───時空放浪モミ列伝『第四章◆危機来たりなば、死期遠からじ』───
【ケース470:中井出博光/風のステッグマイヤーさん】 中井出「て〜んててってって〜ん♪」 藍田 「ヒョ〜ヒィ〜ヒョヒホォ〜〜♪」 中井出「む〜か〜し〜〜、ばな〜〜〜しを〜♪する〜〜ほど〜、生きた〜の〜か〜な〜♪」 藍田 「ふ〜ざ〜け〜〜〜合う〜、だけじゃ〜な〜く〜て〜い〜〜まを〜〜、     語り〜合〜え〜る〜〜♪」 ナギー『…………ヒロミツ、音痴なのじゃ』 中井出「ほっといてよもう!!」 さて……あれからどれほどの時が経っただろうか。 火山の加工にキャンプを張った僕らは、 ずっとここでこうして交代制で時空の歪みを待っておりました。 ……え?恐竜に襲われなかったのかって? はっはっは、迫り来る巨体全てを火口に放り投げてやったわ。 中井出「しかし……全然来ないな……」 藍田 「そだな〜……」 ナギー『なのじゃ〜……』 中井出「あー……そろそろ交代の時間だな……。丘野起こしてくる」 藍田 「おー。じゃ、次はナギ助の番だな」 ナギー『うむ、たっぷり眠るのじゃ』 ナギーの返事を耳にしながらテントに潜り、そこで寝ている丘野くんをゆさゆさと揺らす。 言っちゃなんだが……丘野って寝てると女みたいな顔してる。 目ェ開けるとネコ目だし……いやそれは関係ないか。 中井出「丘野〜?丘野〜」 丘野 「う、うう……やめろよ睦月……俺今日は会社休む……」 中井出「オイ」 寝言でそこまで言うとは……なんと見下げた元社長よ。 だがその意気やよし。 ナギー『ヒロミツ?丘野は起きたのかの?』 中井出「いや。だがこんなのは一発だ。すぅっ……起床ォオッ!!」 ババァッ!! 丘野 「イェッサァッ!!」 ナギー『ふわっ!?お、起きたのじゃー!!』 我が掛け声に誘われ、丘野眞人……覚・醒……!! ババッと一気に起きた丘野くんは敬礼のポーズのまま、 しっかりと我らの前に立っていた……! ナギー『相変わらずヒロミツの号令は物凄い力を発揮するのじゃ……!!     おおそうじゃ丘野、もう交代の時間なのでの、布団を譲ってほしいのじゃ』 丘野 「………………」 ナギー『……?丘野?』 丘野 「……ぐぅ《ぐらり……ドグシャアッ!!》おぶぉえっ!!」 ナギー『ひゃわぁっ!?』 ナギーが交渉に出た───が、 どうやら寝たままだったらしい丘野くんは夢心地のままに転倒!! 出しておいた荷物に見事脇腹から落ち、その場でもんどりを打ち始めた。 ……そりゃそうだ、 なにせこの博光が散々と掻き集めてきた鉱石が大半の場所に落ちたんだ、ただでは済まん。 丘野 「な、なにごとかァアア!?敵襲!?もしや敵襲か!?」 中井出「……一応寝惚けてたりすると標準語に戻るのな」 丘野 「なにぃ!?……おお提督。     どしたんだこんな朝っぱらから……ていうかここ何処?」 中井出「現実逃避したい気持ちも解らんでもないが現実を見るのだ丘野二等!!     ここは白亜紀中期のアルゼンチン!!     ……ではなく、散々と海を渡った先のどっかだ!!     現代で言う日本付近なのは確かだと思うんだが……     ていうかその頃って日本大陸あったのか?まあいいや。     ここに大陸があるってことはあったんだろうさ。     日本じゃなかったら大変だけど」 今は奇妙に高性能なナビマップに感謝だ。 まさかこんな昔の世界のマップを表してくれるなど。 ……もしかしてこのナビマップ、全世界で通じる? 丘野 「ああ……そうでござったな……。     ギガノトサウルスが生息したとされるのは、     白亜紀中期のアルゼンチンだったでござる……。     そのことに気づいた拙者たちは速度マックスで大陸という大陸を越え、     ついにここに辿り着いたんでござったな……」 昔話がホントなら、日本列島は天瓊矛によって創造されたそうな。 よくは知らんがそうらしい。 しかしそういった時代がいつ頃にあったのかなんて知らない。 ああでもプテラノドンと空を飛ぶ翼人が某ゲームで居たっけ。 じゃあ少なくとも陰陽道とかの話は白亜紀前なのか? ……無茶ある気がする。 恐竜が居る時代じゃあまだ原人も誕生してないんじゃなかろうか。 ああいや構わん、深くは考えないようにしよう。 神話ってほんとにあったことなんだろうか……それこそ胡散臭そうだ、考えるのやめよう。 でも確か陰陽道は600何年かにあったようなことだったような……ああいやいや。 日本っぽいとこに来たってだけでここが何処なのかも結局解らん状況だ、 俺も相当に動揺が深い。 中井出「あー……まあとにかく、な、アレだよお前。     外に出てオゾン層破壊されてない陽光浴びてのんびりしようや。     ちょっと空気が獣臭いけどいいもんだぞ〜?獣臭いけど」 丘野 「獣臭い二回言ってるでござるよ二回!!     獣臭さになにか恨みでもあるんでござるか!?」 中井出「だってお前考えてもみろ……     海渡っても山越えても獣臭さで満たされてる世界だぞ?     山の上でも水の中でも獣臭いってどういうことだ?獣パークかここは。     獣満載ですか?自然の香りはまったくゼロですか。     空見上げりゃあプテさんが飛んでてよぉ、     下を見下ろせば人肉求めて鼻を利かせる肉食獣がうようよですよ。     肉食いたいなら共食いでもしてなさい。     そして願わくばそのまま絶滅してください。どうせ火山の噴火で絶滅すんだから」 丘野 「おお、目が死んでるでござるな。     そういえば提督殿はまだ一度も寝てなかったでござるな。     まるで銀魂の銀さんのような目をしてるでござる」 そう。 俺はもうどれくらい寝てないんだろうか。 正確に言えば寝ようとしても寝れないんだが。 その原因ってのが案外どうしようもないものであり……ああいやいや、 どうしようもないというよりはどうしたらいいのかが解らんと言うべきだ。 ああ、回りくどい言い回しはこの際却下しよう。 今現在俺の中で、狂いし者の野郎が殺気立ってやがるのだ。 獣の臭いと周りには敵だらけという状況がヤツの本能を叫ばせてるのかもしれん。 ゲームの中だけじゃなく、現実世界でまでしっかりと暴走しそうなのだ。 お蔭で眠ろうとすれば“縮こまってんじゃねぇ”とうずき、 敵を前に後退ろうものなら“男に後退の二文字はねぇ”など、 それはもう人の意思を妨害しようと躍動しやがるのだ。 さらに警告を無視して逃げ出したり眠ろうとしたりしようものなら、 実力行使で人の体をのっとろうとしやがる。 つくづく性質が悪い。 中井出「なぁ丘野二等……男って生き物はそこまで逞しい生き物なのか……?」 丘野 「質問の意図がまるで解らんでござるが」 しかしながら乗っ取られるのは嫌なので、ひとまずは言うとおりにしている。 お蔭で“妙に雄度が上がった”と藍田や丘野くんに言われる始末である……。 中井出(はぁ……) やっぱり以前、ティラノサウルスから逃げ出したのがマズかったんだろうか。 あれから……だよな、 軟弱的行動を取るとヤツが出てこようとしてくるようになったのって。 勘弁してほしいよなぁ、体乗っ取ってバトりたいだなんて。 一護くんの虚じゃないんだから、そっとしといてセニョール。 ……とはいうものの、実際は好き勝手に暴れさせてみたいというのが俺の本音である。 何故って……乗っ取られるままに暴れさせるのも面白いと思うが故だ。 ───だがまだ早い。 変身スキルに至ったクセに自分の意志では変身出来ず、 “覚醒”というカタチで定着してしまっているっぽいこの能力…… 発動させるならゲームの中を最初にしたい。 何故って、体がそのまんまヤツになるのなら、 ゲームの中で猛者どもと遭遇した方が面白そうじゃないか。 ここで発動してしまったら正体が俺だとバレてしまう。 それだけは回避しなければならんのだ。 中井出「うーむむ……」 しかしこのままでは睡眠不足で死んでしまう。 いっそ暴れてくれようかとも思ったが、 それでは……面白いには面白いが、正体がバレてしまう。 戦士に休みなどないってことでしょうか……ともかく辛い。 ああくそいかんな……思考回路がそろそろヘンテコになり初めてる。じゃなくて始めてる。 といった感じに頭がいい具合にトビかけていた───まさにその時!! 声  「うおわ提督ーーーーッ!!!」 中井出「ぬお!?」 丘野 「何事でござる!?」 急に外から聞こえる藍田二等の絶叫! 何事!?ってひとつしかないわ!! 予感が俺の中を走ったその時、すぐさまナギーへと向き直り、 中井出「ナギうおもう寝てる!!」 驚愕した。 なんという寝つきの良さ!実に天晴れ!! だが今はその天晴れさが憎らしい!! 遅れるわけにはいかん!遅れればこの時代で一生を過ごすことになるのだ!! そんなの冗談じゃないぞ!! 中井出「チョイヤァアアーーーーーッ!!!」 ゾババババと置いていた荷物を詰め、穏やかに眠るナギーをゾシャアと担ぐ!! そして丘野二等にアイコンタクトを通し、一気にテントの外へダッシュ!! するとそこには───!! 藍田 「提督!あれ!!」 心底驚愕しているといった風情の藍田二等が火口の上空を指差していた! 見れば、黒く歪む虚空が渦を作りだし、そこからなにかが───いや、ゼットが───!! 藍田 「丘野!掴まれ!」 丘野 「お!?お、おお!!」 しかしそんな彼には目もくれず、握手(アクセス)をする藍田と丘野くん! 俺は!?俺はどうする!?この時代ではまさにゴミと黒竜王の関係! しかし未来においては一応親友を語る間!! ああどうする!?どうするんだ俺!! 中井出(───よし見捨てよう) 今は今、未来は未来じゃきん!! 今、親友じゃないならヤツは敵!そこんところ白黒つける男ですよ俺は!! ならばこそさようならゼット!未来でまた会おう! 中井出「いくぞぉおお藍田二等ォオオッ!!!」 藍田 「おぉおおおおおっ!!!」 藍田が丘野くんを!俺がナギーを! それぞれ担ぎ、足に一閃の力を込める!! 中井出&藍田『烈風脚!!』 キィイッ───ドッガァアアアンッ!!! 発動した烈風脚が俺と藍田を一気に地面から離してゆく!! 向かう先は虚空の歪み! その過程でゼットがゴボシャアと火山の火口に落ちていったが見向きもせずにレッツゴー! さあ時空の扉よ、僕らを何処かへ連れてっておくれぇえええっ!! ───……。 ……。 ゴォオオオオオ……!!ジャキィインッ!!ドグシャアアッ!!! 中井出「おぶぅうぉえっ!!」 ナギー『ふぎゃうっ!?』 そうして何処かの時代にやってきた僕らは───……着地に失敗して脇腹を強打。 連れていたナギーとともにどこぞの丘でもんどりを打つこととなった。 中井出「オヴェェエエ……!!」 ナギー『な……なんなのじゃあああ……!!』 しかしながら隣を見てみれば、しっかりと着地できたらしい藍田二等と丘野二等。 くそう……訓練を受けた人間はやはり違うということなのか……? 中井出「うぐぐ……こ、ここ何処?」 藍田 「んあー……お?ここって───」 ヒュオオとそよぐ風……新緑の香り? 立ち上がってみれば、そこは狭っこい公園だった。 見覚えは……ある。 あるにはあるが、月詠街からは結構離れた場所にあった公園だ。 藍田 「───……越後屋公園?」 中井出「……だよな」 いつ聞いても怪しい名前の公園である。 といっても、正式な名前はもっと小難しい名前だと思ったが。 中井出「懐かしいなぁ……ここに来るの何年ぶりくらいだ?」 藍田 「中学ン時の……アレだな、“おのれ越後屋祭り”が最後だ」 中井出「あ〜、アレか」 丘野 「懐かしいでござるな、おのれ越後屋祭り」 ナギー『むう……なんなのじゃ?その……えちごやまつりというのは』 丘野 「違うでござる、越後屋祭りではなく、おのれ越後屋祭りでござるよ。     この祭りはでござるな、“おのれ”を抜いては意味がないのでござるよ」 ナギー『……、つまり、おのれ越後屋祭りが正式名称なのじゃな?』 丘野 「ござる」 そう、おのれ越後屋祭りは“おのれ”を抜いては意味がない。 ……いや、詳しい理由など無いんだが、越後屋祭りではつまらんじゃないか。 ナギー『それで、その祭りはなにをするものなのじゃ?』 中井出「うむ。おのれ越後屋祭りとは、この越後屋公園でなければ上手く運ばない遊びだ」 丘野 「目隠しをしてこの公園を歩き、台座に置かれたスイカを割るのでござる」 ナギー『スイカをか?それが何故おのれ越後屋なのじゃ?』 藍田 「目隠しする者意外の猛者どもが公園に腐るほどトラップを仕掛けるからだ」 中井出「それにかかってコケようものなら方向感覚を失い、     越後屋公園のところどころに衝突するわトラップにかかるわ、     物凄くイタイ目に合うのだ。     そうして苦労を噛み締めた者は越後屋公園に憎悪を抱く。故に“おのれ越後屋”。     目隠しした者は、それが誰が仕掛けたトラップだか解らないから、     狭くて障害物がやたらとある公園を憎むことしか出来ぬのだ」 ナギー『そ、そうなのか……恐ろしいものよの』 藍田 「トラップかぁ……殊戸瀬のトラップはほんと容赦なかったなぁ」 丘野 「特に提督殿がかかった睦月のトラップ。あれは散々でござったな」 中井出「ああ……あのアバッキオデスマスクね……」 あれは当時、本気で死ぬかと思った。 前が見えないのをいいことに砂場の前に足掬いのトラップを仕掛け、 転んだ先には水を含んだ砂場。 顔面を見事に泥まみれにした俺はよろよろと立ち上がり、 しかしさらに仕掛けられていた足掬いによって転倒。 砂場に置かれていた鉄板に顔面を強打し、 激痛とともに鉄板に自分の顔型を刻むこととなった。 ……ちなみにそのトラップが置かれたのは何故か俺の時だけであり、 のちに丘野くんよりそれが殊戸瀬二等のトラップであったことを知った。 懐かしく、とても痛かった思い出の記憶だ……。 そして鼻血が全然止まらなくて、それなのにみんなが僕を “痛い思いをしながらもエロ心を忘れず鼻血を出すなんて!”とか、 “すげぇぜ……さすがエロマニアだ!”とか言ってイジメた記憶でもある。 ……俺の扱いってあの頃からあんまり変わってねぇなぁ……。 藍田 「……あれ?けどここにあったモンゴリアン像がねぇぞ?」 中井出「こっちも、永田が破壊した筈の石像の耳が壊れてないまま残ってる」 丘野 「……とすると?」 ナギー『?』 とすると。 ここは我らが原中に進学する前。 小学か、もっと前かの時代ということになる。 ということはだ! 中井出  「あ、藍田二等!丘野二等!!」 藍田&丘野『サーイェッサー!!解っております!!』 ナギー  『ひぁっ!?な、なんなのじゃ!?』 中井出  「うむ!ではこれよりスーパーに行き、カルボーンを入手するものとする!!       イェア・ゲッドラァッ《ガシィッ!!》オワッ!?」 号令の途中に、なんとナギーが掴みかかってきた!! おお何事!? 中井出「ナギー新兵貴様!!神聖なる号令の最中になにをするかァッ!!」 ナギー『号令されても指令内容の解らんものを承服など出来ぬのじゃ!!     なんなのじゃカルボーンとは!まずそれを説明するのじゃ!!』 丘野 「カ、カルボーン……」 ナギー『!……し、知っておるのか雷電……!』 藍田 「……ナギーもほんと、俺達の行動に対する反応速度が上がったよな……」 中井出「まったくだ」 ともかく丘野二等がカルボーンの詳細をナギーに話してゆく。 我らが少年時に売られていた商品であり、 現在売っているような犬の食い物でも外国人の名前でもないソレのことを。 数々の若人どもが僅かな小遣いを消費して購入し、涙したという伝説を。 遠足のおやつにアレを買ってきた者は微妙に勇者として見られたということを。 ナギー『お、おおお……!買うだけで勇者になれるものが存在するとはの……!!     ヒ、ヒロミツ!わしもカルボーンとやらを見てみたいのじゃー!!』 中井出「うむ!そうしたいのだが大変なのことに気づいた!」 ナギー『な、なんなのじゃ!?金が無いと申すのか!?金ならあるであろ!!』 ドキリとナギーの体が跳ね上がる! まるで隠し事をしていることがバレたかのような動揺だ。 そんなにまでして見たいんだろうか。 しかしながらここで金があると言って期待させるのも……面白そうだが却下だ。 中井出「否!全然無い!何故ならここは過去の世界であり、     過去の通貨を我らは所持しておらんのだ!!」 ナギー『な、なんじゃとーーーーっ!!?ではどうするのじゃ!?     カルボーンは……カルボーンはどうなるのじゃ!?』 丘野 「……残念です……」 藍田 「現実を受け入れるんだナギ助……!     俺達は頑張ってここまで来れた……それだけでいいじゃないか……!!」 ナギー『なんなのじゃその人の死を目の当たりにした者のような言葉はー!!     ヒ、ヒロミツ、なんとか出来ぬのか!?     見てみたいのじゃ触ってみたいのじゃ食べてみたいのじゃーーーっ!!』 中井出「………」 騒ぐナギーを前に、俺は……心打たれた。 この心をなんと喩えよう……今まで、様々なところで忌み嫌われていたカルボーンが…… あのカルボーンが必要とされる時が来るなんて……。 藍田 「提督……」 丘野 「提督殿……」 見れば、藍田や丘野も酷くやさしい顔で俺を見つめていた。 ……そうか。 こんな気持ちを抱いているのは俺だけじゃあなかったのか……。 中井出「ああ……。なぁ、藍田……丘野……。嬉しいじゃないか……。     かつての子供たちはカルボーンと聞けば不味いだのなんだの……。     それがどうだ……こんなにもカルボーンを求め、悔やんでくれる子が居る……。     私は提督として……この新兵の成長が嬉しい……!」 藍田 「提督っ……!」 丘野 「提督殿!」 中井出「ああっ……!やろう……!やってやろう……!     必ずカルボーンを入手し、ナギーに食べさせてやるのだ……!!」 藍田 「イェッサー!!」 丘野 「やはり……やはり貴方は最高の指揮官であります提督殿!!」 ガッシィイッと円陣を組むように肩を抱き合った。 その時の心の一体感をどうしたら誰かに伝えられるだろう。 俺達の……俺達の思い出が、今まさに一人の子供精霊に託されようとしているのだ……!! ナギー『お……おぬしら……!わしのためにそこまで……!』 そしてそんな我らを見てナギーまでもが感動……!! さすがに涙は流しちゃいないが、 心打たれたようにじぃいいん……!と体を震わせている……! 中井出(……とりあえず食べた瞬間不味いとか言っても無理矢理全部食わせる方向で) 藍田 (ジョワジョワジョワ……!それでこそ提督だぜ……!!) 丘野 (ヌワヌワ、そうでなけりゃ入手し甲斐がねぇってもんだぜ……!!) ───で、そんな影でこんなことを話し合っている俺達は心底クズであろう。 ナギー『……?なにか言ったかの』 中井出「貴様に食べさせてやる瞬間が楽しみだと言ったのだ!!」 ナギー『そ、そうなのかの?』 藍田 「当たり前じゃないか!!」 丘野 「必ず食べさせてあげるでござるからな!!」 ナギー『おぬしら……!わしは……わしは幸せ者なのじゃー!!』 中井出(そうやって今のうちに幸せを噛み締めているがいいさグオッフォフォ……!!) 藍田 (すぐにその笑顔を絶望色に染め上げてくれるわジョワジョワジョワ……!!) 丘野 (……とりあえず〜……結局は我らもカルボーンは不味いと認めてるんでござるな) 中井出(だって不味いじゃん) 藍田 (ウソ言ってもしょうがねぇだろ?) 丘野 (いや……そうなんでござるがなぁ……) ともかく。 我らはこれからすべきことを考え、なによりもカルボーンを入手することを前提として、 このいつかも解らぬ時代を歩き始めたのだった……!! 【ケース471:晦悠介/僕らの血みどろ絵巻】 彰利 『ゼノォオオオオオッ!!ゼノは何処ォオオオッ!!?』 悠介 「だぁああやめろぉおおっ!!やめろというのにぃいっ!!」 みさお「彰衛門さん落ち着いてください!さすがにこれはぁああっ!!」 冥界を地獄と言えるのなら、今まさにこの場が地獄だと唱えよう。 ていうか誰か助けてくれ……今の俺じゃあこいつを止められない……。 彰利 『何ォオオ処だぁああああああ……!!ゼノォオオオッ……!!』 今何が起きているのかといえば、彰利が冥界にて好き放題に暴れまわっている。 ただそれだけなんだが、言葉で表すのと現状とは案外差があるものだと改めて知る。 しかもゼノはなかなか現れない……なんともひどい状況である。 悠介 「……とりあえず……止められないなら逃げるべきなのか?」 みさお「そうしたいのはやまやまなんですけどね……」 突っ掛かられる死神たちを無視するわけにもいかない、 というのが神魔なみさおの意見らしい。 俺はといえば───べつに死神がどうなろうと知ったこっちゃないといった風情だが。 ただ彰利に無意味な殺戮はしてほしくないと思うが故、止めていたわけだし。 みさお「それにしても、父さま。吹っ切るきっかけがあったにせよ、     ものすごい変わりようじゃないですか?」 悠介 「ん……なにがだ?」 みさお「なにって。以前の父さまだったらなんでもかんでも守ろうとして───」 悠介 「ああそのことか。吹っ切ったというよりは自分が如何に周りに力を貰ってたのか、     身の程を知ったってところだよ。俺の力は俺自身の力じゃなかった。     力が戻されてみればなんのことはない。     剣術も弓術も槍術も、神魔も竜力も諸力も、     全部が全部それぞれの世界における力にすがって手に入れていただけだった。     残ったのはほんの少しの力と技術だけ。ようするにな、みさお。     力が無くなって初めて気づけることもあって、     しかもそれはどれだけ自分が自分以外の力にすがっていたのかを     理解させられる現実だったってことだ」 みさお「父さま……でもそれは」 悠介 「勇敢さが足りないっていうのならやめてくれ。     勇敢さってのは一種のヤケっぱちに近い。     力ある者が持てばそれは見栄えもするだろうさ。     けど、力無き者が目指そうとしたところで、叶わずに力尽きるのが関の山だ」 みさお「父さま、ですが───」 悠介 「………」 言い渋るように俺を見上げるみさおの頭を静かに撫でた。 状況から見ればそんなことをしてる場合じゃないんだが─── 悠介 「修行はする。敵が来るなら立ち向かいもする。     けど、もう守るのはやめたんだ。     理想を追えるのはそれに見合った能力を持つ者だけであって、     そもそも俺にはそういった力が無かった。ただそれだけなんだよ……」 みさお「父さま……」 力の全てを神に絞った先で知ったことなど山ほどある。 自分がどれほど天地空間全ての回路に支えられていたか。 そして、その回路がどれほど自分に力を与えてくれていたか。 反発反動力は確かに常識じゃ考えられないくらいの力を俺に与えてくれた。 けどそれじゃあ“自分の意思”は貫けない。 守りたいだの守れなかっただの、そんなのはもういいんだ。 俺はただ───この日常とともにいつまでも笑っていたい。 全てを守る力なんて要らないから───だからせめて、 あいつらと笑って過ごせるこの日常の中を生きていられるくらいの力が欲しい。 俺はそれだけでいいんだ。 みさお「……解りました、もう言いません。でも───アレ、どうするんですか?」 みさおが促す視線の先には、無鉄砲にも迫り来る死神どもに影を伸ばしては、 鎌ごと取り込んでゴリボリと咀嚼する彰利の姿が。 もう、どっちが死神だか解ったもんじゃ───ああいやいや、どっちも死神だったな……。 彰利 『フッハッハッハッハッハ!!!ゼノよぉ!貴様が戦う意思を見せないのならば、     俺はこの世界を破壊し尽くすだけだァア!!』 そして既にブロリーのように破壊に夢中になっているあの馬鹿は、 ゼノが出てくるまで本当に破壊の限りを尽くすんだろう。 さて……どうしたもんか。 ゼノがこの時、ハンターとして何処かに狩りに行っているとしたら、 そりゃあここに居るわけもない。 しかしこんなになってもてんで現れないシェイドもシェイドだな。 なにやってるんだか。 みさお「……なんとかしないと危険ですよ?」 悠介 「……だよな。───そうだみさお、ちょっといいか?」 みさお「はい?」 悠介 「耳貸せ。あー……《ゴニョゴニョ……》」 みさお「ふんふん……───えぇっ!?ほ、本気ですか!?」 悠介 「大丈夫!貴様ならなんとかなる!!」 みさお「そう思うなら娘のことを貴様とか言わないでくださいよ!」 悠介 「信頼の証ださぁやれ娘!!」 みさお「うう……!父さま、絶対に過去に来てから人格変わりましたよ……!?」 悠介 「おお、それは俺も驚いてるが。嫌な気分じゃないんだ。     自分を変えることが出来るのと、自分が忘れた過去を見つめられる。     その期待感の所為だろうな……高揚が抑えられない。     とまあ俺のことはどうでもいいからレッツゴーだ」 みさお「ほ……ほんとにやるんですか?」 悠介 「貴様を自慢の娘と見込んでのことだ……!!」 みさお「うぐっ……!ひ、卑怯ですよっ!?普段はそんなこと言ってくれないくせに!!」 悠介 「へ?……言ってほしかったのか?」 みさお「ひあっ!?え、や……《かあぁああ……っ!!》     そ、そそそそんなわけないじゃないですかなに言ってるんですかもう!!」 悠介 「そうか、じゃあ頼む」 みさお「うぅ……」 なにやら顔を真っ赤にしたみさおがごくりと息を飲む。 いろいろ心の中で葛藤があるようだが───しかし覚悟を決めたのか、 キッと俯かせていた顔を上げ、ついには恥ずかしさを口から解き放つように───!! みさお「ブラッドさぁあーーーーん!!」 と叫んだゾヒィインッ!! ウィル『ブラッドリアだぁあっ!!何度言ったら解るんだ貴様ァッ!!』 みさお「うひゃぁああっ!!?」 悠介 「うぉおおっ!!?」 途端、ウィルヴス=ブラッドリアが現れた!! みさお「ブ、ブブブブラッドさん!?」 ウィル『───……貴様、まさかとは思ったが───あの時の楔の巫女か』 みさお「おひっ……お久しぶりですブラッドさん!     あ、あのあのわたし《ボカァッ!!》ふきゃうっ!!」 悠介 「落ち着け馬鹿者」 みさお「はうぅうっ……!で、でもですね父さま……!」 拳骨くらった頭を押さえながら俺を見上げるみさおをとりあえず無視しつつ、 俺はウィルヴスに向き直った。 このままじゃ彰利が冥界を滅ぼしかねんからだ。 死神王が冥界滅ぼすなんてどんな冗談だ。 悠介 「……この時代じゃあ初めましてだな」 ウィル『───……ぬぅっ……?その一度見たら忘れられぬだろう見事なモミアゲ……。     記憶にあるぞ。弓彰衛門から頂戴した記憶の中にある。晦悠介か』 悠介 「テメェエエエエ!!!俺の印象はモミアゲより薄いのか!?     モミアゲ以下かよ俺って存在はァアアアアッ!!!!」 みさお「落ち着いてください父さま!!     それはブラッドさんの記憶ではなく彰衛門さんの記憶ですよ!」 悠介 「じゃあ現死神王にモミアゲをなにより先に確認される俺ってなんだ!?     どんな生命体だ!モミアゲか!?むしろモミアゲ自身か!?     俺って存在が既にモミアゲで構成されてんのか!?     晦悠介って書いてモミアゲと読むのかこの野郎!!」 ウィル『騒がしいぞ、黙れモミアゲ』 悠介 「ちょっと待て既にモミアゲ呼ばわりか!?」 みさお「落ち着いてくださいってば!!     父さままで我を失ったら誰が彰衛門さんを止めるんですか!?」 悠介 「頑張れ」 みさお「一言で親友の行く末を娘に委ねないでください!!」 ぐぬっ……ああいやいかんいかん……気をしっかり持て俺……! みさおにこいつを呼んでもらったのは、 こいつにゼノの居場所を訊くためだった筈だろ……? 悠介 「……すまん、ちと訊きたいことがあるんだ。     ハンターのゼノが今何処に居るのかを知りたい」 ウィル『言う義理が無い失せろ』 一息だった。 悠介 「あ、あのな?言ってもらわないとあの馬鹿が冥界をメチャクチャに……」 ウィル『別にどうなろうが構わん』 悠介 「…………」 シェイドと比べてどこまで融通が利かないんだろうかこいつは。 いっそ交代してもらおうかとも思ったが───素直に聞いてくれるヤツには見えやしない。 みさお「あの、なんとかなりませんかブラッドさん」 ウィル『……ブラッドリアだと言っている。何処まで物覚えが悪いのだ貴様は』 みさお「わたしだって貴様じゃなくてみさおです。大体、忘れたんですか?     わたしに冥月の名をくれたのはブラッドさんじゃないですか。     それなのに貴様貴様って」 ウィル『黙れ小娘。小娘ごときがわたしに説教など千は早い』 みさお「むっ……じゃあ千年生きたら説教も許されるんですか!?」 ウィル『フハハ?たわけが。その時は我も千を生きている。どの道貴様には千は早い』 みさお「………」 やっぱり融通が利かない。 みさおもあっさりと手玉に取られるように鼻で笑われ、がっくりと項垂れている。 遠くの景色を見れば、死神王は死神王でも死神魔王っぽい彰利によって、 次々と死神たちが食われていってるし、こっちはこっちで状況頓挫。 ああもう……どうしてくれようかなぁこの状況。 声  『ルグォオオゥシャアアアアッ!!!』 ああ……そんでもってさらに状況が悪化したことを告げるが如き絶叫。 どう聞いても竜族のものとしか考えられないソレを聞いて、 俺とみさおは改めて彰利が暴れていた方向を見るのだが─── 悠介 「うぉおわぁああああああっ!!!」 みさお「ひきゃぁあああああっ!!?」 そこに、八頭竜が居た。 暗黒を煮詰めたような真っ黒な竜だ。 ソレが、やっぱり死神を襲って暴れまわって……いや。 死神を襲ってるんじゃなくて暴走してるだけだなアレは。 みさお「ああ……なんだか見ただけで状況が掴めそうです……」 悠介 「一目瞭然ってやつだな……」 大方ここなら暴れても壊しても平気に違いねィエー!とか言って、 レヴァルグリードを一度解放してみたんだろうさ。 で、見事に暴走。 制御出来ずに飲まれたってやつだな。 みさお「どどどどうするんですか!?このままだと冥界が───!!」 悠介 「はぁ……あー……レタスが出ます《ポムンッ!》」 取り出だしましたるは彰利の大好物、レタス。 で、これをどうするかといえば─── 悠介 「せぇえ───のぉっ!!」 もちろんブォンッ!と投げる!! 飛翔するレタスは弧を描きながらドラゴン彰利へと向かい、 ソレに気づいた一頭がドシュウと飛びついてきた───その刹那に変換を実行!! 悠介 (レタスより変換!キャベツとなれ!!) ピキィンッ!───バクンッ!! みさお「あ……食べました」 そして変換が済むやあっさり丸のみする彰利竜。 ───だったのだがゲボハァッ!! 八頭竜『ルギャァアアアォオオオッ!!!』 少しののちに絶叫。 倒れ、のた打ち回り……やがて動かなくなった。 みさお「うわぁ……弱いですね」 悠介 「どんなに変わっても彰利だからな」 とりあえず泡を吹いて昏倒する竜を初めて見た気がする。 ……などと奇妙に感想を抱いてる場合ではなく。 ウィル『……静まったか。ならば貴様もヤツを連れてさっさと消えろ』 悠介 「ちょっと待て、それならせめてここにゼノが居るか居ないかだけでも教えてくれ」 ウィル『冥界にゼノは居ない。これで満足か?ならば消えろ』 悠介 「………」 答えたと思えばこれである。 どうにかならんか、このとっつきにくさ。 悠介 「彰利〜、そういうことだからとっとと地界に戻るぞ〜!」 けど相手がそんな態度なら、いつまでもここに居たってしょうがない。 そう思った俺は彰利にとっとと戻ろうと声をかけたんだが─── 既に人間の姿に戻っていた黒いソイツはぐったりと倒れたままだった。 つくづく思うが、 キャベツのどういった成分がアイツをああまでぐったりにさせるんだろうな。 一度調べてみたいもんだ。 ……その前にまた吐きそうだが。 実にぐでぐでの旅だ……もう泣きたい。 みさお「あの……もういいですから、彰衛門さん引きずってさっさと出ましょう……」 悠介 「だな……」 こうして俺達はウィルヴスに声をかけるでもなく、 何を得ることが出来たのかを疑問に思うくらい虚しい気分のまま、冥界をあとにした。 なにしに来たんだよ俺達……。 ───……。 ……。 ビムンッ……シャキィンッ!! 悠介 「はっ……だはぁああ……!!」 みさお「お疲れ様です」 そうして地界の何処かに降り立った俺は、死神側の空気から解放されるや大きく深呼吸。 肺に溜まった毒素(神にとって)を吐き出し、違和感のある喉をさすった。 くそ、いくら対象的な場所の空気だからって、あの苦しさはないだろう。 彰利 「愛……ッ!」 彰利は彰利で、とっととキャベツを体内から弾きだすと、ツヤツヤの肌をしつつ復活。 もうこいつ、いろんな意味で人間じゃねぇ。 悠介 「それで……どうするんだよ。ゼノの居場所が解らないんじゃどうしようも───」 彰利 「おー、ダイジョブダイジョブ。     考えてみりゃ気配察知してブチコロがせばいいんだから」 悠介 「そんなの出来るんなら最初からやれ!!」 みさお「なに考えてるんですか!そんな方法があるならどうして今まで!!」 彰利 「忘れてた!!」 悠介 「………」 彰利 「次にお前は───殴っていいか?と言《バゴシャア!!》ヘボルゲェイッ!!     なっ……殴ったァーーーッ!!予告も無しに殴ったァーーーーッ!!!」 悠介 「やかましい!いいからとっとと探せボケ者!!」 彰利 「ヒィッ!?な、なんだよー!ちょっと忘れてただけじゃんかよーーーっ!!     死神王だぞーーっ!?馬鹿にすんなーーーっ!!」 悠介 「馬鹿じゃなかったら俺達はこんなに苦労してないって自覚しろボケ者!!」 彰利 「そ、そげにボケボケ言うなよぅ!やるよ!やるから!     まったく、なにをそんなにカリカリしとるのかねぇ……。     ンーーー…………………………おった!!」 悠介 「速ッ!?」 みさお「ちょっと待ってくださいよあのゴタゴタはなんだったんですか!?     そんなに早く見つけられるんなら冥界に行く前にやってくださいよ!!」 彰利 「すまん!忘れてたのも確かだが、     冥界に降りた神がどんな反応を見せるのかが見たかったのも事実だ!!」 悠介 「ほんとに忘れてたのかよお前!!     そのこと聞いてたらそれこそ怪しく思えてきたぞ!?」 彰利 「忘れてたのよほんとに!でも見たかったのも事実だってばよ!!     というわけで異翔転移!!」 悠介 「なにぃ!?ちょっと待て心の準備が───!!」 反応を探るや、問答無用で転移を実行しようとする彰利! 俺とみさおはそれを止めようとしたが───遅かった。 ビジュンッ!という音とともに俺達の前にゼノが姿を現し、 ゼノ 「───!?ぬ……!?ここは」 彰利 『《ドシュンッ!》オーダー解放!“殺戮を蝕す狂気の大鎌”(ジェノサイドエクリプス)!!死ぬぅぇい!!』 ゼノ 「《ザバァッシャァアアアッ!!!》ガァアアアアアアッ!!!?」 ……一瞬で斬滅。 殺戮に特化した刃がゼノを袈裟に真っ二つにし、あっさりと抹消した。 悠介 「…………俺……どうして吐く思いをしながら冥界になんて行っただっけ……」 みさお「さあ……」 そのあっさりさが余計に俺にそう思わせた。 どうしてだろう……悲しみが止まらない。 彰利 『よっしゃあじゃあ次行こう次!!次悠介ンとこね!?ハイ!ね!?ハイ!!』 悠介 「ああ……もう好きにしてくれ……」 みさお「さっきまでの吹っ切れた姿がウソのようですね……」 悠介 「ああほんと……ウソのようだ……」 みさお「自分で認めないでくださいよ……」 みさおがだはぁ……と溜め息を吐く。 まったくその通りだが、それでも悲観することばかりじゃないから頑張れる。 というか項垂れてばかりじゃいられない。 悠介 「でもな、感情が大分安定した上で過去に来て、     結構思い出せたこともあるんだ。     まだおぼろげなんだけどな、まだ十六夜の家に住む前のことだ」 みさお「どんなことですか?」 悠介 「確かあれは……越後屋公園だったかな。父さんに貰った小遣いで───」 彰利 「越後屋……おお越後屋公園か!懐かしいやね!よしGO!!」 みさお「えぇっ!?ちょっと待ってくださいよ!今父さまが昔のことを思い出して───」 ビジュンッ───!! ……みさおの言葉は中途半端なままに、 転移の際に発せられる喩えようの無い音で掻き消された。 ───……。 で……越後屋公園前である。 みさお「彰衛門さん……せっかく父さまが昔のことを思い出せそうっていう時に……」 彰利 「グ、グゥムッ……」 みさお「グゥムじゃないですよ!もう!……それで父さま?     この公園……でいいのかは解りませんが、ここでなにかあったんですか?」 それでもめげない貴様に乾杯。 とりあえず俺は、久しぶりに訪れたあの頃のままの公園を見て、 おぼろげだった記憶をじわじわと鮮明に彩らせ─── 目を閉じながら、あの頃のことを語った。 悠介 「そう……あれは俺が本当に小さなガキの頃のことだった。     父さんに貰った小遣いでさ、     まあ……今だから言うとガラにもなく駄菓子を買いに走ってたんだ」 みさお「和菓子ですよね?」 悠介 「……どうして決定事項のように和菓子と言うのかはツッコまんでおこう。     ともかく、スーパーまでの道のりは当時の俺なんかにしてみりゃ結構遠くてな。     こんな公園でも、通り抜ければ多少の近道にはなったんだよ」 彰利 「ほうほう……そィで?」 悠介 「その公園でな、ヘンなヤツらに……そう、そうだよ。     俺、この公園で初めてカツアゲされたんだ」 彰利 「カツアゲとな!?キミがかね!?」 みさお「父さまがですか!?まさか!!」 悠介 「……あのな、お前らちっこいガキになにを期待してるんだ?     相手は三人のニイチャンたちと一人のちっこい……あれ?     ちょっと待て、なにか───」 思い出しちゃいけないものが頭に引っかかってるような─── 彰利 「どぎゃんしたのさ。話の続きでも忘れたのかね?」 悠介 「いや覚えてる、覚えてるんだが……」 なにかあった筈だ。 この公園を通りぬけようとしたら妙な四人組みが居て、 やさしく声かけてきて、話の中で俺が金を持ってることを知るや否や─── 声  「オラオラ子供ォ!さっさと出さンかいクラッ!!」 声  「よせやいっ!」 声  「その若さで墓石入りとぅなかろうがオォ!!?」 ああ、そうそう、丁度こんな感じで突っ掛かってきて、 だけどその途端に別のニイチャンが乱入してきて助けてくれたんだったよな───って!! 悠介 「お前かぁあああああっ!!!!」 バゴシャァアアアアッ!!! 中井出「ヘギューーーリ!!」 歴史は繰り返す───By.スクウェア。 そ〜かそういうことだったのかああもうまったくこの野郎……!! 悠介 「次元の狭間に消えてったと思えばこんなところでなぁあにやっとんのだぁあ!!」 中井出「うむ!カルボーンを買いたいと思ったのだが金が無かったのでな!!     ならばどうせ過去のことだと外道の限りを尽くすべくカツアゲをしていた!!」 悠介 「年端もいかないガキを四人がかりで囲んでカツアゲなんぞするなよ!!     何処まで逞しくて何処まで外道なんだお前らは!!」 中井出「おお、なにやら元気がいいな晦一等兵。だが間違うな晦一等兵。     我らは適当な小僧を捕まえてカツアゲするほどゲスでは………………ないよ?」 だったらどうして疑問系で汗だらだら流してるのか今すぐ唱えろこの野郎。 と言ってくれようかと思った矢先に中井出がバッと“子供の俺”を見るよう促し、 手を広げたままの輝かしい笑顔で高らかに叫んだ。 中井出「見よ!この美しいモミアゲ!こんなモミアゲを持つ者など世界中、     いや、天地空間全土を探そうが貴様しかおるまい!!     だからこそ実行した!!そして現世に戻ったら対価を払おうと思ってたんだけど」 悠介 「モミアゲで認識するのも大概にしろ!!なんなんだお前らは!!」 そしてそれは是非とももう二度と聞きたくないフレーズだったに違いない……。 中井出「え?いや……なんで激しく怒られてんの?俺だけ」 彰利 「まあちょほいといろいろあってね」 中井出「いや、そうじゃなくて……藍田二等や丘野二等をほったらかしにして、     どうして俺だけ怒られてんのかなぁ……って」 彰利 「え……?や、どうしてって。中井出だからだろ?」 中井出「俺が俺だと怒られるの!?なにそれ!!」 悠介 「とにかく、そこの子供!いいからとっとと逃げろ!」 子供 「う、うんっ」 トタタタタタ……!───子供の俺は逃げ出した!! しかし……なんだな。 過去に俺を助けてくれた相手が俺だったなんて……つくづく冗談にしてほしい。 ───……ん?ちょっと待て。 彰利は俺達には会ってないって言ってたよな? それなのに俺は俺達に会ったことがあった……。 これってどういうことなんだ? みさお「ああ、それなら簡単ですよ」 悠介 「人の心を読むな」 みさお「違いますよ父さま。なんとなく戸惑ったような表情をしてたので、それで。     ……今のわたしたちに会った会わなかったの問題ですよね?」 悠介 「あ、ああ……まあ、そうだな。簡単なのか?」 みさお「簡単ですよ。ようするに彰衛門さんの気紛れがどう働いたかなんです。     第一に彰衛門さんが弦月の草原に降り立たなければ、     わたしたちは小童さんの未来を救うことなんて出来ませんでした。     きっと別の場所……たとえば昂風街などに降り立っていたなら、     そのまま寄り道せずに父さまか父さまの父さまを見に行っていたと思います。     ですから───」 悠介 「子供の俺と遭遇する確率は高くても、     子供の彰利と遭遇する確率は極めて少なかった、と」 みさお「です」 なるほど、そういうことか。 改めて、未来の数なんて人一人の行動ひとつで変わっていくんだなと納得してしまった。 ……今回のは間違いなく彰利一人の行動によるものだろうけどさ。 悠介 「ていうかお前らなぁ!よってたかって子供から!     しかも知人の幼少時代から金を巻き上げようなんて恥を知れ恥を!!」 総員 『知っているからやったのだ!見縊るな!!』 悠介 「威張れることかぁ!見縊りたくもなるわ!!」 中井出「じゃあ頼む!こいつにカルボーンを食べさせたいんですが構いませんねッ!!」 彰利 「おおジョジョネタ」 みさお「しかもスパゲティじゃなくてカルボーンですか……。     どちらにしろカツアゲはやめておいたほうがいいと思いますよ?」 ナギー『ヒロミツたちはわしにカルボーンとやらをご馳走するために暴挙に出たのじゃ!     責めるのならわしを責めるがよいのじゃ!!』 みさお「い、いえあの……ナギー、さん?     カルボーンがどんな食べ物だか知ってて言ってます?」 ナギー『……?知らぬのじゃ』 三人 『ああ……』 俺と彰利とみさおは同時に納得に至った。 ようするにこの精霊……思いっきり遊ばれてる。 はっはっは、おいおいドリアード〜?後ろ見てみろ後ろ〜。 中井出ら猛者どもが輝かしい暗黒スマイルでこっち見てるぞ〜? なんて言ってみたところで、 たとえ今ドリアードがすぐさま振り向いても真面目な顔をしてるんだろう。 やつらはそういう男だ。 悠介 「ああもう……それはいいから、まず用事を済ませよう……」 中井出「うむ!カルボーン購入だな!?任せておけ!     何を隠そう、俺達はカツアゲの達人だぁああああっ!!!」 悠介 「そうじゃねぇだろちょっと待てこの馬鹿!!」 中井出「馬鹿!?」 丘野 「あの晦殿がかなりのストレートな物言い……!」 藍田 「お、おぉおお……!今日の晦はなにかが違うゼ……!!」 悠介 「ゼじゃない!俺達の目的は俺の過去との決着だった筈だろが!     どこまで曲れば気が済む!ちょっと落ち着け本当に!!」 中井出「ぬう……しかしな晦一等兵よ。白亜紀に放り出され、     命からがらこの時代へ辿り着いた我らの燻る思い……     これはもはやカルボーンでしか押さえられぬのだ」 悠介 「白亜紀!?」 彰利 「中井出てめぇ!もしや恐竜とバトってきたのか!?」 中井出「藍田がギガノトサウルスを蹴りで仕留めてたが」 彰利 「………」 みさお「物凄い逞しさですね……あ、それで、この時代にはどうやって……?」 そう、ちと気になった。 本当に白亜紀に落ちたんだとしたら、こいつらに時空転移法が無ければ─── 藍田 「ジョワジョワジョワ!     火口に落ちるゼットが通ってきた時空の歪みを利用したのよ!!」 彰利 「な、なに〜〜〜っ!?」 丘野 「ヌワヌワヌワ、我らにはそういった秘策があったのよ!!」 中井出「ちなみにゼットは問答無用で見捨てたけどね」 彰利 「なんつぅかてめぇら流石のクズだね」 中井出「とりあえず貴様にだけは言われたくない」 彰利 「俺だってキミには言われたくねぇよ!!」 どっちもどっちだろお前ら……。 悠介 「ああ、解った、もういい……。     この時代からそう動く必要も無さそうだし、     まず“俺”の様子を見よう。ていうか少し頭を休めたい……」 中井出「じゃがじゃんっ!」 総員 『クロマティ……ッ!!』 悠介 「やめろというに!!」 疲れる……こいつらの相手、確かに“楽しい”がたくさん詰まってるのは認める。 けどそれ以上に疲れる……勘弁してくれって言いたくなるくらいに疲れるわ……。 Next Menu back