───冒険の書216/Dでグレイなあんちくしょう───
【ケース536:中井出博光/シロユキ王子とオウル爺と】 ビジュンッドゴォッ!! 中井出「ゲファーーーリ!!」 清水 「グファーーーリ!!」 黒い渦を潜り抜け、飛ばされてみれば───そこはどことも知らぬ謎の場所…………っ! そう、気が付けば……オレは地の獄……! どこかわからぬ地中の底の底……亡者巣食う強制労働施設にいたっ………………!!! 中井出「ああっ…………それにしても金が欲しいっ………………!」 清水 「俺……金よりも命がほしいかも……」 中井出「え?なにそれ」 清水 「前方上空をごらんください」 中井出「?」 促された前方をチラリと見上げてみた。 すると……空、と言うよりは低く、陸と呼ぶにはあまりに高い生物が鎮座ましていた。 えーと、一言で言うならそう……───竜? コルルルル……と巨大な喉を震わせ、僕らを見下ろす立派な竜がいらっしゃいました。 中井出 「………」 清水  「っ……、……」 ドラゴン『………』 清水が必死に“刺激しないでお願い”とアイコンタクトを飛ばしてくる。 ああ解ってる、解ってるさ清水。 刺激なんてするもんか、俺だって命は惜しい。 中井出「やあ」 だからサワヤカに挨拶してヴァゴォンッ!! 中井出「ペサァーーーーーッ!!!」 顔面に強烈な尾撃をいただき、僕はまるで水面に投げられた小石の如く、 どことも知らぬ場所の地面をドカッ!グシャッ!バゴォッ!ドゴッ! バキベキゴロゴロズシャーーーアーーーーーーーッ!!!と跳ね転がり滑っていった。 清水 「バカァーーーーーッ!!刺激するなって訴えただろうがぁーーーーっ!!」 えぇっ!?挨拶って刺激だったんですか!? わたしはあまりの事実に大変驚きました!! 中井出「フフフ、だが甘ぇ……甘ぇよ。     この博光が敵を前にしてステータス移動をしなかったと思うか?」 だが俺は不敵に笑むと口の端の血を拭いながら立ち上がり─── 清水 「うん」 中井出「イエスアイドゥ」 ゴブシャアと豪快に血を吐いたのち、ドゴォンと顔面から地面に倒れ伏した。 しかもなんの冗談なのか、 倒れた部分に地面から盛り上がった岩があって、丁度そこに頭を強打。 中井出「ギャアアアアアアア…………!!!」 頭と口から血を撒き散らしながらその場でのたうちまわることとなった。 いきなり現れた(現れたのは僕らだが)敵を前に、状況整理よりステータス移動を先に? ウフフ、そんな器用な芸当が僕に出来るわけないじゃないか。 もう心の中が驚愕マックスで、なにかをする余裕なんてなかったよ。 だからHPが大変なことになってます。 しかし案ずるなかれ、通常モードだったためにステータスはレベル相応の数値だった。 VIT1であんなもんくらうよりよっぽどいい。 でも一応、頬骨が砕けたことくらい公言させてください。 さっきから口血が止まりません。 ええとポーションポーション……《ゴキュリンビンビゴブシャア!》ぐわっ!しみる!! 中井出「ギャアアアアアアア…………!!!」 回復薬に苦しみもがく僕が居た。 もうなんでもいいから誰か助けて。 ドラゴン『グヴォォオオオオオオッ!!!!』 清水  「助けてぇえええええ!!!」 そして僕がドタバタやってる間にドラゴンに襲われていたらしい彼を、 どうか誰か助けてやってください。 まあ待ちなさい清水くん、飲み物は一気に飲むととってもとっても危ないんだ。 だからゆっくり口に馴染ませて……ぐわっ!しみる!! だが耐えたね僕は!だって僕強い子───だといいね? 中井出「よっしゃあ回復!そして調べる発動!よぉおおく見えるぜ……!!」 無駄に力を込めて調べるを発動。 竜族がそうそう弱いとは思えんが、あまりに強敵なザコモンだったら逃げたいし。  ピピンッ♪《グレイドラゴンは吐き気がするほど強い!身の程を知れザコが!》 中井出「ひどい!なんてひどい!」 状況もそうだが、それよりもナビに中傷された! そのあんまりな現実が、僕のギザ10よりもギザギザなハートを鋭く破壊してゆく! 中井出「上等じゃねぇかワラシャア!!!かかってこいオラァ!!     お、お前なんてなぁ!呪われてなくて試練継続中じゃなければなぁ!     き、きっと強敵だーとかとても強そうだ〜とかで済んでたんだぞくそぅ!!     どうしてぇえ!!どうして僕ばっかりこんな目に合わなきゃならんの!?」 啖呵切ろうとしてた筈が、いつの間にか嘆きの叫びになってた。 だが気にしない! この怒りを……グレイドラゴン、 元素の守護竜であるてめぇに叩きつけてやるぜ!!(人はそれを八つ当たりと呼ぶ) 中井出    「そぉおおもさん!!」 グレイドラゴン『せっぱ!』 中井出    「なにぃ!?自分から言っといてなんだけど素直に返された!?         だが構わん!元素が守護竜、グレイドラゴン殿とお見受けいたす!         我が名は中井出博光!原沢南中学校が提督、中井出博光である!」 グレイドラゴン『その中井出博光が我に何用か』 中井出    「元素の戒めの宝玉をクラサイ!         僕、あれを破壊して回らないといけないの!         不死王ジュノーンを不死身じゃなくすために、         精霊たちの力を解放しなきゃならんのです!         故に初めて普通に話をしてくれたそこのあなた!         ドラゴンズカーニバルの最中だというのにその冷静さを誇るあなたに、         是非とも助力を願いたい」 グレイドラゴン『断る』 中井出    「ホゲェエエーーーーーィ!!?《ズガァーーーン!!》」 即答で断られた! いやまあそんな予感はしてたけどさあ!! グレイドラゴン『だが人の子よ、貴様は今面白いことを言ったな』 中井出    「面白いこととな!?」 え?俺なにか言ったっけ? やったって言ったらホテルケイヨー422号室の外国人宿泊客の真似くらいだし……ハッ! そ、そうか……!こいつ、実は漂流教室ファンだったのか……! 中井出    「なぁんだだったら最初っからそう言やぁいいんだよぉ〜〜〜〜っ!!」 グレイドラゴン『……?なんのことだ』 中井出    「いくら欲しいんだよ〜〜〜っ、えぇえ〜〜〜〜〜〜っ?」  バヂガドッゴォンッ!ギガァッチュバッガァアアアンッ!!! 中井出「ヒギャァアアアアアアアアアアアッ!!!!」 理解が先んじてしまい、つい珍遊記の中村たけしの真似をしてしまった僕を、 強烈な尾撃とレーザーが襲いました。 今度こそはと警戒してVITマックスにしていた僕は、 それでもHP1の状態でしか生き残れず、 グミをポーションで流し込みながらボロ雑巾のように起き上がったのでした。 中井出「すいませんすいません生意気言ってすいません……」 もはや見ている方こそが哀れに見えたのか、 清水もグレイドラゴンもひどく遠い目で僕を見てらっしゃいました。 グレイドラゴン『我が唱えているのは竜族の暴走のことだ。         ある時を境に暴走を始めた竜族……あれは貴様の仕業か』 中井出    「語るのも腹立たしいことですが、それはモミアゲ野郎の仕業です」 グレイドラゴン『モミアゲ?なんだそれは』 中井出    「よくぞ訊いてくれました!!そして聞いてくれ我が心の叫びを!!」 こうして僕は語り始めた。 他の誰でもない、たった一人のモミアゲによって開催された、 地獄のようなバトルカーニバルのことを───!! ───……。 30分後。 中井出    「ね!?解るでしょ!?」 グレイドラゴン『貴様が我が同胞を散々屠った事実だけはな』 中井出    「あれぇ!?何故だか状況が悪化してる!?」 理解には程遠かったらしい。 なんだか眩暈がしてきた。俺もう本気で泣いていい? グレイドラゴン『だが必要なことをおこなうのは種族として当然のことだ。         おこなうのも止めに入るのも各自の自由だ。         故に我は貴様が同胞を屠った事実をいちいち追求はしない。         ……解るな?今までのことはそれでいい。しかしこれからは違う』 中井出    「う、うむ」 グレイドラゴン『が、我は少しだけ貴様に興味が沸いた。         見たところ、姿形はそこらの村人とまるで変わらん。         そんな貴様から同胞を屠ったと聞いても現実味に欠ける』 中井出    「ストレートに侮辱された……」 清水     「いや、俺だって正直信じられないし」 グレイドラゴン『目立つ武具といったら篭手と具足、そして両脇と背面の鞘と剣か。         だが呪われているようだな。そんなものでよくも勝てたものだ』 中井出    「………」 話を聞けば聞くほど泣きたくなる気分だった。 勝てたんだからいいじゃないか……僕はよくやってるよ。 本当はもっと楽しく冒険したいさ。 でも戦わなきゃ力が解放されない上に試練だとか呪いだとかいろいろあるんだ、 何処かにあるであろう呪いや試練の区切りを突き止めたい気持ち、解るだろ? 少なくとも属性の方は時の守護竜、 天地狂乱の代名詞とされるサウザンドドラゴンを解放した時点で解放される……筈。 俺の宝玉が元素なんだから、元素までの……つまり、 このグレイドラゴンが管理してる戒めの宝玉を破壊して、 火と闇の宝玉を破壊すれば僕は解放されるのだ! べつに守護竜をコロがす必要は無い!コロがしたらサウザンドドラゴン解放されちゃうし! でも素材が欲しいので出来ればコロがしたい欲望に素直な僕です。 グレイドラゴン『カイザードラゴンを屠ったのは貴様か』 中井出    「いや、俺というか……まあ、そんなとこ」 正しく言えば、俺の中のバケモンだ。 狂いし者っていう、どっかの運命的な物語の裏ボスっぽいバケモン。 でも時々違和感を感じる。 武器も、口調も、技もそいつのなんだけど───なんか違う。 引っかかってるんだけど、出てこない。 と、悩んでいる俺をグレイドラゴンの鋭い目が射抜いた。 見ているのは……霊章だった。 正確には、霊章が施された手の……指だ。 グレイドラゴン『……内側に凶々しい力の存在を感じる。         なるほど、もしもその力が自由であったなら、         カイザードラゴンが負けたのも頷ける。         だが自由であることは無理だろうな。         貴様が操るには力も、そして身体能力にも無理がありすぎる。         使用したところで全身に激痛が走り、動けなくなるのが関の山だ』 中井出    「………え?」 今この竜なんと言いました? 全身に激痛って……あの筋肉痛にしちゃ滅茶苦茶痛いアレのこと? グレイドラゴン『だが興味が沸いたのは確かだ。呪い程度でそれが沈静化するわけがない。         そうして力を潜めていることにはなにかしらの理由があるだろう。         そして、油断させるために貴様には貴様の思考を以って語りかけている』 中井出    「俺の思考?なにそれ」 グレイドラゴン『貴様が最も、この世界には居てほしくないと思う者の像を以って、         貴様にそうだと思い込ませているのだ。         居て欲しくない者が自分の内側に居るという恐怖がそいつの糧よ。         だからこそそうして貴様を惑わし、         時には操れるようになったと油断させる。         ……さて、貴様に問おう。貴様に語りかけてくる狂戦士とは、         いったいどのような像だ』 中井出    「……バルバトス=ゲーティア。テイルズオブデスティニー2や、         テイルズオブデスティニーリメイク版に出てくる戦闘狂」 清水     「マジで!?」 清水の驚愕も当然だ。 でも浮上してきた時のヤツの強さは半端じゃない。 それが事実バルバトスの強さなんだなぁと感心することもあったが─── グレイドラゴン『聞いたことのない名前だが、それが貴様の畏怖か。         いいか、貴様の体、自我は常に狙われていると知れ。         今はまだ恐らく、貴様の体が出来上がってゆくのを待っているだけだ。         そんな今ならまだ多少の抑制が効くだろう。         だが貴様がその力に頼り、使い続けるのならば……         貴様は確実に力に飲まれ、身体を奪われる』 中井出    「ヒィ!?な、なんとか出来ないのこれ!」 グレイドラゴン『無理だな。だが戦闘狂は戦いに狂った者だ。         全力を解放し、散々と暴れれば気も済むというものだ。         無論、一時的なものだろうがな』 うへぇ……という言葉が思わず口から漏れた。 そして思い出すのは……内側から身体を支配せんとする像。 それはまさに、アレのことではなかろうか。 狂戦士で、宿主の身体を狙う存在っていったら、もうアレしか浮かんでこない。 ……ここにきて、正体がアレだというのはあんまりにひどいんじゃなかろうか。 それならまだバルバトスのほうがよかったよ……。 でも確かにバルバトスにゃ出来ないこと、やってたんだよな。 そこにちゃんと気づくべきだった。 千切れた腕を火闇で無理矢理繋いで動かすなんて、いくらなんでも無茶がすぎる。 そう、筋が切れようが骨が折れようが、あの炎はそこを無理矢理火闇で繋ぎ、 ただひたすらに戦い続けることを望んでいた。 深く考えてみれば、きちんと答えはそこにあったのだ。 中井出「……いい気分じゃないなぁ……」 清水 「提督、お前の身体にバケモンが居るなんて初耳だが」 中井出「や、俺の暴走が始まった時、その姿がバルバトスだったら面白いかなって。     だから黙ってたんだけど、この分じゃそれもなさそうだな……」 清水 「強さ的にバルバトスを上回るって意味か?それ」 中井出「まあ……体がどう壊れようが、無理矢理繋げて戦い続けるバケモノだからな。     宿主がソレを以っても動けなくなるまで戦うっていう恐ろしい戦闘狂だ」 清水 「……うわ、それってまさか───」 中井出「そのまさかだよ……ど〜しよ……」 もう清水も解っていた。 そしてこれが、根性とか魔法とかでなんとかなるほど生易しくないことも。 確定だ、よっぽどのことがない限り、俺は暴走する。 そしてその凶悪さ加減は、 少なくともカイザードラゴンに太刀打ちできなきゃ勝てないほど凶暴、と。 つーかそもそも俺が強くならなきゃ多少は抑えられたかもしれない。 いや、俺のレベル自体は抑えられてるからまだいい。 問題は……武器だよな、うん。 試練が終わり、呪いが消えれば凶悪な能力を余すことなく解放するこれだ。 かといって捨てるつもりはさらさら無い。 うーん困った。 中井出「俺が暴走した時は……どうか俺を止めてくれ」 清水 「いや……想像通りの相手だとすると、全員でかかっても止められるかどうか」 中井出「大丈夫だ、麻衣香が居る。あいつをなんとか残して、ビッグバン使わせてくれ。     その後に俺をコロがしてくれればそれで終わりだ」 清水 「……そう上手くいくと思うか?」 中井出「───…………なんだか無理っぽそうでした」 清水 「俺もそう思うよ」 壊れても自己修復しちまうような存在だ。 きっと回復力も尋常じゃないんだろう。 そこまで考えると、もう絶望的で…… クロマティ高校の前田くんのように頭をかかえるしかなかった。 グレイドラゴン『さて、それで貴様はどうする。我とこの場でやり合うか、         それともこのままいずこかへ行くのか』 中井出    「戦わぬし行かぬ!宝玉くれ!」 グレイドラゴン『断る』 即答だったという。 中井出    「グオッフォフォ……!だったら話は早ぇえ……!!」 グレイドラゴン『ほう、来るか。では───』 中井出    「博識な竜とお見受けいたす。俺の呪いを解く方法を教えてクラサイ」 グレイドラゴン『………』 苦虫を噛み締めたような顔だったという。 きっと今頃、確率50%で毒が中和されている頃だろう。 By、モンスターハンター。 グレイドラゴン『……貴様はとことんまでに変わった人間だな。         我を見て恐怖しているというのに、それを無理矢理楽な方へ流している』 中井出    「楽しいことを愛してる!悲しいことは捨てられない!         そんな人間っていう人生をいっぱいに生きるのが俺の人生目標。         だから人を捨てることなんてしないし、         魔王ジョブを狙ってるってのも半分ウソだ」 清水     「なんだとてめぇ!それほんとか!?」 中井出    「真実である!考えてもみるのだ清水二等!         邪術用の血判が使われるんだぞ!?そんなものがあるっつーことは、         魔族でも呼び出して契約するのと同じようなもんじゃあねーか!         俺はジョブでも現実でも人をやめることだけはせぬ!         これは俺の臆病者としての決定だ!誰にも文句は言わせん!」 清水     「せめてそこは勇者って言えよ……」 中井出    「や、勇気がないヤツが自分を勇者って言ってもなぁ……。         まがい物大決定で、マ男って呼ばれるぞ絶対」 清水     「そんなカタストロフ的なこと言われてもな」 グレイドラゴン『……ふむ。いいだろう、ひとつ貴様というものを試してやる』 中井出    「ちょっとアンタァア!!いつから人を試せるぐらい偉くなったのォオ!!         あたしゃ人に試練を与えられるほどの余裕なんて、         もう持ち合わせちゃいないってのにィイ!!」 グレイドラゴン『受ける受けないは貴様の勝手だ。         だが受けないのならその時点で話は終わりだ。         貴様を殺そうが我の勝手であり、貴様がどう行動しようが貴様の勝手だ』 中井出    「受けます!受けますとも!!」 まるであります!ありますとも!と叫ぶかのように心に力を愛に勇気を! 愛をポテト!じゃなくて愛を込めて! グレイドラゴン『では選ぶがいい』 グレイドラゴンが語ると同時に、我が前に三つの丸い物体が出現する。 ミニシュークリームみたいな大きさだ。 グレイドラゴン『そのうちの一つを手に取り、食してみせろ』 中井出    「おう!《ガブリモグモグ……!》お、なかなか美味い……。         で、これって選べってことはなにか当たりみたいなのがあるんだよね?         ちなみに当たるとどうなるの?」 グレイドラゴン『死にます』 中井出    「丁寧語でそんなダイレクトアタック!?」 え……これマジでやるの?死ぬとか、ちょ、あれ? いつの間にそんな大事になっちゃってるわけ? こんなので命の遣り取りとかなくない? いや、この竜さんならマジでやりかねないっつーか、 俺食べたらもう絶対当たりそうっつーか、そういう運の悪さにかけたら俺、 他の追随を許さないって言うか…… マジでラッキーマンの変身前のゴブファア!! 中井出「ウゲッフェゴッフェガッフェエゲファーーリゴフォーーーリ!!」 清水 「うわあ提督!?提督ーーーーっ!!」 盛大に吐き出した。 お、お待ちなさい……!これっ……! 中井出    「ぐええええーーーーまっずぅ吐くほど不味ぃいい!!!」 グレイドラゴン『ひとつだけ激烈に不味いワサビが入っている』 清水     「なんでここに来てワサビなの!?」 グレイドラゴン『知らぬわ。以前、献上物だと大陸の者が貢いでいった。         本当に死ななかっただけ、ありがたく思え』 清水     「ありゃ?ここってグラウベフェイトー山だよな。         この浮遊大陸に人なんて居るの?         俺達以前、浮遊大陸中を駆け回ったりしたけど……人なんて、なぁ?」 清水が、倒れ伏しながら虚ろな目で口からキラキラ光る液体を垂れ流している僕を見た。 ……当然、言葉など返せるわけがない。 グレイドラゴン『居る。普段は結界を張り、その大陸に閉じこもっているが、存在する。         人とは少し違うが、気になるならば行ってみるがいい』 清水     「いや……それよりもこの謎の物体三つを選ぶ意味を教えてくれると……」 グレイドラゴン『暇潰しと運試しだ。こいつには運がまるでない』 清水     「そんな解りきったこと言われても」 みんなひどかった。 グレイドラゴン『故にまぐれではないと判断しよう。         運で勝てるほど、我ら竜族は軽くはない。         確かに運もあったのだろうが、それは貴様が呼び起こしたものだ。         実力のほどはどうであれ、だ』 清水     「あ……なるほど、そういう考え方も出来るのか。でもこれじゃあなぁ」 清水がゴミクズを見るような目で、痙攣している僕を見た。 ……当然、言葉など返せるわけがない。 グレイドラゴン『ふむ。どうやら貴様は人ではないらしいが』 清水     「イエスアマゾネス!         女傑族は関係ないが、我が名は清水!職業は混成!         バイクは無いが仮面ライダーを名乗ってるたわけものである!!         煌け我が裡なるキングストーン!───変身!!」 キチチッ───ゴコァシャァアアアッ!!! 叫び、ポーズを取った清水の体が腹部を中心に眩い輝きに包まれる! やがてその光が静寂を取り戻し、掻き消えた時─── そこには黒いボディに身を包んだ真っ赤な目のアンチクショウが居た! RX 『仮面ライダー!閃く稲妻ァ!仮面ライダー!愛の戦士ィイイ!!     仮面ラァアイダァアーーーブラァアーーーック!!アールエックス!!』 歌まで歌って現れたソイツは懐かしい姿をしていた。 ガキの頃、ブラウン管の先に居た戦士がそこに居た。 まだ両親が居なくなってしまう前、 一人で憧れていたヒーローが、そんな姿をしていたことを思い出す。 手には懐かしいリボルケイン、黒いボディと真っ赤な目は懐かしいあの頃を思い出させ、 でも黒いボディと言うにはちょっと緑がかった色に苦笑してしまう。 昔はそんなこと気にせずに見れたのになぁ。 RX 『説明しよう!RXはブラック時代より顔の丸みが無くなり、     なんとなく顔がスッキリしたように見えるのだ!     そして……ククク、私は変身の度に強くなり、     まだその変身を二つ残している。この意味が解りますね?』 二つ残してるっていうか、どちらか一方にしか変身出来なかった筈だが。 グレイドラゴン『ほう、では試してみるか。         我は尾のみを使う。それ以外を使わせたならば貴様の勝ちだ』 RX     『まことか!?』 どうしてか古風だった。 グレイドラゴン『ああ。そのあとは宝玉でもなんでも好きにするがいい。         竜族の暴走の原因は泉への異物の混合だ。         しかしそれはこの浮遊大陸までは届かない。         竜族どもとの関係から離れた我には関係ないことだ。         だが──我が盟友、カイザードラゴンを屠られたことまでは目を瞑れぬ』 盟友だったの!?と叫びたかったが口が痛くて喋れない。 あの、献上した何処の誰だか解らない人、これってなんの目的で作ったの? などと思いつつ、エーテルドライを口に含んでうがいをしてから飲み込んだ。 するとどうだろう、口の中がスッキリリフレッシュ。 ……金の無駄使いしたな。せっかくのエーテルドライが……。 中井出    「で、その勝負って俺もノッていいのか?」 グレイドラゴン『好きにしろ。だが加減はしてやらん』 中井出    「尻尾以外は使わないんだな?」 グレイドラゴン『無論だ』 中井出    「そしたらキミは負けて、僕らは戒めの宝玉をもらえるのだな!?」 グレイドラゴン『くどいぞ』 中井出    「───《ニタァアアア……!!》」 RX     『ヒィッ!?』 のちに聞くことになったのだが、その時の僕はとても邪悪な笑みを浮かべていたそうです。 中井出    「あ、でもその前に。呪いの解き方だけ教えてくれない?」 グレイドラゴン『いちいち欲張りな男だ……』 中井出    「あっはっはぁ、人間らしくていいじゃないか。         で、どうなんだ?知ってたら是非に」 グレイドラゴン『あるにはあるが、無理だ。それをするには様々なものが必要となる。         見たところ、それはデスゲイズの呪いだ。         そんなものの抗体めいたものはこの世には存在しない。         ……唯一、その呪いの中から産まれたもの以外ではな』 中井出    「───」 あ。と、俺の口が動いた。 それなら持っている。というか付き纏っている。 今も、俺の村人の服の中で元気にぴょんこぴょんこと跳ねている。 俺が倒れようが持ち前のゴム質の殻であっさり受け流すが。 中井出    「あったとしたら?」 グレイドラゴン『それを用いて解呪の儀式でも行うか、         生物ならば血を抜き取って血清とするがいい。         ソレはすでに毒物めいた呪いだ、そうすることで解ける場合もある。         内側から呪いへの耐性をつければいいわけだからな』 中井出    「ワァオ……」 つまり、なんですか。 僕はこの弾力性のあるベイビーが産まれてきて、 血を抜き取って血清に出来るまでは呪われたままなんですか。 そして呪いを解除すれば暴走した時、みんなが狂いし者を倒せる可能性が減るんですか。 ひどいっ……なんて因果なのっ……! それ以前に産まれてくるベイビーから血を抜けと!? だ、だめっ……!この子が殻のように弾力性溢るるゲリョスっぽい毒怪鳥ならまだしも、 産まれてくる子はきっと見目麗しい輝く月の竜……! そんな子から血を抜けと……?だめだめ出来っこないって。 え?俺ならやりそう?……グオッフォフォ、そりゃ最終手段にはね。 だがあくまで最終手段! 殻のほうでなんとかできるなら、喜んでそっちを使う! 中井出    「ところでここに月光竜の卵があるんですが」 グレイドラゴン『なんだと!?貴様、それを何処で───!!』 中井出    「光の塔で発見しました!         そしてこれは呪われた月光竜から産み出されたもの!         だが俺は血清のことなんかじゃなく別の方法を知りたい!         たとえばこいつが産まれたとして、         その後に残った殻を使って解呪の儀式は可能だろうか!」 グレイドラゴン『質問をしているのは我だ!その卵をどうする気だ!!』 中井出    「うるせー!いいからこっちの質問に答えろてめぇ!!」 グレイドラゴン『なんだと貴様!誰にものを言っているのか解っているのか!』 中井出    「竜!!」 ズビシと指を指して言ってやりました。 すると……その行動が実に呆れたものだったのか、 グレイドラゴンは溜め息をつくようにして消沈。 今度は静かに訊いてきた。 グレイドラゴン『……それを、どうする気だ』 中井出    「我が問いに先に応えよ。じゃなきゃ教えてやんねー!!」 RX     『まさに外道!!』 グレイドラゴン『ぐぬっ……貴様、人の身でいい度胸をしているな……!』 中井出    「よく言われます」 グレイドラゴン『未だかつて、竜族を言葉で黙らせたのは貴様くらいだ』 中井出    「いいから教えて?さもなくばこの卵がどうなるのかグオッフォフォ」 グレイドラゴン『待て!やめろ!……くそ、貴様、ろくな死に方をせんぞ』 中井出    「まあ…………あれが真実なら、ほんとろくでもねぇや」 RX     『え?なんだいそれ』 中井出    「さあ」 あれは夢ですよ夢。 実際にあんなことになるなんて、寂しすぎるだろ、俺。 グレイドラゴン『……月光竜イルムナルラか。         デスゲイズに襲われたと聞いた時は胸が裂ける思いだった』 中井出    「裂ければよかったのに《バゴォン!》グローリィ!!」 強烈な尾撃だった。 グレイドラゴン『呪いを受け、転生不可能と聞いた時は目の前が暗くなる思いだった』 中井出    「おいこいつ絶対に月光竜にホの字だったぜ?         体格差考えろってのキャップブシシシシ《バゴォン!》ギャッピー!!」 痛烈な尾撃だった。 グレイドラゴン『我らは守護竜だ。         およそ、穏やかな目的を以ってそこに至ったものとは違う。         野心があり独占欲があり、なにより力を求めていた。         だがその中でも我とカイザードラゴン、         そしてイルムナルラは違っていた。         もちろん力も求めたが、それは最初の頃のみだ。         力を求めることに飽きを覚え、ただ宝玉を守る……         守護竜という名の通りの存在となった』 中井出    「ブフゥ!ちゃっかり月光竜だけは“そして”って区切ってるよブフゥ!         やっぱホの字で《ゾグシャア!!》ギャォアァアーーーーーッ!!!!」 鋭い爪が僕の身体を抉っておりました。 グレイドラゴン『殺されたいのか貴様!!』 中井出    「がぼっ……がぼっ……」 腹が……僕の腹が無くなっちゃった……! だが安心めされ!どんな傷でもこのエクスポーションを飲めば! ンゴッキュ……マキィンッ!!───ハイ元通り!! 中井出(……貴重で高いエクスポーションが……) 飲んですぐに後悔した。 だがこれで全ては上手くゆく。 そう確信したから、俺はもう黙って話を聞くことにした。 ……この際、こいつの愛の話は度外視するとして。 ───……。 ───早い話が、可能性はあるにはあるらしい。 殻であれ、呪われた月光竜から産まれたことは事実だから。 故にそれを用いて解呪の儀式をすれば、解呪は出来るかもとのこと。 ……問題はその儀式の方法なんだけどさ。 中井出    「えーと……つまりなに?夜、月の光が最も集中する場所で、         卵の殻を粉々に砕いて煎じて飲めと?」 グレイドラゴン『その通りだ』 中井出    「月の光が最も集中する場所……?何処そこ」 グレイドラゴン『それはこの大陸に住む者に聞いてみろ。         そこまではいちいち教えてやれん』 中井出    「ぬう……結局会わなきゃならんのか。しかし待て竜よ。         そいつら結界の中に居るんだろ?どうやって会うんだよ」 グレイドラゴン『この山を少し降りたところに祭壇がある。         幾日かに一度、そこに献上物を運んでくる。その時に会えばいい』 中井出    「な、なるほど……」 それはまた、待つのが面倒な瞬間ですね。 しかし活路は見い出せた……気がする! 故に行動あるのみ! 中井出    「じゃあ戒めの宝玉もらってくから場所教えて?」 グレイドラゴン『なに?馬鹿を言うな。それはこれから───ぐっ!?』 RX     『え?なに?』 中井出    「ククク、貴様さっき俺のこと爪で引っ掻いたよなァアア……!?         なんだっけ……!?尻尾しか使わないんだっけェエエエ……!?         グウェエエッフェッフェッフェ……!!         生憎だがそんなルールの勝負は既にこっちが勝っとるのよォオ……!!」 グレイドラゴン『きっ、ききき貴様!そのためにわざと生意気な口を!!』 中井出    「今頃気づいたのか浅はかなる竜よグオッフォフォ……!!         さあ言うがいい俺の目の前で!戒めの宝玉の在り処をさあさあさあ!!         ン?まさか天下の守護竜ともあろうお方が無論だとかくどいとか言ったこ         とを覆したりはしねぇよなぁあ〜〜〜〜たかが人間相手によぉおお!!」 グレイドラゴン『グギギゴゴギィイイーーーーーーッ!!!!!』 RX     『うーわー……すげぇ悔しそう……』 どっかでミチミチという音が鳴っていた。 ……多分、目の前の巨竜の血管の音だと思う。 グレイドラゴン『そ、そうだ!まだ開始の合図を───』 中井出    「ウワー、命の遣り取りを前に開始の合図を言い訳にしてますよこの竜」 RX     『おいおい悪ぃよ、きっと勝てる自信なかったんだって』 グレイドラゴン『なんだと貴様!我が人間ごときに負けるとでもいうのか!?         いいだろうかかってくるがいい人間よ!我の力を───』 中井出    「おお、怒って済し崩しに戦闘に持っていこうとしてるぞ」 RX     『潔くないな』 グレイドラゴン『ッ……!ッ……!!《ミチミチミチミチ……!!!》』 物凄い殺気がこの場にありました。 だが二言はなかったらしく、グパァ……と口の中から宝玉を出した! そして舌に乗せたそれを俺に渡すと、怒りの吐息をモグルファシャアアと吐き出していた。 中井出    「そうそう、それでいンだよボケが」 RX     『ホッホォ〜、もっとるのォォォォ』 中井出    「もたもたしやがってこのクズがぶっふぇぇえっ!!」 RX     『え?なに───うっ!く、くせーーーっ!!なんだこの刺激臭!』 中井出    「テメェエエエ!!こんな大事なモン体内に仕舞ってんじゃねぇよ!!」 RX     『お蔭で物凄ェ臭いがついちまったじゃねぇか!!         あーあー手に入れた感動が台無しだよ!!         空気読めよオメェエエーーーーーーーッ!!!!』 グレイドラゴン『ゴッ……グッ……!《ピグッ!ピググッ!!》』 いい加減にしないと本気で殺されそうだった。 しかも産まれてきたことを後悔するくらい無惨な殺され方で。 なので慌てて視線を宝玉に戻すと……そこにあるのは二つの宝玉。 ……ハテ? 中井出「これって……一つはまあ戒めの宝玉として、もう一つは?」 と、訊いてから思い当たった。 これは多分─── 中井出「……竜宝玉か」 いや、絶対にそうだろう。 確信を以ってそう言うと、 グレイドラゴンは突き放すようについでだと言ってそっぽを向いた。 中井出(ツンデレだ……) RX (ツンデレだ……) 思い出したのはどうしてか烈海王だった。 や、絶対にデレデレしたりはしないとは思うけどさ。 ……あ、いや、一つだけデレデレにする方法がないわけでもないか。 もしそれが可能になった時に……またここに来るとしよう。 遙かなる面白味を求めて。  ……そんなわけで。  今日は戦いもせずに宝玉を手に入れることが出来た、とても安らかな一日でした。  ありがとう日常。こんな日が来ればいいのにと思ってた僕です。心から感謝します。 Next Menu back