───神魔竜さんさようなら/精霊になっちまったアイツ───
【ケース44:晦悠介/調和乱れる時】 ───そうして、空界から地界の自室へと戻ってきた俺たち───だったが。 悠介  「………」 イセリア「………」 提督と丘野は未だ気絶したままで、さらに言えば介抱もされていなかった。 恐らくみんな、眠くなったからさっさと寝たんだろう。 良く寝、良く食べ、良く遊び、良くからかうがモットーである原中らしいといえばらしい。 しかし戻って来た自室に気絶者が並んで転がってると不気味なんだが……。 オリジン『マスター。すぐ始めるのか?』 軽い呆れに襲われていた時、オリジンの言葉に思考をハッキリさせた。 こんなんじゃダメだな。最近怠けてる気がする。 まあしょうがない。毎日がそれだけ楽しい証拠だ。 悠介  「ん、始めよう。───っと、      その前にノートとオリジンに俺の中のイメージ渡すから、      それぞれいろんな箇所を創って、出来たイメージを融合させる方向でいこう」 ノート 『ああ、了解した』 悠介  「オリジン、イメージとかの行使は出来るか?」 オリジン『あまり低く見てくれるなマスター。私は狭界の“世界の精霊”だぞ。      スピリットオブノートとは異なる方向性だが、      精霊としての能力はそう変わらぬ』 悠介  「そっか、解った。それじゃあ開始しようか」 いざ、と精霊全員で頷く。 イセリア「その前に悠ちゃん?寝なくて大丈夫?」 いや、頷いた途端にイセリアから睡眠への誘いが齎された。 返答はもちろん─── 悠介  「睡眠は陽があるうちに十分とったから大丈夫だ。イセリアはどうだ?」 イセリア「わたし?うん、わたしは全然平気。眠気は全然無いし」 悠介  「そっか。じゃあみんな、よろしく頼む」 精霊たち『Yes,MyMaster』 ノートとオリジンにイメージを渡しつつ放った言葉に、それぞれが笑みを浮かべて頷く。 もちろんイドは笑みというか、ニヤリ……って感じだったけど。 そうして俺たちはゲーム製作へと─── オリジン『───うん?マスター、ヤムベリングは呼ばないのか?』 イセリア「天に召されたそうだから来られないらしいよ?」 悠介  「いきなり豪快な嘘つくのはやめような、イセリア。      ベリーは彰利の家のほうに行ってるからな。      転移すればすぐだけど、全員が全員寝てたら迷惑だろ」 ディー 『イドの時のように空間から引きずりだせばいいのでは?』 悠介  「ばっ、ばかっ!もし着替え中とか湯浴み中だったらどうするっ!!」 精霊たち『………』 悠介  「あ……いや……ごほん」 イセリア「悠ちゃん、顔が紅蓮の炎のように」 悠介  「うるさいって!!」 ノート 『やれやれだ。反応がまるで子供だな』 悠介  「ほっといてくれ……」 想定しても言うべきことじゃないことって随分あるよな。 神様……俺は本当に馬鹿なんでしょうか……。 ノート 『マスター、汝はもう少し自分の力の範疇を見極めるべきだ。      戦闘においての応用は随分とあるが、普段の応用に思いつきが足りない』 悠介  「……千里眼で未来視しながら空間干渉を行使しろって言うんだろ……?      そんなのもう想定済みで実行前の方法だよ……」 ノート 『そこまで解ってるなら何故行使しない?』 悠介  「そ、それこそ千里眼で視た未来が      湯浴み中のベリーを空間から引きずり出す未来だったらどうするんだよっ!」 イセリア「指差して馬鹿にしてあげれば?」 悠介  「それが出来るのはお前くらいなもんだ……」 なんか今、イセリアに対しての『俺の良き理解者』って認識を改めたくなった。 悠介  「はぁ……とにかく。ベリーを連れてくる案は却下しよう。      イセリアもベリーと一緒じゃ集中できないだろうし」 イセリア「激烈賛成絵巻。悠ちゃん話が解るね」 オリジン『やれやれ……まあ、      スピリットオブノートがこのマスターに入れ込む気持ちも解らんでもないな』 ノート 『そうだろう?こんな純心で面白いマスターはそう居ない』 悠介  「オリジン、ノート、そういう話はもうちょっと小さな声でしような……」 やっぱり頭を痛める俺だった。 ───……。 ……。 さて。それからどうなったかというと─── ノーム『こうかー?』 ノート『いや。もう少し大きくしてもいい。この山にボスクラスのモンスターを配置する。     登るのが面倒と思うか思わないか程度のギリギリの高さにするんだ』 ノーム『ひねくれてるなー、ムッチー』 ノート『誰がムッチーだ』 ノーム『無の精霊だからムッチーだー』 ノート『汝な……』 虚空に浮かべた博光の野望オンラインの全体図を縮小したものに、 次々といろんな要素を加えていっていた。 なんだかんだ言って精霊全員ノリ気で、それなりに賑やかな場が設けられていた。 空界の石頭どもが見たら目を疑うことだろう。 全精霊が集まってなにをしているのかといえば、和気藹々とゲームを創っているのだから。 イド  『ここだ。この宝箱にデストラップを……』 オリジン『……イドよ。これで何個目のデストラップだ?』 イド  『何個だろうが構わない……やれ』 もちろんイドも楽しみつつ、あらゆる場面に死を配置し、 既にひとつのダンジョンを死がてんこもりの絶望ハウスへと変えていた。 セルシウス 『ではここは完全に雪原地帯にしていいわけですね?』 イセリア  「ん、いいらしいよ。氷河でも氷山でも思いつく限り改変してくれ、だって」 サラマンダー『火山は外せんな……セルシウスの領域とは真逆の位置がいい』 セルシウス 『活火山に対抗して、ブリザードを吐き出す活氷山を創るのはどうでしょう』 イセリア  「……冒険者たちが死なない程度にお願いね」 ドリアード 『花舞う都などもいいですね』 ネレイド  『無限と花舞う桜色の街……美しそうです』 イセリア  「掃除とか大変そうじゃない?」 シルフ   『ならばその花を飛ばす風を創るために、傍に風の谷を……』 イセリア  「飛んでった花は何処に行くのかなぁ……」 ニーディア 『傍に雷の洞穴を作り、そこに花が贈られるようにすればいい。        飛んできた花は我の雷で全て無に帰す』 ウンディーネ『潤いならわたしが湖の街を作りましょう』 イセリア  「あー……あのさ。そんなに一箇所に精霊が集まっててどうするの?」 精霊    『あ……』 他の精霊たちもいつの間にか楽しむことを優先するあまり、 ゲームのバランスを忘れた提案をしてしまうようになった。 みんなあれで、結構楽しんでくれてるらしい。 悠介  「ウィル、シェイド、そっちはどうだ?」 ウィル 『マスター!美しき光の街を作りました!』 シェイド『こっちは常闇の街を作った』 悠介  「……全員自分の領土のことしか考えてないのな」 でも楽しむのが第一ということで、いいか。 ゼクンドゥスは……ああ、やっぱり時の回廊作ってる。 一言で言えばそう───テイルズオブファンタジアのラストダンジョンみたいな。 悠介  「けど、ノートとオリジンの言った通りだったな。      思考反映システムにしたほうが楽に創れる」 イセリア「そうだね。言われた時はなんのこっちゃー、って感じだったけど」 思考反映システムっていうのは、 虚空にイメージを展開したあたりにオリジンとノートに提案されたものだ。 虚空に浮かべたイメージに、それぞれが固く思考した建物や魔物が創造されるもの。 そうなるように展開された、いわば“虚空に浮かぶ創造の羅列”だ。 賢者の石を使って見る羅列の景色がそこに圧縮されていると考えれば早い。 イメージを組み立ててそれを完成させれば、 そこにはきちんと建物が出来るというスグレモノだ。 もちろんイメージが半端な場合は、ノートかオリジンか俺が手伝って完成に導くわけだが。 イセリア「この調子だと案外すぐに終わりそうね」 ノート 『なにを言っている。外面を固めたら中身を。      中身を固めたら全体を煮詰める必要がある。まだまだ先は長いぞ』 イセリア「……何気にハマってる?」 ノート 『やるからには半端は無しだ。マスターとの付き合いがあるのなら、      そのマスターとともにある存在の性格面も解りそうなものだろう?』 イセリア「それもそっか、うん」 こくこくと頷くイセリア。 なんだかんだで精霊の存在に慣れていってるよな、みんな。 最初こそは驚いたもんだけど。 悠介 「………」 それとはべつに、召喚獣になれてたりもするわけだが。 丘野 「うう……寒い……寒いよママン……」 中井出「網走の夜は寒かった……」 丘野と提督は相変わらず気絶中だ。 しかしその横にフェンリルが寝転がってるもんだから、 ガタガタと震えながら妙な言葉を放ってる。 オリジン『ふむ……マスター』 悠介  「んあ……オリジン?どうした?」 オリジン『マスター、お前はどうもまだ諸力行使にムラがある。      もっと集中して行使することは出来ないのか?』 悠介  「え───そうか?これでも随分練習したんだが」 オリジン『混ざりが強いからか?いっそのこと精霊固体となってみればどうだ』 悠介  「精霊固体って……神魔竜の力を度外して精霊のみになれってことか?」 オリジン『その通りだ。奇跡の魔法の力で本来乱れるのみの筈の力は安定してはいるが、      なにもそのまま神魔霊竜として生きることもあるまい。      いい加減、どれかひとつに安定してみたらどうだ』 悠介  「……うん。それは俺も考えてた」 もちろん、なるとしたら神以外のどれかを選ぶつもりだった。 俺が腰を下ろす場所は死神寄りの場所が多いし、 そもそも神の状態じゃあ彰利とは相性が合わなすぎる。 だから死神か竜人になるつもりではいた。 が───竜人で固定すれば角とか翼とかが生えたままになる可能性もあるわけで。 消去法で言えば死神か精霊になるつもりでいた。 それで反発反動力の力や神魔解放の力が無くなる可能性はもちろんある。 というかそっちの可能性のほうが高いだろう。 けど、俺はそれで構わないと思った。 力が及ぶ限りで守れるものがあればそれでいいと。 で、まあ───結局いろいろ考えて出した答えがこれ。 悠介 「機会があったら固定してみようと思う」 我ながら、とても曖昧だと思った。 ノート『……汝らしくもないな。力を失うことが怖いか?』 悠介 「そうじゃないよ。力を失うことより、守れなくなることが怖い」 今の力があるからこそ守れる存在っていうのがある。 だったら、たとえば今の力を失ったらその存在はどうなってしまうんだろう。 そうなった時、守れなくなってしまった俺はどうなってしまうんだろう。 そう思ったら、守れなくなった人に申し訳ない気がした。 ノート『だったら再び守れるようになるまで努力を続ければいい。     私が記憶する汝の生き方というのは、確かそういうものだったと思うが?』 悠介 「………」 その通りだと思う。 馬鹿みたいに他人のために生きて、 それこそかつての自分が小さく見えるほど強くなったと思う。 でも、だからこそって思いは確かにあるんだ。 悠介 「……俺、やっぱ馬鹿なのかもしれない。     一度思いっきり力を無くしてみなきゃ解らないんだ。     誰もが笑っていられる世界を願うにはまだまだ力が足り無すぎる。     多分、だからこそ少しでも力を失って、     “笑っていられる人”が減ってしまうのがこんなに悲しい」 ノート『それも一種の汝らしい部分ではあるがな。まあいい、問答の続きは保留しよう』 ノートはそう言ったきり、それ以上力のことには触れてこなかった。 それは他の精霊たちやイセリアも同じで─── ただ、守るための力を求めた半端な俺だけが、こうしていつまでも悩んでいた。 悠介 (……ほんと馬鹿。機会、なんてものが……いつ来るっていうんだ) 知らず、小さく口から漏れた言葉に嫌悪を覚えた。 自分を変える必要がある───そう思ったのはその時だった。 ───……そしてその機会は、思ったより早く訪れることになる。 ……。 そもそものことの発端は、翌日の早朝に訪れた。 悠介 「───異常事態?」 使者 「はい……」 どこをどう来たのか、地界の俺の自室へと空界からの使者が訪れた。 そいつが言うにはメルヘンがとうとう交戦を始め、空界を荒らし始めたのだという。 それに対抗すべくリヴァイアとルーゼンとバルグのじいさんが協力し、 強力な魔導兵器の開発を始めたのだと。 しかしそれを発動させるにはそれ相応の力が必要。 そこでその力の提供をする者として───俺が選ばれた。 リヴァイアたちが関わってるってことは、 恐らくサーフティールの場所はリヴァイアに聞いたんだろう。 悠介 「───解った。すぐに行く」 ノート『───、マスター。行く気か?』 悠介 「?……どうした?まるで行かないほうがいい、みたいな言い方して」 ノート『なにな。まあ機会が訪れたと思うことにしよう。足掻いて見せろマスター。     私は、汝が努力する姿は嫌いではない』 悠介 「……?」 訳が解らなかった。 けど───守れる存在があるのなら守るべきだと心を奮い立たせ、 使者とともに空界へと駆け出した。 てっきりイセリアも来るかと思ったが、 イセリアはノートに引き止められて一緒に来ることはなかった。 ───……。 ……。 悠介 「───……?」 そうして空界に降りてから感じたものは違和感。 何故、ということもない。 そうであるかないかは俺が決められることではないのだ。 使者 「向かう場所はレファルドです。転移は出来ますか?」 悠介 「あ、ああ」 考えても仕方ない。 俺は頷くとレファルドへと転移を実行し、そこで使者に促されるままに駆け出した。  ……どうもこうもない。リヴァイア、ルーゼン、バルグの気配が極端に薄い。 それはいったいどういう違和感か。 精霊を迎えに来た時には感じなかった違和感が、今はこんなにも大きく感じる。 地界と空界の時間のズレは相変わらずだ。 地界に戻り、朝を迎えるうちに時間は大きくズレたんだろう。 だが、だとしても─── 使者 「ここです」 案内された場所は異様な空気の漂う魔導空間だった。 ところどころに魔導技術によって作られたゴテゴテしいものが設置され、 それはまるでゲームなどに出てくる研究所のようだった。 ……おかしい。 かつての空界に、ここまで機械めいたものなんて無かった筈だ。  ギィ───ゴコォンッ!! 悠介 「───!?」 その様子に気を取られた数瞬。 背後にあった扉は閉ざされ、瞬時に強力な干渉払いが行使された。 悠介 「………」 心のどこかで『なるほど』と呟く自分が居た。 ノートの様子がおかしかったのはこの所為か。 悠介 「それで?こんなところに人を閉じ込めてどうする気だ」 誰にともなく呟く。 人の気配はまるで無い。 いや───感じる気配は……一、ニ……三人。 恐らくリヴァイアとルーゼンとバルグだ。 が、反応が恐ろしく小さい。 ほぼ虫の息状態と言っていいだろう。 だがそれだとおかしい。 後ろの扉にかけられた干渉払いは、明らかにあの三人の魔導パターンを合わせたものだ。 しかし虫の息の状態で出来るものじゃない。 悠介 「………」 相変わらず気配は感じない。 扉が閉ざされたことで真っ暗な闇と化した場所で、俺はただ気配を探ることに集中した。  ───だが。それがいけなかった。 悠介 「───!」 微かな風の流れを感じた───その瞬間!!  ゴボォンッ!!! 悠介 「が───ア……!?」 俺の身体を、なにか得体の知れない力が通り抜けた。 俺はその衝撃のままに吹き飛ばされ、暗闇の中で体勢を立て直すとともに血を吐いた。
【side:スピリットオブノート】 ───……。 ノート  『……ふむ』 ドリアード『あ……!?』 イセリア 「んあ?どしたのドリちゃん」 アルセイド『……破棄、された』 イセリア 「ハキ?なに?」 そう、破棄された。 それも強制破棄だ。 たった今、マスター晦悠介との“契約”が完全に断たれた。 ノート 『精霊各自は庭にあるマナと癒しの大樹に波長を合わせろ。      マスターとの契約が強制破棄された』 ディー 『ど……どういうことですか!?』 ノート 『いずれ解る。今は待て』 ウィル 『まさかマスターの身になにかが!?』 オリジン『静まれ。マスターなら大丈夫だ。      ここで死ぬようならば“機会”を乗り越えられなかっただけのこと。      それに、それくらいで参るくらいならばとっくの昔に死んでいる』 精霊たち『………』 静まる精霊たちを見て、小さく息を吐く。 敢えて止めはしなかったが───死ぬなよ、マスター。 【Side───End】
───……ドクンッ……!!! 悠介 「か、はぁっ……!!」 訳も解らないままに前を見た。 片膝をついた状態で吐く息はとんでもなく熱く……それがさっきまで、 自分が持っていたものを奪われた代償なのだと感じる間もなく頭痛に襲われる。 悠介 「はっ……、づ……!!」 くそ……!どうなってやがる……!! “能力を全部持っていかれた(・・・・・・・・・・・・)
”……!!! 悠介 「はぁっ……!はぁっ……!!」 月操力……反応無し。 死神の力……反応無し。 神の力……反応無し。 竜の力……反応……無し。 精霊の力もなにもかもを“持っていかれた”。 ただこの手に残るのは、俺の象徴である“創造の理力”のみ。 ラグも反応を示さず、ただ冷たくなっている。 悠介 「っ……誰だ───!!なんの目的で───!!」 訳も解らず叫ぶ。 十数年前の彰利でさえ許容しきれなかった“俺の力”を根こそぎ奪った存在。 気配もなくそれを実行したことがまず信じられなかった。 ───そう疑問を浮かべた時、ふと暗闇だった世界に光が灯る。 それは───扉が閉ざされる前に見た魔導の塊が放つ青白い輝きだった。 声  「ようこそ、皇竜王」 悠介 「───!?」 そんな中で聞こえた声に振り向く。 するとそこには─── 老人 「久しいなぁ、実に久しい。どれくらいぶりになるのか。     貴様に王の座から引き摺り下ろされ、路頭を彷徨って幾年……。     貴様の顔を忘れたことなど一度もなかった……」 悠介 「───お前はっ……!!お前は……───えーと、どなたでしたっけ?」 ドゴシャアッ!!───あ、コケた。 老人 「きっ……貴様の所為で王の座から外された前レファルド国王だ!!     よもや忘れたなどとは言わせんぞ!!」 悠介 「すまん、忘れてた」 老人 「〜〜っ……!!───、……フン。そうやってとぼけて話を伸ばし、     体力の安定を望んでいるんだろうがな。     もしそれが完了したところで、貴様などはもはや敵ではないのだ」 悠介 「───……」 見破られてた───けどそれでいい。 力を奪われた分、ぽっかりと空いた穴を理力で埋めるまでは無理に動けない。 悠介 「……どういう原理だ。自惚れるつもりなんかないが、     神や死神や精霊や竜の力の全てを、     お前なんかが吸い取り尽くすことなんて出来るわけがない」 老人 「簡単だ。周りを見てみろ。     この魔導の塊ひとつひとつが、ある特殊な方法で作られている。     私は待っていたのだ。貴様が空界中の精霊を回収するのを。     そして時は来た。仲良くなった振りをしてドワーフやエルフどもに作らせた、     この魔導エンチャントオーブで貴様の能力を根こそぎ奪い、全ての上に立つ日を。     素晴らしいぞこの力……!全ての精霊の力がここに集ったのだ……!!     この力があれば空界など、人など、全てを征服できる!!」 悠介 「───おい。リヴァイアたちはどうした」 そこまで聞いて、頭に引っかかった嫌な予感をそのまま口にした。 どうやらこいつは『全ての精霊の力』を手に入れたと思っているらしい。 が、あえてそれは否定したりはしない。 精霊全員は地界に置いてきたし、 契約の楔から力を吸い取るなんてことはラインゲートを開かない限りは無理だ。 ……ようするにこいつはとんだ思い違いをしているっていうことだ。 手に入る力が想像の上を行ってしまっていたんだろう。 全精霊の力を手に入れたと思っているなら、今はそう思わせておくべきだ。 老人 「あ〜ん?あぁ、あの王を王とも思わん魔導術師どもか。     やつらなら一番最初に力を奪い尽くし、平原に捨ててきてやったわ。     今頃モンスターあたりの胃袋に納まってる頃だろうよ、はっはっはっはっは!!」 悠介 「───……」 老人 「はっはっはっはっは!!フン……。     長い間、空界から離れていた貴様には理解出来ないだろうなぁ。     空界は進化を続けている。     魔導を進化させ、今こうして魔導の身体を手に入れることも出来る。     魔力感知にも気配感知にも気づかれずに相手に近づける。     そして、“異なる力”を溶かし、ひとつの力と変換することさえ可能になった!     膨大な力の制御のため、多量のマナを使用するがそんなことは些事だ!!     この世界は間も無く私の物になる!私物をどう扱おうと私の勝手なのだからなぁ!     ───怯えろ!恐れ慄け皇竜王よ!今、新しい世界が誕生する!!     式も詠唱も要らずに魔力を放てる新時代がここに!!     そして───その最初の餌食となれ!己自信の力の前に!!」 ガギン、という金属音とともに老人の腕が外れる。 そこには空洞のようなものがあり、 老人の背についた管が周りの魔導オーブに溜まった“俺の力”を溶かし、 “純粋な力”として発射する───!! 悠介 「っ───」 避けようと地面を蹴る。 ───が、その地面を弾く力が通常の半分にも満たずに終わる。 悠介 「く、あ───!!」 ヤバイと思った時にはもう遅かった。 放たれた極光は俺を確実に捕らえ───  ボゴヂガァアンッ!!!! 悠介 「がぁああああっ!!!!」 雷と光が弾け飛ぶ轟音とともに、閉ざされた扉ごと俺を遥か遠くへ吹き飛ばした。 ───……。 ……。 ……ズ、ズズ……。 悠介 「っ〜〜……!!くあっ……!!」 そうして、気づけば城の形も見えない場所で倒れている自分が居た。 身体を起こしてみれば手足はだらしなく折れ曲がり、鋭い激痛のみを俺にもたらす。 俺は唯一残っていた創造の理力を行使して、随分と懐かしい癒しの霧を創造。 それらを治して息を吐いた。 悠介 「……はぁ、くそっ……!!」 機会があれば、とは確かに言った。 けどこんなもの急すぎる。 ……精霊たちは無事だろうか。 契約の輪が全部無くなってることからして、多分契約は全て強制破棄された。 俺からのマナの汲々無しにやっていけるのか……そう思った。 ……って、馬鹿か俺は。 自分もかなり危険な状況にあるってのに、こんな時まで他人の心配か……。 こんな時くらい自分を労ってやってもいいんじゃないか……? 悠介 「……、馬鹿言え……」 こうなったのは自分の注意力の問題だ。 そんな自業自得馬鹿に労いなんて必要無い。 とはいえ……精霊たちのほうは自分でなんとかしてくれてあるよう願うしかない。 マナの木と癒しの木もあるし、きっとなんとかしてくれているだろう。 問題は─── 悠介 「……召喚獣たちは大丈夫だろうか」 魔力汲々が完全に途絶えた。 いろいろなものがリセットされた可能性もある。 暴れ出したりしてないといい。 それにしても─── 悠介 「…………はぁ」 寝惚けた頭をブン殴られた気分だった。 そう、かつての自分はこんなにも不安だらけの日常を送っていたのだ。 今では魔力を探知することも、一手先の未来を視ることも出来ない。 魔力も諸力も消滅し、あるのは真実創造の理力のみ。 鎌の反応も無くなったためか、 融合武器として行使してたラグの反応も無くなってしまった。 今では賢者の石としての反応も示さない。 悠介 「エンチャントオーブ、か」 あの老人が言った言葉───エルフやドワーフに作らせたという魔導結晶。 ドワーフの長老が作るものほどとはいかないだろうが、 ひとつひとつの蓄積能力はかなりのものに見えた。 加えて、どれだけモロいオーブでも“衝撃を加えない限り”は滅多に砕けない。 悠介 「……まったく……!人が楽しい日常の中に居れば、     いっつも周りが厄介ごとを持ってきやがる……!!」 今回ばかりはさすがに頭に来た。 幸い既に相手は人間止めてるわけだ。 さらに人様の力を勝手に吸い出し、さらに溶かし、 神魔だとか竜だとか精霊だとかを無視した“純粋な力”に変えて行使してやがる。 ど〜せそれもベリーとかリヴァイアとか、 エルフかドワーフあたりが研究してたりしたものを横取りしたんだろう。 じゃなけりゃああんな王サマに、 “能力を溶かして力にする”なんて技術を現実に出来るわけがない。 けどそれを完成に導かなかったのは、代償として“マナ”を消費するからだろう。 あの王サマが言っていた言葉だ、 あんな局面で冥土の土産みたいに言ったんだ、恐らく真実だろう。 悠介 「………」 やっぱり頭にくる。 どうせ───そう、どうせだ。 既に能力は溶かされ、誰にでも行使出来る“純粋な力”になっちまってるんなら。 俺はまたここから始めればいいわけだし、どうなろうが知ったことじゃない。 ただあのたわけは確実にコロがしたいと思う。 うん、廃棄処分決定だ。 すぎた技術はこの自然を腐らせるだろう。 と、その前に─── 悠介 「竹槍が出ます」 竹槍を創造して、ひとまず武器として扱うことにした。 もちろんあのジジイのところに行く前にやらなきゃいけないことはあるわけだが。 えーと、確かあれはレブロウドの近くだったな─── ───……。 ……。 モンスター『ルォオオガァアアアアアアッ!!!!』 リヴァイア「っ……くっ……!万事休すか……!!」 ルーゼン 「力さえ奪われてなければ、こんなモンスターくらい……!!」 バルグ  「やれやれ……あと二千年は生きるつもりだったんじゃがのう……」 悠介   「“螺旋は在りしを捻り穿つ(スパイラル・エア)ァアアアアアアアアアッッ”!!!!!」 ボゴッチュゥウウウウウウンッ!!!! モンスター『ギャアアアアアアアアアッ!!!!』 ルーゼン 「え……あ───まあダーリン!!」 悠介   「ダーリン言うな!!」 さて……レブロウドの近くの草原で発見したリヴァイア一行。 それを襲うモンスターに久しぶりのスパイラル・エアを投擲して滅殺。 リヴァイア「悠介か───!?すまない、感謝したいところだが急を要する!!       前レファルド国王が───」 悠介   「あー、いい。事情は知ってるし、むしろ俺も能力奪われた」 魔導術師達『なぁあああああーーーーーーーっ!!!!!?』 彼と彼女らは相当に驚いた。 リヴァイア「なっ……ななななにをやってるんだ悠介!       お前の能力なんか奪われたりしたら、空界は───!!」 悠介   「心配するなって、勝算はあるから」 リヴァイア「だが!竹槍程度で勝てる相手じゃないんだぞ!?」 悠介   「それも大丈夫だ。一瞬で殺す。それだけだ」 リヴァイア「……?」 悠介   「じゃ、行くか。歩けるか?       ───って、歩けてたらこんなところで転がってないか」 バルグ  「まあ、当然じゃな」 悠介   「よし。じゃあお前らはレブロウドに置いていく。       もっとまともに理力が残ってれば、       吸い取られた力も元通りにしてやれたんだけど。       生憎とギリギリの理力しか残ってない。すまん」 リヴァイア「……?なにをするつもりなのか知らないが、       勝算にその方法が必要不可欠なら気にするな。       わたしたちはただ、まだ死ぬわけにはいかないだけだ」 悠介   「ああ。それは俺も同感だ」 ゆっくりと頷くと、 溜めるに溜めた撃鉄をそのままにリヴァイアたちをレブロウドへ運んだ。 さて……あとはあの野郎をブチ殺すだけだ。 誰に言うまでも無いが、手加減してやるつもりは一切無い。 今だけ───そう、今だけ俺は、怒りに狂う“処刑者(イレイザー)”となろう。 ───……。 ……。 ガゴッ……ゴコォオン……!!!バァッガァアアアアンッ!!!! 町人 「うあぁああああっ!!!」 町人 「ひぃいっ!!!」 老人 「フフフハハハハハハ!!ハァッハハハハハハ!!!!     そうだ怯えろ!叫べぇっ!!この世絶対の王の降臨だ!!     これより貴様ら愚民どもを支配してやるぞ!!ありがたく───あん?」 悠介 「───……」 レファルド城下町。 そこで暴れていた機械の姿の老人の前に立ち、その姿を感情も無しに睨んだ。 心は酷く落ち着いている。 そこにあるのはただ、冷徹なる冷え切った心のみだ。 老人 「生きていたか皇竜王……。だが無駄だなぁ。     今の私は無敵───そう、敵という存在など無いのだ!!     なにをしに来た?のこのこ死にに来たか!!」 悠介 「───お前を、殺しに」 老人 「───!?」 噛み砕いて言ってやると、機械の老人が息を呑んだ。 老人はすぐに後方に積んであるオーブから力を吸い出そうとした。 もちろん今から疾駆して、 老人の背に繋がっている管を切ろうとしても間に合わないだろう。 けど───俺は“動く必要”など無い。 何故なら既に─── 悠介 「“創造の理力”(フォースオブクリエイション)」  ブワァッ───ヂギィンッ!! 老人 「なっ───?」 ───詠は、この世界に満ちているのだから。 悠介 「世界よ詠え───“遥かに遠き望郷の詩(ワールドオブノスタルジア)”」 創造されるは“黄昏の草原”。 望むものと望まぬものを絶対的に隔離し、切り離す創造空間。 鎌が無かろうが家系の身体能力が無くなろうが“創造の力”自身にそんな理など関係無い。 老人 「ヒッ───!?管が!管が───」 突如として黄昏の世界に引きずり込まれた老人は驚愕した。 当然だ。 必要な力をオーブから吸い出すための管が、途中から完全に消え去ってしまっているのだ。 悠介 「望まないものなんて要らない。今この世界に必要なのはオーブでも力でも無い。     ……殺すべき対象のお前が居れば、それでいい───!!」 老人 「ふ、ふざけるな!私は王!王だ!王を殺せば貴様は───」 悠介 「殺さないで欲しいなら消滅させてやるだけだ……覚悟、決めろよ」 老人 「───っ……図に乗るな小僧がぁっ!!     貴様なぞ今手元に残っている力があれば十分───」  ドガガガガガガガォンッ!!!! 老人 「ヒ……?ヒギャァアアアアアアアアッ!!!!」 戯言を言い放つ機械の塊に、創造した剣の雨を落とす。 恐らくは硬かっただろう身体は散々と穿たれ、穴だらけになっていた。 さらにその眉間に一本の黒い剣を突きつけると、その状態で虚空に固定した。 老人 「ヒ、あ……ま、待て……待ってくれ……!     し、知ってるぞ……!貴様……い、いや、お前も一度は王になったんだろう……。     だったら……だったら慈悲を───殺さないでくれ!死にたく───」 悠介 「勘違いするなよクソジジイ───俺は聖人でも良心保持者でも無い。     命乞いをするんだったらもっと優良な馬鹿野郎にするんだったな。     ───生憎と俺は不良で、     お前みたいな自分の命だけ助けてもらおうなんてクズが一番嫌いだ」 老人 「ヒッ───ヒィイイイイイイイッ!!!!」 言葉も無く上げていた手を下ろした。 すると、それを合図に黒い剣の上空に待機していた剣の軍勢が一気に降り注ぐ。  ガガガォンガォンガォンガォンッツ!!!!  ドドンッ!ドンドンッ───ドガガガガガガッ!!! それで終わり。 後には地面に突き刺さり、まるで墓場の手向けのように並んだ剣と─── 小便たらしながら、あまりの恐怖に自我崩壊して動かなくなった老人が残された。 悠介 「〜〜〜……」 で、結局。 こうやって殺すことの出来ない俺は悪人にも善人にもなれない中途半端なヤツってことだ。 つくづく自分の甘さに呆れる。 けど───まあ。 あそこまで見事に髪の毛抜けたり気絶したりすれば、もうちょっかいも出してこないだろ。 悠介 「さぁて、終わり終わりっと───」 創造空間を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。 実際、この黄昏を創造する程度しか余力が残ってなかった。 その黄昏を閉じた今、そこにあるのは強烈な眩暈と疲労感くらいだ。 悠介 「はぁ……くそ……」 この調子じゃあ、気絶したら今度こそ起きれないぞ……。 起きれたとしても、また十数年前みたいにリハビリが必要になるだろう。 それも、今度はそう簡単には治らないくらいの苦しいものが。 悠介 「……うん」 けど、それこそ望むところだ。 その先で誰かを守れる力が手に入るなら───俺は“創造者(クリエイター)”として生きていこう。 声  『悪いがそれは無理だな』 悠介 「へ───って、ノート?」 聞こえた声に振り向いてみれば、丁度スタッと地面に降り立ったノートが。 その後ろには他の精霊たちも居てガバァッ!! 悠介   「とわっ!?」 ドリアード『あぁっ……マスターの力がこんなにも弱々しいものに……!       誰が……誰がこのようなひどい仕打ちを……!!』 悠介   「ちょっ……ド、ドリアード!?」 珍しいものを見た───というか。 ドリアードは突然俺の頭を抱きしめると、自分のことのように嘆き悲しんでくれた。 で───恐らくは同じことをしようとしていたらしきウンディーネとウィルオウィスプが、 まるで出遅れたかのようにポカンと硬直していた。 ドリアード『───あなたですか……!?』 精霊たち 『っ!?』 さらにドリアードは、自我崩壊したまま屈み込んでいる老人を見ると、 かつてないほどの冷たい目をして彼を睨んだ。 刺さっていた筈の剣は黄昏とともに消え、既に無いが─── それでもところどころを穿たれている姿からして間違い無いと踏み、 ドリアードはゆっくりと……殺意の波動に目覚めた。 この時俺は彰利風に思った。 神様、自然に好かれるということは案外、とんでもなく怖いものなのですね……と。 とりあえず空界全土の“自然”を担う高位精霊の怒りは、 きっと俺達が想像するよりよっぽど怖いものだろうなぁと、ただ静かに十字を切った。 だってさ、止めても止まってくれそうになかったし。 精霊たちも普段のドリアードとのギャップに本気で驚いてたし。 えーとつまり、止める人とか精霊とかなんて、ただのひとりも居なかったわけです。 ───……その日。ひとりの老人が、空界の大地の養分と化しました。 【ケース45:晦悠介(再)/調和固まる時】 ───……。 ノート『……さて。空界に緑が増したのを見届けたところで』 ノートがコホンと咳払いをする。 ちなみにここは、さっきの老人が最初に居た巨大倉庫。 相変わらず鋭く輝くオーブがところ狭しと並んでいる。 ノートはそんなオーブの列と輝きを見ると、小さく息を吐いた。 ノート『事は迅速を要するな。マスター、すぐに選べ。     このままでは吸い取られた汝の力が行き場を無くして爆発する』 悠介 「へっ!?え、選べってなにをだ?」 いきなり言われてもなにがなんだか解らない。 俺としては、さっきから頭にコブを作ったまま、 ピクリとも動かず倒れてるドリアードが気になるんだが。 老人をラインゲート能力で自然の一部に変えちまった途端だったもんなぁ。 ノートに『たわけ』の一言とともに強烈なゲンコツを食らって気絶した。 俺のためにやってくれた分、申し訳なさでいっぱいだ。 ノート『力の在り方を選べと言っている。     今はまだ吸い出された力が力を潜めているからいいが、     このまま力が覚醒すれば、辺り一帯にはなにも残らんほどの爆発を起こす』 悠介 「なっ───ちょっと待て!吸い出された力は“純粋な力”に変換されて、     ややこしい神魔だとか竜だとか精霊だとかの力じゃなくなったって聞いたぞ!?」 ノート『だからこそだ。反発反動力を生み出さなくなった分、     今度は安定しようという力が発生し始めたのだ。     神、死神、竜、精霊という全て異なった力だぞ?     それが安定しようと回転するならばまず許容を大きくする必要がある』 悠介 「……つまり。爆発するくらい大きい許容じゃなけりゃ抑えられないってことか?」 ノート『……理解が早いのか遅いのか。故に選べ。     神、死神、竜、精霊、そして人。汝はどういった存在になりたい』 悠介 「───」 選ぶなら死神か精霊。 そう決めていた。 けど───人?人の許容でこんな力を制御できるのか───? ノート『人として、ではない。創造者としての汝ならば許容出来る』 ノートはまるで俺の中の疑問を読み取ったように言う。 俺は─── 1:神になる 2:死神になる 3:竜、竜人として生きる 4:精霊として生きる 5:創造者として生きる 6:俺、そんな力要らないや! 7:そんなことより朝飯まだだった 8:力全てを分解してもらい、やはり神魔霊竜人として生きる 結論:───……やっぱ4 ───……。 悠介 「よし───精霊として生きる!!」 ノート『よくぞ決めた!後戻りは出来んぞ!』 やがて輝きを増し、オーブを砕かんとする“力”。 ノートはそれをオーブの中から引き出すと、オリジンとともに精霊の力へと変換してゆく。 次にゼクンドゥスが俺の額に指を添えると目を閉じ、俺の中の何かの時間を動かし始めた。 それが終わるとイドが俺に近寄り、 俺の頭に手の平を沈み込ませ、奥底にあったなにかを殺した。 その途端───俺の身体が精霊として目覚め、それ以外の力を違和感を感じなくなった。 そこで理解した。 イドに殺されたなにかは、『人』としての俺だったのだと。 ノート 『命ずる。汝はこれより人であることを捨て、精霊と化せ』 オリジン『我、狭界が精霊オリジン』 ノート 『我、空界が精霊スピリットオブノートの名において───      晦悠介、汝を“創造の精霊ルドラ=ロヴァンシュフォルス”として受け入れん』 ───そうして、精霊としての属性名とともに、 額に“精霊の力”となった輝きが埋め込まれた。 それとともに俺の中にあった大きな空洞が活力に満ち、 反発反動力があった頃までとはいかないものの、強大な力に溢れていった。 もちろん───衣服も精霊のものへと変異し、ラグにも活力が戻った。 って、何故に? 悠介 『なぁノー───ぐあ』 声が少しブレてる。 発声からして既に自分が精霊であることを認識させられてしまった。 悠介 『いやいや、気を取り直して……ノート』 ノート『皇竜剣のことなら訊くだけ無駄だ。     今までが“鎌”として振るっていたのと同じように、     ようは動かすための繋がりがあればよかったのだ。     鎌を融合させていたから死神の力を持った汝に反応したように、     精霊の力を秘めたマテリアルを素材に使っているからこそ精霊の力にも反応する』 『それだけのことだ』と言って、ノートは『察しがいいのか悪いのか』と呆れた。 悠介 『………』 そっか……よかった。 ラグにだって意思があるんだ、 このまま反応もしない存在になったらどうしようかと本気で心配していた。 けど───あれ?待てよ? 悠介 『なぁ……そう、そうだよ。俺、ラグと鎌を融合させたんだよな?』 ノート『……?そうだが』 悠介 『だったら普通に鎌の力、解放出来たりするのか?』 ノート『無理だ』 悠介 「むごっ!?」 即答だった。 ノート『鎌は死神だからこそ行使出来る。忘れたか、既に汝は“精霊”でしかない。     だが心配することはない。精霊としての“ラインゲート”を鎌の卍解に上書きし、     その上で行使すれば以前と変わらぬ方法で解放が出来るだろう』 悠介 『………』 なんというか少し微妙な気分だった。 けど良かった。 本音を言えば、『卍解』とか叫ぶのは恥ずかしかったのが正直なところだったのだ。 悠介 『……なぁ。精霊にはそれぞれゲートが用意されるんだよな?』 ノート『そうだ』 悠介 『俺の場合、どうなるんだ?』 ノート『……オリジン、黙ってないで説明を手伝え。     今日のマスターは久しぶりに察しが悪い』 悠介 『しょうがないだろがっ!!     こんなすぐに精霊になったりするとは思わなかったんだよ!』 ノート『知らん。それにしても勉強不足な汝が悪い』 悠介 『あのなぁ……!』 ノートは溜め息を巻き散らかしつつ、オリジンとバトンタッチをした。 オリジン『説明を続けよう。マスター、私の精霊としての属性が“元素”。      即ち“元”であるように、マスターの属性は“創造”。即ち“創”だ。      当然ラインゲートもそれに順ずるものであり、      言わば象徴である“創造”こそがラインゲートに繋がる』 悠介  『それって……ようするにスピリッツオブラインゲート自体が      俺のラインゲートになるって……そういうことか?』 オリジン『イドを引きずり出す際に行使したアレか。そういうことになる』 悠介  『…………』 なるほど。 じゃあノートの言う通り、鎌の力に上書きするようなカタチでいいわけだ。 あ───ちょっと待て。イーグルアイとかの特殊能力はどうなるんだ? 悠介 『ん───』 …………───普通に行使出来るな。 どうなってるんだ? 悠介  『オリジン?』 オリジン『神、死神、竜、精霊の力をひとつに纏めたとはいえ、      特殊能力はその例から分離させてもらった。行使可能はそのためであり、      元より精霊には先詠みや遠くを見る目というものがある。      人と同系列の基盤で見られては困るな』 悠介  『む……』 なるほど。 悠介  『ん、概ね解った。あとは自分で覚えていくとするよ』 オリジン『そうしろ。その方がより確実であり完全だ』 それだけ言うと、どこか可笑しそうにしてオリジンが消える。 で……ふと違和感を感じて自分の首に手を当ててみれば、しっかりとある契約の首輪。 ……相変わらず早いな、オイ……。 ノート『まあ、どちらにせよ精霊を選んだのは正解だ。     他のものを選んでいれば、     許容が安定するまで地獄の苦しみを味わっていたところだろうよ』 悠介 『そういうことは先に言おうな、ノート』 ノート『何を言う。苦しかろうが選んだ道は捨てぬのが汝だろう』 そうですね、ごめんなさい。 悠介 『あ───なぁ。これって精霊の状態にしかなれないのか?     ゼットみたいに翼とか角を仕舞って、人になるってのは……』 ノート『そこのところは創造でどうとでもしろ。     竜として乖離された時にもそうしただろう』 それはそうだけど。一応訊いてみておいたほうがよさそうだったわけだ。 ノート『大体、自分で調べていくんじゃなかったのか』 悠介 『すまん、早速行き詰った』 ノート『つまらん冗談はよせ。そもそも似合わん』 悠介 『ひどいなそれ……』 たまには冗談くらいいいと思うんだが。 ノート『ともかく。さっさと戻るぞ。イセリアだけではあのゲームは成り立たん』 悠介 『創り途中で来たのか?イメージ閉じてから来たらよかったのに』 ノート『私はそうするつもりだったんだが、他の精霊たちが聞かなかったのだ。     マスターはマスターで自分で乗り切ると言ったところで、     少し我慢出来たのが限界だ。すぐに扉を開けて空界に飛び出していった』 悠介 『…………』 ノート『マスターが危険な目に、とか叫びながらな』 悠介 『わ、わざわざ言わなくていいっ!!』 くそう……ノートのやつ、絶対俺の顔が赤くなるのを楽しんでやがる……! ああもうノートの言うとおりだ。 いっぱい感謝の言葉はあるけど、とりあえずはさっさと戻るべきだ。 悠介 『……と、とにかく!そろそろ戻ろう!イセリアだけだと心配なんだろっ!?』 ノート『うん?話を続けたいなら続けても構わんぞ私は』 悠介 『お前さっき面倒臭くなってオリジンと交代してただろうがっ!!』 くっくっと笑い、会話続行を提案するノート。 ……なんか妙な癖でもついたんじゃなかろうか。 人をからかう癖だけは勘弁してもらいたいぞ……? ───ともあれ、俺は少し顔が赤くなっていることを自覚しつつ踵を返した。 すると精霊たちは契約の輪になるとそれぞれが所定の位置に収まり、 気絶中だったドリアードも他のニンフたちに回収されて収まった。 悠介 『………』 そうしてみると、 俺は……なんていうかこれから先のことを考えて、やっぱり苦笑と頭痛を手に入れた。 だってな……今までの全ての力が精霊の力一点に注ぎ込まれたってことだろ……? 確かにこれならどんな世界に行こうが、 神力に当てられることも死力に当てられることも無くなったわけだが─── 悠介 『………』 何気なく、試しに死神の力の解放と同じ感覚で力を解放してみた。 すると─── 悠介 『………』 やはり死神の力は解放されなかったが、代わりに髪の毛が銀色になった。 多分、眼は赤い。 てことは神力解放の段取りでやると金髪碧眼になるんだろうなぁ。 思いっきり意味が無い。意味が無いが…… こうなるように力を変換したのはノートとオリジンだろうなぁ。 そう想定してみると、俺は案外精霊たちに遊ばれ……もとい、 好かれてるんだなぁと……思っていいんだろうか。 とりあえず機会があったら ノートとオリジンになにか仕返しをしたいと─── 声  『勘違いをするなマスター。     我々精霊は思念体に近い存在だということは汝も知っているだろう』 悠介 『……ノート?』 声  『それは即ち、強くイメージすれば体の形を変えられることも意味する。     汝が行ったのはそういうものだ』 悠介 『じゃあ、竜の翼も出せたりするのか?』 声  『言っただろう、精霊とはそういうものだ』 ……ふむ。 じゃあ───バサァッ!! 悠介 『お───本当に出た』 バサリバサリと飛翼を広げる。 よかった……空を飛ぶっていったらもう翼で飛ぶのに慣れていた。 多分精霊として空を浮いてみろって言われても出来なかったと思う。 まあ……飛翼を広げてみたところで、 今までのように竜の力の解放が無いのは相当な違和感ではあるわけだけど。 悠介 『まあそのうち慣れるな。───戻ろうか』 うんと頷いて、俺は空中庭園───サーフティールに向けて飛翔した。 転移してもよかったんだけど、これもまあ力に慣れるためのリハビリみたいなものだ。 それに、 悠介 『あぁ居た居た。天誅』 ビヂィッ───スガァアアアアアンッ!!!! 使者 「しぎゃあああああああーーーーーーーーっ!!!!!」 人を騙くらかした使者にも天誅を下したかったし。 人を騙しておいてのほほんと散歩してるとはいい度胸だよ、まったく。 もちろん天誅と言ったからには、落とした罰は雷だった。 相当に弱めに放ったから死んじゃいないと思う。 そうやって頷いてから、俺はリヴァイアたち三人が消費した力を創造してあてがい、 三人の発言のもとに魔科学に関する全ての書類と、 それに手を加えた者に厳重な注意を命じた。 研究者たちももうマナが枯渇した世界は嫌だと思っていたらしく、 忠告するまでもなくもう使う気はなかったらしい。 もちろん書類などは全て燃やし、二度と世に出ることのないように研究所も破壊。 研究者たちにはどこか別の研究所を提供することで、全ての事なきは得られた。 ───ちなみに。 召喚獣たちはやっぱり力の汲々が途絶えた途端に暴れそうになったらしく、 すぐさまにオリジンとノートによって抑えられたそうだ。 ひとつのオーブに凝縮すようなカタチで全召喚獣を押し付けられた時は、 さすがにどうしてくれようかと泣きたくなった。 ……もちろん、全てと契約し直したわけだが。 はは……もうだめだね。俺、人間には戻れないわ。 Next Menu back