───冒険の書219/戒めの雷宝玉を求めて───
【ケース541:中井出博光(再々)/涙を流そう】 …………ヤなこと思い出してしまった。 うう、頬を伝う涙のなんと熱いことよ……。 レオン「いや……あのな。お前に泣かれると私も泣いてしまうんだが……」 中井出『グフフフ、宿主よ……今さらなにを恐れる……!』 レオン「宿主はお前だろう!!」 中井出『あ、そうだった』 や、でも面白いんだよこれが。 まさか本当の意味での悪魔の囁きを実行出来る日が来るだなんて、予想だにもしなかった。 これぞゲームパワー。ありがとうゲーム、俺は今、このフェルダールに感謝してる。 でもなぁ……アレの所為で姫さんに嫌われたのは確かだし。 他の天使たち(男だが)は、むしろ笑ってて友好的だったんだが。 さて……どうしたもんかな。 グレイドラゴンのところに行って許可を貰う。 うん、これは確実だ。 で、上に行くには妖精のゲートを使うか、空を飛ばなきゃいけないわけで。 でも空は竜族だらけで、下手すりゃデスゲイズと遭遇。 妖精のゲートといえば妖精の協力が必要で、まあこれは要塞に戻ればいいとして。 しかし要塞には晦がまだ居る可能性があるわけで。 今会ってしまったら、僕らの全財産強奪作戦がパーになってしまうのだ。 晦もあれで中々の策士よ。 きっと会った途端に“これ全財産な”って渡してくるに違いねー。 ……とか考えていると、耳に届く違和感。 それを受け入れると同時にtellが届き─── 声  『あ、提督か?晦だけど』 ……噂をすれば影っていうけど、この場合は心の中でも噂と言えるのか。 そもそも影が届く場所に、互いに立っちゃいないわけだが。 声  『今何処に居る?』 レオン「い、いや、私はだな」 中井出『貴様には教えてやんねー!くそして寝ろ!!って言って?』 レオン「言えるものか!!」 声  『へ?て、提督?どうかしたのか?』 レオン「あ、ああいや、なんでもないんだが……」 ……レオンが交代の意志を示してくる。 だが俺はそれを受け取らず、蹴落とした。 レオン(貴様なっ!) 中井出『……もっと、人としての在り方を堪能してくれ。     会話なんて久しぶりだろ?』 レオン(……、……お前) 中井出『俺の中に居たってことは、もう知ってるんだろ?全部。     この世界がゲームの世界だってことも、なにもかも』 レオン(……ああ。これはよく出来た夢だな。     私は確かに赤子として産まれ、竜に育てられたというのに……     その全てが設定された記憶だとくる。おかしなものだが……どうしてだろうな。     お前はそんな、作り物の私たちに全力でぶつかってくる。     それが、な。どういうわけかくすぐったく、とても暖かい) 中井出『作り物だろうが意志を持ってるなら、それは間違い無く生命だって思ってるよ。     だから他のやつがどうでも、俺は貴様らを作り物だと思っても普通に接する。     作り物じゃないって言ったらウソになるしな。でも意志を持ってるなら、     お前らはちゃんと考えて行動できるひとつの生命だ。     言ってみりゃ俺だって親に作られた存在なわけだしな。     おかしなもんだけど、俺はそういうことでの差別ってあんまりしないんだ。     人間であることへの執着は人一倍かもしれんけど』 レオン(そうだな。お前の“人間”への執着は相当なものだ。     しかもその理由が大したものではないとくる。     ただ人としてこの世界を楽しみ尽くしたいだけという理由だ。     人を捨てれば見える世界もあるだろうに) 中井出『人を捨てて見る世界はもう晦や彰利の記憶の中で見たよ。     だからこそ俺は人としての視界で、その先を見てみたいって思ったんだ。     そりゃ、魔術を使えるのは羨ましい。     卍解だって神術だって、やってみたいとはそりゃ思うさ。     でもさ、そういったことは武器や防具を成長させるだけで、案外なんとかなる。     そういうゲーム世界なら、俺はむしろ“そう出来るもの”でこそそうしたい。     俺が変わるんじゃなくて、武器や防具が変わることで俺の能力も変わっていく。     ほら、そういうのってゲームらしくていいだろ?     俺自身が変わっちまったら、それはもう俺じゃない気がして嫌なんだ。     ゲームの世界に入ったら、誰もが普段通りじゃない自分に憧れて変わっていく。     力手に入れて燥ぎ回って、人をやめたり空飛んだり。     そんな中で自分だけがヒューマンのままで高みへ……最高じゃないか』 レオン(……そうか) 俺はゲームの在り方を否定するつもりなんてさらさらない。 誰もが楽しめる空間……それがゲームだと思ってる。 だから今で言う、主人公が人外になって急激にパワーアップ!とかではなく、 レベルアップと武器強化のみで強くなってゆくオーソドックスゲームにこそ愛を! ほら、考えてもみよう。 人外の力を手に入れたーとか、人外になったーとかだと、 ああ確かにこれならパワーアップする理由は解るなどと納得してしまうところがある。 ところが昔のゲームはレベルアップだけ! これだけで数多の敵や魔王をコロがす力を手に入れるのだ! 理屈ではない!レベルというシステムが世界の理をブチ破る! 俺はそこにこそRPGのロマンを感じる! そしてそこに必要不可欠なのが武器! 武器とともに強くなってゆく姿のなんと素晴らしきことよ! だから僕人間でいい。 前にも言ったが幾度も言おう! レベルアップ武器強化!それが全てだR!P!G! そこに種族だのなんだのなぞ関係ねー! それを証明するために、俺はこの世界に降り立った………………っ! 声  『提督?おーい、聞いてるかー』 レオン「……すまない、中井出博光からの伝言だ。今は会うつもりはないそうだ。     現在地も教えない。お前が金持ちになった時、それが再会の時、だそうだ」 声  『───……ま、待て。今すぐ会おう!何処だ!?何処に《ブツッ》』 中井出『悪は去った……』 清水 「悪は去った……」 俺の声が届いていないのは当然のことだが、俺と清水はほぼ同時にそう言っていた。 ククク、晦め、今頃頭を抱えているに違いないわ。
【Side───で、その頃の彼】 ───……ツー、ツー……。 悠介 「……まずいことになった」 彰利 「へあ?どぎゃんしたとよ」 悠介 「あ、彰利!俺ちょっと中井出探す旅に出る!つーかお前も手伝ってくれ!頼む!」 彰利 「なぁああに言ってんのアンタァアア!!     アタイは今勧誘終わらせて帰ってきたばっかなのよォオオ!?     これから夜華さんとゆっくり休憩とってから旅に出る予定で───」 悠介 「そんなことはあとでいいから!今あいつを見つけて全財産やらないと、     おちおち金集めも出来ないんだよ!」 彰利 「ほへ?それってどういうこと?」 ぽかん、という言葉がよっぽど似合う顔をする。 正反対なこっちは心中穏やかではない。 悠介 「だから!つまり!ようするに!     全財産やるって約束で提督をブラックホールに導いただろ!?」 彰利 「おうあれね?でも3$だったっしょ?」 悠介 「そうだけどそうじゃないんだよ!俺はまだ提督に全財産を渡してない!     つまり俺が金を稼いだとして、その時に提督が金を寄越せって言ってきたら!」 彰利 「あ……全財産」 そう……とてもまずいことになった。 ていうかどうしてそういう嫌な方向にばっかり頭が回るんだよウチの提督は!! 彰利 「どうすんのさキミ……中井出のことだから、絶妙なタイミングで金奪いに来るよ?     あ、いや、奪うわけじゃないか、きちんとした話の下でだ」 悠介 「だから性質が悪いんだよ……くそ、提督の性格を視野に納めなかった俺の負けだ」 彰利 「逃げ続けるのもアリなんじゃねーの?」 悠介 「それも考えたんだけどな……それじゃあこの世界を楽しめないだろ」 彰利 「ぬう」 悠介 「それに、tellで無茶な脅迫とかしてきそうだし……なにせ提督だ」 彰利 「すげぇ納得のされ方だけどね。     そうさのぅ……悠介が今脅迫される要素があるとしたら……     ああ、雷の戒めの宝玉の破壊とか?あれまだだったっしょ。     アレ破壊しないとキミ、精霊から精霊武器貰えないし」 悠介 「───それだ!提督より先に宝玉を手に入れるんだ!     そうすれば俺が困る要素なんてなにもなくなる!」 彰利 「探すって、どうやって?」 悠介 「っと……あー……!そうだ!ルナがやってただろ、確か───エィネ、だったか?     妖精に宝玉のある場所を教えてもらって。     だからその妖精の力を借りて、さっさと回収して破壊すればいい!」 遥一郎「エィネならいないぞ?」 悠介 「穂岸!?───どうして!!」 遥一郎「や……ついさっき中井出からtellが来てな。     エィネの力を借りたいからゲート辿ってこっち来てくれって」 悠介 「ゲートだな!?よし───」 遥一郎「ゲート通ったらゲート塞ぐのも忘れないでくれって、塞いでったが」 悠介 「ぐあああああああああっ!!!中井出えぇええっ!!てめぇええええええっ!!」 相手の方が一枚も二枚も上手だった。 後手に回ったヤツの末路なんてこんなもんなのか───!? いや!まだだ!今から全速力でグニンディールの叢雲まで走って、 提督より先に戒めの宝玉を見つければいい! 既に陸の上を浮いて移動している状態だ、 すぐに降りて走れば、なんとかなるかもしれない。 くそ、こんな時に転移が封じられてるなんてツイてない……! 悠介 「じゃあ悪い!俺ちと行ってくるから!」 彰利 「あー待ちんしゃい、俺と夜華さんも行くわ。     結局ここの野郎どもには断られたし、用はもう無くなった。     そんなら別のところでゆっくり休みてーし。夜華さーん、行きますよー!」 …………ドタタタタタズザァッ!! 彰利が声を張り上げて少々。 風とともにヒュゴォッと現れた篠瀬は、息を切らした風情でもないのに顔を赤くして、 まくしたてるように……とも違うが、一気に声を発した。 夜華 「そ、そうか!何処に行くのかは知らないが、貴様が行くのなら行こう!」 彰利 「……いつまで経っても貴様だよね、呼び方」 彰利と篠瀬が同行する……となれば、俺もルナを呼んだほうが良さそうだ。 ゼファーになれればまだ速度も変わったんだろうが、生憎と俺は神でルナは死神だ。 融合なんてしようものなら、それこそ二人ともまいってしまう。 というわけで魂結糸を通してルナに意志伝達……すると、 大した間も無くひょこっと現れるルナ。 それを確認したら、もう止まってなどいられなかった。 稼いだ金を奪われるなんてこと、されてたまるかっ! 俺だってまだまだ武器だの防具だのを育てたいんだっ! 提督……貴様の野望、打ち砕かせてもらうぞ───! 【Side───End】
───……。 中井出「えー、というわけで。恐らく晦はそう思ってるに違いねー。     今頃彰利とかを連れて、グニンディールの叢雲に一直線さ」 岡田 「なるほど」 エィネ『どうしてそこまで予測出来るのかが不思議ですね……』 さて……蟻塚から離れた場所にある森林にゲートを作ってもらった現在。 清水の代わりに岡田が参加し、エィネがやってきた先にこの現状がある。 清水は今は、イベントよりもライダー状態に慣れておきたいんだそうだ。 それは田辺や藤堂も一緒で、鉄分調整だのなんだのを 上手くコントロール出来るようになっておきたいんだとか。 そんな中、呼んでもいないのにやってきて、それを説明してくれたのが岡田くん。 現在擬似隠しジョブ状態の閃士、岡田省吾くんだ。 武器はカムシーン、マスカレイド、七星剣、氷の剣を融合させた、 ブレードスナッパーという酷く軽い剣で、 その名前は同時に剣士としての位置を示している。 ブレードスナッパー……“小手先”を武器とする閃速剣技の使い手をそう呼ぶ。 身体で武器を振るう剣士とは違い、手首などの部分的なスナップを利用し剣を閃かせる、 文字通り小手先を武器とする使い手。 10分アビリティはアクセラレイター、特技は早撃ちというものだ。 速度重視なくせに決して力が弱いわけでもなく、 その攻撃はあまりの速さに銃技で唱える“早撃ち”の名を冠している。 ……まあ、まがい物状態だから多くは撃てないらしいのだが。 銀の篭手が本物だったらなぁ……と呟く岡田くんは、もはや珍しくもなんともない。 ───しかしまあ、なんだ。 武器が剣だっていうのに、 居合いよりも早い斬撃を繰り出すブレードスナッパーってやつには、 俺はもう相当に驚いたもんさ。 鞘に納める必要がないから、刀の居合いよりもよっぽど連続性に長けている。 中井出「というわけで我らも早速向かってるわけだけど。     エィネ、反応のほどは?」 エィネ『まだ……ですね。向かっている場所に微量の反応があることは確かですが』 岡田 「上等上等、自然要塞の位置と俺達の位置考えると、     到着はドッコイあたりかもしれないけど。     でもこっちには妖精さんが居るから、その分無駄がない筈さ」 中井出「うむ!その通ーり!」 ちなみに岡田とエィネには意思交換が出来ることを教えていない。 ゲートを繋いでもらってからすぐに意志交換をして、俺のままで彼と彼女を迎えた。 つーか岡田は普通に乱入してきたんだが。 岡田 「で、手に入れた雷の宝玉は破壊するのでありますか?」 中井出「否である!ヤツが全財産譲渡の契約を虚言にせぬためにも、     全財産を受け取るまでは壊したりはせん!」 岡田 「おお外道!」 エィネ『あ、あの……博光さん?     そんな意地悪をしないで、壊してあげればいいじゃないですか』 中井出「やだいやだい!みんなばっか強くなって僕だけおいてけぼりなんてやだい!」 エィネ『どこまで子供っぽいんですかあなたは……』 中井出「子供で結構!童心を忘れた頭のカタイ大人になんざなりたくない!     だから僕らは本能に生きる!そして僕の本能が叫んでる!     渡さん!娘───じゃなかった、精霊武具は絶対に渡さんぞー!と!」 岡田 「どこぞのガンコ親父みたいだ」 中井出「正直みなさまが羨ましくて」 この博光、久しくレベルアップの音を聞いてない。 いや、聞いたには聞いたんだ、ジョブレベルがアップした際に。 でもいつもの“ぺぺらぺっぺぺ〜”じゃなかったんだ! 僕は何故かそこが悔しかった! そうなればホラ、余計に聞きたくなるってものじゃないか。 だから急ごう!金───じゃなかった、この試練と、呪いを解くために! ───……。 ……。 ズザザザザァッ!! そうしてやってきた常闇の景色! 天高く曇るは雷を纏いし雷雲! 太陽の光さえ届かせないそこは、 エトノワールの比較的側にある常闇の景色のソレとよく似ている。 だが似ているだけで場所は全く別…… 向こうはただ暗いだけだが、ここは雷雲がずっと存在する場所だ。 当然雷だって落ちるし、当たれば……ヘタすりゃ死ぬ。 中井出「さあエィネ!」 エィネ『待ってくださいね……───向こう、あの山の付近から反応がします』 中井出「よっしゃあ!行こう岡田ニ等!」 岡田 「ラーサー!」 辿り着いてから休む間も無く走る! 何故って、大した間も無くヤツも来るに違いないからだ! ……っていうか来てる!見つけた! あたかも雪原を駆けるスピードワゴンさんのようにこちらへ走ってきている! 中井出「急ぐぞ岡田二等!ヤツらが来た!」 岡田 「なに!?うわぁマジだ!」 エィネ『あ、あの!この際ですからですね!ここは快く渡してさしあげたら───』 中井出「つまらないからだめ!」 岡田 「面白くないからだめ!」 エィネ『うあぁあん遥一郎さぁあん!やっぱりこの人達滅茶苦茶ですーーーーっ!!』 中井出「ワハハハハ!!ヤツと我らを比べるとはまた愚か!」 岡田 「我らは一般人とは明らかに違うのだ!     何故ならば我らは世界の常識を破壊せんとする修羅集団!     その名も原沢南中学校迷惑部!」 叫びながらも走ってる。 なんかもう追われる現状すら楽しんでる僕らが居た。 悠介 「見つけたぞ提督!金を!金を受け取れぇええっ!!」 中井出「…………」 悠介 「返事くらいしろぉおっ!!」 中井出「はははは!馬ぁあ鹿めぇええ!そうやって喋らせて、     なにかしらの口約束をさせるつもりなのだろう!     他の者は騙せてもこの博光は騙せぬぞ!」 彰利 「おお!見事に作戦失敗!」 悠介 「失敗!じゃないだろ!お前がやれって言ったのに!」 彰利 「キミもあまり喋らんほうがいいよ?またヘンなところで言葉拾われたら大変さ」 山へと向かってズガガガと走ってゆく。 ステータスなど既にAGIのみに絞ってる。 しかし悲しいかな、 俺のステータスは既に他の者とそう変わらないものになってしまっている。 他のやつら……特に猛者どもや晦たちも着々とレベルアップをしてる。 中にはもう俺のレベルなぞ超えている者も居るわけで─── 悠介 「逃がさねぇぜ提督……!覚えておくがいい!     俺の体の中には───神の力が宿っていることをォオオオオッ!!!!」 後ろ目に見た晦の体がごしゃーーーん!!と光る! その神々しい光に少々たじろぐが、立ち止まってる暇などありゃしない! ていうか光った途端に速度が上昇しやがった! 神モードかあの野郎!白の力は無くなったそうだが、 死神である彰利に死神モードがあるように、 神である晦にもそういった能力があるということ───! 中井出「ッチィ!手段選ばずだな晦ニ等!     金を渡したいがためにここまで全力を出す男を俺は初めて見た!」 悠介 『それでいいから受け取れ!そして雷の戒めの宝玉をよこせ!』 中井出「ハッハッハァ!私を捕まえることが出来たら考えてやらんでもない!」 悠介 『だったらすぐだ!うおおおおおおっ!!!』 ややあって、山を登る坂道に差し掛かったあたりで物凄い追い上げを見せる晦! ぬう、このままでは確実に捕まる!! だがしかし、この博光も伊達にすっぴん状態ではない! 中井出「エジェクション!武器はしっかり二刀流!!」 ジークフリードを双剣化!さらに蒼剣ブラッシュデイムをエジェクション! 次いでマグニファイで鬼人化を発動! ステータス二倍状態で一気に大地を蹴り抜けてゆく!  ズギャオズドドドドォーーーーーッ!!!! 悠介 『うえっ!?───は、速ェエエーーーーーーッ!!!』 彰利 「オーケー任せろ!俺のシャドウバインドでヤツの動きを止める!」 全力で山道を駆ける俺を、彰利の影が追ってくる! 俺はソレに、手の平に集めた光属性を放つことで破壊を狙う! ───が、どうにもマナが集まってくれませんでした。ホワーイ!? 完成したのはとっても小さな属性の球! こんなものでは彰利の影の破壊など出来るわけがねー! な、なにがダメなんだ!?なにが足りない!? 馬鹿な!集中の仕方は蟻と戦った時とまるで同じようにしたというのに 中井出「アイテムマグニファイ!ブッ飛べウォリャアアーーーーーーッ!!!」 ギガァッチュドンガァアォオオンッ!!! 彰利 「《ボチューーーン!!》オギャーーーーーーッ!!!」 ソーサラーリングにアイテムマグニファイを通し、光属性を発射! 魔法でダメなら他の技術で対処するしかないし。 ともあれ影が鋭い光属性に弾かれて爆発すると、 彰利がギャアと叫んで思い切り仰け反った。 今のうちに逃走を───ヒュゴォッ!! 中井出「ホワッ!?」 夜華 『悪いな───貴様に恨みはないが、悠介殿のためだ。止まってもらうぞ』 風が吹いた───と思ったら、すぐ横に篠瀬さん! うわぁちょっと待て!この人速すぎ! 中井出「ちょ、ちょっと待って篠瀬さん!俺は今捕まるわけにはいかないんだ!」 夜華 『貴様も男なら潔く諦めろ。さあ、今すぐ止まれ』 中井出「男なら潔く?───断る!男でも女でも、潔い時は潔くあるべきである!     そして俺は潔くなどないから止まる理由が覇気脚!!」 夜華 『《ドゴヒュバァッ!》甘い!そう何度も喰らうか《バゴォン!》うぴっ!?』 雷撃踏み付けをヒョイと軽い跳躍で避けた篠瀬さんに、炎の裏拳を進呈しました。 不用意に跳躍するとは愚かな……。 空中では身動きが取りづらいことくらい解ってるだろうに。 夜華 『ぐっ───なんの!』 中井出「ぬおっ!?」 しかし体勢を立て直すと、 着地と同時に再び風を纏って物凄い疾駆で距離を詰めてくる篠瀬さん! い、いかん!このお方の突進力はちとヤバイ! 中井出「岡田ァ!!」 岡田 「ヘイィッ!!」 中井出「食い止めろォッ!!」 岡田 「ごめんなすってェィ!!」 ならばと、岡田くんに食い止めてもらうことに大決定! 俺の隣を走っていた岡田くんは剣を抜くと同時に軽く跳躍し、 身体を捻りながら着地、篠瀬さんや晦、彰利と向き合った───! ……お?このメンバーなのに……なるほど、そういう魂胆か晦一等兵ィイ……!! ならば今は全力で宝玉のもとへと駆けさせてもらおう! エィネ『───、……そこを左です!』 中井出「左か!よし!」 急な坂道の中腹に岡田を残したまま、俺は坂の先の自然の十字路を左に曲る。 そしてさらにさらにと歪な形の山を駆け抜け、戒めの宝玉を求める。 エィネ『ここをずっとずっと上です!』 中井出「上!?あ、あのー、崖並に切り立ってるんですけどここ」 エィネ『ですけど反応はこのずっと上ですよ?』 中井出「…………ええい!」 悩む暇もない。 手に持ったままのブラッシュデイムをジークムントとジークリンデに戻すと、 それを長剣にして鞘に納めた。 それから崖に足をかけると手で突き出した岩を掴み、ガシガシと休むことなく登ってゆく。 一応戦ったために“敵”として見なされたヤツらからの逃走だ、疲労は蓄積されている。 だが疲労がピークに達するより先に登りきってしまえば問題などない! ルナ 「やーほー」 中井出「やあ」 そんなところへ訪れたるは月の精霊の力を一身に受けたとされる女性、ルナ子さん。 恐らく最初からこういう場面で現れるようにと命じられていたのだろう彼女に、 俺は平然と挨拶を返した。 ルナ 「あれ、驚かないんだ。崖登ってるところに、浮遊して現れられても」 中井出「フフ、来る頃だと思っていたよ……     俺が晦だったら、きっと似たようなことをしていた」 ルナ 「似たような……?同じことじゃなくて?」 中井出「俺ならこの、今まさに掴んでる崖から壁抜けして現われよと命じるね!     それに驚いた相手は驚愕の表情のままに地面目掛けてまっ逆さま……!素敵!!」 ルナ 「……ほんとに面白ければ自分がどうなろうと構わないのね。     その条件で言うと、落ちるのってあなたでしょ」 中井出「ククク……この博光、ただでは落ちぬ。     落ちる時は貴様も道連れにフェニックスドライバーよグオッフォフォ」 ルナ 「とことん関わるのが嫌になる人間だ〜……。     ……それで、どーするの?わたしがズバッと切っちゃえば、     あなたほんとにまッ逆さまだけど。大人しく悠介のお金受け取る?」 中井出「ヤツがいっぱい金を溜めたあとになら!」 ルナ 「……じゃあ今すぐ落ちて。この高さなら死には」 中井出「死ねぇええーーーーーーっ!!!!」 ルナ 「《ヒュゴォゥンッ!!》ひゃわぁっ!!?」 にこー、と笑って背中の鎌を取ろうとしたルナ子さんに、ジークフリードでの非道の一撃! しかし紙一重で躱された! ルナ 「ななななにすんのよぅーーー!!     もうほんとに不意打ちばっかりでやりづらい!!     いっぺんヘル見せてやるーーーっ!!」 中井出「あ、待った。下で彰利がスカートの中覗いてる」 ルナ 「へやぁああっ!!?ホモっちなにすん───あれ?居ない」 中井出「死ねぇえーーーーーーーーっ!!!」 ルナ 「《ズゴォッブシャアッ!!》えきゃあっ!?あ、う……!」 見事ウソに引っかかったルナ子さんの左鎖骨か右脇腹までを一気に斬り裂く! 愚か……血飛沫をあげ、虚ろな目で地面へと落下してゆく彼女は、 最後に悔しそうに俺を見ると……やがてザムッと音を立てて大地に叩きつけられた。 甘いおなごよ……戦場において、女であることを捨てられなかったのが貴様の敗因よ。 エィネ『平然と外道ですね……』 中井出「悪ですから」 レベルではもう追いつかれてしまった。 だが、武器でならまだ負けない。 これで武器の+まで追いつかれたら、もう泣くしかあるまいよ……。 ともかく今は登ることだけ考えないと───! 【ケース542:晦悠介/ブレードスナッパー】 ガンギギィン!ギンッ!ギヂィンッ!! 悠介 『ッ───ちぃいっ!岡田、お前こんなに剣術得意だったのか───!?』 岡田 「フハハハハ……!伊達に天空城でせっせと鍛錬積んでたわけじゃない……!     貴様の我流剣術には及ばないだろうが、     俺達だって提督以外はそれぞれの武器にあった鍛錬積んでるんだ。     上や前ばっか見てると足元掬われるっていうか掬うぞ」 俺達を食い止めるべく立ち塞がった岡田を前に、 俺達は各々武器を取り出して立ち会っている。 だが驚いたことに岡田の剣は信じられないくらいに早く、 こちらより明らかに遅れて出しても攻撃を弾いてみせるのだ。 彰利 『キョホホ……!だが三体一……貴様には万に一つの勝機もねぇぜ?     加えて言えば、中井出のほうには今頃ルナっちが奇襲をかけてる。     隙だらけン時を狙えって指令を悠介が出してたから、     崖登りでもしてる時にでも襲ってるんじゃねぇかねぇ』 岡田 「フッ……俺のブレードスナッパーとしての能力がレプリカだとしても、     それは“小手先”を連続使用するための銀の篭手が無いというだけのこと。     早撃ちは出来るし、武器だって弱いわけじゃない」 岡田がニヤリと笑む。 悔しいことに、その笑みは虚勢からくるものじゃない。 確かな自信を持った上で、こいつは俺達の前に立ち塞がっている。 ……かに見えて、そうでもない。 立ち塞がっているその足が、実はカタカタ震えてたりする。 ……つくづく原中だ。 だが武器の特性、ジョブ特性ともに本物だ。 抜刀術を使ってるわけでもないのに、馬鹿げた速度の斬撃を繰り出してくる。 ただやっぱり銀の篭手がニセモノだったためか、連撃が出来ないのが救いだ。 悠介 『───刻む!』 だったら連撃を叩き込みまくって、 早撃ちが追いつかなくなったところを撃つしか方法はない。 だからと、俺は疾駆とともに間合いを詰めて連撃にかかった! ……んだが。 岡田 「10分アビリティ発動!アクセラレイター!     アァーーーンド早撃ち!スラッシュ……レイヴ!!」  キュヴォオッ───!! 悠介 『───!!』 彰利 『オワッ!?』 夜華 『これは───!』 だらん、と下げていた腕が、まるで獲物を捕らえんとする蛇のように一気に襲い掛かる! その速度は……さっきも言ったように馬鹿げている。 見えた先から弾いているんだが、 俺一人じゃ抑えきれないくらいの連撃が俺に向けて放たれ続けている……! そんな中で思うことが、どうする、という勝機を狙うための思考。 そして……こいつが二刀流使いじゃなくてよかったという、心からの安堵のみだった。 彰利 『ちょっと待てこの野郎!どういう速さだよオイ!!』 岡田 「連続攻撃が出来ないのが弱みだって思っただろ……。     だったら最初っから連続攻撃型の早撃ちを撃てば、     そんなものはどうとでもなるのさ!」 夜華 『抜刀技術でもないというのにこの速度……!くそ!甞めるな!』 その、速度重視の攻撃に対し、撃を振るうは篠瀬! 飛燕龍-散葉-を風の加護とともに繰り出し、持ちうる限りの速度で撃を払ってゆく───! けどそれじゃダメだ。 相手は原中が一人、岡田だ。 絶対に剣の攻撃だけで終わらせることはない筈。 俺と彰利はそれを予測して互いに頷き合い、撃を弾きながらもそれに備えた。  ───ところが。 岡田 「ぜはっ……ぐはー!ぐはー!ちょっ……ちょっ……待っ……!」 ……気づけば撃は潰え、彼は肩で息を吐いてぐったりモードだった。 彰利 『いや……キミらほんと凡人って気がするよ……中井出といい』 悠介 『そのザマで三体一は普通に無理だろ……退いてくれ』 夜華 『頭が痛い……疲れるくらいなら最初からそのような技など───うん?』 待て───疲れる? ちょっと待て!この世界じゃゾゴバシャアッ!! 彰利 『げっ……あおぁっ……!?』 岡田 「……甘い甘い」 夜華 『っ……あきえ《ゾゴォンッ!!》がっはぁっ……!!』 悠介 『……!?』 恐らく、篠瀬が一番に違和感に気づいた。 そう……この世界では、敵から逃げない限り疲れたりなどしないのだ。 だというのに岡田は疲れを見せ……くそ! また無意識に相手を下に見てたってことか!? 岡田だから、体力が長続きしないのは当然だなんて考えが、 俺達の中に少しでもあったからこんなことに───! 悠介 『彰利っ!篠瀬ぇっ!───くそぉっ!!』 違和感に気づいたその刹那、彰利の首が飛び、篠瀬の肩が斬りつけられた。 違和感に先に気づけたからこそ体勢を変えることが出来た篠瀬は、 それでもせいぜい首を守る程度のことしか出来なかった。 風の加護を得た篠瀬がだ……なんて速さだよ……! 速度重視だと思ってた連撃でさえ、あれでも遅い方だったってのか……!? 岡田 「俺達は自分の弱みを最大限に利用する。     現実世界にしてみりゃつい最近鍛え始めた俺達だ。     お前らみたいな前から鍛えてるヤツは心の底で絶対に下に見てる。     無意識ってやつだ、存在は無意識をコントロール出来やしない」 悠介 『……向かい合う相手が俺一人になった途端、えらく口が多くなったな』 岡田 「一人?はっはっは、晦も人が悪いな。     彰利は生きてるし、篠瀬さんだってグミ食ってるじゃないか」 悠介 『───っ……』 油断はしない、か。 さすが提督が集めた素晴らしき7人の一人だ。 彰利は黒だ、首を飛ばされようが、 オーダーさえ解放してあればHPが無くなるまで死にはしない。 当然篠瀬だって肩を斬られようが、回復アイテムを使えばすぐ治る。 ……まずいな、こういう状況を“ゲーム”として見てる原中が相手じゃあ、 こっちの能力や状況なんて判断されやすいに違いない。 岡田 「あ、それから口が多くなったのは……ただ俺が小手先を休ませたかっただけ」 悠介 『っ!?』 そしてここに来て、俺は勘違いを起こした。 相手が俺一人になった末、明らかに優勢になった状況に胸を張っていたわけじゃない。 攻撃したくても出来なかったからこそこいつは口を多くしていた。 それなのに俺は思い違いをして、せっかくの攻撃のチャンスを逃していたのだ。 岡田 「ククク、さあどこからでもかかってきなさい。     なんかもういろいろ手の内見せたから勝てる気がしないけど、     あらん限りの方法で貴様らを出し抜こう」 彰利 『《ゾリュンッ……》ほんとキミら猛者どもと戦ってると、     何処まで本気で戦やぁいいか解らなくなるわい……』 夜華 『何処まで本気だと……?そんなもの、最初から最後まででいい!』 ダンッ───!篠瀬の特攻! 大地を踏む砕き、一気に間合いを詰めた篠瀬が風を纏って撃を打つ! 岡田 「ヒィッ!?よよよ予想外!     篠瀬さんは絶対にシラケてかかってこなくなると思ったのに!」 夜華 『このような立ち回りは貴様の仲間の提督とやらのお蔭で思い知った!     ならばどうするか!?     そんなもの、油断などせず最後まで全力で殲滅にかかればいい!』 岡田 「ワーオ!ナイスな心意気!ならば俺も誠意を以って応えねばならんな!     とくと見よ!我がブレードスナッパーの力!ウェイクアァーーーップ!!」 悠介 『なにぃっ!?』 ゴカァアアッキィイイインッ!!───ギキィンッ!! 岡田が叫ぶとともに、彼が持っていた剣が大剣となって篠瀬の刀を受け止める! 夜華 『───!?剣が……巨大化した!?』 岡田 「ワハハハハお忘れか!融合した武器はその特性を継承する!     即ちデミルーンも放てればムーランルージュも使用可能!     そして我が剣と接触するということ、それ即ち───!」 夜華 『《パキ……コキキキキ……!》っ!!くあぁっ!?刀が……手が凍る!?』 岡田 「フリーズバリア!聖王の遺産が一、氷の剣の技術スキルだ!     弾く程度なら効果はないが、     鍔迫り合いめいたことをするなど命知らずもいいところ!」 彰利 『岡田テメェエエエ!!手の内見せたんじゃなかったのかこの野郎!』 岡田 「うるせー!最初から全部見せるドアホが何処に居るー!!     だが今こそ全てを見せよう!いくぜウェポンスキル全力解放!     スターバースト!ムーランルージュ!デミルーンエコー!霧氷剣!     そしてトドメにブレイブハートォオーーーーーーッ!!!!」 コォオオッ───ギカァアアォオオオンッ!!! 彰利 『うおっ!?まぶしっ!』 岡田の体が閃光に包まれ、一時なにも見えなくなる。 だがその中で攻撃は放たれることはなく、やがて光が治まる頃─── 岡田 『勇気リンリンパワー全開!さぁ来いィイッ!!』 ビッシィインと決めポーズを取る岡田がそこに居た。 どうやらただこれをやりたかったがために攻撃を仕掛けてこなかったようだ。 だが武器は明らかに変わった。 大剣になったのはもちろんだが、以前清水がやってみせた螺旋斬、 岡田本人がやってみせた覇王烈光斬はもちろん、それ以外の特種な力が岡田の剣に集い、 眩い光を放つ剣と化してそこにあるのだ。 ……冷や汗が出た。 直感っていうやつだろう……アレはヤバイ。 岡田自身に変化はない───俺達とそうレベルは変わらない、岡田省吾のままだ。 けどあの武器はヤバイ。 喰らえば相当なダメージを受ける……そう予感させる何かがある。 岡田 「弦月……これ、俺の最高の技です」 彰利 『え?俺?───OK!そげなもん喰らわなけりゃどうとでもならぁな!』 岡田 「もちろんだ!だから是非喰らってください」 彰利 『俺は嫌だぜ!もう避けて避けて避けまくるね!』 岡田 「───《ニコリ》」 悠介 『───!』 岡田がニコリと笑い、だらりと垂らした腕を軽く持ち上げる。 ……避ける、なんて悠長なことを言ってる場合じゃない。 こいつの……ブレードスナッパーの速さはもう知ってる。 が、知ってるからこそ下手に動けば真っ先に潰される。 くそ……先に出ても先を越されて、 後手に出ても確実に不利になるなんて、どういう剣術だよ……!  ───そう、心の中で愚痴を唱えた刹那だった。 岡田 「───エースインザフォール」  ヒンッ……ザゴキュヴォァッシャァアッ!!!  ───……ォ……ォオゥ……ン…… 悠介 『……え?』 夜華 『───あ、きえ……?』 隣に居た筈の彰利の姿が掻き消え、ただ塵だけが残った。 しかしそれもすぐに消え……あとには何も残らなかった。 悠介 『……なにを、した……?』 岡田 「今、俺に出せる最高の技を。丘野命名、ダンシングソードだ。     カムシーンよりデミルーンエコー、マスカレイドよりムーランルージュ、     氷の剣より霧氷剣、七星剣よりスターストリーム。     それら全てを武器に集わせて、早撃ちで仕留める。     ブレイブハートはクリティカル率を上げてくれるもので、     集わせたウェポンスキルの全ては多段ヒットの特種スキルだ。     おまけにエースインザフォールは俺のHPが高ければ高いほど威力が増す」 夜華 『……、……』 息を飲む音が聞こえた。 冗談じゃない……! 銀の小手が手に入ったら、こんな攻撃を好き勝手に繰り出してくるのか……!? あんな、死んだことさえ気づけない、叫ぶ暇さえ与えない一撃を何度も何度も……!? ……、い、いや……違う。 デミルーンとムーランルージュは別としても、 霧氷剣とスターストリームはロマサガ3の中じゃあ、 連続して撃てるものじゃあなかった筈だ。 霧氷剣はともかく、スターストリームは特にだ。 スターバーストを発動させてからじゃなければ発動出来ないなら…… そしてこの世界の霧氷剣やスターバーストの使用条件が、 デミルーンやムーランルージュよりも難しいものであれば、 あの一撃は連発できるものじゃない筈だ。 それに、清水と岡田が言ってたじゃないか。 螺旋斬も覇王烈光斬も、溜めるのが大変だと。 だったらまだ希望は持てる。いや、持たなくちゃいけない。 岡田 「……《ニコリ》」 悠介 『───!あっ……』 そして、動揺するあまり、再び小手先を休ませる時間を与えてしまったことに気づく。 それは篠瀬も同じで、既に地面を蹴っていたが───もう遅い。 岡田 「ブラスターチャージ!《ヒュフォンッ───!》」 夜華 『フッ───!《チッ……!》』 いや───! すかさず早撃ちを撃った岡田の攻撃を、篠瀬は身を捻って躱した! 岡田の攻撃は篠瀬の左腕を掠めた程度でバッガァォオオンッ!!! 夜華 『っ!?くあぁああああああっ!!!』 悠介 『なっ……!?なんだ───!?』 攻撃は確かに掠っただけだった。 だけだったのに、その掠った部分が爆発したように吹き飛んだ。 そう、まるで……その場から強烈な衝撃波が放たれたように、 攻撃に転じようとしていた篠瀬の身体は離れた場所の山の壁面に叩きつけられていた。 なにがどうなって───いや、考えるな! 早撃ちを撃ち終えた今が好機だってことを忘れるな! 悠介 『疾ッ───!!』 岡田 「へっ!?おわぁ来たぁあああっ!!」 岡田もそれを自覚しているが故に、俺の疾駆に明らかな動揺を見せる。 だがそんな様子にも容赦をかけるなんてことはしない! 細かい連撃なんて甘い攻撃は無しだ!やるなら全力連撃───! 岡田 「ストック解除!早撃ち!」 悠介 『んなっ───!?《ビクッ……!》』 岡田 「ワハハ嘘じゃぁあーーーーーっ!!!」 悠介 『《ヒュオガギィンッ!!》くぁっ……!うおお汚ぇえーーーーーっ!!』 岡田 「汚くて結構!勝てばいいのよ勝てば!」 ストック解除と聞いて、剣を振るうより先に体が硬直してしまった───ところへ、 早撃ちではない普通の撃が落とされる。 それを受け止めるが……くそっ!何処まで奔放なんだよ猛者どもは! 岡田 「達人のキミならきっと身構えてくれると信じていた!     これが技術者じゃなければ、     今さら止まれるかって突っ込んできていたところさ!」 悠介 『っ……違いない……!     つくづく鍛えた力の裏を突いて《ペキパキコキキ……!》うおお剣が凍る!!     だぁあくそ戦いづれぇええええっ!!』 ギャリィンッ!───岡田を力任せに弾き飛ばし、 冷気を振り切るように剣を振るったのちに再び疾駆! 既に小手先は回復しただろうが、撃たせなければ───! 岡田 「もいっちょ───ブラスターチャージ!」 悠介 『───!』 岡田が早撃ちを実行してくる。 それは先ほど、攻撃が掠っただけの篠瀬を吹き飛ばしたものだ。 つまり掠ることさえ許されない攻撃───いや待て!これは─── 悠介 『っ!純粋に衝撃波を出す一撃か!』 岡田 「ぬおっ!?ご、ご名答だくっそぉおーーーーっ!!」 突き出される一撃! それを俺はくぐるように躱し、剣を振るおうとするが───! だめだ!この距離じゃどちらにしろ衝撃波に巻き込まれる! ……いや違う!巻き込まれるからなんだ! さっきはそれで動揺したから一撃を入れられなかったんだろうが! 構うな!振り切れ───!! 悠介 『うっ……おぉおおおらぁああああああっ!!!』 岡田 「ニーバズーカ!」 悠介 『《ドゴォン!》ぷおっ!?』 が、一撃を潜った俺を待っていたのは、岡田の膝攻撃だった。 それは見事に俺の顔面を捉え───って!普通ここで膝蹴りなんてしてくるか!? ええいくそ考えるな!いいからこのまま振り切りやがれ!! 悠介 『───っがぁあああああっ!!』 岡田 「《ズゴォッフィィンッ!!》ぎっ……!?」 顔面を蹴られたお返しとばかりに、地面に降りようとする膝へと剣を一閃! 大地を踏みしめる筈だったソレは宙を舞い───直後、 キュバドッガァアアアアアアアンッ!!!! 悠介 『ぐはぁああああっ!!』 岡田 「い、ぎあぁああああああっ!!!!」 衝撃波が巻き起こり、俺は吹き飛ばされ、 放った本人である岡田は膝を押さえながらその場に蹲った。 悠介 『っ……は、くあぁっ!!』 ザゴンッ!……そのチャンスを逃すわけにはいかない。 吹き飛ばされながらも身を捻り、地面に剣を突き立てて無理矢理止まると、 大地にしっかりと足をつけて疾駆を開始する───! ダメージはあったが、直撃じゃなかったためにそう高いものじゃない。 岡田がアイテムを使ってHPを回復させるまえに、 仕留めなきゃならない……だから今はなによりも先に走る! 岡田 「が、ぐ……!あ、しが……足が……!俺の足が……!」 岡田は足を押さえたまま、震える声を出すだけだ。 よし!このまま─── 岡田 「……射程距離だ《ボソリ……》」 悠介 『うぃぃっ!?《ギキィッ!!》』 一定距離に至った途端、囁くような小さな声が聞こえた! 俺は思わず身構えて立ち止まり─── 岡田 「……《ゴソゴソモグモグマキィンッ♪》ふっかぁーーーーーつ!!」 悠介 『だぁあああ俺の馬鹿ぁああーーーーーーーっ!!!!』 彼の回復を許してしまった! しっかりと足もくっつき、 元のままの姿の岡田がその場にズチャアと立ち上がっていた……! おぉおおおおホントどこまでも戦いづらいなぁもう!! 岡田 「とはいえこっちにはもう、そう火種が無いんでこれで失敬する!     俺の役目は貴様らの足止め!そしてそれももう十分だろう!     というわけでさらばだぁあーーーーーーっ!!!《ズダーーーッ!!》」 悠介 『へっ……?やっ……ままま待てこらぁあーーーーーーーっ!!!!』 スチャッと軽く手を挙げ、岡田は迷うことなく逃げ出した。 俺はついポカンと呆気にとられ…… 気づいた時には彼は山道をあちらこちらとジグザグに移動し、 見失うまでには至らなかったが……捕まえるのには骨が要りそうな事実に、 俺はついに追うことを諦めたのだった。 ……そもそも目的は雷の戒めの宝玉だったんだが……ここまで足止めを喰らっては、 もう追いつくのは無理だろう。 だったらどうするか───…………殺して奪うしかないだろう。 あたかも、念願のアイスソードを奪うかの如く。 ……と、怪しい覚悟を決めていたところで、道端に倒れているルナを発見した。 悠介 「ルナッ……大丈夫か!?」 ルナ 「ん、く……あ、ゆーすけ……」 駆け寄って抱き起こすが……ひどい傷だ。 いったい誰が……って、提督しか居ないな。 ルナ 「ゆ、すけ……これ……相手が居ないのに、全然治らなくて……」 悠介 「提督よぉ……」 恐らく斬ったら斬ったまま、敵対心も解かずに進んでいってるんだろう。 ちゃっかりしてるっていうか鬼っていうか……! なんてこと言ってる場合じゃないな。 悠介 「ルナ、グミとポーションだ。飲めるか?」 ルナ 「ん……へーき……」 バックパックから取り出した回復アイテムを口に運ばせ、クッ……と飲ませる。 グミは小さいし、カプセルや錠剤のように簡単に飲み下せるから回復には便利だ。 お蔭でルナはすぐに持ち直し、起き上がるやオガーと怒ってみせている。 どうやらよっぽど悔しい負け方をしたらしい。 あとは……彰利は塵になっちまったけど、篠瀬は大丈夫、だった筈だ。 けどこの状況を考えると、岡田も敵対心は解いてないだろう。 気絶さえしてなければもう起きてきてもいい頃だが……来てないってことは、気絶中か。 まいったな……つくづく骨が折れそうだぞ、素晴らしき7人の討伐は……。 詰めれば勝てないことはない……どころか、確実に勝てるんだろうが。 とことんまでに人の裏を突いてくるもんだから対処が難しい。 まさか鍛錬してきたことを逆手に取られるとは思ってもみなかった。 ……いや、それくらい想定できなきゃいけないのだ。 悠介 「……もっと」 もっと、強くならなきゃならない。 誰でもない、自分のために。 自分の意思を貫きたいのなら、自分を強くしなければいけないのだから。 誰かを守りたいなんてことを唱えていたら、自分のみを強くなんて出来ないのだから。 その点で言えば、中井出たちは酷く純粋だ。 ただ己のために高みを目指している。 楽しむこと、つまり己のため。 強くなること、つまり自分のため。 強化すること、即ち負けない己を作るため。 生き様全てが己のためであり、その先で救われたものなど過程にすぎない。 そう、俺だって最初はそうだった。 強さを目指した覚えなど最初はなかった。 抗うための力が欲しいとだけ願った筈。 その先で救えた人が居たとしても、それは確かに過程にすぎなかった。 だが過程がいつしか目的になった時、俺は信頼を得たが己への執着を捨てていた。 悠介 「………」 ルナ 「ゆーすけ?」 ……考えるな。 俺は俺だ、周りがどう唱えようが俺は俺らしく生きてゆく。 そもそも、言われたからといってそれを己の生き方としてあてがうことこそ間違いだ。 俺は、俺がその瞬間に思った通りに生きればいい。 そのために、まず───ヂヂッ…… 悠介 「ん……tellか?───もしもし、晦───」 声  『やあ僕博光。宝玉回収したからさ、その報告』 悠介 「そうか、そりゃ───マテ。……か、回収……したのか、もう」 声  『うむ!そして今全力で荒野を駆けて逃げているところである!     最早貴様にこの博光は捕まえられぬ!』 悠介 「………」 いきなり頓挫した。 まず提督を捕まえようと決意したばかりだったのに。 悠介 「な、なぁ……その宝玉破壊してくれって言ったら……」 声  『いいよ?』 悠介 「そうだよな───っていいのかよ!!」 声  『もちろんだ!俺達……クラスメイツだろ?』 悠介 「提督っ……!」 思わずグッと来てしまった……! 嗚呼、俺はこんなイイやつを疑ったりして─── 声  『まだラグナロクっていう脅迫材料あるから、宝玉くらいどうってことないね』 悠介 「………」 ……そんなこったろうと思ったよチクショウ……。 そうだよ……機能しないとはいえ、ラグがヤツに奪われっぱなしだったんだ……。 って待てよ?だったら─── 悠介 「おいおい忘れるなよ提督、こっちには月の欠片があるんだぞ?     これが欲しくて交換条件出したんじゃ───」 声  『や、別に必ず欲しいってわけじゃないから。     必要なのはむしろ清水がだし、俺にしてみりゃまあどっちでもいいかなぁと』 悠介 「………」 まずいことになったパート2。 声  『グフフフフ……しかしそこまで強気に出るとは、     よほどラグのことがどうなってもいいと見える……!     いっそ我が武器に融合してしまおうか?ン?』 悠介 「ギィイイイイイイイ嫌なヤツだなお前ぇええっ!!」 声  『うん冗談さ。     別に相手が強気に出たからってそれが気に食わんとかそんなことは言わん。     別に本気で脅迫する気もないし』 悠介 「えっ……そうなのか?」 声  『ああ。だからこれはお願いだ。     俺としては雷属性は好きだから、ほんとは今すぐに破壊なんてしたくないんだ。     けど貴様がどうしてもって言うから破壊する。     だからさ、まあそこまで高額じゃなくていいから、     金と月の欠片が揃ったらラグと交換してくれ。     大体な、元々全財産くれるって言ったのはお前だろ?     支払われるのが当然なのに、なんでこんな追われたりしなきゃならん』 悠介 「うぐっ……い、いや、それは……」 声  『全財産ってのはアイテムや武具全部のこと言うもんだ。     それを金だけでいいって判断してるのもこっちだし、     宝玉破壊したくないのにするのもこっち。     破壊したら安定するまで雷属性使えなくなるんだからな。     それを曲げようってのに貴様という一等兵はまったく……』 悠介 「わ、悪い……」 声  『だから、頼むわ。金の方は急がないし、欠片もゆっくり探してくれ。     もちろん武器融合なんてさせないから安心してくれ。OK?』 悠介 「……解った、約束する」 声  『《……カチリ》うむ。じゃ、切るぞ?』 悠介 「……マテ。今なにか、カチリとか鳴らなかったか?」 声  『ああ、立ち止まった拍子に鞘と鞘がぶつかった。     両脇と背面につけてると、やっぱりな』 悠介 「そか。じゃ───」 ブツッ───…… 悠介 「はあ……」 とりあえず一息。 ……そうだよな、元はといえば俺があんなこと言ったのがそもそもだし、 それ自体だって騙すみたいなことやって、提督をどっかに飛ばしてしまったわけで。 なのに襲うみたいなことをして、なにやってんだか俺……。 悠介 「…………けど、さっきの音……どっかで聞いたような……」 なんだっただろうか。 鞘が当たった音……にしては静かすぎた気もするが……ま、いいか。 篠瀬のところ戻って、このまま旅にでも出よう。 彰利はまああとで合流するだろう。 Next Menu back