───冒険の書198/軌道───
【ケース515:晦悠介/未来に存在しない彼は───】 ザザァア……パシャップ……ザァッ…… 悠介 「で……どうしてまた筏かな……」 彰利 「ウェルドゥーンに行く時もこれだったんだし、ええじゃない」 特に用もないので、復活するやカクラット村をあとにした俺達は、 すぐ傍がもう海だったことも手伝って、とっとと筏を作成。 カクラットを見渡しても漁師の船しかなかったことも手伝い、 こうして波に揺られていた。 さすがに船を強奪していくわけにもいかなかったのだ。 ルナ 「ふーん……これが筏かぁ……ヘンなの」 夜華 「わたしは初めてではないが……これに乗ると嫌なことを思い出すな……」 彰利 「大丈夫!泳げない夜華さんには僕がいろいろ教えてあげるさ!」 夜華 「ばっ……馬鹿者ぉっ!!そんなっ、大声で泳げないなどっ……!」 彰利 「……泳げるの?」 夜華 「あ、やっ……いやっ……泳げ、ないが……っ」 彰利 「そうよねィェ、未来のほうでしっかりと泳げないって言ってたもんね。     懐かしいなぁ……ボラを釣りに行ったのに、     海産軟骨魚のシャークさんに襲われたのよね」 ……ああ、そういえばそんなことがあったって聞いたが。 俺はその時、神社の境内の掃除をしてたから実際には知らんが。 夜華 「そっ……そそそれにしても悠介殿!いいい今向かっている場所には、     どのようなものが待っているのですかっ!?」 ルナ 「あ、話逸らした」 夜華 「逸らしてなどいない!疑問に思ったから言っただけだ!」 彰利 (クォックォックォッ……!     嗚呼……この真っ赤になって慌てふためく夜華さんがたまらねぇYO……!) 彰利の思考がありありと見えてくるようだった。 こいつは本当に顔に出るからな……それは今も昔も変わらない。 悠介 「質問の答えだけどな。今向かってるところは忘れられた島ってところで、     地図からすると……ここ。最北東の隅だな。     地図では確認出来ないんだが、ここに島があるらしい」 夜華 「故に忘れられた島、ですか。あの、この場所にいったいなにが……?」 彰利 「フフフ……俺を忘れてもらっちゃ困るぜ?そこから先は俺が話そう」 ルナ 「忘れたいから黙ってていいわよ」 彰利 「ひ、ひどいっ!なんてひどい!!」 悠介 「俺がそれぞれの天地空間の力を回収しようとしてるのは知ってるよな?     今はもう神一本に集合させたけど、それは現実世界の力のことだ。     この世界で完全に安定させるには、それぞれの力を回収しなきゃならない。     だからな、あちこち回って力を解放しなきゃならないんだよ」 おまけに月の欠片も必要と来る。 特に月の欠片についてはなんの情報もないから、これが一番辛い。 彰利 「OH、そういや月の欠片とかも必要なんじゃよね?」 悠介 「……あ、ああ……そうだけどな」 いきなりな話である。 人がそのことを考えてる時に言われると、心でも読まれたんじゃないかって思う。 ……こいつの場合、特に。 心なんて読めやしないってのは解ってはいるんだが、 時々本気で読んでるんじゃないかって思うそぶりを見せるのがこいつだから。 彰利 「実はYO、前の夜、     貴様が眠ってる間にキサマのバックパックに届いてたものがあるの。     急にゴシャーンと光ったから取り出してアタイが持ってるけど」 悠介 「殴っていいか?」 彰利 「いぃつでも来いッ!」 悠介 「許可は得た!くたばれ親友!」 彰利 「カモン・マイサン!!バゴロシャアッ!! 悠介&彰利『はぼぅ!!』 許可を得てすぐ拳を振るう! だが彰利もすぐ拳を振るい、俺と彰利はクロスカウンターを重ねて血反吐を吐いた。 悠介 「ぐっ……ふ……!っ……いいもん持ってやがる……!」 彰利 「さすがだぜ親友……!」 血反吐をぐいっと拭いながらニヤリと笑った。 しかし敵対心が解けると、その傷もあっさり消える。 実に不思議世界で便利である。 夜華 「彰衛門……人の持ち物を奪うなど下郎のすることだ。悠介殿にきちんと返せ」 彰利 「そんな……綺麗なものだったら夜華さんに見せてあげたかっただけなのに……!」 夜華 「うなっ!?あ、いや……だがしかしな……!     そうは言うが誰かのものを奪ってまでそんなことをされてもだなっ……!」 彰利 「というわけでこれがそのアイテム、エクリプスレコーダー♪」 ぺっぺらぺー♪ 彰利が懐から取り出したソレは、まるで某龍玉を7つ集めるためのレーダーのようだった。 ……ていうか真っ赤になった篠瀬のことは無視なのか彰利よ。 悠介 「エクリプスレコーダー?」 彰利 「オウヨ!ここをピッと押すと……OHイェイ!     カケラがある場所がリュウレーダーの如くキラリと光るのだ!」 ルナ 「リュウレーダー?」 悠介 「ドラゴンレーダーだろ。わざわざひねくれた言い回しをするなよ」 彰利 「おっほっほ、まあまあそれは言いっこなしってことで。     ちなみにドラゴンレーダーの機能もあるみたいよ?」 ルナ 「ドラゴンボール……だっけ?それがあるってこと?」 彰利 「ほへ?なに言っとるの?     ドラゴンレーダーなんだからドラゴン探知機に決まってんじゃん」 悠介 「どうしてそんなところだけ常識に縛られてるんだよ!」 彰利 「バカヤロー!ドラゴン探知機なんて常識ある世界で存在するわけねーべよ!!」 悠介 「それはそうだけどなんか納得いかないぞそれ!!」 彰利 「コココ……!所詮この世は乱世よ。納得出来ることの方が少ないのさ……!」 いや……確かにそうかもしれないけどさ。 彰利   「それよりYO、忘れられた島ってまだ先なん?       結構波に揺られてると思うんじゃけど」 ルナ   「こう遅いと空飛びたくなるー……」 悠介&彰利『それだけは勘弁してください』 うんざりした声が重なった。 どちらにしろ波に揺られながらゆっくりと進むしかないわけだ。 なにせ空飛んだら、デスゲイズに襲われそうだ。 今のところ周りには居そうにないが、 飛んだってだけで敏感に反応、それが世界の裏側だろうが襲ってくる気がする。 ……気がするだけで、そんなことはないんだろうけどさ。 とりあえず小難しいことはいろいろ後回しにして、 彰利の手からエクリプスレコーダーを取り、シゲシゲと見つめる。 と…… 悠介 「……なんだいこれ。エクリプスレコーダーなんて名前じゃないじゃないか」 手に取ったソレは“月蝕機”という、ひどく単純な名前だった。 月の欠片を発見して手に入れる機械だから月蝕機……単純だ。 彰利 「なんかさぁ〜……いろんなモノがゴロゴロある中で、     大体が英語で読まれてるからさぁ〜……。     だから無理矢理だけど適当に英語で詠み仮名を振ってみました」 悠介 「無理することないだろ」 ピッとスイッチを押してみる。 ───と…… 悠介 「───………………随分遠くに一つ反応がある」 彰利 「おお。そりゃ俺も見たけど───地図からしてどこらだろね」 ルナ 「んー……」 ひょひょいとこの場に居る全員が月蝕機を覗く中、ルナが地図と位置を合わせてゆく。 すると、丁度光が点っている位置にあるものがどんな場所なのかが解った。 悠介 「……グニンディールの叢雲……?」 彰利 「およ?グニンディールって……雷の守護竜が居るっつーあそこ?」 夜華 「の、ようだな……しかも移動しているようだ。     誰かが持っていると考えるのが妥当だな」 彰利 「むう……。───ところで夜華さん?     悠介にばっか敬語使わないで、アタイにも使ってみない?     ホラ、アタイ一応旦那さまだし」 夜華 「断る!」 彰利 「あ……そ、そう……力いっぱい即答なんだ……」 気持ちがいいくらいの即答を前に、彰利ががっくりと項垂れた。 普段飄々としてるくせに、どうして落ち込む時は全力で落ち込むかね、こいつは。 夜華 「あっ……やっ───ち、違うぞ?わたしは貴様と対等の立場でありたいから、     敬語なぞ使おうものならそれこそ、近しい者ではないような気がしてだな……」 悠介 「そうか……俺は近しい者ではなかったのか……」 夜華 「ゆ、悠介殿!こんな時に茶化すようなことを言うのはっ……!」 彰利 「あのー、夜華さん?するってーとキミは猛者どもも近しい者と認識してると?」 夜華 「うなっ!?な、なにを言うんだ彰衛門!     わたっわたし、が、近しいと思っているのはっ……だなっ……!!     ひ、ひとりっ……一人だけっ、に決まっているだろう!」 彰利 「一人だけ───ま、まさかコックリーニョ!?」 夜華 「違う!」 時々というかしょっちゅう……だな。 それだけ思うことだが、篠瀬が不憫でならん……。 ほんと、ど〜してこんなヤツを好きになっちまったんだろうなぁ。 夜華 「こっくりだかなんだかなど知らん!     つ、つつつ妻として夫を最たる近しき者と思うことになんの疑問がある!」 彰利 「アイヨー。オイラの両親、クズだったけど。     アレ見たあとだとどーにも妻と夫の愛とかって心から信じらんねーっつーかYO」 夜華 「わたしの想いの量と貴様の親を一緒にするな!     確かに愚者が如く男に連れ添うのも一つの女の道だろう!     だがわたしはあんな風にはなりたくない!     わたしは、そうっ……これでも尽くす女だぞ!?     だが相手の顔色ばかり見るような女じゃない、     言いたいことは言う、伝えたいことは、その、がが頑張って伝える、つもりだ。     わたしは、その、ききき貴様のことが好きなのだからな!ととと当然だ!     いやだが、かかか勘違いするな!?だから貴様のためならなんでもするなど、     そんな愚者の極みに溺れる気などない!あああるものか!     いや……貴様が望むなら、多少は許してやらないでも……い、いややはりダメだ!     なにを考えているんだ貴様!不埒にもほどがあるぞ!自重しろ馬鹿者め!!」 彰利 「あ、あれ?なんで俺怒られてんの?」 夜華 「ううううるさいうるさいうるさい!少しは人のことを察しろ!     大体貴様はいつもそうだ!     わたしのことなど後回しで悠介殿の周りばかりうろちょろと!!」 彰利 「だって……ごめんなさい、実はアタイと悠介、恋仲なのでおじゃる……」 夜華 「───!」 彰利 「うっ……うあ……」 慌てふためき、篠瀬が何を言っているのか解らなくなってきた頃…… ノリに流されるままに彰利が調子にのって発した言葉を耳に、篠瀬が固まった。 しかも、今にも泣きそうな顔で。 彰利 「い、いやっ……いやいやいやいやウソ今のウソ!     俺が悠介と恋仲なわけないでしょ!男同士ですよ俺達!ね!?」 夜華 「くっ……いいんだ……今さらなにを言う気だ……。     気づいていた……そうだ……貴様は悠介殿と異様に仲が良くて……     わたしのことなどほったらかしで会いに行き……     わ、わたしの前では見せない笑顔を見せていたり……」 彰利 (ゲェ……!盛大に誤解されてる……!) うわー……彰利の顔面が汗まみれになってる。 冷や汗とはまた別の種類の汗だろうか。 彰利 「アイヤーそれはそのえーとこちらにもいろいろ事情が───」 夜華 「いい……もう言い訳などするな……。     もはやなにも言うまい……わたしにあるのはもう、     貴様の妻だという事実だけなのだ……。     せめてそれに縋ることくらいは許してくれ……」 彰利 「ヒ、ヒィ!ものすげぇ戦慄が今!僕の中を駆け巡る!     ちょっと待って夜華さんマジで待って!     悠介は俺の友であって愛する人じゃねぇのよ!?」 夜華 「やめてくれ!もう聞きたくない!これ以上わたしを苦しめてどうする気だ!」 彰利 「苦しめる気なんてありゃしねー!いいからお聞き!     お、俺が好きなのは!愛してるのは───!」 なんだかいつの間にか修羅場が発生してしまっている。 俺とルナはどうしたものかと傍観しながらも、 まるで先が気になる時代劇を見続けてしまう時のように、 ハラハラドキドキな状況に巻き込まれていた。 ……巻き込まれる以前に、既に二人の世界を作り出してる気がしないでもないが。 ともあれ───目尻に涙を溜め、 子供のようにイヤイヤと首を振る篠瀬の手を取り顔を近づけた彰利が、 ついにぐぐっと力を込めて───! 彰利 「───……《しゅぼむっ!》」 …………顔を真っ赤にして停止した。 どうやら……本気で好きとか愛してるとか言うのが恥ずかしかったらしい。 それでも視線を逸らしたらそれこそ大変なことになると理解しているのか、 篠瀬の目を見たまま停止。 根性があるのかないのか判断に困る光景である。 彰利 「やっ……そのっ……あ、あっ……あいしゃっしゃっ……!!」 おお!しかしそれでも必死になって告白しようとしているその姿は男らしい! 気の毒なくらいに真っ赤で震えてるけど男らしい! ルナ 「……稲作?」 悠介 「ツッコむな」 そんな光景を前にしながら、のんびり櫂をこぐ俺達は実に平和だ。 明らかに俺たちとやつらの間に見えないシールドが張られてる。 彰利 「や、やややや夜華さん?あ、あのね?お、俺……いや僕はね?」 夜華 「う……な、なんだ……嘲笑うだけでは飽き足らず、     わたしから想う資格さえ奪うつもりなのか……?」 彰利 「そっ……そんなことするか!俺はあのクズとは違う!」 夜華 「ならばなんだというのだ……これだけ傷つけておいて、     貴様はわたしになにを言うつもりなんだ……」 彰利 「傷つけたのは本気で悪かったけど、そんなつもりじゃなかったんだ!     その、俺はいつもの冗談のつもりで、からかう気満々で言っただけなんだよ!」 サパァン。 悠介 「あ、魚釣れた」 ルナ 「焼き魚っ!?だ、大根っ大根っ!大根おろしっ!」 悠介 「見渡す限りの大海原で大根を求めるな死神」 ルナ 「創って?」 悠介 「………」 俺の創造って周りから見ると、ただの便利能力にしか見られてない気がする……。 事実そう見られてるんだろうが、なんか納得いかない。 でも、ハイと手を差し出すルナに大根を創造して渡す俺は、 どこまで甘い野郎なんでしょうか神様。 ……俺も神だった。 夜華 「やめろ!もうそんな嘘でわたしを迷わせないでくれ!     もういいと言っているだろう!想わせてくれるだけで構わない!     これ以上わたしをっ……苦しめないでくれぇっ!」 彰利 「……だーーっ!違うって言ってんだろうがこの解らず屋!     どうしてこういう時ばっか耳を貸さないんだお前は!     いつもは人の言葉ばっかりに耳を利かせてるくせに     こんな時ばっか偏屈になりやがって!今日という今日は《ブチン》はうっ!?」 ……お? なにやら懐かしい音が聞こえたような─── 彰利 「ハハ……ハハハハ……アハハハハハハ!!!!     そうさその通りさ僕ホモさ!知るがいいさ僕の嫁!解して慄け僕の妻!     僕と悠介はキミが思っている通りアハァ〜ンな関係なのさァーーーーーッ!!!」 夜華 「───っ……くっ……やはり……そうなのか……!」 悠介 「………」 ルナ 「………」 (ヴォウ)
……チッ、チッ、チッ……ちーん♪ 悠介&ルナ『ちょぉっと待ったぁああっ!!』 彰利   「待たぬ!《バゴシャア!》ホギャーリ!!」 悠介   「うるっせぇこのイカレたわけ!!ちっと黙ってろ!!」 のっけからいきなり邪魔しに来た馬鹿者に制裁の拳をくらわせた! しかしすぐに振り向くと、 その顔は彰利とは思えない異常なサワヤカフェイスになっており、 立派な黒髪は異常なくらいサラサラになって、 吹いてもいない風に揺られて流れるようにサワサワと揺れていた……!! 不気味の一言に伏す。 彰利 「黙ってなんていられないさ!さあ悠介!     僕とめくるめく甘い甘ァアい学園サヴストーリーを《ザゴォ!》ブゴッ!」 ルナ 「そんなのだめぇっ!」 悠介 「ナイス貫手だルナ!」 キラキラサラサラで不気味に仕上がった彰利の喉仏を 的確に突き刺したルナに見事と素晴らしいの言葉を贈ろう! そして願わくばそのまま血ィ吐いてくたばってろ腐れ親友。 彰利 「グフフフ……平和を愛して血反吐を吐くぜ……!     だが愛だ……愛が僕を強くする……!     吐いた血も刺された喉も愛の力が癒してくれた……!」 悠介 「ただの自然治癒だから愛愛言いながら頬を赤らめて俺を見るのはやめろ!!」 彰利 「愛なんてこじつけでもなんでもいいから愛だと認めた時点でそれが愛だということ     に僕はたった今気づいたばかりのロンリーボーイ!」 悠介 「だったら落ち着けロンリーボーイ!     黒い血涙流しながら暴走するなよなにやってんだお前は!」 彰利 「妻の思考が俺の冗談と堪忍袋の臨界点を越えた!俺はもうどうしていいか解らぬ!     だからもういっそホモですってからかい続けて自分の体裁破壊してみようかと!」 悠介 「それに俺を巻き込むなぁあああっ!!」 彰利 「俺達……親友だろっ?《テコーン♪》」 悠介 「親友の縁、再度切らせてくれ」 彰利 「アレ?」 ただ強く拳を握った。 握って握って握り続け、爪が食い込み血が出るほどに握り続け、 開いた手には血を変化させた針があった。 それを無言でトスと彰利の額に刺すとジュウウウウウ!!!! 彰利 「ヒギャァアォエェエエエエッ!!!     グアァアア……溶ケル……溶ケルゥウウ……!!」 ……溶けてきた。 俺の血は神の血だ。 だから死神である彰利にとっちゃあ毒みたいなもんだ。 と、んなことはどーでもいい。 俺は痛くなりだした頭を庇いながら、絶望色に染まり、 いわゆる女の子座り状態で身体を捻って両手をついて落ち込んでる…… あー……奥方絶望スタイル?をしている篠瀬と話をすることにした。 悠介 「篠瀬?」 夜華 「………」 息を殺して泣いてた。 背中で泣いて顔で笑う……お、漢ッ……! じゃなくて……武士故なのかなんなのか、こんな時にまで自分を押し込めることないのに。 悠介 「……篠瀬。お前にだけは言っておかなきゃならないことがある……」 夜華 「《ビクゥッ!》……聞きたく……ありません……」 悠介 「いや、聞いてもらう。ていうか聞け。……俺はホモじゃありません」 夜華 「………………──────ほも、というのは……男の同性愛者のことですね……?     それは、知っています……おかしいのは彰衛門のほうなのだと……」 あの……篠瀬さん? その割には随分と間があった気がするんですが……。 ていうかなんで俺がこんな説明しなきゃいけないんだ? 世の中の事情が解らない……。 しかも面と向かってホモじゃないなんて、こんなことを真面目に言う日が来るなんて……。 神様……俺は本当に馬鹿なんでしょうか……。 ルナ 「……?悠介、泣いてる」 悠介 「泣いてる……」 今日の俺はとても素直だった。 何故って本当に辛いから。 悠介 「と、とにかくだ篠瀬。彰利が言う冗談なんて真に受けるな。     適当に流しておけばいいんだよ。どうせ口から出る大半がデマカセなんだから」 夜華 「い、いえっ!そんなことはありません悠介殿!訂正していただきたい!     彰衛門は確かに口調や態度こそふざけてはいますが、     その奥にある本心はとても暖かく美しいものです!」 クワッ!と、いっそ怯んでしまうくらいの迫力を以って声を大にして語る篠瀬! ……それを前に、俺の涙腺はついに防衛ラインを超越してしまった。 悠介 「うわぁあああんそこまで解ってるなら最初から誤解すんなよぉおおおっ!!!」 夜華 「うわっ!?あ、やっ……ゆ、悠介殿!?」 ルナ 「悠介!?」 盛大に涙。 もはや止める気も我慢する気もなく、 俺は自分の中に溜まったなにかを吐き出すかのように怒号しながら涙した。 悠介 「いつもそうだお前ら!散々ギャーギャー騒いで人を巻き込んだ上に     勝手に解決して振り回したら振り回しっぱなしで!     俺がどれだけ胃を痛めてきたかお前らに解るかぁ!解るもんかぁあ!!     俺はァアアーーーーッ!俺はよォオーーーーーッ!!」 ルナ 「あわわ悠介落ち着いて……?ね?ほら……えっと、ほら、大根返すから」 夜華 「悠介殿っ……だ、男子たるものがそのような、子供のように泣いては……」 悠介 「泣かせてるのは誰だたわけぇえええええっ!!     もういい!お前らなんか大嫌いだバッキャロー!!」 彰利 「俺は愛して《バゴドガァン!》ルバァオ!!」 世迷言を言い出した彰利を今出せる全力で殴りつけ、筏の上でバウンドさせた。 悠介 「寄るな触るなクズ野郎!そもそもてめぇがヘンなこと言い出さなけりゃ     こんなことにはならなかったんだろうが!     散々騒がれてホモ扱いされてそれを謝罪するみたいな形で説明!?     冗談じゃない!もういい!もう十分だやってられん!いいんだ俺は創造者さ!     自分の居場所くらい自分で創造してやるよ!誰にも頼らず孤独に生きてやるよ!     血反吐吐くまで創造してやるよ!もう創造しか出来ない俺だからそれでいいよ!」 夜華 「あ、の、悠介殿……?お、お待ちください……。     ともに忘れられた島とやらに行くのでは……」 悠介 「いいよ俺独りで!元々お前らあそこに用ないんだから!     ほっといてくれ!俺はもうイッパイイッパイなんだよ!!     孤独に生きるって決めたんだからもうほっといてくれ!     所詮騒ぐだけ騒いでばっかの貴様らに     胃炎持ちの気持ちなんて解るわけないんだぁああああっ!!」 デッデゲデデ〜ッ♪《新たな称号、“ライル=エルウッド”を手に入れた!》 悠介 「心底嬉しくねぇ!!」 彰利 「昔々あるところに倭の心をこよなく愛する胃炎持ちのモミアゲがおりました。     和菓子を、盆栽を、温泉を、和食を、和茶を、     人が開拓していない自然風景をこよなく愛するモミアゲ……名前は晦悠介。     好きな食べ物は和食全般、嫌いな食べ物はマヨネーズとレバー、     好きな山は磐梯山。初めての釣った魚を魚拓にして墨で殺害した経験アリ。     異様なほどの倭好きが講じてか、和食製作、和菓子製作などで右に出る者無し。     創造武器は大体英語っぽい名前で呼んでいるが、     そもそも頭に浮かんだイメージがそうさせているそうで、     本当は日本語の方が好きらしい。     英語のままイメージが出てくるのはスッピーの影響かと思われる。     一度英語で呼ぶと引っ込みがつかなくなり、     のちのものも英語で呼んでいたのだろう。     好きな動物は猫で、昔学校の裏で二匹の猫、     クサツとノボリベツ(笑)を飼ってたことがある。     神社の裏に滝壺があるもんだから、     きっと温泉もあるに違いないとかのたまって裏山を堀ったこともあり、     それが原因で遅刻してセンセにこってり絞られた経験を持つ素敵なモミアゲです」 悠介 「そうだ……京都、行こう……」 彰利の言葉に、怒りより先に悲しみが溢れ出した。 もういい……ほんといい。 どこか静かな場所で日本情緒に包まれながら自分だけの夢を見よう。 ……今は無理だが。 彰利 「うおっ!?現実逃避!?いかん!いかんぞ悠介!     俺が言うのもなんだが現実逃避はヤバイ!     人間、キレるとなにしでかすか───」 悠介 「人間じゃねぇだろお前」 彰利 「うあヒドイ」 悠介 「とにかく!俺は今から単独行動取らせてもらうからな!     もうお前らとはやってられん!」 彰利 「え……マジで?本気だったの?」 夜華 「ゆ、悠介殿……!」 ルナ 「……え?わたしも連れてってくれないの?」 悠介 「………」 本当はもうとっとと逃げたい気分だったが─── さすがにまたルナをほったらかしにするわけにはいかないとルナの手を取ると、 颯爽とその場から逃げ出した。 空を飛ばないように、足に創造した変形型水蜘蛛をつけ、滑るように。 彰利 「うおっ!?なんと地味な逃げ方!」 悠介 「うっせぇホモたわけ!沈んでしまえ!!」 彰利 「ヒィ!?なんかかつてないほどに嫌われてる!?」 いい加減、自分のやりたいことを全力でやる時だ。 けどそれを実行するには、彰利が居るんじゃスムーズにはいかない。 今こそ俺は獣人に戻ろう。 そして、獣人王とともにこの世界を変えてやるのだ! そう……野望を抱いてるのはなにも提督だけじゃない。 俺だって日頃から、自分がやってみたいことを抑えてきたんだ。 ならば今こそ───その心を解放する時!! 悠介 「いくぞルナ!目指すは忘れられた島!     まずは天地空間の力の解放をしたあと、獣人として世界を変えていくんだ!」 筏から十分離れた海原の上、滑るように海を駆けながら、背中のルナに目的を打ち明ける。 今の俺はもう目的のためなら手段など選ばん! 自分の常識の範囲のことまでは選ぶが、それ以外など一切知るもんか! ルナ 「じゅ、獣人?またやるの?……世界を変えるって……世界征服でもするの?」 悠介 「ここでなら自力で強くなった自分であいつらと全力で戦える!     どうせ戒めの宝玉全部を解放してジュノーンを弱らせても、     ジュノーンとの戦いの前に勢力をかけての戦いが待ってるに決まってる!     他のヤツがどう考えてるかは知らないが、     提督はまず間違いなく俺達を潰しにかかる!だったらどうするか!?     ───こっちも自分の勢力を鍛えて、提督を迎え撃つんだ!!     そしてその時こそ獣人こそが最強だということを身体に教えてやるんだ!     その結果が世界征服に繋がるならそれでも一切構わない!!」 ルナ 「獣人のことならホモっちも居たほうがいいんじゃないの?不服だけど」 悠介 「あいつは俺と一緒に居ないほうがまだ修行するタイプだ。     それに、いい加減周囲に振り回されるのが疲れたってのも事実だ。     だからパーティーは解散!獣人王と獣人神父と俺達だけで、     この世界を獣人色に染めあげるんだ!……というわけでルナ、これ着ろ」 ルナ 「えう?」 自分用の水蜘蛛が無いために俺の背中にしがみついているルナに、 バックパックから取り出した勧誘用獣人装備を渡す。 一方の俺はナビを開いて装備欄をいじくり、装備を懐かしの獣人装備にすると─── 悠介 『美しい』 くぐもった声とともに、久しぶりのぬくもりに包まれた。 ルナ 「ん、しょっ……と……悠介って結構、こういう子供っぽいこと好きだよね』 悠介 『心はまだまだガキだからな。……って、こらこらこらっ!     人の背中にしがみついたままなぁああにやっとるんだお前は!』 ルナ 『うや?なにって……着替えだけど。え?だからこれ渡したんじゃないの?』 悠介 『わざわざ着替えなくても装備欄いじくれば一発だろうが!     それをお前っ……誰かに見られたらどーする!!』 ルナ 『誰か居る?』 悠介 『……少なくとも精霊どもとイセリアが見てるが』 ルナ 『……《かぁあ》うん……ごめん……』 声  『いや、女体になど興味ないがな』 ルナ 『べつにいーわよぅ。わたしは悠介が───誰!?』 悠介 『ノーーーートォオ!!通信してもいないのに無理矢理話し掛けてくるなぁっ!!』 声  『そう言うな。管理者というのは、慣れてくるとこれで退屈でな。     話をするくらい構わんだろう』 悠介 『じゃあ切るな?』 声  『ふふ、さわやかな顔と声で容赦がないな、マスター。     だがまあ、そう急くな。話しておきたいことがある』 悠介 『話しておきたいこと……?』 ハテ。 ノートが改まって俺に話なんて……なんだ? ジュノーン……未来の俺絡みの話か? 悠介 (…………《ゴクリ》) そんなことを考えてしまったもんだから、知らず喉が鳴っていた。 それに気づいてか、姿も見えない語り主から小さな笑い声を頂くことになった。 声  『そう身構えるな。ルドラのことではない。     そも、今の私たちがルドラがどうと考えたところで確実に敵わん。     今はまだこの世界で己を鍛えろ。そういった力がこの世界にはある。     そして、この世界で手に入れるべき力を手に入れるべき者が得た時、     その時こそ……私たちに多少の勝率が浮上する』 悠介 『……努力しても多少か』 声  『仕方ないだろう。元々そういった架け橋を渡っているのだ。     だがそう悲観的になることはない。こちらには無駄に人数だけは存在する。     ヤツの力を分散させることが目的として、それをするには十分な人数が居る』 悠介 『……居るが、力がなければ意味がない……んだろ?』 弱ければ足止めにもならない。 だから俺達はここでたっぷり力を手に入れる必要があるんだ。 声  『その通りだ。故に互い同士戦い、己を高めてゆけ。     モンスターとの戦いも必要だが、     ルドラが出すものが幻獣やモンスターだけとは限らん。     近しい者、愛しい者、親しい者……     そういった者の影を容赦も無く出してくるだろう。     その時、躊躇しようが殲滅できるだけの覚悟をつけておけ。     そのための“対人バトルシステム”だ』 悠介 『え……ノート、お前……』 声  『……未来など、見えないほうが楽しいのだろうがな。     見えるものは仕方が無い。生憎と今は我々が敗北する未来しか見れないが……     ようは、あとは汝らの努力次第だ。     我々の敗北が揺るぎの無い運命だというのなら、そんなものは破壊してしまえ』 悠介 『………』 言われるまでもない。 運命破壊を幾度も望んできた俺達だ…… これから先に待つものが運命なのだとしたら、絶対に超えていかなきゃならない。 これから様々なものに負けることになろうが、運命に負けるのだけは我慢ならない。 悠介 『けど、“人型を斬り捨てる”のを躊躇わせないための対人システム……か。     人型と戦う未来も見えてたのか?』 声  『ああ、その通りだマスター。モンスター相手ならば容赦なく斬れるが、     人型というだけで躊躇する者がぞろぞろ見えた。あれではダメだと断じた故だ』 悠介 『……そか。はは、まあ提督あたりは躊躇せず斬り捨てそうだけど』 頭の中で、提督が黒相手に暴れまわる姿がイメージされた。 俺の中の勝手なイメージだけでも自由奔放、手段を選ばない戦い方は顕在だった。 声  『───……ふむ。……本題はそのことなのだがな、マスター』 悠介 『うん?』 が……ふと。 声調を変えたノートの声が耳に届くと、 どうしてか……小さく笑っていた筈の俺の顔から笑みが消えていった。 声  『……ルドラとの戦いを前に、中井出博光は……その場に存在していない』 悠介 『───!……え……?』 ルナ 『え?』 待……て……?今……なんて……!? 悠介 『ノー……ト……?今……』 声  『聞こえただろう。ルドラとの戦いを前に揃った者達の中に、     唯一……中井出博光だけは存在していない』 悠介 『そんなっ、ちょっと待て!その未来じゃ提督───中井出が死んでるってのか!?     どうして!なんでそんなことにっ!!』 声  『そこまではまだ解らん。視えるといっても全てが視えるわけじゃない。     視えないはずが無いんだが……ふん、どうやら相手側に妨害されているらしい』 悠介 『っ……』 そんなことが……中井出が死んでる……!? いや、死んだって決まったわけじゃない。 なにか作戦があったか、重症を負ったかでその場に居ないだけで…… そうだ、死ぬわけが───………………本当に、そうか? 悠介 (………) 中井出は……人間だ。 俺達の中で唯一の、純粋な地界人。 他の世界の存在と違い、致命傷を負えばあっさりと死んでしまう命だ。 神界冥界空界天界の回路を持つ者の回復は速い。 致命傷でも手当てが早ければ助かるだろう。 だが、地界人にはそれがない。 傷を負って、手当てをしなければそこが腐って死ぬことだってある。 そして……この世界は精霊たちによって管理されてるお蔭で、 傷を負おうが治り、死んでしまおうが蘇れる。  ───でも……例えば、その力が相手側の精霊たちに乗っ取られでもしたら? ……寒気がした。 けど……それはやらなきゃいけないっていう心からくる震えがもたらしたものだ。 悠介 『……強くならなきゃいけない。     誰かを守るためじゃなく、自分の身くらい自分で守るために』 声  『そうだ。それを全ての冒険者が出来るようにならなければならない。     他に気を取られれば真っ先に殺される相手だ。故に励め、努力しろ、経験を積め。     汝には空界での経験が確かにあるが、     その大半はソードや朋燐といった、他の者と合わせた技術がものをいったものだ。     汝個人の技術はまだまだ伸びるだろう』 そう、限界なんて設けなければいい。 創造者はイメージを武器にする。 想像は自由だ、制限なんてそれこそ存在しない。 故に、越せぬ壁など我が身に在らず、我が意志こそが無限の自由。 声  『もう知っていることだろうがな……創造者に壁は無い。     あるとするなら己の意志自体だ。     それを超えられた時点で超越者に至り、枷を外し続ける者を凌駕する者と唱える。     一度、汝はそこに至ってはいるがな。     だがそれは汝の力のみで至れたものではない。     天地空間の回路、精霊の加護、創造世界の保護……     様々なものが重なった上で可能だったものだ。     汝がこれから目指すものは、それを神の力のみで至ること。そうだな?』 悠介 『ああ。今度は自分の力で限界の先へ行ってみたい。     ……っていうよりは、周りが強くなっていってる中で、     自分だけ置いていかれるのが嫌だ、っていう意地みたいなのがある』 声  『なに?……まったく、つくづく子供だな、我らのマスターは』 呆れたような声が耳に届く。 ルナも俺の背中で呆れたようにハフゥと溜め息を吐いている。 ……悪かったな、子供っぽくて。 けど、それが今の俺の望みだ。 一所懸命に強さを求めて、あいつらと思いっきり戦ってみたい。 これは……いわゆる彰利との約束と似てるんだ。 もちろん約束なんてしたわけじゃないけど───一度、強くなれるだけ強くなった自分で、 強くなれるだけ強くなったあいつらと思いっきりぶつかり合いたいって、そう思う。 ……あいつらは友達だ。 本当なら気味悪がって距離を置くであろう俺達を、あんなに真っ直ぐに見てくれた。 でもありがとうを言うには照れくさいし、なんだからしくないって……そう感じる。 だから全力でぶつかって、全てを出し切ったあとに笑い合いたい。 それが出来たら……俺は心の底から、あいつらと笑い合える気がするんだ。 悠介 (……死なせなんて、するか……) それなのに提督が死んでしまうなんて未来が来たら、俺はきっと絶望する。 犠牲なんて出させない。 そのために、俺達はもっともっと強くなって…… どんな敵が来ようが立ち向かえる強い意志を持たなきゃならない。 義務がどーだなんて関係ない……強くなりたいから強くなる! 強くなって、提督に襲い掛かってブチノメして、その悔しさをバネに強くなってもらおう! ……お?お───おお!そうだよそう!いい作戦じゃないかそれ!いけるぞこれ! 提督が強くなれて、俺も日頃の鬱憤を晴らせ───ゲフッ!ゴフゲフッ!! い、いやなんでもない!なんでもないぞ〜ぅ!? 悠介 『よし!俄然やる気が出てきた!     ───ノート!ルドラがどう出ようが俺には関係ない!     俺達は俺達に出来ることを全力でやって、     さらにその中に存在する常識を破壊しながら相手の裏を掻いて成長するだけだ!     ルドラたちがとんでもなく強くて、今の俺達がどう足掻こうと勝てないなら───     どんな手段を使ってでも強くなって、超えていくだけだ!     何故ってそれが原ソウル!常識だけでは語れない!』 ルナ 『ん〜……それって悠介も卑劣に生きるってこと?』 悠介 『自分の良識の範囲で思う存分にだ!』 というか、なんだ、ルナ? 悠介“も”ってことは、お前の中じゃ原中はそこまで卑劣要素が確定してるのか。 ……まあ、卑劣で外道の衆なのは認めるが。認めざるを得ないが。 声  『ああ、好き勝手にやってみろ。私たちの命、汝らに託そう。     正直、地界の人間がどうなろうと知ったことではないが───     マスター、汝の周りに居る者らは嫌いではない。     どうせ勝てなければ全員死ぬのだからな、     こういう状況を逆に楽しんでみるのも一興だ』 悠介 『物騒なこと言うなよ───っと、島が見えてきたな』 地図の位置からすると……ん、間違い無い。 地図に載ってない島ときたら、きっとあそこが忘れられた島だ。 悠介 『じゃ、切るぞノート。なにか言っておかなきゃいけないこととか、あるか?』 声  『ふむ……ではひとつだけ伝えよう。“白”よりも速く動けるようになっておけ。     相当に難しいことだろうが、諦めれば汝が死ぬことになる』 悠介 『俺が……?』 白より速く。 つまり閃足よりも早く動けるようになれってことだ。 難しい注文をしてくれる。 それも、随分と意地の悪い注文だ。 死と天秤にかけられたなら、出来るようになるしかないじゃないか。 悠介 『死ぬことになる、って……俺、誰かと戦ってるのか?』 声  『黒だな。それしか視えないが、ルドラではない黒だ。     無論、弦月彰利でもない。恐らくはルドラが仕掛けた者だろう』 黒……ルドラが自分の体に内包している何かか。 白より速くってことは相当に速い相手だ。 ウィルオウィスプ……か? 光の精霊とはいっても、黒に内包されてしまえば黒になる。 光の精霊であるウィルの速度は、ルドラの力もあって相当なものになってるに違いない。 ……なるほど、確かに“白”より速く動けるようになる必要はある。 たとえ相手がウィルじゃなくても役に立つ。 ……と、そうこう考えているうちに島へ辿り着いた。 声  『ふむ。ではな、マスター。せいぜい強くなれ。     汝が後悔しない程度に、強くなってみせろ』 悠介 『ああ、言われるまでもないさ。男なら強くなりたいって思うのは当然だ。     少なくとも、同じくレベルを上げてるやつらには負けたくない。     今度会う時は俺が一番レベルが高い存在になってやる』 声  『……やれやれ、まるで子供の意地の張り合いだ』 悠介 『子供で結構!童心を忘れた大人なんてつまらないだけだ!     いくぞルナ!まずは竜力の解放だ!エイオー!』 ルナ 『えいおー!』 ルナとハイタッチをして元気に走りだす! 後のことは後のこと! 人間ってヤツは結局、今を生きることしか出来ないんだから、 後のことは後になってから考えるしかないのだ! けど、やれることはやっておいて損は無し! これぞテリー家に伝わる精神、ゴーフォーブロォック!当たって砕けろだ! ルナ 『あはは、悠介、今日はなんだか元気だね』 悠介 『そうか?───そうかもな。ああ、そうだな、そうだとも』 一言一言を自分に言って聞かせるように、堪えきれない笑みとともに吐き出した。 ……確定だ。 俺は、このどうしようもない袋小路みたいな状況を楽しんでる。 だって、みんなの努力次第でどうにかなるかもしれない状況なんだ。 だったらみんなで、みんな同士で高め合って乗り越えていきたい。 俺一人じゃ絶対に無理だろう。 でも……みんなでなら出来る……そんな気がするから。 悠介 (俺の未来くらいなら、俺一人でも開けるかもしれない……でも) みんなの未来はみんなのものだ。 俺がどうこうしたところで、きっとなんとか出来るものじゃない。 だったら……そう。みんなで、力を合わせて切り開いていこう。 いつもいつも、最後は俺と彰利だった。 でも、今回は……今回だけは、みんなの力で、運命に抗って。  走り出そう。俺達が、俺達の未来を切り開くために───! ───……。 ……。 で…… 悠介 『……ここはいったい何処なんだろうな』 ルナ 『知らない……』 早速道に迷った自分たちに、軽く絶望を憶えた俺であった。 だって……この島、本当に地図に載ってないし、島の地図自体もないから……。 俺とルナは、密林とも呼べるくらいの鬱葱とした森の中、 人の手が一切加えられていない超・自然の前に、呆然と立ち尽くすしかなかった。 神様……俺は本当に馬鹿なんでしょうか……ってだから俺も神だって……。 Next Menu back