───冒険の書237/刻震竜の眠る地へ───
【ケース567:閏璃凍弥/バッドランドメモリーエイド】 ザクザクドシュザクサコサコシュザシュドシュゴシュッ……!! 閏璃 「ふぅ……今日も最高だ」 御手洗「な、なにが?」 蒼い空の下で、倒した敵を全員で剥ぎ取っているそんな俺達が。 柿崎 「いい加減、戦いにも慣れたよな。     自分がするべき担当行動が見えてきたっていうのか?」 鷹志 「囲んでボコるだけだけどな」 来流美「それ言ったらお終いでしょ、戦いなんて」 由未絵「でも、うん。わたしも結構、呪文とか噛まなくなってきたよ?」 来流美「あんたは慌てすぎなの。凍弥が傷ついた時なんて目も当てられないわよ。     きあー!って叫んで詠唱間違えて、     傷ついた相手をさらに燃やす魔術師がどこに居るの」 由未絵「うぅ〜……呪文って難しいんだよ……?     戦いの中で組み立てるの、すごくすっごく大変なんだよ?」 閏璃 「ゴック!」 鷹志 「ズゴック!」 柿崎 「ハイゴック!」 御手洗「黒い彗星!」 四人 『はいゴッキーーッ!!』 来流美「やかましいわよ!」 なんのかんのと流浪の旅をすることしばらく、 ずっと野営続きでいい加減ベッドが恋しくなる今日この頃。 相変わらずの調子の俺達は、ただただ平和な冒険者的冒険を続けていた。 鷹志 「はぁ……それにしてもいい青だな」 真由美「うん、雲ひとつない快晴なんて珍しいよね。最近じゃあ竜族が飛び回ってたもん」 閏璃 「ああ……素晴らしい青だ。まるで毒キノコを食った柿崎みたいだ」 柿崎 「人の顔色を勝手に捏造して喩えにしないでくれ」 フォル『そうだぞ貴様……殺されたいか?』 閏璃 「お前って開口二番が大抵“殺す”なのな。飽きないか?」 ちなみにかつての西の魔王、フォルネリアも同行している。 すっかりパーシモンの妻としての風格を露にしてきたこんちくしょうは、 まるでどっかのオチビさんのように柿崎と俺達とでは口調を分けていた。 柿崎に対してはもうとろけるくらいの口調だというのにこの差はなんなんだろうな。 うん解らん。 鷹志 「で、今回の目的ってなんだったっけか」 真由美「エトノワールの王様からの直々のお願いだったよね。     王国就きの預言者が北でよくないことが起きるからとか言ってたから、     竜刻山ってところを見てきてくれ、って」 そう、俺達はなにも目的もなくだらだらと歩いているわけじゃない。 冒険しながら、一応は目的を持って行動している。 それっていうのがたまたま近くに寄ったって理由だけで会いにいった、 エトノワール王レイナートからの直々のお願いってやつだった。 閏璃 「思い出すな……王様の前で柿崎が急に頭の上で手を合わせて、     腰をくねらせながらパンナコッタナタデココナッツタピオカ!って叫んだのを」 柿崎 「当然のことみたいに物思いに耽るなぁっ!!いつやったんだよそんなこと!」 鷹志 「そのネタ知ってるやつ、多分物凄く少ないぞ」 ここはエトノワールをずっと北に進んだ場所。 さらに高いところに乗れば、常闇の領域も見えるくらいの標高の高い場所だ。 この山をひとつ越えたところに竜刻山っていう山があって、 なんでもそこはかつての勇者に封印された竜が封印されてるとかされてないとか。 そこの頂上に小さく建てられている祭壇が無事かどうかを見てきてほしいんだそうだ。 それは強い力で構築されていて、よほどのことがない限り壊れたりはしないらしい。 だが封印されている竜っていうのが超がつくほどの規格外の力を持つそうで、 目覚めようとしてるっていうのなら、 既になにかしらの異常が起きてても不思議じゃないんだとか。 柿崎 「どういう状態を確認してこいって言ってたっけ」 閏璃 「確か壷が赤く光ってたら逃げてこいって言ってたぞ」 鷹志 「ドラクエ5あたりであったな、そういうの。でも違うからな?」 真由美「社に少しでも異常があったら報せてくれ、だったよ。     赤く光ってたら危険っていうのも確かに言ってたけど、     それはそれを示すものがまだ残っていれば、とかだったよね」 閏璃 「王様も酷な頼みごとするよな……」 来流美「腐らないの。こういうのも積み重ねていけば、     それなりに信用を得られるってもの───」 閏璃 「……社の普段の状態なんて、俺達が知るわけないのに」 来流美「よ───ってあぁあああーーーーーーっ!!!     そうよそうじゃないのしまったわぁあーーーーーっ!!!」 今さらそんな事実に気づいたのか、来流美が頭を抱えてオーノーと空を仰ぐ。 まずい!ヤツが暴れ出したらこのヘン一帯が火の海だ!勝手なイメージで! 閏璃 「大丈夫か来流美!傷は浅いぞしっかりしろ!     脳内には深刻なダメージを産まれた頃から負っているが!」 来流美「アンタ喧嘩売ってんの!?」 コマンド“なだめる”は失敗に終わった。 もともとそんなコマンドはなかったが。 閏璃 「ところで友よ。方向はこっちでいいんだよな」 御手洗「あ、うん。ナビマップによれば間違いないけど」 由未絵「疲れないのが救いだよね……わたし、運動苦手……」 閏璃 「幼馴染である由未絵が運動苦手なのに、     どうしてお前はそんなにムキムキなんだろう」 来流美「だからっ……!喧嘩売ってんのかって訊いてんのよ……!!」 売ってないって言っても殴りそうな雰囲気出しといてよく言うぞこの羅漢めが。 閏璃 「きっと売ってると言うや俺の頭をミンチにして練って混ぜて焼いて、     ハンバーグにして食う気に違いあるまい……!     ぬおお、恐ろしき修羅よ……!《コッパァン!!》はぶぅいっ!」 来流美「好き勝手に人を食人鬼にしないの!……はぁっ……!     アンタってほんっとに大人になっても子供なんだから……!」 閏璃 「……だとよ」 柿崎 「明らかにお前に言ってただろうが!どうして俺に振るんだよ!」 意味はないんだが……しかしすっかりスリッパが来流美のものになってしまったな。 くそ、これではドナルドマジックが使えんではないか。 真由美「……学生時代からずっとこんなこと続けてて疲れない?」 鷹志 「ようは慣れだしな。俺は好きだぞ?この空間。     凍弥が変言繰り出して霧波川がツッコんで支左見谷が慌てて柿崎が巻き込まれる。     俺はそのどれもを適当に繰り出して日々を過ごしてたな。あー懐かしい」 閏璃 「そうそう、学生時代に郭鷺のパンチラ写真を撮った博樹のこと殴りまくってたな」 真由美「ひえっ!?パッ……パパパ……!?」 あ。 ……しまった、鷹志のヤツ郭鷺にはこのこと話してなかったのか? だとすると相当ヤバイことに……。 御手洗「うわっ!いやっ!あ、あれは、あのことはっ……!     あ、いや、そうだ、ちゃんと謝らないとっ……!ごめんなさい!あの、僕───」 真由美「とっ………………と、撮った……の?」 御手洗「うぐっ……じ、事実は偽れないから……う、うん、ごめんなさい。僕は……」 真由美「…………」 閏璃 「お?」 博樹が本当に申し訳なさそうに謝る中、 郭鷺はそこから視線を外して俺達をぐるぅりと見渡す。 で、俺達がそう慌ててないことを確認すると─── 真由美「うん、許すよ」 両手を後ろ手に絡ませて、にこりと笑うとそう言った。 御手洗「え……でも僕は───」 真由美「だってみんな慌ててないもん。     それってつまり、それを知らなかったのはわたしだけで、     みんなはそれを知った上で御手洗くんの友であり続けてたんでしょ?     だったらそれはもう、その学生時代に終わったことなんだよ。     だからわたしから言うことなんてないよ」 御手洗「あ…………」 うおう……さすが鷹志の奥さん。 いや、遙かに遠き場に位置する学校から噂が届いたほどの娘よ。 よもやパンチラ写真の事実を笑って許してしまうとは……。 真由美「うう……でも傷ついたかな……。そんな写真撮られてたなんて……」 鷹志 「あ、それなら大丈夫だ。     学生時代にルート辿って、ネガから写真まで全部燃やしたから」 真由美「……鷹志が?」 閏璃 「いや、俺が。写真とネガ集めたはいいけど、     このホークマンが盗撮写真とはいえ真由美の写真燃やすなんてっ……!     とか馬鹿なことぬかし始めたから代わりに」 鷹志 「うわぁぉおあ馬鹿っ!!言うな言うなってぎゃあああああああ!!!」 真由美「鷹志っ……!」 真っ赤になって悶える鷹志! そして両手で自分の口を塞ぐようにしてハッとして、目を潤ませて鷹志を見る郭鷺! 閏璃 「……なんかさ。この二人なら永久に     初々しいバカップルで居られる気がしないかパーシモン」 柿崎 「パーシモンじゃないけど同感だ……」 フォル『なにを言うのです稔さま……わたしたちも、その気になれば……』 柿崎 「フォッ……フォルネリア……!」 閏璃 「そろそろ食事にしようか。来いよ柿崎、毒食わせてやるから」 柿崎 「随分目的が明確でストレートな食事会だなぁおい!!」 鷹志 「まあまあ。あんまり遅くなっても困るし、     こうしてる間にも封印ってのが解けてたら困るだろ。     さっさと行こう。辿り着いた途端に封印が解かれましたなんて嫌だぞ俺は」 柿崎 「まあまあ……で済まされる内容なのか?今の……」 そうは言いながらも歩く足は止まらない。 走ってもいいんだが……この山にはこの山特有の、 妙にヌルヌルするコケがびっしりと生えている。 なもんだから走ればたちまち滑り、見事に転んでしまうのだ。 なにしろ第一の犠牲者が俺だったからよく解ってる。 滑って崖から落ちそうになったところを柿崎───にしがみついて、道連れにしたのだ。 柿崎が救ってくれた、などという美談は無かった。ああなかったとも。 二人仲良く崖に落ちて、これまた仲良く昇天して、さらに仲良く神父の説教を聞いた。 さらに二人仲良くここまで全力疾走し、 二人仲良くコケで足を滑らせ、二人仲良く鷹志を道連れにして崖に落ちた。 どこまでも仲がよかった、ということにさせといてくれ。 柿崎 「あ……ところでさ。封印ってのが解けたらやっぱり戦うことになるんだよな」 閏璃 「すごいな……一人で戦おうだなんて、お前勇者か?」 柿崎 「誰もそんなこと言ってませんよね!?」 フォル『貴様ふざけるのも大概にしろ!何故稔さまばかり執拗に貶めようとする!』 閏璃 「友だからだ!」 鷹志 「友だからだ!」 御手洗「友だからさ!」 柿崎 「うわー……すげぇ友情」 来流美「そのノリって原中みたいでちょっと危険じゃない?」 閏璃 「んあ?ああいや、別に俺達は原中みたいな集団を目指しているわけじゃないぞ?」 鷹志 「だな。俺達は俺達のやりかたで日々を楽しく過ごしていくだけだし。     このノリ=原中って考えがあるなら───」 閏璃 「お前の脳には産まれつき深刻なダメージがあるんだ《コッパァン!》はぶぅい!」 来流美「それはもういいわよ」 閏璃 「いい加減返してくれませんか」 来流美「王国から盗んだものでしょうが!返すっていうなら王国に返しなさい王国に!」 閏璃 「お前っていちいち口調がオカンだよな」 来流美「それは前にも聞いたわよ!」 それにそれって今は無きセントール王国制式国王スリッパなんだが。 黄金の刺繍が眩しい。 鷹志 「おっ、竜刻山見えてきたぞ〜」 真由美「うわ……すごく大きい……」 閏璃 「ヤッホォーーーーーッ!!     ……………………やまびこが返ってこない《コパァン!》ぐあっ!」 来流美「前振りもなく叫ばないの!びっくりするでしょうが!」 閏璃 「由未絵、このオーガを止めてくれ。     このままでは俺の頭蓋がスリッパ型に変形してしまう」 由未絵「だ、だいじょうぶっ!スリッパ型の頭でもわたし、凍弥くんから離れないからっ」 閏璃 「由未絵……」 そういう意味じゃないんだが。 でもそれを言ってやれない自分を自覚すると、もう言葉は出てこなかった。 鷹志 「お前ってつくづく支左見谷には甘いよな。     そんな状態じゃ柿崎に毒盛ってる場合じゃないぞ?」 閏璃 「心を読むな」 柿崎 「スリッパ型になるわけないだろとか言う以前に、     支左見谷の言葉が嬉しかったんだろお前」 御手洗「凍弥は支左見谷さんには弱いからね」 閏璃 「なにぃ、鷹志だって郭鷺には弱いんだぞ。     その弱さと言ったら彼女を視界に入れた途端に     隙あらばラヴ空間を広げんとするバカップルのごとき弱さでだな」 鷹志 「恥ずかしさのあまり人をダシに逃げるのやめろ!!」 真由美「そういう閏璃くんはどうなの?由未絵ちゃんとは」 閏璃 「プラトニックなお付き合いをさせていただいて候」 鷹志 「プラトニックの意味も知らないだろお前」 閏璃 「プラスチックのように鋼鉄に純潔を守る付き合いって意味だ」 御手洗「凍弥それ違う!」 閏璃 「なにぃ馬鹿な……!かつて来流美が英語の勉強している時に、     ノートにそう書いていたのを俺は確かに《ゴバァン!》ぶほぉっ!」 来流美「人のノートカンニングした上に中身公言してんじゃないわよ!!」 閏璃 「カンニングする価値もない中身だったが」 来流美「うっさいわねっ!!」 ところでそろそろそのスリッパ返してくれないだろうか……。 言動のたびに叩かれては頭が保たん。 由未絵「来流美ちゃん、そんなにパカパカ叩いたらダメだよぅ……大丈夫?凍弥くん」 閏璃 「違うぞ由未絵。ヤツの打撃音はパカパカどころじゃない。     むしろウゴバシャドアシャアって感じだ」 来流美「どこのクリーチャーよそれ!……っはぁあ……!ほんと成長しないんだから……」 近寄ってきた由未絵の頭を撫でていると、 来流美が盛大な溜め息とともに額に手を当てて俯いた。 おお、呆れた者の漫画的表現だな。 それを実際にやってみせるとはさすがだ来流美。 柿崎 「それで、ここから目当ての社ってのは見えそうか?」 フォル『お待ちくださいましね、稔さま……───フッ《キュィイ……!!》』 フォルネリアが、眺めるという言葉がよく似合う景色の中で竜刻山を見やる。 恐らく魔王的超視力で社を探しに出ているんだろう。 閏璃 「負けるかぁああ!!アルティメットアイ!!」 鷹志 「アルティメットアイ!!」 御手洗「アルティメットアイ!!」 柿崎 「お前らべつに視力よくないだろ」 閏璃 「ああ、正直山しか見えん」 鷹志 「まだまだ長いもんな、この山自体が」 御手洗「随分遠くだよね。ここで社の状態が見れれば一番楽なんだけれど」 真由美「冒険者らしく、近くで見ようって気はないんだね……」 閏璃 「冒険者だって時には楽したいって思う筈だ」 来流美「あんたの場合、自分が楽したいだけでしょ」 閏璃 「過言ではない」 楽でも苦難でもいい、俺はこうして由未絵の頭を撫でられていりゃあわりと満たされる。 来流美「…………どうでもいいけどいつまで由未絵の頭撫でてんの?     いい加減にそのクセ直さないと由未絵がハゲるわよ?」 閏璃 「お前はその類稀なる男性ホルモンで頭を枯らしそうだがな」 来流美「……由未絵?今からでも遅くないから別の人に乗り換えない?」 閏璃 「お前にそっちのケがあったとは初耳なんだが」 来流美「わたしじゃないわよ!!……で、どう?由未絵」 由未絵「うややぁ〜〜ぅう……」 来流美「……ダメね。撫でられすぎで幸せの世界に旅立ってるわ。     ほんとどうしてこんな男のこと好きになっちゃったんだか」 閏璃 「お前の告白は嬉しいが俺は貴様を雄としてしか見ていない」 来流美「わたしじゃないって言ってんでしょうが!!     会話の流れからして空気読みなさいよまったくあんたは……!     そもそもわたしは列記とした女!雄ってなによ雄って!」 閏璃 「……ふぅ、そんなことも知らんのか。いいか、雄というのはだな」 溜め息ひとつ、来流美を手招きして地面に棒で図を描いてコッパァン!! 閏璃 「はぶぅい!!」 来流美「アンタねぇえ……!!」 閏璃 「人がせっかく図を描いてやってるのにスリッパとはなんだ。ていうか返してくれ」 来流美「だから!これはアンタのじゃないでしょうが!」 お前のものでもないんだが。 それをツッコむと今度こそ来流美の血管が切れてしまいそうなので、 ここは一度クールダウンさせよう。 閏璃 「実はそれは某国のスリッパで、     それを履けた姫には業火特典として王子と強制結婚させられるんだ」 来流美「業火!?」 柿崎 「特典どころじゃないだろそれ!」 閏璃 「王子が常時燃えている国なんだ」 鷹志 「誓いのキスで未来が燃え尽きそうな家庭だなオイ……」 閏璃 「それが狙いなんだ。人を愛したいのに愛せない、愛しても相手は燃えてしまう。     そんな感動巨編大増58Pの巨編を伝説として語り継ぐスリッパ……それがそれ」 来流美「……で。それがどうしたってのよ」 閏璃 「お前なら炎の中でも大丈夫じゃないかと《バゴォンッ!》ぐほっ!」 来流美「あぁああんんんたぁああはぁあああ……!!!」 閏璃 「さあクールダウン」 来流美「なにがよ!今の流れで誰がクールダウン出来るっての!」 閏璃 「……俺、珍しく頑張ったよな?」 鷹志 「いや。いつものお前だった」 所詮そんなもんだった。 フォル『……───!稔さま!』 柿崎 「おっ……ど、どうした?なにか見つけたのか?」 鷹志 「お……」 と、殴られた頬をさすさすと由未絵に撫でられる中、 恥ずかしいからやめれと言っても聞かない由未絵とともに、 なにがなんだか解らんが異様な空気を流し始めたフォルネリアへと向き直る。 真由美「見つけたの?社」 フォル『違う。空を見てみろ』 真由美「空?……あわぁっ!?」 鷹志 「なにっ!?」 閏璃 「(くう)だーーーーーっ!!」 来流美「あーはいはい!わざわざドラゴンボールの真似しないの!」 空を見上げてみる。 ……と、そこには綺麗な青空が。 閏璃 「……今日も……いい天気だな……」 鷹志 「ああ……今日も頑張るべ……」 御手洗「ええ子に育つんじゃぞぉ野菜たちぃ……」 来流美「現実逃避もいいわよ!」 閏璃 「なにぃ、貴様は疲れた中年男性から逃避する楽しみも奪うというのか。     貴様のいったいどこにそんな権限がある。その裡に秘められた雄度か」 来流美「ねぇ……歯が全部折れるまで殴り続けていい?」 何気に怖い脅しだった。 閏璃 「なぁ来流美……幼馴染として一言だけ、お前に言っておきたいことがある」 来流美「……な、なによ」 閏璃 「殺しは犯罪《ガスゥッ!!》べっはぁっ!!」 来流美「歯が全部折れるまでって言ったのよ!!解ったらちょっと殴らせなさい!!!」 閏璃 「ば、ばかっ!歯が全部折れてる時点で顔面変形してるだろうが!     そこまで殴られて生きてるヤツのほうこそを俺は人としてを疑うぞっ!」 来流美「だったらアンタが第一号になりなさい!     折る前と折ったあとの写真をギネスに送って時の人にしてあげるから!」 閏璃 「それが掲載される頃にはお前は刑務所の中だか」 来流美「殺さないっていってるでしょ!?」 鷹志 「おーい……ハタから聞いてると     危ない会話以外のなにものでもないからそのへんにしとけって……」 ギャーギャー騒いでいるところを鷹志に止められた。 ハッと気づけば俺と来流美は取っ組み合い状態で停止しており、 互いの頬を引っ張り合うという実に子供チックなカタチで頬を赤らめた。 そんな彼を横目にしたのちに改めて空を見上げる。 そこにはさっきと同じく、 空で暴れる影と……どこかへ落下してゆく巨大な城の姿があった。 柿崎 「…………気の所為かな。あの城、どっかで見たような気がするんだけど」 鷹志 「気がするもなにも、空から落ちてきてるってことはそういうことだろ?」 閏璃 「きっと誰かがバルスを唱えたんだ……」 鷹志 「や、それ空に飛んで行く方向だから」 由未絵「でも天空城が落ちちゃうなんて、なにがあったのかな」 閏璃 「きっとカナディアンマンが巨大化して」 来流美「黙りなさい」 発言権を剥奪された。 来流美「どうせまた原中の人達が絡んでるんでしょ。     天変地異っていったらあの集団を疑ってもまず間違いじゃないとさえ思えるわ」 鷹志 「物凄い説得力だ」 御手洗「目の前の出来事自体にはそう驚きはしないんだね……」 いや、驚いてはいるんだが。 しかし目下の目的である封印を最優先にしたいって気持ちの方が強い。 なにせ封印だ、なにが封印されてるかなんて、竜刻山って名前だけで解りそうなもんだろ。 竜で、刻で、山。 竜が刻むんだ。 刻むってのはあれだろ、時計とかそういう方向。 そこから連想するのは時の竜。 封印までされている竜っていったら、相当強大な力を持っていたと見ていい。 そして強大な力を持つ竜といえば守護竜。 守護竜で時の属性といえば……サウザンドドラゴンしか居ないのだ。 俺達はこれでもまったりと旅をしつつ、いろいろな町へ寄ったりしている。 久しぶりに寄った木工の町ナットクラックで随分と遊んだのがつい先日だ。 そんな町や村や集落などではさすがゲームというべきか、いろいろな情報を得られる。 守護竜が魔王によって次々と滅ぼされていっているとか、 それを喜ぶ人間も居れば、その中途に待ち受ける恐怖を知り、怯える者も居るとか。 サウザンドドラゴンってのは、 地から然の守護竜の宝玉を破壊すると封印が解けるんだそうだ。 それはナビのヒロミ通信にも書いてあったから間違いないだろう。 そこで問題なのが、噂じゃあもう地から然までの守護竜の大半が成敗されているってこと。 戒めの宝玉っていうのがどうなってるのかまでは知らないが、 もし破壊されているのだとしたら時間がないわけだ。 閏璃 「フォルネウス、どうだ?社はあったか?」 フォル『フォルネリアだと言っているだろ。     ……社は見当たらないが、洞窟のような穴を見つけた。     上手く木々に隠れているが、全体的に見ると少々不恰好で不自然だ。     そこの木々だけが全体的に動かされて埋められた、という違和感を覚えさせる』 柿崎 「あ……じゃあ案外そこの中に社があるのかもな。     目立ってちゃあ面白半分で封印解こうとするヤツがいるかもしれないし」 来流美「なに言ってんの、     社を壊した程度で解ける封印だったら宝玉破壊する必要なんてないでしょ」 柿崎 「それもそっか」 閏璃 「おお、今日は冴えてるなパーシモン」 柿崎 「否定されたところを褒められても嬉しくねぇよ!」 だが目的地が決まれば行動あるのみ! あのバカデカイ山の中から社(大きさ不明)を探すのなんて、 とてもじゃないが軽く胸を叩けるものじゃない。 社といったってちっこい……こう、なんていうんだ? 天地無用魎皇鬼第一話で天地剣が安置されてた社みたいなちっこさだったら、 それはいくら目がいいヤツでもここから見たって見つけられない。 社というよりは祠だな。そういえばレイナートもそう言ってた気がする。 閏璃 「こういう時って浮遊能力使えるやつが羨ましいよな」 フォル『フフ?ならばわたしと稔さまは一足先にそこな洞窟へと向かうとしよう。     貴様らは精々己が足で歩いてこい』 閏璃 「ああ、頑張ってきてくれ」 フォル『……?なんだ、張り合いのない。もっと食い下がってくると思っていたのに』 フォルネウスがパーシモンを抱き締め、フワリと浮く。 柿崎ももう慣れたもんだ、俺達にじゃあ行ってくるぜ友よ、と言いつつ親指を立ててる。 最初の頃なんかギャーとかヒャーとか叫んでたのがウソのようだ。 俺達が親指を立て返す頃には柿崎はフォルネウスとともに、 本当にデカい山の方へと飛んでいっていた。 そんな二人を見送った俺達がとるべき行動といえば…… 閏璃 「帰ろう」 由未絵「ふえええっ!!?」 来流美「いきなりなに言い出してんのっ!あの二人はどうするのよっ!」 閏璃 「それなんだけどな?社の状態を調べにいくだけなら、     べつに俺達があそこまで行く必要はないんだ」 来流美「あ。……あ、あ〜……そういえばそうだったわ……」 閏璃 「よしんば行くとしても、きっとパーシモンが先行して、     数あるトラップを体を張って取り払ってくれているに違いないっ……!」 鷹志 「か、柿崎……なんて男らしい……!」 御手洗「男の中の男だね……!」 来流美「……御手洗くんも言うようになったわねぇ……」 閏璃 「お前そんな、     近所のおばちゃんちびっこの成長を見守るみたいな言い方はどうかと思うぞ」 来流美「いちいちうっさいわねぇっ!!」 まあでもあれだ。 フォルネウスが飛んでった方向を辿れば、 何処がその怪しいところなのかも解るっていうもの。 つ、とフォルネウスが降りてった場所に目をやれば、 確かにそこだけ妙に気が高いというか……なんだいあれ、 カムフラージュになってないんじゃないか? と思うのも束の間、その木々の間からごしゃーと噴き出す閃光! そして聞きなれた声が山々に木霊した。 閏璃 「……黙祷」 来流美「はいそこ殺さない」 鷹志 「こうまで予想通りにトラップがあると、逆に面白いな」 御手洗「誰も心配しないところは感心していいのかな、はは」 閏璃 「いや、ここはだな。俺が叫んでも返らなかったやまびこが     パーシモンの絶叫にだけ反応したところを感心するところだ」 真由美「あはは……そういえばどうしてだろうね」 来流美「ただの位置的な問題でしょ?     ほら、柿崎くんだけに押し付けるのもなんだから、行くわよ」 閏璃 「そうだな。柿崎だけに宝を盗られるのもなんだしな。来流美の言う通りだ」 来流美「いつ言ったのよそんなこと!」 結局は洞窟に向かうことになった俺達は、もう下るだけだからと駆け出した。 もちろんコケの所為で盛大にコケたり、 その拍子に先にコケた俺を次いでコケた来流美がエルボードロップで強襲したり、 仕返しに立ち上がった拍子にコケた来流美の背中に乗って マッスルインフェルノごっこしたり、 仕返しとばかりに馬乗りバルカンパンチを斜面を滑りながらされたりと、 それはもう愉快な旅が竜刻山前の山を完全に下るまで続いた。 ……どうしてこの山ってこんなにコケが多いんだろうな……。 もしかして山賊の立ち入りとかを禁止するためにわざとコケを栽培してたとか……? まさかな……そんなことするのは、盗まれちゃ困るものを隠す盗人くらいなもんだろ。 ───……。 死ュウウウウ……!! 閏璃 「お客様、こちらが当山岳レストランお奨め、パーシモンのソテーでございます」 鷹志 「皿をお下げなさい。来流美さまにこのような醜いものを食べさせる気ですの?」 来流美「人をダシにして遊ばないの!まったくアンタたちは……!」 閏璃 「うわーんママンに怒られたー」 鷹志 「助けてハニー」 来流美「だぁれがママンよ!!」 辿り着けば、見事にコゲた柿崎が転がっていた。 その隣ではフォルネウスが頑張って回復魔法をかけてたりする。 御手洗「トラップかぁ……なんとか出来そうかな」 真由美「トラップ解除の魔法は確かにあるけど、     こういうのって決まって解除キーが難しいんだよね……。     うん、ちょっとやってみるけど、期待しないでね」 閏璃 「いや……ここは俺に任せてくれないか?」 真由美「えっ……?」 由未絵「凍弥くん……?」 閏璃 「俺に考えがあるんだ……やらせてほしい」 鷹志 「凍弥……はは、お前はやる時はやる男だもんな。それで、どうするんだ?」 閏璃 「柿崎を盾に構え、フォルネウスに回復してもらいながら洞窟へと突っ込むんだ」 鷹志 「グッジョブ!」 来流美「どこがよ!!」 閏璃 「他に方法があるか?」 来流美「アンタが盾になりなさい」 閏璃 「なにを言っておるのだこの女は……」 来流美「しみじみ言うんじゃないわよ!     アンタこそ散々っぱらヘンテコな言葉放ってるでしょうが!     たまに男らしい姿見せると思ったら他人を犠牲にってどれほどアホなのアンタは!     いいからとっとと行く!凍弥が先頭でわたしたちはそれについていくから!」 閏璃 「来流美、そんなオカン的な───」 来流美「それはもういいって言ってんの!いいから行く!」 ひどい幼馴染も居たもんだ。 だが確かに、たまには男らしいところも見せておくべきだ。 トラップっていったって、かからなけりゃいいんだ。 ……よし、VITとAGIに均等に分けた状態でステータスを固定して、と。 閏璃 「“野郎”ども!俺についてこい!」 来流美「なんでわたし見ながら“野郎”を強調するのよ!」 閏璃 「お前が一番男らしいからだ《パゴォン!》ハオッ!」 避ける間も無く殴られた。 ───……。 ……。 がしゃっ……ごしゃっ……ずしゃしゃっ…… 来流美「ふうっ……ようやく奥に着いたわね……」 勇猛果敢に突っ走って程なく1分。 全力で走ったからそりゃ着くのも早いだろうが、先頭の俺はてんで無事では済まなかった。 もう飛んで来た矢が突き刺さりまくるわ燃やされるわ爆発に巻き込まれるわ。 今生きてることをなにか目に見えないものに感謝するとともに、 チェーンソーでバラバラにしたくなる心境だ。 閏璃 「べろべろばぁーーーーっ!!」 だがこんな状況はそうそうないので、意味もなく両手を上げて叫んでみた。 来流美「はいはい、体に刺さった矢を利用して     落ち武者気分になるのはそこまでにしときなさい。     ……ほら、傷診てあげるから来なさいよ」 ……とことんまでに冷静に……いや、いっそ可哀相なものを見る目で流された。 落ち武者がべろべろばー言うわけないでしょ、とかを期待してたのに……。 閏璃 「知らなかったぞ、お前が傷フェチだったなんて」 来流美「その“見る”じゃなくて!手当てしてあげるって言ってんのよっ!!」 閏璃 「俺を殺しても、お前に押し付けられた錆びたサブリガしか手に入らないぞ」 来流美「手当てで死ぬわけないでしょってアンタまだアレ持ってたの!?     ───わざわざ見せなくていいわよ!」 ランドリンと書かれた錆びたサブリガ。 かつてルビーフィッシュミッションで釣ったものだ。 リリースしようとしたら捨てるなって押し付けられたんだよな……。 あれから売ろうとか捨てようとかしたけど、 その度に“錆びたものはねぇ”とか“名前が書いてあるのなんて引き取れないよ”とか、 “不法投棄はやめてください”とかいろいろ言われて結局どうすることも出来なかった。 由未絵「来流美ちゃん、凍弥くんの手当てはわたしがするからいいよ」 閏璃 「そうだぞクルーミング。お前の手当てっていったら、     渾身の力を以って矢を肉ごともぎりとるだけだろ」 来流美「常識的に考えなくてもそれは手当てって言わないでしょ……ま、いいわ。     じゃあ頼むわね由未絵。それから……凍弥」 閏璃 「おうどうした?TOTO先生か?」 来流美「違うわよ!……その、悪かったわね。     いろいろあったからって先頭走らせたのはやりすぎたわ」 閏璃 「まったくだ。最初の矢の一撃こそ、矢ガモの気持ちが解る程度だったというのに。     今ではいろいろあって落ち武者じゃないか。     可哀相なイメージから一変、ただの哀れな武者になってしまった」 鷹志 「てっぺんハゲに剃ってやろうか?雰囲気でるぞ?」 閏璃 「そんな雰囲気はいらん」 言いながらも来流美に軽く手を振ると、 来流美は苦笑しながら奥の泉の方へと歩いていった。 どうやらこの洞穴には蒸気や湿気などが集まった自然水が溜まっているらしく、 俺達が辿り着いたここは湖めいた広さの空洞と水が広がっていた。 鷹志 「抜けそうか?」 閏璃 「ん?ああ、どうだろ……《ぐっ……》あ、あー……だめだな。     よくある菱形めいた矢じゃなくて鉤つきみたいな矢だよこれ。     抜きづらい形につくってあって、肉に引っかかってる」 鷹志 「うわっ……痛そうだな……」 由未絵「凍弥くん……」 御手洗「大丈夫なのかい……?」 真由美「由未絵ちゃん、二人で回復しながら抜いてもらおう?     じゃないと相当に痛いと思うから」 由未絵「う、うん……」 鷹志 「よし、じゃあ抜くのは俺に任せてくれ」 閏璃 「ああ。畑に根付く大根を抜くが如く、一思いにやってくれ」 鷹志 「大根なんて抜いたことねぇよ!」 閏璃 「なにぃ、貴様の実家は農業を営んでおり、     中でも大根は絶品だったと都内でも有名だったと聞いたぞ」 鷹志 「そりゃ橘違いだ!」 閏璃 「なにぃ、本当にあったのか橘農業《メリチチチ》いだぁああだだだだぁあっ!!」 鷹志 「お前ちょっと黙ってろ……!」 閏璃 「ぬ、抜くんだったら一声かけてからにしろよぅ!」 強引に、しかも中途半端な位置まで引き抜かれた矢には俺の鮮血がべったりである。 それどころか中途半端に抜かれた所為でどくどくと溢れ、 俺の腕を伝って地面に落ちている。 ……おお、映画とか漫画でよくある死に際の仲間みたいじゃないか。 閏璃 「ふふっ……数々の死線をくぐりぬけた俺のミラクルも……     どうやらここまで《ぶぎちぃっ!》ぎゃぉおおおーーーーーーーっ!!!!」 鷹志 「だ・ま・れ。……な?」 閏璃 「矢ァ強引に抜かれて黙れるヤツが居るかぁっ!!」 鷹志 「それ以前に黙れ馬鹿!!」 チュー、と血が噴き出している腕を見ても人を馬鹿呼ばわりできる友が俺は大好きだ。 ───……。 ……。 そんなこんなで矢と格闘すること数分。 今ではすっかり傷も塞がり、俺達は薄暗い洞窟の中で安堵の溜め息を吐いていた。 閏璃 「アー!マー!…………声がよく響くな」 鷹志 「一息ついてからやること第一がそれか」 御手洗「霧波川さんとかのことも気にしてあげたほうがいいよ?     ちょっと落ち込んでるみたいだし」 閏璃 「幼馴染として言おう。あれは腹が減ってるだけだ」 柿崎 「いやそれ絶対違うだろ」 閏璃 「柿崎……来てくれたんだな」 柿崎 「え?や……いきなりなんだよ」 鷹志 「ありがとうな柿崎……お前、最高の友達だったよ……」 柿崎 「……待て。どうして過去形なんだよ」 閏璃 「え?黒コゲになって死んだんじゃないのか?     フォルネウスの回復が間に合わなくて。     だからこうして霊体になって最後のお別れを」 柿崎 「滅茶苦茶生身だろうが!触ってみろこの野郎!」 閏璃 「ちょっと待ってろ。確かライターを手の平に落としてやるとすり抜けるんだ。     ほん怖あたりでそんなやつやってた。…………鷹志、ライター」 鷹志 「そんなもの持ってないぞ?」 閏璃 「…………」 鷹志 「………」 御手洗「……」 三人 『よろしく幽霊』 柿崎 「綺麗に流して強引に進めるなぁああっ!!」 さて、今日も元気だ薄暗い。 洞窟は幸いにして一直線にここまでをつなげたものだったから、 入り口からの光でもまあ見える方だ。 加えて由未絵と郭鷺が光魔法を使っててくれてるから薄暗いという時点で済んでいる。 そんな中でギャーギャー喚くパーシモンをうっちゃって、 来流美を探してみると……ああ居た、水たまり見てなにかやってる。 閏璃 「来流美ー?メシになりそうな生き物でも見つけたのかー?」 来流美「そうじゃないわよ。ちょっと来なさい凍弥」 閏璃 「?」 何故か指名された俺は、休めていた腰を起こすと来流美のもとへ。 ……恐ろしい。 俺は今、確かな予感を抱えて歩いている。 なにをされる……? 手招きされ、のこのこと歩み寄り……そこで、俺は……まさか水に突き落とされる? 夏場だから暑いし望むところだが、 ここの水が触れて平気なのかが解らない以上は遠慮したい。 閏璃 「どっ……《ごくり……》……どう、した……」 来流美「なんでそんなに警戒してるのよ」 閏璃 「知らん」 来流美「はぁ……まあいいわ。ほら、あれ」 閏璃 「……?」 ほい、と指差された位置を目で辿ってみると、そこは水の中だった。 平面的に見てたら解らなかったが、陸地の端の方から水の中に向けて階段があったのだ。 しかもその先は結構深いらしく、水は澄んでいるがこう暗いんじゃ底までは見えない。 閏璃 「なにも見えないぞ?」 来流美「いいから。じっと見て」 閏璃 「……?」 言われた通りじっと見る。 ……すると、目が慣れてきたのか……うっすらとだが、 水の底付近に小さななにかがあることを確認した。 形状からしてあれは─── 閏璃 「祠……か?」 来流美「やっぱあんたもそう思う?」 ここに来た理由が祠探しなんだから、自然とそれを連想するのは当然だろう。 しかし解らんのはどうして水の中にそれがあるかってことなんだが…… 来流美「多分、竜が封印されたってのは相当な昔なんでしょ。     で、その頃にはまだここには水なんて溜まってなかった」 あ。 閏璃 「ところがここは水蒸気や湿気がたまりやすい場所で、     長い年月をかけてここは水びたしに…………か?」 来流美「だと思うわよ。そうじゃなかったとしても、     水没してるならしてるって事実がそこにあるだけで十分じゃないの?     理由を確認するまでもなく、わたしたちは祠の状態を調べにきたんだから」 閏璃 「それもそうだ」 そりゃ、確かに考える必要はないな。 閏璃 「よし、じゃあちょっと待ってろ。潜って状態調べてくるから」 来流美「へ?いいわよそんなの。     由未絵か真由美さんに頼んで上から照らしてもらえば済むことじゃない」 閏璃 「……それ、目が慣れるまでじっと見つめさせる前に言おうな」 来流美「あ」 どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ。 もちろん俺も含めて。 閏璃 「第四のコース!流くん!《バサァッ!!》」 鷹志 「おお脱いだぞ!飛び込む気だ凍弥のヤツ!!」 柿崎 「素晴らしい根性だ!サブリガを穿きたまえ!」 閏璃 「フフ……柿崎くん。もう穿いとる《キュッ》」 鷹志 「ケッ……ケツを締めたぞ!」 柿崎 「紳士だぁーーーーっ!!紳士の誕生だぁーーーーっ!!」 御手洗「水の中に入ったりして錆びたりしないかな。     多分これ、長い年月をかけて溜まった水だから……     妙な成分とかあったら大変だよ?」 来流美「わたしは凍弥よりもサブリガが錆びることを心配する御手洗くんの頭のほうが、     よっぽど大変だと思うわ」 サブリガ一丁になった俺を前に、みんなが好き勝手に賑やかになってる。 ちなみにこれは錆びたサブリガではないのでご安心を。 さすがに穿き古しを穿くほど愚かではない。 ……でも大丈夫だよな、この水。 毒があるとかは……───ぴちょんっ。 閏璃 「……ふむ。べつに触れても刺激も無し。     いたって普通の水たまりだな。飲んだらヤバそうだけど」 ……しからば。 閏璃 「健闘を祈る」 来流美「あんたが祈ってどうすんの」 閏璃 「おお」 それもそうだった。 頭をひと掻きして、だっぱーんと水に潜った。 ───だが即座に上がった。 来流美「な、なに?どうかしたの?どこか溶けた?」 閏璃 「目がとても痛いんだ。誰かゴーグル貸してくれ」 来流美「……持ってるわけないでしょそんなの」 水の中は───そりゃ触れればべつにどうってことはないんだが、 デリケートな瞳に対してかなり嫌な成分で構成されているらしい。 痛くて涙が止まらない。 由未絵「ととと凍弥くん大丈夫っ?《がばしぃっ!》ふやぅっ!?」 すかさず由未絵が詠唱を始めるが、みんながそれを止めてくれた。 ……由未絵の場合、ほんと慌てて詠唱始めるとろくなことがないからな。 鷹志 「大丈夫か?凍弥」 閏璃 「この水は恐らく長時間浸かっていると体が溶けるに違いない。     かつての海の英雄がデカブツの胃袋から出たのち、     水をかけたら溶けてしまった伝承と同じく」 鷹志 「どこのバケモノの胃液なんだよここの水は」 閏璃 「知らん」 だが微生物とか居そうな気はするよな。 長い年月をかけて蓄積された割にはこんなに透き通ってるのが逆に怪しいくらいだ。 柿崎 「けどどうする?このままじゃ調べにいけないだろ」 フォル『あら稔さま?それはわたしの力を過小評価してのお言葉ですか?     この程度の水、わたしの魔力で蒸発可能ですわよ』 閏璃 「え?……水に塗れたサブリガスタイルの俺の行く場所は?」 フォル『知ったことではない』 もっと早く言ってほしかったんだが……。 だがそうなればもう形振り構っていられないな。 御手洗「あ……でも出来るだけ祠には刺激を与えないほうがいいと思うんだ。     そんなことして祠に刺激を与えたら、正常な確認が出来なくなるかもしれない。     ずっと昔に作られたなら、水をお湯に、     お湯を蒸気に変えるほどの温度でも崩れちゃうかもしれない」 鷹志 「あ……そか」 閏璃 「そこでサブリガの出番なわけだ。ナイスだ博樹」 鷹志 「サブリガは関係ないけどな」 閏璃 「橘真由美夫人、俺の目に水の膜って張れるか?」 真由美「うん、集中すれば出来ると思うけど。いいの?由未絵ちゃんじゃなくて」 閏璃 「俺が関わることでこいつに集中は無理だ」 由未絵「ふえぇ……ひどいよ凍弥くん」 来流美「事実でしょ」 由未絵「あうっ……」 郭鷺がルンルン気分で俺の目に水の膜を張る。 どのみち水に浸かる俺の目だが、ここの水と魔法の水とじゃその差は歴然! 試しにトプンと顔だけ水につけてみる……と、おお。 全然染みないし水の中が見やすい。 これはいい魔法だ。 閏璃 「《サパァッ……》ぷはっ、……よし、じゃあ行ってくる」 由未絵「気をつけてね、凍弥くん……」 鷹志 「顔だけ水につけてる体勢、目のやり場に困るぞサブリメン」 閏璃 「任せろ」 来流美「返事になってないわよ」 気にせず親指を立てたのち、一気に水の中へとダイヴした。 水はほどよく冷たく、歩き詰めで火照った体にありがたかった。 疲れはしないが体が熱くなるのは仕様らしいから本当にありがたい。 さて水に対する感想はここらで終了。 水を掻いて底へ底へと潜っていくと、 上からじゃ解らないが結構な深さの水の底に、それは確かに建てられていた。 俺が動かない限りは対して波立たない水の中で……それはずっと、古の頃より建っていた。 俺は祠の前に泳いで寄ると、 出来るだけ刺激を与えないようにゆっくりと小さな扉を摘んで開いた。 調べるっていったってなにを調べればいいのかが解らなかったからだ。 するとその中には赤く点滅するように光る小さな石と、 その横に光輝く指輪が存在していた。 指輪……?まあいい、石は手に取ったりしたらマズそうだし、 指輪だけ記念に頂いていこう。 息もそろそろ苦しいし─── ……。 サパァッ! 閏璃 「ぷあはっ……は、はっ……」 鷹志 「お、戻ってきたな。どうだった?社の様子」 閏璃 「祠な。何を調べれば……はぁ、いいのか解らなかったから……はっ、はぁ……。     とりあえず小さな扉開いて中見てみたら、赤く点滅する石があった」 鷹志 「───」 あ、鷹志が停止した。 他のみんなもそうだ、唖然としてる。 由未絵「あ、あか……赤って……」 御手洗「た、確か赤が危険……だったよね?青なら大丈夫、って……」 閏璃 「きっとサブリガ姿の俺を見て、石に宿った土地神が照れてたんだ」 柿崎 「いやな点滅だなそれ!」 来流美「ど、どうするのよ……!封印が解けそうってことじゃないのそれ!」 閏璃 「それとこんな指輪も見つけたぞ」 来流美「聞きなさいよ重要なことなんだから!なによ指輪なんか───……って、それ」 シゲシゲと持ち上げながら、思い出して調べるを発動。 すると、  ◆王家の指輪───おうけのゆびわ  聖王の遺産の一つ。王の王たる証であり、かつて盗まれたオリハルコン製の指輪。  サウザンドドラゴンが封印されたのち、  ここに近づく者など居ないだろうと見越し、盗賊たちが祠の中に隠していった。  聖王のジョブになるには外せないものであり、状態異常効果を完全に払う能力もある。 ……。 閏璃 「…………王家の指輪だ」 来流美「うそぉっ!?ななななんでこんなところに!?」 閏璃 「盗賊どもがここなら安置できると踏んだかららしい」 鷹志 「マジかよ……」 えらいものを発見してしまった……どうする。 どうする?どうする……うーん……。 閏璃 「よし決めた。俺……聖王になる」 来流美「ちょっ……あんた頭大丈夫?熱とかない?」 心底心配そうな顔をして、来流美が俺の額に手を当ててくる。 閏璃 「無礼者め!聖王たる(ちん)に気安く触れるでないわ!!」 来流美「聖王ならいつまでもサブリガ一丁で水を滴らせてんじゃないわよ!!」 閏璃 「貴様朕に逆らう気でおじゃるか!ええい皆のものやってしまえ!」 しーーーん…… 閏璃 「なにぃ、誰も動いてくれない。馬鹿な、朕はこの世の聖王だというのに」 来流美「とりあえず一発殴らせなさい」 閏璃 「貴様朕を愚弄するか!《ボゴッ!》おごぉっ!」 来流美「だからっ!愚弄してるのはあんたのその格好でしょうが!」 閏璃 「将軍家は代々、もっさりブリーフ派だ」 鷹志 「サブリガだろそれ」 でも確かにこの格好はないよな。 仕方なしに脱ぎ捨てた装備を身に着け、ようやく一息。 体自体はすぐに乾くからそんなゲーム性に感謝だ。 閏璃 「じゃ、報告しに戻るか」 柿崎 「それはいいけど。石は持っていかなくていいのか?」 閏璃 「ヘタにいじくってすぐお目覚めっていうのは勘弁だし」 モーニングコールにはまだ早い。 それよりも俺達は目下の頼まれごとを消化していかねば。 Next Menu back