───時空放浪モミ列伝『第三章◆ゲボェリーナ悠介』───
【ケース468:晦悠介/鎌と魂の関係】 彰利 「うーりゃうーりゃ!!」 悠介 「せいやせいや!!」 みさお「チェスタチェスタァーーーッ!!」 明日のための修行その一。 重力木刀での素振りの鍛錬。 ……いや、そもそも今自分たちが居る場所自体が既に“明日のため”になってないんだが。 悠介 「ところで……どうして俺達は冥界に来てまで素振りをやってるのかな……」 彰利 「そりゃおめぇ……アレだ。     キミはよくても俺の鍛錬が足りんから付き合ってもらってるんだろうが」 悠介 「そうじゃなくてだな。ここでやる意味はあるのか?と訊いてるんだよ」 彰利 「そりゃおめぇ……アレだ。     ゼノの野郎を仕留めとかねぇといくらあのクズを消しても、     結局未来において惨殺劇場だろうが。     俺ゃ俺自身が月の欠片になるのなんて冗談じゃあ……ねぇぜ!?」 悠介 「………」 ようするにそういうことらしい。 今現在俺達はゼノ討伐のために冥界に来ていたりする。 冥界へのゲートは彰利が死神王の力で強引に開けたが、 一緒に来た俺とみさおは場違いもいいところだ。 ……特に俺は、冥界の空気に当てられて気分が悪い状態でもある。 神になってからはこういうのが辛い。 神としての力があがれば、まだ平然としていられるんだろうが…… みさお「父さま、顔色が優れないようですが……」 悠介 「い、いや、なんでもない……」 ……などとモンゴルマンをやっている場合ではなく。 悠介 「ふう……」 みさおは神魔側だから平気のようだ。 俺は本当にダメだ、空気吸うだけでも少しだけ辛く思うくらいだ。 情けない話だが、ゼノのことを早々に解決してもらうしかなさそうだ。 彰利 「さてと。そィじゃあ…………ゼノって何処居るんかな」 悠介 「そこからかよ!!」 彰利 「ヒィッ!?ゆゆ悠介が鋭いツッコミを!?」 みさお「なんだか……懐かしい感覚ですね」 悠介 「懐かしがってないでなんとかしてくれ……。神側の俺に冥界の空気は辛い……」 彰利 「オウコラテメェ散々いろいろな苦行に耐えて強くなったくせに空気一つで辛いだな     んてどこまで情けねぇんだコラテメェオウ?」 悠介 「どう思われようが構うかっ!辛いもんは辛いんだよ!」 彰利 「オオウ……」 みさお「……父さまがよっぽど通常人らしい言葉を……」 だから……感心されても嬉しくないって言ってるんだが……。 うおおダメだ……頭痛いし寒気はするし…… インフルエンザにでもかかったかのような気分だ。 彰利 「そんなアナタに愛情一本、タミフルドリンク」 悠介 「お前はなにか!?俺にマンションの屋上から飛び降り自殺してほしいのか!?」 彰利 「ノー!むしろ素っ裸になって車に跳ねられてくれ!!」 悠介 「全力でお断りだたわけぇええっ!!     そこは普通『そういう意味じゃない言って』とか返すところだろ!?」 彰利 「俺はキミのそういうアグレッシヴなところを見てみたいが」 悠介 「勘弁してくれ……マジで……」 弱った状態でのこいつの相手がどれだけ疲れるかを、 俺はヒロラインでかなり思い知らされた。 ……もちろん、現状においてもなんだが。 感情が安定化を見せる一方で、 こういった言い争いも楽しさの一つだってことを再確認できた時は素直に嬉しかったさ。 だがここぞとばかりに力技で人をからかいまくるこいつと一緒となると…… い、いや、楽しいのは認めよう。 けどその分だけ疲れるのも確かなわけで…… みさお「……顔色が……」 悠介 「い、いや、なんでもない……」 だからモンゴルマンやってる場合じゃなくてだな……。 彰利 「しかしまあキミも結構丸くなったね。ちょっと前だったらナックル一閃ぞ?」 悠介 「心境の変化があったんだよ……」 彰利 「ちょっとジャイアンなダーリンもステキだったんだけどね。     まあいいコテ、それもダーリンの魅力の一つさ」 悠介 「ダーリン言うな……」 というかこいつは前に進む気があるんだろうか。 彰利 「しっかし改めて冥界に来たけど……戸魂界とは似ても似つかない場所だぁね」 みさお「そうですね。なんというかこう、静かに凶々しい感じです」 悠介 「………」 言われるままに景色を見渡す。 ゲートを開いて入った先から、やけに見渡しのいい場所に下りた俺達だが─── ここでこうして見渡す限り、ブリーチのような清潔感のある場所には到底思えない。 あそこが和風ならこっちは洋風といった感じだ。 建物があるわけでもなく、ひたすらに洞窟めいた世界が存在している。 見上げた空には鬱葱とした暗雲と、常時そこに点在しているらしい冥界の月、冥月がある。 それをみさおは、なんだか紹介されていたものを見つけたといった風情で見上げていた。 彰利 「今度改装工事でもしてみようかね。     で、シェイドの野郎にジジイっぽい格好をしてもらって幻柳斎先生と呼ぶの」 悠介 「お前は……。冥界の秩序をメチャクチャにするつもりか?」 彰利 「冥界は実力主義だからね。     ここでシェイドをブチノメしてみせりゃあここでのルールはアタイになるのよ」 もちろんそげなことはせんけどね、と彰利は続ける。 聞いてる俺はそろそろ吐き気を催してきているんだが…… 話が続く限りは耐えなきゃいけないんだろうか。 ……うん、それ無理。 俺は静かに親友と義娘に手を挙げてみせると、ゆっくりとその場から離れ…… 何処に続いているのかも解らない、長い長い岩柱の隅で豪快にブチマケタ。 悠介 「うげぇえええ……《ゴボシュッ、キラキラ……》」 彰利 「キャアアアアアアア!!?神聖───ん?神聖?     邪悪なる冥界でなにしてくれちゃってんのモミアゲこの野郎!!」 みさお「わ、わわ……!父さま大丈夫ですか!?     ですからあれほど顔色が優れないようですがと訊いたのに……!!」 彰利 「アタイこれからこげにゲロリーナな世界と繋がってバトらなきゃならんの!?     ブラックラインゲートの度に酸っぱい香りを思い出せと!?     なんてことをしてくれたんだ親友この野郎!!でも耐えることだけじゃなく     きっちりブチマケられる今のキミがなんだか身近に感じられるのは何故だろう」 悠介 「ゲロッ……げふっ!ゲロ吐いて親近感覚えられても……嬉しくねぇよ……!!」 彰利 「いや……つーかほんとキミザコね」 ほっといてくれ、本当に。 彰利 「俺ャアちと不安になってきたよ?キミホントにバトれる?     よもや鍛えた身体能力の経験も神魔状態や神魔竜状態で積み重ねたものだから、     すっかり無くなっちまったとかそげなことないよね?」 悠介 「………」 彰利 「僕の目を見るのだ大友くん!!」 悠介 「《ガッシィ!!》だぁ馬鹿っ!!急に肩を───ヴ」 彰利 「ア───」 彰利が俺の肩を掴み、強引に振り向かせたまさにその時。 俺の気持ち悪さは限界を超越し、俺は……特になにも入ってない胃袋の中身を、 振り向きザマに解放した。  ゲボォッシャアア!!! 彰利 「キャアアアアアアアアアーーーーーーーッ!!!!」 響き渡る親友の絶叫。 冥界では珍しいらしい叫び声は高い位置にあるその場の空気を揺るがし、 同時にそもそも感情が存在しないとされる冥界に、 “これが感情YO……”というヘンテコな暖かみをプレゼントした。 ───……。 ……。 彰利 「訊いてゲボェリーナ♪ちょっと言いにくいんだーけど♪     いいから聞けゲボェリーナこの野郎♪……とりあえずエチケット袋創造して……」 悠介 「素直にすまん……」 ゲロというよりは胃液まみれな俺達は、物凄く沈んだ空気の中で項垂れていた。 ゲボェリーナの名称に物凄くツッコミを入れたかったが、そんな空気ではない。 みさお「父さま……意外と我慢が出来ないんですね……」 悠介 「妙に誤解を受けそうな言動は控えてくれみさお……こいつが突っ掛かってくる」 彰利 「キャアこのゲボェリーナ!!     我慢が利かないきかない貴様は今宵どんなおなごを襲うの!?」 悠介 「な?」 みさお「嘔吐物まみれにしたからって、怒っていい時は怒るべきだと思いますが……」 悠介 「いや、いいんだ……これは試練だ。     過去の俺に打ち勝てという試練と俺は受け取った。     だからそこ、俺の言葉に合わせて上着を艶かしく脱がないように」 彰利 「ええ!?だって今のディアヴォロの真似っしょ!?     貴様が脱がんから代わりに脱いでやったのに!!」 悠介 「いらん!!いいからゼノを探してくれ!もうほんと頼む!!」 彰利 「えぇ〜?今すぐかぁ〜?オラ腹減ったぞぉ〜〜っ」 悠介 「………」 彰利 「あ。頭抱えた」 悠介 「わざわざ説明せんでいい!!」 彰利 「じゃがじゃんっ!!」 みさお「クロマティ……!!」 悠介 「…………」 みさお「《かぁああっ……》い、いえあの……すいません……」 言われずとも俺がクロマティ高校の前田くんに見えたらしい。 あっさりと彰利のリズムに乗ったみさおは、 俺の悲しみを込めた視線を受けて真っ赤になって俯いていた。 彰利 「よっしゃ、ほんじゃまあ本格的に探してみるかね。     俺も死神どもに卍解教えるために何度か来てるから、そう迷うこともあんめぇ」 だったら最初からそうしてくれ。 そう思ったが、ツッコんだら負けだな……と、いい加減学習してきた。 るんららぁ〜♪と奇妙なくりくりボイスを吐き出しながら、 スキップで先頭を仕切る彰利を追うように歩く俺。 溜め息が漏れないだけ、俺も成長したって考えていいんだろうか。 しかし成長したと認められても、ちぃとも嬉しくないのはどうしてだろうな。 みさお「それにしても広いですね。これは何処まで続いてるんですか?」 彰利 「世界の果〜てまで♪ごめん、ほんとは時間だ。     そうじゃのう、ここは一つの世界じゃきん、果てらしい果ては存在しとらんよ。     空界と同じじゃわ。滅法広くて世界一周可能。でも下層とかが存在して、     そのいっちゃん下の深いところにシェイドが居る」 みさお「へえ……そうなんですか」 彰利 「オウヨ。実際こげな階段下りるより     飛び降りたほうが早いとか思うだろうけどね、     順序踏まなきゃいけない場所もあるから面倒なのよねィェ〜〜」 彰利が言うには、冥界は横の広さより下への深さの方が大きいらしい。 奈落の底とはよく言ったものだが、そんなに深くしてなにがしたかったのかは不明だ。 横の幅はせいぜいで……そうだな、ディルゼイルの背中に乗って飛行してもらったとして、 空界の半分もかからずに一周出来るんだそうだ。 彰利 「さ、着いたぜ?」 と、ここで彰利が俺とみさおに向き直ってニヤリと笑う。 着いたもなにも、ただ黒い渦が存在しているだけだが。 彰利 「冥界ってのはやっぱ歪んでんのよ。狭界ほどじゃあねぇと思うけどね。     なんつーのかね、いろいろ次元の穴が繋がってるわけよ。     こういう黒い渦に入ると、全く別のところに飛ばされるワケ。     そうさね、サガフロンティアの麒麟の空間思い出してみ?あんな感じ」 悠介 「……あれか」 だとすると非常に面倒だな。 あんな場所を行き来するのは暇人がやることだと思うんだが。 みさお「それで、この渦は何処に繋がってるんですか?」 彰利 「オウヨ、ハンターが居る場所に繋がっとる。     今もいろいろと死神と擦れ違ったりしてたけどね、     あいつらは地界で言う通行人みたいなもんだ。     死神としての力も満足に無いような最下級戦士だぜ」 悠介 「それは既に戦士じゃないだろ……」 彰利 「え?あれ?ギャア言われてみれば!!俺様うっかり!超うっかり!!」 みさお「通行人ですか……鎌は持ってないんですか?」 彰利 「あ……俺のリアクションは普通に無視なのね?     まあいいや、持っとるよ。ホレ、なんつったっけ、ブリーチにもあるっしょ、     十三隊に入れない下級死神が持つ、えーと、浅打、だったっけ。     あれと似たようなもので、能力も意志も成長率も一切ない鎌を持ってる」 悠介 「ただの大鎌ってやつか。それはやっぱりどう頑張っても成長しないのか?」 彰利 「オウヨ。シェイドがそう言ってたし、     アタイも持たせてもらったけどちぃとも成長せん。     死神王特権で強引一時成長を行使してみても発動せんし。     だからね、こりゃダメだと思ったわけですよ」 そんなもんなのか、と思考。 だがべつのこともやはり考えてはしまうもので、 だったらその浅打めいた鎌以外の、 成長率を持った鎌ってのはどっから支給されるもんなんだ? そしてそれは死神じゃなくても持ち主とともに成長するもんなのか?と。 考えてみればおかしな話だ。 そんなものが支給される理由が見つからない。 とりあえず死神だから鎌か?……安直すぎるだろ。 悠介 「今、それってあるか?」 彰利 「ウィ?おお、そげなもんなら俺が出せるぜ?冥界に居る時のみだけど。     ん〜〜〜〜っ……ホレ」 悠介 「ん……」 シュボン、と彰利の手の平に出現した大型の鎌を、まるで創造だなと思いながら受け取る。 が……やっぱりただの鎌、だな。 なにがどうというわけでもない。 冷たく無機質、ただ重いだけの塊みたいなもんだ。 悠介 「これはお前がイメージして出すのか?」 彰利 「オウ?いやいや、こりゃね、実際ランダムなんですわ。     俺がカタチをイメージするとか、そんなキミの創造めいたことは出来ないよ。     完全に“この世界”から齎される武器さね。     で、その宝物庫みたいなそれは死神王じゃなきゃ開けない。     ま、そりゃ“俺が開くゲート”から取り出したものだから、     厳密に言やぁ我らの時間軸から取り出したものってことになるんだけど」 ……なるほど。 ようするにどういう経緯か冥界自体に存在している、 鎌の宝物庫から鎌を取り出すことが彰利には出来て───待て。 悠介 「なぁ彰利。その宝物庫って───」 彰利 「ご察しの通り、俺達より遙か先に死んだ月の家系の魂だ。     そいつらの魂の裡に眠る死神自身を鎌ってカタチにする。     だから意志もあるし成長もするし、それぞれが別のカタチをしてる。     鎌が支給されるようになったのはこれでも最近の方だ。     それまでの死神ってのは役立たずと断ぜられた死神自身を     ウィルヴスかシェイドか錬成死神が鎌に仕立てたのを使ってた。     だから家系の者の魂じゃなくてもそれだけの力を備えてたし、     意志が通じ合えばそれなりに強くなれた。     ゼノが急成長を遂げたのだって、人間の魂を食らいまくってたのはもちろん、     あいつが持つ闇の鎌がゼノの闇と波長が合ったってのが大部分だろ」 みさお「それで……ゼノさんの鎌を作ったのは?」 彰利 「ウィルヴス=ブラッドリア。前死神王にして過去最強の死神王だね。     楓と融合してからは極端に力が落ちたそうだけど。     それ以前のウィルヴスはルドラとタメ張れるくらいの実力を持ってた。     あ、ここで言うルドラってのは創造神の方のルドラね?」 悠介 「ああ、解ってる。かつては親友同士だったらしいな」 彰利 「信じらんねぇよね、あのルドラとだよ?命がいくつあっても足りねぇっての」 記憶としてしかよく知らない。 未来の夢の中、逝屠と対面した時に引き出したルドラの記憶。 その中でしか、あいつの過去を唱えられるものは残ってない。 それでも、それを知りたいとは思わなかった。 ルドラ……ソードにはソードの生き方があったのだ。 それは、きっと俺には関係のないものだ。 そして知らなくてもいいことだろう。 みさお「あの、でも鎌は普通の鎌しかもらえないんですよね?」 彰利 「んにゃ、この冥界にはランクがあるのをお忘れかい?     ゼノはハンターになることで鎌を得て、     それとともに成長していってハンターの一位に立っておるのさ。     フレイアと違って最初から強かったわけじゃないからね。     ちなみにフレイアはシェイドに作られた時、すぐに鎌を渡されたらしいぜ?」 悠介 「ああ、それは想像がつく」 けど、それとは別に気がかりなことが一つだけあったりする。 それは……この鎌が、なにを代償に作られたものなのか、ってことだ。 上位の死神が持つ鎌が死神、または月の家系の者の魂から作られているのであれば、 この鎌は何を糧に作られ、宝物庫にあったというのか。 俺はそれが気になっていた。 悠介 「なぁ彰利」 彰利 「あ、それはねダーリン。お亡くなりになり、     転生なんて冗談じゃねィェ〜とお叫びになる者の魂を鎌として作っておるのさ」 悠介 「知ってるんじゃねぇか!!」 彰利 「おう知ってるとも!!知らないと言ったかネ!?」 いや……そりゃ言ってないが……! 彰利 「まあ別に転生を嫌ってようがいまいが、鎌になるかはランダムさね。     転生したって愛しいあの人のもとへは戻れないとか、     親不孝しちまったなぁとか、そんな感情も案外消されちまうからね。     シェイドあたりが面白半分に作らない限りは、まあ大体精製はされんよ。     その鎌だって、宝物庫に残ってるノーマル鎌のファイナルだし」 悠介 「そうなのか?」 彰利 「オウヨ。残ってるのは上位死神用の鎌ば〜っかり。     月の家系のやつらって案外ヘタに能力持ってる所為で、     生前よろしくない行為してるのが多いから。     その所為か転生されずに鎌になるってケースが多いのよ」 なるほど、それは解る気がする。 悠介 「………」 となると……この鎌はなんのために作られたんだろうな。 渡すべき死神が居ないから宝物庫に一本だけ残ってたんだろうし。 彰利 「ホレ、まあとりあえずハンターワールドに行きますよ」 悠介 「あ、ああ、そうだな」 みさお「話し始めると本当に止まらないのですね、父さまは」 悠介 「知りたいことは知っておいた方がいいと思わないか?たとえ吐きそうでも」 みさお「真っ青な顔のままでそういうことを言うのはやめてください」 ごもっともだな、ああごもっともだ。 そんなことを考えつつ、彰利が先んじて黒渦の中に入る景色を見届け、 次いでみさお、俺の順に渦に入る。 先にどんなものがあるのかなんて解らないが─── 滅多に来れない冥界だ、少し知ってみるのもいいだろう。 ……この機会を逃したら、二度と来たくなくなりそうだからな……。 【ケース469:晦悠介(再)/冥王ハーデス獣肉球編】 そうして渦に身を投じること数秒。 辿り着いたそこはいやに殺伐とした場所だった。 見える景色は広い。 また別の“世界”にでも飛んだのかと思うほどだ。 そんな景色にまた死神たちがぞろぞろと居るわけだが、 そいつらは先ほどの一般死神とはまるで雰囲気が違う。 喩えるなら“訓練を受けた兵隊”とでも言えばいいのだろうか。 先ほどの死神たちとこの死神たちを見ればなるほど、 ハンターっていう名前も嘘じゃないって思える。 彰利 「ところでキミ、その鎌どうする?」 悠介 「うん?あ、ああ……これか」 手にしている大鎌を見下ろす。 彰利が言うには、人の魂から出来たものでここまで大きい鎌ってのは珍しいんだそうだ。 だからって草刈鎌に使えるかっていったら……無駄にデカくて使えないだろうな。 彰利 「ただ見るだけだったんなら宝物庫に返すけど」 悠介 「んー……」 重さはかなりのものだ。 けど重力修行をするにはあまり向かない。 成長率がないんじゃあ、ただ邪魔になるだけだと断言したっていいくらいだ。 ……鎌での戦い方の修行をするならまだ別だが。 さてどうするかな……っと、そうだ。 悠介 「よし、中井出に渡そう」 彰利 「うおうなんでまた?」 悠介 「いいか?これをヤツに渡す時、こう言うんだ。     “人間でも卍解が出来る鎌だ”と。そうしたらお前……なぁ?」 彰利 「面白そうだ!是非やろう!!」 鎌を構えつつ“卍!解!”と叫ぶ彼の姿が脳裏に浮かんだらもうダメだった。 なるほど、俺も随分丸くなりつつあるかもしれない。 そしてそれにあっさりとノってくる彰利も相当なのだろう。 みさお「中井出さんってとことんみんなに……」 彰利 「オウヨ!慕われてるぜ!?」 みさお「あれで慕われてるんですか!?」 悠介 「みさおよ……中井出は提督だぞ?提督を邪険にする兵士が何処に居ようか」 みさお「目の前と、戻った時代に腐るほど居ますが……」 ……そうかも。 悠介 「だが間違うなみさお。俺達は中井出のことが嫌いなわけじゃあ断じてない」 彰利 「むしろいろいろ感謝してるくらいだぜ?退屈しないところとか……特にな!!」 みさお「そこだけって言ってるように聞こえますが」 それも、そうかも。 悠介 「けどな、やっぱり全力でなんでも言い合える関係ってのはいいもんだ。     それは俺も心の底から認めるよ」 彰利 「オウヨ!やつら相手に遠慮なんてしてたらおめぇ……アレだ、逆に食われるぜ?」 みさお「冗談に聞こえないから性質が悪いですね」 実際そうなのだから既に性質は悪いだろ。 悠介 「それで、これからどうするんだ?」 彰利 「そこいらのハンター捕まえて訊いてみるわ。おいてめぇ死神この野郎!!」 悠介 「ちょっと待てぇっ!!」 みさお「声かけるにしてももっと言い方ってものがぁああーーーっ!!」 あーだこーだと思案するより先に、彰利がそこいらの死神の肩を掴んで向き直らせた!! ───途端に振るわれる大鎌!!  ヒュオゾギンッ!! 死神 『───、……』 彰利 「ハッハァ、無駄だねぇ」 だが、刃は彰利の薄皮一枚さえ通さなかった。 軽く持ち上げられた小指一つで簡単に止めてみせたのだ。 ……ていうか普通こういう場合は人差し指を使わないか? 彰利 「弱ェエエエな、この時代の死神はよォ」 死神 『……何者だ、貴様』 彰利 「客人だ。ちぃとゼノの野郎を探してる。何処に居るか知ってるか?」 死神 『───、知識がなっていないな。死神であることを疑う』 彰利 「おお予想通りの返事。そらね、死神同士で誰が何処に行ったなんて訊くのは     異端以外のなにものでもねぇわな。     だが俺は異端でいい。感情が無いなんてつまらねぇからな」 死神 『異端は死に殉ずる。刹那に死ね』 彰利 「オホ?殺せる気かえ?この俺を。     鎌の名前さえ知らないハンターの下位死神風情が」 死神 『鎌に名など不要だ。武器は振るう者さえ強ければそれでいい』 彰利 「そうかえ……だったら……よぉくその目に焼き付けとけ」 悠介 「おい、彰利……?」 みさお「目的忘れてませんか?わたしたちの目的は───」 彰利 『まあよ、待っといで』 言いつつ既に死神王化してる我が親友は、黒までは行使しないままに鎌を取り出す。 取り出したのは───見たことのない鎌だ。 彰利 『躙り殺せ、“惨殺覇刃(アルサイン)”』 ギヂィッ───パギィンッ!! 死神 『───!?』 動揺が誕生する。 ヤツが目にしたものは変異だ。 いくら名前がついてようが鎌でしかないそれが、カタチを変え能力を変える。 そんな様を初見にし、動揺できないでいられる者などよほどの感情無しだろう。 彰利 『……ほれどうした、もう……始まってるぜ?』 死神 『───』 ギチリ、と死神が鎌を持ち上げる。 それに対し、彰利は凶々しい柄の無い巨大な刃を振り上げる。 現代において卍解させた適当な死神の鎌だろう。 コピーしたであろうそれは、 見ているだけでも吐き気を催すほどの、気味の悪いものだった。 彰利 『あァところで……死神の鎌の名前。書きは漢字で読みが横文字。     おかしいと思ったこたァないか?こいつが戦う覚悟決めるまで話でもしてやる。     まぁ結局そんなもんは簡単なんだが、ようするにどことも繋がってるここでは、     どんな名前を並べるよりも横文字の方が唱えやすかっただけだ。     死神の名前然り、鎌の名前然り。漢字ってのは外国人側にしてみりゃ捉え辛い。     だが不思議なもんで、     どこの国でもローマ字や英語ってのは案外知れ渡ってやがる。     本当に簡単な理屈だ。     だったら全ての魂が集うここでは読みの全てを横文字にしちまえばよかった。     真名を知るのは本人だけでいい。言って聞かせる理由もねぇからな』 悠介 「いや、いきなり語られてもな」 彰利 『知りたがってると思ったから言ったンだが……まあいい。     死神の名前ってのもそんなもんだ。     黒髪を持つ者が大半なのに名前は外国的なもの。それは呼びやすいからなんだと。     日本人である俺達からしてみりゃけったいな話だが───』 死神 『───、』 彰利 『名乗っておく。俺の名は弦月彰利。裡に眠る死神の名はレオ=フォルセティー。     死神としての名はアラバンツァ=ガランシア。……お前を殺す、男の名だ』 なにやら更木隊魂が発動。 殺す相手には自分の名を名乗る……素晴らしい心構えだが、 アバランツァなんとかってのは初耳だ。 死神 『……ハンター23位、アルガ=メトロス』 彰利 『じゃあ死ねゾガァッフィィンッ!!!! …………。 悠介 「……一撃かよ、おい……」 みさお「せっかく名乗ってくれたのに……」 彰利 『うるせー!!アタイが聞きたかったのは名前じゃなくてゼノの居場所YO!!     あげなヤツのことなんか知りません!!』 恐らく“斬ること”のみに特化した鎌が、カタチを戻して彰利の体に沈んでゆく。 斬滅された死神の魂は何処に飛ぶんだろうな、なんてことを考えたが……そうだよな。 死神は死ねば消滅するだけだ、なにも残らない。 とはいえ、まだ亡骸はそこにあるわけだが─── 彰利 『それにホラ、切り刻んだこやつも、しっかりアタイの糧にするし』 言いながらズズッチュゥウウウンと死神を吸収、黒の中で咀嚼する彰利。 だから……その吸収の仕方はやめろというのに。 みさお「うぅっ……容赦ないですね……」 彰利 『俺ゃもう吹っ切れたよ?人間なんぞとっくにやめてるし、     死神としても黒としてもこういう能力持ってるなら、     どれもこれもを使いこなせなきゃ持ち腐れだ。だから俺は死神らしく生きるぜ?     あ、俺の意識内での死神らしくって意味ね?』 みさお「で、でも簡単に食べちゃうのはっ」 彰利 『甘し!そんなことで未来を目指せるとお思いか!?     吹っ切れたと言ったでしょう!     空界でモンスターとかを散々食っておいて死神や人は食わない?     馬鹿言っちゃいかん。モンスターだからOKだとかそんなのは俺は嫌いだぜ!!     なんてエゴだ!それだったら人間も神も死神もそれなりの覚悟を決めるべきだ!     モンスターを思い出しなさい!仕留めた生き物などはきっちり食ってるでしょ!?     好き嫌いなど無い!人であろうが神であろうが死神であろうが食っておる!     もちろん同じモンスター同士でも食うだろう!     俺がなろうとしているのはそういう“獣”(ジュウ)的なアタイなのYO!!     人を殺せば心が痛みますね。でもモンスターを殺しても心が痛まない。     それってエゴだと思うのよ俺。卑怯じゃない?     最初から“モンスターは殺していいもの”って決め付けてるってことじゃん。     俺はそれが許せねぇ。だから容赦はしませんよ?』 みさお「うわー……」 彰利 『人はモンスターより優れているから死んじゃいけない!なんて人間の理論だろ!     モンスターにはモンスターの社会があるのだ!     そこに介入しては好き勝手に口八丁を並べる者ども……     自分の都合しか考えちゃいねぇじゃねぇか!     だから僕はとりあえず全生物を敵と思うのはどうでしょうと思ったわけですよ』 みさお「全生物って……死神もですか?」 彰利 『オウヨ!!実行するかは別として、とりあえずはエゴは捨てましょ?って話。     モンスター殺しは頷けても人殺しだと罵倒を飛ばす……そんなのは無しだ。     もちろん俺だって心は痛むさね。元人間なんだから当然さ。     だがね、対面したからには同じ死神だって食ってみせるよ俺は。     ……そもそも対面しなきゃ食ったりなんてしないわけだし』 そらそうだが。 こいつも嫌な方向で曲ってきたもんだ。 ようするに対面しなければソイツは仲間や知人や通行人。 だが敵対すればそいつは敵で、殺しても食われても文句を言われる筋合いはないと。 そういうことを言いたいのだろう。 そしてそこまで言うからには─── 彰利 『もちろん俺も命ァ殺られる覚悟は出来とるよ!?     だってアタイは───漢じゃきん!!任侠と書いてオトコと読むきん!!     たった一夜(ひとよ)の宿を貸し 一夜で亡くなる筈の名が     旅の博徒に助けられ たった一夜の恩返し     五臓六腑を刻まれて 一歩も引かぬ“侠客立ち”     とうに命は枯れ果てて されど倒れぬ“侠客立ち”     とうに命は枯れ果てて 男一代“侠客立ち”』 やっぱり、こいつも殺される覚悟は出来ているってことだ。 態度はふざけているが、目が本気だ。 彰利 『そんなわけだから、ヒロラインでゼットくんと貴様が俺と対立した時───     その時は全力で潰しにかかるからそのつもりで』 みさお「……敵である限りは手加減無用というわけですね。解りました」 そしてみさおも、そんな覚悟はとっくに出来ていた。 そして俺は───!……気持ち悪かった。 悠介 「なぁ彰利……早く進まないか……?」 彰利 『ギャアもう!今アタイがステキな覚悟を見せてるところでしょォオオ!?     なにキミ!今までの仕返しでもしたいの!?』 悠介 「それはもちろんだが、正直辛い……」 彰利 『グ、グゥムッ……素直に正直な貴様が愛しい……!     まあよかギン、したらどんどん行こう。』 悠介 「……はぁ、ふぅ……話し掛ける度に殺して吸収するなよ……?」 彰利 『やだ』 悠介 「少しはためらえよ!!───ヴ《ごぽり》」 みさお「ひやっ!?」 彰利 『ゲゲッ!?こりゃやべ《ガシィッ!》オワッ!?     あれちょっと親友この野郎!?なんで逃げようとしたアタイの襟首掴むの!?     アタイが傍に居たら逆に辛くなりますよね!?     いや衿広げないでよなにするつもりなん!?───はうあまさか!?     イヤァアアアアアアやめてぇええええっ!!!     アタイの黒衣はエチケット袋じゃギャアアアアアアアアアアアッ!!!!!』 ……その日。 俺は恥の上乗せを涙とともに吐き出すこととなった。 そして泣いた。 胃液まみれになった親友と一緒に、かなり本気で泣いた。 情けないったらありゃしない……と。 Next Menu back