問だ。……今はどうだ?」 声  『───、……』 ナビ越しに、静かに息を吸って吐くような音が届く。 その先に聞こえる村の中の喧噪や雑踏、活気のいい声が耳に届くと、 なんだか自分までその場に居るような気にさえなってくる。 それでも俺の視界にはジェラート屋なんてものはないし、 彰利が居る場所ほどにここは賑やかじゃないのだろう。 でも届く音が、声が、その場を俺にイメージさせた。 そして…… 声  『……はは、わっかんねぇや』 聞こえてくる親友の声は何処までもおかしそうで─── 同じことを訊かれたらきっと答えるであろう、俺と同じ答えだった。 声  『そうだな……俺達、確かに変わっていってる。     喜ぶべきなのかなんて解らないけどさ、     口にしてみりゃ頬が勝手に緩むんだから……     喜んでいいってことなんだよな、きっと』 悠介 「……ん。そうだな」 声  『よっし、なんかやる気出てきたぁーーーっ!!あ、これ代金ね。     ほいじゃあ情報も得たことだし地下空洞行くかぁーーーっ!!』 悠介 「よし!───マテ」 声  『っと?どした?』 悠介 「……金はどうした。情報は何処で得た。ウソだらけか貴様の言葉は」 声  『え?…………うわヤッベェエーーーーーーッ!!!声に出てた!!     も、持ってないよ!?俺金なんて持ってな───』 声  『はい毎度どうもね。また寄ってくれよ、金払いのいいあんちゃん』 声  『ぐあ……!』 悠介 「………」 声  『………』 沈黙。そして開口。 声  『い、今の腹話術ね?ね!?』 悠介 「ふぅうううう……いいギャグ持っとるのォ茶坊主ゥウ……!!     おじさん面白すぎて面白すぎて……殺してしまいそうじゃわい……!!」 声  『喜んでもらえてなによりぃいいいいっ!!!!』 耳に届く彰利の絶叫。 恐怖は……混ざってるかもしれないが、楽しんでいるっていう声調だ。 それを聞くと俺の口から自然と溜め息が出る。 疲れとか呆れとかじゃなく、自分もなんだかんだで楽しんでいるんだって実感が持てる、 苦笑が混ざった溜め息だった。 悠介 「はぁ……ああ、いい。村の出口に集合でいいか?」 声  『キャアデートのお誘い!?───ヒィ!突然どっかから殺気が!!誰ェエ!?』 悠介 「アホゥやってないでさっさとする。     ……っと、金持ってるなら準備は整えておけよー?」 声  『ほいきた!ん〜じゃあ、10分後に北側の出口集合でOK?』 悠介 「ああ。じゃ、切るぞ」 声  『あ、ちょっと待った。     最後に───……心底愛してる《ズバシュウ!》おぎゃあーーーーっ!!』 ブツッ───……ツー、ツー…… 悠介 「………」 賑やかな絶叫を最後に、通信が切れた。 まあ……どれだけ変わろうとあいつが賑やかなのは変わりそうにない。 というか周りが賑やかなのはこれからずっと変わらないんだろう。 それを嬉しく思う自分が居て、時々静かに茶でもすすりたいと思う自分が居るわけで。 俺は小さく苦笑と溜め息を漏らすと、 頭を掻きながらアイテムを買うために足を動かし始めた。 ……一応、tellで地下空洞の情報は得たことをみんなに連絡しつつ。 Next Menu back