───冒険の書207/VS光天龍(再々)───
【ケース527:中井出博光(再々)/光天龍バトル2】 ゴォオオオオッ───!! 田辺 『速ェエエエエ!!!ど、どうする提督!!横に避けて───』 中井出「漢なら真正面!!かかってこいやぁ!!」 田辺 『何処まで無鉄砲なんだテメェエエエエッ!!!だが最高だぜ提督』 迫り来る光天龍!! 迎え撃つは我ら素晴らしき2人! ……力の差は歴然だが、だからといって我らが逃げる理由は無し! ほんとはありまくるけど無しとしておこう! 何故なら───戦う覚悟などとっくに決めてあるからだ! ホーリードラゴン『クォオオアァアアッ!!!』 中井出&田辺  『どぉおっせぇえええええええい!!!』  ゴギヴォバババババォオオオンッ!!!! 中井出「いっ……ぎがぁあああああああっ!!!」 田辺 『ぬっ!ぐっ!がぁうぁああああああっ!!!』 突き出した双剣を伝い、巨大な鉄球でもぶちかまされたような衝撃が身体を襲い続ける。 雲の上を滑るように押しやられ、足が雲を削るように地を奔って───くそ! なんだこりゃ……!地盤がしっかりしねぇっ……! 踏ん張っても踏ん張っても、ホーリードラゴンを圧し留められねぇ!! 田辺 『ッ……!この野郎ォオオオッ!!今まで突っ込んでこなかったのは     冷静にここらの状況を調べてたからか!!』 中井出「空界で言う知性竜みたいなもんか!?この頭でっかち野郎!!     男なら何も考えずにかかってきやがれ!     ───そしたら散々翻弄してブチコロがしてやるから!」 田辺 『まさに外道!!《スボォン!》ホワッ!?』 中井出「なんだとぐわぁあーーーーーっ!!!」 弾力のある雲を撒き散らし、滑っていた足が空を切る。 そう、雲に地盤があった地点を通り過ぎてしまったのだ。 のちに待つものは落下。 分厚い雲を突き破り、速度を高める龍に押しやられながら地面へと落ちてゆく。 中井出「やべっ……!」 この野郎、このまま俺達を地面に叩きつけやがる気だ───! じゃなければ、ぶちかましがガードされたってのにいつまでも押してくるわけがない……! 田辺 『提督!こいつ───』 中井出「うむ!解っている!───ちと押さえるの頼む!」 田辺 『えぇっ!?いやちょっ……無茶……でも苦茶でもやってみなけりゃ解らんか!     よっしゃあ任せとけ!根拠はないけど任された!!』 中井出「うむよし!それでこそ原中!───っせい!《ガカッ!》」 落下しながらも押されているという嫌な状況を前に足を伸ばし、 ホーリードラゴンの鼻先を押さえるようにして踏ん張る。 そうしてから双剣を長剣に変換───すぐに鞘に納め、 テオスラッシャーをエジェクション。 既に二分が経過していることを確認するとアイテムマグニファイを発動、 ソーサラーリングから闇属性を引き出し、 テオスラッシャーに付加させるとすぐさまジークフリードに武装融合! 鞘から抜き取ったそれを両手で持ち、極上ガイアスマイルで狙いをつける!! ホーリードラゴン『……闇の波動?それをどうする……っ!?き、貴様まさか!!』 ホーリードラゴンが俺の意図を読み取って驚愕する! だが既に時遅し!今さらどう足掻こうが、貴様はもう止まれぬ!! 中井出「ワハハハハ!!そのまさか(・・・)よっ!うぅらぁっ!!」 そうして僕は、恐怖で慄く光天龍の顔にガイアスマイルを返しつつ─── 光の守護竜が最も苦手とするであろう闇属性を纏ったジークフリードを、 目の前にある立派な“鼻の穴”へとズゴォッシャアアッ!!! ホーリードラゴン『ッ……!グギャァアアアアア!!!』 途端に響き渡る絶叫!! そしてあんまりに近くで聞きすぎたために耳を傷める我ら!! だが今!耳を塞ぐよりもよっぽど大事なことがあることを僕は知っている!! 中井出「くらえ聖子(ホリィ)さん!!属性解除ォッ!!」  フォガッファボガガガガォオオオンッ!!!! ホーリードラゴン『ガグギギャアアアアッ!!!?』 鼻の穴に突き刺したジークフリードから、込めた属性を一気に解放!! それはストームドラゴンの風を相殺した時のように勢いよく剣から外れると、 発射という言葉が一番的確であることを示すかのように、ホーリードラゴンの頭部を襲う! ……悲鳴は当然だ。 弱点である属性を頭の中に叩き込まれたんだ、 これで平気で居られたなら逆にこっちが驚き果ててしまう。 とはいえ、 中井出「うおぉあわぁああぉぁあああっ!!」 田辺 『うおおおおおおっ!!?』 闇の爆発に怯む光天龍。 それとともに圧する力が俺達の前から離れ、俺達は虚空に投げ出された。 見上げれば、苦しみもがくホーリードラゴン。 見下ろせば、押されていたこともあってか、間近に迫る大地───!! このまま落下すれば無事ではすまないだろう。 風を起こそうにもアイテムマグニファイは使ったばかりだから、 ソーサラーリングを使って風を起こすなんてことは出来ない。 風切りの刃をエジェクトしても同じだ。 鎌鼬は出せるが、人一人の体を支えるほどの突風を出せるわけじゃない。 どうする───!?……って、田辺ニ等に空飛んでもらうしかあるまいよ!! 中井出「たなウオォオオオーーーーーーッ!!?」  ゴヴァアッシュゴンヴァヴァヴァヴァヴォオオオンッ!!!! ホーリードラゴン『グギャァアアォアァアアアッ!!!!』 田辺      『もらったぜその右目……!          フハハハハ!!隙あらば撃つって言っといただろうがぁ!!          これで貴様は《ビキィ!》いっでぇええええーーーーっ!!!          なっ……ななななんだこれっ……!体がっ……!          妖魔化が解ける……!?な、なんで……勝手に……!!』 怯んだホーリードラゴン目掛け、ストックを解除し炎魔葬竜弾を放った田辺。 放たれた紫色の巨大な炎は確かにヤツの右目に直撃し、視力を破壊したというのに─── どういうわけか、田辺の様子が豹変した。  ガカァン……!《能力限界!妖魔化が解除されてゆく!》 田辺 『能力限界……!?《ビギィッ……》っ……そんなっ……」 中井出「───!」 田辺の妖魔化が完全に解けた───それも勝手にだ。 ……そうだ。 いくら妖魔の血肉を受け入れたからって、田辺は元は人間だ。 妖魔化だってつい最近使えるようになったばかりであって─── こんな、何度も完全妖魔化やフルパワー攻撃が使えるほど慣れてなんかいなかったんだ。 だからここに来て能力限界が───! ───田辺はやがて静かに気絶し、 なにも言うこともなく、俺とともに地面へと向かってゆく。 って……え?それじゃああのー、 誰が空飛んでこの落下状況を打破してくれるんでしょうか……。 中井出「うっ……うおおおお!!?死ぬ!死んでしまう!どどどどうすればぁあああ!!」 焦りを口に出して暴れまわる! ……だが状況はてんで吉に向かいやしない。 中井出「───そ、そうだハウリングナイフにマグニファイ使って衝撃波を……     いやもったいないだろそれ!……ああっ!     命がかかってるのにもったいないとか言ってる場合じゃないのに、     なにか打開策があってほしいと粘り強く考えてしまう自分が馬鹿らしい!」 考えろ!考えるんだ、俺! なにか、なにかある筈だ! 俺が忘れたなにか……忘れてしま───いや待てよ? 中井出「ようこそ頭痛!器詠の理力発動!     ───ジークフリードよ!俺に……俺に英知を授けてくれ!」 ジークフリードに意識を通し、情報を求める。 自分に理解できないことを誰かに訊くことは恥ではない─── そして僕はその情報を武器にこそ訊きたい! 他のなにものでもない、命を預けるキミに! すると─── 中井出「───あっ……あ、あー!!」 そうだった……俺にはあれがあった! 自分で見たわけじゃなかったから思い出せなかったけど─── 中井出「っ!!」 やがて鮮明になってきた地面を前に、 ジークフリードを双剣に変換すると鞘に納め、 田辺を引き寄せてカニ挟みをするようにしっかりと足でキャッチ! 中井出「いくぞっ……力を貸してくれ!!」 そしてジークムントとジークリンデからある武器をエジェクトし、心の底から全力で叫ぶ! 中井出「浮上しろ!テオブランド!!」  ギキィンッ!ゴファァアアンッ!! 中井出「ぬっ……!ぐ、くぅうああああああっ!!!」 落下の勢いと、浮上の力とを地面を目の前にしてぶつけ合う!! そう……俺にはマクスウェルのじーさんに埋め込んでもらったこれがあったんだ……! あの日、鍛えてもらっただけど勘違いし、あとで知った浮遊石の奇跡。 ジークフリードに鍛ち込まれ、霊章輪ニーベルンゲンとして完成した武具。 浮遊石として鍛ち込まれただけかもしれないし、 テオブランドとして鍛ち込まれただけなのかもしれない。 けどどちらにしろジークムントとジークリンデの中で テオブランドとして存在していたそれを手に、俺はただひたすらに意識を託し、 敵でもなく己の弱さでもなく……自らにかかる落下速度のみを殺し続けた───!  ゴ……オォオオオオッ───!! 中井出「止まれ……!止まれ止まれ止まれ止ま……れぇえええええっ!!!」 落下する。 全力で落下の勢いを殺しているのに、 二人分の重みは浮上をそう簡単に許してくれない……! 中井出「ちっくしょ───!くあぁああああああっ!!!」 だが間に合わない───! このままじゃ地面に激突しちまう! だったらと、俺はカニ挟みにしていた田辺をより引き寄せるようにして、 やがてくるであろう衝撃に備える───! 中井出「っ……うおおおお!!大江戸ドライバー!!ドグオシャアアアアッ!!! 田辺 「げびゃあああああああああっ!!!」 そして……とうとう地面に僕らが落ちた頃。 シリアス空間から一変、僕の下で田辺くんが潰れていた。 中井出「危なかった……!(俺が)」 自分の両肩を掻き抱くようにして涙した。 大丈夫、勢いは可能な限り殺したさ。 だから……ホラ、見てごらん……? 田辺くんも痙攣してるけど塵になってないよ? 田辺 「で……で、でい、どく……でめぇ……!!」 中井出「おお!気がついたか田辺ニ等!くっ……すまない……!     貴様を気絶から救うキツケのためとはいえ、俺はなんてひどいことを……!!」 田辺 「キツケっつーか自分が助かりたいだけだったんだろうが!     気絶から救うどころか自分の身救ってるじゃあねぇかぁっ!!     うぅおっ!俺体力残り4だよ!ある意味で死だよ!もうちょっとで死んでたよ!」 中井出「やったな!普通なかなか出せないぜ!?」 田辺 「どこまで素でクズなんだてめぇえええ!!」 彼はとても元気だった。 うん、とりあえずだ。 用を終えたテオブランドを、一度その美しさにホゥ……と溜め息を吐いたのちに武装融合。 油断ならんと、取り出した双剣をジークフリードに変換し、右腕に持ったまま、 お詫びとして僕のポーションを無理矢理ガヴォガヴォと飲ませた。 田辺 「《とくとくとくとく》うごっぷ!ごぼえぇっ!ま、待てごぶぁっ!!     そぶな一気に飲めっ!ぶぼっ!ごぶぼばっ!!」 中井出「すまなかったなぁ田辺ニ等……これはせめてもの僕の気持ちさ。     残らずお飲み?こぼしたらシメる」 田辺 「無茶言うなぁああっ!!」 やっぱり彼は元気だった。 この調子なら全快も早いに違いない。 というわけで俺は空を見上げ、ホーリードラゴンの様子を見た。 ───暴れるのはやめたみたい……だけど、まずいな、物凄い殺気だ。 俺達に対する威圧感っていうのか?それが異常なくらいに膨れ上がってる。 田辺 「げぇっほごほ!うえっぷ……OWEEEE(オヴェエエエ)……!!」 中井出「あっ!なに吐いてんだてめぇ!!人がせっかくあげたポーションを!」 田辺 「う、うるせー!あんだけ一気に飲まされて平気でいられるわけねぇだろうが!」 中井出「キャア!田辺ちゃんたら鼻からポーション出してる!     ……ノーズポーション《ポム》」 田辺 「あだ名を思いつけて良かったっていう風に輝かしい顔で人の肩叩くなよ!!」 なのにどこまでも緊張感の無い僕らだった。 やっぱり人間、どんな時でも楽しめる時は楽しんでおかねば! 田辺 「よ、よーしよーし!じゃあ俺がノーズポーションなら提督はエロスだ!」 中井出「ぐぬっ!ぬ、ぬう……!     で、でもさ、そのー……男ならエロスに走るのは当然というか」 田辺 「例えばさ、子供の頃にエロス否定してた人が大人になってエロス肯定、     というかエロスに目覚めたらどう思う?」 中井出「てめぇそれ納得したら全力で俺をエロスにする気満々だろ」 田辺 「当たり前だ!見縊るな!!」 中井出「ええいナイス原ソウル!」 田辺 「愛とエロスが無ければ人類は滅亡していた!     ならばエロスはむしろ誇るべきところなんじゃないか!?     エロである自分を誇るべきでは!」 中井出「でもね、僕……伊藤誠の所為で正直エロスに対して物凄い嫌悪感が……」 田辺 「ごめん……なんつーか勢いに任せて言い過ぎた……。     ごめん……本当にごめんなさい……」 エロければいいというものではないことを、僕らはSchoolDaysを通して知った。 中井出「解ってもらえたところでGO!!     エロスを肯定したってことはそれだけ大人になったってことさ!     でも同じ18禁でもエロ本読むのとエロゲーやるのとじゃあ、     正直重みが違うと思わない?俺、エロ本読むほうが勇気が必要だったし」 田辺 「あ、それ解るかも。エロゲーっつったって、     普通の会話パートとかもあるしカムフラージュ出来るから。     でもエロ本はまんまエロがぎっしり言い逃れ不可能なある意味デスノートだし」 中井出「そうそう。俺はエロビデオ見るほうがむしろ清々しかったけど」 田辺 「人前で堂々とエロビデオ見れるの、俺達の中じゃ絶対に提督だけだって……。     桐生センセに子供の産まれかた教えるために、     堂々と一緒にエロビデオ見た時には本気で大驚愕したぞ?     あそこまで清々しいんじゃもう尊敬の域だ」 中井出「いや……でももうエロマニア言うのやめてね?僕もうエロス卒業したから。     あの頃はほら、いろいろと欲求不満だったし、     エロスの悲しさにも気づいてなかったからさ。     思考映像化能力で自分の妄想具現化した時、どれほど虚しかったか……」 田辺 「いや、あれはあれでスゲーと思うけど」 中井出「そういやイセリアさんにもリヴァイアさんにもそう言われたなぁ。     この短期間でこんな式を編み出すとはー、って。     ……でもね、ほんとね、冷めるのよ。     頭の中でイメージしてごらん……?自分で象ったおなごにさ、     あはーんとかうふーんとか、いやぁあんとか言わせてるの。     俺はね、それを映像に出した時、これでもかってくらい後悔したんだ。     もう泣いたね。血の涙だって流せそうだった。     エロゲーとかのシナリオを書いている人は、     ある意味自分を消してるのかなって本気で思ったくらいだ……」 田辺 「ああ……うん……前にもそんな話を伝え聞いた気がする……」 中井出「あの虚しさといったらなかった……!悲しさといったらなかった……!     そしたらエロ本もエロビデオもエロゲーもなにもかも、     そういった苦悩が混ざったものなのかもって思えてきて……!」 田辺 「て、提督……もういいから……もう十分だから……」 中井出「そしたら頭ン中で“そこダメェエ”とか“イクゥウ”とか言わせてる自分が物凄く     虚しくなって!女が悦ぶセリフを言わせて喜んでる自分がどうしようもないダメ人     間に思えてきて!でもそれじゃあエロ好きとしてはダメなんだって言い聞かせて!     だからもういっそのことホモという未知のジャンルを具現してみようとして俺は!     俺はぁああああああっ!!俺はよぉおおおおっ!!」 田辺 「悪かった!俺が悪かったから!帰って……帰ってきてぇええええっ!!」 中井出「俺はっ……おれは……あの時汚れてしまったんです……。     男だからエロスに走らなきゃいけないなんてこと、本当はなかったのに……。     男はエロくなきゃいけないなんてこと、なかったのに……。     僕はあまりにも狭い視線で男女を見すぎていたんだ……。     女よりも夢を選ぶ漢なんて結構居た筈なのに……     僕はなんて小さな男だったんだ……」 田辺 「いや……ある意味デケェよアンタ……俺にゃあ到底真似できねぇし……」 涙で前が見えません。 でも悲しみの末に力が抜けた僕はドタリと仰向けになって倒れた。 その拍子に涙も散り……見えた青空がとても広く見えた。 中井出「……広いな……。世界はこんなにも広いのに……     それに比べて僕は、なんてちっぽけな男だったんだろう……」 でも今はあの頃とは違う。 エロスを肯定して、その上でエロマニアではないと、男として胸を張ることが出来るんだ。 そして僕は愛していける。 無限に広がるエロスの中の女性たちではなく、一人の妻だけを愛していけるんだ。 気にするなジョルノ……俺は男として、 そうなるべきだったところに……戻るだけなんだ…… 一人の女性を愛すという、本来の男の姿に戻るだけ………ただ元に…… ジョルノ……オレは……生き返ったんだ…… あの日……空界で、エロという名の悲しみを知った時…… 伊藤誠という超悪外道をこの眼で見た時に………… ゆっくりとエロに支配され……死んでいくだけだった……オレの心は…… 生き返ったんだ……あの能力……あのアニメのおかげでな………… 幸福というのは、こういうことだ………… 一人の女性を愛し続ける……そう……これでいい、気にするな………… みんなによろしくと言っておいてくれ………… ジョルノ……それでいい…………気にするな…………それで…… ジョルノ……オレがエロスを肯定しながらも……一人を愛すること…… ここに到達したことが……完全なる勝利なのだ…… これでいいんだ全ては……エロスとは……“底無き欲望”だ………… オレはそれを自らの中から解き放つことができた……それが勝利なんだ………… 田辺 「や!なんか清々しい顔で眼ェ閉じてるところ悪いんだけどさ!来た!来てる!     ホーリードラゴン突っ込んで来てる!!」 中井出「ヒィ!?うおおアホか俺!     つーかなんでほんとこんな状況でエロ話してんだよ俺達!」 田辺 「俺達っつーか主に提督だろーがこのエロ仙人!!」 中井出「言い出してきたのはてめぇだろうがエロ伯爵!!」 常識破りもほどほどにせんとほんと死ぬわ!! そんな心を胸に、しかし懲りるつもりもない僕は、 ガバリと起き上がると一生こんな調子で生きてやるという意志を刻み、 狂ったように走りだした!  キシャゴバァアアン!! 中井出&田辺『でぃやぁああぉああああああっ!!』 何故ってそりゃもう!既にレーザーが吐かれていたからである! 俺と田辺はモンスターハンターのキャラのようにシュゴーと妙に滞空時間のある回避をし、 ───爆発に巻き込まれて吹き飛んだ。 そうですね、あんなんで完全に回避できれば、世の中誰も死にません。 でも同じ“ゲーム世界”だからと期待しなかったと言っては虚言になりますごめんなさい。 田辺 「いぢっ……ぐへっ……!」 中井出「た、田辺!?し、死ぬな……田辺ぇえーーーーーっ!!」 田辺 「ただ脇腹打っただけだからそんな今すぐ死ぬみたいに言うなよ!!」 俺とともに爆風に吹き飛ばされた田辺は、 ゲホリと血を吐きながら元気にそうおっしゃった。 ……やっぱりポーション程度じゃあ完全回復とまではいかない。 さっきのダメージが大きすぎるんだ。 中井出「くっ……田辺二等……!何故この博光を庇うようなことを……!」 田辺 「おぉおおお!?お前がそれ言うかこの野郎!!     人を勝手に大江戸ドライバーで潰しといて言うことがそれかぁああっ!!」 中井出「フフ……他の誰が言わずともこの博光は言う……ああ、言ってやれるんだよ……!     誰もがお前に言ってやれなくても、俺だけは……俺だけは言ってやるから……!     だから諦めるな!諦めずに立ち上がれば、きっと僕らも───!!」 田辺 「無理矢理感動話っぽく進めんなァア!!って来た来た来たァアアッ!!」 中井出「なにぃ!?ってうぉわあああああっ!!」 振り向けばそこにある巨大な顔! 地面を削って突っ込んできたソイツは、真っ直ぐに俺───じゃない!? 俺は咄嗟に右手に持ったジークフリードを左手に投げ渡し、 中井出「くそっ!───田辺!!」 田辺 「え《バガァッ!!》ぶっはぁっ!?」 ───田辺が吹き飛ぶ。 巨大な顔を前にして、───俺の目の前から。 中井出「《ゾブシャアッ!!》っ……ぐあぁああああああっ!!!」 そして俺は、田辺を殴り飛ばした右腕と、咄嗟に後方に逃がした頭部を残し、 深く深く、臓器が潰されると確信できるほどに深く、己が身に牙を突き立てられた。  ───こいつが狙ってたのは田辺。 恐らく、妖魔と化し、幻魔と炎魔葬竜弾を操るこいつに少なからず恐怖したのだろう。 もしくは、焼き潰された片目の恨みか。 声  「提督!?提督ぅっ!!」 地面から離れてゆく。 俺に噛み付いたまま空へと昇るそいつにいざなわれ、 身体をまともに動かせないままに、高く、高く…… ホーリードラゴン『愚かだな……先は下敷きにしてまで己を優先した貴様が。          何故今さらになってヤツを助けたのか理解に苦しむ』 ぐちゃり、ぐちゃりと音がした。 逃がすつもりはないのか、細かく歯を浮かせては喋るそいつを前に、 傷口が抉られ、放たれる吐息で体が震わされ、身体に言いようのない激痛が走る。 ……けど、愚か? はは、愚かか。 中井出「は、ははっ……解ん、ねぇ……野郎だな……!俺達は……互いに遠慮しねぇ……!     それはどんな時だって……同じだ……!───けどな……!     仲間に危機が迫ってる時に……指くわえて何もしないほど……白状でもねぇ……!     俺達を傷つけていいのは……───俺達以外の何、者でも……ねぇんだよ……!!     仲間とど突き合うのは悪じゃねぇ……!     でも、仲間が仲間以外の、野郎に……傷つけられるのを……!     黙って見て……る、ようなっ……馬鹿野郎を……ッ!!     俺達は、仲間だなんて───認められねぇんだよ!!」 喉が焼ける。 言葉を発するたびに、喉にさえ突き立てられた牙がグブリグブリと血を溢れさせ、 息をすることさえ苦しいのに……言ってやらなきゃ気がすまないことを、俺は叫んでいた。 ホーリードラゴン『フハハハハ!?それでこのザマか!!          ならば見ろ、貴様が救った代わりに貴様を救えなかったあの男を!          あの男は貴様のために何が出来る!?          見上げるだけで仕掛けても来ないではないか!!所詮貴様は───』 中井出     「……黙れよ《ジャコンッ……》」 ホーリードラゴン『……なに?』 こいつは何か思い違いをしている。 確かに俺は絶体絶命って言ってもいい未来を待つ者かもしれない。 けど、それは相手だって同じだ。 田辺の炎魔葬竜弾を眼から受け、恐らくその奥さえ焼かれたこいつは、 俺達が思うよりもずっとダメージを負っていた筈だ。 そして俺は、田辺を殴るために武器を持つ手をスイッチさせた。 ……そりゃ、殴るために使った右腕は口の外だ。 けどその右腕は徒手空拳。 俺が全ての信頼を預け、ここまでともに生きてきた相棒は……こいつの口の中なのだ。 そして、一度殺されることでアビリティの待機時間はリセットされている。 ……俺は、見えはしないが確実に左手の先にあるであろう、 鱗よりもよっぽど柔らかいそこへと、ゆっくりとジークフリードを構えた。 いや、ゆっくりとじゃなければ動かせないほどに、体がもうガタガタなのだ。 中井出「……は、は……後悔、ってもんを……教えてやるよ……。     俺達ばっかり……後悔してばっかなの、って……不公平だもんな……」 ゆっくりと、狭められている気道から空気を吸い込んで…… ───上手く声を紡ぎ出せないでいる喉を引き裂くように、言を放った。 中井出     「器詠の理力……っ……解放……!          っ……オールッ……!エジェクトギミック!!」 ホーリードラゴン『なにっ!?』 ……たとえば、知性の高い龍が居たとする。 そいつは……そう、見たもの聞いたものから最大限の情報を引き出し、理解し─── そこから様々な行動予測をして襲い掛かってくる。 恐らく、今さら俺達がどれだけ予測不能な行動をとったところで、 こいつは様々な行動を予測、その圧倒的な力で対応し、打ち破るだろう。 けど───じゃあ、見たわけでも聞いたわけでもない、 未体験の能力を、自分じゃ見えない部分で放たれたら? それも、反撃出来るわけがないと確信した、半死の相手から───!!  ガッ───ゴギィンッ!! 左手に、力強く武器が開く震動が伝わる。 当然見えない……けど、俺はその力強さにいつも助けられてきた。 ホーリードラゴン『この状態で小細工を……!?ちぃ《ガキィッ!》なにっ!?』 嫌な予感を感知したのだろう。 咄嗟に口を開け、俺を放り出そうとするホーリードラゴン。 けど、開こうとする口を、外に出ている右腕で……肩が抉られた状態だというのに、 強引に折り曲げるようにして圧する───!! 中井出     「へ、へへ……!だぁれが……逃がす……かよ……!!」 ホーリードラゴン『……!?こんな、馬鹿な!口が……開、けぬ……だと!?』 俺は、俺が命を預けてきた武器を信頼する。 たとえ圧する力で自らの肩を自分で破壊することになろうとも───! 俺の意志に呼応し、人器を俺に流して勇気を与えてくれるこの武器を信頼する!! 偶然とはいえやってきた好機を───誰が逃がすかぁあああああっ!!!  ギンゾガガガガガガガガガ!!!  ゴガギギギガガガゾババババァンッ!!! ホーリードラゴン『───!グガォシャァアアアッ!!!』 口の中で炸裂する刃。 喉を通り、気道を潜り内臓へ突き刺さり、鋭いものは肉を貫き鱗さえ破壊せんと反射する。 器詠の理力で繋がった武器たちは、まるで瀕死の俺を気遣うように、 ただひたすらに敵の殲滅を急ぎ、暴れ狂っていた。 その意志が、確かに……俺に流れこんできている。 ……こんなに嬉しいことはない。 一方的に成長を喜んでいたわけじゃあなかった。 俺も確かに、武器に思われていたんだ。 でも……意識が遠ざかる。 血を流しすぎているのに、口を圧することに力を使いすぎた。 ホーリードラゴン『ギッ……ガガァアアッ!!グォアァアアアッ!!!』  ゴ───ブシャアッ!! 中井出「───、ア……」 右腕が、無くなった。 ……落ちてゆく。 まるで棒切れのように、静かに……音も立てずに。 俺を殺せば武器の暴走も終わると……そう判断してのことだろう。 思い切り噛み締められた牙は、俺の肩を砕き、千切り───喉を潰し、腕を落とした。 中井出「……、……」 息も出来ない。 喉の半分以上が風穴となって、辛うじて頭部と胴体が繋がっている……そんな状態で、 ホーリードラゴン『クガァアォオアアァアッ!!!』  ギチィッ……ブワァッ!! 毒物でも吐き飛ばすかのように、俺は……さらなる上空へと投げ飛ばされた。 ああ……そうだな、指に引っかかった汚いものを払うみたいな動作だった。 血を撒き散らしながら、虚ろな意識のまま…… 俺は、風を裂いて、やがて重力に引かれるであろう空へ。 中井出「……」 ダメだった。 足掻いてみたが、これまでだ。 死ねば神父のもとで蘇れるが、こいつがさっきまでのような油断をすることはもうない。 知識と経験をもとに、空から降りることもなくレーザーを放ち続けるだろう。 そうなった時点で、満足に空も飛べない俺達じゃあ……勝てる見込みなどありはしない。 たとえ田辺の能力限界が回復したとしても、 こいつの空中での動きについていけるわけもない。 レーザーを避けたところで、尾撃が、尾撃を避けたところでぶちかましが、 ぶちかましを避けたところでレーザーが待っているだろう。 ……詰みだ。 今の段階じゃあ、もうこいつには───…………  ……、…… ……? なんだ……? なにか……聞こえたような……  ───、…… ……耳、鳴り……? 解らない……解らないけど、なにか───  …… 違う、そうじゃない、って……───思える……───  ───! 中井出「───ッ!!」 おぼろげだった景色を前に、カッと眼を見開いた。 息を吸おうとしたが、喉から入り込む血が気道を塞いで、 すぐさまに血をぶちまけたが─── それでも血とともに無理矢理酸素を肺に送り込んで、脳に強い意志を差し込んだ!  ……、───!! 解ってねぇのは俺も同じだ……。 次がまたあるからなんだ?蘇れるからなんだ───!! 俺は、俺達は今を、この一瞬を、死ぬまでを全力で生きて、 その世界を全力で楽しむために冒険してるんじゃねぇか!! それなのに今を放棄して次に願いをかけるだって!? 次に願いをかけるどころか、次でも絶望を意識するだって!?───ふざけろ!!  ……! 声はまだ届かない───けど、こうして一生懸命届かせようとしてるじゃねぇか! 俺が絶望してる中でも、 まだ……ヤツの体の中でアイツを倒そうと頑張ってくれてるじゃねぇか! 信頼するって言った!命を預けるって言った! その俺が───相棒より先に絶望してどうすんだ! 絶望するなら一緒だ!命を落とすなら一緒だ!! だから……最後のその一瞬まで───!! 中井出「諦めたり───しない!!」  キィイ───ガンババババババォオオンッ!!!! 左腕の霊章から闇の炎が吹き荒れる! それとともに、胸の中で熱い芯が燃え上がり、こんなにも俺に力を与えてくれる……! 中井出「器詠の理力!人器!全力解放!!───来い!ジークフリード!!」 下方でもがくホーリードラゴンを見下ろし、落下したままに叫ぶ! すると、一番最初に葬竜剣で切り裂いた傷口から全ての刃が解き放たれ、 血を払う勢いで、突き出した俺の左手に集束する!! ホーリードラゴン『グ、ガハッ……!オ、ノレ……!!』 散々と内臓を破壊されたホーリードラゴンは、 血を吐きながら集束してゆく武器を見上げた。 そこには───右腕を失い、 両手持ちのスキルも発動できない瀕死の……たった一人の人間が居た。 空も飛べず、ただ落下するだけの人間。 まったく、なんて無様だろう。 きっと、相手が軽く横に避ければ、俺は落下して潰れるだけのゴミみたいな存在だった。 でも───そいつはそうしなかった。 確実なトドメをと、俺目掛けて飛翔してきたのだ。 中井出「……、げ、ぶっ……」 左腕に力を込める……けど、吐き出す息が血とともに溢れ出し、 呼吸もまともに出来ない俺になにが出来ただろう。 着地できたとしても、走ることはおろか、 歩くことも立っていることさえ出来ないだろう俺に。 中井出(……なにが、出来るかって……?) 牙が迫る。 いや、大きく開けたズタズタの口の中に光が集束してゆく。 口で噛み殺そうとするのは先ほどのニの前を招く、と予測してのことだろう。 中井出(俺は……俺には───!) けど、その光を前にして、俺の体は少しずつだが回復してゆく。 自然の加護───マグニファイの能力の一つのお蔭で。 そして……今こそ放たれんとする、眼前の極光を前に、ようやく───!! 中井出「俺には!仲間を!相棒を信じ抜くことが出来る!!」 喉が回復し、肺に一気に酸素が広がる!! そしてこの手に宿る、力強さと暖かさ───その全てを以って!! 中井出「葬竜剣!!おぉおおおりゃぁああああっ!!!」 回復したばかりの喉を突き破らんばかりの絶叫とともに、 全てが集束し、紫の闘気を放ち始めたジークフリードを、 燃え上がり、武器を包む火闇とともに一気に振るう!!  ガカゾガァアッフィィインッ!!!  バンガガガガガガガォオオンッ!!!! 中井出「っ……ぐ、がぁああああっ!!!」 放たれる極光を正面から切り裂き、その波動が身体を焼こうとも怯まずに突っ込み、 鱗などの硬い場所じゃなく内部───つまり口を狙って剣を下ろす!! だがそうしているうちにも体がどんどん焼かれていく……否!それがどうした!! 中井出「ハイパーアーマー発動……!!ッ……ブッ───飛べぇえええ……!!」 ハイパーアーマーを発動させて、レーザーが俺を押しやる力を完全に殺す!! あとはこの勢いのままに力を解放して……! ───いくぜ相棒……力、貸してくれ───!! 中井出「カァアアラミティイイイイイイッ!!!!」  ギシャゴバザンガガガガガォオンッ!!! ホーリードラゴン『グァオギャァアアアアアッ!!?』 破壊される身体を省みず、レーザーが吐き出され続けている口の中へと突撃───! 顎を破壊し、喉を切り裂き、閉じようとしている気道を破壊して、 火闇と溶け合った紫の闘気が誘うままに、全力を以って斬り滅ぼしてゆく!! だが───そこが限界だった。 葬竜剣の効果はまだ剣に宿っているというのに、俺の体に限界が来てしまった。 見れば、HPたったの2。 見下ろす体は動けていたのが不思議なくらいにボロボロで、 皮膚などはもうところどころが焼き爛れていた。 内側から破壊する光のレーザーだ……内部ももうズタズタだろう。 俺は勢いのままに内臓の中で無様に転倒し、 荒い息を吐きながら……自分の非力さを嘆いた。 中井出「く、そ……ちくしょ……体……動かねぇ……!」 剣はまだ諦めていないのに。 まだこんなにも、力強く紫色の闘気を発しているのに。 自然の加護が追いつかなくなるくらい、体がズタズタで……動けない……!! 中井出「アイテムを……、くそっ……!」 腕が動かない。 見れば、剣を振るっていた腕は筋が断裂でもしているのか、 霊章の上からでも解るくらいに内出血を起こしていた。 じゃあ……このまま加護での回復を待つ……? ───ダメだ……散々暴れまわった所為か内蔵が刺激されて、胃液が出てきてる……! このまま黙ってたんじゃ、いずれ溶かされて……! 中井出「っ、……」 けど、いつかのように動く箇所を探してみても……今度ばかりは首も動かなかった。 動かせるのは視線だけ…… 左方に力なく傾いた頭で見る景色しか、俺には見ることができなかった。 中井出「、そ……!う、ごけよ……!動け……!!」 諦めてないんだ。 この意志も、この頭も、この相棒も……!全部、全部諦めてないのに……!! なんで!なんで体であるお前が!諦めたまま動こうとしないんだよ!! やれることがあるんだ!出来ることが残ってる! ここで立ち上がらないで何が男だよ! 根性論だけで全てが上手くいくだなんて思ってない! どれだけ傷ついても起き上がれるほど人間が強くないことだって解ってる! けど───今この時に立ち上がれないで、なにがブレイバーだ!! 中井出「〜〜〜〜〜……っ!!!くそぉおおおおおっ!!!」 悔しくてどうにかしてしまいそうだった。 胃液はもう目の前まで来ていて、あと一分もしないうちに俺を溶かし始めるだろう。 俺達人間の胃液と、竜族の胃液は違う。 空界のゾーンイーターの胃液でさえあんなだったんだ……それを記憶の映像で見た俺だ、 幻想生物の胃液がそういうものだっていうことくらい、理解出来てる。 なのに───!!《ヂヂッ───》 中井出「───!?」 その時だ。 この耳に届いた違和感。 そして、次いで届く緊張感の無い───…………そうだ。 体が動けなくても、眼しか、口しか動かせなくても……出来ることがまだあった! 声  『もしもし提督か!?今物凄い絶叫が雲の下から───』 中井出「晦二等!今すぐ穂岸と代われ!───穂岸!一生の頼みだ!     俺とパーティー接続して、すぐに───漢神の祝福を使ってくれ!!」 声  『お、おい提督?』 声  『───解った!晦、飛竜を貸してくれ!効果範囲内まで一気に行く!』 声  『とわっと!?今ので解ったのか!?』 声  『あいつが!これだけ真剣な声で一生の頼みをしてきた!     理由なんてそれだけで十分だろう!!───早く!』 声  『……ディル行くぞ!穂岸!乗れ!!』 声  『解った!』 ガガッ───ブツッ……! 慌ただしい声とともに通信が途切れる。 ……そうか……しまったな……効果範囲のことを忘れてた。 どれだけ離れようがパーティーである限りは経験値は届くが、魔法はそうはいかない。 中井出「…………けどさ、穂岸……や、ホギー……もう……」 胃液が俺の肩を焼く。 肩から先がないそこに走る激痛は尋常ではなく、 一生懸命命を繋ぎ合わせようとする自然の加護から俺を引き剥がしてゆく。 中井出「っ……、……!!は、ぐっ……!!」 それでも……諦めることだけはしなかった。 そう……せめて、この剣に紫色の闇の炎が灯っている限り。 この頭に、言葉では届かないなにかを必死に届けようとしてくれる意志が届く限り。 でも、……どうやらここまで。 俺の意志とは関係なく瞼が落ちてきて、 それは……なんとか見開こうとしたところで、 開いてくれるような問題のものじゃなかった。 中井出「……、……」 諦めたくない。 諦めたくないのに……俺は───  ガフィンッ!!《ブヅヅッ───キィイイン……!》 声  『反応確認!強制tell接続確認!!待たせたな提督!───やれ穂岸!』 声  『解ってる!10分アビリティ発動!“漢神の祝福”!!』  ゴキィンッ!モンシャンシャンシャンシャァアアアアンッ!!! 中井出「───!!!《ゾバァン!ガンバババババォオンッ!!!》」 身体に生気が宿り、燃え上がる! それとともに千切れとんだ腕が再生し、同時に火闇が吹き荒れる───!! 中井出「《ジュウッ……》っ……っちぃっ!───サンキュー穂岸!」 倒れたままの身体を未だに焼くように溶かす胃液から逃れ、勢いよく起き上がる。 体に異常は───よし、どこにもない。 声  『……よし、間に合ったか』 声  『はぁ〜あ……今回ばっかりはディルの速さに感謝だな……。     とりあえず仲間の反応があるところまで飛ばしてきたけど、平気だったか?』 中井出「悪い!いきなりの無茶を聞き入れてくれて!     せっかくの10分アビリティなのに───」 声  『能力は使うためにある、ってな。     使い道が間違ってないなら、惜しむ必要が何処にある。     ───それで、お前ひとりでいけるのか?』 中井出「ワハハハハ!誰にものを言っている!我は魔王!魔王博光ぞ!?     硬い鱗を前にしてならともかく、     こんな乙女肌のようにやわらかい肉を前になにを怯える必要があろうか!!」 握る手に力が篭る。 炎が灯る腕はさらに燃え上がり、俺の復活を喜んでくれているようにも、 この軟弱者がと俺を叱っているようにも見えた。 中井出「生憎とこの博光に、技らしい技などない。     だがな……それでもこの剣に宿る力は、俺に技以上の思いの力をくれた。     この剣は思いを宿す剣。     この剣を構築するために関わった全ての者の思いがここにある。     それに応えられ、応えてもらえることに俺は喜びを感じている。     技などないが、その思いの強さ……貴様に受けきれるかな?」 ジャゴォンッ!!───ジークフリードを双剣化。 ジークムントとジークリンデを手に、高らかに叫んだ。 中井出「待たせて悪い……いくぜ、相棒!火闇霊章全開ィイイイイイッ!!!」  ガンバババババババォオオオオンッ!!!  ザンゾガゾガゾガバシャズバゾガフィィンッ!! 爆発する炎を勢いとし、目の前の肉を切り裂き続けてゆく! ただ斬りつけるのではなく、削ぎ落とすように! 貴様は胃液でここを満たしたいようだけどな……俺はここを血の海にしてくれる!! 声  『お、おい提督!なにやってるんだ!?ていうか……ここらに居るんだよな?     今ホーリードラゴンが空中で暴れ回ってるんだが───』 中井出「そいつの腹の中だ!胃袋の中を爆炎剣でズタズタにしてる!」 声  『うあっ……!暴れるわけだ───!!』 腕を振るってゆく。 ただ只管(ひたすら)に、ただ只管に、ただ只管に───!! 剣速は火闇爆破のお蔭で十二分。 全ての能力を攻撃力のみに託し、全力で撃を連ねてゆく───!! 中井出「はっ!ふっ!せいっ!はぁっ!!つっ!はぁああああああっ!!!!」  ゾバガガガガガガバンガガガガボガァォンッ!!! 肉を削ぎ、燃やし、爆砕し、双剣の制空圏に肉が無くなれば駆け、再び振るいゆく。 振るうたびに肺が震え、当然疲れ知らずとはいえ気管はリズムを乱す。 いつしか俺は息を荒くし、そのために腕を振るう速度も落ちてきた。 だが俺はその乱れた息を飲み込むと、双剣を鞘に納めたのちにエジェクション。 取り出した煌剣ブラッシュデイムに、ストックにあった一つのマグニファイを込め─── 中井出「武器はしっかり二刀流!!」 懐かしく思い切り叫びながら頭上で刃を交差させると、大気渦巻く烈風の鞘を現象させる。 下地は整った……あとはこの一撃に全てを賭けるだけ。 チャンスは一度だけ。 一瞬でも遅れたら、効果は逃げていくだろう。 だから、と。 俺は鞘に納まっている双剣に煌剣ブラッシュデイムを揃えるようにして、 烈風の鞘へと納めた。 基本能力は消えず、鬼人化解放だけで発動可能なままであった、あれを放つために。 中井出「“荒廃の世の自我(エゴ)、斬り裂けり……”」 意識を集中する。 声に出した途端に激しく巻き起こる烈風の鞘が、俺の衣服や髪を揺らすのが解る。 中井出「“二刀流居合い───」 そしていざ、烈風の鞘に弾かれんとする双剣を手に、 まさに弾かれた瞬間に武装融合を発動!! ブラッシュデイムではなく、ジークムントとジークリンデとして秘奥義を放った───!  シュゴォォオッフィイイィンッ!!!! 腕を交差させ、両手で居合いを放つ秘奥義。 それを振るい、交差が解けた腕を戻し、双剣を鞘に納めると……静かに呟く。 走っていった風を、ただ見送るように。 中井出「───羅生門”」  ───ィ……ィイイイ───ン───  ゾバガガガガガガガガガガガガ!!!!  バシャバシャゾガァッフィィインッ!!!!! すると、消えていった風の音を追うように、 ズタズタに切り裂かれていた部分を糧にホーリードラゴンの内側断裂する! 肉を裂き、筋肉をブチ破り、そして───鱗の組織を内側から破壊、斬り裂き……! ついには血塗れの俺を、蒼い空が迎えたのだ───!! 声  「な、ななななんだこりゃぁあーーーーーっ!!!」 途端に聞こえたのは晦の絶叫。 俺は吹き飛んだ肉をくぐるようにして内側から出ると、鱗の上に立って風を浴びた。 と……丁度視界の先に、ディルゼイルに跨る晦とホギーが居た。 悠介 「提赤ッ!!血塗れにもほどがあるだろ!」 中井出「やあ」 悠介 「やあじゃない!!」 そして早々に怒られてしまった。 中井出「僕はドラゴンベビー……!たった今このパパリンから産まれたの……!」 悠介 「赤子が親の腹ブチ破って出てくるかぁ!どれだけアグレッシヴな赤子なんだよ!」 中井出「馬鹿野郎!赤子だからってブチ破っちゃいけない理由がどこにある!     俺は未だ誰もが為し得なかったフィクションを現実にした!それが勝利なんだ!」 悠介 「その志は立派だけど出てきて早々ウソをつくのはやめろと言っている!」 中井出「言われてないから断る!!《どーーーん!!》」 悠介 「ギィイーーーーーイイイイイイイ!!!!」 本当に彼も元気になったもんだ。 中学時代のむっつり加減がウソのようだ。 ……と、からかうのもここらへんにして。 ホーリードラゴン『……、そだ……、うそだ……!何かの間違い……!          我が……滅びる……だと……?人間ごときの前に……敗れる……?』 さすがの竜族も内部から破壊されては抗えない。 もはや浮遊能力さえ満足に扱えないのか、徐々に降下してゆくホーリードラゴン。 当然俺も落ちていっているが、ソレは落下というほど速度ではない。  ザリッ…… ホーリードラゴン『……!……、お、のれ……人間……!          貴様……貴様ごときに我が……有り得ぬ……有り得ぬのに何故……!』 中井出     「それはな、貴様の常識の範疇をこの博光が越えたからだ。          理解を越える事態など理解出来なくて当然だ。          そして貴様は、“人間ごとき”とこの博光を小さく見すぎた。          ……理解の範疇なんざ簡単に越えられちまうのは当然だろ?          だから隙も出来るし詰めが甘い。……敵対したからにはな、          魔法で遊ぶ暇があるならとっとと殺すべきだったんだ」 ホーリードラゴン『ぐ、うぅう……!やめろ……!我は……我は……!』 静かに振り上げたジークムントを見て、隻眼の守護竜はとうとう怯えの色を見せる。 竜族が怯え、人間に対してやめろと許しを乞う……普通、そんな場面は見れないだろう。 で、 ホーリードラゴン『───気を緩めたな!?死ぬがいい!!』 大抵の場合はこうして鼬の最後っ屁を放ってくるわけで。 俺は放たれたレーザーを前にVITのみをマックスにして、そのまま前へ進み、  ズゴォオッファアアンッ───ゾギィンッ!! ホーリードラゴン『な……に……?』 体が光に飲み込まれる寸前、双剣を振るって光を引き裂いた。 中井出     「効かぬ……効かぬのだ……。貴様の発光気管は既に砕いた……。          というか内臓の大半砕いたから、          貴様はもう高い威力のレーザーなど吐けはしないのだ……。          放っておいても貴様は死ぬ……          それが解っているからこそこうして話をしているのだ……」 ホーリードラゴン『きっ……貴様……いったい……!?』 中井出     「訊かれれば応えよう!それが我らが原ソウル!          遠き者は耳に聞け!近き者は目にも見よ!          俺が原沢南中学校提督!中井出博光であるーーーーーーーっ!!!!          ……じゃあ死ね」 ホーリードラゴン『っ……!?ま、待て!やめろ!宝を返せなどとはもう言わん!          貴様が強者であることも認めよう!だから───』 中井出     「だめだ」 ホーリードラゴン『貴様には情というものがないのか!!』 中井出     「もちろんだ!なにせ傷が癒えぬ!          イコール貴様が敵対心を解いていないという証拠!          そんな者の言うことなどだぁああれが信じるかバッカモーーーン!!」 ホーリードラゴン『ばっ……馬鹿な!殺気は殺して筈───はっ!?』 中井出     「……じゃあ、これで最後だ」 ガ、……ゴキィンッ!! 双剣を合わせ、長剣にして……静かに構える。 中井出     「双剣で振るい続けることで残しておいた葬竜剣……          これで貴様の脳を砕く」 ホーリードラゴン『や、やめろ!やめろぉ!          こんな、こんなところで死ぬわけには───!』 中井出     「ええい見苦しい!他の守護竜と比べてなんと見苦しい!!          生き足掻くのは立派だが、貴様それでも竜族か!          動いてみせろ!反撃してみせろ!          それら全部ひっくり返して絶望をくれたのちに殺してあげるから!」 声       『……クズだな(ボソリ)』 中井出     「誰!?ねぇ誰!?今クズって言ったの誰ェエエ!!?」 ホーリードラゴン『───!グ、オォオオオッ!!』 中井出     「ぬう!?」 声の主を探すために振り向いたのがまずかった。 今度はレーザーなどではなく己の顎に絶対の信頼を寄せたソイツは、 首近くに立つ俺目掛けて鋭い牙を広げて襲い掛かってきた───!! 中井出「っ───」 迫るアギトの迫力を前に、一瞬……足が震えた。 決めていた筈の覚悟が、普段と大差ない会話の所為で緩んでしまったのか─── 動作が遅れてしまった今、剣を振るっても間に合わない。 だったら───だったら! 臆病風に吹かれて一ミリでも退いた分、覚悟に謝れ馬鹿野郎!! 退く力が残ってるくらいなら前へ進んで倒れてみせろ! 中井出「ぜやぁっ!!《ドンッ!!》」 鱗を蹴り弾いて疾駆! 一手が遅れた腕を奮い立たせるように火闇で爆発させ、 口内に潜り牙をくぐり抜けるように避け───そして! 中井出「“葬竜剣”!!」  ゾギィンッ!ゴバァッシャォオンッ!!! ホーリードラゴン『ア……ギ、ガ……!!』 既にズタズタの口内の奥にて肉を裂き、突き上げた剣で脳内を抉った。 紫色の炎が肉を焼き、脳を爆破させた時───やがて。 全ての力を失ったホーリードラゴンは、 その命とともに光を散らしながら地面へと落下していった。 中井出「ホーリードラゴン……お前は強かったよ。     しかし、間違った強さだった……」 遊ぶことなどしなければ確実に勝利を得られた戦いだった。 だというのに魔法で遊び、相手が人間だからと高を括った。 それが敗因……お前の、間違った強さの現われだった。  ゴォオオッ───……ドッゴォオオオオオンッ!!! 声  『ぐおおおーーーーーーーっ!!』 中井出「ギャオアアアーーーーーーーッ!!!」 ……まあその、当然口内に居た僕も。 口の外からなにやら田辺ニ等の声が聞こえたけど、気にしない気にしない。 僕は敵を倒すことが出来た……それが勝利なんだ……。 中井出「《がぼっ……ぞぼり……》うげぇええ……すげぇ血塗れ……」 田辺 「お?おーおーおー!提督!無事だったか!」 中井出「なんとか……うう、サワー(シャワー)浴びたい……」 田辺 「よかったじゃないか、貴重品の龍の血だぞ。竜の血じゃないのが素敵だ」 中井出「や、そりゃよかったんだろうけど……あーもう、     いくら疲れないとはいえ精神的に滅茶苦茶疲れた……もう眠りたい……。     ───素材を剥がない限り眠るつもりはねーけどな!!」 田辺 「まさに外道!!」 中井出「外道じゃないよ普通だよ!」 なんにせよドゴォンッ!! 中井出「ゲブラァーナ!!」 アフロ「ぐおおーーーーっ!!」 はふぅと溜め息に吐いた途端、横からリアカーにぶちかまされた。 吹き飛びながら動かした視界の中にアフロが居たから間違いないよ!? 中井出「《ザシャアッ!》ご、ぐほっ……!な、なにしやがる……!」 アフロ「あーあー潰れちまったよォオ!どーすんのコレェ!お前の所為だよコレェ!」 なんとか着地した途端にこれだ……見事なアフロが目の前に居た。 ……なんてことを確認して呆れていたまさにその時ドゴォン!! 中井出「ぐおわぁあーーーーーっ!!」 悠介 「うおわぁあーーーーーっ!!」 空から勢いよく降りて来た晦らが乗るディルゼイルによって、見事に潰された。 悠介 「だだだ大丈夫か提督!すまん下がよく見えなかった───!!」 中井出「グビグビ……」 重い……なんて重いんだ飛竜っていうのは……。 あ、いや……上にたくさんの人が乗ってる所為もあるか……。 アフロ「こんなリアカーメチャメチャにしちゃってさァア!     もう今年終わりだコレ!全部お前の所為だからなコレェエエ!!」 そうやって潰されてる中でもアフロは好き勝手なこと言ってくれやがります。 なんかもういっそ殴ってやりたい気分だ。 でもとりあえずはディルゼイルにどいてもらって─── ペペラペッペペ〜♪《レベルが上がった!!》 田辺 「お?レベルア〜ップってウォオオーーーーッ!!?すげぇレベル上がってる!!     す、すげぇ!これすげぇ!あまりの出来事に大変驚きました!」 悠介 「うおお!?なんだこのレベルの上がりよう!     提督、貴様どれだけ強い相手と戦ってたんだよ!」 丘野 「やぁ提督殿、待たせたでござうおお!?なんでござるかこのレベルアップ!!     異常なくらいにレベルが上がったでござるよ!?     もしやトラップ!?これはなにかのトラップでござるか!?」 中井出「………」 なんだろう……この疎外感。 あとから皆様連れて降りて来た晦たちも、 たった今ここに辿り着いた素晴らしき5人たちも、 み〜んなレベルアップしてるみたいで……。 なんだろ……なんだろこの物凄い疎外感……。 あの……倒したの僕だよね……?そうだよね……?ねぇ……。 なのにどうして涙が止まらないんだろう……。 ……い、いや……レアアイテムも手に入ったし、素材も剥げるんだ……。 これでまた武器を強化出来ると思えば……安い……安いもん……高ぇ……高ぇよぉお……!  ……その日、いろんな人々が喜ぶ中……    僕が倒れていた草原の袂にだけ、悲しみの水滴が落ちたという…… Next Menu back