───一方その頃/現代における力の在り方───
【ケース475:穂岸遥一郎/その後、お遊びでの魔法行使は危険だと悟ったらしい】 で…… 遥一郎「どうして現実世界に来てまで全員分の食事作ってるかな……」 とある朝のこと。 晦たちを見送った俺達はなんやかんやで屋敷に戻り、 あーだこーだと話し合っては食事当番を誰かに押し付けようと懸命だった。 そんなものよりもっとなにか、 別に懸命になれることはないのかとツッコんだのがアダだったんだろうが…… なんの因果か結局は俺が厨房を任されることになり、 アシスタントというか手伝ってくれている蒼木とともにのんびりと朝食の用意をしていた。 遥一郎「なにかが間違ってる気がする……」 澄音 「それでも作ってあげるのはキミのやさしいところだと思うけどね」 遥一郎「ばっ……馬鹿言え、こんなのやさしさが無くても出来る」 澄音 「そうかな。でも、誰かのために誰かのためになることをしてあげられるのは、     とても眩しいことだと僕は思うよ」 遥一郎「………」 澄音 「キミは誰のために何をしてるのかな」 遥一郎「〜〜〜……腹を空かせたばか者どもに、料理作ってるんだよ。見れば解るだろ」 澄音 「フフ、うん、そうだね。で、その小さな皿に盛り付けられた、     サクラちゃんとノアちゃんの好物はなんなのかな」 遥一郎「ぐっ───」 無意識だった。 ていうかサクラとノアを結局は特別扱いしてるところを 簡単に見破られてる自分がかなり恥ずかしい。 澄音 「あっはははは、素直じゃないなあ穂岸くんは」 遥一郎「……、与一でいいって言ったろ。ったく……」 澄音 「うん。長い付き合いだ、こういうこともあるね。     僕はキミのそういうところが好きで、友達やってるんだけどね」 だとしたら性質が悪いぞ。 だからクックと笑いをこぼすのはやめろ。 澄音 「それで与一、出してくれって言われたこの食器、どうすればいいのかな。     そろそろ重くなってきたから早く指示してくれると嬉しいかな」 遥一郎「そう思うんだったらヘンなこと言うなよ。そこに縦に3枚ずつ並べといてくれ」 澄音 「うん」 ガチャ、と皿を持つ蒼木が、指示通りに皿を並べてゆく。 ……そう、本当に長い付き合いだ。 学校の屋上で出会って、ここまででどれほど長い時間を一緒に居ただろう。 風になったり桜になったり、精霊になったり奇跡になったり。 そんなことを繰り返した先にこの状況があって、 俺と蒼木は一緒の時間の記憶を持ったままに笑い合えている。 それが奇跡ってもののお蔭であるのなら、 それはもっと奇跡らしい奇跡であってほしかった。 そう思うのは贅沢だが、思わずにはいられないのは……今の日常が穏やかだからだろう。 遥一郎「蒼木、塩が切れた。そこの戸棚にあったと思うから」 澄音 「すごいね、他人の家の調味料の場所まで覚えてるのかい?」 遥一郎「騒ぎ好きで食べることが好きなやつらばっかり居れば、     食事係りなんてすぐ任されるだろ。     弦月も晦も、料理が得意なくせに積極的じゃないからな」 あいつらが積極的なのは楽しいことを前にした時くらいだろう。 そっちを優先させるあまり、こういう仕事は今じゃ俺に流れてくる。 だからといって料理が嫌いかといえば……そんなことはノーなんだが。 澄音 「凍弥くんにも手伝ってもらえばよかったんじゃないかな」 遥一郎「凍弥か?あいつは今朧月嬢の相手で忙しいからな」 澄音 「だったらサクラちゃんとノアちゃんにでも───」 遥一郎「あいつらに包丁持たせるつもりは一切無いぞ俺は……」 澄音 「あはは、相変わらず過保護だね、キミは。     サクラちゃんとノアちゃんだってもう大人なんだ、     見守ってあげるくらいしないと巣立てないよ?」 遥一郎「蒼木……巣立つ気が無いやつらに巣立ちを期待してどうする……」 澄音 「それだけ好かれてるってことじゃない。僕としては羨ましい気がするよ、うん」 それ言ったらお前だってレイチェルの姐さんが居るだろ。 と、思ったが言うのはやめておいた。 今更天界に帰れって言ったって聞くようなやつらじゃないのは明白だ。 でも───いつか時が来たら、巣立っていくんだろうか。 あの笑顔も、賑やかさも、まるで気安い妹のように腕に抱きついてくるぬくもりも、 隙あらば背中に飛びついてきた暖かさも、みんな……俺の手の届かないところへ─── 遥一郎(《じわ……》お、おおっ……!?) 澄音 「?、どうかした?与一」 遥一郎「う、い、いやっ、なんでもないっ」 まったく情けない。 サクラやノアが天界に帰ることを想像しただけで涙が滲んできた。 弱いな、まったく。 巣立ちなんて言うから、ヘンなこと考えてしまった。 もちろんそれを邪魔するつもりはないし、一人立ちするならそれもいいって頷ける。 まあそもそもの話、地界で暮らすのか天界に戻るのか、 空界に行くのかも解っちゃいないのが現状なんだが。 澄音 「……、多分、ついてくると思うよ」 遥一郎「……だろうな」 自然と顔に不安めいたものが出てたのか、 涙を拭っている俺を見て蒼木はやわらかく笑んでいた。 心を読むだなんてことは俺達には出来ない。 でも、長く一緒に居た時間は、 言葉では表せないくらいの絆を俺達の間に作ってくれていた。 言わなくたって解ることくらいある。 俺達の関係は、そういうものなんだ。 澄音 「それで与一。キミは結局誰とも一緒にならないのかい?」 遥一郎「うん?ああ、またその話か。ならないよ。俺は今の状態が好きなんだ。     恋人だとか妻だとか、そんなの俺にはもったいないよ。     友達と知り合い、家族と親友が居てくれたらそれで満足だ」 澄音 「ふふっ、うん、予想通りの答えかな」 遥一郎「不満か?」 澄音 「まさか。キミの意志はキミのものだ。とても眩しいと思うよ、その絆は。     周りが納得してくれるかは別としてね。周りの意志も周りのものだからね」 世の中が上手くいかないのは先人が駆け回ってた頃からなんにも変わっちゃいない。 それは今だってそうで、未来でだって変わらない。 人の数だけ意志があれば、何処かで不都合が生じるのは当然だ。 けど、そんな中でもこうして似たような意志の中で笑い合える誰かに巡り会えたなら、 そいつはきっと幸せなやつなんだろう。 どんな過程も、どんな幸せになるかなんて誰にも解りやしないのだ。 澄音 「………」 遥一郎「……?どうした?」 澄音 「あ、はは。がっつくようで悪いんだけどさ。     少し味見をさせてもらってもいいかな」 遥一郎「……、ばか、今更遠慮なんかするな」 俺とこいつがどっち側に立ってるか、なんてのは些事だろう。 いちいち幸せかどうかを確かめるために生きているわけじゃない。 今が楽しければそれでいいって言葉は本能から来る言葉だって思い知れる。 今を楽しめないヤツに、未来の楽しみを夢見ることなんか出来っこないんだから。 ……まあ、それでも無鉄砲すぎるのはどうかとは思うが。 澄音 「……うん、また腕をあげたかい?前より味が安定してる」 遥一郎「無駄に料理だけは作ってるからな。     それもこれも誰も彼もが料理を作ろうともしないからなんだが」 澄音 「でも、料理を作ってるキミは楽しそうに見えるけどね」 遥一郎「仕方無くだ仕方無くっ!言った通り誰も作らないからだなっ!」 澄音 (……その割にはいやに凝ってるんだけどね、はは) 遥一郎「はっはっは、言いたいことは言ったほうがいいぞぅ、蒼木クン」 言われなくても解りそうなものだが。 ま、あれだ。どっちにしたって料理を作ること自体は嫌いじゃないのだ。 卵料理に失敗すればムカツくし、成功すれば良しと頷ける。 ……自分のために作る料理じゃなく、 誰かのために作るってところが今も昔も変わらないところが一番悲しいんだけど。 考えてみたら俺って自分のためだけに料理作ったことってあったか? 遥一郎「………」 …………………………あるにはあるが、恐ろしく少ないことに気づいた。 実家に居た時は仕事づくめの両親やヒナのために作ってたし、 稲岬に来てからはサクラやノアのため。 精霊になってからは凍弥やミニのために料理を作り、 あっちではサクラやノアやフレアやヒナや蒼木や姐さん観咲のために料理を作り、 この時代に至ってはサクラやノアや蒼木や姐さんや観咲、 さらに名誉ブリタニア人や原中の猛者どものために料理を作ったり……。 ……みろ、自分のために作ったことなんてとことん無いじゃないか。 遥一郎「……ん、よし出来たっ」 考えごとをしていても手だけは動かす。 料理は油断大敵だからな……焦がすも生かすも集中力次第さ。 遥一郎「運ぶの手伝ってくれ、一人じゃちと辛い」 澄音 「もちろんだよ。こう見えてもバランス感覚だけは自信があるつもりだから」 遥一郎「自信があるのに“つもり”ってなんだよ。ほら、気をつけろよ」 澄音 「うん、解ってる」 盛り付けを終えた皿を手や腕に置き、その状態のままでダイニングを目指し厨房を出た。 蒼木が言うだけあって、 無茶な置き方をしたっていうのにバランスを崩さずにスイスイと歩いてゆく。 俺は……やっぱり少し揺れる。 けどせっかく作ったものを落とす気はないので、口早に詠唱すると魔法を施し、 落ちたりしないように安定させた。 ……これで結構ヒロラインの力には助けられている。 ───……。 そうしてダイニングに皿を全て並べ終えた頃─── 声  「ぶはははははははばっほぼはははははは!!」 声  「ロリだロリゴスロリだぶははははははは!!」 ダイニングから見える大きな窓の先の庭に集まっている、 料理をまったく手伝わなかったやつらが大きな声で笑っているのに気づいた。 庭にあるテーブルでなにかを見ているらしいが……なんだ?ゴスロリ? 澄音 「ゴスロリってなんのことだったかな」 遥一郎「確か……ゴシックロリータ、とかじゃなかったか?そういう方面はよく知らない」 澄音 「ふぅん……あ、櫻子さんも居るね。手招きしてる」 遥一郎「……、庭で食べるから……?料理、を……持ってきて、ちょーだい、か。     あの人も歳に似合わず妙に行動が子供だよな」 澄音 「僕はもし歳をとるならああいう人になりたいけどね」 遥一郎「……まあ、理想ではあるかもしれない」 言いつつも結局皿を持ち、庭へと出てゆく俺達。 そしてそんな俺達を見てもてんで手伝おうともしないやつら。 いや、いいんだけどさ。 ともあれ早々と皿を並べ終えた俺と蒼木は疲れてもいないのにふぅと息をつき、 俺を見つけてはパタパタと小走りに近寄ってきたサクラとノアを迎えた。 遥一郎「サクラ、ノア、こりゃいったいなんの騒ぎだ?」 サクラ「未来の別の時間軸から写真が届いたです」 遥一郎「写真?」 澄音 「僕らに関係する未来かい?」 ノア 「いえ、それが……」 遥一郎「?」 ノアが俺に写真を数枚渡してきた。 それを俺は蒼木に見えるように広げ、自分も見る───と。 ……なんだこりゃ。 ノア 「イセリアさんの袂へ送られてきた写真なのですが……     精霊スピリットオブノートの話では、別の時間軸の未来から来たものらしくて。     最初は少女三人とえっと、提督さん、でしたか?     その方が映っている写真だったのですが、     精霊スピリットオブノートが指を這わした途端、そのような写真に……」 澄音 「わぁ……これは、なんというか、その」 おお……あの蒼木が言い澱んでいる……。 でも仕方ないよなこれは。 遥一郎「ゴスロリ衣装を着た……弦月に藍田か。隣のは……確か神降の咲桜だったか?」 サクラ「サクラ知ってるです。セイントオクトーバーのゴスロリ探偵団の真似です」 遥一郎「俺としてはどうしてお前がそんなことを知ってるのかが気になるけどな」 澄音 「僕の記憶にもあるよ。雪音がビデオに撮って見てたと思う。     弦月くんが黒ロリちゃん、     咲桜くんが白ロリちゃん、藍田くんが赤ロリちゃんだね」 遥一郎「あいつらが笑ってる理由はこれか……」 つい、と視線をずらせば、涙を流して地面を転げ回る猛者ども。 元クラスメイツのゴスロリ着用状態はとてもとても心に染みるものだったらしい。 なにせゴスロリ衣装を着た…… 何故か女状態の三人に囲まれた中井出が半笑い状態で映っているのだ。 他にも何処かで見た顔やらそういった者たちの集合写真やらがある。 これは……本人達が戻ってきたら盛大に笑われるだろうな。 夜華 「な、なんだこれは!何故わたしがこんなところに居る!?     この隣の者は彰衛門が女になった状態のものだろう!?どうなっている!!」 岡田 「わはははは藍田が藍田が女状態で赤ロリちゃんでぶははははははははは!!」 豆村 「ありゃ?こいつって確か……親父たちの記憶に居た晃ってやつじゃ……」 刹那 「なんで未来の時代に居るんだ?やっぱ時間軸が違うからか?」 飯田 「これって篠瀬さんと志京殿だよな。志京殿も死んだと思ってたのに。     やっぱあれか?あっちでもいろいろあるってことなのか?」 佐東 「ぶははははは!!     弦月が弦月が黒ロリちゃんのまま篠瀬さんにぶっちゅしてるぞ〜〜〜っ!!」 藤堂 「勇者だーーーーっ!!勇者の誕生だぁーーーーっ!!!」 夜華 「み、みみみ見るな!見るなぁああああっ!!!おのれ貴様ら斬る!!」 総員 『キャーーーーーーッ!!?』 そして始まる暴走劇場。 顔を真っ赤にして目を回しているような状態の篠瀬さんが刀を振り回し、 逃げ惑う猛者どもをこれでもかというくらい追い回している。 遥一郎「でもブフッ!こ、これは笑うなってほうが無茶が……!」 澄音 「そうだね……く、ふふっ……!     特にこの提督くんがオクトーバーズと一緒に映ってる写真なんて、     弦月くんの……いや、亜季ちゃんって呼ぶべきなのかな?     亜季ちゃんと藍田くんの顔が物凄く邪悪顔に歪んでるしね」 田辺 「ブックフフフホフフフ……!!い、いやっ……!     咲桜氏が殿様衣装じゃないのはかなり残念だけど     これはこれでブフォッシュボッハフハハハハ!!」 島田 「先生ー!!ノートン先生ー!!これはいったいどこらへんの未来からー!?」 ノート『別の時間軸の未来だと言っただろう。     厳密に言えば神界から送られてきたものだ。     どうやら神界の神……ああいや、時神と言った方が解りやすいだろう。     時神、雪音葵が神界に学園を作り、     そこに神と知り合った経験のある者悉くを勧誘して生徒にするという、     なかなか面白い行動をとったようだ』 ポム、と虚空に出したホワイトボードにつらつらと図を描いてゆくノート先生。 ちなみにこのノート先生というのは、料理を作る以前に皆で決めた呼び方だったりする。 ……猛者どもの大体はノートン先生と呼んでいるけどさ。 蒲田 「ようするに?」 ノート『これは学校行事か、または思いつきの遊びの最中のものだろう。     何故女化しているかまでは知らないがな』 佐野 「や、女化よりもオクトーバーになってるのが気になる」 三島 「俺も……つーかナギーも居るな。シードバルカンもだ」 夏子 「キミたちなにやってるの?こんなところで」 シード『僕が知るものか。こんなもの記憶にない』 そもそも咲桜と志京と晃以外は全てが知らない者だらけだ。 由未絵「あ……この写真の裏にだけ文字書いてあるよ?」 閏璃 「なにぃ!?いったいどんなダイイングメッセージが!?」 来流美「いきなり殺さないっ!!」 由未絵「えと……“僕達は未来で元気にやってます”……だって」 粉雪 「この無駄に達筆な文字は……彰利ね」 写真の裏を見させてもらうと、確かに僕達は未来で元気にやってますと書いてあった。 書いたやつは弦月らしいが……うん、言う通り無駄に達筆だ。 ノート   『……楽しくやっている、か。───ゼクンドゥス』 ゼクンドゥス『───、ああ、間違い無いな。        この写真が送られてきた時間を主軸に派生した更なる未来にて、        我らが主、晦悠介はルドラ=ロヴァンシュフォルスに堕ちる』 総員    『なんですってぇええーーーーーーっ!!?』 ……ちょっと待て、今なんて言った!? 堕ちる!?晦がか!? そんな馬鹿な!だって、楽しくやってるって───! ノート『驚くことではないだろう。未来に起こる事態がどんなものであろうが、     そこには必ず“過程”が存在する。     楽しかろうが死ぬ時は死に、苦しかろうが嬉しい時は嬉しい。     過程が無い未来に歴史などは存在しない。     精霊であった私が力を無くし神界に辿り着き、     冥界に堕ちたのちにマスターに流れたという過程の下に、この場に居るようにだ。     今この一瞬がどれだけ楽しめようが、ルドラが破壊に移れば全てが終わるように、     この写真の時間軸でもなにかがあったのだろう。     それこそ、マスターが全てを捨ててでも変わってしまうほどの何かが』 ルナ 「それって、最果てのこと?」 ノート『そういうことだ。とうとう感情が無いままに心を砕いたルドラだ、     心変わりを起こすことなど有り得んだろう。勝たなければ未来は無い。     故に汝らには今以上に高みを目指してもらう』 岡田 「な、なに〜〜〜っ!」 島田 「世界の未来を決める聖戦に俺達を参加させるだと〜〜〜っ!!」 ノート『その通りだ。イヤなら今ここで降りろ。     死ねば真実死ぬ戦いだ、無理強いは出来ない』 総員 『俺はイヤだぜ!!』 答えはあっさり出たようだった。 岡田 「死にたいわけじゃないが降りもせん!!」 島田 「なにもしなかったら結局世界崩壊するんだろ?だったら戦わなくちゃ損じゃん」 蒲田 「だ、だから力を!さ、さらなる力をよ、よこせ〜〜〜っ!!」 田辺 「どもりすぎじゃない?」 蒲田 「フフフ、これぞ男塾魂よ」 ノート『……、まあいい。決戦前にもう一度だけ訊ねる。その時が最後の確認としよう。     では汝らにそれとは別にくれてやりたい力がある』 総員 『なに!?マジかてめぇ!!』 ノート『マジだ。汝らの力を一点に絞り込む。精霊以外の力にだ。     人間らは寿命と魔導の素質しか得ていないから自動的に空界側になるがな』 蒲田 「え?じゃあ俺達魔法使い系統に部類されるってこと?」 ノート『否だ。魔導の素質を持っている者は、     魔法使いではなく魔導戦士として変異させてもらう。     身に内在する魔力を力として振るう者にする、という意味だ』 飯田 「それって人間じゃ───」 ノート『ああ、なくなるな。少なくとも異能力者であり空界人となる。     詳しく言えばイセリアやヤムベリングと似たような存在となる』 麻衣香「魔女的なものになるってことなのかな」 ノート『その通りだ』 総員 『面白そうだ!是非やろう!!』 そしてあっさり了承。 暢気でいいなぁあいつら……と思っていると、ノート先生が俺と蒼木を見た。 ノート『穂岸遥一郎、蒼木澄音、霧波川凍弥。汝らには天界人となってもらう』 遥一郎「───、それは機会があったらしてもらおうと思ってた。俺は構わない」 澄音 「うん、僕も構わない」 凍弥 「俺は……よ、よし、構わない」 椛  「あの、わたしは……」 ノート『汝とみさおは調律者だ。神魔を司る存在としてそのままで居てもらおう。     ───月の家系側の者には全て死神となってもらう。     そしてゼット=ミルハザード。汝の力は竜人のみに絞ってもらうことになる』 ゼット『……好きにしろ。     晦悠介が一つに絞った今、俺もごちゃごちゃとした力を持つ理由が無くなった』 聖  「あの……神側になる人は居ないんでしょうか……」 ノート『マスターのみだ。神はマスター、死神は王である弦月彰利を筆頭に家系の者、     天界人、いわゆる法術師は穂岸遥一郎や元々天界人だった者たち、     空界人、いわゆる魔導術師や魔導戦士は人であった汝ら、     竜人、竜王はゼット=ミルハザードとシュバルドラインとし、     地界人……純粋なる人間は中井出博光のみとする』 猛者 『な、なんだってぇええーーーーーーーっ!!?』 岡田 「アレェ!?ちょっと待った提督だって空界の回路持ってるんだろ!?」 ノート『ゲームの中であっさりと捨てた。ただの人間として在りたいという理由からだ』 田辺 「うわすっげぇ簡単!!」 麻衣香「え……じゃあ魔導も使えないってことだから式も!?     映像系の式が上手いって晦くんにさえ感心されてたのに!!」 ノート『そういうことだ。今の中井出博光は寿命が長いだけのただの地界人だ。     ただの、と言うのは種族的なものであり、ヒロラインでの強さはそのままだがな』 総員 『…………』 沈黙するしかなかった。 こんだけ人が居て、純粋な人間が中井出だけってどうなんだ? 岡田 「す、すげぇ……」 島田 「すげ……いやマジですげぇわ……」 田辺 「特種能力を目の前にちらつかされてなお、ただの人間であることを選ぶなんざ……     普通のやつじゃあそうそう出来ねぇぜ……?」 蒲田 「俺達でさえ能力欲しさに空界側で頷いたってのに……」 藤堂 「さすが提督だぜ……二等兵の俺達とは微妙に脳が違う……」 来流美「……それって逆に頭がイカレてるって言ってるように聞こえるんだけど」 藤堂 「なにぃ、提督の脳細胞がアレなのは今に始まったことではないだろうが」 佐東 「なにを言っているんだ貴様は」 来流美「……かつてここまで部下に馬鹿にされた提督って居たのかしら……」 居なかったと思う。 いや、居なかっただろう。 否、居なかった。絶対にだ。 澄音 「けど、天界人か。僕に務まるかな」 と、思考にふけっていると、隣に居た蒼木が自信少なげに呟いた。 勤まるかなもなにも、種族としての在り方が変わるんだ、務める必要なんて無い筈だ。 遥一郎「戦いに負けない程度に頑張ればなんとかなるさ。     俺達の場合、天界人になろうがどうしようが根本は変わらないんだから。     逆に“法術”が使えるようになるなら、それこそ魔法使いとしては有り難い」 澄音 「あはは、キミは逞しいね」 遥一郎「ああ、逞しいぞ。周りの“お蔭”……いや、“所為”だな」 ノート『ではマナが回復し次第、変換を開始する。まずは一番面倒なゼット、汝からだ』 ゼット「好きにしろと言った。始めるならさっさとしろ」 田辺 「あ、ノートン先生質問!     魔導戦士になったら、魔導術師じゃなくても式とか使えたりすんの?」 ノート『学べば可能だ。戦士と術師の違いなど、武器で戦うか魔術で戦うかの違いのみだ。     魔術ならイセリアかヤムベリングに、式ならばリヴァイアに教えを請うといい』 総員 『ヤムチャだけは勘弁を』 ヤムチャ?……ああ、ヤムベリングか。 今は大分大人しくなったとはいえ、 かつてはウェルドゥーンの赤い魔女として恐れられていたらしい人物。 とても好んで教えを請おうなんて思えやしないだろう。 俺も当然その中に入ってる。 鷹志 「晦に教えてもらうってのは?」 ノート『マスターは既に式など使えん。さらに言えば弱体の末に勘も鈍っているだろう。     教えるのは不可能に近い。暴発させて指を無くしたいなら別だが』 鷹志 「ヒィッ!?か、勘弁!そりゃ勘弁だ!!」 閏璃 「うしゃー!じゃあ次の質問だノートン先生!     式や魔導や魔術が使えるようになるってことは、     晦が使ってた“魔導万象”も使えるようになるってことか!?」 ノート『ふむ……汝らにはそれぞれ属性の宝玉を渡したな?』 閏璃 「お?おお、俺雷」 ノート『ならば雷の魔導万象のみなら可能だ。加護無しでは満足な万象の力など開けん』 閏璃 「お、おお……そうなのか」 ……?あれ?ってことはなんだ? 俺は宝玉一切無しだから……うあー、魔導万象の行使は出来ないのか。 閏璃 「雷って何番目だっけ?」 由未絵「雷は11番目だよ、凍弥くん」 閏璃 「11か……魔導万象11式……で、イレヴナルだっけか。     イレヴナルって言うと、どうもモミーのラインゲート思い出すな」 鷹志 「晦のラインゲートが見れなくなったのは、やっぱ普通に寂しいよな。     今は普通に創造神として世界創造が出来るだけで、     ラインゲートとは関係ないんだろ?スピリッツオブラインゲート、     会得してからそう日にちも経ってないのに……もったいない」 ノート『仕方の無いことだ。バラつきのある状態ではルドラには勝てん。     反発反動力は確かに能力向上率は類を見ぬ高さだが、それ故に弱点も高い。     故に回路も力も一つに絞る必要があった。精霊以外のなにかに、だ』 ───、そういや…… 遥一郎「あ、質問なんだがノート先生。なんだって精霊以外なんだ?     べつに精霊だとマズイとかそういうことは───」 ノート『ルドラの中には空界の全精霊が取り込まれており、耐性が高まりすぎているのだ。     さらに言えば、精霊の弱点を知りすぎている。そんな相手を前に精霊になるなど、     どれほどの馬鹿者でも手段としては選ぶまい』 遥一郎「……なるほど。     じゃあつまり、それを知ってるからこそあんたたちは俺達に───」 ノート『我々ではルドラを打倒することは出来ん。出来ることがあるとするならば、     こうして汝らを強化することや、     分散するであろうルドラの黒どもを始末するのを手伝うくらいだろう』 岡田 「え?それって……バトルは全部俺達に任せっきりになるってこと?」 ノート『そうなるな。だが案ずることはない。戦闘時には全力で汝らを強化するとともに、     出来る限りのサポートもする。     故に汝らは私たち精霊の命が燃え尽きるまで全力で戦っていられるだろう』 田辺 「うーお……嬉しいのか嬉しくないのか」 ……精霊の力無しで、ルドラ……未来の晦と戦うのか。 ルドラの中には精霊たちも居るってノート先生は言った。 だから俺はてっきり、ノート先生たちが精霊を抑えてくれるとばかり思っていたのに。 まさか、俺達が戦うことになるなんて思いもしなかった。 顔を見れば解る。言ってることはウソじゃないんだ。 ノート『だが一つだけ言っておこう。     この世界───地界は、なにも汝らが守る必要などない世界だ。     ここで産まれた、ここで育ったからという理由だけで、     命の危険がある戦いに参戦する必要など無いのだ。     ルドラの狙いは“晦悠介”だけだ。     汝らが空界に逃げたところで、追って来はしないだろう』 岡田 「あ、そりゃ御免だ」 田辺 「いくら俺達がクズ集団でも、     “仲間”に全部を押し付けて逃げ出すほどクズじゃない。     お遊びでなら平気でそういうことはするけどな、     命まで差し出せなんてこと、絶対にしたりしない」 島田 「誰かの犠牲の先で日々を過ごしたって、そんなの面白くもなんともねぇよ」 灯村 「故に断る。なんと言われようが、今の俺達は戦う気満々だ」 佐東 「実際、戦闘前になれば怯えたりもするんだろうけど───」 皆川 「“今の俺達”は、間違いなく戦う気満々なのさ」 麻衣香「ヒロちゃんがここに居たらこう言うだろうね。     “命乞いは今際の際に言ってやる”って。     後悔なんて後でするものだし、     戦う前から後悔することを考えたってしょうがないもん」 夏子 「そうだね、命乞いなんて死ぬ間際だけで十分かも。     それでも助からなかった時は───提督の夢枕にでも立とうかな」 総員 『面白そうだ!是非やろう!!』 遥一郎「まずは死なないことを目標に考えるべきだろ!!」 岡田 「全員で提督の夢枕に立って、布団の周りをギシギシ……と歩き回るんだ。     面白そうじゃないか……!!」 遥一郎「……歩き回ってどうするんだ?」 岡田 「え?それだけ。眠ろうとしたらまたギシギシ……とやるんだ」 どうやらただの迷惑霊というか悪霊になる気満々のようだった。 ……ともあれ話もそこそこに、力の変換を開始したノート先生を余所に、 俺と蒼木は全ての料理を運び終えたテーブルチェアに座ると、 櫻子さんが用意してくれた紅茶をのんで長い長いため息を吐くのだった。 これからのことが不安だ、という意味を込めて。 ───……。 ……。 ───ややあって、力の移動、回路の変換は無事終了。 俺は名実ともに天界人となり、法術の素質を受け取り─── 猛者を始めとするやつらは空界人となり、魔術や式や魔導の素質を受け取り─── 月の家系側のやつらは冥界人(死神)となり、 月操力の剥奪の代わりに鎌の行使をより深いものにしてもらい─── 竜や竜人側のやつらは、それこそ最強種族の力を欲しいままにしたような力を得て、 もはやその場に居るだけでも冷や汗が出るような存在へと変化していた。 みさおちゃんと朧月嬢は変わらずに調律者として存在し、月操力を司る者となっていた。 力の変換により、俺は魔術を行使出来なくなってしまったが─── 法術にも攻撃系の術が無いわけじゃない。 故に天界の勉強を奨められたわけなんだが……はぁ。 じゃあ今までの魔術の勉強はなんだったんだ……。 そう思わざるをえなかった。 閏璃 「確か11点を式で描くんだよな。式の扱いはジジーソンに習ったし……     なぁパーシモン、万象の描き方覚えてるか?     うろ覚えでいいから指に式込めてやってみてくれ」 柿崎 「うろ覚えでやって失敗したら指が爆発するだろうが!自分でやれ自分で!!」 閏璃 「なんだよケチ」 柿崎 「人の指なんだと思ってんだよお前はぁあ……!!」 閏璃 「指だ」 柿崎 「…………」 閏璃 「おーいそこゆくホギッちゃん、魔導万象の式覚えてる?」 遥一郎「覚えてるけどまずフォローしてやってくれ……柿崎が不憫だ」 閏璃 「なにぃ、俺達いつもこんな感じだぞ?」 柿崎 「こいつ絶対入る学校間違えたぞ?原中に入ってりゃ絶対間違いなかった」 閏璃 「うむ。もし原中に入っていたとしても     俺は必ずパーシモンを地獄の果てまで追い詰めて友になっていただろう」 柿崎 「聞く人が聞けばいい言葉なんだろうけどちぃとも嬉しくないのはどうしてだろう」 閏璃 「きっと貴様の心が腐ってるんだ」 柿崎 「頼む。一発だけ殴らせてくれ」 閏璃 「いいだろう。だが俺を殴るからには反撃が無いなどと思うなァア!!」 柿崎 「よっしゃ上等だうおぉらあああっ!!」 閏璃 「なんのこのやろうおぉらぁああっ!!」 ドカバキボカドカドゴボゴ…… 岡田 「おお〜〜っ!面白そうなことやってるじゃねぇかぁ〜〜〜っ!!」 田辺 「俺も入れろーーーーっ!!」 バゴドゴゴスドゴバキゴキ!! 柿崎 「うあだいだだだだ!!ちょ、待ったちょっと待った!!」 閏璃 「いででいででで!!な、なに!?何事!?」 岡田 「ケ、ケビ〜〜〜ン我が息子〜〜〜〜っ!!」 猛者 『俺も入れろーーーーーっ!!』 田辺 「オワァーーーーーッ!!?」 岡田は仲間を呼んだ!! なんと猛者どもが現れた!! そして無駄にケビ〜ンと叫んだ岡田もろとも、柿崎と閏璃と田辺をボコボコにしてゆく! 俺はといえば……そんな惨状を少し離れたところから傍観することしか出来なかった。 ああいや、他にも出来るな。 あー……っと…… 遥一郎「キュアオール」 頭の中で詠唱を組み立てて魔法を発動。 だが回路にまだ力が篭っていないのか、大した回復量は望めなかった。 ……だったら丁度いいな、回路を慣れさせるためにも傍観しつつ魔法を使っていくか。 魔法っていうか法術なわけだけどさ。 ヒロラインで覚えた魔法が法術扱いになってるから、詠唱には困らないし。 遥一郎「ヒールヒール、キュア、シャープネス、バリアー」 そんなわけで次々と詠唱を完成させては傷ついた者を回復させてゆく。 さらには不利になったヤツに強化魔法をかけたりして遊んでるんだが─── 澄音 「………」 隣のチェアに座った蒼木が、俺を見てニコリと微笑。 ……ののち、同じく詠唱を始めると俺がそうしていたように次々と強化や回復をしてゆく。 岡田 「《モシャアン!》魂の!叫び!!」 しかし面白い。 猛者どもはなんだかんだで強化されるとなにかしらのリアクションをとるのだ。 しかもやる度にだから、重ねがけするとこれがまた面白い。 岡田 「よっしゃあいくぜ〜〜〜《モシャアン!》魂の!叫び!     ぬ、くっ!この《モシャアン!》魂の!叫び!     このやろ《モシャアン!》魂の!叫び!     ってオイィイイイ!!これじゃあなんにも《モシャアン!》魂の!叫び!」 と、このように。 なにやら奇妙なルールを作っているようで、 怒りながらもリアクションを取る彼らがおかしくて魔法をかけまくっていた。 岡田 「ええいもうこうなったら突貫!!溢れるパワーをその身にくらえ!!」 清水 「なんの!パワーアップした程度で怯むほど我らは臆病ではないわぁーーーっ!!     相撃ち狙いのクロスカウンタァアーーーーーッ!!」 岡田 「フッ……馬鹿め!     スピードさえ強化されたこのスーパー岡田省吾を相手に相撃ち狙いなど!     殴ったのちにしゃくしゃくと避けてくれるわ《モシャアン!》魂の!叫び!」 バゴルシャァアアアアアッ!!! 岡田 「オヴェェエエエ……《ごしゃーーーん……》」 田辺 「スーパー岡田ァアーーーーーッ!!」 佐野 「スーパー岡田が死んだぁーーーーーーっ!!!」 皆川 「ひ、ひでぇ……きっと途中で強化された所為で身動きが取れなかったんだ……」 下田 「なんてことしやがるこの魔法使いめ!!」 遥一郎「いや、危機を目の前にしてもキメポーズはとるのかなって……」 灯村 「そ、そんな当然のことのために……!クズがぁーーーーっ!!」 藤堂 「クズがぁーーーーっ!!」 佐東 「クズがぁーーーーーっ!!」 三島 「クズがぁあーーーーーーっ!!」 遥一郎「い、いやちょっと待て!気になるだろああいう場面だと!!」 飯田 「クズがぁーーーーっ!!」 夏子 「クズがぁーーーーーーっ!!!」 殊戸瀬「クズがぁーーーーーっ!!」 麻衣香「クズがぁああーーーーーーっ!!!」 遥一郎「………」 ものすごい言われ様だった。 しかも罵倒はとどまることを知らず、 いつしかその場に居た全員がクズがコールで叫んでいた。 ……知りたがり屋は早死にするってほんとだな……うん。 遥一郎「ってしみじみと納得出来るかぁあーーーーーっ!!!     もういい貴様ら!魔法の真髄を教えてやるわぁあーーーーーっ!!!!」 総員 『数十人対一人……卑怯とは言うまいね?』 遥一郎「卑怯だろォオオオーーーーーッ!!!」 のちにその場は乱闘場となり─── 俺は出来うる限りの抵抗を見せ、魔法をこれでもかってくらい連発。 詠唱破棄魔法をとにかく放ちまくり、 そこで産まれた敵の隙を縫って大魔法を放ったりもしたんだが─── 麻衣香「お待たせしました大魔法!メテオスウォーーーームッ!!」 総員 『なにぃ!?ドンガガガガガドッガドッガバッガァアアンッ!!! 総員 『しゃぎゃぁあああーーーーーーーっ!!!』 いつの間にか発動していたらしい綾瀬のメテオスウォームから猛者どもとともに逃げ惑い、 追加魔法のシューティングスター、トドメのビッグバンで地獄を見たのだった。 ヒロラインの中でもないのに……なにやってるんだろうなぁ俺達……。 Next Menu back