───冒険の書170/馬鹿者どもへの鎮魂歌───
【ケース446:晦悠介(再)/尾行と書いてつけと読む。“る”は任意で好きにしろ】 ゴゾォオオ……!! 彰利 「WHOOOOlllYEEEEE(ホオオオオルルルイィイイイイ)……!!」 さて……そうして砂漠の地下空洞へと降りていった俺達なのだが。 つい先ほど先を歩く中井出を発見したのち、彰利が完全に尾行モードになってしまった。 悠黄奈「あの……こんなにゾロゾロと歩く時点で、既に尾行ではない気がするのですが」 悠介 「言うな……解ってる……」 気づかない中井出ら一行がどうかしてるんだ。 セレス「それにしても随分と深い場所ですね……もうかなり降りてきていると思いますが」 悠介 「ああ、俺もそう思ってた」 彰利 「そりゃおめぇ、アレだ。     地下空洞ってくらいだからとんでもなく深くなくちゃ名の通りじゃねぇでしょ」 凍弥 「砂漠の地下ってだけあって、砂がすごいな。     よく流砂とかが起こらないもんだ」 夜華 「地盤はしっかりしているということだろう。     見ろ、砂が硬質化して支柱になっている」 凍弥 「地面自体も砂とはいえ、けっこうしっかりしてるしな」 そう、踏みしめるところ全てが砂だった。 といっても、進んでみたところでスボスボ埋まるほど細かいわけでもなく、 これはこれで砂漠を歩くのとはまた別に、変わった感覚がある。 温度も上の砂漠とは違い、涼しいくらいだ。 ルナ 「でもさ悠介、ほんとにこんなところに竜が居るのかな」 彰利 「ブホッシュ、さりげなく質問対象を悠介一人に絞ってやがるぜこの空き缶」 それ以前にそのブホッシュってのはなんだ。 笑い声か? ルナ 「だってホモっちに訊いて解るとは思えないし。     ホモっちって死神のこと以外はあまり知識ないでしょ?」 彰利 「フブレカカカカッカッカッカッカ……!!甘いぜ(ライト)……!     確かに俺は死神のことくらいしか詳しいことは知らねぇ……だがな。     そればっかりは月、貴様にだけは言われたくねぇのさ……!」 ルナ 「…………だから、解らないから訊いてるんだけど」 彰利 「……あれ?なにが言いたかったんだっけ俺」 知るか。 彰利 「まあいいや。ともかくこのまま奥へ行こうぜ我が心の友よ。     小難しいトラップとか仕掛けがあったら、     きっと中井出が全部引っかかってくれるに違いねぇ」 凍弥 「クズだなぁ」 悠介 「ああクズだ」 悠黄奈「クズですね」 彰利 「ドやかましい!たとえクズでもやるべきことはやり通すのが男!いやさ漢!!     中井出が先をゆくのは属性解放のためだろ?     だったらその後ろをたまたま通ってる僕らは別にクズじゃあねえのよ!」 セレス「屁理屈ですね」 ルナ 「屁理屈ね」 夜華 「ああ屁理屈だな」 彰利 「いやあの……なにもみんなで俺のこと下郎を見る目で見ることないじゃん……」 人差し指をつんつんと合わせつつ、沈んだ空気をモシャアアアと発生させる黒男。 こいつの存在自体が闇で影で黒だから、こういう空気を出されると滅法重い。 ……立ち直りが早いのがありがたいところだが。 彰利 「しかし小僧よ。誰かのあとを付回すのってブッシャシャシャ、ワクワクするのぅ」 凍弥 「どういう笑いだよそれ……確かにワウワクするけど」 夜華 「こら、彰衛門、鮠鷹、なにを物騒なことを言っている。     人を付回すことで心躍らせるなど、男として恥を知れ」 彰利 「恥ならとっくに知ってますから」 凍弥 「俺は彰衛門ほどじゃないけど、一応知ってる」 夜華 「そういう話をしているのではなくてだな……!」 やめとけ篠瀬、屁理屈言わせたら彰利の右に出るヤツなんてそうそう居やしない。 原中の猛者連中とかなら有り得そうだがお前じゃ無理だ、説き伏せられん。 ルナ 「また溜め息ついてる。暗いよ?悠介」 悠介 「あーそりゃ結構。美味いか?」 ルナ 「あ。解った?うん美味しい美味しい。やっぱり悠介の陰気って格別だね」 悠介 「あーそうかい」 首に抱きついたまま離れないルナに頭を痛めつつも苦笑。 中井出のあとをつけながら歩く中で、ふと視界の隅にあるルナの表情が、 妙に懐かしみを帯びたような微笑に変わった。 悠介 「ん……どした?」 ルナ 「へあ?あ、うん。ちょっと昔のこと思い出してた」 悠介 「昔?どれくらい昔だそれは。前世とか言わないよな?」 ルナ 「……悠介ってさ、普通に会話が日常的じゃなくなってるよね」 悠介 「周りの所為にさせといてくれ。……それで?昔ってのは?     お前がそんな顔するのなんて珍しいからな、ちょっと気になる」 ルナ 「そ?悠介がわたしのこと知りたがるなんて珍しいな〜って思ってたのに。     ん、まあいいや。えっとさ、悠介って自分に自信をもってなかったよね?」 悠介 「…………最近になるまでずっとそうだったな。     今でもそう自信を持ってるわけじゃないけど」 ルナ 「前にもね、悠介以外にそういうコに会ったことがあるの。     自分に自信が持てなくてうじうじしてたコ。     さっきの悠介の顔がさ、そのコに似てたから」 悠介 「へえ……で、昔ってどれくらい昔だ?」 ルナ 「ちっこい悠介に会ってから向かった先のことかな。     悠介以外じゃ一番一緒に居た時間が長かったコのとこにね、     斬命しに行った時のこと」 悠介 「斬命……死神の仕事か」 ルナ 「うん。自殺して彷徨う霊を斬命しろ〜って仕事だったの。     でね、少しは生きる希望が出来たな〜って思った矢先に入った仕事だったからさ、     もうさっさと斬って終わらせようとしたんだけど───」 悠介 「生きる希望?なんだそりゃ」 ルナ 「…………えへ〜」 訊いてみると、キュムと抱きついている腕に力を込めるルナ。 あー……つまり、なんだ?子供の頃の俺に出会ったことが希望だったってことか? 拠り所ってのがどれほど暖かいものかってのは知ってるから、理解出来なくもないんだが。 とりあえずそのとろけそうなほど幸せ笑顔はやめなさい。 と、心の中で言いつつ、ぺしんとルナの額を叩いて先を促す。 ルナ 「ふきゅっ!うー……それでね、さっさと斬命して悠介のところに戻ろうとしたの。     でもわたし、その頃人間のことなんてなんにも知らなかったから、     少しは理解する努力をしてみようかなって思って。     ちょっとそのコのこと観察してたの。もちろん姿も見せたし会話もしたけど。     わたしもどうせ自殺するコなんだからどうでもいいかな、とか思ってたし」 悠介 「実に死神らしい考えだな」 ルナ 「死神だもの」 当然のことにツッコんだ俺の言葉がおかしかったらしく、くすくすと笑うルナ。 ……首に抱きついたままくすくす笑いはやめてくれ、こそばゆい。 悠介 「それで、少しは人間のこと解ったのか?」 ルナ 「うん、その頃の自分に比べれば全然。     フレイアが持ってた基礎知識以外は何も知らなかったから。     人間はこう動くものだ〜、とか。人間はこういうやつだ〜、とか。     死神特有の人間への偏見ば〜っかりあったんだけどね。     でもそのコ結構変わったコだったからさ、勉強にはなったかな」 悠介 「そか」 少しばかりそいつがどうなったのか気になったが……訊かないことにした。 斬命しに行ったっていうなら死んだんだろうし、俺が気にしても仕方の無いことだ。 だから俺は話を打ち切るため、 というわけでもなかったんだが……別のことを持ち出した。 悠介 「ところでルナ。     いい加減首に抱きついたまま浮いてついてくるのやめてくれないか」 ルナ 「ヤ」 で……即答だった。 悠介 「ヤ……って、あのなぁ……」 ルナ 「悠介って目を離すとすぐ居なくなるもの。だから抱きついてたほうが安心」 悠介 「何処の風来坊だ俺は」 でもとりあえずは流れを感じ取ったのか、 ルナももう“昔”の話をする気配を無くしてくれた。 彰利 「OHそれ解る。悠介って突如ふらりと消える男だッゼィ」 悠介 「急に割り込んでくるなよ……中井出のほうは大丈夫なのか?」 彰利 「オウヨ。なんだかんだで楽しんでるらしい悠黄奈さんが監視中だ。     メイド服じゃないのが悔やまれる」 こいつの中では悠黄奈=メイドということになっているらしい。 彰利 「悠介。メイドじゃなくてメイドさんだ」 悠介 「あーそこ。人の心を読まんように」 彰利 「クォックォックォッ……俺ほど貴様の親友歴が長ければ、     貴様の思考パターンくらいはお見通しぞ……!」 悠介 「だそうだが……お前はどうだ?」 ルナ 「………」 ……解らなかったらしい。 普通はそうだ、気にするな。 早い話がこいつが異常なだけなんだ。 ……いや、それはまあ俺もこいつの思考パターンくらいは大体読めるわけだが。 そう思えば、本当に長い付き合いである。 悠介 「……はぁ」 溜め息をひとつ、いい加減俺もぐったりマイハートから立ち直り、 先を歩く中井出へと注意を向けた。 すると視線の先の中井出はドリアードとなにかを話し合い、 次に魔王の子と話をして何かを考えている風情を見せる。 俺達はといえば、そこから離れた物陰にギッチリと潜み、 足を止めて思考にふける中井出を監視している風情だ。 現状に対する俺の意見を言おう。なにやってんだ俺達。 彰利 「クォックォックォッ……あの様子から見るに、     神殿への入り口を発見したらしいぜ?」 悠介 「あそこらへんに入り口があるっていうのか?」 ああ、神殿っていうのはこの地下空洞に存在しているらしい太古の遺産だそうだ。 ここに来る前に言ったとおり、ドワーフの遺跡の一部だ。 ある日地震とともに急に現れた神殿に、探検家は大層驚いたそうだが…… なによりも驚いたのはその神殿の中に巣食っていた巨大な竜の存在だ。 まるで巨大なトカゲのようなそいつはしかし、 確かに竜族であったと……そんな情報を彰利が村で得てきたらしい。 トカゲのような竜族……つまり空は飛べないってことか? と、懸念なんかする必要はないか。 第一にここは地下空洞だ。 空を飛ぶには天井が近すぎるし、飛ぶことで得られるメリットがそもそも存在しない。 彰利 (……悠介、ゆ〜すけ……動きだしたぜ……) 悠介 (ささやくな息吹きかけるな顔が近いんだよたわけ……!!) と言いつつ声が小さくなるのは、 俺もこれで案外楽しんでるからってことにしておいてくれ。 ───……。 ……。 中井出が入っていった神殿に、しばらく経ってから侵入開始─── そうして訪れたそこは、なんともしっとりとした場所だった。 そりゃあ、恐らくは何年何十年、下手すりゃ何百年も砂に埋もれていた場所だ。 換気も満足にされていなかったであろうとそこは、 お世辞にも空気がいいとは言えなかった。 ……おまけに滅茶苦茶寒い。 凍弥 「ううっ……まるで冷蔵庫の中だな……!」 彰利 「え?キミ冷蔵庫ン中入ったことあんの?」 凍弥 「平然とした顔でそんなところに疑問持つなよ彰衛門……!喩えだよ喩え……!」 彰利 「ん……そうかい、よかったねぇ……。     俺は黒化してるお蔭で全然寒くないからせいぜいそうやって     子ウサギのごとくプルプル震えているがいいわグオッフォフォ」 凍弥 「ぎぃいいいいいいいちいちむかつくなぁもう……!!!」 彰利 「しかし小僧よ、こげなところに竜が居ると思うかね?」 凍弥 「え───ん〜……ファンタジーにはいろいろあるからなぁ……。     こればっかりはちゃんと自分の目で見ないと納得出来ないだろ」 彰利 「無難な返事じゃのう……悠介は?」 悠介 「砂や土の中に居るからアースドラゴンとか、     そういう常識はファンタジーの中じゃ捨てたほうがいいだろ。     確かに生息地域はそれにちなんだ場所だが、     だからって必ず砂の中に居るとは限らない」 彰利 「砂の中に居るならそれはそれで面白そうだって思ってただけにちと残念……」 と、彰利が残念がった途端だった。 ドゴォンバゴォンボッゴォオオオンッ!!! モンスター『ホギョォオオアァアアアアッ!!!!』 突如、遺跡の床や壁を破壊して、モンスターが出現したのだ───!! ……中井出の前に。 彰利 (おおっ!中井出がモンスターに襲われてるぞ!) 凍弥 (いきなり出てきたもんだから“ほぎゃあああ!!”って叫んでるけど) 悠介 (よっぽど驚いたんだろうな……) 悠黄奈(どうしますか?) 男衆 (当然見捨てる) 悠黄奈(即答ですか……) 現れたモンスターは3体。 どれも巨大であり、 しかしよくよく見てみるとモンスターというよりはガーディアンといった感じだ。 ゴーレム系の敵って言えばいいのか? 恐らくはこの遺跡をずっと守っている存在なんだろう。 で、侵入者と判断された中井出へと攻撃を開始した、と。 悠介 (おっ……早速双剣出したぞ) 凍弥 (あ、攻撃に移る前に捕まった) 彰利 (お〜、足掴まれてビタンビタン床に叩きつけられまくってる。さすが中井出) セレス(感心してる場合ですか) どうやらガーディアンは中々に強いらしい。 中井出はまるで悪ガキに捕まったカエルのようにもてあそばれ、 叩きつけられ投げつけられ蹴られなどしてこれでもかってくらいボッコボコ状態である。 凍弥 (なぁ……見てて可哀相に思えてきたんだけど……) 彰利 (大丈夫さ。根拠はないけど) 凍弥 (ないのか!?それって果てしなく大丈夫じゃないんじゃ……!!) 悠介 (いや、大丈夫だろ。なにせ中井出だ。     ヤツに根拠だの常識だのを説いたって無駄だ) セレス(けどただの人間でしょう?人間である以上、そうそう常識破りなことなんて) ギシャァッフィドッガァアアアアアンッ!!!! ゴーレム『グオガァアアアアッ……!!!』 セレス 「……はい?」 セレスが眉を中心に寄せた時、視線の先で大爆発。 見れば───…………なんだか中井出が青白い光を纏いながら空を飛んでいた。 彰利 (え……え゙えぇえええええっ!!?) 凍弥 (あ、あ───俺あれ知ってるぞ!?なんだったっけゲームのえっと……!!) 中井出「博打No.30!!V-MAX!!」 凍弥 (そうそれ───!) 悩みは本人の高らかな叫びによって解決に導かれた───わけだが。 V-MAXってのはあれか? サガフロンティアのT-260Gの最終形態に搭載されてる、 “Vシステム”ってやつの……! 悠黄奈(うわ、うわわ……!なんだか凄く光ってますよ……!?) 彰利 (ち、ちくしょう……!なんて羨ましい技まで使えるんだ中井出のヤロウ……!!     あの技はT-260Gを主人公に選んだヤツなら誰しも一度は憧れる技……!!     お、俺も使ってみてぇ───おおっ!?) 思考の途中、彰利が中井出を羨望の眼差しで見ていた時だった。 中井出が天井へと翳したジークフリードの切っ先、 ほぼ透明だが青白く光っている部分から 幾筋もの青白い光のホーミングレーザーが放たれた!! キュバァッ!ゾンガガガガガガォオオンッ!!! ゴーレム『グ……ゴ───……!!』 その光は容赦無用に二体目のガーディアンを貫き、粉砕。 跡形も無くなるまで射抜いたのちに消え去り、 それを確認した時には中井出はもう動いていた。 中井出「受けてみやがれ木偶の坊!!コォオオオズミック!レェエエエイヴ!!!」 あとは───まるで花火でも見ているかのようだった。 弾けるように浮いていた場所から飛翔した中井出は瞬時にガーディアンの懐に飛び込み、 一閃をキメるとガーディアンを空に浮かし、 それを追うように飛翔し幾度も幾度も他方向から斬撃を叩き込んでゆく。 その度に青白い爆発と火花が飛び散り、 そう……あたかも花火でも見上げているような景色が視界を彩っていた。 それはガーディアンが粉々になるまで繰り返され、 それがなされた時、中井出は床に降り立って勝ち名乗りを挙げていた。 彰利 (………) 凍弥 (……な、なぁ……彰衛門?……本気か?本気でアレと戦うのか?     情けない話だけど、まるで勝てる気がしないんだが……) 彰利 (いやあの……か、考え直そっかな……) セレス(普通に人知を超えてますよ……!なんなんですか彼は……!!) 原中が猛者たる者どもの頂点に君臨するただの人間だ。 ……ただし、ヒロラインでは人外よりもよっぽど強いだろうが。 人知をどれだけ超えようが、 結局は“ただの人間”には変わりないところが流石すぎるのが彼、中井出博光だ。 ……まあ、ただの人間は空飛んだりレーザー撃ったりは出来ないんだろうが。 彰利 (よもやスターライトシャワーまで使えるとは……なんと羨ましい……) 悠介 (羨ましがってる場合じゃないだろ……動いたぞ) 彰利 (ヌッ!?オ、オオ〜〜〜ッ、お、追わねば〜〜〜っ) ともあれ、ガーディアンを殲滅した中井出はさらに奥へと進み、俺達はそれを追う。 そんな調子でどんどんと進んでいく状況の中、 俺はさっきからずっと感じている視線のもとへ振り向いた。 悠介 「……篠瀬、どうかしたか?」 夜華 「え───あ、いえ……」 篠瀬だ。 さっきから……いや、地下空洞に入る前から視線を感じさせてくれていた張本人である。 彰利 「やぁそれが聞いてよ悠介。夜華さんったらね?     悠介にあっさりと攻撃いなされたもんだから、     ちょっと自分の技術に疑問を抱いとんのよ」 夜華 「ぅなっ───!?こ、こら彰衛門っ……!!」 彰利 「ほれ、悠介ってばレベルを初期に戻されて、しかも人間状態っしょ?     それなのにあ〜っさりと受け流されたもんだからさぁ、さすがにね?」 悠介 「……そっか、なるほど。けど気にすることないぞ篠瀬。     あんなのは速度とタイミングさえ体に仕込ませておけば出来ることだから」 彰利 「簡単に言うねぇ……多分それ、キミだから出来ることだよ?     “届かざる左の護剣(マンゴーシュ)”っつったっけ?普通は無理だって。     夜華さんの剣速に対応するなんてよっぽどの技術が無けりゃ無理さ」 悠介 「……無駄に戦闘経験と技術“だけ”はあるからな……そのお蔭だろ。     修行に費やした時間は一年や二年じゃきかない」 彰利 「そういうところがガンバルマンだって言っとんのだけどね」 悠介 「努力すれば努力した分だけ力になるって信じてる。     そりゃ、実りは遅いけどな。その分それが蓄積されていった時、     自分は強くなった……かもしれないって思える……と思う」 彰利 「はァ〜ンあ……キミの悪い癖だよそれ。自分に自信を持てというのに」 悠介 「力が戻るまでは持つつもりはないって。……いや、戻っても持つかどうか」 彰利 「そィでまた修行魔王に逆戻り?」 悠介 「うん?修行なら今でもやってるぞ?     寝る前と起きた時、毎食後にいろいろやってる」 全員 (うわぁ……) 彰利 「ぬう……負けてられん!よし、今日から俺もその修行に参加する!あ、小僧も」 凍弥 「俺も!?」 夜華 「む……よ、よし、ゆゆ悠介殿の修行内容には興味があったからな。     修行、そう、修行だ。これは修行だ。うん、よし、わ、わわわーわわたしも、」 彰利 「よっしゃあほいじゃあ男だけで修行をすることを宣言しましょうぞ!     クォックォックォッ、途中で脱落したらヘタレ大決定ってことで……ウィ?     夜華さんなんか言った?」 夜華 「〜〜〜───なんでもないっ!!」 彰利 「ぬおっ!?ギャアもう馬鹿!馬鹿夜華さん!     そげな大声あげたら中井出に気づかれるデショこのカスが!!」 夜華 「うるさいうるさいうるさいっ!!」 顔を真っ赤にして怒る篠瀬を余所に、俺とルナは先を歩く中井出たちを見た。 気づいているのかいないのか、 こっちを見ることもなくズカズカと進んではいろいろいじって仕掛けを発動させ、 遺跡の奥へと進んでいる。 遺跡調査は男のロマンとでも言うかのような進みっぷりと─── 中井出「…………《パアアア……!!》」 時折確認出来る極上スマイルは、それはもう楽しみすぎてるとしか捉えようがなかった。 ルナ 「どうするの?」 と、ここでルナが漠然としすぎた質問を投げてくる。 どうするの、とは……また随分と判断に困る言葉をかけてくれる。 状況が伴えば判断材料も増えるんだろうが、 生憎とここにはそこまでの材料が揃っていない。 喧嘩を始めた彰利と篠瀬、それを止める仲間たちを鎮めるのか、 それともズカズカと進んでいく中井出たちを、彰利らを置いて追うのか。 …………ああいやすまん、判断材料揃ってた。 ルナが彰利たちのことをわざわざ気にかけるわけがなかった。 悠介 「……行くか」 ルナ 「うん」 二人で頷き合って、既に見えなくなった中井出を追って歩く。 彰利たちは……言ったとおり喧嘩中である。 凍弥も悠黄奈もセレスもそれを止めようとガヤガヤ騒いでいるが、 それは現状を全く気にしてないからだろう。 尾行中だってことを完全に忘れてやがるぞちくしょうめ。 ……などと頭を痛めていると、 俺の肩に爪を立てて留まっているディルがスゥ、と息を吐き、 ディル『しかし王よ。ヤツを追うばかりでは月の欠片は発見出来んのではないか』 そりゃ確かに、と頷けるような言葉を発した。 まったく頷ける言葉だが、悲しいかな。 今の俺の実力じゃあここに居るガーディアンどもは倒せそうにない。 だからこうやってガーディアンが居なくなった道を進む以外に方法がないのだ。 空界時代の俺だったら突っ走ってたんだろうが……考えてもみれば、 中井出が向かっている先が遺跡の奥地なんだとしたら、 財宝、というか宝物庫だのなんだのもそこにある可能性が高いのだ。 そして、親玉ってのはどうしてかそういう場所の奥地に生息すると相場が決まっている。 つまり彰利風に言わせてもらうなら、中井出が奥地の守護竜と戦っている間に、 俺達はしめしめと財宝を頂いちまおう作戦だ。 実にクズである。 悠介 「………」 で、自分がそういうことをしている場面を想像してみて頭が痛くなった。 そんな俺を見て、ルナがもう一度 ルナ 「どうするの?」 と訊ねてくる。 ああ、もうほんとどうしてくれようかな……。 ───……。 ……。 ザッザッ…… 悠介 「……状況に勝てず、段々染まりつつある自分が怖い……」 結局は中井出のあとを追っていた俺は、やっぱり頭を痛めて溜め息を吐いていた。 そんな俺を見てルナは可笑しそうに笑い、 首には抱きつかず俺のすぐ横をふよふよ浮きながらついてきていた。 さて……そんな状況だけ見れば、普通ならなんの変哲も無い歩行風景だ。 だったらなにがそんなに普通じゃないのかといえば…… そこらに転がるガーディアンのカケラである。 恐らく中井出にブッ壊されたであろうガーディアンのカケラが、 そこかしこにゴロゴロ転がっているのだ。 恐らく魔導かなんかで括られた土くれなんだろう、モンスターと違って塵にならないのだ。 悠介 「あ……そっか」 ルナ 「?……悠介?」 ここはドワーフの遺跡で、古代の技術が眠る場所。 つまりここには過去の遺産も技術も なにかしらの手がかりとして残っている可能性があって、 こういう土くれを構築、動かす技術といえば魔導魔術や魔導錬金が最適だ。 それって、ここには魔導系統の技術が残されている可能性があるってことだ。 マクスウェルの闘技場にもその技術は残っていただろうが、 そういうのはこういう遺跡にこそ保管されているのがゲームってもんだろう。 で、だ。 今現在、俺がそういった能力が欲しいかどうかと訊かれれば…… 当然欲しいと答えるだろう。 しかし技術が残されているにしても、何処に─── 悠介 「っと……ルナ」 ルナ 「うん」 薄暗い視界の先、中井出が足を止め、壁を見ていた。 そこになにかあるのか……と目を凝らしてみるが、 この暗がりだ、そこまで視界は届かない。 悠介 「……ルナ、見えるか?」 ルナ 「ん、任せて」 だったら闇に慣れている種族に任せるのが一番である。 ん?俺?いや……俺は今はただの人間だからな……どうにも出来ない。 ルナ 「“……古に……伝えられし、魔水の存在をここに記す……。     是、ひとたび口に含みし者、嚥下とともに魔導を得るだろう……。     ただしそれを得し者、人であることを捨てると知り、     受け入れられる者こそが求めよ……。     さすればその者、大いなる力……を、得る、……だろう”、だって」 悠介 「大いなる力……魔導を得る水か。     神水じゃなくて魔水って名前が異様に怪しいが……」 まず間違いなく、空界で言う千年の寿命に似たものだろう。 ただしこっちの水は飲めば人をやめることになるらしい。 悠介 「書かれてるのはそれだけか?」 ルナ 「ううん、反対側の方に似たような石版がある。ちょっと待ってね、えっと……     “力を欲する者、魔水を嚥下しそれを手にせよ。     されど人であることをやめることを恐れるのなら、神水を嚥下せよ。     この水こそが神の水。其の身に宿りし魔力を力に変換させる戦神の水なり。     ただしこの水を嚥下せし者、二度と魔導を手に入れられぬと知れ。     この水、力の求道者のみが飲むべき神水なり”……だって。     現実世界で受け入れた千年の寿命に含まれる魔導力も、     完全に力に変換させちゃう水みたい」 悠介 「……つまり、身も心も完全に人でありたいヤツのみが飲めってことか?     魔導が使えるって時点で人からは離れてるからな……」 ルナ 「ん、そうみたい」 悠介 「となれば……」 中井出「任せとけ!こう見えても俺は!水飲みの達人だぁああっ!!」 悠介 「……やっぱり……」 視線の先で中井出が胸に手を当てて叫んでいた。 もちろん、“人のまま力を欲する者”の石版を見ながらだ。 あ〜あ……あいつ、映像系の魔導だけならかなり上手かったってのに……。 けど、エロマニアから離れた中井出にとってはどうでもいい能力なのかもしれないな。 声  『父上……父上は魔王だというのに人であろうとするのですか?』 声  「もちろんだ!俺は人間であることに固執する“職業:魔王”のナイスガイ!!     人であることも魔王であることも決してやめん!     何故ならば!───その方が面白いからだ!!」 声  『ヒロミツはほんに人であることに拘るの。なにがそうさせておるのじゃ?     力を欲するならば人であることなど捨てればいいのじゃ』 声  「この博光が住む世界……見渡してみれば神が居て死神が居て天界人が居て骨死神が     居て、ファンタジーを生きる空界人たちが居る……。それらは地界人なんかよりよ     っぽど強くて、地界人ときたらそいつらに一歩も先んじることが出来ない。出来る     としたら環境破壊速度くらいだ。……このままじゃいけない。地界はこのままじゃ     本当に増えて減るだけのクズ世界になっちまう。他の世界からは見下され、いつか     “あらやだクズ世界の地界人だわ汚らわしい”などと完全にゴミ扱いされる日が来     るだろう……───そう、このままではいかん!故に俺は立ち上がった!地界人で     あることに誇りを持とうと!力を求めるヤツが神になったり死神になったりする中     で、ただ純粋に人のままで強くなる───俺はそんな男になりたかった!!だがそ     れを完遂するには寿命が足りない……だから俺はある日、力を受け取った。それは     確かに俺の寿命を延ばした……しかし代わりに、魔導魔術という人離れした力を受     け取る破目になってしまったのだ……!!いつしか俺は後悔するようになった……     寿命が延びるだけならまだ人間だ……しかし魔法が使えたらそれはもう魔法使い。     超常を詠唱一つで巻き起こしてしまう能力など俺はもう欲していないというのに。     だから俺は今こそ歓喜しよう!これだ!これこそ俺が待っていた分岐点!!今こそ     “ただの人間”になり、純粋な“力”を得よう!!魔導が二度と使えない!?望む     ところだコノヤロウ!!俺はそんなものよりも地界人であることを選ぶ!魔導は空     界技術!法術は天界技術!死力は冥界!神力は神界!しかし地界には誇る力など一     切無し!ならば何を誇る!?───力だ!!純粋なるパァゥワァ〜……!それこそ     が地界人でも誇ることが出来るであろう力!!人である俺が武器を振るう!ただそ     れだけ!力の全ては武器にあり、俺という個体はただの人間!そう!それが全てだ     R!P!G!死神になった者や神になった者どもよ……今こそ地界人の力を知るが     いい!地界人にはなんの力もない、無力だ、などという常識なんてこの俺がブッ壊     してやる!!とまあそんなわけで、熱く語ったように見えて俺は案外冷静だ。神や     死神、天界人や空界人を憎んでるわけでも嫌ってるわけでもない。ただな、俺は地     界人でも頑張れば強くなれるんだってことを証明したいんだ。なんだかんだで俺の     周りのやつらは強くなる過程で人間やめちまった。だからせめて人のままで限界突     破してみたいんだよ俺は。そのためには、俺の中にある魔導は邪魔だ。寿命だけあ     ればそれで十分なんだ。それが証明出来れば人間はまだ負けない」 声  『……長いのじゃ』 声  「うむ!それだけ熱いシャウトだったってことだ!     というわけで善は急げだレッツゴー!!魔導抹殺汁が俺を待っている!!」 声  『汁!?』 散々騒いだのち、中井出ら一行は道を逸れ、走り去ってしまった。 恐らく彼が向かった先に、 魔導抹殺汁という触れることに抵抗を覚えるような名前をつけられた神水があるんだろう。 さて……それを理解した上で自問自答を始めよう。 俺はどっちへ行く? 1:力を求め、神水を飲みに 2:魔導を求め、魔水を飲みに 3:そんなことより財宝が気になる 4:無謀にも竜退治へレッツゴー 結論:…………2、か? 迷いが俺の中で生まれた。 そうなると、勇みよく踏み出した足が石版に挟まれた道の真ん中で止まった。 ルナ 「……?悠介?」 どうするんだ、とさらに自問自答をする。 しかし───答えを出すよりも先に、道の先の視界の上部に突然、妙な映像が出現した。 映像といっても能面のような顔が映し出されただけで、体は存在しない。 顔  『我ハ、オズ。コノ遺跡ニ残サレタ唯一ノ知能デアル』 悠介 「………喋った」 ルナ 「なにこれ」 オズだそうだ。 それ以上は知らん。 オズ 『汝、晦悠介ト確認スル。コノ場ニ汝ガ来ルコトハ予測サレテイタ。     コノ地ハ魔導ヲ得ルタメニハ避ケテ通レヌ場所。     汝ニハ質問ガ用意サレテイル。汝ガ思ウヨウ、正直ニ答エロ』 悠介 「…………いきなりベラベラ喋られても困るが……解った」 恐らくノートの仕業だ。 そう思ったから、素直に頷いた。 オズ 『汝ガ気ヅクベキコトハ既ニ得タ。人ノ状態ニサセタノハ、     人ノ状態デナラバソレニ気ヅクダロウト予測シタ故ノコトダ。     故ニ汝ガ人ノママデ居ル理由ハ存在シナクナッタ。     ……デハ問オウ。汝ハ何ニナリタイ。人ノママカ、人外ニナルカ。     神、死神、天界人、魔導術師、竜人、ナリタイモノヲ唱エルガイイ』 悠介 「…………」 俺が人である理由は無くなった、か。 それは人であるが故に気づけることに俺が気づけたからだ。 もっとも、ゼットにたきつけられ、 記憶を封じ、中井出に教えられるまで解らなかったことだが……。 けど気づけた。 だからもう、人である理由は無くなった。 また以前のように目の前にあるものを守るために、 守れるのなら人じゃなくてもいいと断ずるか。 それとも気づくきっかけになってくれた人のままで突き進むか。 悠介 (………) ……いや。 結局のところ、きっとこんな質問をされるんじゃないかっていう予想はしてたんだ。 そしてそんなことは既に散々自問自答して、答えなんてとっくに出てた。 でも最後の確認として自分自身に問いかけ、 深く考え込むより先に生まれ出たその答えを……俺は唱えていた。 悠介 「───神になる」 オズ 『───』 ルナ 「えぇえええええええええええええっ!!!!?」 ルナ、驚きすぎだ。 オズ 『……再確認ヲ要請。魂レベルデノ変換ヲスルタメ、二度ト別種族ニハ至レナイ』 悠介 「三度目は言わないぞ、神になる。俺を創造神にしてほしい」 オズ 『───、再確認ヲ完了スル。システムヲ起動、晦悠介ノ魂ノ改竄ヲ開始。     人間ノ魂ヲ変換……、……、……、完了。     死神ノ魂ヲ変換……、……、……、鎌“ラグナロク”ヲ理力ニ変換中………完了。     魔導技術ヲ変換……、……、……、完了。     諸力、魔力、竜力、精霊ノ魂、竜ノ魂ヲ変換………………………………完了。     全回路ヲ神界ノ回路ヘト変換中……………………………………………………………     ……………………………………………………………………完了。     奇跡ノ魔法ヲ変換───………………エラー発生。コノ物質ハ変換不可能。     コノママ内部ニ埋メ込ムモノトスル。     ────────────全システムバックアップ削除完了。     能力変換及ビ晦悠介ノ神化ヲ完了スル。     最後ニ特技ノ変換確認ヲ取ル。符術ナドノ神術ヲ汝ハ欲スルカ?』 悠介 「要らん」 オズ 『“鎌”トシテノ能力デアッタラグナロクハ、ドノヨウナ───』 悠介 「“創造”としてでいい」 オズ 『創造ノ理力ハ神術───』 悠介 「ええい神術は要らんというのに!創造はあくまで創造だ!     神にはなったが神の理に染まるつもりなんてさらさら無いわ!!」 オズ 『……神術習得ヘノ断固拒絶ヲ確認。     晦悠介ノ能力ノ全テハ神術デハナク、アクマデ創造ノ理力トシテ埋メ込ム。     能力安定化中───、……………………完了。     蓄積サレテイタ反発反動力、竜人力ヲ最終変換中………………………………完了。     オ疲レサマデス、神化ガ完全ニ終了シマシタ』 悠介 「………」 と、言われてもな。 べつに普通だ。 試しにあ、あ、と喋ってみるが、べつに声がブレたりだとかそんなことはない。 ていうかどうして最後だけ丁寧に言うのか。それをまずツッコみたい。 しかしそれよりもまず優先させるべきことがあったりする。 ルナ 「………」 猫のような目でじ〜〜〜っとこっちを見ている、能天気死神のことだ。 さて……説明しないと納得しないんだろうな。 というよりは説明してくれるのよね?って雰囲気を発している。 ……目は相変わらず、こっちに興味があるのか無いのか判断しづらい猫目のままだが。 ルナ 「…………なんでよりにもよって神なの……?」 悠介 「気分……だな。彰利が死神、ゼットが竜人、中井出が人間でセレスが吸血鬼。     穂岸や凍弥は天界人寄り状態だし、精霊は身近にいっぱい居る。     じゃあ居ないのは何か?……というわけで神だ」 ルナ 「うぅ……そんな理由で……?」 悠介 「自分を変えたかったのが一番だな。     そういう意味で、身近に居ない何かになりたかった。     種族として仲間って感覚があると、自分として立てないかもって思ったんだ。     だから神だ。……魂結糸結んでるルナには迷惑かけるかもしれないけど、     出来れば頷いてほしい。互いに反発する力を流し合うみたいな結果になるが、」 ルナ 「…………、……うん、悠介が自分からそうって決めたなら……我慢する」 悠介 「へ?───、そ、そっか」 予想以上にあっさりと了承された。 了承と言っても、もう戻れはしないんだが─── ルナ 「ただし」 悠介 「へ?」 なんて自分の思考に苦笑している場合ではなかったのかもしれない。 条件付か……?いったいどんな─── ルナ 「……お願い、聞いてくれたらいいよ」 悠介 「………」 願いって……ちょっと待て、何を要求するつもりなんだこいつは……! と思わず引け腰になるのは、長年の付き合い故だと理解してくれると大変ありがたい。 さて……そんなわけで俺はゴクリと喉が鳴ってしまうのを誤魔化しつつ、 先を探るように……ゆっくりと口を開いた。 悠介 「……モノにもよるが……そのお願いってのはいったい……」 ルナ 「そんなに警戒しなくてもいいったら。えっとね、もう何度かやってることだから」 悠介 「な、なに?」 何度かやってるって……なんだそりゃ。 こいつがお願いしてくることっていったら───……………マテ。 もしかしてあれか?あれなのか? ルナ 「好きだって言って、悠介からキスしてくれたらいいよ」 悠介 「やっぱりか……」 そう……俺にとっては拷問に近いこいつのお願いNo.1がコレだ。 色濃くスネた時とかに極稀に要求するものであり、 片手で数えられるほどしかやったことがない。 だが俺は恥ずかしさのあまり、三日間蔵に閉じこもって出てこなかったほどだ。 愛の囁きだとか自分からのキスだとか、 全部俺の苦手なものじゃねぇかこのお月さんめ……! だが適当に茶化したり誤魔化したりしようものなら本気で激怒するから手がつけられん。 以前、好きだーと言いつつキスを……ああ、魚のキスな?“鱚”と書くあの“きす”だ。 を、創造してルナの頬にビターンと投げつけたことがあるんだ。 いや、そしたらもう怒るのなんのって。 あそこまで怒ったルナを見たのはあれが初めてかもしれない。 悠介 「…………」 はぁ、と溜め息。 続いて恥ずかしさと戸惑いから、出したくもない苦笑が漏れ、 しかし既にスタンバッて目を閉じて俺を見上げているルナに唖然。 ……ええい、覚悟を決めろ晦悠介。 それで了承してくれるっていうんだ、最大の譲歩じゃないか。 だ、大体だな、妻にキスするのに戸惑う男が居てどうする。 よ、よし、無心だ無心……ああいや、真心込めなきゃ怒るからダメだな……。 ああもうほんと頭痛ぇ……。 でも息を吐きつつもルナの両肩をしっかと掴んで静かに引き寄せた俺は、 きっともう何処かで覚悟を極めてたんだろうさ。 諦めろ、俺。よく映画とかの警察が言うだろ?抵抗は無意味だって。 悠介 (……、) 最後に溜め息をひとつ、俺は覚悟を決めて乗り出したのだった───!! む、無心……ああいや、真心、真心……はぁああ〜〜〜…………。 悠介 「───、……ルナ……好きだ。お前を、愛してる」 大きく息を吐いて、ゆっくりと、噛み砕くように言葉を紡いだ。 その言葉にじぃいいんとルナが震えるのが手の平から伝わり、 なんだか物凄く恥ずかしくなる俺。 情けないと笑わば笑え。俺も笑う。むしろ笑わせてくれ。 しかしこの上キスまでしなければいけないんだから厄介なものである。 俺は自分の顔が灼熱していることを実感しつつ、ルナをぐいっとさらに引き寄せ、 上向きのまま目を閉じてずっと待ってるルナの唇に───……自分の唇を合わせた。 そして互いの存在を確かめるように強く強く抱き締め合い、口付けを交わし続ける。 だがすぐに俺の恥ずかしさがMAXに至ってしまい、 ルナもそれを理解してくれてるのか俺達はパッと離れ、 セレス「……古代遺跡のド真ん中でな〜に愛を確かめ合ってんですか」 悠介 「ぐわぁああああーーーーっ!!!!」 絶叫した。 悠介 「な、か、ぐわっ……セセセセレスッ!?お、おおお前いつからそこに───!!」 彰利 「ルナ……好きだ。お前を愛してる……から」 悠介 「彰利ィイイイーーーーーーーッ!!!!?」 悠黄奈「あの……思い切り叫んでくれてもいいですよ……?全員、見てましたから……」 凍弥 「いやぁ……まあその……ごちッス」 ディル『熱いものだな、王よ。恥ずかしがることはないだろう。     私は最初から傍に居たが、それでもしていただろう?』 夜華 「の、覗くつもりはなかったのですが……彰衛門がどうしてもと……。     わ、わたしは止めようとしたのですがっ……も、申し訳ないっ……!!」 悠介 「か゜っ………………」 目の前が真っ白になる時って、多分こんな時だ。 俺は魂が抜けたような感覚に陥り、ゆっくりと適当な場所へ歩くと─── ロープを創造し、高い位置に突き出た棒のようなものに括りつけ、 悠介 「僕ハコノ蒼イ地球ガ大好キデシタ……」 呟くと、輪状になったソレに自分の首をセットイン。 やがて悲しみの無い世界へ旅立つために足場を踏み砕いて、 あたかもぶらさがり健康機にぶらさがるかのようにヘルダイヴを 彰利 「ギャアアアアアアなに中井出みたいなことやってんのぉおーーーーっ!!!」 凍弥 「お、落ち着いてくださいよ悠介さん!!     死んでも蘇るんだから恥ずかしいのは一緒です!!」 する前にガッシィとタックルをぶちかまされ、取り押さえられた。 悠介 「後生だっ!!後生だから死なせてくれぇええええーーーーーーっ!!!」 彰利 「後生の意味が解らんから断る!!」 悠介 「断るにしたってもっと頭のいい断りかたしろたわけ!!!」 凍弥 「そんなところにツッコミ入れる余裕があるなら今を精一杯生きましょうよ!!     だ、大丈夫ですよ!きっとこの恥ずかしさがなにかのバネになったりしますよ!」 悠介 「なるとしてもこんなバネ欲しくなかったわ!!」 彰利 「大丈夫だぜ悠介!俺達は絶対にさっきの貴様を忘れない!!」 悠介 「忘れることに努めろよ!!」 彰利 「全力で断る!つーかなにキミ汚らわしい!!このコは悪魔に取り憑かれた!!     貴様から神の香りがするわ!?いったいどういうことなの!?」 悠介 「あ、俺ついさっき神になった」 彰利 「ええっ!?神になって最初にすることが自殺なの!?     おじさんキミが神になった事実よりもそっちの方にビックリだよ!!」 凍弥 「ど、どうして急に神なんかに───?」 悠介 「一言で言えばなんとなくだ」 彰利 「し、親友が神になってしまった!こんな時はどうすれば!?」 凍弥 「……なにか変わるのか?」 彰利 「変わらないや。よろしくフレンド」 悠介 「彰利……」 彰利 「悠介……」 ガッと握手をする。 友情の確認ってやつだな……妙に清々しい気分だ。 で、俺はノリのいいやつがネックロックをするように彰利をネックロックし、 ハハハと一緒に笑いながらロープを創造し道連れ街道レッツゴー。 悠介 「貴様を殺して俺も死ぬ!!だから死ね!!」 彰利 「なにぃ!?うおお悠介がかつてないほどにブッ壊れ───     あれちょっ───なにこのロープ!!イヤアアア巻かないで首に巻かないで!!」 悠介 「ククク……このロープは俺の首が絞まるとそれと同じく締まる特製創造物だ……!     どれだけ足掻こうが俺が死ねば貴様も死ぬ……!」 彰利 「ギャアなんか悠介がすっげぇえ邪悪なんですけど!?ホント神なのテメェ!!」 悠介 「うるせぇえっ!!見られたからには全員皆コロがしだぁあああっ!!     だから忘れろここで見たもの全て!!」 彰利 「断る!!死んでもいいが絶対忘れん!!」 悠介 「どこまでヒネクレてんだてめぇええーーーーーっ!!!」 中井出「はふぅ、これで身も心も人間にうおおなにやってんだてめぇら!!」 彰利 「ゲゲェあっさり見つかったぁあああああーーーーーーーっ!!!」 ナギー『背後から感じていた気配はおぬしらじゃったのか!     ヒロミツ!こやつらはスパイなのじゃ!わしらをつけまわしておったのじゃ!!』 中井出「うむなんと見上げた精神!実に天晴れ!でも死ね」 悠介 「言葉の前後がまるでちぐはぐだぞちょっと待て!     おいこらっ───彰利!凍弥!いい加減離《ズルグキィッ!!》ハゴック!?」 彰利 「《グキィッ!!》ギョアァアーーーーーッ!!!《ミチミチミチミチ……!!》」 凍弥 「うぉわっ!?彰衛門の首が急に絞まって……!?」 彰利と凍弥に捕まったままだった俺は体勢を崩し、 首に巻いたままだったロープで見事に首吊りを実行。 その急激な首への締め付けが俺を容赦なく苦しめ、 彰利も凍弥も体勢を崩したままでも無理に俺にしがみついているもんだから、 ミチミチと首が絞まっ……ちょ、待て……!シャレにならん……! 彰利 「《メキメキメキメキ》ごぉおおおおお……!!!」 そして彼もヤバかった。 首に血液が止まっていて、顔がヤケに腫れぼったく感じる中、 その視界の下で連結ロープに首を絞められのたうち回る男が一人。 いや……だからのた打ち回る力が残ってるなら離せってこら……!! って思ってる間に中井出が剣から妙な輝きを放って─── ああ……死ぬ……死ぬな……こりゃ……。 女性陣が危険を察知し突撃した時には全てが遅すぎた。 ガギンッ!と弾き合わされた双剣が火花を散らし、 それに呼応するかのように輝きはこの狭苦しい場所で大爆発を起こし─── 逃げる間も無く窒息死寸前だった俺と彰利は、 輝きに飲み込まれながら昇天したのだった……。 本来なら一撃くらいまだ耐えられたんだろうが、俺は彰利と凍弥を引き剥がすため、 彰利は俺を意地でも離さないためにSTRをマックスにし─── 結果、防御が疎か状態になり…… 神父   「おお旅人よ!死んでしまうとは情けない!!」 悠介&彰利『………』 二人揃ってこんな有様である。 そして俺は思うのだ。 なにかをする時は、きちんと周りを確認しないと絶対に泣く破目になるな……と。 Next Menu back