───冒険の書213/愛と希望をギブミークズ野郎───
【ケース534:弦月彰利/空の青が眩しい】 ゴザァ……ザザァアアム…… ───波が揺れていた。 波なんだから揺れるのは当たり前なんだが、まあとにかく揺れていた。 デッケェ大陸が浮上したんだ、そりゃ揺れもする。 そんな景色を、生い茂った木々の間からゴゾォと見ておりました。 しっかしまあ……見事に浮上させたもんじゃねぇ。 てっきり失敗するもんかと思っとったのに。俺様びっくり、超びっくり。 彰利 「ほいじゃあどうしよっか。迎えに行く?」 海に浮かぶ要塞の淵で、隣に要る僕のフレンドに語りかける。 悠介 「待ってれば来るだろ?それよりもあの海を割った一撃だ。     あんな攻撃、一体誰が……」 フレンドはとてもぶっきらぼうだった。 でも確かにあげな攻撃放たれたら、黒い恋人として噂に名高いオイラでもヤヴェエぜ? 見るに、風と熱で海を蒸発させて割るような技だった。 恐ろしやぁ……!ロシアの殺し屋なみにおそろしや……! なんてことを考えていると、視線の先にあるボトゥムセア付近にゴゾォと動く影……! 何事!?と思うより先に、そのフェイスをアルティメットアイでパワ〜ッと見てみた。 すると───なんと丘野くん! ……つーかなんであんなところで一人水浸しなんでしょうか彼は。 でも遣り遂げた漢の顔してるし……なんなの? しかもなんだか涙流しながらイケテルイケテェルと叫んどる。 彰利 「おーい丘野くーん!なんばあったとやー!?」 丘野 「全ては計画通りだったに違いねー!」 彰利 「なにが!?第一声から解らないことだらけなんですが!?」 丘野 「ハハ!?アハハハハ!アァーーーッハッハッハッハ!!     俺が置いていかれたのも瓦礫の落下で進行できなかったのも全て!     計画通りだったのサァーーーーッ!!?そりゃ一度は怒りに震えたさ!     怒り震撼イベントランキングぶっちぎりの一位だった……!     世界の中心で貴様をターミネイトを叫んだ……!     ところが道を逸れてみたらこォれだよォ〜ッ!!     ハ、ハハハハ!!アーーーハハハハ!!アァーーーーーッ!!     俺イケてる!ナーーーウ!!今ァ!イィッケテェルゼェエーーーッ!!」 彰利 「…………」 丘野くんが壊れた。 鳴きながら燥いで喜んで両手を上げて踊ってる。 いったいなにがあったのか……頭でも打った? 丘野 「弦月〜!提督たち戻ってきたか〜!?」 彰利 「ん〜にゃ〜!戻ってきとらんぞ〜!?     つーかキミなんでそんなにハラショー的なこと叫んどんのー!?」 丘野 「ウェッヘ?ど、どうしてって?ウフ、ウフフフフ!アーハハハハ!!     気になるなら調べてみろっていうか調べて!僕を調べてェエエエッ!!     見て!ありのままの僕を見てェエエ!!」 彰利 「ヒィ!なんか異常変質者みたい!     どったの丘野くん!頭になにか得体の知れないものでも沸いた!?」 丘野 「てめぇにだけはそういうこと言われたくねぇよタコ!!」 彰利 「心配したのにこの言い様!よ、よーしじゃあ調べてやろうじゃねぇかこの野郎!     アルティメットアイ!!《パワ〜〜》」 目から謎の力を放ち、丘野くんへと調べるを発動! すると───ア、アレ?……おかしいな、目でも腐ったかな。 彰利 「あ、あのー、丘野くん?     俺の間違いじゃなけりゃ、ジョブが揺炎になってる気が……」 丘野 「イエーース!!ナーーウ!!俺イケてる!ビバファンタジーライフ!     今の俺、フレイムヘイズ!浮かれもしよう!解るでしょ!?」 彰利 「待てこの野郎!贄殿遮那と氷結地獄の首飾りは夜華さんが持ってた筈っしょ!」 丘野 「もらった!!」 彰利 「ウソつけぇえーーーーっ!!!」 丘野 「ウソじゃあねぇ!かつて提督が稀蒼刀マグナスをあげたことを持ち出し、     代わりとしてもらったんだコノヤロー!!疑うなら訊いてみるがいいさ!     貴様らには風の刀を貰った恩がある。炎はわたしには必要ないから受け取れって!     そういって、わざわざ猫に頼んで刀から贄殿遮那を取り外して俺にくれたんだ!     最初はくれるわけないって思ってたけど、提督に奨められて言ってみたらくれた!     提督はきっとこうなることを予想してたんだ!」 彰利 「な、なんとまあ……!……つまりなに?こんなこともあろうかとって感じで、     夜華さんに借り作っといたってこと?」 丘野 「提督だし」 野郎……! よもやそんなところで根回し作戦を決行していたとは……! お蔭で丘野くんに隠しジョブを取られてしまったではないか……! 丘野 「あとはこの刀、虎龍刀【朧鵬(ルホウ)】を合成させるだけさ!     そうすれば俺は、龍虎滅牙斬を使えるフレイムヘイズに大変身!     素晴らしき7人の一人として、貴様らを越える超人となるのだぁーーーっ!!」 彰利 「グ、グウウ〜〜〜ッ!!」 丘野 「グフフ、ちなみに火除けの指輪の他に聖王の遺産もあったから、     岡田も戻ってくればすぐさま閃士になれる……!     そして清水も、提督のことだから昆虫を取って待っていた筈……!     その昆虫を以って混成へと変異するのだ……!     そうすれば我ら素晴らしき7人は、提督を抜かして全員が隠しジョブに!」 彰利 「材料揃ってんの!?───や、野郎ォ〜〜〜ッ!!さ、させるかぁ〜〜〜っ!!」 ジョブチェンジのための材料が揃ってる───それは大変なことだが、 そげなもんは野郎を引っ掴まえて奪えばいいだけのこと! だから俺はボトゥセアへと飛び降りた! 丘野くんからいろいろ奪うために飛び降りた! いや、飛び降りようと、助走のために後ろに下がってから駆け出した! したっけ───ビジュンッ!! 彰利 「ぬお!?」 目の前に突如として現れる何者かの影!つーか中井出!! なにぃ馬鹿な!何故───ってナギ子さんの転移か! ───ッチィいかん! こやつが来てしまっては、迂闊に丘野くんに手出ししようものなら、 今この場で要塞と魔王軍全員が的に回ることに……! 彰利 「グッ……グウウウウウウウウウウ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!」 中井出「うおっ!?な、なんだよ彰利、人を見るなりグウウ〜って」 彰利 「べっ……べつになんでもないわよ!《ポッ》」 中井出「なにそのいきなりのツンデレ怒り!戻って早々訳が解らないんだけど!?」 彰利 「うるへー!貴様なんぞにアタイの気持ちが───解るといいね?」 中井出「そうだね」 争いよりも平和を愛しました。 世界はこれでいいのよ……。 ───……。 ……。 さて……そげなこげなで大陸浮上作戦を見事成功させたアタイたち。 中井出どもは丘野くんと合流するや、ギャオアーと叫びつつ猫のもとへ。 ……ああ、これで素晴らしき7人がより一層強くなっちまう。 彰利 「夜華さん!何故!何故あげなやつらに貴重な武器と装飾品を!」 夜華 「礼には礼を以ってこれを持て成す。それがわたしの信じる道だ。     こればかりは彰衛門、貴様にどうこう言われても曲げるつもりはない」 彰利 「グウウ……!でもさぁ、これじゃあやつらが強くなっちゃうじゃない……」 夜華 「ならばわたしたちも強くなればいい。じょぶとかいうものに頼らずとも、     存在とは強くなれるのだということを教えてやればいい。     中井出、といったか。あの男と戦って思い出せたことが多々ある。     わたしたちは死神という人知を越えた能力に頼りすぎていた。     基礎を忘れては。原点を忘れては、腕が鈍るのは当然だった」 彰利 「鈍ったの?」 夜華 「ああ。それも、致命的にだ。……いや、鈍ったのではないな、濁ったのだ。     能力に頼るあまり、心が濁っていっていた。     戦いとはどうあるべきか。己はどうあるべきだったのか。     それを、わたしたち……いや、少なくともわたしは見失っていた」 彰利 「ぬう……」 そうかね。 むしろ夜華さん、最近死神の力にかなり慣れてきて、 それこそ強くなったように感じるんじゃけんど……あれって違うの? 夜華 「貴様は……わたしが強くなっていると思うか?」 彰利 「お?お、おお、思うよ?」 夜華 「……だとしたら、それはわたしが強くなったのではない。     能力が強くなっただけの話だ、わたしではない。     体が死神の力に馴染んだだけのことだろう。     しかしどうだ。力を持てば持つほど、敵を切れば一撃で、     あと少しで終わるなどという慢心が出てくる。それが濁りでなくてなんだ」 彰利 「………」 なるほど、夜華さんはそうして、自分の心の鋭さがなくなっていくのが怖いんじゃね。 ……俺の心はすっかりナマクラだけど、 確かにそれを考えれば中井出のほうがよっぽど鋭い心を持ってるだろう。 や、違うか。 切り替えが上手いんだ、あいつの場合。 あいつはどこまでいってもヒューマンだ。 油断しないようにしたって油断するし、攻撃も適当だし防御も雑だ。 じゃけんど、戦いへの覚悟だけは十分立派だろう。 人とは悪であるべし。戦いとは非道であるべし。 慢心は敵であるべし。油断は命取りであると知れ。 そんな当たり前のことだけど、 どうにも忘れがちになっちまうことを平気でするのが我らが中井出提督である。 その割りに隙だらけで技術が追いついてないのが笑えるんだが。 彰利 「ウィ、解った。これからどうしようかね」 夜華 「荒唐無稽なのもそれはそれでいいだろうが、より高い技術を身に着けるべきだ。     貴様はともかく、わたしは多対一が苦手だ。     だからまず、強すぎもせず弱すぎもしない多数の敵と戦い、これに慣れる」 彰利 「OHなるほど。アタイはどうするべきかね」 夜華 「黒に頼らず戦える己を身に着けるべきだ。     どうも貴様は、なにかというと黒に頼る傾向にある。     それはつまり、なんらかの形で黒を封じられれば弱体化することと同義だ。     ならばそれを補う力を身に着ける以外に道はないだろう」 彰利 「オーーー……」 よもや夜華さんから能力についての説教を説かれる日が来ようとは……! でもためになった。 そうだね、オイラあまりにも黒に頼りすぎてた。 でもね?夜華さん。オイラもう何度もそう思って、何度も直そうとしてるんだけどね? な〜んか黒使っちゃうのよ。 どうなってんのコレェって感じで。 だが夫婦が力を合わせるんだ……乗り越えられぬわけがねぇ! 彰利 「じゃあ夜華さん!ラヴラヴパワーで互いを高めていこう!     大丈夫!オイラと夜華さんの愛の力があれば、どんな壁も乗り越えられるさ!」 夜華 「なっ……ばっ、馬鹿者ぉっ!そそそそんなことをこんな場所でっ……!     誰が聞いているとも知れぬ場所で言うとは!貴様は何処まで馬鹿なんだ!」 彰利 「馬鹿じゃないやい!たとえ馬鹿だとしても、     愛に溺れた馬鹿という名の愛戦士さ……!」 夜華 「〜〜〜〜っ……つ、付き合ってられん!わたしはもう行くぞ!」 彰利 「……ねぇ夜華……?ほら、わたしも愛してるって……言ってごらんよ」 夜華 「ひゎぁっ!?こ、こらぁっ!耳元で喋るんじゃないっ!!     い、いやそれよりも離せ!もう行くと言っているだろう!」 彰利 「ウフフフフ、夜華さんの照れた顔って大好き……」 至福です。 ああ、ボカァ彼女のことが心底好きなんだなぁと、 じんわりと理解出来るくらいに大好きです。 ああもうこのまま溺れてしまいたい。愛に溺れてしま─── 中井出「おーいそこの伊藤誠〜」 彰利 「ブッ殺すぞてめぇ!!」 溺れませんでした。 ……やっぱ愛に溺れちゃいけません、自分を保てなきゃ自分じゃねぇ。 と、再度理解したところで夜華さんが真っ赤になりながらオイラから離れます。 たったそれだけでとても寂しいと思う俺は相当に重症のようだ。 中井出「や、だってなぁ。     ハタから見たら、嫌がる女に迫る女ったらしにしか見えなかったし」 彰利 「だからって伊藤誠はねぇだろうが伊藤誠はよォオオオオオッ!!!?     てめぇ今度あんな腐れ外道なヤツの名前で俺を喩えたらほんと怒るぞ!?     今でも十分怒ってるけど怒るぞ!?ッアーーーッ!!伊藤誠で思い出した!!     満潮永澄がちょっと自分の意見言ったからって伊藤誠って言うのやめろ!     不愉快だ!実に不愉快だ!言われたことに対して本当のこと言っただけだろうが!     な〜んも間違ってねぇし、別に浮気したわけでもねぇだろうが!     呼ぶのは浮気してエロスに走った時にしろ!そして僕にもそうしてお願い!!     解る!?永澄くんは漢!伊藤誠は人間のクズ!死んで当然殺されて当然のクズ!     あーもうなんでスクールデイズってアニメ化したんだろ!     あんな内容じゃあそりゃメディアに誤解されるよ!     アニメの所為で事件がゲームの所為で事件がとか言われるよ!」 中井出「馬鹿野郎!俺は永澄くんを伊藤誠だなんて呼んでねぇ!     そもそも比べるのも烏滸がましい!!     伊藤誠だァ!?あいつはただの人語を解するピクルじゃねぇか!     女と見ればデレデレして隙あらば喰うような外道と     硬い信念のもとに侠を目指す永澄くんを一緒にするんじゃねぇ!!     首ブッた斬ってその生首抱き締めるぞコラァアアアアッ!!!」 夜華 「待て!そんなことはわたしの目が黒いうちには───」 中井出「違う!ニポンジン、目は黒じゃなくて茶色!そこ間違えないように!!」 夜華 「喩えだ馬鹿者!言葉の意味も知らんのか貴様は!!」 中井出「そんな日本の言葉にもツッコミ入れたい原中の心が貴様には解らんのか!!」 夜華 「解るわけがないだろう!!」 中井出「黒いのは瞳孔であって目じゃないんだよ!白と茶色と黒で成り立ってるだよ!     面積で言ったら白目のほうが多いのに、     どうして目が黒いうちはって黒を主体に考えるんだ!     なに!?それってダンナへの愛!?黒いダンナへの抑えきれない愛ですか!?」 夜華 「なぁっ!?あぁあなばばばば馬鹿者そんなわけがあるものかぁっ!!」 彰利 「や、夜華さん落ち着《ポム》───だ、誰?僕の肩を叩くのは」 中井出「おい……愛してねぇとよ」 彰利 「ギ、ギィイイイイーーーーーーーッ!!!!」 突如として現れた中井出によって、場の空気は180度変わりました。 なにしに来たのこいつ……。 中井出「とまあヘンな方向に進むのはこれくらいにして」 彰利 「もっと早くにこれくらいにしてくれない!?     なんかもう愛空間があった痕跡すら無くなっちゃってるよ!!」 中井出「愛など要らぬ!!……楽しければそれでいいじゃないか」 彰利 「ぬう……麻衣香ネーサン転移させていい?」 中井出「フフフ、やってみるがいい……!言っておくがこの博光、     妻の前だろうが同じことを世界の中心で叫ぶ自信があるぞ……!」 彰利 「………」 なんでこんなに無駄に逞しいんだろ……僕らの提督は。 中井出「でさ、貴様に渡したいものがあったから来たんだけど」 彰利 「ヌ?アタイに?なんぞ?」 夜華 「……お、おい、こらっ……!」 言いつつ夜華さんをキュムと抱きしめる。 愛ってやぁね……人をこんなにも堕落させる。 で、そんなアタイを見て中井出が一言。 中井出「ほんと腑抜けたなぁお前……」 ……いやにズッシリ来る言葉でした。 確かにね……腑抜けすぎてるよ俺。自覚あるし。 彰利 「かつては漢を目指してたのにねぇ……それがこのザマだ。     だが僕はきちんと断っておきたい。俺のはきちんとした愛だ。     浮気なぞ絶対にせんし、夜華さん以外を愛すつもりもない。     場が場ならばこうしてヘンに見られることだってなかった筈さ。     ただそれを知っていてもらいたい」 中井出「おお、愛は自由だからな。それに関してツッコむ気は無いが。     で、渡したいものってのは他でもないんだが───」 彰利 「……そこまで普通にスルーされると微妙な気分……」 中井出「だから。他はどうだろうが俺は恋愛は自由だと思ってるって。恋愛はな。     ただし浮気は許さん。浮ついた心で人を好きだとかぬかすヤツは漢じゃねぇ。     そんなわけだからこれを貴様に。黒い牙だとさ」 彰利 「オウ?」 コシャンッ♪《黒い牙を受け取った!》 彰利 「なにコレ」 中井出「使用すると単体を即死させるアイテムだと。     黒操者が使う分には永久に使えるらしいから、渡しとく」 彰利 「ホッホォオゥ……や、なんか悪いね、こげなもん貰っちゃって」 中井出「気にすんなって。篠瀬さんに贄殿遮那をもらったお返しだとでも思ってくれ。     一度タダで渡したものに対して、後で見返りを求めるなど漢に非ず。     故にそれは黙って受け取れィ」 彰利 「おお……!なんと漢らしい……!ではこれはありがたく頂いておくぜ?」 中井出「うむ。あと篠瀬さんにはこれを」 夜華 「なに?わたしにもか?」 コシャンッ♪《風紡ぎの細布を受け取った!》 夜華 「これは……」 中井出「身に着けると風属性がパワーアップ!神秘の風リボンでさぁ!!」 彰利 「ほへー……そげなもんまであったん?」 中井出「うむ。丘野が持ってきてくれた。だが男にリボンは、なぁ?」 彰利 「あぁそれ解る。べつにおかしなことじゃないんだけど、どうにも違和感が……」 中井出「というわけで篠瀬さん、それを装備してくだせぇ。     あっしらからの感謝の気持ちでさぁ」 夜華 「装備、か。手首に巻いても構わないか?」 中井出「───」 彰利 「《ピキーン!》ノ、ノー夜華さん!それはだめだ!     ほ、ほら、手首に巻いたら腕を振るう時に窮屈感覚えるでしょ!?     それに汗が染み込んだら汗疹になるかもしれんし……!     ……僕、そんな夜華さん見たくないな……」 夜華 「そ、そうか?では……」 彰利 「髪!髪につけて髪に!」 夜華 「髪か?別に構わないが……」 シュル、と手に持ったリボンを、髪に巻かんとする夜華さん。 その動作は手馴れたもので、左側面の髪を手に取り綺麗に結ぼうと─── 彰利&中井出「ノー違う!!」 夜華    「うわっ!?な、なんだ貴様ら急に……!」 解ってない!夜華さんたら解ってない!! ダメ!それじゃあ……横じゃあダメなんだ! サイドポニなんて認めねぇ!男は黙ってポニーテール!! 彰利 「夜華さん……髪をね?こう……後ろで纏めて結わうの。     こう、ね?前髪まで纏めちゃだめだ。前髪は残す。これが正しいポニー」 中井出「その時、結わう位置は耳の位置から平行ではダメ。     少しナナメの……そう、顎の先から耳の中心に一つの線を引くとして、     その線が45度、その延長線あたりに結び目が来るのが好ましい。     真正面から見て少しテールの頭が見えるくらいのが素敵だ」 彰利 「さあ結わって!そう!両手を後ろに回して!     ───YES!!グッジョブ!!ポニーテールを結わう時には、     リボンや輪ゴムを口でくわえるのを忘れちゃいけない!」 中井出「素晴らしい!実に素晴らしい!ポニーテールのなんと素晴らしいことよ!」 彰利 「綺麗だよ夜華さん!素敵だよ夜華さん!     僕はまた一段とキミが好きになってしまった!」 夜華 「……髪型一つでそこまで言われると、正直複雑な気分だが……」 キュッ、と結われたリボンが、 髪の結わい目で途切れた円を描くように上向きに伸びている。 漫画などの剣豪少女の大半がやっている、あの結わい方だ……!! 素晴らしい……!細かいところまでなんて素晴らしい……!! 中井出「俺の目に狂いは無かった……!篠瀬さんの髪の長さはまさに素晴らしい……!     結わったポニーテールの長さが丁度背中の肩甲骨辺りまでだなんて、     素晴らしいの一言に尽きる!」 彰利 「普通のおなごの場合は肩まで辺りが望ましいが、     剣豪おなごの場合はやはり長くなくては!     しかしそれが腰あたりまで長くてはかえって野暮ったくなり、     この心の躍動が微々たる……いや、むしろ悲しみに変わってしまうことも!     故に中間!肩甲骨の中間もしくは下あたりが望ましい!!     いい!実にいい!グラッツェ!ディ・モールト・グラッツェ!!」 夜華 「よく解らんが……彰衛門、貴様はこの髪の長さが好きなのか?」 彰利 「YES!!」 夜華 「そ、そうか……《かぁあ……》。     では、もう伸ばせないな……気をつけるよう心がける」 髪の長さを褒められたのが嬉しかったのか、顔を赤くしながら俯き、 微笑をたたえつつ右手で自分のポニーの先をいじくる夜華さんがおりました。 まァめんこい!実にめんこいよ夜華さん!! 叫びたい!オラさ嫁はこげにかわゆいんだなもー!って叫びたい!! なんか方言がいろいろ混ざってるけど叫びたい!! 夜華 「お、おい貴様。中井出といったか。     礼がしたい、なにかわたしに出来ることはないか?」 中井出「礼?なんの礼?」 夜華 「貴様のお蔭でまた一歩、彰衛門に好かれる女になれた……その礼がしたい。     なんだ?なんでも言ってみるといい」 中井出「………」 彰利 「………」 あのー……夜華さん?もしもし? あれぇえ……!?夜華さんたら正面きってこげなこと言えるおなごじゃないのに……! もしかして嬉しさのあまりに自分がなんたら喋っとーとか解らんくなっとるん? や、解らんくじゃねぇって。 えーとどうしよう、やべぇ可愛い。 中井出が居なかったら絶対俺抱き締めてたね。 それくらい可愛い。つーか今まさに抱き締めたい。 願わくばその潤んだ瞳と嬉しそうな笑顔、俺こそを真っ直ぐに見て言ってほしかった。 中井出が憎いぜ……こりゃ嫉妬ですか?……ええ嫉妬もしませう、それくらい可愛い。 だってポニー状態でコレって反則です。 み、みんなー!僕の嫁はこんなにも可愛い嫁なんだなもー!! もう一生離したくないほどだぎゃー!! 中井出「《ゴクリ……》で、では───」 彰利 (やましいことしたら殺すぞコラ) 中井出(そしたら殺し返す) 彰利 (そんな返され方されたの初めてだよ俺!!) 中井出「……えーと、こう……ね?こう……シュルって軽く抜き取る感じで、     結わったポニーさんを解いちゃくれまいか。     少し首を横に振るような仕草とともに。     そしたら少し視線をずらしながら、     彰利に“わたしの負けだ、好きにしろ”と言ってくだせぇ」 夜華 「そ、そうか。そんなことでいいなら───」 夜華さんがリボンに手を当て、間に指を滑り込ませると─── 流れるような動作でそれを抜き取り、 散らばる前のテールをファサリと揺らしながら僕を見る。 だけど少し視線をずらし、上気したままの顔で─── 夜華 「わ、わたしの負けだ……好きにしろ……?」 彰利 「!!《ドッギャァアアーーーーーン!!!》」 ッ……な、なにかッ……なにか、得体の知れないなにかが僕の胸を貫いた!! なに!?なにィイイ!!?この胸に燻る熱いなにかはなんなの!? 師父(せんせい)中井出(チュー)師父(せんせい)! これが……これがいわゆる駆け抜けてゆくわたしのメモリアルなんですね!? 中井出「ポニーテールには幾つかの武器がある……。     一つは髪の長さ。流れるような髪を後頭部のちょい上部で結わい、     それを肩、もしくは肩甲骨中部下部あたりまで流すこと。     この、人が動くたびに生きているように動く髪こそが男の目を引く武器よ。     一つは結わう際にリボン、または輪ゴムや紐を口で銜える仕草。     一つは……ポニーテールを解除する時の流れるような仕草。     輪ゴムやリボンによって引っ張られ、それが外れた際にさらりと広がる髪……!     それこそがポニーの悩ましい武器となる……!」 彰利 「シェッ……謝謝(シェイシェイ)謝謝中井出師父(シェイシェイチューせんせい)!!」 中井出「フフフ、何を申すか……!我らは同じポニーラヴを心に宿す同志ではないかッ!」 彰利 「師父!」 中井出「下郎!」 彰利 「うーわー!ここで下郎言われるとは思わなかった!!」 中井出「うんただ言ってみたかっただけだから!」 彰利 「……キミってとことん普通を壊すの大好きね」 中井出「最早生き甲斐と言っても過言ではないと書いて言い過ぎではない」 中井出よぉ……俺ァ時々、オメェが手の届かない世界の仙人に思えてならねぇよ。 中井出「ともかくだ。世間ではツインテール(正式名称ではない?)が愛されてるらしい。     今やポニーは古いとまで言われてる始末ッ……!     だがしかしだ!誰が古いと言おうが好きならばそれでいい!     俺はポニーテールがだァいすッきだァアーーーーッ!!!」 彰利 「うおおなんという魂からの叫び!───麻衣香ネーサンにはポニーさせんの?」 中井出「馬鹿お前、麻衣香じゃ髪の長さが足りねぇだろうが。     麻衣香の長さじゃ肩まで届かん。それじゃあダメなのだ」 彰利 「そういや猛者ン中にゃあ髪の長いヤツってあんまり居ないねぇ……」 中井出「そうなのだ。ポニー好きにとって、     髪の短い連中ばかりなのは悲しみのだっとさん!     たまに長いやつが居てもウェーヴだのサイドテールだの!     俺はポニーがいいんだポニーが!サイドじゃだめなんだ!     サイドじゃああのステキな角度の再現など出来ぬわ!」 彰利 「……、え、えーと話長くなりそげ?」 中井出「おおこれは失礼。あまりにも美しかったので我を忘れてしまった」 彰利 「オホホホえーでしょえーでしょ!でもダメ!夜華さんは僕の妻さ!」 中井出「うむ。それ以上を求めるつもりはない。ただ……いいモン見せてもらったぜ」 彰利 「師父(せんせい)……!」 不必要に漢前の顔をして、中井出がザッザッ……と去っていった。 なんていうか……うん、満たされたって顔だったね。 彰利 「ハァ……ッ」 そして僕は、改めて髪を結わいている夜華さんを見て熱い溜め息を漏らした。 言うまでもなくやってくれるなんて、なんと素晴らしい。 ……つーかいろいろ衝撃があったけど、中井出ってポニー好きだったんだなぁ……。 ちなみにあたしゃポニーよりストレートのほうが好きですよ? なんたってメイド服によく似合いますからね。 もちろん髪は長いに越したことはありません。 だからメイドさんじゃない夜華さんにはどっちかっつーとポニーが似合います。 つーかトキメいてしまいます。 夜華 「……うん、よし」 ふと、髪を結わい終えたらしい夜華さんが腕を下ろすのに気づいた。 うんうんと思い悩んでた僕はその動作に視線を上げ───て……、…… 夜華 「うん?どうかしたか?彰衛門」 彰利 「が、がが……」 腕を下ろした夜華さんが……一瞬だけど、ニコッと笑いました。 目を細めて、こう……にこっと。 その思いのそもそもが僕のためって事実を、 僕は少し考えて……顔が灼熱するのを感じました。 彰利 (や、やっ……!お、おちっおちおち落ち着け弦月彰利……!) こ、これがっ……これが普段笑顔を見せないおなごが、 無防備な笑顔を見せた時のギャップというやつかッ……!! やべぇ……今まで時折見てきた笑顔のどれにも該当しねぇ、 すげぇ自然で嬉しそうな笑顔だった……! 綺麗とか美しいとかじゃなくてギャアやべぇ可愛い!! 夜華 「……、しかし……少し、残念だな」 彰利 「へ、へぇっ!?ななななにが!?」 夜華 「いや……この細布だが。これが、彰衛門からの贈り物ならば、     こうして髪を託す気持ちも、もっと暖かなものだったに違いないのにな……」 彰利 「───はくっ」 夜華 「……あ、いや……はは、すまない忘れてくれ。どうかしているなわたしは。     こんなことを言うなんて……」 彰利 「ホッ───ホキャァアォアァアアーーーーッ!!!」 夜華 「うわっ!?《がばしぃっ!》───あ、彰衛門!?」 一瞬息が止まりました! だがすぐさま身体を動かすと、夜華さんの髪からリヴォンを強奪! シュルリと引き抜くように引っ張ると、それはいとも簡単に抜け─── さらりとした髪ははまるで風になびくカーテンのようにサァッと流れた……! その光景に不覚にもドキュンです! な、なんだかヤバイです凶の僕は!じゃなくて今日の僕は! いや落ち着こう!落ち着かねばどうにもならん! はい深呼吸〜〜───よし! 夜華 「なにをするんだ彰衛門!せっかくの髪留めを───、……え?」 彰利 「……ん!」 怒る、というよりは戸惑って声を高くした夜華さんに、ソッとリボンを渡す。 過程がどうとかはどうでもいい───ようは、俺が夜華さんに渡したということが重要! 彰利 「あ、あー!えーと!これは、そのっ!     奪ったものだが今我が手元にあるってことは俺のモノ!     でもこれ僕には似合わんからそのえーとややや夜華さんにあげる!」 夜華 「え、あ……え……?あ、あきえ……」 彰利 「う、受け取ってほら!はい!ね!?」 夜華 「あ……」 照れくさかったので無理矢理ギュムと手渡した。 や……馬鹿ですか俺!奪ったものをプレゼントなんてほんと馬鹿! ぐおお今すぐ首吊りてぇ!!こ、殺せー!俺を殺せー!死んだもんじゃねぇや!! 彰利 「あ、あー!夜華さん!やっぱ今の無しに───アレェ!?」 夜華 「っ……、……」 自分への恥ずかしさで俯かせてた顔を一気に上げ、取り消しを願おうとした! ───ら、なんと夜華さんたらリボンを胸に抱くようにして泣いてる!? ア、アワワワーーワワーーーーッ!!ホワァイ何事ォ!? 夜華 「大事に、する……っ!大事にする、からな……!」 彰利 「ア、アワワ……」 ……どうやら夜華さんも、過程がどうとかなんて関係なかったらしい。 ただ俺からもらえたってことが……いや。 俺からの贈り物だったらなって言葉に反応してくれた、俺の態度が嬉しかったらしい。 ……そ、ソーリー!ソーリー中井出師父! 僕はあなたの贈り物を自分の利益のために使ったも同然! でもあなたに謝るよりも目の前の人を愛でたい気持ちでいっぱいです、押忍。 彰利 「……、はふぅ。ほら、夜華さん」 夜華 「あ、あきえっ……うくっ……うぅ……」 シュルリと夜華さんの手からリボンを抜き取って、 正面から腕を回して夜華さんの髪を結わう。 もちろんポニーの位置は黄金比率角度、見栄えともに最高の位置へ。 そうしてから腕を下ろし、ひとまず一歩下がって見て─── 彰利 「うん、よく似合ってる」 夜華 「あ……」 素直に思ったことを口にした。 思えばアタイは憎まれ口というか、誤解されやすいことばっかり言ってた気がする。 だから今こそ、彼女のことを想っての言葉を贈りましょう。 ここで重要なのは“思って”ではなく“想って”ってところさ。 OH・YES───と心の中で親指を立てた途端のことでござった。  ゴコォッ─── 彰利 「オワッ!?」 突如動き出す要塞!揺れる地盤! それにバランスを崩したアタイ───だったが、 今さらこげことくらいでコケる俺ではないわーーーっ!!てウオオーーーッ!!? 彰利 「いやちょっ───《がばしぃっ!》ぬおおっ!」 夜華 「っ……!」 なんと夜華さんの体が傾いた! なもんだから咄嗟に抱きとめたら───OH、いつの間にやら密着状態……。 ヤバイよコレェエ……!普段はアタイからキュムキュム抱きついてるもんだから、 こげなのって不意打ちもいいとこっ……! あ、やべ……顔が熱くなってるのが解る……! 思わず息が漏れて、フヒッて変な声が出た……! 彰利 「や、や、や、や……ヤヤヤヤーヤ夜華さ、ん……」 夜華 「あ、あきえ……もん……」 夜華さんの顔を我が胸に抱いて、 アタイは夜華さんの髪に顔をうずめて静かに香りをかぎました。 すると……ううむ、不思議なものでなんと落ち着く香りがするのでしょう。 夜華さんもそんな心境なのか、深呼吸をするようにすぅ……はぁ……と肩が上下していた。 そんな仕草が解るくらい、僕らは密着していたのだ。 ウウ、解ってます。今僕ヴァカップリャ症候群です。 でもダメです、心がこんなにも満たされてて、 このマックスハートはアタイの力じゃ止めることなど……! 中井出「《じーーーー……》」 彰利 「ブッホォッ!!?」 夜華 「わぁっ!?」 思わず噴き出してしまった! 愛を囁く筈だった酸素を、肺から全て吐き出してしまった!! ソレも全て、離れた位置でローリングストーン(ズ)みたいに ねちっこくこっちのこと見てるアノヤロウの所為だ! つーかなに!?あいついつからあそこに!? 中井出「?……《ニ……ニコッ?》」 しかも、あ、見つかった……って顔したあとに無理矢理な笑顔でこっち見てるし!! 彰利 「き、ききききさーーーん!いつからそこに居おったぁーーーーっ!!」 夜華 「な、ななななにっ!?誰か居るのか!?」 中井出「え、や……いつからって言われればそのー……最初から!!」 彰利 「うぅーーーっひゃあああーーーー隠しもしねぇよこの人ォオーーーッ!!」 夜華 「さっ……さ、さ……最初、から……!?     じゃ、じゃあ……わ、わたしの涙も、わたしが抱き締められた瞬間も───」 中井出「問われたならば仕方の無い……キミの誇りのために言うまいと思ってたのに……。     うむ!最初からぜーーんぶ見ておったわぁーーーっ!!」 夜華 「あ、が、が───《プピピピピィイーーーッ!!》ふわぁあーーーーっ!!!」 シュザァーーーーーーッ!!! 彰利 「アアッ!夜華さぁーーーーん!!」 顔からヤカンのように蒸気を発した夜華さんが、 僕の抱擁から逃れて全力疾走で逃げ出した!! しかもその速度たるや、風とともに走ってンのか俺が追いつける速度じゃあ……ねぇぜ!! 彰利 「あ、あああ……いい雰囲気だったのに……《ポム》え……?」 中井出「……彰利……」 ソッと肩に置かれる手。 元はといえばこやつの所為なんだが、そんな手に暖かさを感じてしまうほど、 今のアタイの心は冷たくて─── 彰利 「な、なんだよ……なぐさめなんて要ら───」 中井出「ざまァみろォオオ……!!」 彰利 「なんですと!?」 中井出「おみゃァなんかァア……     シノセサンニィ〜キィラワァレテシ〜マ〜エ〜バァエエガヤァ〜……!!」 彰利 「やめれ鬱陶しい!!」 中井出「《ドゴォン!!》ベファーーーリ!!」 右肩に置いていた手をぐぐっと圧し、 肩を回すようにして我が左肩に顎を乗せながら毒を吐いてた中井出の顔面を蹴り込んだ。 つーかなにかね今のエセ外国人みたいなつたない喋り方!! 彰利 「なァアアにしてんのアンタァアア!!     なにィイ!?なにか俺に恨みでもあんのォオ!!?     せっかくのムードが台無しじゃないのォオ!     どーしてくれんのコレェ!お前の所為だよコレェエエエ!!」 中井出「日本の物価が高いのも消費税が高いのも全部オミャアの所為だぎゃあ……!!」 彰利 「なにそれェ!?どんな逆恨みだったらそんな恨み言が口から吐けんの!?」 中井出「や、だってさ、あんまりにもラヴラヴ空間漂わせてたから。     最初からってのはまあウソだ。     出発するぞーって話に来たらなんか抱き合ってるしさ。     出発の報告と出発がちと前後しちまったが、まあ不幸な事故さ」 彰利 「だとしてもなんとタイミングの悪い……。で、出発って何処向かっとんの?」 中井出「ん?猫の里だけど。この要塞置いてこないと」 彰利 「あ、あー……なるほど」 そういや竜が空飛びまわってるうちじゃなけりゃ、堂々と空飛べないんだっけか。 滅ぼされてからじゃあデスゲイズにブチコロがされるし。 彰利 「オヤ?でもちょいとお待ち?水の戒めの宝玉はどないするん?もう取ったん?」 中井出「ああ、場所はエィネのお蔭ですぐ解ったからな。     ルナ子さんが壁抜けの要領で海に潜って、     きちんと破壊してきてくれたぞ?貴様らが乳繰り合ってるあいだに」 彰利 「ちちくり言うでねぇよ!!」 しかしグムー、ならばマジでこの要塞はデスゲイズを仕留めるまでお預けになるのか。 結構乗り心地いいんだけどな、これ。空気も美味いし。 ……ああちなみに、空気を留めるために生やした木々とかは既に引っ込ませてあります。 月くんたちが戻ってきた時点で、ズビーと消してくれました。 彰利 「ほいじゃああとは───」 中井出「雷と光だな。倒したやつで言えば」 彰利 「およ?風は───って、そっか。     確か精霊野郎ことホギーが強奪して破壊したんだっけか」 中井出「そ。お蔭で俺の風属性が……まあ今はほとんど使えない状態だからいーけどさ。     だから俺達ゃこれを猫の里に届けたら、     エィネ連れて光の塔とグニンディールの叢雲に行ってくるわ。宝玉壊さんと」 彰利 「キミも大変だねぇ……」 中井出「なにぃ代わってくれるだって!?謝謝!謝謝黒い人!!」 彰利 「イヤァアアアそんなこと言ってねぇええええっ!!!     ───って、宝玉の場所ならナギ子さんとかの方が解るんでない?」 中井出「修行中の身だし、今は力の使いすぎでノビてる」 彰利 「あいやー……」 そっかぁ……まああげにデケェ大陸浮かせたんだものねぇ、そりゃ疲れもしますわい。 なるほどなるほど、状況はなんとなく飲み込めたことにしとこー。 彰利 「ほんなら俺は夜華さんと武者修行の旅に出るきん。     あんじょう達者で暮らすんよ?」 中井出「それは竜を目覚めさせやがったあのクソモミーに言ってくれ。     あいつの所為で俺の平穏はほぼ無くなったに等しい」 声  「だから悪かったって言ってるだろぉおおっ!!?」 彰利 「おおっ?どっかから声がッツ!!」 やはりモミアゲという言葉には敏感なのかッ!マイフレンド!! 中井出「まあそんなわけだから。魔王として世界を支配するのはまだまだ先みたいだ」 彰利 「今にもHAHAHAとか笑いそうな笑顔で     普通にそういうこと話すのやめよーね?     ……で、やっぱもう貴様以外は隠しジョブになれたん?」 中井出「おお。藍田が修羅で丘野が揺炎、田辺が妖魔で岡田が閃士、     藤堂が機士で清水が混成。俺以外は全員隠しジョブさぁーーーーっ!!     アァーーハハハハハハ!!ハハハ……は……ハハ……ううっ……ひっく……」 彰利 「いやあの……だ、大丈夫だって!キミジョブチェンジしなくても十分強いしさ!」 中井出「魔王になるための条件が厳しすぎるんだよ……。     魔王の遺産ってどこにあるんだよぉお……     みんなずりぃよ自分ばっか素晴らしくなりやがって……!」 彰利 「今さらだけどお前もいろいろ大変なんね……」 中井出「そう思うんだったら一匹くらいドラゴン倒してくれない?」 彰利 「やだ」 中井出「………」 即答で返したらまた泣いてしまった。 や……俺悪くないよ? 悪いのはみんな悠介さ! ドラゴンズカーニバルの開催者さ! 彰利 「ほれ、元気をお出し?ここで泣いててもなんにもならないだろ」 中井出「う、うう……そ、そうだな……。まずはやるべきことがあるもんな……!」 彰利 「そうそう!元気だしていこーぜ!俺ゃ夜華さん探さなきゃならんし!」 中井出「そうだよな!俺も晦の料理に毒仕込まなきゃいけないし!」 彰利 「よっしゃあ!それじゃあまた後で会おうぜ!     つーか夜華さん見つけたらtellで教えてくれ!」 中井出「任せとけ!」 ザッ───!! こうして俺達は互いに背を向け歩きだした! 俺は夜華さんを探すために! そして中井出は悠介の料理に毒を 彰利 「ってちょっと待てェエーーーーーーッ!!!ってアレェもう居ねぇ!!」 振り向けば、そこにはもうヤツは居なかった!! なんという速さよッ……! 恨みを持ったヤツの速度は通常の三倍という伝説は本当だったのか……!?(デマ) ……ていうか原中の連中って大抵恨みを持つと行動が早いからなぁ……。 それがなんらかの形で幸福に向かってくれれば、まだ収まりもつくんだが───  ……その日。  夜華さんを探していた僕の耳に、どこかからか親友の絶叫が届きました。  何事かと急いで各場所を駆け回り、やがてキッチンに辿り着くと───  料理に毒を仕込むなどとんでもない。  実力行使で僕の親友にアミウダケを食わせて“抹殺”(ターミネイト)している我らが提督が居ました。  恐らく皿に盛られた毒に感づかれたのでしょう……  ヤツはそういうカンはかなりのものだったから。  だがそれで引き下がるようなら我らが提督と呼ぶほどの猛者なわけがなく。  彼はついにはというかいきなり実力行使に出て、彼をターミネイトしたらしい。  なんていうかもう……さすがとしか言いようがなかったです。───完 Next Menu back