───時空放浪モミ列伝『第六章◆開花する力と持ち腐れの宝』───
【ケース473:弦月彰利/時の狭間に揺れる世界】 ───……。 彰利 「して……」 悠介 「ああ」 わざわざこげなところにまで赴いた僕ら。 え?ここが何処かって?ハハハ、落ち着けよマイケル、僕らの旅は始まったばっかりさ。 じゃなくて。 現在僕らは朧月の家に居る。 中に入ってるわけじゃなく、家の前にボーゼンと立ってるというか。 中井出「随分と人目につかない場所にあるんだな」 丘野 「きっと忍の一族なんでござるよ!」 彰利 「そうなん!?」 悠介 「違うわ!!」 違ったらしいザマス。 もしそうだとしたら是非とも忍術の一つでも見せてもらいたかったんじゃけんど。 彰利 「そィで?ここにチビ悠介居そう?」 みさお「ここから解ったらすごいですけどね」 彰利 「ヌウ。ならば───」 意識を集中。 影を通して、この家に人が何人居るかを調べるのだ。 気配探ることも出来るが───今じゃこっちの方が楽なのです。 やぁ、これが黒に染まるってことでしょうな。 彰利 「フム……人の数は……ひのふの……三人ですな。     女が二人、男が一人。一人の反応はちっこいね。     おなご二人は…………大人一人と子供一人じゃい」 悠介 「……母さんと姉さんと……俺か?」 彰利 「おお、そういや姉がおったんじゃっけ?めんこい?俺好み?」 中井出「おお姉か。とりあえず今の言葉はしっかり録音しといたから、     戻ったらしっかり篠瀬さんに聞かせてやろう」 彰利 「人殺しィイイイイイッ!!!!」 中井出「俺が殺すわけじゃねぇだろうがコノヤロー!!     つーかまさか聞かせてやろうって言っただけで     人殺し呼ばわりされるとは思わなかったぞ!?」 みさお「体の芯に刻まれてるんじゃないですか?     別の女性にうつつを抜かすと半殺しにされるって」 彰利 「そっ……そげなことないよ!?     オイラ夜華さんなんて別に怖くないもの!むしろ愛してる!!」 藍田 「胡散臭いな……」 彰利 「うん……ほんと……」 ……自分で言ってて胡散臭かった。 彰利 「と、ともかく!ほれ!そのテープをお寄越し!?     そしたらキミにステキなものあげるから!」 中井出「おぉっと動くな!?そっちが先だ!なにを寄越すのか知らんがさっさと寄越せ!」 彰利 「交換条件になった途端すげぇ太ェ態度!!」 悠介 「つくづく外道だな」 中井出「当然だ!」 みさお「そんなので胸張らないでください!」 彰利 「キョホホ……だがその余裕がいつまで保つかな?     言っとくが俺が出すものはオメェ……あれだ。     人間でも卍解が可能なステキ鎌だぜ?」 藍田 「なに!?マジかてめぇ!!」 丘野 「なら拙者に寄越すでござる!!」 彰利 「あげませんよ!!     さぁああどうする中井出!素直にソレを渡すか、それとも───!!」 中井出「おっと勘違いするなよ彰利一等兵!貴様の命を握っているのは俺の方だぜ!?     位置は俺が上!貴様が下だ!!」 彰利 「貴様が下だポルナレフ!!」 中井出「じゃあこれは俺の命に代えても篠瀬さんに聞かせる方向で」 彰利 「ヒィイごめんなさい!!あげるからやめてぇええええええっ!!!」 な、なんと恐ろしいことをしようとするのでしょう信じられません!! ていうか……俺自身、相当夜華さんが弱点になりつつあるというか……弱点だね、うん。 しょうがないよ……死にたくないしね、ほんと。 夜華さんたらオイラに対してとことん容赦ないからね。 ウフフ、愛されてるってステキさ。 ともあれアタイは黒から浅打鎌をズチャアアと取り出し、 差し出されたテープとすぐさま交換!! 巻き戻ししたのちに録音ボタンを押して上書きして抹消!! OK!これで僕の未来は安泰だ! と、安堵のままにブブルヴァフゥ〜〜と溜め息を吐いたのち、俯かせていた顔を上げる。 すると─── 中井出「卍!解!!」 早速鎌を構えて叫ぶ中井出提督を発見!! ……しかし当然なにも起こるわけもなく。 中井出「てめぇ……!俺のピュアハートを弄びやがったな……!?」 僕らの提督は血涙さえ流せそうな勢いで、 コメカミの血管をドッコンドッコンと震わせながら僕を睨んできました。 な、なんだ……!この尋常ならざる力の波動は……!! 彰利 「ま、待て!発動しなかったのは貴様の力が足りなかったからに違いねぇ!!     ほれ!忘れたのかい!?貴様今試練中でしょ!?」 中井出「ハッ……!!」 阿修羅面(怒)のような顔で 俺にジークフリードの一撃を振り下ろそうとしていた中井出の動きが止まった。 お、おおお……奇跡だ……! 僕の心の声が彼の心に届いたのだ!! 中井出「……でもよ。死神でもないのに鎌の解放なんて出来るもんなのか?」 じゃけんど怪しんではいるらしい。 そりゃそうだね、俺でも確実に疑うよ。 悠介 「出来る出来ないじゃない……まず信じることからだろ!?中井出よ!」 中井出「いやでもね?俺そうやってもう何度騙されたことか……」 悠介 「騙されてるかどうかは貴様次第だ。     俺はもう神側だから、その鎌が解放可能かどうかなんて知らない。     けどもしその鎌が発動可能なものだとしたら、貴様はきっと後悔する!!」 中井出「そうかもしれないのは解ったけど貴様とか言うなコノヤロー!!     ……あ、でも元の能力だったら解放できるんだとしたら───マグニファイ!!」 マキィンッ!! 中井出のマグニファイが発動!!能力が倍化!! で、例の如く一護くんのように武器を前に突き出して構える僕らの提督。 中井出「OK!これで能力は倍化!……きっちり元通りにはいかんが、     少しでも届くなら発動できる筈!では改めて───卍!───」 ガラァッ! 奥方 「誰よ!さっきから玄関前で!」 中井出「いやぁあああ見られたぁああああっ!!!!」 しかしそんな格好で叫ぶ姿を、玄関を開けて現れた─── 恐らく悠介の母上であらせられる人に目撃されて絶叫。 いわゆる……アレですな。 かめはめ波を出そうとしてるところを知り合いに目撃された人の心境? 中井出「───いいや構わん!     恥ずかしくてもそれを乗り越えた先に力が得られればそれっぽい!卍!解!!」 おお匠!! 恥ずかしさを押し退けてでも力を解放させようとするその意気や天晴れ! 藍田 「すげぇ!こんなになってでも鎌の発動を優先させるとは!!」 丘野 「ちなみに弦月殿?あの鎌は本当に昇華するでござるか?」 彰利 「んにゃしない」 ───……。 ……アレ? なんか俺、訊かれるままにとんでもねぇことを口走ったような───ドシャッ、ドシャッ。 藍田 「あ……提督が膝崩してマジ泣きしだした」 丘野 「ひっでぇえええな弦月……いくら俺達が外道でもここまではしねぇぞ……?」 彰利 「え?いやあの……なんでここだけ標準語?     つーかうわヤベッ!!言うつもりなかったのに!!」 中井出「なぁ……俺、オマエのこと呪い殺していいか……?」 彰利 「お待ちなさい!この事態の発案者は悠介であって僕じゃない!!」 悠介 「うぉあばかっ!ここでそれ言うか!?」 中井出「……貴様さっき解放出来るか知らないとか言ってたよね……?     フ……フフフ……まんまとこの博光をたばかったというわけか……!!     いっぺん天国でも地獄でもない秘密の花園覗いてみるかこの野郎……!!」 悠介 「お、面白そうだが遠慮しとく……」 彰利 「キョホホ、大体死神でもねぇただの人間が鎌を解放しようってのが甘い考えさ。     さ、その鎌を返しなさい。それは人である貴様が持つには実に似つかわしくない」 中井出「なにを言っているのだ?」 彰利 「へ?い、いや、なにって……」 泣き顔をきょとんとした顔に変え、ズチャリと立ち上がる僕らの提督。 ば、馬鹿な……!さっきまでカタカタと震えていた僕らの提督が急に復活を……!? い、いったい彼の身になにが……!? 混乱しているッ……!ああ、僕の頭の中は混乱しているっ……!! 今ナイフを突き立てられそうになったら、 ジョージ=ジョースターが助けてくれない限り絶対にくらってしまうくらいに……! もう、玄関を開けて出てきたまま困惑してる奥方さえ無視で混乱してる……!! 彰利 「その鎌使えないっしょ?だ、だからね?返せって───」 中井出「交換したんだからこれ俺のだよ?返さんぞ?」 彰利 「……や、やーやーやー、でもね?使えなかったっしょ?だから───」 中井出「俺は嫌だぜ!!返してほしくばテープをさっきの状態に戻してから交換だ!!」 彰利 「な!なにを言うのかねそんなの無理に決まっとるでしょう!?     そげなことしたら夜華さんに殺される!!」 中井出「じゃあこの交渉はなかったことになるなぁグオッフォフォ……!!」 彰利 「いやね?でもね?ただ邪魔になるだけじゃ───」 中井出「私は一向に構わんッッ!!     なにやら知らんが感じるのよ……!この鎌にはなにか隠された力がある……!!     そしてその力は未だ眠りについた状態よ……!!だから返さん」 彰利 「なにっ!?隠された力だと!?ウソをつくな!     僕がそれを死神王として調べた時にはなにもなかったぞ!!     そうやって僕を騙そうというつもりなのだな!フン!騙されるもんか!!」 中井出「なんだって!!     それじゃあ最初から僕の言うことなど信じる気がないということではないか!!」 彰利 「大友組のやつらの言うことなんか信じられるもんか!!     隠された力なんてある筈が無い!僕はきちんと調べたのだ!!ないさ!!」 悠介 「……で、実際どうなんだ?妙な力があったりとかは───」 みさお(……母親の前で随分と平然ですね) 悠介 (もうとっくに驚いた。というかな、こっちが口あけてボーゼンとしてるのに、     好き勝手にギャースカ騒いでりゃいつもの調子なんてすぐ戻ってくるってもんだ) みさお(あ……そうですね……) なにやら悠介とみさおがゴゾォオと小声で話し合っているが、 今の僕らはそれどころではないのだ! 俺と中井出はまるで高松くんと大友くんのように醜い言い争いをし、 物凄い形相で互いを睨み合っていた! ……んだけど。 中井出「実際?……いや、なにか感じるのは確かだぞ?よく解らんがこう……なぁ?」 彰利 「どれ貸してみ!?俺が調べてやるきん!」 中井出「そう言って奪う気だな!?フン!騙されるもんか!!」 彰利 「なんだって!僕は調べてやると言っているのだぞ!!」 中井出「……どうでもいいけど漂流教室の子供達って、     どうしてところどころでちょっと口調が偉い人みたいになるんだろうか」 彰利 「ああ、〜〜のだぞ、とかそういうヤツね」 急に改まった質問をされてしまった。 なもんだから妙に気を削がれたというか……ぬう、これもヤツの作戦か。 やりおるやりおる。 彰利 「まあいいや……そィで?どんな感じなん?」 中井出「───……声、か?ああいやいや、声は聞こえないな。     こう、なんていうんだ?喩える言葉がパッと浮かんでこないな……えーと……」 みさお「思念のようなものですか?」 中井出「あ、いや、それともちょっと違って……あー、なんだっけ。     こういう時ってやたらと腹立つよね」 藍田 「ま、まったくだ〜〜〜っ!!」 丘野 「み、見てるこっちがイライラしてくるぜ〜〜〜っ!!」 中井出「意志、じゃなくて声……はさっき違うって言ったし。     んー…………こう、なんていうんだ?武器の……あ、やっぱ意志なのか?     とにかくさ、声じゃないんだけど、解るんだよ。おぼろげなんだけど」 彰利 「なにが?」 中井出「ぶ……武器が動きたいって願う……軌道みたいなもの?」 みさお「───!」 悠介 「───!」 彰利 「……おいおい頭大丈夫か提督てめぇ」 中井出「いやマジだって!ほんとなんだって!!」 中井出がようやくそれっぽいことを言った時、 なにかにハッとしたみさおと悠介が目を合わせたが───なんだろね。 とりあえず訳解らんからツッコミ入れといたけど。 みさお(父さま……これは……) 悠介 (ああ。多分だが……中井出の中に眠る“才能”だ。     武器の心を受け取るとか、そういうやつだと思う) みさお(武器の心を……?) 悠介 (どういうきっかけで発動するに至ったのかは知らないが、     ある意味で中井出に相応しい能力かもしれない。     技術もなんにもないあいつに、“武器が望む軌跡”が味方につくんだ。     それをあいつがずっと旅の道連れにしてきたジークフリードで発動させれば……) みさお(うわ……!ちょっと想像したくないです……!) 悠介 (武器はウソをつかない。     あいつがあの武器を大事にしたらしただけ、きっと応えるだろう。     つーことはだ。今はまだ能力を自由に扱えなかったとしても、     時とともにじっくりと馴染んでいくことになる。     あいつが武器を信頼すればするほどにだ。     ……ていうかあいつが一番信じてるのは武器だろうからな。     同調は早いかもしれない) ウ、ウヌウ……!微妙な位置でゴソゴソヒッソォと!!! 言いたいことがあるなら言やぁあいいんだよぉおおお〜〜〜〜ぃ!! 聞こえそうで聞こえないのがやたらむかつくぞちくしょう!! 悠介 「あー……中井出。前にも訊いたかもしれないが、     なにか才能を開花させるようなきっかけめいたものをやったか?」 中井出「お?お、おお。以前遙か東の集落で、     能力向上のためにちと気脈天穴法を全身に受けたが」 悠介 「……と、そうだったな。     その時に才能がないにも程があるって言われたんだったな」 中井出「そーそ。なのに後になって武器渡されて。なにがなんだかさっぱりだった」 悠介 「……多分だけどな。まだ誰も発現させたことのない能力だったんじゃないか?     烈風脚だの疾風斬だのを開花出来るヤツは居たが、     お前のその能力を開花出来たヤツが居なかったとか」 中井出「……人類初!?」 藍田 「いや待て提督。俺、その能力どっかで見たことあるぞ?」 丘野 「お、俺もだ〜〜〜っ!!     あ、あれは確か“バガボンド”あたりであったような〜〜〜っ!!」 中井出「バガボンド……あ、あーあーあー!あったあった!!     武器が動きたい方向が感じられるっていうアレか!!     ……でもちょっと待て。俺、今の今まで全然こんな能力発動出来なかったぞ?」 彰利 「おおそれよ。俺も中井出がそげな能力持ってるなんて知らんかった」 ナギー『わしもなのじゃ』 ふむ。 したら何故?って、普通に考えてあの鎌に秘密がありそうだけどね。 でも鎌って鎌ですよ?しかも浅打。 なんの能力も無い筈のアレで、なんだって能力が開花するってのさ。 …………。 アレ?なにか引っかかってる。 なんだ?俺自身が言った言葉でなにか異様に引っかかるモノが─── 悠介 「感じ取れるのはその鎌のだけなのか?」 中井出「ちょっと待ってくれ。《キュバァンッ!》……、んー……おお!     ジークフリードのも感じ取れるようになって《ズキィイイ!!》ジェルァアア!!     痛い痛い痛い!!頭が割れるように痛い!!     よくある表現だけどこれがその痛みってやつかグアァアアアアッ!!!」 ナギー『ヒロミツ!?どうしたのじゃ!』 彰利 「エー、解説の悠介サン、これはいったいどうしたことでしょう」 悠介 「エエ、見事に頭を抱えてのた打ち回ってますね。人ン家の前で迷惑極まりない。     で、この症状ですが───恐らく能力としての開花は見せたものの、     “人”が完全に操るには中々に難しい能力なのでしょう。     無機物と意志を通わせるのですから、当然ですね。     これはこの能力だけでは生かせない力だと思われます。     恐らく彼には万物全ての“声”を聞く能力か、     またはそれに近い能力でも得ているのでしょう。     しかし相手が無機物なため、能力があまりに鋭く引き出されるのです。     故に鍛えられていない“人としての回路”では追いつかず、     ああして頭痛に襲われているのでしょう」 彰利 「なるほど。つまり彼には過ぎた能力だということですね。     鍛えればなんとかなるのでしょうか」 悠介 「エエはい。回路は鍛えることが出来ますからね。     もしそれを極め、武器とともに戦えるのであれば戦闘技術など知らなくても     かなり戦えるようになるに違いありません」 彰利 「え……マジ?」 悠介 「エエマジです。何故なら彼は今まで散々と強敵と戦ってきたというのに、     戦闘経験ではまるで上達が見られません。ついているのは覚悟と度胸ばかりです。     それは何故だと思いますか?」 彰利 「……クズだから?」 中井出「オィイイイイイ!!そこでクズかどうかは関係ねぇだろうがァアアア!!!」 悠介 「エエまあクズですが」 中井出「ええっ!?認めるの!?」 大変ショックを受けたようだった。 ほんと悠介も言うようになったもんじゃて。 悠介 「恐らくですが、“経験”が武器にこそ蓄積されているのです。     思えば彼は一つの武器をとことんまで鍛えた上でここに立っています。     それはつまりあの武器とともに戦った回数も相当だということになります。     あの武器を手に入れる前の武器さえ合成したというのならその蓄積も勿論、     無茶な戦いも楽な戦いも全てをともに潜り抜けてきたのです。     想像してみてください。大事に鍛えられ、     もはやフェルダールでは最強の一つとして数えてもいいくらいの武器に至り、     これまでを駆け抜けてきた武器と意志を同調させることの先を」 みさお「……それは、つまり───」 悠介 「操れればの話です。     もし完全に操れたのだとしたら相当な使い手になりましょう」 彰利 「解説の悠介さん、あなたから見て彼は操れそうですか?」 悠介 「無理ですね、ハイ」 中井出「うわヒッデェエエエ!!!」 随分な思い切りな即答でした。 答えるのに全然間がなかったよ……こりゃ中井出じゃなくても大ショックだ。 ナギー『宝の持ち腐れじゃの……』 藍田 「まあ……提督だしなぁ……」 彰利 「そりゃな……中井出だし……」 丘野 「殿でござるからなぁ……」 みさお「まあ……中井出さんですからね……」 中井出「ななななんなのキミたち揃いも揃って可哀相なモノを見る目で!!」 彰利 「いや……実際可哀相だし……」 藍田 「全然開花しなくて、東の匠者にさえ駄目出しされた提督が、     実は潜めてた唯一の才能を開花したと思ったら……     今度はそれが宝の持ち腐れっていうんじゃあなぁ……」 丘野 「さすがに同情せざるをえないでござるよ……」 中井出「………」 あ。物凄く悲しそうな顔で遠くを眺め始めた。 哀愁漂っとるのぅ。 みさお「あの……さすがに可哀相すぎませんか……?」 藍田 「や、そうは言うけどどうしろっての」 丘野 「拙者たちには殿の力を解放するような能力などないでござるよ」 中井出「とりあえずその殿ってのやめない?乱闘殿様思い出すんだけど」 あ、帰ってきた。 悲しみに染まったままの表情だけど戻ってきた。 丘野 「おお、神降伝説その一、乱闘殿様でござるな?今頃なにをやっておるのやら」 藍田 「きっと立派に殿やってんだ。そうだ、そうに違いない」 中井出「あの時世に殿だもんな。     きっと我ら以上に常識に囚われず、無茶を続けているに違いない」 みさお「それはどんな命知らずですか?」 彰利 「それはつまり我ら原中がよっぽど命知らずだと?」 悠介 「あのな……そうじゃないとでも思ってたのか?」 中井出「当然だ!!俺ゃ自分の命が惜しいぞ!!」 藍田 「おお俺もだ!」 丘野 「拙者もでござる!!」 彰利 「もちろん俺もだ!……ということは殿様はその先をゆく常識無視男というわけで、     きっとかなり命知らずなことをしているに違いない……!!」 みさお「あの。原中以上にというのは中井出さんが勝手に言ったことで───」 中井出「否である!!噂に名高きかの乱闘殿様だぞ!?     我らの想像など遙かに絶しているに違いない!!」 藍田 「マジでか!?じゃあ車に撥ねられたり銃で撃たれたり高いところから落ちたりして     も平気で、殴られても刺されても出血多量でも奇跡の復活遂げたり、時空を超えた     り神や死神や空界人や竜やモンスターや召喚獣と会ってたりもするのか!?」 中井出「おお!そんなのきっとチョロいぜ!?」 丘野 「すごいでござるな!ならば忍者に会ったり武士に会ったりとかは───」 中井出「余裕だ!」 彰利 「すげぇ……さすが殿様だぜ。じゃあ心臓止まっても生きてるとかは?」 中井出「ある!」 総員 『ブラボー!!』 みさお「どんな殿様ですかそれは!!」 どんな殿様でしょうなぁ……。 彰利 「まあアレだね。もし会えるのなら会うのが楽しみじゃわい。     きっと常時殿様衣装着てるんだぜ?」 中井出「おお、もちろん髪型はチョンマゲだろう」 藍田 「腰には脇差と長巻装備してて……」 丘野 「傍には忍者や侍が居るのでござるな!!」 総員 『まさに殿様!!』 悠介 「でも待て。俺達より常識破りだとするなら、     殿のイメージも超越してる可能性があるぞ?」 彰利 「なにぃ!?じゃあウソを平気で唱える修羅!」 中井出「人攫いも平気!」 藍田 「泥棒も平然と実行!」 丘野 「覗きもして!」 彰利 「人肉も食べて!!」 中井出「しかも露出魔!!」 藍田 「ビッグお漏らしも経験済みで!!」 丘野 「食い逃げももちろん経験済み!!」 彰利 「カツアゲ上等!!」 中井出「盗み聞き万歳!!」 藍田 「うお言われた!ぬ、ぬう……さ、殺人未遂も経験!!」 丘野 「むおっ!?言われたでござる!で、では……女化!!」 彰利 「だったら子供化!」 中井出「記憶喪失……とか!!」 藍田 「うぐっ……ぐ、ううう……!これはさすがにないと思うが……!」 彰利 「あ〜〜ん!?どうしたー!?オラオラー!!」 藍田 「ふ……藤巻十三!!」 彰利 「《ビビクゥ!!》キャアアアーーーーーーーッ!!!!?     な、ななななんば言いはらすばいこんげら!!     テメェエエエエ!!!せっかく今の今まで忘れてたことを!!」 丘野 「む?───おお!そういえば弦月殿も藤巻したことがあったでござるな!!」 中井出「よっ!藤巻!!」 彰利 「藤巻言うなこの野郎!!」 ナギー『なんなのじゃ?そのフジマキとかいうのは』 中井出「なんでもない」 丘野 「で、どうでござる!?殿は藤巻を───」 悠介 「我らの常識を超えていると言う前提で言うのなら───既に経験済み!!」 総員 『おお(たくみ)!!』 みさお「あ、あのですね……。そろそろ話進めませんか……?     父さまのお母様、呆れて戻ってしまいましたよ……?」 中井出「ヌ?おお、綺麗さっぱり忘れていた」 普通にひでぇ。 俺も忘れてたけど。 中井出「じゃあ藤巻、チャイム」 彰利 「普通に藤巻言うなこの野郎!!」 藍田 「オワッ!?どうしたんだよ藤巻!急に大声出して!」 彰利 「藤巻じゃないっつーとるでしょ!?」 丘野 「いかんでござる!理由は解らんでござるが藤巻殿が我を失っているでござる!!」 彰利 「失ってたらこうして叫んでませんよ失礼な!とりあえず藤巻言うのやめなさい!」 悠介 「落ち着け藤巻。なんだかんだで藤巻言われて反応してるのお前だけだから」 彰利 「はっ……!!」 い、言われてみればっ…………!! ───ポム。 総員 『藤巻決定』 彰利 「全員で人の肩叩いてなに輝かしい笑顔してやがるてめぇらぁあああっ!!!!」 中井出「おわぁああああ藤巻がキレたぞぉおーーーーーっ!!」 藍田 「逃げろ!!彼のドリームはスゴイわよ!!」 丘野 「そ、そうか!もしドリームに出演させられた上で藤巻されたら───!!     ヒィイ!!逃げるでござるーーーーーっ!!!」 彰利 「ごぉおおおおお!!てめぇらぁあああああっ!!!!」 悠介 「落ち着け藤巻!近所迷惑だ!!」 彰利 「だったらまず藤巻言うのやめましょうよ!!」 みさお「話進めましょうってば!他人の家の前で叫び続けることじゃありませんよ!?」 彰利 「だってだってみんなが僕のこと藤巻藤巻って!     僕の名前はそんなんじゃないやい!     クズどもからもらった名前でも一応好きな名前なんだい彰利って名前は!!」 みさお「じゃあもういっそのこと     過去に戻って名前を藤巻十三にしてもらって出直しますか?それなら話が」 彰利 「進まんよ!!弦月で産まれた十三って何者!?」 中井出「違う違う、フルネームは弦月藤巻十三なんだ。苗字が弦月、名前が藤巻十三。     で、職業は生まれながらにして夢精格闘家」 彰利 「そんな悲しい宿命の下になんか生まれたくねぇよ!!     ていうか藤巻十三が名前なの!?長ェよ!     テスト用紙や必要書類に名前書く度に泣きたくなるよ!!」 悠介 「その度に受け取ったヤツが“ああ……藤巻っぽい顔だ”って思うんだ」 彰利 「やめなさいシャレにならんから!!」 中井出「じゃ、ほんと藤巻はほっといて話進めようか、みさおちゃん」 みさお「そうですね、助かります」 彰利 「藤巻言うなったらぁ!!うわぁああああん!!!」 なんかもうマジで泣きたくなりました。 過去って……ほんと取り返しがつかないものですね。 僕はその事実が時々とても悲しかったりします……。 つーかほんとなにやってんでしょうねぼくら……。 中井出「じゃ、インターホンを………ところでさ、これってインターホンでいいんだっけ」 彰利 「え?俺?…………チャ、チャイムじゃないかな」 藍田 「え?ポッチじゃねぇの?」 丘野 「ピンポンでござろう?ピンポンダッシュという名がついてるほどでござる」 悠介 「インターホンってのは通話装置を差すらしいぞ?     だから一緒くたになってるこれもインターホンって呼んでいいと思う」 みさお「トリビアに突入しそうな話はいいですからっ……!」 ナギー『むう……解らないことが満載じゃの。あまり訊きすぎるのもなんじゃと思い、     口は挟まんようにしておるが……』 中井出「どんどん挟みなさい。そもそもこのメンバーで円滑を願うこと自体どうかしてる」 総員 『てめぇが言うな提督てめぇ!!』 中井出「言うだけならタダだろーがコノヤロー!!」 みさお「ああもう……」 ピンポーン。 モブルシャファーと溜め息を吐いたみさおさんがインターホンのスイッチを押す。 途端、ダッ!と逃げ出す猛者ども!! 彰利 「こ、これっ!何故逃げるのかね!!」 中井出「え?いや……用があるのにピンポンダッシュ……一度やってみたかったんだ」 藍田 「不思議とさ、ピンポーンと鳴ると駆け出したくならない?」 丘野 「まるでスタートダッシュの合図を聞いているのかのように」 そりゃ根性がひん曲がってる証拠じゃないでしょうか。 ……いやまあ、アタイも走りそうになったのを思いとどまったからこそ、 “これっ”て言葉でどもったんだけどさ。 ともあれゴゾォと動く気配を敏感にキャッチ。 キョホホ、今日も我が黒は冴え渡っておるよ? 奥方 「だれよ……ってやっぱアンタたちか」 彰利 「ヨゥメェーン!マイネームイズ」 中井出「藤巻」 彰利 「違いますよ!!」 奥方 「で?その藤巻サンがナンの用なのさ」 彰利 「違うっての!アタイは弦《ドボォッ!!》オフゥ!!」 悠介 「藤巻だ」 彰利 「ゲホッ……!ちょっ……!人に貫手してまで俺を藤巻にしたいの貴様……!」 みさお(違いますよ……。忘れたんですか?朧月は家系から離れて暮らしているんです。     “朧月”は家系の中でも異端とされていた名ですよ?     ここで弦月なんて名乗ったらどうなると思ってるんですか) 彰利 (ゲッ……!で、でもさぁ!藤巻はないんじゃない!?藤巻は!!     だったら俺彰衛門の方がまだ救われるよ!?) みさお(はぁ……この時代でそんな名前が通るわけないでしょうが……。     何度ノートさんに少しは考えてからものを言えって言われたか覚えてます?) 彰利 (ボッ……ボクは過去を振り返らない男なのサ!!) みさお(……さっき、自分の過去を変えてきたくせに) 彰利 (《グサッ!》ハウッ……!!) うわ痛ッ……!こ、この娘ったらなんてイタイことをハッキリと……!! ああいや今はそげなことを気にしている場合じゃあ……ねぇぜ!? だって早く訂正しないと親友の実母に俺が藤巻であると確信を持たれてしまう! なななならば今からでも即興で適当な名前を……! どっちにしても偽名になるけど藤巻よりはいい!確実に藤巻よりはいい!! 彰利 「お、俺の名は“皇 帝”(すめらぎみかど)!!藤巻なんて名前じゃあねぇぜ!?」 奥方 「アラそうなの?」 中井出「バカッ!なに言ってんだ藤巻!オマエは藤巻だろ!?」 藍田 「親にもらった名前を簡単に変えるなんて……知っていても恥を知れ!熟知しろ!」 皇帝 「知りまくってるから言ってんのが解んねぇのかテメェエエエエ!!!     とにかく俺は帝!皇で帝!皇帝と呼べ皇帝と!エンペラー!!」 悠介 「じゃ、吉田ってことで」 皇帝 「なんで!?皇帝でいいって言ってるじゃない!!」 悠介 「なんでって言われてもな」 藍田 「バッカちげーよ晦。こいつはなんだかんだ言って藤巻の名に愛着が───」 皇帝 「OK大丈夫!!俺エンペラー吉田でいい!!なんていい名前なんだ吉田!!」 中井出「ちなみにエンペラー吉田の本名って吉田十三だぞ?(実話)」 皇帝 「イヤァアアアア!!!十三イヤァアアアア!!待ってちょっと待ってェエエ!!     なにその悲しすぎる偶然!!狙ってんの!?偶然が俺を藤巻にしたがってんの!?     本気で偶然に皇帝って言っただけなのに本名が十三って!もういい!いいよもう!     俺の名は早乙女愛!これがこれからの名!魂の名だ!!」 悠介 「じゃ、羅武ってことで」 丘野 「よろしくでござる羅武殿!」 藍田 「羅武!よろしく!」 中井出「よろしくラヴ!!」 みさお「もう変えないでくださいね羅武さん……」 ナギー『おぬし……本当はラヴという名じゃったか……』 羅武 「早乙女愛だっつってンだろうがこの野郎!!」 なんかこうなると追い詰められた中井出の気持ちが解る。 でも立場が逆なら絶対に同じく追い詰める自信がある。 おお……奇妙な悲しみがボクを包みます。 ていうかね、中井出とナギ子さんの“ラブ”の言い方がやけに英会話的なのは気の所為? いいやもう……耐えるんだ……親友の過去との決着のためだ……。 ボクが耐えればなんとかなるに違いねー。 羅武 「ラ……羅武です……」 奥方 「……どうでもいいんだけどね。それで?その羅武さんがなんの用だい」 羅武 「そちらのお子さんに用があります。和哉という小僧がおるでしょう」 奥方 「和哉?和哉がどうしたって?」 羅武 「え?どうしたって…………」 どうしたんだろう。 そういや訊ねたはいいけどなにすりゃいいんだっけ。 羅武 「…………誘拐犯です!お宅の息子さんを我らに差し出せ!!」 悠介 「アホかぁあああっ!!!」 羅武 「《バゴォッシャァアッ!!》つぶつぶーーーーーっ!!」 切羽詰ったのちに我が声帯から放たれた言葉に親友の拳が空を裂く!! モノの見事に顎を砕かれた俺は地面をのたうち回り、うきっうきっうきっと絶叫した。 くそう、相手が神ってだけで随分と一撃のダメージがデカイぞコノヤロウ……!! 悠介 「あ、えっと。このタコの言ったことは気にしないで───」 中井出「そう気にすることなど皆無!!だからお子さんを我らに差し出せ!!」 藍田 「我らが真の誘拐犯!!」 丘野 「身代金なぞ要求しない家族にやさしい誘拐犯でござるから寄越すでござる!!」 悠介 「確かにある意味でやさしいけど落ち着いてくれ頼むから!!」 みさお「大体誘拐してどうするんですか!?」 中井出「大丈夫!!なにを隠そう、俺は観察日記の達人だぁああっ!!!」 悠介 「テメェエエ!!人の過去を観察してなにが楽しいんだぁああああっ!!!」 中井出「人の過去?なにを言っているんだ、キミは和哉じゃなくて悠介だろう」 藍田 「そう。前島が早乙女であるように、キミは和哉ではなくて悠介だ」 丘野 「つまり観察日記に刻まれるのは朧月和哉の名であり晦悠介ではないのでござる!」 奥方 「───晦!?」 総員 『ギャア馬鹿ァアアーーーーーッ!!!』 ガララピシャアンッ!! 玄関の引き戸が物凄い勢いで閉ざされた!! 誤解された!確実に誤解された!しかも思い切り警戒された!! 完全に家系の者だって思われたよ!ヤバイよコレェエエ!! どォオオすんのコレ!オマエの所為だよコレェエエ!! こんなんじゃこれからの行動全てが誤解一直線の眼差しで見られるじゃないか! ───などという常識的な考えはさておき、    とりあえず僕らは事態悪化の根源である丘野くんを全力でボコボコした。 Next Menu back