───冒険の書242/VS刻震竜1───
【ケース582:穂岸遥一郎/動く山岳】 ズズゥンッ……ズズゥンッ……!! 遥一郎「…………」 エトノワール前に辿り着く前から感じていた地震が次第に大きくなる。 守護竜、封印されし竜、いろいろと噂は聞いていた。 だがこれは噂なんかを信じて対策を練れるほど甘くない。 サウザンドドラゴンとはよく言ったものだ。 麻衣香「ちょっと……待って……?ま、待ってよ……!なにあれ……!」 喩える必要もないバケモノがそこに居た。 景色の果てだろうが見ることが出来るであろう巨大生物。 思うに───竜刻山という場所に封印されたのがサウザンドドラゴンなのではなく、 サウザンドドラゴンこそが竜刻山……寝そべったサウザンドドラゴンだったのだろう。 後ろ足で大地に立ち、 雲へ届かんとするほどの巨体をゆっくりとと動かし、こちらへ向かっている。 夏子 「ね、ねぇ穂岸くん……?普通の守護竜ってあんなに大きいものなの……?」 遥一郎「……まさか。半分以下でも間に合わない」 曰く、存在のみで大地を破壊する竜。 その歩みは大地を震わせ、破壊し、かつて大震災にて大地の大半を死の大地にし、 ドワーフ族を地面の下に氷結させたという存在。 守護竜の中で唯一転生したことのない古竜中の古竜。 フェルダールの長い歴史とともに生き、 だがそれもかつての勇者たちによって封印されたのだという。 その時には全種族が協力したとされる歴史も記されており、 真意のほどは解らないが───“その封印を守護する者”という意味を込めて “守護竜”と名付けられたという伝説もある。 ならば何故サウザンドドラゴンまでもが守護竜と名付けられているのか。 それは謎のままとされてきたが─── マクスウェル『……解るな?ヤツが守護竜と呼ばれる理由が』 遥一郎   「……ああ」 どうして封印じゃなきゃいけなかったのか。 どうして封印したのちに、 身動きが取れないサウザンドドラゴンにトドメを刺さなかったのか。 その意味が、確かに理解できた。 サウザンドドラゴンはこのフェルダールの“時間そのもの”だ。 あいつを殺してしまえばフェルダールの“時”が狂い、とんでもない事態が巻き起こる。 つまり───戒めの時宝玉はあいつの中に存在すると予測する。 意識を集中してマナの動きをみれば、あいつがどういう存在なのかが確かに理解できた。 サウザンドドラゴンはかつて、崩壊を“起こした”んじゃない。 死に近づいたためにフェルダールの“時”が狂い、 僅かだがこの世界に崩壊が起こったのだ。 それゆえに大地は崩壊し、 ドワーフたちは氷結し、この世界に様々な傷跡を残すこととなった。 遥一郎   「……バハムートと勇者たちは戦ったけど、決着はつかなかったんだな」 マクスウェル『そこまで詠めるか。おぬしはマナに愛されておるな』 サウザンドドラゴンが蘇った際に漏れ出したマナの所為だろうか。 それらを通して俺の頭のなかによぎる景色があった。 バハムートと勇者たちは幾度も戦いを重ねたが、 どちらかの退却を持って引き分けることが常で、 どちらも逃げようとする相手を追おうとは思わなかった。 それは人々が勇敢であり、誰もが勇者になれる素質を、勇気を持っていた頃の記憶。 竜族たちも人間を認めていて、 力強き者はライバルとさえ認められるほどの強さを誇っていたのだという。 だからこそサウザンドドラゴンとの戦いではともに協力し合い、これを封印。 だがその時に起こった天地崩壊の際、割れた大地から出現した者によって歴史は狂う。 かつて“ガイア”と名付けられていたソイツは邪悪の化身であり、 生物の死を吸収、体を巨大化させてゆき─── やがて宙を舞う災厄、デスゲイズと呼ばれるようになる。 歴史なんてものは時代が進むにつれ脚色が為されるというが、 この歴史はまさにそれだったのだろう。 サウザンドドラゴンの正体がこの世界の“時”なのなら、 デスゲイズの正体はこの世界の“死”そのものだった。 やがて巨大化し、力をつけたデスゲイズは空の王とぶつかり─── その戦いによってかつての勇者は好敵手を失い、 天空城は役目を果たせぬままにマクスウェルが管理することとなった。 無の宝玉を手に入れたデスゲイズはさらに力を増し、 誰もが手におえるものではなくなっていた。 だが……食われたバハムートの記憶のためなのだろうか。 空の王であった彼がそうさせたのか、 それまで見境無く空も大地も襲っていたデスゲイズは、 空に浮く者しか狙わなくなったのだという。 遥一郎「………」 今なら解る気がする。 中井出がこの世界を純粋に楽しみ、 この世界に生きる存在をゲームとしてでなく普通に見ている意味が。  “この世界は生きている” 俺達が産まれる前にたくさんの過去が地界にあったように、 この世界にも俺達が経験出来なかっただけの過去がある。 俺達が産まれた世界っていう舞台にはあらかじめ“過去”っていうゲーム盤があって、 俺達はそこから基礎を学んで人生っていうゲームを歩んでゆく。 つまり……それだけのことなのだ。 それを自覚したら、この世界で起こる出来事はもうゲームじゃない。 俺達がこの世界っていうゲーム盤に降りた時点で現実となっているんだ。 ああ……解ったよ中井出。 覚悟を決めるっていうのは、こういうことか。 この世界がもう現実だというのなら、現実からは逃げちゃいけないのだ。 それが、人間であった頃にも精霊であった頃にも学ぶことが出来た、俺の答えなのだから。 蒲田 「で……あいつどうやって倒すンだ?」 皆川 「そりゃお前……我らの魔法でギャーと」 遥一郎「……ちなみにお前たち、覚えた魔法のクラスは?」 猛者 『中級』 遥一郎「………」 ……出した答えが絶望へ傾いていった。 むしろいっそ泣きたいくらいだった。 遥一郎「そんなお前たちがどうしてこんな時に限って魔術師になろうなんて……」 飯田 「あ、てめぇ中級魔法馬鹿にしてんな?」 三月 「中級魔法はすごいんだからね?中級魔法は」 遥一郎「頼む……今からでもブレイバー側に───」 総員 『断る!』 遥一郎「……解ってた……ああ、解ってたさ……」 ええい緊張感のない……! けど景色の果てを見れば嫌でも体が身構える。 その果てでは火花や爆煙が舞い、アンヘルが戦っていることを俺達に教えてくれていた。 遥一郎   「マクスウェル、アンヘルへの力の汲々って───」 マクスウェル『力が解放されている今ならばここからでも可能じゃわ。        しかし近ければ近いほどいいというのも確かなのでな……        こう遠くてはマナが届くまでに時間がかかる』 遥一郎   「……そうか」 いや、今はそれでいいか。 幸いにして相当数の時間を封印されていた所為か、体が鈍ってるようだ。 数百年ぶりの寝起きだ、そりゃこたえるだろう。 けどそれにかまけてぼさっとしていられる時間なんてありはしない。 今はこの時この瞬間に何が出来るかを考える時だ。 遥一郎「───そうだ!お前たちはこれを読んでくれ!覚えるのは一人一つずつでいい!     出来るだけ覚えやすいやつを頭に叩き込んで、TPが続く限り放ってほしい!」 蒲田 「なにぃ、放ってほしいとは……で、なにこれ」 佐野 「……表紙のタイトルが空界文字で読めません」 遥一郎「なっ……習っただろぉっ!?天空城で習ったじゃないかぁっ!!」 佐野 「冗談だ」 遥一郎「どんな時でも面白さに走りすぎだ!少しは状況を知ってくれ!」 どうしよう晦……俺早くも頭痛い……。 ともあれ渡した魔導書に目を通してもらい、一人一つずつでも大魔法を覚えてもらう。 最上級魔法は魔導書じゃなく精霊に教わる必要があるため、魔導書には記されていない。 過去、様々な種族が共闘していたのちの天地崩壊。 それ以降、この世界の“時”が封印されてからは精霊達が魔導書を燃やしたのだ。 今では精々で天空城にしか存在しないだろう。 時が封印されて以降は共闘していたことがウソのように種族たちは互いを嫌い、 よりどちらかが優れているかを競うようになった。 人は技術を、竜族は力を、精霊は魔術を、と。 唯一時に侵されなかった亜人族たちはその中を生き、 いつか互い互いが再び手を取り合う日を望んでいた。 ……マナの呼びかけが俺の心を打つ。 どうしてアイルーたちがあんなにも中井出や俺達に協力的だったのかが解ったからだ。 誰しもが争いの世を願っているわけじゃないのだと。 遥一郎「………」 猫たちやドワーフたち亜人族に鍛ってもらった杖を見る。 蛇竜元龍杖ディスト・ディムス。 ウロボロスと合成させて完成した精霊武具を、さらに鍛えてもらったものだ。 これには亜人族の願いが込められている。 これを使って平和な世を築いてくれって言ってるんじゃない。 平和じゃなくても、ただ手を取り合って明日を目指せるような、 楽しい日々が築けますようにって思いがマナを通して体に響き渡ってくるのだ。 ……中井出が頑張れる筈だ。 マナ集束が可能になったあいつなら、真っ先にこの声を聞いただろう。 いや、ナギーと契約して加護を一身に受けた時点で感じていたのかもしれない。 ……そうだな、負けられないよな。 どんな時でも楽しむあいつだけど、 それこそ全員を呼んで自分と向かい合わせたのは意味がある。 自分の中に眠る者が自分だけじゃどうすることもできないくらいに強大なんじゃ、 一人で解決するのは無理だって思った末だろう。 それを利用して散々楽しむにしても、そうじゃないにしても。 ただ……まああの中井出だから、ただ単に遊びたかったって例も激しく頷けるわけだが。 遥一郎   「行こう、マクスウェル。ここは親指を噛んで立ってる場面じゃない。        勇敢じゃなくてもいい、立ち向かうべき場面だ」 マクスウェル『ああ、その通りじゃな』 杖を構える。 エトノワール王、レイナートも魔法兵団を寄越すと言っていた。 その方がいいと俺達が言ったからだ。 よほど鍛えていない限り、人間が竜に立ち向かうなんて無謀の極み。 魔法で応戦してくれたほうがまだいい。 麻衣香   「でも、どうして一直線にエトノワールに向かってるんだろ……」 マクスウェル『それはな、時の封印を実行に移すべく有志を募ったのがエトノワール……        かつての王国、ゲノンダールであった場所だからじゃ』 遥一郎   「ゲノン───やっぱり実在してたんだな。        じゃあ、戒めの宝玉の素、テオ・ダールはエトノワールに……?」 マクスウェル『おぬし……わしに内緒でどれほど蔵書を読んだんじゃ……。        あれは禁書じゃ。他の者にそんなことを話してみろ、ただでは済まんぞ?』 遥一郎   「すまん、修行の合間に全部読んでしまった」 知識的なもので興味が沸くと、自分自身を律することが出来なくなったのだ。 ……事後で申し訳ない。 マクスウェル『………まあ、不問としよう。いずれ誰かが紐解かねば消えゆく知識よ。        そうじゃ、今の王は知らぬだろうが、        エトノワールの祭壇の地下にそれはある。        戒めの宝玉の元素、当時最も力溢れておった精霊全員が        その総力を以って作り上げた、“時”を治める宝玉じゃ。        名をテオダール。古の言葉で“王の静寂”という意味を持つ』 麻衣香   「王……?」 マクスウェル『この世界……フェルダールの名には“命の静寂”という意味がある。        フェルは精霊の間ではマナ……つまりこの世界に満ちる命のことを指す。        この世界に生きる万物万象全てがマナによって生かされている。        じゃが時の流れがこの世界の者たちの在り方を奪っていった。        テオダールのお蔭で時の均衡をほんの少し保っているにすぎん。        たとえサウザンドドラゴンを滅ぼそうとも、        テオダールがあればこの世界は崩壊だけは免れるじゃろう。        じゃが大半の時が砕けるのは目に見えておる。        しかし惨劇を繰り返すわけにはいかんのじゃ……。        故にサウザンドドラゴンはこの時代、この場にて滅ぼさねばならん。        ヤツを戒める宝玉、死、無、創が残っているうちにの』 遥一郎   「───、そうか……そうなんだよな」 戒めの宝玉がサウザンドドラゴンを封印するためのものなら、 まだいくつか宝玉は残ってる。 それらは未だにサウザンドドラゴンを戒めている筈なんだ。 麻衣香   「然までの宝玉解放でサウザンドドラゴンが目覚めたのは、        ただ封印が弱まったからってだけ───ってこと?」 マクスウェル『その通りじゃ。当時、精霊たちは今の自分たちでは        サウザンドドラゴンを討伐することは無理だと悟った。        時が砕けることを恐れ、一歩を踏み出せなかったという理由もある。        じゃがそれ以上に、力不足があったのじゃよ……。        故に未来に託した。今は無理でも次の世代の者が、と。        しかし封印された時が齎したフェルダールの変調は予想を超越していた。        いつしか我々は目的を挫き、人々は怠惰し、        竜族は力を見せ付けるだけの生き物に成り下がり……』 遥一郎   「……それを、どうして今語れるんだ?忘れてたんだろ?」 マクスウェル『……ほほ、ほっほ……ヌシと同じじゃよ。        懐かしいマナが流れておる……あの頃の、        全ての種族が手を取り合っていた頃のマナじゃ。        今は当時の精霊なぞワシだけになってしまったが……ホホ……        このマナを……月の精霊にも懐かしんでほしかったのう……』 遥一郎   「………」 元素と月にはなにかしらの過去があったってことだろうか。 解らないけど───酷く悲しそうにしているということだけは解った。 でも……話してられるのもここまでだ。 寝起きで遅いとはいえ、あの巨体の一歩は大きい。 地震とともに近づいてくる敵を前に、杖を握る手にも自然と力が篭る。 マクスウェル『あの頃に比べて、今のフェルダールのなんと荒んだことよ……。        じゃがなにを嘆くことがあろうか……今ワシらは確かに手を取っている。        そこに竜族の姿も獣人の姿も、        モンスターの姿もないのが悔やまれるが……その代わりにヌシらが居る。        勝手なことを言うようですまん……どうか、        この世界の力となってくれんか……』 麻衣香   「フン断る」 マクスウェル『なにぃ!?』 遥一郎   「ここは素直に頷いてやるところだろ!」 麻衣香   「悪いけどわたしたちはお願いされてやるなんてこと、ごめんなの。        わたしたちはわたしたちの意志でサウザンドドラゴンとやる。        やる気になってるのにやれって言われる時の気持ち、知ってるでしょ?        あたかも子供の頃、宿題をしようと腕をまくった途端に……        親に宿題やりなさいよーとか言われた時の心境のように……!」 遥一郎   「なんていうかお前……思考回路が子供だな」 麻衣香   「童心を忘れるよりよっぽどマシって人を夫に持つ妻ですから」 言いながら杖を構える。 その姿は……案外楽しそうだった。 蒲田 「よっしゃあ大魔法一つ覚えたぜ〜〜〜っ!」 飯田 「これ古代魔術とかないの?ドカーンとやりたいんだけど」 島田 「俺ディストーションが欲しかった。そんで提督を分子レベルにまで分解するだ。     そしたら提督のことだ、サンドマンみたいに     “ヤーーーッ!ヤァアーーーーッ!”って叫んでくれるに違いない」 蒲田 「あ、それ面白そう」 遥一郎「頼むから現状と向き合ってくれ……お願いだから……」 皆川 「どんな困難にも楽しみを持参!それが我らの原ソウル!     たたたたとえ足が震えてたって頑張って楽しさに変えていくんだよ!     その努力こそを認めてくれお願いだから!」 ……注視してみれば、みんないっぱいっぱいだった。 そうだよな、相手があれなんだから仕方ない。 しかも精霊にとても強い宣言をされたような話をされてしまったのだ。 遥一郎   「最後にひとつだけいいか?        古の勇者はどうやって竜宝玉を集めて天空城に備えたんだ?」 マクスウェル『各地の竜族に認めてもらった上で譲り受けていた。        もちろん戦い、力を示してじゃ。        その上で空の王であるバハムートに挑んだ。……憎かったわけでもない。        ただ当時、サウザンドドラゴンを除いては        最強を誇っていた空の王に焦がれた故のことじゃ。        男というのは面白い生き物じゃな。        かつての勇者が強くあろうとしたことには理由があってな。        子供の頃にモンスターに襲われ、        死にかけていたところをバハムートに救われたんじゃ』 遥一郎   「バハムートに……?今の竜族からは考えられないな」 マクスウェル『どちらにしろ拾われた命じゃ。バハムートはその子供に言った。        強くなれ、と。我に恩を感じるなら強くなり、        我を楽しませるほどの強者となれと。        バハムートの血を輸血され、        血に宿る生命力で生かされた子供は竜族の言葉を解するようになった。        鍛えれば鍛えるだけ強くなることが出来、めきめきと強くなっていった。        勇者とバハムートとの戦いは、いわば勇者の恩返しのようなものだった。        ……それを、デスゲイズが砕いたんじゃ。        勇者の怒りは凄まじいものじゃったよ。        止める仲間を振り払い、単身で挑み……ヤツもまた、死んでいった』 遥一郎   「………」 マクスウェル『子孫に流れた竜の血脈も次第に薄れ、        気づけばレオンの代で途絶えてしまっておった……。        薄れたといっても、竜族は彼奴の中に確かな竜の息吹を感じたんじゃろう。        赤子のレオンを殺さず、生かして育てておったな』 遥一郎   「───そうか、それで───」 竜族に生かされるなんてよっぽどのことだ。 でもその理由がようやく解った。 勇者の血族に流れる空の王の血……それが、無意識とはいえ竜族たちを抑えていたんだ。 麻衣香「ブラストブラストブラストーーーーーッ!!!」 ドンチュチュチュチュチュチュゥウウウン!!!! 遥一郎「……人が感傷に浸ってるとこれだもんな」 麻衣香「たっぷり浸れたでしょ?」 遥一郎「ああ……十分だ!」 浸りながらでも展開し、頭の中で詠唱させていた魔法陣を肥大化させる。 魔力の蓄積は十分───あとはやってやるだけだ! 遥一郎   「マクスウェル、サウザンドドラゴンに弱点属性は───」 マクスウェル『解っておるじゃろ、ありはせん。ヤツの耐久力を超える攻撃でかかるか、        部分的に集中してかかるか……それしか方法がないわい』 麻衣香   「それって鱗とか甲殻が硬いってことだよね?        だったら徹しは?内部に衝撃飛ばせば硬くたって関係ないよ?」 遥一郎   「……こういう時は発想の転換に感謝か。        徹しっていうのは藍田がよく使う打撃術だよな」 言いながら魔法を放ってゆく。 大魔法を頭の中で組み立てて、完成したら放つ───その繰り返しだ。 幸いにして全員がメイガスなら、 どれだけTPを使おうが誰かが漢神の祝福を使えば済むこと。 魔力ならほぼ無尽蔵……!だったら疲れ果ててもブッ潰す!! この世界はお行儀がいいだけじゃやっていけない世界だ。 だったら郷に入りては郷に従う……けどそれだけじゃ攻略なんて出来ない。 だから全力だ。倒すんじゃない、ブッ潰すって意気込みさえ持てないヤツは進めやしない。 麻衣香「奥義書で覚えるんだけど、今は多分藍田くんが所持してると思う」 遥一郎「……あっちに戻ってる暇はないな。     よしんばこっちに届いたところで、俺達は魔術師だ。     徹しスキルを持ってたところで意味が───」 蒲田 「ククク、大丈夫だぜ?何故なら我らは既にドロップアウト済みの勇者。     いつでもジョブを変えることが出来るのさ───格闘スキルは少ねーけどな!!」 総員 『まさに外道!!』 遥一郎「外道と関係ないだろそれは!もういいから魔法撃ってくれ!     狙いは左胸!心臓に衝撃与えまくって破壊する!」 蒲田 「おお残忍だな軍師!……ティンコとか狙ったらダメ?」 遥一郎「やめいっ!!そもそも見えないだろそんなの!」 美奈 「でもいい線いってると思うよ、心臓狙いは。     でも竜族の心臓ってほんとにそこにあるの?」 遥一郎「解らないなら解らないなりに、破壊して貫けば出血死も狙える。     聞いた話だが、中井出はカイザードラゴン戦でそれのお蔭で勝てたらしい。     どんなバケモノだって血で生きてるヤツならそれが無くなれば倒せるだろ?」 下田 「───よしノった!伝説の竜を出血多量でコロがすなんて面白そうだ!」 七尾 「モンスターハンターって尻尾斬っても血が出ないもんね。     ラオシャンロンなんて散々斬って血を撒き散らさせても、     出血多量で死ぬことなんて絶対にないし」 瀬戸 「じゃあ今はそれをやるチャンスってことなのね」 皆川 「……つーか既にそれを提督がやってたってのが流石だ……」 総員 『まったくだ……』 中井出が既にやっていたっていうのが火付けになったのか、 原中メンバーはそれぞれの武具を手に魔法を詠唱し始めた。 さすがに詠唱破棄なんてことは出来ない上に、 魔法の練習も天空城以来だろうから詠唱速度も遅いものだが、それでも準備は───って 遥一郎「なんでみんな武器が剣とか斧なんだ!?」 蒲田 「おいおいてめぇ人の詠唱邪魔してんじゃねぇよ何様だコラオウ?」 飯田 「こちとら覚えたての魔法繰り返すので精一杯なんだよー、コノヤロー」 皆川 「提督バトルよりこっちが楽しそうだからわざわざジョブチェンジした俺達が     杖なんて持ってるわけねぇだろうがコノヤロー」 遥一郎「…………」 由未絵「ほ、穂岸くん頭抱えないで。やれるところまでやるしかないんだから……」 遥一郎「そうなんだけどな……」 もう本当に泣きたかった。 杖ってだけで魔法の詠唱速度が上がるのがこの世界の常識なんだが、 そんなことさえ無視するこいつらをどうか正してやってくれ、時の流れよ。 美奈 「よーし詠唱完了!いっくよー!」 佐野 「やっちまえー!みんなでサウザンドドラゴン───言いづらいな。     もうパオシャンロンでいいだろあいつ」 皆川 「OKあいつパオシャンロン!漢字にすると包山龍!     こう、こう書く……包子のパオね?」 総員 『OKパオシャンロン!!』 皆川 「いや俺がパオシャンロンなんじゃなくて!」 ……もう気にしないことにした。 俺は俺の出来ることをやろう、今度こそ。 決意なんてとっくに決めていたつもりだが、己を奮い立たせるためにも─── そんな風にして心を強く持とうとしたその時だった。 遠くで何かが光り───  ゴカァッ……!ギシャドンガガガガォオオッ!!!! 遥一郎「っ───!?うわぁあああああああっ!!!!」 視界を覆うような眩い閃光が薙ぎ払われ、 サウザンドドラゴンとエトノワールとを跨ぐようにして聳え立っていた山が塵と化した。 蒲田 「はっ……!は、はぁっ……!!な、なななん、だよ今の……!」 飯田 「レーザー……!?冗談だろ!?あんなにバカデカい山がたったひと薙で……!」 お蔭でよく見えるようになった、とでも言いたいのか。 アンヘルたちに攻撃されようが無視してこちらへ歩み寄ってくる巨体を目に、 俺達は心底震えた。 ……ダークドラゴンの比じゃない。 あんなの、喰らったら塵も残らないに違いない。 けどこちらに一直線に撃たなかったのは─── エトノワールにテオダールが安置されていることを知っているからだ。 あいつがそれを手に入れてどうするつもりなのかなんて知らない。 ただ言えることは───それをヤツが手に入れるということは、 エトノワールが確実に滅ぶってことだけだ。 さらに言えば手に入れたのちに何が起こるか解らない以上、 あいつを近寄らせるわけにはいかない。 麻衣香「待ってよ……!うそ……!たった一発でこんなに心が折れそうになるなんて……!     ヒロちゃんのバカ……!こんな時になにやってるのよぅ……!」 遥一郎「………」 まずい。 ピエティ……というか遊び心と愉快さがウリの原中の連中たちも、 さすがにあんなバケモノを前に不安がっている。 かく言う俺だってそうだ……逃げていいなら逃げ出したい。 けど─── 澄音 「……逃げることも勇気だけど……今逃げることは勇気じゃないよ」 遥一郎「……ああ。解ってる」 縮こまりそうになっていた心に、友達が勇気を与えてくれた。 自分だって震えているのに……。 澄音 「幸いって言っていいのかは解らない……     山に住んでいた生き物たちにはゴメンって言わなきゃいけないんだろうけど───     でも、敵の姿は全部見えるようになった。     だから───その先陣をまず僕が切る」 遥一郎「蒼木───!?」 澄音 「まだ暴発することが多いんだけど、人生に頑張らなきゃいけない時、     やらなきゃいけない時があるっていうなら、今はきっとその時だと思うんだ。     だから───」 蒼木が両手に光を灯す。 それはかつて、晦の記憶の中で見た空界の複合魔術と同じものであり─── 澄音 「LuminousDestory(至光にて万物を砕かん)───Fill agains Fill. Sword of SupremeRuler(満たし、更に満たせ。その意が覇王の剣と化するまで)───!!」 名をエクスカリバー。 屠竜魔術書を読み、蒼木が得た魔導と式を混ぜた奥義である。 だがそれも、映像の中で見た時と同じものを俺に見せた。 完成していないのだ。 蒼木の腕は記憶の中のリヴァイア=ゼロ=フォルグリムの腕のように焼き焦げてゆき、 蒼木の表情はみるみる苦悶に歪んでゆく。 普通のヤツだったきっとすぐに詠唱を中断し、膨れ上がる魔力を霧散させるだろう。 けど、俺は知ってる。 蒼木は様々な記憶の中でも辛いことに耐え、苦しみに耐え、ここに至っている。 他の誰が知らなくても、俺と蒼木は互いの苦しみを理解し合える仲だから─── だから、止めるなんて行為はしなかった。 代わりに焼けてゆく腕に手を添え、俺の魔力と屠竜魔術を付加させてゆく。 澄音 「穂、岸……くんっ……!?」 遥一郎「《バヂィッ!》ぐぅうっ!!!……づっ……!」 途端に俺にも流れ込む魔力の暴走。 それはいつかのウィルスによる熱暴走にも似ていて、 だがこれはその痛みを腕にのみ集中させるほどの痛み───! 遥一郎「離せ、なんて言うなよ、蒼木……っ!!」 澄音 「───……ははっ……うん、それは、とても怖い……!     僕は、今のこの時代が大好きだ……!     そこから誰か一人でも消えてしまうなんて……     それを自分から手放してしまうなんてことは───もう嫌だ!!」 魔力が暴れ、俺の腕をも焦がしてゆく。 だがその時だ。 蒲田 「フッ……そこまで言われちゃあこの時代の一人、この蒲田は黙っていられねぇな」 飯田 「おっと……フフ、この時代の一人、飯田も忘れてもらっちゃ困るぜ?」 島田 「おおっとこの時代の一人、島田も忘れてもらっちゃ困る」 ぞろぞろとこの場に集まったやつら全員が俺達に手を差し伸べ、 自らの体に暴走する魔力を逃がし始めたのだ。 皆川 「ぐあぁああああがががぁあっ!!こ、こりゃっ……想像以上……!!」 佐野 「っ……ク、ククク……!だが……!     俺達全員分の魔力をそのエクスカリバーに込めたら……!どうなるかな……!?」 遥一郎「お、前ら……!どうして……!」 総員 『未来を諦めたくないのなら俺達は仲間だ!     仲間を助けないで何が仲間だ!』 遥一郎「───……ははっ……」 灯村 「さっきの啖呵、見事だったぜ蒼木澄音……!     この心楽しき時代を諦めたくない気持ちが、我らの心を動かしたのだ……!」 皆川 「誇るがいい……己の高き心を……!     我らが提督以外の者の言葉を糧に動くことなぞ、どれほどあるか……!」 由未絵「わたしたちも……!今を、未来を諦めたくなんかないから……!     あの竜さんを倒さなきゃ一つの国が壊れちゃうなんて、そんなの嫌だから……!」 御手洗「だから、やろう……!今はふざけたり罵りあう時じゃない……!     今は───みんなで力を合わせる時だ!!」 遥一郎「───」 みんなの意識が集中する。 “未来を掴むために”───ただその一点のみに絞られた思いがマナに伝わり、 暴れ狂っていた魔力が蒼木の中で確かな剣と化してゆく───!! 澄音 「───、す、ごい……僕の中に、こんな……」 遥一郎「みんな!今だ!蒼木の中にありったけの魔力を!」 総員 『オーラァイッ!!エネルギー───全ッ開ッ!!』 それぞれがMNDマックスにて蒼木に魔力を流し込むイメージを展開する! 魔力の流れを暴走する魔力を浴びることで掴んだのか、 それこそ全員が蒼木に向けて全魔力を流し込む───!! 遥一郎「───蒼木!」 澄音 「うん!行こう!……“魔導(エクス)───!!」  キヒャァアアアッ!!! 極光を灯した杖を両手で握り、重い大剣を背負うように振りかぶる蒼木。 その意志に呼応したエクスカリバーが、金色の輝きを放ち…… 澄音 「───極光剣(カリバー)”!!」 振るわれた極光の剣が巨大な剣閃となり、  ゴカァアッフィィイイイイインッ!!!! 破壊された山を越え真っ直ぐにサウザンドドラゴンへと飛翔する!! 飯田 「はっ……い、いけぇえええっ!!パオシャンロンを討ち滅ぼせぇええっ!!」 島田 「言うからな!絶対に言うからなー!?     コレで勝てたらオラ達のパワーが勝ったァァアって言うからなー!?」 TPの全てを託した極光が飛ぶ。 全てを託した俺達は喪失感に襲われたかのように膝をつき─── だが、決して希望から目を逸らすことはしなかった。 ───が。 寝起きとはいえ相手は守護竜。 己へと向けられた強大な敵意を前に待ってくれるわけもなく、 再び口から閃光を放つと───エクスカリバーを破壊しにきた!!  ズガァガガガガォオンッ!!! 総員 『うぉあほわぎゃぁああああああああっ!!!!』 波動砲の如き剣閃とレーザーとが衝突する。 巻き起こる余波は尋常ではなく、相当の距離があるにも関わらず俺達は吹き飛ばされた。 吹き飛ばされて吹き飛ばされて、呆れるくらいの距離を取ることになったというのに─── 突風が如き余剰エネルギーは未だ俺達を近づくことを許さぬ風となり、動くことを禁じた。 飯田 「う、ああああ……!!飛ばされる飛ばされる……!!」 美奈 「こんなに離れてるのに……!なにこの突風……!!」 蒲田 「フ、フフフ……お前らそれで終わりか……?     お、俺は立って歩けるぜフフフ……!貴様らはそこで這い蹲っておるがよいわ!」 下田 「なんだとてめぇ!お、俺だって立てるもんね〜〜っ!」 皆川 「お、俺なんか走れちゃうぜ!?お、おぉおおおお……!!!」 下田 「あっ!て、てめぇ!だったら俺だってSTRマックスで……!」 遥一郎「余波で遊ぶなぁああっ!!」 風に立ち向かう猛者たちにツッコまずはいられなかった。 とはいえ……屠竜魔術であるエクスカリバーに俺達全員の魔力を込めた一撃─── それをレーザー一つで押さえるなんて、 どれほどバケモノなんだサウザンドドラゴンっていうのは……。 あれでまだ封印されている部分があるなんてどうかしてる。 蒲田 「……OH」 下田 「ど、どうした蒲田……って、OH」 遥一郎「……?」 蒲田 「じゃ、意志伝達が済んだところで───10分アビリティ発動!漢神の祝福!」  モンシャンシャンシャンシャァアアアアンッ!!! 遥一郎「え───なにを……」 蒲田 「ヘイ澄音ボーイ!もう一度だ!もう一度エクスカリバーを!」 澄音 「え……っ」 下田 「一度撃てたなら出来る!そして俺達はそれを応援しよう!───全員分で!」 島田 「慣れていないならここで慣れろ!     コントロール出来ないならここで出来るようになれ!     人間ってのは土壇場にこそ力を発揮するもんなんだよー!コノヤロー!」 遥一郎「ま、待て、まだ腕も癒えきってないのに《ブスッ》クオガアアアッ!!!     めめめめ目がぁああーーーーーーーっ!!!!」 美奈 「腕なんてもう漢神の祝福で癒えてるってば。で、蒼スケさんはどうしたい?」 澄音 「───……やるよ。ううん、やらせてほしい。     僕の力で少しでもこの場を治めるきっかけを作れるなら、     こんなに嬉しいことはない」 総員 『よく言ったオトコノコ!!』 遥一郎「ま、待て……!それはいくらなんでも……!」 皆川 「いいことを教えてやろう穂岸よ……     人々は強い力を放った時、わざわざ結果を待つ生き物だ。     待っている時間に出来ることがあるというのに、待ってしまう生き物なのだ。     そんな常識を破壊するために俺達が居る。     放てる力があるのに放たないでどうする!やらないでどうする!     そんなことを俺達はさっきの提督バトルで学びました。     提督はデケェ一撃放ったあと、こっちがそれに怯んでるうちに襲い掛かってきた。     そうでもしなきゃ俺達には勝てないって意思があったからだ。     自分を上に見てるやつはあんなこと出来やしない。俺はそれが嬉しかった」 佐野 「出来ることを全力でやろうぜ穂岸。人間が竜族に立ち向かうんだぜ?     辛いから出来ないなんて言ったら、     なにもしないで殺されるしか選択肢はねーじゃねぇか」 美奈 「だから立って。目なんて押さえて涙流してないで。     ……なにがあったのか知らないけどさ」 遥一郎「いや……お前に目潰しされたんだけど……」 涙が止まらないのは状況の所為じゃなく目潰しの所為だ。 とはいえ……そうだな。 抗わないと死ぬというのなら、生きたいのなら立ち向かえ。 生きるために執る手段になにをためらう必要がある。 この世界はそういう世界なんだって、覚悟を決めたばっかりじゃないか。 遥一郎「……蒼木」 澄音 「うん、準備は出来てる」 蒼木が再び両手に光を灯す。 だがやはりそれは暴走を始め、蒼木の腕を焦がそうとするが─── 蒲田 「おっと!《バヂィッ!》いでぇっ!っ……つ、へへ……!     言い出しっぺが支えてやらなきゃな……!」 飯田 「《バヂィッ!》いたぁい!……っ……お前、いい根性してるよ……!     俺、お前みたいなヤツ……嫌いじゃないぜ……!」 誰に言われるでもなく、原中の連中が率先して暴走するマナを自分の体に流し始めた。 そして、俺も。 蒲田 「全員分の10分アビリティが底を突くまで何度でもやったらぁあああっ!!」 総員 『打倒!パオシャンロン!!』 澄音 「LuminousDestory(至光にて万物を砕かん)───Fill agains Fill. Sword of SupremeRuler(満たし、更に満たせ。その意が覇王の剣と化するまで)───!!     エクスッ───カリバァアアーーーーーーッ!!!」  キュヴォアゴコォッフィィンッ!!! 澄音 「《ビキビキビキィッ……!》く、うぅうっ……!!つ、次をっ……早く!」 飯田 「OK任せろ!漢神の祝福!」  モンシャンシャンシャンシャァアアンッ!!! 安定もしないままに放ったエクスカリバーが蒼木の腕を焼く。 だがその痛みに涙さえ流しながらも耐える蒼木は、さらにさらにと魔力を高めてゆく。 澄音 「辿り着くんだ、明日に……!もう僕は……大事な人と再会するためでも、     自分から自分でいられる時を捨てたりなんかしない……!」 焼けた腕が癒された刹那、蒼木は三度極光を腕に宿らせる。 途端に俺達に身を砕くような電流めいたマナが流れるが─── そうだ……!蒼木が……使用者が耐えてるのに、俺達が耐えないでどうする!! 俺だってもう、止めることさえ出来ずに 大事な友達が目の前で消えてしまうところなんて見たくない! そんなことが起こらないであろう未来にようやく辿り着けたんだ! だから……この時代を生きてゆけるならなんだってしてやる! 遥一郎「それくらい願えないで、なにが冒険者だぁあああっ!!」 澄音 「エクスッ……カリバァアーーーーーーッ!!!」 放ち、癒し、放ち、癒す───!! その度に襲ってくる痛みに気が遠くなりそうになるが、 蒼木が頑張る限り俺だって頑張りたい。 それに───蒼木は一生懸命コツを掴もうとしている。 ただ悪戯に痛みに耐えながら放っているだけじゃないんだ。 それを支えてやるのが友達ってものだろ───!  ゴヴァザガガガガフィインッ!!! 刻震竜『グォゥアアアアアッ!!!』  ゴキィイインッ!!! 由未絵「やうぅっ!!」 美奈 「こ、こんなに離れてるのに……なんて声……!!」 蒲田 「フフフ……だがレーザーも鱗も破壊してやったぜ!     よっしゃあ次だ蒼っち!男子メンバーは既に全員使っちまったが、     まだ女子メンバーの祝福が残ってる!」 澄音 「っ……う、うん……!」 遥一郎「───……?蒼木!」 澄音 「《ガシッ!》あっ……う……!」 どこか力なく返事を返した蒼木の手を強引に掴んで見下ろした。 すると……内側から焼けているのか、腕が変色しかけていた。 マナの暴走による火傷だ……考えてみればアビリティとはいえ、 マナの奇跡で回復をする漢神の祝福で完全に癒せるわけがなかった。 蒲田 「え?なに?───うおっ!?な、なんだこりゃっ……ひでぇ……!」 飯田 「人の顔見てなに言ってんのオマエェエエ!!     蒼木の腕だろ蒼木の!お前なにィイ!?     この緊迫した状況で俺に喧嘩売りたいのォオオ!?」 蒲田 「や、基本かなーって」 飯田 「そんな提督チックな基本はいらねぇよ!」 遥一郎「……蒼木、これ以上は無理だ。これ以上は流石に腕が使い物にならなくなる」 飯田 「わあ、無視だよこの人」 蒲田 「そっとしといてやれ……     真面目な顔の裏側はきっと疲労でいっぱいなんだ…………     なにがあったのか知らないけど」 遥一郎「知ってろよ!お前らには知る権利があるんだから!     ───な、蒼木、もう休んだほうがいい。あとは俺達でやるから。     ……俺達は魂だ、ここで無理をしたら、現実でも腕に異常をきたすかもしれない。     だから───頼む」 澄音 「……う、ん…………悔しいなぁ……。せっかく……せっかく僕なんかの力でも、     誰かを救えるって……そう思ったのに……」 遥一郎「………」 蒼木が項垂れながら、ゆっくりと俺達の後ろに歩いていった。 そんな姿を───誰もが黙って見送る。 俺や支左見谷や御手洗、いわゆる名誉ブリタニア人と勝手に銘打たれた者達や─── ……そう、原中の連中たちも。 お前の力でも、なんてことはない。 誰かを救える、なんて思う必要もない。 お前はきっと、俺の知らないところで……自分でさえ知らないところで、 いろんな人たちの心を救っている。 風になってしまったあの日々の中───誰かの涙を奇跡で拭ってやったのと同じ数だけ、 幸せになれたやつらが確かに居た筈なのだから。 蒲田 「貴様の悲しみ、貴様の苦悩……我らが引き継いでくれよう」 飯田 「今だけは、我らは仲間だ。これが終わればまた敵同士だが、     今だけはともに力を合わせ、全力で一つの敵を討ち滅ぼそう」 なにも悔しがることはないのだと、そいつらは言ってくれた。 普段は馬鹿なことばかりしているのに、今この時に見せたその顔は─── 普段からキリッとしているやつらなんかよりよっぽど真剣だった。 だから、ああそうかって頷けた。 こいつらは仲間を大事にする。 たとえ一時といえど、 仲間だと決めたヤツが傷ついたら全員でその傷を背負うようなやつらだ。 そして落ち込むようなら馬鹿にしてでも立ち直らせ、また次に会った時は笑えるようにと。 ……何処までも馬鹿な集団なのに……その中に居るだけで、こんなにも心地よい。 疲れながらも晦がこの渦中に居続ける理由は……きっとそれだけで十分なのだ。 蒲田 「と、強く出てみたけどどうする?     俺達の大魔法じゃ大したダメージが与えられないのは、     エクスカリバーのダメージを見ても明らかだ」 飯田 「あれだけ撃ったのに鱗を破壊して堅殻破壊して、     肉に少しダメージ与えた程度だもんな……     しかも怒ったのか速度上げてこっちに一直線……え?死ぬ?」 御手洗「死にはしないけど、困った状況であることは確か……だよね」 蒲田 「…………今さらだけどお前って魔術師だったんだな」 御手洗「ひどいな……こんなに魔術師らしい格好をしているじゃないか」 飯田 「いや……それどう見ても戦士じゃないか?」 蒲田 「誰にコーディネイトしてもらったんだ?自分か?」 御手洗「いや……凍弥に……」 総員 『ああ納得』 皆川 「などと暢気を振りかざしてる場合じゃないよな。よしダメもとで突貫してみるか」 遥一郎「魔術師なのに突貫してどーするんだ!」 麻衣香「魔術師だからこそ突貫するんだーって、ヒロちゃんなら言いそうだけど」 総員 『イエス・ユアハイネス!!』 麻衣香「やめてよその呼び方!わ、わたしただヒロちゃんの妻ってだけで、     べつにみんなの指令とかになったわけじゃないんだから!」 飯田 「なんだとハイネスてめぇ!!     人がせっかく持ち上げてんだから素直に受け取れハイネスてめぇ!!」 麻衣香「その言葉の何処に持ち上げてるところがあるの!?」 飯田 「え?“ハイネス”だけ《バゴォオオン!!》ほぎゃああーーーーーーっ!!!」 蒲田 「アアッ!飯田がコメットの餌食に!」 皆川 「飯田!?飯田ァアーーーーーーーッ!!」 遥一郎「いいから戦ってくれぇえーーーーーーっ!!!」 もう泣いた。 引き下がった蒼木に申し訳がたたない状況と、頭の中で流れた彼らのあり方に泣いた。 一瞬でもジ〜ンと来てしまった俺が馬鹿だった……。 ───と、その時だ。 マクスウェルが髭を撫でながら笑い、後方を指差した。 マクスウェル『……ほほっ、どうやらこの懐かしいマナに誘われ、        駆けつけてくれた者たちがおるようじゃぞ』 遥一郎   「え───?あ……」 ふと後ろを見てみれば、そこにあったのは宙を行く巨大要塞。 様々な竜宝玉を得て、今ここに来たる第二の浮遊城。 城と呼ぶに値する大きさを既に誇るそれは、この状況に来て最高に頼もしい姿に見えた。 そして───そんな要塞から飛び出てる部分に立つその姿は───! アイルー『天知る地知るなんかいろいろなものが知ってたりするかもニャーーッ!!      お待たせニャマクスウェル!懐かしい香りに誘われて、今ボクが見参ニャ!』 古の頃より今を生きる、伝説のキャット……その名もアイルーだった。 その後ろには氷付けにされたために今この瞬間を生きる、ドワーフたちの姿も。 アイルー『魔法がろくに使えないヤツは上がるニャ!      みんなでせっせと魔法の矢を作ったからバリスタで飛ばすニャ!』 ジョニー『砲台広場には精霊たちの協力が必要ニャ!      属性を圧縮して砲弾として放つニャ!』 麻衣香 「キャッ……キャットさんたち……!」 ロイド 『弾の製造なら任せておけい!ワシらにかかればちょちょいのちょいよぉ!』 レアズ 『傷ついた者は私たちのところへ!』 ジークン「喉乾いてるなら美味なる麦茶をどうぞ。フフフ……美味ェぜ?」 シェーラ「精霊たちの力の増幅はわたしたちに任せてもらおう。いいな天使たち!」 天使達 『ハッ!シェーラ様の御名の下に!』 麻衣香 「みんな、要塞に急ご!?      あそこに満ちるマナがあれば、多少無茶しても大丈夫そうだから!」 総員  『イエス!ユアハイネス!!』 麻衣香 「だからその呼び方やめてってばぁあああっ!!」 これからどうなるかは解らない。 けど───これでまた、仲間は増えた。 マナが詠う古の聖戦には届かないけれど───少しずつコマは揃ってきているのだ。 ともに戦ってくれる竜族もモンスターも獣人も居ない。 だけど───それでいいと思える。 今ここに居るのが俺達だけなら、俺達だけで出来ることをしていけばいいのだから。 Next Menu back