───冒険の書227/やかましく起きた朝は───
【ケース551:藍田亮/モーニン】 チキチチチチチ…………ケッキョー、ケッキョー…… 藍田 「んあ……あ、くぁあ……」 朝の静けさに目が覚めた。 つーても静かだから目が覚めたっていうんじゃなくて、自然にだが。 藍田 「んー……」 寝ボケ眼で辺りを見渡すと、そこらに転がってる素晴らしき7人メンバーの面面。 その中に提督はいないが、あえて知ろうとはしなかった。 どうなってるか知ってるし。 耳を澄まさなくても聞こえてくる奇妙な歌が、それを俺に思い出させた。 声  「やっつぁっつぁぱれびっぱれらんらんびっぱりりんらんぴちたんるんらーりぴたり     るんらーるっぱりるぴらんこれかんろっかやきりかんぐー。まっちゃっちゃーやり     びだりりんらびりちたんりんらんでんらんどーあばりっかったーばりっぱりーばり     びりびりびりすてんてんどんどんやばりんらすてんらんてんやろーわらぶどぅぶど     ぅぶどぅぶどぅぶどぅーやぶー、わでぃーだんりんらんせんらんどぶだけだげだげ     どぅーどぅーでーやどー。やっつぁっつぁぱれびっぱれらんらんびっぱりりんらん     ぴちたんるんらーりぴたりるんらーるっぱりるぴらんこれかんろっかやきりかんぐ     ー。まっちゃっちゃーやりびだりりんらびりちたんりんらんでんらんどーあばりっ     かったーばりっぱりーばりびりびりびりすてんてんどんどんやばりんらすてんらん     てんやろーわらぶどぅぶどぅぶどぅぶどぅぶどぅーやぶー、わでぃーだんりんらん     せんらんどぶだけだげだげどぅーどぅーでーやどー」 声  「うるさいぞ!眠れないと言っているであろうが!!」 声  「やっつぁっつぁぱれびっぱれらんらんびっぱりりんらんぴちたんるんらーりぴたり     るんらーるっぱりるぴらんこれかんろっかやきりかんぐー。まっちゃっちゃーやり     びだりりんらびりちたんりんらんでんらんどーあばりっかったーばりっぱりーばり     びりびりびりすてんてんどんどんやばりんらすてんらんてんやろーわらぶどぅぶど     ぅぶどぅぶどぅぶどぅーやぶー、わでぃーだんりんらんせんらんどぶだけだげだげ     どぅーどぅーでーやどー」 声  「わらわの話を聞いているのか貴様は!」 声  「キャーーーッ!!?」 ザクザクドシュザシュ……!! 藍田 「あーあ……」 随分早くに提督の叫びに起こされた俺達は、総出で提督をボコボコにしたのち、 要塞の中心……いわば一番各所に声が届く場所にある大木に、提督を磔にした。 十字っぽく。キモスト……じゃなかった、キリストが如く。 そして人々が安らかに眠れるようにと、 ナギーに美声魔法をかけてもらったのちに子守詩を歌ってもらってた。 最初はその美声に誘われるように眠れたが……起きてみればコレになってた。 なんつったっけ?イエヴァン・ポルッカ……だっけ? とてもじゃないが子守詩にはなりゃしない。 それどころかずっと聞いてると頭の中でループする。 提督もずっと歌いっぱなしで飽きたんだろうな……。 でもシェーラにレイピアで刺されるまで歌い続けなくてもいいと思うんだが。 声  「…………や……やっつぁっつぁっぱれびっぱれらんらん」 声  「静かにしろと言っているであろう!!」 声  「キャーーーーッ!!?」 ザクザクドシュザクザンザンザン……!! 藍田 「……なんかもう半分ヤケ入ってないか?」 動けないってのはストレス溜まるらしいし。 しかも、なにせあの提督だ、動けないのは常人以上につまらないに違いない。 ……違いないんだが、あれは攻撃されながらもシェーラの反応を楽しんでるとみた。 ナイスガッツです、Sir。 声  「無様なものだな魔王。     こう磔にされては、口ずさむことでしか己が心を救えぬのだろう」 声  「まっちゃっちゃーやりびだりりんらびりちたんりんらんでんらんどーあばりっかっ     たーばりっぱりーばりびりびりびりすてんてんどんどん♪」 声  「無視をするな!!わらわの話を聞け!!」 声  「……わでぃーだんりんらんせんらんどぶだけだげだげどぅーどぅーでーやどー♪     やっつぁキャーーーーーッ!!?」 ザクザクドスザクザシュドシュザシュ……!! 藍田 「……なんか朝から血まみれな状況が頭に浮かんで嫌な気分だなぁ……」 それでも起きない素晴らしい5人はいろんな意味で猛者である。 俺も無視して眠れてたらまだ楽だったのに。 声  「はぁっ……はぁっ……!こ、これだけ刺したのに何故歌っていられる!」 声  「ククク……!それはな……!     この博光の防御力が貴様の攻撃力を上回っておるからよ……!     だからね?僕、未だ寝ている誰かのために子守詩を歌わなきゃいけないの。     邪魔しないでくださいよォ……子豚ちゃァん」 声  「ぬぐっ……二度とわらわを見下したセリフを吐くなぁっ!!」 ザクザクザクザク!! 声  「やっつぁっつぁぱれびっぱれらんらんびっぱりりんらんぴちたんるんらーりぴたり     るんらーるっぱりるぴらんこれかんろっかやきりかんぐー♪」 声  「このっ……!この、このっ!」 声  「《ザクドシュドシュ!》まっちゃっちゃーやりびだりりんらびりちたんりんらんで     んらんどーあばりっかったーばりっぱりーばりびりびりびりすてんてんどんどん」 声  「くっ……!うぁあああーーーっ!!腹が立つ!!」 声  「おお!姫ともあろうものがなんとはしたない!だがその意気や良し!     姫だからと、お堅い姿勢のままで居ては民も緊張しましょう!」 声  「ひっ……姫ではない!わらわ───わたしはただの村娘でしてよ!?     まったくなにを言っているのでしょうこの男は!     わたしを言葉で惑わそうなどと浅はかな!     ……ふふ?もうわたしは惑わされなくてよ?     さあ、どんな言葉でもかけてごらんなさい?」 声  「ブス」 声  「ブッ───!?な、ななななんだと貴様ぁああっ!!」 声  「やっつぁっつぁぱれびっぱれらんらんびっぱりりんらんぴちたんるんらー」 声  「ギィイイーーーーーィイイイイッ!!!!」 惑わされまくってるなぁ……。 しかもまた争うような音が聞こえてきてるし。 でもやまない歌。……どうやらもう無視して歌うことに決めたらしい。 あれ歌われながら、攻撃が効かないのは腹立つだろうなぁ……。 藍田 「……うん、まあ、なんだ」 俺ももうあっちのことは気にしないで、顔でも洗ってくるか……。 ───……。 ……。 中井出「やっ……やっ……つぁっ……つぁ……ぱれびっ……     ぱれらん……らん……びっぱり……りんらん……ぴちたん……るん……らー……」 藍田 「提督よぉ……」 通りすがった場所で、提督がボロボロになっていた。 どうやら少しずつでもダメージが蓄積されて、 しかも敵対心を解かれなかったためにぐったりモードに至ってしまったようだ。 その側では攻撃しすぎて疲れきって倒れてるシェーラ嬢が居た。 藍田 「お前ら元気な。朝くらいのんびりしようとか思わないのか?」 中井出「《フォギィンッ!》思わぬ!!」 藍田 「うおっ!?提督てめぇ!なにをした!!」 提督の身体にあった無数の傷が瞬時に癒えた! しかもどうやらHPも完全回復しているらしい……これはいったい……!? 中井出「きっと奇跡が起きたのよ」 藍田 「そうなのか」 解決した。 もうこの世界自体が俺達にとっちゃ奇跡みたいなもんだ、今さら驚いてもしゃーねぇ。 きっと提督にもいろいろと俺の知らない能力があるんだろう。 提督は我らのびっくり箱みたいなもんだ、タネを知っちまうのはつまらない。 そう、彼はいつだって我らの予想の隅っこに眠る可能性に挑戦する猛者。 その結果が散々たるものであることは、まあ今さら振り返る必要もないわけだが…… 今回のこれも、多分そういうもんなんだと思う。 中井出「藍田……藍田よ……。皆は……皆は起きただろうか……」 藍田 「へ?───……あ、ああ……。みんな……快眠だったぜ……?     あんたの……提督のおかげだ……」 中井出「…………そうか……ああ、そうか……」 思考の最中でいきなり後先短い男の声で語りかけられたもんだから、ちと思考が停止した。 けどすぐに思考を回転させると、俺もそれっぽい言葉で返し…… 提督は、マンガでよくある瀕死の仲間チックな雰囲気を出しつつ─── 中井出「ごめん喉渇いた……水ちょうだい……?」 ゲホーリゴホーリと咳き込むと、やがてそう言った。 ……そりゃそうだな、夜からずっと子守歌を歌ってりゃあ喉も渇く。 藍田 「水を所望か。つーかもう動いてもいいんじゃないか?     そんな磔くらい破壊できるだろ」 トントンと、提督の手首や腕周り、おまけに脚や腰や胴などを縛ってあるロープを突付く。 しかし提督はニヤリとニヒルに笑むと、 中井出「締め付けられる感覚がたまらない……!」 藍田 「俺、普通にそういうこと言える提督って素直にスゲーと思うわ」 中井出「うんまあ。誤解されようが、もう失うものってあんまりない気がするから」 夢見るファンタジーの中で、どれだけ尊厳無くしゃあ気が済むんだろうかこの人は。 藍田 「でもエロマニアだけは譲れないと」 中井出「エロは捨てた!消しちまったデータが戻らないように、     そんな知識も亡きものにしたい!誰かぁああ!     みんなの頭の中身をWindowsに変えてくれぇえええっ!!」 藍田 「叫ばなくていいからさっさと水飲んで来いよ提督。そろそろメシだろ」 中井出「あれ?もうそんな時間か?よし、じゃあ《ミギミギブチベキ……!》」 ステータスをSTRを振り分けて、今こそ提督が解放される。 そして大地というか台地に降り立つや、 “僕、ケロッグコーンフロスト食べたい”とのたまった。 今日から貴様がタイガーだ。 藍田 「んなもん無いだろ。それよりさっさと行こうぜ提督。腹減った」 中井出「俺なんか貴様より先に腹減ってたんだぞコノヤロー」 藍田 「そりゃずっと起きてりゃなあ。少しは寝なかったのでありますか?」 中井出「うむ。最初寝て、途中で起きるまで以外はとんと。     メシ食ったらもういっちょ寝るわ俺」 藍田 「みんな寝たって思ったなら、途中で寝りゃよかったのに」 中井出「ぬう!いかんぞ藍田二等!それではいかんのだ!     何故ならば!シェーラの睡眠妨害をすることが!     眠らぬ俺にとっての楽しみだったからだ!」 ……なるほど、それでシェーラ嬢は提督に突っ掛かってたわけか。 考えてみりゃ天使たちに提供された部屋は結構近い。 中でも、姫ってことでシェーラ嬢にあてがわれた部屋は、 提督が磔にされたここの、すぐ目の前だ。 最初こそ子守歌だっただろう美声も、 途中からイエヴァンポルッカに変わっちまったら睡眠妨害にしかならない。 けど……妙だな。 提督自身、歌は別段キライじゃない筈だから、 そんな誰かの妨害になるようなことは好んでやりはしない筈だが…… 中井出「……《ニコリ》」 藍田 「お?」 俺が物思いにふけってると、既に台地に降りて柔軟体操をしていた提督が笑んだ。 アイコンタクトをしたわけでもなしに、しかしなにかを俺の目から読み取ったのだろう。 提督はコホリと咳払いをすると、話し始めた。 何故子守歌がイエヴァンポルッカになったのか……その全貌を……!! ───……。 ……。 カチャカチャ……パクリ、ムグムグ…… 藍田  「ああ、そりゃてめぇが悪いよ羽根人類」 シェーラ「天使と呼べ!無礼であろう!」 岡田  「うわ……自分のこと天使とか言っちゃってるよこいつ……」 中井出 「きっと頭がホットなんだ」 シェーラ「そういう種族だと言っているのだ!」 田辺  「頭がホットな種族なのか……」 清水  「お可哀相に……」 シェーラ「貴様たちはつくづくっ……!」 それぞれが思い思い食する。 この要塞にも人(?)が増えたもんで、 デカいテーブルに並ぶ料理も昨日と比べれば随分と多くなった。 テーブルの数も、今では四つほどになっている。 清水  「お?味付け変えた?」 イッケク『気づいたニャ?猫印のカツオ出汁が利いてるニャ』 この世界にカツオが存在するのがとても素敵である。 いやしかし美味いな。 さすが猫シェフだ。それとホギー。 なもんだから、俺達は自分が美味いと感じたものを、 片っ端からクラスメイツに奨めまくっていた。 藤堂 「田辺田辺!これ食ってみろ!いけるぜ!」 丘野 「なんの!田辺殿!これを食べるでござる!」 岡田 「違うわ!田辺くんはわたしのを食べるのよ!」 清水 「なんのわたしのどすこい!」 藍田 「いいえわたしのどすこい!」 中井出「さあ食えどすこい!」 田辺 「なんなんだよこのちっとも嬉しくねぇ状況!」 中井出「一人の男を取り合う女どもの真似をしてみました」 田辺 「男に囲まれても嬉しくねぇって……」 中井出「ぬ?女だったら嬉しかったのか?」 田辺 「馬鹿いえコノヤロー、俺は妻さえ居りゃ他の女なんて居らねーよぅ」 総員 『それでこそ男だぜ!』 我らじゃ自由の使徒。 だが愛の使徒でもあり、一度愛した者を愛し通す心を持っている。 恋愛は自由だが、たとえなにより自由を選ぶ我らとて、愛に関しては自由を選ばぬ。 いや、逆に言うとこれこそ自由なのか? どうしようと自由、という方向で。 愛す者は生涯を通しただ一人のみと。 それは否だと否定されようが我らはそれを選びましょう。 藍田 「あ、そだ。なぁ提督、てめぇはダークドラゴン討伐に行くんだよな?」 中井出「うむ。そういうてめぇらはレッドドラゴン討伐だな?」 清水 「イェッサー。呪われてて、しかも試練まで受けてる提督に……。     ここまで見事に今までの守護竜を倒されちゃあ我らも黙ってはおられませぬ故」 丘野 「さすがですなぁ、将兵らの士気も高まりましょうとか言いたくなるくらいだぜ」 岡田 「どうしてそこで標準語なんだ?」 遥一郎「それより普通にてめぇてめぇ言い合う状況にこそ疑問を抱くべきじゃないか?」 中井出「そんなことをいちいち気にしていては、     馬鹿だのタコだのクズだの言われたら傷つくじゃないか」 遥一郎「普通そこは傷つくところなんじゃないだろうか」 そんなものを越えた場所に俺達の精神はあるのだ。 だから気にしない。 中井出「でだ、藍田二等よ。この博光にそんなことを訊いて、一体どうする気なのだ?」 藍田 「サー、今までの守護竜を討伐してきたてめぇにだからこそ言いますが、     やはりレッドドラゴンの素材も手に入れて然るべきかと」 岡田 「あ、そうだよな。俺達が倒したら、提督は素材剥げねぇもんな」 俊也 「あんたらが代わりに多く剥いでくればいいんじゃないか?」 清水 「馬鹿言っちゃいかん!俺が剥いだものは俺のもんだ!」 田辺 「俺達だって武器防具を強化させてぇのさ!」 佐知子「普通にひどいわね」 俊也 「譲り合いの心とかは無いわけだ」 総員 『うんない』 遥一郎「……朝月っていったか?     こいつらに俺達の常識ぶつけてもどうしようもないから諦めたほうがいい」 俊也 「そうみたいだな。彰利が何人も居るみたいだ」 藍田 「いや。弦月は俺達よりもよっぽど外れてるぞ?」 岡田 「だからこそ一等兵なわけだし」 田辺 「そーそ。あいつは俺達より原中暦長いからな。     十年とか二十年どころじゃなく、とんでもなく長い」 中井出「あ、田辺、それとって」 田辺 「ん?あ、おお」 ひょいと渡された汁っぽいものを渡された提督が、料理にトクトクとかける。 すると漂うグラッツェな香り。 俺も汁をいただくと料理にかけて、モシャモシャと咀嚼し始めた。 ……ううむ美味い、料理が上手いヤツはある意味最強だな。  カシュリカシュカシュショショリショリショリショリ……ゲェッフ!!……ポムポム。 中井出「ぷっはぁあ〜〜〜うあ……あー食った食った」 岡田 「食うの早ぇなぁ」 丘野 「味わわなきゃもったいないでござるよ」 中井出「大丈夫……この糧は僕の血肉となって生き続けるんだ」 なんかいいこと言ってる。 イッケク『おかわりいかがニャ?』 中井出 「あ、ちょうだい?大盛りでね?」 清水  「なにぃ!?負けるかコノヤロー!俺にもおかわり!超盛りで!」 岡田  「なんだと!?だったら俺は極盛りだ!」 田辺  「甘い甘い!俺なんかミラクル盛りだもんね!」 藍田  「なんの!俺はハイパー盛りだ!」 丘野  「ならば拙者はプラネットバースト盛りでござる!」 藤堂  「えっ!?あ、や……お、俺どうすりゃいいの!?      プラネットバーストって……!惑星が崩壊するほどの盛りってことっしょ!?」 ナギー 『なにを言うのじゃ!こういうのは言ったもの勝ちというものであろ!』 シード 『そもそもこの場にそこまでのおかわりがあるわけがないだろう』 藤堂  「あったらどうすんだコノヤロー!!俺達ゃもう非日常で過ごしすぎてるから、      あるかもしれないって思うほうこそが正解なんだよォオ!!なぁ提督!」 中井出 「《もぐもぐもぐもぐ》美味いねこれ……え?なに?」 藤堂  「提督てめぇ!!聞いとけよクズが!!」 中井出 「え?あ、あの……僕ごはん食べてただけだよね?それがなんで……」 藤堂  「黙れクズが!!」 総員  『死ね!!』 中井出 「うぉおおおい!?なんで俺クズ呼ばわりされてんの!?      わ、解らない!僕がメシに夢中になってる間、一体彼らになにが!?      や、ちょっ……なんでクズがクズが言いまくるの!?      やめてよ!僕ただメシ食ってただけだってば!」 なにがあったかって、言ってしまえば……なにもなかった。 うん、なかった。 ただこういう状況が完成してしまえば、あとは楽しむだけなのが我ら。 藍田 (……ところでさ。     な〜んかシェーラ嬢が提督ンことチラチラ見てる気がすんだけど) 田辺 (え?どらどら?…………おおほんとだな) 佐知子(臭うわね……ラヴ臭が) 藍田 (お?……俺達のヒソヒソ話に入ってくるたぁ度胸がある) 佐知子(あのお馬鹿彰利の相手してれば多少の免疫はつくわよ。     で?あいつの知り合いっていうからには理由の探求作業は惜しまないんでしょ?) 田辺 (や、色恋に関しては深くツッコまねぇのよ俺達) 藍田 (あれが色恋ならだけど。他人の色恋に首突っ込むのは趣味じゃないんでね) 佐知子(へぇ、意外ね。そんなこと平気でやるもんだと思ってた。好きそうなのに) 藍田 (好きそうに見えるだろうから敢えてやらない。そういった理由もあるけどさ。     色恋は自由だし、首突っ込むやつらってちと鬱陶しいんで) 田辺 (あれってやられてみなきゃ解んねぇよなぁ……) 俊也 (……つまりあれか?どれだけじれったかろうが、くっつく時はくっつくし、     くっつかない時はくっつかないって、そういう目で見てるってことか?) 藍田 (お?いらっしゃい。そしてそういうことだ) その時その時でどんな決断と覚悟を決めて色恋に踏み出すかなんてのは、 それこそ当事者にこそ任せるべきだ。 だから俺達は知らん。色恋は見守ってるほうが面白い。 相談されたって第三者を貫き通すぞ我らは。 佐知子(まあ、あんたらがそうでもわたしはこういうの好きだから。     お節介って言われようと恋の手助けならしちゃうわよ?) 藍田 (うわー……出たよ) 田辺 (恋の手助けをお節介とか言って勘違いしてるやつって、     絶対片方にしか加担しねぇんだよ……。一方の気持ちしか考えてねーのな) 藍田 (そーいうの、お節介じゃなくて邪魔って言うんだぞ?) 佐知子(うわっ!本人を前に失礼ね!) 藍田 (じゃ、シェーラ嬢が提督のことを好きだったとして、おたくはどうしたいの?) 佐知子(もちろん応援───……できないわね。彼、もう奥さん居るのよね?) 藍田 (そーいうこと。だからさ、下手に突っ込んだ話でもしてみろ、     ただシェーラ嬢のハートに傷つけるだけだろ?     よしんば提督がフリーだったとして、     シェーラ嬢を応援しても提督が嫌だって言ったらおたく、簡単に引き下がれるか?     どーせ自分から応援するって決めちゃったんだから〜とか言って、     もっと首突っ込んで関係を悪化させたり滅茶苦茶にするだけだろ) 佐知子(うわー……一方的だけど返す言葉がないわ) 藍田 (だからな、愛だの恋だのなんて本人たちに任しときゃーいいのよ) 田辺 (そうそう、首突っ込んだってろくなことになりゃしない。     勝手に首突っ込んどいて、上手くいかないからって怒る姿想像してみろぉ、     そりゃもう滑稽通り越して怒りさえ沸いてくるだろー、コノヤロー) 佐知子(うー……) 俊也 (まあまあ、そう言わないでやってくれよ。     サチ姉ェってドラマとか好きでさ、そういうこと応援してみたかったらしいんだ) …………。 あれ?応援したかったってことは……まだ応援経験なし? 藍田 (……なるほど、確かに“こういうのが好き”としか言ってないな) 田辺 (カップリャを作った経験がある〜とも言ってなかった……よな) 佐知子(……面目ない) 藍田 (いやいや、こちらこそ偉そうなことを。     やったことがないならいいのさ、あれはろくなもんじゃない) 田辺 (そうそう、じれったい男女を見て苛立つ者どものなんと醜きこと。     苛立つくらいなら最初から首突っ込むなと言ってやりたいね。     色恋に発展しなかった方がいい関係だったってこともあるんだ、     人と人との関係なんてのはなぁ、自然体であるのが一番なのさ) 中井出(故にほっときなさい。色恋は本人たちが楽しむものであり、     周りが勝手に手伝って一喜一憂するものではなし。……ところでなんの話?) 佐知子「うわひゃあっ!?」 俊也 「うわったぁっ!?な、どどどどうして!?     あっちでクズクズ言われてたんじゃっ……!」 中井出「ごはんが冷めますよ?って言ったら治まりましたが」 総員 『………』 どいつもこいつも平和だった。 まあいいか、この話はこれで終わりだ。 してて面白いわけでもない。 佐知子「あー……ん。ま、いいわ。ねぇあんた、中井出っていったっけ」 中井出「うん僕博光」 佐知子「…………その妙に子供っぽい返事やめて。力抜けるわ」 中井出「状況によって口調などいくらでも変えるわ。で、なに?」 佐知子「……もしさ、あんたのことが好きな人が居たらどうする?」 中井出「傷つけてでも断る!生まれてきたことを!!     我を好いたことを生涯後悔させることになろうとも断ってくれるわ!」 総員 『そこまで言うか!?』 中井出「原中大原則ひとぉおーーーーーつ!!     愛した者は生涯を終えるまで愛すべし!!     俺の中でひとつだけ例外が出きちまったが、だがそれも一つの愛!!     互いに忘れてしまっては愛すことも出来ないのは道理!!     というわけで断る!断固断る!!」 身振り手振りをして高らかに叫ぶ提督!! さすがだぜ……!あんた男だよ!! ……というわけでちょっとtellをば……。 佐知子「もし相手が大金持ちだったりしたら?     しかも絶世の美人で器量もよくて、あんたのタイプにストライクだったら?」 中井出「断る!!何度も言うが断る!!     この博光が愛するのは麻衣香のみ!!     そして、我と麻衣香の間に儲けられた紀裡へと!     さらにはナギーとシードに愛を注ぐ!よく聞くがいい皆の者!     タイプがどうだろうと関係ない!!ポニーが不可能でも構わない!!     俺が好きになったのは綾瀬麻衣香という女性であり!!     愛したのも綾瀬麻衣香という女性!!     そんな、理想的で手の届かない架空の相手などクソ食らえだクズが!!!     金持ち!?絶世の美人!?器量よし!?ハッ!それがどうしたクソ喰らえ!!     相手が俺のことを好いてくれたとしても俺が好きにならないでなんの意味がある!     いいかよく聞け野郎どもアァーーンド女郎ども!!     俺はぁっ!!麻衣香のことがぁっ!大ッ!好きッ!だぁああああっ!!!」 声が掠れるくらいの絶叫で、天へと両の拳を突き上げながら愛を語る我らの提督!! その声はこの自然要塞を、そして猫の里さえ震わせるほどの愛だった……!! ……そして、そんな愛を聞いて、声も出せないでいるtellの向こうの綾瀬さん。 ナギー 『おお……うむ、博光はほんに男よの!やはり浮気はいかんのじゃ!』 シード 『父上……!こんな僕にも愛を注いでくれるとは……!』 佐知子 「すごい啖呵……聞いてたわたしのほうが赤面しちゃうわ……」 俊也  「《パチパチパチ……》───はっ!?うわっ……体が勝手に拍手してた……!」 岡田  「いやいや、自分に出来ないことを正直に褒めるのは大事だぞ?」 藤堂  「そうそう、自然にやってたんならそれでいいじゃねぇか。      それが、提督の啖呵を聞いたお前が取った、素直な行動なんだから」 ロイド 『いい啖呵だ、胸にズンとくるものがあった』 アイルー『旦那さん、いいこと言ったニャ』 シェーラ『……なんだ、まったく。中々男らしいところもあるのではないか』 ジークン『ブラボ〜〜〜〜……』 総員  『ブラボ〜〜』 拍手が巻き起こる。 亜人族たちからも、そして我らからも。 ただまあその……やっぱり、なぁ。 藍田 「提督。綾瀬が話があるって」 tellを象徴するように、ゼスチャーをしてみせる。 と、 中井出「ボクハコノアオイチキュウガダイスキデシタ……」 いきなり首を吊る準備を始める提督がってホゥワァーーッ!!? 藍田 「だぁああったわったったぁああああっ!!提督ストップ提督ーーーーーッ!!!」 岡田 「いい言葉を言った途端に自殺すんなぁあーーーーーっ!!!」 冗談じゃねぇ! 朝っぱらから自殺劇場なんて許してたまるか! そんな思いを共通させた俺達は、 全力を以ってどこからともなくロープを取り出した提督を、 そのロープでふんじばった。 藍田  「はっ……はぁ……!」 シェーラ「じょ、冗談ではないぞ……!      わらわはこのようなことをするためにここに来たのではない……!」 中井出 「いやぁあ死なせてぇえ……!私をあの頃の私に帰してぇえ……!!」 シェーラ「命を粗末にするな!何を考えているのだお前は!」 中井出 「日々楽しむことを……でも恥ずかしくて死にそうです……」 藍田  「いや、実に立派だったぜ提督!綾瀬もしばらく息をするのも忘れたくらいだ!」 声   『そっ……そういうことは言わなくていいってば!』 中井出 「イヤァアアアアアアッ!!!オレヨリツヨイヤツニアイニイク!!      オレヨリツヨイヤツニアイニイク!!」 シード 『お、落ち着いてください父上!どうしたというのですか!      先ほど、あれほど勇ましいお姿を見せてくれたというのに!』 勇ましかったから恥ずかしいんだと思うが……! くそ、このままじゃ埒があかねぇよ! なにか適当に話を逸らして提督の復活を狙おう……! ……事態を悪化させた俺が言うのもなんだけどさ。 藍田  「あ、あー……そういやさぁ!      シェーラ嬢はなんだって提督のことジロジロ見てたんだ!?」 佐知子 「あ、それわたしも気になった」 シェーラ『見てなどいない』 藍田  (いいから話し合わせろってこの天使!!) 佐知子 (この状況打破するためには、とにかく話を逸らすのが効果的なのよ!) シェーラ(お前らの都合など知ったことか!わらわは見ていない!) 藍田  (ここはウソでも見てたって言っとけ!どうせ俺と姐御は見てたんだから!) シェーラ(ひっ……人の様子をジロジロ見るなど!      どこまで趣味が悪いんだお前らは!) 藍田  (そらみろやっぱり見てたんじゃねぇか!いいからほら!      落ち込んだ提督を元気づかせるためだ!ほら!) サム、と提督を見るように促す! ───と、 中井出「あ、麻衣香?うん僕博光。     さっきのことは忘れ───否!いつまでも心に秘めといて!?」 既に立ち直って、真っ赤になりながら綾瀬にtellを飛ばしていた。 って……! 藍田 「提督てめぇ!なに勝手に立ち直ってんだよ!     つーかあれだけ恥ずかしいことしといて、     誰に言われるでもなく自らtelするってどれだけ勇者だよ!」 中井出「ふはっ!?ふ、ふはははは!?ここここれくらい僕にかかれば楽勝さ!?」 遥一郎「声、上ずってるぞ」 中井出「うるさいよもう!提督だって人の子なんだよ!!」 恥ずかしさのあまりに首吊り自殺をしようとする男を、俺は初めて見たが。 岡田 「ていうか、サー。覚えてもらってていいんでありますか?」 ナギー『そうなのじゃ。恥ずかしかったのなら忘れてもらうべきではないかの』 中井出「言った言葉に偽り無し!     だから俺は胸を張って、麻衣香に覚えておいてと言えるのです!     代わりに自殺していいですか?」 俊也 「いいわけないだろが!これから俺達の手助けしてもらうんだぞ!?」 中井出「卑怯だぞてめぇ!契約という名の楔の下、俺から自由を奪う気だな!?」 俊也 「卑怯だのなんだの、あんたにだけは言われたくない!!」 中井出「言われたくなくても言ってやる!聞くか聞かないかは任せるけど!」 総員 『じゃあ無視しよう』 中井出「……あれ?」 ……こうして提督は、要塞の隅で一人寂しく大盛りのおかわりを食うこととなった。 ───……。 もぐもぐもぐもぐ…… 声  「泣きながら〜ご〜はん食べる〜と〜……何故か美味しくない〜……」 もぐもぐ…… 田辺 「なぁ……どこからか武蔵ロードのEDが聞こえてきて鬱陶しいんだが……」 岡田 「今でも思うけど、どうしてあんな歌がEDになったんだろな」 丘野 「謎は深まるばかりでござるな」 もぐもぐ……ゴクリ。 藍田 「よっし食事終了ォ!ごちそうさまでした!」 総員 『ごちそうさまでした!』 俺が食い終わる頃にはみんなも食い終えたようで、 揃ってごちそうさまを叫んでいた。 そんな中、提督だけが体育座りをしながらデザートを食べていた。 俊也 「お、おーい……いつまでもイジケてないで、そろそろ行こう」 中井出「イ、イジケてなんかないわよっ!《ポッ》」 俊也 「うわぁ気色悪ぃっ!!」 総員 『おおストレート!』 振り向きザマにツンデレ怒りをする提督への見事な返事! 一方の提督はなにやら悲しげだ……気持ちは解らんでもないが。 自信アリの一発ギャグを外した芸人みたいな心境なんだろう……哀れだ。 中井出「……最近みんなが容赦なさすぎる気がする」 藍田 「ツンデレ怒りなんかするからでありますサー」 中井出「まあいいけどさ……あ、ちと待ってくれ。このデザート美味ぇから味わいたい。     その間、貴様らは猫たちと交渉してアイテムでも揃えといてくれ」 俊也 「あ……そうだな。準備の最終チェックくらいしとこう」 佐知子「わたしは武器のチェックしてもらうわ。     一応鍛えてもらったけど、弾丸関係で訊いておきたいこともあるし。     夏純も一緒に来る?」 夏純 「……《こくこく》」 俊也 「それじゃあ───《クンッ》とわっ!?あ、あー……夏純?俺はアイテムを……」 佐知子「いいじゃない、あんたも武器チェックしてもらえば。     アイテムの確認なんてその後で十分よ」 中井出「そうそう。ゆっくりでいいぞ、俺もちょっとやっておきたいことあるし」 俊也 「……そ、そっか。じゃあ……悪いな」 中井出「いやいや」 サワヤカスマイルで三人を送り出す提督。 今もデザートを口に運びながら、とろけるような顔をしていた。 ……あのデザートそんなに美味いのか? お、俺ももらおっかな……。 中井出「───《ギラリ!》」 藍田 「へ?」 と、そんな時。 突如として提督の目が光り、三人が降りていった自然階段を見てにやぁああああと笑った。 喩えるならば、藤田和日郎氏が描く悪役がじっとりと笑うような……なぁ? 中井出「ナギー新兵!シード新兵!旅に出るぞ!」 ナギー『ど、どうしたのじゃヒロミツ!わしには修行が───』 中井出「修行などどうでもよし!修行をしなくても僕らは強くなれるさ!」 シード『し、しかし父上……!今のままの僕では、父上の足手まといに……!』 中井出「ヴァーーーカモーーーーン!!」 シード『ひっ……!?』 藍田 「うおっ!?」 素晴らしき5人たちと準備を進める中で、 ボ〜ッと提督の様子を見てた俺だが、急な絶叫にしこたま驚いた。 改めて見てみれば、種坊主と同じ目線にするために屈みこみ、 種坊主の肩に手を置きじっと見つめる提督の姿が……! 中井出「シード……我が義息子よ……。この博光が、いつ貴様に役に立てと言った……。     俺は貴様に足手まといになるななどと言ったことなど皆無である」 シード『し、しかし僕は……』 中井出「与える役などない。任せるものなどなにもない。     貴様はシード、我が義息子であり、役に立たないからといって邪険にするほど、     貴様にとっての父は小さき男であったか?」 シード『父上……い、いえっ!そんなことはありません!父上は───!』 中井出「ならば胸を張るのだ。修行などせずとも、鍛えずとも貴様は立派な修羅である」 シード『……はい!』 …………ほんと、時々驚かされる。 提督ってたま〜にだけど、ひどく男の顔っていうのか、漢の顔をする時がある。 もっとも、長続きなんてしやしないのは、俺達の中じゃあ周知すぎて笑っちまうけど。 でも、いいもんだよな〜こういうのって。 義理とはいえ、息子として見てるヤツを諭す……その顔は間違いなく父親の顔だ。 提督ってこんな顔も出来んだな。 紀裡ッ子の前じゃあだらしがない親馬鹿の顔にしかならないらしいのに。 と、そんなファーザーフェイスな提督が、 今度はナギ助へと向き直ると───本当に今さらなことを言った。 中井出「……そういやさ、猫の里ってストームドラゴンに潰されたんじゃなかったっけ?」 ナギー『……随分と今さらじゃの』 中井出「そうね」 藍田 「ほんとそう」 でも気になったことは確かだった。 前に似たようなことを教えてもらった気もするが、ちゃんとは聞いてない気だってする。 ナギー 『潰された場所が何故復活したのか、じゃな?      それはの、わしの力の影響なのじゃ。      先代の然の宝玉に加え、然の能力の戒めが解かれた今、      わしの然の力は以前とは比べ物にならないというわけじゃな。      じゃから意識するわけもなく、自然が自分の力で復活することも可能なのじゃ。      エーテルアロワノンがこの自然要塞になった時も、似たことを言ったであろ?』 中井出 「おお、そういえばそうだな」 遥一郎 「えっと……ようするに、お前の中の力を自然が勝手に吸い出して、      元の自分の姿を維持しようと動いたってことか?」 ナギー 『ふむ、そんなところじゃ』 中井出 「……つまり?俺達がログアウト……あ、いやゲフゴフッ!      どっかへ行ってる間に、自然は自力で復活してたってことか?」 ナギー 『もともとここには自然以外には壁のような山しかないのじゃ』 中井出 「そりゃそうだが。そもそも潰された箇所ってどこらだったんだ?」 イッケク『森の中心ニャ。中心っていっても、      ストームブレス一発でほぼ全壊に近い状態になったニャ』 藍田  「この猫の里が円形に凹んだ山にあるとして、      その円よりちょっと小さい円を穿たれた……みたいなもんか?」 イッケク『そんなとこニャ。無事だったのが奇跡的なくらいニャ』 ああ、そら確かに潰されたって言葉が合ってる。 それからか、この自然要塞に猫たちが集まったのは。 集まった経緯は……なんだったっけか? 藍田 「そういや猫たちがここに集まったきっかけってなんだったんだ?」 中井出「タマの鈴でチリンチリ〜ンと」 藍田 「……そんなんで来るのか」 タマの鈴なら見せてもらったことがる。 見た感じ、なんの変哲もない鈴だ。 けど、鳴らすと近くに居る行商猫が駆け寄ってきてくれるらしい。 中井出「と、話はこれくらいにしてと。ナギー、シード、ゆくぞ」 ナギー『む、むう……じいやには言っておかなくていいのかの』 中井出「そこんところどうですか?ホギー」 遥一郎「いいんじゃないか?修行の必要がないなら、俺もここから動けるし」 中井出「あれ?貴様ずっとここで料理番やってくれるんじゃなかったの?」 遥一郎「あ、あのなぁ……そんなの誰がするか。俺だってやりたいこといっぱいあるんだ」 中井出「うむ、去る者は追わぬ。今までありがとうを貴様に」 遥一郎「ほんと、面倒ばっかりかけるのはあの馬鹿そっくりだったよ。     兄妹の誓いでも立ててみたらどうだ?」 中井出「馬鹿?おお、あの触覚娘か」 一発で解るのもどうなんだ?提督よ。 ……そう思う俺も、一発で解ったりしたけど。 しかしその質問に対し、俺ならばこう言うだろう。 中井出「断固として遠慮します」 と。 遥一郎「そうか?なんだかんだで気が合いそうだと思ったんだが」 中井出「ふむ。無邪気なのはとてもいい。だがヤツは無邪気すぎるのだ。     ……つーか確かあいつ、空手有段者だっただろ」 遥一郎「……よく知ってるな」 中井出「噂に聞いたことあったからな、稲岬街の触覚の悪魔の話。     女だてらに空手女王の座に君臨し、悪を滅ぼす下段蹴り女帝……」 遥一郎「ああ、その噂流したの、俺だ」 中井出「あれお前の仕業だったの!?」 遥一郎「いや……実際のところ、     俺はノアとサクラにそれっぽいことを語っただけだったんだけどな……」 藍田 「無駄に話が広がってしまったと。……と、準備終わったから俺達行くな?」 中井出「おう。よし、じゃあ俺達も行くか。     ホギー、貴様はどうするんだ?もう行くのか?」 遥一郎「そうしようと思う、んだが……うん、よし。     一度守護竜討伐に付き合っていいか?」 中井出「来る者は拒まぬ!というわけでとっとと行こう。     依頼者が戻ってくる前に、闇の遺跡のアイテムを我が物にグオッフォフォ……!」 遥一郎「……お前ってさ、邪悪の化身みたいなやつだよな」 中井出「権化と言ってほしいものだ」 シード『そうだぞ貴様、失礼な』 遥一郎「………」 早くもホギーは頭が痛そうだった。 そんなホギーや提督を余所に、俺達はうんと頷いてから行動を開始した。 目指すはフレイムマウンテン!張り切っていってやろう! 【ケース552:中井出博光/ヒロミチュード・アンデルセン】 そんなこんなで自然要塞エーテルアロワノンを発った─── 俺、シード、ナギー、ホギーの四名は、ただ一直線に闇の遺跡を目指した。 クサナギ……で飛ぼうと思ったが、流石に乗員オーバー。 そんな苦難もなんじゃオリャーと、無理矢理乗ってみたが───  ズガガガガドシャーーーーアーーーッ!!! 総員 『ちぇるしぃいいーーーーーーーっ!!!』 ジェット噴射が開始されると同時にバランス崩壊。 顔面から壮大なる草原に落下し、そのままで地面を滑ってしまった……! ぐおお……!フェイスが痺れるこの激痛……まさに国宝級であるわ……! だが諦めない!それが俺達に出来る唯一の戦い方なんだよ! 中井出    「ナギー!シード!浮遊をせよ!」 ナギー&シード『サーイェッサー!!』 中井出    「ホギーよ!貴様は浮遊は可能か!?」 遥一郎    「風魔法の応用で、浮くことくらいならまあ出来るけど」 中井出    「よしではそれを実行せよ!あとは俺とクサナギで引っ張るから!」 ナギー    『お、おおなるほどの!冴えておるのじゃー!』 中井出    「うむ!ジェット噴射で粉微塵になるがいい!」 ナギー    『却下じゃ!』 いきなり却下された。 や、そりゃするか。逆の立場だったら俺だってする。 中井出「言ってみたかったから言っただけだって!大丈夫大丈夫!」 ナギー『う、うむむ……本当に大丈夫なのであろうな……』 中井出「大丈夫!何を隠そう、俺はスカイサーファーの達人だぁああっ!!」 ナギー『お、おお!そうか!ならば安心なのじゃー!』 中井出「……人を引っ張る達人ではないがな《ヴォソォリ……!》」 ナギー『む?なにか言ったかの』 中井出「うむ言った!だが教えてやらぬ!     何故ならば!その方が面白いからだ!」 遥一郎「お前って何処までも勝手だよな。……とりあえず却下。普通に走ればいいだろ」 中井出「あ、あれ?聞こえた?」 我が問いに、彼は“ばっちり”と答えた。 ぬうう……!口に出してしまった時点でこの博光の敗北は揺るぎ無いものであったか……! 中井出「……よし冷静になろう。この世は乱世。僕らは旅人。ならばどうするか?」 ナギー『歩くのじゃ』 シード『ですね。そうですよ、僕らは旅人なのですから』 遥一郎「何気に人の提案を大却下の方向で進めないでほしいんだけどな……」 中井出「はっはっは、いいじゃないか。可愛い子には旅をさせろと言うだろう」 遥一郎「この中で一番子供っぽいヤツの言葉じゃない気がするけどな、それって」 中井出「言ったもん勝ちってヤツだろ」 うん、やっぱどんな世界でも朝日ってのはいいもんだ。 こうして眩しい太陽の下、陽気を浴びているとなんだか眠くなって…… 中井出「そういえば寝てないよ俺!なんか眠いと思ったら!」 遥一郎「いや……なんかそのまま普通に出る準備してたから、     寝るつもりないのかとツッコまなかったけど」 中井出「寝ないと死ぬって!この世界で寝ること=精神を安定させることなんだから!     だ、だが早くしなければ遺跡探索のパイオニア、     トレジャーハンターどもに追いつかれてしまう」 ナギー『子守歌の途中で眠ればよかったであろ?なんでずっと歌い通したのじゃヒロミツ』 中井出「う、うむ……そ、それなんだがな……」 ナギー『し、知っておるのか雷電……!』 俺自身のことなんだから知ってて当然なんだが、そんなツッコミは無しだ。 故に話した。 俺が眠らなかったその最大の理由を……! ……メシ食ってる時も似たようなこと話したけどね。 こっちはより鮮明にということで。 中井出「や、最初は俺も綺麗に歌ってたんだ。     シェーラのヤツが“心地よい歌声であるな”とか偉そうな褒め方をしたくらいに。     だが素直に認めちまったのが悔しかったのか、急に態度変えやがってさぁ。     ドリアードに声を変えてもらわねば、     歌すらも歌えないのだろうとか言ってきたんだ」 遥一郎「……それで?」 中井出「カチンとはこなかったものの、人の子守唄にイチャモンつけるのは頂けんと、     日本印度化計画を歌ってみたんだ。     日本をインドにィイッ!しィイイてしまえ!って」 遥一郎「…………」 暗黒を煮詰めたような暗い顔だったという。 いやぁでもさぁ、レイピアで刺すことないじゃないの。 その反応が面白くて、歌をどんどんとエスカレートさせていった俺も俺だけど。 遥一郎「けど、そうだな。あいつがお前のことを気にしてるって言ってたの、     あながち間違いじゃない筈だ」 中井出「おお、無理矢理話題変えたな。で、それってどういう意味?」 遥一郎「恋心じゃないにしろ、お前はあいつに気に入られてるってことじゃないか?     気に入る……とはちょっと違うか。     ほら、姫だからって理由で、対等の目線で見てもらえなかったとかあるだろ。     そういうのが溜まりに溜まってたところにお前が現れた、とか」 中井出「……ギャルゲーとかでありそうなシチュエーションですね」 遥一郎「そこで敬語はやめてくれ。常識的に考えても、     下に見るしかなかったり上に見るしかなかったりの生活なんて、     ただ疲れるだけなんじゃないか?そういった意味では、あいつにとってのお前は     初めて対等に話し合える相手だったって、そういうこと言ってるんだ」 中井出「なるほど」 そうかそうか……あのシェーラ・シェーラがそんなことを。 しかし怒ると武器を振るうとことか、焦ると舌が回らないところとか、 俺の知ってるどこぞの武士さんにそっくりなんだが。 もしかして彼女がモデル? まあだからってヤツと接する態度が変わるわけでもないが。 中井出「理解したところで僕寝るね?     大丈夫、クサナギに乗りながら寝るから。道案内は貴様に任せた!」 遥一郎「……まあ、いいけどさ。闇の遺跡でいいんだな?」 中井出「ああ」 それだけ返事をすると、俺は静かに息を引き取った……じゃなくて目を閉じた。 ああ……穏やかなだるさが僕を包み込んでゆく……。 Next Menu back