───冒険の書197/情景───
【ケース513:晦悠介/ある晴れた……朝さがり。昼ではない】 チュンチュン……チ、チチチ……コェーーッコ!コェーーコ! コエケケケケ……コケェエーーーーーッ!! コワッコッコッコッコッコ……ウ、ウホォゥッ! そいつはまたなんとも……楽しみだなぁ……ウ、ウホォゥッ! …………コケケココ……フブレカカカカカッカッカッカッカ……!! 悠介 「……なーにやってんだろうなぁ……あいつは」 中井出たちがここを発った朝。 俺は自然に包まれながら、小さく息を吐いていた。 精神集中ってやつなんだが……どうにも彰利が騒いでる所為で集中できない。 さっきから、鳴く鳥に対抗して奇声をあげているのだ。 篠瀬が目を覚まさないからと森林浴……じゃないな、散歩に出ているんだが、 その散歩の先で奇声をあげてるわけで……はぁ。 ナギー『なんじゃ、辛気臭いの。     溜め息を吐くと幸せが裸足で駆けていくとヒロミツが言っておったぞ』 悠介 「最近の幸せには足が生えてるのか?」 溜め息を吐いている俺の背後から声をかけてきたのはドリ……ああいや。 そういやナギーって呼べって言われてたっけ……じゃ、改めて……ナギーだった。 本名ニーヴィレイ=アレイシアス=ドリアード。 そこからどうしてナギーになったのかは、知ろうとする必要もないことなんだろう。 ナギー『おぬしは何処にも行かんのかの?ヒロミツたちは早速出かけたというがの』 悠介 「いや。俺達もいい加減、自分たちの種族の復興をしようとは思ってる。     けどその前にやらなきゃいけないこととかいろいろあるんだ。     ここでのんびりしてるわけにもいかない」 ここに居る理由は、彰利が篠瀬の目覚めを待っていることが最大の理由。 妻たちへの想いを篠瀬一人に集中させることとなった彰利は、 内心では篠瀬と一緒じゃなかったことが相当に寂しかったらしいのだ。 今なら俺の中にも誰かを好きになるって感情はあるから、解らないでもないが。 悠介 「お前は穂岸のところで魔法の修行をすることに決めたんだったか?」 ナギー『うむ。思えば天空城での修行も中途半端に終わらせてしまった。     それを考えれば、一時的にヒロミツから離れなければ修行にならん。     わしはちとヒロミツに甘えすぎていた。     そこから変えていくべきだとマクスウェルに言われたのでな。     故にこうしてヒロミツと離れて行動をしているというわけじゃ』 なるほど。言われてみれば、見かける度に中井出と一緒に居たな。 悠介 「じゃあ、穂岸が旅に出るとしたらそれに付いていくのか」 ナギー『ふむ、そういうことじゃな。ちと静かそうなヤツじゃから退屈しそうじゃが、     修行に賑やかさを望んでもどうにもなるまいよ。     わしも大人にならねばならんのじゃ、今は甘さを捨てる時よ』 悠介 「そか」 なんだか嬉しくなった。 この世界での精霊はそれぞれ、空界の精霊たちがイメージして誕生したやつらだ。 どうしてニンフたちがこんなチビッコを精霊として誕生させたのか、 いつか疑問に思ったこともあったが……うん。成長を見たかったんだろうな。 ニンフたちは恐らく、産まれた時からあの姿だったんだろう。 だから、精霊でも成長し、希望を持てることを知ってみたかった。 そんなところなんだろう。 ナギー『しかし驚いたぞ。こんな大きな要塞ごとここに転移出来るなど。     あのツンツン頭の男、おちゃらけておるが実力は相当と見るのじゃ』 悠介 「まあ、人種的には中井出とそう違わないと思う。     性格面で、って意味だな。実力はあるのにやたらとふざけるのが好きなんだ」 ナギー『あやつは何処へでも転移が出来るのか?』 悠介 「一度行ったところなら何処でもだな。     ここには───まあ、いろいろあって、一度だけ来たことがあった」 いろいろというのは獣人時代に遡るんだが。 だから猫どもも俺達の顔は知らないし、会った憶えもないと言う。 当時の俺達からしたら、ここの絶壁攻略は地獄といえた。 今は……提督の自爆のお蔭でレベルも安定に向かってる。 登るのにそう難儀はしないだろう。 悠介 「ふう。……じゃ、話はここらにしよう。俺はそろそろ出発するから」 ナギー『ふむ、そうか。達者に生きるのじゃぞ。敵として現れたら加減はせぬぞ?』 悠介 「ああ、はは。お手柔らかに頼む」 ナギーの言葉に軽く笑い、手を小さく振って歩き出した。 気の所為……なのかは解らないが、 中井出が傍に居ないってだけで口調が少し固くなった気もする。 事実なら、それだけ中井出の前では甘えてたってことなんだろうか。 まあ、いい。 とりあえず俺は俺がしたいと思うことのために動こう。 誰かのためじゃなく、自分が自分らしくあるために。 声  「話はもう終わったの?」 悠介 「ん……ルナか。ああ終わった。だから、次へ行こう」 声が聞こえるとともに、首周りにトンと重みがかかる。 いつものようにルナが浮遊しながら首に抱きついているんだろう。 姿を消してるから見えやしないが。 声  「ホモっちたち置いて?うん、どこどこ?」 悠介 「お前は……ほんとどうして俺と二人っきりになりたがるんだ」 声  「ふぇ?そんなのそっちのほうがいいからに決まってるじゃない」 訊かれるとは思ってもみなかったことを訊かれたからか、変な声をだして応えるルナ。 ……まあ、なんだ。 さっぱり訳が解らん。 俺はこう見えて、自分にこそ自信が無い。 周りからはぶっきらぼうだとか言われるし、 中学時代なんて付き合いが悪いぞ〜とかクラスメイツに言われてたもんだ。 そんな俺がこうして……まあその、女と一緒に居て、相手が楽しめてるかと想定すると…… そりゃ楽しいわけないだろうがという結論に至れるほどだ。 ……ああいい、自分の恋愛感情だのを考えてると頭が痛くなる。 俺はルナのことは大事に思ってる……それでいいじゃないか。 いや待て、これじゃあ扱いがいかにもぞんざいというか……好きではあるんだが、 それ以上の喩えを知らん俺としては……って、 だからこういうこと考えるから頭が痛くなるんだ。 悠介 「はぁ……一応、アイルーから竜の力の在り処を聞いた。     まずそこに行って、竜力の解放をしてから次だ。     それと悠黄奈はここに残るらしいから、そっちの方は亜人種に任せよう」 声  「そうなんだ」 こくこくと頷く気配。 こいつはこいつでいつまで経っても、妙に子供っぽい部分が抜けない気がする。 悠介 「お前のほうの準備はいいのか?」 声  「ん。猫からいろいろ買ったから大丈夫。     ポーションにエーテルにグミ、状態異常回復用のボトルに……     根暗吸血鬼避けのニンニクエキス……!!」 悠介 「返品してきなさいっ!!」 声  「えー……?」 大体自分もニンニク嫌いなんだろうが。 もしなにかの拍子にぶちまけたらどうする気なんだこいつは。 ていうか無駄遣いはやめてくれ、頼むから。 ルナ 「むー……返品してきた」 すぐさま行ったのか、とっとと戻って来たルナは惜しむような顔つきで俺を見ていた。 そんな顔されても困るだけだが。 悠介 「ほら行くぞ。とっととこの絶壁登って北東に行かなきゃならん」 ルナ 「北東?」 悠介 「ああ。北東に竜の泉ってのがあるらしい。     忘れられた島ってところにあるって言うんだが、     そこへ行くのに船が必要だ。     空でも飛べればよかったんだが、生憎そんな手段が───」 ルナ 「…………?えっと、なにかな悠介。その“おおっ”って顔」 悠介 「なあルナ、夫婦とはやっぱり力を合わせるべきものだと思わないか?」 ルナ 「……わたし、時々見せる悠介のそういうところ、ちょっと苦手かも」 俺は翼を手に入れた。 ───……。 ……。 コォオオオ……───身体に風を感じている。 雲より高くとまではいかないが、空を飛ぶということ自体が懐かしい気もする。 それも、ルナに抱きかかえられてというのは。 ……あ、いや、勘違いするなよ? 抱きかかえられてっていっても、背中から抱き締められている感じだぞ? 断じてお姫様だっことかそういうんじゃ……───俺は誰に言い訳してるんだ? ルナ 「こうして悠介抱えるのも懐かしいねー」 悠介 「未来……まあ、時代から見れば過去になったけど、     彰利の記憶を無くした俺が約束の木に行こうとした時以来になるか?」 ルナ 「ん、そうかも」 未来の自分と融合した時から俺の中にある記憶。 彰利が勝手に俺達の中から自分のことに関する記憶を消していったあの頃のこと。 思い出すと懐かしいが、嫌な思いをしたのも確かだった。 いつも勝手すぎるんだ、あいつは。 彰利 「しっかしアレじゃよね。あの猫どもってほんとなんでも売ってるのね。     アタイレタス買っちゃったよ」 悠介 「お前はどっから沸いて出た」 彰利 「キミの影から沸いて出た」 気づけば俺の隣を飛びながらレタスをゴリシャリと食っている親友が居た。 その肩には篠瀬が担がれていて、どう見ても俺達と一緒に行く気満々といった風情だった。 悠介 「お前も案外暇なんだな」 彰利 「オウヨ。愛しのダーリンだけを危険な目には遭わせられねぇぜ?」 悠介 「本音は?」 彰利 「ムヒョヒョヒョヒョ、貴様にだけ新たなイベントを味わわせてたまるか……!」 悠介 「……ああ、彰利だな」 うん、実に彰利だった。 彰利 「ああそうそう、お前は……うん。     お前だけは俺のこと、彰利って呼んでくれると嬉しい。     他のやつには彰衛門って呼んでくれ〜って頼んであるけどさ」 悠介 「言われるまでもなく、そうするつもりだったよ。     必要を迫られない限り、お前に対する認識なんてそうそう変わるもんか」 彰利 「そ、そか。へへ……そうだよな、うん」 俺の言葉に、くすぐったそうに目を細めて鼻の頭を掻く彰利。 ……そういえば、こいつのこんな顔見るのはどれくらいぶりだろうか。 悠介 「でもな、多分怒るぞ?篠瀬のやつ」 彰利 「ホイ?……なぜ?」 照れ隠しか、ルナの肩をポムポムと叩こうとして、 ふかーっと威嚇されている彰利がきょとんとした顔をする。 悠介 「何故って、呼び方だよ。     彰衛門、なんて呼び方するの、篠瀬と凍弥とみさおくらいだったろ」 彰利 「ほむほむ?それがどぎゃんしたと?」 悠介 「凍弥は男。みさおは問題外。     妻として、彰衛門なんて呼ぶのは自分だけだったのに、     って思ったりするんじゃないか?」 彰利 「……俺さ、時々疑問に思うんだけどね?     自分のことでは鈍感で頭が回らないくせに、     なぁんで他人の恋愛ごとだと妙に口も頭も回るのキミ」 悠介 「…………………………なんでだ?」 彰利 「アタイが知るわきゃねぇっしょ」 悠介 「ふむ……」 まあいいか。解らないことは解らないで。 それが重要なことならまだしも、……いや待て。 もしかして俺、結構他人の恋路に興味があったりするのか? それこそまさか………………だよな?誰でもいいからそうだと言ってくれ。 悠介 「じゃ、話戻すか。呼び方、それでいいのか?」 彰利 「………」 話を戻した途端に彰利の顔が豹変した。 真っ青で、カタカタと震えてる。 これはあれだな、篠瀬との先のことを考える時に見せる顔。 大体が悪巧みを考えて、実行したあとにこういう顔になる。 後先考えずに行動することが多いからな……こいつ。 本能のままに動きすぎて大体失敗する。 原中の生き方をそのまま現在まで引きずってきた典型だな、うん。 彰利 「え、えーと……じゃあハニーとダーリンで呼び合う……とか……」 悠介 「面白そうだな、よしやろう」 彰利 「えぇ!?やるの!?」 悠介 「キツケ薬が出ます。弾けろ《ポムッ》」 彰利 「クク〜〜〜ッ……ムウウ〜〜〜ッ」 創造したキツケ薬を眠ったままの篠瀬になんとか飲ませる中、 彰利はそれを止めるべきか止めざるべきかを悩みながら奇妙な声を出していた。 ていうかやりづらいな……抱えられながら誰かに何かを飲ますのって至難だ。 夜華 「《バチチィッ!》ふわぁああーーーーーっ!!?」 彰利 「キャア!?なに!?何事!?ホワイ!?ホワッツマイコー!?」 悠介 「キツケだ」 彰利 「キツケって……あの、雷奔ってましたけど?主に俺に」 悠介 「ああ。篠瀬の身体に多少奔って、彰利に流れ出すようにイメージしといたから」 彰利 「…………ふぅむ……よしダーリン!     やっぱてめぇにオーダーは向かん!創造者として生きろ!     これはアタイの勇者としての決定だ!誰にも文句は言わせん!」 悠介 「なにぃ、貴様勇者だったのか。俺はてっきりHENTAIかと」 彰利 「妙なアクセントで親友を変態言うんじゃありません!!     ともかくさぁ、キミにゃやはり白操術は向かんよ。     だってキミ、神になったのに神術なんかいらないっつーたんだよ?     それなのにホーリーオーダーの称号もらったってだけで白に目覚めるなんて、     誰が許してもアタイが許さねぇ」 悠介 「お前それ、ただ自分が納得いかないだけなんじゃないか?」 彰利 「だってYO!!」 ルナ 「ホモっちだってノートン先生に力もらったから黒が使えるんじゃない。     悠介にどーのこーの文句つけるの、お門違いよ」 彰利 「ゲッ……そ、それ言われるとオラ辛ぇ……」 そう、彰利の力……いわゆる黒操術は、ノートに貰った能力だ。 黒っぽい能力が欲しいと、闇の精霊シェイドを俺に譲る代わりにと貰った力。 最初は死神の力の片鱗として、その生き様とともに湧き出した力だとノートは言った。 それにノートの力が加わり、彰利がそれを鍛え、今に至る。 コピーした鎌の数だけ強くなれるといったノートの言葉通り、 彰利は冥界の死神に無理矢理卍解を教え、それをコピーしては能力を高めた。 今は南無の力のコントロールも出来るようになって、 もう一段階の解放、“鎌解(れんかい)”が可能になっている。 ただしこっちのほうはルナが使う鎌解と違い、 名前は妙なフランスだかドイツだかっぽい名前になるらしい。 ようするに漂白剤……じゃなかった、ブリーチでいう、アランカルの解放能力だ。 が……彰利はそれが好きではないらしい。 ただでさえ英語ばっかの鎌の名前だったのに、次はそっちかよ、ということで。 そのためか、解放しても普通に今まで通りの名前で呼んでいたりする。 まあ、死神の名前はみ〜んな英語的なものだ。 それを言うんだったら、鎌が日本語で読まれるほうがよっぽどにおかしいだろう。 それについては前に聞いたことだし、いまさらだ。 彰利 「けどさ、実際どうなん?悠介自身、白操術って自分に向いてるって思う?」 悠介 「いや、これが全然だ」 ルナ 「えぇっ?どうしてっ?」 彰利 「キョホホ、そりゃダーリンが努力の人だからよ。     以前、人から力をもらってでも強くなるとか言っとったけど、無駄無駄。     自分で鍛えた力じゃなきゃ納得できねーんだもんこいつ。     神術は要らんって言ったんしょ?     なのに白能力を持たされた。ホレ、中途半端でギャアな状態」 ルナ 「なにそのギャアって」 彰利 「知らんよ?」 悠介 「……ふむ」 確かに、それは俺も違和感として感じてたのは確かだ。 神になって、神の力は要らないって言った先から別の能力が来た。 創造だけでいいと言ったんだが……はぁ。 悠介 「tell:イセリア=ゼロ=フォルフィックス……と」 彰利 「あ、あたいにも接続させて。えーと……tell:多接続モード、と」 ルナ 「あ、わたしも」 悠介 「お前らな……あ、あー、イセリアー?そういうわけだから頼むー」 声  『え?ほんとにいいの?』 悠介 「構わーーーん!俺が許す!」 彰利 「おおマイト・ガイ」 声  『やれやれ……やはり己に厳しいところはいつまで経っても直らないな。     つくづく面倒な男をマスターに迎えたものだ』 悠介 「なんなら彰利をマスターにしてみるか?ノート」 声  『御免だな』 彰利 「うわ、即答だよこのノートブックさんてば。     ちなみに金色のガッシュで出てる“クリア・ノート”の名前には、     “消して無にする”って意味が込められてるんだぜェエエ!!」 声  『では始めるぞ?』 悠介 「ああ、どどんと頼む」 彰利 「……聞いちゃいねぇ」 彰利の言葉を余所に、俺の中からなにかが抜け落ちるのを感じた。 それを確認してから白を行使しようとしたが───反応はなかった。 声  『まったく。せっかくくれてやった能力を拒絶するなど。     やはり我らのマスターは頭が硬い』 彰利 「ほんにのう」 悠介 「提案してきたお前が言うなよ」 彰利 「ありゃ?おっほっほ、こりゃ一本取られたね」 ルナ 「なにを?」 彰利 「愛情一本」 悠介 「チヨビタか」 彰利 「チヨビタだ。ところでダーリン?     夜華さんが電撃くらったあと、ぐったりノビて動かないんだけど」 悠介 「……ありゃ?」 キツケ程度の雷撃しか発生させない筈なんだが……おかしいな。 と思いながらチラリと篠瀬の顔を覗いてみると─── 悠介 「…………」 顔を真っ赤にしながら、彰利の背中の感触に酔いしれていた。 悠介 「……篠瀬」 夜華 「《ビクゥッ!》……うぐ……は、はい」 彰利 「ありゃ?なにかキサマ!起きてたんか!」 夜華 「い、いやっ!違うぞ彰衛門!     わわわたしは断じて、貴様の背中に顔をうずめたりなど……!!」 彰利 「なにぃ!?……まったくもう、     アタイにうずまりたいならそう言やぁいいんだよぉ〜〜っ!!     ほ〜らうずまり地獄〜〜〜♪《ゾブリゾブゾブ》』 夜華 「う、わっ……!?うわぁああああっ!!!」 篠瀬が黒化した彰利の体に埋もれてゆく! しかもうずめるどころか体全体に飲み込まれることとなり─── 彰利 『サタンクロス……!!』 ポンと腹部から顔を出され、サタンクロスにされていた。 こう言っちゃなんだが、飛行するサタンクロスは異様なほど不気味だった。 当然そんなことにされれば篠瀬も…………真っ赤になっていた。 夜華 「あ、あああ……彰衛門、と……ひ、ひと……ひとつに……」 悠介 「………」 平和そうでなによりである。 ルナ 「むー……悠介は出来ないの?ああいうの」 悠介 「つい今しがた、白操術を捨てたばかりだが」 ルナ 「むー……」 声  『望むならくれてやるが?』 悠介 「いらん!……はぁ、そういえばtell繋ぎっぱなしだったな……切断」 ブチッ……。 tellを切断し、一息。 次いでサタンクロスを見るが……やっぱり顔が赤いままで、なにかブツブツと呟いていた。 呼び方云々を訊こうとしたんだが……幸せそうだからそっとしておこう。 彰利 『なーなー、ところで何処に向かってるん?』 悠介 「うん?ああ、力の解放を先に済ませようと思ってさ。     北東にある忘れられた島に向かってる。     そこに竜力を解放する泉があるって、アイルーが」 声  『グワォギィイイァアアアアゥウウッ!!!』 全員 『───』 突如として耳に届いた声に、全員が固まった。 そういえば……俺達が今している行為はなんだっただろうか。 ……思い出すまでもない、浮遊飛行である。 悠介 「だぁああああああしまったぁあああああああああっ!!!     彰利!転移!転移ぃいいいいっ!!!」 彰利 『ギャア!?こんな急に無茶言うんじゃねィェーーーーッ!!     フェルダールだと座標固定とかいろいろ面倒で───来たぁあああっ!!!』 身が竦み上がる恐ろしい声とともに、遙か遠くから飛翔せしは───宙を舞う災厄!! 空を浮く者へ問答無用で襲い掛かる紫色の躯だった!! ルナ 「あわわわわどうするの悠介どうするの!?ねぇえっ!!」 夜華 「どうするもない!来るからには迎え撃つ───お、おいこら彰衛門!!     いつまでわたしを閉じ込めているつもりだ!     これではなにも出来な───うわぁああああっ!!?」 喋ってられるのもそこまでだった。 空の遙か彼方から舞い降りるソレは、例の開幕メテオ。 すぐさまに思考のスイッチを切り替えてシールドになるようなものを創造したが……無駄。 あっさりと砕かれ、パーティーは全滅したのだった。 ───……。 ……。 神父 「おお旅人よ!死んでしまうとは情けない!!」 彰利 「ターちゃんパァーーーンチ!!」 神父 「《バシィッ!》甘い……!」 彰利 「なにぃ!?神父のくせに我が拳を受け止めただとォーーーッ!?」 神父 「ククク、いつまでもこの私が殴られっぱなしだと《バゴシャア!》ブベッ!」 夜華 「飛燕龍……-凪-」 最寄の町か村の教会で目覚めるや、賑やかなことになっていた。 彰利が放った拳が神父の左の手の平で受け止められ、 さらに持ち上げた右手の甲で手首を固定。 ガッシリと受け止められたところを篠瀬が飛燕龍-凪-で顔面を強襲。 で─── 神父 「なめたらかんでぇ!!」 でーげでーでってってってってーげでー・でーげでーでってってー♪ ……こうなるわけだ。 そうなることを予測していた俺は、ルナに目配せをすると……そっと教会から外へと 村人 「ええことしよかぁ」 ピピンッ♪《カクラット村の生徒たちだ!》 でーげでーでってってってってーげでー・でーげでーでってってー♪ 悠介 「うおおちょっと待てぇええええっ!!」 ルナ 「わっ、わっ……?なに?なになになにっ?」 村人がゾロゾロと集まってきた。 しかもどうしてか臨戦態勢。 ルナ 「ど、どうするのー、悠介ー」 悠介 「ど、どうするもこうするも───仕掛けられたなら迎え撃つのみだ!」 メキリと拳を握って村人の波へと突っ込んでゆく! さすがに斬るわけにはいかないので、熱血硬派形式でのバトルを開始! 悠介 「ナックル!《バゴシャア!》いてぇ!」 村人2「なめたらかんでぇ!」 悠介 「別になめてなんてないだろうが!それよりに後ろから《ボゴォッ!》ぶはっ!     ちょ、ちょっと待て多勢に無勢───」 ドゴドゴボゴドゴバコボゴ!! 悠介&ルナ『ギャーーーーーーーッ!!!』 戦闘モードに入った村人たちは異常とも言えるほど強かった。 途中から全力で抗ったんだが……あえなくボコボコにされ、教会に逆戻りにされた。 ───……。 ……。 神父 「おお旅人よ!死んでしまうとは情けない!」 彰利 「ところでさー、なんで俺たち、貴様に情けないとか言われなきゃならんの?」 神父 「情けないからだ」 彰利 「ギ、ギィイイイイイイイッ!!!!御用だこんちくしょう!!」 響く憎悪の絶叫! コメカミを躍動させた彰利が神父目掛けて拳を振り上げる! 悠介 「だぁあ待て待てぇっ!!その振り上げた拳でなにする気だぁあっ!!」 振り下ろされれば地獄が見えると解りきっている拳を必死に押さえる! 肩がぶつかっただけでも襲い掛かってくる異常神父だ…… デコピンでだって暴徒と化すに違いない! こいつの場合、デコピンどころか殴る気満々だが。 彰利 「一発だけ!一発だけ殴らせて!?ね!?     一発だけ殴ったらそれでマウントパンチに移行するから!」 悠介 「全然一発じゃないぞそれ!」 彰利 「立って殴るのは一発ってことさ!こげなやつに遠慮なんざいらねー!!」 悠介 「それは俺も同意見だけど言ってもしょうがないだろ!     やるなら俺達がこれでもかってくらい強くなってからだ!     こんなところで無駄に怒りを溜めてどーーーする!!」 彰利 「キャア正論!でも殴りてーもんは殴りてー!!     だから───いこうぜ、親友」 悠介 「…………はぁ」 眩しい笑顔とともに、歯をギシャーンと黒く輝かせる親友を前に、深い溜め息が出た。 しかしそれは否定の溜め息ではなく…… 面倒だと思いながらも、結局は頷いてしまう自分への溜め息だった。 彰利 「くたばれどちくしょぉおおおおおっ!!!」 悠介 「おぉらぁああああああっ!!!」 神父 「なめるな小童がぁあああああっ!!」 ……そして俺達は星になった。 【ケース514:簾翁みさお/幕間。“まくま”じゃなくて“まくあい”だよ】 ザァアアアア…… 暗く、雨が降る空の下を歩いてゆく。 ここはグニンディールの叢雲。 雷の守護竜が居るっていう、常に空に暗雲があるっていう奇妙な場所だ。 そこにわたしは─── ゼノ 「雨か。雨に濡れるという感触は初めてだが……こんなものか」 ライン「ふん?なるほど。当たった水滴が体温で温まる前に次の水滴が落ちてくる。     これでは身体が冷える一方だな。人の身体は不便でならない」 ゼット「黙れ。身勝手に付いて来た分際で騒ぐな」 ……何故かこんな方々と一緒に居ました。 みさお「あ、あのー……もう一度訊きますけど……。     ゼノさんとシュバルドラインさんはどうして一緒に付いてきたんですか……?」 ゼノ 「知れたこと。強者と戦うとそこの黒竜王が言ったからだ。     我は一刻も早く弦月彰利より強くならねばならない。     ヤツとの戦いは我の宿命だ。     ヤツと戦い全力を以って打ち負かすこと以上の喜びを我は知らん」 みさお「でも……よかったんですか?水穂さんを置いてきてしまって」 ゼノ 「愚問だ。水穂は我が何を先ずに望んでいるかを知っている。     あいつは待つ女だ。何も言うまでもなく頷く」 みさお「わー……」 ……あれ?もしかしなくても今、ノロケられました? でもゼノさんにはそういう自覚はないみたいです。 当然のことを当然に話したからどうでもいいみたいですね……平和です。 はぁ……それにしても、父さまや彰衛門さんの記憶の中のゼノさんとは別人ですね。 これが世に言うベジータ症候群ですか。 ケイオス『つまらないヤツかと思えば女房が居て、しかもその女房に甘いとくる。      驚いたね、いや驚いた。案外家庭的なのかお前』 ゼノ  「なに?家庭的とはどういう意味だ」 ケイオス『あー……アレだよほらお前。家に居る時ゃ妻のことばっか考えて、      離れてても結構考えて、……───解んねぇな。      おい女、家庭的ってなどういうことを差すんだ?』 みさお 「え?あ……そうですね。甲斐甲斐しいというか、炊事洗濯家事掃除が得意で、      いろんなことに気が利いて……      でもそれを鼻にかけないのが家庭的……じゃないですか?      ほら、お弁当とか作るのが上手な女性を家庭的って言いますよね?」 ケイオス『違うだろ。俺が言ってるのは男のこと。      男での家庭的ってどういうことを差すんだ?』 みさお 「……同じなんじゃないでしょうか」 ケイオス『家庭的な男は女に性転換しなきゃいけないってのか!!』 みさお 「違いますよ!どうしてそうなるんですか!」 ケイオス『同じだって言ったのはお前だろ?      反論あるなら言ってみろ、詳しく話そうとしなかった女』 みさお 「うくっ……むう……!」 えーと……なんでこんな風に言われなきゃならないんでしょうかね。 しかもケイオスさん、楽しんでるし。 みさお 「……男性の場合でも、      やっぱりお弁当とか料理を作るのが上手とかが条件だと思いますよ……。      というかそれ以外に家庭的って言葉がなにに繋がるのかなんて知りません……」 ケイオス『家みたいなヤツってことではどうなんだ?』 みさお 「どんな人ですかそれ!」 ケイオス『だからな、あるだろ、家みたいなヤツ。      カンガルーとかコオイムシとかヤマツカミとか』 みさお 「………」 最後のはかなり違うと思う。 ノーム 『ケイオスは言うことが飛びすぎてるのん。      もっと柔軟に考えるんだの〜〜ん』 ケイオス『柔軟ね。俺はこれでも精霊ン中じゃ一番柔軟な自信があるんだけどな』 みさお 「まあ……精霊とは思えない頭の中をしているのは認めますけど」 ケイオス『俺は面白いことが好きなんだよ。それ以外は正直どうでもいい。      どうだ?小難しいことばっか言ってる他精霊よか柔軟だろ』 夏休みの宿題をやらずに遊びホウケて、 終わりの日に適当な言い訳ばっかり並べる小学生のようだった。 ゼクンドゥス『喧嘩はいけませんよ喧嘩は。        まったく、いい大人がそんなことでどうするんですか』 ケイオス  『……ん、ああ、そういやお前も居たんだっけか、チビッコ』 ゼクンドゥス『人の……精霊の身体的特徴を呼び名に変えるのはやめてください』 ケイオス  『事実だからってそう腐るな腐るなぁ。        チビッコ度合いで言ったらドリアードとどっこいだ。        そこらへんは仲間が居るからどうでもいいだろうに。        お前とドリアード、絶対名前負けしてるよな。        先代がとっとと引退しちまったから、お前らも大変だよな』 ゼクンドゥス『引退ですか……ものは言いようですよね』 ノーム   『そうだのん。ドリアードの先代もゼクンドゥスの先代も、        とっくにフェルダールには居ないのん』 みさお   「……?」 そういえば……ドリアードは二代目だって聞きました。 じゃあ先代は?……と疑問を思ったのが顔に出たのだろう。 精霊たちは顔を見合わせると、小さく話を続けた。 ケイオス『俺とノームは違うけどな。ドリアードとゼクンドゥス……      まあ外見がまるっきりガキっぽいやつらだな。そいつらは二代目の精霊なんだ。      それってのも先代が居ないからそうなったのは当然なんだけどな』 みさお 「居ないって、どうしてですか?」 ケイオス『まあいろいろ話はあるんだけどな。早い話が死んじまった』 ノーム 『ドリアードはガイアフォレスティアの核になった宝玉の作成と、      サウザンドドラゴン封印のために自然の力を酷使して死んでしまったの〜ん』 ケイオス『んで、ゼクンドゥスは時の力でサウザンドドラゴンの時を止めることで、      ずっと世界のバランスを保ってきてたんだけどな。      それも、いつまでも続けられていられるもんじゃなかった。      ナーヴェルブラングの野郎に俺達の力が封印されてなけりゃ、      あいつも生きていられたんだろうけどよ』 みさお 「……戒めの宝玉、ですか?」 ケイオス『そういうこった。      力を封印された状態でサウザンドドラゴンを抑えておくのは酷すぎたんだよ。      だから命と引き換えに黙らせた、ってわけだ。お蔭で今は目覚める様子もない。      んで、今はこいつが時の精霊。      ドリアードと同じで、まだまだガキんちょだが』 みさお 「…………」 ふと疑問浮上。 そういえば……精霊って成長するんでしたっけ? みさお 「あの。ゼクンドゥスが小さいのは、それは解りますけど。      精霊って成長するんですか?」 ケイオス『ああ、するぞ。契約した相手が強くなれば、精霊も強くなる。      それは知ってるな?……まあそれはいいんだが、      それとはべつに、ちゃんと身体的にも成長する。      ただまあ……それをするには自分に合った      属性の地に居なけりゃいけないってのもあるが』 ノーム 『居たとしても10年20年じゃきかないんだのん。      もっとも〜〜〜っと長い時間を生きて、初めて身体も変わってくるのん。      もっとも僕らにしてみれば、人間で言う1年なんてとっても短いものだのん。      時間の感覚からして違うんだの〜〜〜ん』 ……そうなんでしょうか。 そういう話は確かに聞くこともありましたけど。 ともあれ、わたしたちは話しながら道をゆく。 守護竜の力を確かめたいって名目で訪れたここは、今も空から雨が降り続けている。 時折どころか結構な割合で轟く雷鳴は、どうしてか父さまを思い出させた。 今頃、何処でなにをしているんでしょうね。 ……と、隣を歩くゼットくんがわたしのことを見ていることに気づく。 ……や否や、ゼットくんのほうから話し掛けてきた。 ゼット「……考え事か?」 みさお「え?あ、まあ……そうですね。父さまのことを少し」 ゼット「───」 あ、顔が険しくなった。 ゼット「晦か……ククク……少しずつだが力をつけてきていると聞いたがな……。     次に会う時が楽しみだ……!全力で破壊してくれる……!」 ゼノ 「弦月彰利とともに行動していると聞いた……次会う時こそヤツを……!」 みさお「………」 とても物騒でした。 一緒に歩いているものだから声が聞こえてしまうのは仕方ないこと。 でも、だからってゼノさんまで表情を邪悪に変えるのはやめてほしいです。 ……ゼットくんの顔はもう、父さまの話があがる度に変貌してたから慣れてますけど。 みさお「……あの。シュバルドラインさんは戦いたい相手とか……居ないですよね?」 ライン「いいや」 みさお「居るんですか……」 うんざりって気分を今味わった。 ライン「怨敵というほどではないがな。     我が名を冠する剣を武器に融合させた人間が居ると聞く。     その存在を全力を以って破壊する。それだけだ。     我が名と同じ武器を振るうに値する者かどうか、それを見極めるためにだ」 みさお「うわー……」 シュバルドラインさんと同じ名前の武器を操る人間って……中井出さんでしたよね? 確か今、試練がどうのこうのでレベルが下がったとか聞いてますが…… それなのにシュバルドラインさんに狙われるなんてついてませんね……。 なんてことを思いながら小さく十字を切った。 ゼノさんとシュバルドラインさんのレベルの上がり方は異常なくらいだ。 だから二千いくつで止まっている中井出さんは、きっと近いうちに追い越される。 その時彼がどうなるのか……それを考えると、さすがに可哀相に思えてきた。 強く生きてください中井出さん。 と、中井出さんのことは彼自身に任せるとして─── 本当に、今頃なにをしてるんでしょうかね……父さまと彰衛門さんは。 Next Menu back