───冒険の書177/運命破壊と親友と───
【ケース456:霧波川凍弥(再)/思いの果て】 夜華 「貴様は何故いつもいつもそうなのだ!     人の話は聞かず身勝手に動き、いつもいつも人を振り回して!!     いい加減にしろ!少しは人のことも考えてみろ!」 彰利 「人という字は人と人が支え合って出来ているんだよ……?」 夜華 「きぃいいいさぁあああまぁああああ……!!     言ったそばからそれかぁあああああ……!!!」 彰利 「ええっ!?“人”のこと考えたじゃん!なにが不服なの夜華さん!!」 夜華 「そういう意味で言ったんじゃない!人というのはだな!そ、その……!!」 彰利 「……?おお!この場に居ない妻たちのことじゃね!?     おおなんと夜華さんたらやさしい!!     最近冷たい粉雪のことも考えてくれてるなんて!」 夜華 「なっ……ち、違っ……あ、いや……うぐぐ……!」 悠介 「………」 遥一郎「………」 悠介 「不憫だな……」 遥一郎「だな……」 そうではなくわたしのことだ、と言いたくても彰衛門の口から出た “夜華さんやさしい”という言葉を否定出来ない篠瀬を見て、 悠介さんと与一が遠い目をして同情していた。 気持ちは解るけど可哀相だから混ざるのはやめとくことにする。 凍弥 「けどさ、こう見ると……     やっぱり彰衛門って篠瀬のことが一番好きなんじゃないか?」 彰利 「なにっ!?いきなりなにを言うのかねキミは!!そげなことあるわけ───!」 夜華 「…………!」 彰利 「ア……イヤソノ……ぼ、ぼぼぼ僕は全員愛してる!!」 悠介 「普通に聞くとクズでしかない言葉だな」 彰利 「ほっときんさい!」 遥一郎「思うんだけど。えっと、弦月だったか。     いっそのこと妻を一人に絞ったらどうだ?」 彰利 「なにっ!?いきなりなにを言うのかねキミは!そげなこと出来るわけねぇべよ!」 遥一郎「少しばかり考えた。柾樹だけが一人に絞る中、     お前が五人も妻が居るのって異常じゃないか?     なんというか、説得力に欠ける」 彰利 「《グサッ!》ウグッ……!な、なにげに痛いところを……!」 何気に気にしていたらしい。 でも、それは確かにそうだ。 悠介 「そうだな。最近お前、日余に避けられてるだろ」 彰利 「《グサァ!》ギャア!ウ、ウググ……そげなことないもん!!     僕、粉雪に愛されてるもん!!」 悠介 「たわけ、一人よがりしても仕方ないだろ。     お前がどうだろうと、人の心ってのは移り変わるもんだ。     俺が言えた義理じゃないけど、     お前も一度気持ちの整理つけてみるべきじゃないか?」 彰利 「で、でもね?たとえ既に誰か一番好きな妻が居るとしてもね?     アタイ既に妻たちの大切な純潔を     ロンギヌスっちゃってるわけで《バゴシャア!》ブボルメ!!」 悠介 「妙な喩えはせんでいい……!!……そんなもん、お前なら簡単に覆せるだろ」 彰利 「………」 彰衛門がぴたりと止まる。 いや、息を飲んだ、と言ったほうが適当だろう。 ……そうだ、彰衛門にはそれだけの力がある。 既存を破壊し、決まりごとを捻じ曲げるっていう、普通に考えれば一番恐ろしい能力が。 彰利 「でも……でもよぅ……じゃあみずきはどうすんの?」 悠介 「ってことは日余が一番じゃないってことか」 彰利 「うぎっ……!え、いや、俺は……その、ね……!?」 悠介 「妻達ほったらかしで、     けどきっちりと篠瀬のところには来てるお前がこれから何を唱える?     遊びに来ただけっていうんだったらそれでもいい。     でもな、親友。どっちに転んでもそれはお前だけの責任じゃない。     煽った原中の連中や、俺にも責任はある。     だから決めちまえ、今ここで。お前の心の重みだったら、俺も背負ってやれる」 彰利 「悠介……」 夜華 「い、いえ悠介殿!あまり無理を言うのは……!」 悠介 「し〜のせ。あんまりこいつを甘やかすな。     自分じゃないかもしれないって不安があるのは解る。     けどな、心が離れ始めてるのに無理に引き止めるのは酷ってものだろ?     俺達はそういうのが人一倍理解できるつもりだ。     孤独を生きてきた俺達には一期一会なんてありがたい言葉がなかった。     こうして続いてる縁も確かにある。けど、その大半が忘れ行く思い出や、     ただただ殴られるだけだった日々の思い出だけだ。     そこに縁なんてのはきっとない。だから、離れることが出来るなら離れるべきだ」 夜華 「しかし……!」 篠瀬は見て解るほど動揺していた。 それこそ自分じゃなかったらどうしようと考えているんだろう。 でもいくら煽られたって、こんな人の心をどうこうするようなことを彰衛門がするとは…… 彰利 「───解った。     じゃあ、せめて妻たちが俺をどう思ってるか。それだけ確認させてくれ」 凍弥 「───!?やる気なのか彰衛門!!」 彰利 「ああ。元はと言えば俺がいい加減なことを言っちまったことから始まったことだ。     その決着は俺がつけなくちゃいけない。     言われた通りだ。こんな俺じゃあ、柾樹のことどーのこーの言えやしない」 凍弥 「彰衛門……」 そう語る彰衛門は酷く真面目な顔だった。 俺もそう何度も見たことが無いくらいに真面目な顔だ。 そんな彰衛門は自らの右手に鎌……デスティニーブレイカーを出現させると、 大きく息を吐いて鎌に映る自分を見つめて小さくなにかを呟いていた。 これをしたらやり直しなんて出来ない。 そう言ってるようだった。 なのに顔を上げたその顔はもう迷いなんてものが見受けられず─── 彰利 「───……デスティニーブレイカー」 小さく唱えられた言葉。 いや、言と呼ぶべきか。 ともかくそれが言葉として力を発した時。 その鎌が鈍く輝き、存在する事実を捻じ曲げた。 彰利 「………」 彰衛門が妻たちのなにを見たのかは解らない。 でもその顔は“ああ……やっぱり”といった顔で───何処か悲しげに映っていた。 彰利 「粉雪は……疲れちまったんだな。     子供をほったらかしにしてる身勝手な俺と、多すぎる妻に。     本来自分一人が、って気持ちが結婚してからも子供が出来てからも、     そして今に至るまでずっと心の中にあったんだ……疲れるよな、ごめん……。     春菜は……離れても自分に会いに来てもくれない俺に疲れた……。     自分がちゃんと好かれているのか疑問に思った挙句、     それが深まっちまったみたいだ……。     真穂さんは普通に好きでいてくれたみたいだけど、     それは感謝の念や馴染みからくる親しみが大きくなっただけのもので……     仁美さんは、“楽しい”が欲しくて“寂しい”が要らなかったから……。     だから妻がいっぱい居るこの騒がしい状況の中に入ってきたし、     なにより……本気でぶつかれる相手が誰かに奪われたままなのが寂しかった。     そして───夜華さんは…………ああ、でも……」 “やっぱり俺が家族を持つなんて無理だったんだ”と、 ただ小さく呟くことしか出来ない彼は……なんだか小さく感じた。 彰利 「……ん、決心がついたよ、親友」 悠介 「……そか」 彰利 「じゃあ……辛いからさ。情けないけど、一緒に悲しんでくれると嬉しい」 悠介 「解ってる、当然だろ」 彰利 「……ありがとう。───デスティニーブレイカー!     俺と妻達の間に流れる関係の一部分を……運命という名に変え、斬り砕け!!」 ギキッ───ギシャアッキィン!! 言葉とともに、掲げられた鎌から発せられる黒の光。 それが、今の彰衛門の力で解放されると───そこに確かにあった筈の事実が、 ごっそりと書き換えられてゆくのが感じられた。 そして───気づけばそれが当然になっている。 悠介 「……終わったのか?」 彰利 「……ん。俺を心の底から、     自分の命さえ投げ打ってもいいくらい好きでいてくれる人を、     俺の妻にするっていう歴史を捏造した。もちろん何処かで矛盾は出るだろうけど、     でも……もう二度とその事実を思い出すことはないよ」 悠介 「それって───」 彰利 「ああそうだ。心底俺を好きで居てくれるヤツが居ない場合、     俺は誰とも結婚してないっていうことになる。     だからこうして近づいてみても───」 夜華 「───!」 彰利 「《ジャキィンッ!!》……こうやって、刀を向けられる。     ……確定だ。夜華さんじゃなかった。     心底俺を好きで居てくれる人ってのが二人居た場合、     発動しないようにしてた筈なのにこれだ……。     結局俺は、誰にも愛されてなんかいなかったってわけだ」 悠介 「………」 彰利 「まだ四人居るからそのうちの一人が、なんてそんな希望は持たないよ。     元々孤独なんて慣れっこだ。俺には親友であるお前が居てさえくれれば───」 悠介 「いや、いいから待て。落ち着け。……篠瀬の顔、見てみろ」 彰利 「エ?」 なにを話しているのかよく理解出来ない。 でも彰衛門は視線を動かすと篠瀬の顔を見て……あいやぁ……と呟いた。 釣られるように俺も見てみれば、篠瀬の顔はそれはもう真っ赤っかだった。 よく死なないなって思うくらい真っ赤だ。 彰利 「ぬおお……もしやとは思ったが……!」 悠介 「……お前、デスティニーブレイカーに別のルール上乗せしたろ……」 彰利 「アイドゥ……柾樹の時と同じみたいに、他のおなごの気持ちを全部、     心底アタイを好きで居てくれる者に譲るカタチになる、     って事実を捏造してみたんだけど……」 悠介 「───……なるほど。ようするに、     好きすぎてどうしたらいいか解らなかったからとりあえず抜刀したわけか」 彰利 「………」 悠介 「……彰利?」 彰利 「あ、あ……いやっ……なんでか涙出てきて……。     勝手にみんな受け入れて、勝手に裏切って……。     でもそんな俺を心底好きでいてくれる人が居てさ……     俺、嬉しくって……さぁ……っ……!」 悠介 「……そっか。好きなだけ泣け。お前は常日頃から涙を我慢しすぎなんだよ。     ていうかふざける時以外で涙なんてそうそう流さないだろお前」 彰利 「ぐしゅっ……うぐっ……うっく……!ぶびぃいいいいいっ!!!!」 悠介 「ぐわぁあああっ!!ば、馬鹿者ぉっ!!なにやってんだ人の服で!!」 彰利 「お、押忍!鼻かみました!あぁもう……やべぇ……俺やべぇよ……!     すげぇ嬉しい……!嬉しいって感情がこんなにも暖かいものだったなんてことを初     めて知りましたって無駄に叫びたいくらい嬉しい……!」 悠介 「お前はなにか……?嬉しかったら人の服で鼻をかむのか……!?」 彰利 「ご、ごめっ……うぐっ……うあぁああああ……!!」 ……よく解らないが、彰衛門が突然泣き出した。 滅多に見られるものじゃない景色が今目の前で展開されている。 与一も、さらに悠介さんも驚いてるくらいだ……よっぽどのことだろう。 悠介 「あ〜あハイハイ、泣けとは言ったがまだやることが残ってるだろ?     さっさとやっちまえ」 彰利 「ふぐぅう……!う、うぅうう……!!……っ……うっく……そ、そうだな……。     でも……どうしよう悠介……俺怖い……」 悠介 「やれ。相手の記憶を破壊しておいて自分だけ覚えてるのはフェアじゃない。     もういいから突っ走れ。後悔しても笑えるように、走り続けちまえ。     こんなケジメの付け方は一方的すぎるが───」 彰利 「…………その先、いいや。言わないでほしい」 悠介 「…………そか」 彰利 「解ってる……ケジメはつけないとな。……デスティニーブレイカー!     俺の中にある彼女たちと夫婦生活の記憶を破壊しろ!     そんなものは無かったと断ずるが如く!     一切の容赦なく───消し去ってしまえ!」 そうして再び鎌が輝く。 彼女たちの、という言葉の意味が解らない。 しかし次に闇の光が瞬いた時───……彰衛門は涙を流しながらボォっとしていた。 悠介 「……ああ。受け止めてやる。俺だけは……お前の辛さ、覚えててやるから」 そんな彰衛門を余所に、悠介さんが“たきつけた俺が言うのもなんだけどな”と呟く。 なにがなんだかもう解らない。 確かに何かがあった気がするのに、 その記憶はずっと過去から作りかえられたみたいに俺の中に残ってはいなかった。 彰利 「あ、あれ……?俺なんで泣いてるんだっけ……」 悠介 「シャンゼリオンの再放送を録画し忘れたからだ」 彰利 「別に録画してませんよそんなの!!」 悠介 「そ、そうか。お前ならやってると思った俺が浅はかだった……」 彰利 「……え?なにか知ってるのキミ!」 悠介 「ああ知ってるぞ。お前がシャンゼリオンを愛していることとか……いろいろな!」 彰利 「愛してませんよ!!なに!?なんなのその異様なまでの自信!!     間違った自分を正しく認めないのはいけないことだと思います!!」 悠介 「……ああ、そうだな。説得力があるのはいいことだと思うな」 彰利 「……ウィ?なにそれ」 悠介 「なんでもない」 そう言うと、悠介さんはひどくやさしい顔で彰衛門の頭の上でぽんぽんと手を弾ませた。 ……時々思うことがある。 この二人の関係……親友っていう間柄が眩しいと。 怒っても悲しんでも喧嘩しても、最後は笑い飛ばせてしまう関係が。 俺も志摩兄弟とはそんな関係だと思う。 でも、過ごした辛さも歴史も、流した涙も悲しみも、 きっと二人とは比べられないくらい少なくて…… そんな辛さも悲しみも二人で支え合って笑い合ってここに辿り着いて、 この先もこんな関係のままを生きていくんだろう。 それが素直に羨ましく思えた。 彰利 「……よもや貴様が男相手に頭撫でを実行するとは……!     え?なに?惚れ《ボゴォッシャア!!!》ブボルメ!!」 悠介 「惚れるか!!」 ……そしてあっさりとやさしい顔は消滅。 彰衛門の涙も悠介さんのあんなやさしい顔も珍しすぎるっていうのに、 それを簡単に壊しても笑ってられる関係ってのはある意味で凄いんだろう。 凍弥 「あの、悠介さん?なにか───」 悠介 「ああいい、気にするな。どうせ言ったところで解らないよ。     多分この馬鹿が俺だけに残すようにルールを作ったんだろうさ。     だから俺からそれを唱えるのはルール違反だ」 凍弥 「……?」 やっぱり解らない。 でも言わないと言ったのならきっと言わないだろう。 だから俺はそれ以上訊くのはやめにした。 凍弥 「えと、じゃあその……話戻しましょうか。これからどうします?     ……与一は話を聞かないようにって離れてますけど」 悠介 「どうするって……俺はまだここに来たばっかりで、     お前らがどういう状況下にあるのかなんて知らないんだが」 凍弥 「あ、そうか。えっとですね、今は丁度……って言っていいのかは別としても、     モトノフフ大渓谷から風の戒めの宝玉をかっぱらって逃げてきたところです」 悠介 「…………中井出の苦労が目に浮かぶようだ」 凍弥 「え?なにか言いました?」 悠介 「ああいや……それで、もうそれは破壊したのか?」 凍弥 「いや、まだですけど」 悠介 「そっか」 確か破壊すると属性が解放されるんだよな。 ってことは篠瀬の風の属性が強化されて力が増して─── で、あの提督さんの風の力が弱体化する、と。 まるでほんとの魔王だな……精霊を解放するたびに弱くなるなんて。 悠介 「俺はこれからちょっとエトノワールに行ってみようと思ってる。     世話にもなったのに魔王ってだけで中井出を狙う理由が知りたい」 凍弥 「理由……ですか。村人や王様や町の人にとっては、     魔王ってだけで注意するべき相手ってことなんじゃないですか?」 悠介 「はぁ……人間ってのはやっぱりそんなもんか。まあ例外も居るわけだけど」 凍弥 「……魔王自身、ですか」 悠介 「ああ。物凄い例外だな。魔王が居たらむしろ会って、仲間にでもなりそうだ」 凍弥 「それは……人としてどうなんですか?」 悠介 「うん?ああ、クズだな」 凍弥 「うわぁ……言い切った」 悠介 「約束ごとなんだよ。俺達原中は互いに遠慮しない。     クズって思うならクズって言う。人の道を外れるなら外道とだって呼ぼうか。     でもな、絶対に裏切らないって知ってるからこうして付き合ってられる。     なにより気楽に付き合えるってのが一番だな」 凍弥 「へえ……」 悠介 「だから中井出のヤツは周りが魔王っていうなら本気で魔王になるから気をつけろ。     普通のヤツなら“こんな扱い受けるなら魔王になんて”とか思うだろうが、     あいつはむしろ“人でも真の魔王になれること”を証明しにかかると思う」 何処までも無茶苦茶な人らしい……。 それは、悠介さんの表情が真実だと断言していた。 悠介 「中井出の話はこれくらいにして、お前はこれからどうするんだ?」 凍弥 「あっと……椛の様子でも見に行こうかって思ったところです。     ───って、あれ?なんで俺そんなこと思ったんだっけお」 悠介 「そか。まあ、忘れたんだろ?気にするな、会いたいなら行ってこい」 凍弥 「……?は、はあ……」 悠介さんが笑っていた。 俺の疑問の答えを知っているんじゃないかって思わせるくらいのその笑顔には、 見る者を落ち着かせるなにかがあった。 だから俺は……結局なにも訊かず、改めて“そうですね”と口にした。 それから俺は与一のもとに駆け出すと、これからのことを話して動き出した。 ……意外なことだったのは、与一が付き合うって言ってくれたことだけど。 ちなみに篠瀬は……まあ当然というか、彰衛門と一緒に行動することになった。 【ケース457:晦悠介/記憶はキミに。旅路は貴様と】 そうして一路エトノワール。 俺と彰利と篠瀬はひたすらに道を歩む。 彰利 「………《ソワソワ……》」 夜華 「………《そわそわ……》」 しかし微妙に……ああいや、かなり疎外感を感じるのはどうしてだろうな。 横から妙に甘ったるい初々しさとそれっぽい空気が流れてきて居心地が悪いったらない。 悠介 (はぁ……) 彰利の記憶や、恐らく他のやつらの記憶は全て改竄されている。 彰利はあの時篠瀬とだけ結婚したことになってるし、 日余や先輩、桐生に桐生センセも彰利に特別な感情なんて抱いてないことになっている。 俺の中にもそういう記憶が発生したくらいだ、 恐らく持てる全力を以って運命破壊をしたんだろう。 彰利と彼女らの生活は無かったことになり、みずきも篠瀬の息子ってことになっている。 その事実を知ってるのは俺くらいだ。 ノートやオリジンあたりなら覚えていそうではあるが、彰利がそれを望んでない限り、 いつかはその記憶も消えるのだろう。 当然結婚したのが篠瀬だけということは、 他の女性たちの……まあその、純潔も散っていないことになる。 運命破壊ってのはそこまで捻じ曲げてこその力だ。 今の彰利の力で発揮させたなら、それこそそれくらいは可能だったんだろう。 ……その歴史がよっぽど歪んでしまっていない限り。 悠介 (未来の俺の歴史も変えてくれ、って言ったところで……) 無理だろう。 その歴史が俺っていう存在をあそこまで変えた。 ああいう事実は他人が干渉出来るほど軽いものじゃない。 世界さえ崩壊させた事実を捻じ曲げるほどの力を俺達はきっと持ち合わせちゃいないんだ。 出来たとして望まないだろう。 あいつの目的は俺の死と自分の死だけなんだから。 悠介 「…………はぁ」 彰利 「な、なになに悠介?そげに溜め息なんて吐いて」 悠介 「お見合いの最中に息が詰まったからって他人に話を振るような行為はやめろ」 彰利 「喩え長ッ!!でも解りやすッ!!でででもね?僕ね?     なんだか夜華さんのことがメチャクチャ愛しくてね?     もうどうしていいのか解らないくらいドキドキしててね?     ヘンだよねヘンだよね?今までここまでトキメいてなんかなかった筈なのに」 悠介 「ああそれは───」 それは、お前が心底自分を好きでいてくれる人に巡り会えたからだろうよ。 よっぽど嬉しかったんだな、その事実が。 だから篠瀬が他のやつらの愛情を一身に受けたのと同じに、 お前が向けていた他のやつらへの愛情を、お前も篠瀬一人に向けることになったんだ。 そんなことになれば……こんな風になるのも頷ける。 彰利 「それは?それはなに!?てめぇ何か知ってんのか吐けコノヤロウ!!」 悠介 「ええいやかましい!いいからお前は篠瀬と一緒に愛空間でも作り上げてろ!!」 彰利 「ブフッ、傍にルナっちが居ねぇからって荒れてやがるぜこの親友」 悠介 「お前はぁあああ……!!     どうしてわざわざそうやって誤解が生まれる方向で話を進めるんだ……!!」 彰利 「面白いからさ!《ボゴシャア!!》ギザルメ!!」 とりあえず殴った。 顔が物凄く嫌みったらしかったから殴った。 しかし当の彰利はすぐに立ち直ると、その拍子に篠瀬と目が合ってトキメキ状態に。 ……だから……なんなんだよ、 この見合いの席に無理矢理つき合わされてるような心境は……。 悠介 「お前らな……見合いごっこなら余所でやれ……」 彰利 「見合いとは失礼な!僕らはもう結婚したのだ!     なにかねその関係を戻すような発言は!!」 悠介 「………」 彰利 「……?なにかね!」 悠介 「いや……自分だけ知ってるってのも案外微妙な位置なんだなってな……。     もういいから先に進むぞ……」 エトノワールはそう遠くない。 だから転移も使わず歩いてるわけだが───失敗した。 さっさと転移してでも向かえばよかった……この空気はちょっと苦手だ。 悠介 「はぁああ……」 思わず溜め息が出た───その瞬間!! 彰利 「《ゾブシャア!!》ギャアアアアアアアアアッ!!!!」 どういうわけか彰利が篠瀬に斬られていた。 彰利 「いっだぁああーーーーーっ!!いだぁああああああっ!!     な、なにすんの!なななにすんの!ななななにすんのぉおーーーーーっ!!!」 夜華 「ききき貴様こそなんだ急に手を掴んできたりして!!なにをする気だった!」 彰利 「な、なにする気って……!     勇気出して手ェ繋ごうとしただけで斬られたのって多分俺だけだよ!?」 夜華 「手をっ……!?ばば馬鹿!そういうことをする時は誰も居ない時に!     しかも断ってからしろとあれほど言っただろう!!」 彰利 「親友に見せ付けてやりたかったのさ……」 夜華 「彰衛門……───ハッ!だ、だめだ!とにかくだめだ!!     他人が居る時になど、誰が認めてもわたしが認めん!!」 彰利 「何処までウヴなんだコノヤロー!!手ェ握るくらいいいじゃんかよぅ!!     僕らもう子供まで居る中よ!?それが手ェ握っただけで斬られるの!?」 夜華 「ばっ……ばばば馬鹿者ぉおっ!!他人の……それも悠介殿の前でなんてことを!     恥を知れ恥を!!そんなっ……ここ、子供が出来る行為のことなど!!」 彰利 「キャア!夜華さんたらどんなこと想像したの!?夜華さん大胆!超大胆!!」 夜華 「《かぁあああっ……!!》ききき貴様ぁあああああああああっ!!!!」 悠介 「………」 すまん……正直ついていけん。 そうかそうか……お互いに思いっきり好き合うとこんな風になるのかこの二人は……。 だがすまん……本当についていけん。 目の前でバカップルにイチャつかれるヤツの気持ちってのはきっとこれだ。 悠介 (でも……まあ) 想像していたよりも幸せそうでよかった。 彰利が全力で運命破壊を実行しなければ、こうはならなかっただろう。 悠介 「なぁ彰利……」 彰利 「なにかね!」 悠介 「お前、今幸せか?」 彰利 「───」 夜華 「《がばしっ!》うわっ!?な、なわわ……あああ彰衛門っ……!?」 彰利 「───幸せ!いやさ、この気持ちを言葉にするならば至福と唱えよう!!」 悠介 「……そっか」 篠瀬を抱き寄せての言葉は、俺の胸に確かに届いた。 ……ああ、これで笑顔のまま記憶を抱いていける。 後悔が無いって言ったらウソになるだろう。 でも、俺にとっては誰の笑顔や幸福よりも、やっぱりこいつの幸せを願いたかったから。 だから……ごめん、日余、先輩、桐生、桐生センセ。 どんな風に思われようと、俺はこいつが幸せを感じる機会だけは失いたくなかった。 思えばこいつから聞かされることは妻達が妻達がって、 引っ張り合いや嫉妬にあって疲れてるって言葉ばっかりだった。 彰利だって心の中では無意識にでも解ってた筈だったんだ、 一夫多妻で平等に愛してゆくなんて無理だ、なんてことは。 なにより親の在り方を嫌っていたこいつだ、そんな自分はもっと嫌だっただろう。 でも他の女性と居ながらも“家族”である自分は、 親とは違うと思い込むことでしか自分を許せなかった。 だから怖かったんだろう。 彰利 「ていうか刺さってる!抱き寄せた瞬間に貫通してるよ刀が!」 夜華 「なに……?う、うわっ!?うわわわわぁああっ!!     すすすまない彰衛門!今すぐ治療を───!!」 でも……今。 親友の顔には不安も恐怖も存在しなかった。 日余たちとの結婚生活が重荷でしかなかった、なんて言わない。 それでもなによりも親を嫌っていたあいつは、 血筋や男としての在り方で苦悩してたに違いない。 だから俺はそれを“良かった”と唱えよう。 あいつが一人を選び、泣いて喜んだことを“良かった”と唱えよう。 こういう結果になって、日余や先輩たちにはあんまりな状況が出来上がったけど…… 怒りも悲しみもないまま、歴史ごと捻じ曲げられちまったけど─── もし謝ることで届くのなら何度だって謝ろう。 あとであの時こうしておけば、なんて悔やむことがないように。 彰利 「ところで悠介。キミってさ、アニメ好き?」 悠介 「いきなりすぎるなオイ」 彰利 「いや、ちと気になったことがあってさ。     ほらアレよ、アニメだけじゃなく漫画でも言えることなんだけどさ。     主に言えばBLEACHとか。     いくらそうしなけりゃ物語が盛り上がらんとはいえ、     かなり強くなった主人公より強いヤツがゴロゴロ現れるのってどーなのよ」 悠介 「……どう、と言われてもな」 彰利 「頑張って卍解覚えました。朽木白哉に勝てました。     ギャア!バウントってやつが現れた!あ、あれ!?黒崎くん負けちゃった!?     エェッ!?卍解使えなくなってる!?にしても弱いよコレ!!……なにこれ」 悠介 「バウント編か……あれはあれで楽しめたと思うが」 彰利 「ノー!設定がヘンだって言ってんですよあたしゃあ!!     ところでさ、崩玉がルキアの体にあったのと同じく、     王鍵は一護くんの中にあると思うのは俺だけ?     それだったら、一護くんの周りのお方たちが能力に目覚めて、     チャドくんが虚側の力を手に入れたのも頷けるんだけど」 悠介 「あ〜……あのな、俺にそういうことを詳しく訊かれてもな……」 彰利 「ところで黒竜王を倒したキミが強敵と会わずに強すぎたのは盛り上がり防止?」 悠介 「そんなことわざわざ狙う修行者が何処に居るんだたわけっ!!」 彰利 「ご、ごもっとも……!俺ゃてっきり、とうとうキミの中でも原ソウルが発動して、     普通なら弱くなるところを強いままで突っ走ってみせたのかと……!」 悠介 「だったら今こんなに弱体化してるわけないだろが……」 彰利 「おおごもっとも。それならさっさと力返してもらえばいいのに」 悠介 「力は努力で得るもんだろ、いくら自分の力だったからって、     今更ポンと渡されても困る」 彰利 「うーわー、また鬼修行する気満々ですよこの人……。     でも前みたいにヘンに悟るの無しね?     俺、以前のキミって妙に気取ってて好きじゃなかった。     ああほらアレよ。皆様がピンチにならないと現れない漫画の主人公みたいなヤツ」 悠介 「そう思うんだったらゼットとの時も素直に呼べたわけぇええええっ!!!     俺だって駆けつけられるならさっさと来たかったわ!!」 彰利 「こ、これまたごもっとも……!!」 あの時のことは本当に頭が痛くなる。 どーのこーの考える前にさっさと守れたらって思うくらいだ。 でも辿り着けたのはみんなが傷ついたその後だ。 ……いくら強くなれたって、その場に居なければ意味がない。 その意味がよく解ったくらいだ。 悠介 「はぁ……どのみち、俺はもうノートに渡した力を受け取ることは出来ないよ。     俺はもう神状態だ。神の力は受け取れても、死神、竜、精霊の力は受け取れない」 彰利 「あ〜、そうだったね。空界の力とかは?」 悠介 「それもダメだな。神術も断固拒否したから、     どっちかって言うと神って言えないくらいに半端な存在だ」 彰利 「うーおー……ほんと中途半端じゃん」 悠介 「いいんだよ、それで。“完璧”になんて憧れない。     職業が創造者で種族が神。それでいいじゃないか。     王だのなんだのって、もう疲れたよ俺は。     むしろ未来の俺が俺を殺すっていうなら、それもいいって思えるくらいだ」 彰利 「いや、それはこの俺が断固として許さん」 悠介 「そーかそーか、じゃあ修行、頑張ろうな?」 彰利 「あれ?───ギャアはめられた!!なんてひでぇことしやがるこのモミアゲ!!」 悠介 「モミアゲ言うなツンツン頭!!」 彰利 「なにをぅ!?こりゃ俺のトレードマークぞ!?     この髪型に文句があるってのかモミアゲトレードマーカー!!」 悠介 「トレッ……!?勝手にトレードマーク扱いしてるのはお前らだろうが!!     俺はべつにモミアゲがどうとかなんて、     お前らに言われるまで気にしてなかったんだぞ!?」 彰利 「気にしてなくてその素晴らしさなの!?     ……す、すげぇ……!真のモミアゲの輝きだよそれ……!極致だよ……!」 とりあえず殴っていいだろうか……力の限りに。 彰利 「あぁでも話戻すけどさ。やっぱり今の一護くんて好きになれないんだよね。     だってすげぇ偉そうじゃん。態度デカくなったっつーか。     最初はむしろ受身の喧嘩ばっかだったじゃん。     それなのに妙に喧嘩っ早くなったっつーか……     仮面を手に入れてからさらに変わってしまったというか。     思うんだがね?もし中井出が朽木白哉と戦ってたら、     彼に“卍解して俺と戦え”なんて言うよりも弱いままブチ殺してると思うんだ。     や、解ってる。それじゃ漫画的に盛り上がらないのはよ〜く解ってるよ?     でもそげな常識をブチ壊してこそ原ソウルというか……ねぇ?」 悠介 「つまり力を手に入れていい気になってる、と」 彰利 「そう。以前のキミみたいに」 悠介 「……以前の俺はしつこく言いたくなるほどいい気になってたか?」 彰利 「イエス!貴様一人で何が守れるかこのクズが!と今でも言えるくらいに」 悠介 「………」 何気に傷ついた瞬間だった。 彰利 「やっぱほどほどが一番さね。で、種族は一本。神魔竜人のキミは強かったけど、     今なら神一本のまま強さの果て目指せるっしょ?」 悠介 「いや……だからな?俺はもう好んで戦う気は───」 彰利 「修行馬鹿が何言ってんの!キミはもう世界の危機ってものに巻き込まれてんの!     だから頑張るのです!空界が危機だって時、キミは頑張れたでしょう!」 悠介 「俺が守りたいものを守るって意識を固めちまうと、またルドラが動き出すんだが」 彰利 「ヌ。じゃあ普通に修行して普通にこの世界を楽しむために!     なにせこの世界には中井出っていう邪悪な魔王が居るんだからなぁ!!」 悠介 「………」 中井出が不憫でならなった。 頼む篠瀬、唯一の妻となった今、お前が頼りだ……! 黙ってないでこいつを止めてくれ! 夜華 「………」 ああ……ダメだこいつ。 彰利が自分を見てないからって、今が好機ってばかりに彰利の百面相をうっとり眺めてる。 俺の視線にも気づかないほどだ……ダメだな、もう……。 悠介 「はぁ……」 彰利 「なに溜め息なんかついてるのダーリン!!」 悠介 「ダーリン言うな!!」 騒ぎながらも歩く時間が続く。 が、ようやく見えてきたエトノワールに安堵した途端にこれである。 ……俺、ルナと一緒の方がむしろ気が楽かもしれない……。 Next Menu back