───人であること/あらざること───
【ケース481:中井出博光(再々)/意志を持つこと】 提督猫『………』 開けたそこはトイレじゃありませんでした。 アレ?もしやWCの文字はフェイク!? ええもちろんWCじゃなくお手洗いと書いてありましたがね。 執事猫『お?おお提督じゃあねぇかぁ!!』 提督猫『あれ?キミたちなにやってんの?ここトイレだよ?』 白猫 『普通に疑問符浮かべながら言うなよ!』 忍者猫『居間の何処がトイレに見えるでござるか!?』 神魔猫『時間転移が起こったんですよ!多分、中井出さんが“いい”って言ったから!』 黒猫 『提督てめぇこのクズが!俺まだあのばーさまと話したかったのに!     正直羨ましかったぞこの野郎!あげなステキなオバーサマと一緒だったなんて!』 提督猫『そうだろう羨ましいだろうこのカスが!!』 黒猫 『ギ、ギイィイイイーーーーーーッ!!!!』 神魔猫『あ……わたしはおじいさんともっと話したかったです……』 提督猫『え?話したの?ていうか話せたの?』 馬鹿な……彼は滅多に喋るような人ではないのに……! 白猫 『将棋やってる時はまあまあ喋ってくれたぞ?』 提督猫『ア、アー……そういや一人で将棋やってたっけ……』 思い返されるのは、一人将棋を延々と続けるじーさんの姿。 頭の中にいつまでの残っているソレに白猫の姿を当てはめてみると、 なんだかおかしくて笑った。 黒猫 『なに笑ってんだ提督てめぇ!状況解ってんのかこの野郎!!』 白猫 『ここ笑うところじゃねぇだろうがァア!空気読めよテメェエエエエ!!』 提督猫『だからさ!なんで俺怒られてんの!?』 神魔猫『転移したっていうことはもう目前まで“その時”が迫ってるんですよ!?     どうしてそんなにおちゃらけてられるんですか!すぐに助けないと!』 ナギー『?これからなにが起こるのかは知らんが、     ジジとババが危険ならばすぐ行くのじゃ!』 っと、そうだった。 アレが起こったのは何処だったか───なんて思い出すまでもない。 俺はあの出来事を今でも鮮明に思い出せる。 後悔なんてものは、いい思い出よりも頭の中にこびりついてしまうものなのだから。 提督猫『こっちだ。───っと、ナギーはここに残ってくれ』 ナギー『な、何故なのじゃ!?わしも───』 提督猫『大事なことだ。頼む』 ナギー『……む、むう……───解ったのじゃ……』 提督猫『……すまない。急ごう、みんな』 総員猫『応ッ!!』 先頭を切って走る。 アレが起こったのは台所付近。 ボロくなった天井が地震で崩れ、 それから俺を護ろうとしたばーさんが……俺の代わりに潰れた。 そうさ、今でも思い出せる。 痛いくらいの悲しみが、今でさえ気を抜けば嗚咽となって溢れてしまうくらいだ。 提督猫(───藍田、丘野、解ってるな) 執事猫(当たり前、だろ?) 忍者猫(いざとなったら拙者たちに任せるでござる) ───確認は終了だ。 あとは……───ザザァッ!! 提督猫『……ここだ』 神魔猫『ここ……?台所、ですか?』 黒猫 『……でも過去の貴様が居るのみで、ばーさんとかじーさんはおらんよ?』 白猫 『守るべきなのはばーさんだろ?なんでこっちに───』 提督猫『いいから。そろそろだ……』 あれが起こったのはガキだった俺が水飲もうとしてコップを手に取った時だった。 そんな風に思っていると、まるで思い出をなぞるように子供の俺が動き─── コップを手に取ったまさにその時だ。  ゴゴゴゴォオオンッ!!! 総員猫『うぉあっ!?』 来た───強烈な地震……! 忘れもしない、俺の後悔の具現とも呼べる最悪の瞬間……! 黒猫 『おい中井出!これって───!』 白猫 『これが原因なのか!?お前のばーさんが死んだのって!』 神魔猫『───あっ……!おばあさんが!!』 執事猫『───』 忍者猫『………』 ……知らないことはきっとあった筈だった。 俺はずっと、ばーさんは天井が落ちてきたから俺を護ろうとしてたんだと思ってた。 けど、考えてみればそんな筈はない。 天井はメキメキなんて鳴る暇もなく一気に落ちてきたんだ。 いくらばーさんが頑張って走ったからって、そんな天井落下から俺を守れる筈がない。 ばーさんは……そっか。 そうだった……俺、ばーさんに言われてた。 台所の近くはボロがきてるから、 地震がきたりしたらすぐに別のところに行くんだよ、って。 それなのに俺……───はは、馬鹿みてぇ……。 訳も解らず尻餅なんてついてやがる……。  ゴト…… 提督猫『───!』 もう、目は涙に濡れていた。 ここに来て自分のさらなる馬鹿さ加減に心の中で罵倒しながら。 だけどそれも天井から聞こえた“あの音”によって掻き消された。 ……そしてばーさんにも、この音は聞こえたのだ。 だからこそ─── 初芽 「つっ……!ひろみっ……博光ぅうっ!!」 腰が痛いって言ってたのに……そんな痛みも我慢して、 泣きそうな……いや、涙に濡れた顔で必死になって走ってるんだろう。 ……馬鹿だよ、ばーさん。 俺は……ばーさんがあれだけ言ってくれた忠告も守れなかった本当の馬鹿だったのに……。 ばーさんが命張ってまで助けるほどの価値なんてきっとなかった馬鹿野郎なのに……! 黒猫 『おい!中井出!?おい!!』 白猫 『やばいぞ!天井が───!』 神魔猫『中井出さん!?』 提督猫『っ……!!〜〜〜っ……!!』 走りそうになる。 気を抜けば、いや……気をしっかり保とうとすればするほど走りたくなる。 でも……!でも───!! 黒猫 『なにやってんだ馬鹿野郎!!もういい!     俺が助け───《ガシィッ!》っ……!?藍田!?』 執事猫『………』 白猫 『藍田!?なにを───ッチィ!《ガシィッ!》くわっ!?     ……お、おい、丘野……!?なんで……』 忍者猫『……行ってはいかんでござる』 神魔猫『何を考えてるんですか!?このままじゃ───』 執事猫『……どうしても行きたいってんなら』 忍者猫『……俺達を殺してでも乗り越えていけ』 黒猫 『───!?なんだよそりゃあ!人の命がかかってんだぞ!?こんな時に───』 白猫 『みさお!行け!』 神魔猫『はい!おばあさん、すぐに───』 ……ザリッ。 神魔猫『え……───な、なんで……!?』 提督猫『………』 ばーさんを助けようとする彰利を藍田が、晦を丘野が押さえ、 そして……駆け出そうとするみさおちゃんの前に、俺は立ち塞がった。 黒猫 『なんなんだよおい!!今がどんな状況か───』 ……当然の反応なんだろう。 彰利は本気で怒りを感じているようで、 藍田や丘野、そして俺へと怒りを撒き散らさんとする。 けどそんな言葉を聞き流し、俺はゆっくりと“俺”とばーさんが居る台所へと向き直った。 ……もう、手を伸ばしても助けられない状況下にあった、その光景へ。  ドグァアッシャァアアアアンッ!!! 神魔猫『ひっ……!?』 黒猫 『っ……』 白猫 『───』 ……流れる涙は止まらない。 けれど目は閉じず、しっかりとその光景を目に焼き付けた。 歯を食い縛りながら、溢れる嗚咽を噛み締めながら。 ……その時だ。気の所為かもしれないけど、彰利から貰った鎌が鈍く閃いた気がした。 黒猫 『っ……てめぇ!なにやってんだ!お前今自分が何をしたのか解ってんのか!?』 提督猫『………』 けどそれも、確認するより先に彰利に胸倉を掴まれたことで気にする余裕が無くなった。 ……いや、そんなことされなくても確認なんて出来るような心境じゃあなかった。 胸を突き刺すくらいの悲しみが心を支配している。 それでもそんな俺をほうっておいてくれるほど、 今胸倉を掴んでいる彰利は冷静じゃないだろう。 ……彰利の後ろには晦もみさおちゃんも居る。 今にも掴みかからん風情のまま、藍田と丘野以外が俺を睨んでいた。 執事猫『……お前こそなんのつもりだ弦月。手、離せよ』 黒猫 『冗談じゃねぇ!一発殴らねぇと気が済まねぇぞ!?     こいつは───こいつは自分の祖母を見殺しにしたんだぞ!?     助けようとする俺達を止めてまでだ!!』 忍者猫『だからなんだよ。最初に言っといただろ?“意志に任せる”って。     俺達はお前や晦が歴史修正することに口出ししたか?』 白猫 『……どういうことだよ。意志がどうとかの問題か今が……!』 執事猫『問題だよ。……お前らさ、一度頭冷やせ。     確かに中井出のばーさんは今目の前で死んだ。     でもそれは過去で一度起こったことだ。起きるべく起こったことだろうが』 黒猫 『目の前で助けられる命があったんだぞ!?それを───』 提督猫『…………もういい』 黒猫 『……?もういい……?なにがだよ』 胸倉を掴んでいる彰利の手を強引に外し、もう一度かつて我が身に起こった光景を見た。 俺を抱き締めたまま絶命しているばーさん…… そして、ごめんなさいと泣きながら謝り続ける俺を。 提督猫『……お前らは自分の歴史を変えた。俺は変えなかった。ただそれだけだろ?』 黒猫 『いいや違うね!お前は見捨てたんだろうが!自分の祖母を!     救える筈だった命の救助を放棄したんだ!』 提督猫『……ああ、そうだな。でもそれは過去で起きたことだった。     “俺”の時もばーさんは助からず、落ちてくる天井から俺を守って死んだよ』 黒猫 『だったらどうして助けなかったんだよ!     助けたいって……ずっと後悔して苦しんでたんだろ!?     俺はっ……俺はお前が救われるならって……!     俺は!俺は……助けたかったんだよ!だって友達だろ!?     友達の大事な人を救いたいって思ってなにが悪いんだよ!!』 提督猫『っ…………解ってるよ……!     お前が……お前らがそういう意志の下で動こうとしてくれたことくらい……!     藍田だって丘野だって、それを噛み締めながらお前ら止めてくれてた……!     解ってるよそんなこと!!』 黒猫 『じゃあどうして!!』 提督猫『なんで解んねぇんだよ!!そんなことしちまったら!!     俺達はルドラと同じになっちまうじゃねぇか!!』 黒猫 『───……え……?』 白猫 『……、それは……』 提督猫『俺達の目的はなんだ!?ルドラを殺すことなんだろ!?     未来に絶望して、過去を変えちまおうってことをしようとしてるあいつを!     俺達の手で殺しちまおうってことなんだろ!?───じゃあ訊くけどな!     てめぇ勝手で過去を変えようとしてるあいつと今のお前らと何が違う!?     聞いてりゃ過去の自分を救ってきたとか死ぬ筈だった姉を助けるとか!     しかもなんだ!?意志を尊重するとか言っといて     危機が迫れば俺の意思なんてまるで無視じゃねぇか!     俺はお前らみたいに過去を変えたいなんて、     思いはするが実行なんてしたくなかったんだよ!! 黒猫 『………』 だから憎かった。 自分の過去を変えて、 こっちの過去までも変えちまえなんてヘラヘラ笑いながら言ってくるこいつが。 自分は変えてご満悦なのにルドラに対してはそれは間違いだなんて、よくも言えたもんだ。 世界の危機がどうとかの問題じゃない。 そんな意志の弱さで勝てる相手なんかじゃない……そういうことを言いたいんだ。 こんなんじゃたとえこの時代の未来が開けても、また同じことの繰り返しだ。 黒猫 『じゃあ……ルドラがここに俺達を転移させたのは……』 提督猫『最後に俺も同類か調べるためだろうさ!     お前らは好き勝手に過去を変えてるくせに、     いざ自分が変えようとすれば殺しにくる!そんな理不尽があるか!?』 神魔猫『……中井出さんが言ってた、本気で呆れるか怒るかするっていうのは……』 提督猫『ああ……このことだよ……!』 黒猫 『……でも中井出。目の前で救える命があるのに───』 提督猫『───……やめてくれ、彰利……。     そこでお前がそれを言ったら全てが無駄になる……。     お前は目の前で困っている人が居たら全てを助けたいのか?     見ず知らずの相手でも全てを助けたいのか?違うだろ……?     お前までそんなことを続けたら、     守りたいものを守るって意志をやっと捨ててくれた晦が報われないだろ……』 黒猫 『───!……そ、それは……!』 神魔猫『……中井出さんは最初からおばあさんを見捨てるつもりだったんですか?     最初からこうなることを望んで……』 提督猫『“起きた過去は変えられない”。ここは“俺”が居るべき時間軸じゃないし、     本当なら救われるべき軸があってもいいのかもしれない。     でも、それでもここは間違い無く“俺の過去”なんだ。     助けてくれる人なんて誰もいなくて、ばーさんは絶命した。     その悲しみや苦しみがあったから今の俺があって……     この涙の熱さと嗚咽の苦しさがあるから今も泣いてあげることが出来る』 そう。 全ての過去が今の俺を構築してくれたのなら、 どれだけ辛くても目を背けちゃいけないんだ。 だから助けなかった。 助けたいって泣き叫ぶ自分を必死に押し込めて、耐え抜いた。 辛いのは当然だ。 助けたかったんだ……当たり前だ、辛かった。 提督猫『……人間に歴史を変えることなんて出来ないよ。     どんな悲しみも辛さも、噛み締めて前に進んでいくしか出来ないのが人間だ。     “過去なんていつでも救える”なんて思いが意志に混ざっちまったら、     いつか自分は泣けなくなっちまう。辛かった思い出も笑い飛ばしちまう。     そんなのは嫌だから……だから覚えていたい。     辛さは辛さとして、悲しみは悲しみとして、ずっと憶えていたい。     笑い話では笑って、辛い話の時には涙したい。     ……俺は。悲しみを前に涙を流せない自分になんてなりたくないから───』 遠い昔に守りたかった命があった。 でも自分は人間で、それも、なにも出来ないクソガキで、 ただ目の前で絶えてしまった命にごめんなさいと謝ることしか出来なかった。 ……それでも、人を越えたいなんて思わなかった。 思い出しても“助けたかった”と過去形になってしまうそれを、 俺は思い出してやることしか出来ない人間だったけど。 ……そうだ、悲しむことも泣いてあげることも出来るじゃないか。 なにも出来ないわけじゃない。 聞く人が聞けばそれは悲しいだけのことかもしれないけど、 なにも出来ないよりはよっぽどよかった。 だから自分は人であり続けたいと思った。 人であることを望み、いつか涙も流せなくなる人外になどなりたくないと。 力を得た者は対価としてなにかを置いてきてしまう。 それが、力に溺れて悲しみを前に涙を流せなくなることだとするのなら、 人の外などに辿り着きたくないのだと。 ───そんな自分の中の“本当の芯”を、涙を拭うとともに確かめた……その時だった。 白猫 『中井出……俺は──《ザワリ……》──!?彰利!』 黒猫 『ああ!強烈な時空の歪みを感じる!なにかがやべぇぞ!!』 なにかがその場で起ころうとしていた。 そんな空気が確かに溢れた時、俺と藍田と丘野は訳も解らないまま、 騒ぎ出す晦や弦月を見ていた。 みさおちゃんもなにかを感じ取ったのか、焦りを表情に表しているが─── 猛者猫『?』 やっぱり我ら猛者にはなにがなんだか。 状況に置いていかれると、せっかくのシリアス空間もどっか行っちゃうね……。 とか思っている間に───ヴィジュンッ!! 彰利 「うおゎっ!?」 悠介 「これは……!?」 ……突然だ。 見えていた景色が真っ黒になると、 気づけば俺達は元の姿のままに全てが闇の世界に立っていた。 彰利       「……いやな気配がする……来るぞ」 中井出      「え?誰が?」 彰利       「なにきょとんとして顔で本気で疑問抱いてんの!?           この状況で来るって言ったら一人しか居ないでしょォオ!?」 中井出&藍田&丘野『長州か!!』 悠介       「んなわけあるかぁっ!!」 みさお      「ルドラですよ!どうしてそこで長州って断言出来るんですか!!」 どうしてって……ほら。 こういう状況が来たら、ここでしか出来ないことをしたくなるのは人のサガでしょう。 他の誰が違かろうが俺はそうだ。 そして見事に藍田と丘野くんも同志であった。 そんなことに喜んでいると、闇の虚空からズズズと現れる存在が一人……ルドラだ。 ルドラ『……全て見させてもらった。つくづく愚かしいな』 彰利 「いえあのー、カッコよく出てきてもらって悪いんですけど、     中井出の所為で緊張感無くなっちゃって……     もう一回最初からやってもらえません?」 ルドラ『………』 中井出「な、なんだよう!睨んだって怖くないぞ!?」 みさお「足震えてますよ?」 中井出「最先端のダンスなんだよ!!」 悠介 「……ほんと緊張感のカケラもない……」 藍田 「それでえーと、ルドラだっけ。なんの用?」 丘野 「拙者たちちと忙しいからあとにしてくれないでござるか?」 ルドラ『………』 あ。頭抱えた。 やっぱ姿変わっても晦ベースだなー。 ルドラ『い、いや……用は、ある』 丘野 「おおそうなんでござるか。何用でござる?」 ルドラ『……つくづく愚かしい、と言ったのだ。     貴様らがここに至るまで行った行動の数々が』 中井出「ヤベェエエエエ!!そういややまふじのツケ返してなかったァアア!!」 彰利 「うぅわそりゃ確かに愚かしいわ!!」 悠介 「提督てめぇ!このクズが!!」 中井出「てめぇらだってツケ状態じゃねぇか!俺だけ悪いみたいに言うなクズが!!」 ルドラ『いや……そうではなくてだな……』 中井出「え?代わりに払ってくれるの?」 藍田 「いやそりゃ悪ぃよ提督……でも許されるんならカルボーンも欲しいかも」 丘野 「結局買ってないでござるしね」 ルドラ『───……』 ラスボスが目の前で途方に暮れていた。 ラスボスだろうが混乱可能。それが僕らの原ソウル。 ルドラ『……もういい。貴様らには口だけで言っても無駄のようだ』 総員 『当たり前だ!見縊るな!!』 ルドラ『…………《ミチミチミチ……!!》』 ラスボスの表情が般若になった。 無言だけど物凄い殺気だ……! しかしながらラスボスをからかうのは案外面白い。 なにせ時が来るまでは戦わないと言っていたらしいからからかい放題! 破ったら所詮そこまでのちっちぇぇええ男だったってことだしね? ルドラ『……これがなんだか解るな?』 ───だが。そうやってルドラをからかうのもここまでだった。 ザッと翻したルドラの手にあったのは……気絶しているらしいナギーだった───!! 中井出「ナギーじゃん」 彰利 「おお、ナギ子だね。それがどうしたん?」 藍田 「バッカ、こりゃクイズなんだよ。     これがなんだか解るなって訊いてきたんだから、正解者にはなにかをくれるんだ」 丘野 「フルネームは確かニーヴィレイ=アレイシアス=ドリアードでござったな。     正解でござろう!さあ商品をよこすでござる!!」 ルドラ『………』 みさお「あの……ルドラさん?     この人達と真面目に話出来るなんて思ってたなら、     それは大きすぎる間違いですよ?     それにナギさんを人質に取られたからって     真面目に返すと思ってたとしてらそれも間違いです」 彰利 「ブホッシュ、ラスボスがみさおさんに諭されてるぜダッセェエエ」 藍田 「おいおい悪ぃよ、本当のこととはいえ」 丘野 「つーか結局なにしに来たでござる!?さっさと言うでござる!!」 ルドラ『……過去の行いのことだ。貴様らは結局私利私欲でしか動けない。     私と同じく自分が気に入らなければ過去を───』 彰利 「ああその話なら中井出にされて猛省したからもういいや」 ルドラ『………』 中井出「い、いや、だからね?俺睨んでもなんも解決しないよ?」 だからそんなに熱烈な目で……というか睨みで人を殺せそうな目で見つめないで。 中井出「あっとそうだ、貴様に言っておきたいことがあったんだった」 ルドラ『……なんだ』 中井出「後悔する前にどうして救うのをやめなかったんだ?     元はと言やぁお前がそれをしなけりゃ全て丸く収まってただろ」 ルドラ『救わなければ滅んだ。今思えば滅ぶべきだっただろうが、     仲間に“家族を頼む”と言われたのだ。“俺”にとってはそれが糧だった』 中井出「全員、自分の意思を殺してまで救うことなんざ望んじゃいなかっただろうさ。     今ので確信したわ、結局お前は自分の意思が弱すぎたんだ。     守ることなんてやめちまえばよかった。     助けてって言われようが、“うん、それ無理”って、     どこぞの情報統合思念体バックアップみたいに言えばよかったんだ」 ルドラ『それでは仲間の意志が救われないと思った。それの何が悪だ』 中井出「お前の意志はお前のものだろ。     そこで自分の意思を以って断らなかったお前が悪い。     つーか一人でも止めようとしなかったのか?お前の時代の俺達ゃそこまで下郎か」 ルドラ『───、』 ……息を飲んだ。 目の前のラスボスは静かに息を飲み、 しかしなにかを吹っ切るようにナギーを藍田に向けて放ると、 ゆっくりと俺を見据えて口を開いた。 ルドラ『……いや。一人だけ……たった一人だけ止めてくれた者が居た』 中井出「じゃあ一方的にお前が悪いんじゃあねぇかァアア!!     なに!?止めてくれた人が居たのに無視ったの!?ヒッデェエ!!……で、誰?」 ルドラ『…………』 中井出「?」 感情の篭らない冷たい目が俺の目を見た。 あれ?もしかして殺される? なんてことを冷静に思っていたんだが─── ルドラ『中井出博光、“俺”とともに来い。     そうすれば、たとえ全てを破壊しようが貴様は生かすと約束する』 中井出「よろしく新世界」 総員 『なんだってぇえーーーーーっ!!?』 差し出された手をキュムと握り返した。 そして対峙する。 ルドラにではなく、彰利たちに。 彰利 「あっ……あっさり裏切ンなぁあーーーーっ!!」 悠介 「状況ってモン考えろってなんべん言えば学習すんだ空気読めよテメェエエ!!」 藍田 「人として恥ずかしくねぇのかテメェエエ!!」 そして言われたい放題の僕。 だが耐えたね!つーか聞こえません。 耳を塞いで聞こえないフリをしてツ〜ンとそっぽ向きました。 彰利 「ぬおおおこのクズがぁあ!!」 何を言われても知らんもんは知らん。 僕はもう世界征服軍の仲間なのさ。 その証拠にルドラの三歩後ろ程度の場所に立ち、完全な仲間スタイルも完璧。 悠介 「……はぁ。中井出を引き入れたってことは……お前を止めたってヤツは中井出か」 ルドラ『そうだ。こいつだけが俺に“守るな”と言い、     “やめろ”とも言《ドグオシャァアアッ!!》ぐぉおーーーーっ!!?』 中井出「カーフ……ブランディング!!」 総員 『あっさり裏切ったぁあーーーーっ!!』 ありがとう青春。 隙だらけのラスボスに見事カーフブランディングを決めてやりました。 彰利 「馬鹿だなぁ……中井出に背ェ向けたまま気ィ抜いてタダで済むわけねぇべよ……」 藍田 「馬鹿だなぁ……中井出が仲間になった程度で安心出来る相手なわけねぇだろ……」 丘野 「馬鹿だなぁ……中井出が目の前の硬苦しい状況をほうっておくわけねぇだろ……」 そしてヒドイ言われようだった。 ルドラ『貴様……』 中井出「今はお帰り。このクズどもには俺からきっちり言っとくからさ。     時ってやつが来るまでこれ以上の邂逅は無しにしようぜ?     それにどの道この現状じゃあまともな話になんかなんないって」 総員 『主に貴様の所為で』 中井出「任せてくれたまえ」 ラスボスを前に常識破壊……一度やってみたかった。 それが叶った今、どうやっても緊迫感など戻ってきやしないだろう。 よっぽどのことが無い限りね。 中井出「だからここはお互い引こうや。俺達は過去に行った。     こいつらは好き勝手に歴史も変えちまったけど───晦には必要なことだったし、     それに晦に得るものがあったんなら、貴様にもあったんじゃないか?」 ルドラ『………』 中井出「だから今はここまでにしよう。俺としては全部をここまでにしたいけど、     貴様にも譲れないものがあるんだろ?」 ルドラ『その通りだ。今さら取り消すことなど出来ない』 中井出「おお。我らもだ。だったら時が来るまでは余計な遣り取りも無しだろ」 彰利 「おお……中井出がまともなこと言ってる」 中井出「言っちゃダメなの!?いいでしょほんとに思ってることなんだからァア!!     そういうことは思ってても口に出して言うんじゃないのォ!!     アンタはもうホント人のアゲ足ばっかりとってェエエ!!」 丘野 「これで足が震えてなけりゃあなぁ……」 中井出「ダンスだって言ってんだからいちいちツッコむんじゃないのォ!!     アンタはもうホント人のアゲ足ばっかりとってェエエ!!」 彰利 「ダンスしながら真面目な話って相手にとって失礼だと思うな、僕」 中井出「ダンスしてても真面目なんだから別にいいでしょォ!?     アンタはもうホント人のアゲ足ばっかりとってェエエ!!」 藍田 「つーか一歩も動かず足だけ震わせるのってダンスって言えねーだろオイ」 中井出「やってる人がダンスって言ったらたとえうどん食っててもダンスなんだよ!!     そんなことも知らないのかいまったく     アンタはもうホント人のアゲ足ばっかりとってェエエ!!」 彰利 「しつけーな!何回同じこと言うんだよ!!」 中井出「大きい声出すんじゃないのォ!!     アンタはもうホント人のアゲ足ばっかりとってェエエ!!」 みさお「い、いえあの……アゲ足とかはもういいですからルドラさんの話を……」 中井出「なァアに言ってんのアンタそんな巫女服つけてェエ!!」 みさお「いえあのここで巫女装束の話は関係ないですから」 中井出「口答えするんじゃないのォ!!     アンタはもうホント人のアゲ足ばっかりとってェエエ!!」 悠介 「ていうか……おーい……ルドラ帰っちまったぞー……?」 総員 『オラたちのパワーが勝ったァアーーーーッ!!!』 ハワァアーーーーッ!! 僕たちの勝利だ!僕たちは勝ったのだ!! 姿を消したルドラに、いつの間に転移させられていたのか蒼空院邸の庭に居た僕ら! そのどれもが僕らに勝利を教えてくれた!! 悠介 「…………なぁ娘よ。一瞬、ルドラが不憫でならなくなった俺ってヤバイか?」 みさお「…………なんとなく解りますよ……その気持ち……」 こうして僕らの長くも無い旅は終わりました。 結局のところ得るものがあったのかどうかは、ほんとのところは解りません。 でも晦は以前より確実に明るくなったし、 彰利も思うところがあったのか少し雄度が増しております。 みさおちゃんも自分の手を見下ろしたのちに一度頷いて、 吹っ切れたような顔で晦とともにやがては笑いだしました。 で……あの問答以来、俺達の関係がギスギスした状態になったかといえば─── みさお「そういえば彰衛門さんたち、喧嘩したんですよね。それがどうして今は───」 中井出「みさおちゃん。喧嘩したあとの嫌な空気、好きか?」 みさお「好きな人は居ないと思いますけど」 中井出「俺も嫌いさ!だからいいじゃないか、     俺なんぞの言葉からでもなにかしら得るものがあったならそれだけで十分だ」 彰利 「オウヨ。我らは楽しみを追求する猛者。     なのに怒りでその瞬間を逃すのはもったいない。     あたしゃ言われて当然のことをしたんだし、     むしろ気づかせてくれてセンキューってヤツだ」 悠介 「さすがにこればっかりは謝るしかないな……思慮が足りなかった、悪い」 みさお「そう……ですね。あまりに身勝手すぎました。すいませんでした」 中井出「ははははは」 藍田 「そいでさー」 彰利 「聞けてめぇ!!」 悠介 「ナチュラルに無視してんじゃねぇクズが!!」 みさお「人の謝罪の気持ちをなんだと思ってるんですか!!」 中井出「改めて謝られるまでもねー!裏切られない限り俺は大抵のものを許すさ!!」 彰利 「ごめんよ中井出……中学ン時、     お前が大切にしてたサボテン折ったの……実は俺なんだ」 中井出「死ねぇええええええええっ!!!!!」 彰利 「え゙ぇえええええええっ!!?」 シュゴザギャァアッキィインッ!! 彰利 「ホギャアォア!?」 即座に双剣を解放して襲い掛かる!! オォオオ貴様か!貴様が俺のオボベバーニョさん(サボテンの名前)をォオオオオ!! 彰利 「アレェちょっと!?裏切らない限り許してくれるんじゃなかったの!?」 中井出「うるせェエエエ!!よくもオボベバーニョさんを!!     ある日突然胴体が斜めに真っ二つだった     オボベバーニョさんを発見した俺の気持ちが貴様に解るかァア!!」 彰利 「いや大丈夫だって、ちゃんと接着したし。ご飯粒で」 中井出「植物接着しようとする意気自体が間違ってることにまず気づけテメェエエ!!!     それからご飯粒は接着剤じゃあねぇからァア!!     いつの頃からかハエがたかってたオボベバーニョさんに疑問を抱いた俺が、     どんな思いでオボベバーニョさんに触れて絶叫したと思ってる!!」 彰利 「知らん!」 中井出「当然の返答ありがとう!そしてさようなら!とこしえに!!」 彰利 「ここで安らかに眠るのは貴様らじゃーーーっ!!」 悠介 「や、どうして複数系なんだよ」 藍田 「野郎め、きっと俺達まで亡き者にしようとしてるに違いねぇ!!」 丘野 「なにぃそれは許せんでござるな!」 中井出「じゃあ置いていかれてご立腹であろう篠瀬さんにご登場願いましょうか。     きっともう風の精霊から専用武器貰って、とっても強くなってるぜ?」 彰利 「いやぁああああやめてぇえええええ!!それだけはやめてぇえええええ!!!」 みさお「あの……もう手遅れです」 彰利 「エ?」 ゾワァッ!! 総員 『殺気!?ってギャアーーーーッ!!』 夜華 「………《む〜〜〜〜ん》」 サブタイ:振り向けばそこに。 殺気を感じて振り向いてみれば、なんとそこには仁王立ちして彰利を睨む篠瀬さんが!! い、いかん……!なにかがヤバイッッ!! 中井出「あ、すまん。俺ジャンプ買いに行ってくる」 藍田 「おぉっとそういや俺夏子とジャンプ買いに行く約束してたんだっけ」 丘野 「拙者は提督殿とジャンプを買いに行く約束が……」 悠介 「あ、俺ルナとジャンプ買いに行く約束してたんだよ忘れてた」 みさお「わ、わたしも父さま母さまとジャンプを……」 彰利 「ゲゲェみんな薄情者!つーかなんでみんなジャンプなの!?」 中井出「いやぁ……そろそろ卒業しなきゃとは思うんだけどね?」 彰利 「てめェェエエエ!!     ずっと空界に居たからジャンプなんて読んでなかっただろうがァア!!」 中井出「いやそれがさ、豆ボーヤがごっそり持ってて、     それを見たらかつての情熱が蘇ってさ。     あそこまで揃ってると単行本いらねーよ。     T樫先生の休載記録が未だ更新中だったのには驚いた。     というわけで早く買いに行こう」 藍田 「ああ……T樫先生すげぇよな。というわけで早く買いに行こう」 丘野 「実にT樫先生はすげぇでござる。というわけで早く買いに行こう」 悠介 「T樫先生は生きる伝説だな。というわけで早く買いに行こう」 みさお「T樫先生くらいですよ、打ち切りくらわないの。というわけで早く買いに行こう」 彰利 「アレェ待ってちょっと待ってぇ!僕だけ置いていくの!?     つーかみさおさん!?なんでキミまで買いに行こうって!?     買いに行きましょうじゃないの!?あ、あ、待って夜華さん!     僕別にキミをほったらかしにしてたわけじゃないよ!?     大体キミを気絶させたのゼットでしょ!?僕悪くないもん!!」 夜華 「いい機会だ……!精霊より授かり合成されしこの翔風斬魔刀(はばのかざまのかたな)……!     貴様の身で試してくれる!!」 彰利 「ゲゲェなんかグレードアップしてるぅうーーーーっ!!     待ってェ僕のキミたちぃい!!こんな時こそ団結を───」 総員 『誰だって自分が一番可愛いのさ……アンタだってそうだろ?』 彰利 「ウギャア一番聞きたくなかった言葉がここにぃい!!イヤァアアアアッ!!!」 僕らは別に買うつもりもないジャンプを求め、一路書店かコンビニへと旅立った。 ……全然一路じゃねぇなぁ……。 そんなことを思っていると、僕らの背中へと届く彰利の絶叫。 ソレを風を浴びるがごとく無言で受け流しながら、僕たちはただ思った。 強く生きろよ、彰利……と。 中井出「あ。藍田二等。ナギー俺が背負うよ」 藍田 「おっとすまねぇ提督」 悠介 「さて、これからどうするかな……」 みさお「せっかくの休憩なんですから休むべきですよ」 中井出「そだなー……っと」 藍田二等から受け取ったナギーをしっかりと背中にセットイン。 しかし腕に足を抱えようとした時、腰に括りつけていた鎌がガチャリと邪魔をした。 背中に背負わないのは何故?と訊かれたら、 一度やってみたかったからとしか言いようがない。 デカい武器だからって背中にばっかりつけるのも……ねぇ? ……と、そこまで考えて、 ふとばーさんの最後の時にこの鎌が光ったような気がしたのを思い出した。 中井出「……ふむ」 私服に大鎌……実にミスマッチだ。 だが合うかどうかなんぞ俺が決めることで、 ファッションがどうとかなどそもそもどうでも良し。 ともあれ俺は背中に乗せていたナギーを左腕に抱えるように持ち、 鎌を右手に取って見た。 悠介 「……?どした?」 中井出「ん……いや。この鎌について何か聞いてないか?」 悠介 「その鎌か……ブリーチで言うところの浅打。     名前もつけられてない斬魄刀みたいなもんだそうだ。     鎌の初期解放……始解はもちろん、卍解も不可能な鎌だそうだ」 中井出「おお、それはなんとなく騙された時に理解出来てたけどさ。     これって彰利が黒で作ったとかそんなんじゃないんだろ?」 悠介 「あ……ああ。そう言えば人の魂を集合させて作られてるとか言ってた。     って言っても集合された魂には生前の記憶なんて無いらしくて、     しかも死神や家系のやつらの魂と違って生前特種な力も無かったわけだから、     その魂から出来た鎌にも特に能力らしい能力も無いんだそうだ。     超下級死神が持つ鎌は大体がその浅打で、     戦をする死神らが持つ鎌は家系のやつらの魂や死神自身が糧になってるそうだ。     その鎌が誰の魂から作られたのかは知らないが───」 中井出「………」 妙な確信があった……としか言いようが無い。 この鎌でのみ満足……とまではいかないが、詠みやすい武器の意志。 そして俺以外。死神王である彰利にさえ扱うことなど出来ないと断言させるこの鎌。 どうしてか手に馴染み心に染み込むこの鎌は…… 中井出「この鎌って彰利がどっかから持ってきたのか?」 悠介 「質問ばっかりだな……。知りたがり屋は早死にするんじゃなかったのか?     ……ま、いいか。俺が言えた義理じゃないしお前には借りもある。     そうだよ。彰利が自分のラインゲート……つまり、     この時間軸の冥界から無理矢理引っ張ってきたものだ。     引きずり出したのは過去の時代でだけどな」 中井出「………」 じゃあ……やっぱりこの鎌は……そういうことなのか。 因果ってやつはあるのかな、まったく。 みさお「……どうかしたんですか?ヘンですよ?本当に」 中井出「いーや、なんでもない」 これが偶然だろうが必然だろうが、 シェイドの遊び心が生んだ状況なのか真剣な心が生んだ状況なのか。 そんなことはどうだっていい。 でも確かに……“思い出はここにある”。 中井出(人の魂から鎌を作るか……     人の魂をなんだと思ってやがるとか普通は言うんだろうけど。     俺は、今なら感謝出来るかな……) 既に人としての意志なんて残ってないだろう。 それでも意志を読み込もうとすればするほど流れてくるこの暖かさは、 きっと俺にしか感じられない絆の表れなんだろう。  ……俺の“家族”がここに居る。 そのあまりに出来すぎた偶然を思えば、 やっぱりあの暇死神の仕業なんだろうって納得するものはあるけど─── いいよな、そんなことは。 どんな事実があろうが、今俺はこうして喜んでるんだから。 せっかく開花出来た“唯一の特技”ってやつも、俺は満足に扱えなかった。 でも……この鎌と一緒なら、 なんの取り得も無かった俺でも……少しは前進出来るんだろうから。 武器と合成させるなんてヒドイことしちまうけど、どうか許してほしい。 今俺達に必要な力がきっとそこにあるから。  だから───親父、お袋、じーさん、ばーさん……  どうかあなたたちの魂を武器として振るうことを、許してほしい─── ───……キィンッ 中井出「あ……」 藍田 「んあ?どしたー提督」 中井出「……あ、いや……なんでもない」 藍田 「そか?」 ……鎌が小さく煌いた。 手に持つ鎌から、読み込もうとしたわけでもないのに流れ出た意志とともに。 人であった頃の記憶なんてきっと無いだろうに……どうしてこの人たちは……。 みさお「……中井出さん……泣いてるんですか?」 中井出「う、うむ……!彰利一等兵の勇気ある犠牲に、せめて涙を……!」 悠介 「鼻毛でも抜いたのかと思った」 中井出「いっ……いきなりなんと失礼な!!」 どうしてだろう。 あれほど心の中に存在していた“ごめんなさい”が、今……“ありがとう”に変わった。 流す涙も冷たいばかりではなく、心やすらぐ暖かさえ感じられた。 でも───俺はそれを素直に全部受け入れられるほど素直じゃなかったらしい。 ごめんなさいの全てがありがとうに変わることを許さなかった俺は、 ごめんなさいもありがとうも心に溢れさせたまま、 冷たさと暖かさが混じる涙を拭って、誰にともなく笑ってみせた。 ……辛い思い出が笑い話になるのは悲しすぎる。 でも、冷たい涙しか流せないのは……暖かかった思い出さえも冷たくしてしまうものだ。 だから……冷たい涙も暖かい涙も流せる自分になろう。 悲しみだけじゃない。楽しかった思い出も、きちんと笑みながら思い出せるように。 丘野 「うおっ!?提督がなにやら笑ってるでござる!」 藍田 「きっとナギ助を抱く腕に伝わる     ささやかなヒップの感触に酔いしれてるんだぜ……!」 悠介 「すげぇ……さすが提督だぜ」 中井出「違ェエエってのォオ!奥歯にもやし詰めてガタガタ言わすぞこの野郎ォオ!!」 みさお「どんな脅しですかそれは」 こうして……過去との対峙は決着を見せた。 って言っても晦の中でなにかしらのふんぎりはついたのかなんてのは俺は知らない。 でもこうして笑ってられるってことは、確かな“得るもの”はあったんだと思う。 そんなことも確かめないうちにルドラに偉そうなこと言っちまったが─── 所詮この世はなるようにしかならんのを、 それぞれが抗うか受け入れるかしか選択出来ない世界なんだよな。 ……俺は、貴様の敵であることを選ばせてもらうよ。 とことんまで抗わせてもらう。 それがきっと、お前の本気に対する最高のもてなしだと思うから。 だからまあ……次会う時までには多少は使えるようになっておきたいと思います。 心だけは前向きですよ?ヤバくなったら逃げ《メキキィ……》……ウ、ウン僕逃ゲナイヨ? 中井出(ウウ……狂いし者の所為で逃げられなくなったのが一番辛いよなぁ……) だが諦めない!それが俺達に出来る唯一の戦い方なんだよ!! 僕は強く生きていきます。 そうすりゃいつか、多少は貴様の思いも受け止められるくらいにはなれるだろうからさ。 せいぜい死なんように気をつけよう。 そして受け止めつつ……隙があればブチコロがす! 逆にコロがされたらどなたか僕が沈んだ大地の上にクチナシの花でも植えてください。 そしたら僕の亡骸が全力を以ってクチナシを立派に育てることでしょう。 ……なんの話してたんだっけ?じゃなくてどんな考え事してたんだっけ。 まあいいや、とりあえずジャンプでもピピンッ♪ 中井出「ウオッ!?」 彰利 「ど、どうした中井出!!」 中井出「うおぉっ!?何故当然のように居る貴様!」 彰利 「え?いやぁ、夜華さんが斬ってるのは僕の擬態さ。ホレ、戸愚呂兄のように」 突然のナビメールにも驚いたが、 地面から生えてるかつての級友にも驚いた……こんにちわ、中井出博光です。 中井出「まあいいや、彰利は無視するとしてメールを……っと、麻衣香からだ」 藍田 「綾瀬?なんだって?」 中井出「んー……いや、なんでもさ。     櫻子さん直々のお願いがあるらしいから家に戻ってきてくれって」 悠介 「っと、そりゃすぐに戻らないとな」 彰利 「せやね、家主さまやし。俺関係ねーけど」 悠介 「じゃあ出掛けの用でもお前は留守番な」 彰利 「あ、うそ、ウソです。僕も連れてってくださいお願いします」 丘野 「何用でござろうな?」 藍田 「きっとアレだぜ?知り合いの孤児院の子に真夏のクリスマスを齎したいんだけど、     サンタ役をやってくれるヤツが居ないからやってくれない?とか」 彰利 「ものすげぇ飛んだ発想じゃねぇ……なに?天地無用?」 悠介 「真夏のイヴねぇ……さすがにそりゃ無いだろ」 みさお「大体櫻子さんの知り合いに孤児院なんて………………ありましたね」 彰利 「じゃけんど毎年そげなことなぞしてなかった筈じゃよ?」 だからきっとあそこじゃあねぇ上にイヴなんて関係ねィェと続ける彰利。 そんな彼を先頭に僕らはトボトボと蒼空院邸に戻り─── 櫻子 「実はね?わたしの知り合いにシズノっていう、     孤児院をやっている人が居るんだけど。     そのシズノさんが真夏のイヴと称して、     親の居ない子たちにプレゼントを贈りたいって言うの。     悪いんだけど……一日だけサンタになってくれないかしら」 総員 『………』 ハツラツと喋る櫻子さんを前に、 見事な予言をしてくれた藍田くんに静かな拍手を贈ったのでした。 Next Menu back