───時空放浪モミ列伝『第七章◆街の外れの怪力無双』───
【ケース474:中井出博光/がくえんゆーとぴあ まなびドラゴンフィッシュブロー】 丘野 「ヴゥウウエエエエエ……」 どしゃぁあああん……!! VITマックスにて今までを耐え抜いていた丘野くんが、 とうとう格闘ゲームのゴツいキャラっぽい声を出しながら倒れた頃。 我らはいい感じに温まった体を持て余しつつ汗を拭い、サワヤカに互い互いに笑っていた。 これが青春の汗だというのなら、青春とはなんと血生臭いものなんだろう。 ……まあ、血生臭かろうがサワヤカにスマイルしているのは紛れも無い事実なんだが。 悠介 「さて……どうしたもんかな」 中井出「とりあえず丘野二等を……羅武一等兵!」 羅武 「羅武一等兵!?一等兵つけるならそこは彰利って言おうよ!」 藍田 「じゃあこの際だから髪型をツンツン頭からヒトデアフロに変えてみるとか」 羅武 「全力でお断りだこの野郎!ええいもういいからなんぞね!!アタイに何の用!?」 中井出「これから丘野を越後屋の砂場に埋めようと思うんだが」 羅武 「おお!淤凜葡繻スピンヘッドベリアルなら任せたまえ!!」 藍田 「おおさすが羅武!!」 羅武 「ここで羅武関係ねぇだろ!!」 丘野 「じゃあ拙者は先に行って落とし穴でも作っておくでござるよ」 総員 『早ッ!!(復活が)』 丘野 「ヒロラインパワーの恩恵は実にスバラシイでござるな!     敵意が無くなれば即座に回復!最強でござる!」 僕らはヒロラインに降りたってだけで、随分とありがたい能力を得たのだと思います。 ほんと、これだけで随分と助かってる。 代わりと言っちゃあなんだが、 我らの間のツッコミレベルが急上昇した感じがしてならんが。 アグレッシヴになったっつーか、ねぇ? 基本が売り言葉に買い言葉なのは依然変わらずなんだけどさ。 みさお「では丘野さんが復活したところで……これからのことを考えますか」 中井出「任せとけっ!こう見えても俺は、状況整理の達人!!」 みさお「で、妙な方向に整理しては墓穴掘るんですね……」 ナギー『なのじゃ』 中井出「し、失礼な!!」 羅武 「まあよ、まぁああよ。ここでこうしてても確かに話進まんし。     とりあえずアレだ、悠介のオヤッサンが居る会社にでも行ってみる?」 悠介 「……何処にあるか知ってるのか?」 羅武 「へ?キミ知らんの?」 悠介 「知らん」 総員 『………』 状況はあっさりと行き詰った。 家はちゃっかり鍵をかけられてるし、チャイム鳴らしても応答無し。 オヤッサンの仕事場がどこにあるのかも謎であり、 さらに言えば今日寝泊りする場所すらありゃしない。 中井出「そういや寝泊り場所どうする?」 羅武 「あっはははーしょうがないー!今日はここで野宿だちょー!」 中井出「うむよし!ならば羅武はここで野宿!我らは宿でも探すぞ!」 総員 『サーイェッサー!!』 羅武 「うわヒデッ!い、いいよ俺も宿探すよ!俺だけ独りなんでやだぁあーーーっ!!」 悠介 「じゃ、分かれるか。ここで待つやつと父さんを探すやつとで」 羅武 「おおそれよ!それがE!!じゃあオイラパパりん探す!」 中井出「ほざくな!私だ!私が探す!!」 羅武 「おっとそうはいかねぇ!パパりんを見つけるのは俺だぜ!?」 ナギー『顔も解らんのにどうやって見つけるのじゃ?』 みさお「そうですよ、まずは状況を整理してからですね───」 中井出「否である!その必要は皆無!!」 ナギー『お、おおっ?何故なのじゃヒロミツ』 みさお「父さまの父上の顔を知っていたりするんですか?」 そんなもんは知らん。 だが───そう、だがだ。 晦の父だというのならきっとアレがすごい筈。 中井出「顔なぞ知らんがきっと一目で解るさ」 羅武 「おお、一目瞭然だぜ?」 みさお「あの、何処がどう瞭然に繋がると……?」 中井出「フフフ?どうやって判断するのかって……?     そんなの───“モミアゲ”に決まってるじゃないか!!」 羅武 「そう!なにせ悠介の親!!きっとものすげぇモミアゲに違いねぇ!!」 みさお「な、なるほど!!それは迂闊でした!!」 悠介 「そこで納得するなよ娘ェエエ!!!」 藍田 「そうかその手があったか!そうだよなぁ晦の父親だもんなぁ!!」 丘野 「絶対に大地に届くくらいに長いモミアゲでござるよ!?     産まれた頃からモミアゲだけは切らずに伸ばし、     手入れを欠かしたことなど一度も無し!     気安く触ろうものなら“魔技・モミアゲインフェルノ”で地獄送りに……!!」 中井出「そのモミアゲ、邪馬台国を思わせるようなとっくりのように結われ、     あたかもワタシジパングから来ましたという言葉を身で表現しているような風情。     しかし結われてなお地面を衝かんとするその長さは脅威を通り越し、     既に神懸り的な美しさを誇る……!!」 羅武 「そ、それが朧月パパか……!!」 みさお「……《ごくり……》あ、あの父さま!?是非目通りをしたいのですが!!」 悠介 「信じるな馬鹿者!!」 みさお「え……えー……?ウソなんですか……?」 悠介 「父さんは普通の人間だ!家系の人間ってこと以外はぶっきらぼうってだけで、     あとは全部普通の人間なの!!モミアゲだって長くない!!」 羅武 「……お前それ騙されてんじゃねぇの?実父じゃねぇんだよきっと……」 悠介 「まず疑うところがそこなのかよ!!」 だって晦だぞ? 晦の父のモミアゲ(母親のモミアゲは長くなく美しくもなかった)が美しくないなど。 長くないなど、そりゃオマエ、なぁ? 遺伝じゃなかったとしたらまさに奇跡のモミアゲだとしか言いようがないが……まさかな。 中井出「じゃあとにかくモミアゲがステキなダンディを探せばいいと」 藍田 「いや違うだろ。モミアゲがステキで口下手なシャイ男を捜せばいいんだ」 丘野 「いや……違うな。ぶっきらぼうでモミアゲがセクシーな男を探すんだ」 羅武 「それならホレそこ目の前に」 サム、と促された先にコメカミを躍動させた晦一等兵。 おお、見事なモミアゲだ。 総員 『ああコイツが。よろしくパパりん』 悠介 「俺が俺の親なわけがあるかぁっ!!いい加減にしろ羅武てめぇ!!」 羅武 「俺だけ!?つーか羅武てめぇとか言うなよボクのキミ!!」 中井出「そうだ!こいつのフルネームは猪口羅武(チョコラブ)なんだ!羅武てめぇは失礼だ!!」 羅武 「ギャアなにそれ!!その方がよっぽど失礼だよ!?」 中井出「なんだと羅武てめぇ!せっかくつけてやった名前が可哀相だろうが羅武てめぇ!」 羅武 「オイィイイイ!!羅武てめぇは失礼とか言った矢先に連続して言うなよ!!」 藍田 「うるせぇ静かにしろ羅武てめぇ!     そんなに叫んだら解ける警戒も解けねぇだろうが!!」 丘野 「そうだうるせぇぞ羅武てめぇ!!     まずなんとかして奥方の警戒を解かなきゃいけない時だろ今は!!     それをこんな家の前でギャースカ騒いだら     余計に警戒されるだけだろうが羅武てめぇ!!」 ナギー『そーなのじゃ黙るのじゃ羅武てめぇ!!』 羅武 「ナギ子さんまで!?ヒ、ヒドイ!なんてヒドイ!!」 悠介 「やかましい!!もういいからそっちで黒いじって     ヒトデアフロにグラサンとジャージ装備してジャンプでも見てろ羅武てめぇ!!」 羅武 「なっ……なんてかつてない斬新な罵倒!!     つーかなんで羅武にされただけでここまで言われなきゃならねぇの俺!!     そもそも髪型も破面の位置もグリムジョーなのにどうして羅武!?」 それは貴様が羅武だからだ。 愛と描いてラブと読む。そしてラブといえば羅武。 早乙女愛なんて名乗らなければこんなことにはならなかっただろうに。 みさお「───、あっ……窓が開いて───」 中井出「ぬう!?」 みさおちゃんの言葉を耳に、すぐさま玄関より右方にある窓を見た! すると確かに窓が開いて、そこから覗くように一人の少女がこちらを見ていた!! しかしその目がハッとした感じに動くと、 カララピシャンッ!と大きな音を立てて閉ざされた───上に、 鍵をかけられカーテンまで締められた!! 悠介 「………」 中井出「………」 総員 『羅武てめぇ!!このクズが!!』 羅武 「いやだからなんで俺!?」 悠介 「お前がそんなところで体変えるからだ羅武てめぇ!!」 中井出「なにやってんだ羅武てめぇ!!     人前で黒使って体変貌させてりゃ誰だってビビるだろうがこのクズが!!」 藍田 「そんなだからてめぇは羅武なんだよ羅武てめぇ!!」 丘野 「もっと状況ってのを見てから変身しろ羅武てめぇ!!」 みさお「なにもこんな時に変貌しなくてもよかったじゃないですか!!     空気くらい読んでくださいよもう!!」 羅武 「ええっ!?俺悠介が羅武スタイルになれって言うからなったのよ!?     それが───え、えぇええ……!?」 悠介 「人の所為にすんな羅武てめぇ!!」 羅武 「な、なんだと親友この野郎!     今の貴様にだけはそげなこと言われとぉないぞー!!     ていうか羅武言うのやめません!?マジで!!」 悠介 「どっからどう見ても羅武なお前が今更なに言うんだ羅武てめぇ!!」 羅武 「だからこりゃキミに言われたからなったっつっとろうが!!     解った!じゃあもう羅武でいいからてめぇつけるのやめよ!?ね!?」 総員 『え…………マジで?』 羅武 「なんでそんな地獄に突き落とされたような絶望フェイスで迎えるの!?」 藍田 「いや……ノリで言っといてなんだけど羅武てめぇって語呂がいいんだよね……」 羅武 「語呂の良さだけで羅武てめぇ言うんじゃありません!!羅武に失礼でしょ!?」 悠介 「確かに羅武には失礼だがお前には微塵にも失礼とは思わん」 羅武 「い、いや……それはもちろんそれでいいんだけどね……?     せめて羅武てめぇは勘弁してもらえませんかね……」 おお強い。 失礼さを微塵にも思わんと言われてもそれはいいと受け入れるとは。 さすが無遠慮を親友としての在り方と唱える彰利と晦だ。 しかしながらほんとにいい加減話を進めないとキリがない。 ここは潔く羅武の言葉を受け取るべき……なのか。 中井出「割愛か……辛いな」 羅武 「こんくらいの割愛でほんとに辛そうにするんじゃありません!!     じゃあホレ!悠介!?これからどうするのかキメなさい!     とりあえずキミしかパパりんの顔知らんのだから、     キミが探し部隊になるのは当然なんじゃけど」 悠介 「ああ。じゃあ───こっちの方は頼んでいいか?オーサマ」 中井出「オーサマはやめて……。まあ解った。こちらはどーんと任せとけ」 みさお「あの……大丈夫ですか?また無茶をしたりとかは───」 中井出「大丈夫!なにを隠そう、俺はアマテラス作戦の達人だぁああああっ!!!」 藍田 「外で散々騒ぎ、気になって出来たところを捕獲!!」 丘野 「ママさんを拉致し、     身代金を要求しないやさしい誘拐犯として生ける伝説となりましょう!!」 悠介 「すまん人相描き渡すからお前ら探してくれ」 決断早ッ!! おおお……思わず心の中で驚愕してしまうほどの変更速度……! しかも紙を創造してズシャアアアと人相描きを描く速度も並ではない!! ……これで、ズバッと差し出された絵が上手かったら言うことなかったんだが。 中井出「これが晦の…………つーか長州だ!長州力だぞこれ!!」 藍田 「え?これ長州?───マジだ長州だ!!」 ナギー『随分と個性的な絵なのじゃ……』 丘野 「そうだったのか……晦の親が長州だったとは……」 悠介 「ンなわけあるかぁっ!!どこが長州だどこが!!     よく見ろ!ちゃんと特徴的な部分は描いて…………………い、いや、     確かに長州に見えなくもない、かもしれないが……」 羅武 「いや……こりゃどう見ても長州だろ……」 みさお「長州……ですねぇ……」 羅武 「頼むよ……これからって時に長州描いてウケとろうなんて何考えてんのさ……」 悠介 「い、いやちょっと待て!俺はちゃんと真面目に描こうとしてだなっ……!!」 ナギー『だとしたら絵心がないのじゃ』 悠介 「《グサァッ!!》はぐぅっ!!い、いやっ!これでも俺は精一杯……!!」 中井出「大丈夫だ……解っているぞ晦一等兵……!!この博光はちゃんと解ってる……!」 悠介 「な、なかい……提督!!」 中井出「ようするに貴様の心の父は長州だってことだな!?」 総員 『な、なるほど納得!!』 悠介 「中井出ぇええええっ!!てめぇえええええっ!!!」 晦絶叫!! 見事な長州の絵が描かれた紙をゾボボゾシャアアと小気味のいい音で破き、 それを丸めたのちに俺へと投擲!! だが俺はその紙よりむしろ晦から目を離さず、 ポコリと紙が額に当たろうとも目を閉じずに待ち構えた!! するとどうだろう、 目を閉じるか避けるかした隙を狙おうとしたであろう晦が俺の目前へと疾駆し、 その目が自分をしっかりと見つめる我が眼を見た瞬間、 慌てて止まろうとするが───もはや遅し!! 中井出「M11型───」 悠介 「《ガッシィ!!》ぐわっ!?う、うわっ!ちょっと待て!待てぇえええっ!!」 中井出「デンジャラスッ!アァアーーーーーチ!!!」 悠介 「だわぁあああああ《ゴコォッチャァアアッ!!》ブゲッ……!!」 止まろうとした彼をガッシィと腕ごと死国(ベアハッグ)で捕獲!! のちにジャーマンで顔面から硬い硬いアスファルトへと叩きつけた!! もちろん腕ごとベアハッグしてるわけだから受身も取れず、 彼はヒクヒクと痙攣しながらズシャアと崩れ落ちた。 中井出「長州ボーイ……お前は強かったよ……でも間違った強さだった……」 悠介 「が、げぐっ……!お、お前なぁああ……!!」 羅武 「いやぁ……なんつーか今のは長州なんぞ描いたキミが悪いと思うが」 悠介 「描きたくて描いたわけじゃないわぁっ!!」 おおもう復活。 ありがとうヒロラインパワー。 羅武 「しっかしヘッタクソだねキミ……なに?美術の力まで無くなった?     今の貴様なら小指一つで勝てるぜ〜〜〜っ!!」 悠介 「冗談になってないからやめれ……。とにかく、父さんの特徴としては───」 総員 『長州か!!』 悠介 「長州から離れろ馬鹿者ども!!」 怒られてしまった……いやもうほんと話を進めよう。 ていってもなぁ、 妙なところでツッコミどころが現れるからどうにもスムーズにはいかんのだ。 何故って僕らは原中だから。 と思ってる間に、晦は新しい紙を創造して筆を走らせる。 さっきも思ったことだが、一緒に創造した書き物が筆ってところが実に晦だ。 悠介 「いいか?髪はこうボサボサで……」 羅武 「顔が長州で……」 悠介 「……服装はこう、どこにでもあるような平凡なもので……」 藍田 「で、顔が長州、と」 悠介 「ひ、人柄は……そうだな、やっぱりぶっきらぼうだ。無表情に……近い……」 丘野 「そしてフェイスは長州力」 悠介 「………」 あ。頭抱えた。 でもとりあえずすぐにナックルが飛ばないのは彼にとっては成長なんだろうか。 みさお「はぁ……では父さま?父さまのお父上は、     ラフな格好でなんというか自由人みたいなだらしない人で、     ぶっきらぼうで無表情…………ええと、     うえきの法則の植木耕助が大人になったみたいな格好なんですか?」 羅武 「さらに顔だけ長州」 みさお「ぶふっ!?〜〜っ……」 悠介 「……とりあえず長州は抜いてくれていいから、概ねそんな感じだ……。     それと笑いたきゃ盛大に笑え……もう止めるのも疲れた……」 みさお「い、いえっそんなつもりぶふっ!ぷっ、あははははははははは!!     ぷっは!あはは!ぷあはははははははは!!!」 悠介 「………」 長州顔の植木くんを頭の中で完成させてしまったらしいみさおちゃんが笑い出す。 どうもみさおちゃんは笑いには弱いらしく、一度笑い出すと中々止まらない。 そんなシーンを結構見てたりするんだが、そうなると大抵晦は遠い目をしてるんだよな。 つまりは笑いの根源が晦関係だってことなんだろうが。 今や腹を抱えて笑い、今にも地面を転がりそうなみさおちゃんを見ていると、 やっぱりそう思えて仕方ない僕なのでした。 ……などと“今日のワンこ”的な締めくくりをしている場合じゃないな。 さて、どうしたもんかな。 でもなくて、朧月パパを見つけるか朧月宅を強襲するかの話だったな。 元の目的が朧月和哉と朧月パパの観察なんだから、 べつに今すぐに強襲する必要も無いっていえば無いんだが。 待ってりゃ帰ってくるわけだしさ。 ……でも、そう思ってるのは俺達だけだろうな。 晦を見てりゃ解る。 早く父親の姿を見たいって雰囲気を、まるで周りに当り散らすみたいに振りまいている。 ようするに余裕が無くなってる感じだ。 家から閉め出された……いや違うか。 家に入ることが出来ないって解った時点から、 だったら父に、といった感じで外の方ばかりに気が行ってる。 父探しを俺達に任せようとした時だって、 確かに決断は早かったが……その代わりに表情が─── ああいや、そんなことあーだこーだ言っても始まらないな。 中井出「じゃ、入るか」 だから、と。 俺は小さく息を吐くように言った。 このままじゃ本当になにも進まない。 だったら多少強引だろうが突き進むが吉!! みさお「ふわ?は、入るって……」 ナギー『い、いきなりなんなのじゃ?この扉か?これは施錠されておるのであろ?』 と、ここで腹を痛めながら涙目で屈むみさおちゃんと、 なにやら俺の背中ばかりをちらちら見てるナギーが疑問を投げ飛ばす。 だがそんなものなど知らんとばかりに玄関の引き戸に手をかけ、 中井出「なんだって?施錠だって?そんなことはないさ」 ゴバシャシャシャゴキャメキャバギギシャアッ!! と強引に引き戸を開け、鍵ごと玄関を開放しました。 中井出「……なっ?」 みさお「わわぁああーーーっ!!?ちょ、だめじゃないですか!     そんな、力任せに引き戸破壊しちゃ……!!!」 中井出「なにぃ!?力任せじゃなかったらよかったと!?     ならば何故早く言わなかったのだ貴様!!」 みさお「あ、すいませ───ってそういう問題ではなくてですね!!」 奥方 「は、はああぁあっ!!ななななにやってんのあんたたち!!警察呼ぶわよ!?」 もちろん玄関破壊すりゃあ家の人も来るってもんで。 オネエっぽい言葉を放つ奥方は俺達を睨むやそう叫んだわけだが、 中井出「ふははははは!!警察!?呼べるものなら呼んでみるがいい!!     そんな者どもは全てこの世界を大いに盛り上げるためのジョン=スミスの団!     略してSJS団団員中井出博光が成敗してくれる!!」 奥方 「《ジーコロジー……》もしもし警察ですか?     はい、中井出博光という名前を今すぐ指名手配してください。     今玄関を破壊され、脅迫めいたことを叫び、     警察などゴミクズにも至らないと豪語してるんです。     はい、ええ、お怒りはごもっともですから早く来てください。住所は───」 中井出「オイィイイイイ!!ちょっとなに冷静に電話してンのォオオーーーーッ!!?     え!?指名手配!?ま、待ってよ!     確かに玄関破壊しちゃったけど脅迫なんかしてないし、     そもそも警察のことをゴミクズだなんて豪語してないよ!?」 藍田 「やったな提督!これで日本に名が知れ渡るぜ!?」 丘野 「おおお!とうとう提督が世界への一歩を踏み出した!!     たとえそれが悪名だろうが構わないその意気込み……!!すげぇぜ提督!!」 羅武 「ロロノアさんを彷彿とさせる意気込み!ナイスだぜ中井出!!」 悠介 「とうとうオーサマも日本を背負って立つ男になるのか……」 中井出「え……いやあの……マジで?     なんというかあのー、実は電話通ってなかったとかは……」 カタカタと震えながら奥方に訴えかける! が─── 奥方 「近寄るんじゃないわよ!玄関を壊されて黙ってるとでも思ったの!?」 思いっきり電話は通じてましたわいと断言する言葉が返ってきました。 アニメや漫画とは違い、飛ばしてもてんで返ってこないブーメランとはえらい違いである。 ……ブーメランってほんとに手元に戻ってくるように出来てるんだろうか。 中井出「警察呼ばれておまけに指名手配……     これでここに警察来たら写真も撮られてまさに超指名手配犯になるわけね……」 みさお「……ああ、これは───」 ナギー『うむ、じゃの』 中井出「うむよしどんと来るがいい!そんな面白い事態、この博光が避ける筈も無し!」 悠介 「やっぱりか……」 中井出「あ、あれ?なんでそこで呆れた風情で僕を見るかな」 藍田 「呆れるなんてとんでもねぇであります!サー!!」 丘野 「提督殿が世界に羽ばたかんとする姿!     感涙まではいかんでござるがとてもスバラシイと思うでござるマス!サー!」 羅武 「だから我らは影で見守る方向で、     ブタ箱入れられるのは提督だけでお願いします!サー!!」 中井出「うむ!一日とかからず脱獄してみせよう!!」 藍田 「すげぇや!さっすが天下の中井出さんだ!」 丘野 「もう捕まる気で居るなんて!すげぇ度胸でござるな!!」 中井出「え?いや今のは喩えで……」 羅武 「またまたご謙遜を!任せてくださいよ!サツの野郎どもが来たら全力で提督サンを     極悪非道の残虐超人だということを捏造しまくりますから!」 中井出「オイコラちょっと待て羅武てめぇ!!     ブタ箱ブチ込む気満々で話進めんなこの野郎!!」 羅武 「てめぇこそ羅武てめぇって言葉を蒸し返すなこの野郎!!」 ええいなんたること! 毎度のことながら自分を追い込むのが上手いなぁ俺! じゃなくて周りの人々!! みさお「それで、どうするんですか?」 中井出「考えてみりゃこんな近くで誰かを観察するなんてことが     そもそも無理だったんだよ!ちょっと考えれば解ることだったよもう!!」 藍田 「なにぃ!?提督てめぇ!まさかここまで来て逃げるとでも」 中井出「バカモーーーン!!この博光、怪物相手ならば怯えもするし逃げもしよう!     いや、怪物相手じゃなくても逃げもするし隠れもするけど。     だが言った言葉は出来る限り守る!それがこの博光の一本の芯だ!!     警察だろうがなんだろうがかかってこいやぁああああっ!!!     というわけで藍田二等、オリバになってアンチェインっぷりを披露してみない?」 藍田 「面白そうだよっしゃあノった!!変ッ身!!」 マカァーーーーーン!!! ───……。 のちの出来事をちょっとだけ語ろうと思う。 勢いに乗ってオリバに変身した藍田は、 その素晴らしすぎる肉体美で奥方を初見のみで気絶に追い遣った。 そりゃそうだ、生粋の日本人男性(執事服の細めの男)が 急に褐色でパンツ一丁の究極マッスルになれば、 そういった知識が無いヤツは驚愕以上の驚愕に巻き込まれることになるのは当然だ。 だがそれは単なる序章でしかなく……しばらくしてやってきたのはポリスどもとの対峙。 逃げる準備をさせる気満々なんじゃなかろうかと思うほどのけたたましい騒音を撒き散らし やってきたポリスどもは、一目見て“中井出博光”なんぞよりもオリバに銃口を向けた。 そらそうだ、って妙に納得出来るんだからさすがだ。 で……ああ、そうそう、ポリスなんだが……やたら大人しいオリバをどうしてか逮捕。 そのままボクラをほっぽったまま帰ってしまった。 なにがやりたかったんだろう……とか思ったんだが、 どうやら俺は写真を取られずに済んだらしい。 オリバもどうしてあんなに大人しかったんだ、 と疑問に思ったりもしたんだがそれはすぐに理由が解った。 羅武がポリスカーに黒を付着させ、様子を見てたんだが─── なんとオリバ、ドアをブチ破ったのちに“私を一人にしてくれないか”と言うと おもむろに走行中の車から飛び出し、一瞬にして姿を消したのだという。 ようするにオリバの真似をしたかったんだろうね、うん。 しかしその“一瞬にして姿を消した”ってのがまあ…… 対向車に思いっきり撥ねられて空を飛んだかららしいんだがね。 ちなみに無傷だ。 むしろ制限速度を思いっきり護ってなかった酔っ払い運転手の方が傷を負ったくらいだ。 なにせ車が思い切りヘコんでいたらしいからなぁ、恐ろしい筋肉だ。 状況を細かに解き明かしてみると───多分こんな感じだろう。 ───……。 ズガザザァアッ!!キキィイイッ!!! あれからどれくらい経った頃だろう。 晦がなんだかんだで心配そうに奥方を介抱する中、 朧月の家を囲むようにパトカーが停車したのだ。 で、玄関を壊した〜とかいう事態からして相当に危険なんだと勘違いしたのか、 やたらと多い人数でやってきたポリスは既に銃を抜いていたりして─── よくある刑事ドラマのように、車のドアを盾にこちらを睨んでいたりした。 ポリス「動くな!警察だ!!」 オリバ「オリバだ」 ポリス「ほぎゃあああああああああああっ!!!!」 で───まあ。当然のごとくパンツ一丁の褐色怪力無双を見て絶叫。 解る、解るぞ。 こんな人気の無い家の近くにパンツ一丁の怪力無双が居れば誰だって絶叫したくもなるさ。 人気の問題じゃないな、初見じゃ誰だって驚愕するだろうさ。 オリバ「遠路はるばるようこそ訪ねて下さった……園田警視正」 園田 「なっ……!?何故私の名を!?」 オリバ「明日でもよかったんだが私はせっかちでね……」 園田 「し、質問に答えたまえ!!」 どうやらマジで園田という名前らしい、その場を仕切っている男が焦りつつ叫ぶが、 オリバはあくまで冷静にゆったりと行動ッ……!! その風情は優雅ともとれる絶対的自信から来る行動ッッ!! 己を繋ぎとめるものなどなにもないのだとッッ!! 己の自由を誇示して見せるがごとくあまりに優雅ッッ!! ハハ、バキよ……彼の何処がチェインだって? この振る舞い、この在り方、縛られているようでいつでも自由に振舞えるその力こそが、 まさにアンチェインの名に相応しい在り方じゃないか……!! 繋ぎとめられているんじゃない、 いつでも鎖なんて破壊できるからアンチェインなんだ……! 丘野   「ど、どうするでござる?やはりここは成り行きを見守るべきでござろうか」 中井出  「同じく変身して引っ掻き回すという案もあるが」 羅武&悠介『面白そうだ是非やろう!!』 みさお  「いえあの……ち、父上ぇえ……」 ナギー  『みさおはノリが悪いのぅ。楽しいことのなにが不満なのじゃ?』 みさお  「状況をないがしろにして騒ぐのはちょっと苦手で……」 うんうん……みさおちゃんは常識人だなぁ……だが!! 中井出「蔑ろにあらず!     何故なら我らはその状況自体を楽しむために日々切磋琢磨しているのだ!!」 総員 『何故ってそれが原ソウル!常識だけでは語れない!』 中井出「楽しむためなら知人の不幸も糧としよう!!     笑いのためなら己の不幸も糧にしよう!!     楽しむため!!面白いことのために日々を無謀に突っ走る!!     それこそ我ら原中迷惑部が志す猛者魂である!!」 みさお「そ、そんなもんですか……?」 中井出「うむ!そんなもんである!     小難しいことを考えていてどうして日々を楽しく過ごせよう!!     せっかく地界の理から外れることの出来た我らだ!     今この時を散々と楽しまずにいてなにが男!!     常識なぞぶっ潰せ!持つものなど最低限のルールだけで十分だ!」 みさお「……じゃ、じゃあこの場合、まずどんな常識を潰すべきなんでしょうか……」 はふ、と小さく息を吐きつつ、 怪力無双の逆三角形に怖じているポリスたちを見るみさおちゃん。 釣られるように俺もそっちを見るが───答えなぞ決まっている。 中井出「え?そんなの警察を素手でブチノメすに決まってるじゃないか」 羅武 「そうだよ……なにを言っているのだ?」 悠介 「どうしてそんな当たり前のことが解らないんだ……父は悲しいぞ」 みさお「どんな当たり前ですかそれは!     それも常識ならむしろそっちを破壊してください!!」 丘野 「解ってねぇでござるねみさお殿。我らが挑戦するのはあくまで一般常識。     つまり我ら原中が持つ常識を破壊したら、     それこそ一般常識に逆戻りということになるからつまらんのでござる」 中井出「無抵抗な人間を殺したり金を盗んだりなんて外道な真似はせん。     力を手に入れたからって、それを非道に使うほどクズでもない。     我らは我らの常識の中で動いているのだ。     地界には地界の、神界には神界の、冥界には冥界のルールがあるように、     我ら自体が既に“原中”という世界のルールを持って生きているのだ」 みさお「……そのルールって……」 総員 『不意打ち!裏切り!なんでもあり!!』 みさお「何処のブレイドバトラーズですかあなた方は!!」 羅武 「バカヤロコノヤロォ、我ら原中が過ごす日々は全てが乱世のソレよ。     いつ自分がネタにされてズタボロになるかも解らんこのスリルが何故解らん」 みさお「いえ……さすがに頭抱えて泣き出す人を見てからじゃ笑えませんし」 総員 『提督てめぇ!このクズが!!』 中井出「え?俺?つーかてめぇらが無理矢理人に試練強要するからだろうが!!     そんな状況で泣いた俺の何処に悪いところがあるってんだ言ってみろォ!!」 羅武 「頭」 グッサァアアアアッ!!! 中井出「グアァアアアアアッ!!!」 丘野 「うおお!?て、提督!?どうしたでござる提督!!」 ナギー『ヒ、ヒロミツが驚愕の表情と謎のポーズを取ったまま固まったのじゃ!!     どうしたのじゃ!?どうしたのじゃヒロミツ!!』 みさお「……いえあの、     これってただあまりにもショックが大きすぎて固まってるだけなのでは……」 悠介 「ひでぇなお前……なにもそんなストレートにほんとのこと言うことないだろ」 羅武 「え?俺?ていうかキミもさりげなく相当ヒドイこと言ってるけど」 みさお「それよりもですね……藍田さんが警官たちに発砲されまくってるんですけど」 中井出「オリバに銃なんかが効くとでも?」 みさお「当然のように復活しないでくださいよ……」 中井出「いや、確かに俺べつに頭良くないし、いいかなーって」 俺の言葉にすかさず晦がそこは反論するところだろと漏らした。 だが構わん、自分の力量くらいはなんとなく弁えてるぞ俺は。 だから強敵と会えば逃げるし、一本の芯だって命の前では退却に変わります。 俺達ゃウソつきなのさ。ついていいウソと悪いウソの区別がつけられる方の、な。 なんて思った矢先、視界の横で何かがゴトリと落下。 次の瞬間、目を焼き尽くさんと輝く閃光が俺達を包んだ!  ガカァアアアッ!!! 総員 『ギャアアーーーーーーーッ!!!!』 な、なに!?なにこれ! 目がッ……目が開けられん!! ていうか横の方でなにやらジュウウウと奇妙な音が聞こえるんだが。 声  「ガァアアアアーーーーーーーッ!!!!」 ……羅武だった。 この声は羅武だな、うん。 黒な彼だから、強烈な光にダメージを受けているんだろう。 なんてことを妙に冷静に思えたのは、多分こんな神秘経験を味わうことなど そうそうないからだと原ソウルが認識したからだろう。 ようするにこれはフラッシュグレネード。 閃光手榴弾ってやつだ。 鋭く瞼の奥までを焼き尽くさんとする閃光は、 くらった者全てを否応もなく縮めこませるっていうが、どうやら本当らしい。 周りがどうかはともかくとしても、 俺は身を丸めさせるようにして身動きが取れなくなっていた。 だが羅武が居た方とは反対の隣で動く気配。 隣に居たのは……晦だった筈だが。 声  「フラッシュグレネードか……くらったのは初めてだな」 ていうかなにやら冷静に喋っちゃってますが。 声  「なるほど、白側に染まってると閃光もてんで効かないのか。便利だなこれは」 ……むしろ解説までしてくれている。 なんて状況にやさしいヤツなんだ晦一等兵。 声  「っと、提督ー?無事かー?」 中井出「う、うむ無事だが……目が、目が見えない。     まるでムスカ大佐がバルスを前に盲目になるかのように」 ……それに反してやたらと体に力が漲るのは、きっと心眼テオハートのお蔭だと思います。 そんな俺を見て晦はふむと声を漏らし、 恐らくまだ続いているであろうフラッシュの中でゴソゴソと動き出していた。 中井出「ま、周りの様子はどうだ?」 声  「ほぼ全員丸まってるな。まあ当然かもしれ───ハッ!!」 中井出「ぬう!?どうした!?なにがあった晦一等兵!!」 声  「い、いや……いやだって───ウソだろオイ!     いやまあ妙に納得出来るところはあるが……!!」 中井出「……!?」 晦一等兵は混乱している! そして俺も混乱している! なにが……いったい何が起きていると!? そう言おうと口を開きかけた時、言うより早く晦一等兵が口を開いた……!! 声  「オ、オリバが……この光の中で平然とこれみよがしの逆三角形を……!!」 総員 『な、なんだってぇええーーーーーーっ!!?』 ……で、俺も他のみんなも妙に納得してしまったのだった。 耳を疑ったわけでもないが、驚いたのは事実です。 わたしら警察官じゃない人間でも知るこの世でイチバン強烈な光ですから。 みなさんもよく知ってるあの事件───バスジャックでも使用(つか)われたあれですよ。 包丁持ってようが拳銃持ってようが、 あの光を浴びた人間の取る行動って一つしかないんですよ。  身体を丸める。 あの事件でもモチロンそうでした。 老若男女、これ本能なんです。 しかしそこがオリバなんでしょうね。 立ってるそうなんですわ。 イヤ、怯んだ様子は全然なかったそうです。 ていうかオイィイイイ!!どういう目ェしてんだお前ェエエエ!!! やっぱアレか眼球か眼筋肉も怪力無双なのかァアア!? 声  「っと、光が治まったぞ」 中井出「でもあのー、目ェ開けてもなにも見えないんだけど」 声  「鋭い光を見たあとだと網膜に光の痕が残るだろ。     あれが網膜全体にへばりついてるようなもんだ。しばらくすりゃ直る」 なんつーか俺って状態異常にはとことん縁があるね……トホホイ。 だがXメンは挫けない!!盲目になったならそれを利用して楽しむことを探せばいい! さあ働け俺のブレイン!うむ!よし!なにも思いつかん!!その間僅か2秒!! 声  「よし!全員突撃!!」 声  「おぉおおっ───ヒィッ!?ななななんだコイツ!あの光を受けて平然と!?」 声  「馬鹿な!フラッシュグレネードが効かないだと!?」 声  「慌タダシイコトダゼ……抜イタ手ヲ見セヌナド……。     コウシテ……優雅ニ……ユックリト抜クノガ……」 バゴォッチャァアアアアアッ!!! 声  「ギャアーーーーーーーッ!!!」 声  「スマートッテモノサ……」 炸裂音ののちに絶叫! 誰かが殴られたらしい!……ていうかあれ?さっきの声、聞き覚えがあるような……。 声  「た、大変だ!怪力無双がヒトデ型アフロのジャージ男を殴り飛ばしたぞ!!」 声  「……まさかとは思うが……見えていないのか!?」 声  「捕らえますか!?」 声  「迂闊に近寄るのは危険だ!睡眠ガス弾はあるか!?───よし、投げろ!!」 ぬう……!目が見えない所為でなにがなんだか解らん───睡眠は冗談ではない!! 眠ってしまってはそれこそ状況が解らんではないか! だからその作戦───俺が潰す!! とはいってもどうやって?………………ズキィッ!! 中井出「ぐおお痛ッてぇええええーーーーーーーーっ!!!」 声  「とわっ!?ど、どうした提督!」 中井出「い、いや……なんでもない……!!」 霊章に収納してある双剣の意志を読み取ろうとしたが─── 鋭い頭痛に襲われ、長続きはしなかった。 ……頭に浮かんだ言葉は“現実”。 所詮人間風情、って感じの後ろ向きな考えだ。 異能力は人の手には余る。 特に、俺みたいな平凡な人間の手には余りすぎるのだ。 人としてあると決め、 寿命や魔導とともの開かれた空界の回路も地界の回路の小さな足しになっただけ。 もともと異能力を使うのに向いていない地界の回路じゃあ、 異能力を使おうにもなんの足しにもなりゃしない。 じゃあそんな星の下に産まれた自分を恨むかって?冗談じゃない、俺は俺が大好きだ。 いや、正しく言えばばーさんとじーさんに救われた人生をなにより大事に思ってる。 だから地界人に産まれたことを後悔なんてしてないし、 こうしてメチャクチャな日常を突っ走っていられることにも……なんの後悔もないわ!! むしろこんな滅茶苦茶な日常に巻き込みやがった晦たちに感謝したいくらいだ。 だから───いつか臨終の時を迎えたら、言ってやるつもりだ。 こんな面白い世界に巻き込んでくれてありがとう、って。 ま、今はそんなことどーでもヨロシ。 現実がどーした、人間風情がなんだ。 俺はやると決めたら意地でもやる!出来ないからやめるのではない!! 出来ないからこそやってやるのだ!合言葉は“常識なぞブッ壊せ”!! 中井出(───、ぐ、ぬぅ……!!カァアアアアアッ!!!) 集中、集中、集中!! 吐き気がするほど痛む頭を無視し、霊章から武器の意志を引きずり出す! 引きずり───イヤァアアアアアアア!!!! 武器の意志の隣からなにかイケナイ意志がゾルゾルとォオオオ!!! やめてぇえええ!出ちゃだめぇええええ!!出たら僕狂っちゃうゥウウウウ!!! あ、ヤバイ!ヤバイよ!このままだと───!ヒィ!霊章から少しずつ火闇が!! しかも霊章がこれまた少しずつだけど広がっていって……!! ぬぉおおおおおさせるかぁあああっ!!この体も意志も僕ンだい!!! 中井出「《メキメキメキメキ……プギッ!ビヂヂッ……!》ごおおお……!!」 声  「うおゎっ!?て、提督!?おい!耳から虹色の汁が出てきてるぞ!?」 中井出「えぇっ!?それって謎汁!?噂に聞いた謎汁虹色!?」 虹色の汁!?なにそれどんな色!? 僕の耳から虹の架け橋が何処かに向けて飛び出てるの!? ていうかやっぱ晦に提督って言われると物凄くヘンな感じ!! 違うよ!?僕ほんと王の器とかじゃないから! じゃなくて睡眠弾をなんとかしなければ! 中井出「ファイクミー!」 声  「サーイェッサー!!何事でありますかサー!!」 中井出「晦一等兵!ヤツらが投げる睡眠ガス弾をなんとかするのだ!!     眠ってしまうのは状況的につまらん!」 声  「ノォサー!既に手遅れであります!!     睡眠ガス弾の話が出てからどれだけ時間が経ったと思ってんだ提督!!」 いやまあ……解ってたけどさ。 じゃあその、なんだ。眠るの確定? 中井出「否ァ!断じて否ァ!!この博光、     楽しいことを前に眠るなどというお行儀の良いお子様ではいられん猛者!!     眠かろうが意識を失う瞬間まで枕投げをおこなうことさえ出来る!!     ならばこそグォオオオなにやら急に眠気が……!!」 声  「こう言うのもなんだが、提督って物凄く状況に素直だよな」 中井出「つ、晦……貴様は平気なのか……?」 声  「フフフ、人間の睡眠道具なぞ神には効かんすまんウソだ眠い」 彼も相当オチャメになりました。 でもまあとりあえずだ。 中井出「《ブブチャア!!》ぎゃああああああ!!!     ……、ふ、ぐくっ……!!フ、フフ……?眠くない眠くない……!!」 声  「……俺、睡眠ガスくらっときながら鼻毛抜いて眠気逸らしたヤツ初めて見た」 中井出「そういう貴様は何故平然と喋ってるのか気になるんだが」 声  「眠々打破を俺流にイメージして創造して飲んでみた。眠気飛んだぞ」 中井出「それだ!!」 声  「おわっと!?な、なんだ?提督の分も創造───」 中井出「ノー違う!貴様は創造に頼りすぎだ!!     こんなオイシイ状況で眠気を無くしてどうする!!」 声  「ちょっと待て!睡眠弾をなんとかしろって言ってきたり、     なんとかならなかったらならなかったで眠気を無くすなってどういうことだ!!」 声  「晦殿……そりゃ間違いでござるぜ?」 声  「キョホホ……その通りだぜ親友。     楽しむってのはな、スリルも状況も味わってこそなのさ。     あ。ちなみにオイラは爪と肉の間に針刺して奇跡の復活を得ました」 ていうかオリバに殴られたんじゃなかったのか? ……いや、もう復活したんだろうな、実に彰利らしい。いや今は羅武か。 声  「ヌワヌワヌワ、俺は舌を噛んでみせたぜ〜〜〜〜っ!!」 声  「……で、みさおとナギーは見事に昏倒、と。はぁ……」 中井出「ぬう……栄えある原中に身を寄せる精霊ともあろう者が不甲斐ない……」 声  「お前らが逞しすぎるんだよ!!     ……って、そうこうしてる間にオリバが逮捕されてるし!ああもう!!」 声  「フフフ、チョックラ行ッテクルゼ。心配センデヨロシイ、スグニ戻ッテクル。     ワタシガナント呼バレテイルカ知ラナイ筈ガナイダロウ?」 中井出「怪力無双か!!」 声  「オィイイ!!そこはアンチェインって言うとこだろうが提督てめぇ!!」 声  「オリバ顔でツッコミ入れるな不気味だから!!」 声  「なにをごちゃごちゃ言っている!……そもそもどうして眠らないんだ貴様!!」 声  「私の筋肉の暑さは世界一だ。こんなガス一つではとてもとても睡眠までは……」 声  「筋肉!?」 ああ……ポリスの驚愕が手に取るように解る。 筋肉で睡眠ガードするなんて聞いたことないよな、うんうん……。 ……っと、時間稼ぎしてくれたお蔭で、おぼろげだけど目が見えてきたぞ……? ポリス「ともかく乗るんだ!さあ!」 オリバ「急がんでよろしい。逃げも隠れもしないさ《コキャッ》」 ポリス「ああっ!?こらっ!手錠を破壊───破壊!?」 見えるようになった景色の中、オリバはかけられていたらしい手錠を、 まるでスペックがそうしたかのようにコキャッとあっさり破壊した。 すげぇやさっすがアメリカを代表するアンチェインだ! それでも優雅にゆったりとポリスカーに乗ると、 軽く手を上げながら我らにウィンクしてみせた。 くそぅ、物凄くサマになってるのが妙に悔しい。 でも僕らは彼を見送った。 ポリスもなんだか重罪人を捕らえたみたいな誇らしげな顔してるし、 それならもういいかなぁ……と見送った。 ……つーかそもそもポリスどもって俺を捕らえにきたんじゃなかったっけ。 いや、もうなにも言うまい……。 ドグォッシャァアアアアンッ!!! 総員 『オワッ!?』 と思ったりもしたんだが、少しもしない内に遠くからなにかの炸裂音!! なにも言うまいとは思ったが、事故るなとは言いたいデスヨ!? 中井出「なっ……何事かぁああ!!」 羅武 「大丈夫だぜ中井出!     こんなこともあろうかとポリスカーに黒を付着させて様子を見てあるのさ!!」 中井出「おおなんと匠な!!で、状況はどうなっている!?」 羅武 「サー!報告致します!一刻も早くオリバから解放されたかったらしいポリスどもは     その自由度を余すことなく開放し、ポリスカーで爆走!!     しかし車がこの鬱葱とした場所からちゃんとした道路に出てスピードに乗るや、     “わたしを一人にしてくれないか”と言ってウィンクしたオリバが     車のドアをブチ破り逃走!!───した途端、対向車と衝突!!     丁度浮いてたために思い切り吹き飛ばされ、森の茂みへと姿を消しました!!     ───ちなみに衝突した車はあまりの筋肉の厚さに大破!!     乗っていたらしい酔っ払い運転手はなにやらぐったりして動きません!!」 総員 『人間に衝突して大破!?』 どんな筋肉なのそれ!! 宙に浮いてる怪力無双をあたかもバットで打ち上げるがごとく吹き飛ばしたのに、 車の方が大破って……そ、園田警視正……アンタ正しいよ……! オリバったら確かに人間の領域超えちゃってるよ……。 総員 『………《ゴ、ゴクッ!!》』 みんなもそう思っているのか、無言で息を飲んでいた。 気づけばなにをするまでもなく眠気は吹き飛び…… 我らはただただドキドキとした奇妙な恐怖の中で沈黙を守っていた……。 そんな折、ふと“ズチャッ……”という音を耳にして、 総員 『ヒィッ!?《ババッ!!》』 一斉に振り向いたのだが─── オリバ「……なんだか……すっかり気を遣わせちまったね……」 そこには森を優雅に歩く怪力無双の姿が!! ───エ?森? 裸足で森歩いてどうしてズチャッとか鳴るの!? オリバ「まあ……《ズチャッ、ズチャッ……》」 オリバはやはり優雅に歩いてくるッッ!! いつしか夕方となっていた空の果て、 鈍く輝く夕焼けの光が木の隙間からこぼれる森林を、あくまでも堂々とッッ!! そして変わらずゆったりと……羅武の前に止まると、 オリバ「わたしのパンチなど通用するハズもないのだが……」 森林に囲まれたこの家の前でやはり優雅に拳を構えてゆくッッッ!! オリバ「せっかくのチャンスだ……お言葉に甘えさせてもらう」 羅武 「───え?あ、アレーーッ!?チャンスってなに!?     俺べつに“先に叩いてくれないか”とか言ってねぇよ!?《ス…》はうあ!?」 オリバ「バカだぜアンタ」 羅武 「!」 謝謝楊海王……ベッキャァアアアアッ!!ゴキャキャベキボキゴキンッ!! 総員 『うわヒッデェエエエエエッ!!!』 訳も解らず潰された黒いヒトデアフロが謝謝楊海王状態に……!! だが潰れた体はドロリと溶け出し、一度水溜りのようなカタチになると─── ゾリュンという奇妙な音とともに人の形へと戻る!! 羅武 「なにすんだてめぇ!あと少し黒化が遅かったら死んでましたよ!?」 悠介 「お前がそれくらいで死ぬか」 羅武 「オウヨもちろんだ!言ってみたかっただけだし」 なんとも逞しいヤツだった。 死神の王が怪力無双に殺されるなんて場面、見たいけど見たくないからそこは謝謝逞しさ。 と、そんなやりとりの中でオリバも藍田に戻ると、 藍田 「ぷはぁっ……うーお眠ぃ……」 と、今更睡眠弾の効果に辛そうにしていた。 普通は睡眠弾って即効性が強すぎて耐えられるようなもんじゃないんだろうけど、 そこは我ら、奇妙なド根性だけならそこらのヒューマンなどには早々引けを取らん。多分。 羅武 「よっしゃほいじゃあ状況整理ね?」 悠介 「だな。いい加減本当になんとかしないと……」 藍田 「みさおちゃんとナギ助が寝たままだけどいいのか?」 悠介 「いいイイ、寝かせといてやってくれ。ナギーはどうか知らんが、     みさおは俺達のノリには早々ついていけないだろ」 丘野 「ついこのあいだまで同じような存在だった者の言葉とは思えんでござるな」 悠介 「そりゃ自分でも自覚してるけどな、一回くらい言ってみたいだろ」 中井出「うむ。で、まずはこれからどうするかだが」 言いつつ空を促す。 既に空は夕焼け空へと変わっていて、 なんとも無駄な時間を散々と過ごした事実を我らに色を以って知らしめていたりする。 だが楽しかったのなら後悔はない。 人生ってきっとそんなもんさ。 悠介 「夕焼けか……この景色も懐かしいって感じられるなら、     俺は確かにここに居たんだろうな……」 羅武 「不思議じゃよね。どうしてそこまで忘れられるんだか。     いくら子供ン頃いろいろあったからって、そうまで忘れるかね?     親父サンのこと、かなり好きだったんしょ?」 悠介 「……まあ、忘れてるところが大半なのは事実だけどな、     完全に忘れてるわけじゃないんだ。景色を見ればここは……って思い出せるし、     こうして懐かしいって感じられる。     印象が強いところを見ればここではこんなことが……って振り返れるし、     夕焼けを見ればあの広い背中のあったかさだって思い出せる」 羅武 「ふむん……相変わらずのファザコンっぷりよのぅ。     キミの口からパパりんのことを聞いて以来、     それはかなりデッケェ愛だと思ってたがそこまでとは。     ……いい歳して恥ずかしくねぇのかねこのモミアゲは」 悠介 「モミアゲは関係ないだろうが……。     大体、家族に愛情感じること自体に年齢なんて関係あるもんか。     お前はなにか?もっと歳とったら篠瀬のこと好きでもなんでもなくなるってのか」 羅武 「失礼な!俺は夜華さんを愛してる!何故だか知らんが愛しすぎてて困るくらいさ!     いやね?なんかね?もうまるでね?     複数に向ける愛が一点集中状態にでもなったかのような愛なの。     俺夜華さん好きだよ?愛してる。もうね、年中抱擁してたいくらい愛してる」 悠介 「そうか……じゃあとりあえずお前の愛に免じて教えといてやる」 羅武 「ぬ?なにかね?」 悠介 「……猛者どもがお前の今のセリフ、したり顔で録音してたぞ」 羅武 「キャーーーーーーーッ!!?」 叫ぶ羅武!だが遅い! こっちはもうしっかりと録音済みだ!! 中井出「愚かよのぅ羅武よ……我ら原中が猛者の前で迂闊にも愛を語るなぞ……!     炎天下で棒アイスを食べて、終わり際に落下させるくらい愚かしい……!」 藍田 「ジョワジョワジョワ、     あんなことを言われちゃあ原中としては録音しねぇわけにはいかねぇぜ〜〜っ!」 丘野 「ヌワッヌワッヌワッ、強くなっても何処までも隙だらけな男よ〜〜〜〜っ!!」 羅武 「う、うぬぬ〜〜〜っ!!い、今使ったテープをよこせ〜〜〜ッ!!」 中井出「で、話の続きだけどな」 藍田 「これからのことだな」 丘野 「そうでござるな」 羅武 「サラリと無視しないでぇえええっ!!」 悠介 「まあま、いいだろべつに。録音されたからってお前の……ぶふっ、     が薄れるわけじゃ……くっくっく……!」 羅武 「堪えられないくらいに笑われながら言われても落ち着けませんよ!!」 悠介 「いや、だってな……!     愛だなんてまともに口にするのなんて逆におかしくてな……!」 羅武 「なんだとモミアゲこの野郎!     貴様だってルナっちに俺はお前を愛してるとか言ってぶっちゅしてたデショ!?」 悠介 「だぁバカっ!そこでそれ言うか!?」 羅武 「言うわ語るわ叫びますわい!!この愛のモミアゲ戦士めが!!」 悠介 「なんだと羅武てめぇ!!てめぇこそ愛のトンガリ戦士だろうが!!」 愛って部分は訂正しないらしい。 モミアゲ戦士なのは周知だから諦めてるんだろうか。 中井出「じゃ、とりあえず奥方気絶したままだし……家に入るか。     まだ見る外道が我らを呼んでいる。まさにこの世は乱世よ。     奇妙な自由を謳う我らには半端なぞ許されん。     家に入りたければ入り、観察したけりゃ観察する。     暴れるモンスターあればとことんぶちのめし、     輝くお宝あれば無理矢理ひとりじめ」 藍田 「おお、大胆不敵だぜ提督」 丘野 「電光石火でござるな」 羅武 「勝利はわたしのためにある!」 中井出「うっわお前最低な」 藍田 「クズだな」 丘野 「カスが」 悠介 「埋葬虫(シデムシ)が」 羅武 「スレイヤーズの真似してたんじゃないの!?つーかヒドイ!シデムシはヒドイ!」 なんてことをブッ壊れた引き戸の前でギャアギャア語りつつも、 まるで居酒屋の暖簾をくぐるような気安さで我らは侵入を果たしたのでした。 Next Menu back