───時空放浪モミ列伝『最終章◆偽りの正義』───
【ケース478:弦月彰利/決着と始まりへ】 ゴゾォオオ……!! 彰利 「HOOOWLLRYYEEEEE(ホォオオオウルルルイィイイイ)……!!」 やあ僕彰利。 いつもながら訳の解らん擬音を鳴らしつつ、和魅さんが寝た部屋からお送りします。 藍田 「しかしよ。この過去との対峙って結局なにをどうすれば終わりなんだ?」 彰利 「ホエ?そりゃ……悠介が満足すりゃ終わりなんでないの?」 あたしゃそこまで知らんよ。 という意味を込めて言ってみます。 そういやどうなんだろうね?悠介の満足ってなにをどうすりゃ満足なんだろ。 やっぱアレか?感情を全て手に入れることが絶対条件か? 彰利 「あーほらあれだ、悠介ってこの頃のこととことん覚えてないみたいだしさ。     全て思い出せりゃ満足出来るんでねぇのかね」 丘野 「そんなもんでござるかな」 彰利 「こればっかりは悠介マニアのアタイでも解らんね。     過去を見たこたぁあるが、そりゃ悠介が覚えてることくらいだ。     砕けて心の深遠に埋もれた記憶までは見たいとは思わんかったし」 藍田 「なるほどねぇ……で、それをお前は見なくていいのか?」 彰利 「悠介の過去は悠介のもんだろ。見られたくない過去くらい誰にでもあるさね。     ま、俺ゃ夜華さんにだけ宗次や浄子は見られたくなかっただけだし」 丘野 「呼び捨てなんでござるな」 彰利 「親と認めること自体が愚かしい。ヤツらは言っても解らん極上のクズだ」 藍田 「親ねぇ……そういや弦月、提督の親のこと知ってるか?」 彰利 「オウ?」 中井出の親? 原中時代に聞いた話じゃあ、 確か近所のオッサンに刺されて亡くなったって聞いたけどね。 でもそれだけだ。 中井出がたまに言うじーさんやばーさんのことは詳しくは知らんね。 あの時───ヒロラインで殴られた時、少しだけ知った程度だ。 助けたくても助けられなかった“人間”の話をされたっけ。 藍田 「両親が近所のオッサンに刺殺されたってのは俺も聞いたことはあるんだけどな」 丘野 「そういや提督殿、祖父母のことはあまり話さんでござるな」 彰利 「ふむ……い〜い祖父母だったらしいよ?以前ちょっとあって聞いたんだけどね、     ヤツがあれほどマジになるくらいだ、     よっぽどステキなババさまとジジさまだったに違いねぇ」 藍田 「へえ……」 丘野 「ちょっと気になるでござるな」 彰利 「そうやねぇ……せっかくだし、     悠介の用事が終わったら今度は中井出ンとこ行ってみる?」 藍田 「や、そりゃやめといた方がいいんじゃないか?     提督だって大事な人の死を見たりなんてしたくないだろ」 彰利 「ヌ?だったらオメェ……アレだ。そげなもんは実力でなんとかすりゃいいデショ」 丘野 「実力ででござるか?」 彰利 「オイラもなんとか出来たぜ?     宗次のヤロウもタイニーさんにして置いてきたし……     この時代の僕はきっとバラ色ハッピーデイズを生きることでしょう。     あとはこっちの時代で悠介が一家心中に巻き込まれなけりゃOKだ。     魂結糸の使用も無いし、     未来においてルナっちとの二重契約でゼノが送られることもない」 藍田 「へー」 丘野 「そりゃまたなんともハッピーな展開……。     でも提督のことはほっといた方がいいでござるよ?」 彰利 「おや?何故に?」 藍田 「いや、行くなら行くでいいんだけどさ。     提督がどう動くかは提督に任せた方がいいってこと」 ふむ?よぅ解らんが……まあまだ行くと決まったわけじゃあねぇしね。 この場所で悠介がどう動くかで未来もまたいろいろ変わってくるし。 一家心中が起きないようにするには、やっぱ朧月崩壊をなんとかするしかないんだよね。 よーするに逝屠の野郎を 歴史修正日記の時みたいに始末するかどうかにかかってるんだけどさ。 彰利 「まあとりあえずはここで悠介がどう動くかで判断決めようか。     ヤツの動き次第で我らも行動を決める方向で」 藍田 「ほいよー」 丘野 「では今後のことも適当に決めたことで。これからどうするでござる?」 彰利 「FUUUUM……やること無いねぇ」 藍田 「遊びって言やぁ提督なんだけどな。     そういやナギ助連れ戻しに行ったわりには帰ってこないな」 彰利 「そういやそうですな」 何処で油売ってんでしょうな。 もしかしてアレですか?若い情熱を気絶中のナギ子さんにぶつけたり─── 総員 『……若いっていいねぇ……うおう』 同時に同じことを言った我ら三人は顔を見合わせました。 しかし言葉に発せずとも解るものがある……きっと僕らは同じことを考えていたのだと…… 藍田 「……提督へのイメージってとことんエロマニアなのな……」 丘野 「あ……やっぱりでござるか」 彰利 「俺も同じこと考えてたところさ」 僕らの提督は奇妙な部分で信頼が厚いのが特徴じゃけぇのぅ。 期待を裏切らない上に、裏切る時は変わった意味で裏切ってくれる。 そんな彼にシビレはするが憧れはしないのが僕ら原中。 彰利 「中井出でも探しに行くか」 藍田 「そだな」 丘野 「みさお殿もきっとそこでござるな」 そうと決まればと我らは行動を開始した。 悠介はまだ話し込んでるんだろうし……んむ。 ここは中井出とみさおさんとナギ子とともに熱い夜を過ごしましょう。 ───……。 ……。 そんなわけで訪れた適当な部屋。 そこで─── 中井出「その時ボブはこう言ったのさ。僕はウィルソンじゃなくてサップンだよ!って」 みさお「あはははははは!!」 ナギー『ぷはははは!!おかしなやつよのぅそのボブとやらは!』 みさおさんとナギ子さんは中井出を前に腹を抱えて笑っていた。 畳の上を転がるくらいの勢いで笑っていた。 それはもう見事なくらい笑っていた。 彰利 「えーと……話が見えないんだけど」 中井出「ヌ?おお彰利一等兵に藍田二等兵に丘野二等兵ではないか。     どうしたんだ?和魅嬢はもういいのか?」 彰利 「オウヨ、きちんと寝かしつけてきたきん。そィで?こりゃいったいなんの騒ぎ?」 みさお「あはっ……あきえっ……も、さっ……!あははははは!!     ボブがボブであははははははは!!!」 彰利 「………自分が知らない理由で笑いまくってて     その理由をなかなか話さないヤツって見てると無償に腹立たない?」 藍田 「いや全然」 丘野 「修行不足でござるなぁ弦月殿」 彰利 「なんの!?」 藍田 「まずいろいろな物事を前にしても冷静でいられる自分作りから始めよう」 丘野 「次に人の行動にいちいち疑問を抱かないことを心がけるでござる」 藍田 「疑問返しは見苦しいでござるな。“なんで”と訊くのは鬱陶しいでござる」 丘野 「真似するなでござる!」 藍田 「馬鹿め……これは貴様の真似ではなく忍者の真似だ!     少し忍者の真似をする時間が長かったからといって、     自分の真似をされていると勘違いしやがって恥ずかしいヤツめ!」 丘野 「ハッ……恥ずかしィイーーーーーーッ!!」 藍田 「……とまあそんなわけで」 丘野 「これくらいのリアクションを素でいつでも返せるようにでござるな」 彰利 「無駄に逞しいのは相変わらずなのね……打ち合わせとかしたん?」 藍田 「いや全然」 丘野 「“修行不足でござるなぁ”から既に即興殺陣は始まっていたのでござるよ」 彰利 「………」 ほんと無駄に逞しいお方たちである。 彰利 「そィで結局なんなん?娘ッ子たちが笑い転げてるけど」 中井出「いやな?その娘ッ子たちがあまりに     “面白いことの素晴らしさ”を知らんもんだから、     俺がこうしていろいろ話して聞かせたり遊びを教えたりしてるのだよ」 藍田 「ほほう。それはもしや原中名物“愈鵜鬱畝死神(ゆううつせしかみ)”か」 中井出「そう。なによりも“面白さ”を追求する、我ら原中最初に覚えるべき名物」 ろくな名物が無いのが原中。 一般の人にはオススメできない。 彰利 「まあいいコテ。我らも暇でサ?せっかくだから混ぜておくれ?」 みさお「えー……」 彰利 「なっ!?なにかねその反応は!     体操のお兄さんが混ざるのを極端に嫌うヒネクレッ子ですかキミは!」 みさお「いえ……正直みなさんが集まるとまたヘンな方向に話が曲りそうなので……。     こうして中井出さんとナギさんだけで“面白い話”をするのが良かったんです。     みんな集まるとまた騒ぐだけ騒いで巻き込まれる状況になりそうです」 ナギー『おお、言われてみれば“皆で騒ぐ”ではなく、     純粋に面白い話だけを聞かされるというのは珍しいのじゃ』 みさお「ですよね」 ぬう……言われてみればそうかもしれん。 むしろボブになにがあったのかオイラも気になるくらいである。 中井出「ならばアレだな」 藍田 「おお、アレだな」 丘野 「ぬう、アレでござるな」 彰利 「アレね?OK」 みさお「……またよからぬことを考えてるんですか」 ナギー『なんなのじゃ?』 彰利 「よからぬこととは失礼な。これは列記とした原中名物ですぞ?」 みさお「………」 彰利 「あの……なんすかその“だから不安なんですよ”って顔」 そらね、気持ちは解らんでもないけどさ。 だめよ?若者がそげな顔してたら。 中井出「これより始めるは“百喪廼餓詫浬(ひゃくものがたり)”。原中名物が一である。     物語を語るたびに用意したローソクに火をつけるというものだ」 みさお「え?普通百物語って消していくんじゃ……」 丘野 「解ってねぇでござるなみさお殿。これは原中名物でござるぜ?」 藍田 「話す物語は全て笑い話であり、ローソクも消すんじゃなくつけるんだ」 彰利 「するとどうだろう、普通ならば最後にローソクを消した時、     オバケが出ると言われているソレが、     なんと愉快を愛する神の召喚を達成させるのだ!」 みさお「……どこぞの時神様でも召喚するんですか?」 彰利 「ああ、あの青子さんね?」 ピキィーーーーン!!───どぐしゃあ…… 中井出「じゃ、説明も適当にそろそろオワッ!?」 丘野 「ヒィ!突然弦月殿がボッコボコになって畳みに転がったでござる!!」 藍田 「弦月っ!?弦月ーーーーっ!!」 ナギー『おぬしにそのような趣味があるとはの……!』 彰利 「趣味でボコボコになれっかコナラァ!!」 誰かが!誰かが影で僕のことを見てる!監視してる! それはきっと暇人に違いねー! ……なにやってんでしょね?こげな時代の僕らを見たりして。 彰利 「じゃ、青子さんはほっといて百喪廼餓詫浬を進行させますかい」 中井出「青子さん?     ああ、かつて原中で百喪廼餓詫浬を完遂させた際にご光臨なされた青髪の神様ね」 彰利 「オウヨ。あれね、実は時神さまだったのよ。     そして青子さんは今も僕らを見守っていてくださっている……!」 藍田 「おお……!さすが愉快神様……!すげぇぜ青子さま……!」 丘野 「語呂で選ぶなら笑神様(わらがみさま)?」 彰利 「おおそれいいね。───……なにやら空気が冷たくなった気がするんだけど」 中井出「構わーん!!笑神様がここにいらっしゃるとして、     見守っていてくださるのに姿を見せないのは     我らが儀式をおこなっていないからである!ならばどうするか!?簡単だ!!」 総員 『笑神様に祈りを捧げろォーーーーッ!!』 ドコトコトコトンッ!ドコトコトコトンッ! ドコトコトコトンッ!ドコトコトコトンッ! 中井出「弦月一等兵!蝋燭はどうなっている!?」 彰利 「サー!この家に蝋燭は百本もありません!」 中井出「ぬうならば仕方ない!貴様が黒で象るのだ!」 彰利 「イェッサー!」 中井出「藍田二等!持ちネタは十分か!?」 藍田 「サーイェッサー!!もちろんであります!!」 中井出「丘野二等!今宵も即興ネタの貯蔵は十分か!?」 丘野 「即興ならばいつでも考えられるでござるよ!」 中井出「うむよし!では次にナギー新兵!今回貴様は初の参戦となる!     おそらく急に面白話を語れと言われると焦るものだろう……!     故にこの博光が貴様に動じないための処方箋を授けるものとする!」 ナギー『お、おお!なんなのじゃ!?』 中井出「終わりよければ全て良し!適当な話を語る中でこれぞというオチを考えるのだ!     それがトドメとなって誰かが笑うのなら、それは間違い無く面白い話!!」 ナギー『おお……なるほどの!』 中井出「では最後にみさお雑兵!!」 みさお「雑兵!?」 中井出「原ソウルを持たない貴様には原中名物は過酷なものとなるだろうが、     これを乗り越えることが出来れば貴様もきっと原中の良さが解るだろう!     だからこそ語るのだ!作り話でも良し!ゼットの赤裸々伝説でも良し!!     そしてゆっくりと火を灯してゆくのだ!蝋燭の火が辺りを眩しく彩る時、     貴様の心の中にも我らが心の巴里同様、シャンドラの火が灯る筈!!」 みさお「いりませんよそんなの!!」 中井出「え……要らないの?」 みさお「え?い、いえその……なにもそこまで残念がることないのでは……」 中井出「さもありなん!さもありなんの意味なんて知ったこっちゃねー!!     ともかく語るのだ!我らは元々そのためにこの部屋に降り立った……………っ!」 おお、中井出が今日も元気に猛っておるわ。 こりゃあ気合入れていかねばなるまいね。 中井出「じゃ、どういった話をするのかを理解してもらうために順番を決めようか。     まず彰利、藍田、丘野、俺、ナギー、みさおちゃんの順ね?」 彰利 「中井出てめぇ!     こういう時は普通提督である貴様が最初に語って模範になるべきだろうが!!」 中井出「なんだと羅武てめぇ!!     “こういう時は”なんて言葉を原中一等兵である貴様が語るか!!     貴様よもや常識人勢力が送り込んだスパイではあるまいな!!」 藍田 「なにぃスパイだと!?」 丘野 「てめぇいっぺん東京湾の海洋深層水を直で飲んでみっかコラァ!!」 彰利 「ヒ、ヒィ!沈めるのだけは勘弁を!!     つーか言葉だけで規制されんのっておかしいでしょ!?     言葉くらい自由に言わせてよもう!!」 藍田 「じゃあなにか。貴様はコギャル語とか     ギザ燃ユルスとかそういった言葉も受け入れられるっていうのか」 彰利 「いや大ッ嫌いだけど」 丘野 「そういうことでござるよ」 彰利 「………」 極論で諭されると物凄く寂しい気分になりません? だがご安心。 我らは嫌いな言葉があろうがスルーする方である。 彰利 「ノリって大事だよね」 総員 『まったくだ!』 つまりはそういうことである。 我らは自由さ。 ただその自由をもとになんにでもツッコミたくなる猛者ハートを持ってるだけ。 彰利 「じゃ、気を取り直してオイラからね。     えーと、これは実際にあった話なんじゃけど……」 総員 『う、うむ……《ゴクリ》』 ───こうして僕らは笑神様に送る祈りをするべく、百喪廼餓詫浬を語り始めた。 今も見ているであろう笑神様(青髪様でも可)の祝福のもとで語る話はスリルがあり、 なんだかんだでナギ子もみさおさんも第一巡クリア。 続いての第二巡もその場その場で適当に作った話をしつつも、 ところどころでブッシャシャシャと笑いながら───我らは眠れぬ夜を過ごしていった。 ───……。 ……。 そして───最後の蝋燭が火を灯す頃にはすっかりと外は明るくなり─── 彰利 「ご、ごぉおおお……!!ついに……!ついに100本目が……!!」 中井出「わ、笑神様……!さあ、笑神様!!」 藍田 「笑神様がご光臨なされるぞ!」 丘野 「笑神様!!」 みさお「わ、笑神様……!!」(←寝不足でハイになってきている) ナギー『ど、どのような存在なのじゃ……?気になるから出てくるのじゃー……』 我らは笑神様の登場を待った! だがしかし───現れない!!何故!? 彰利 「グ、グウウ〜〜〜ッ!な、何故現れん〜〜〜っ!!」 中井出「───ハッ!?もしや蝋燭が黒だったのが悪かったのか!?」 藍田 「そ、そうか!本物ではないからきっと怒ったのだ!!」 丘野 「なんということ……!     模造品に嫌悪感を抱くなど、まるでどこぞの主婦じゃないか!」 ピキィーーーン!!───どしゃあ…… 中井出「ウオッ!?丘野が急にボロボロになって倒れた!!」 藍田 「丘野!?丘野ォオーーーーッ!!」 彰利 「くっ……笑神様のヤロウ、困惑する俺達を見て楽しんでやがるんだ!!」 みさお「そうなんですか!?笑いを愛する者の神のくせにそんな楽しみ方をするなんて!」 ナギー『笑いの神とは思えん所業なのじゃ!!』 中井出「卑怯だぞコラモービー!!なに意固地になってんだコラモービー!!」 藍田 「降りてこいコラモービー!!物語は完遂させたんだから姿見せろコラモービー!」 彰利 「なんてことしやがんだモービー!聞いてんのかコラモービー!!」 ───その日、我らは姿の見えない笑神様にボコボコにされた。 ───……。 ……。 総員 『ちくしょ〜〜……』 見事にボッコボコである。 くそぅ、何が不満だっていうんだよ笑神様め……。 中井出「やっぱアレかな。時代が違うから、     そういった輩の前に姿見せるわけにはいかんのかな」 彰利 「ああ……一応時の神様らしいからね……」 藍田 「でもこう一方的にボコボコにしときながら姿を見せないってのも……」 丘野 「なぁ……?」 中井出「卑怯だぞコラ降りて来いコラモービー!!」 丘野 「自分だけ姿見せずに一方的なんてひでぇぞこらモービー!!」 彰利 「マリオ倒したの俺さー!モービー!!」 ……その日、我らは姿を見せぬモービーにボコボコにされた。 ───……。 ……。 総員 『ちくしょ〜〜……』 またしてもボッコボコだった。 くそぅモービーめ……よくもここまでボッコボコに……。 中井出「なぁ。お前のセカンドハンズフリーザーでなんとかならないのか?」 彰利 「レヴァルグリードの力解放すりゃ案外……でもやめとくわ。     ここに来てまでものめっさ疲れることしたくないし……」 藍田 「ぬう、ならばモービーは放置ってことになるのか?」 丘野 「百喪廼餓詫浬を完遂しても現れてくださらんのだ。     モービーのことはもう諦めよう……」 ナギー『残念じゃのう……モービーとやらには会ってみたかったのじゃが……』 みさお「きっとモービーさんにも     時代時代のモメゴトに手を出すわけにはいかない事情があるんですよ」 彰利 「ぬう……でも姿くらい見せてもいいと思うのよモービー」 既にモービー呼ばわりである。 彰利 「あ、じゃあ……ちょいといい?」 中井出「ぬ?どうした」 彰利 「耳、耳。ほれ皆さんも」 総員 『……?』 総員を手招きして耳を出してもらい、ゴニョゴーニョと囁きかける。 彼女が姿を見せないのは何処かに隠れていて、 ボコる時は時を止めてるから急にボコボコになる。 この法則は後悔の旅の途中でやられたのとそう変わらない。 ならば─── 彰利 (一度だ。一度だけ我が全力を以って時を止め返してみせましょう。     だからその一度だけ、みんなで力を合わせてモービーを殴るのだ) 総員 (よしノった!!) 即答でした。 中井出(相手が女だろうが神だろうが一切容赦無し!!) 藍田 (一撃だけでいい……!モービーに目にもの見せてやる!) 丘野 (じゃあマウス殺法で) 彰利 (オッ……“範馬刃牙”のあの三人組殺法か。いいねぇ〜) 中井出(俺リップ!) 藍田 (じゃあ俺タング!) 丘野 (拙者はトゥース!!) 彰利 (……僕は?) 中井出(……じゃあヒップで) 彰利 (ケツかよ!!マウスですらねぇじゃねぇか!!) 説明しよう。 マウス殺法とは、相手を囲んで攻撃を繰り返すだけという戦法。 ただし一人一人が順番に攻撃してゆくため、一撃目を避けてもその隙をニ撃目が襲い、 それをからがら躱せても三撃目が。それを避けても四撃目が、というもの。 三人でやるのだから隙なぞ簡単に潰せますよ?というものだ。 悠介に言わせりゃ攻撃される前に一人ずつ潰せばいいとのことだが、 我ら猛者は潰されようとする時にこそ根性を出す修羅よ。ただではやられん。 ナギー(わしはなんなのじゃ?) 中井出(総じてマウスで) みさお(わたしは……) 中井出(唾液) みさお(なんでわたしだけ普通に日本語なんですか!?     しかもよりにもよって唾液ですか!?) 中井出(いや俺も悩んだんだがな……じゃあ最終候補の“のどちんこ”で) みさお(唾液でいいです!!) 彰利 (よろしく唾液!) 中井出(では頼むぞ唾液!) 藍田 (やってやろうぜ唾液!!) 丘野 (がばしょ!唾液!!) ナギー(お互い頑張ろうの!唾液!) みさお(ぎぃいいいいい……!!《ミチミチミチミチ……!!》) なにやら唾液のコメカミがバルバルと躍動しています。 ですが無視です。 何故ならこれから僕らは集中して戦をせねばならんのですから。 ちなみに“がばしょ”は“頑張りましょう”の略らしいよ? 彰利 「では会議を終えたところで……おーい笑神様ー?姿を見せてくださらんかー」 中井出「少々お訊ねしたいことがー。笑神様ー?」 藍田 「笑神様ー?笑神様〜〜〜っ」 丘野 「笑神様ー?」 総員 『………』 彰利 「卑怯だぞコラ降りてこいコラモービー!!」 中井出「話があるって言ってるだろうが聞いてんのかコラモービー!!」 藍田 「話も聞かずに一方的か降りてこいコラモービー!!」 ピキィーーーーン!! 彰利 (───!来た!!) 時間の凍結を確認!! 微量に発動させていたセカンドハンズフリーザーが時間の変化を逸早く察知!! オイラはそのままオーダーを解放し、今持てる全力を鎌に込めて発動!! すると動きを止めていた猛者どもやみさおさんがハッと動き、 なんとその中心に丁度良く青い髪のおなごが!! お、おお!笑神様だ!笑神様がご光臨なされ─── 総員 『死ねぇええーーーーーーっ!!!!』 彰利 「えぇえーーーーーっ!!?」 感動もなにも全く無し!! アタイ以外の、その場に居た全員が微妙にテンポをずらしつつ笑神様に攻撃を開始!! い、いやそうじゃねぇ!アタイも混ざらねばマウスコンビネーションは成立せんのだ!! 中井出「リィーーップ!!」 中井出の攻撃!───ミス!ダメージを与えられない!! 藍田 「タングゥーーッ!!」 藍田の攻撃!───ミス!ダメージを与えられない!! 丘野 「トゥーーース!!」 丘野くんの攻撃!───ミス!ダメージを与えられない!! ナギー『マウスなのじゃーーっ!!』 ナギ子の攻撃!───ミス!ダメージを与えられない!! みさお「だっ……唾液っ……!!」 みさおさんの恥じらい攻撃!───ミス!ダメージを与えられない!! 彰利 「ヒィーーーップ!!」 そしてアタイの攻撃!!───ミス!ダメージを与えられない!! 総員 『………』 笑神様『………《にこり》』 ……その日。我らは満面の笑みの笑神様にボコボコにされた。 ───……。 ……。 総員 『ちくしょ〜〜〜……』 僕らは負けてしまったのだ! 何にって?強すぎる存在には一撃を与えることが出来ないって常識にさ!! 情けないっ……あまりに情けないっ……!!我ら原中が猛者ともあろう者が……!! 中井出「マウスコンビネーションってさぁ……やっぱ先に誰かがやられたら終わりだよな」 彰利 「おおまったくだ……」 藍田 「攻撃されそうになったら逃げてたけどさ……     逃げる足より速いヤツが相手じゃ結局ボコだし……」 丘野 「あれってほんと戦法なのかな……ただのゴロツキ流集団リンチの図じゃん……」 考えれば考えるほど不毛だった。 いやしかしまいったねほんと……ナギ子とみさおさん、 打ち所が悪かったのか気絶しちゃったし。 彰利 「どうする?」 中井出「……寝るか。晦の方、まだまだ長引きそうなんだろ?」 彰利 「や、さすがにもう終わってんじゃねぇの?     まだやってたらいくら積もる話っていっても積もりすぎっしょ」 藍田 「……ま、眠いしどうでもいいや。寝よ寝よ」 総員 『だな』 と、藍田くんが言うと皆様もそうだったのか、一斉に頷きました。 かく言う俺ももう流石に眠い。 寝不足はお肌の敵ですからね、たっぷり寝て爽快気分を味わいましょう。 声  「まったれや」 などと思っていると突然耳に届く聞きなれた声!! 彰利 「あ〜〜〜ん?───!」 中井出「な、なにーーーーっ!!?」 藍田 「お、お前はーーーっ!!」 悠介 「ここは先輩の顔立ててもらうぜ」 総員 『ど、独眼鉄ーーーーーっ!!!』 悠介 「許せねえ。自分の子分にまで手にかける血も涙もねえあのひねたガキに、     この独眼鉄さまがきついお仕置きをしてやるぜ」 彰利 「オォ!?上等だやってみろコナラァ!!」 中井出「こちとら笑神様との一件で気が立ってんだ!!容赦しねぇぞコラァ!!」 藍田 「おんどりゃタマァ要らねぇんだなコラァアア!!」 丘野 「今すぐハラワタブチマケてやるぁああああーーーっ!!!」 悠介 「へ?い、いやちょっと待て!今のはただの悪ノリで───グワーーーーッ!!!」 こうして僕らのジハードは幕を上げた。 武器無しでの体術合戦は熱き雄どもの魂のぶつかり合いさ。 飛ぶ飛沫は血飛沫ばかりだが、それでも容赦無用で殴りまくりました。 しかし疲れとダメージが蓄積される頃にはもういい加減眠気もピークに至り…… 我らはいつしかバトルロイヤルと化していた状況の中でそれぞれを殴った体勢のまま、 畳の上にドシャアと倒れて眠りについた。  結局───その朝はどんな話をしてきたのかなんてことは聞けずに過ぎ─── ───目覚めた頃には、既にコトは巻き起こっていた。 どっがぁあああんっ!! 総員 『───ッ!!!』 起きたきっかけは轟音。 バッと体を起こしてみれば、何かが崩れる音や、悲鳴のようなものが耳に届いた。 彰利 「悠介!」 悠介 「───……」 彰利 「……悠介?おい悠介!」 悠介 「これ……間違い無い……あの時の───!……くっ!!」 彰利 「あっ───おい!」 俺の声が耳に届いてもいないのか。 悠介は青ざめた表情のままに俺達を置いて駆け出した。 中井出「───、おい彰利……外見てみろ」 彰利 「えっ……な、なんだよ急に」 中井出「いいから!これお前の仕業か!?」 彰利 「仕業?───……な、なんだよこりゃ……」 中井出に言われるままに、いつから開けられていたのかも解らない窓の外を見た。 だがそこにあったのは───夏の景色などではなく、秋色の景色だった。 それも、ただ色が変わっただけではなく、昨日無かったものがそこにあったり、 あった筈のものが無くなっていたりした。 つまり───俺達じゃない誰かに、時間跳躍を実行させられた、ということだ。 時神の仕業……じゃない。 いくら暇人でもわざわざ地界の俺達のことに首を突っ込むとは思えない。 じゃあ……?───ああ、十中八九、ルドラだろうよ……!! 丘野 「ど、どうするんだ!?つーか今どういう状況なんだよ!」 中井出「恐らく朧月一家惨殺の当日だ!どうするか、なんて晦に任せるしか無い!」 彰利 「助けぬの!?」 中井出「忘れてるものを思い出すための旅だろうが!     ここで救ってなにが思い出せる!?」 彰利 「ぬ、ぬう……」 藍田 「とにかく今は晦追うっきゃねぇだろ!     目の前で親殺されたりしたら逆上しかねねぇぞ!?」 そ、そうだ───今の彼はファザコン! そして力を持った彼なら、ちっこい逝屠くらい簡単にツブせる! だったら───…………いや、潰してもいいって考えてる俺も居る。 思い出すためだからって、親が死ぬのを黙って見ろだなんてこと言えるわけがない。 だったら─── 彰利 「ええいくそっ!いきますよみんな!」 藍田 「言われるまでもねぇ〜〜っ!!」 丘野 「さっさと行くでござる!!」 中井出「お前らほんとに焦ってるの!?……つーかおぉーーーい!     やっぱりナギーとみさおちゃんって俺が運ぶの!?ねぇ!!」 中井出の悲痛の叫びを背に浴びながら、俺達は廊下を走った。 走って走って走り続け、やがて─── 和眞 「───、……!」 逝屠 「ハハッ……?ハハハハハハハ!!!!」 辿り着いた先で、包丁を手に持った子供逝屠を前に、 切られた首を押さえながら崩れてゆくオヤジさんを見た。 そして───首を切られた夫を前に混乱するお袋さんの手首を切るソイツを見て、 頭に血が上る……!! 即座に頭でも吹き飛ばしてくれようかと、頭が沸騰する。 だが───ここは悠介の意志が重要とされる場だ。 俺が出て行ってはなんの意味も無い。 だっていうのに……さっきからその場で惨状を見ている悠介は動こうとしなかった。 ───いや、動けなかったのかもしれない。 視線の先で、親が動かなくなってゆく姿を見ている朧月和哉と同じように。 和眞 「……、───和哉……!」 だがその姿が、オヤジさんの一言で跳ね上がる。 それは俺の傍の悠介も同じで、 震える目で尽きようとしている命を必死に捉えようとしていた。 逝屠 「なんだ……まだ喋れるんだ」 どれほどの時間が経っていたのか。 もう昨日と意識している時間軸で会った頃よりも大分大きい和哉と和魅嬢、 そして逝屠や錯乱する妻を前に、オヤジさんはゆっくりと口を開いた。 それを、普段なにもしてやれなかったであろう息子への最後の言葉にするかのように。 和眞 「人間……必ずどこかには辿り着く……。     それが……“生”だったとしても“死”だったとしても……     信念だけは……曲げない生き方を……しろ……」 その息子だってこの場で殺されるのかもしれないのに。 彼は息子が生きてゆくことを信じて、言葉を放っていた。 ……妻はもう動かなくなっていた。 和哉は涙を流しながら、やがて何も喋らなくなった父親の姿を目に焼きつけ─── 悠介 「───!!」 そして悠介も……オヤジさんが最後に和哉に見せた表情を見て涙を流すと─── 俯いたまま何もせず、だが─── 和魅嬢へと歩み寄る逝屠を見ると……一撃で頭を破壊してみせた。  ……それが、答えだ。 悠介が見たかったのは恐らく、オヤジさんの“最後”の表情。 覚えてないのは言葉でもなんでもなく、 最後の言葉を贈ってくれた彼が、自分にどんな表情を見せてくれていたのか。 ただそれだけだったんだろう。 だから姉が殺される必要は無いと駆け、殺人鬼を殺して見せた。 和魅 「……、はっ……はぁっ……あ、は……?」 和哉 「…………」 でも……きっと全ては遅かった。 両親を殺された二人は呆然と座り込むだけで、 まるで心でも砕いてしまったかのようにずっと同じ方向だけを見ていた。 中井出「………」 そして……そんな光景に目を伏せる俺達の中、中井出だけが─── まるで怒りを孕んだような目で見守っていた。 ───……。 ……。 終わってみればあっけないものなんて腐るほどあるだろう。 でも、たとえあっけなかったとしても、そこには嫌なくらいの後味の悪さがあって、 急にこんな瞬間に落とされた俺達にはなにをどうすることも出来なかったんだ。 それでも死んだ人に花を添えてやることくらいは出来るから。 過ぎた話になるが、あれから俺達は何も喋らなくなっちまった二人の介抱に励んだ。 状況を理解してないみさおやナギ子にも記憶を覗いてもらい、 どんなことが起きたのか知ってもらった。 その上で和哉と和魅嬢を励ましていき、少しずつだけど心を癒していった。 この時に役立ったのが中井出の子供嫌われのスキルで、 中井出がしつこく介抱してゆくうちに二人は中井出を本気で嫌い、 怒りを露にする頃にはすっかりと心も安定を取り戻していた。 ……その事実を知った中井出は本気で落ち込んでたけどね。  そして───今。 和哉 「なぁ……兄ちゃんたち、ほんとに帰るの?」 すっかり普通に話せるくらいにまで復活した二人を前に、アタイたちは帰ることを伝えた。 さすがにずっと過去に居るわけにもいかんしね。 彰利 「オウヨ。こっちにも気になることがあってね」 こんな時代のことにまで手をつけてくるほどだ、まずルドラのヤロウをなんとかしなきゃ、 俺達はずっと落ち着いてなどいられない者どもになっちまう。 和魅 「……あ、あの!彰利さん!」 彰利 「オウ?なんだべ?」 和魅 「わたし、彰利さんのことが───!」 彰利 「ギャアその先は言っちゃなんねぇーーーっ!!     いくら鈍感なアタイでもなんとなく解る!その先は危険!     だって猛者どもがニヤニヤ顔でテープ持ってるもん!絶対ヤベェエエ!!」 和魅 「で、でも!」 彰利 「大体あたしゃ既婚者です!だからキミの告白は受けられねー!!」 和魅 「でも……彰利さんは恩人です!     あなたはわたしに生きることの喜びを教えてくれました!だから!」 彰利 「とにかくダメ!!僕はこの時代の人間じゃない!過去に撒かれた種なのだ!!     だから僕は僕の時代の妻と愛を育むのです。というわけでアデュー!!」 和魅 「ま、待って!待───!!」 これ以上長引かせるとマズイと判断した僕は強制転移を実行してとんずらしました。 だってね、僕の人生経験がエマージェンシーコールを高鳴らせてるんですもの。 絶対ヤバイよ? ……まあ、悠介に同意得なかったのはちと心が痛いけどさ。 悠介 「………」 悠介はあれからずっと考え事の嵐だ。 なにかを得た筈なんだけど、まだ心の整理が出来て無いらしい。 パズルのピースはようやく揃ったのに、まだはめられてない……って感じだね。 しゃあからまずは元の時代に戻って─── 藍田 「あ、れ……?おい弦月?景色、おかしくないか?」 彰利 「ウィ?───な、なんだこりゃ……歴間移動が安定しない!?     ちょっと待てなんだよこりゃあ!!」 藍田 「ジョワジョワジョワ!これは時間超人である俺への挑戦に違いねぇ〜〜〜っ!!」 丘野 「ヌワヌワヌワ!ならばこのサンダー、何処までも付き合ってやるぜ〜〜〜っ!!」 みさお「暢気に言ってる場合じゃないですってば!!」 ナギー『どうなるのじゃ!?また竜と戦うのかの!?』 中井出「………」 彰利 「これ中井出!?考えごと!?ここで何か心が休まる一言でも出ない!?」 中井出「え?なに?───うおっ!?なんだこの景色!!」 総員 『今気づいたのかよ!!』 中井出が今ようやく捻れる時空を見て絶叫!! いやでもマジでヘンだ! パワーアップしてから制御不能なんて初めてだし、 そもそもこりゃ───俺が発してる能力が誰かに無理矢理捻じ曲げられてる!! 彰利 (ルドラかっ……!なにが目的なんだよくそっ!!) 結論は出た。 全力で力を行使しても抗えないほどの力───そんなのはヤツしか居ない。 そもそも俺の能力に干渉出来るなんて、“俺の力”ってのを知ってなけりゃ無理だ。 つまり俺の躯を取り込んだっていうアイツにしか不可能ってことだ。 このままアイツの時代に連れていかれるのか、それとも別の時代に飛ばされるのか。 それはまだ解らないが─── 飛ばされてゆく場所が確定する波動を感じたと思うや、 景色はさらに曲り、流れ、 ようやく時空間ではなく普通の景色の流れを俺達に見せていった。 ただし流れているため、全てが高速で動いていて───それが普通の速度になってゆくと、 俺達は……微かに見覚えのある家の前に、呆然としながら立っていた。 中井出「………」 ただ一人、何処か寂しそうに歯を噛み締める中井出を除いて。 Next Menu back