───時空放浪モミ列伝『第九章◆彼が望む過去の在り方』───
【ケース477:中井出博光/俺が俺らしくあるように】 ○月×日、晴れ。 今日は時間を飛び越えて過去に来ました。 今日はっつーかまあいろいろあったけど、白亜紀のことは忘れる方向で。 ユデスキーさんの仇のため、謂れの無い殺戮衝動でラプトルコロがせりゃあ十分です。 そんなわけで今僕は友人の家に来ています。 玄関破壊したり勝手に団子食ったり店屋物を勝手に頼んだりで無作法極まれりです。 え?金?金はツケてもらいました。やまふじにはツケが効くんです。 機会があったら金稼いでちゃんと払うつもりです。 いろいろあったけど今僕はデビルカズヤこと朧月和哉くんの部屋の前に居ます。 デビルカズヤってどうしてデビルだったんだろうね、 エンジェル居るならエンジェルもエンジェルカズヤだったら爆笑モンだったのに。 なんていうかさ、ほら、銀魂の長谷川さんの力作、雪像“飛翔”をイメージしてさ。 とかヘンテコ思考を取り入れちゃいけないんだろうね。 鉄拳って時々解らないです。 でもペク・トーサンの10連コンボは大好きでした。 10連って書いてあるわりに連続ヒットしないのばっかだったけど。 今はそれよりも和哉くんです。 ゴゾォと小さく開けた襖の隙間から見た和哉くんは、本を読んでおりました。 本のタイトルは“日本の歴史”です。 子供の読むような本じゃないでしょと思わずツッコミたくなりましたが、ここは我慢です。 観察日記ってのはアレだ、ホラ、相手に気づかれずにやるから面白ぇんだ。 しかし本を見るという行為はこれで案外長い。 特にあんな分厚い本じゃあ朝日が昇るまで付き合わなきゃいけなくなりそうだ。 くそっ、いったいどうなってやがる……じゃなくて。 ともかくやると決めたからにはどこまでも付き合おう。 ○月××日、晴れ。 日付が変わっても和哉くんは起きていた。 ちなみに俺は“なにやってんだ俺……”と虚しくなってきているところである。 夜中まで起きて、やることが少年観察なんて虚しすぎる。 だが間違うな。だからといって少女を観察したいわけじゃない。 俺は変態ではないのだから。 ───……。 しばらくののち玄関で物音がした。 その途端に和哉くんが立ち上がり、廊下側───つまり俺が今居る襖側に来ようとする。 ていうか悠長に日記書いてる場合じゃないだろオィイイイ!! だが書く。AGIマックス状態でごしゃーと書く。 字が汚ぇのは割合だー、コノヤロー。 しかし脳の回転が描写(?)速度についていけず、やっぱり途中で休憩。 超速度でバッバッバッバと動きつつ観察を続ける。 和哉 「……?」 足音はすれど姿は見えず。 キョホホ、既に我が身体速度は人の目に留まるほどのものではないわ。 ……これで試練なんかなかったらもっと速かったんだけどね。 でも書く。 動きながら書き続け、移動する小僧・和哉を観察し続ける!! ……つもりだったんだけどすぐさま物陰に隠れて盛大に息を吐いた。 無理!動きすぎで呼吸続かねぇ!!疲れる!めっちゃ疲れますこれ!! だが諦めない!!それが俺達に出来る唯一の戦い方なんだよ!! 気を取り直して尾行開始。 最初っから物陰に隠れつつ追ってけばよかった……。 ……。 ややあって辿り着いたのは玄関。 小僧和哉は壊れた玄関に驚いた風情を見せたが、 それよりなにより靴を脱いで家に上がろうとしていた御仁を見て歓喜していたようだった。 で、その御仁ってのが……髪がボサボサでやる気がなさそうなしかめっ面、 そんでもって平凡な服を着た……いかにもぶっきらぼうそうな風情の男。 間違い無い……彼が晦のパパりん……いや待て?顔が長州じゃねぇな……まさか偽物? 中井出「………」 パパ 「………」 ていうか目が合ってる。 だが物怖じせずにローリングストーン(ズ)を続けてる僕はある意味モノノフです。 中井出「…………《ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!》」 パパ 「…………」 ……ちょっと待ちなさい。 普通これだけ見詰め合ってたらなにかしらの反応あるでしょ。 でもなんの反応も示さないよこの人。 他人が家に居てしかも自分を見つめてるっていうのに……なんという(タマ)よ。 でも観察日記は続けます。この博光は挫けぬ男じゃけぇのう。 と、ツイと日記に目を落とした時だった。 パパりんが今度こそ靴を脱いで、とたとたと廊下を歩いてくるのだ。 詳しく言えばこちら側へ。 そんなだから身構えたりはしなかったが、 なにかしらのツッコミはあるだろうと確信した俺だったんだが─── 思い切り素通りだった。 和哉くんに“あ、オーサマ”と言われた程度で、なんのリアクションも無し。  ……すげぇ!ここまで無関心なヤツ初めて見たかも!! その瞬間の僕の心の叫びがこれである。 でも無視されたままなのも悲しいね。 だから僕は勇気ある行動に出ることにしたのだ。 中井出「失礼、少々お話、よろしいか?」 パパ 「………」 中井出「……、おお失礼」 無言での振り向きに無表情に近い顔。 おお、どこまで物事に関心が無いんだこの人は。 関心というものがあるのかがそもそも解らん。 中井出「わ、わーれは中井出博光という者。故あって貴殿と話がしたくて参った」 パパ 「……。朧月和眞(かずま)」 中井出「ほお和眞。奥方の名は?」 和眞 「和十葉(おとは)」 中井出「………えーと、家族の皆様の名前の文字はこんな感じで……?《カリカリ……》」 和眞 「………《カリカリカリ……》」 中井出「……ウワー」 何処まで“和”に拘りゃ気が済むんだこの家族は。 家族全員の名前に“和”がついてるよー、ヤバイよコレェエエ……!! もしかして狙ったのか?嫁さん和がついてる人狙ったのか? 中井出「カズマでオトハでカズヤでナゴミ……見事に和の家族ですか……」 和眞 「………」 中井出「家族愛をどう思われますか?」 和眞 「家族愛だ」 中井出「いやそういう意味じゃなくて……じゃあ僕がここに居る理由とか───」 和眞 「興味がない」 中井出「実はお宅の玄関を壊したのは俺なのだ!」 和眞 「そうか」 中井出「……通報とかしないの?」 和眞 「どうでもいい」 中井出「一度ここに警察が来たんですよ実は」 和眞 「知らん」 中井出「うどんって美味いんだぜ!?」 和眞 「よかったな」 中井出「あんぱんは超絶に美味いんだぜ!?」 和眞 「そうか」 中井出「でもシイタケは嫌いなんだ」 和眞 「残念だったな」 中井出「俺のこと、少しは知ってもらえた?」 和眞 「興味がない」 中井出「………」 和眞 「………」 取り付く島が無いです。 なるほど……あの晦にぶっきらぼうと言われる所以がこれか……っ!! 和哉 「……?オーサマなにいってるの?」 中井出「キミのパパりんが興味を持つものがひとつでもないかと探してたところさ」 和哉 「ふーん……あ、そうだとうさん、おかえりなさい」 和眞 「ただいま」 和哉 「………《にこー》」 和眞 「………」 それでいいらしい。 ううっ……晦よ、貴様も幼子の頃は純粋だったんだなぁ……!! でもこのパパりん、我が子への返事でも表情変えずに淡々とだよ。 ある意味すげぇよこの人。 中井出(……そもそも親の前で子を観察して日記につけてるのに動揺もせんとは……) 度胸が座りすぎてて逆に怖いや。 晦にもっと感情が無かったらこんな感じだったんだろうか。 中井出「ところであのー、奥さんとはどういったきっかけで結婚を?     あ、家系のことは知ってるからご安心を」 和眞 「なら帰れ。家系の者に話すことなどなにもない」 中井出「甘いわ!知ってはいるが家系の者ではないのだよ俺は!!」 和眞 「ああそうだな。家系の力の片鱗すら感じない。ただの凡人だな」 中井出「あの……うん……確かに凡人なんだけどさ……     初対面の人に凡人ってキッパリ言われると     やっぱりちょっとショックっていうか……」 和眞 「その凡人がなんの用だ」 中井出「え?用?……結婚のきっかけは!?」 和眞 「出会って気が合ったから連れ添った。それがどうした当然だろう」 中井出「………」 いや……そうなんですけどね? おかしいなぁ……こんなこと訊く俺の方がヘンな人に見られてる……。 でも言われてみればおかしなことだよね……? 出会ったきっかけも恋人になった記念日も結婚した経緯も本人たちの思い出であって、 他の人にはべつに関係ないんだよね……。 なんでニュースメンたちはすぐにきっかけは?とか訊くんだろうね……。 うん、僕はまたひとつ大人になりました。 知りたがり屋は早死にします。 もういいや……俺では話にならん。 晦の過去のことは晦に任せるべきだね……ほんと。 そんなわけだから俺は部屋に戻ろうとする彼を引きとめ、 居間で未だに話をしているであろう晦と奥方……和十葉が居る場所へと導いた。 ───……。 で、居間である。 悠介 「───、オ、アッ!?」 まず最初に視界に飛び込んできたのが 晦一等兵の驚愕フェイスだったのは言うまでも……あるよね? 厳密に言えば俺を見て驚いたのではなくて、 我が背後でむ〜〜〜んと奇妙な存在感を発しているぶっきらヴォーノさんを見てである。 そりゃそうだよね、俺を見て驚かれてたら毎日がドキドキの連続さ。 中井出「やあ」 だから僕は出来るだけ刺激を与えない程度の挨拶を晦に送ってみた。 ……が、ものの見事に無視だった。 いやいいんだ、感動の……感動?まあいいや、感動だ。 感動の対面に水を差すほどこの博光、……外道ですよ? 中井出「旦那さん……野郎、きっと米屋ですぜ?」 和眞 「そうか。なら米が無い。売ってもらおうか」 中井出「………」 なんだか自分の脳内の汚れをモノの見事に曝け出してしまった気分に陥った。 そうだよね……米屋って聞きゃあ普通はそう思うよね……。 俺が汚れてるだけなのさきっと……。 中井出「で、晦よ。奥方とはどんなことを話していたんだ?」 悠介 「………」 中井出「晦?おーい、晦ー?」 悠介 「………」 ああ……こりゃ相当にファザコン入ってるね、うん。 まさか一目見ただけで動けなくなるほどファザコンだったとは。 普通男ってなぁマザコンになるもんじゃないのか? 普通じゃないからスバラシイんだが。 中井出(……だが忘れるな晦一等兵。今の貴様は朧月和哉ではないということを) 悠介 (───ん、ああ……そうだけどな) おお、戻ってきた。 悠介 (ていうかな……そもそも俺は遠くで見てるだけにするつもりだったんだ。     だってのに家に入るだのなんだのって……) 中井出(なにぃ貴様この博光の所為にすると!?     ノリノリで家に侵入して出前までツケで取って食ったくせに!) 悠介 (ノリノリだったのも出前取ったのもツケにしたのも全部お前だろうが!!) 中井出(そ、そうか!キミはそうやってツケにした金全てを僕に押しつける気なのだな!) 悠介 (漂流教室の真似はもういい!ていうか空気読めって何度言わせる気だ!!) 中井出(え?空気?………) チラリ、チラリと辺りを見渡す。 と、奥方……和十葉さんと和眞氏、そしてデビルカズヤが僕に注目していました。 中井出(すげぇ読みまくってると思うんだが。原中的に) 悠介 (頼む……!ほんと頼む……!今だけは一般常識の中で読んでくれ……!!) 中井出(俺は嫌だぜ!!) 悠介 (おっ……お前なぁ……!!) 中井出(いやしかしだがまあ待て晦一等兵。     貴様の返答如何によってこの博光も行動を慎もう。     貴様は和十葉さんに我らの正体を話したか?) 悠介 (……?それがどうしたって……) 中井出(真面目な話だ、頼む) 悠介 (……話した、けど) 中井出(………………ふむぅ……そっか。んじゃ、あとは貴様に任せよう。     積もる話もあるだろ?デビルカズヤは俺が預かっとくから) 悠介 (へ?任せるって……) 晦の言葉も満足に聞き終えぬままに、 俺はデビルカズヤを颯爽と攫い、和魅嬢の部屋へと一気に駆けた。 恐らく晦はこれから二人───自分の両親にこれからのことを話したりするんだろう。 水を差すのはやっぱり気が引けるもんな……。 ───……。 ……。 というわけで和魅嬢の部屋。 中井出「やあ」 辿り着いた僕はサワヤカ笑顔でまずは挨拶をしました。 気分はまるで修学旅行で小用を足したのちに部屋に戻って来た悪ガキです。 彰利 「おやお帰り」 藍田 「お?つご……じゃなかった、デビルカズヤも連れてきたのか」 丘野 「日記は?日記はどうなった?」 で、返ってきた返事は三者三様にも程があった。 そんないっぺんに返せないって……とは言わず、 俺は懐にある日記帳をゴゾォと取り出すと、 中井出「《ス……》……ここに……全てが記されている……。     かつて魔王が記したといわれている、伝説の日記だ……」 と取り出したソレを真剣フェイスのままに差し出し、無意味に迫力を出してみた。 もちろん普通ならあまりにいきなりすぎてリアクションを返すどころじゃないだろうが、 丘野 「《ゴ、ゴクリ……》こ、これが……!」 藍田 「これが伝説の……!」 そんないきなりな状況にもあっさりノってくれるのが原中。 ああ、やっぱり仲間ってのはいい。 彰利 「あのー、無駄に伝説的にしとるとこ悪いんじゃけどね、     嬢が寝ちまったんだけどどうする?」 中井出「寝かしとけばいいんじゃないか?     こっちもデビルカズヤが相当眠たそうにしてるし」 彰利 「じゃあなんで連れて来たん?」 中井出「いや……実はよ、晦がパパりんとママりんに真実伝えちまったようでよ」 彰利 「ありゃそうなん?」 藍田 「だからか、デビルカズヤ連れて来たのは」 丘野 「普通にデビルカズヤ呼ばわりなのな」 和哉って呼ぶの、どうしてか抵抗あるんだよね。 ほんとどうしてなのかな。 和哉 「んう……おとうさんのとこ……もどる……」 中井出「それはダメだ。今は我が仲間が積もる話を解放しているところだ。     それはもう積もりすぎてて山になってるくらいだ。     一度整理させてやらんとダメなくらいの積もり様なんだ。     だから頼む、ヤツを……ヤツを見逃してやってくだせぇ!!」 彰利 「ほんとはいいヤツなんス!!」 藍田 「あんなことするやつじゃないんス!!」 丘野 「だからお願ェしやス!!あいつを───見逃してやってくだせぇ!!」 みさお「何処の極道ですかあなたがたは……」 総員 『うォおアッ!!?』 大驚愕!! 馬鹿な!気絶していたまま居間に置き去り状態だった筈のみさおちゃんが何故ここに!? ……起きたんだろうね、うん。何故もなにもないや。 中井出「……おや?ナギーは?」 みさお「気絶から睡眠に移行したようで、眠っていますよ」 中井出「そ、そか」 よかった……目に付くところに居ないとまた “置いていったのじゃー!”とか言われそうだからな。 ……起きる前に連れて来ておいたほうがよさそうだ。 中井出「じゃあボク、ちょっと用事が出来たカラ」 彰利 「幼児が出来た!?このエロスが!!」 中井出「ええっ!?用事が出来ることのなにがエロス!?」 みさお「意味の無いところで話を広げないでください!!     中井出さんもホラ行くなら行ってください!!     ナギさんを迎えに行くんでしょう!?」 中井出「……みさおちゃん。俺は時々、キミの存在が眩しく思えるよ……」 彰利 「そりゃキミアレでしょ。悠介が原ソウルに目覚めた今、     このメンバーで唯一の常識人だから」 中井出「じょ……」 藍田 「常識人……!」 丘野 「こ、これがあの伝説の……!!」 みさお「勝手に人を伝説にしないでください……」 みさおちゃんはそう言うが、言われてみれば確かに今のメンバーじゃ唯一の常識人。 晦も両親の前だってんでネコを被っちゃいるが、 目覚めてしまった原ソウルは一度求めた面白さをそうそう簡単に捨てられやしない。 ……責任に追われようが楽しさを求めたナギーがいい例だろう。 みさお「はぁ……解りました、わたしもご一緒しますから。     早くナギさんを回収しましょう……」 回収って……いやまあいいんだけどさ。 中井出「みさおちゃんと一緒なんて珍しい組み合わせだ」 みさお「これでも信用してるんですよ?暴走してる時は別としてもですけど。     あのゼットくんが友達に選ぶくらいですから、わたしも安心ですよ」 中井出「……エート、それってつまりゼットが友達として見てくれてなかったら……」 みさお「ただのやかましい提督さんですね」 中井出「《グッサァアア!!》……ソ、ソウナンダ……アハハハハー……」 痛ぇ……物凄く痛かった今の言葉……! 悪魔……悪魔だよこの子……! でもくすくすと笑っているところと、この博光アイが察知するに……今のは冗談らしい。 なるほど、信用してるから見せてくれる笑顔もあるってことか。 みさお「本当に素直な人ですよね、提督さんは。なにかあるとすぐに顔に出ます。     まるで子供がそのままおっきくなったような感じです」 中井出「よく言われる」 みさお「あ……ですよね……」 納得しちゃうんだ……いやいいんだけどね? ───……。 ……。 そうして、いつの間にか寝てしまっていたらしいデビルカズヤを背負って廊下へ。 と、そこで気になっていたことでもあったのかみさおちゃんが みさお「中井出さんって不思議と子供に懐かれますよね」 と訊いてきた。 それは間違いだって即答できる内容だ、正直心にザックリ来た。 だがこの博光は耐えたね!だって悔しいじゃないか。 中井出「いや、子供に懐かれるんじゃない……人外に好かれやすいだけなんだ……」 みさお「そうですか?その割には……」 つい、とみさおちゃんの視線が我が背後に動くのを感じる。 しかしそれは大きな勘違いだ。 中井出「これはただ寝てるからってだけ。娘さん……和魅ちゃんなんてヒドイもんだった。     近づくだけでふかー!って威嚇されるし、混ざろうとすると泣かれるし。     俺ね、昔っからそうなんだよ。子供にやさしく接しようとすると嫌われる。     だからかなぁ、嫌わないでいてくれるナギーとシードが可愛くてさ」 みさお「……?それ以前に、どうして子供にやさしく接しようとするんですか?     普通嫌われてるなら嫌い返すのが人間だと思うんですが」 中井出「んー……そこんところはばーさんとじーさんの影響だな。     普通が嫌だから意地張ってってのもあるかもしれないけど、それ以上に。     俺の何かに対する接し方ってのは、     じーさんとばーさんを思い出しながらのが大半だからさ。     俺は二人からいっぱいの思いを受け取った。     だから、今自分が持ってる思いを俺以外の子供にも知ってもらいたいって思う。     でもそれも空回りばっかりだ。子供にとっちゃ鬱陶しいのかな、そういうのって」 みさお「………」 中井出「はは……ま、そんなこと言っても仕方ないんだけどさ」 よっと、とデビルカズヤを背負い直して歩き出す。 みさおちゃんもその歩についてきたけど、なんだか元気が無いというか、俯いてる。 ハテ、いったい何事? なんて思う間も短く─── みさお「鬱陶しいんじゃないですよ」 中井出「お?」 みさおちゃんはさっさと口を開いた。 が、それは疑問を打ち砕くような言葉じゃなかった……と思う。 いや、元気が無かったんじゃなくて考え事をしてたって意味なら通るけどさ。 みさお「さっきの話のことです。     子供たちは中井出さんのことを鬱陶しがってるんじゃないですよ」 中井出「な、なに〜〜〜っ、な、何故貴様にそんなことが解る〜〜〜っ」 みさお「解りますよ……目を見れば。     知ってますか?子供っていうのは案外目を見る生き物なんです。     相手の目を見て、言葉の奥にある相手の感情を見て、     それで自分がどうするかを決めるんですよ」 中井出「……そうなの?───ぬ、では貴様、この博光の目の奥になにかを見たと?」 みさお「はい。……悲しみですね」 はいビンゴ。一発でした。 中井出「フフフ……バレちまっては仕方ねぇ……!」 みさお「え?あ、あの……どうして急に悪事がバレた悪者みたいな状況に……」 中井出「この思いは一子相伝故、貴様には死んでもらう!」 みさお「話の続きしますからちょっと黙ってください」 中井出「あ……ハイ」 ごめんなさい、結構混乱してます僕。 でも悲しみか。 そりゃ悲しみが無いって言ったらウソだな。 子供と接しようとする度にじーさんやばーさんのことを思い出せば、悲しみも溢れる。 だがこれで理解がいったぜ〜〜〜っ! お、俺が子供に嫌われていた理由はその悲しみを覗かれていたからだったのか〜〜〜っ!! みさお「会話の流れで嫌われていた理由は察しがついたと思いますが───」 中井出「う、うむ……」 みさお「どうしてですか?辛い過去も、これだけ時が流れれば暖かい思いにだって」 中井出「あ、ストップみさおちゃん。それ違う」 みさお「え……?」 中井出「辛い思い出もいつか笑って話せるようになる、っていうのは理想系だと思う。     俺もそうあればいいって思うし、思い出せば心が暖かくなるのはウソじゃない。     でも、その時に感じた悲しみも思い出だ。     感じたこと、思ったこと、経験したことの全てを思い出って呼べるなら……     苦しかった嗚咽も、熱かった赤の色も、     冷たくなっていくぬくもりも、全部忘れちゃいけないことなんだよ」 みさお「それは、そうです。忘れちゃいけません。ですが───」 中井出「いや。多分みさおちゃん、解ってない。彰利も、晦もだ。     どれだけの辛い過去でも、いつかは笑えればそれはどんなに眩しいだろう……。     でも、だったら流した涙も、失ってしまった笑顔も、一体どこに行けばいい?     誰が覚えていてやったらいい?死んじまった人はなにも出来ないんだ。     ただ誰かに覚えていてもらうしかない。なのに忘れられたらどうなる。     ……俺は、そんなのは嫌だ。いつか笑って話せるようになっても、     涙も、悲しみも、嗚咽も、みんな覚えていてあげたい。     あの涙は熱かった。あの嗚咽は苦しかった。     でも、悲しかったからこそあそこまで泣くことができたんだって」 みさお「中井出さん……」 中井出「でもこれは俺の中の勝手な思いだし、誰かに押し付けるようなことはしたくない。     だから俺は……彰利や晦にはなにも言わなかったし、見守るつもりでいる。     不満が無いって言えばウソになるけど、もし気づいてくれたなら……俺は嬉しい」 みさお「……?気づくって……」 みさおちゃんが首を傾げる。 やっぱり……気づいていないし解ってもいないんだ。 でも……まだ時間はあるよな?それまでに気づいてくれるならきっと…… 中井出「なんでもない。自分で気づいてくれたらいいなーって話だよ」 みさお「はあ……それは、その。もし気づかなかったらどうなるんでしょう」 中井出「……、それは、さすがの俺でも本気で呆れるか怒るかするかもしれない」 みさお「え───えぇっ!?そんな大変なことが起こるんですか!?」 中井出「ま、ま、ま、起こっても俺は無視するから。気持ち、解るし。     そうしたくなるって気持ちは多分、誰にも咎められないことだよ」 そう……“そうしたい”って思うことは悪じゃない。 きっと誰もが思うことだし、俺だってそうしたいって思うことだ。 でも─── みさお「ますます解りませんが……それは中井出さんがそうしたくなったとしたら、     実行してしまうようなものなんですか?」 中井出「しない」 でも、俺はそれを許さない。 みさお「え───あの」 中井出「それをしちまったら、俺は俺を許せなくなるからさ。     もし耐えられずにやっちまったら……俺は自殺でもなんでもしてやる覚悟だ」 みさお「───!ま、待ってくださいそんなのダメです!!     せっかくゼットくんに友達が出来たのに───!!」 中井出「へ?あ、あ───あっはっはっはっは!!!なんだいそりゃあ!!     心配するならゼットじゃなくて俺のこと心配してくれよぉっはっはっはは!!」 みさお「あ、あぁ……《かぁああっ……!!》す、すいません……!!」 中井出「いや結構!まだまだ初々しそうでスバラシイ!でもま、安心していいよ。     ここまで言うからにはやるつもりなんてサラサラ無いんだから」 みさお「うぅ…………それで、結局“それ”ってなんなんですか?」 中井出「気づけないヤツには教えてやんねー!クソして寝ろ!!」 まさに外道!! みさお「なっ……なんですかそれは!散々意味ありげに話しておいて!!」 中井出「いやぁ普通の流れなら“実は……”とか言うところなんだろうねぇ。     だが断る。この博光の最も好むことの一つは。     疑問に思うことに答えを求める者にNOと断ってやることだ」 みさお「……いい性格してますね」 中井出「え?ウソ。俺この性格褒められたの初めてだよ?」 みさお「褒めてません!!」 中井出「なっ……!お、俺の心を弄びやがったのか!?あ、あああ……悪女!この悪女!!     嬉しかったのに……!外道!!外道先生!!鬼畜ハンゾウ!!」 みさお「あれで褒められてるなんて勘違いするのは彰衛門さんくらいです!!」 中井出「解ってるじゃん」 みさお「………そうですね……わたしが馬鹿でした……」 だはぁあああ……と長い長い溜め息を吐かれてしまった。 いい若いモンが溜め息とは……なんと嘆かわしい。 ……俺が吐かせたんだけどね。 そんな遣り取りをしつつもデビルカズヤをデビルカズヤの部屋へ連れ、 押入れから取り出して敷いた布団に寝かせると一息。 みさお「……やさしい手つきですね。     寝かせた後に掛け布団の上からポンポン、って叩く時なんて     凄くやさしい顔してました」 中井出「子供の頃、じーさんにやってもらったんだ。数える程度だけどさ。     ばーさんが死んじまって自分も寂しいくせに、     俺を寝かせる時はすっげぇやさしい顔して傍に居てくれるんだ。     俺が寝た後は暗い部屋で自分も寝てさ」 みさお「……本当にやさしい方だったんですね」 中井出「ああ。じーさんとばーさんは俺の命の恩人であり師匠みたいなもんなんだ。     ばーさんは俺に命をくれた。じーさんは俺にやさしさをくれた。     両親からは……特別に受け取ったものはないけどさ。     それでも……家族の暖かさだけは覚えてる。     人の集まりってさ、暖かいよ。俺はそれが大好きだ。     友達でも仲間でも家族でも、その根本は変わらないって信じてる。     そして、こんな気持ちを持たせてくれた二人に、     俺はいくら吐き出しても足りないくらいに感謝してる」 思えば。 俺はあの日からずっと人を求めてきていた。 人の暖かさ、人としての楽しさを。 幼かったあの日、見知らぬって言った方が妥当なくらいな、 名前も知らないシワくちゃな誰かに手を引かれ─── 大して遊びたくもないのに無理矢理あやされるように遊ばされ、 それが辛くて、面倒くさくて─── お袋にまだ帰らないの?って言って困らせたこともあったっけ。 それでも家に帰る日は遠くて、なんだかんだで毎日を名前も知らない誰かと一緒に居た。 ───名前も知らなかった誰かが自分のばーちゃんだって知ったのは結構後だった。 それでも俺は、いっつも俺に構ってくるその人のことが鬱陶しくて、 逆に特に何も喋らない上に動こうともしないじーちゃんの隣に居た。 するとばーちゃんは決まってじーちゃんに嫉妬するみたいに言葉を放ち、 だけど───いっつも最後には笑ってた。 いつからだろう。 その、シワいっぱいな顔をもっとシワだらけにして笑う人が嫌いじゃなくなったのは。 やっと見慣れない家が見慣れた家になってきた頃、 俺はようやく心を開き始めていたシワくちゃのばーちゃんを目の前で死なせてしまって、 あまり喋らなかったじーちゃんを、もっと無気力にしてしまった。 なにも知らないガキだった。 ようやく好きになりかけてたその人の名前を知ったのは、葬式の時だった。 何も解らないままに泣いて、失ったものの大きさも手に入れられないままに涙し、 いつしかじーさんとあの家で一緒になっていた。 ……思うことはあの時ああだったら、なんて戯言ばっかりで。 そんなことしか考えられない自分が物凄く情けなく感じたのを覚えてる。 ───届けたい言葉がいっぱいあった。 シワくちゃなあの人に、いつも一緒に居て笑ってくれたあの人に、 届けたい言葉がいっぱいあったんだ。 “死”の意味が解らないほどガキじゃない。 だから手遅れだってことくらい知っていた。 でも……じゃあ、もう誰にも届けられないこの思いは何処に行けばいいんだろう。 ありがとうも、ごめんなさいも……大好きだよ、も……俺は誰に届けたらよかったのか。  ただ……今でも思い出せるのは。  大きな花に囲まれながら写真の中で笑う、ばーさんの笑顔だけだった。 俺はそんな笑顔を前にして大声で涙した。 じーさんに“お前の所為じゃないよ”って言われたあとのことだった。 どれだけ流しても涙が止まらなくて、自分はこんなにもあの人のことが好きだったのに、 感謝の言葉も謝罪の言葉も、 自分もあなたが好きだったという言葉も届けられないままに俺は泣いた。 喉が枯れるほど叫んで、まるで悲鳴を上げるみたいに泣いて…… 責任って言葉の重みも命の大切さや儚さの意味も知らなかったガキの頃、俺は─── 別れってのがどれほど辛いものなのかを、痛いほど思い知ったのだ。 ……だから俺は仲間を本当の意味で裏切らない。 裏切られるなら向うからって決めてある。 結果、自分がとんでもなく辛い上に心が痛い状況になるんだろうけど───うん。 自分から裏切ってしまうよりはよっぽどいいって思えるんだ、仕方ないよな。 中井出「というわけでナギーを捕獲」 みさお「さっきまで考え事に耽ってるみたいだったのに……     ナギさん見つけたらあっさり戻ってきましたね」 中井出「うむ。大事なものは目に入れても痛くないとはよく言ったものよ」 みさお「それでも平気でキン肉技かけたりしてるんですよね?」 中井出「うむ!仲間の間で遠慮は無用!それが我らの原ソウル!!」 みさお「……目の前に仲間じゃない人達がいらっしゃってもですか?」 中井出「タコだなぁみさおちゃんは。いらっしゃるからいいんじゃないか。非常識で」 みさお「誰がタコですか!普通そこは“馬鹿だなぁ”って言うところですよ!」 中井出「……馬鹿なの?」 みさお「うぐっ……い、いえ、違いますけど……っ!!」 中井出「よろしくタコ」 みさお「ギ、ギィイイイイーーーーーーーッ!!!!」 思考から戻ってから一点、俺達は居間にてナギーを回収していた。 もちろん周りには晦や和十葉さんや和眞氏が居る。 熱心になにかを話していたようで、というか今も話してて、 晦に至っては俺達がここに居ることに気づかないくらいに楽しそうに会話をしている。 みさお「……父さま……」 中井出「あんな顔、見たことない、か?」 みさお「いえ、彰衛門さんと一緒の時は結構見せる顔ですけど……。     それでも別の誰かが来ているのに気づかないだなんて、そんなこと初めてで……」 ……ふむぅ。 娘の身としては寂しいらしい。 よっしゃ、ここは一つこの博光が人肌脱いで───ヒィ!人肌脱いだら俺死んじまうよ! ひと肌!一肌ね!? 中井出「よっしみさおちゃん、空き部屋行って俺と暇潰しでもしよっか」 みさお「え……な、なんですか急に」 中井出「なんですか、って……それこそ急に遊びたくなったんだが」 みさお「……遠慮しときます。今はなにやっても楽しめそうじゃ───」 中井出「なら遊ぼう」 みさお「聞いてました!?人の話!!」 中井出「楽しめそうじゃない時こそ楽しむべきなんだよ人ってのはさ。     だから貴様はこの博光が隠し持つ     小さな遊びから大きな遊びまでを駆使して楽しませてやろう!!」 みさお「い、いえ、ですから───」 中井出「楽しいの嫌いかい?」 みさお「……そりゃ、つまらないよりは───《がしぃっ!》ひあっ!?」 中井出「だったらうだうだ考えない!楽しむと決めたなら行動はもう終わってるんだよ!」 みさお「無茶苦茶ですよそれ!!」 中井出「なにを今さら……」 みさお「ああもうほんと今さらだって思いますよわたしも!!」 そんなわけで、 僕はナギーとみさおちゃんを小脇に抱えて適当な空き部屋を求めて走り出した。 何処でもよかったのだ。 置いていかれないように付いて来た筈が、 置いていかれてしまっているように感じてしまった彼女を楽しますことが出来るなら。 なにせ仲間の知り合いであり娘であり、友の彼女(?)なんだ。 そしてなにより悲しそうな顔をしている者を見捨てちゃおけん。 そんな単純な理由を胸にふたりを攫い、 世にある数々の楽しさを俺が知る限り叩き込んでやろうと思ったのだ。 他意はない。 ただ純粋に、楽しませてやりたかった。 言っちゃなんだが親が晦で彼氏(?)がゼットじゃ“楽しい”を探すのは困難だ。 だから───俺が裁く!じゃなくて俺が教えようと思った。 それだけ……たったそれだけのシンプルな答えだった。 Next Menu back